IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱重工業株式会社の特許一覧

特許7173897ガスタービンの運転方法およびガスタービン
<>
  • 特許-ガスタービンの運転方法およびガスタービン 図1
  • 特許-ガスタービンの運転方法およびガスタービン 図2
  • 特許-ガスタービンの運転方法およびガスタービン 図3
  • 特許-ガスタービンの運転方法およびガスタービン 図4
  • 特許-ガスタービンの運転方法およびガスタービン 図5
  • 特許-ガスタービンの運転方法およびガスタービン 図6
  • 特許-ガスタービンの運転方法およびガスタービン 図7
  • 特許-ガスタービンの運転方法およびガスタービン 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】ガスタービンの運転方法およびガスタービン
(51)【国際特許分類】
   F02C 9/18 20060101AFI20221109BHJP
   F02C 7/04 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
F02C9/18
F02C7/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019035442
(22)【出願日】2019-02-28
(65)【公開番号】P2020139455
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】武田 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】横山 喬
(72)【発明者】
【氏名】七瀧 健治
(72)【発明者】
【氏名】松井 智之
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-209917(JP,A)
【文献】特開2015-098787(JP,A)
【文献】特開2007-051647(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0003956(US,A1)
【文献】特開2018-009459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 25/00
F02C 7/04
F02C 7/057
F02C 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機、燃焼器、タービン及び発電機を備え、前記圧縮機は、抽気弁、入口案内翼及び複数の車室抽気弁を有するガスタービンの運転方法であって、
少なくとも圧縮機メタル温度を含むガスタービンの状態パラメータに基づき前記圧縮機の所定段の翼の翼振動応力値を予測し、前記翼振動応力値が翼振動応力許容値を超えないように、ガスタービンの制御パラメータとして前記抽気弁の開度と前記入口案内翼の開度と前記車室抽気弁の開放数のうち少なくとも1つの制御を行うことを特徴とするガスタービンの運転方法。
【請求項2】
請求項に記載のガスタービンの運転方法において、前記圧縮機メタル温度とは、圧縮機ケーシングメタル温度またはロータメタル温度であることを特徴とするガスタービンの運転方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のガスタービンの運転方法において、前記状態パラメータが閾値を超える場合、前記制御パラメータが前記抽気弁の開度の場合は前記抽気弁の開度を大きくし、前記制御パラメータが前記入口案内翼の開度の場合は前記入口案内翼の開度を小さくし、前記制御パラメータが前記車室抽気弁の開放数の場合は前記車室抽気弁の開放数を増加することを特徴とするガスタービンの運転方法。
【請求項4】
