IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本碍子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-リチウム二次電池 図1
  • 特許-リチウム二次電池 図2
  • 特許-リチウム二次電池 図3
  • 特許-リチウム二次電池 図4A
  • 特許-リチウム二次電池 図4B
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】リチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20221109BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20221109BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20221109BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20221109BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20221109BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20221109BHJP
   H01M 50/105 20210101ALI20221109BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/052
H01M10/0566
H01M4/131
H01M50/414
H01M50/489
H01M50/105
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020561190
(86)(22)【出願日】2019-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2019042149
(87)【国際公開番号】W WO2020129411
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2018236550
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 千織
(72)【発明者】
【氏名】大塚 春男
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-057426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0585
H01M 10/052
H01M 10/0566
H01M 4/131
H01M 50/414
H01M 50/489
H01M 50/105
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄型のリチウム二次電池であって、
正極と、
樹脂層を有し、所定の重ね合わせ方向において前記正極上に配置されるセパレータと、
前記重ね合わせ方向において前記セパレータの前記正極とは反対側に配置される負極と、
前記正極、前記負極および前記セパレータに含浸する電解液と、
前記重ね合わせ方向の両側から前記正極および前記負極を被覆し、前記正極、前記セパレータ、前記負極および前記電解液を内部に収容するシート状の外装体と、
を備え、
前記セパレータの透気度は、20sec/100cc以上かつ75sec/100cc以下であることを特徴とするリチウム二次電池
【請求項2】
請求項1に記載のリチウム二次電池であって、
前記樹脂層はポリイミドにより形成されていることを特徴とするリチウム二次電池
【請求項3】
請求項1または2に記載のリチウム二次電池であって、
前記正極および前記負極のうち前記樹脂層に対向する一の電極において、前記樹脂層に対向する面は樹脂を含まないことを特徴とするリチウム二次電池
【請求項4】
請求項3に記載のリチウム二次電池であって、
前記一の電極は前記正極であり、
前記正極は、
導電性を有するシート状の集電体と、
リチウム複合酸化物を含む板状セラミック焼結体である活物質板と、
を備えることを特徴とするリチウム二次電池
【請求項5】
請求項3に記載のリチウム二次電池であって、
前記セパレータにおいて、前記正極および前記負極のうち他の電極に対向する面も樹脂により形成されており、
前記他の電極の前記セパレータに対向する面は樹脂を含まないことを特徴とするリチウム二次電池
【請求項6】
請求項5に記載のリチウム二次電池であって、
前記一の電極は前記正極であり、
前記他の電極は前記負極であり、
前記正極は、
導電性を有するシート状の集電体と、
リチウム複合酸化物を含む板状セラミック焼結体である活物質板と、
を備え、
前記負極は、
導電性を有するシート状の集電体と、
リチウム複合酸化物を含む板状セラミック焼結体である活物質板と、
を備えることを特徴とするリチウム二次電池
【請求項7】
請求項4または6に記載のリチウム二次電池であって、
前記正極の前記活物質板は、層状岩塩構造を有する複数の一次粒子が結合した構造を有しており、
前記複数の一次粒子の平均傾斜角は、0°よりも大きく、かつ、30°以下であり、
前記平均傾斜角は、前記複数の一次粒子の(003)面と前記正極の前記活物質板の主面とが成す角度の平均値であることを特徴とするリチウム二次電池
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1つに記載のリチウム二次電池であって、
シート状デバイス、または、可撓性を有するデバイスにおける電力供給源として利用されることを特徴とするリチウム二次電池
【請求項9】
請求項8に記載のリチウム二次電池であって、
前記可撓性を有するデバイスであるスマートカードにおける電力供給源として利用されることを特徴とするリチウム二次電池
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1つに記載のリチウム二次電池であって、
製造の際に加熱しつつ加圧する工程が施される対象デバイスにおける電力供給源として利用されることを特徴とするリチウム二次電池
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄型のリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウム二次電池(リチウムイオン二次電池とも呼ぶ。)では、正極と負極との間に配置されるセパレータとして、ポリオレフィン製の微多孔膜が利用されている。国際公開第2016/121630号(文献1)では、セパレータの反りやカールを抑制するために、ポリエチレン製またはポリプロピレン製の微多孔膜に無機耐熱層を積層した多層耐熱セパレータ材が提案されている。また、国際公開第2013/183666号(文献2)では、セパレータを高温環境下で搬送する際に皺が生じることを抑制するために、90℃における流れ方向の1%モジュラスが4.5MPa以上であるポリエチレン製またはポリプロピレン製の樹脂多孔性フィルムが提案されている。当該樹脂多孔性フィルムの透気度は、20℃環境下において800秒/100ml以下である。
【0003】
ところで、リチウム二次電池は、スマートカードの電力供給源としての利用が検討されている。当該スマートカードの製造方法の1つとして、リチウム二次電池をカード基材で挟み込んで加熱および加圧するホットラミネートが知られている。
【0004】
文献1のセパレータ材を有するリチウム二次電池をスマートカードに使用した場合、ポリエチレン製またはポリプロピレン製の微多孔膜がホットラミネート時に溶融してセパレータの孔が閉塞されることにより、セパレータの透気度が増加するおそれがある。セパレータの透気度が増加すると、電解液およびリチウムイオンのセパレータの透過が阻害され、電池特性が低下するおそれがある。文献2のフィルムについても同様である。一方、リチウム二次電池においてセパレータの透気度を過剰に低くすると、リチウムデンドライトによる正極と負極との短絡が生じるおそれがある。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、薄型のリチウム二次電池に向けられており、電池特性の向上とリチウムデンドライトによる短絡抑制とを両立することを目的としている。
【0006】
本発明の好ましい一の形態に係るリチウム二次電池は、正極と、樹脂層を有し、所定の重ね合わせ方向において前記正極上に配置されるセパレータと、前記重ね合わせ方向において前記セパレータの前記正極とは反対側に配置される負極と、前記正極、前記負極および前記セパレータに含浸する電解液と、前記重ね合わせ方向の両側から前記正極および前記負極を被覆し、前記正極、前記セパレータ、前記負極および前記電解液を内部に収容するシート状の外装体と、を備える。前記セパレータの透気度は、20sec/100cc以上かつ75sec/100cc以下である。これにより、電池特性の向上とリチウムデンドライトによる短絡抑制とを両立することができる。
