(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】水素を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
C25B 1/04 20210101AFI20221109BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20221109BHJP
C25B 11/063 20210101ALI20221109BHJP
F02B 13/10 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B11/063
F02B13/10
(21)【出願番号】P 2019559078
(86)(22)【出願日】2017-12-15
(86)【国際出願番号】 EP2017083134
(87)【国際公開番号】W WO2018197032
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2020-11-30
(32)【優先日】2017-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519381300
【氏名又は名称】テック アドバンスド アンシュタルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100116975
【氏名又は名称】礒山 朝美
(72)【発明者】
【氏名】オルグン タンベルク
(72)【発明者】
【氏名】ティルジム フォン リヒテンシュタイン
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03444001(US,A)
【文献】特開昭54-130480(JP,A)
【文献】特開2014-040625(JP,A)
【文献】特開昭56-146930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/02-1/04
C25B 9/00
C25B 11/063
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む電解セル
であって:
・ ハウジング;
・ カソード、ここで、前記カソードの材料は、チタン及びその合金から選択されているか、又はチタン若しくはその合金でめっきされている;
・ アノード、ここで、前記アノードの材料は、チタン及びその合金から選択されているか、又はチタン若しくはその合金でめっきされている;
・ 電解質組成物、ここで、前記電解質組成物は、水と、0.5~3重量%のヒドラジンと
、10重量%
までの水酸化カリウムとを含み、かつ7.5~13のpHを有する;及び
・ 任意に、ダイアフラム
、
ここで、
・ 前記ハウジングが、貯蔵容器に接続しており;前記容器は、水性ヒドラジン組成物を含んでおり;かつ
・ 前記ハウジングが、内燃機関に接続しており、それによって、電解生成物を前記内燃機関に供給するようになっている
ことを特徴とする、
電解セル。
【請求項2】
請求項
1に記載の電解セルを含む、以下から選択される装置:
・ 自動車、特にディーゼル燃料車;
・ 航空機;
・ 列車;
・ 船;
・ 冷暖房システム;
・ 圧縮機システム;
・ 発電機システム;並びに
・ エネルギー貯蔵システム、特に、風力エネルギー貯蔵システム、及び太陽エネルギー貯蔵システム。
【請求項3】
内燃機関への添加剤としての、水及び0.5~3重量%のヒドラジン及び10重量%までのKOHを含み、かつ7.5~13のpHを有する組成物の使用であって、前記組成物を、まず、電解法に供し、かつその結果生じるガス生成物を内燃機関へ供給する、使用。
【請求項4】
請求項
1に記載の電解セルを含む加熱システム。
【請求項5】
請求項
1に記載の一つ又はそれを超える電解セルを含む乗用車、トラック、及びバスを含む自動車、特に、請求項
1に記載の一つ又はそれを超える電解セルを含むディーゼル燃料車。
【請求項6】
内燃機関への添加剤組成物であって、
・ 前記添加剤組成物は、水及び0.5~3重量%のヒドラジンを含み、かつ7.5~13のpHを有し、かつ
・ 前記添加剤組成物は、まず、電解法に供され、かつその結果生じたガス生成物が、その後に内燃機関へ供給される、
