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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】診断支援装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20221109BHJP
【FI】
G01M99/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019147167
(22)【出願日】2019-08-09
(65)【公開番号】P2021028578
(43)【公開日】2021-02-25
【審査請求日】2021-12-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】山口 和幸
(72)【発明者】
【氏名】吉田 豊美
(72)【発明者】
【氏名】井村 真
(72)【発明者】
【氏名】矢畑 清志
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-230584(JP,A)
【文献】特開2007-064852(JP,A)
【文献】特開2013-123495(JP,A)
【文献】特開2011-232871(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/090098(US,A1)
【文献】国際公開第2018/190216(WO,A1)
【文献】国際公開第1989/012852(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0199626(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器の振動の原因を推定するための事象データを提示する診断支援装置であって、
ピーク周波数とその成分名称との関係を格納する成分名称データベースと、
ピーク振幅の状態とその表現との関係を格納する表現データベースと、
ピーク周波数の成分名称、ピーク振幅の状態の表現、及び振動の原因を含む複数の事象データを格納する事象データベースとを有し、
前記機器に取り付けられた振動センサで得られた振動波形から周波数スペクトルを演算し、前記周波数スペクトルにおけるピーク周波数とピーク振幅との組み合わせを抽出する第1の処理と、
前記成分名称データベース及び前記表現データベースに格納された関係を用いて、前記第1の処理で得られたピーク周波数とピーク振幅の状態との組み合わせから、ピーク周波数の成分名称とピーク振幅の状態の表現との組み合わせからなるキーワードを作成する第2の処理と、
前記事象データベースに格納された複数の事象データのうち、前記第2の処理で得られたキーワードと同義の言葉を含む事象データを抽出して表示器に表示させる第3の処理を実行することを特徴とする診断支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の診断支援装置において、
前記成分名称データベースは、前記機器の実回転周波数、制御回転周波数、電源周波数、及び固有振動数のうちのいずれかとの相対関係に基づいて設定されたピーク周波数の成分名称を格納することを特徴とする診断支援装置。
【請求項3】
請求項1に記載の診断支援装置において、
前記第1の処理は、周波数スペクトルにおけるピーク周波数とピーク振幅との組み合わせを複数抽出し、
前記表現データベースは、他のピーク振幅との相対関係に基づいて設定されたピーク振幅の状態の表現を格納することを特徴とする診断支援装置。
【請求項4】
請求項1に記載の診断支援装置において、
前記表現データベースは、ピーク振幅の時間変化の状態とその表現との関係を格納することを特徴とする診断支援装置。
【請求項5】
請求項1に記載の診断支援装置において、
前記事象データベースに格納された複数の事象データは、前記機器の作動流体の圧力及び温度のうちの少なくとも一方の状態の表現を更に含み、
前記表現データベースは、前記機器の作動流体の圧力及び温度のうちの少なくとも一方の状態とその表現との関係を更に格納し、
前記第2の処理は、前記成分名称データベース及び前記表現データベースに格納された関係を用いて、ピーク周波数とピーク振幅と前記機器の作動流体の圧力及び温度のうちの少なくとも一方との組み合わせから、ピーク周波数の成分名称とピーク振幅の状態の表現と前記機器の作動流体の圧力及び温度のうちの少なくとも一方の状態の表現との組み合わせからなるキーワードを作成することを特徴とする診断支援装置。
【請求項6】
請求項1に記載の診断支援装置において、
