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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】喫煙物品用充填物
(51)【国際特許分類】
   A24B 15/42 20060101AFI20221109BHJP
【FI】
A24B15/42
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019558043
(86)(22)【出願日】2018-10-15
(86)【国際出願番号】 JP2018038259
(87)【国際公開番号】W WO2019111536
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2017233351
(32)【優先日】2017-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004569
【氏名又は名称】日本たばこ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【弁理士】
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】永井 梨保
(72)【発明者】
【氏名】井上 康信
(72)【発明者】
【氏名】永江 英樹
(72)【発明者】
【氏名】牧野 多成
【審査官】川口 聖司
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-507925(JP,A)
【文献】特表2015-515857(JP,A)
【文献】特開昭64-027461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A24B 15/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル化剤と1又は複数のゲル化促進剤を含むゲルを含む喫煙物品用充填物であって、
タップ密度が0.05g/cm以下であり、かつ圧縮充填適応度が60より大きい、
ここにおいて、前記ゲル化剤が、カルボキシル基を有する多糖類であり、そして、前記ゲル化促進剤の少なくとも1つが、2価の陽イオンを含む化合物である、
前記喫煙物品用充填物。
【請求項2】
前記ゲル化剤が、ペクチン、ゲランガム又はアルギン酸ナトリウム、アラビアゴム、キサンタンガム又はトラガントガムからなる群から選択される、請求項1に記載の喫煙物品用充填物。
【請求項3】
前記ゲル化促進剤の少なくとも1つが、カルシウムイオンを含む化合物である、請求項1又は2のいずれか1項に記載の喫煙物品用充填物。
【請求項4】
前記ゲルが、凍結乾燥、超臨界乾燥又は減圧乾燥によって乾燥されたものである、請求項1-3のいずれか1項に記載の喫煙物品用充填物。
【請求項5】
前記ゲル化剤が、エステル化度が12%以下のペクチンである、請求項1-4のいずれか1項に記載の喫煙物品用充填物。
【請求項6】
0重量%より多く35重量%以下のたばこを含有する、請求項1-5のいずれか1項に記載の喫煙物品用充填物。
【請求項7】
前記カルボキシル基を有する多糖類中のカルボキシル基を含むモノマーと陽イオンを含む化合物のモル比が20:1~1:10の範囲である、請求項1に記載の喫煙物品用充填物。
【請求項8】
エステル化度が9%以上12%以下であるペクチンと1又は複数のゲル化促進剤を含むゲルを含む、喫煙物品用充填物であって、
ここにおいて、前記ゲル化促進剤の少なくとも1つが、2価の陽イオンを含む化合物である、
前記喫煙物品用充填物。
【請求項9】
前記ゲル化促進剤の少なくとも1つが、カルシウムイオンを含む化合物である、請求項8に記載の喫煙物品用充填物。
【請求項10】
0重量%より多く35重量%以下のたばこを含有する、請求項8又は9に記載の喫煙物品用充填物。
【請求項11】
請求項1-10のいずれか1項に記載の喫煙物品用充填物を含む、喫煙物品。
【請求項12】
たばこロッドに請求項1-10のいずれか1項に記載の喫煙物品用充填物を10重量%-30重量%含む、請求項11に記載の喫煙物品。
【請求項13】
ゲル化剤と1又は複数のゲル化促進剤を含むゲルを含む喫煙物品用充填物の製造方法であって、
ゲル化剤と1又は複数のゲル化促進剤を含むゲルを、凍結乾燥、超臨界乾燥又は減圧乾燥によって乾燥する工程を含む、
ここにおいて、前記喫煙物品用充填物は、タップ密度が0.05g/cm以下であり、かつ圧縮充填適応度が60より大きく、
前記ゲル化剤が、カルボキシル基を有する多糖類であり、そして、
前記ゲル化促進剤の少なくとも1つが、2価の陽イオンを含む化合物である、
前記製造方法。
【請求項14】
ゲル化剤とゲル化促進剤を溶媒に溶かすゲル化工程を含み、
ここにおいて、溶媒に対するゲル化剤と2価の陽イオンを含む化合物の割合が、3%以下である、
請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記ゲル化剤が、ペクチン、ゲランガム又はアルギン酸ナトリウム、アラビアゴム、キサンタンガム又はトラガントガムからなる群から選択される、請求項13又は14に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、喫煙物品用充填物、喫煙物品用充填物を含む喫煙物品及び喫煙物品用充填物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
喫煙物品用の充填材
特表2015-515857は、「たばこを含み、約150mg/cm3又はそれ以下のたばこ密度及び60%又はそれ以上の硬度を有するたばこ基材を備える、ことを特徴とする喫煙物品」(請求項1)、について記載している。特表2015-515857はまた、「たばこをゲル化剤及び溶媒と組み合わせてたばこゲルを形成するステップと、前記たばこゲルから前記溶媒を除去してたばこ基材を形成するステップと、を含み、前記たばこ基材は、約150mg/cm3又はそれ以下のたばこ密度及び60%又はそれ以上の硬度を有する、ことを特徴とする方法」(請求項11)を記載している。当該文献に記載の喫煙物品は、たばこ基材内のたばこの量と無関係な空気流特性及び堅度及び硬度を有する、と記載されている。
【0003】
特開平3-180166は、無機成分と有機成分を有する凝集マトリックス補充剤と、タバコ剤との緊密な混合物を含む可喫煙補充材料、を含むシガレットを記載している。
【0004】
特開平8-332068は、タバコと穀物粉とを主成分とする押出タバコ組成物を記載している。
【0005】
特表2016-523556は、アカシアゴムを含む粒子または片を含む、喫煙品に含有させる喫煙材を記載している。
【0006】
従来の喫煙物品の問題点
従来の喫煙物品は、軽量のものであると荷重をかけると容易に変形しうる可能性があるものであった。喫煙物品を工業的に製造した際に、喫煙物品に含まれる喫煙物品用充填物が変形し、先落ちの原因や喫煙物品の形状の維持できないなどの問題が発生する恐れがある。
【0007】
また、エアロゲルを使用した製品は復元性が悪く荷重をかけると容易に変形する。そのため、喫煙物品の形状を維持できないなど製造適性が悪い、また圧縮することができないため、輸送効率が悪い、などの問題がある。
【0008】
さらに、従来の喫煙物品は環境変化への耐性が高くなく、具体的には例えば70℃程度の温度になると変形し、タップ密度が大幅に低下し、結果硬度が低下する可能性がある。さらに、従来の喫煙物品は、喫煙物品用充填物が加熱されることで生成する成分により、副流煙臭気および主流煙喫味が悪臭になる可能性がある。
