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特許7173921ワイヤ放電加工機およびワイヤ放電加工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】ワイヤ放電加工機およびワイヤ放電加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23H 7/20 20060101AFI20221109BHJP
   B23H 7/02 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B23H7/20
B23H7/02 S
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019089583
(22)【出願日】2019-05-10
(65)【公開番号】P2020185621
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 大輝
【審査官】梶本 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-220626(JP,A)
【文献】特開平05-111798(JP,A)
【文献】特開平02-077903(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 7/20
B23H 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象物とワイヤ電極との極間に放電を発生させて前記加工対象物を加工するワイヤ放電加工機であって、
加工プログラムおよび加工条件に基づいて、前記加工対象物に対して前記ワイヤ電極を相対移動させながら、前記加工対象物および前記ワイヤ電極に対して周期ごとに電圧パルスを印加させる駆動制御部と、
前記加工プログラムにおいて、加工条件を変更する条件変更コードの有無を解析するコード解析部と、
前記条件変更コードがある場合には、前記条件変更コードに示される割合に応じて前記加工条件を変更する条件変更部と、
を備え、
前記条件変更コードは、特定のコード番号と、前記割合を示す調整可能な値とを含み、
前記条件変更部は、前記特定のコード番号がある場合、前記値に応じて現在の前記加工条件を変更する、ワイヤ放電加工機。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤ放電加工機であって、
前記条件変更部は、前記電圧パルスのパルス間隔および前記電圧パルスの電圧値の少なくとも一方を、単位時間あたりに印加する電圧量が下がるように変更する、ワイヤ放電加工機。
【請求項3】
請求項2に記載のワイヤ放電加工機であって、
前記条件変更部は、前記変更とともに、前記加工対象物に対する前記ワイヤ電極の相対移動速度を下げる、ワイヤ放電加工機。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工機であって、
前記コード解析部は、前記条件変更コード、および、変更された前記加工条件を変更前に戻す還元コードの有無を解析し、
前記条件変更部は、前記条件変更コードおよび前記還元コードがある場合には、前記条件変更コードから前記還元コードまでの区間で前記加工条件を変更する、ワイヤ放電加工機。
【請求項5】
加工対象物とワイヤ電極との極間に放電を発生させて前記加工対象物を加工するワイヤ放電加工方法であって、
加工プログラムおよび加工条件に基づいて、前記加工対象物に対して前記ワイヤ電極を相対移動させながら、前記加工対象物および前記ワイヤ電極に対して周期ごとに電圧パルスを印加させる駆動制御ステップと、
前記加工プログラムにおいて、加工条件を変更する条件変更コードの有無を解析するコード解析ステップと、
前記条件変更コードがある場合には、前記条件変更コードに示される割合に応じて前記加工条件を変更する条件変更ステップと、
を含み、
前記条件変更コードは、特定のコード番号と、前記割合を示す調整可能な値とを含み、
前記条件変更ステップは、前記特定のコード番号がある場合、前記値に応じて現在の前記加工条件を変更する、ワイヤ放電加工方法。
【請求項6】
請求項5に記載のワイヤ放電加工方法であって、
前記条件変更ステップは、前記電圧パルスのパルス間隔および前記電圧パルスの電圧値の少なくとも一方を、単位時間あたりに印加する電圧量が下がるように変更する、ワイヤ放電加工方法。
【請求項7】
請求項6に記載のワイヤ放電加工方法であって、
