(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】有機性排水の処理方法及び有機性排水の処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 3/12 20060101AFI20221109BHJP
C02F 3/30 20060101ALI20221109BHJP
C02F 11/06 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C02F3/12 S
C02F3/30 Z
C02F11/06 A
C02F11/06 B
(21)【出願番号】P 2019038807
(22)【出願日】2019-03-04
【審査請求日】2021-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】大野 克博
(72)【発明者】
【氏名】楠本 勝子
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-001137(JP,A)
【文献】特開2003-260491(JP,A)
【文献】特開平09-122682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00-34、11/00-20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性排水を活性汚泥槽で生物処理した後、汚泥と処理水とに分離し、
分離した汚泥の一部を、嫌気槽に導入して、鉄の存在下で微曝気処理して、汚泥を分解し、再基質化させた後、処理後の汚泥を当該活性汚泥槽に返送し、当該再基質化された汚泥を当該活性汚泥槽で再び生物処理し、
分離した汚泥の一部を、微曝気処理せずに余剰汚泥として汚泥処理する、
ことを特徴とする有機性排水の処理方法。
【請求項2】
前記活性汚泥槽は、無酸素槽と好気槽とを含み、
前記嫌気槽で微曝気処理した後の汚泥を当該無酸素槽に返送することを特徴とする、請求項1に記載の有機性排水の処理方法。
【請求項3】
前記嫌気槽における微曝気処理は、下記条件:
(1)前記嫌気槽の酸化還元電位が-350mV以上-250mVに低下したときに曝気する、
(2)前記嫌気槽の酸化還元電位が-50mV以上+30mV以下に上昇したときに曝気しない
により制御されることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機性排水の処理方法。
【請求項4】
前記嫌気槽の鉄濃度が40mg/L以上となるように、鉄を添加することを特徴とする、請求項1~3のいずれか1に記載の有機性排水の処理方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1に記載の有機性排水の処理方法を実施する処理装置であって、
有機性排水を生物処理する活性汚泥槽と、
当該活性汚泥槽からの生物処理後の有機性排水を、汚泥と処理水とに分離する固液分離槽と、
当該固液分離槽からの汚泥の一部を、鉄の存在下で微曝気処理する嫌気槽と、
当該固液分離槽から当該嫌気槽へと、汚泥を搬送する汚泥搬送ラインと、
当該嫌気槽からの微曝気処理後の汚泥を、当該活性汚泥槽に返送する汚泥返送ラインと、
当該固液分離槽からの汚泥の一部を余剰汚泥として貯留する汚泥貯留槽と、
を具備する有機性排水の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機汚泥の発生を抑制することができる有機性排水の処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
汚泥減容化プロセスのうち物理化学的処理としては、オゾン酸化処理、酸化剤処理、アルカリ処理、超音波処理、電解処理、熱処理、叩解処理などがあり、余剰汚泥を可溶化して再基質化することで余剰汚泥の減容化を図っている。物理化学的処理では、単位汚泥当たりから生じる不活性な有機物量が多くなること、水処理工程における有機物負荷が高くなること、処理水質に影響を生じること、などの問題がある。
