(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
H01T 13/32 20060101AFI20221109BHJP
H01T 13/20 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
H01T13/32
H01T13/20 B
(21)【出願番号】P 2019217479
(22)【出願日】2019-11-29
【審査請求日】2021-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】関澤 崇
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 智克
(72)【発明者】
【氏名】小野 雄也
(72)【発明者】
【氏名】東松 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】川口 雄大
【審査官】高橋 学
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第205882388(CN,U)
【文献】特開2010-238498(JP,A)
【文献】米国特許第5264754(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/32
H01T 13/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心電極と、
前記中心電極を絶縁保持する主体金具と、
前記主体金具に一端部が接続された母材と、前記母材の第1面の他端部に配置されたチップと、を備える接地電極と、を備え、
前記チップは、前記中心電極と火花ギャップを介して対向し、前記第1面と同じ方向を向く放電面を備えるスパークプラグであって、
前記第1面は、前記一端部と前記他端部とにつながる、相対する2つの第1縁と、2つの前記第1縁につながる第2縁と、を備え、
前記母材は、前記第1縁と前記第2縁とに挟まれた2つの角を通る直線に平行な方向の、前記他端部における2つの前記第1縁の間の距離が、前記第2縁に近づくにつれて次第に大きくなる拡大部を備え
、
前記チップの前記放電面は、相対する2辺を有し、
前記2辺は、前記第1縁に沿って配置されると共に、前記放電面に平行な平面内において、前記2辺を前記直線の延びる方向に投影したときに、前記拡大部の少なくとも一部に重なるスパークプラグ。
【請求項2】
中心電極と、
前記中心電極を絶縁保持する主体金具と、
前記主体金具に一端部が接続された母材と、前記母材の第1面の他端部に配置されたチップと、を備える接地電極と、を備え、
前記チップは、前記中心電極と火花ギャップを介して対向し、前記第1面と同じ方向を向く放電面を備えるスパークプラグであって、
前記第1面は、前記一端部と前記他端部とにつながる、相対する2つの第1縁と、2つの前記第1縁につながる第2縁と、を備え、
前記母材は、前記第1縁と前記第2縁とに挟まれた2つの角を通る直線に平行な方向の、前記他端部における2つの前記第1縁の間の距離が、前記第2縁に近づくにつれて次第に大きくなる拡大部を備え
、
前記第1面は、前記直線よりも外側に前記第2縁が膨らんでいるスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスパークプラグに関し、特に母材にチップが接合された接地電極を備えるスパークプラグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
接地電極のチップと中心電極との間に火花ギャップが形成されたスパークプラグが知られている(例えば特許文献1)。スパークプラグは、点火コイルから供給されたエネルギーに応じて、接地電極のチップと中心電極との間に火花放電が生じ、燃焼室内の混合気に点火する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記技術では、混合気の流速が速いと、接地電極のチップと中心電極との間に形成された放電路が下流へと引き伸ばされ、放電が維持できなくなり、放電路が切断されることがある。そうすると火花放電の持続時間が短くなるので、混合気に点火できないおそれがある。