前記条件変更ステップは、前記変更とともに、前記加工対象物に対する前記ワイヤ電極の相対移動速度を下げる、ワイヤ放電加工方法。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工方法であって、
前記コード解析ステップは、前記条件変更コード、および、変更された前記加工条件を変更前に戻す還元コードの有無を解析し、
前記条件変更ステップは、前記条件変更コードおよび前記還元コードがある場合には、前記条件変更コードから前記還元コードまでの区間で前記加工条件を変更する、ワイヤ放電加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工対象物とワイヤ電極との極間に放電を発生させることで加工対象物を加工するワイヤ放電加工機およびワイヤ放電加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ放電加工機は、加工プログラムおよび加工条件に基づいて、加工対象物を加工する。下記の特許文献1では、加工対象物やワイヤ電極の外径などに応じて入力された加工条件が記憶部に記憶され、その加工条件に基づいて加工対象物が加工される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公平05-021690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1では、加工対象物やワイヤ電極の外径などに応じた加工条件であっても、例えば機械の経年変化などといった様々な要因によりワイヤ電極が断線することがある。ワイヤ電極が断線した場合、作業者は、断線の要因を検討し、検討結果に基づいて加工条件を調整する。
【0005】
しかしながら、加工条件を適切に調整するために経験が必要となる場合があり、作業者の技量に応じて加工条件の調整時間にばらつきが生じ易い。
【0006】
そこで、本発明は、簡易に加工条件を調整し得るワイヤ放電加工機およびワイヤ放電加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、
加工対象物とワイヤ電極との極間に放電を発生させて前記加工対象物を加工するワイヤ放電加工機であって、
加工プログラムおよび加工条件に基づいて、前記加工対象物に対して前記ワイヤ電極を相対移動させながら、前記加工対象物および前記ワイヤ電極に対して周期ごとに電圧パルスを印加させる駆動制御部と、
前記加工プログラムにおいて、加工条件を変更する条件変更コードの有無を解析するコード解析部と、
前記条件変更コードがある場合には、前記条件変更コードに示される割合に応じて前記加工条件を変更する条件変更部と、
を備える。
【0008】
本発明の第2の態様は、
加工対象物とワイヤ電極との極間に放電を発生させて前記加工対象物を加工するワイヤ放電加工方法であって、
加工プログラムおよび加工条件に基づいて、前記加工対象物に対して前記ワイヤ電極を相対移動させながら、前記加工対象物および前記ワイヤ電極に対して周期ごとに電圧パルスを印加させる駆動制御ステップと、
前記加工プログラムにおいて、加工条件を変更する条件変更コードの有無を解析するコード解析ステップと、
前記条件変更コードがある場合には、前記条件変更コードに示される割合に応じて前記加工条件を変更する条件変更ステップと、
を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、断線に関連した加工条件の調整に対してオペレータの時間および労力を節約することができ、簡易に加工条件を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1はワイヤ放電加工機の全体の構成を示す模式図である。
図2図2はワイヤ放電加工機の加工制御系統の構成を示すブロック図である。
図3図3は加工プログラムの一部を例示する図である。
図4図4は加工制御処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明について、好適な実施の形態を掲げ、添付の図面を参照しながら以下、詳細に説明する。
【0012】
[実施の形態]
図1を用いてワイヤ放電加工機10の全体の構成を説明する。なお、図1では、ワイヤ放電加工機10が有する軸が延びるX方向、Y方向およびZ方向が示される。なお、X方向、Y方向およびZ方向は互いに直交する。
【0013】