汚泥減容化プロセスのうち生物学的処理としては、消化処理、好熱性細菌処理、微生物/酵素処理、嫌気好気生物処理、自己酸化処理、食物連鎖処理などがあり、処理槽内の滞留時間や酸素有無を主なパラメータとして積極的に余剰汚泥の発生量の抑制や嫌気的分解・好気的分解を図っている。生物学的処理では、消化処理の場合には大きな消化槽を使用するために敷地面積が必要となること、微生物/酵素処理の場合には担体を使用するために初期コストが高いこと、食物連鎖処理の場合には高等生物相の安定的な維持が困難となること、などの問題がある。嫌気好気生物処理は、既設槽の改良による対応が可能で、主に下等生物からなる菌叢の維持を行うため、上述の問題を解決できる。
嫌気好気生物処理の一つであるOSAプロセス(Oxic Anaearobic Process)は、汚泥を好気性雰囲気下で生物処理した後に得られる余剰汚泥を嫌気性雰囲気下で滞留させ、その後当該余剰汚泥を生物処理に再度供する方法である(特許文献1及び2)。OSAプロセスにおいては、細胞外高分子化合物(EPS)の高次構造を構成する補因子の一つであるFe(III)がFe(II)に還元されることでEPSの崩壊が起こることが汚泥発生量低減の要因の一つであることが報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4841850号公報
【文献】米国特許7,569,147号明細書
【非特許文献】
【0004】
【文献】WATER ENVIRONMENT RESERCH, January 2018, p42-47,
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまで報告されているOSAプロセスにおける嫌気性雰囲気の制御パラメータは、酸化還元電位(ORP)、水理学的滞留時間(HRT)、汚泥滞留時間(SRT)、活性汚泥浮遊物質(MLSS)及び鉄濃度であり、これらのパラメータを成立させるための大きな槽容積や装置及び長い滞留時間が必要であった。
本発明は、従前のOSAプロセスを実施するために必要であった大きな槽容積や装置及び長い滞留時間を不要とすることができる有機性排水の処理方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、OSAプロセスにおける嫌気性雰囲気の制御パラメータに鉄濃度及び酸素供給速度を追加して、再基質化反応速度を制御することで、余剰汚泥の発生量を低減させ、嫌気槽のHRTやSRTを短縮し、嫌気槽の必要容量を縮小する。ここで「再基質化」とは、生物学的な水処理過程で発生した有機汚泥の一部を、物理化学的、生化学的な手段によって可溶化を促進させ、生物学的に酸化分解が可能な状態にまで低分子化させることである。
本発明の有機性排水の処理方法及び装置の具体的態様は以下のとおりである。
[1]有機性排水を活性汚泥槽で生物処理した後、汚泥と処理水とに分離し、
当該汚泥の一部を、嫌気槽に導入して、鉄の存在下で微曝気処理して、汚泥を分解し、再基質化させた後、処理後の汚泥を当該活性汚泥槽に返送し、当該再基質化された汚泥を当該活性汚泥槽で再び生物処理することを特徴とする有機性排水の処理方法。
[2]前記活性汚泥槽は、無酸素槽と好気槽とを含み、
前記嫌気槽で微曝気処理した後の汚泥を当該無酸素槽に返送することを特徴とする、上記[1]に記載の有機性排水の処理方法。
[3]前記嫌気槽における微曝気処理は、下記条件:
(1)前記嫌気槽の酸化還元電位が-350mV以上-250mVに低下したときに曝気する、
(2)前記嫌気槽の酸化還元電位が-50mV以上+30mV以下に上昇したときに曝気しない
により制御されることを特徴とする、上記[1]又は[2]に記載の有機性排水の処理方法。
[4]前記嫌気槽の鉄濃度が40mg/L以上となるように、鉄を添加することを特徴とする、上記[1]~[3]のいずれか1に記載の有機性排水の処理方法。
[5]有機性排水を生物処理する活性汚泥槽と、
当該活性汚泥槽からの生物処理後の有機性排水を、汚泥と処理水とに分離する固液分離槽と、
当該固液分離槽からの汚泥の一部を、鉄の存在下で微曝気処理する嫌気槽と、
当該固液分離槽から当該嫌気槽へと、汚泥を搬送する汚泥搬送ラインと、
当該嫌気槽からの微曝気処理後の汚泥を、当該活性汚泥槽に返送する汚泥返送ラインと、
を具備する有機性排水の処理装置。
