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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】撥油剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20221109BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20221109BHJP
   C09D 133/02 20060101ALI20221109BHJP
   C09D 133/04 20060101ALI20221109BHJP
   C09D 183/12 20060101ALI20221109BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20221109BHJP
   C08L 33/10 20060101ALI20221109BHJP
   C08L 83/12 20060101ALI20221109BHJP
   D06M 15/647 20060101ALI20221109BHJP
   D06M 15/263 20060101ALI20221109BHJP
   D21H 19/20 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C09K3/00 112F
C09D133/00
C09D133/02
C09D133/04
C09D183/12
C09D5/02
C08L33/10
C08L83/12
D06M15/647
D06M15/263
D21H19/20 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019504494
(86)(22)【出願日】2018-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2018007211
(87)【国際公開番号】W WO2018163911
(87)【国際公開日】2018-09-13
【審査請求日】2021-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2017042867
(32)【優先日】2017-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】村田 直樹
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-129112(JP,A)
【文献】特開2000-026759(JP,A)
【文献】特開2012-056978(JP,A)
【文献】特開2014-159660(JP,A)
【文献】特開2012-211330(JP,A)
【文献】特開2016-102272(JP,A)
【文献】特開2000-007980(JP,A)
【文献】特開2014-205769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
C09D 1/00-201/10
B32B 1/00- 43/00
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
D06M 13/00- 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)に基づく構成単位と、エチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)に基づく構成単位とを、必須として含む共重合体(A)が、水性媒体(B)中に分散した水系エマルジョンと、
ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)と
を含み、
前記共重合体(A)が、水酸基を含有せず、
前記エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)に基づく構成単位を、前記共重合体(A)の構成単位全体に対して80~99質量%含有し、
前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)に基づく構成単位を、前記共重合体(A)の構成単位全体に対して0.1~20質量%含有し、
前記エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)が、炭素原子数1~8のアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルであり、
前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)が、炭素原子数3~14の不飽和カルボン酸であり、
前記ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)のポリエーテルが、水酸基含有ポリエーテルである
撥油剤組成物。
【請求項2】
エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)に基づく構成単位と、エチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)に基づく構成単位とを、必須として含む共重合体(A)が、水性媒体(B)中に分散した水系エマルジョンと、
ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)と
を含み、
前記エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)に基づく構成単位を、前記共重合体(A)の構成単位全体に対して97.5~99質量%含有し、
前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)に基づく構成単位を、前記共重合体(A)の構成単位全体に対して0.1~2.5質量%含有し、
前記エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)が、炭素原子数1~8のアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルであり、
前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)が、炭素原子数3~14の不飽和カルボン酸であり、
前記ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)のポリエーテルが、水酸基含有ポリエーテルである
撥油剤組成物。
【請求項3】
前記ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)の含有量が、前記共重合体(A)100質量部に対し0.1~20質量部である請求項1又は2に記載の撥油剤組成物。
【請求項4】
前記エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)が、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、及び2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートからなる群から選択される一種または二種以上である請求項1~請求項のいずれか一項に記載の撥油剤組成物。
【請求項5】
架橋剤を含まない、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の撥油剤組成物。
【請求項6】
前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)が、アクリル酸およびメタクリル酸の少なくとも1つである請求項1~請求項のいずれか一項に記載の撥油剤組成物。
【請求項7】
