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特許7174032熱可塑性樹脂組成物及びこれから製造された成形品
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  • 特許-熱可塑性樹脂組成物及びこれから製造された成形品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物及びこれから製造された成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 25/08 20060101AFI20221109BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20221109BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20221109BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C08L25/08
C08L51/04
C08K3/22
C08K3/32
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020501150
(86)(22)【出願日】2018-06-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-31
(86)【国際出願番号】 KR2018006705
(87)【国際公開番号】W WO2019013458
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-02-25
(31)【優先権主張番号】10-2017-0089399
(32)【優先日】2017-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520087103
【氏名又は名称】ロッテ ケミカル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,チョン ソク
(72)【発明者】
【氏名】ベ,ソン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨン キョン
(72)【発明者】
【氏名】キム,チュ スン
(72)【発明者】
【氏名】パク,カン ヨル
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-531117(JP,A)
【文献】特開平11-035787(JP,A)
【文献】山本修・堀田幹則・澤井淳・笹本忠・小島博光,抗菌活性に及ぼす酸化亜鉛粉末特性の影響-比表面積の効果-,Journal of the Ceramic Society of Japan,日本,1998年,106[10],1007-1011
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 51/00-51/10
C08L 25/00-25/18
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(A1)ゴム変性ビニル系グラフト共重合体15重量%~50重量%及び(A2)芳香族ビニル系共重合体樹脂50重量%~85重量%を含む熱可塑性樹脂100重量部
(B)酸化亜鉛0.1重量部~30重量部
(C)リン酸亜鉛0.1重量部~30重量部;及び
(D)表面の一部又は全部がリン酸亜鉛でコーティングされた表面コーティング酸化亜鉛0.01重量部~3重量部;を含み、
前記熱可塑性樹脂組成物は、JIS Z 2801抗菌評価法に基づいて、3%の酢酸溶液に16時間浸漬させた5cm×5cmの大きさの試験片に黄色ブドウ球菌及び大腸菌を接種し、35℃、RH90%の条件で24時間培養した後で測定した抗菌活性値がそれぞれ独立的に2~7である ことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ゴム変性ビニル系グラフト共重合体(A1)は、ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体を含む単量体混合物がグラフト重合されたものであることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記芳香族ビニル系共重合体樹脂(A2)は、芳香族ビニル系単量体及び前記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体の重合体であることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記酸化亜鉛(B)は、平均粒子の大きさが0.5μm~3μmで、比表面積BETが1/g~10m/gであることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記リン酸亜鉛(C)及び表面コーティング酸化亜鉛(D)は、前記酸化亜鉛をリン酸溶液と反応させて製造したことを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記酸化亜鉛(B)とリン酸亜鉛(C)の重量比(B:C)は1:0.1~1:5であることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記リン酸亜鉛(C)と表面コーティング酸化亜鉛(D)の重量比(C:D)は1:0.01~1:0.5であることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
