(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】Gタンパク質共役受容体若しくはそのサブユニットを発現するためのコンストラクト及びその利用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/85 20060101AFI20221109BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20221109BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20221109BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20221109BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221109BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C12N15/85 Z ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12Q1/02
(21)【出願番号】P 2019551021
(86)(22)【出願日】2018-10-16
(86)【国際出願番号】 JP2018038391
(87)【国際公開番号】W WO2019082721
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2017204687
(32)【優先日】2017-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004569
【氏名又は名称】日本たばこ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】下村 一平
(72)【発明者】
【氏名】山本 岳
(72)【発明者】
【氏名】上瀧 将史
(72)【発明者】
【氏名】飛田 直哉
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第01865316(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットを発現するためのコンストラクトであって、単一ベクター中に、5’側から順に、
CMVプロモーター、Gタンパク質αサブユニットタンパク質をコードする核酸、IRES配列を含む核酸、そして、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットをコードする核酸を含む、前記コンストラクト。
【請求項2】
Gタンパク質共役受容体若しくはそのサブユニットが、ロドプシン様受容体のクラス又は代謝性グルタミン酸受容体/代謝性フェロモン受容体のクラスのGタンパク質共役受容体である、請求項1のコンストラクト。
【請求項3】
Gタンパク質共役受容体が、ロドプシン様受容体のクラスのGタンパク質共役受容体である、請求項1のコンストラクト。
【請求項4】
Gタンパク質共役受容体が、苦味受容体である、請求項1のコンストラクト。
【請求項5】
ベクターがプラスミドベクターである、請求項1-4のいずれか1項に記載のコンストラクト。
【請求項6】
ベクターが、ハイグロマイシン耐性遺伝子を含むプラスミドベクターである、請求項1-4のいずれか1項に記載のコンストラクト。
【請求項7】
IRES配列が、タイプ2のIRES配列である、
請求項1-6のいずれか1項に記載のコンストラクト。
【請求項8】
IRES配列が、脳心筋炎ウイルス由来のIRES配列である、
請求項1-7のいずれか1項に記載のコンストラクト。
【請求項9】
Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットをコードする核酸の5’側に、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットの細胞膜への移行を高める機能を有するポリペプチドをコードする核酸を含む、
請求項1-6のいずれか1項に記載のコンストラクト。
【請求項10】
Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットの細胞膜への移行を高めるポリペプチドが、ラットのソマトスタチン受容体のN末端45アミノ酸を含むポリペプチド、又はウシのロドプシンのN末端39アミノ酸を含むポリペプチドである、
請求項9に記載のコンストラクト。
【請求項11】
Gタンパク質αサブユニットタンパク質が、GqファミリーのGタンパク質αサブユニットタンパク質、GiファミリーのGタンパク質αサブユニットタンパク質、GsファミリーのGタンパク質αサブユニットタンパク質、あるいは、これらのキメラタンパク質である、
請求項1-10のいずれか1項に記載のコンストラクト。
【請求項12】
Gタンパク質αサブユニットタンパク質が、Gα16、Gαgust又はGαolf、あるいは、これらのキメラタンパク質である、
請求項1-11のいずれか1項に記載のコンストラクト。
【請求項13】
Gタンパク質αサブユニットタンパク質が、ヒトGα16/ラットGαgustである、
請求項1-12のいずれか1項に記載のコンストラクト。
【請求項14】
Gタンパク質αサブユニットタンパク質が、ヒトGα16/ラットGαgust43である、
請求項13に記載のコンストラクト。
【請求項15】
Gタンパク質共役受容体タンパク質が、ヒトのGタンパク質共役受容体タンパク質である、
請求項1-14のいずれか1項に記載のコンストラクト。
【請求項16】
請求項1-15
のいずれか1項に記載のコンストラクトを遺伝子導入した形質転換細胞。
【請求項17】
請求項16
に記載の形質転換細胞に物質を添加し、当該物質による生理的応答を測定する、物質の生理的応答の測定方法。
【請求項18】
物質が、苦味物質、匂い物質、旨味物質又は甘味物質、あるいはこれらの物質に対する調節物質である、
請求項17の測定方法。
【請求項19】
物質の生理的応答を測定するための、
請求項16に記載の形質転換細胞の使用。
【請求項20】
請求項16
記載の形質転換細胞を含む、当該形質転換細胞に物質を添加し、当該物質による生理的応答を測定する、物質の生理的応答の測定方法に使用するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Gタンパク質共役受容体若しくはそのサブユニットを発現するためのコンストラクト、本発明のコンストラクトを遺伝子導入した形質転換細胞、本発明の形質転換細胞を用いた物質の生理的応答の測定方法、物質の生理的応答を測定するための本発明の形質転換細胞の利用、本発明の形質転換細胞を含む、物質の生理的応答の測定方法に使用するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
1.Gタンパク質共役受容体及びGタンパク質を介したシグナル伝達
Gタンパク質共役受容体は、真核生物の細胞質膜上又は細胞内部の構成膜上に存在する受容体の形式の1種である。細胞外(膜外)からの様々なシグナル(神経伝達物質、ホルモン、化学物質、光等)を受容すると、Gタンパク質共役受容体は構造変化を起こし、膜内側に結合している三量体Gタンパク質を活性化させてシグナル伝達が行われる。
【0003】
Gタンパク質は、細胞膜の内表面に結合し、GαサブユニットにGβγ二量体が固く結合しているヘテロ三量体である。Gタンパク質共役受容体にリガンドが結合し活性化されると、Gタンパク質共役受容体に結合しているGタンパク質はその保有するGDPをGαサブユニットから離し、GTPの新しい分子と結合する(GDP型→GTP型への変換)。この変換により、Gαサブユニット、Gβγ二量体及びGタンパク質共役受容体が各々分離する。分離したGαサブユニットは、その下流のエフェクタータンパク質を活性化する。
【0004】
Gタンパク質共役受容体及びその下流のGタンパク質は、嗅覚、味覚、視覚、神経伝達、代謝、細胞分化及び細胞増殖、炎症反応及び免疫応答などの細胞内シグナルネットワークにおける、多くの基礎的な生理化学的な反応を制御している。
【0005】
2.味覚及び嗅覚に関する知見
味覚は、物質を口にした時に、特に舌の表面に存在する特異的な受容体と物質が結合することによって生じる感覚である。哺乳類の味覚は、5つの基本味、すなわち、塩味、酸味、甘味、旨味、苦味で構成されており、これらの基本味が統合することによって形成されると考えられている。現在のところ、塩味、酸味は、舌の表面の味蕾に存在する味細胞の近位側の細胞膜上に発現するいくつかのイオンチャネル型受容体を介して感知されると言われている。
【0006】
甘味、旨味、苦味については、味細胞に存在するGタンパク質共役受容体と、それに共役するGタンパク質を介したシグナル伝達によって感知されると考えられている。具体的には、苦味はT2Rファミリーと命名された分子(苦味受容体)(ヒトで25種類)で受容され、甘味はT1R2+T1R3のヘテロダイマー(甘味受容体)、旨味はT1R1+T1R3のヘテロダイマー(旨味受容体)で受容されることが明らかにされている。
【0007】
味覚情報の伝達機構のしくみについては、一般には、以下のように理解されている。すなわち、まず、味物質が味細胞の受容体に結合すると、細胞内のセカンドメッセンジャー(IP3、DAG)などを介する情報伝達過程を経て、細胞内のカルシウム濃度が上昇する。次いで、細胞内に供給されたカルシウムイオンは、神経伝達物質をシナプスに放出させて神経細胞に活動電位を発生させ、その結果、受容体を起点とした味覚シグナルが味神経から脳に伝達されて味覚情報が識別、判断される、というのが通説である。
【0008】
嗅覚受容体も、苦味受容体、甘味受容体、旨味受容体等の味覚受容体と同様に、Gタンパク質共役受容体である。嗅覚受容体は嗅上皮の嗅細胞上に存在する。嗅細胞は、神経細胞が外界と直接接している人体で唯一の場所であり、そのもう一方の端は、脳の嗅球という領域に直接つながっている。「匂い物質」は、分子量30から300程度までの低分子化合物であり、地球上には数十万個もの匂い物質が存在すると言われている。ヒトにおいて400以上もの嗅覚受容体が同定されている。嗅覚受容体に匂い物質が結合すると、苦味受容体、甘味受容体、旨味受容体等の味覚受容体と同様に、細胞内のセカンドメッセンジャーなどを介する情報伝達過程を経て、細胞内のカルシウム濃度が上昇する。
【0009】
3.Gタンパク質共役受容体作動薬の評価
食品、飲料品等に含まれる化学物質、神経伝達物質、ホルモンなどは、Gタンパク質共役受容体に結合して構造変化を起こせしめ、膜内側に結合しているGタンパク質を活性化させるという、一連のシグナル伝達におけるGタンパク質共役受容体作動薬となる可能性がある。これらのGタンパク質共役受容体作動薬の候補物質の生理的応答の評価を簡便に効率よく行えることが望ましい。タンパク質共役受容体作動薬の候補物質の生理的応答の評価を適切に行うことができれば、飲食品、医薬品等の味、品質等の改善、タンパク質共役受容体作動薬の使用量の調節などの有益な効果を達成することができる。
【0010】
また一方で、上記食品、飲料品等に含まれる物質においては官能試験による評価も行われてきた。しかしながら官能試験による評価は、評価の客観性の担保が容易でない、評価に人的、時間的、費用的な負担が大きい、大量の物質について短期間で評価を行うことができない、などの本質的な問題を伴うことが知られている。
【0011】
そこで、官能試験に代わる評価方法として、Gタンパク質共役受容体及びGαタンパク質を発現させた細胞系を作製し、そのような細胞系にGタンパク質共役受容体作動薬(候補化合物)を直接添加して効果を評価する方法が報告されている。
【0012】
Gタンパク質共役受容体作動薬の評価のための細胞系では、Gタンパク質共役受容体タンパク質とGαタンパク質とが同じ細胞で発現している必要がある。2種類のタンパク質を発現させるには、一般に、各タンパク質コードする核酸を含む2種類のベクターを同時に、あるいは、順番に遺伝子導入する共遺伝子導入法が広く使用されている。これは例えば、以下のような態様である。
(a)Gαタンパク質をコードする核酸を含むベクターと、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットをコードする核酸を含むベクターで宿主細胞をコトランスフェクトする;
(b)Gαタンパク質を安定発現させた細胞株を、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットをコードする核酸を含むベクターで形質転換する。