【0005】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、放電路の切断を抑制できるスパークプラグを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明のスパークプラグは、中心電極と、中心電極を絶縁保持する主体金具と、主体金具に一端部が接続された母材と、母材の第1面の他端部に配置されたチップと、を備える接地電極と、を備え、チップは、中心電極と火花ギャップを介して対向し、第1面と同じ方向を向く放電面を備える。第1面は、一端部と他端部とにつながる、相対する2つの第1縁と、2つの第1縁につながる第2縁と、を備え、母材は、第1縁と第2縁とに挟まれた2つの角を通る直線に平行な方向の、他端部における2つの第1縁の間の距離が、第2縁に近づくにつれて次第に大きくなる拡大部を備えている。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載のスパークプラグによれば、接地電極の母材の第1面は、母材に配置されたチップの放電面と同じ方向を向き、相対する2つの第1縁に第2縁がつながっている。母材の第2縁に近づくにつれて2つの第1縁の間の距離が次第に大きくなる拡大部が、母材に形成されている。その結果、接地電極のチップの放電点(放電路の端)と中心電極との間に形成された放電路に気流が当たったときに、チップから下流の拡大部へ放電点が移動することによって放電路が引き伸ばされ難くなるので、放電が維持される。よって、放電路の切断を抑制できる。
【0008】
接地電極と中心電極との間に電位差が生じると、チップの放電面の相対する2辺の付近に電界が集中し易くなり、2辺の付近に放電が生じ易くなる。チップの2辺は母材の第1縁に沿って配置されており、チップの放電面に平行な平面内において2辺を投影したときに、拡大部の少なくとも一部に2辺が重なる。そのため接地電極の放電点が下流へ移動したときに、拡大部に放電点が到達し易くなる。よって放電路の切断をさらに抑制できる。
【0009】
請求項2記載のスパークプラグによれば、母材の第1面の第2縁は、第1面の第1縁と第2縁とに挟まれた2つの角を通る直線よりも外側に膨らんでいる。従って、第1面の第2縁が膨らんでいない場合に比べて、第1面の第1縁と第2縁とに挟まれた角の角度を大きくできる。これにより第1面の角が火種となって生じるプレイグニッションを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施の形態におけるスパークプラグの片側断面図である。
【
図3】
図2のIII-III線における接地電極の断面図である。
【
図4】
図2のIV-IV線における接地電極の断面図である。
【
図5】第2実施の形態におけるスパークプラグの接地電極の平面図である。
【
図6】第3実施の形態におけるスパークプラグの接地電極の平面図である。
【
図7】第4実施の形態におけるスパークプラグの接地電極の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1は第1実施の形態におけるスパークプラグ10の軸線Oを境にした片側断面図である。
図1では、紙面下側をスパークプラグ10の先端側、紙面上側をスパークプラグ10の後端側という。
図1に示すようにスパークプラグ10は、絶縁体11、中心電極15、主体金具20及び接地電極30を備えている。
【0012】
絶縁体11は、高温下の絶縁性や機械的特性に優れるアルミナ等により形成された略円筒状の部材である。絶縁体11には、軸線Oに沿って延びる軸孔12が形成されている。絶縁体11の軸線方向のほぼ中央には、径方向の外側へ向かって張り出す円環状の張出部13が形成されている。絶縁体11は、張出部13よりも先端側に、軸線方向の先端側に向かうにつれて外径が小さくなる段部14が設けられている。絶縁体11の軸孔12の先端側に、中心電極15が配置されている。
【0013】
中心電極15は、軸線Oに沿って絶縁体11に保持される棒状の電極である。中心電極15は、熱伝導性に優れる芯材が母材16に埋設されている。母材は、Niを主体とする合金またはNiからなる金属材料で形成されている。芯材は、銅または銅を主成分とする合金で形成されている。芯材は省略できる。母材16の先端に、貴金属を含有するチップ17が接合されている。チップ17は省略できる。
【0014】
中心電極15は、絶縁体11の軸孔12の中で端子金具18と電気的に接続されている。端子金具18は、高圧ケーブル(図示せず)が接続される棒状の部材であり、導電性を有する金属材料(例えば低炭素鋼等)によって形成されている。
【0015】
主体金具20は、導電性を有する金属材料(例えば低炭素鋼等)によって形成された、軸線Oに沿って延びる略円筒状の部材である。主体金具20は、絶縁体11の張出部13よりも先端側の部分を囲む先端部21と、先端部21の後端側に連なる座部23と、座部23の後端側に設けられた工具係合部24と、工具係合部24の後端側に連なる後端部25と、を備えている。先端部21の外周面には、先端部21の軸線方向のほぼ全長に亘って、エンジン(図示せず)のねじ穴に螺合するおねじ22が形成されている。先端部21の内周には、軸線方向の先端側に向かうにつれて内径が小さくなる棚部26が設けられている。
【0016】
座部23は、エンジンに対するおねじ22のねじ込み量を規制すると共に、おねじ22とねじ穴との隙間を塞ぐための部位である。工具係合部24は、エンジンのねじ穴におねじ22をねじ込むときに、レンチ等の工具を係合させる部位である。後端部25は、径方向の内側へ向けて屈曲する円環状の部位である。後端部25は、絶縁体11の張出部13よりも後端側に位置する。
【0017】