本発明において「微曝気処理」とは、嫌気槽内の汚泥中のヒドロキシラジカル量を制御するために、鉄イオンの還元反応及び自動酸化反応(Fe3+→Fe2+→Fe3+)を促進する酸化還元電位に維持するように曝気のタイミングを制御して行う処理を意味し、好気処理の曝気とは異なる。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、好気性雰囲気下での生物処理後の汚泥を、嫌気性雰囲気下でFe(III)をFe(II)へ還元させることによって細胞外高分子の高次構造を崩壊させ、適当量の空気供給を制御してFe(II)の自動酸化速度をコントロールし、Fe(II)の自動酸化から生じるヒドロキシラジカルによって細胞外高分子の低分子化反応を進行させ、再基質化反応を促進することで、標準活性汚泥法において発生する余剰汚泥の再基質化(BOD成分化)を促進させて、当該汚泥を活性汚泥槽に返送させ、無益回路(futile cycle)を促進させることで、単位投入BOD当たりの余剰汚泥の発生量低減を図るものである。
本発明によれば、嫌気槽内での再基質化反応が促進されるため、嫌気槽のHRTやSRTを短縮して、必要な槽容量を縮小することができる。
また、本発明によれば、嫌気槽内で再基質化反応が促進された汚泥が活性汚泥槽に返送されて、生物処理に供されるため、活性汚泥槽におけるメタノール等の電子供与体、、pH調整剤及び鉄系凝集剤の添加量を削減することができる。例えば、硝化脱窒プロセスにおける活性汚泥槽である脱窒槽に返送された場合は、メタノール等の電子供与体の添加量を削減することができ、返送された汚泥に含まれる鉄相当量の鉄系凝集剤及びその添加において要するpH調整剤の添加量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の有機性排水処理方法の概略説明図である。
【
図2】有機性排水がし尿・浄化槽汚泥を含む場合の本発明の処理装置の概略説明図である。
【
図3】無酸素ゾーンと嫌気ゾーンとを含む嫌気槽を用いる場合の本発明の処理装置の概略説明図である。
【
図4】空気供給量(通気時間)による酸化還元電位(ORP)の変化を示すグラフである。
【
図5】対照系(曝気なし)について、汚泥滞留116時間目の励起蛍光スペクトルの例である。
【
図6】試験系(微曝気)について、汚泥滞留116時間目の励起蛍光スペクトルの例である。
【
図7】汚泥滞留時間0時間~116時間にわたる対照系(曝気なし)と試験系(微曝気)の2-ヒドロキシテレフタル酸濃度の変化を示すグラフである。
【
図8】S-COD
Crの経時変化を示すグラフである。
【
図11】有機体窒素の経時変化を示すグラフである。
【
図12】対照系(通気無し)の場合の鉄濃度と2-ヒドロキシテレフタル酸発生量の経時変化を示すグラフである。
【
図13】試験系(微曝気)の場合の鉄濃度と2-ヒドロキシテレフタル酸発生量の経時変化を示すグラフである。
【
図14】半回分試験で用いた試験装置の概略説明図である。
【
図15】半回分試験によるSS総量の経時変化を示すグラフである。
【
図16】半回分試験によるVSS総量の経時変化を示すグラフである。
【
図17】連続試験で用いた試験装置の概略説明図である。
【
図18】連続試験による余剰汚泥発生量の累積値を示すグラフである。
【
図19】連続試験による総汚泥発生量の累積値を示すグラフである。
【
図20】連続試験によるORPと空気供給量の関係を示すグラフである。
【
図21】連続試験によるORPが-250mV程度に低下した時に通気を開始するタイミングを予想したグラフである。
【好ましい実施形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図1は、本発明の有機性排水処理の概略説明図である。本発明の有機性排水の処理方法は、有機性排水を活性汚泥槽10で生物処理した後、最終沈殿槽20で汚泥と処理水とに分離し、汚泥を、汚泥搬送ライン22を介して嫌気槽30に導入して、鉄の存在下で微曝気処理して、汚泥を分解し、再基質化させた後、処理後の汚泥を、汚泥返送ライン33を
介して活性汚泥槽10に返送し、再基質化された汚泥を活性汚泥槽10で再び生物処理することを特徴とする。
図1の下方に、嫌気槽30内部での細胞外高分子と、鉄及び空気の反応を示す。好気性雰囲気下で生物処理された汚泥は、細胞外高分子とFe(III)を含む。Fe(III)は嫌気性雰囲気下でFe(II)へ還元されることによって細胞外高分子の高次構造を崩壊させる。ここに、適当量の空気を供給すると、Fe(II)がFe(III)に酸化され、ヒドロキシラジカルが生成する。ヒドロキシラジカルは、細胞外高分子の低分子化反応を進行させ、再基質化反応を促進する。再基質化された汚泥を活性汚泥槽に返送させ、無益回路(futile cycle)を促進させる。
