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特許7173975高純度の両親媒性アリールスルホン酸アミン塩ビニルモノマーとその(共)重合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】高純度の両親媒性アリールスルホン酸アミン塩ビニルモノマーとその(共)重合物
(51)【国際特許分類】
   C07C 309/29 20060101AFI20221109BHJP
   C07C 211/35 20060101ALI20221109BHJP
   C07C 211/08 20060101ALI20221109BHJP
   C07C 209/68 20060101ALI20221109BHJP
   C07C 303/22 20060101ALI20221109BHJP
   C08F 12/14 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C07C309/29 CSP
C07C211/35
C07C211/08
C07C209/68
C07C303/22
C08F12/14
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019535650
(86)(22)【出願日】2018-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2018029428
(87)【国際公開番号】W WO2019031454
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2017152646
(32)【優先日】2017-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182073
【弁理士】
【氏名又は名称】萩 規男
(72)【発明者】
【氏名】重田 優輔
(72)【発明者】
【氏名】尾添 真治
(72)【発明者】
【氏名】藤 彰宏
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭48-065237(JP,A)
【文献】特開昭51-026842(JP,A)
【文献】特開昭50-149642(JP,A)
【文献】特開昭47-017731(JP,A)
【文献】LIU Yuqing et al.,Synthesis and Characterization of Poly(trialkylammonium styrenesulfonate) Polymers,PMSE Preprints,2010年,ISSN 1550-6703, Poceedings Published 2010 by the American Chemical Society
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式(1)中、Rは、水素またはエテニル基である。)で表されるアリールスルホン酸と、
N,N-ジメチルシクロヘキシルアミンまたはN,N-ジイソプロピルエチルアミンと、
の塩であり、
水への溶解度が10重量%以上である、
アリールスルホン酸アミン塩。
【請求項2】
パラスチレンスルホン酸とN,N―ジメチルシクロヘキシルアミンとの塩である、請求項1に記載のアリールスルホン酸アミン塩。
【請求項3】
N,N-ジメチルシクロヘキシルアミンまたはN,N-ジイソプロピルエチルアミンのいずれかの3級アミンを冷却しながら鉱酸及び水を加えて前記3級アミンの塩の水溶液を得た後、
下記式(5)
【化5】
(式(5)中、Rは水素またはエテニル基であり、Mは水素、アルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンを表す。)で表されるアリールスルホン酸またはその塩を加え、反応させる、
請求項1に記載のアリールスルホン酸アミン塩の製造方法。
【請求項4】
下記式(7)
【化7】
(式(7)中、Rは水素またはエテニル基である。)で表されるアリールスルホン酸の水溶液もしくは有機溶媒の溶液に対し、
N,N-ジメチルシクロヘキシルアミンまたはN,N-ジイソプロピルエチルアミンを、混合し、加熱することで反応させる、
請求項1に記載のアリールスルホン酸アミン塩の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載のアリールスルホン酸アミン塩を重合してなるアリールスルホン酸アミン塩の重合物。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載のアリールスルホン酸アミン塩と溶媒を混和後溶解させ、必要に応じて分子量調節剤や乳化剤を加え、窒素雰囲気下、ラジカル重合開始剤を加え、加熱撹拌して反応させる、アリールスルホン酸アミン塩の重合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存安定性に優れた高純度の両親媒性アリールスルホン酸アミン塩ビニルモノマー、およびこのアリールスルホン酸アミン塩ビニルモノマーを原料として用いることで得られる高純度アリールスルホン酸アミン塩重合物に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレンスルホン酸ナトリウムに代表されるスチレンスルホン酸塩類は、界面活性とカチオン交換能を有する機能性モノマーであり、エマルション重合用の反応性乳化剤の他、水系レオロジー制御剤、水系分散剤、水系洗浄剤、水系帯電防止剤、導電性ポリマー水性コロイドのドーパント、イオン交換膜を製造するための原料モノマーとして、産業上の幅広い分野で利用されている。
【0003】
しかしながら、良く知られているスチレンスルホン酸のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、リチウム塩は水溶性が極めて高く、油溶性が乏しいため、水系用途に限定されている。例えば、樹脂やエラストマーの帯電防止を目的として、各種帯電防止剤が添加されるが、帯電防止性の長期保持と耐熱性の観点から、アニオン性ポリマー型の帯電防止剤が最適と考えられているが、実際には、ポリスチレンスルホン酸塩などのアニオン性ポリマーは、樹脂やエラストマーとの相溶性が極めて悪いため、少なくとも単独での使用は困難である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1は高分子物質内部用帯電防止剤に関して開示している。しかしながら、水ないし温湯には不溶ないし難溶性のものの例示がほとんどであって、中和アミンの構造によっては水分散性ないし水溶性にできるとされるものの、具体的なアミンの構造については何ら記載がない。
【0005】
従って、一般に、カチオン性ポリマーやノニオン性ポリマーが使用されているが、カチオン性ポリマーは耐熱性が乏しく、また多量のハロゲンを含むため、電子部品用途への適用が難しく、ノニオン性ポリマーは帯電防止能と耐熱性が乏しいという課題があった。
【0006】
一方、水系用途においても、上記したスチレンスルホン酸塩は、油溶性が乏しいため、あるいは金属分を含むため使用に制限がある。例えば、スチレンスルホン酸塩をO/W型エマルション重合用の反応性乳化剤として用いる場合、その添加量は、エマルションのベースとなるメタクリル酸エステルやスチレンなどの油溶性モノマーに対して5wt%(重量%)程度が上限だった。即ち、エマルションの安定性をさらに改良したり、エマルション粒子表面のスルホン酸濃度を高めるために、例えばスチレンスルホン酸塩の添加量を10wt%程度まで増量すると、重合中に激しい凝集が起こり、安定なエマルション粒子を得ることは困難だった。スチレンスルホン酸塩のほぼ全てが水相に存在するため、水相でスチレンスルホン酸塩を主成分とするポリマーが生成するためと考えられる。また、スチレンスルホン酸アルカリ金属塩を用いて塗料、接着剤用のエマルションを製造する場合、スチレンスルホン酸アルカリ金属塩の添加によって、エマルションの安定性は向上するが、アルカリ金属が原因で釘などの金属部材が腐食し易くなるため、添加量は大きく制限されていた。
【0007】
また、繊維、膜、不織布などの基材表面にラジカル重合性モノマーをグラフト重合する方法により、カチオン交換繊維や膜が製造されている。酸アルカリに対する耐久性が優れることから、基材としては主にポリオレフィンが使用される。しかしながら、親水性が乏しいポリオレフィンをスチレンスルホン酸塩の水溶液に浸漬しても、スチレンスルホン酸塩がポリオレフィンへ分子レベルで接触できないため、グラフト重合の効率は極めて低い。そのため、非特許文献1に記載されるように、親水性を帯びたナイロンにスチレンスルホン酸塩をグラフト重合したり、油溶性のメタクリル酸グリシジルをポリオレフィンにグラフト重合後、スルホン酸基を導入する方法が行われている。しかしながら、ナイロン基材及びメタクリル酸グリシジルを用いて得られたカチオン交換繊維や膜は、何れも加水分解性を有するアミド基やエステル基を含むため、酸アルカリに対する耐久性に課題があった。
【0008】
そこで、化学的安定性に優れるポリオレフィンやポリエーテルエーテルケトンなどの基材に、化学的安定性が優れるスチレンスルホン酸をグラフト重合するための方法として、例えば、特許文献2のようなスチレンスルホン酸エステルの使用が盛んに検討されている。しかしながら、例えば、特許文献3や特許文献4に記載されるように、スチレンスルホン酸エステルは、スチレンスルホン酸ナトリウムを出発原料として、煩雑なプロセスを経て製造されるため、極めて高価である他、蒸留精製が困難なため、高純度品の製造が困難だった。