【0009】
製造適性、耐久性、低臭性等の側面においてより優れた喫煙物品用充填物の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特表2015-515857
【文献】特開平3-180166
【文献】特開平8-332068
【文献】特表2016-523556
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、ゲル化剤とゲル化促進剤とが結合し架橋構造を形成しているゲルを含む湿潤物質を乾燥させることで、軽量で復元性があり低密度である網目構造を有する喫煙物品用充填物が得られることを見出し、本発明を想到した。
【0012】
さらに、ゲル化剤を酸処理したエステル化度が12%以下であるペクチンを含むゲルを含む喫煙物品用充填物を用いることで、副流煙臭気が他のゲル化充填物よりも大幅に低くなることを確認した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
限定されるわけではないが、本発明は以下の態様を含む。
[態様1]
ゲル化剤と1又は複数のゲル化促進剤を含むゲルを含む喫煙物品用充填物であって、タップ密度が0.05g/cm3以下であり、かつ圧縮充填適応度が60より大きい、前記喫煙物品用充填物。
[態様2]
前記ゲル化剤が、カルボキシル基を有する多糖類である、態様1記載の喫煙物品用充填物。
[態様3]
前記ゲル化剤が、ペクチン、ゲランガム又はアルギン酸ナトリウム、アラビアゴム、キサンタンガム又はトラガントガムからなる群から選択される、態様1又は2に記載の喫煙物品用充填物。
[態様4]
前記ゲル化促進剤の少なくとも1つが、2価の陽イオンを含む化合物である、態様1-3のいずれか1項に記載の喫煙物品用充填物。
[態様5]
前記ゲル化促進剤の少なくとも1つが、カルシウムイオンを含む化合物である、態様1-4のいずれか1項に記載の喫煙物品用充填物。
[態様6]
前記ゲルが、凍結乾燥、超臨界乾燥又は減圧乾燥によって乾燥されたものである、態様1-5のいずれか1項に記載の喫煙物品用充填物。
[態様7]
前記ゲル化剤が、エステル化度が12%以下のペクチンである、態様1-6のいずれか1項に記載の喫煙物品用充填物。
[態様8]
0重量%より多く35重量%以下のたばこを含有する、態様1-7のいずれか1項に記載の喫煙物品用充填物。
[態様9]
エステル化度が12%以下のペクチンと1又は複数のゲル化促進剤を含むゲルを含む、喫煙物品用充填物。
[態様10]
前記ゲル化促進剤の少なくとも1つが、2価の陽イオンを含む化合物である、態様9に記載の喫煙物品用充填物。
[態様11]
ゲル化剤がカルボキシル基を有する多糖類であり、そして、ゲル化促進剤の少なくとも1つが、2価の陽イオンを含む化合物であり、そして、多糖類中のカルボキシル基を含むモノマーと陽イオンを含む化合物のモル比が20:1~1:10の範囲である、態様1又は9に記載の喫煙物品用充填物。
[態様12]
前記ゲル化促進剤の少なくとも1つが、カルシウムイオンを含む化合物である、態様9-11のいずれか1項に記載の喫煙物品用充填物。
[態様13]
0重量%より多く35重量%以下のたばこを含有する、態様9-12のいずれか1項に記載の喫煙物品用充填物。
[態様14]
態様1-13のいずれか1項に記載の喫煙物品用充填物を含む、喫煙物品。
[態様15]
たばこロッドに態様1-13のいずれか1項に記載の喫煙物品用充填物を10重量%-30重量%含む、態様14に記載の喫煙物品。
[態様16]
ゲル化剤と1又は複数のゲル化促進剤を含むゲルを含む喫煙物品用充填物の製造方法であって、
ゲル化剤と1又は複数のゲル化促進剤を含むゲルを、凍結乾燥、超臨界乾燥又は減圧乾燥によって乾燥する工程を含む、
前記製造方法。
[態様17]
ゲル化剤とゲル化促進剤を溶媒に溶かすゲル化工程を含み、
ここにおいて、前記ゲル化促進剤の少なくとも1つが、2価の陽イオンを含む化合物であり、
ここにおいて、溶媒に対するゲル化剤と2価の陽イオンを含む化合物の割合が、3%以下である、
態様16記載の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例1に記載の本発明の喫煙物品用充填物及び比較例1の喫煙物品用充填物の組成、並びに、タップ密度(圧縮密度測定後)、圧縮密度及び圧縮充填適応度を調べた結果を示す。
図2図2は、図1の圧縮充填適応度を棒グラフにしたものである。
図3図3は、図1のタップ密度(圧縮密度測定後)を棒グラフで示したものである。
図4図4は、実施例2に記載の本発明の喫煙物品用充填物及び比較例2の喫煙物品用充填物の組成、並びに、タップ密度(圧縮密度測定後)、圧縮密度及び圧縮充填適応度を調べた結果を示す。
図5図5は、図4の圧縮充填適応度を縦軸、たばこ細粉含有率(%)を横軸としてグラフ化したものである。
図6図6は、比較例3の喫煙物品用充填物の組成、並びに、タップ密度(圧縮密度測定後)、圧縮密度及び圧縮充填適応度を調べた結果を示す。
図7図7は、実施例1及び比較例3の圧縮充填適応度を棒グラフで示したものである。
図8図8は、実施例4に記載の本発明の喫煙物品用充填物及び比較例4の喫煙物品用充填物の組成、並びに、タップ密度(圧縮密度測定後)、圧縮密度及び圧縮充填適応度を調べた結果を示す。
図9図9は、図8の固液比を横軸、圧縮充填適応度を縦軸としてグラフ化したものである。
図10図10は、図8の固液比を横軸、タップ密度を縦軸としてグラフ化したものである。
図11図11は、実施例5に記載の本発明の喫煙物品用充填物の喫煙物品用充填物の組成、並びに、タップ密度(圧縮密度測定後)、圧縮密度、圧縮充填適応度及び膨こう性を調べた結果を示す。
図12図12は、図11のCaCO3混合割合を横軸、圧縮充填適応度を縦軸としてグラフ化したものである。
図13図13は、図11のCaCO3混合割合を横軸、タップ密度を縦軸としてグラフ化したものである。
図14図14は、実施例1-1、実施例5-1~5-4及び比較例5-1を横軸に炭酸カルシウムの混合割合(重量比)の低い順に並べ、縦軸に膨こう性(cm3/g)の結果を示した図である。
図15図15は、実施例6-1に記載の本発明の喫煙物品用充填物の喫煙物品用充填物の組成、並びに、タップ密度(圧縮密度測定後)、圧縮密度及び圧縮充填適応度及び膨こう性を調べた結果を示す。
図16図16は、実施例7の本発明のシガレット及び比較例のシガレットの組成、及び、高臭気シガレット選択率を示す。
図17図17は、図16の高臭気シガレット選択率を棒グラフで示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、喫煙物品用充填物、その利用及びその製造方法に関する。
【0016】
1.喫煙物品用充填物A
本発明は、喫煙物品用充填物に関する。
本発明の喫煙物品用充填物は、ゲル化剤と1又は複数のゲル化促進剤を含むゲルを含み、タップ密度(圧縮密度測定後)が0.05g/cm3以下であり、かつ圧縮充填適応度が60より大きいものである。
【0017】
(1)ゲル化剤
「ゲル化剤」は、液体をゲル化して固化する化学物質である。ゲル化剤は、ペクチン、ゲランガム、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴム、キサンタンガム、トラガントガム、グアーガム、カラギーナン等の多糖類などが公知である。
【0018】