酸化亜鉛及びリン酸を反応させることによって、リン酸亜鉛と、表面に一部又は全部がリン酸亜鉛でコーティングされた表面コーティング酸化亜鉛との混合物を製造する段階;及び
前記混合物に、ゴム変性ビニル系グラフト共重合体及び芳香族ビニル系共重合体樹脂を含む熱可塑性樹脂及び酸化亜鉛をブレンディングする段階;を含む熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1からのいずれか1項による熱可塑性樹脂組成物から形成されることを特徴とする成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物及びこれから製造された成形品に関する。より具体的には、本発明は、耐酸性、抗菌性などに優れた熱可塑性樹脂組成物及びこれから製造された成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)などのゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂は、機械的物性、加工性、外観特性などに優れるので、電気/電子製品の内/外装材、自動車の内/外装材、建築用外装材などに広く使用されている。
【0003】
また、ゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂などを含む熱可塑性樹脂組成物及びその成形品においては、身体接触が直接又は間接的に発生する用途に使用される場合は、素材自体に抗菌性が要求される。このような抗菌性熱可塑性樹脂組成物を製造するためには抗菌剤の添加が必要であり、抗菌剤としては、酸化亜鉛などが多様な素材に使用されている。
【0004】
しかし、酸化亜鉛などの既存の抗菌剤においては、酸性条件で抗菌性が低下し、制限された条件でのみ使用できるという短所がある。
【0005】
したがって、耐酸性及び抗菌性の全てにおいて優れた熱可塑性樹脂組成物の開発が必要な実情にある。
【0006】
本発明の背景技術は、大韓民国登録特許第10-1452020号公報などに開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐酸性、抗菌性、これらの物性バランスなどに優れた熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、前記熱可塑性樹脂組成物から形成された成形品を提供することにある。
【0009】
本発明の前記目的及びその他の目的は、下記で説明する本発明によって全て達成され得る。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一つの観点は、熱可塑性樹脂組成物に関する。前記熱可塑性樹脂組成物は、ゴム変性ビニル系グラフト共重合体及び芳香族ビニル系共重合体樹脂を含む熱可塑性樹脂;酸化亜鉛;リン酸亜鉛;及び表面の一部又は全部がリン酸亜鉛でコーティングされた表面コーティング酸化亜鉛;を含む。
【0011】
具体例において、前記熱可塑性樹脂組成物は、前記ゴム変性ビニル系グラフト共重合体約15重量%~約50重量%及び前記芳香族ビニル系共重合体樹脂約50重量%~約85重量%を含む熱可塑性樹脂約100重量部;前記酸化亜鉛約0.1重量部~約30重量部;前記リン酸亜鉛約0.1重量部~約30重量部;及び前記表面コーティング酸化亜鉛約0.01重量部~約3重量部;を含んでもよい。
【0012】
具体例において、前記ゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体を含む単量体混合物がグラフト重合されたものであってもよい。
【0013】
具体例において、前記芳香族ビニル系共重合体樹脂は、芳香族ビニル系単量体及び前記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体の重合体であってもよい。
【0014】
具体例において、前記酸化亜鉛は、平均粒子の大きさが約0.5μm~約3μmで、比表面積BETが約1m/g~約10m/gであってもよい。
【0015】
具体例において、前記リン酸亜鉛及び表面コーティング酸化亜鉛は、前記酸化亜鉛をリン酸溶液と反応させて製造したものであってもよい。
【0016】
具体例において、前記酸化亜鉛とリン酸亜鉛の重量比(酸化亜鉛:リン酸亜鉛)は約1:約0.1~約1:約5であってもよい。
【0017】
具体例において、前記リン酸亜鉛と表面コーティング酸化亜鉛の重量比(リン酸亜鉛:表面コーティング酸化亜鉛)は約1:約0.01~約1:約0.5であってもよい。
【0018】
具体例において、前記熱可塑性樹脂組成物は、JIS Z 2801抗菌評価法に基づいて、3%の酢酸溶液に16時間浸漬させた5cm×5cmの大きさの試験片に黄色ブドウ球菌及び大腸菌を接種し、35℃、RH90%の条件で24時間培養した後で測定した抗菌活性値がそれぞれ独立的に約2~約7であってもよい。
【0019】