【0009】
さらに、スチレンスルホン酸エステルを用いる場合、グラフト重合した後、酸やアルカリでスルホン酸エステルを加水分解し、スルホン酸へ変換する新たな工程が必要となり、工業生産には不向きであった。
【0010】
一方、スチレンスルホン酸を難水溶性有機アミンの塩とすることで、油溶性を向上させる方法も知られている。例えば、非特許文献2や非特許文献3に記載のトリオクチルアミンのような長鎖のアルキルアミンを用いたスチレンスルホン酸アミン塩は、トルエンのような芳香族炭化水素に可溶である。しかしながら、多数のメチレン基を持つため、スチレンスルホン酸塩の単位重量当たりのスルホン酸官能性の低下や、グラフト重合する際に連鎖移動反応が起こり易くなる(重合速度の低下やグラフトポリマーの重合度低下につながる)などの課題があった。
【0011】
また、スチレンスルホン酸アミン塩ではなく、ポリスチレンスルホン酸アミン塩も報告されている。例えば、特許文献1では、ポリスチレンをスルホン化した後、炭素数8以上のアミンで中和して得られるポリスチレンスルホン酸アミン塩は、樹脂との相溶性が改善されており、帯電防止剤として有用である旨記載されている。
【0012】
特許文献5では、特許文献1と同様にポリスチレンをスルホン化した後、トリラウリルアミンで中和して得られるポリスチレンスルホン酸トリラウリルアミン塩と、トリラウリルアミン硫酸塩からなる組成物が、従来の課題だった低湿度での帯電防止性を改善する旨記載されている。
【0013】
また、特許文献6では、ポリスチレンスルホン酸を有機アミンで中和し、アルコール溶媒に溶解した後、乾燥させることで、帯電防止剤用途として有用な高分子スチレンスルホン酸有機アミン塩を得ている。
【0014】
しかしながら、高純度化という点において、特許文献1や特許文献5はスルホン化工程において十分なスルホン化が行われず、また、特許文献6においては高純度体を得るために、有機溶媒の効率的な分離に煩雑な操作を必要であった。このため、十分なスルホン化率にはまだ到達できず、また各種不純物による純度の低下という課題が残されていた。さらに、これらポリスチレンスルホン酸アミン塩はポリマーであるため、上記した乳化重合用の反応性乳化剤、あるいはカチオン交換膜製造用のモノマーとしての使用は困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開昭48-65237号公報
【文献】特開2014-32952号公報
【文献】米国特許第8093342号明細書
【文献】特開2003-34676号公報
【文献】特開平08-104787号公報
【文献】特開2000-273119号公報
【非特許文献】
【0016】
【文献】斉藤恭一著、「グラフト重合による高分子吸着材革命」9頁、平成26年、丸善出版発行
【文献】Macromolecular Reaction Engineering,vol.5(11),575-586,2011
【文献】Polymer,vol.50(26),6212-6217,2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明者らが検討した結果、油溶性を有した従来のスチレンスルホン酸アミン塩は保存安定性が極めて悪いこと、すなわち自然重合により純度低下し易いことが判明した。さらに、油溶性が高いメリットがある一方、水溶性が乏しいため、スチレンスルホン酸塩の用途が逆に狭められるという課題があった。
【0018】
例えば、スチレンスルホン酸アルカリ金属塩の代わりにスチレンスルホン酸トリオクチルアミンを用いて塗料、接着剤用のエマルションを製造できれば、金属腐食性がない極めて安定性の高いエマルションを製造できることが期待できるが、本発明者らが検討した結果、スチレンスルホン酸トリオクチルアミンは水溶性が乏しいため、エマルション重合が進行し難いことが判明した。
【0019】
本発明は、上記の背景及び課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、優れた保存安定性、水と有機溶媒の両方に可溶な両親媒性を併せ持った、産業上極めて有用なアリールスルホン酸ビニルモノマーである高純度アリールスルホン酸アミン塩ビニルモノマーと、その簡便かつ実用的な製造方法、並びにその重合物である高純度ポリアリールスルホン酸アミン塩とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、パラスチレンスルホン酸化合物または特定の式(1)で表されるアリールスルホン酸化合物および特定の式(2)で表されるアリールスルホンイミド化合物のアリールスルホン酸塩類に関し、特定の式(3)で示される3級アミンのアリールスルホン酸アミン塩とすることで、優れた保存安定性、有機溶媒や水に対して良好な溶解性等の特異な性質を示すことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0021】
すなわち本発明は、下記式(1)
【化1】
(式(1)中、Rは、水素またはエテニル基である。)
または、下記式(2)
【化2】
(式(2)中、Rは、エテニル基、4-エテニルフェニル基、フッ素、任意の数の置換基を有する炭素数1~10の直鎖もしくは分岐鎖アルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基、または炭素数3~10の環状アルキル基である。)で表されるアリールスルホン酸と、
下記式(3)
【化3】
(式(3)中、
、RおよびRの構造が全て異なるか、又はR、RおよびRの内のいずれか2つの構造が同じであり、
、RおよびRは、各々独立して、炭素原子数1~7の直鎖もしくは分岐鎖もしくは環式の飽和炭化水素基、炭素原子数1~7のアリール基または炭素原子数1~7のヒドロキシアルキル基であり、
、RおよびRの内の少なくとも1つが三級炭素もしくは四級炭素を有するか、又は環構造を有し、
前記環構造は、アリール基、5員環もしくは6員環のシクロアルキル基、R、RおよびRの内のいずれか2つが互いに結合した5員環もしくは6員環、またはR、RおよびRの内のいずれか2つが酸素原子を介して互いに結合した5員環もしくは6員環である。)で表される3級アミンと、
の塩である、アリールスルホン酸アミン塩に係る。
【0022】
また本発明は、前記式(3)中、
、RおよびRの構造が全て異なるか、又はR、RおよびRの内のいずれか2つの構造が同じであり、
、RおよびRは、各々独立して、炭素原子数1~7の直鎖もしくは分岐鎖もしくは環式の飽和炭化水素基、炭素原子数1~7のアリール基または炭素原子数1~7のヒドロキシアルキル基であり、
、RおよびRの内の少なくとも1つが環構造を有し、
前記環構造は、アリール基、5員環もしくは6員環のシクロアルキル基、R、RおよびRの内のいずれか2つが互いに結合した5員環もしくは6員環、またはR、RおよびRの内のいずれか2つが酸素原子を介して互いに結合した5員環もしくは6員環である、上記のアリールスルホン酸アミン塩に係る。ここで、R、RおよびRの内の少なくとも1つが環構造を有することがあるとは、環構造を有すること及び有しないことのいずれも含まれることを言う。
【0023】
また本発明は、前記式(1)又は(2)中、
は、水素またはエテニル基であり、
は、エテニル基、4-エテニルフェニル基又はトリフルオロメチル基である、上記のアリールスルホン酸アミン塩に係る。
【0024】
また本発明は、パラスチレンスルホン酸とN,N―ジメチルシクロヘキシルアミンとの塩である、上記のアリールスルホン酸アミン塩に係る。
【0025】
また本発明は、下記式(4)
【化4】
(式(4)中、R、RおよびRは、前記式(3)と同じ。)で表される3級アミンを冷却しながら鉱酸を加えて塩を得た後、
下記式(5)
【化5】
(式(5)中、Rは、前記式(1)と同じであり、Mは水素、アルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンを表す。)
または下記式(6)
【化6】
(式(6)中、Rは、前記式(2)と同じであり、Mは水素、アルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンを表す。)で表されるアリールスルホン酸またはその塩を加え、反応させる、アリールスルホン酸アミン塩の製造方法に係る。
【0026】
また本発明は、下記式(7)
【化7】
(式(7)中、Rは、前記式(1)と同じ。)
または下記式(8)
【化8】
(式(8)中、Rは、前記式(2)と同じ。)で表されるアリールスルホン酸の水もしくは有機溶媒の溶液に対し、
下記式(9)
【化9】
(式(9)中、R、RおよびRは、前記式(3)と同じ。)で表される3級アミンとを混合し、加熱することで反応させる、アリールスルホン酸アミン塩の製造方法に係る。
【0027】
また本発明は、上記のアリールスルホン酸アミン塩を重合してなるアリールスルホン酸アミン塩の重合物に係る。
【0028】
また本発明は、上記のアリールスルホン酸アミン塩を任意の溶媒に溶解させ、必要に応じて乳化剤や分子量調節剤を加えて溶解させた後、窒素雰囲気下、ラジカル重合開始剤を加え、加熱撹拌して反応させる、アリールスルホン酸アミン塩の重合物の製造方法に係る。
【発明の効果】
【0029】