炭素原子数8~18の鎖状炭化水素基を有するアルコールと、(メタ)アクリル酸とのエステル(D1)に基づく、構成単位を有する、
重合体(D)をさらに含む、請求項1~請求項のいずれか一項に記載の撥油剤組成物。
【請求項8】
請求項1~請求項のいずれか一項に記載の撥油剤組成物を含む繊維処理剤。
【請求項9】
請求項1~請求項のいずれか一項に記載の撥油剤組成物を含む紙処理剤。
【請求項10】
請求項1~請求項のいずれか一項に記載の撥油剤組成物を含むコーティング剤。
【請求項11】
請求項1~請求項のいずれか一項に記載の撥油剤組成物の製造方法であって、
乳化重合により、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)に基づく構成単位とエチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)に基づく構成単位とを有する共重合体(A)が、水性媒体(B)中に分散した、水系エマルジョンを得る工程と、
前記水系エマルジョンとポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)とを混合する工程と、
を含むことを特徴とする撥油剤組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項1~請求項のいずれか一項に記載の撥油剤組成物を基材に塗布し、塗布された基材を80~170℃で熱処理する工程を含むことを特徴とする基材の撥油処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥油剤組成物、繊維処理剤、紙処理剤、コーティング剤、撥油剤組成物の製造方法、および基材の撥油処理方法に関する。
本願は、2017年3月7日に、日本に出願された特願2017-042867号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維、紙などの基材に撥油性を付与する方法として、撥油剤組成物を用いる撥油処理が行われている。
撥油剤組成物としては、炭素原子数8以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物を含むものがある。
【0003】
しかし、炭素原子数8以上のパーフルオロアルキル基を含む化合物は、分解または代謝により、パーフルオロオクタン酸(perfluoro-octanoic acid(以下、「PFOA」と略記する場合がある。))を生成する可能性があることが、米国環境保護庁に指摘されている。PFOAは、生体蓄積性を示し、環境中で分解されないことから、使用を削減することが要求されている。
このため、炭素鎖の短いパーフルオロアルキル基を含む化合物を有する撥油剤組成物が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ピラゾールブロック疎水性ポリイソシアネートと非イオン界面活性剤とを含有する、ピラゾールブロック疎水性ポリイソシアネート水分散液、及び、炭素原子数が6以下のペルフルオロアルキル基を有する撥水撥油性成分、を含む、撥水撥油剤組成物が記載されている。
特許文献2には、炭素原子数が1~6のポリフルオロアルキル基を有する含フッ素重合体と、フルオロオレフィンに基づく構成単位を有する含フッ素重合体と、水性媒体とを含む、撥水撥油剤組成物が記載されている。
【0005】
近年、炭素鎖の短いパーフルオロアルキル基を含む化合物においても、環境への負荷を小さくするために、使用を削減することが検討されている。このため、フッ素系化合物を含まない撥油剤組成物が提案されている。
例えば、特許文献3には、フッ素系化合物を含まず、シリコーン-アクリル共重合体を含有する繊維処理用撥油剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-031285号公報
【文献】国際公開第2012/020806号
【文献】特開2016-102272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のフッ素系化合物を含まない撥油剤組成物は、基材に十分な撥油性を付与できない場合があった。
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、基材に高い撥油性を付与できる撥油剤組成物、および撥油剤組成物の製造方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、本発明の撥油剤組成物を含む繊維処理剤、紙処理剤、コーティング剤を提供することを課題とする。
また、本発明は、本発明の撥油剤組成物を用いる基材の撥油処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。
その結果、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体に基づく構成単位とエチレン性不飽和カルボン酸単量体に基づく構成単位とを有する共重合体が、水性媒体中に分散した、水系エマルジョンと、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンとを含む、撥油剤組成物を用いればよいことを見出し、本発明を想到した。
すなわち、本発明は以下の事項に関する。
【0009】
本発明の第一の態様は、以下の撥油剤組成物である。
[1] エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)に基づく構成単位と、エチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)に基づく構成単位とを、必須として含む共重合体(A)が、水性媒体(B)中に分散した水系エマルジョンと、
ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)と、
を含む撥油剤組成物。
【0010】
上記第一の態様の撥油剤組成物は、以下の特徴を含むことも好ましい。
[2] 前記ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)のポリエーテルが、水酸基含有ポリエーテルである、[1]に記載の撥油剤組成物。
[3] 前記ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)の含有量が、前記共重合体(A)100質量部に対し0.1~20質量部である、[1]または[2]に記載の撥油剤組成物。
【0011】
[4] 前記エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)に基づく構成単位を、前記共重合体(A)の構成単位全体に対して80~99質量%含有する、[1]~[3]のいずれかに記載の撥油剤組成物。
[5] 前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)に基づく構成単位を、前記共重合体(A)の構成単位全体に対して0.1~20質量%含有する、[1]~[4]のいずれかに記載の撥油剤組成物。
【0012】
[6] 前記エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)が、炭素原子数1~8のアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルである、[1]~[5]のいずれかに記載の撥油剤組成物。
[7] 前記エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)が、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、及び2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートからなる群から選択される一種または二種以上である、[1]~[6]のいずれかに記載の撥油剤組成物。