本発明の他の観点は、前記熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。前記製造方法は、酸化亜鉛及びリン酸を反応させることによって、リン酸亜鉛と、表面に一部又は全部がリン酸亜鉛でコーティングされた表面コーティング酸化亜鉛との混合物を製造する段階;及び前記混合物に、ゴム変性ビニル系グラフト共重合体及び芳香族ビニル系共重合体樹脂を含む熱可塑性樹脂及び酸化亜鉛をブレンディングする段階;を含む。
【0020】
本発明の更に他の観点は成形品に関する。前記成形品は、前記熱可塑性樹脂組成物から形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、耐酸性、抗菌性、これらの物性バランスなどに優れた熱可塑性樹脂組成物及びこれから形成された成形品を提供するという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施例によって製造された表面コーティング酸化亜鉛の透過電子顕微鏡(transmission electron microscope:TEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、(A1)ゴム変性ビニル系グラフト共重合体及び(A2)芳香族ビニル系共重合体樹脂を含む(A)熱可塑性樹脂;(B)酸化亜鉛;(C)リン酸亜鉛;及び(D)表面の一部又は全部がリン酸亜鉛でコーティングされた表面コーティング酸化亜鉛;を含む。
【0025】
(A)熱可塑性樹脂
本発明の熱可塑性樹脂は、(A1)ゴム変性ビニル系グラフト共重合体及び(A2)芳香族ビニル系共重合体樹脂を含むゴム変性ビニル系共重合体樹脂であってもよい。
【0026】
(A1)ゴム変性ビニル系グラフト共重合体
本発明の一具体例に係るゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、成形加工性などを向上できるものであって、ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体を含む単量体混合物がグラフト重合されたものであってもよい。例えば、前記ゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体を含む単量体混合物をグラフト重合して得ることができ、必要に応じて、前記単量体混合物に加工性及び耐熱性を付与する単量体をさらに含ませてグラフト重合してもよい。前記重合は、乳化重合、懸濁重合などの公知の重合方法によって行われ得る。また、前記ゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、コア(ゴム質重合体)-シェル(単量体混合物の共重合体)の構造を形成できるが、これに制限されない。
【0027】
具体例において、前記ゴム質重合体としては、ポリブタジエン、ポリ(スチレン-ブタジエン)、ポリ(アクリロニトリル-ブタジエン)などのジエン系ゴム;前記ジエン系ゴムに水素添加した飽和ゴム;アクリル系ゴム;イソプレンゴム;及びエチレン-プロピレン-ジエン単量体三元共重合体(EPDM)などを例示することができる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。例えば、前記ゴム質重合体としてはブタジエン系ゴムなどを使用してもよい。
【0028】
具体例において、前記ゴム質重合体(ゴム粒子)の平均粒径(Z-平均)は、約0.05μm~約6μm、例えば、約0.15μm~約4μm、具体的には約0.25μm~約3.5μmであってもよい。前記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、外観特性などが優秀になり得る。
【0029】
具体例において、前記ゴム質重合体の含量は、ゴム変性ビニル系グラフト共重合体の全体100重量%のうち約20重量%~約70重量%、例えば、約30重量%~約60重量%であってもよく、前記単量体混合物(芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体を含む)の含量は、ゴム変性ビニル系グラフト共重合体の全体100重量%のうち約30重量%~約80重量%、例えば、約40重量%~約70重量%であってもよい。前記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、外観特性などが優秀になり得る。
【0030】
具体例において、前記芳香族ビニル系単量体は、前記ゴム質重合体にグラフト共重合され得るものであって、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルキシレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、ビニルナフタレンなどを例示することができる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。前記芳香族ビニル系単量体の含量は、前記単量体混合物100重量%のうち約10重量%~約90重量%、例えば、約40重量%~約90重量%であってもよい。前記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の加工性、耐衝撃性などが優秀になり得る。