本発明のアリールスルホン酸アミン塩モノマーは、高純度で保存安定性が高く、両親媒性を有するアリールスルホン酸化合物であり、樹脂やゴムの帯電防止、ポリオレフィンへのグラフト重合など、従来のアリールスルホン酸塩モノマーでは困難だった親油性が必要な用途だけでなく、エマルション重合用の反応性乳化剤など、従来のアリールスルホン酸アミン塩モノマーでは困難だったある程度の水溶性が必要な用途へも適用可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】実施例1で得られたパラスチレンスルホン酸 N、N―ジメチルシクロヘキシルアミン塩(CHASSと略称)のプロトンNMRスペクトルを示し、図中のプロトンH、H、H、HD、、H、H、H、HJ、、H、H、Hは、それぞれ図2のプロトンH、H、H、HD、、H、H、H、HJ、、H、H、Hに対応している。
図2】実施例1で得られたパラスチレンスルホン酸 N、N―ジメチルシクロヘキシルアミン塩のプロトンNMRスペクトルから同定した構造式を示す。
図3】実施例3で得られたパラスチレンスルホン酸 N、N―ジイソプロピルエチルアミン塩(DIPEASSと略称)のプロトンNMRスペクトルを示し、図中のプロトンH、H、H、HR、、H、H、H、HW、は、それぞれ図4のプロトンH、H、H、HR、、H、H、H、HW、に対応している。
図4】実施例3で得られたパラスチレンスルホン酸 N、N―ジイソプロピルエチルアミン塩のプロトンNMRスペクトルから同定した構造式を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、パラスチレンスルホン酸化合物または特定の式(1)で表されるアリールスルホン酸化合物および特定の式(2)で表されるアリールスルホンイミド化合物などのアリールスルホン酸塩類に関し、特定の式(3)で示される3級アミンのアリールスルホン酸アミン塩とその重合物に係る。
【0032】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜変形して実施できる。
【0033】
<アリールスルホン酸アミン塩>
本実施形態のアリールスルホン酸アミン塩ビニルモノマーは、下記式(1)または、下記式(2)で表されるアリールスルホン酸と、下記式(3)で表される3級アミンと、の塩であるアリールスルホン酸アミン塩、並びにその重合物である。
【化1】
(式(1)中、Rは、水素またはエテニル基を表す。)
【化2】
(式(2)中、Rは、エテニル基、4-エテニルフェニル基、フッ素、任意の数の置換基を有する炭素数1~10の直鎖もしくは分岐鎖アルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基、または炭素数3~10の環状アルキルである。)
【化3】
(式(3)中、R、RおよびRの構造が全て異なるか、又はR、RおよびRの内のいずれか2つの構造が同じであり、
、RおよびRは、各々独立して、炭素原子数1~7の直鎖もしくは分岐鎖の飽和炭化水素基、アリール基またはヒドロキシアルキル基であり、
、RおよびRの内の少なくとも1つが該構造中に三級炭素もしくは四級炭素を有するか、又は環構造を有し、
前記環構造は、アリール基、5員環もしくは6員のシクロアルキル基、R、RおよびRの内のいずれか2つが互いに結合した5員環もしくは6員環、またはR、RおよびRの内のいずれか2つが酸素原子を介して互いに結合した5員環もしくは6員環である。)。
【0034】
本実施形態における、アリールスルホン酸化合物の具体例、3級アミン化合物の具体例は後述する。
【0035】
<アリールスルホン酸アミン塩の製造方法>
本実施形態のアリールスルホン酸アミン塩ビニルモノマーの製造方法は、特に限定はされないが、その一例として、撹拌機、冷却管、滴下管を取り付けた反応器に、窒素雰囲気下、アリールスルホン酸金属塩の溶液を仕込み、ここに3級アミンの無機酸塩の溶液を滴下し、均一系または2層系にて塩交換を行う方法により製造できる。この際、3級アミン無機酸溶液を反応器に仕込み、アリールスルホン酸金属塩溶液を滴下しても良い。
【0036】
仕込み時のアリールスルホン酸金属塩/3級アミン無機酸塩のモル比は、特に限定はされないが、0.5~4.0が好ましく、原料又は副生成物の除去の観点から、0.8~1.5が特に好ましい。
【0037】
上記製造法において、アリールスルホン酸金属塩の金属としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウムのようなアルカリ金属またはアルカリ土類金属類が挙げられ、入手容易性および晶析性の観点から、特にナトリウムが望ましい。
【0038】
3級アミン無機酸塩における無機酸に関しては、特に限定はしないが、例えば、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウ酸、フッ化水素酸、臭化水素酸、シアン化水素酸、ヘキサフルオロリン酸などが挙げられ、その性状は、いずれの性状でも支障なく、ガス、水溶液、有機溶媒溶液等の形態を挙げることができ、入手容易性と取り扱いやすさの観点から、塩酸ガスまたは塩酸水溶液が好ましい。
【0039】
反応器に仕込む反応溶媒および滴下溶液に用いる溶媒(滴下溶媒)は、アリールスルホン酸アルカリ金属及び3級アミン無機酸塩が溶解する組成であれば、特に制限はなく、反応溶媒と滴下溶媒は同一のものでも異なったものでもよい。
【0040】
例えば、水、アセトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等の水または水溶性溶媒や、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン等の芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン等の脂肪族ハロゲン化合物類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒あるいはその混合物を挙げることができる。
【0041】
アリールスルホン酸金属塩の溶媒に関しては、水または水と水溶性溶媒との混合溶液が好ましく、アミン無機酸塩の溶媒に関しては、アミンの性状により異なるが、水または水と水溶性溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒は、アミン無機塩の溶解性が高く、除去も容易なため好ましい。
【0042】
アリールスルホン酸アミン塩の濃度は、仕込全量に対して5wt%(重量%)~79wt%であり、反応促進と副生成物抑制の観点から10wt%~70wt%が好ましい。
【0043】
反応温度は-20℃~50℃が好ましく、加熱重合の懸念からさらに好ましくは0℃~30℃である。
【0044】
例示した方法で得られたアリールスルホン酸アミン塩ビニルモノマーは、反応終了後の反応液から、ろ過、抽出、晶析などの定法により分離、精製することができる。分離、精製の方法は、主に用いる3級アミンの物性によって異なり、例えば、抽出により目的物を単離する場合、水層に副生した金属無機酸塩、未反応のアリールスルホン酸金属塩及びアミン無機酸塩、有機層にアリールスルホン酸アミン塩が溶解することが多い。
【0045】
抽出溶媒としては、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン等のハロゲン系溶媒、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒など有機溶媒の単一あるいは混合溶媒が挙げられる。
【0046】
本実施形態のアリールスルホン酸アミン塩ビニルモノマーの製造方法の他の例として、ハロエチルアリールスルホン酸の脱ハロゲン化反応とスルホン酸の中和を同時に行う方法が挙げられる。
【0047】
パラスチレンスルホン酸アミン塩を例に挙げると、まず、撹拌機、冷却管を取付けた反応器に4-(2-ハロエチル)ベンゼンスルホン酸溶液とラジカル重合禁止剤を仕込み、十分脱酸素し、所定温度まで昇温した後、3級アミンまたはその溶液を連続的に滴下し、ビニル化反応(脱ハロゲン化)することにより、パラスチレンスルホン酸アミン塩を製造することができる。あるいは、反応器に3級アミンまたはその溶液と重合禁止剤を仕込み、十分脱酸素し、所定温度まで昇温した後、4-(2-ハロエチル)ベンゼンスルホン酸溶液を連続的に滴下しながらビニル化反応しても良い。また、反応器に重合禁止剤と3級アミンまたはその溶液の一部を仕込み、十分脱酸素し、所定温度まで昇温した後、4-(2-ハロエチル)ベンゼンスルホン酸溶液と残りのアミン溶液を連続的に滴下しながらビニル化反応しても良い。
【0048】
本発明の製造方法に用いられることがある、重合禁止剤は特に限定されるものではないが、例えば、亜硝酸アルカリ金属塩、ハイドロキノン、メトキシハイドロキノン、アントラキノンスルホン酸塩、アンモニウムニトロソフェニルヒドロキシルアミン、N-ニトロソフェニルヒドロキシアミンアルミニウム塩、2-t-ブチルハイドロキノン、4-t-ブチルカテコールなどがあげられる。
【0049】
重合禁止剤の添加量は、アリールスルホン酸アミン塩に対して10ppm~1wt%とすることが好ましい。
【0050】
反応器に仕込む反応溶媒および滴下溶液に用いる溶媒は、ハロエチルアリールスルホン酸及び3級アミンが溶解する組成で、反応に影響を与えないものであれば、特に制限はなく、例えば、水、アセトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等の水または水溶性溶媒や、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン等の芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン等の脂肪族ハロゲン化合物類であり、脱ハロゲン化の進行し易さや基質の溶解性の観点から、水、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタンが好ましい。