[8] エチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)が、炭素原子数3~14の不飽和カルボン酸である、[1]~[7]のいずれかに記載の撥油剤組成物。
[9] 前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)が、アクリル酸および/またはメタクリル酸である、[1]~[8]のいずれかに記載の撥油剤組成物。
[10] 炭素原子数8~18の鎖状炭化水素基を有するアルコールと、(メタ)アクリル酸との、エステル(D1)に基づく、構成単位を有する重合体(D)をさらに含む、[1]~[9]のいずれか一項に記載の撥油剤組成物。
【0013】
本発明の第二から四の態様は、以下の繊維処理剤、紙処理剤、及びコーティング剤である。
[11] [1]~[10]のいずれかに記載の撥油剤組成物を含む繊維処理剤。
[12] [1]~[10]のいずれかに記載の撥油剤組成物を含む紙処理剤。
[13] [1]~[10]のいずれかに記載の撥油剤組成物を含むコーティング剤。
【0014】
本発明の第五の態様は、以下の製造方法である。
[14] [1]~[10]のいずれかに記載の撥油剤組成物の製造方法であって、
乳化重合により、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)に基づく構成単位とエチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)に基づく構成単位とを有する共重合体(A)が、水性媒体(B)中に分散した水系エマルジョンを得る工程と、
前記水系エマルジョンとポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)とを混合する工程とを含むことを特徴とする撥油剤組成物の製造方法。
【0015】
本発明の第六の態様は、以下の基材の撥油処理方法である。
[15] [1]~[10]のいずれかに記載の撥油剤組成物を基材に塗布し、塗布された基材を80~170℃で熱処理する工程を含むことを特徴とする基材の撥油処理方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の撥油剤組成物は、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)に基づく構成単位とエチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)に基づく構成単位とを有する共重合体(A)が、水性媒体(B)中に分散した水系エマルジョン(水系エマルジョンX)と、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)とを含むため、基材に高い撥油性を付与できる。
また、本発明の撥油剤組成物によれば、環境への負荷の大きいフッ素系化合物を含まなくても基材に対して高い撥油性を付与できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の撥油剤組成物、繊維処理剤、紙処理剤、コーティング剤、撥油剤組成物の製造方法、および基材の撥油処理方法の好ましい例について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、数値、量、種類、位置や特性などについて、変更、追加、省略及びその他の変更が可能である。「撥油剤組成物」
本実施形態の撥油剤組成物は、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)に基づく構成単位とエチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)に基づく構成単位とを必須とする共重合体(A)が、水性媒体(B)中に分散した水系エマルジョン(水系エマルジョン(X))と、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)とを含む。
【0018】
[共重合体(A)]
共重合体(A)は、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)に基づく構成単位とエチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)に基づく構成単位とを有する。
【0019】
「エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)」
共重合体(A)が、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)に基づく構成単位を有することにより、安定性が良好で基材に高い撥油性を付与できる撥油剤組成物となる。
【0020】
エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)としては、重合性炭素-炭素二重結合およびカルボン酸エステル構造を有する化合物であればよく、特に制限は無い。好ましくは、炭素原子数1~8のアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルであり、アミノ基又は水酸基を有していても良い。エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、及びジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどを使用できる。これらエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)は、単独で、あるいは二種以上を組み合わせて使用できる。
【0021】
なお、本発明における「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」及び「メタクリレート」を意味する。
【0022】
撥油剤組成物が、紙または繊維からなる基材の撥油処理に用いられるものである場合、上記のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)の中でも、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、及び2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートからなる群から選択される一種または二種以上を用いることが好ましい。上記のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)を用いた場合、撥油処理後の紙または繊維からなる基材の風合いの調整が容易となる。
【0023】
エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)に基づく構成単位は、共重合体(A)の構成単位全体に対して80~99質量%含有することが好ましく、90~99質量%含有することがより好ましく、95~99質量%含有することがさらに好ましい。
エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)に基づく構成単位の割合(共重合体(A)中のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)由来の構造単位の割合)が80質量%以上であると、共重合体(A)が水性媒体(B)中に分散した水系エマルジョンの安定性が良好となり、安定性の良好な撥油剤組成物となる。エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)に基づく構成単位の割合が99質量%以下であると、エチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)に基づく構成単位の含有量を確保しやすくなる。その結果、より一層良好な撥油性を基材に付与できる撥油剤組成物が得られやすくなる。
【0024】
「エチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)」
共重合体(A)が、エチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)に基づく構成単位を有することにより、基材に高い撥油性を付与できる撥油剤組成物となる。
【0025】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)としては、重合性炭素-炭素二重結合およびカルボキシ基を有する化合物であればよく、特に制限は無い。好ましくは、炭素原子数3~14の不飽和カルボン酸である。例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、及び2-(メタ)アクリロイルオキシエチルテトラヒドロフタル酸などを使用できる。これらエチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)は、単独であるいは二種以上を組み合わせて使用できる。上記のエチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)の中でも特に、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)との共重合性が高く、安定な水系エマルジョンを得ることができるため、アクリル酸および/またはメタクリル酸を用いることが好ましい。
【0026】
なお、本発明における「(メタ)アクリル」は「アクリル」及び「メタクリル」を意味し、「(メタ)アクリロ」は「アクリロ」及び「メタクリロ」を意味する。
【0027】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)に基づく構成単位は、共重合体(A)の構成単位全体に対して0.1~20質量%含有することが好ましく、0.3~17質量%含有することがより好ましく、0.5~15質量%含有することがさらに好ましい。
エチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)に基づく構成単位の割合(共重合体(A)中のエチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)由来の構造単位の割合)が0.1質量%以上であると、より一層良好な撥油性を基材に付与できる撥油剤組成物となる。エチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)に基づく構成単位の割合が20質量%以下であると、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)に基づく構成単位の含有量を確保しやすくなる。その結果、安定性の良好な撥油剤組成物が得られやすくなる。
【0028】
「他の単量体」
共重合体(A)は、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)に基づく構成単位と、エチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)に基づく構成単位に加えて、他の単量体に基づく構成単位を含んでいてもよい。
他の単量体としては、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)およびエチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)以外の化合物であって、少なくとも1つの重合可能なエチレン性不飽和基を有する化合物が用いられる。
【0029】
他の単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミドなどのアミド基を有する化合物、(メタ)アクリロニトリルなどのニトリル基を有する化合物などの官能基を有する化合物、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、パラスチレンスルホン酸ソーダなどが挙げられる。また、共重合体(A)が水性媒体(B)中に分散した水系エマルジョンを製造する際に、界面活性剤として使用した共重合性の乳化剤を、他の単量体として含んでいても良い。これらの他の単量体は、単独であるいは二種以上を組み合わせて使用できる。また、共重合体(A)の分子量を調整するために、メルカプタン、チオグリコール酸及びそのエステル、β-メルカプトプロピオン酸及びそのエステルなどの連鎖移動剤を用いてもよい。
【0030】
[水性媒体(B)]
本発明の撥油剤組成物は水性エマルジョンの形である。その分散媒は、水を必須成分とする水性媒体(B)である。水性媒体(B)は、水以外に、親水性溶媒を含んでいても良い。
親水性溶媒は、共重合体(A)を分散させる媒体として機能する水性のものであればよく、特に制限は無い。親水性溶媒としては、メチルアルコール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、t-ブチルアルコール、ベンジルアルコールなどのアルコール、及びN-メチルピロリドンなどの含窒素有機溶媒などを、単独であるいは二種以上を組み合わせて使用できる。
水性媒体(B)中における親水性溶媒の含有量は、10質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは5質量%以下である。撥油剤組成物は溶媒を揮発させて使用するため、水性媒体(B)は作業環境及び作業者の健康負荷が少ない水のみであることが好ましい。水性媒体(B)中における水の割合の下限は必要に応じて選択できる。例えば、0.01質量%以上であってもよく、0.1質量%以上であってもよく、1質量%以上であっても良い。
【0031】
水性媒体(B)の含有量は、共重合体(A)と水性媒体(B)とポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)の合計に対して、30~90質量%であることが好ましく、40~80質量%であることがより好ましく、50~70質量%であることがさらに好ましい。水性媒体(B)の含有量が30質量%以上であると、貯蔵安定性が高い撥油剤組成物となる。また、撥油剤組成物を基材に均一に塗布しやすく、好ましい。水性媒体(B)の含有量が90質量%以下であると、用途に応じて加工可能で実用的な撥油剤組成物となる。
【0032】
水性媒体(B)の含有量は、撥油剤組成物の固形分濃度が10~70質量%となる範囲であることが好ましく、固形分濃度が20~60質量%となる範囲であることがより好ましい。撥油剤組成物の固形分濃度が70質量%以下であると、貯蔵安定性が高い撥油剤組成物となる。また、撥油剤組成物を基材に均一に塗布しやすく、好ましい。撥油剤組成物の固形分濃度が10質量%以上であると、用途に応じて加工可能で実用的な撥油剤組成物となる。
【0033】
[ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)]
ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)は、ポリジメチルシロキサンのメチル基の水素原子を、ポリエーテルで一部または全部置換したものであり、ポリエーテルの末端はアルコキシ基又は水酸基である。ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)は、撥油剤組成物の撥油性向上効果を高める化合物であればよく、特に制限は無い。
例えば、側鎖として付加されているポリエーテル(ポリエーテル基)の種類及び付加数は任意に選択できる。例えば、ポリジメチルシロキサンのSiに結合する、例えばエチレンオキサイドやプロピレンオキサイドなどのアルキレンオキサイド等に起因する、ポリエーテル基の位置や数を、任意に選択できる。他の例としては、ポリジメチルシロキサンの2つの末端基の片方又は両方のみが、ポリエーテル基で変性されていても良い。あるいはポリジメチルシロキサンの2つの末端基の片方又は両方、及び側鎖が、ポリエーテル基で変性されていても良い。 具体的な例としては、撥油剤組成物の撥油性向上効果に優れているため、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)のポリエーテルが、水酸基含有ポリエーテルであるものが好ましい。
