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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】超音波検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/26 20060101AFI20221109BHJP
【FI】
G01N29/26
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019106752
(22)【出願日】2019-06-07
(65)【公開番号】P2020201065
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】大島 佑己
(72)【発明者】
【氏名】三木 将裕
(72)【発明者】
【氏名】江原 和也
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-128296(JP,A)
【文献】特開昭62-055556(JP,A)
【文献】特開昭54-141651(JP,A)
【文献】特開昭52-109955(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
G01B 17/00-17/08
H04R 17/00-17/10
A61B 8/00-8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一列に配置された複数の圧電素子を有するアレイ探触子と、
前記複数の圧電素子が被検体の表面に対し傾斜するように前記アレイ探触子を支持するウェッジと、
前記複数の圧電素子からの複数の超音波の送信タイミングを制御して、前記複数の超音波からなる合成波の伝播方向を可変するセクタ走査を実行する制御装置とを備え、
前記合成波が前記ウェッジを介し前記被検体の表面に入射して表面波にモード変換し、前記表面波が前記被検体の表面に沿って伝播する超音波検査装置において、
前記ウェッジは、前記合成波の伝播方向にかかわらず、前記被検体の表面に対する合成波の入射角が所定値となるように、前記圧電素子の配列方向に垂直な前記ウェッジの各断面における前記圧電素子側の一辺と前記被検体側の一辺との相対角が、前記圧電素子の配列方向における前記各断面の位置に応じて変化することを特徴とする超音波検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波検査装置において、
前記ウェッジは、前記圧電素子の配列方向に垂直かつ前記複数の圧電素子の中心に位置する基準断面における前記圧電素子側の一辺と前記被検体側の一辺との相対角が、ゼロであって、前記圧電素子の配列方向に垂直かつ前記基準断面とは異なる他の断面における前記圧電素子側の一辺と前記被検体側の一辺との相対角が、前記基準断面から前記他の断面までの距離が大きくなるほど、大きくなることを特徴とする超音波検査装置。
【請求項3】
請求項1に記載の超音波検査装置において、
前記ウェッジと前記被検体の表面の間は液体で満たされたことを特徴とする超音波検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面波を用いて被検体の表層の探傷を行う超音波検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波を用いて被検体の探傷を行う超音波検査装置が知られている。超音波には、被検体の体積中を伝播する体積波(縦波、横波)以外に、被検体の表面に沿って伝播する表面波(レイリー波)がある。表面波は、被検体の表面が曲面である場合も、被検体の表面に沿って伝播するものであり、その音速は横波音速の90%程度である。
【0003】
非特許文献1は、表面波を用いて被検体の表層の探傷を行う超音波検査装置を開示する。非特許文献1の超音波検査装置は、一列に配置された複数の圧電素子を有するアレイ探触子と、複数の圧電素子が被検体の表面に対し傾斜するようにアレイ探触子を支持するウェッジと、複数の圧電素子からの複数の超音波の送信タイミングを制御して、複数の超音波からなる合成波の伝播方向を可変するセクタ走査を実行する制御装置とを備える。
【0004】