【0031】
具体例において、前記シアン化ビニル系単量体は、前記芳香族ビニル系と共重合可能なものであって、前記シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フェニルアクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、フマロニトリルなどを例示することができる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。例えば、前記シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどを使用してもよい。前記シアン化ビニル系単量体の含量は、前記単量体混合物100重量%のうち約10重量%~約90重量%、例えば、約10重量%~約60重量%であってもよい。前記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐化学性、機械的特性などが優秀になり得る。
【0032】
具体例において、前記加工性及び耐熱性を付与するための単量体としては、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、N-置換マレイミドなどを例示できるが、これに限定されない。前記加工性及び耐熱性を付与するための単量体を使用するとき、その含量は、前記単量体混合物100重量%のうち約15重量%以下、例えば、約0.1重量%~約10重量%であってもよい。前記範囲で、他の物性が低下することなく、熱可塑性樹脂組成物に加工性及び耐熱性を付与することができる。
【0033】
具体例において、前記ゴム変性ビニル系グラフト共重合体としては、ブタジエン系ゴム質重合体に芳香族ビニル系化合物であるスチレン単量体とシアン化ビニル系化合物であるアクリロニトリル単量体とがグラフトされた共重合体(g-ABS)などを例示することができる。
【0034】
具体例において、前記ゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、全体の熱可塑性樹脂(ゴム変性ビニル系グラフト共重合体及び芳香族ビニル系共重合体樹脂)100重量%のうち約15重量%~約50重量%、例えば、約20重量%~約45重量%で含まれてもよい。前記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、流動性(成形加工性)、外観特性、これらの物性バランスなどが優秀になり得る。
【0035】
(A2)芳香族ビニル系共重合体樹脂
本発明の一具体例に係る芳香族ビニル系共重合体樹脂は、通常のゴム変性ビニル系共重合体樹脂に使用される芳香族ビニル系共重合体樹脂であってもよい。例えば、前記芳香族ビニル系共重合体樹脂は、芳香族ビニル系単量体、及びシアン化ビニル系単量体などの前記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体を含む単量体混合物の重合体であってもよい。
【0036】
具体例において、前記芳香族ビニル系共重合体樹脂は、芳香族ビニル系単量体、及び芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体などを混合した後、これを重合して得ることができ、前記重合は、乳化重合、懸濁重合、塊状重合などの公知の重合方法によって行われ得る。
【0037】
具体例において、前記芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルキシレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、ビニルナフタレンなどを使用してもよい。これらは、単独で適用されてもよく、2種以上を混合して適用されてもよい。前記芳香族ビニル系単量体の含量は、芳香族ビニル系共重合体樹脂の全体100重量%のうち約20重量%~約90重量%、例えば、約30重量%~約80重量%であってもよい。前記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、流動性などが優秀になり得る。
【0038】
具体例において、前記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フェニルアクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、フマロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体などを使用してもよい。また、これらは、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。前記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体の含量は、芳香族ビニル系共重合体樹脂の全体100重量%のうち約10重量%~約80重量%、例えば、約20重量%~約70重量%であってもよい。前記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、流動性などが優秀になり得る。
【0039】