請求項に記載のガスタービンの運転方法において、前記圧縮機の所定の複数段の翼の各々の翼振動応力値が翼振動応力許容値を超えないように前記抽気弁の開度と前記入口案内翼の開度と前記車室抽気弁の開放数のうち少なくとも1つの制御を行うことを特徴とするガスタービンの運転方法。
【請求項5】
請求項に記載のガスタービンの運転方法において、前記所定の複数段の翼とは第1段翼及び第2段翼であって、前記制御パラメータを変化させたときの前記翼振動応力値の変化が前記第1段翼と前記第2段翼とで逆の傾向となるガスタービンであることを特徴とするガスタービンの運転方法。
【請求項6】
請求項に記載のガスタービンの運転方法において、前記状態パラメータに基づき第1段翼の翼振動応力値が翼振動応力許容値を下回るような前記制御パラメータを算出する第1のステップと、前記第1のステップを受けて前記状態パラメータに基づき前記第2段翼の翼振動応力値が翼振動応力許容値を下回るような前記制御パラメータを算出する第2のステップと、前記第1のステップで算出した制御パラメータで制御した際に前記第2段翼の翼振動応力値が翼振動応力許容値を下回るか判定し、前記第2のステップで算出した制御パラメータで制御した際に前記第1段翼の翼振動応力値が翼振動応力許容値を下回るか判定する第3のステップを備え、
前記第1のステップは、前記第1段翼の翼振動応力値を算出する第1段翼振動応力算出ステップと、算出した翼振動応力値が第1段翼振動応力許容値を下回っているかを判定する第1段翼振動応力判定ステップと、下回っていた場合は前記第2のステップへ移行し、
下回らなかった場合は、前記車室抽気弁の開放数を増やすように数値を変更、前記抽気弁の開度を大きくするように数値を変更、または、前記入口案内翼の開度を小さくするように数値を変更し、前記第1段翼振動応力判定ステップに移行する第1の制御パラメータ調整ステップを備え、
前記第2のステップは、前記第1段翼振動応力判定ステップで前記第1段翼の翼振動応力値が翼振動応力許容値を下回った制御パラメータを用いて第2段翼の翼振動応力値を算出する第2段翼振動応力算出ステップと、算出した翼振動応力値が翼振動応力許容値を下回っているかを判定する第2段翼振動応力判定ステップと、下回っていた場合は前記第3のステップへ移行し、下回らなかった場合は前記車室抽気弁の開放数を減らすように数値を変更、前記抽気弁の開度を小さくするように数値を変更、または、前記入口案内翼の開度を大きくするように数値を変更し、前記第2段翼振動応力判定ステップに移行する第2の制御パラメータ調整ステップを備え、
前記第3のステップは、前記第2のステップにおいて制御パラメータに数値変更が行われたかを判定し、行われていた場合は前記第1のステップへ進み、行われていなかった場合は前記第1段翼振動応力判定ステップ及び前記第2段翼振動応力判定ステップで前記第1段翼及び前記第2段翼の翼振動応力値が翼振動応力許容値を下回った制御パラメータで運転を行うことを特徴とするガスタービンの運転方法。
【請求項7】
請求項1に記載のガスタービンの運転方法において、
前記車室抽気弁は4つ設けられ、停止時には前記4つの車室抽気弁のうち隣り合う2つの弁をローテーションしながら開放することを特徴とするガスタービンの運転方法。
【請求項8】
圧縮機、燃焼器、タービン、発電機及び制御装置を備え、前記圧縮機は、抽気弁、入口案内翼及び複数の車室抽気弁を有するガスタービンであって、
前記制御装置は、少なくとも圧縮機メタル温度を含むガスタービンの状態パラメータに基づき前記圧縮機の所定段の翼の翼振動応力値を予測し、前記翼振動応力値が翼振動応力許容値を超えないように、ガスタービンの制御パラメータとして前記抽気弁の開度と前記入口案内翼の開度と前記車室抽気弁の開放数のうち少なくとも1つの制御を行うことを特徴とするガスタービン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスタービンの運転方法およびガスタービンに係り、特にガスタービンの起動または停止時の圧縮機制御に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンの旋回失速を防止する従来の方法として、例えば、特許文献1や特許文献2に記載の方法が提案されている。特許文献1には、1以上の抽気弁を閉じて回転失速域をより高速の回転速度にシフトせしめるステップと、入口案内翼を回転失速域外の位置まで部分的に開放するステップと、抽気弁の1以上を開くと同時に入口案内翼を部分的に閉鎖して複数の動翼が回転失速域を通過せしめるステップを含む、タービンを始動する方法が記載されている。