この超音波検査装置では、合成波がウェッジを介し被検体の表面に入射して表面波にモード変換し、表面波が被検体の表面に沿って伝播する。被検体の表層にきずが存在する場合、きずで反射された反射波がウェッジを介しアレイ探触子で受信される。これにより、被検体の表層のきずを検出する。セクタ走査を実行することにより、探触子を移動させる機械走査を実行する場合と比べ、短時間で広範囲の探傷を行うことができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】小原良和、他1名、日本材料学会高温強度部門委員会資料、「表面波を用いた超音波非破壊計測」、[online]、東北大学、[2019年5月24日検索]、インターネット<URL:http://www.material.tohoku.ac.jp/~hyoka/nonlinear04.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術では、合成波の伝播方向に応じて、被検体の表面に対する合成波の入射角が変化する。合成波の伝播方向によっては、合成波の入射角が表面波の臨界角から大きく離れるため、表面波の強度が低減し、検出感度が低減する。また、表面波の強度がばらつくため、検出感度がばらつく。
【0007】
本発明は、上記事柄に鑑みてなされたものであり、その目的は、短時間で広範囲の探傷を行うことができ、且つ、検出感度の向上を図ることができる超音波検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、一列に配置された複数の圧電素子を有するアレイ探触子と、前記複数の圧電素子が被検体の表面に対し傾斜するように前記アレイ探触子を支持するウェッジと、前記複数の圧電素子からの複数の超音波の送信タイミングを制御して、前記複数の超音波からなる合成波の伝播方向を可変するセクタ走査を実行する制御装置とを備え、前記合成波が前記ウェッジを介し前記被検体の表面に入射して表面波にモード変換し、前記表面波が前記被検体の表面に沿って伝播する超音波検査装置において、前記ウェッジは、前記合成波の伝播方向にかかわらず、前記被検体の表面に対する合成波の入射角が所定値となるように、前記圧電素子の配列方向に垂直な前記ウェッジの各断面における前記圧電素子側の一辺と前記被検体側の一辺との相対角が、前記圧電素子の配列方向における前記各断面の位置に応じて変化する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、短時間で広範囲の探傷を行うことができ、且つ、検出感度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態における超音波検査装置の構成を表す図である。
図2】本発明の一実施形態における表示装置の表示画面の一例を表す図である。
図3】本発明の一実施形態における表示装置の表示画面の他の例を表す図である。
図4】本発明の一実施形態におけるウェッジの構造を表す上面図である。
図5】本発明の一実施形態におけるウェッジの構造を表す断面図である。
図6】本発明の一実施形態におけるウェッジの構造を表す断面図である。
図7】従来技術におけるアレイ探触子及びウェッジの配置を表すと共に、被検体の表面に入射する合成波の入射点を示す平面図である。
図8】従来技術において圧電素子の法線方向に伝播して被検体の表面に入射する合成波の入射角を示す断面図である。
図9】従来技術において圧電素子の法線方向に対し傾斜した方向に伝播して被検体の表面に入射する合成波の入射角を示す断面図である。
図10】本発明の一実施形態におけるアレイ探触子及びウェッジの配置を表すと共に、被検体の表面に入射する合成波の入射点を示す平面図である。
図11】本発明の一実施形態において圧電素子の法線方向に伝播して被検体の表面に入射する合成波の入射角を示す断面図である。
図12】本発明の一実施形態において圧電素子の法線方向に対し傾斜した方向に伝播して被検体の表面に入射する合成波の入射角を示す断面図である。
図13】本発明の一実施形態におけるウェッジ及び液体中の合成波伝播方向ベクトル並びに被検体中の表面波の伝播方向ベクトルを表す斜視図である。
図14】本発明の一実施形態における合成波の出射点の位置によるウェッジの底面の法線ベクトルを、ウェッジ及び液体中の合成波の伝播方向ベクトルと共に表す断面図である。
図15】本発明の一実施形態におけるウェッジの各断面の位置と各断面における上辺と下辺との相対角との関係の具体例を表す図である。
図16】本発明の一実施形態におけるウェッジ中の合成波の伝播方位角と被検体中の表面波の伝播方位角との関係の具体例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0012】