絶縁体11の張出部13と主体金具20の後端部25との間に、タルク等の粉末が充填されたシール部27が全周に亘って設けられている。絶縁体11の段部14と主体金具20の棚部26との間に、金属製の円環状のパッキン(図示せず)が介在する。主体金具20の先端部21には接地電極30が接続されている。
【0018】
接地電極30は、導電性を有する金属材料(例えばNi基合金等)によって形成された母材31と、母材31に接合されたチップ34と、を備えている。母材31は、主体金具20に接合された一端部32と、チップ34が接合された他端部33と、を備える棒状の部材である。チップ34は、例えばPt,Rh,Ir,Ru等の貴金属のうちの1種または2種以上を含む化学組成を有する。貴金属を含有するチップ34は、溶融部35を介して母材31に接合されている。接地電極30のチップ34の放電面36と中心電極15との間に火花ギャップ37が形成される。
【0019】
スパークプラグ10は、例えば以下のような方法によって製造される。まず、中心電極15を絶縁体11の軸孔12に配置する。次いで、中心電極15と端子金具18との導通を確保しながら、絶縁体11の軸孔12に端子金具18を挿入する。次に、予め接地電極30が接続された主体金具20に絶縁体11を挿入し、主体金具20の棚部26から後端部25までの部分が、絶縁体11の段部14から張出部13までの部分に、シール部27及びパッキン(図示せず)を介して軸線方向の圧縮荷重を加える。これにより絶縁体11は主体金具20に保持される。次いで、接地電極30の母材31を屈曲して火花ギャップ37を形成し、スパークプラグ10を得る。
【0020】
図2は接地電極30の平面図である。
図2は母材31の他端部33(
図1参照)が図示されており、一端部32(
図1参照)の図示が省略されている。
図3は
図2のIII-III線における接地電極30の断面図である。
図4は
図2のIV-IV線における接地電極30の断面図である。
【0021】
図2から
図4に示すように、母材31の他端部33(
図1参照)は、中心電極15の側を向く第1面38と、第1面38に接続され他端部33側から一端部32(
図1参照)側へ延びる一対の第2面39と、第1面38及び第2面39に接続される端面40と、第2面39及び端面40に接続される第3面41と、を備えている。第3面41は第1面38の反対側に位置する。
【0022】
母材31の第1面38には、母材31の端面40につながる凹み31aが形成されている。第1面38における凹み31aの形状は矩形状であり、凹み31aは母材31の第2面39と離隔している。チップ34は凹み31aの中に配置されている。チップ34を母材31に接合する溶融部35は、チップ34の放電面36の裏面34aにおいて、母材31の端面40から放電面36に沿って設けられている。
【0023】
母材31の第1面38は、母材31の第2面39と第1面38とが交わる交線である2つの第1縁42と、母材31の端面40と第1面38との交線であり第1縁42につながる第2縁43と、を備えている。第2縁43は凹み31aによって2つに分かれている。第2縁43は、第1縁42と第2縁43とに挟まれた2つの角44を通る直線45よりも外側(母材31の一端部32から離れる方向)に膨らんでいる。本実施形態では、第2縁43の全体が直線45よりも外側に位置する。
【0024】
母材31は、直線45に平行な方向の第1縁42間の距離Dが、第2縁43に近づくにつれて次第に大きくなる拡大部46を備えている。拡大部46の形状は、第1面38のうち母材31の一端部32(
図1参照)から他端部33(
図1参照)へ向けて第1縁42を延長した直線Sで切り取られる略三角形を底面とする略三角柱である。拡大部46は、直線45に平行な方向において、チップ34の両側の2か所に設けられている。拡大部46における第1縁42の距離Dは、2つの角44の位置が最も大きい。放電面36に平行な平面内において、直線45に垂直な方向における拡大部46の長さは、直線45に垂直な方向における凹み31aの長さ以下である。
【0025】
本実施形態では、チップ34の放電面36は、4辺に囲まれた四角形状である。放電面36は、チップ34の側面47,48,49,50につながっている。チップ34の側面47は、母材31の端面40と同じ方向を向いている。チップ34の側面48,49は、それぞれ母材31の第2面39と同じ方向を向いている。チップ34の側面50は、チップ34の側面47の反対側に位置する。
【0026】
チップ34の放電面36の4辺は、側面47,48,49,50と放電面36との交線である。本実施形態では、チップ34の放電面36の面積は中心電極15の放電面15aの面積よりも大きく、中心電極15の放電面15aの全体が、チップ34の放電面36と軸線方向に対向している。
【0027】
チップ34は、放電面36の4辺のうち相対する第1辺51及び第2辺52が、母材31の第1面38の第1縁42に沿って配置されている。放電面36の第3辺53は、第1面38の第2縁43に沿って配置されている。放電面36の第4辺54は、第3辺53に相対する。本実施形態では、放電面36に平行な平面内において、直線45は第1辺51及び第2辺52に交わる。放電面36に平行な平面内において、第3辺53と第4辺54との間に直線45が位置する。