図2は、有機性排水がし尿・浄化槽汚泥を含む場合の本発明の処理装置の概略説明図である。し尿・浄化槽汚泥を含む有機性排水は、受入槽1から前処理・脱水設備2を経て貯留槽3に貯留される。有機性排水は、貯留槽3から
活性汚泥槽10に送られる。活性汚泥槽10は、無酸素槽11、好気槽12及び凝集槽13を含む。有機性排水は、無酸素槽11にて脱窒処理され、好気槽12においてpH調整剤が添加され、好気性雰囲気下で生物処理される。生物処理後の汚泥には、凝集槽13にて鉄系凝集剤が添加されて、凝集フロックが形成され、沈殿槽20にて上澄みの処理水と沈殿する汚泥とに分離される。処理水は、活性炭処理
塔4で処理され、放流槽5を経て公共の水域に放流される。沈殿槽20からの汚泥は、沈殿槽20底部からライン21を介して抜き出され、汚泥の一部は汚泥搬送ライン22を介して嫌気槽30に送られ、汚泥の残部は汚泥貯留槽6に送られる。嫌気槽30には、第一鉄供給手段31、空気供給手段32及びORP
計が接続されており、嫌気槽30内の汚泥は、鉄の存在下で微曝気処理され、
図1に示すFe(III)→Fe(II)→Fe(III)の反応と、Fe(II)→Fe(III)の反応の際に生成するヒドロキシラジカルにより、細胞外高分子の低分子化反応が進行し、再基質化反応が促進される。再基質化された汚泥は、汚泥返送ライン
33を介して活性汚泥槽10の無酸素槽11に返送され、再び生物処理に供される。
図3は、嫌気槽30が汚泥貯留槽を兼用し、汚泥貯留槽を含まず、嫌気槽30が無酸素ゾーン34と、嫌気性処理が進行する嫌気ゾーン35と、を含む点を除いて、
図2に示す装置と同じ構成である。同じ装置には同じ符号を付して説明を割愛する。
嫌気槽30の無酸素ゾーン34には鉄を供給する鉄供給手段31が設けられており、嫌気ゾーン35には空気を供給する空気供給手段32が設けられており、無酸素ゾーン34から嫌気ゾーン35に汚泥の一部を供給して、当該汚泥の一部を微曝気処理に供するように構成されている。例えば、無酸素ゾーン34と嫌気ゾーン35を上下に配置し、沈殿槽20底部から汚泥搬送ライン22を介して抜き出された汚泥が無酸素ゾーン34に送られ、嫌気ゾーン35底部に汚泥返送ライン33を接続させて、無酸素ゾーン34から嫌気ゾーン35へと汚泥が自然に沈降する構成とすることができる。汚泥返送ライン33は、嫌気ゾーン35と活性汚泥槽10との間に設けられており、嫌気ゾーン35からの汚泥を活性汚泥槽10へ返送する。
図3において、生物処理後に固液分離された汚泥は、汚泥搬送ライン22を介して、嫌気槽30の無酸素ゾーン34に送られる。汚泥の一部は無酸素ゾーン34から嫌気ゾーン35に送られ、
図1に示す微曝気嫌気処理に供された後、汚泥返送ライン33を介して活性汚泥槽10の無酸素槽11に返送され、再び生物処理に供される。
図3に示す装置によれば、限られた槽容量でも十分な汚泥滞留時間(SRT)を確保することができる。余剰汚泥(Qm
3/day)を汚泥貯留槽(Vm
3)に貯留し、固液界面下部より脱水用汚泥(qm
3/day)を引き抜き、残った汚泥(Q-qm
3/day)を汚泥貯留槽の底部から順次引き抜くことになるため、汚泥分解のために与えられるSRTはV/QからV/(Q-q)に延長され得る。
図1~3に示す処理装置及び処理フローにおいて、嫌気槽30における空気の供給量は、嫌気性雰囲気を維持できる微曝気を可能とする量であり、下記条件(1)及び(2)により制御されることが好ましい。
(1)嫌気槽の酸化還元電位(ORP)が-350mV以上-250mVに低下したときに曝気する
(2)前記嫌気槽の酸化還元電位(ORP)が-50mV以上+30mV以下に上昇したときに曝気しない
空気供給量は、嫌気槽の容量及び嫌気槽内の汚泥量などにより変動するが、たとえば容量1Lの嫌気槽に0.5Lの汚泥が貯留されている場合には、曝気時には3.6L/min(=約7.2vvm)の流量で10~15分間供給することができる。曝気の有無を嫌気槽のORPにより制御して、嫌気槽を生化学的に還元状態として曝気しない状態でORPを-350mV~-250mVまで低下させることにより、嫌気槽中に存在する鉄イオンをFe
3+→Fe
2+に還元させることができる。嫌気槽中のORPが-350mV~-250mVまで低下したときに曝気することにより、Fe
2+→Fe