【0007】
好ましくは、前記樹脂層はポリイミドにより形成されている。
【0008】
好ましくは、前記正極および前記負極のうち前記樹脂層に対向する一の電極において、前記樹脂層に対向する面は樹脂を含まない。
【0009】
好ましくは、前記一の電極は前記正極である。前記正極は、導電性を有するシート状の集電体と、リチウム複合酸化物を含む板状セラミック焼結体である活物質板と、を備える。
【0010】
好ましくは、前記セパレータにおいて、前記正極および前記負極のうち他の電極に対向する面も樹脂により形成されており、前記他の電極の前記セパレータに対向する面は樹脂を含まない。
【0011】
好ましくは、前記一の電極は前記正極であり、前記他の電極は前記負極である。前記正極は、導電性を有するシート状の集電体と、リチウム複合酸化物を含む板状セラミック焼結体である活物質板と、を備える。前記負極は、導電性を有するシート状の集電体と、リチウム複合酸化物を含む板状セラミック焼結体である活物質板と、を備える。
【0012】
好ましくは、前記正極の前記活物質板は、層状岩塩構造を有する複数の一次粒子が結合した構造を有している。前記複数の一次粒子の平均傾斜角は、0°よりも大きく、かつ、30°以下である。前記平均傾斜角は、前記複数の一次粒子の(003)面と前記正極の前記活物質板の主面とが成す角度の平均値である。
【0013】
好ましくは、前記リチウム二次電池は、シート状デバイス、または、可撓性を有するデバイスにおける電力供給源として利用される。
【0014】
好ましくは、前記リチウム二次電池は、前記可撓性を有するデバイスであるスマートカードにおける電力供給源として利用される。
【0015】
好ましくは、前記リチウム二次電池は、製造の際に加熱しつつ加圧する工程が施される対象デバイスにおける電力供給源として利用される。
【0016】
上述の目的および他の目的、特徴、態様および利点は、添付した図面を参照して以下に行うこの発明の詳細な説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一の実施の形態に係るリチウム二次電池の断面図である。
図2】リチウム二次電池の平面図である。
図3】他のリチウム二次電池の断面図である。
図4A】リチウム二次電池の製造の流れを示す図である。
図4B】リチウム二次電池の製造の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の一の実施の形態に係るリチウム二次電池1の構成を示す断面図である。図2は、リチウム二次電池1の平面図である。図1では、図の理解を容易にするために、リチウム二次電池1およびその構成を、実際よりも厚く描いている。また、図1では、後述する正極2、セパレータ4および負極3の左右方向の幅を実際よりも小さく、外装体6の接合部(すなわち、図1中の左右方向の両端部)の左右方向の幅を実際よりも大きく描いている。なお、図1では、断面よりも手前側および奥側の一部の構造を併せて図示する。図3においても同様である。
【0019】
リチウム二次電池1は、小型かつ薄型の電池である。リチウム二次電池1の平面視における形状は、例えば略矩形状である。例えば、リチウム二次電池1の平面視における縦方向の長さは10mm~46mmであり、横方向の長さは10mm~46mmである。リチウム二次電池1の厚さ(すなわち、図1中の上下方向の厚さ)は、例えば0.30mm~0.45mmであり、好ましくは0.40mm~0.45mmである。リチウム二次電池1は、シート状または可撓性を有する薄板状の部材である。シート状の部材とは、比較的小さい力によって容易に変形する薄い部材であり、フィルム状の部材とも呼ばれる。以下の説明においても同様である。
【0020】
リチウム二次電池1は、例えば、シート状デバイス、または、可撓性を有するデバイスに搭載されて電力供給源として利用される。シート状デバイスとは、比較的小さい力によって容易に変形する薄いデバイスであり、フィルム状デバイスとも呼ばれる。本実施の形態では、リチウム二次電池1は、例えば、演算処理機能を有するスマートカードに内蔵され、当該スマートカードにおける電力供給源として利用される。スマートカードは、カード型の可撓性を有するデバイスである。スマートカードは、例えば、無線通信IC、指紋解析用ASICおよび指紋センサを備えた指紋認証・無線通信機能付きカード等として用いられる。以下の説明では、スマートカード等のように、リチウム二次電池1が電力供給源として利用される対象となるデバイスを「対象デバイス」とも呼ぶ。
【0021】
スマートカードへのリチウム二次電池1の搭載は、例えば、常温にて加圧を行うコールドラミネート、または、加熱しつつ加圧を行うホットラミネートにより行われる。ホットラミネートにおける加工温度は、例えば110℃~260℃である。当該加工温度の上限は、好ましくは240℃未満であり、より好ましくは220℃未満であり、さらに好ましくは200℃未満であり、最も好ましくは150℃以下である。また、ホットラミネートにおける加工圧力は、例えば0.1MPa(メガパスカル)~6MPaであり、加工時間(すなわち、加熱・加圧時間)は、例えば10分~20分である。
【0022】
リチウム二次電池1は、正極2と、負極3と、セパレータ4と、電解液5と、外装体6と、2つの端子7とを備える。正極2、セパレータ4および負極3は、所定の重ね合わせ方向に重ね合わせられている。図1に示す例では、正極2、セパレータ4および負極3は、図中の上下方向に積層されている。以下の説明では、図1中の上側および下側を、単に「上側」および「下側」と呼ぶ。また、図1中の上下方向を、単に「上下方向」と呼び、「重ね合わせ方向」とも呼ぶ。図1中の上下方向は、リチウム二次電池1がスマートカード等の対象デバイスに搭載される際の実際の上下方向と一致する必要はない。
【0023】
図1に示す例では、セパレータ4は、上下方向(すなわち、重ね合わせ方向)において正極2の上面上に配置される。負極3は、上下方向においてセパレータ4の上面上に配置される。換言すれば、負極3は、上下方向においてセパレータ4の正極2とは反対側に配置される。正極2、セパレータ4および負極3はそれぞれ、平面視において例えば略矩形状である。正極2、セパレータ4および負極3は、平面視においておよそ同形状(すなわち、およそ同じ形、かつ、およそ同じ大きさ)である。
【0024】
外装体6は、シート状かつ袋状の部材である。外装体6は、平面視において略矩形である。外装体6は、上下方向に重なる2層のシート部65,66を備える。以下の説明では、正極2の下側に位置するシート部65を「第1シート部65」と呼び、負極3の上側に位置するシート部66を「第2シート部66」と呼ぶ。第1シート部65の外周縁と第2シート部66の外周縁とは、例えば熱融着(いわゆる、ヒートシール)により接合されている。外装体6の第1シート部65および第2シート部66はそれぞれ、例えば、アルミニウム(Al)等の金属により形成された金属箔61と、絶縁性の樹脂層62とが積層されたラミネートフィルムにより形成される。第1シート部65および第2シート部66では、樹脂層62は、金属箔61の内側に位置する。
【0025】
外装体6は、上下方向の両側から正極2および負極3を被覆する。外装体6は、正極2、セパレータ4、負極3および電解液5を内部に収容する。電解液5は、正極2、セパレータ4および負極3の周囲に連続して存在する。換言すれば、電解液5は、正極2および負極3の間に介在する。電解液5は、正極2、セパレータ4および負極3に含浸している。2つの端子7は、外装体6の内部から外部へと延びる。外装体6の内部において、一方の端子7は正極2に電気的に接続されており、他方の端子7は負極3に電気的に接続されている。
【0026】
正極2は、正極集電体21と、正極活物質板22と、導電性接合層23とを備える。正極集電体21は、導電性を有するシート状の部材である。正極集電体21の下面は、正極接合層63を介して外装体6の樹脂層62に接合されている。正極接合層63は、例えば、酸変性ポリオレフィン系樹脂とエポキシ系樹脂との混合樹脂により形成される。正極接合層63は、他の様々な材料により形成されてもよい。正極接合層63の厚さは、例えば0.5μm~10μmである。
【0027】
正極集電体21は、例えば、アルミニウム等の金属により形成される金属箔と、当該金属箔の上面上に積層された導電性カーボン層とを備える。換言すれば、正極集電体21の正極活物質板22に対向する主面は、導電性カーボン層により被覆されている。上述の金属箔は、アルミニウム以外の様々な金属(例えば、銅、ニッケル、銀、金、クロム、鉄、スズ、鉛、タングステン、モリブデン、チタン、亜鉛、または、これらを含む合金等)により形成されてもよい。また、正極集電体21から上記導電性カーボン層は省略されてもよい。
【0028】