【0028】
チップ34は、放電面36に平行な平面内において、直線45が延びる方向に第1辺51及び第2辺52を投影したときに、拡大部46の少なくとも一部に、投影した第1辺51及び第2辺52が重なる。本実施形態では、放電面36に平行な平面内において、直線45が延びる方向に第1辺51及び第2辺52を投影したときに、第1辺51の両方の端51a,51b及び第2辺52の両方の端52a,52bは拡大部46に重ならない。
【0029】
拡大部46は、例えばプレス機(図示せず)を用いて母材31に凹み31aを形成するときに作ることができる。このときは、一端部32が動かないように母材31を拘束した後、母材31の第1面38の一部をパンチ(図示せず)で押圧し、パンチの形状を母材31に転写して、深さがチップ34の厚さよりも浅い凹み31aを形成する。例えば端面40の幅4.4mm、厚さ1.5mmの母材31に四角柱状のパンチを押し当て、端面40につながる長さ2.4mm、幅2.4mm、深さ0.5mmの凹み31aを第1面38に形成する。パンチの大きさによるが、母材31の一端部32は拘束されているので、母材31の他端部33にパンチが押し込まれることによって母材31は塑性変形し、凹み31aの両側に拡大部46が形成される。
【0030】
母材31の凹み31aにチップ34を配置した後、押さえ部材(図示せず)をチップ34に当てて、母材31からチップ34が離れないように押さえる。次いで母材31の端面40の側からレーザ光を照射して溶融部35を形成する。溶融部35はチップ34と母材31とが溶け合ってなる。
【0031】
スパークプラグ10がエンジン(図示せず)に取り付けられると、燃焼室に中心電極15の放電面15a及び接地電極30が露出する。スパークプラグ10は、例えば燃焼室内の混合気の気流の上流側(吸気バルブ側)及び下流側(排気バルブ側)に、母材31の第2面39がそれぞれ向くようにエンジンに配置される。
【0032】
スパークプラグ10に接続された点火コイル(図示せず)の二次電圧が上昇して、中心電極15と接地電極30との間の絶縁が破れると、まず、二次回路に蓄えられた電気エネルギーによって中心電極15と接地電極30との間に放電路が形成され、火花(以下「容量火花」と称す)が発生する。次いで、点火コイルの電磁エネルギーによって放電路が形成され、容量火花よりも電流が小さく持続時間が長い火花(以下「誘導火花」と称す)が発生する。
【0033】
接地電極30のうち中心電極15と火花放電が生じ易い部分は、中心電極15に距離が近い部分や突出した部分なので、放電路は、中心電極15の放電面15aとチップ34の放電面36との間に形成され易い。特に接地電極30では、チップ34の第1辺51、第2辺52、第3辺53及び第4辺54の付近に電界が集中し易くなるので、第1辺51、第2辺52、第3辺53及び第4辺54の付近に放電点(放電路の端)が形成される。放電路に気流が当たると、放電路が下流へ引き伸ばされる代わりに、下流側に位置する拡大部46へチップ34から放電点が移動する。拡大部46があることで放電路が引き伸ばされ難くなるので、放電が維持され、誘導火花が持続している途中で放電路が切断されないようにできる。これにより誘導火花の持続時間を確保できるので、失火し難くできる。
【0034】
拡大部46は、母材31の第1面38の2つの第1縁42を含む2か所に形成されているので、燃焼室内の気流が乱れて接地電極30の放電点の位置が乱れたときも、拡大部46に放電点が到達し易くなる。よって、放電路の切断をさらに抑制できる。
【0035】
チップ34の第1辺51及び第2辺52は母材31の第1縁42に沿って配置されており、チップ34の放電面36に平行な平面内において、直線45が延びる方向に第1辺51及び第2辺52を投影したときに、拡大部46の少なくとも一部に第1辺51及び第2辺52が重なる。そのため接地電極30の放電点が下流へ移動したときに、拡大部46に放電点が到達し易くなる。よって、放電路の切断をさらに抑制できる。
【0036】
チップ34の放電面36に平行な平面内において、直線45が延びる方向に第1辺51及び第2辺52を投影したときに、第1辺51及び第2辺52の長さのそれぞれ50%以上が拡大部46に重なる。よって、接地電極30の放電点が下流へ移動したときに、拡大部46に放電点を到達し易くできる。
【0037】
チップ34の放電面36に平行な平面内において、放電面36の第3辺53と第4辺54との間に直線45が位置するので、放電面36の第3辺53が、母材31の一端部32から遠ざけられる。その結果、チップ34の第3辺53の付近に生じた火炎核のエネルギーが、母材31に奪われ難くなるので、火炎核が成長し易くなる。よって、着火性を向上できる。
【0038】