水素原子がポリエーテルで置換されている、ポリジメチルシロキサンのメチル基の割合は任意に選択できる。
【0034】
ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)としては、分子量が1000~50000であるものを用いることが好ましく、5000~30000であるものを用いることがより好ましい。 ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)の市販品としては、信越化学工業社製のKPシリーズ、エボニック社製のTEGO Protect 5100Nなどが挙げられるが、これに限定されない。
【0035】
ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)の含有量は、共重合体(A)100質量部に対し0.1~20質量部であることが好ましく、0.3~17質量部であることがより好ましく、0.5~15質量部であることが更に好ましい。ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)の含有量が共重合体(A)100質量部に対して0.1質量部以上であると、より一層良好な撥油性を基材に付与できる撥油剤組成物となる。ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)の含有量が共重合体(A)100質量部に対して20質量部以下であると、これを用いて基材の撥油処理を行った場合、撥油処理後に風合いの良好な基材が得られる。
【0036】
[重合体(D)]
本発明の撥油剤組成物は、さらに、炭素原子数8~18の鎖状炭化水素基を有するアルコールと、(メタ)アクリル酸との、エステル(D1)に基づく、構成単位を有する、重合体(D)を含むことにより、撥油性に加えて撥水性を有する撥油剤組成物となるため好ましい。
前記重合体(D)は、共重合体(A)100質量部に対し、0.1~20質量部であることが好ましく、0.3~17質量部であることがより好ましく、0.5~15質量部であることが更に好ましい。重合体(D)が、共重合体(A)100質量部に対して、0.1質量部以上であると、良好な撥水性を基材に付与できる、撥油剤組成物となる。重合体(D)の含有量が、共重合体(A)100質量部に対して、20質量部以下であると、これを用いて基材の撥油処理を行った場合、撥油処理後に、風合いの良好な基材が得られる。
重合体(D)は、炭素原子数8~18の鎖状炭化水素基を有するアルコールと、(メタ)アクリル酸とのエステル(D1)に基づく、構成単位を有する。重合体(D)は、炭素原子数8~18の鎖状炭化水素基を有するアルコールと、(メタ)アクリル酸との、エステル(D1)を重合したものであることが好ましい。
重合体(D)は、水性媒体(B)中に分散した水系エマルジョン(水系エマルジョン(Y))であることがより好ましい。水系エマルジョン(Y)の製造方法は、後述の水系エマルジョン(X)を得る工程に準ずる。
「炭素原子数8~18の鎖状炭化水素基を有するアルコールと、(メタ)アクリル酸とのエステル(D1)」
単量体(D1)としては、炭素原子数8~18の鎖状炭化水素基を有するアルコールと、(メタ)アクリル酸とのエステルであればよく、特に制限は無い。
炭素原子数8~18の鎖状炭化水素基を有するアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(D1)としては、例えば、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ジメチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ブチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。中でもイソステアリルアクリレート、及びラウリルアクリレートが、重合安定性の観点から好ましい。これら炭素原子数8~18の鎖状炭化水素基を有するアルコールと、(メタ)アクリル酸とのエステル(D1)は、単独で、あるいは二種以上を組み合わせて使用できる。なお(メタ)アクリル酸は、メタクリル酸、又は、アクリル酸、あるいは、その両方を意味してよい。
炭素原子数8~18の鎖状炭化水素基を有するアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(D1)に基づく構成単位は、重合体(D)の構成単位全体に対して、30~100質量%含有されることが好ましく、40~100質量%含有されることがより好ましく、50~100質量%含有されることがさらに好ましい。
炭素原子数8~18の鎖状炭化水素基を有するアルコールと、(メタ)アクリル酸とのエステル(D1)に基づく構成単位の割合(前記(D1)由来の構造単位の、重合体(D)中に含まれる割合)が、30質量%以上であると、撥油性に加え良好な撥水性を基材に付与できる撥油剤組成物が得られやすくなる。
重合体(D)は、炭素原子数8~18の鎖状炭化水素基を有するアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(D1)に基づく構成単位に加えて、他の単量体に基づく構成単位を含んでいてもよい。
他の単量体としては、前述のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)、エチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)、及び、炭素原子数8~18の鎖状炭化水素基を有するアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(D1)以外のその他の単量体であって、少なくとも1つの重合可能なエチレン性不飽和基を有する化合物を用いることができる。
また、重合体(D)を水性媒体(B)中に分散した水系エマルジョンとして製造する場合、他の単量体として、界面活性剤として使用した共重合性の乳化剤を含んでいても良い。これらの他の単量体は、単独であるいは二種以上を組み合わせて使用できる。また、重合体(D)の分子量を調整するために、メルカプタン、チオグリコール酸及びそのエステル、β-メルカプトプロピオン酸及びそのエステルなどの、連鎖移動剤を用いてもよい。
長いアルキル鎖を持つモノマーを重合した重合体(D)を、エマルジョンの形体として、撥油剤組成物に加えることで、撥油性に加えて撥水性も良好になる。
【0037】
[添加剤]
本実施形態の撥油剤組成物は、共重合体(A)と水性媒体(B)とポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)の他に必要に応じて、他の樹脂、架橋剤、増粘剤、pH調整剤、成膜助剤、可塑剤、防腐剤、消泡剤、界面活性剤等の公知慣用の添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で便宜選択して、含有してもよい。
【0038】
「撥油剤組成物の製造方法」
本実施形態の撥油剤組成物の製造方法は、乳化重合により、上記の共重合体(A)が水性媒体(B)中に分散した水系エマルジョン(水系エマルジョン(X))を得る工程と、水系エマルジョンとポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)とを混合する工程とを含む。重合体(D)及びその他の添加剤を混合する場合、組成物の安定性を損なわない限り、どの工程で混合しても構わない。
【0039】