正極活物質板22(すなわち、正極2の活物質板)は、リチウム複合酸化物を含む比較的薄い板状セラミック焼結体である。正極活物質板22は、導電性接合層23を介して正極集電体21の上面上に接合される。正極活物質板22は、上下方向においてセパレータ4と対向する。正極活物質板22の上面は、セパレータ4の下面と接触する。正極活物質板22は、実質的に樹脂を含んでいない。したがって、正極2のセパレータ4に対向する主面(すなわち、図1中の上面)は、実質的に樹脂を含んでいない。
【0029】
正極活物質板22は、複数の(すなわち、多数の)一次粒子が結合した構造を有している。当該一次粒子は、層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物で構成される。リチウム複合酸化物は、典型的には、一般式:LiMO(式中、0.05<p<1.10)で表される酸化物である。Mは少なくとも1種類の遷移金属であり、例えば、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)から選択される1種以上を含む。層状岩塩構造とは、リチウム層とリチウム以外の遷移金属層とが酸素の層を挟んで交互に積層された結晶構造である。すなわち、層状岩塩構造は、酸化物イオンを介して遷移金属イオン層とリチウム単独層とが交互に積層した結晶構造(典型的には、α-NaFeO型構造:立方晶岩塩型構造の[111]軸方向に遷移金属とリチウムとが規則配列した構造)である。
【0030】
層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物の好ましい例としては、コバルト酸リチウム(LiCoO(式中、1≦p≦1.1)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMnO)、ニッケルマンガン酸リチウム(Li(Ni0.5,Mn0.5)O)、一般式:Li(Co,Ni,Mn)O(式中、0.97≦p≦1.07,x+y+z=1)で表される固溶体、Li(Co,Ni,Al (式中、0.97≦p≦1.07、x+y+z=1、0<x≦0.25、0.6≦y≦0.9および0<z≦0.1)で表される固溶体、または、LiMnOとLiMO(式中、MはCo、Ni等の遷移金属)との固溶体が挙げられる。特に好ましくは、リチウム複合酸化物はコバルト酸リチウムLiCoO(式中、1≦p≦1.1)であり、例えば、LiCoO(LCO)である。
【0031】
なお、正極活物質板22は、マグネシウム(Mg)、アルミニウム、ケイ素(Si)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、ストロンチウム(Sr)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)、テルル(Te)、バリウム(Ba)、ビスマス(Bi)等の元素を1種類以上さらに含んでいてもよい。また、正極活物質板22には、集電助剤として金(Au)等がスパッタされていてもよい。
【0032】
正極活物質板22において、上記複数の一次粒子の平均粒径である一次粒径は、例えば20μm以下であり、好ましくは15μm以下である。また、当該一次粒径は、例えば0.2μm以上であり、好ましくは0.4μm以上である。当該一次粒径は、正極活物質板22の断面のSEM(走査型電子顕微鏡)画像を解析することにより測定することができる。具体的には、例えば、正極活物質板22をクロスセクションポリッシャ(CP)で加工して研磨断面を露出させ、当該研磨断面を所定の倍率(例えば、1000倍)および所定の視野(例えば、125μm×125μm)でSEMにより観察する。このとき、視野内に20個以上の一次粒子が存在するように視野を設定する。得られたSEM画像中の全ての一次粒子について外接円を描いたときの当該外接円の直径を求め、これらの平均値を一次粒径とする。
【0033】
正極活物質板22において、複数の一次粒子の平均傾斜角(すなわち、平均配向角度)は、0°よりも大きく、かつ、30°以下であることが好ましい。また、当該平均傾斜角は、より好ましくは5°以上かつ28°以下であり、さらに好ましくは10°以上かつ25°以下である。当該平均傾斜角は、複数の一次粒子の(003)面と、正極活物質板22の主面(例えば、正極活物質板22の下面)とが成す角度の平均値である。
【0034】
一次粒子の傾斜角(すなわち、一次粒子の(003)面と正極活物質板22の主面とが成す角度)は、正極活物質板22の断面を電子線後方散乱回折法(EBSD)により解析することによって測定することができる。具体的には、例えば、正極活物質板22をクロスセクションポリッシャで加工して研磨断面を露出させ、当該研磨断面を所定の倍率(例えば、1000倍)および所定の視野(例えば、125μm×125μm)でEBSDにより解析する。得られたEBSD像において、各一次粒子の傾斜角は色の濃淡で表され、色が濃いほど傾斜角が小さいことを示す。そして、EBSD像から求められた複数の一次粒子の傾斜角の平均値が、上述の平均傾斜角とされる。
【0035】
正極活物質板22を構成する一次粒子において、傾斜角が0°よりも大きくかつ30°以下である一次粒子の占める割合は、好ましくは60%以上であり、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。当該割合の上限値は特に限定されず、100%であってもよい。当該割合は、上述のEBSD像において、傾斜角が0°よりも大きくかつ30°以下である一次粒子の合計面積を求め、当該一次粒子の合計面積を全粒子面積で除算することにより求めることができる。
【0036】
正極活物質板22の気孔率は、例えば、25%~45%である。正極活物質板22の気孔率とは、正極活物質板22における気孔(開気孔および閉気孔を含む。)の体積比率である。当該気孔率は、正極活物質板22の断面のSEM画像を解析することにより測定することができる。例えば、正極活物質板22をクロスセクションポリッシャ(CP)で加工して研磨断面を露出させる。当該研磨断面を所定の倍率(例えば、1000倍)および所定の視野(例えば、125μm×125μm)でSEMにより観察する。得られたSEM画像を解析し、視野内の全ての気孔の面積を視野内の正極活物質板22の面積(断面積)で除算し、得られた値に100を乗算することにより気孔率(%)を得る。
【0037】
正極活物質板22に含まれる気孔の直径の平均値である平均気孔径は、例えば15μm以下であり、好ましくは12μm以下であり、より好ましくは10μm以下である。また、当該平均気孔径は、例えば0.1μm以上であり、好ましくは0.3μm以上である。上述の気孔の直径は、典型的には、当該気孔を同体積あるいは同断面積を有する球形と仮定した場合の、当該球形における直径である。平均気孔径は、複数の気孔の直径の平均値を個数基準で算出したものである。当該平均気孔径は、例えば、断面SEM画像の解析、または、水銀圧入法等、周知の方法により求めることができる。好ましくは、当該平均気孔径は、水銀ポロシメーターを用いて水銀圧入法により測定される。
【0038】
図1に示す例では、正極活物質板22は、1枚の板状部材であるが、複数の板状部材(以下、「活物質板要素」と呼ぶ。)に分割されていてもよい。この場合、複数の活物質板要素はそれぞれ、導電性接合層23を介して正極集電体21に接合される。複数の活物質板要素は、例えば、正極集電体21上においてマトリクス状(すなわち、格子状)に配列される。平面視における各活物質板要素の形状は、例えば略矩形である。複数の活物質板要素は、平面視において略同形状(すなわち、略同じ形かつ略同じ大きさ)であってもよく、異なる形状を有していてもよい。複数の活物質板要素は、平面視において互いに離間して配置される。
【0039】
導電性接合層23は、導電性粉末と、バインダとを含む。導電性粉末は、例えば、アセチレンブラック、鱗片状の天然黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ誘導体、または、カーボンナノファイバー誘導体等の粉末である。バインダは、例えば、ポリイミドアミド樹脂を含む。バインダに含まれるポリイミドアミド樹脂は、1種類であっても、2種類以上であってもよい。また、バインダは、ポリイミドアミド樹脂以外の樹脂を含んでいてもよい。導電性接合層23は、上述の導電性粉末およびバインダ、並びに、溶媒を含む液状またはペースト状の接着剤が、正極集電体21または正極活物質板22に塗布されて、正極集電体21と正極活物質板22との間にて溶媒が蒸発して固化することにより形成される。
【0040】
正極集電体21の厚さは、例えば9μm~50μmであり、好ましくは9μm~20μmであり、より好ましくは9μm~15μmである。正極活物質板22の厚さは、例えば15μm~200μmであり、好ましくは30μm~150μmであり、より好ましくは50μm~100μmである。正極活物質板22を厚くすることにより、単位面積当たりの活物質容量を大きくし、リチウム二次電池1のエネルギー密度を増大させることができる。正極活物質板22を薄くすることにより、充放電の繰り返しに伴う電池特性の劣化(特に、抵抗値の増大)を抑制することができる。導電性接合層23の厚さは、例えば、3μm~28μmであり、好ましくは5μm~25μmである。