【0003】
特許文献2には、圧縮機の抽気室から抽気した圧縮空気を冷却空気としてタービンに供給する抽気流路と、抽気流路の圧縮空気をタービン排気系に排気する排気流路と、排気流路に設けられた排気弁を備えたガスタービンにおいて、ガスタービンの起動状態が旋回失速を発生する領域に到達する前に、圧縮機の最も高圧側の抽気室(第3抽気室)に抽気流路(第3抽気流路)を介して通ずる排気流路(第3排気流路)に設けられた排気弁(第3排気弁)を開放し、第3抽気室から抽気して第3抽気流路を流れる圧縮空気を第3排気流路によりタービン排気系に排気するガスタービンの起動方法が記載されている。この起動方法によれば、動翼の負荷が小さくなって旋回失速の発生が抑制され、ガスタービンの起動特性を改善することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-281001号公報
【文献】特開2017-89414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガスタービン圧縮機では、旋回失速が発生することで翼振動応力の増加が引き起こされる。旋回失速を回避・抑制する場合、抽気弁や入口案内翼(以下IGV)に対し、運転速度や回転数に基づき予め設定された制御が行われてきた。
【0006】
しかし、前述の特許文献をはじめとした制御は運転条件によってその都度変わる旋回失速の大きさに対し効果的な制御をすることができない。
【0007】
そこで、本発明は、ガスタービンの起動停止においてその都度状態の変化する旋回失速を効果的に抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を解決するために、本発明は、特許請求の範囲に記載の構成を採用するものである。
例えば、本発明は、圧縮機と燃焼器とタービンと発電機とを備え、前記圧縮機は抽気弁と入口案内翼と複数の車室抽気弁を有するガスタービンの運転方法であって、状態パラメータである圧縮機メタル温度に基づき、圧縮機の翼振動応力値を指標として、制御パラメータとして前記抽気弁の開度と前記入口案内翼の開度と前記車室抽気弁の開放数のうち少なくとも1つの制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のガスタービン制御方法によれば、ガスタービンの起動または停止において、ガスタービンから旋回失速の状態に関係する状態パラメータを読み取り、前記状態パラメータに基づき、制御パラメータとして抽気弁の開度と入口案内翼の開度と車室抽気弁の開放数のうち少なくとも1つの制御を行い圧縮機に流入及び/または圧縮機から排出する空気量を調整することで、旋回失速を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施例であるガスタービンの概略図。
図2】本発明の第1実施例の制御装置におけるフローを表した概略図。
図3】本発明の第1実施例の圧縮機メタル温度と入口案内翼開度と翼振動応力の関係性を表した概略図。
図4】本発明の第1実施例のメタル温度と負荷率の関係性を表した概略図。
図5】本発明の第1実施例の制御装置におけるS3の第1の例を表した概略図。
図6】本発明の第1実施例の制御装置におけるS3の具体的な制御を表した概略図。
図7】本発明の第1実施例の制御装置におけるS3の第2の例(S3’)を表した概略図。
図8】本発明の第2実施例における車室抽気弁の制御を表した概略図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施例1>