図1は、本実施形態における超音波検査装置の構成を表す図である。
【0013】
本実施形態の超音波検査装置は、表面波を用いて被検体20(詳細には、例えば鋼材などの固体)の表層の探傷を行うものである。この超音波検査装置は、一列に配置された複数の圧電素子1を有するアレイ探触子2と、複数の圧電素子1が被検体20の表面に対し傾斜するようにアレイ探触子2を支持するウェッジ3と、制御装置4と、計算機5と、表示装置6とを備えている。計算機5は、コンピュータ等で構成され、表示装置6は、ディスプレイ等で構成されている。
【0014】
複数の圧電素子1は、後述する制御装置4のパルサ7からの複数の駆動信号によって発振し、複数の超音波を送信し、それらが合成されて合成波となる。この合成波がウェッジ3を介し被検体20の表面に入射して表面波にモード変換し、表面波が被検体20の表面に沿って伝播する。なお、ウェッジ3は、例えばアクリル、ポリスチレン、又はポリイミドなどの樹脂材で形成され、ウェッジ3と被検体20の表面の間は、例えば水などの液体で満たされている。
【0015】
図1で示すように被検体20の表層にきず21が存在する場合、きず21で反射された反射波がウェッジ3を介し圧電素子1で受信される。圧電素子1は、受信した反射波を波形信号に変換し、後述する制御装置4のレシーバ8へ出力する。
【0016】
制御装置4は、パルサ7、レシーバ8、遅延制御部9、及びデータ収録部10を有している。遅延制御部9は、プログラムに従って処理を実行するプロセッサ等で構成され、データ収録部10は、メモリ等で構成されている。遅延制御部9は、計算機5からの指令に応じて、合成波の伝播方向に対応する遅延パターンをパルサ7及びレシーバ8へ出力する。
【0017】
パルサ7は、遅延パターンに基づき、複数の圧電素子1へそれぞれ出力する複数の駆動信号の出力タイミングを制御する。これにより、合成波の伝播方向を可変するセクタ走査を実行する。
【0018】
レシーバ8は、遅延パターンに基づき、圧電素子1からの波形信号の入力タイミングを調整すると共に、波形信号を合成する。これにより、合成波の伝播方向に対応するように反射波の伝播方向を調整する。
【0019】
レシーバで合成された波形信号は、アナログ-デジタル変換器(図示せず)で波形データに変換されて、データ収録部10で収録される。データ収録部10は、遅延パターン(又はこれに対応する合成波及び表面波の伝播方向の情報)と関連付けて、波形データを収録する。波形データは、受信時間と信号強度の組合せからなる。
【0020】
計算機5は、データ収録部10で収録された波形データとこれに対応する合成波及び表面波の伝播方向の情報に基づいて、探傷画像を作成する。詳細には、合成波及び表面波の伝播方向の情報と受信時間に基づいて反射位置を仮想し、この反射位置に応じて画素の位置を選択すると共に、信号強度に応じて画素の色相、彩度、又は明度を可変して、探傷画像を作成する。
【0021】
表示装置6は、例えば図2で示すように、データ収録部10で収録された波形データを表示する。これにより、検査員がきずの有無や位置を評価することが可能である。また、表示装置6は、例えば図3で示すように、計算機5で作成された探傷画像を表示する。これにより、検査員がきずの寸法や性状を評価することが可能である。
【0022】
本実施形態では、セクタ走査(すなわち、電子走査)を実行することにより、探触子を移動させる機械走査を実行する場合と比べ、短時間で広範囲の探傷を行うことができる。すなわち、アレイ探触子2を移動させなくとも、例えば図1で示す検査範囲22を探傷することができる。
【0023】
ここで、本実施形態においては、複数の圧電素子1の中心を合成波の仮想起点P(後述の図4図5(a)、及び図6参照)とし、この合成波の仮想起点Pを通って圧電素子1の配列方向に延在する軸をX軸(後述の図4及び図6参照)と定義する。合成波の仮想起点Pを通って圧電素子1の法線方向に延在する軸をZ軸(後述の図5(a)及び図6参照)と定義する。セクタ走査とは、ウェッジ3中の合成波の伝播方向を走査面(X-Z平面)に沿って可変するものであり、走査面に垂直な軸をY軸(後述の図4及び図5(a)参照)と定義する。
【0024】
また、被検体20の表面とZ軸が交わる交点を原点O(図1及び後述の図13参照)と定義する。被検体20の表面上で原点Oを通って圧電素子1の配列方向に平行な軸をX軸(図1及び後述の図13参照)と定義する。被検体20の表面上で原点Oを通って圧電素子1の配列方向(言い換えれば、X軸)に垂直な軸をY軸(図1及び後述の図13参照)と定義する。原点Oを通って被検体20の表面(言い換えれば、X-Y平面)に垂直な軸をZ軸(図1及び後述の図13参照)と定義する。