【0041】
負極3は、負極集電体31と、負極活物質層32とを備える。負極集電体31は、導電性を有するシート状の部材である。負極集電体31の上面は、負極接合層64を介して外装体6に接合されている。負極接合層64は、例えば、酸変性ポリオレフィン系樹脂とエポキシ系樹脂との混合樹脂により形成される。負極接合層64は、他の様々な材料により形成されてもよい。負極接合層64の厚さは、例えば0.5μm~10μmである。
【0042】
負極集電体31は、例えば、銅等の金属により形成される金属箔である。当該金属箔は、銅以外の様々な金属(例えば、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、銀、金、クロム、鉄、スズ、鉛、タングステン、モリブデン、チタン、亜鉛、または、これらを含む合金等)により形成されてもよい。
【0043】
負極活物質層32は、樹脂を主成分とするバインダと、負極活物質である炭素質材料とを含む。負極活物質層32は、負極集電体31の下面上に塗工される。すなわち、負極3は、いわゆる塗工電極である。負極活物質層32は、上下方向においてセパレータ4と対向する。負極活物質層32の下面は、セパレータ4の上面と接触する。負極活物質層32では、上述の炭素質材料は、例えば、黒鉛(天然黒鉛もしくは人造黒鉛)、熱分解炭素、コークス、樹脂焼成体、メソフェーズ小球体、または、メソフェーズ系ピッチ等である。負極3では、炭素質材料に代えてリチウム吸蔵物質が負極活物質として利用されてもよい。当該リチウム吸蔵物質は、例えば、シリコン、アルミ、スズ、鉄、イリジウム、または、これらを含む合金、酸化物もしくはフッ化物等である。
【0044】
バインダは、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)またはこれらの混合物である。本実施の形態では、SBRがバインダとして使用される。SBRは、PVDFに比べて、後述する電解液5に含まれるγ-ブチロラクトン(GBL)に溶解しにくい。したがって、SBRを負極3のバインダとして使用することにより、電解液5による負極活物質層32の劣化を抑制することができる。
【0045】
負極集電体31の厚さは、例えば5μm~25μmであり、好ましくは8μm~20μmであり、より好ましくは8μm~15μmである。負極活物質層32の厚さは、例えば20μm~300μmであり、好ましくは30μm~250μmであり、より好ましくは30μm~150μmである。負極活物質層32を厚くすることにより、単位面積当たりの活物質容量を大きくし、リチウム二次電池1のエネルギー密度を増大させることができる。負極活物質層32を薄くすることにより、充放電の繰り返しに伴う電池特性の劣化(特に、抵抗値の増大)を抑制することができる。
【0046】
リチウム二次電池1では、塗工電極である負極3に代えて、図3に示すように、負極3とは異なる構造を有する負極3aが設けられてもよい。負極3aは、上述の正極2と略同様の構造を有する。具体的には、負極3aは、負極集電体31aと、負極活物質板32aと、導電性接合層33aとを備える。負極集電体31aは、導電性を有するシート状の部材である。負極集電体31aは、例えば、上述の負極集電体31と同様の材料にて形成された同構造の部材である。
【0047】
負極活物質板32a(すなわち、負極3aの活物質板)は、リチウム複合酸化物(例えば、リチウムチタン酸化物(LTO))を含む比較的薄い板状セラミック焼結体である。負極活物質板32aは、導電性接合層33aを介して負極集電体31aの下面に接合される。導電性接合層33aは、例えば、上述の正極2の導電性接合層23と同様の材料により形成される。負極活物質板32aは、上下方向においてセパレータ4と対向する。負極活物質板32aの下面は、セパレータ4の上面と接触する。負極活物質板32aは、正極活物質板22と同様に、実質的に樹脂を含んでいない。したがって、負極3aのセパレータ4に対向する主面(すなわち、図3中の下面)は、実質的に樹脂を含んでいない。
【0048】
負極集電体31の厚さは、例えば5μm~25μmであり、好ましくは8μm~20μmであり、より好ましくは8μm~15μmである。負極活物質板32aの厚さは、例えば10μm~300μmであり、好ましくは30μm~200μmであり、より好ましくは30μm~150μmである。負極活物質板32aを厚くすることにより、単位面積当たりの活物質容量を大きくし、リチウム二次電池1のエネルギー密度を増大させることができる。負極活物質板32aを薄くすることにより、充放電の繰り返しに伴う電池特性の劣化(特に、抵抗値の増大)を抑制することができる。導電性接合層33aの厚さは、例えば、3μm~30μmであり、好ましくは5μm~25μmである。
【0049】
図3に示す例では、負極活物質板32aは、1枚の板状部材であるが、複数の板状部材(以下、「活物質板要素」と呼ぶ。)に分割されていてもよい。この場合、複数の活物質板要素はそれぞれ、導電性接合層33aを介して負極集電体31aに接合される。複数の活物質板要素は、例えば、負極集電体31a上においてマトリクス状(すなわち、格子状)に配列される。平面視における各活物質板要素の形状は、例えば略矩形である。複数の活物質板要素は、平面視において略同形状(すなわち、略同じ形かつ略同じ大きさ)であってもよく、異なる形状を有していてもよい。複数の活物質板要素は、平面視において互いに離間して配置される。
【0050】
図1および図3に示すリチウム二次電池1では、電解液5は、例えば、非水溶媒中にホウフッ化リチウム(LiBF)を溶解させた溶液である。非水溶媒は、γ-ブチロラクトン(GBL)からなる単独溶媒であってもよいし、GBLおよびエチレンカーボネート(EC)を含む混合溶媒であってもよい。非水溶媒にGBLが含まれることにより、電解液5の沸点が上昇するため、リチウム二次電池1の耐熱性を向上させることができる。リチウム二次電池1の耐熱性向上の観点からは、当該非水溶媒におけるEC:GBLの体積比は、例えば0:1~1:1(すなわち、GBL比率50体積%~100体積%)であり、好ましくは0:1~1:1.5(GBL比率60体積%~100体積%)であり、より好ましくは0:1~1:2(GBL比率66.6体積%~100体積%)であり、さらに好ましくは0:1~1:3(GBL比率75体積%~100体積%)である。なお、電解液5の溶媒は、様々に変更されてよい。例えば、電解液5の溶媒は、必ずしもGBLを含む必要はなく、ECの単独溶媒であってもよい。
【0051】
溶質であるLiBFは、分解温度の高い電解質である。このため、リチウム二次電池1の耐熱性をさらに向上させることができる。電解液5におけるLiBF濃度は、例えば0.5mol/L~2mol/Lであり、好ましくは0.6mol/L~1.9mol/Lであり、より好ましくは0.7mol/L~1.7mol/Lであり、さらに好ましくは0.8mol/L~1.5mol/Lである。なお、電解液5の溶質は、様々に変更されてよい。例えば、電解液5の溶質は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)であってもよい。
【0052】
電解液5は、添加剤としてビニレンカーボネート(VC)、および/または、フルオロエチレンカーボネート(FEC)をさらに含むのが好ましい。VCおよびFECはいずれも耐熱性に優れる。電解液5が当該添加剤を含むことにより、耐熱性に優れたSEI膜が負極3の表面に形成され、リチウム二次電池1の耐熱性を、より一層向上することができる。
【0053】
セパレータ4は、シート状または薄板状の絶縁部材である。セパレータ4は、例えば、樹脂により形成された単層セパレータである。換言すれば、セパレータ4の正極2に対向する面および負極3に対向する面は、樹脂により形成されている。当該樹脂は、例えば、ポリイミド、または、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート(PET))等である。本実施の形態では、セパレータ4はポリイミド製の多孔質膜(例えば、三次元多孔構造体(3DOM))である。ポリイミドは、ポリエチレンおよびポリプロピレンに比べて、耐熱性に優れ、また、上述のGBLに対する濡れ性にも優れる。したがって、ポリイミド製のセパレータ4を使用することにより、リチウム二次電池1の耐熱性を向上することができる。また、電解液5がセパレータ4により弾かれることを抑制し、電解液5をセパレータ4に容易に浸透させることができる。
【0054】
セパレータ4の厚さは、例えば15μm以上であり、好ましくは18μm以上であり、より好ましくは20μm以上である。また、セパレータ4の厚さは、例えば31μm以下であり、好ましくは28μm以下であり、より好ましくは26μm以下である。セパレータ4を厚くすることにより、リチウムデンドライト(リチウムの樹状結晶)が析出した場合であっても、リチウムデンドライトによる正極2と負極3との短絡を抑制することができる。また、セパレータ4を薄くすることにより、電解液5およびリチウムイオンのセパレータ4の透過を容易とし、リチウム二次電池1の内部抵抗を低減することができる。