図1は本発明の実施例1のガスタービンの概略図である。
実施例1のガスタービンは、空気を圧縮する略円環形状の圧縮機1と、圧縮機下流側に設置され、圧縮機吐出空気と燃料を混合して燃焼ガスを生成する燃焼器2と、燃焼ガスのエネルギーを回転動力に変換する略円環形状のタービン3と、タービンの回転動力を電気エネルギーに変換する発電機4と制御装置18を有する。
【0012】
ロータ5は圧縮機1とタービン3の略中心部とを連通する位置に回転自在に支持され、発電機4と圧縮機1及びタービン3をつないでいる。圧縮機1は圧縮機ケーシング6と、前記圧縮機ケーシング6の軸方向上流入口に複数取り付けた入口案内翼15(IGV)と、圧縮機ケーシング6の内周に複数段取付けた圧縮機静翼7と、ロータ外周に複数段取付けた圧縮機動翼8と、前記圧縮機1内部の圧縮空気の一部を抽気する抽気流路9と、前記圧縮機最終段の周方向に複数設置され開閉弁を有する車室抽気弁16とを備える。
【0013】
抽気流路9は抽気空気の排気量を調整する抽気弁14(14a、14b)と、抽気弁下流で抽気空気を分岐して一部を排気流路10に排気する分岐管13(13a、13b)とを有し、圧縮機1とタービン3をつないでいる。排気流路10は分岐管13(13a、13b)を介し抽気流路9に接続され、排気室である11をつないでいる。排気流路11は車室抽気弁16を介し圧縮機1と排気室12とをつないでいる。
【0014】
また、圧縮機ケーシング6には高圧側~低圧側の段に最低1つの圧縮機メタル温度を測定する圧縮機ケーシングメタル温度センサ20が取り付けられ、ロータ5には圧縮機ロータメタル温度を測定する圧縮機ロータメタル温度センサ21が取り付けられている。本実施例において圧縮機メタル温度は圧縮機ケーシングメタル温度および/または圧縮機ロータメタル温度である。
【0015】
また、発電機4にはガスタービン運転データ検出部22が備え付けられている。
【0016】
制御装置18は、圧縮機メタル温度を測定する測定センサからの圧縮機メタル温度データ(圧縮機ケーシングメタル温度、圧縮機ロータメタル温度)、および/または発電機から取得可能なガスタービン運転データ(ガスタービン負荷率、ガスタービンの負荷運転時間、ガスタービンの停止時間)をガスタービンの状態パラメータとして取得し、前記状態パラメータに基づき圧縮機動/静翼の翼振動応力値を推定し、ガスタービンの制御パラメータとしてIGV開度、抽気弁開度または車室抽気弁開放数変更の制御指令をIGV、抽気弁、車室抽気弁へ出すことができる。
【0017】
ガスタービンの起動または停止時では、圧縮機1の定格設計流量と作動流体17流量のミスマッチにより圧縮機動翼8および圧縮機静翼7に過大な負荷がかかる。その結果、作動流体17が圧縮機静翼7および圧縮機動翼8から剥離し、作動流体上流側からみて概周方向に剥離渦が伝播する旋回失速が発生する。旋回失速が発生すると圧縮機動翼8および圧縮機静翼7は励振されるため、翼振動応力が過大となって破損するおそれがある。
【0018】
発生する旋回失速は圧縮機ケーシング6のケーシングメタル温度または圧縮機内のロータメタル温度が異なる場合、作動流体17の流動条件が変化するため前記抽気弁14(14a、14b)の開度が同一の条件であっても剥離渦の旋回速度、周方向の剥離渦の数、剥離による圧力変動振幅が変化する。すなわち、旋回失速の大きさによって翼振動応力が大きくなる。
【0019】
ガスタービンの起動時または停止時には、抽気弁14(14a、14b)を開き、IGV15を閉じることで圧縮機内の圧縮空気流量を低減し旋回失速が軽減される。
【0020】
本実施例のガスタービンでは、旋回失速の大きさが寄与する翼振動応力の低減を目的に、制御装置18は、圧縮機ケーシングメタル温度センサ20および/または圧縮機ロータメタル温度センサ21からの圧縮機メタル温度データ、並びにガスタービン運転データ検出部22から取得可能なガスタービンの負荷率、負荷運転時間、停止時間のデータを状態パラメータとして取得し、前記状態パラメータに基づき圧縮機動/静翼の翼振動応力予測値を算出し、制御パラメータとして抽気弁14(14a、14b)、IGV15または車室抽気弁16の制御指令を出すことを特徴とする。