添加剤組成物。
【請求項7】
ディーゼルエンジンへの添加剤組成物であって、
・ 前記添加剤組成物は、水及び0.5~3重量%のヒドラジンを含み、かつ7.5~13のpHを有し、かつ
・ 前記添加剤組成物は、まず、電解法に供され、かつその結果生じたガス生成物が、その後に内燃機関へ供給される、
添加剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された電解法によって水素を製造するための方法、そのような方法に適合した電解セル(電解槽)、及びそのような電解セルを含む装置に関する。本発明は、さらに、水性ヒドラジンの新規用途、特に電解質としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
水素、特に、水素ガス、及びガスを含む水素は、広く知られており、かつ今日の産業及び来るべき水素経済における重要な要素であると考えられる。水素の効率的な製造が最も重要である。
【0003】
水素製造の現在の工業的プロセスは、天然ガスのような炭化水素を、クラッキング又は水蒸気改質によって処理することに基づいている。これらの方法は、本質的にCO2の排出を伴い、このことは、むろん不利益となる。
【0004】
CO2を排出しない水素の製造方法も知られており、こうした方法は、水の電気分解を含んでいる。これらの方法は、有益な副生成物として酸素を製造する。環境面で明らかに有利であるにもかかわらず、主に経費検討の観点から、水の電解による水素の製造は、大規模生産には至っていない。
【0005】
Schallenbachらは、水の電解の効率について新たな視点を議論している(Journal of The Electrochemical Society, 163 (11) F3197-F3208 (2016))。この文献では、電解槽の効率を具現化し、かつ電極、電解質、及び操作パラメーターを含む様々なパラメーターを議論している。
【0006】
岡本らは、特定のカチオン交換膜を備えた電解セルにおける純水の電解プロセスを開示している(米国特許第4,384,941号明細書)。
【0007】
Bertらは、装置及びこの装置の操作方法に対応する、アンモニアの電気分解による装置内での連続した水素の製造を開示している(国際公開第2009/024185号)。ここで得られた水素-窒素の混合物は、内燃機関の燃焼促進剤として使用することができる。この文献で概説されているように(式3)、電解プロセスでアンモニア水を使用し、アンモニアが窒素と水素に開裂する。同様に、Bertらは、アンモニア水の電解によって、水素を製造するための電極を開示している(国際公開第2008/061975号)。アンモニアを、NH基を含む化合物で置き換えることが考えられている。ここでも著者らは、水ではなく、アンモニアが開裂する(第4頁)、ということを強調している。
【0008】
山崎らは、ヒドラジン水溶液から出発する、水素の製造を開示している(特願2012-182516(特開2014-40625号公報))。このプロセスは、カソード極及びアノード極の浸漬を伴い、このアノードは、第9族の金属と特定の配位子を含む金属錯体の、触媒活性コーティングを含む。この文献の実施例1及び2によれば、電解液は、1mol%のヒドラジン(3.2重量%に相当する)、及び1mol%又は0.1mol%のNaOH(4重量%又は0.4重量%に相当する)を含む水溶液を含んでいる。触媒が存在するので、外部電圧を加えなくても、反応は自発的に起こる。その結果、開示されているプロセスは、電解プロセスではなく、むしろ自発的に起きる触媒プロセスである。研究の観点からは適しているが、このアノード極は製造することが難しく、かつ取り扱い時に影響を受けやすく、したがって、商業的な応用の妨げとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、技術水準におけるこれらの欠点のうちの、少なくともいくつかを軽減することである。特に、本発明は、水素を効率的に得るための方法を提供し、かつこの方法は、CO2の排出を回避する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらの目的は、請求項1に記載のプロセスによって、請求項5に記載の電解槽によって、及び請求項9に記載の使用によって、達成される。さらに、本発明の態様は、明細書及び独立請求項に開示されており、好ましい実施態様は、明細書及び従属請求項に開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を以下により詳細に説明する。本明細書に提供されている/開示されている、様々な実施態様、好ましいもの、及び範囲は、組み合わせることもできると理解される。さらに、特定の実施態様によっては、選択した定義、実施態様又は範囲が当てはまらないこともある。