【0025】
次に、本実施形態の要部であるウェッジ3の構造を説明する。
【0026】
図4は、本実施形態におけるウェッジ3の構造を表す上面図である。図5(a)、図5(b)、図5(c)、及び図6は、本実施形態におけるウェッジ3の構造を表す断面図である。図5(a)は、図4中断面A-Aによる断面図、図5(b)は、図4中断面B-Bによる断面図、図5(c)は、図4中断面C-Cによる断面図、図6は、図4中断面D-Dによる断面図である。
【0027】
本実施形態のウェッジ3は、アレイ探触子2を支持する平面(以降、適宜、上面という)と、その反対側(すなわち、被検体20側)に形成された特殊な曲面(以降、適宜、底面という)とを有しており、圧電素子1の配列方向(言い換えれば、X軸)に垂直な各断面における圧電素子1側の一辺(以降、適宜、上辺という)と被検体20側の一辺(以降、適宜、底辺という)との相対角が、圧電素子1の配列方向における各断面の位置に応じて変化する。
【0028】
詳しく説明すると、圧電素子1の配列方向に垂直なウェッジ3の断面のうち、複数の圧電素子1の中心(言い換えれば、X=0)に位置する断面を基準断面と定義すれば、本実施形態では、図5(a)で示すように、基準断面における上辺Eと底辺Fとの相対角βは、ゼロである。
【0029】
また、圧電素子1の配列方向に垂直なウェッジ3の断面のうち、基準断面とは異なる断面を他の断面と定義すれば、本実施形態では、他の断面における上辺と底辺との相対角は、基準断面から他の断面までの距離(言い換えれば、X座標の絶対値)が大きくなるほど、大きくなる。すなわち、図5(b)で示す他の断面における上辺Eと底辺Fとの相対角βは、相対角βより大きい。図5(c)で示す他の断面における上辺Eと底辺Fとの相対角βは、相対角βより大きい。なお、ウェッジ3の断面の上辺と底辺との相対角が大きくなることは、ウェッジ3の断面の下辺と被検体20の表面との相対角が小さくなることを意味する。
【0030】
なお、ウェッジ3は、基準断面を中心として線対称な構造となっている。また、図6で示すように、X軸及びZ軸を含むウェッジ3の断面において、ウェッジ3の厚みd(以降、基準厚みという)が一定である。
【0031】
本実施形態では、上述したウェッジ3の構造により、合成波の伝播方向にかかわらず、被検体20の表面に対する合成波の入射角γが所定値(詳細には、表面波の臨界角γが好ましいものの、表面波の臨界角γ±合成波の指向角の範囲内で設定された所定値でもよい)となる。これにより、検出感度の向上を図ることができる。この作用効果を、非特許文献1に記載の従来技術と比較しながら説明する。
【0032】
図7は、従来技術におけるアレイ探触子2及びウェッジ100の配置を表すと共に、被検体20の表面に入射する合成波の入射点を示す平面図である。図8は、図7中断面VIII-VIIIによる断面図であって、圧電素子1の法線方向(言い換えれば、Z方向)に伝播して被検体20の表面に入射する合成波の入射角を示す。図9は、図7中断面IX-IXによる断面図であって、圧電素子1の法線方向に対し傾斜した方向に伝播して被検体20の表面に入射する合成波の入射角を示す。図10は、本実施形態におけるアレイ探触子2及びウェッジ3の配置を表すと共に、被検体20の表面に入射する合成波の入射点を示す平面図である。図11は、図10中断面XI-XIによる断面図であって、圧電素子1の法線方向に伝播して被検体20の表面に入射する合成波の入射角を示す。図12は、図10中断面XII-XIIによる断面図であって、圧電素子1の法線方向に対し傾斜した方向に伝播して被検体20の表面に入射する合成波の入射角を示す。なお、図7及び図10においては、便宜上、圧電素子1の図示を省略している。また、図9及び図12においては、便宜上、圧電素子1、アレイ探触子2、及びウェッジ3の図示を省略している。また、図12においては、便宜上、合成波の仮想起点P及びウェッジ3中の合成波を断面に投影したものを示す。
【0033】
従来技術では、ウェッジ100は、圧電素子1が被検体20の表面に対し傾斜角αで傾斜するようにアレイ探触子2を支持する平面(上面)と、その反対側に形成された平面(底面)とを有している。そして、圧電素子1の配列方向(言い換えれば、X軸)に垂直なウェッジ100の各断面における圧電素子1側の一辺(上辺)と被検体20側の一辺(下辺)との相対角が、圧電素子1の配列方向における各断面の位置にかかわらず、同じである。また、ウェッジ100の底面は、被検体20の表面に接触している。そのため、図7で示すように、被検体20の表面に対する合成波の入射点G,Gは、被検体20の表面(X-Y平面)と走査面(X-Z平面)が交わる直線(X軸)上に位置する。