【0021】
リアルタイムで状態パラメータを検出して抽気弁開度、IGV開度、車室抽気弁開放数などの制御パラメータを制御することで起動時、停止時の状態パラメータにより複雑に変化する翼振動応力を制御・低減し、旋回失速を効果的に低減することができる。
【0022】
状態パラメータにガスタービン負荷率および/または負荷運転持続時間および/または停止時間を含むことで圧縮機メタル温度により変化する圧縮機内部の作動流体の状態をより正確に推定できるため、翼振動応力を低減するためのより高精度な抽気弁14(14a、14b)、IGV15並びに車室抽気弁16の補正値の算出が可能となる。
【0023】
また、状態パラメータに圧縮機ケーシングメタル温度および/または圧縮機ロータメタル温度を利用することで、旋回失速を軽減するための上述の方法よりもさらに高精度な抽気弁14(14a、14b)、IGV15並びに車室抽気弁16の制御が可能となる。
【0024】
なお、制御装置18に入力される状態パラメータは特定のパラメータの採用が必須ではなく、いずれかの組み合わせを採用してもよい。また、運転履歴データは発電機以外から検出したものでもよい。また、圧縮機動翼または圧縮機静翼の温度や翼振動応力といった、圧縮機内の旋回失速状態を想定できるパラメータを新たに採用してもよい。
【0025】
ここで、第1段動翼/静翼における翼振動応力σと状態パラメータと制御パラメータとの関係性は以下の式で表すことができる。
【0026】
【数1】
影響係数は、あるパラメータが1単位当たり変化したときの応力変化量と定義する。本実施例では、特定段の翼の振動応力に影響を与える因子を定義したものであり、工場試験で事前に求めておくことができる。
【0027】
例えば、背側で作動流体の剥離が生じる翼では、前記影響係数が下記式2~式5の傾向を取る場合がある。
【0028】
【数2】
【0029】
【数3】
【0030】
【数4】
【0031】
【数5】
前記影響係数は振動応力の実測値から回帰分析を用いる方法や、タグチメソッドの直交表を用いる方法などで求めることができる。
【0032】
実際には前記影響係数は線形でなく、互いに直交ではない可能性がある。従って、できる限り多くの条件で影響係数を取っておくことが望ましい。
【0033】
設計点での応力σ_nとは、閾値として翼振動応力の許容値σ_mを下回るよう事前に設定された応力値であり(式6)、運転時は設計点での応力に収まるよう圧縮機を運転するのが望ましい。
【0034】
【数6】
前記影響係数のパラメータのうち、運用方法で定まるメタル温度は制御することが困難である。
【0035】
設計点と同じメタル温度条件(ΔT=0)での昇速、降速の場合は標準設定で運転されるため、運転可能である。しかし、設計条件と異なる温度、すなわち状態パラメータが閾値を超える場合、翼振動応力が閾値である翼振動応力許容値を上回る可能性がある(式7)。
【0036】
【数7】
従って、圧縮機メタル温度の検出を起点とし抽気弁14(14a、14b)、IGV15並びに車室抽気弁16の少なくとも一つの制御を行うのが望ましい。
【0037】
図2は制御装置18の具体的なフローである。制御装置18は、検出した状態パラメータを取得するS1、状態パラメータから参照した翼振動応力σTxとあらかじめ定められた翼振動応力許容値σmxを比較し、翼振動応力許容値σmxを下回っていた場合はS1へ、上回っていた場合は後述のS3へフローを進めるS2、IGV開度、抽気弁開度、車室抽気弁開放数の制御パラメータを算出・判定するS3、算出した制御パラメータを各IGV、抽気弁、車室抽気弁に発信するS4のフローを備える。
【0038】
なお、S2における翼振動応力許容値とは、翼が破損するおそれがある限界値に対して所定のマージンを加味した値としてもよい。
【0039】
S1では、圧縮機ケーシングメタル温度センサ20、圧縮機ロータメタル温度センサ21、並びにガスタービン運転データ検出部22から状態パラメータを取得し、S2へとデータを送付する。