具体例において、前記芳香族ビニル系共重合体樹脂は、GPC(gel permeation chromatography)で測定した重量平均分子量(Mw)が約10,000g/mol~約300,000g/mol、例えば、約15,000g/mol~約150,000g/molであってもよい。前記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の機械的強度、成形性などが優秀になり得る。
【0040】
具体例において、前記芳香族ビニル系共重合体樹脂は、全体の熱可塑性樹脂100重量%のうち約50重量%~約85重量%、例えば、約55重量%~約80重量%で含まれてもよい。前記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、流動性(成形加工性)などが優秀になり得る。
【0041】
(B)酸化亜鉛
本発明の一具体例に係る酸化亜鉛(zinc oxide)は、熱可塑性樹脂組成物の抗菌性、耐候性などを向上できるものであって、抗菌剤として使用される通常の酸化亜鉛であってもよい。
【0042】
具体例において、前記酸化亜鉛は、粒度分析機で測定した平均粒子の大きさが約0.5μm~約3μm、例えば、約1μm~約3μmであってもよく、比表面積BETが約1m/g~約10m/g、例えば、約1m/g~約7m/gであってもよく、純度が約99%以上であってもよい。前記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の抗菌性、耐候性などが優秀になり得る。
【0043】
具体例において、前記酸化亜鉛は、フォトルミネッセンスの測定時、370nm~390nm領域のピークAと450nm~600nm領域のピークBとの大きさの比(B/A)が約0~約1、例えば、約0.01~約1、具体的には約0.1~約1であってもよい。前記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐候性、抗菌性などがさらに優秀になり得る。
【0044】
具体例において、前記酸化亜鉛は、X線回折(X-ray diffraction、XRD)の分析時、ピーク位置2θ値が35゜~37゜の範囲で、測定されたFWHM値(回折ピークの半値全幅(Full width at Half Maximum))を基準にしてシェラーの式(Scherrer’s equation)(下記の式1)に適用して演算された微小結晶の大きさ値が約1,000Å~約2,000Å、例えば、約1,200Å~約1,800Åであってもよい。前記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の初期色相、耐候性、抗菌性などが優秀になり得る。
【0045】
【数1】
【0046】
前記式1において、Kは、形状係数で、λは、X線波長で、βは、FWHM値で、θは、ピーク位置値である。
【0047】
具体例において、前記酸化亜鉛は、金属形態の亜鉛を溶かした後で約850℃~約1,000℃、例えば、約900℃~約950℃で加熱して蒸気化させ、酸素ガスを注入して約20℃~約30℃に冷却した後、必要に応じて、反応器に窒素/水素ガスを注入しながら、約400℃~約900℃、例えば、約500℃~約800℃、具体的には約700℃~約800℃で約30分~約150分、例えば、約60分~約120分間熱処理を行った後、常温(約20℃~約30℃)に冷却して製造することができる。
【0048】
具体例において、前記酸化亜鉛は、前記熱可塑性樹脂約100重量部に対して、約0.1重量部~約30重量部、例えば、約1重量部~約10重量部、具体的には約2重量部~約5重量部で含まれてもよい。前記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の抗菌性、耐衝撃性、外観特性などが優秀になり得る。
【0049】
(C)リン酸亜鉛
本発明の一具体例に係るリン酸亜鉛(zinc phosphate)は、熱可塑性樹脂組成物の耐酸性などを向上できるものであって、通常のリン酸亜鉛であってもよく、例えば、酸化亜鉛とリン酸を反応させて製造したリン酸亜鉛、製品化されたリン酸亜鉛などであってもよい。
【0050】
具体例において、前記リン酸亜鉛は、粒度分析機で測定した平均粒子の大きさが約0.5μm~約3μm、例えば、約1μm~約3μmであってもよく、純度が約99%以上であってもよい。前記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐酸性などが優秀になり得る。
【0051】
具体例において、前記リン酸亜鉛は、前記熱可塑性樹脂約100重量部に対して、約0.1重量部~約30重量部、例えば、約0.5重量部~約10重量部、具体的には約1重量部~約5重量部で含まれてもよい。前記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐酸性、耐衝撃性、外観特性などが優秀になり得る。
【0052】
具体例において、前記酸化亜鉛(B)とリン酸亜鉛(C)の重量比(B:C)は、約1:約0.1~約1:約5、例えば、約1:約0.5~約1:約2であってもよい。前記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐酸性、抗菌性などがさらに優秀になり得る。
【0053】
(D)表面コーティング酸化亜鉛