前記第1の処理は、周波数スペクトルにおけるピーク周波数とピーク振幅との組み合わせを複数抽出し、
前記第2の処理は、複数組のピーク周波数とピーク振幅にそれぞれ対応する複数のキーワードを作成し、
前記第3の処理は、キーワードを用いて抽出された事象データが所定の件数以下となるように、対応するピーク振幅が大きい順にキーワードを増やしながら、事象データを抽出することを特徴とする診断支援装置。
【請求項7】
請求項1に記載の診断支援装置において、
前記事象データベースに格納された複数の事象データは、ピーク振幅の状態を更に含んでおり、
前記複数の事象データに含まれたピーク振幅の状態とその表現との関係を抽出して、前記表現データベースに格納する第4の処理を実行することを特徴とする診断支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器の振動の原因を推定するための事象データを提示する診断支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、回転部品を備えた機械設備に用いられる異常診断装置を開示する。この異常診断装置は、機械設備に取り付けられた振動センサと、振動センサの計測結果に基づいて回転部品の異常の有無の判定及び異常部位の特定を行う信号処理部とを備える。
【0003】
信号処理部は、振動センサで得られた振動波形から周波数スペクトルを演算する。また、回転部品の回転速度などに基づいて、回転部品の異常に起因して発生する振動の周波数帯域を求める。そして、周波数スペクトルから、前述した周波数帯域における振幅レベルを抽出して、基準値と比較する。この比較結果に基づき、異常の有無の判定及び異常部位の特定を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2006/030786号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法により、機器の振動の原因を正確に推定することは、容易でない。何故なら、機器の個体差によって基準値が変わるからである。そのため、サービスマンが、複数の事象データ(詳細には、周波数帯域、その振幅の状態、及び振動の原因を含むデータ)を利用しながら、周波数スペクトルを診断して振動の原因を推定することが考えられる。この方法は、機器の振動の原因をロバストかつ正確に推定することが可能である。しかしながら、事象データの利用にあたってはサービスマンの経験や技量に頼るため、機器の振動の原因を推定することが容易でない。
【0006】
本発明は、上記事柄に鑑みてなされたものであり、その目的は、定性的な状態表現を利用して機器の振動の原因を容易に推定することができる診断支援装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、機器の振動の原因を推定するための事象データを提示する診断支援装置であって、ピーク周波数とその成分名称との関係を格納する成分名称データベースと、ピーク振幅の状態とその表現との関係を格納する表現データベースと、ピーク周波数の成分名称、ピーク振幅の状態の表現、及び振動の原因を含む複数の事象データを格納する事象データベースとを有し、前記機器に取り付けられた振動センサで得られた振動波形から周波数スペクトルを演算し、前記周波数スペクトルにおけるピーク周波数とピーク振幅との組み合わせを抽出する第1の処理と、前記成分名称データベース及び前記表現データベースに格納された関係を用いて、前記第1の処理で得られたピーク周波数とピーク振幅の状態との組み合わせから、ピーク周波数の成分名称とピーク振幅の状態の表現との組み合わせからなるキーワードを作成する第2の処理と、前記事象データベースに格納された複数の事象データのうち、前記第2の処理で得られたキーワードと同義の言葉を含む事象データを抽出して表示器に表示させる第3の処理を実行する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、定性的な状態表現を利用して機器の振動の原因を容易に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態における診断支援装置の構成を表すブロック図である。
図2】本発明の一実施形態における成分名称データベースを説明するための図である。
図3】本発明の一実施形態における表現データベースを説明するための図である。
図4】本発明の一変形例における表現データベースを説明するための図である。
図5】本発明の他の変形例における診断支援装置の構成を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0011】