本発明において、ゲル化剤は、好ましくは、多糖類である。より好ましくは、カルボキシル基を有する多糖類である。カルボキシル基を有する多糖類は、特に、2価の陽イオンの存在下でゲル化しやすく、カルボキシル基と陽イオンでジャンクションゾーンを作りゲルを形成する。ゲルにジャンクションゾーンが存在すると、ゲルを含む喫煙物品用充填物は、網目構造となる。そして、手触りがふわふわ、サラサラの喫煙物品用充填物となる。本発明において、ゲル化剤は、好ましくは、ペクチン、ゲランガム、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴム、キサンタンガム又はトラガントガムである。
【0019】
「ペクチン」は、ガラクツロン酸及びガラクツロン酸メチルエステルを構成単位とし、それらがα1,4-結合した多糖類である。ガラクツロン酸の他にも、いくつかの多様な糖を含むことが知られている。一般的にペクチンは、エステル化度が50%未満のLM-ペクチンと、エステル化度が50%以上のHM-ペクチンに分類される。
【0020】
ペクチンは、特に、カルシウムイオン等の2価の陽イオンの存在下でゲル化し、ペクチン中のガラクツロン酸のカルボキシル基と陽イオンでジャンクションゾーンを作りゲルを形成する。ジャンクションゾーンの多い、即ち、エステル化度の低いペクチンの方が、ゲル化性が強くなる。
【0021】
本発明の一態様において、ゲル化剤はLM-ペクチンである。本発明の一態様において、ゲル化剤は、エステル化度が12%以下のペクチンである。
【0022】
「ゲランガム」は、真正細菌の1種のシュードモナス・エロデア(Pseudomonas elodea)によって合成される水溶性の多糖類として知られている。水溶液に陽イオンが加わると、電気的に中和されてゲランガムの水溶性が低下してゲル化する。ゲランガムは、2つのD-グルコース残基、1つのL-ラムノース残基及び1つのD-グルクロン酸の4糖からなる繰り返し単位が、直鎖状に連結した高分子化合物である。4糖の繰り返し構造は、以下の通りである。
[D-Glc(β1→4)D-GlcA(β1→4)D-Glc(β1→4)L-Rha(α1→3)]n
【0023】
「アルギン酸ナトリウム」は、主に褐藻に含まれる多糖類の一種である。α-L-グルロン酸、β-D-マンヌロン酸がピラノース型で1,4-グリコシド結合で結合した構造を有する(CAS 9005-38-3)。陽イオンを添加するとゲル化する性質を有する。
【0024】
「アラビアゴム」は、「アラビアガム」又は「アラビア樹脂」とも呼称され、マメ科ネムノキ亜科アカシア属アラビアゴムノキ(Acacia senegal)、またはその同属近縁植物の樹皮の傷口からの分泌物を乾燥させたものである。主成分は多糖類(ポリウロン酸)であり、アラビノガラクタン(75-94%)、アラビノガラクタン-プロテイン(5-20%)、糖タンパク質(1-5%)の混合物である。多糖類の構造は主鎖にガラクトース、側鎖にガラクトース、アラビノース、ラムノース、グルクロン酸を有する。細胞壁を構成するヘミセルロースとはカルボキシル基が遊離している点が異なり、通常カルシウム塩となっている。
【0025】
「キサンタンガム」は、多糖類の1種で、一般に、トウモロコシ糖のでんぷんを細菌により発酵させて製造される。グルコース2分子、マンノース2分子、グルクロン酸分子を単位とする繰り返し構造を有する(CAS 11138-66-2)。
【0026】
「トラガントガム」は、マメ科植物のトラガントの分泌液を乾燥させて得られた増粘多糖類でありアラビノース、キシロース、フコース、ガラクトース、ガラクツロン酸などから成る複雑な多糖類混合物である。主成分は酸性および中性の2種の多糖類であるが、デンプン、セルロース、無機質などを含む。
【0027】
(2)ゲル化促進剤
本発明の喫煙物品用充填物に含まれるゲルは、1又は複数のゲル化促進剤を含む。ゲル化促進剤は、ゲル化剤がゲル化するのを促進する作用を有する化学物質である。ゲル化促進剤は、例えば、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、銀、亜鉛、銅、金、アルミニウム等のハロゲン酸塩(塩化物等)、クエン酸、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の溶液、カチオン性高分子の溶液などが用いられる。例えば、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、塩化アンモニウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸カリウム等を用いることができる。
【0028】
本発明の一態様において、ゲル化促進剤の少なくとも1つは、2価の陽イオンを含む化合物である。2価の陽イオンは、例えば、カルシウムイオン、マグネシウムイオンを含む。好ましくは、ゲル化促進剤の少なくとも1つは、カルシウムイオンを含む化合物(例えば、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、クエン酸カルシウム、酢酸カルシウム)である。本明細書において「ゲル化促進剤」とは、2価の陽イオンを含む化合物のみを意味する場合がある。
【0029】
本発明の一態様において、2価の陽イオンを含む化合物と組み合わせて用いるゲル化促進剤の例は、クエン酸、酢酸、コハク酸、グルコン酸、アジピン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、リン酸などの酸味料である食品添加物を含む。本発明の一態様において、ゲル化促進剤は、カルシウムイオンを含む化合物(例えば、炭酸カルシウム)とクエン酸の組み合わせである。
【0030】
本発明の喫煙物品用充填物において、前記ゲル化剤を構成する多糖類は、2価の陽イオンの存在下でゲル化しやすく、カルボキシル基と陽イオンでジャンクションゾーンを作りゲルを形成する。ゲルにジャンクションゾーンが存在すると、ゲルを含む喫煙物品用充填物は、網目構造となる。カルボキシル基とゲル化促進剤である2価の陽イオンを含む化合物とを効率良くゲル化させ、喫煙物品用充填物を得るには、両者が2:1の個数比で存在することが望ましい。これは、多糖類中のカルボキシル基を含むモノマーと陽イオンのモル比が2:1である場合に対応する。非限定的に、多糖類中のカルボキシル基を含むモノマーと陽イオンのモル比は、好ましくは、20:1~1:10、10:1~1:5、5:1~1:2.5、3:1~1:1.5、2.5:1~1:1.25、2.2:1~1:1.1の範囲である。
【0031】
よって、本発明の一態様において喫煙物品用充填物は、ゲル化剤がカルボキシル基を有する多糖類であり、そして、ゲル化促進剤の少なくとも1つが、2価の陽イオンを含む化合物であり、そして、多糖類中のカルボキシル基を含むモノマーと陽イオンを含む化合物のモル比が20:1~1:10の範囲である。
【0032】
本願の実施例5-1-実施例5-4、ゲル化剤(ペクチン)とゲル化促進剤(炭酸カルシウム)の重量比が1:0.12~1:2.3の範囲で、タップ密度が0.05g/cm3以下であり、かつ圧縮充填適応度が60より大きい、という要件を満たすことが確認された。これは、ペクチン中のカルボキシル基を含むモノマーとゲル化促進剤である2価の陽イオンのモル比が1:0.25~1:5(4.9)の場合に相当する。
【0033】