【0012】
本明細書中で使用している、本発明に照らして(特に請求項に照らして)使用する用語「a」、「an」、「the」及び類似の用語は、ここで別段に示さない限り、又は文脈と明らかに矛盾しない限り、単数及び複数の両方の範囲に及ぶものと解釈されるべきである。本明細書中で使用している、「含む(including)」、「含む(containing)」、及び「含む(comprising)」との用語は、ここでは、オープンであり、非制限的な意味で使用する。「含む(containing)」との用語は、「含む(comprising)」及び「からなる(consisting of)」の両者を包含するものとする。
【0013】
より一般的な表現では、第一の態様において、本発明は、水素を製造するための電解法(電解プロセス)に関する。本発明の方法は、水とヒドラジンを含む組成物を電解する工程を含む。本発明のこの態様を、以下にさらに詳細に説明する。
【0014】
「電解法(電解プロセス)」との用語は、一般的に知られており、かつ電解質組成物に、電極(カソード及びアノード)を使って電流(好ましくは直流(DC))が加えられ、別の非自発的な化学反応が進行するプロセスに関する。したがって、本発明のプロセスの重要なパラメーターは、電解質組成物の選択、電極の選択、及びプロセスパラメーターの選択である。
【0015】
理論に拘束されるものではなく、純水へのヒドラジンの添加は、水の電気分解を改善する。特に、ヒドラジンが存在しないプロセスに比べたときに、このプロセスは、はるかに速くかつ経済的である。この効果は、ヒドラジンの、水素及び窒素への発熱分解によるものである。ここに記載した電解法は、(a)より速く(時間当たり、より多くの水素が製造される);(b)より生産性が高く(単位当たり、より多くの水素が製造される);(c)より効率的である(エネルギー消費がより少ない)。このため、現在の電解法及び電解槽を、本発明の電解法及び電解槽に置き換えることができる。したがって、本発明は、水から水素を製造するための、改善された電解法を提供する。
【0016】
電解質組成物: 上記で概略を説明したとおり、電解質組成物は、水及びヒドラジンを含む。ヒドラジンの量は、広い範囲にわたって変えることができ、98重量%までのヒドラジンを、電解質組成物中に存在させることができる。有利には、電解質組成物は、水及び0.5~50重量%のヒドラジン、好ましくは、水及び5~50重量%のヒドラジンを含む。代替の実施態様では、電解質組成物は、水及び0.5~5重量%のヒドラジン、好ましくは、水及び0.5~3重量%のヒドラジンを含む。実験では、少量のヒドラジン、例えば、わずか3重量%ほどのヒドラジンが、優れた結果を与えることが示された。そのような少量のヒドラジンは、経済的な視点からも好都合である。
【0017】
したがって、市販のヒドラジン水溶液を本発明のプロセスに使用することができる。上記成分の比重に起因して、重量%と体積%とは、おおよそ同じ値として関連付けられる。
【0018】
ある一つの実施態様では、電解質は、さらなる添加剤、好ましくは、アルカリ水酸化物、例えば、水酸化カリウム(KOH)のような、無機アルカリ化合物からなる群から選択される、さらなる添加剤を含む。水酸化カリウムは、特に有利であることが判明した。
【0019】
ある一つの実施態様では、電解質組成物は、水及びヒドラジン以外のその他の成分を、含まないか、又は実質的に含まない。したがって、電解質組成物は、水及びヒドラジンからなるものであってよい。
【0020】
さらなる実施態様では、電解質組成物は、0.5~3重量%のヒドラジン、0~10重量%のKOH(例えば、0.2~5重量%のKOH)、及び水を含む。
【0021】