【0013】
共遺伝子導入法を用いた例は、例えば、苦味受容体についてChem. Senses 35, p.157-170, 2010; The Journal of Neuroscience, 23(19), p.7376-7380, 2003; Biochem Biophys Res Commun 365(4): p.851-855,2008に記載されている。また、甘味受容体については、特開2008-13570号公報、特開2008-228690号公報、WO2007-121604号公報に記載されている。
【0014】
しかしながら、いずれの場合も作製難易度が高く(成功率が低い)、安定したデータを取得することができない。よって、Gタンパク質共役受容体作動薬の評価を行うのに使用するのに十分な品質を有する細胞系であるとは言えない。
【0015】
2種類のタンパク質を発現させる方法としては、共遺伝子導入法の他に、2種類のタンパク質を発現する各々の核酸を1つのベクターに挿入した共発現ベクターを用いる方法が知られている。一般に、単一のベクターに2種類のタンパク質を発現する2種類の核酸をタンデムにそのまま挿入しても、プロモーターから離れた位置にある核酸ほど翻訳がされにくく、タンパク質の発現量が低い。そのため、プロモーターから離れた位置にある核酸ほど翻訳効率を上昇させるための工夫が必要である。
【0016】
特許5905187は、「味受容体の味受容体サブユニットT1R2及びT1R3並びにGタンパク質αサブユニットをコードする各遺伝子を同一のプラスミドに挿入してなる甘味受容体発現コンストラクトであって、EF-1αプロモーターの下流に位置する、甘味受容体サブユニットT1R2をコードする遺伝子の直後に、IRES配列を介して、Gタンパク質αサブユニットをコードする遺伝子を連結し、さらに、その下流に存在するCMVプロモーターの下流に位置する、甘味受容体サブユニットT1R3をコードする遺伝子の直後に、IRES配列を介して、Gタンパク質αサブユニットをコードする遺伝子を連結してなる、甘味受容体発現コンストラクト」を記載している。特許5905187のコンストラクトは、5’側から順に、EF-1αプロモーター - T1R2 -IRES - Gα - CMVプロモーター - TIR3 - IRES - Gα」という特定の構造を有するものである。このコンストラクトにおいて、T1R2及びT1R3は各々特定のプロモーターの下流、そして、IRESの上流に配置されている。
【0017】
IRESは、タンパク質合成の効率をより上昇させるために、キャップ非依存的な翻訳開始を可能にするRNA因子である。IRESを介した翻訳は、一般にキャップ依存的な翻訳を受ける上流のタンパクと比較し低効率な傾向にあることが知られている。
【0018】
本発明前に、Gタンパク質共役受容体作動薬の評価を行うのに使用するのに十分な品質を有する細胞系は得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】特開2008-13570号公報
【文献】特開2008-228690号公報
【文献】WO2007-121604号公報
【非特許文献】
【0020】
【文献】Chem. Senses 35, p.157-170, 2010;
【文献】The Journal of Neuroscience, 23(19), p.7376-7380, 2003;
【文献】Biochem Biophys Res Commun 365(4): p.851-855,2008
【文献】Molecular BioSystems, 7, p.911-919, 2011
【文献】Proc.Natl.Acad.Sci.USA, Vol.88, p.5587-5591, 1991
【文献】Journal of Virology, Vol.86, No.3, p.1468-1486, 2012
【文献】GENES & DEVELOPMENT, Vol,15, p.1593-1612, 20
【文献】Archives of Physiology and Biochemistry Vol.110 p.137-45,2002
【文献】Nature Genetics, Vol.32, p.397-401, 2002; Cell, Vol.100, p.703-711, 2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明者らは、上記問題解決の為に鋭意研究に努めた結果、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットを発現するためのコンストラクトにおいて、単一ベクター中に、5’側から順に、Gタンパク質αサブユニットタンパク質をコードする核酸、IRES配列を含む核酸、そして、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットをコードする核酸と配置させることにより、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットを高効率で発現し、Gタンパク質共役受容体作動薬に対して高効率で応答することを見出し、本発明を想到した。
【0022】
IRESの3’側に配置された遺伝子によりコードされるタンパク質は、発現量が低いと考えられている。よって、本発明において、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットが高効率で発現することは従来の知見に反することであり特徴的である。
【課題を解決するための手段】
【0023】
限定されるわけではないが、本発明は以下の態様を含む。
[態様1]
Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットを発現するためのコンストラクトであって、単一ベクター中に、5’側から順に、Gタンパク質αサブユニットタンパク質をコードする核酸、IRES配列を含む核酸、そして、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットをコードする核酸を含む、前記コンストラクト。
[態様2]
Gタンパク質共役受容体若しくはそのサブユニットが、ロドプシン様受容体のクラス又は代謝性グルタミン酸受容体/代謝性フェロモン受容体のクラスのGタンパク質共役受容体である、態様1のコンストラクト。
[態様3]
Gタンパク質共役受容体が、ロドプシン様受容体のクラスのGタンパク質共役受容体である、態様1のコンストラクト。
[態様4]
Gタンパク質共役受容体が、苦味受容体である、態様1のコンストラクト。
[態様5]
ベクターがプラスミドベクターである、態様1-4のいずれか1項に記載のコンストラクト。
[態様6]
ベクターが、CMVプロモーターを含むプラスミドベクターである、態様1-4のいずれか1項に記載のコンストラクト。
[態様7]
ベクターが、CMVプロモーター及びハイグロマイシン耐性遺伝子を含むプラスミドベクターである、態様1-4のいずれか1項に記載のコンストラクト。
[態様8]
ベクターが、EF1αプロモーターを含むプラスミドベクターである。態様1-4のいずれか1項に記載のコンストラクト。
[態様9]
ベクターが、EF1αプロモーター及びピューロマイシン耐性遺伝子を含むプラスミドベクターである。態様1-4のいずれか1項に記載のコンストラクト。
[態様10]
IRES配列が、タイプ2のIRES配列である、態様1-9のいずれか1項に記載のコンストラクト。
[態様11]
IRES配列が、脳心筋炎ウイルス由来のIRES配列である、態様1-10のいずれか1項に記載のコンストラクト。
[態様12]
Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットをコードする核酸の5’側に、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットの細胞膜への移行を高める機能を有するポリペプチドをコードする核酸を含む、態様1-7のいずれか1項に記載のコンストラクト。
[態様13]
Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットの細胞膜への移行を高めるポリペプチドが、ラットのソマトスタチン受容体のN末端45アミノ酸を含むポリペプチド、又はウシのロドプシンのN末端39アミノ酸を含むポリペプチドである、態様12に記載のコンストラクト。
[態様14]
Gタンパク質αサブユニットタンパク質が、GqファミリーのGタンパク質αサブユニットタンパク質、GiファミリーのGタンパク質αサブユニットタンパク質、GsファミリーのGタンパク質αサブユニットタンパク質、あるいは、これらのキメラタンパク質である、態様1-13のいずれか1項に記載のコンストラクト。
[態様15]
Gタンパク質αサブユニットタンパク質が、Gα16、Gαgust又はGαolf、あるいは、これらのキメラタンパク質である、態様1-14のいずれか1項に記載のコンストラクト。
[態様16]
Gタンパク質αサブユニットタンパク質が、ヒトGα16/ラットGαgustである、態様1-15のいずれか1項に記載のコンストラクト。
[態様17]
Gタンパク質αサブユニットタンパク質が、ヒトGα16/ラットGαgust43である、態様16に記載のコンストラクト。
[態様18]
Gタンパク質共役受容体タンパク質が、ヒトのGタンパク質共役受容体タンパク質である、態様1-17のいずれか1項に記載のコンストラクト。
[態様19]
態様1-18のいずれか1項に記載のコンストラクトを遺伝子導入した形質転換細胞。
[態様20]
態様19に記載の形質転換細胞に物質を添加し、当該物質による生理的応答を測定する、物質の生理的応答の測定方法。
[態様21]
物質が、苦味物質、匂い物質、旨味物質又は甘味物質、あるいはこれらの物質に対する調節物質である、態様20の測定方法。
[態様22]
物質の生理的応答を測定するための、態様19に記載の形質転換細胞の使用。
[態様23]
態様19記載の形質転換細胞を含む、当該形質転換細胞に物質を添加し、当該物質による生理的応答を測定する、物質の生理的応答の測定方法に使用するためのキット。
【発明の効果】
【0024】
本発明のコンストラクトで形質転換された細胞は、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットを高効率で発現し、Gタンパク質共役受容体作動薬に対して高効率で応答する。本発明の形質転換細胞は、Gタンパク質共役受容体作動薬の評価を行うのに使用するのに十分な品質を有する細胞系を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、実施例1で作製したコンストラクトの構成を図示したものである。
図1中、「CMV」はCMVプロモーターを意味する。
【
図2】
図2は、T2R16安定発現株の苦味物質サリシンに対する応答を測定した結果である。
【
図3】
図3は、T2R40安定発現株の苦味物質ジフェニドールに対する応答、及び、T2R43安定発現株の苦味物質キニーネに対する応答を測定した結果である。
【
図4】
図4は、T2R16一過性発現細胞の苦味物質サリシンに対する応答を測定した結果である。
【
図5】
図5は、T2R16一過性発現細胞におけるT2R非依存的Gα16作動薬(イソプロテレノール)に対する応答を測定した結果である。
【
図6】
図6は、T2R16一過性発現細胞におけるT2R16の発現量を測定した結果である。
【
図7】
図7は、T2R16安定発現株の凍結保存の前後における応答強度を比較した結果である。
【
図8】
図8は、Gα-T2R40安定発現株のT2R40作動薬に対する応答強度とGα作動薬に対する応答強度を比較して、相関性を調べた結果である。
【
図9】
図9は、Gα-T1R2及びT1R3を共遺伝子導入し、一過性発現させた細胞株(Gα-T1R2+T1R3)におけるT1R2の発現量を測定した結果である。
【
図10】
図10は、Gα-T1R2及びT1R3を共遺伝子導入し、一過性発現させた細胞株(Gα-T1R2+T1R3)における、T2R非依存的Gα16作動薬(イソプロテレノール)に対する応答を測定した結果である。
【
図11】
図11は、Gα-T1R2及びT1R3を共遺伝子導入し、一過性発現させた細胞株(Gα-T1R2+T1R3)における、甘味物質アスパルテームに対する応答を測定した結果である。
【
図12】
図12は、Gα-T1R3及びT1R2を共遺伝子導入し、一過性発現させた細胞株(Gα-T1R3+T1R2)におけるT1R3の発現量を測定した結果である。
【
図13】