【0055】
セパレータ4の透気度は、例えば、20sec/100cc(秒毎100cc)以上であり、好ましくは30sec/100cc以上であり、より好ましくは40sec/100cc以上である。また、セパレータ4の透気度は、例えば80sec/100cc以下であり、好ましくは75sec/100cc以下であり、より好ましくは70sec/100cc以下である。当該透気度は、リチウム二次電池1が使用される状態におけるセパレータ4(例えば、スマートカードに内蔵されたリチウム二次電池1に組み込まれているセパレータ4)の透気度であり、リチウム二次電池1に組み込まれる前のセパレータ4の透気度ではない。以下の説明においても同様である。
【0056】
セパレータ4の透気度を低くすることにより、電解液5およびリチウムイオンのセパレータ4の透過を容易とし、リチウム二次電池1の内部抵抗を低減することができる。セパレータ4の透気度を高くすることにより、リチウムデンドライトの析出を抑制し、リチウムデンドライトによる正極2と負極3との短絡を抑制することができる。また、セパレータ4の透気度を高くすることにより、過充電等の異常時におけるシャットダウン機能を高くすることができ、リチウム二次電池1の安全性を向上することもできる。
【0057】
セパレータ4の透気度は、パームポロメータ(細孔直径分布測定装置)を利用して測定することが可能である。具体的には、リチウム二次電池1をスマートカード等の対象デバイスから取り出し、当該リチウム二次電池1を分解して取り出したセパレータ4の透気度を、パームポロメータにより測定する。あるいは、対象デバイスに組み込まれる前のリチウム二次電池1に対して、対象デバイスの製造時と略同様の条件にて加圧等の加工を施した後、当該リチウム二次電池1を分解して取り出したセパレータ4の透気度を、パームポロメータにより測定してもよい。例えば、スマートカードのホットラミネート時と略同様の加工温度および加工圧力を、略同様の加工時間だけリチウム二次電池1に付与した後、当該リチウム二次電池1から取り出したセパレータ4の透気度をパームポロメータにより測定する。
【0058】
なお、セパレータ4は、ポリイミド等の樹脂により形成された樹脂層を有していればよく、例えば、セラミック基板上に樹脂層が積層された2層セパレータであってもよい。あるいは、セパレータ4は、樹脂層である基板上にセラミックがコーティングされた2層セパレータであってもよい。セパレータ4は、3層以上の多層構造を有していてもよい。例えば、セパレータ4は、セラミック基板の上面および下面に樹脂層が積層された3層セパレータであってもよい。セパレータ4が2層以上の積層構造を有している場合、セパレータ4の透気度とは、セパレータ4に含まれる一部の層の透気度ではなく、セパレータ4全体の透気度である。
【0059】
次に、図4Aおよび図4Bを参照しつつ、リチウム二次電池1の製造の流れの一例について説明する。まず、外装体6の第1シート部65および第2シート部66として、2枚のアルミラミネートフィルム(昭和電工パッケージング製、厚さ61μm、ポリプロピレンフィルム/アルミニウム箔/ナイロンフィルムの3層構造)が用意される。また、正極活物質板22が用意される。正極活物質板22は、LiCoOグリーンシートを焼結することにより形成される。図4Aに示す例では、複数の活物質板要素24を有する正極活物質板22が用いられる。図4Aに示す例では、正極活物質板22は複数の活物質板要素24を有する。なお、正極活物質板22が一繋がりの部材(すなわち、一枚板)である場合も、下記の製造方法は略同じである。
【0060】
LiCoOグリーンシートは、次のようにして作製される。まず、Li/Coのモル比が1.01となるように秤量されたCo粉末(正同化学工業株式会社製)とLiCO粉末(本荘ケミカル株式会社製)とが混合された後、780℃で5時間保持される。続いて、得られた粉末が、ポットミルにて体積基準D50が0.4μmとなるように粉砕および解砕され、LiCoO板状粒子からなる粉末が得られる。
【0061】
得られたLiCoO粉末100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM-2、積水化学工業株式会社製)10重量部と、可塑剤(DOP:Di(2-ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名レオドールSP-O30、花王株式会社製)2重量部とが混合される。得られた混合物は、減圧下で撹拌されて脱泡されるとともに、粘度を4000cPに調整されることによって、LiCoOスラリーが調製される。粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計により測定される。こうして調製されたスラリーが、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上にドクターブレード法にてシート状に成形されることにより、LiCoOグリーンシートが形成される。乾燥後のLiCoOグリーンシートの厚さは98μmであった。
【0062】
次に、PETフィルムから剥がされたLiCoOグリーンシートが、カッターにより50mm角に切り出され、下部セッターとしてのマグネシア製セッター(寸法90mm角、高さ1mm)の中央に載置される。また、LiCoO グリーンシートの上には、上部セッターとしての多孔質マグネシア製セッターが載置される。LiCoO グリーンシートは、セッターで挟まれた状態で、120mm角のアルミナ鞘(株式会社ニッカトー製)内に載置される。このとき、アルミナ鞘を密閉することなく、0.5mmの隙間を空けて蓋がされる。得られた積層物は、昇温速度200℃/hで600℃まで昇温されて3時間脱脂された後に、870℃まで200℃/hで昇温されて20時間保持されることで焼成される。焼成後、室温まで降温させた後に焼成体がアルミナ鞘より取り出される。こうして厚さ90μmのLiCoO焼結体板が得られる。得られたLiCoO焼結体板は、レーザー加工機で10.5mm×9.5mm角の矩形状に切断されて、複数の活物質板要素24(すなわち、正極活物質板22)が得られる。
【0063】
正極活物質板22が用意されると、ポリアミドイミド(PAI)をN-メチルピロリドンに溶解させた溶液にアセチレンブラックが混合されてスラリーが調製され、当該スラリー2μL(マイクロリットル)が、正極集電体21(厚さ9μmのアルミニウム箔)上に滴下されて導電性接合層23が形成される。続いて、導電性接合層23上に正極活物質板22が載せられて乾燥される。図4Aに示す例では、複数の活物質板要素24を有する正極活物質板22が、導電性接合層23を介して正極集電体21に接合される。その後、正極集電体21および正極活物質板22(すなわち、複数の活物質板要素24)の複合体が、第1シート部65上に積層され、正極接合層63を介して第1シート部65に接合されることにより、正極組立品20が形成される。なお、正極集電体21には、1つの端子7の一方の端部が溶接により予め固定されている。
【0064】
一方、負極集電体31(厚さ10μmの銅箔)上には、負極活物質層32(厚さ130μmのカーボン層)が塗工される。負極活物質層32は、活物質としてのグラファイトと、バインダとしてのPVDFとの混合物を含むカーボン塗工膜である。続いて、負極集電体31および負極活物質層32の複合体が、第2シート部66上に積層され、負極接合層64を介して第2シート部66に接合されることにより、負極組立品30が形成される。なお、負極集電体31には、1つの端子7の一方の端部が溶接により予め固定されている。
【0065】
セパレータ4としては、多孔質ポリイミド膜(東京応化工業製 TOKS-8023i2)が用意される。そして、正極組立品20、セパレータ4および負極組立品30が、正極活物質板22および負極活物質層32がセパレータ4と対向するように順に積層され、中間積層体10が形成される。中間積層体10では、上下両面が外装体6(すなわち、第1シート部65および第2シート部66)により覆われており、正極組立品20、セパレータ4および負極組立品30の周囲に第1シート部65および第2シート部66が延在している。また、正極組立品20、セパレータ4および負極組立品30(以下、まとめて「電池要素15」とも呼ぶ。)の上下方向の厚さは0.33mmである。平面視における電池要素15の形状は、2.3cm×3.2cmの略矩形である。
【0066】
続いて、略矩形状の中間積層体10の4つの辺のうち3つの辺が、熱融着接合により封止される。図4Aに示す例では、図中の上側の1つの辺を除く3つの辺が封止される。当該3つの辺には、2つの端子7が突出する1つの辺が含まれている。当該3つの辺の封止では、封止幅が2mmになるように調整された当て冶具が用いられ、中間積層体10の外周部分が、200℃、1.5MPa(メガパスカル)で10秒間加熱および加圧される。これにより、外装体6の第1シート部65と第2シート部66とが熱融着する。当該3つの辺の封止後、中間積層体10は、真空乾燥器81に収容され、水分の除去および接着剤(すなわち、正極接合層63、負極接合層64および導電性接合層23)の乾燥が行われる。