【0040】
S2ではS1で得られた状態パラメータと現在の制御パラメータの制御状態を参照し、翼振動応力を算出し、算出した翼振動応力が翼振動応力許容値を超えていないか判定する。なお、判定に用いる式は式7のように温度の影響係数を主として用いてもよい。超えていなかった場合はS1へ進み、超えていた場合はS3へと制御を進める。
【0041】
S2の算出方法の概念として、翼振動応力と圧縮機メタル温度の関係性を表した図3を示す。
【0042】
図3は特定の温度Tにおける翼の振動応力をIGVの開度と組み合わせた図である。前記式1及び2でも示したように、IGV開度によって応力が異なるため、あらかじめ影響因子の関係性を特定することにより、ある温度における応力の推定が可能となる。なお、同様の関係性を抽気弁、車室抽気弁に対し算出することも可能である。
【0043】
また、S1及びS2では温度の代替または補足的な状態パラメータとして運転データを用いてもよい。例えば、圧縮機メタル温度とガスタービン負荷率の関係性を図4に示す。
【0044】
停止時の圧縮機メタル温度Tstopは負荷率Cの高さ、負荷運転時間tcの長さによって定まる。停止から一定時間経過後に起動する際のメタル温度Trestartは、停止時のメタル温度と停止時間tsによって定まる。
【0045】
停止時において、負荷率Cが高いほど、また負荷運転時間tが長いほど停止時のメタル温度Tstopは高くなる。(再)起動時において、前記負荷率の高さ及び負荷運転時間の長さに加え、停止時間tが長いほどメタル温度Trestartは低くなる。前記の関係性を考慮することで、負荷率Cをメタル温度Tと近似的に扱うことが可能である。
【0046】
S3では翼振動応力の許容値を下回るようなIGV開度、抽気弁開度、車室抽気弁開放数を算出し運転可能か否かを判断する。
【0047】
S3における具体的な算出方法として、複数の翼振動応力に対し、IGV開度(以下θ),抽気弁開度(以下P),車室抽気弁開放数(以下n)のうち、1つずつ値を動かして算出する方法(図5)とσ12の最大値を最小にするよう最適なパラメータを算出する方法(図7)がある。
【0048】
S3において複数の翼の振動応力を参照する理由として、翼で発生する作動流体の剥離位置が異なり影響係数が変化することが考えられる。例えば、背側で作動流体の剥離が発生する翼では影響係数が式2~式5のようになる。一方で、腹側で作動流体の剥離が発生する翼では、以下の式8~式11のように式2~式5とは逆の傾向を取る。
【0049】
【数8】
【0050】
【数9】
【0051】
【数10】
【0052】
【数11】
この場合、第1段翼の制御パラメータを第2段翼へ適用した際、第2段翼の翼振動応力許容値を超える恐れがある。したがって、複数段において翼振動応力が翼振動応力許容値を下回る値を算出することが望ましい。
【0053】
S4ではS3の判定結果に基づき、各IGV、抽気弁、車室抽気弁に対し算出したθ,P,nを制御指令として発信する。
【0054】
図5はθ,P,nのうち、1つずつ値を動かして確認するフローを示した図である。R1の翼振動応力σ1が翼振動応力許容値σm1を下回るような制御パラメータを算出・判定するステップであるS3-1と、R2の翼振動応力σが翼振動応力許容値σm2を下回るような制御パラメータを算出・判定するステップであるS3-2と運転可能か否かを判定するステップであるS3-3を備える。
【0055】
S3-1は、現在の温度におけるパラメータまたは直前に受信したパラメータから第1段動翼の翼振動応力σ1を算出するステップであるS3-11と、算出した翼振動応力が許容値を下回るか判定するステップであるS3-12、制御可能なパラメータで翼振動応力を許容値内に収めることが不可能である判断をするステップであるS3-13と、翼振動応力の影響係数を変化させるステップであるS3-14を備える。
【0056】
S3-11では、S2にて算出した数値またはS3-3から受信した数値を入力し翼振動応力σを算出する。