ワイヤ放電加工機10は、ワイヤ電極12を用いて加工対象物W(図2)を加工する工作機械である。ワイヤ放電加工機10は、加工液中で加工対象物W(図2)およびワイヤ電極12に対して電圧を印加して加工対象物Wとワイヤ電極12との極間に放電を発生させることで、加工対象物Wを加工する。このワイヤ放電加工機10は、加工機本体14、加工液処理装置16、および、制御装置18を備える。
【0014】
ワイヤ電極12の材質は、例えば、タングステン系、銅合金系、黄銅系などの金属材料である。一方、加工対象物Wの材質は、例えば、鉄系材料または超硬材料などの金属材料である。
【0015】
加工機本体14は、加工対象物W(ワーク、被加工物)に向けてワイヤ電極12を供給する供給系統20と、加工対象物Wを通過したワイヤ電極12を回収する回収系統22とを備える。
【0016】
供給系統20は、未使用のワイヤ電極12が巻かれたワイヤボビン24と、ワイヤボビン24に対してトルクを付与するトルクモータ26と、ワイヤ電極12に対して摩擦による制動力を付与するブレーキシュー28と、ブレーキシュー28に対してブレーキトルクを付与するブレーキモータ30と、ワイヤ電極12の張力の大きさを検出する張力検出部32と、加工対象物Wの上方でワイヤ電極12をガイドするダイスガイド(上ダイスガイド)34とを備える。このトルクモータ26およびブレーキモータ30には、回転位置または回転速度を検出するエンコーダが設けられている。制御装置18は、エンコーダによって検出された検出信号に基づいて、トルクモータ26およびブレーキモータ30の回転速度が所定の回転速度となるように、トルクモータ26およびブレーキモータ30をフィードバック制御する。
【0017】
回収系統22は、加工対象物Wの下方でワイヤ電極12をガイドするダイスガイド(下ダイスガイド)36と、ワイヤ電極12を挟持可能なピンチローラ38およびフィードローラ40と、フィードローラ40に対してトルクを付与するトルクモータ42と、ピンチローラ38およびフィードローラ40により搬送された使用済みのワイヤ電極12を回収する回収箱44とを備える。このトルクモータ42には、回転位置または回転速度を検出するエンコーダが設けられている。制御装置18は、エンコーダによって検出された検出信号に基づいて、トルクモータ42の回転速度が所定の回転速度となるように、トルクモータ42をフィードバック制御する。
【0018】
加工機本体14は、加工の際に使用される脱イオン水または油などの加工液を貯留可能な加工槽46を備える。この加工槽46は、ベース部48上に載置されている。加工槽46内にはダイスガイド34、36が配置され、これらダイスガイド34とダイスガイド36との間に加工対象物Wが設けられる。ダイスガイド34、36は、ワイヤ電極12を支持する支持部34a、36aを有する。また、ダイスガイド36は、ワイヤ電極12の向きを変えながらピンチローラ38およびフィードローラ40に案内するガイドローラ36bを備える。
【0019】
なお、ダイスガイド34は、スラッジ(加工屑)を含まない清浄な加工液を、ワイヤ電極12と加工対象物Wとで形成される極間に向けて噴出する。これにより、加工に適した清浄な加工液で極間を満たすことができ、加工によって発生したスラッジによって加工精度が低下することを防止することができる。また、ダイスガイド36も、スラッジを含まない清浄な加工液を極間に向けて噴出してもよい。
【0020】
加工対象物Wは、X方向およびY方向に移動可能なテーブル52(図2)によって支持される。ダイスガイド34、36、加工対象物W、および、テーブル52は、加工槽46によって貯留された加工液に浸漬している。
【0021】
加工液処理装置16は、加工槽46に発生した加工屑(スラッジ)を除去するとともに、電気抵抗率や温度などを調整することで加工液の液質を管理する装置である。この加工液処理装置16によって液質が管理された加工液が再び加工槽46に戻されるとともに、加工液が少なくともダイスガイド34から噴出される。制御装置18は、加工機本体14および加工液処理装置16を制御する。
【0022】
次に、図2および図3を用いてワイヤ放電加工機10の加工制御系統の構成を説明する。加工機本体14は、図2に示すように、電源部50、テーブル52および駆動部54を有する。一方、制御装置18は、記憶部56および情報処理部58を有する。
【0023】
電源部50は、駆動パルス信号に基づいて、加工対象物Wおよびワイヤ電極12に対して周期ごとに電圧パルスを繰り返し印加する。テーブル52は、加工対象物Wを固定するための台であり、X方向およびY方向の各々へ移動可能に設けられる。
【0024】