ヒドラジン: 「ヒドラジン」との用語は、化学物質H2NNH2に関連するものであり、かつ特に、純粋な化合物であるH2NNH2、ヒドラジン水和物であるH2NNH2・H2O、及び市販されている溶液のような、ヒドラジンの水溶液を含む。ヒドラジンと水との両者を含む溶液を、電解法に供することが、本発明の重要な特徴であると考えられる。疑義を避けるために、ヒドラジンに関連して定める重量%は、純粋な化合物に関するものであり、ヒドラジン水和物に関するものではない。
【0022】
水素: 上記のとおり、本発明のプロセスは、主生成物として水素を製造する。「水素」との用語は、化学物質H2に関連するものであり、かつ特に、100体積%までの水素、好ましくは50~100体積%の水素、特に好ましくは95~100体積%の水素を含むガスを意味する。
【0023】
本発明に照らして、水素は、炭素含有ガス(例えば、CO、CO2、CH4)を含まないか、又は実質的に含まない。
【0024】
本発明に照らして、製造された水素は、プロセスパラメーター及び使用する電解槽に応じて、窒素(N2)、アンモニア(NH3)、又は酸素(O2)のような、その他の成分を含むことができる。
【0025】
電極: 本発明のプロセスには、多種多様な電極を使用することができる。水電解のために知られている電極は、一般的に本発明のプロセスに適している。電極材料は、電解法に影響を与えることが知られており、電極のめっきは、電極材料を最適化するための既知の方法である。適切な電極又は電極材料が知られており、かつ/又は市販されている。ある一つの実施態様では、電極は、チタン又はその合金でできているか、又は電極は、チタン/チタン合金でめっきされている。
【0026】
プロセスパラメーター: 加える電圧、セル電流、温度、及び圧力を含むプロセスパラメーターは、広い範囲にわたって変えることができ、かつ日常的な実験で当業者が決定することができる。
【0027】
加える適切な電圧は、2~480ボルト、好ましくは12~240ボルト、例えば12~48ボルトを含む、広い範囲にわたって変化させることができる。あるいは、100~120V、又は200~250V、又は300~400Vの電圧を加えることができる。
【0028】
適切な温度は、広い範囲にわたって変化させることができ、典型的には0℃~100℃、好ましくは10℃~60℃、例えば20℃~40℃である。好ましくは、加熱又は冷却のいずれも行わず、その結果、プロセスを室温で実行する。
【0029】
有利な実施態様では、電解法をアルカリ条件下で、すなわち、7を超えるpHで、好ましくはpH7.5~13で実行する。このような条件は、KOHのような無機アルカリ化合物を添加することによって得ることができる。
【0030】
第二の態様では、本発明は、ここで定義したとおりの電解質組成物を含む電解セルに関する。本発明のこの態様を、以下にさらに詳細に説明する。
【0031】
本明細書で使用している、電解セルとの用語は、電解槽としても知られており、電解法を実施するのに適した/適合した装置を記述するものである。疑義を避けるために、電解セルは、燃料セルとは異なるものである。すなわち、電解セルでは、電気エネルギーを消費することによって、化学反応を生じさせる。それとは反対に、燃料セルでは、化学反応が起こり、それによって、電気エネルギーを作り出す。したがって、電解セルは、電解質組成物、ハウジング、カソード、アノード、及び任意にダイアフラムを含む。
【0032】
電解質: 本発明の電解セルは、本明細書で記載するように、電解質組成物が、水及びヒドラジンを含むことを特徴とする。電解質組成物は、電極と流体連結している。
【0033】
ハウジング: 電解セルのハウジングは、それ自体知られており、そのようなハウジングは、本発明の電解セルに適している。ハウジングは、電解による生成物のための、特に水素のための出口を含む。ハウジングは、カソード上及びアノード上で形成するガスを分離するために適合させることができる。ハウジングは、電解質組成物を供給するための入口をさらに含む。ハウジングは、カソードとアノードとを互いに離すようにして、さらに電極を収容し、電極が電解質組成物と接し、かつ電源に接触するようになっている。
【0034】
ある一つの実施態様では、ハウジングは、内燃機関に接続しており、それによって、電解生成物を、内燃機関に供給するようにされている。当分野で知られているように、内燃機関は、特にディーゼルエンジンを含む。
【0035】