【0067】
次に、図4Bに示されるように、中間積層体10がグローブボックス82内に収容される。そして、中間積層体10の未封止の1つの辺において、第1シート部65および第2シート部66の間に注入器具83が挿入され、注入器具83を介して電解液5が中間積層体10内に注入される。電解液5は、ECおよびGBLを体積比1:3で含む混合溶媒に、LiBFを1.5mol/Lの濃度となるように溶解させ、さらに、VCを添加剤として5.3重量%の濃度となるように添加した液体である。
【0068】
電解液5の注入が終了すると、グローブボックス82内の絶対圧5kPaの減圧雰囲気下において、上記未封止の1つの辺が、簡易シーラにより仮封止(すなわち、減圧封止)される。続いて、中間積層体10に対して初期充電が施され、7日間のエージングが行われる。エージングが終了すると、第1シート部65および第2シート部66のうち、仮封止された1つの辺の外縁近傍の部位(すなわち、電池要素15を含まない末端部分)が切除され、エージングにより発生した水分等を含むガスが除去される(すなわち、ガス抜きが行われる)。
【0069】
ガス抜きが終了すると、グローブボックス82内の絶対圧5kPaの減圧雰囲気下において、上述の切除により形成された辺の熱融着接合による封止が行われる。当該封止では、上述の3つの辺の封止と同様に、封止幅が2mmになるように調整された当て冶具が用いられ、第1シート部65および第2シート部66が、200℃、1.5MPaで10秒間加熱および加圧される。これにより、外装体6の第1シート部65と第2シート部66とが熱融着され、リチウム二次電池1が形成される。その後、外装体6の外周部における余分な部位が切除されて、リチウム二次電池1の形状が整えられる。リチウム二次電池1の平面視における形状は、38mm×27mmの長方形であり、厚さは0.45mm以下であり、容量は30mAhであった。
【0070】
上述の製造方法により製造されたリチウム二次電池1では、正極活物質板22(すなわち、LiCoO焼結体板)における一次粒子の平均配向角度は、16°であった。当該平均配向角度は、次のようにして測定した。まず、上記LiCoO焼結体板をクロスセクションポリッシャ(CP)(日本電子株式会社製、IB-15000CP)により研磨し、得られた断面(すなわち、LiCoO焼結体板の主面に垂直な断面)を1000倍の視野(125μm×125μm)でEBSD測定して、EBSD像を得た。このEBSD測定は、ショットキー電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製、型式JSM-7800F)を用いて行った。そして、得られたEBSD像において特定される全ての粒子について、一次粒子の(003)面とLiCoO焼結体板の主面とがなす角度(すなわち、(003)からの結晶方位の傾き)を傾斜角として求め、それらの角度の平均値を一次粒子の平均配向角度とした。
【0071】
LiCoO焼結体板の板厚は、上述のように90μmであった。当該板厚は、LiCoO焼結体板をクロスセクションポリッシャ(CP)(日本電子株式会社製、IB-15000CP)により研磨し、得られた断面をSEM観察(日本電子製、JSM6390LA)して測定した。なお、上述の乾燥後のLiCoOグリーンシートの厚さも、同様にして測定されたものである。
【0072】
LiCoO焼結体板の気孔率は、30%であった。当該気孔率は、次のようにして測定した。LiCoO焼結体板をクロスセクションポリッシャ(CP)(日本電子株式会社製、IB-15000CP)により研磨し、得られた断面を1000倍の視野(125μm×125μm)でSEM観察(日本電子製、JSM6390LA)した。得られたSEM像を画像解析し、全ての気孔の面積をLiCoO焼結体板の面積で除算し、得られた値に100を乗じることにより気孔率(%)を算出した。
【0073】
LiCoO焼結体板の平均気孔径は、0.8μmであった。当該平均気孔径は、水銀ポロシメーター(島津製作所製、オートポアIV9510)を用いて、水銀圧入法により測定した。
【0074】
次に、表1~表2を参照しつつ、セパレータ4の透気度と、リチウム二次電池1の電池特性およびリチウムデンドライトの析出の有無との関係について説明する。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
表中の透気度は、上述のコールドラミネートまたはホットラミネートに対応する加工が施された後のリチウム二次電池1から取り出されたセパレータ4の透気度である。セパレータ4の透気度は、PMI社製パームポロメータ(型番CFP-1200-AEXLSPHBB)を使用し、バブルポイント法による貫通細孔評価手法を用いて測定した。測定した試料の形状は、直径25mmの略円板状である。測定に使用した試薬は、粘度0.000019Pa・s(パスカル秒)(すなわち、0,019cP(センチポアズ))の空気である。
【0078】
表中の温度および圧力は、セパレータ4が取り出されて透気度測定に供される前のリチウム二次電池1に付与された加工温度および加工圧力であり、表中の時間は、当該加工温度および加工圧力による加工時間である。温度25℃は、上述のコールドラミネートに対応し、温度110℃~135℃は、上述のホットラミネートに対応する。表中の透気度変化は、当該加工温度および加工圧力の付与によるセパレータ4の透気度の変化を示す。表中のレート特性は、Cレートが1Cの場合にリチウム二次電池1から実際に出力される電流を本来出力されるべき電流(すなわち、理論出力値)で除算した値(%)である。表中のレート特性割合は、各レート特性を基準レート特性で除算した値である。実施例1a,1b,1cでは、実施例1aにおけるリチウム二次電池1のレート特性を基準レート特性として使用する。以下の説明では、実施例1a,1b,1cをまとめて「実施例1」とも呼ぶ。他の実施例および比較例においても同様である。実施例2~7、実施例10~12、比較例1~5では、実施例1と同様に、実施例1aにおけるリチウム二次電池1のレート特性を基準レート特性として使用する。また、実施例8,9では、実施例8aにおけるリチウム二次電池1のレート特性を基準レート特性として使用する。
【0079】
実施例1a,1b,1cのリチウム二次電池1では、セパレータ4はポリイミド製の単層セパレータである。また、正極2は、正極活物質板22としてLiCoO焼結体板を有し、負極3は、黒鉛を含む負極活物質層32を有する塗工電極である。
【0080】
実施例1a,1b,1cではそれぞれ、リチウム二次電池1からのセパレータ4の取り出し前に、25℃の温度下においてリチウム二次電池1を0.5MPa、3.1MPaおよび6MPaで20分間加圧した。実施例1a,1b,1cでは、加圧後のリチウム二次電池1から取り出されたセパレータ4の透気度は、それぞれ順に62sec/100cc、70sec/100cc、65sec/100ccであり、加圧による透気度の変化は実質的に無かった。また、リチウム二次電池1のレート特性は、それぞれ70%であり、リチウムデンドライトの析出はなかった。
【0081】
実施例2a,2b,2cでは、加圧時の温度のみが実施例1a,1b,1cと異なり110℃である。実施例2a,2b,2cでは、加圧後のリチウム二次電池1から取り出されたセパレータ4の透気度は、それぞれ順に74sec/100cc、65sec/100cc、71sec/100ccであり、加圧による透気度の変化は実質的に無かった。また、リチウム二次電池1のレート特性は、それぞれ順に66%、66%、65%であり、リチウムデンドライトの析出はなかった。
【0082】
実施例3a,3b,3cでは、加圧時の温度のみが実施例1a,1b,1cと異なり115℃である。実施例3a,3b,3cでは、加圧後のリチウム二次電池1から取り出されたセパレータ4の透気度は、それぞれ順に66sec/100cc、58sec/100cc、69sec/100ccであり、加圧による透気度の変化は実質的に無かった。また、リチウム二次電池1のレート特性は、それぞれ順に66%、65%、66%であり、リチウムデンドライトの析出はなかった。
【0083】
実施例4a,4b,4cでは、加圧時の温度のみが実施例1a,1b,1cと異なり120℃である。実施例4a,4b,4cでは、加圧後のリチウム二次電池1から取り出されたセパレータ4の透気度は、それぞれ順に72sec/100cc、77sec/100cc、68sec/100ccであり、加圧による透気度の変化は実質的に無かった。また、リチウム二次電池1のレート特性は、それぞれ順に65%、64%、64%であり、リチウムデンドライトの析出はなかった。
【0084】