駆動部54は、サーボモータ60x、60y、駆動力伝達機構(不図示)およびドライバ(不図示)を有する。サーボモータ60xはテーブル52をX方向に移動させるための駆動力を出力し、サーボモータ60yはテーブル52をY方向に移動させるための駆動力を出力するものである。駆動力伝達機構はサーボモータ60x、60yが出力する駆動力をテーブル52に伝達するものであり、ドライバはサーボモータ60x、60yを駆動するものである。
【0025】
なお、本実施の形態では、駆動部54は、テーブル52を移動させて、加工対象物Wに対してワイヤ電極12を相対移動させる。これに代えて、駆動部54は、ダイスガイド34、36を移動させることにより、加工対象物Wに対してワイヤ電極12を相対移動させてもよい。
【0026】
サーボモータ60xには、サーボモータ60xの駆動量を検出するエンコーダ62xが設けられ、サーボモータ60yには、サーボモータ60yの駆動量を検出するエンコーダ62yが設けられる。エンコーダ62x、62yは、駆動量を示す検出信号を生成し、生成した検出信号を情報処理部58に出力する。
【0027】
記憶部56は、各種の情報を記憶可能な記憶媒体である。この記憶部56には、加工対象物Wを加工するための加工プログラムおよび加工条件が少なくとも記憶される。加工条件は、加工対象物Wとワイヤ電極12とに印加する電圧パルスの電圧値、電圧パルスのパルス間隔、および、加工対象物Wに対するワイヤ電極12の相対移動速度などを含む。
【0028】
なお、パルス間隔は、電圧パルス間の時間であり、加工対象物Wおよびワイヤ電極12に対して電圧を印加しない休止時間である。また、加工対象物Wに対するワイヤ電極12の相対移動速度は、加工対象物Wに対してワイヤ電極12を相対移動させるときの速度である。
【0029】
情報処理部58は、各種の情報を処理するものであり、CPUなどのプロセッサを有する。プロセッサが記憶部56に記憶される加工プログラムを実行することで、情報処理部58は駆動制御部70、コード解析部72および条件変更部74として機能する。
【0030】
駆動制御部70は、加工プログラムおよび加工条件に基づいて、加工機本体14を制御するものである。駆動制御部70は、加工機本体14を制御する場合、記憶部56に記憶された加工プログラムをロードする。駆動制御部70は、加工プログラムをロードすると、ロードした加工プログラムが指定する加工条件を記憶部56から読み出し、読み出した加工条件を用いて電源部50および駆動部54を制御する。
【0031】
駆動制御部70は、電源部50を制御する場合、加工プログラムが指定する加工条件として、少なくともワイヤ電極12と加工対象物Wとに印加する電圧パルスの電圧値、および、電圧パルスのパルス間隔を読み出す。この場合、駆動制御部70は、電圧パルスの電圧値およびパルス間隔などを用いて駆動パルス信号を生成し、生成した駆動パルス信号を電源部50に出力する。これにより、駆動制御部70は、電源部50を通じて、ワイヤ電極12および加工対象物Wに対して周期ごとに電圧パルスを印加させる。
【0032】
駆動制御部70は、駆動部54を制御する場合、加工プログラムが指定する加工条件として、少なくとも加工対象物Wに対するワイヤ電極12の相対移動速度を読み出す。この場合、駆動制御部70は、相対移動速度および加工プログラムが指定する加工経路などを用いて移動制御信号を生成し、生成した移動制御信号を駆動部54のドライバに出力する。これにより、駆動制御部70は、駆動部54のドライバを通じて、テーブル52に固定された加工対象物Wに対してワイヤ電極12を相対移動させる。
【0033】
コード解析部72は、加工プログラムにおいて、加工条件を変更する条件変更コードの有無を解析する。本実施の形態では、条件変更コードの種類は、Mコードとする。Mコードは、加工を補助するための指令などを示すためのコードである。なお、条件変更コードの種類は、Mコード以外であってもよい。
【0034】
加工プログラムでは、加工条件の変更を要求する場合、図3に示すように、破線で囲んだ部分が記述される。すなわち、条件変更コードは、コード番号と、割合を示す値とを含む。図3に示す例では、コード番号として「M130」が割り当てられ、割合を示す値として「P6」が記述される。「P6」は、60%の割合であることを意味する。
【0035】
コード解析部72は、駆動制御部70がロードした加工プログラムにおいて特定のコード番号(「M130」)を認識した場合には、条件変更コードがあると判定する。一方、コード解析部72は、特定のコード番号(「M130」)を認識しなかった場合、他のコード番号を認識しても、条件変更コードがないと判定する。なお、図3に示す例では、他のコード番号として、「M30」、「M31」、「M70」および「M73」が記述されている。