ある一つのさらなる実施態様では、ハウジングは、加熱装置に接続しており、それによって、電解生成物を、加熱装置に供給するようにされている。当分野で知られているように、加熱装置は、特に天然ガス加熱装置を含む。
【0036】
ある一つのさらなる実施態様では、ハウジングは、冷却装置に接続しており、それによって、電解生成物を、冷却装置に供給するようにされている。
【0037】
ある一つのさらなる実施態様では、ハウジングは、圧縮機システムに接続しており、それによって、電解生成物を、圧縮機システムに供給するようにされている。
【0038】
ある一つのさらなる実施態様では、ハウジングは、エネルギー貯蔵システム、特に、風力エネルギー貯蔵システム及び太陽エネルギー貯蔵システムに接続しており、それによって、電解質組成物が、エネルギー発生システムによって発生する電力源と接触するようにされている。
【0039】
カソード: カソード材料は、水の電解に適した既知のカソード材料から選択することができ、好ましくは、チタン又はチタン合金のような不活性材料から選択することができる。本発明のセルは、一つ又はそれを超えるカソード、好ましくは一つのカソードを含むことができる。
【0040】
アノード: アノード材料は、水の電解に適した既知のアノード材料から選択することができ、好ましくは、チタン又はチタン合金のような不活性材料から選択することができる。本発明のセルは、一つ又はそれを超えるアノード、好ましくは一つのアノードを含むことができる。
【0041】
ダイアフラム: 目的とする用途及び特定の設計に応じて、本発明の電解セルは、ダイアフラムを含むこともできる。このようなダイアフラムは、アノードとカソードとを分離することができる。
【0042】
有利な実施態様では、本発明の電解セルは、ハウジングを貯蔵容器に接続しているか、又は接続可能であり、この容器は、本明細書で定義した電解質組成物を含む。
【0043】
さらなる有利な実施態様では、電解セルのアノード及びカソードの材料は、チタン若しくはチタン合金によるか、又はチタン若しくはチタン合金でめっきされている。
【0044】
さらなる有利な実施態様では、電解セルは、ダイアフラムを含まない。
【0045】
第三の態様では、本発明は、本明細書で記載した電解セルを含む装置、及びそのような電解セルの対応する使用に関する。本発明のこの態様を、以下にさらに詳細に説明する。
【0046】
上記のとおり、本明細書で記載した電解法は、水素を製造し、特に炭素質材料を含まない水素を製造する。このプロセスのための適切な装置、電解槽は上記のとおりである。これらの本発明の電解槽を、既知の用途における既知の電解槽に置き換えることができ、その結果、このプロセスを、既知の装置において実施することができる。したがって、これらの既知の装置は、本明細書で記載した電解槽を一つの要素として含むことができる。
【0047】
本発明によれば、任意の電動式適用物は、本明細書で記載した電解槽を備えることができる。そのような電動式適用物は、任意の種類の移動用乗り物(自動車、列車及び航空機を含むが、これらに限定されない)、及び電動式工業用適用物(加熱システム、圧縮機システム、発電機システムを含むが、これらに限定されない)を含む。
【0048】
自動車: ある一つの実施態様では、この装置は、乗用車、トラック又はバスのような自動車である。したがって、本発明は、本明細書で記載した、一つ又はそれを超える電解槽を含む、自動車に関する。
【0049】
列車: ある一つのさらなる実施態様では、この装置は、鉄道エンジン又は鉄道車のような、レール上に載った乗り物である。したがって、本発明は、本明細書で記載した、一つ又はそれを超える電解槽を含む、レール上に載った乗り物に関する。
【0050】
航空機: ある一つの実施態様では、この装置は、(プロペラ駆動の航空機及びジェット機を含む)飛行機、又はヘリコプターのような、航空機である。したがって、本発明は、本明細書で記載した、一つ又はそれを超える電解槽を含む、航空機に関する。
【0051】
船舶: ある一つの実施態様では、この装置は、ボートのような船舶である。したがって、本発明は、本明細書で記載した、一つ又はそれを超える電解槽を含む、ボートに関する。
【0052】
加熱システム: ある一つのさらなる実施態様では、この装置は、加熱及び/又は冷却システムである。したがって、本発明は、本明細書で記載した、一つ又はそれを超える電解槽を含む、ヒーターのような加熱システム又は空調システムに関する。