図1は、本実施形態における診断支援装置の構成を表すブロック図である。
【0012】
本実施形態の診断支援装置1は、機器100(詳細には、例えば、遠心圧縮機又は風車などの回転機械)の振動の原因を推定するための事象データを提示するものであって、例えば、AD変換器2、分析装置3、及び表示器4を備える。
【0013】
機器100には、振動センサ101(詳細には、例えば振動変位又は振動加速度を検出するセンサ)が取り付けられている。振動センサ101は、機器100の振動を計測し、その計測信号(アナログ信号)を診断支援装置1へ出力する。診断支援装置1のAD変換器2は、振動センサ101からのアナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0014】
分析装置3は、プログラムに従って処理を実行するプロセッサや、プログラム及びデータベースを保存するメモリ又はハードディスク等を備える。分析装置3は、機能的構成として、成分名称データベース5、表現データベース6、事象データベース7、周波数分析部8、キーワード作成部9、及び事象データ抽出部10を有する。
【0015】
周波数分析部8は、FFT(高速フーリエ変換)により、振動センサ101で得られた振動波形から周波数スペクトルを演算し、周波数スペクトルにおけるピーク周波数とピーク振幅の組み合わせを複数抽出する。周波数スペクトルとは、横軸が周波数、縦軸が振幅からなるデータである。ピーク周波数とは、振幅の極大値を有する周波数であり、ピーク振幅とは、振幅の極大値である。
【0016】
成分名称データベース5は、ピーク周波数とその成分名称との関係を格納する。例えば図2で示すように、機器100の実回転周波数、制御回転周波数、電源周波数、又は固有振動数との相対関係に基づいて設定されたピーク周波数の成分名称を格納する。
【0017】
具体例を説明すると、ピーク周波数が実回転周波数frと同じであれば、ピーク周波数の成分名称は「回転周波数成分」である。ピーク周波数が実回転周波数frの整数n倍であれば、ピーク周波数の成分名称は「回転n次高調波周波数成分」である。ピーク周波数が実回転周波数frの1/nの約数であれば、ピーク周波数の成分名称は「回転1/n次分数調波周波数成分」である。ピーク周波数が実回転周波数frの軸受特徴次数倍であれば、ピーク周波数の成分名称は「軸受特徴周波数成分」である。ピーク周波数が実回転周波数frのギア歯数倍であれば、ピーク周波数の成分名称は「ギアメッシュ周波数成分」である。ピーク周波数が実回転周波数frの翼枚数倍であれば、ピーク周波数の成分名称は「翼通過周波数成分」である。ピーク周波数が実回転周波数frより低ければ、ピーク周波数の成分名称は「低周波数成分」である。
【0018】
ピーク周波数が制御回転周波数fcと同じであれば、ピーク周波数の成分名称は「制御回転周波数成分」である。ピーク周波数が制御回転周波数fcの整数n倍であれば、ピーク周波数の成分名称は「制御回転n次高調波周波数成分」である。ピーク周波数が電源周波数feと同じであれば、ピーク周波数の成分名称は「電源周波数成分」である。ピーク周波数が電源周波数feの整数n倍であれば、ピーク周波数の成分名称は「電源n次高調波周波数成分」である。ピーク周波数が固有振動数fnと同じであれば、ピーク周波数の成分名称は「固有振動数成分」である。なお、各成分名称は、類義語を追加してもよい。
【0019】
キーワード作成部9は、例えば、回転速度センサ(図示せず)から機器100の実回転周波数frを入力し、インバータ(図示せず)から機器100の制御回転周波数fcを入力する。また、例えば、キーボード等の入力装置で予め入力された機器100の電源周波数fe、固有振動数fn、軸受特徴次数、ギア歯数、及び翼枚数を記憶している。そして、成分名称データベース5に格納された関係を用いて、周波数分析部8で抽出されたピーク周波数に対応する成分名称を取得する。
【0020】
表現データベース6は、ピーク振幅の状態とその表現との関係を格納する。例えば図3で示すように、他のピーク振幅との相対関係に基づいて設定されたピーク振幅の状態の表現を格納する。具体例を説明すると、ピーク振幅が他のピーク振幅(詳細には、他のピーク振幅のうちの最大値。以降、同様)の2倍以上であれば、ピーク振幅の状態の表現は「卓越」である。ピーク振幅が他のピーク振幅の2倍未満、1/10以上であれば、ピーク振幅の状態の表現は「発生」である。ピーク振幅が他のピーク振幅の1/10未満であれば、ピーク振幅の状態の表現は「僅かに発生」である。
【0021】