【0036】
条件変更部74は、加工プログラムにおいて条件変更コードがある場合には、その条件変更コードに示される割合に応じて加工条件を変更する。本実施の形態では、加工条件として、電圧パルスのパルス間隔(休止時間)が適用される。
【0037】
図3の例示の場合、条件変更部74は、記憶部56に最初に記憶されたパルス間隔の初期値に対して60%となる値を初期値に加算し、その加算結果として得られる値に、記憶部56に記憶された現在のパルス間隔を書き換えることで、パルス間隔を長くする。パルス間隔が長くなると単位時間あたりに印加する電圧量が下がるため、断線が生じるリスクが抑えられる。
【0038】
このように、条件変更部74は、本実施の形態では、条件変更コードに示される割合に応じて、単位時間あたりに印加する電圧量が下がるように電圧パルスのパルス間隔(休止時間)を変更する。これにより、断線に関連した加工条件の調整に対してオペレータの時間および労力を節約しながら断線が生じるリスクを抑えることができる。
【0039】
また、条件変更部74は、本実施の形態では、単位時間あたりに印加する電圧量が下がるように電圧パルスのパルス間隔(休止時間)を変更するとき、当該変更とともに、条件変更コードに示される割合に応じてワイヤ電極12の相対移動速度を下げる。これにより、単位時間あたりに印加する電圧量が下がることに起因して加工量が目標量よりも小さくなることを抑制することができる。特に、加工対象物Wの内部を切り込む場合などでは、切り込み量(溝幅)が目標量よりも狭くなることを抑制することができるため有用である。
【0040】
次に、ワイヤ放電加工方法に関し、図4を用いて制御装置18の加工制御処理を説明する。ステップS1において、駆動制御部70は、記憶部56に記憶される加工プログラムをロードする。駆動制御部70が加工プログラムをロードし終わると、加工制御処理はステップS2に移行する。
【0041】
ステップS2において、駆動制御部70は、加工プログラムおよび加工条件に基づいて、加工対象物Wの加工を開始する。すなわち、駆動制御部70は、加工プログラムおよび加工条件に基づいて、電源部50を通じて、加工対象物Wに対してワイヤ電極12を相対移動させ始める。また、駆動制御部70は、加工プログラムおよび加工条件に基づいて、駆動部54を通じて、ワイヤ電極12および加工対象物Wに対して周期ごとに電圧パルスを印加させ始める。駆動制御部70が加工対象物Wの加工を開始すると、加工制御処理はステップS3に移行する。
【0042】
ステップS3において、コード解析部72は、加工プログラムにおいて条件変更コードの有無を解析する。コード解析部72は、特定のコード番号(「M130」)を認識した場合、条件変更コードがあると判定する。この場合、加工制御処理はステップS4に移行する。一方、コード解析部72は、特定のコード番号(「M130」)を認識しなかった場合、条件変更コードがないと判定する。この場合、加工制御処理はステップS5に移行する。
【0043】
ステップS4において、条件変更部74は、条件変更コードに示される割合(「P6」)に応じて、記憶部56に記憶された加工条件を変更する。条件変更部74は、本実施の形態では、条件変更コードに示される割合に応じて、単位時間あたりに印加する電圧量が下がるように電圧パルスのパルス間隔(休止時間)を長くするとともに、当該割合に応じてワイヤ電極12の相対移動速度を下げる。条件変更部74が加工条件の変更を終了すると、加工制御処理はステップS5に移行する。
【0044】
ステップS5において、駆動制御部70は、加工対象物Wの加工を終了したか否かを判定する。駆動制御部70は、加工プログラムで指定される加工経路が残っている場合には、加工対象物Wの加工を終了していないと判定する。この場合、加工制御処理はステップS3に戻る。一方、駆動制御部70は、加工プログラムで指定される加工経路が残っていない場合には、加工対象物Wの加工を終了したと判定する。この場合、加工制御処理は終了する。
【0045】
[変形例]
(変形例1)
上記の実施の形態では、条件変更部74は、条件変更コードに示される割合に応じて、単位時間あたりに印加する電圧量が下がるように電圧パルスのパルス間隔(休止時間)を長くした。しかし、条件変更部74は、条件変更コードに示される割合に応じて、単位時間あたりに印加する電圧量が下がるように電圧パルスの電圧値を小さくしてもよい。
【0046】
また、条件変更部74は、条件変更コードに示される割合に応じて、単位時間あたりに印加する電圧量が下がるように電圧パルスのパルス間隔を長くし、かつ、電圧パルスの電圧値を小さくしてもよい。
【0047】