図13は、Gα-T1R3及びT1R2を共遺伝子導入し、一過性発現させた細胞株(Gα-T1R3+T1R2)におけるT2R非依存的Gα16作動薬(イソプロテレノール)に対する応答を測定した結果である。
【
図14】
図14は、Gα-T1R3及びT1R2を共遺伝子導入し、一過性発現させた細胞株(Gα-T1R3+T1R2)における甘味物質シクラメートに対する応答を測定した結果である。
【
図15】
図15は、緑色蛍光タンパク質(EmGFP)をIRESの上流及び下流で発現させた場合の、EmGFPの発現量を測定した結果である。
【
図16】
図16は、pEAK10-T2R16-GαおよびpEAK10-Gα-T2R16を一過性発現させた
HEK293T細胞におけるT2R16発現量を調べた結果である。
【
図17】
図17は、7種類のT2Rサブタイプ(苦味受容体)に関し、各作動薬(苦味物質)に対する一過性発現細胞の応答を調べた結果である。
【
図18】
図18は、T2R38サブタイプ(苦味受容体)に関し、作動薬(6-n-プロピルチオウラシル)に対する安定発現細胞の応答を調べた結果である。黒がT2R38の結果、斜線がコントロール(発現ベクターGα-T2R38を組み込まない細胞株(HEK293T))の結果である。
【
図19】
図19は、14種類のT2Rサブタイプ(苦味受容体)の一過性発現細胞における発現量を調べた結果(T2R4との比較)である。
【
図20】
図20は、嗅覚受容体(OR3A1)の一過性発現細胞における応答を調べた結果である。斜線がOR3A1-Gαolfを、黒がGαolf-OR3A1を導入した結果を示す。点線(OR3A1+Gαolf)は、OR3A1、Gαolfの各遺伝子を個別にpcDNAに導入し、
HEK293Tに共遺伝子導入した結果を示す。
【
図21】
図20は、嗅覚受容体(OR3A1)の一過性発現細胞における、OR3A1、Gαolfの発現量を示す。斜線がOR3A1の、黒がGαolfの結果を示す。「OR3A1+Gαolf」は、OR3A1、Gαolfの各遺伝子を個別にpcDNAに導入し、
HEK293Tに共遺伝子導入した場合の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、Gタンパク質共役受容体若しくはそのサブユニットを発現するためのコンストラクト、本発明のコンストラクトを遺伝子導入した形質転換細胞、本発明の形質転換細胞を用いた物質の生理的応答の測定方法、物質の生理的応答を測定するための本発明の形質転換細胞の利用、本発明の形質転換細胞を含む、物質の生理的応答の測定方法に使用するためのキットに関する。以下、非限定的に本発明を実施するための形態を説明する。
【0027】
I.Gタンパク質共役受容体若しくはそのサブユニットを発現するためのコンストラクト
本発明は、一態様において、Gタンパク質共役受容体若しくはそのサブユニットを発現するためのコンストラクトに関する。本発明のコンストラクトは、単一ベクター中に、5’側から順に、Gタンパク質αサブユニットタンパク質をコードする核酸、IRES配列を含む核酸、そして、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットをコードする核酸を含む、ことを特徴とする。
【0028】
(1)Gタンパク質共役受容体若しくはそのサブユニット
「Gタンパク質共役(型)受容体」(G protein-coupled receptor:GPCR)は、真核生物の細胞質膜上又は細胞内部の構成膜上に存在する受容体の形式の1種である。7つのヘリックス構造が細胞膜(又は細胞内の構成膜)を貫通し、N末端は膜外にC末端は膜内に位置する特徴的な構造から、別名「7回膜貫通型受容体」とも呼称される。膜外ループには2つのよく保存されたシステイン残基が含まれ、ジスルフィド結合によって受容体構造を安定化している。細胞外(膜外)からの様々なシグナル(神経伝達物質、ホルモン、化学物質、光等)を受容すると、Gタンパク質共役受容体は構造変化を起こし、膜内側に結合している三量体Gタンパク質を活性化させてシグナル伝達が行われる。Gタンパク質共役受容体は、嗅覚、味覚、視覚、神経伝達、代謝、細胞分化及び細胞増殖、炎症反応及び免疫応答などの細胞内シグナルネットワークにおける、多くの基礎的な生理化学的な反応を制御している。
【0029】
Gタンパク質共役受容体は、アミノ酸配列、薬理学的動態、機能等の類似に基づいて6つのクラスに分類されている(Molecular BioSystems, 7, p.911-919, 2011)。
クラスA:ロドプシン様受容体
クラスB:セクレチン受容体ファミリー
クラスC:代謝性グルタミン酸受容体/代謝性フェロモン受容体
クラスD:真菌の接合因子受容体
クラスE:サイクリックAMP(cAMP)受容体
クラスF:フリズルド(Frizzled)、スムーセンド(Smoothened)
【0030】
(i)クラスA:ロドプシン様受容体
クラスAのロドプシン様受容体は、N末端の細胞外領域が比較的短く、複数個の膜貫通領域によってリガンド結合部位が形成される。クラスAのロドプシン様受容体はGタンパク質共役受容体の80%以上を占め、苦味受容体、嗅覚受容体、ロドプシン、アドレナリン受容体、ムスカリン性アセチルコリン受容体等を含む。ロドプシン様受容体に保存されているアミノ酸配列として、3つ目の膜貫通領域の膜内側に位置するE/DRY(Asp/Glu,Arg、Tyr)モチーフがある。
【0031】
苦味受容体は、ロドプシン様受容体に属するGタンパク質共役受容体である。ヒト及びマウスの第6番染色体において、T2Rファミリーとして同定された。少なくともマウスで35種類、ヒトで25種類のT2Rが苦味受容体として機能している。ヒトのT2Rとそのリガンドの関係の例は以下の通りである。
T2R4:安息香酸デナトニウム;
T2R10:ストリキニーネ;
T2R14:多くの構造的特徴の異なる苦味物質を非特異的に結合
T2R16:β-グルコピラノシド(サリシン(salicin))
T2R31:アリストロキア酸
T2R38:イソチオシアネート基を有する苦味物質、例えば、ファニルチオカルバミド(PTC)、プロピルチオウラシル(PROP)
T2R40:ジフェニドール
T2R43:キニーネ
T2R46:アブシンチン、ストリキニーネ、デナトニウム
【0032】
マウス及びヒトのT2Rのタンパク質のアミノ酸配列及び遺伝子の核酸配列は公知である。例えば、ヒトの25種類のT2R苦味受容体のアミノ酸配列及び遺伝子配列は、以下の表1に記載のアクセッション番号でNCBI(National Center for Biotechnology Information)又は、GenBankに登録されている。
【0033】
【0034】
【0035】
なお、本明細書において「遺伝子」は、特に明記しない限り核酸と同義で用いており、プロモーター等の制御配列を含まない態様も含む。核酸は、DNA(ゲノムDNA、cDNAの双方を含む)、RNA(mRNA)、DNAとRNAのキメラも含む。ある特定のタンパク質の「遺伝子配列」とは、当該タンパク質のアミノ酸配列をコードする(イントロンを含まない)DNA配列を意味する。
【0036】
嗅覚受容体も、苦味受容体と同様にロドプシン様受容体に属するGタンパク質共役受容体である。嗅覚受容体は平均して約310アミノ酸残基の長さからなり、いくつかのモチーフ配列を共有する。特に特徴的なのは、3番目の膜貫通部位から4番目の膜内ループにかけて存在するMAYDRYVAICというモチーフ配列である。このモチーフ配列のうち、DRY(Asp/Glu,Arg、Tyr)の3アミノ酸残基は、他のロドプシン様受容体とも共通しており、Gタンパク質の活性化に重要と考えられている。多数の嗅覚受容体のタンパク質のアミノ酸及び遺伝子の核酸配列は公知である。
【0037】
例えば、ヒトの嗅覚受容体のアミノ酸配列及び遺伝子配列は、以下の表2に記載のアクセッション番号でNCBI又はGenBankに登録されている。
【0038】
【0039】
(ii)クラスC:代謝性グルタミン酸受容体/代謝性フェロモン受容体
クラスCは、代謝性グルタミン酸受容体、代謝性フェロモン受容体の他に、甘味受容体、旨味受容体、GABA(B型)受容体、カルシウム感知受容体等を含む。本明細書及び特許請求の範囲において「代謝性グルタミン酸受容体/代謝性フェロモン受容体のクラス」と呼称する場合には、特に明記しない限り、クラスCに全体を意味する。クラスCの受容体は、ホモ又はヘテロの二量体として機能し、Gタンパク質共役受容体のなかで最も大きな500~600残基程度の細胞外領域を有する。細胞外領域のリガンド結合ドメインは、Venus Flytrapモジュール(VFTM)構造と呼称される構造をとる。
【0040】
甘味受容体はクラスCに属する受容体で、T1R2/T1R3のヘテロ二量体として機能する。人工甘味料であるアスパルテーム(aspartame)とネオテームの受容にはヒトT1R2のN末端ドメインが、人工甘味料シクラメート(cyclamate)や甘味抑制物質ラクチゾールの受容にはヒトヒトT1R3の膜貫通ドメインが、甘味修飾物質ネオクリンはヒトT1R3のN末端ドメインが各々受容に重要であることが報告されている。甘味タンパク質ブラゼインのヒトT1R3のCリッチドメインが感受性に重要である、と報告されている。
【0041】
旨味受容体は、クラスCに属する受容体で、T1R1/T1R3のヘテロ二量体として機能する。旨味物質のグルタミン酸及びイノシン酸(IMP)は、T1R1のN末端ドメインに結合することが明らかにされている。
【0042】
甘味受容体、旨味受容体を構成するヒトT1R1、T1R2、T1R3ののアミノ酸配列及び遺伝子配列は、以下の表3に記載のアクセッション番号でNCBIに登録されている。
【0043】
【0044】
本発明のコンストラクトを用いて発現されるのは、Gタンパク質共役受容体タンパク質全体であっても、あるいは、そのサブユニットであってもよい。例えば、二量体である甘味受容体又は旨味受容体を構成するサブユニット、T1R2、T1R3、T1R1のいずれか1種類のサブユニットのみを発現するコンストラクトが含まれる。その場合、二量体を構成するもう片方のサブユニットは別のコンストラクトでコトランスフェクトしてもよい。あるいは、単一のベクター中にGタンパク質共役受容体タンパク質を構成する複数のサブユニットをコードする核酸が含まれるようにコンストラクトを構築してもよい。本発明において、少なくとも1つのサブユニットをコードする核酸がIRESの3'側に配置されるようにコンストラクトを構成する。
【0045】
(iii)クラスB:セクレチン受容体ファミリー
クラスBのセクレチン受容体ファミリーは、N末端側の細胞外領域が長くリガンド結合部位を形成する。セクレチン様受容体(狭義)とAdhesion型Gタンパク質共役受容体の2つのサブグループに分かれる。セクレチン様受容体(狭義)には、セクレチン、グルカゴン、グルカゴン様ペプチド(GLP)、カルシトニン、副甲状腺ホルモン等のペプチドホルモンに結合する受容体が含まれる。Adhesion型Gタンパク質共役受容体は、巨大なN末端部位に様々なドメイン構造を有し、細胞外マトリックス等の相互作用が示唆されている。
【0046】
(iv)クラスF:フリズルド(Frizzled)、スムーセンド(Smoothened)
クラスFのGタンパク質共役受容体は、Wntシグナル伝達経路で機能する10種類のフリズルド(Frizzled)タンパク質と、ヘッジホッグシグナル伝達経路で機能するスムーセンド(Smoothened)を含む。クラスFの受容体は、細胞外にシステインリッチドメイン(CRD)と呼ばれる約120アミノ酸残基からなる領域を有し、Wntなどのリガンドの結合領域となっている。
【0047】
本発明において、Gタンパク質共役受容体若しくはそのサブユニットの種類は特に限定されない。少なくともクラスAに属する苦味受容体T2Rの複数のタイプ、並びに、異なるクラスCに属するサブユニットT1R2(甘味受容体を構成)及びT1R3(甘味受容体及び旨味受容体を構成)において、本発明の効果が確認されている。
【0048】
非限定的に、本発明の一態様において、好ましくは、Gタンパク質共役受容体若しくはそのサブユニットは、ロドプシン様受容体のクラス(クラスA)又は代謝性グルタミン酸受容体/代謝性フェロモン受容体のクラス(クラスC)のGタンパク質共役受容体である。本発明の一態様において、Gタンパク質共役受容体は、ロドプシン様受容体のクラスのGタンパク質共役受容体である。より好ましくは、Gタンパク質共役受容体は、苦味受容体である。
【0049】