【0051】
上記の製造方法において、ビニル化反応、及び反応液の冷却によってパラスチレンスルホン酸アミン塩が析出する。この結晶を遠心濾過等の方法により濾別し、パラスチレンスルホン酸アミン塩の含水塩を得ることができる。その後、溶媒洗浄や真空乾燥等によりさらに水分を削減しても良い。さらに、ジビニルベンゼンスルホン酸塩に含まれる無機塩等の無機及び有機不純物を取り除くため、水、水及び水溶性溶剤混合溶媒、任意の有機溶媒等を用いて再結晶精製やリパルプ精製しても良い。
【0052】
精製溶液は、特に限定されるものではないが、水溶性溶剤は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、ブタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル等、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン等の直鎖状脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン等の芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン等の脂肪族ハロゲン化合物類があげられる。
【0053】
<アリールスルホン酸>
本実施形態に用いるアリールスルホン酸の具体例としては、芳香環に一つまたは二つのビニル基を有する化合物であれば特に限定はされないが、一般式(1)に示されるパラスチレンスルホン酸、オルトスチレンスルホン酸、メタスチレンスルホン酸、オルトジビニルベンゼンスルホン酸、メタジビニルベンゼンスルホン酸、パラジビニルベンゼンスルホン酸、下記式(2)のRは具体的に、エテニル基、4-エテニルフェニル基、トリフルオロメチル基、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1-エチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロプロピル基、1-メチルシクロブチル基、2-メチルシクロブチル基、1-メチルシクロペンチル基、2-メチルシクロペンチル基、1-メチルシクロヘキシル基、2-メチルシクロヘキシル基、3-メチルシクロヘキシル基、1,1-ジメチルシクロプロピル基、1,2-ジメチルシクロプロピル基、1,1-ジメチルシクロブチル基、1,2-ジメチルシクロブチル基、1,3-ジメチルシクロブチル基、2,2-ジメチルシクロブチル基等が挙げられ、反応を阻害しない範囲で任意の位置に置換基を有していてもよい。中でも、一般式(1)においては、パラスチレンスルホン酸、パラジビニルベンゼンスルホン酸、メタジビニルベンゼンスルホン酸、一般式(2)のRにおいては、エテニル基、4-エテニルフェニル基、トリフルオロメチル基が原料入手の観点から好ましい。
【0054】
<3級アミン>
本実施形態に用いる一般式(3)の3級アミンは、前記の通りであるが、中でも、R、RおよびRのうち少なくとも一つが5員環または6員環のシクロアルキル基を含むか、R、RおよびRの内のいずれか2つ、例えばRとRとが互いに結合した5員環または6員環を形成するか、R、RおよびRの内のいずれか2つ、例えばRとRとが酸素原子を介して互いに結合した5員環または6員環を形成するのが好ましい。また、上記式(3)で表されるアミン化合物は、2つ以上の環構造を含んでいてもよい。
【0055】
一般式(3)で表されるアミン化合物の具体例としては、特に限定されないが、例えば、N,N-ジメチルベンジルアミン、N,N-ジエチルベンジルアミン、N,N-ジベンジルメチルアミン、N,N-ジメチル-4-メチルベンジルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N-ジエチルシクロヘキシルアミン、N,N-ジシクロヘキシルメチルアミン、N,N-ジシクロヘキシルエチルアミン、N-メチルピロリジン、N-エチルピロリジン、N-プロピルピペリジン、N-ブチルピペリジン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、N-プロピルモルホリン、N-ブチルモルホリン、N-sec-ブチルモルホリン、N-tert-ブチルモルホリン、N-イソブチルモルホリン、N,N-ジイソプロピルメチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)ベンジルアミン、N-メチルジフェニルアミン等が例示される。特に好ましくは、溶解性と保存安定性の観点からN,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、N-メチルピペリジン、N-エチルモルホリンである。
【0056】
アリールスルホン酸の分子量/3級アミン化合物の分子量の比率は、好ましくは0.8~2.0、より好ましくは1.3~2.0である。アリールスルホン酸の分子量/3級アミン化合物の分子量の比率が0.8以下、即ち3級アミンの分子量が大きすぎる場合、アリールスルホン酸アミン塩の単位重量当たりのスルホ基の重量部が小さくなり、油溶性が過剰になる結果、両親媒性が損なわれることがある。また、アリールスルホン酸の分子量/3級アミン化合物の分子量の比率が2.0以上の場合、即ち3級アミンの分子量が小さすぎる場合、油溶性が不足する結果、両親媒性が損なわれることがある。
【0057】
<アリールスルホン酸アミン塩(共)重合体>
本実施形態で示される高純度アリールスルホン酸アミン塩の単量体を用いた、高純度アリールスルホン酸アミン塩(共)重合体の製造法は、特に限定するものではないが、一般的な塊状重合、溶液重合、分散重合、懸濁重合、乳化重合などのラジカル重合による方法により合成が可能である。
【0058】
例えば、溶液ラジカル重合の場合、反応容器に、任意の溶媒ならびに本実施形態で示されるアリールスルホン酸アミン塩、及び必要に応じてアリールスルホン酸アミン塩とラジカル共重合可能なコモノマー混合物の均一溶液を仕込み、必要に応じて分子量調節剤を加え、系内を窒素フローや減圧と窒素導入を繰り返すなどの方法により脱酸素した後、所定温度に加熱し、ラジカル重合開始剤を添加しながら重合すれば良い。この際、急激な重合を避けるため、及び低分子量域での分子量制御性を考慮すると、最初に全てのモノマー混合物を反応容器に仕込むのではなく、各々のモノマーを、重合開始剤や分子量調節剤と共に、反応容器に少量ずつ連続添加するのが好ましい。
【0059】
反応溶媒は特に限定するものではないが、アリールスルホン酸アミン塩及びコモノマーの混合物が溶解する組成であれば、特に制限はなく、必要に応じて溶媒の組成を変えても良い。例えば、水、アセトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等の水または水溶性溶媒や、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン等の直鎖状脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン等の芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン等の脂肪族ハロゲン化合物類、あるいはその混合物を挙げることができる。
【0060】
これらの溶媒について、(共)重合体の用途に応じて重合溶媒を適宜選択すれば良い。重合転化率の観点からすると、水またはアルコール類の単体または混合溶媒が好ましく、反応溶媒である水性溶媒の使用量は、モノマー全量100重量部に対し、通常、150重量部~2,000重量部とすることが好ましい。
【0061】
本発明のアリールスルホン酸アミン塩(共)重合体に用いるアリールスルホン酸アミン塩以外の他のモノマーとしては、アリールスルホン酸アミン塩とラジカル共重合できるものであれば特に制限はない。