本発明の一具体例に係る表面コーティング酸化亜鉛は、前記酸化亜鉛及びリン酸亜鉛と共に、熱可塑性樹脂組成物の耐酸性、抗菌性などを向上できるものであって、前記酸化亜鉛の表面の一部又は全部がリン酸亜鉛でコーティングされたものである。
【0054】
具体例において、前記表面コーティング酸化亜鉛は、酸化亜鉛の表面積の約50%以上がリン酸亜鉛でコーティングされたものであってもよく、コーティング厚さが約1nm~約50nmであってもよく、酸化亜鉛の表面にリン酸亜鉛が反応してコーティング層を形成する形態(コア(酸化亜鉛)-シェル(リン酸亜鉛)の形態)で存在し得る。
【0055】
具体例において、前記表面コーティング酸化亜鉛は、酸化亜鉛をアセトンなどの有機溶媒に投入及び撹拌した後、前記酸化亜鉛約100重量部に対して、リン酸約7重量部~約70重量部及び水約1重量部~約5重量部を投入し、約30秒~約10分間反応させることによってリン酸亜鉛と共に製造することができる。製造されたリン酸亜鉛及び表面コーティング酸化亜鉛は、TGA分析及び質量分析などを通じて製造の有無、重量比などを確認することができる。
【0056】
具体例において、前記表面コーティング酸化亜鉛中のリン酸亜鉛の含量は、全体100重量%のうち約0.01重量%~約5重量%、例えば、約0.05重量%~約1重量%であってもよい。前記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐酸性、抗菌性などが優秀になり得る。
【0057】
具体例において、前記表面コーティング酸化亜鉛は、前記熱可塑性樹脂約100重量部に対して、約0.01重量部~約3重量部、例えば、約0.02重量部~約1重量部、具体的には約0.05重量部~約0.5重量部で含まれてもよい。前記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐酸性、抗菌性、耐衝撃性、外観特性などが優秀になり得る。
【0058】
具体例において、前記リン酸亜鉛(C)と表面コーティング酸化亜鉛(D)の重量比(C:D)は、約1:約0.01~約1:約0.5、例えば、約1:約0.015~約1:約0.1であってもよい。前記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐酸性、抗菌性などがさらに優秀になり得る。
【0059】
本発明の一具体例に係る熱可塑性樹脂組成物は、通常の熱可塑性樹脂組成物に含まれる添加剤をさらに含んでもよい。前記添加剤としては、難燃剤、充填剤、酸化防止剤、滴下防止剤、安定剤、滑剤、離型剤、核剤、帯電防止剤、顔料、染料、これらの混合物などを例示できるが、これに制限されない。前記添加剤を使用するとき、その含量は、熱可塑性樹脂約100重量部に対して、約0.001重量部~約40重量部、例えば、約0.1重量部~約10重量部であってもよい。
【0060】
本発明の一具体例に係る熱可塑性樹脂組成物は、前記構成成分を単純に混合したり、酸化亜鉛及びリン酸を反応させることによって、リン酸亜鉛と、表面に一部又は全部がリン酸亜鉛でコーティングされた表面コーティング酸化亜鉛との混合物を製造し;前記混合物に、ゴム変性ビニル系グラフト共重合体及び芳香族ビニル系共重合体樹脂を含む熱可塑性樹脂及び酸化亜鉛をブレンディングして製造することができる。
【0061】
具体例において、前記熱可塑性樹脂組成物は、前記混合物にリン酸亜鉛及び/又は表面コーティング酸化亜鉛をさらに添加したものであってもよい。
【0062】
具体例において、前記熱可塑性樹脂組成物は、前記組成物を通常の二軸押出機を用いて、約200℃~約280℃、例えば、約220℃~約250℃で溶融・押出しを行ったペレット状であってもよい。
【0063】
具体例において、前記熱可塑性樹脂組成物は、JIS Z 2801抗菌評価法に基づいて、5cm×5cmの大きさの試験片に黄色ブドウ球菌及び大腸菌を接種し、35℃、RH90%の条件で24時間培養した後で測定した抗菌活性値がそれぞれ独立的に約2~約7、例えば、約3~約6.3であってもよい。
【0064】
具体例において、前記熱可塑性樹脂組成物は、JIS Z 2801抗菌評価法に基づいて、3%の酢酸溶液に16時間浸漬させた5cm×5cmの大きさの試験片に黄色ブドウ球菌及び大腸菌を接種し、35℃、RH90%の条件で24時間培養した後で測定した抗菌活性値がそれぞれ独立的に約2~約7、例えば、約2.1~約6であってもよい。
【0065】
本発明に係る成形品は、前記熱可塑性樹脂組成物から形成される。前記熱可塑性樹脂組成物はペレット状に製造可能であり、製造されたペレットは、射出成形、押出成形、真空成形、キャスティング成形などの多様な成形方法を通じて多様な成形品(製品)に製造され得る。このような成形方法は、本発明の属する分野で通常の知識を有する者によってよく知られている。前記成形品は、耐酸性、抗菌性、耐衝撃性、外観特性、流動性(成形加工性)、これらの物性バランスなどに優れるので、酸性条件でも使用可能な電気/電子製品の内/外装材、自動車の内/外装材、建築用外装材などとして有用である。
【実施例
【0066】
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に説明するが、これらの実施例は説明するためのものに過ぎなく、本発明を制限するものと解釈してはならない。
【0067】
以下、実施例及び比較例で使用された各成分の仕様を説明する。
【0068】
(A)熱可塑性樹脂