(変形例2)
上記の実施の形態では、条件変更部74は、条件変更コードに示される割合に応じて、単位時間あたりに印加する電圧量が下がるように加工条件を変更した。しかし、条件変更部74は、断線が低減されるように加工条件を変更すれば、単位時間あたりに印加する電圧量が下がるように加工条件を変更しなくてもよい。
【0048】
例えば、条件変更部74は、条件変更コードに示される割合に応じて、ワイヤ電極12の張力を大きくする。ワイヤ電極12の張力が大きくなっても単位時間あたりに印加する電圧量が下がらないが、断線が生じるリスクを抑制することができる。なお、ワイヤ電極12の張力は、トルクモータ26、42およびブレーキモータ30を制御することで変更可能である。
【0049】
(変形例3)
上記の実施の形態では、条件変更コードに示される割合として、100%以下の60%が例示された。しかし、割合は、60%以外の数値であってもよい。つまり、割合は100%を超えていてもよい。例えば、相対的に断線し難いワイヤ電極12が用いられている場合などでは、加工プログラムの条件変更コードに示される割合が100%を超える値で記述される。
【0050】
条件変更コードに示される割合が100%を超える場合、条件変更部74は、当該割合に応じて、単位時間あたりに印加する電圧量が上がるように電圧パルスのパルス間隔(休止時間)を短くすることになる。なお、条件変更部74は、変形例1のように単位時間あたりに印加する電圧量が上がるように電圧パルスの電圧値を大きくしてもよく、変形例2のようにワイヤ電極12の張力を小さくしてもよい。
【0051】
(変形例4)
上記の実施の形態では、条件変更部74は、条件変更コードに示される割合に応じて、電圧パルスのパルス間隔(休止時間)およびワイヤ電極12の相対移動速度の2種類の加工条件を変更した。しかし、条件変更部74は、1種類の加工条件だけを変更してもよく、3種類以上の加工条件を変更してもよい。
【0052】
(変形例5)
上記の実施の形態では、加工プログラムで指定される一連の加工経路に対して、当該加工プログラムの条件変更コードに示される割合に応じて変更した加工条件が適用された。しかし、加工プログラムで指定される一連の加工経路のうちの特定の区間に対して、当該加工プログラムのコードに示される割合に応じて変更した加工条件が適用されてもよい。
【0053】
加工プログラムでは、特定の区間を示す記述の前段に、加工条件を変更するコードのコード番号(「M130」)が記述され、特定の区間を示す記述の後段に、加工条件を変更前に戻す還元コードのコード番号が記述される。還元コードのコード番号として、例えば「M140」が割り当てられるものとする。
【0054】
本変形例では、コード解析部72は、条件変更コード、および、還元コードの有無を解析する(ステップS3)。還元コードの有無の解析は、条件変更コードの有無の解析と同様である。すなわち、駆動制御部70がロードした加工プログラムにおいて還元コードのコード番号(「M140」)を認識した場合には、還元コードがあると判定する。一方、コード解析部72は、還元コードのコード番号(「M140」)を認識しなかった場合、還元コードがないと判定する。
【0055】
本変形例では、条件変更部74は、条件変更コードだけがある場合には、上記の実施の形態で説明したように、条件変更コードに示される割合(「P6」)に応じて、記憶部56に記憶された加工条件を変更する(ステップS4)。したがって、加工プログラムで指定される一連の加工経路に対して、当該加工プログラムの条件変更コードに示される割合に応じて変更した加工条件が適用されることになる。
【0056】
一方、条件変更部74は、条件変更コードおよび還元コードがある場合には、当該条件変更コードから還元コードまでの区間で、記憶部56に記憶された加工条件を変更する。すなわち、条件変更部74は、加工条件を変更した後に駆動制御部70を監視し、還元コードよりも前段に記述される加工経路に対する加工制御処理を駆動制御部70が終了した時点を契機として、変更した加工条件を変更前に戻す。したがって、加工プログラムで指定される一連の加工経路のうちの特定の区間に対して、当該加工プログラムのコードに示される割合に応じて変更した加工条件が適用されることになる。
【0057】
このように本変形例では、条件変更部74は、条件変更コードおよび還元コードがある場合には、条件変更コードから還元コードまでの区間で加工条件を変更する。これにより、加工プログラムで指定される加工経路のうち、アプローチ区間などの特定の区間で断線が生じるリスクを抑えることができる。
【0058】
(変形例6)