母材31の第1面38の第2縁43は、第1面38の2つの角44を通る直線45よりも外側に膨らんでいる。従って、第1面38の第2縁43が膨らんでいない場合に比べて、角44の角度を大きくできる。これにより第1面38の角44が火種となって生じるプレイグニッションを抑制できる。
【0039】
図5を参照して第2実施の形態について説明する。第1実施形態では、チップ34の放電面36の第3辺53と第4辺54との間に、母材31の第1面38の2つの角44を通る直線45が位置する場合について説明した。これに対し第2実施形態では、チップ34の放電面36の第4辺54と直線45との間に第3辺53が位置する場合について説明する。なお、第1実施形態で説明した部分と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0040】
図5は第2実施の形態におけるスパークプラグの接地電極60の平面図である。接地電極60は、第1実施形態におけるスパークプラグ10の接地電極30に代えて、主体金具20に接続される。
図5は接地電極60の母材31の他端部33(
図1参照)が図示されており、一端部32(
図1参照)の図示が省略されている。
【0041】
図5に示すように接地電極60のチップ34は、母材31の第1面38に形成され端面40(
図4参照)につながる凹み61の中に配置されている。チップ34は溶融部35を介して母材31に接合されている。母材31の第1面38の第2縁43は、第1面38の2つの角44を通る直線45よりも外側に膨らんでいる。
【0042】
チップ34の放電面36の第3辺53は、放電面36の第4辺54と直線45との間に位置する。よって、チップ34の放電面36に平行な平面内において、直線45が延びる方向に第1辺51及び第2辺52を投影したときに、第1辺51及び第2辺52の第3辺53側の端51b,52bが拡大部46に重なる。第1辺51及び第2辺52の第3辺53側の端51b,52bの付近は、電界が集中し易く放電点が形成され易いので、接地電極60の放電点が下流へ移動したときに、拡大部46に放電点を到達し易くできる。拡大部46と中心電極15との間で放電が維持されるので、放電路を切断し難くできる。
【0043】
図6を参照して第3実施の形態について説明する。第1実施形態および第2実施形態では、接地電極30,60の母材31の第1面38の第2縁43が、第1面38の2つの角44を通る直線45よりも外側に膨らんでいる場合について説明した。これに対し第3実施形態では、接地電極70の母材31の第1面38の第2縁71が、第1面38の2つの角44を通る直線45上にある場合について説明する。なお、第1実施形態で説明した部分と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0044】
図6は第3実施の形態におけるスパークプラグの接地電極70の平面図である。接地電極70は、第1実施形態におけるスパークプラグ10の接地電極30に代えて、主体金具20に接続される。
図6は接地電極70の母材31の他端部33(
図1参照)が図示されており、一端部32(
図1参照)の図示が省略されている。
【0045】
図6に示すように接地電極70のチップ34は、母材31の第1面38に形成され端面40(
図4参照)につながる凹み71の中に配置されている。チップ34は溶融部35を介して母材31に接合されている。母材31の第1面38の第2縁72は、第1面38の2つの角44を通る直線45上にある。このような第2縁72は、母材31の第1面38の一部をパンチ(図示せず)で押圧して凹み71を作るときに、母材31の端面40が膨らまないように型(図示せず)で規制して作ることができる。
【0046】
チップ34の放電面36の第3辺53は、直線45上に位置する。よって、チップ34の放電面36に平行な平面内において、直線45が延びる方向に第1辺51及び第2辺52を投影したときに、第1辺51及び第2辺52の第3辺53側の端51b,52bが拡大部46に重なる。第1辺51及び第2辺52の第3辺53側の端51b,52bの付近は、電界が集中し易く放電点が形成され易いので、接地電極70の放電点が下流へ移動したときに、拡大部46に放電点を到達し易くできる。よって、放電路を切断し難くできる。
【0047】
図7を参照して第4実施の形態について説明する。第3実施形態では、チップ34の放電面36の第3辺53が、母材31の第1面38の2つの角44を通る直線45上に位置する場合について説明した。これに対し第4実施形態では、チップ34の放電面36の第4辺54と直線45との間に第3辺53が位置する場合について説明する。なお、第1実施形態および第3実施形態で説明した部分と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0048】
図7は第4実施の形態におけるスパークプラグの接地電極80の平面図である。接地電極80は、第1実施形態におけるスパークプラグ10の接地電極30に代えて、主体金具20に接続される。
図6は接地電極70の母材31の他端部33(
図1参照)が図示されており、一端部32(
図1参照)の図示が省略されている。
【0049】