本発明の一態様において、本発明の喫煙物品用充填物において、ペクチンと2価の陽イオンを含む化合物である炭酸カルシウムの重量比が、好ましくは、1:0.01~1:5の範囲、1:0.05~1:3の範囲、1:0.10~1:2.5の範囲、1:0.12~1:1.5の範囲である。これは、ペクチン中のカルボキシル基を含むモノマーとゲル化促進剤である2価の陽イオンのモル比が、好ましくは、1:0.02~1:11の範囲、1:0.1~1:6.3の範囲、1:0.2~1:5.3の範囲、1:0.25~1:3.2の範囲である。
【0034】
(3)タップ密度が0.05g/cm3以下
本発明の喫煙物品用充填物は、タップ密度(圧縮密度測定後)が0.05g/cm3以下である。好ましくは、タップ密度は、0.04g/cm3以下、0.03g/cm3以下、0.02g/cm3以下、又は0.01g/cm3以下である。より好ましくは、タップ密度は、0.02g/cm3以下、又は0.01g/cm3以下である。
【0035】
嵩密度は、粉体を容器内に詰め、容器内の隙間も体積とみなして測定した密度、である。「タップ密度」は、粉体試料を容器に詰める際にタップしてより充填させて測定した嵩密度である。初期体積を測定した後,測定用メスシリンダー又は容器を機械的にタップし,体積変化がほとんど認められなくなるまで体積を読み取る。
【0036】
本発明の喫煙物品用充填物のタップ密度は、例えば、日本工業規格の「ファインセラミックス粉末のカサ密度測定方法」(JIS1628-1997)を参考に、以下のように測定することが可能である。
【0037】
喫煙物品用充填物の重量3.0gを250cm3メスシリンダーに入れ、その容器をタップ高さ10mm、タップ速度100回/分となるように設定したタップデンサーに設置し、600回タップを行い、試料面までの高さを測定する。更に100回のタップを追加し、試料面までの高さを測定する。このとき、先に測定した試料面までの高さとの差が1mm以内であることを確かめる。1mmを超えた場合は,前回との差が1mm以内になるまで、100回ずつタップを繰り返す。
【0038】
測定は複数回行い、その算術平均を測定結果とすることが望ましい。本明細書の実施例では、測定を3回行い、その算術平均を測定結果とした(g/cm3)。
【0039】
体積変化がほとんど認められなくなるまでタップを行い、最終的に測定された体積及び質量を用いて密度を算出する、ことが重要である。タップ速度、タップ回数、使用する喫煙物品用充填物の量、メスシリンダーの大きさ等は適宜変更可能である。
【0040】
本明細書の実施例においてタップ密度は、圧縮密度測定後に測定した。本明細書において特に明記しない場合は、「タップ密度」は、圧縮密度測定後、即ち、喫煙物品用充填物に圧縮等の負荷をかけた後のタップ密度を意味する。
【0041】
(4)圧縮充填適応度が60より大きい
本発明の喫煙物品用充填物は、圧縮充填適応度が60より大きい。好ましくは、圧縮充填適応度が65以上、より好ましくは70以上である。
【0042】
圧縮密度
圧縮密度は、物質に一定の圧力負荷を掛けた後の当該物質の密度を意味する。圧縮密度は、例えば、膨こう性測定装置(例えば、Densimeter DD60A,Borgwaldt KC製)を用いて測定することが可能である。喫煙物品用充填物の任意の重量を秤量し、断面積および断面形状が一定である容器に入れ、その鉛直上面に一定の荷重を加えたのちに得られる試料高さから試料体積を算出し、圧縮密度を測定することもできる。
【0043】
本明細書の実施例では、喫煙物品用充填物の重量3.0gを、直径60mmのたばこコンテナーに入れ、そこに2kgの荷重をかけた際の試料高さを膨こう性測定装置より読み取り、体積に換算し圧縮密度とした(g/cm3)。圧縮充填適応度の算出のための圧縮密度を得るためには、本発明の実施例と全く同一の条件でなくても、同等の圧縮負荷をかけて、圧縮密度を得ることが可能である。
【0044】
測定は複数回行い、その算術平均を測定結果とすることが望ましい。本明細書の実施例では、測定を3回行い、その算術平均を測定結果とした。
【0045】
圧縮充填適応度
圧縮充填適応度は次のように定義し、算出する。
圧縮充填適応度=(圧縮密度-圧縮測定後のタップ密度)/圧縮密度×100
圧縮充填適応度の算出に用いるのは、タップ密度は圧縮測定後のタップ密度、即ち、一度負荷をかけられた充填材のタップ密度である。
【0046】
圧縮充填適応度の値は、充填物が壊れやすいほど低くなる。圧縮密度測定の荷重により、充填物が壊れてしまう(破砕粉砕等)と、その後のタップ密度測定の際に、圧縮密度に近い(密度が高い)値を示すためである。圧縮充填適応度はまた、充填物が圧縮されにくいほど低くなる。充填物が、圧縮されにくいため、圧縮密度と、その後のタップ密度が近い値になるためである。逆に、圧縮されやすいが、その後、元に戻るような充填物は、圧縮充填適応度の値は高くなる。
【0047】
本明細書の実施例の喫煙物品用充填物の圧縮密度測定で用いた荷重は、たばこ分野にて、膨こう性測定の際にかけられる荷重である。この荷重はたばこロッドを巻き上げる際の巻上圧に近い値である。そのため、この荷重で壊れてしまう喫煙物品用充填物は巻上の際に、壊れてしまい、先落ちの原因になり、また、たばこロッドの形状維持に関して好ましくない。一方、圧縮されにくい充填物は充填物自体を輸送する際の輸送効率が悪くなる。通常たばこ刻を輸送する際は、たばこ刻が破砕しない程度に圧縮して輸送される。同様に喫煙物品用充填物も破砕しない程度に圧縮して輸送を行うが、この輸送時の圧縮が十分にできないと輸送効率が悪くなる。また、圧縮されにくいということは変形しにくいということであり、巻上圧により、巻紙の破れやロッド形状の歪化を招く恐れがある。
【0048】
喫煙物品用充填物は、一定の負荷(膨こう性測定の際にかけられる荷重程度)の圧縮をかけた場合に、より高い圧縮充填適応度を有するものが好ましい。
【0049】
膨こう性
膨こう性は、喫煙物品用充填物を、一定圧力で一定時間、圧縮したときの喫煙物品用充填物1gの体積を求めた数値である。つまり、喫煙物品用充填物の膨こう性が高ければ、重量当たりたくさんの喫煙物品を作ることができる。また、膨こう性を測定することにより、一定量の原料から製造できる喫煙物品の量を推定できる。そのため、製造計画立案において有用であり、さらに、品種開発および葉組設計を行う上で製造コストの低い原材料を選抜でき、使用することができる。したがって、喫煙物品用充填物の膨こう性は、原料コスト、製品設計の観点から重要なファクターである。
【0050】
本明細書の実施例において、本発明の喫煙物品用充填物は、10cm3/g以上の高い膨こう性を示した。
【0051】
(5)ゲルの乾燥方法
本発明の喫煙物品用充填物に含まれるゲルは、好ましくは、凍結乾燥、超臨界乾燥又は減圧乾燥によって乾燥されたものである。
【0052】
「凍結乾燥」とは、水分を含んだ物質を急速凍結し、さらに減圧して真空状態で水分を昇華させて乾燥させる技術である。乾燥に温度を上げる必要がなく、成分の変質をおこさないで済むという特徴がある。フリーズドライ、冷凍乾燥ともいう。
【0053】
「超臨界乾燥」とは、超臨界流体を用いた乾燥技術である。超臨界流体は、臨界点以上の温度・圧力下においた物質の状態である。超臨界流体は高い拡散性や溶解性を有し、表面張力も働かない。これらの特徴を利用し、他の乾燥方法では大きな収縮や構造破壊を伴う微細な物質でも、構造を保ったまま乾燥させることが可能である。
【0054】
「減圧乾燥」は、減圧下で乾燥する方法である。気圧が下がると空気中の水蒸気圧が下がり、比較的低温度で乾燥することができ成分の変質を抑制できるとともに、水分の沸点が低下し蒸発速度が加速され、対象物の乾燥を早めることができる。