(A1)ゴム変性ビニル系グラフト共重合体
45重量%のZ-平均が310nmであるブタジエンゴムに55重量%のスチレン及びアクリロニトリル(重量比:75/25)がグラフト共重合されたg-ABSを使用した。
【0069】
(A2)芳香族ビニル系共重合体樹脂
スチレン71重量%及びアクリロニトリル29重量%が重合されたSAN樹脂(重量平均分子量:130,000g/mol)を使用した。
【0070】
(B)酸化亜鉛
平均粒子の大きさ1.2μm、BET表面積4m/g、純度99%の値を有する酸化亜鉛を使用した。
【0071】
(C1)リン酸亜鉛及び(D)表面コーティング酸化亜鉛
前記酸化亜鉛をアセトン(酸化亜鉛100重量部に対して、1,000重量部)に投入及び撹拌した後、前記酸化亜鉛100重量部に対して、リン酸70重量部及び水1重量部を投入し、3分間反応させることによってリン酸亜鉛(C1):表面コーティング酸化亜鉛(D)の重量比が1:0.03になるように製造し、これを使用した。また、製造された表面コーティング酸化亜鉛(D)の透過電子顕微鏡(transmission electron microscope:TEM)写真を図1に示した。ここで、中央の濃い色部分(コア)が酸化亜鉛で、酸化亜鉛を薄く取り囲んだ淡い色部分(シェル)がリン酸亜鉛コーティング層である。
【0072】
(C2)リン酸亜鉛
製品化されたリン酸亜鉛(zinc phosphate tetrahydrate、製造社:SBC、製品名:zinc phosphate)を使用した。
【0073】
<物性測定方法>
(1)平均粒子の大きさ(単位:μm):粒度分析機(ベックマン・コールター株式会社のレーザー回折式粒度分布測定装置(Laser Diffraction Particle Size Analyzer) LS I3 320装備)を用いて平均粒子の大きさ(体積平均)を測定した。
【0074】
(2)BET表面積(単位:m/g):窒素ガス吸着法を用いてBET分析装備(Micromeritics社、表面積及び細孔分布測定装置(Surface Area and Porosity Analyzer) ASAP 2020装備)でBET表面積を測定した。
【0075】
(3)純度(単位:%):TGA熱分析法を用いて、800℃の温度で残留する重さで以って純度を測定した。
【0076】
(4)表面コーティング酸化亜鉛(D)の含量測定:TGA(Thermal Gravimetric Analysis)測定装備を用いて含量分析方法で測定した。TGA熱分析時、酸化亜鉛の場合、850℃まで分解されない一方、リン酸亜鉛の場合、200℃以上で分解が起こる。よって、表面コーティング酸化亜鉛中のリン酸亜鉛の含量は、表面コーティング酸化亜鉛をTGA分析で200℃以上に加熱し、表面コーティング酸化亜鉛の最初の重さから減量した後で残留物の重さを除外することによって測定することができる。表面コーティング酸化亜鉛(D)の含量は、1分当たり20℃の昇温速度で、温度区間30℃~850℃で窒素ガス及び空気注入条件で測定し、メトラー・トレド株式会社(Mettler Toledo社)のQ5000モデルを用いて測定した。
【0077】
(実施例1~2及び比較例1~3)
前記各構成成分を下記の表1に記載した含量で添加した後、230℃で押出しを行うことによってペレットを製造した。押出しは、L/D=36、直径45mmである二軸押出機を用いて行い、製造されたペレットは80℃で2時間以上乾燥した後、6Oz射出機(成形温度:230℃、金型温度:60℃)で射出することによって試験片を製造した。製造された試験片に対して下記の方法で物性を評価し、その結果を下記の表1に示した。
【0078】
<物性測定方法>
(1)抗菌活性値:JIS Z 2801抗菌評価法に基づいて、5cm×5cmの大きさの試験片に黄色ブドウ球菌及び大腸菌を接種し、35℃、RH90%の条件で24時間培養した後で測定した。
【0079】
(2)耐酸性評価:JIS Z 2801抗菌評価法に基づいて、3%の酢酸溶液に16時間浸漬させた5cm×5cmの大きさの試験片に黄色ブドウ球菌及び大腸菌を接種し、35℃、RH90%の条件で24時間培養した後、酸処理後の抗菌活性値を測定した。
【0080】
(3)ノッチ付きアイゾット衝撃強度(単位:kgf・cm/cm):ASTM D256に基づいて厚さ1/8"(インチ)試験片のノッチ付きアイゾット衝撃強度を測定した。
【0081】
【表1】
【0082】
前記結果から、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐酸性、抗菌性などの全てにおいて優れることが分かる。
【0083】
その一方で、リン酸亜鉛(C)及び表面コーティング酸化亜鉛(D)を適用していない比較例1の場合は、耐酸性(酸処理後の抗菌活性値)が大きく低下したことが分かり、酸化亜鉛(B)及び表面コーティング酸化亜鉛(D)を適用していない比較例2の場合は、抗菌性及び耐酸性が共に大きく低下したことが分かる。また、表面コーティング酸化亜鉛(D)を適用していない比較例3の場合は、酸処理後の抗菌活性値が大きく低下し、耐衝撃性などが低下したことが分かる。
【0084】
本発明の単純な変形及び変更は、本分野で通常の知識を有する者によって容易に実施可能であり、このような変形や変更は、いずれも本発明の領域に含まれるものと見なすことができる。
図1