上記の実施の形態および変形例は、矛盾の生じない範囲で任意に組み合わされてもよい。
【0059】
[実施の形態および変形例から得られる発明]
上記の実施の形態および変形例から把握しうる発明について、以下に記載する。
【0060】
(第1の発明)
第1の発明は、
加工対象物(W)とワイヤ電極(12)との極間に放電を発生させて加工対象物(W)を加工するワイヤ放電加工機(10)であって、
加工プログラムおよび加工条件に基づいて、加工対象物(W)に対してワイヤ電極(12)を相対移動させながら、加工対象物(W)およびワイヤ電極(12)に対して周期ごとに電圧パルスを印加させる駆動制御部(70)と、
加工プログラムにおいて、加工条件を変更する条件変更コードの有無を解析するコード解析部(72)と、
条件変更コードがある場合には、条件変更コードに示される割合に応じて加工条件を変更する条件変更部(74)と、
を備える。
【0061】
これにより、断線に関連した加工条件の調整に対してオペレータの時間および労力を節約することができ、簡易に加工条件を調整することができる。
【0062】
条件変更部(74)は、電圧パルスのパルス間隔および電圧パルスの電圧値の少なくとも一方を、単位時間あたりに印加する電圧量が下がるように変更してもよい。これにより、断線が生じるリスクを抑えることができる。
【0063】
条件変更部(74)は、上記の変更とともに、加工対象物(W)に対するワイヤ電極(12)の相対移動速度を下げてもよい。これにより、単位時間あたりに印加する電圧量が下がることに起因して加工量が目標量よりも小さくなることを抑制することができる。特に、加工対象物(W)の内部を切り込む場合などでは、切り込み量(溝幅)が目標量よりも狭くなることを抑制することができるため有用である。
【0064】
コード解析部(72)は、条件変更コード、および、変更された加工条件を変更前に戻す還元コードの有無を解析し、条件変更部(74)は、条件変更コードおよび還元コードがある場合には、条件変更コードから還元コードまでの区間で加工条件を変更してもよい。これにより、加工プログラムで指定される加工経路のうち、アプローチ区間などの特定の区間で断線が生じるリスクを抑えることができる。
【0065】
(第2の発明)
第2の発明は、
加工対象物(W)とワイヤ電極(12)との極間に放電を発生させて加工対象物(W)を加工するワイヤ放電加工方法であって、
加工プログラムおよび加工条件に基づいて、加工対象物(W)に対してワイヤ電極(12)を相対移動させながら、加工対象物(W)およびワイヤ電極(12)に対して周期ごとに電圧パルスを印加させる駆動制御ステップ(S2)と、
加工プログラムにおいて、加工条件を変更する条件変更コードの有無を解析するコード解析ステップ(S3)と、
条件変更コードがある場合には、条件変更コードに示される割合に応じて加工条件を変更する条件変更ステップ(S4)と、
を含む。
【0066】
これにより、断線に関連した加工条件の調整に対してオペレータの時間および労力を節約することができ、簡易に加工条件を調整することができる。
【0067】
条件変更ステップ(S4)は、電圧パルスのパルス間隔および電圧パルスの電圧値の少なくとも一方を、単位時間あたりに印加する電圧量が下がるように変更してもよい。これにより、断線が生じるリスクを抑えることができる。
【0068】
条件変更ステップ(S4)は、上記の変更とともに、加工対象物(W)に対するワイヤ電極(12)の相対移動速度を下げてもよい。これにより、単位時間あたりに印加する電圧量が下がることに起因して加工量が目標量よりも小さくなることを抑制することができる。特に、加工対象物(W)の内部を切り込む場合などでは、切り込み量(溝幅)が目標量よりも狭くなることを抑制することができるため有用である。
【0069】
コード解析ステップ(S3)は、条件変更コード、および、変更された加工条件を変更前に戻す還元コードの有無を解析し、条件変更ステップ(S4)は、条件変更コードおよび還元コードがある場合には、条件変更コードから還元コードまでの区間で加工条件を変更してもよい。これにより、加工プログラムで指定される加工経路のうち、アプローチ区間などの特定の区間で断線が生じるリスクを抑えることができる。
【0070】
なお、以上のワイヤ放電加工機(10)およびワイヤ放電加工方法は、上記の実施の形態および変形例に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0071】
10…ワイヤ放電加工機 12…ワイヤ電極
70…駆動制御部 72…コード解析部
74…条件変更部
図1
図2
図3
図4