例えば、N-シクロヘキシルマレイミド、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N - フェニルマレイミド、N―(クロロフェニル)マレイミド、N―(メチルフェニル)マレイミド、N―(イソプロピルフェニル)マレイミド、N―(スルフォフェニル)マレイミド、N-メチルフェニルマレイミド、N-ブロモフェニルマレイミド、N-ナフチルマレイミド、N-ヒドロキシフェニルマレイミド、N-メトキシフェニルマレイミド、N-カルボキシフェニルマレイミド、N-(ニトロフェニル)マレイミド、N-ベンジルマレイミド、N-(4-アセトキシ-1-ナフチル)マレイミド、N-(4-オキシ-1-ナフチル)マレイミド、N-(3-フルオランチル)マレイミド、N-(5-フルオレセイニル)マレイミド、N -(1-ピレニル)マレイミド、N-(2 ,3-キシリル)マレイミド、N-(2 ,4-キシリル)マレイミド、N-(2 ,6-キシリル)マレイミド、N-(アミノフェニル)マレイミド、N-(トリブロモフェニル)マレイミド、N-[4-(2-ベンゾイミダゾリル)フェニル]マレイミド、N-(3 ,5-ジニトロフェニル)マレイミド、N-(9-アクリジニル)マレイミド等のマレイミド類、フマル酸ジブチル、フマル酸ジプロピル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジシクロヘキシルなどのフマル酸ジエステル類、フマル酸ブチル、フマル酸プロピル、フマル酸エチルなどのフマル酸モノエステル類、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジプロピル、マレイン酸ジエチルなどのマレイン酸ジエステル類、マレイン酸ブチル、マレイン酸プロピル、マレイン酸エチル、マレイン酸ジシクロヘキシルなどのマレイン酸モノエステル類、無水マレイン酸、無水シトラコン酸などの酸無水物、スチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、フロロスチレン、トリフロロスチレン、ニトロスチレン、シアノスチレン、α-メチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、p-シアノスチレン、p-アセトキシスチレン、塩化p-スチレンスルホニル、エチルp-スチレンスルホニル、メチルp-スチレンスルホニル、プロピルp-スチレンスルホニル、p-ブトキシスチレン、4-ビニル安息香酸、3-イソプロペニル-α ,α ’-ジメチルベンジルイソシアネートなどのスチレン類、ブチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、2- フェニルビニルアルキルエーテル、ニトロフェニルビニルエーテル、シアノフェニルビニルエーテル、クロロフェニルビニルエーテルなどのビニルエーテル類、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸デシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ボルニル、アクリル酸2-エトキシエチル、アクリル酸2―ブトキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸メトキシエチレングリコール、アクリル酸エチルカルビトール、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、アクリル酸3-(トリメトキシシリル) プロピル、ポリエチレングリコールアクリレート、アクリル酸グリシジル、2-(アクリロイルオキシ)エチルフォスフェート、アクリル酸2,2,3,3-テトラフロロプロピル、アクリル酸2,2,2-トリフロロエチル、アクリル酸2,2,3,3,3-ペンタフロロプロピル、アクリル酸2,2,3,4,4,4-ヘキサフロロブチルなどのアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸t- ブチル、メタクリル酸s e c-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ボルニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸グリシジル、ポリエチレングリコールメタクリレート、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、メタクリル酸メトキシエチレングリコール、メタクリル酸エチルカルビトール、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4-ヒドロキシブチル、2-(メタクリロイルオキシ)エチルフォスフェート、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル、メタクリル酸2-(ジエチルアミノ)エチル、メタクリル酸3-(ジメチルアミノプロピル、メタクリル酸2-(イソシアナート)エチル、メタクリル酸2,4,6-トリブロモフェニル、メタクリル酸2,2,3,3-テトラフロロプロピル、メタクリル酸2,2,2-トリフロロエチル、メタクリル酸2,2,3,3,3-ペンタフロロプロピル、メタクリル酸2,2,3,4,4,4-ヘキサフロロブチルなどのメタクリル酸エステル類、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、2-シアノ-1,3-ブタジエン、1-クロロ-1,3-ブタジエン、2-(N-ピペリジルメチル)-1,3-ブタジエン、2-トリエトキシメチル-1,3-ブタジエン、2-(N ,N-ジメチルアミノ)-1,3-ブタジエン、N-(2-メチレン-3-ブテノイル)モルホリン、2-メチレン-3-ブテニルホスホン酸ジエチルなどの1 ,3-ブタジエン類、その他、アクリルアミド、メタクリルアミド、スルフォフェニルアクリルアミド、スルフォフェニルイタコンイミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、塩化ビニル、α-シアノエチルアクリレート、無水シトラコン酸、ビニル酢酸、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサミック酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、モノ2-(メタクリロイルオキシ)エチルフタレート、モノ2-(メタクリロイルオキシ)エチルサクシネート、モノ2-(アクリロイルオキシ)エチルサクシネート、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルジメトキシシラン、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ジアセトンメタクリレート、ビニルスルホン酸、イソプレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-1-メチルスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルピロリドン、デヒドロアラニン、二酸化イオウ、イソブテン、N-ビニルカルバゾール、ビニリデンジシアニド、パラキノジメタン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ノルボルネン、N-ビニルカルバゾール等が挙げられる。
【0062】
これらの中で、アリールスルホン酸アミン塩との共重合性、入手性などを考慮すると、スチレン類、メタクリル酸、アクリル酸、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、N-置換マレイミド類が好ましい。
【0063】
分子量調節剤は特に限定されるものではないが、例えば、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルチウラムジスルフィド、2,2’-ジチオジプロピオン酸、3,3’-ジチオジプロピオン酸、4,4’-ジチオジブタン酸、2,2’-ジチオビス安息香酸などのジスルフィド類、n-ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、t-ブチルメルカプタン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオサリチル酸、3-メルカプト安息香酸、4-メルカプト安息香酸、チオマロン酸、ジチオコハク酸、チオマレイン酸、チオマレイン酸無水物、ジチオマレイン酸、チオグルタール酸、システイン、ホモシステイン、5-メルカプトテトラゾール酢酸、3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸、3-メルカプトプロパン-1,2-ジオール、メルカプトエタノール、1 ,2-ジメチルメルカプトエタン、2-メルカプトエチルアミン塩酸塩、6-メルカプト-1-ヘキサノール、2-メルカプト-1-イミダゾール、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、システイン、N-アシルシステイン、グルタチオン、N-ブチルアミノエタンチオール、N,N-ジエチルアミノエタンチオールなどのメルカプタン類、ヨードホルムなどのハロゲン化炭化水素、ジフェニルエチレン、p-クロロジフェニルエチレン、p-シアノジフェニルエチレン、α-メチルスチレンダイマー、ベンジルジチオベンゾエート、2-シアノプロプ-2-イルジチオベンゾエート、有機テルル化合物、イオウ、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カリウム等が挙げられる。
【0064】
分子量調節剤の使用量は、モノマー全量100重量部に対し、通常、0.1~10重量部である。