【0053】
圧縮機システム: ある一つのさらなる実施態様では、この装置は、圧縮機システムである。したがって、本発明は、本明細書で記載した、一つ又はそれを超える電解槽を含む、圧縮機システムに関する。
【0054】
エネルギー貯蔵システム: ある一つのさらなる実施態様では、この装置は、エネルギー貯蔵システムである。したがって、本発明は、本明細書で記載した、一つ又はそれを超える電解槽を含む、エネルギー貯蔵システムに関する。エネルギー貯蔵システムは、特に再生可能エネルギーの観点から、益々重要になってきている。太陽熱プラント又はウィンドパークは、製造の時点では必要とされない過剰なエネルギーを製造することができる。そのようなエネルギーは、本明細書で記載した電解プロセスを実行するために使用することができる。それによって得られた水素は、容易に貯蔵でき、かつ/又は運搬することができ、やがてその後の時点で、又は別の場所で必要になれば、最終的には電気に変換することができる。
【0055】
第四の態様では、本発明は、ヒドラジン及び水性ヒドラジン組成物の新規な用途に関する。本発明のこの態様を、以下にさらに詳細に説明する。
【0056】
上述のとおり、ヒドラジンは、既知の物質であり、かつ市販されており、化学合成におけるその多数の用途のために、複数トンの量が製造されている。
【0057】
また、ヒドラジンは熱で分解し、それによって窒素及び水素、又は窒素及びアンモニアを形成することが知られている。この熱分解は、不均一系触媒によって触媒され得る。ヒドラジンの熱分解は、様々な装置中で、例えばロケットエンジン中で実施される。
【0058】
さらに、ヒドラジンは、不均一系触媒の製造を可能にする還元剤であることが知られている。Turchanらは、ヒドラジン又はヒドラジン化合物を使った、化石燃料の燃焼において、NOxを還元する方法を開示している(米国特許第4,761,270号明細書)。この文献によれば、ヒドラジンを、燃料燃焼反応領域へ直接投入する。
【0059】
しかしながら、これまで、ヒドラジンを電解質として使用することは知られていなかった。したがって、本発明は、ヒドラジンの電解質としての使用に関する。
【0060】
有利には、本発明は、ヒドラジンを98重量%まで含有する、水及びヒドラジンを含む電解質組成物における、電解質としてのヒドラジンの使用に関する。したがって、本発明は、本明細書において、本発明の第一の態様で記載した組成物の、電解質組成物としての使用に関する。
【0061】
有利には、本発明は、水素を製造するための電解質組成物における、電解質としての水性ヒドラジンの使用に関する。
【0062】
驚くべきことに、本明細書で記載した水性ヒドラジン組成物は、天然ガス、ガソリン、又はディーゼルのような、炭化水素の燃焼を改善するために使用することができることが見出された。今日知られている、内燃機関の一般的な欠点は、その効率が低いことである。特に、ディーゼルエンジンにとって、煤煙が形成されることが既知の問題である。煤煙の形成は、不完全燃焼を示すものであり、したがって、低い効率を示すものである。本明細書で記載した電解質組成物(第一の態様)を電解法に供し、かつそれによって得られた水素を、ディーゼルエンジンのような内燃機関に提供することによって、燃焼が一般的に改善し、かつ煤煙の形成が低減する。
【0063】
したがって、本発明は、内燃機関への添加剤としての、特にディーゼルエンジンへの添加剤としての、ヒドラジンを98重量%まで含有する、水及びヒドラジンを含む組成物の使用も提供する。先行技術とは対照的に、このヒドラジン水溶液は、直接添加剤として使用されるものではなく、すなわち、燃料燃焼反応領域へは投入されない。もっと正確に言えば、特に本明細書で記載した、このヒドラジン水溶液は、電解プロセスに供され、その反応生成物が、燃料燃焼反応領域へ供給される。したがって、特に本明細書で記載した、このヒドラジン水溶液を、燃料燃焼プロセスへの間接添加剤として使用することができる。この使用は、天然ガス、ガソリン、又はディーゼルのような、炭化水素の燃焼プロセスに、特に関係する。
【0064】
したがって、本発明は、内燃機関への添加剤としての、水及び0.5~50重量%のヒドラジンを含み、かつ7.5~13のpHを有する組成物の使用に関し、ここで、この組成物を、まず、電解法に供し、かつその結果として生じるガス生成物を、内燃機関に供給する。