実施例5a,5b,5cでは、加圧時の温度のみが実施例1a,1b,1cと異なり125℃である。実施例5a,5b,5cでは、加圧後のリチウム二次電池1から取り出されたセパレータ4の透気度は、それぞれ順に56sec/100cc、61sec/100cc、67sec/100ccであり、加圧による透気度の変化は実質的に無かった。また、リチウム二次電池1のレート特性は、それぞれ順に64%、63%、64%であり、リチウムデンドライトの析出はなかった。
【0085】
実施例6a,6b,6cでは、加圧時の温度のみが実施例1a,1b,1cと異なり130℃である。実施例6a,6b,6cでは、加圧後のリチウム二次電池1から取り出されたセパレータ4の透気度は、それぞれ順に63sec/100cc、69sec/100cc、78sec/100ccであり、加圧による透気度の変化は実質的に無かった。また、リチウム二次電池1のレート特性は、それぞれ順に63%、62%、62%であり、リチウムデンドライトの析出はなかった。
【0086】
実施例7a,7b,7cでは、加圧時の温度のみが実施例1a,1b,1cと異なり135℃である。実施例7a,7b,7cでは、加圧後のリチウム二次電池1から取り出されたセパレータ4の透気度は、それぞれ順に79sec/100cc、64sec/100cc、57sec/100ccであり、加圧による透気度の変化は実質的に無かった。また、リチウム二次電池1のレート特性は、それぞれ順に62%、61%、61%であり、リチウムデンドライトの析出はなかった。
【0087】
実施例8a,8b,8cでは、負極の種類のみが実施例1a,1b,1cと異なり、負極活物質板32aとしてLTO焼結体板を有する負極3aが設けられる。なお、加圧時の温度は25℃である。実施例8a,8b,8cでは、加圧後のリチウム二次電池1から取り出されたセパレータ4の透気度は、それぞれ順に62sec/100cc、68sec/100cc、76sec/100ccであり、加圧による透気度の変化は実質的に無かった。また、リチウム二次電池1のレート特性はいずれも98%であり、リチウムデンドライトの析出はなかった。
【0088】
実施例9a,9b,9cでは、加圧時の温度のみが実施例8a,8b,8cと異なり120℃である。実施例9a,9b,9cでは、加圧後のリチウム二次電池1から取り出されたセパレータ4の透気度は、それぞれ順に60sec/100cc、59sec/100cc、60sec/100ccであり、加圧による透気度の変化は実質的に無かった。また、リチウム二次電池1のレート特性はいずれも98%であり、リチウムデンドライトの析出はなかった。
【0089】
実施例10a,10b,10cでは、セパレータ4の種類のみが実施例1a,1b,1cと異なる。実施例10a,10b,10cでは、セパレータ4はセルロースとポリエチレンテレフタレート(PET)との混成セパレータであり、加圧時の温度は25℃である。実施例10a,10b,10cでは、加圧後のリチウム二次電池1から取り出されたセパレータ4の透気度は、それぞれ順に38sec/100cc、36sec/100cc、40sec/100ccであり、加圧による透気度の変化は実質的に無かった。また、リチウム二次電池1のレート特性は、それぞれ順に59%、60%、57%であり、リチウムデンドライトの析出はなかった。
【0090】
実施例11a,11b,11cでは、加圧時の温度のみが実施例10a,10b,10cと異なり120℃である。実施例11a,11b,11cでは、加圧後のリチウム二次電池1から取り出されたセパレータ4の透気度は、それぞれ順に66sec/100cc、75sec/100cc、78sec/100ccであり、加圧による透気度の変化は実質的に無かった。また、リチウム二次電池1のレート特性は、それぞれ順に54%、53%、50%であり、リチウムデンドライトの析出はなかった。
【0091】
実施例12a,12b,12cでは、セパレータ4の種類のみが実施例1a,1b,1cと異なり、ポリエチレンテレフタレート(PET)層とセラミック層とを備える多層セパレータである。なお、加圧時の温度は25℃である。実施例12a,12b,12cでは、加圧後のリチウム二次電池1から取り出されたセパレータ4の透気度はそれぞれ順に25sec/100cc、23sec/100cc、27sec/100ccであり、加圧による透気度の変化は実質的に無かった。また、リチウム二次電池1のレート特性は、それぞれ順に65%、66%、63%であり、リチウムデンドライトの析出はなかった。
【0092】
比較例1a,1b,1cでは、加圧時の温度のみが実施例12a,12b,12cと異なり110℃である。比較例1a,1b,1cでは、加圧後のリチウム二次電池1から取り出されたセパレータ4の透気度は、それぞれ順に109sec/100cc、126sec/100cc、211sec/100ccであり、加圧前のセパレータ4よりも透気度は増加していた。また、リチウム二次電池1のレート特性は、それぞれ順に42%、40%、35%と低く、リチウムデンドライトの析出はなかった。
【0093】
比較例2a,2b,2cでは、加圧時の温度のみが実施例12a,12b,12cと異なり120℃である。比較例2a,2b,2cでは、加圧後のリチウム二次電池1から取り出されたセパレータ4の透気度は、それぞれ順に115sec/100cc、133sec/100cc、237sec/100ccであり、加圧前のセパレータ4よりも透気度は増加していた。また、リチウム二次電池1のレート特性は、それぞれ順に42%、40%、34%と低く、リチウムデンドライトの析出はなかった。
【0094】
比較例3a,3b,3cでは、加圧時の温度のみが実施例12a,12b,12cと異なり130℃である。比較例3a,3b,3cでは、加圧後のリチウム二次電池1から取り出されたセパレータ4の透気度は、それぞれ順に119sec/100cc、182sec/100cc、265sec/100ccであり、加圧前のセパレータ4よりも透気度は増加していた。また、リチウム二次電池1のレート特性は、それぞれ順に41%、35%、33%と低く、リチウムデンドライトの析出はなかった。
【0095】
比較例4では、セパレータ4の種類のみが比較例2bと異なり、ポリプロピレン製の単層セパレータである。なお、加圧時の温度は120℃であり、圧力は3.1MPaである。比較例4では、加圧後のリチウム二次電池1から取り出されたセパレータ4の透気度は800sec/100ccよりも大きくなり、加圧前のセパレータ4よりも透気度はかなり増加し、正確な測定は不可能であった。また、ポリプロピレン製のセパレータ4は電解液を弾くため、リチウム二次電池1のレート特性は5%よりもかなり低くなり、ほとんど測定不能であった。リチウムデンドライトの析出はなかった。
【0096】
比較例5では、セパレータ4の種類のみが比較例2bと異なり、セルロース製の単層セパレータである。なお、加圧時の温度は120℃であり、圧力は3.1MPaである。比較例5では、加圧後のリチウム二次電池1から取り出されたセパレータ4の透気度は9sec/100ccであったものの、リチウムデンドライトによる正極2と負極3との短絡が発生し、リチウム二次電池1のレート特性は5%よりもかなり低くなり、ほとんど測定不能であった。
【0097】
実施例1,8から、コールドラミネートによりリチウム二次電池1をスマートカードに搭載した場合、ポリイミド製の単層セパレータ4の透気度は、当該搭載工程において実質的に増加しないことがわかる。実施例2~7,9からは、ホットラミネートによりリチウム二次電池1をスマートカードに搭載した場合、ポリイミド製の単層セパレータ4の透気度は、当該搭載工程において実質的に増加せず、実施例1,8(コールドラミネート)からのレート特性の低下が抑制されていることがわかる。また、実施例1と実施例8との比較、および、実施例4と実施例9との比較から、負極活物質板32aとしてLTO焼結体板を有する負極3aを設けることにより、塗工電極である負極3が設けられる場合に比べて、レート特性が増加することがわかる。
【0098】
実施例10からは、コールドラミネートによりリチウム二次電池1をスマートカードに搭載した場合、セルロースとPETとの混成セパレータ4の透気度は、当該搭載工程において実質的に増加しないことがわかる。
【0099】
実施例11からは、ホットラミネートによりリチウム二次電池1をスマートカードに搭載した場合、セルロースとPETとの混成セパレータ4の透気度は、当該搭載工程において実質的に増加しないことがわかる。
【0100】
実施例12からは、コールドラミネートによりリチウム二次電池1をスマートカードに搭載した場合、PET層を含むセパレータ4の透気度は、当該搭載工程において実質的に増加せず、実施例1(ポリイミド製の単層セパレータ4)からのレート特性の低下が抑制されていることがわかる。
【0101】
比較例1~3からは、ホットラミネートによりリチウム二次電池1をスマートカードに搭載した場合、PET層とセラミック層とを備える多層セパレータ4の透気度は、当該搭載工程において増加し、実施例1(ポリイミド製の単層セパレータ4)からのレート特性の低下が大きいことがわかる。
【0102】
比較例4からは、ホットラミネートによりリチウム二次電池1をスマートカードに搭載した場合、ポリプロピレン製のセパレータ4の透気度は、当該搭載工程において増加し、実施例1(ポリイミド製の単層セパレータ4)からのレート特性の低下がかなり大きいことがわかる。