【0065】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、1,1-ビス(t -ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、1 ,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-シクロヘキサン、シクロヘキサノンパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクトエート、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などのパーオキサイド類、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、1-[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリックアシッド)、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1’-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス{2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス{2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン] ジサルフェートジハイドレート、2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]}ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン)ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス[ N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]テトラハイドレートなどのアゾ化合物等があげられる。
【0066】
ラジカル重合開始剤の使用量は、モノマー全量100重量部に対し、通常、0.1~10重量部である。
【0067】
また、例えば、乳化ラジカル重合の場合、上記したラジカル重合性モノマーと、本発明のアリールスルホン酸アミン塩又はアリールスルホン酸アミン塩と乳化剤を含む水溶液とを混合し、撹拌あるいはホモジナイザー処理して乳化することにより、モノマー乳化液を調製する。当該モノマー乳化液を反応器に仕込んで脱気した後、重合開始剤を添加しながら、所定温度で重合すれば良い。この際、急激な発熱を避けるため、モノマー乳化液の一部を反応器に仕込んで重合を開始し、残りのモノマー乳化液を連続的に添加しながら重合しても良い。あるいは、乳化剤を含む溶液に、ラジカル重合性モノマーを連続的に添加しながら重合しても良い。乳化ラジカル重合におけるラジカル重合性モノマー、反応溶媒、ラジカル重合開始剤、分子量調節剤は、特に限定されるものではなく、例えば、上記の溶液ラジカル重合における例と同様の化合物を用いることができる。
【0068】
乳化重合において、本発明のアリールスルホン酸アミン塩は、高い乳化力を有する反応性乳化剤であるため、乳化剤は必ずしも必要ではないが、別途乳化剤を併用することで、エマルションが安定化される場合がある。この際に用いる乳化剤としては、特に限定されないが、アニオン性乳化剤としては、例えば、ロジン酸塩、脂肪酸塩、アルケニルコハク酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルキルサクシネートスルホン酸塩、ポリオキシエチレン多環式フェニルエーテル硫酸エステル塩、α-オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、タウリン誘導体、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸スチレン共重合体、ポリスチレンスルホン酸N-ビニルピロリド共重合体、ポリスチレンスルホン酸N-置換マレイミド共重合体、ポリスチレンスルホン酸メタクリル酸共重合体、ポリスチレンスルホン酸アクリル酸共重合体、ポリスチレンスルホン酸アクリル酸エステル共重合体、スチレンスルホン酸マレイン酸共重合体、スチレンスルホン酸アクリルアミド共重合体、スチレンスルホン酸メタクリルアミド共重合体、スチレンスルホン酸2-ヒドロキシエチルメタクリレート共重合体、ポリビニルホスホン酸共重合体、ポリビニルスルホン酸共重合体、ポリイソプレンスルホン酸共重合体、ポリアクリル酸エステルアクリル酸共重合体、ポリメタクリル酸エステルメタクリル酸共重合体、ポリアクリルアミドアクリル酸共重合体、ポリメタクリルアミドメタクリル酸共重合体、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルプロペニルフェノールポリエチレンオキサイド付加物の硫酸エステル塩、アリルアルキルフェノールポリエチレンオキサイド付加物の硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸エステル塩、高級脂肪酸アミドのスルホン酸塩、高級脂肪酸アルキロールアミドの硫酸エステル塩等があげられ、ノニオン性乳化剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、アミンオキシド系ノニオン乳化剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレン多環式フェニルエーテル、アルキルプロペニルフェノールポリエチレンオキサイド付加物、アリルアルキルフェノールポリエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、アルキルポリグルコキシド、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、カルボキシルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート、ポリジメチルアミノエチルアクリレート、ポリジエチルアミノエチルメタクリレート、ポリジエチルアミノエチルアクリレート、ポリt-ブチルエチルアミノエチルメタクリレート、ポリt-ブチルアミノエチルアクリレート、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート/メチルメタクリレート共重合体、ポリジメチルアミノエチルアクリレート/メチルメタクリレート共重合体、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート/ブチルアクリレート共重合体、ポリジメチルアミノエチルアクリレート/エチルアクリレート共重合体等があげられ、両性乳化剤としては、例えば、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルジメチルアミノスルホベタイン、アルキルスルホベタイン等があげられる。
【0069】
上述の記載のように、本発明に係るアリールスルホン酸アミン塩を重合してなるアリールスルホン酸アミン塩の重合物は、例えばゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される数平均分子量として、分子量1,000~5,000,000ダルトン(Da)程度となる。
【0070】
この重合物は、アリールスルホン酸アミン塩を任意の溶媒に溶解させ、必要に応じて乳化剤や分子量調節剤を加えて溶解させた後、窒素雰囲気下、ラジカル重合開始剤を加え、加熱撹拌して反応させてなる、アリールスルホン酸アミン塩の重合物である。この重合物の詳しい物性、例えば化学構造などは測定が困難であり、あるいは製造方法を示すことで表すことがより分かり易いものである。
【0071】
なお、アリールスルホン酸アミン塩、乳化剤、分子量調節剤、溶媒を混和後溶解させる際に用いられる溶媒としては、水、水性溶媒あるいはアリールスルホン酸アミン塩(モノマー)が溶解できる溶媒などの各種溶媒を使用できる。
【実施例
【0072】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何らの制限を受けるものではない。
【0073】
<核磁気共鳴スペクトルによる目的物の同定と純度の測定>
(1)試料の調製
内部標準物質として約0.05重量%のテトラメチルシランを含むジメチルスルホキシド-d6(99.5重量%)またはクロロホルム-d(99.5重量%)約0.7mLに試料を溶解し、NMR測定用サンプルを調製した。
【0074】
(2)測定機器
機種=Bruker製AV-400M
積算回数=16
【0075】
(3)純度の算出
次式によって生成物の純度を算出した。
純度(wt%)=(B/M)×(a/a)/(b/b)×M/S×100
a:任意の目的物ピークの積分値
b:任意の内部標準物質の積分値
:aで選択した任意の生成物ピークの水素数
:bで選択した任意の生成物ピークの水素数
:目的物の分子量
:内部標準物質の分子量
B:内部標準の採取量(g)
S:試料の採取量(g)
【0076】
<ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による重合物の分析>
東ソー株式会社製 HLC-8320を用いて重合物の定量(面積%)を行った。試料を水またはアセトニトリルまたはその混合溶媒に溶解し、0.1wt%溶液を調製し、以下の条件でGPC測定を行った。モノマー由来のピーク面積(a)と重合物由来のピーク面積(b)から、下式により重合物の含有量を算出した。
重合物の含有量(面積%)=100×a/(a+b)
カラム=TSK AW6000+AW3000+TSK ガードカラムAW-H
溶離液=硫酸ナトリウム水溶液(0.05mol/L)/アセトニトリル=65/35(Vol比)溶液
又は硫酸ナトリウム水溶液(0.05mol/L)/アセトニトリル=90/10(Vol比)溶液
又は臭化リチウムジメチルホルムアミド溶液(10mmol/L)
流速・注入量・カラム温度=0.6ml/min、注入量=10μl、カラム温度=40℃
検出器=UV検出器(波長230nm)
検量線=標準ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(創和科学製)
【0077】