また、表現データベース6は、例えば図3で示すように、ピーク振幅の時間変化の状態とその表現との関係を格納する。具体例を説明すると、ピーク振幅の増加率が1秒間で1.1倍以上であれば、ピーク振幅の状態の表現は「急激に増加」である。ピーク振幅の減少率が1秒間で1.1倍以上であれば、ピーク振幅の状態の表現は「急激に減少」である。ピーク振幅の増加率が10日間で1.005倍以上、1.01倍以下であれば、ピーク振幅の状態の表現は「微増」である。ピーク振幅の減少率が10日間で1.005倍以上、1.01倍以下であれば、ピーク振幅の状態の表現は「微減」である。ピーク振幅の増加と減少の繰り返しが1分間で4回以上であれば、ピーク振幅の状態の表現は「変動」である。なお、各表現は、類義語を追加してもよい。
【0022】
キーワード作成部9は、周波数分析部8で抽出されたピーク振幅に対してその状態を判定し、表現データベース6に格納された関係を用いて、ピーク振幅の状態に対応する表現を取得する。そして、周波数分析部8で抽出されたピーク周波数とピーク振幅との組み合わせに対応して、ピーク周波数の成分名称とピーク振幅の状態の表現との組み合わせからなるキーワードを作成する。例えば、ピーク周波数の成分名称が「回転周波数成分」、ピーク振幅の状態の表現が「卓越」であれば、キーワードは「回転周波数成分が卓越」となる。
【0023】
事象データベース7は、ピーク周波数の成分名称、ピーク振幅の状態の表現、及び振動の原因を含む複数の事象データを格納する。事象データは、例えば、機器の故障事例のデータであってもよい。
【0024】
事象データ抽出部10は、事象データベース7に格納された複数の事象データのうち、キーワード作成部9で作成されたキーワードと同義の言葉を含む事象データを抽出し、抽出した事象データを表示器4に表示させる。これにより、サービスマンは、機器100の振動の原因をロバストかつ正確に推定することができる。また、サービスマンの経験や技量に頼らなくとも、定性的な状態表現を利用して機器100の振動の原因を容易に推定することができる。
【0025】
なお、上記一実施形態において、特に説明しなかったが、事象データ抽出部10は、複数のキーワードを個別に用いて、事象データを抽出してもよい。また、キーワードを用いて抽出された事象データが所定の件数(例えば10件)以下となるように、対応するピーク振幅が大きい順にキーワードを増やしながら、事象データを抽出してもよい。
【0026】
また、上記一実施形態において、特に説明しなかったが、事象データベース7に格納された複数の事象データは、機器100の作動流体の圧力及び温度のうちの少なくとも一方の状態を更に含んでもよい。このような変形例について詳述する。なお、本変形例において、上記一実施形態と同等の部分は同一の符号を付し、適宜、説明を省略する。
【0027】
本変形例では、表現データベース6は、図4で示すように、機器100の作動流体の圧力又は温度の状態とその表現との関係を更に格納する。具体例を説明すると、圧力又は温度が所定の制限値以上であれば、圧力又は温度の状態の表現は「制限値以上」である。圧力又は温度が所定の制限値未満、所定の制限値の80%以上であれば、圧力又は温度の状態の表現は「高い」である。
【0028】
キーワード作成部9は、例えば、圧力センサ(図示せず)から機器100の作動流体の圧力を入力し、温度センサ(図示せず)から機器100の作動流体の温度を入力する。そして、表現データベース6に格納された関係を用いて、圧力又は温度の状態の表現を取得する。そして、ピーク周波数とピーク振幅と機器100の圧力及び温度のうちの少なくとも一方との組み合わせに対応するように、ピーク周波数の成分名称とピーク振幅の状態の表現と機器100の作動流体の圧力及び温度のうちの少なくとも一方の状態の表現との組み合わせからなるキーワードを作成する。
【0029】
事象データ抽出部10は、事象データベース7に格納された複数の事象データのうち、キーワード作成部9で作成されたキーワードと同義の言葉を含む事象データを抽出し、抽出した事象データを表示器4に表示させる。これにより、上記一実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0030】
また、上記一実施形態において、特に説明しなかったが、事象データベース7に格納された複数の事象データは、ピーク振幅の状態の表現の元となるピーク振幅の状態を更に含んでもよい。分析装置3は、例えば図5で示すように、人工知能により、複数の事象データに含まれたピーク振幅の状態とその表現との関係を抽出して、表現データベース6に格納する表現データ作成部11を更に有してもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 診断支援装置
4 表示器
5 成分名称データベース
6 表現データベース
7 事象データベース
100 機器
101 振動センサ
図1
図2
図3
図4
図5