【0103】
比較例5からは、ホットラミネートによりリチウム二次電池1をスマートカードに搭載した場合、セルロース製のセパレータ4では、リチウムデンドライトによる正極2と負極3との短絡が発生し、実施例1(ポリイミド製の単層セパレータ4)からのレート特性の低下がかなり大きいことがわかる。
【0104】
以上に説明したように、薄型のリチウム二次電池1は、正極2と、セパレータ4と、負極3(または負極3a)と、電解液5と、外装体6とを備える。セパレータ4は、所定の重ね合わせ方向において、正極2上に配置される。セパレータ4は、樹脂層を有する。負極3は、当該重ね合わせ方向において、セパレータ4の正極2とは反対側に配置される。電解液5は、正極2、負極3およびセパレータ4に含浸する。外装体6は、シート状であり、上記重ね合わせ方向の両側から正極2および負極3を被覆する。外装体6は、正極2、セパレータ4、負極3および電解液5を内部に収容する。セパレータ4の透気度は、20sec/100cc以上かつ80sec/100cc以下である。
【0105】
このように、リチウム二次電池1では、セパレータ4の透気度を80sec/100cc以下とすることにより、セパレータ4における電解液5およびリチウムイオンの透過を容易とし、リチウム二次電池1の内部抵抗を低減することができる。その結果、リチウム二次電池1の電池特性を向上することができる。また、セパレータ4の透気度を20sec/100cc以上とすることにより、リチウムデンドライトの析出を抑制し、リチウムデンドライトによる正極2と負極3との短絡を抑制することができる。
【0106】
リチウム二次電池1では、セパレータ4の上記樹脂層はポリイミドにより形成されることが好ましい。上述のように、当該樹脂層は、例えば、ポリイミド、セルロースとPETとの混成、または、ポリエステル(例えば、PET)層とセラミック層とを備える多層により形成されてもよい。ただし、PET層とセラミック層とを備える多層では、耐熱性があまり高くないため、リチウム二次電池1の対象デバイスへの搭載時における加熱および加圧により(例えば、ホットラミネートによるスマートカードへの搭載により)、セパレータ4の透気度が増加する。当該透気度の増加の程度は予想が容易ではないため、対象デバイスに搭載されたリチウム二次電池1において、セパレータ4の透気度を上記範囲(すなわち、20sec/100cc以上かつ80sec/100cc以下)とすることは容易ではない。これに対し、セパレータ4の樹脂層が、比較的耐熱性が高いポリイミド、または、セルロースとPETとの混成により形成されている場合、ホットラミネート等によってセパレータ4の透気度が増加することを防止または抑制することができる。したがって、対象デバイスに組み込まれたリチウム二次電池1において、セパレータ4の透気度を容易に上記範囲(すなわち、20sec/100cc以上かつ80sec/100cc以下)とすることができる。
【0107】
上述のように、正極2および負極3のうちセパレータ4の樹脂層に対向する一の電極において、当該樹脂層に対向する面は樹脂を含まないことが好ましい。これにより、当該一の電極とセパレータ4の樹脂層とが、リチウム二次電池1の対象デバイスへの搭載時における加工(例えば、ホットラミネート)により密着することを抑制することができる。その結果、当該一の電極と樹脂層との間における電解液5の移動が阻害されることを抑制することができ、リチウム二次電池1の電池特性を向上することができる。
【0108】
リチウム二次電池1では、セパレータ4において、正極2および負極3のうち他の電極(すなわち、上記一の電極とは異なる電極)に対向する面も樹脂により形成されており、当該他の電極のセパレータ4に対向する面は樹脂を含まないことが好ましい。これにより、当該他の電極とセパレータ4とが、リチウム二次電池1の対象デバイスへの搭載時における加工(例えば、ホットラミネート)により密着することを抑制することができる。その結果、リチウム二次電池1の電池特性をさらに向上することができる。
【0109】
リチウム二次電池1では、上記一の電極は正極2であることが好ましい。また、正極2は、導電性を有するシート状の集電体(すなわち、正極集電体21)と、リチウム複合酸化物を含む板状セラミック焼結体である活物質板(すなわち、正極活物質板22)とを備えることが好ましい。これにより、正極2とセパレータ4とが、リチウム二次電池1の対象デバイスへの搭載時における加工(例えば、ホットラミネート)により密着することを抑制することができる。その結果、リチウム二次電池1の電池特性をさらに向上することができる。
【0110】
より好ましくは、正極2の正極活物質板22は、層状岩塩構造を有する複数の一次粒子が結合した構造を有している。また、当該複数の一次粒子の平均傾斜角は、0°よりも大きく、かつ、30°以下であることが好ましい。当該平均傾斜角は、複数の一次粒子の(003)面と正極活物質板22の主面とが成す角度の平均値である。これにより、充放電サイクルに伴う結晶格子の伸縮の際に発生する正極活物質板22の内部応力が、正極活物質板22の導電性接合層23および正極集電体21と対向する主面に加わることを抑制することができる。
【0111】
このように、導電性接合層23に接触する正極活物質板22の主面を、結晶格子の伸縮の際に発生する内部応力が加わりにくい主面とすることにより、正極活物質板22と正極集電体21との接合強度の低下を抑制することができる。その結果、リチウム二次電池1の充電時および放電時における電圧の安定性を向上することができる。
【0112】
リチウム二次電池1では、上記他の電極は負極3aであり、負極3aは、導電性を有するシート状の集電体(すなわち、負極集電体31a)と、リチウム複合酸化物を含む板状セラミック焼結体である活物質板(すなわち、負極活物質板32a)とを備えることが好ましい。これにより、負極3aとセパレータ4とが、リチウム二次電池1の対象デバイスへの搭載時における加工(例えば、ホットラミネート)により密着することを抑制することができる。その結果、リチウム二次電池1の電池特性を、より一層向上することができる。
【0113】
上述のリチウム二次電池1では、薄型であるにもかかわらず、電池特性の向上とリチウムデンドライトによる短絡抑制とを両立することができる。したがって、リチウム二次電池1は、薄型のデバイス、すなわち、シート状デバイスまたは可撓性を有するデバイス(例えば、スマートカード)における電力供給源に特に適している。
【0114】
上述のように、リチウム二次電池1は、スマートカード等の対象デバイスに搭載された状態において、セパレータ4の透気度を20sec/100cc以上かつ80sec/100cc以下とすることにより、電池特性の向上とリチウムデンドライトによる短絡抑制とを両立することができる。したがって、リチウム二次電池1は、対象デバイスに搭載される際にセパレータ4の透気度に影響を及ぼす可能性が有る工程が行われる場合、すなわち、製造の際に加熱しつつ加圧する工程が施される対象デバイスにおける電力供給源として利用される場合に特に適している。
【0115】
上述のリチウム二次電池1では、様々な変更が可能である。
【0116】
例えば、正極2の正極活物質板22の構造は、様々に変更されてよい。例えば、正極活物質板22において、層状岩塩構造を有する複数の一次粒子の平均傾斜角は、30°よりも大きくてもよく、0°であってもよい。あるいは、当該複数の一次粒子の構造は、層状岩塩構造以外の構造であってもよい。
【0117】
正極2は、樹脂を主成分とするバインダおよび正極活物質を含む正極活物質層が正極集電体21上に塗工された塗工電極であってもよい。
【0118】
リチウム二次電池1は、スマートカード以外の可撓性を有するデバイス(例えば、カード型デバイス)、または、シート状デバイス(例えば、衣服等に設けられたウェアラブルデバイス、もしくは、身体貼付型デバイス)における電力供給源として利用されてもよい。また、リチウム二次電池1は、上述のデバイス以外の様々な対象物(例えば、IoTモジュール)の電力供給源として利用されてもよい。
【0119】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【0120】
発明を詳細に描写して説明したが、既述の説明は例示的であって限定的なものではない。したがって、本発明の範囲を逸脱しない限り、多数の変形や態様が可能であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明のリチウム二次電池は、例えば、演算処理機能を有するスマートカードにおける電力供給源等として、リチウム二次電池が利用される様々な分野で利用可能である。
【符号の説明】
【0122】
1 リチウム二次電池
2 正極
3,3a 負極
4 セパレータ
5 電解液
6 外装体
21 正極集電体
22 正極活物質板
31,31a 負極集電体
32 負極活物質層
32a 負極活物質板
図1
図2
図3
図4A
図4B