水性エマルジョンを得る工程では、エチレン性不飽和単量体(エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)とエチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)など)と、上述した水性媒体(B)と、界面活性剤と、重合開始剤とを混合して、乳化重合する。
乳化重合する方法としては、例えば、上記の各成分を一括して仕込んで重合する方法を用いてもよいし、各成分を連続供給しながら重合する方法を適用してもよい。各成分を連続供給しながら重合する方法としては、例えば、重合開始剤の一部と水性媒体(B)と界面活性剤とを混合した重合開始剤溶液中に、エチレン性不飽和単量体と水性媒体(B)と界面活性剤とを混合して乳化させた混合乳化液と、重合開始剤の残部とを連続供給しながら、撹拌する方法を用いることができる。
乳化重合する際の温度は、例えば30~85℃とすることができる。
水系エマルジョンとポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)とを混合する工程では、例えばホモディスパー2.5型(PRIMIX社製)等を用いて撹拌し、混合することができる。
【0040】
[エチレン性不飽和単量体]
水性エマルジョンの材料として使用するエチレン性不飽和単量体は、上述したエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)と、上述したエチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)とを含む。
エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)は、エチレン性不飽和単量体の全体に対して80~99質量%含むことが好ましく、90~99質量%含むことがより好ましく、95~99質量%含むことがさらに好ましい。
エチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)は、エチレン性不飽和単量体の全体に対して0.1~20質量%含むことが好ましく、0.3~17質量%含むことがより好ましく、0.5~15質量%含むことがさらに好ましい。
エチレン性不飽和単量体は、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)とエチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)に加えて、上述した他の単量体を含んでいてもよい。
【0041】
[界面活性剤]
界面活性剤としては、一般に市販されている公知のものを用いることができ、エチレン性不飽和単量体および水性媒体(B)の種類などに応じて、適宜決定できる。界面活性剤として、具体的には、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び共重合性の乳化剤などを用いることができる。これらの界面活性剤は、単独であるいは二種以上を組み合わせて使用できる。また、本実施形態において、水系エマルジョンを得るための乳化重合に使用する界面活性剤の量は、特に制限されない。
【0042】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、及び脂肪酸塩等が挙げられる。
【0043】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン多環フィニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
カチオン性界面活性剤としては、例えば、セシルトリメチルアンモニウムブロミド、及びラウリルピリジニウムクロリド等が挙げられる。
【0044】
界面活性剤として、エチレン性炭素-炭素二重結合を有する共重合性の乳化剤を用いると、乳化重合により得られる水系エマルジョンに乳化剤を共有結合させることができるため、撥油剤組成物における乳化剤のブリードアウトが防止され、撥油剤組成物を用いて撥油処理を行った基材の安定性が良好となる。
界面活性剤として共重合性の乳化剤を用いた場合、共重合性の乳化剤の含有量は、水系エマルジョンの原料として使用したエチレン性不飽和単量体に含まれるものとする。
共重合性の乳化剤としては、例えば、以下の式(1)~(4)で表される化合物が挙げられる。
【0045】
【化1】

(式(1)中、Rはアルキル基であり、lは10~40の整数である。)
【0046】
【化2】

(式(2)中、mは10~40の整数であり、nは10~12の整数である。)
【0047】
【化3】

(式(3)中、Rはアルキル基であり、MはNHまたはNaである。)
【0048】
【化4】

(式(4)中、Rはアルキル基であり、MはNaである。)
上記式(1)、(3)、及び(4)中にあるRの好ましい例としては、例えば、C1021、C1225などが挙げられるが、これに限定されない。
【0049】
[重合開始剤]
乳化重合する際には、重合開始剤を使用することが好ましい。重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、過酸化水素、アゾ系化合物、有機過酸化物などの、公知慣用のものを使用できる。なお、これらの重合開始剤と還元剤との併用による、レドックス系開始剤を使用してもよい。
重合開始剤の使用量は、適正な重合速度とするために、エチレン性不飽和単量体の合計100質量部に対して0.01~1質量部であることが好ましく、より好ましくは0.05~0.8質量部であり、さらに好ましくは0.1~0.5質量部である。
【0050】
本実施形態の製造方法により得られた本実施形態の撥油剤組成物は、基材に高い撥油性を付与できる。この効果は、撥油剤組成物が、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)を含み、かつ共重合体(A)がエチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)に基づく構成単位を有することによるものである。
本実施形態の撥油剤組成物は、繊維、紙、ガラスなどの基材に対して、高い撥油性を付与できる。したがって、本実施形態の撥油剤組成物は、繊維の撥油処理に用いる繊維処理剤用の材料、紙の撥油処理に用いる紙処理剤用の材料、及びガラスなどの基材のコーティング剤用の材料として、好適である。
【0051】
「繊維処理剤」
本実施形態の繊維処理剤は、本実施形態の撥油剤組成物を含む。本実施形態の繊維処理剤は、本実施形態の撥油剤組成物をそのまま用いてもよいし、撥油剤組成物の他に必要に応じて、消泡剤、防腐剤、pH調整剤、界面活性剤、架橋剤、帯電防止剤、濡れ剤、増粘剤、顔料など、公知慣用の添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で、便宜選択して含有してもよい。
【0052】
本実施形態の繊維処理剤は、繊維に塗布して乾燥させる方法により、使用できる。
繊維に繊維処理剤を塗布する方法としては、従来公知の方法を用いることができる。例えば、ディッピング、スプレー塗布、及びロール塗布等により、繊維中に繊維処理剤を含浸させた後、マングルロールなどを用いて絞ることで、付着量を調整する方法などを用いることができる。
繊維処理剤の塗布された繊維の乾燥(熱処理)温度としては、80℃~170℃が好ましく、90℃~150℃がより好ましい。乾燥温度が80℃以上であれば乾燥速度が適切であり、170℃以下であれば成分の熱劣化が生じない。
繊維質量の10~30質量%(撥油剤組成物固形分)の付着量であれば良好な撥油性が得られる。
【0053】
本実施形態の繊維処理剤は、本実施形態の撥油剤組成物を含むため、繊維に対して高い撥油性を付与できる。繊維処理剤によって処理される繊維の形態は、短繊維(ファイバー)、リンター、ロービング、スライバー、ヤーン、織物、編物、及び不織布など、いずれの形態であってもよい。繊維処理される繊維の素材としては、綿、亜麻、黄麻、大麻、ラミー、再生繊維セルロース、レーヨン等のセルロース繊維、及び、ポリビニルアルコール系合成繊維などが挙げられる。繊維は、上記の素材を30%以上含むものが好ましい。