<ガスクロマトクロマトグラフィー(GC)によるモノマー残存量の定量>
重合転化率の分析において、GPCによる分析と併せて、株式会社島津製作所製 GC-14Aを用いたモノマーの残存量の定量を行った。分析は、マイクロシリンジでサンプル液を0.2μl注入し、以下の条件で行った。また、内部標準物質を用いて、内部標準物質量とピーク面積%からなる検量線を作成後、モノマー由来のピーク面積と内部標準物質由来のピーク面積から、モノマーの含有量を算出した。下記条件において、スチレンの場合、保持時間(rt)は、17.5minであった。
検出器=FID,キャリアガス:He
カラム=PEG20M Chromosorb WAW 15% 80-100mesh
検出器温度:190℃、INJ温度:200℃
カラム温度:60℃-190℃(5℃/min)
内部標準物質:n-BuOH(rt=13.2min)
【0078】
実施例1
〔パラスチレンスルホン酸 N、N―ジメチルシクロヘキシルアミン塩の合成例〕
還流冷却管、窒素導入管、滴下ロートを取り付けた200mLガラス製四つ口フラスコに、N、N―ジメチルシクロヘキシルアミン(東京化成工業株式会社製)40.0gを仕込んだ。これを0℃に冷却し、引き続き冷却しながら、35%塩酸(和光純薬工業株式会社製)33.0g、イオン交換水30.0gの混合液を滴下した。滴下終了後、室温で1時間撹拌し、N,N―ジメチルシクロヘキシルアミン塩酸塩の水溶液を得た。
【0079】
次に、還流冷却管、窒素導入管、滴下管ロートを取り付けた1000mLガラス製四つ口フラスコに、パラスチレンスルホン酸ナトリウム(東ソー有機化学株式会社製)72.8g、イオン交換水330gを仕込み、室温で撹拌、溶解した。この溶液に、先ほど合成したジメチルシクロヘキシルアミン塩酸塩水溶液103gを1時間かけて滴下し、滴下終了後、室温で1時間撹拌した。反応終了後、反応液(水層)をクロロホルム200g×2回で抽出し、エバポレーターでクロロホルムを留去し、パラスチレンスルホン酸N、N―ジメチルシクロヘキシルアミン塩の白色固体80.4g(収率82.1%、純度99.8%)を得た。
【0080】
目的物の同定はプロトンNMR(H-NMR)、元素分析に関しては、炭素(C),水素(H),窒素(N)は元素分析計を用いて、硫黄(S)は酸素フラスコ燃焼法で、燃焼吸収処理をした後、イオンクロマトグラフによってSO42-イオン定量し、硫黄(S)に換算した。表1に元素分析の結果を示す。
【0081】
〔分析結果〕
1) H-NMR(400MHz、CDCl3):δ10.6(1H,s)、δ7.84(2H,d)、δ7.41(2H,d)、δ6.71(1H,dd)、δ5.78(1H, d)、δ5.29(1H,d)、δ3.06(1H,ddd)、δ2.80(6H,s)、δ2.12(2H,d)、δ1.91(2H,d)、δ1.70(1H,d)、δ1.44-1.25(4H,m)、δ1.19-1.08(1H,m)
【0082】
2) 元素分析:
【0083】
【表1】
【0084】
実施例2
〔パラスチレンスルホン酸 N、N―ジメチルシクロヘキシルアミン塩の合成例〕
還流冷却管、窒素導入管、滴下ロートを取り付けた100mL四つ口ガラス製フラスコに、4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸70%水溶液(東ソー有機化学株式会社製)10.0g、N、N―ジメチルシクロヘキシルアミン12.5g、ハイドロキノン(和光純薬工業株式会社製)27mgを仕込んだ。この混合液を90℃に加熱し、そのまま2時間撹拌した。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、析出した粗結晶をろ過し、トルエン10g×2回リンスを行い、減圧乾燥することで、パラスチレンスルホン酸N、N―ジメチルシクロヘキシルアミン塩の白色固体6.04g(収率78.4%、純度98.2%)を得た。
【0085】
目的物の同定はプロトンNMR(H-NMR)で行った。
【0086】
実施例3
〔パラスチレンスルホン酸 N、N―ジイソプロピルエチルアミン塩の合成例〕
還流冷却管、窒素導入管、滴下ロートを取り付けた100mLガラス製四つ口フラスコに、N、N―ジイソプロピルエチルアミン(東京化成工業株式会社製)10.0gを仕込んだ。これを0℃に冷却し、引き続き冷却しながら、35%塩酸(和光純薬工業株式会社製)7.5g、イオン交換水10.0gの混合液を滴下した。滴下終了後、室温で1時間撹拌し、N、N―ジイソプロピルエチルアミン塩酸塩の水溶液を得た。
【0087】
次に、還流冷却管、窒素導入管、滴下ロートを取り付けた300mLガラス製四つ口フラスコに、パラスチレンスルホン酸ナトリウム(東ソー有機化学株式会社製)18.2g、イオン交換水100gを仕込み、室温で撹拌、溶解した。この溶液に、先ほど合成したN、N―ジイソプロピルエチルアミン塩酸塩水溶液27.5gを1時間かけて滴下し、滴下終了後、室温で1時間撹拌した。反応終了後、反応液(水層)をクロロホルム100g×2回で抽出し、エバポレーターでクロロホルムを留去し、パラスチレンスルホン酸N、N―ジイソプロピルエチルアミン塩の白色固体16.2g(収率65.8%、99.2%)を得た。
【0088】
目的物の同定はプロトンNMR(H-NMR)で行った。
【0089】
〔分析結果〕
H-NMR(400MHz、CDCl3):δ9.52(1H,s)、δ7.78(2H,d)、δ7.33(2H,d)、δ6.64(1H,dd)、δ5.70(1H,d)、δ5.21(1H,d)、δ3.61(2H,m)、δ3.03(2H,q)、δ1.40-1.32(15H,m)
【0090】
実施例4
〔ポリ(パラスチレンスルホン酸 N、N―ジメチルシクロヘキシルアミン塩)の合成例〕
100mLガラス製四つ口フラスコに、実施例1で得られたパラスチレンスルホン酸 N、N―ジメチルシクロヘキシルアミン塩1.5g、イオン交換水13.5gを仕込み、室温で撹拌、溶解した。この溶液を、アスピレーター減圧と窒素導入を繰り返すことで十分に脱気し、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(和光純薬工業株式会社製)0.013gを、窒素を吹き込みながら添加した。この溶液を60℃で6時間加熱撹拌し、ポリ(パラスチレンスルホン酸 N、N―ジメチルシクロヘキシルアミン塩の透明均一水溶液を得た。反応終了時の重合転化率は100%、数平均分子量は150,000であった。
【0091】
重合転化率および数平均分子量の測定は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるピーク面積比より算出した。
【0092】
実施例5
〔パラスチレンスルホン酸 N、N―ジメチルシクロヘキシルアミン塩を用いたスチレンの乳化重合例〕
100mLガラス製四つ口フラスコに、スチレン(和光純薬工業株式会社製)10.0g、実施例1で得られたパラスチレンスルホン酸 N、N―ジメチルシクロヘキシルアミン塩0.31g、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)0.25g、イオン交換水20.5gを仕込み、室温で撹拌、溶解した。この溶液を、アスピレーター減圧と窒素導入を繰り返すことで十分に脱気し、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(和光純薬工業株式会社製)0.025gを、窒素を吹き込みながら添加した。この溶液を60℃で24時間加熱撹拌し、スチレンの乳化重合溶液を得た。反応終了時の重合転化率は100%、数平均分子量は200,000であった。
【0093】
重合転化率の測定は、GCによるモノマーの残存量より算出し、数平均分子量の測定は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により算出した。
【0094】
実施例6
〔ジビニルベンゼンスルホン酸N、N―ジメチルシクロヘキシルアミン塩の合成例〕
還流冷却管、窒素導入管、滴下ロートを取り付けた200mLガラス製四つ口フラスコに、N、N―ジメチルシクロヘキシルアミン40.0gを仕込んだ。これを0℃に冷却し、引き続き冷却しながら、35%塩酸(和光純薬工業株式会社製)33.0g、イオン交換水30.0gの混合液を滴下した。滴下終了後、室温で1時間撹拌し、N,N―ジメチルシクロヘキシルアミン塩酸塩の水溶液を得た。
【0095】
次に、還流冷却管、窒素導入管、滴下管を取り付けた1000mLガラス製四つ口フラスコに、ジビニルベンゼンスルホン酸ナトリウム(東ソー有機化学株式会社製)7.9g、イオン交換水158gを仕込み、室温で撹拌、溶解した。この溶液に、先ほど合成したジメチルシクロヘキシルアミン塩酸塩水溶液10.3gを1時間かけて滴下し、滴下終了後、室温で1時間撹拌した。反応終了後、反応液(水層)をクロロホルム200g×2回で抽出し、エバポレーターでクロロホルムを留去し、ジビニルベンゼンスルホン酸N、N―ジメチルシクロヘキシルアミン塩の白色固体7.3g(収率71.5%、純度98.0%)を得た。
【0096】
目的物の同定はプロトンNMR(H-NMR)で行った。
【0097】
比較例1
〔パラスチレンスルホン酸n-トリオクチルアミン塩の合成例〕
還流冷却管、窒素導入管、滴下ロートを取り付けた100mLガラス製四つ口フラスコに、n-トリオクチルアミン(東京化成工業株式会社製)10.0g、n-ヘキサン 40gを仕込み、撹拌、溶解した。この溶液を0℃に冷却し、引き続き冷却しながら、35%塩酸(和光純薬工業製)3.2gを滴下した。滴下終了後、室温で1時間撹拌した。反応終了後、析出したn-トリオクチルアミン塩酸塩をろ過し、減圧乾燥した。