Gタンパク質共役受容体タンパク質が由来する生物種は特に限定されない。好ましくは動物、より好ましくは哺乳動物種由来である。哺乳動物は、例えば、ヒト、ラット、サル、イヌ、ブタ、ヒツジ、ウマ、マウス等を含む。本発明の一態様において、Gタンパク質共役受容体タンパク質はヒトのGタンパク質共役受容体タンパク質である。
【0050】
(2)Gタンパク質αサブユニット
「Gタンパク質(グアニジンヌクレオチド結合タンパク質)」は、GTPアーゼのグループに属するタンパク質で、一般に、α、β、γの3つのサブユニットから構成される、膜受容体関連ヘテロ三量体を指す。
【0051】
Gタンパク質は、細胞膜の内表面に結合し、GαサブユニットにGβγ二量体が固く結合している。Gタンパク質共役受容体にリガンドが結合し活性化されると、Gタンパク質共役受容体に結合しているGタンパク質は持っているGDPをGαサブユニットから離し、GTPの新しい分子と結合する(GDP型→GTP型への変換)。この変換により、Gαサブユニット、Gβγ二量体及びGタンパク質共役受容体が各々分離する。分離したGαサブユニットは、その下流のエフェクタータンパク質を活性化する。
【0052】
Gタンパク質αサブユニットはGTPアーゼドメインとαヘリックスドメインの2つのドメインからなる。現在、少なくとも20種類のGαサブユニットが知られており、主に4つのファミリーに分類されている。
【0053】
【0054】
本発明において、Gタンパク質αサブユニットの種類は特に限定されない。本発明の一態様において、Gタンパク質αサブユニットタンパク質は、非限定的に、GqファミリーのGタンパク質αサブユニットタンパク質、GiファミリーのGタンパク質αサブユニットタンパク質、GsファミリーのGタンパク質αサブユニットタンパク質、あるいは、これらのキメラタンパク質である。本発明の一態様において、Gタンパク質αサブユニットタンパク質は、Gα16、Gαgust又はGαolf、あるいは、これらのキメラタンパク質である。
【0055】
Gタンパク質サブユニットが由来する生物種は特に限定されない。好ましくは動物、より好ましくは哺乳動物種由来である。哺乳動物は、例えば、ヒト、ラット、サル、イヌ、ブタ、ヒツジ、ウマ、マウス等を含む。本発明の一態様において、Gタンパク質はヒトのGタンパク質共役受容体タンパク質である。
【0056】
ヒトのGα16は、例えばProc.Natl.Acad.Sci.USA, Vol.88,p.5587-5591, 1991に記載されており、mRNAの配列は、GenBankにアクセッション番号M63904.1で登録されている。ヒトのGα16の塩基配列及びアミノ酸配列はまた、本出願の配列表の配列番号65及び66として記載されている。ヒトGα16をコードする遺伝子は、例えば、HL60細胞等の培養細胞から入手することも可能である。
【0057】
ラットGastducinのmRNAの配列は、NCBIにアクセッション番号NM_173139.1で登録されている。ラットGastducinの塩基配列及びアミノ酸配列はまた、本出願の配列表の配列番号67及び68として記載されている。
【0058】
ヒトのGαolfのmRNA配列は、GenBankにアクセッション番号AF493893.1で登録されている。ヒトのGαolfの塩基配列及びアミノ酸配列はまた、本出願の配列表の配列番号69及び70として記載されている。
【0059】
Gタンパク質αサブユニットタンパク質は、キメラタンパク質であってもよい。キメラタンパク質は、同じ生物種由来の異なる種類のGタンパク質αサブユニットの融合タンパク質であってもよく、異なる生物種由来の同じ種類のGタンパク質αサブユニットの融合タンパク質であってもよく、あるいは、異なる生物種由来の異なる種類のGタンパク質αサブユニットの融合タンパク質であってもよい。Gタンパク質αサブユニットタンパクnのキメラタンパク質は、Gタンパク質共役受容体への結合特異性、結合強度、あるいは、安定性などの特徴が元来のGタンパク質αサブユニットタンパク質と異なる場合がある。このようなキメラタンパク質をコードする核酸を含むコンストラクトを利用することにより、所望の特徴を有する形質転換細胞を得ることができる。そして、所望の特徴を有する形質転換細胞は、物質の生理的応答の測定方法に適宜利用することができる。
【0060】
本発明の一態様において、Gタンパク質αサブユニットタンパク質は、ヒトGα16/ラットGαgustである。ヒトGα16/ラットGαgustは、ヒトGα16のC末端側をラットGαgustのC末端配列に置換したキメラタンパク質である。Gα16のC末端側を37アミノ酸残基以上のGαgustのC末端配列に置換したキメラタンパク質は、苦味受容体T2Rに応答することが報告されている(The Journal of Neuroscience, 23(19), p.7376-7380, 2003)。
【0061】
ヒトGα16を置換するラットGαgustのC末端配列は、好ましくは少なくとも25アミノ酸基以上、30アミノ酸基以上、35アミノ酸残基以上、37アミノ酸残基以上、40アミノ酸基以上、43アミノ酸残基以上である。ヒトGα16を置換するラットGαgustのC末端配列は、好ましくは、60アミノ酸残基以下、50アミノ酸基以下、45アミン酸基以下、43アミノ酸基以下である。本発明の一態様において、Gタンパク質αサブユニットタンパク質は、ヒトGα16/ラットGαgust43である。
【0062】
本明細書の実施例では、ヒトのGα16の配列番号65の3’末端の132塩基(終始コドン含む)C末端の43アミノ酸をコードする配列に相当)を、ラットGastducinの相当する配列、即ち、配列番号67の3’末端の132塩基(終始コドン含む、C末端の43アミノ酸をコードする配列に相当)に置換した(Gα16/Gαgust43(Gα))。
【0063】
(3)IRES
本発明のコンストラクトは、単一ベクター中のGタンパク質αサブユニットタンパク質をコードする核酸の下流(3’側)、かつ、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットをコードする核酸の上流(5’側)の位置に、IRES配列を含む核酸を含む。IRESは、Internal ribosome entry site(内部リボソーム進入部位)の略称であり、タンパク質合成の効率をより上昇させるために、キャップ非依存的な翻訳開始を可能にするRNA因子である。多くのIRESは、RNAウイルスの5'UTR(5’非翻訳領域)に存在するが、哺乳動物細胞の細胞性mRNAの中にもIRESが存在することが示唆されている。
【0064】
現在までに発見されているウイルス性IRESは、5つのクラスに大別される(Journal of Virology, Vol.86, No.3, p.1468-1486, 2012)。
【0065】
1つめのクラスは、ジシストロウイルスのIRES群である。2つめのクラスは、C型肝炎ウイルス(HCV)及びペスチウイルス属のウイルスのIRES,さらに、構造的に類似した多くのウイルスのIRESを含む。
【0066】
さらに、タイプ1~タイプ3と呼称される3つのクラスのIRESが知られている。これらは、いずれも、ピコルナウイルス科の5'UTRにおいて同手されたものである。
【0067】
これらのうちタイプ2は、主に、アフトウイルス属(Aphthovirus)、カルジオウイルス属(Cardiovirus)、パレコウイルス属(Parechovirus)に見出されるIRESである。さらに、エルボウイルス属(Erbovirus)、コサウイルス属(Cosavirus)にも分岐メンバーが存在する。カルジオウイルス属(Cardiovirus)は、脳心筋炎ウイルス(Encephalomyocarditis virus) (EMCV)、タイロウイルス(Theilovirus)を含む。タイプ2のIRESは、約450塩基の長さで、3'-末端Yn-Xm-AUG(Ynはピリミジントラクトであり、nは8-10の整数であり、そして、mは、18-20である。)のモチーフを有し、AUGトリプレットが開始コドンとなる場合がある。タイプ2のIRESは、H、I、J、K及びLの5つの主たるドメインを含む。タイプ2のIRESは、真核生物の翻訳開始因子IF4E及びリボソームスキャンニングに関与する因子、例えば、eIF1及びeIF1A等の関与なしに機能する。ただし、タイプ2のIRESのうちいくつかは、1又は複数のIRESトランス活性因子(ITAFs)を必要とする。ITAFは、ピリミジントラクト結合タンパク質(PTB)などの細胞性RNA結合タンパク質である。
【0068】
タイプ1のIRESは、エンテロウイルス属(Enterovirus)のみに見出されるIRESである。タイプ1のIRESは、II-VIの5つの主たるドメインを含む。タイプ2のIRESは、約450塩基の長さで、タイプ2と同様に3'-末端Yn-Xm-AUGのモチーフを有する。ただし、タイプ1のIRESではこのモチーフは非保存スペーサーによって開始コドンから離されている。タイプ3は、A型肝炎ウイルスのみで見出されるIRESである。
【0069】
細胞性IRESについては、例えば、GENES & DEVELOPMENT, Vol,15, p.1593-1612, 2001に記載されている。
【0070】
本発明において、IRESの種類は特に限定されない。非限定的に、本発明の一態様において、IRESはウイルス性のIRESである。本発明の一態様において。IRES配列は、タイプ2のIRES配列、例えば、脳心筋炎ウイルス由来のIRES配列である。脳心筋炎ウイルス由来のIRESの核酸配列はGenBankにアクセッション番号M81861.1で登録されている。本明細書の実施例で用いたIRES配列は配列番号71で、GenBankのアクセッション番号M81861.1の配列に対し、pIRES2-EGFPベクター(Clontech)のIRES部位を模して、一部修正している。具体的には、配列番号71において塩基番号1にGが、塩基番号512にAが追加されている。
【0071】
(4)Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットの細胞膜への移行を高める機能を有するポリペプチド
本発明のコンストラクトは、一態様において、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットをコードする核酸の5’側に、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットの細胞膜への移行を高める機能を有するポリペプチドをコードする核酸を含む。
【0072】
このようなコンストラクトを用いた場合、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットのN'末端側に、このようなポリペプチドが結合した融合タンパク質が発現する。従って、当該コンストラクトで形質転換された細胞において、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットの細胞膜への移行が向上する。より多くのGタンパク質共役受容体が細胞膜へ移行している形質転換細胞は、物質の生理的応答の測定方法により利用しやすくなる。
【0073】
本発明において、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットの細胞膜への移行を高める機能を有するポリペプチドの種類は、「Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットの細胞膜への移行を高める」という機能を有する限り、特に限定されない。「Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットの細胞膜への移行を高める」とは、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットのN末端側に当該ポリププチドが結合している場合、結合していない場合と比較して、発現したGタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットが形質転換細胞の核から細胞膜へ移行する割合が(有意に)上昇することを意味する。
【0074】
Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットの細胞膜への移行を高めるポリペプチドは、非限定的に、ラットのソマトスタチン受容体の全体又は一部を含むポリペプチド、ウシのロドプシンの全体又は一部を含むポリペプチドを含む(Archives of Phisiology and Biochemistry Vol.110 p.137-45,2002; Nature Genetics, Vol.32, p.397-401, 2002; Cell, Vol.100, p.703-711, 2000)。本発明の一態様において、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットの細胞膜への移行を高めるポリペプチドは、ラットのソマトスタチン受容体のN末端45アミノ酸を含むポリペプチド、ウシのロドプシンのN末端39アミノ酸を含むポリペプチド、又は、ヒトのロドプシンのN末端21アミノ酸を含むポリペプチドである。
【0075】
ラットのソマトスタチン受容体のmRNAの配列は、NCBIにアクセッション番号NM_133522.1で登録されている。ラットソマトスタチン受容体の塩基配列及びアミノ酸配列はまた、本願の配列表の配列番号72及び73として記載されている。本願明細書の実施例では、配列番号72の5’末端の135塩基をGタンパク質共役受容体をコードする塩基配列の5'側に結合した。
【0076】
ヒトのロドプシンのmRNAの配列は、NCBIにアクセッション番号NM_000539.1で登録されている。ヒトロドプシンの塩基配列及びアミノ酸配列はまた、本願の配列表の配列番号74及び75として記載されている。
【0077】
(5)ベクター
本発明のコンストラクトは、Gタンパク質αサブユニットタンパク質をコードする核酸、IRES配列を含む核酸、並びに、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットをコードする核酸を、単一ベクター中に5’側から順に含む。単一ベクター中に上記核酸を上記順に含むことにより、形質転換細胞において、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットの発現量が上昇する、並びに/或いは、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットのリガンド物質への応答性が上昇する、という効果が得られる。ベクターにおいて、5’側から、Gタンパク質αサブユニットタンパク質をコードする核酸、IRES配列を含む核酸、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットをコードする核酸の順序で並んでいることが重要である。IRESの3’側の核酸にコードされるタンパク質は発現量が高くない、というのが従来の定説であった。本発明者らは、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットの場合、IRESの5’側よりも3'側に配置することで発現量が高まる、という発見に基づき本発明を想到した。
【0078】
なお、Gタンパク質共役受容体が、例えば、甘味受容体(T1R2/T1R3)、旨味受容体(T1R1/T1R3)のような二量体の場合、二量体を構成する一方のサブユニットをコードする核酸のみを、上述のように、Gタンパク質αサブユニットタンパク質をコードする核酸、IRESとともに単一ベクターに含ませてもよい。もう片方のサブユニットをコードする核酸を別のベクターに含ませ、上記ベクターとコトランスフェクトしてもよい。
【0079】
ベクターの種類は、所望の細胞においてタンパク質を発現できる発現ベクターであれば特に限定されない。非限定的に、プラスミドベクター、ファージベクター、コスミドベクター、ウイルスベクター等を含む。当業者は、タンパク質を発現させる細胞の種類に応じて、適宜ベクターを選択可能である。
【0080】
本発明の一態様において、ベクターはプラスミドベクターである。プラスミドベクターは、例えば、pFRT/lacZeo、pUC12、pUC13、pUC19、pBR322、pBR325、pSH15、pSH19、pUB110、pC194等を含む。Thermo Fisher Scientific社のpcDNA(商標)シリーズ(pcDNA3、pcDNA5は、哺乳動物細胞における発現ベクターとして使用しうる。哺乳動物細胞における発現ベクターとしては、その他に、pEAK10(Edge biosystem社)も使用することができる。
【0081】
本発明のベクターは好ましくは、プロモーターを含む。プロモーターの種類は特に限定されない、例えば、ヒトサイトメガロウイルス由来プロモーター(CMVプロモーター)、EF1αプロモーター等が含まれる。本発明の一態様において、ベクターはCMVプロモーターを含むプラスミドベクター、あるいは、EF1αプロモーターを含むプラスミドベクターである。
【0082】
本発明のベクターは、好ましくは、形質転換された細胞を選択するための選択マーカーを含む。選択マーカーの種類は特に限定されず、薬剤耐性遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子等、公知のプロモーターを含む。選択マーカーを含むことにより、安定してタンパク質を発現する細胞株を選択することが可能になる。
【0083】
本発明の一態様として、選択マーカーは薬剤耐性遺伝子である。薬剤耐性遺伝子は、非限定的に、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ブラストサイジン耐性遺伝子等を含む。
【0084】
本発明の一態様において、ベクターは、CMVプロモーター及びハイグロマイシン耐性遺伝子を含むプラスミドベクターである。このようなベクターの一例は、本明細書の実施例で用いた、pcDNA3.1 Hygro(+)ベクター(Thermo Fisher Scientific社)である。
【0085】
本発明の別の一態様において、ベクターは、EF1αプロモーター及びピューロマイシン耐性遺伝子を含むプラスミドベクターである。このようなベクターの一例は、pEAK10(Edge biosystem社)である。
【0086】
本明細書の実施例で使用したpcDNA3.1 Hygro(+)ベクター及びpEAK10ベクターの配列を各々本願の配列表の配列番号80及び81で示す。配列番号80の塩基895―942は、目的遺伝子が挿入されるマルチクローニング部位(MCS)である。配列番号81の塩基1892-2823はEF-1αプロモーター配列、塩基2844-2845は目的遺伝子が挿入される部位、塩基3293-3892はピューロマイシン耐性遺伝子配列に相当する。
【0087】
II.形質転換細胞
本発明はまた、上記本発明のコンストラクトを遺伝子導入した形質転換細胞に関する。本発明のコンストラクトを遺伝子導入し形質転換細胞を作製するための宿主細胞の種類は、遺伝子導入により外因性核酸を導入し形質転換可能な細胞であれば、特に限定されない。
【0088】
例えば、細胞は、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母菌及び細菌からなる群から選択される。本明細書における、動物細胞の由来は特に限定されない。好ましくは、脊椎動物門に属する動物由来の細胞を意味する。脊椎動物門は、無顎上綱と顎口上綱を含み、顎口上綱は、哺乳綱、鳥綱、両生綱、爬虫綱などを含む。好ましくは、一般に、哺乳動物と言われる哺乳綱に属する動物由来の細胞である。哺乳動物は、特に限定されないが、好ましくは、マウス、ラット、ヒト、サル、ブタ、イヌ、ヒツジ、ヤギなどを含む。
【0089】
哺乳動物由来の細胞は、長期間にわたって体外で維持され、一定の安定した性質をもつに至り、半永久的な継代培養が可能になった培養細胞である「株化細胞」を含む。例えば、PC12細胞(ラット副腎髄質由来)、CHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣由来)、HEK293細胞(ヒト胎児腎臓由来)、HL-60細胞(ヒト白血球細胞由来)、HeLa細胞(ヒト子宮頸癌由来)、Vero細胞(アフリカミドリザル腎臓上皮細胞由来)、MDCK細胞(イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来)、HepG2細胞(ヒト肝癌由来)などヒトを含む様々な生物種の様々な組織に由来する株化細胞が存在する。
【0090】
本明細書における植物細胞の由来は特に限定されない。コケ植物、シダ植物、種子植物を含む植物の細胞が対象となる。種子植物細胞が由来する植物は、単子葉植物、双子葉植物のいずれも含まれる。本明細書における昆虫細胞の由来も特に限定されない。本明細書における古細菌及び細菌の種類も特に限定されない。
【0091】
非限定的に、本発明の形質転換細胞を作製するための宿主細胞としては、HEK293細胞、CHO細胞、32D細胞、HeLa細胞、COS細胞、BHK細胞などの真核細胞を利用できる。本発明の一態様において、宿主細胞はHEK293細胞である。
【0092】
本発明のコンストラクトを用いて、宿主細胞を遺伝子導入(形質転換する)方法は特に限定されない。動物細胞、植物細胞、細菌へ核酸を遺伝子導入する方法については、各々適した方法が公知である(例えば、MOLECULAR CLONING: A Laboratory Manual (Fourth Edition), Michael R Green and Joseph Sambrook, 2012, (Cold Spring Harbor Laboratory Press))。当業者は、ベクターの種類、細胞の種類等に応じて、適宜適切な遺伝子導入法を使用しうる。例えば、プラスミドベクター等の非ウイルスベクターの場合、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法などの遺伝子導入法が知られている。
【0093】
形質転換細胞は、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットを安定的に発現する細胞(安定発現株)であってもよいし、一過性に発現する細胞(一過性発現細胞)であってもよい。「安定発現株」は、例えば、遺伝子導入によりコンストラクトに含まれる核酸が宿主細胞のゲノムに安定に組み込まれたことが選択マーカーによって確認され、従って、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットを安定して発現する細胞株をいう。「一過性発現細胞」は、コンストラクトに含まれる核酸が宿主細胞のゲノムに安定に組み込まれたことが確認されておらず、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットを安定して発現することが確認できていない細胞を意味する。
【0094】
本発明の形質転換細胞は、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットの発現量が上昇している、並びに/或いは、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットのリガンド物質への応答性が上昇している、という特徴を有する。「Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットの発現量が上昇している」とは、従来技術を用いてGタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットを発現させた場合と比較して、その発現量が上昇していることを意味する。「Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットのリガンド物質への応答性が上昇している」とは、本発明前の従来技術を用いてGタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットを発現させた場合と比較して、そのリガンド物質への応答性が上昇していることを意味する。
【0095】
「従来技術」とは例えば、以下の態様を含む。
(1)共遺伝子導入
(1a)Gαタンパク質をコードする核酸を含むベクターと、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットをコードする核酸を含むベクターで宿主細胞をコトランスフェクトする;
(1b)Gαタンパク質を安定発現させた細胞株を、Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットをコードする核酸を含むベクターで形質転換する。
(2)IRESを含む共発現ベクター
5’側から順に、プロモーター - Gタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットをコードする核酸 - IRES - Gαタンパク質をコードする核酸を含む単一ベクターで形質転換する。
【0096】