【0055】
本発明は、タップ密度が0.05g/cm3以下であり、かつ圧縮充填適応度が60より大きいという要件を満たす喫煙物品用充填物である。ゲル化剤、ゲル化促進剤の種類又は量、あるいは/並びに、ゲルの乾燥方法を適宜選択することにより、本発明の喫煙物品用充填物を得ることができる。本発明の喫煙物品用充填物は、ふわふわ、サラサラ、軽い、及び/又は、壊れにくい、という喫煙物品用充填物として好ましい要件を具備する。
【0056】
本発明の喫煙物品用充填物を得るための乾燥工程は、また、ゲル化剤をゲル化促進剤を含むゲルを、凍結乾燥時の凍結より高い温度で比較的ゆっくり凍結させゲル固体を得て、その後真空乾燥させる「棚段式乾燥」を用いてもよい。
【0057】
(6)たばこ
本発明の喫煙物品用充填物は、たばこを含んでもよい。喫煙物品用充填物に含まれるたばこは、好ましくは、たばこ細粉、刻みたばこの形態である。これらは、喫煙物品用充填物に含まれるゲルの形成時に添加されてもよい。
【0058】
喫煙物品用充填物に含まれるたばこの量は、好ましくは、喫煙物品用充填物の0重量%より多く35重量%以下である。より好ましくは喫煙物品用充填物の20重量%以下である。添加される喫煙物品用充填物の量が多くなると、圧縮充填適応度が低下する。
【0059】
2.喫煙物品用充填物B
本発明は、喫煙物品用充填物に関する。
本発明の喫煙物品用充填物は、エステル化度が12%以下のペクチンと1又は複数のゲル化促進剤を含むゲルを含む。
【0060】
「ペクチン」、「ゲル化促進剤」は、喫煙物品用充填物Aに関して説明した通りである。喫煙物品用充填物Bは、特に、エステル化度が12%以下のペクチンをゲル化剤として含む。エステル化度が低いペクチンを用いることにより、たばこ臭がより低い喫煙物品を提供することが可能となる。
【0061】
「たばこ臭がより低い」とは、例えば、リファレンスサンプルの臭気と評価サンプルの臭気とを比較した際に、より臭気が強いと感じたサンプルの選択割合が少ないこと、好ましくは選択割合が1/2以下であること、より好ましくは選択割合が1/2.4以下であることを意味する。リファレンサンプルは、例えば、市販のメビウス(登録商標)・スーパーライト(日本たばこ社製)、3R4Fリファレンスシガレット等である。
【0062】
本発明の喫煙物品用充填物の一態様において、ゲル化促進剤の少なくとも1つが、2価の陽イオンを含む化合物である。本発明の喫煙物品用充填物において、ゲル化促進剤の少なくとも1つが、カルシウムイオンを含む化合物である。「2価の陽イオンを含む化合物」及び「カルシウムイオンを含む化合物」は、喫煙物品用充填物Aに関して説明した通りである。
【0063】
本発明の喫煙物品用充填物は、たばこを含んでもよい。喫煙物品用充填物に含まれる「たばこ」は、喫煙物品用充填物Aに関して説明した通りである。喫煙物品用充填物に含まれるたばこの量は、好ましくは、喫煙物品用充填物の0重量%より多く35重量%以下である。
【0064】
本発明の喫煙物品用充填物に含まれるゲルは、好ましくは、凍結乾燥、超臨界乾燥又は減圧乾燥によって乾燥されたものである。「凍結乾燥」、「超臨界乾燥」、「減圧乾燥」、「棚段式乾燥」は、喫煙物品用充填物Aに関して説明した通りである。
【0065】
その他、特に明記していない事項に関し、喫煙物品用充填物Bの態様は喫煙物品用充填物Aに関して説明した通りである。
【0066】
3.喫煙物品
本発明は、本発明の喫煙物品用充填物(喫煙物品用充填物A又は喫煙物品用充填物B)を含む、喫煙物品に関する。
【0067】
「喫煙物品」の種類は特に限定されない。燃焼型喫煙物品(紙巻きたばこ(シガレット)等)、非燃焼型喫煙物品のいずれも含む。例えば、本発明の喫煙物品用充填物と刻みたばこをブレンドしたブレンド刻を紙巻きたばこのたばこロッドに適用することができる。
【0068】
喫煙物品に含まれる喫煙物品用充填物の量は特に限定されない。本発明の一態様において、喫煙物品は、たばこロッドに本発明の喫煙物品用充填物を10重量%-30重量%含む。
【0069】
4.喫煙物品用充填物の製造方法
本発明は、喫煙物品用充填物の製造方法、具体的には、ゲル化剤と1又は複数のゲル化促進剤を含むゲルを含む喫煙物品用充填物の製造方法に関する。
【0070】
本発明の製造方法は、ゲル化剤と1又は複数のゲル化促進剤を含むゲルを、凍結乾燥、超臨界乾燥又は減圧乾燥によって乾燥する工程を含む。
【0071】
「ゲル化剤」、「ゲル化促進剤」は、喫煙物品用充填物Aに関して説明した通りである。ゲル化促進剤は一態様において、ペクチンである。「ペクチン」は、喫煙物品用充填物A及び喫煙物品用充填物Bに関して説明した通りである。
【0072】
「凍結乾燥」、「超臨界乾燥」、「減圧乾燥」は、喫煙物品用充填物Aに関して説明した通りである。
【0073】
本発明の製造方法は、ゲル化剤と1又は複数のゲル化促進剤を混合し、ゲルを形成する工程を含む。ゲル形成までの工程は特に限定されない。
【0074】
本発明の製造方法は、一態様においてゲル化剤とゲル化促進剤を溶媒、好ましくは、水等の溶媒に溶かしてゲル化する。非限定的に、溶媒に対するゲル化剤とゲル化促進剤(2価の陽イオンを含む化合物)の合計の割合(固液比(%))は、好ましくは3%以下である。
【0075】
ゲル化剤と1又は複数のゲル化促進剤を混合する際に、たばこ細粉、刻みたばこの形態のたばこを添加してもよい。
【0076】
本発明の製造方法によって製造された喫煙物品用充填物は、好ましくは、タップ密度が0.05g/cm3以下であり、かつ圧縮充填適応度が60より大きい、という性質を有する。あるいは、エステル化度が低いペクチンを用いることにより、たばこ臭がより低い、という性質を有する。
【実施例
【0077】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【0078】
実施例1:種々のゲル化剤を用いた喫煙物品用充填物のタップ密度及び圧縮充填適応度
本実施例では、種々のゲル化剤を用いた喫煙物品用充填物について、タップ密度(圧縮密度測定後)、圧縮密度を測定した。さらに、圧縮密度測定後のタップ密度及び圧縮密度に基づき、圧縮充填適応度を算出した。
【0079】
(1)喫煙物品用充填物の製造
実施例1-1
LM-ペクチン(Herbstreith&Fox社製、エステル化度9%)5.3gを蒸留水500gにマグネティックスターラー(Magnetic Stirrer IS-36H,IKEDA scientific Co.,Ltd.)を用いてよく撹拌し、ヒーターを用いて75℃まで温度を上昇させ十分に溶質を溶解し水溶液を得た。水溶液をホモジナイザ(HM-300,HSINGTAI)を用いて、8000rpm程度で、30秒間撹拌させた。当該水溶液に炭酸カルシウム(和光純薬工業株式会社製)1.3gを加え、さらに10wt%クエン酸水溶液(和光純薬工業株式会社製)5mlを添加し、ペクチンゲルを得た。ペクチンゲルをビーカーに移し、-80℃に冷却したエタノール溶液を用いて急冷しゲルの固体を得た。ゲル固体を真空乾燥機に移し、200pa以下の低圧状態でゲルを乾燥する(凍結乾燥)ことで充填物を得た。
【0080】
当該充填物1を崩したのち、篩目5.6mmを通過し、1.4mmを通過しないように篩い分けされたものを実施例1-1の喫煙物品用充填物とした。
【0081】
実施例1-2、1-3、1-4、1-5