【0057】
S3-12では、S3-11または後述するS3-14のループを通して算出されたθ,P,nを式1へ代入し、算出した翼振動応力が翼振動応力許容値を下回っていた場合にはS3-21へ、翼振動応力許容値を上回っていた場合S3-13へフローを進める。
【0058】
S3-13では、σ1に対する影響係数のうち最も影響が小さいものを後述するS3-14にて変更した際、再度S3-12でNOとなった場合、制御可能なθ,P,nの数値変更では翼振動応力許容値を下回ることができないと判断し、メタル温度の冷却運転へ移行する。
【0059】
S3-14では、事前に求めておいた影響係数の関係性(式2~式5)に基づき、式1における翼振動応力が低くなるような制御パラメータを算出する。その際、翼振動応力への影響度が高い数値から順に変更していく。本実施例では、n,P,θの順に数値を変更する。
【0060】
実際の制御結果を表した例として、図6に示すような制御が挙げられる。
抽気弁開度と回転数の図において、制御パラメータによって抽気弁開度の大きさを調整し、高回転数の領域ではガスタービン効率を考慮し抽気弁開度を下げる。IGV開度と回転数の図において、制御パラメータによってIGV開度の開閉タイミングや大きさを調整し、高回転数の領域ではガスタービン効率を考慮しIGV開度を上げる。車室抽気弁開放数と回転数の図において、制御パラメータによって抽気弁開放数の数を調整し、高回転数の領域ではガスタービン効率を考慮し車室抽気弁開放数を0とする。
【0061】
S3-2はS3-12から受信したパラメータを用い第2段翼の翼振動応力σを算出するステップであるS3-21と、算出した翼振動応力が許容値を下回るか判定するステップであるS3-22と、制御可能なパラメータで翼振動応力を許容値内に収めることが不可能である判断をするステップであるS3-23と、翼振動応力の影響係数を変化させるステップであるS3-24を備える。なお、S3-1と異なるステップであるS3-24以外の説明は割愛する。
【0062】
S3-24では、事前に求めておいた影響係数の関係性(式8~式11)に基づき、翼振動応力が低くなるような制御パラメータを算出する。その際、翼振動応力への影響度が高い数値から順に変更していく。本実施例の場合、θ,P,nの順に数値を変更する。
【0063】
なお、本実施例のように複数段の翼に対し制御パラメータを変更する場合、変化させるパラメータは翼振動応力許容値を超えている段に感度が高く、超えていない段には感度の低いものを優先的に変化させる。また、GT効率を考慮し、nは昇速時にn=0とし、降速時のみ制御することが望ましい。
【0064】
S3-3はS3-22から受信した制御パラメータをS3-11へ送信し、S3-1及びS3-2のループを繰り返すか、運転可能として算出した制御パラメータをIGV,抽気弁,車室抽気弁へ制御指令として発信するか判定するステップである。直前のS3-2にてS3-22のループが発生したか否かを数値の変更から判定し、数値変更がなされていない場合は対象となる段の翼すべてが翼振動応力許容値を下回った場合であるため運転可能の判断を下す。
【0065】
図7はf=max(σ12)を定義して、fの最大値が最小となるθ,P,nを最適化計算により算出するフローを図示したものである。
【0066】
S3’はf=max(σ12)を最小にするθ,P,nを算出するS’3-1と、算出した制御パラメータを代入したσ、σが翼振動応力許容値を下回っているか否かを判定するS’3-2を備える。
【0067】
S’3-1は目的関数としたf=max(σ12)の最小値を算出する際、共役勾配法やジェネリックアルゴリズム等を用いることができる。また、θ,P,nの制御値が数パターンしか取れないような場合は、全パターンを計算してfが最小になる組み合わせを取ることもできる。
【0068】
S’3-2は、YESであれば運転可能と判断し制御パラメータをIGV、抽気弁、車室抽気弁への出力へ移行し、NOであればメタル温度の冷却運転へ移行するS’3-2を備える。
【0069】