【0098】
次に、還流冷却管、窒素導入管、滴下ロートを取り付けた100mLガラス製四つ口フラスコに、パラスチレンスルホン酸ナトリウム2.2g、イオン交換水20gを仕込み、室温で撹拌、溶解した。この溶液に、上記で取得したn-トリオクチルアミン塩酸塩3.6g、ジクロロメタン32gで調整した溶液を1時間かけて滴下し、滴下終了後、室温で1時間撹拌した。反応終了後、反応液にジクロロメタン20gを添加し、分液したのち有機層を留去し、パラスチレンスルホン酸n-トリオクチルアミン塩の白色固体4.54g(収率77.4%、98.4%)を得た。
【0099】
目的物の同定はプロトンNMR(H-NMR)で行った。
【0100】
〔分析結果〕
H-NMR(400MHz、DMSO-d6):δ8.96(1H,s)、δ7.59(1H,d)、δ7.42(2H,d)、δ6.72(1H,dd)、δ5.84(1H,d)、δ5.28(1H,d)、δ3.01(6H,t)、δ1.59-1.56(6H,m)、δ1.29-1.23(30H,m)、δ0.86(9H,t)
【0101】
比較例2
〔パラスチレンスルホン酸n-モノオクチルアミン塩の合成例〕
還流冷却管、窒素導入管、滴下ロートを取り付けた200mLガラス製四つ口フラスコに、n-モノオクチルアミン(東京化成工業株式会社製)12.9g、イオン交換水70.5gを仕込んだ。この溶液を0℃に冷却し、引き続き冷却しながら、35%塩酸10.4gを滴下した。滴下終了後、室温で1時間撹拌し、n-モノオクチルアミン塩酸塩の水溶液を得た。
【0102】
次に、還流冷却管、窒素導入管、滴下ロートを取り付けた300mLガラス製四つ口フラスコに、パラスチレンスルホン酸ナトリウム23.0g、イオン交換水87.5gを仕込み、室温で撹拌、溶解した。この溶液に、先ほど合成したn-モノオクチルアミン塩酸塩水溶液93.8gを1時間かけて滴下し、滴下終了後、室温で1時間撹拌した。反応終了後、反応液を5℃まで冷却し、析出した粗結晶をろ過し、トルエン100g×2回リンスを行い、減圧乾燥することで、パラスチレンスルホン酸n-モノオクチルアミン塩の白色固体7.10g(収率70.5%、純度96.4%)を得た。
【0103】
目的物の同定はプロトンNMR(H-NMR)で行った。
【0104】
〔分析結果〕
H-NMR(400MHz、DMSO-d6):δ7.68(2H,s)、δ7.58(2H,d)、δ7.45(2H,d)、δ6.73(1H,dd)、δ5.85(1H,d)、δ5.28(1H,d)、δ2.75(2H,t)、δ1.52-1.47(2H,m)、δ1.27-1.23(10H,m)、δ0.86(3H,t)
【0105】
比較例3
〔パラスチレンスルホン酸ジシクロヘキシルアミン塩の合成例〕
還流冷却管、窒素導入管、滴下ロートを取り付けた100mLガラス製四つ口フラスコに、ジシクロヘキシルアミン(東京化成工業株式会社製)10.0g、n-ヘキサン 40gを仕込み、撹拌、溶解した。この溶液を0℃に冷却し、引き続き冷却しながら、35%塩酸(和光純薬工業製)5.6gを滴下した。滴下終了後、室温で1時間撹拌した。反応終了後、析出したジシクロヘキシルアミン塩酸塩をろ過し、減圧乾燥した。
【0106】
次に、還流冷却管、窒素導入管、滴下管を取り付けた300mLガラス製四つ口フラスコに、パラスチレンスルホン酸ナトリウム6.40g、イオン交換水100gを仕込み、室温で撹拌、溶解した。この溶液に、上記で取得したジシクロヘキシルアミン塩酸塩5.9g、ジクロロメタン80gで調整した溶液を1時間かけて滴下し、滴下終了後、室温で1時間撹拌した。反応終了後、反応液にジクロロメタン80gを添加し、分液したのち有機層を留去し、パラスチレンスルホン酸ジシクロヘキシルアミン塩の白色固体6.53g(収率65.2%、95.4%)を得た。
【0107】
目的物の同定はプロトンNMR(H-NMR)で行った。
【0108】
〔分析結果〕
H-NMR(400MHz、DMSO-d6):δ8.19(1H,s)、δ7.58(2H,d)、δ7.45(2H,d)、δ6.64(1H,dd)、δ5.85(1H,d)、δ5.28(1H,d)、δ3.09(2H,m)、δ1.98(4H,m)、δ1.73(4H,m)、δ1.62-1.59(2H,m)、δ1.28-1.23(8H,m)、δ1.10-1.06(2H,m)
【0109】
比較例4
〔パラスチレンスルホン酸n-トリオクチルアミン塩を用いたスチレンの乳化重合例〕
100mLガラス製四つ口フラスコに、スチレン(和光純薬工業株式会社製)10.0g、実施例1で得られたパラスチレンスルホン酸n-トリオクチルアミン塩0.54g、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)0.25g、イオン交換水20.5gを仕込み、室温で撹拌、溶解した。この溶液を、アスピレーター減圧と窒素導入を繰り返すことで十分に脱気し、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩0.025gを、窒素を吹き込みながら添加した。この溶液を60℃で24時間加熱撹拌し、スチレンの乳化重合溶液を得たが、反応終了時の重合転化率は30%とモノマーが多く残存する結果となった。また、数平均分子量は50,000であった。
【0110】
重合転化率の測定は、GCによるモノマーの残存量より算出した。数平均分子量の測定は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により算出したが、重合物は非水溶性であるため、反応液に対して5重量倍量の48%水酸化ナトリウム水溶液にて、重合物をナトリウム塩とした後、GPCによる分析を行った。
【0111】
<各種評価>
実施例1、3及び比較例1、2、3で得られたパラスチレンスルホン酸アミン塩、市販のパラスチレンスルホン酸ナトリウム塩(東ソー有機化学株式会社製)を加え、評価を以下の通りに行った。なお、下記評価において、パラスチレンスルホン酸 N、N―ジメチルシクロヘキシルアミン塩(CHASS)、パラスチレンスルホン酸 N、N―ジイソプロピルエチルアミン塩(DIPEASS)、パラスチレンスルホン酸n-トリオクチルアミン(TOASS)、パラスチレンスルホン酸n-モノオクチルアミン塩(MOASS)、パラスチレンスルホン酸ジシクロヘキシルアミン塩(DCHASS)、パラスチレンスルホン酸ナトリウム塩(NaSS)の略称を用いる場合がある。
【0112】
[評価1(溶解性)]
ガラス製スクリュー管瓶に、水、テトラヒドロフラン(THF)、N-メチルピロリドン(NMP)、トルエンをそれぞれ2g加え、25℃でスチレンスルホン酸塩類を少しずつ添加し、手で振り混ぜながら溶解性を確認した。それぞれ、固体が残存した時点を飽和溶解度とし、下記式において溶解度を算出した。溶解性の結果は表2の通りとなった。
溶解度(wt%)= A/(S+A)×100
A:添加したアミンの重量(g)
S:溶媒の重量(g)
【0113】
1級アミンである比較例2、2級アミンである比較例3は十分な溶解性が得られていない。また、環状骨格を含む3級アミンの実施例1や3級炭素を含む3級アミンの実施例2は、比較例1と比べて、アミン骨格の炭素数は3分の1であるにもかかわらず、有機溶媒への十分な溶解性を有していることがわかり、かつ水にも溶ける両親媒性であることが確認された。
【0114】
【表2】
【0115】
[評価2(保存安定性)]
ガラス製スクリュー管瓶に、スチレンスルホン酸塩類の固体を2.0g添加し、栓をして密閉系とした後、60℃に設定した箱型乾燥機に設置し、重合安定性の加速試験を実施した。
【0116】
それぞれ、1日おきに合計1週間、サンプリングを行い、性状、臭気、pHの変化、熱による重合の進行を確認した。
【0117】
pHは、CHASS、DIPEASSに関しては5wt%水溶液、TOASS、MOASSに関しては、5wt%ジメチルスルホキシド溶液とし、ハンディ型のpHメーター(Mettler Toledo株式会社製)を用いて測定した。
【0118】
重合安定性に関しては、実施例と同様の条件でGPC分析を行い、モノマーとポリマーの面積%の経時変化を確認した。
【0119】
反応開始前と一週間後の保存安定性の結果は表3の通りとなった。
【0120】
比較例1は、評価1日目で黄色半透明のプラスチック状となり、重合が進行していることが明らかであった。 TOASSは、ジメチルホルムアミドに溶解し、10mmol/L臭化リチウムジメチルホルムアミド溶液を溶離液としてGPC分析を実施した。
【0121】
【表3】
【0122】
評価1、評価2の結果より、炭素数の同じアミン類でも、3級アミンかつアミン骨格中に環状構造または3級炭素または4級炭素を持つアミンを用いた、アリールスルホン酸類が溶解性、保存安定性に富んでいることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明のアリールスルホン酸アミン塩ビニルモノマーは、高純度で保存安定性が高く、両親媒性を有するアリールスルホン酸化合物であり、樹脂やゴムの帯電防止、ポリオレフィンへのグラフト重合など、親油性が求められる用途に、アリールスルホン酸を適用することが容易となり、また、エマルション重合用反応性乳化剤などのある程度の水溶性が必要とされる用途においても、従来の水溶性スルホン酸系モノマーと比較して、生産効率の向上が可能となるため、汎用性あるいは機能性ポリマー原料として産業上極めて有用である。
図1
図2
図3
図4