【0054】
「紙処理剤」
本実施形態の紙処理剤は、本実施形態の撥油剤組成物を含む。本実施形態の紙処理剤は、本実施形態の撥油剤組成物をそのまま用いてもよいし、撥油剤組成物の他に必要に応じて、消泡剤、防腐剤、pH調整剤、界面活性剤、架橋剤、帯電防止剤、濡れ剤、増粘剤、顔料など、公知慣用の添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で便宜選択して含有してもよい。
【0055】
本実施形態の紙処理剤は、紙に塗布して乾燥させる方法により、使用できる。
紙に紙処理剤を塗布する方法としては、従来公知の方法を用いることができる。例えば、ディッピング、スプレー塗布、及びロール塗布等により、紙中に繊維処理剤を含浸させた後、マングルロールなどを用いて絞ることで、付着量を調整する方法などを用いることができる。
紙処理剤の塗布された紙の乾燥(熱処理)温度としては、80℃~170℃が好ましく、90℃~150℃がより好ましい。乾燥温度が80℃以上であれば乾燥速度が適切であり、170℃以下であれば成分の熱劣化が生じない。
紙質量の10~30質量%(撥油剤組成物固形分)の付着量であれば良好な撥油性が得られる。
【0056】
実施形態の紙処理剤は、本実施形態の撥油剤組成物を含むため、紙に対して高い撥油性を付与できる。紙処理剤によって処理される紙としては、特に限定されないが、例えば、パルプセルロースからなる汎用の紙類などが挙げられる。
【0057】
「コーティング剤」
本実施形態のコーティング剤は、本実施形態の撥油剤組成物を含む。本実施形態のコーティング剤は、本実施形態の撥油剤組成物をそのまま用いてもよいし、撥油剤組成物の他に必要に応じて、消泡剤、防腐剤、pH調整剤、界面活性剤、架橋剤、帯電防止剤、濡れ剤、増粘剤、顔料など、公知慣用の添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で便宜選択して含有してもよい。
【0058】
本実施形態のコーティング剤は、基材に塗布して乾燥させる方法により使用できる。
基材にコーティング剤を塗布する方法としては、従来公知の方法を用いることができる。例えば、スプレー塗布、刷毛塗り、ローラー塗り、コテ塗り、ディッピング、エアナイフ、フローコート、バーコート、ロールコート、グラビアコート、及びアプリケーターなどを用いる方法等が挙げられる。
コーティング剤の塗布された基材の乾燥(熱処理)温度としては、80℃~170℃が好ましく、90℃~150℃がより好ましい。乾燥温度が80℃以上であれば乾燥速度が適切であり、170℃以下であれば成分の熱劣化が生じない。
基材質量の10~30質量%(撥油剤組成物固形分)の付着量であれば良好な撥油性が得られる。
【0059】
本実施形態のコーティング剤は、本実施形態の撥油剤組成物を含むため、基材に対して高い撥油性を付与できる。コーティング剤によってコーティングされる基材としては、例えば、ガラス、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリスチレン系樹脂等やそれらの成形品(フィルム、シート、カップ等)、及び金属などが挙げられる。
【0060】
「基材の撥油処理方法」
本実施形態の基材の撥油処理方法は、本実施形態の撥油剤組成物を基材に塗布し、80~170℃で熱処理する工程を含む。
基材に撥油剤組成物を塗布する方法としては、例えば、上記の繊維処理剤、紙処理剤、又はコーティング剤を塗布する方法と、同様の方法などを用いることができる。
撥油剤組成物の塗布された基材を熱処理する際の熱処理温度は、80~170℃とし、好ましくは100~150℃とする。熱処理温度が80℃以上であると、熱処理時間が短時間で済むため、高い生産性が得られる。また、熱処理温度が170℃以下であると、撥油剤組成物が熱処理によって変質することを防止できる。
熱処理する際の熱処理時間は、基材に対する撥油剤組成物の塗布量などに応じて決定でき、特に限定されない。
【実施例
【0061】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0062】
<実施例1>
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流冷却器、及び滴下ロートを取り付けた五つ口セパラブルフラスコに、水性媒体(B)としてのイオン交換水120gと、アニオン性界面活性剤であるニューレックスR(日本油脂社製:ノルマルドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)1gとを仕込み、80℃に昇温した。
【0063】
一方、1リットルビーカーに、水性媒体(B)としてのイオン交換水420gと、アニオン性界面活性剤(ニューレックスR)15gと、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)であるメチルメタクリレート(三菱レーヨン社製)70gおよび2-エチルヘキシルアクリレート(日本触媒社製)320gと、エチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)であるアクリル酸(日本触媒社製)10gとを仕込み、ホモミキサーで乳化し、混合乳化液を得た。
【0064】
上記のフラスコに、重合開始剤である過硫酸カリウムを0.3g仕込み、フラスコ内を80℃に保って、上記の混合乳化液と3質量%過硫酸カリウム水溶液44gとを、3時間かけてそれぞれ別のロートから滴下しながら撹拌し、乳化重合を行った。上記の混合乳化液と3質量%過硫酸カリウム水溶液の滴下終了後、1時間フラスコ内を80℃に保ち、熟成を行った。その後、フラスコ内の冷却を開始し、30℃まで冷却した後、25%アンモニア水にて中和を行ってpH7に調整し、400gの水系エマルジョンを得た。
【0065】
得られた水系エマルジョンに、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)として水酸基含有ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C1)であるBYK SILCLEAN3720(溶剤溶液タイプ、不揮発性成分10質量%(ビックケミー・ジャパン社製))を100g(400gの水性エマルジョン中に対し、不揮発性成分10g)添加して混合し、撥油剤組成物を得た。得られた撥油剤組成物の不揮発性成分(固形分濃度)は40質量%であった。
【0066】
<実施例2~10、比較例1~4>
エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)、エチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)の材料および含有量を、表1および表2に示す通り変更したこと以外は、実施例1と同様にして撥油剤組成物を製造した。
【0067】
<水系エマルジョン(Y)の合成>
イソステアリルアクリレートエマルジョンの合成
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流冷却器、及び滴下ロートを取り付けた五つ口セパラブルフラスコに、水性媒体(B)としてのイオン交換水120gと、アニオン性界面活性剤であるニューレックスR(日本油脂社製:ノルマルドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)1gとを仕込み、80℃に昇温した。
【0068】
一方、1リットルビーカー中で、水性媒体(B)としてのイオン交換水520gと、アニオン性界面活性剤(ニューレックスR)15gと、炭素原子数8~18の鎖状炭化水素基を有するアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(D1)としての、イソステアリルアクリレート(大阪有機化学工業社製)300gとを混合し、ホモミキサーで乳化して、混合乳化液を得た。