【0065】
本発明をさらに説明するため、以下の実施例を記載する。これらの実施例は、本発明の範囲を限定する意図なく提供されるものである。
【実施例】
【0066】
実施例1:
四台の通常のマイクロバス(ルノートラフィック)を、実地試験ために使用した。三台のマイクロバスに、本明細書で記載した電解槽を備え付け、四台目のマイクロバスは、電解槽と共に走行したが、水のみを使用した。すべてのマイクロバスを、日常的な走行について類似の条件下で使用した。電解槽のカソード及びアノードはチタンでできており、電解質組成物として、水とヒドラジンとの500ml(No.1~3について、容積で、水:ヒドラジン=95:5、No.4について、水:ヒドラジン=100:0)を使用した。電解槽をマイクロバスのバッテリーに接続して、電解槽に直流(DC)を供給した。得られた水素を、エンジンに供給した。
【0067】
500mlの電解質組成物は、マイクロバスが、おおよそ1300kmを走行するためには十分である。以下に示す燃料消費量を観察した。
【0068】
【0069】
上記からわかるように、本発明のマイクロバス(すなわち、電解槽を備え付けたマイクロバス)の燃料消費量は、従来のマイクロバス(すなわち、本発明による電解槽を備え付けていないマイクロバス)よりも明らかに減少している。従来のマイクロバスは、1リットルのディーゼル燃料で、7.6km(100kmあたり13.2リットルに相当する)しか走行することができないのに対し、本発明のマイクロバスは、1リットルのディーゼル燃料で、おおよそ10.7km(100kmあたり9.3リットルに相当する)走行することができる。つまり、これは、本発明のマイクロバスにより、実に、約50%も効率が増加したことに相当する。
【0070】
効率が増加したことに加えて、改善された燃焼が観察された。改善した燃焼は、排気システムの検査によって容易に観測することができる。本発明のマイクロバスは、ほぼ汚れのない排出ガスを示したのに対し、従来のマイクロバスでは、典型的な黒色の外観を示した。この黒色の外観は、ディーゼルエンジンによく知られている煤煙の形成によるものである。
【0071】
実施例2:
三台の通常のマイクロバスを実地試験のために使用した。すべてのマイクロバスに、本明細書で記載した電解槽を備え付けた。すべてのマイクロバスを、日常的な走行について類似の条件下で使用した。電解槽をマイクロバスのバッテリーに接続して、電解槽に直流(DC)を供給した。得られた水素を、エンジンに供給した。電解槽のカソード及びアノードはチタンでできており、以下の表に示すとおり、電解質組成物だけが異なっている。
【0072】
異なる電解質を使用したとき、以下に示す燃料消費量を観察した。
【0073】
【0074】
上記からわかるように、本発明のマイクロバス(すなわち、水+ヒドラジンの本発明の電解質組成物により走行したマイクロバス)の燃料消費量は、本発明によるものでないマイクロバス(すなわち、電解質組成物=水により走行したマイクロバス、又は電解質組成物=水+アンモニアにより走行したマイクロバス)よりも、明らかに減少している。この結果は、現実的な条件下での実地試験において得られたものであって、テスト設備において得られたものではない、ということに留意されたい。さらに、すべての試験は再現可能であり、かつ矛盾のないものである点に留意されたい。
【0075】
特に驚くべきことは、水+アンモニアの、本発明によるものでない電解質組成物によって得られた結果である。水のみの場合と比較すると、アンモニアの添加は、この結果に何ら影響を与えていない。言い換えれば、電解質組成物が水である場合と、電解質組成物が水+アンモニアである場合とは、同じ結果を与えるのに対し、電解質組成物が水+ヒドラジンである場合は、著しくかつ再現可能な、燃料消費量の減少を与える。上記からわかるように、実に50%もの燃料消費量の減少が、観察されている。
【0076】
効率が増加したことに加えて、改善された燃焼が、ここでも観察された。改善した燃焼は、排気システムの検査によって容易に観測することができた。本発明のマイクロバスは、ほぼ汚れのない排出ガスを示したのに対し、従来のマイクロバスでは、ここでも典型的な黒色の外観を示した。この黒色の外観は、ディーゼルエンジンによく知られている煤煙の形成によるものである。
【0077】
実施例3:
もともとは天然ガスを用いる操作のために設計された加熱装置(3000000kcalの能力)を、水素を燃料とするように改造した。水素を、90アンペアの整流器と共に320~350Vの直流電圧で操作する電解装置から得た。
【0078】
A)水/ヒドラジン: 蒸留水と、2.5重量%のヒドラジンとを含む電解質組成物で、この装置を満たした。電解装置から、約120リットル/分の水素ガスが得られた。これは、改造した加熱装置から、約300000kcalのエネルギー製造をもたらした。
【0079】
B)水のみ: 同一の設定で、上記の改造した加熱装置を作動したが、蒸留水のみを含み、ヒドラジンが0%である電解質組成物を使用したとき、上記A)の設定と比較して、いずれの試行においても、わずか5分の1の水素ガスの産出しか観察されなかった。
【0080】
この実施例で得られた結果を以下にまとめる。
【0081】
【0082】
上記からわかるように、電解質である「水」を、本発明による電解質組成物である「水+ヒドラジン」に置き換えると、水素の製造は、4~5倍に増加する。理論に拘束されるものではないが、ヒドラジンが発熱的に分解するので、ヒドラジンの存在が電解プロセスを引き起こすものと考えられ、したがって、より多くの水素及びエネルギーが同時に得られる。
本明細書に開示される発明は以下の態様[1]~[11]を含む:
[1]水素を製造するための、特に水から水素を製造するための、電解法における水性ヒドラジンの使用。
[2]前記水性ヒドラジンが、以下を含む電解質組成物中に存在している、上記[1]に記載の使用:
・ ヒドラジン 0.5~50重量%、
・ 水 99.5~50重量%、及び
・ 任意に、10重量%までのアルカリ水酸化物、好ましくは水酸化カリウム。
[3]水、ヒドラジン、及び任意に水酸化カリウムを含む組成物を電解する工程を含む、水素を製造するための電解法であって、
ここで、
・ 前記組成物は、0.5~50重量%のヒドラジンを含み;
・ 前記組成物は、10重量%までのアルカリ水酸化物を含み;
・ 1.2~400V、例えば、12~48V、又は100~120V、又は200~250V、又は300~400Vの電圧を、前記組成物に加える;
水素を製造するための電解法。
[4]前記組成物が、7.5~13のpHを有する、上記[3]に記載の電解法。
[5]カソード材料及びアノード材料が、チタン及びその合金から選択されているか、又はチタン若しくはその合金でめっきされている、上記[3]又は[4]に記載の電解法。
[6]ダイアフラムが存在しない、上記[3]~[5]のいずれか一項に記載の電解法。
[7]以下を含む電解セル:
・ ハウジング;
・ カソード、ここで、前記カソードの材料は、チタン及びその合金から選択されているか、又はチタン若しくはその合金でめっきされている;
・ アノード、ここで、前記アノードの材料は、チタン及びその合金から選択されているか、又はチタン若しくはその合金でめっきされている;
・ 電解質組成物、ここで、前記電解質組成物は、水と、0.5~50重量%のヒドラジンと、0~10重量%のアルカリ水酸化物とを含み、かつ7.5~13のpHを有する;及び
・ 任意に、ダイアフラム。
[8]以下を特徴とする、上記[7]に記載の電解セル:
・ 前記ハウジングが、貯蔵容器に接続しており;前記容器は、水性ヒドラジン組成物、好ましくは上記[2]に記載の水性ヒドラジン組成物を含んでおり;かつ
・ 前記ハウジングが、内燃機関に接続しており、それによって、電解生成物を内燃機関に供給するようになっている。
[9]上記[7]又は[8]に記載の電解セルを含む、以下から選択される装置:
・ 自動車、特にディーゼル燃料車;
・ 航空機;
・ 列車;
・ 船;
・ 冷暖房システム;
・ 圧縮機システム;
・ 発電機システム;並びに
・ エネルギー貯蔵システム、特に、風力エネルギー貯蔵システム、及び太陽エネルギー貯蔵システム。
[10]上記[3]~[6]のいずれか一項に記載の電解法を実施するための、水性ヒドラジン(好ましくは0.5~50重量%のヒドラジン、最も好ましくは0.5~5重量%のヒドラジン)を含む組成物の使用。
[11]内燃機関への添加剤としての、水及び0.5~50重量%のヒドラジンを含み、かつ7.5~13のpHを有する組成物の使用であって、前記組成物を、まず、電解法に供し、かつその結果生じるガス生成物を内燃機関へ供給する、使用。