実施例1-1のLM-ペクチンを各々、ゲランガム(和光純薬工業株式会社製)、アルギン酸Na(和光純薬工業株式会社製)、アラビアゴム、及びHM-ペクチン(Herbstreith&Fox社製)に変更したこと以外は、実施例1-1と同様に製造した。各々、実施例1-2、1-3、1-4及び1-5の喫煙物品用充填物とした。
【0082】
比較例1-1、1-2、1-3、1-4
実施例1-1のLM-ペクチンを各々、でんぷん、CMC、、寒天、HM-ペクチンとスクロースとの組み合わせ(HM-ペクチンのみHerbstreith&Fox社製、その他は和光純薬工業株式会社製)に変更したこと以外は実施例1-1と同様に製造した。各々、比較例1-1、1-2、1-3及び1-4の喫煙物品用充填物とした。
【0083】
(2)タップ密度、圧縮密度の測定、並びに、圧縮充填適応度の算出
タップ密度測定
喫煙物品用充填物のタップ密度は、日本工業規格の「ファインセラミックス粉末のカサ密度測定方法」(JIS1628-1997)を参考に、以下のように測定した。
【0084】
室温22度湿度60%環境下で48時間蔵置した喫煙物品用充填物の重量3.0gを正確に量り、漏斗を用いて250cm3メスシリンダーに入れ、その容器をタップ高さ10mm、タップ速度100回/分となるように設定したタップデンサーに設置し、600回タップを行い、試料面までの高さを測定する。更に100回のタップを追加し、試料面までの高さを測定する。このとき、先に測定した試料面までの高さとの差が1mm以内であることを確かめる。1mmを超えた場合は,前回との差が1mm以内になるまで、100回ずつタップを繰り返す。以上の測定を3回行い、その算術平均を測定結果とする(g/cm3)。
【0085】
タップ密度は、圧縮密度測定後に測定した。
【0086】
圧縮密度測定
膨こう性測定装置(Densimeter DD60A,Borgwaldt KC製)を用いて、圧縮密度を測定した。
【0087】
室温22度湿度60%環境下で48時間蔵置した喫煙物品用充填物の重量3.0gを正確に量り、直径60mmのたばこコンテナーに入れ、そこに2kgの荷重をかけた際の試料高さを膨こう性測定装置より読み取り、体積に換算し圧縮密度とする(g/cm3)。以上の測定を3回行い、その算術平均を測定結果とした。
【0088】
圧縮充填適応度
圧縮充填適応度は次のように定義し、算出する。
圧縮充填適応度=(圧縮密度-圧縮測定後のタップ密度)/圧縮密度×100
圧縮充填適応度の算出に用いるのは、タップ密度は圧縮測定後のタップ密度、即ち、一度負荷をかけられた充填材のタップ密度である。
【0089】
(3)結果
各喫煙物品用充填物のタップ密度(圧縮密度測定後)、圧縮密度及び圧縮充填適応度を図1に示す。図2は、図1の圧縮充填適応度を棒グラフにしたものである。図3は、図1のタップ密度を棒グラフで示したものである。図1-3に示されたように、圧縮充填適応度及びタップ密度は、ゲル化剤により異なる値を示す。
【0090】
LM-ペクチン、ゲランガム、アルギン酸Na、アラビアゴム、HM-ペクチン、並びに、HM-ペクチン及びスクロースの組み合わせを用いた場合には、圧縮充填適応度が60より大きかった。特に、LM-ペクチン、ゲランガム、およびHM-ペクチンの場合は、圧縮充填適応度が70以上であった。
【0091】
本発明の実施例のLM-ペクチン、ゲランガム、アルギン酸Na、アラビアゴム及びHM-ペクチンの場合には、タップ密度が、0.05g/cm3以下であった。特に、LM-ペクチン、ゲランガム、アルギン酸Na及びHM-ペクチンの場合には、0.02g/cm3以下であった。これらは、サラサラでふわふわした手触りである。これに対し、比較例のでんぷん及び寒天を用いた場合の充填物は粉状であり、そして、CMC及びHM-ペクチン及びスクロースの組み合わせを用いた場合の充填物はべたべたであり、喫煙物品用充填物として使用するには適さないものであった。
【0092】
実施例2:たばこ細粉を添加した喫煙物品用充填物のタップ密度及び圧縮充填適応度
本実施例では、たばこ細粉を種々の割合で添加した喫煙物品用充填物について、タップ密度(圧縮密度測定後)、圧縮密度を測定した。さらに、圧縮密度測定後のタップ密度及び圧縮密度に基づき、圧縮充填適応度を算出した。タップ密度及び圧縮密度の測定、並びに、圧縮充填適応度は、実施例1と同様に測定及び算出した。
【0093】
(1)喫煙物品用充填物の製造
実施例2-1
LM-ペクチン(Herbstreith&Fox社製、エステル化度9%)6.5gを蒸留水500gにマグネティックスターラー(Magnetic Stirrer IS-36H,IKEDA scientific Co.,Ltd.)を用いてよく撹拌し、ヒーターを用いて75℃まで温度を上昇させ十分に溶質を溶解し水溶液を得た。水溶液をホモジナイザ(HM-300,HSINGTAI)を用いて、8000rpm程度で、30秒間、撹拌させた、当該水溶液に炭酸カルシウム(和光純薬工業株式会社製)3.5gを加え、さらに、たばこ細粉0.1g及び10wt%クエン酸水溶液(和光純薬工業株式会社製)5mlを添加し、ペクチンゲルを得た。たばこ細粉は、メビウス(登録商標)・スーパーライト(日本たばこ産業株式会社製)に使用されるブレンド刻みたばこを原料とし、市販のコーヒーミルを用いて粉砕して得たものである。ペクチンゲルをビーカーに移し、-80℃に冷却したエタノール溶液を用いて急冷しゲルの固体を得た。ゲル固体を真空乾燥機に移し、200pa以下の低圧状態でゲルを乾燥する(凍結乾燥)ことで充填物を得た。
【0094】
当該充填物2を崩したのち、篩目5.6mmを通過し、篩目1.4mmを通過しないように篩い分けされたものを実施例2-1の喫煙物品用充填物とした。
【0095】
実施例2-2、2-3、2-4
実施例2-1の添加するたばこ細粉の量を1.1g、2.5g、5.4gに変更した以外は、実施例2-1と同様に製造した。各々、実施例2-2、2-3及び2-4の喫煙物品用充填物とした。
【0096】
比較例2-1
実施例2-1の添加するたばこ細粉の量を10gに変更した以外は、実施例2-1と同様に製造した。比較例2-1の喫煙物品用充填物とした。
【0097】
(2)結果
各喫煙物品用充填物のタップ密度(圧縮密度測定後)、圧縮密度及び圧縮充填適応度を図4に示す。図5は、図1の圧縮充填適応度を縦軸、たばこ細粉含有率(%)を横軸としてグラフ化したものである。図4及び5に示されたように、喫煙物品用充填物に含有させるたばこ細粉の割合が増加すると、圧縮充填適応度は減少する。たばこ細粉含有率が35%以下であれば、圧縮充填適応度は60より大きかった。たばこ細粉含有率が20%以下であれば、圧縮充填適応度は70より大きかった。たばこ細粉含有率が50%の比較例2-1では、圧縮充填適応度は51.9と低かった。
【0098】
実施例3:乾燥方法の相違による喫煙物品用充填物のタップ密度及び圧縮充填適応度
本実施例では、喫煙物品用充填物の製造における乾燥工程の相違によるタップ密度(圧縮密度測定後)、圧縮密度、圧縮充填適応度の相違を調べた。タップ密度及び圧縮密度の測定、並びに、圧縮充填適応度は、実施例1と同様に測定及び算出した。
【0099】
(1)喫煙物品用充填物の製造
実施例1-1
本実施例における本発明の喫煙物品用充填物としては、実施例1-1に記載のものを採用した。実施例1-1ではペクチンゲルを凍結乾燥して喫煙物品用充填物を得た。具体的には、得られたペクチンゲルをビーカーに移し、-80℃に冷却したエタノール溶液を用いて急冷しゲルの固体を得た。ゲル固体を真空乾燥機に移し、200pa以下の低圧状態でゲルを乾燥することで充填物を得た。
【0100】
比較例3-1、3-2、3-3