【0034】
従来技術では、図8で示すように、合成波の伝播方向が圧電素子1の法線方向である場合、被検体20の表面に対する合成波の入射角γは、上述した傾斜角αと等しくなる。合成波の入射角γが表面波の臨界角γであれば、表面波の強度を高めることができる。
【0035】
しかし、図9で示すように、合成波の伝播方向が圧電素子1の法線方向に対し傾斜した方向である場合、被検体20の表面に対する合成波の入射角γは、入射角γより大きくなる。これは、被検体20の表面に垂直な方向におけるウェッジ100中の合成波の伝播距離が前者の場合と同じであるものの、被検体20の表面に平行な方向におけるウェッジ100中の合成波の伝播距離が前者の場合より長くなるからである(図示のように、I>I)。そして、合成波の伝播方向によっては、合成波の入射角γが表面波の臨界角γから大きく離れるため、表面波の強度が低減し、検出感度が低減する。また、表面波の強度がばらつくため、検出感度がばらつく。
【0036】
これに対し、本実施形態では、ウェッジ3は、圧電素子1が被検体20の表面に対し傾斜角αで傾斜するようにアレイ探触子2を支持する平面(上面)と、その反対側に形成された特殊な曲面(底面)とを有している。そして、圧電素子1の配列方向に垂直なウェッジ100の各断面における圧電素子1側の一辺(上辺)と被検体20側の一辺(下辺)との相対角が、圧電素子1の配列方向における各断面の位置に応じて変化する。また、ウェッジ3の底面と被検体20の表面の間は、液体で満たされている。そのため、図10で示すように、被検体20の表面に対する合成波の入射点G,Gは、被検体20の表面(X-Y平面)と走査面(X-Z平面)が交わる直線(X軸)上でなく、円弧上に位置する。
【0037】
本実施形態では、ウェッジ3の基準断面における上辺と底辺との相対角は、ゼロである。それ故、図11で示すように、合成波の伝播方向が圧電素子1の法線方向である場合、合成波は、ウェッジ3の底面の出射点Hから出射する際に屈折されない。そして、被検体20の表面に対する合成波の入射角γは、傾斜角αと等しくなる。合成波の入射角γが表面波の臨界角であれば、表面波の強度を高めることができる。
【0038】
一方、ウェッジ3の他の断面における上辺と底辺との相対角は、基準断面から他の断面までの距離が大きくなるほど、大きくなっている。それ故、図12で示すように、合成波の伝播方向が圧電素子1の法線方向に対し傾斜した方向である場合、合成波は、ウェッジ3の底面の出射点Hから出射する際に、ウェッジ3の底面の形状の影響を受けて、走査面(X-Z平面)から外れるように屈折される。そして、被検体20の表面に対する合成波の入射角γは、入射角γと等しくなる。これは、被検体20の表面に垂直な方向における液体中の合成波の伝播距離だけでなく、被検体20の表面に平行な方向における液体中の合成波の伝播距離も前者の場合と等しくなるからである(図示のように、I=I)。そして、合成波の伝播方向にかかわらず、合成波の入射角が所定値(本実施形態では、傾斜角αと同じであって、例えば表面波の臨界角)となるため、表面波の強度を高めることができる。また、表面波の強度のばらつきを抑えることができる。したがって、検出感度の向上を図ることができる。
【0039】
次に、本実施形態の角度パラメータの具体例について説明する。
【0040】
上述した通り、本実施形態のウェッジ3の上面の傾斜角α(言い換えれば、ウェッジ3の各断面の上辺の傾斜角α)は、被検体20の表面に対する合成波の入射角γと同じである。そのため、傾斜角αは、下記の式(1)で計算される表面波の臨界角γに設定することが好ましい。式中のCは液体中の縦波音速、Cは被検体20中の表面波音速である。例えばウェッジ3と被検体20の表面の間の液体が水であれば、液体中の縦波音速Cは1.48km/sである。例えば被検体20が鋼材であれば、被検体20中の横波音速が3.23km/sであり、表面波音速が横波音速の約0.9倍であるから、被検体20中の表面波音速Cは2.91km/sである。この場合、表面波の臨界角γは30.6度となる。したがって、傾斜角αは、30.6度に設定することが好ましい。
γ=sin-1(C/C) ・・・(1)
【0041】