前記フローは図5よりも安全側での運転が可能である。
【0070】
S4では、S3で運転可能と判断された場合はS3で算出された制御パラメータをIGV,抽気弁,車室抽気弁へ制御指令として発信し、運転不可と判断された場合は冷却運転へ移行する制御指令を発信する。
【0071】
その他、出現する可能性の高い運転条件、例えば定格負荷トリップや無負荷トリップ、HOT起動といった条件では事前に最適なθ,P,nを決めておくとよい。
【0072】
また、突然のトリップで最適な運伝ができるよう、トリップした場合に備え現在のθ,P,nを常に更新しておくとよい。
【0073】
以上により時々刻々変化する旋回失速の状態に対して、IGV開度,抽気弁開度,車室抽気弁開放数の適切な制御値を算出し翼振動応力を抑制する制御を行うことで、旋回失速を抑制することができる。
【0074】
なお、第1段及び第2段翼のみの記載となっているが、第3段以降の翼が考慮されてもよい。
<実施例2>
実施例2は、実施例1の機構において車室抽気弁を4つ備えたガスタービンである。
【0075】
車室抽気弁16を有する周方向に複数設置された排気流路11では、周方向の複数の弁のうち開く弁の数を変更することで排気量を制御することができる。
ガスタービン停止時に開く車室抽気弁の位置は、例えば下半のみを開いて上半は閉止するなど周方向に不均一な開き方もできる。また、車室抽気弁はケーシングの下半のみなど、周方向に不均一に取付けることもできる。
【0076】
図8に、周方向に複数設置された車室抽気弁16を有する排気流路11の具体的な運用例を示す。ガスタービン起動時は効率が低下しないよう車室抽気弁は全閉とし、停止時には一般に起動時よりも圧縮機メタル温度が高くなるため、例えば半分の車室抽気弁を開いて作動流体17を排気室へ排出する。
【0077】
このとき開く車室抽気弁はあえて対角の位置ではなく、周方向に圧力偏差が発生するような開き方とすることができる。また、開く車室抽気弁の位置は運転回ごとに異なる車室弁とすることができる。車室抽気弁の開放対象をローテーションすることで、起動、停止時に特定の位置の開閉弁のみが疲労することを回避でき、抽気弁の交換頻度を延ばすことが可能となる。
【0078】
圧縮機ケーシングのメタル温度または圧縮機ロータのメタル温度が高い場合は、低い場合と比べて圧縮機後段側で作動ガスがロータおよびケーシングからの熱伝達によって膨張するため、上流側の作動ガスの流れが停滞して旋回失速が増大するおそれがあるが、本実施例のガスタービンでは圧縮機吐出空気を排気室12へ排気することで旋回失速の成長を抑制する効果が期待できる。
【0079】
また本機構では周方向の一部の弁、例えば4つの車室抽気弁のうち隣り合う2つの弁を開くことで圧縮機吐出空気の周方向の圧力分布をあえて不均一とすることにより、旋回失速における剥離渦の成長を防止する効果も期待できる。
【0080】
以上の実施例には、リアルタイムで状態パラメータを検出して制御を行うことが記載されている。その他に、ガスタービンが旋回失速を発生する回転数や圧縮空気の圧力などを事前の実験などにより求めておき、ガスタービンが起動し、旋回失速を発生する回転数や圧縮空気の圧力に到達すると、排気弁を開放するような方法を含んでもよい。
【0081】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0082】
1・・・圧縮機、2・・・燃焼器、3・・・タービン、4・・・発電機、5・・・ロータ、6・・・圧縮機ケーシング、7・・・圧縮機静翼、8・・・圧縮機動翼、9・・・抽気流路、10,11・・・排気流路、12・・・排気室、13a,13b・・・分岐管、14a,14b・・・抽気弁、15・・・入口案内翼、16・・・車室抽気弁、17・・・作動流体、18・・・制御装置、20・・・圧縮機ケーシングメタル温度センサ、21・・・圧縮機ロータメタル温度センサ、22・・・ガスタービン運転データ検出部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8