比較例3-1では、実施例1-1と同様にペクチンゲルを得た。得られたペクチンゲルを凍結乾燥ではなく、熱風(温風)乾燥により乾燥させた。具体的には、ペクチンゲルを20cm×20cmの角ステンレスバットに均一に広げ、80℃に設定された温風乾燥機内に3時間静置し完全に乾燥させた。比較例3-1の喫煙物品用充填物を得た。
【0101】
比較例3-2、3-3では、ペクチンを各々ゲランガム(和光純薬工業株式会社製)、アルギン酸Na(和光純薬工業株式会社製)に変更したこと以外は、比較例3-1と同様に製造し、熱風(温風)乾燥により乾燥させた。
【0102】
(2)結果
各喫煙物品用充填物のタップ密度(圧縮密度測定後)、圧縮密度及び圧縮充填適応度を図1の実施例1-1、並びに図6に示す。図7は、図1の実施例1-1及び図6の圧縮充填適応度を棒グラフで示したものである。
【0103】
実施例1-1(凍結乾燥)と比較例3-1(熱風乾燥)は、ゲル化剤及びゲル化促進剤の組成は同じである。しかしながら、ペクチンゲルの乾燥方法が、凍結乾燥(実施例1-1)の場合には、圧縮充填適応度が74.9、タップ密度が0.01のサラサラでふわふわした喫煙物品用充填物が得られたのに対し、熱風乾燥(比較例3-1)の場合には、圧縮充填適応度が3.0、タップ密度が0.250のガチガチの固い充填物となった。
【0104】
同様に、比較例3-2及び3-3も、ゲル化剤及びゲル化促進剤の組成は各々実施例―1-2、実施例1-3と同じである。しかしながら、熱風乾燥(比較例3-2、3-3)の場合には、比較例3-1と同様に圧縮充填適応度が各々-2.8、-15.7、そしてタップ密度が各々0.263、0.255のガチガチの固い充填物となった。
【0105】
実施例4:喫煙物品用充填物の固液比を変更した場合のタップ密度及び圧縮充填適応度
本実施例では、喫煙物品用充填物の固液比を変更した場合のタップ密度(圧縮密度測定後)、圧縮密度、圧縮充填適応度を調べた。タップ密度及び圧縮密度の測定、並びに、圧縮充填適応度は、実施例1と同様に測定及び算出した。
【0106】
(1)喫煙物品用充填物の製造
実施例1-1のLM-ペクチン量及びゲル化剤(炭酸カルシウム)の量を図8に記載の通り変更し、固液比を各々3.0%、4.5%、6.7%。10.0%及び12.5%(実施例4-1、比較例4-1、比較例4-2、比較例4-3、比較例4-4)とした。その他、喫煙物品用充填物の製造は実施例1と同様に行った。
【0107】
(2)結果
各喫煙物品用充填物のタップ密度(圧縮密度測定後)、圧縮密度及び圧縮充填適応度を図1の実施例1-1、並びに図8に示す。図9は、図8の固液比(%)を横軸としてを圧縮充填適応度を縦軸として示したグラフである。図10は、図8の固液比(%)を横軸としてをタップ密度を縦軸として示したグラフである。
【0108】
実施例1-1及び図8-10に示される本実施例の結果より、喫煙物品用充填物の固液比が3.0%以下の場合には、圧縮充填適応度が62.2以上のふわふわした喫煙物品用充填物が得られたのに対し、固液比が4.5以上の場合には、圧縮充填適応度が37.7以下の固い充填物となった。固液比が高くなるほど圧縮充填適応度は低下し、タップ密度は上昇した。特に、固液比12.5%の比較例4-4では、圧縮充填適応度は0.0、タップ密度は0.054とガチガチの固い充填物となった。
【0109】
実施例5:喫煙物品用充填物のゲル化剤とゲル化促進剤の混合割合を変更した場合のタップ密度、圧縮充填適応度及び膨こう性
本実施例では、ゲル化剤とゲル化促進剤の割合を変更した場合の、喫煙物品用充填物のタップ密度(圧縮密度測定後)、圧縮密度、圧縮充填適応度及び膨こう性を調べた。タップ密度及び圧縮密度の測定、並びに、圧縮充填適応度は、実施例1と同様に測定及び算出した。
【0110】
(1)喫煙物品用充填物の製造
LM-ペクチン(Herbstreith&Fox社製、エステル化度9%)の図11に示した各ロッドの量を蒸留水500gにマグネティックスターラー(Magnetic Stirrer IS-36H,IKEDA scientific Co.,Ltd.)を用いてよく撹拌し、ヒーターを用いて75℃まで温度を上昇させ十分に溶質を溶解し水溶液を得た。水溶液をホモジナイザ(HM-300,HSINGTAI)を用いて、8000rpm程度で、30秒間、撹拌させた。当該水溶液に炭酸カルシウム(和光純薬工業株式会社製)の図11に示した各ロッドの量を加え、さらに10wt%クエン酸水溶液(和光純薬工業株式会社製)5mlを添加し、ペクチンゲルを得た。ペクチンゲルをビーカーに移し、-80℃に冷却したエタノール溶液を用いて急冷しゲルの固体を得た。ゲル固体を真空乾燥機に移し、200pa以下の低圧状態でゲルを乾燥する(凍結乾燥)ことで充填物を得た。
【0111】
当該充填物1を崩したのち、篩目5.6mmを通過し、1.4mmで篩い分けされたものを喫煙物品用充填物とした。
【0112】
タップ密度及び圧縮密度の測定、並びに、圧縮充填適応度は、実施例1と同様に測定及び算出した。
【0113】
(2)ゲル化剤とゲル化促進剤の割合
ゲル化剤とゲル化促進剤の割合について、好ましい態様の重量比の考え方を以下に記載する。前提として、実施例5及び比較例5で使用したペクチンはガラクツロン酸及びガラクツロン酸メチルエステルのみで構成されていると仮定する。
【0114】
(ペクチン)
カルボキシル基を持つ構成単位(以下、ガラクツロン酸)は192g/mol、メチルカルボキシル基を持つ構成単位(以下、ガラクツロン酸メチルエステル)は206g/molである。DE=9%とすると、ペクチン1mol中にガラクツロン酸:ガラクツロン酸メチルエステル=0.91mol:0.09molの割合でペクチン直鎖中に存在する。
【0115】
(カルシウムイオン)
本実施例では炭酸カルシウムを使用しているため、CaCO3=100g/molである。材料を効率良くゲル化させ、喫煙物品用充填物を得るには、ガラクツロン酸と炭酸カルシウムを2mol:1molの割合で存在させればよい。これを重量比に直すと、以下のようになる。
ガラクツロン酸:192g/mol*2mol=384g
炭酸カルシウム:100g/mol*1mol=100g
【0116】
DE=9%の場合、ペクチンの中の構成単位として、ガラクツロン酸は91%、ガラクツロン酸メチルエステルは9%の割合で含まれてしまうため、必要となるガラクツロン酸にガラクツロン酸メチルエステルを足すと必要となるペクチンの総重量は以下の通りである。
(206g/mol * 0.09mol * 2mol/0.91mol) + 384g = 424g
【0117】
よって、重量比に直すと、ペクチン:炭酸カルシウム=424g:100g=81:19(炭酸カルシウムの混合割合(重量比)19.1%)である。炭酸カルシウム:カルシウム=1:0.4なので、重量比ではペクチン:カルシウムイオン=1:0.09となる。
【0118】
各実施例、比較例で用いた炭酸カルシウムの混合割合(重量比)は、以下の通りである。
実施例5-1: 10.6%
実施例1-1: 19.7% (好ましい混合割合に最も近い)
実施例5-2: 30.3%
実施例5-3: 50.0%
実施例5-4: 69.7%
比較例5-1: 89.4%
【0119】
(3)膨こう性の測定
膨こう性測定装置(Densimeter DD60A,Borgwaldt KC製)を用いて、圧縮密度を測定した。
【0120】