アレイ探触子2から被検体20の表面に向かって伝播する合成波は、空間的に広がるため、指向角(広がり角)を有する。そのため、被検体20の表面に対する合成波の入射角γは、表面波の臨界角γ±合成波の指向角の範囲内で設定された所定値でもよい。したがって、傾斜角αは、約28度~約33度の範囲内で設定された所定値に設定してもよい。
【0042】
ウェッジ3の各断面の上辺と底辺との相対角βについて、図13及び図14を用いて説明する。図13は、本実施形態におけるウェッジ3中の合成波の伝播方向ベクトルr、液体中の合成波の伝播方向ベクトルr、及び被検体20中の表面波の伝播方向ベクトルrを表す斜視図である。図14は、図13中断面XIV-XIV(詳細には、ウェッジ3の底面から出射する合成波の出射点Hを含み且つX軸に垂直な断面)による断面図であって、合成波の出射点Hの位置によるウェッジ3の底面の法線ベクトルnを、ウェッジ3中の合成波の伝播方向ベクトルr及び液体中の合成波の伝播方向ベクトルrと共に表す。なお、図14においては、便宜上、合成波の伝播方向ベクトルr、rを断面に投影したものを示す。また、各ベクトルは、長さが1である単位ベクトルである。
【0043】
被検体20中の表面波の伝播方向ベクトルrは、被検体20の表面の入射点Gを起点としたベクトルであり、X-Y平面(被検体20の表面)に存在する。被検体20中の表面波の伝播方位角ρは、Y軸に対する表面波の伝播方向ベクトルrの角度である。
【0044】
ウェッジ3中の合成波の伝播方向ベクトルrは、合成波の仮想起点Pを起点としたベクトルであり、X-Z平面(走査面)に存在する。ウェッジ3中の合成波の伝播方位角φは、Z軸に対する合成波の伝播方向ベクトルrの角度である。
【0045】
ウェッジ3の底面の出射点Hは、X軸に平行な直線(Z=d)に存在する。液体中の合成波の伝播方向ベクトルrは、ウェッジ3の底面の出射点Hを起点としたベクトルであり、下記記の式(2)(詳細には、スネルの法則を3次元に拡張した光線屈折式)で与えられる関係を満たす。式中のCは、ウェッジ3中の縦波音速である。
×r=(C/C)・(n×r) ・・・(2)
【0046】
上記の式(2)を変形すると、ウェッジ3中の合成波の伝播方位角φ、ウェッジ3の断面の上辺と底辺との相対角β、ウェッジ3の基準厚さd、ウェッジ3中の縦波音速C、液体中の縦波音速Cを変数として、液体中の合成波の伝播方向ベクトルrのX方向成分rLx、Y方向成分rLy、及びZ方向成分rLzを計算する、下記の式(3)を導き出せる。式中のTは、転置記号である。
(φ,β,d,C,C)=(rLx,rLy,rLz ・・・(3)
【0047】
一方、被検体20の表面に対する合成波の入射角γは、液体中の合成波の伝播方向ベクトルrのZ方向成分rLzから計算することが可能である(下記の式(4)参照)。
γ=cos-1(rLz) ・・・(4)
【0048】
したがって、上記の式(3)及び式(4)を用いて、被検体20の表面に対する合成波の入射角γが所定値(本実施形態では、傾斜角αと同じであり、表面波の臨界角γが好ましいものの、表面波の臨界角γ±合成波の指向角の範囲内で設定された所定値でもよい)となるように、ウェッジ3の各断面の上辺と底辺との相対角βを計算することが可能である。これにより、ウェッジ3の各断面の位置と各断面における上辺と底辺との相対角βとの関係を取得する。その具体例(但し、便宜上、X軸の正側のみ)を、図15に示す。この具体例では、ウェッジ3がアクリルで形成されており、ウェッジ3と被検体20の表面の間の液体が水であり、被検体20が鋼材である。そして、合成波の入射角γは表面波の臨界角γであって30.6度であり、ウェッジ3中の縦波音速Cは2.73km/sであり、液体中の縦波音速Cは1.48km/sであり、ウェッジ3の基準厚さdは20mmである。
【0049】
下記の式(5)で示すように、被検体20中の表面波の伝播方位角ρは、液体中の合成波の伝播方向ベクトルrのX方向成分rLx及びY方向成分rLyから計算することが可能である。これにより、ウェッジ3中の合成波の伝播方位角φと被検体20中の表面波の伝播方位角との関係を取得する。その具体例を、図16に示す(但し、条件は、上記と同じである)。この情報は、探傷画像の作成に利用される。
ρ=tan-1(rLx/rLy) ・・・(5)
【符号の説明】
【0050】
1 圧電素子
2 アレイ探触子
3 ウェッジ
4 制御装置
20 被検体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図15
図16