本発明の形質転換細胞は、従来技術を用いてGタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットを発現させた場合と比較して、安定性が優れている。安定性とは、通常の細胞の培養条件における安定性、凍結保存等の保存条件における安定性を含む。例えば、本明細書の実施例において、凍結保存で1ヶ月程度保存した場合でも、リガンドに対する応答強度が凍結保存前と比較して0.8以上とほとんど低下しなかった。これに対し、共遺伝子導入(Double stable)では、リガンドに対する応答強度が凍結乾燥後に、0.6未満に低下していた。
【0097】
III.物質の生理的応答の測定方法。
本発明はさらに、物質の生理的応答の測定方法に関する。本発明の測定方法は、本発明の形質転換細胞に物質を添加し、当該物質による生理的応答を測定する工程を含む。
【0098】
「物質」は、Gタンパク質共役受容体に結合し作動薬となり得る物質であれば、特に限定されない。物質は、Gタンパク質共役受容体に構造変化を起こし、膜内側に結合しているGタンパク質を活性化させてシグナル伝達を行うものであり、食品、飲料品等に含まれる化学物質、匂い分子、神経伝達物質、ホルモン等を含む。シグナルは、嗅覚、味覚、視覚、神経伝達、代謝、細胞分化及び細胞増殖、炎症反応及び免疫応答などの細胞内シグナルネットワークにおける、生理的応答を引き起こす。物質は、Gタンパク質共役受容体の種類に応じて異なる。
【0099】
一態様において、物質は、苦味物質、匂い物質、旨味物質又は甘味物質、あるいはこれらの物質に対する調節物質である。
【0100】
「苦味物質」は、ヒトが苦味を感知できる物質であれば特に限定されない。例えば、安息香酸デナトニウム、ストリキニーネ、β-グルコピラノシド(サリシン(salicin))、アリストロキア酸、イソチオシアネート基を有する苦味物質(例えば、ファニルチオカルバミド(PTC)、プロピルチオウラシル(PROP))、ジフェニドール、キニーネ、アブシンチン、デナトニウムを含む。
【0101】
「匂い物質」は、分子量30から300程度までの低分子化合物である。例えば、脳内ホルモンであるセロトニンの基本骨格はインドールという糞臭の物質であり、ドーパミンやアドレナリンの骨格は、バニラのにおいであるバニリンと似ている。揮発性という性質をもっている低分子有機化合物であればどんな物質でも匂い物質になりうる。匂いは、様々な食べ物、植物、動物から発せられ、嗅覚が退化したといわれている人間でも1万種類くらいは識別できるといわれている。「匂い物質」の例として、具体的な「匂い物質」の例として、麝香(ムスク)臭の主成分であるムスコン、霊猫香(シベット)香の主成分であるシベトンや、スミレの花の香りを醸し出すα-ヨノン、リラの花の香りの主成分α-テルピネオール、スペアミントの香りを成す(-)5R-カルボン、更に魚臭を成すメチルアミン、ジメチルアミンやトリメチルアミン等が挙げられる。
【0102】
「旨味物質」は、例えば、ヒトが旨味を感知できる物質であれば特に限定されない。例えば、グルタミン酸及びイノシン酸(IMP)を含む。
【0103】
「甘味物質」は、例えば、ヒトが甘味を感知できる物質であれば特に限定されない。例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、ラフィノース、キシロース、スクロース、マルトース、乳糖、水飴、異性化糖、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、乳果オリゴ糖、大豆オリゴ糖、トレハロース、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、イソマルトール、還元水飴、還元パラチノース、和三盆、黒糖、三温糖、蜂蜜、糖蜜、甘草抽出物及びメープルシロップなどの糖質系甘味料、及び、アスパルテーム(aspartame)、サッカリン、ズルチン、ステビオシド、ステビア抽出物、グリチルリチン、アセスルファム-K、スクラロース(登録商標;三栄源エフ・エフ・アイ)、シクラメート(cyclamate)、アリテーム、ネオテーム、ペリラルチン、モネリン、クルクリン(登録商標;ADEKA)などの非糖質系甘味料が広く含まれる。
【0104】
「苦味物質、匂い物質、旨味物質又は甘味物質の調節物質」とは、単独では、苦味、匂い、旨味、甘味を生じないが、苦味物質、匂い物質、旨味物質又は甘味物質と共に受容されることにより、各物質の味覚、嗅覚を増強、修飾、又は抑制するものである。
【0105】
例えば、「苦味物質の調節物質」には、ベネコートBMI(花王)、プロベネシド等が含まれる。「匂い物質の調節物質」には、嗅覚抑制剤である、2.4.6-トリクロロアニソール、ゲラニオール等が含まれる。「甘味物質の調節物質」には、甘味抑制物質ラクチゾール、甘味抑制物質ギムネマ酸、甘味修飾物質ネオクリン等が含まれる。
【0106】
本発明の形質転換細胞を用いてある物質の生理的応答を測定するためには、例えば、以下のようにして行う。
【0107】
本発明の形質転換細胞の所定の数を多数のウェル(24穴、48穴、96穴、384穴など)を有するマイクロプレートの各ウェルに撒き(例えば、1万~50万個/ウェル)、所定の培地(例えば、DMEM培地)中で培養する。細胞培養後、特定の物質を添加した場合において、上記安定培養細胞株に発生した生理的応答を測定し、その測定結果に基づいて物質の生理的応答を評価する。生理的応答を測定は、物質の種類に応じて、Gタンパク質共役受容体の活性化に伴って変化する事象が適宜選択される。
【0108】
例えば、苦味受容体、甘味受容体、旨味受容体などの味覚受容体が活性化されると、細胞内のセカンドメッセンジャー(IP3(イノシトール三リン酸)、DAG)などを介する情報伝達過程を経て、細胞内のカルシウム濃度が上昇する。したがって、測定対象とする生理的応答としては、味覚受容体の活性化に伴って変化する細胞内のセカンドメッセンジャーの変化、細胞内のカルシウム濃度の変化などが挙げられる。よって、細胞内のセカンドメッセンジャー又はカルシウム濃度の変化を測定することによって、生理的応答を測定することが可能である。
【0109】
例えば、苦味、甘味又は旨味等の味覚刺激によって惹起される細胞内カルシウム濃度変化を、蛍光カルシウムインジケーターを用いることにより観察するカルシウムイメージング法で行うことができる。蛍光カルシウムインジケーターには、生理的に変化し得るカルシウム濃度において蛍光特性が変化すること、及びそのときの変化がカルシウム特異的に誘導されることが要求される。蛍光カルシウムインジケーターの例は、Fluo-8(登録商標)(AAT Bioquest社)(励起波長490nm、蛍光波長514nm)、Fluo-4 AM((AAT Bioquest社)(励起波長490nm、蛍光波長525nm)、Fura-2 AM(Thermo Fisher社)(励起波長340nm、蛍光波長380nm)を含む。
【0110】
匂い物質の生理的応答の測定は、例えば、匂い物質の生理応答測定には匂い物質の嗅覚刺激によって惹起される細胞内cAMP濃度の変化を測定する手法が用いられる。細胞内cAMPを測定する方法としては、蛍光若しくはHRP等の酵素を標識したcAMPと抗cAMP抗体を用いた蛍光偏光イムノアッセイ又は競合型イムノアッセイ、あるいは、cAMP応答配列(CRE)の下流にルシフェラーゼを挿入したベクターを遺伝子導入し、ルシフェラーゼアッセイにより測定する手法、などが挙げられる。
【0111】
本発明は、物質の生理的応答を測定するための本発明の記載の形質転換細胞の使用を含む。
【0112】
本発明は、Gタンパク質αサブユニットタンパク質をコードする核酸とGタンパク質共役受容体タンパク質若しくはそのサブユニットをコードする核酸を、単一ベクター中に含む。よって、形質転換細胞におけるGタンパク質αサブユニットタンパク質とGタンパク質共役受容体タンパク質の発現量は正の相関関係があると推定される。本発明の形質転換細胞において、Gタンパク質共役受容体のGタンパク質共役受容体作動薬に対する応答性とGα作動薬に対する応答強度は高い正の相関性を示す(実施例7,
図8)。従って、物質(Gタンパク質共役受容体作動薬)を添加した形質転換細胞において、Gタンパク質αサブユニットのGα作動薬に対する応答強度を測定することにより、物質に対する生理応答強度を推測することも可能である。
【0113】
IV.物質の生理的応答の測定方法に使用するためのキット
本発明はさらにまた、本発明の形質転換細胞を含む、当該形質転換細胞に物質を添加し、当該物質による生理的応答を測定する、物質の生理的応答の測定方法に使用するためのキットに関する。
【0114】
本発明のキットは、本発明の形質転換細胞の他に、物質の生理的応答の測定方法に使用するために必要な材料、使用説明書などを含むことができる。物質の生理的応答の測定方法に使用するために必要な材料とは、例えば、形質転換細胞を維持・培養するための培地、物質の生理的応答により生じたセカンドメッセンジャー又はカルシウムの濃度を測定するための試薬(例えば、カルシウム濃度を測定するための蛍光カルシウムインジケーター等)などである。
【0115】
本発明は、形質転換細胞を含む、当該形質転換細胞に物質を添加し、当該物質による生理的応答を測定する、物質の生理的応答の測定方法に使用するための装置に関する。本発明の装置は、本発明のキット、物質の生理的応答により生じたセカンドメッセンジャー又はカルシウムの濃度を測定するための機器等を含む。
【0116】
苦味物質、匂い物質、旨味物質又は甘味物質、あるいはこれらの物質に対する調節物質などの呈味物質に対する生理的応答を測定するための装置の例として、例えば、Intelligent Sensor Technology Inc.により「人工脂質膜味覚センサー」が開発されている(http://www.insent.co.jp/products/taste#sensor#index.html)。この味覚センサーは、種々の呈味物質と静電相互作用や疎水性相互作用することによる人工脂質膜の膜電位の変位をセンサー出力として、コンピュータにより検知する、というものである。例えば、Intelligent Sensor Technology Inc.より味認識装置TS-5000Zが販売されている。本発明の装置は、このようなセンサー中の人工脂質膜の代わりに、本発明の形質転換細胞を利用するものである。具体的には、本発明の形質転換細胞を、人工膜と置き換えて装置に固定し、物質を作用させ、細胞内のセカンドメッセンジャー又はカルシウム濃度の変化を測定することによって、物質の生理的応答を測定する。本発明の装置は、使用後、洗浄等により試験物質を除去することにより、繰り返し測定に使用することが可能である。
【実施例】
【0117】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【0118】
実施例1 コンストラクトの構成及び作製方法
本実施例では、Gタンパク質共役受容体タンパク質を発現するためのコンストラクトを作製した。本発明のコンストラクトは、単一ベクター中に、5’側から順に、Gタンパク質αサブユニットタンパク質をコードする核酸、IRES配列を含む核酸、そして、Gタンパク質共役受容体タンパク質をコードする核酸を含む。
【0119】
以下の3種類の遺伝子をそれぞれPCRによって増幅した。
-5’末端にラットソマトスタチン受容体3(ssr3)の開始コドンから135塩基目の遺伝子配列を、3’末端にV5エピトープ配列を付加したヒト苦味受容体(T2R16)発現遺伝子(ssr/T2R16/V5)
なお、V5エピトープ配列は、T2Rのタンパク質発現量を調べるための抗体認識タグである(塩基配列:配列番号76);
-脳心筋炎ウイルス(Encephalomyocarditis virus)由来のIRES;及び
-ヒトのGタンパク質αサブユニットG16の末端129塩基をラットのガストデューシン(Ggust)の末端129塩基に置換したGα16/gust発現遺伝子(Gα16/Gαgust43)(配列番号77)。
【0120】
得られた遺伝子断片をIn-Fusion HD Cloning Kit(Clontech社)を用いてpcDNA3.1 Hygro(+)ベクター(Thermo Fisher Scientific社)のマルチクローニングサイトに、挿入した。挿入順は以下の通りである。
本発明のベクター: Gα-T2R16
Gα16/Gαgust43-IRES-ssr/T2R16/V5
比較例のベクター: T2R16-Gα
ssr/T2R16/V5 -IRES-Gα16/Gαgust43
各ベクターの構成を
図1に示す。
【0121】
実施例2 本発明のコンストラクトを含む安定発現株の作製