室温22度湿度60%環境下で48時間蔵置した喫煙物品用充填物の重量3.0gを正確に量り、直径60mmのたばこコンテナーに入れ、そこに2kgの荷重をかけた際の試料高さを膨こう性測定装置(Densimeter DD60A,Borgwaldt KC製)により読み取り、体積に換算し膨こう性とする(cm3/g)。以上の測定を3回行い、その算術平均を測定結果とした。
【0121】
(4)結果
タップ密度、圧縮密度、圧縮充填適応度及び膨こう性の各結果を図11-14に示す。図12及び図13は、図11に記載した圧縮充填適応度。タップ密度を縦軸に、炭酸カルシウムの混合割合(重量比)を横軸に示した図である。図14は、実施例1-1、実施例5-1~5-4及び比較例5-1を横軸に炭酸カルシウムの混合割合(重量比)の低い順に並べ、縦軸に膨こう性(cm3/g)の結果を示した図である。
【0122】
本実施例で調べた喫煙物品用充填物のうち、実施例1-1が最も高い膨こう性が得られた。実施例1-1の炭酸カルシウムの混合割合(炭酸カルシウムの混合割合19.7%)は、上記「(2)ゲル化剤とゲル化促進剤の割合」で推定した好ましい理論値(19.1%)に最も近い。
【0123】
実施例5-1-実施例5-4の範囲、即ち、ゲル化剤:ゲル化促進剤の比が1:0.12~1:2.3の範囲で、タップ密度が0.05g/cm3以下であり、かつ圧縮充填適応度が60より大きい、という要件を満たすことが確認された。これは、ペクチン中のカルボキシル基を含むモノマーとゲル化促進剤である2価の陽イオンのモル比が、1:0.25~1:5(4.9)の場合に相当する。
【0124】
本実施例は、「ペクチン中の2つのガラクツロン酸に対して1つのカルシウムイオンが架橋構造を形成する。エステル化度9%でガラクツロン酸及びガラクツロン酸メチルエステルが繰り返して構成された理想的なペクチンに対しては重量比でペクチン:カルシウムイオンが約1:0.09のとき、即ち、ペクチン中のカルボキシル基とゲル化促進剤である2価の陽イオンを含む化合物の割合が2:1の割合に過不足なく架橋する。このことから、過不足なく架橋構造を形成した喫煙物品用充填物の方がより高い膨こう性を得られる。」という本発明の理論を裏付けるものである。
【0125】
実施例6 棚段式乾燥によって得た喫煙物品用充填物のタップ密度、圧縮充填適応度及び膨こう性
本実施例では、喫煙物品用充填物の製造において棚段式乾燥工程を用いた場合の、タップ密度(圧縮密度測定後)、圧縮密度及び圧縮充填適応度を調べた。タップ密度、圧縮密度の測定、並びに、圧縮充填適応度及び膨こう性の算出は、実施例1と同様に測定及び算出した。
【0126】
(1)喫煙物品用充填物の製造
本実施例では、喫煙物品用充填物の組成は実施例1-1に記載のものを採用した。実施例1-1ではペクチンゲルを凍結乾燥して喫煙物品用充填物を得た。本実施例では、実施例1-1と同様の手法でペクチンゲルを得た後に、-40℃の冷凍庫内で24時間予備凍結しゲル固体を得る。その後真空乾燥機で乾燥させ充填物を得た(棚段式乾燥)(実施例6-1)。
【0127】
(2)結果
タップ密度、圧縮密度、圧縮充填適応度及び膨こう性の各結果を図15に示す。図15より、棚段式乾燥工程を用いた場合も実施例1-1の凍結乾燥工程を用いた場合と同様に、本発明のタップ密度が0.05g/cm3以下であり、かつ圧縮充填適応度が60より大きい、という要件を満たす喫煙物品用充填物が得られた。
【0128】
実施例7:ゲル化剤としてエステル化度の種々のペクチンを用いた喫煙物品用充填物を含むシガレットの副流煙臭気の官能評価
本実施例では、ゲル化剤としてのエステル化度の異なる種々のペクチンを用いた喫煙物品用充填物を含むシガレットの副流煙臭気の官能評価を行った。
【0129】
(1)シガレットの製造
実施例7-1
上記実施例1-1の喫煙物品用充填物50mgとメビウス(登録商標)・スーパーライト(日本たばこ産業株式会社製)に使用されている刻みたばこ285mgをブレンドし、ブレンド刻みを得た。手巻きたばこ製造機リズラー(RIZRA)(「リズラ・ローラー」)を使用して、ブレンド刻みを市販のたばこロッド部に使用されるメビウス(登録商標)・スーパーライト(日本たばこ産業株式会社製)用のラッパーにて包被し、長さ59mm円周25mmのたばこロッド部を作製した。たばこロッド部と市販のシガレットに使用されるフィルターロッド部を一般的なフィルターラッパを用いて結合し、実施例7-1のシガレットを得た。
【0130】
実施例7-2
実施例7-1において、喫煙物品用充填物に使用するLM-ペクチンを、エステル化度=9%のものから、エステル化度=12%のものに変更した以外は、実施例7-1と同様に製造した。実施例7-2のシガレットとした。
【0131】
比較例7-1,7-2,7-3,7-4
実施例7-1において、喫煙物品用充填物に使用するLM-ペクチンを、エステル化度=9%のものから、エステル化度=23%、38%、58%、65%のものに変更した以外は、実施例7-1と同様に製造した。各々比較例7-1、7-2、7-3、7-4のシガレットとした。
【0132】
比較例7-5、7-6
実施例7-1において、喫煙物品用充填物を実施例1-1(ゲル化剤:LM-ペクチン(エステル化度=9%))から、実施例1-2(ゲル化剤:ゲランガム)、実施例1-3(ゲル化剤:アルギン酸ナトリウム)に変更したこと以外は、実施例7-1と同様に製造した。各々比較例7-5、7-6のシガレットとした。
【0133】
(2)副流煙臭気の官能評価
実施例7-1,7-2、比較例7-1、7-2、7-3、7-4、7-5、7-6で得られたシガレットについて、副流煙臭気の官能評価を行った。
【0134】
副流煙臭気の官能評価は、部屋法を用いて実施し、高臭気シガレット選択率を調べた。部屋法とは、人の出入りのためのドア1つ以外は密閉された部屋(床面積:31m2;容量:85m3)を2つ(A室、B室とする)準備する。ドアを閉めた状態で、A室内で対照のシガレット5本を自然燃焼させる。他方、ドアを閉めた状態で、B室内で評価対象のシガレット5本を自然燃焼させる。30名のパネルを2グループに分け、一方のグループは全員が同時にA室から入り、A室を出た後、B室に入り、B室を出て、「たばこ臭の強い部屋はどちらの部屋か」について結果を報告する。他方のグループは、全員が同時にB室から入り、B室を出た後、A室に入り、A室を出て、「たばこ臭の強い部屋はどちらの部屋か」について結果を報告した。日本特許3708815号に記載の部屋法を参考とした。
【0135】
高臭気シガレット選択率は、リファレンスサンプルである市販のメビウス(登録商標)・スーパーライト(日本たばこ社製)の臭気と評価サンプルの臭気とを比較した際に、より臭気が強いと感じたサンプルの選択割合として示す。
【0136】
(3)結果
各シガレットについて、高臭気シガレット選択率を調べた結果を図16及び図17に示す。図17は、図16の高臭気シガレット選択率を棒グラフで示したものである。図16図17に示されるように、ゲル化剤としてエステル化度が低い(12%以下)のLM-ペクチンを含む喫煙物品用充填物を用いた場合には、高臭気シガレット選択率が0.07と低かった。エステル化度がより高いLM-ペクチンを用いた場合には、高臭気シガレット選択率が0.17以上と高くなった。また、LM-ペクチン以外のゲル化剤を用いた場合には、エステル化度がより高いLM-ペクチンを用いた場合と同様に、高臭気シガレット選択率が高かった。
【0137】
よって、たばこ臭がより弱いシガレットを製造するためには、喫煙物品用充填物のゲル化剤として、エステル化度が低い(12%以下)のペクチンを用いることが好ましい。
図1
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図17