3+の反応が生じる。
また、嫌気槽30における鉄の濃度は、40mg/L as Fe以上が好ましく、80mg/Las Fe以上がより好ましい。添加する鉄としては、水溶性の鉄化合物であれば特に限定されないが、たとえばポリ塩化鉄、ポリ硫酸鉄、塩化第二鉄、塩化第一鉄、硫酸鉄などを好適に挙げることができる。
図2及び3において、固液分離槽として沈殿槽20を用いているが、固液分離槽はこれに限定されず、たとえばUF膜などの膜分離槽であってもよい。
【実施例】
【0010】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0011】
[嫌気槽におけるヒドロキシラジカル発生]
し尿処理場から入手した活性汚泥(汚泥性状は表1に記載のとおり)500mLを曝気槽(1L)に入れ、ORPが-250mV付近になるまで室温で無通気状態に放置した。次に、終濃度が1mMとなるようにテレフタル酸を添加し、ORPが-50mV付近になるまで3.6L/min(約7vvm)の流量で空気を約10分間供給し、ORPを測定した。12時間毎に10分間の3.6L/min(約7vvm)の流量の空気供給を繰り返し、各回での空気供給量(通気時間)によるORPの変化を
図4に示す。
図4において、通気時間10分は、空気供給量が総量で36Lであることを意味し、「1回目」は最初の12時間後の空気供給時、「2回目」は24時間後の空気供給時、「8回目」は96時間後の空気供給時を意味する。
【表1】
【0012】
空気供給10分後に、曝気槽から汚泥を採取し、1μmフィルターでろ液を作製し、励起蛍光スペクトルを計測した。ORPが-250mV付近まで低下した後に同じ操作を行い、10回程度繰り返した。
対照系は、空気を供給しなかった以外は同様の条件として、励起蛍光スペクトルを計測した。
【0013】
テレフタル酸を共存させた系中でヒドロキシラジカルが発生する場合、下記式に示す反応が起きることが知られており、2-ヒドロキシテレフタル酸の励起蛍光スペクトル(励起波長320nm、蛍光波長430nm)が検出される。
【化1】
【0014】
対照系(曝気なし)と試験系(微曝気)について、汚泥滞留116時間目の励起蛍光スペクトルの例を
図5(対照系)及び
図6(試験系)に示す。汚泥滞留時間0時間~116時間にわたる対照系(w/o Air:曝気なし)と試験系(with Air:微曝気)の2-ヒドロキシテレフタル酸濃度の変化を
図7に示す。
【0015】
また、試験系及び対照系について、S-COD
Cr、全糖量、総脂質、有機体窒素の経時変化を測定し、結果を
図8~11に示す。
【0016】
図7より、試験系(微曝気)は、対照系(曝気なし)に比べ、2-ヒドロキシラジカル生成に有意な差があることが確認できた。これより、空気供給を制御することによりヒドロシキラジカルの生成量の制御が可能であると考えられる。
【0017】
図8~
図11より、試験系(微曝気)の汚泥は、S-COD
Cr、全糖量、総脂質、有機体窒素が経時的に減少しており、これらの減少は対照系に比べて有意な差があることが確認できた。これより、微曝気によって発生したヒドロキシラジカルにより有機物の分解や無機化が促進されたと考えられる。
【0018】
[鉄濃度と2-ヒドロキシテレフタル酸濃度の関係]
鉄濃度で44mg/Lの不溶性鉄塩を含む下水処理場活性汚泥(MLSS;1350mg/L)にFeCl
3水溶液を添加し、鉄濃度を88mg/L、118mg/L、227mg/Lとした汚泥をそれぞれ1L調製した。これらを室温にて数日間放置することで還元雰囲気とした後、各汚泥を0.5Lずつに分け、通気しない対照系と、12時間毎に5分間の微曝気を施す試験系として、試験を開始した。両系には、ヒドロキシラジカルを検出する化学プローブとして1mMのテレフタル酸を添加した。各系の各汚泥を48時間後、96時間後にサンプリングし、孔径1μmのフィルターでろ過したろ液について励起蛍光スペクトルを計測した。計測では、特に2-ヒドロキシテレフタル酸の励起蛍光スペクトル(Ex;320nm、Em;430nm)の増加を追従した。2-ヒドロキシテレフタル酸の発生量を
図12(対照系)及び
図13(試験系)に示す。
【0019】