【0069】
上記のフラスコに、重合開始剤である過硫酸カリウムをさらに0.3g仕込んだ。そして、フラスコ内を80℃に保ち、上記の混合乳化液と、3質量%過硫酸カリウム水溶液44gとを、3時間かけてそれぞれ別のロートから滴下し、滴下しながら撹拌し、乳化重合を行った。上記の混合乳化液と3質量%過硫酸カリウム水溶液の滴下終了後、1時間フラスコ内を80℃に保ち、熟成を行った。その後、フラスコ内の冷却を開始し、30℃まで冷却した後、25%アンモニア水にて中和を行ってpH7に調整した。その結果、1000gの炭素原子数8~18の鎖状炭化水素基を有する重合体(D)30質量%を含む水性エマルジョン(イソステアリルアクリレートエマルジョン)を得た。
【0070】
イソステアリルアクリレート/メチルメタクリレート共重合エマルジョンの合成
炭素原子数8~18の鎖状炭化水素基を有するアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(D1)として、イソステアリルアクリレート150gとメチルメタクリレート150gを用いた以外は、上記イソステアリルアクリレートエマルジョンを得た方法と同様にして、イソステアリルアクリレート/メチルメタクリレート共重合エマルジョンを得た。
【0071】
ラウリルアクリレートエマルジョンの合成
炭素原子数8~18の鎖状炭化水素基を有するアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(D1)として、ラウリルアクリレート300gを用いた以外は、上記イソステアリルアクリレートエマルジョンを得た方法と同様にして、ラウリルアクリレートエマルジョンを得た。
【0072】
<実施例11~14、比較例5>
以下に述べる以外は、実施例1と同様にして撥油剤組成物を製造した。
エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)、エチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)、材料および含有量を、表1および表2に示す通り変更した。ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)の混合工程において、炭素原子数8~18の鎖状炭化水素基を有する重合体(D)を含む水性エマルジョン(Y)を、表1および表2に示す材料および含有量で加えた。
【0073】


【表1】
【0074】
【表2】
◎: 非常に良い
○: 良い
△:やや良いが、良いよりは悪い
×:悪い
【0075】
表1および表2中における(A)は、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)に基づく構成単位とエチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)に基づく構成単位とを有する共重合体を示す。表1および表2中における共重合体(A)の生成量は、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)とエチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)との合計量(400質量部)であると見なす。表1および表2中のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(A1)におけるブチルアクリレートおよびエチルアクリレートは日本触媒製のものである。
【0076】
また、表1および表2中の、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)における水酸基含有ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C2)は、TEGO(登録商標)Protect 5100N(乳化タイプ、不揮発性成分10質量%(エボニックジャパン製))である。ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C3)はKP-109(溶剤溶液タイプ、不揮発性成分10質量%、分子量17000(信越化学工業製))である。
【0077】
[撥油性評価]
実施例1~14及び比較例1~5で得られた撥油剤組成物を用いて、以下に示す、基材の撥油処理を行う第1試験および第2試験を行い、撥油処理後の基材の撥油性を評価した。
その結果を表1および表2に示す。
【0078】
「第1試験」
水で2倍に希釈した撥油剤組成物に、基材である綿布(綿金巾3号)を浸漬させて、基材質量の20質量%(撥油剤組成物固形分)の付着量で塗布した。これを、オーブンを用いて130℃で5分間熱処理して乾燥させ、試験布を得た。
得られた試験布の片面に、AATCC118法の撥油性試験に規定される撥油1級の試験液(ヌジュール)0.03mlを静かに置き、1分後の試験液の状態を目視にて観察した。結果を、下記の基準により評価した。なお、試験布および試験液として、23℃のものを用いた。また、試験布への試験液の静置および目視観察は、23℃の恒温室で行った。
【0079】
(基準)
◎;試験液が球滴を保っている。(非常に良い)
○;試験液の球滴が崩れて試験布上に試験液が濡れ広がるが、試験布には浸み込まない。(良い)
△;試験液の静置後30秒超~1分以内に試験液が試験布に浸み込む。(やや良いが、良いよりは悪い)
×;試験液の静置後30秒以内に試験液が試験布に浸み込む。(悪い)
【0080】
「第2試験」
撥油剤組成物を基材であるガラス板に、乾燥前の厚みが150μmとなるようにアプリケーターを用いて塗布した。これを、オーブンを用いて130℃で5分間熱処理して乾燥させ、試験体(コーティング材料)を得た。
得られた試験体の撥油剤組成物を塗布した面に、AATCC118法の撥油性試験に規定される撥油1級の試験液(ヌジュール)2μlを静かに置き、10秒後の試験液の接触角を、自動接触角計CA-VP型(協和界面科学社製)を用いθ/2法にて測定した。接触角が55°以上である場合、撥油性が良好であると評価した。
[撥水性の評価]
JIS L1092 はっ水度試験(スプレー試験)に基づき評価を行った。試験布、及び試験液を共に23℃に保管した物を用いた。室温23℃の恒温室において、実施例および比較例で得られた綿試験布の片面の撥水性評価を行った。基準は以下の通りである。
1級:表面全体に湿潤を示すもの。
2級:表面の半分に湿潤を示し,小さな個々の湿潤が布を浸透する状態を示すもの。
3級:表面に小さな個々の水滴状の湿潤を示すもの。
4級:表面に湿潤しないが,小さな水滴の付着を示すもの。
5級:表面に湿潤及び水滴の付着がないもの
【0081】
表1と2に示すように、実施例1~実施例14の撥油剤組成物を用いて基材の撥油処理を行った第1試験の結果は、◎(非常に良い)、○(良い)、△(やや良いが、良いよりは悪い)のいずれかであり、第2試験の結果は接触角が55°以上であった。このことから、実施例1~実施例14の撥油剤組成物は、基材に高い撥油性を付与できることが分かった。中でも、実施例11~実施例14の結果より、重合体(D)を含む撥油剤組成物は、撥油性に加えて高い撥水性を付与できることが分かった。
【0082】
これに対し、表1や2に示すように、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)を含まない比較例1や、エチレン性不飽和カルボン酸単量体(A2)を用いなかった比較例2~5の撥油剤組成物を用いた場合は、いずれも、第1試験の結果は×(悪い)であり、第2試験の結果は接触角が55°未満であった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の撥油剤組成物は、共重合体(A)、水性媒体(B)、及びポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(C)を含む。本発明は、基材に高い撥油性を付与できる撥油剤組成物および撥油剤組成物の製造方法を提供する。