本実施例では、本発明のコンストラクト(Gα-T2R16)を組み込み、苦味受容体T2R16を安定に発現する細胞株(T2R16安定発現株)を作製した。
【0122】
具体的には、培養容器に1×106個播種したヒト胎児腎細胞株HEK293T(理化学研究所より入手)に、実施例1で作製したGα-T2R16及びT2R16-Gαの各プラスミドベクター5μgをLipofectamine(登録商標)3000(Thermo Fisher Scientific社)を用いて遺伝子導入した。48時間培養後、培地に100μg/mLのハイグロマイシンBを添加し15日程度培養することで薬剤耐性スクリーニングを行った。薬剤耐性を獲得した細胞を96ウェルプレートの各ウェルに1個ずつとなるよう播種することでクローニングした。10日程度培養後、安定発現株を取得した。
【0123】
実施例3 苦味物質に対する安定発現株の応答測定
(1)Gα-T2R16安定発現株の応答測定
本実施例において、実施例2のT2R16安定発現株の苦味物質に対する応答を測定した。
【0124】
実施例2に記載の方法に基づき作製したT2R16安定発現株を、96ウェルプレートに2×104個/ウェルでそれぞれ播種した。細胞の培養培地には、緑色蛍光カルシウムインジケーターFluo-8(登録商標)(AAT Bioquest社)を含ませており、細胞株へのFluo-8の取り込みを調べた。Fluo-8(登録商標)は、細胞内のカルシウム動態の検出に適しており、GPCR活性の示標となる。
【0125】
Fluo-8(登録商標)を取り込ませた細胞を490nmで励起させ、514nmの蛍光強度を測定した。測定中にT2R16作動薬であるサリシン(10、3、1、0.3、又は0.1mM)を添加し、添加後40秒間における蛍光強度の最大値を取得した。測定開始時点の蛍光強度に対する蛍光強度の最大値の増加率を作動薬に対するT2R16の応答強度として算出した。結果を
図2に示す。
【0126】
図2に示されるように、Gα-T2R16プラスミドを含む細胞株のみサリシンに対する応答を示した。T2R16-Gαプラスミドを含む細胞株ではサリシンに対する応答はほとんど観測されず、応答を示すクローンを単離することができなかった。
【0127】
(2)Gα-T2R40及びGα-T2R43の安定発現株の応答測定
T2R16以外の苦味受容体のサブタイプT2R40、T2R43についても、実施例3(1)と同様に、安定発現株の応答を測定した。
【0128】
具体的には、実施例1、実施例2に記載の方法と同様に、Gα-T2R40安定発現株(Gα16/Gαgust43-IRES-ssr/T2R40/V5を含む)及びGα-T2R43安定発現株(Gα16/Gαgust43-IRES-ssr/T2R43/V5を含む)を作製した。
【0129】
実施例2に記載の方法と同様の方法を用いて、Gα-T2R40安定発現株及びGα-T2R43安定発現株を作製した。これらの細胞株にそれぞれの作動薬(T2R40:ジフェニドール,T2R43:キニーネ)を100μM又は300μM作用させ、添加後40秒間における蛍光強度の最大値を取得した。測定開始時点の蛍光強度に対する蛍光強度の最大値の増加率を作動薬に対するT2R40、T2R43の応答強度として算出した。結果を
図3に示す。T2R40-Gα、T2R43-Gαと比較して、Gα-T2R40及びGα-T2R43が各々の作動薬に対し高い応答強度を示した。
【0130】
実施例4 苦味物質に対する一過性発現細胞の応答測定
96ウェルプレートに2×104個播種したHEK293Tに、Gα-T2R16及びT2R16-Gαの各プラスミドベクター0.1μgをLipofectamine(登録商標)3000を用いて遺伝子導入した。30時間培養後、実施例3(1)と同様の手法を用いてサリシンに対する応答強度を測定した(サリシンの添加後40秒間における蛍光強度の最大値)。なお、実施例2のようなハイグロマイシンBによる薬剤耐性スクリーニングは行っていない(一過性発現細胞)。
【0131】
さらに、比較例としてT2R16-Gα発現細胞以外に、以下の細胞も作製し、サリシンに対する応答を測定した。
Gα16/Gαgust43発現遺伝子及びssr-T2R16-V5発現遺伝子をそれぞれpcDNA3.1 Hygro(+)ベクターに組込んだGα16/Gαgust43gust発現ベクターとssr-T2R16-V5発現ベクターを計0.1μg同時に遺伝子導入し一過性発現させた細胞(コトランスフェクション);並びに
実施例2と同様の手法を用いて作製したGα16/Gαgust43安定発現株(ハイグロマイシンBによる薬剤耐性スクリーニング済)に、0.1μgのssr-T2R16-V5発現ベクターを遺伝子導入し、一過性発現させた細胞(Gα stable)。
【0132】
結果を
図4に示す。
図4の結果から分かるように、一過性発現系においてもGα-T2R16がT2R16-Gαと比較して高い応答強度を示し、さらに、既報の一過性発現系(コトランスフェクション及びGα stable)と比較しても高い応答強度を示すことが確認された。
【0133】
実施例5 Gα16/Gαgust43及び苦味受容体T2R16の発現量
一般的にIRESを介したmRNAの翻訳は、5’末端からのキャップ依存的な翻訳と比較して低効率と考えられている。本実施例では、キャップ依存的翻訳とIRES依存的翻訳に関し、Gα16/Gαgust43及び苦味受容体T2R16の発現量を調べた。
【0134】
(1)Gα16/Gαgust43の発現量
実施例4で作製したGα-T2R16(本発明)、T2R16-Gα、コトランスフェクションの一過性発現細胞に関し、T2R非依存的Gα16作動薬であるイソプロテレノール(3μM)に対する応答強度を、実施例3の方法と同様に測定して比較した。その結果を
図5に示す。
【0135】
イソプロテレノールに対する応答強度は、Gα16の発現量に比例すると考えられる。
図5に示されるように、Gα16/Gαgust43がキャップ依存的に翻訳されるGα-T2R16、co-transfectionと比較し、Gα16/Gαgust43がIRESを介して翻訳されるT2R16-Gαの発現量が低いことが確認された。即ち、Gα16/Gαgust43の発現量は、キャップ依存的>IRES依存的であることが示された。
【0136】
(2)T2R16の発現量
T2R16-Gα、Gα-T2R16(本発明)及びssr-T2R16-V5のみ(T2R16 single)を一過性発現させた細胞を用い、In cell ELISA法によりT2R16の発現量を比較した。In cell ELISAにはIn Cell ELISA Kit(BOO Bioscientific社)を、T2R16の検出にはC末端に付加したV5エピトープを認識する抗V5-HRP抗体(Thermo Fisher Scientific社)を用いた。T2R16の相対的発現量はHRP基質の発色を450nmの吸光度を測定することで取得した。
【0137】
結果を
図6に示す。この結果、T2R16がIRESを介して翻訳されるGα-T2R16のT2R16発現量が、キャップ依存的にT2R16が翻訳されるT2R16-Gα及びT2R16 singleより高いことが確認された。即ち、T2R16の発現量は、キャップ依存的<IRES依存的であることが示された。同様の結果は、Gα16/Gαgust43よりもT2Rとの結合性が弱いGα16をもちいた場合にも得られた(データ示さず)。
【0138】
よって、本発明のGα-T2R16は、Gα16/Gαgust43(及びGα16)、T2R16共に高発現させることが示された。さらに、苦味受容体のT2R16以外のサブタイプ(T2R40及びT2R43)でも同様の結果が観察された(データ示さず)。
【0139】
実施例6 Gα-T2R16安定発現株の保存安定性
本実施例では、Gα-T2R16安定発現株の凍結保存前後の応答強度を調べた。
【0140】
本実施例のGα-T2R16は、実施例2のGα-T2R16安定発現株と同様に作成したが、発現ベクターとして、pEAK10(Edge biosystem社)を用い、「ssr/T2R16/V5」の代わりに、「ssr/T2R16」(V5無し)を挿入した。また、薬剤耐性スクリーニングは、ハイグロマイシンBの代わりに1μg/mLのピューロマイシンで行った。
【0141】
比較例として、実施例2と同様の手法を用いて作製したGα16/Gαgust43安定発現株(ピューロマイシンによる薬剤耐性スクリーニング済)に、さらに5μgのssr-T2R16発現ベクターを遺伝子導入し、次いで、ピューロマイシンによる薬剤耐性スクリーニングを行うことにより作成した、Gα16/Gαgust43安定発現+T2R16安定発現の安定発現細胞株(Double stable)を用いた。
【0142】
細胞株の凍結保存の前後に、実施例3と同様にサリシン(1又は0.1mM)に対する応答強度を調べた。凍結保存にはCELLBANKER(日本全薬工業社)を用い、液体窒素下で、1ヶ月保存した。凍結保存後の応答強度は、凍結保存した細胞を常温に戻し、2回以上継代を行った後に測定した。結果を
図7に示す。
【0143】
その結果、Gα-T2R16安定発現株では凍結による影響はほとんど確認されなかった。これに対し、Double stableは、凍結後に著しく応答強度が低下する細胞株が散見された。結果の一例を
図7に示す。
図7において、Gα-T2R16安定発現株では応答強度の凍結後/凍結前の比率がサリシン濃度1mM、0.1mMのいずれの場合も、0、8以上であった。これに対し、Double stableは0.6未満であった(特に、サリシン0.1mMの場合0.4以下)。
【0144】
実施例7 Gα-T2R40安定発現株のT2R40作動薬に対する応答強度とGα作動薬に対する応答強度
本実施例では、本発明のGα-T2R40安定発現株について、T2R40作動薬(ジフェニドール)に対する応答強度とGα作動薬(イソプロテレノール)に対する応答強度の相関を調べた。
【0145】
実施例3(2)に記載の通り、実施例1、実施例2に記載の方法と同様の方法を用いてGα-T2R40安定発現株を作製し、15個クローニングした。15個のクローンについて、イソプロテレノール(10μM)及びジフェニドール(300μM)に対する応答の相関を
図8に示す。この結果、T2R40作動薬であるジフェニドールとGα16作動薬であるイソプロテレノールへの応答に高い相関が得られた。
【0146】
よって、本発明のコンストラクトを用いる方法では、T2RあるいはGαサブユニットのいずれかタンパク質に関する1回の評価のみで、GαサブユニットとT2Rの双方のタンパク質を発現する所望の細胞株を得ることができる。これに対し、従来法を用いる場合、GαサブユニットとT2Rの各タンパク質を発現する遺伝子を順に細胞に導入し、その度に、各タンパク質が安定して発現しているかを評価しながらスクリーニングを進める必要があった。具体的には、Gα安定発現株を作製しスクリーニング(評価1)後、T2Rタンパク質をコードする遺伝子を導入し、Gαタンパク質の(高)発現を維持しつつ(評価2)、かつT2Rタンパク質も(高)発現する(評価3)細胞株を取得する。即ち、所望の細胞株を得るのに3回の評価が必要である。
【0147】
本発明により、Gα-T2R40安定発現株を得るための作業効率が著しく向上した。
【0148】
実施例8 甘味受容体T1R2/T1R3のIRESを介した発現系1:T1R2の検討
甘味受容体は、T1R2とT1R3の2種類のサブユニットの組み合わせからなる代謝性グルタミン酸受容体/代謝性フェロモン受容体のクラスのGタンパク質共役受容体である。本実施例では、甘味受容体T1R2/T1R3のIRESを介した発現系のT1R2について検討した。
【0149】
(1)発現ベクターの作製
ヒト甘味受容体サブユニットT1R2及びヒト甘味受容体サブユニットT1R3、並びに、実施例1に記載のIRES及びGα16/Gαgust43(Gα)を準備した。それらを以下の通り、pcDNA3.1 Hygro(+)ベクター(Thermo Fisher Scientific社)のマルチクローニングサイトに挿入し、各コンストラクトを得た。
コンストラクトGα-T1R2
Gα16/Gαgust43-IRES-T1R2/V5
コンストラクトT1R2-Gα
ssr/T1R2/V5-IRES-Gα16/Gαgust43
コンストラクトT1R3
T1R3
【0150】
(2)T1R2の発現量
実施例4に記載された方法と同様の方法により、Gα-T1R2及びT1R3を共遺伝子導入し、一過性発現させた細胞株(Gα-T1R2+T1R3)を得た。比較例として、T1R2-Gα及びT1R3を共遺伝子導入し、一過性発現させた細胞株(T1R2-Gα+T1R3)を得た。