図12及び13から、鉄濃度によらずに、試験系(微曝気)の方が対照系(曝気無し)よりも2-ヒドロキシテレフタル酸の発生量が多いことがわかる。特に、鉄濃度が88mg/L以上では汚泥滞留時間の長短によらずに、対照系の2倍以上の発生量が認められる。したがって、鉄濃度は少なくとも44mg/L以上、好ましくは88mg/L以上とすることにより、微曝気との相乗効果が得られたことがわかる。
【0020】
[半回分試験による汚泥減容]
図14に示す試験装置を用いて、し尿処理場から入手した硝化脱窒汚泥(MLSS;10600mg/L、鉄濃度4000mg/L)を試験系及び対照系の各活性汚泥槽(実効体積2.2L)に1100mLずつ投入した。次に、表2に示す組成の人工排水をHRT約1日で連続的に通液し、Na
2CO
3でpHを7.5に調整して、通気量約2L/min(約1vvm)、温度26±1℃に維持して運転した。活性汚泥槽内の汚泥を定期的に引き抜き、同時に引き抜かれる鉄に相当する量のポリ鉄を半回分的に添加した。
対照系及び試験系の活性汚泥槽から引き抜いた250mLの汚泥の内、100mLは各系の活性汚泥槽に返送し、50mLを各系の嫌気槽に貯留し、残りの50mLを各系の余剰汚泥として排出した。(SRT約44日)。
試験系の嫌気槽はタイマーを用いて12時間毎に10分間の空気供給3.6L/min(=約7.2vvm)を行った。
【表2】
各槽の汚泥のSS量及びVSS量からSS総量及びVSS総量を算出した。
図15にSS総量の経時変化を示し、
図16にVSS総量の経時変化を示す。また、1日目~7日目のSS総量及びVSS総量から汚泥生成速度を算出した結果を表3に示す。
【表3】
【0021】
試験期間が長くなるほど、試験系は対照系よりSS総量及びVSS総量が減少し、SS発生速度及びVSS発生速度も遅くなっていることがわかる。通常の運転期間にまで長期化することにより、鉄の添加と微曝気とにより、汚泥生成を減少させることができると考えられる。
【0022】
[連続試験による汚泥減容]
図17に示す試験装置を用いて、し尿処理場から入手した硝化脱窒汚泥1100mLを試験系及び対照系の各活性汚泥槽(実効体積2.2L)に投入した。次に、表2に示す組成の人工排水をHRT約1日で連続的に通液し、Na
2CO
3でpHを7.5に調整して、通気量約2L/min(約1vvm)、温度26±1℃に維持して運転した。活性汚泥槽内の汚泥を定期的に引き抜き、同時に引き抜かれる鉄に相当する量のポリ鉄を半回分的に添加した。
【0023】
対照系の活性汚泥槽から引き抜いた250mLの汚泥の内、100mLは活性汚泥槽に返送し、残りの150mLを余剰汚泥として排出した(SRT約15日)。
試験系の活性汚泥槽から引き抜いた250mLの汚泥の内、100mLは活性汚泥槽に返送し、75~100mLを嫌気槽に貯留し、残りの50~75mLを余剰汚泥として排出した。嫌気槽の温度は26±1℃に維持し、ORPは100mV以下となるように手動で制御し、SRT(ここではHRTとほぼ等しい)は約10日~20日の可変運転を行った。試験系の総SRTは26日~30日となり、対照系の約1.7~2倍となった。
【0024】
試験系及び対照系から排出される余剰汚泥発生量の累積値を
図18に示す。試験系の余剰汚泥発生量は、対照系の4~5割程度に削減されたことがわかる。
試験系及び対照系からの総汚泥発生量を
図19に示す。試験系の総汚泥発生量は、対照系の4~6割程度に削減されたことがわかる。
【0025】
試験系において、容量1Lの嫌気槽に0.5Lの汚泥を15日間滞留させ、3.6L/min(=約7.2vvm)の流量で空気を供給して、ORPを測定し、-50mVに到達した時点で空気の供給を停止した。結果を
図20に示す。
当初のORPは-250mVであり、空気供給によりORPが急速に上昇し続け、約11分で-50mVに到達したので、空気供給を停止した。ORPは緩やかに低下し、通気停止後20分程度で-150mV程度に落ち着くことがわかった。
図4に示す通気時間とORP値との関係に基づいて
図20の結果を外挿し、ORPが-250mV程度に低下した時に通気を開始するタイミングを予想したグラフが
図21である。連続運転の場合、約700分間隔で約10分の通気を行う微曝気処理を行うことにより、ORPを-50mV~-250mVの範囲に維持できると考えられる。試験系の嫌気槽内のpHは7.5~8.5の範囲であるから、ORPが-50mV~-250mVの範囲では、鉄はFe
2+として存在する。Fe
2+の状態に空気を供給することにより、Fe
2+は酸化されてFe
3+となり、
図1に示す微曝気状態を維持することができる。