図7に示すように接地電極80のチップ34は、母材31の第1面38に形成され端面40(
図4参照)につながる凹み81の中に配置されている。チップ34は溶融部35(
図4参照)を介して母材31に接合されている。チップ34の放電面36の第3辺53は、放電面36の第4辺54と直線45との間に位置する。よって、チップ34の放電面36に平行な平面内において、直線45が延びる方向に第1辺51及び第2辺52を投影したときに、第1辺51及び第2辺52の第3辺53側の端51b,52bが拡大部46に重なる。第1辺51及び第2辺52の第3辺53側の端51b,52bの付近は、電界が集中し易く放電点が形成され易いので、接地電極80の放電点が下流へ移動したときに、拡大部46に放電点を到達し易くできる。よって、放電路を切断し難くできる。
【0050】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0051】
実施形態では、接地電極30,60,70,80の母材31の凹み31a,61,71,81にチップ34が配置される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。母材31に凹み31a,61,71,81を形成することなく、母材31の第1面38にチップ34を配置し接合することは当然可能である。
【0052】
実施形態では、凹み31a,61,71,81を作るためのパンチを母材31に押し付け、凹み31a,61,71,81及び拡大部46の両方を母材31に形成する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、凹みを作ることなく、プレス加工によって母材31の第1面38と第3面41との間に荷重を加え、母材31の他端部33の全体を変形させて拡大部46を形成することは当然可能である。また、粉末冶金、ワークの切削や鍛造などによって母材31の他端部33に拡大部46を設けることは当然可能である。
【0053】
実施形態では、接地電極30,60,70,80の母材31の端面40側からレーザ光を照射して溶融部35を形成し、チップ34を接合する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、母材31の第2面39の側からレーザ光を照射したり母材31の第3面41の側からレーザ光を照射したりして溶融部を形成し、チップ34を母材31に接合することは当然可能である。また、レーザ溶接によって母材31にチップ34が接合されるものに限られない。抵抗溶接によって母材31にチップ34を接合することは当然可能である。
【0054】
実施形態では、放電面36が正方形のチップ34が母材31に接合された接地電極30,60,70,80について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。チップ34の放電面36を長方形、平行四辺形、ひし形、台形などの他の四角形にすることは当然可能である。また、放電面36の形状は四角形に限られるものではない。放電面36の他の形状としては、例えば三角形や六角形などの四角形以外の多角形、円形、楕円形、相対する2辺と2つの円弧とが接続されたオーバル形状などが挙げられる。
【0055】
実施形態では、チップ34の放電面36が中心電極15の放電面15aより大きい場合について説明したが、これに限られるものではない。チップ34の放電面36を中心電極15の放電面15aより大きくすることは当然可能である。この場合、中心電極15の放電面15aの一部が、チップ34の放電面36と軸線方向に対向している。
【0056】
実施形態では、放電面36に平行な平面内において、直線45に垂直な方向における拡大部46の長さが、凹み31a,61,71,81の長さ以下である場合について説明したが、これに限られるものではない。直線45に垂直な方向における拡大部46の長さを、凹み31a,61,71,81より長くすることは当然可能である。
【0057】
第2実施形態では、チップ34の放電面36の第3辺53が、直線45よりも一端部32側(図の下側)にある場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、チップ34の第3辺53を直線45上に配置することは当然可能である。また、チップ34の放電面36に平行な平面内において、チップ34の第3辺53と直線45との間に母材31の第2縁43が位置するようにチップ34を配置することは当然可能である。この場合、チップ34の第3辺53の付近に生じた火炎核のエネルギーが、母材31に奪われ難くなるので、火炎核が成長し易くなる。よって、着火性を向上できる。
【符号の説明】
【0058】
10 スパークプラグ
15 中心電極
20 主体金具
30,60,70,80 接地電極
31 母材
32 母材の一端部
33 母材の他端部
34 チップ
36 放電面
37 火花ギャップ
42 第1縁
43,72 第2縁
44 角
45 直線
46 拡大部
51 第1辺
52 第2辺
D 第1縁間の距離