【0151】
実施例5(2)と同様の方法により、In Cell ELISA Kit(BOO Bioscientific社)を用いたIn cell ELISA法によりT1R2の発現量を調べた。結果を
図9に示す。T1R2の発現量は、「Gα-T1R2+T1R3」が「T1R2-Gα+T1R3」よりも高い傾向を示した。苦味受容体(T2R)の場合と同様に、キャップ依存的<IRES依存的であった。
【0152】
(3)Gα16/Gαgust43の発現量
「Gα-T1R2+T1R3」と「T1R2-Gα+T1R3」について、実施例5(1)と同様の方法により、Gα16/Gαgust43の発現量を調べた。Gα16作動薬であるイソプロテレノールは10μM用いた。
図10に示すように、Gα16/Gαgust43の発現量は、Gα-T1R2+T1R3の方が高いことが示された。苦味受容体(T2R)の場合と同様に、キャップ依存的>IRES依存的であった。
【0153】
(4)T1R2作動薬に対する応答
「Gα-T1R2+T1R3」と「T1R2-Gα+T1R3」について、T1R2作動薬に対する応答を調べた。アスパルテーム(10mM)を添加し、添加後40秒間における蛍光強度の最大値を取得した。測定開始時点の蛍光強度に対する蛍光強度の最大値の増加率を作動薬に対するT1R2の応答強度として算出した。
【0154】
比較例として、「T1R2-Gα+T1R3」の他に、「T1R2、T1R3及びGα16/Gαgust43の各タンパク質をコードする遺伝子をそれぞれ含む3種類のベクターをコトランスフェクションした細胞(T1R2+T1R3+Gα)」、並びに、「T1R2-GαとT1R3-Gαをコトランスフェクションした細胞(T1R2-Gα+T1R3-Gα)」を用いた。
図11に示すように、「Gα-T1R2+T1R3」がT1R2作動薬に対する最も高い応答を示した。
【0155】
実施例9 甘味受容体T1R2/T1R3のIRESを介した発現系2:T1R3の検討
本実施例では、甘味受容体T1R2/T1R3のIRESを介した発現系のT1R3について検討した。
【0156】
(1)発現ベクターの作製
ヒト甘味受容体サブユニットT1R2及びヒト甘味受容体サブユニットT1R3、並びに、実施例1に記載のIRES及びGα16/Gαgust43(Gα)を準備した。それらを以下の通り、pcDNA3.1 Hygro(+)ベクター(Thermo Fisher Scientific社)のマルチクローニングサイトに挿入し、各コンストラクトを得た。
コンストラクトGα-T1R3
Gα16/Gαgust43-IRES-ssr/T1R3/V5
コンストラクトT1R3-Gα
ssr/T1R3/V5-IRES-Gα16/Gαgust43
コンストラクトT1R2
T1R2
【0157】
(2)T1R3の発現量
実施例4に記載された方法と同様の方法により、Gα-T1R3及びT1R2を共遺伝子導入し、一過性発現させた細胞株(Gα-T1R3+T1R2)を得た。比較例として、T1R3-Gα及びT1R2を共遺伝子導入し、一過性発現させた細胞株(T1R3-Gα+T1R2)を得た。
【0158】
実施例5(2)と同様の方法により、In Cell ELISA Kit(BOO Bioscientific社)を用いたIn cell ELISA法によりT1R3の発現量を調べた。結果を
図12に示す。「Gα-T1R3+T1R2」の方が「T1R3-Gα+T1R2」よりも、T1R3の発現量が多かった。T1R3の発現量は、キャップ依存的<IRES依存的であった。
【0159】
(3)Gα16/Gαgust43の発現量
「Gα-T1R3+T1R2」と「T1R3-Gα+T1R2」について、実施例5(1)と同様の方法により、Gα16/Gαgust43の発現量を調べた。Gα16作動薬であるイソプロテレノールは10μM用いた。
図13に示すように、Gα16/Gαgust43の発現量は、Gα-T1R3+T1R2の方が高く、苦味受容体(T2R)の場合と同様に、キャップ依存的>IRES依存的であった。
【0160】
実施例9(2)の結果と併せると、本発明のGα-T1R3は、T1R3、Gα16/Gαgust43共に高発現させることが示された。
【0161】
(4)T1R3作動薬に対する応答
「Gα-T1R3+T1R2」と「T1R3-Gα+T1R2」について、T1R3作動薬に対する応答を調べた。シクラメート(10mM)を添加し、添加後40秒間における蛍光強度の最大値を取得した。測定開始時点の蛍光強度に対する蛍光強度の最大値の増加率を作動薬に対するT1R3の応答強度として算出した。
【0162】
比較例として、「T1R3-Gα+T1R2」の他に、「T1R2、T1R3及びGα16/Gαgust43の各タンパク質をコードする遺伝子をそれぞれ含む3種類のベクターをコトランスフェクションした細胞」、並びに、「T1R2-GαとT1R3-Gαを
コトランスフェクトした細胞」を用いた。
図14に示すように、「Gα-T1R3+T1R2」がT1R3作動薬に対する最も高い応答を示した。
【0163】
実施例10 IRESを介したタンパク質の発現
IRESがタンパク質の発現量に与える効果を調べるために、GPCRタンパク質以外のタンパク質をIRESの上流及び下流で発現させた。タンパク質としては、緑色蛍光タンパク質(EmGFP)(塩基配列:配列番号78(GenBankのAccession番号EU056363.1);アミノ酸配列:配列番号79)を用いた。pcDNAベクターに以下のA-Dの核酸配列を含むコンストラクトを作製し、細胞株HEK293Tに遺伝子導入し、一過性発現させた。
A: ssr- EmGFP - IRES- Gα
B: EmGFP - IRES - Gα
C: Gα - IRES - ssr - EmGFP
D: Gα - IRES - EmGFP
コントロール: 挿入遺伝子を含まないpcDNAベクター
【0164】
487nmの波長で励起し、509nmの波長の蛍光強度を測定した。蛍光強度はEmGFPの発現量に比例する。結果を
図15に示す。EmGFP遺伝子がIRES上流に配置された場合(A、B)の方が下流に配置した場合(C、D)よりも、EmGFPタンパク質の発現量が高かった。EmGFPタンパク質の発現量は、Gαタンパク質と同様にキャップ依存的>IRES依存的であった。
【0165】
実施例11 pEAK10-T2R16-GαおよびpEAK10-Gα-T2R16を一過性発現させた細胞におけるT2R16発現量
本実施例では、pEAK10-IRES-T2R16-GαおよびpEAK10-Gα-IRES-T2R16を導入し、一過性発現させたHEL293T細胞におけるT2R16発現量を調べた。以下、実施例11-15において、「IRES」の記載を省略する場合がある。
【0166】
T2R16-IRES-Gα、Gα-IRES-T2R16をコードする遺伝子配列を、pEAK10ベクター(Edge biosystem社)にサブクローニングし、発現ベクターpEAK10-T2R16-GαおよびpEAK10-Gα-T2R16を作製した。pEAK10ベクターは、EF1αプロモーター及びピューロマイシン耐性遺伝子を含むプラスミドベクターである。作製した発現ベクターを実施例4と同様の方法によりHEK293T細胞に導入し、これらを一過性発現させた細胞を作製した。
【0167】
実施例5(2)と同様の手法を用いて、In cell ELISA法により一過性発現細胞のT2R16の発現量を評価した。コントロールとして、遺伝子を挿入していないpEAK発現ベクタ-を導入したHEK293T細胞を用いた。検出には実施例5(2)と同様に、C末端に付加したV5エピトープを認識する抗V5-HRP抗体(Thermo Fisher Scientific社)を用いた。
【0168】
図16に示されるように、発現ベクターpEAK10-Gα-T2R16を導入した細胞が、発現ベクターpEAK10-T2R16-Gαを導入した細胞より高いT2R16発現量を示した。このことから、本発明の効果はプロモーターや非翻訳領域といったベクター固有の遺伝子配列に影響を受けないことが示された。
【0169】
実施例12 苦味物質に対する一過性発現細胞の応答測定(2)
本実施例では、7種類のT2Rサブタイプ(苦味受容体)に関し、苦味物質に対する一過性発現細胞の応答測定を行った。
【0170】
実施例4における、Gα-T2R16のT2R16をコードする遺伝子の代わりに、表5に示す7種類のT2Rサブタイプをコードする遺伝子の各々を含む7種類の発現ベクターを作製し、実施例4と同様の方法により、各サブタイプに対する既知作動薬(表5)に対する一過性発現細胞の応答を測定した。
【0171】
【0172】
その結果、いずれのT2Rサブタイプも作動薬に対する応答を示した(
図17)。
【0173】
実施例13 苦味物質に対する安定発現細胞の応答測定(2)
本実施例では、T2R38サブタイプ(苦味受容体)に関し、苦味物質に対する安定発現細胞の応答測定を行った。
【0174】
実施例1、2におけるGα-T2R16のT2R16をコードする遺伝子の代わりに、T2R38サブタイプ(苦味受容体)をコードする遺伝子を含む発現ベクターGα-T2R38を作製し、実施例1、2と同様の方法により安定発現株を作製した。
【0175】
続いて実施例3と同様の方法を用いて、T2R38の既知の作動薬6-n-プロピルチオウラシル(1000μM,300μM)に対する応答を測定した。コントロールとして、発現ベクターGα-T2R38を組み込まない細胞株(HEK293T)を用いた。その結果、6-n-プロピルチオウラシル(1000μM,300μMいずれも場合も)に対する応答を示した(
図18)。
【0176】
実施例14 苦味受容体の一過性発現細胞における発現量
本実施例では14種類のT2Rサブタイプ(苦味受容体)の一過性発現細胞における発現量を調べた。
【0177】
実施例4における、Gα-T2R16のT2R16をコードする遺伝子の代わりに、表6に示す14種類のT2Rサブタイプの遺伝子の各々をコードする遺伝子を含む14種類の発現ベクターを作製し、実施例4と同様の方法により各T2RおよびGαをそれぞれ一過性発現させた細胞を作製した。
【0178】
【0179】
次いで、実施例5(2)と同様の手法を用いたIn cell ELISA法により各細胞のT2Rの発現量を測定した。得られた各T2Rの発現量を、実施例12にて既知の作動薬への応答が確認されたGα-T2R4の一過性発現細胞のT2R4発現量と比較した。その結果、14種類全てにおいてT2R4以上のT2R発現量を示した(
図19)。この結果から、14種類のT2R全てにおいて応答測定を行うに十分なT2R発現量を有していることが示された。
【0180】
実施例15 嗅覚受容体の一過性発現細胞における応答測定と発現量
本実施例では、嗅覚受容体(OR3A1)の一過性発現細胞における応答測定と発現量を調べた。
【0181】
を調べた。
実施例1と同様の方法により、OR3A1のN末端にヒトロドプシンのN末端21アミノ酸(Rho)を付加したRho-OR3A1、並びにGαolfをコードする遺伝子をIRESと共にpcDNAベクターに導入した発現ベクターOR3A1-GαolfおよびGαolf-OR3A1を作製した。これらの発現ベクターを用いて、実施例4と同様の方法によりHEK293Tに一過性発現させた細胞を作製した。コントロールとして、OR3A1、Gαolfの各遺伝子を個別にpcDNAに導入し、HEK293Tに共遺伝子導入したものを用いた。
【0182】
次いで、作製した細胞上にOR3A1に対する既知の作動薬であるヘリオナールを添加した(100μM、30μM)。ヘリオナールの添加より20分後OR3A1の応答に伴い産生されたcAMPの量を、cAMP-GloMax assay kit(Promega)を用いた発光測定により検出した。その結果、発現ベクターGαolf-OR3A1を導入した細胞で、100μMのヘリオナールの添加に伴いcAMPの増加を示した。発現ベクターOR3A1-Gαolfを導入した場合、OR3A1、Gαolfの各遺伝子を個別に導入した場合は、いずれもヘリオナールの添加に伴う応答(cAMPの増加)は観察されなかった(
図20)。
【0183】
さらに、Rho-OR3A1とGαolfの発現量を抗Rho抗体(Merck)および抗Gαolf抗体(SANTA CRUZ)を用いたIn Cell ELISAにより比較した。コントロールとしては、いずでの遺伝子も挿入していないpcDNAを導入したHEK293T細胞を用いた。その結果、Gαolf-OR3A1を導入した細胞の方が、OR3A1-Gαolfを導入した細胞と比較して高いGαolf、OR3A1発現量を示した(
図21)。
【配列表】