(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】ミトコンドリア機能向上と、神経変性疾患および認知障害治療とのための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20221109BHJP
A61K 31/366 20060101ALI20221109BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20221109BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20221109BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
A23L33/10
A61K31/366
A61P21/00
A61P7/00
A61P3/00
(21)【出願番号】P 2021068968
(22)【出願日】2021-04-15
(62)【分割の表示】P 2019107063の分割
【原出願日】2011-12-23
【審査請求日】2021-05-14
(32)【優先日】2010-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512018265
【氏名又は名称】アマゼンティス エスアー
【氏名又は名称原語表記】AMAZENTIS SA
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー エル リンシュ
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム ブランコ-ボス
(72)【発明者】
【氏名】ベルナール シュネデール
(72)【発明者】
【氏名】シャルレ トーマ
(72)【発明者】
【氏名】カルメン サンディ
(72)【発明者】
【氏名】ジョアン オウェール
(72)【発明者】
【氏名】ペネロプ アンドル
(72)【発明者】
【氏名】リシャルドゥ フートコーペール
(72)【発明者】
【氏名】エジャ ピリネン
(72)【発明者】
【氏名】ロレン ムーシロー
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィ ジェヌー
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-280627(JP,A)
【文献】特表2008-503456(JP,A)
【文献】特開平02-304080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 21/00
A61P 7/00
A61P 3/00
A23L 33/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミトコンドリア機能および活性を改善、維持、増強、向上または促進するための、有効量のウロリチンを含む食品または栄養サプリメント
であって、身体持久力が改善され、肉体的疲労が抑制または軽減され、血中酸素レベルが増強され、健常個体におけるエネルギーが増強され、作業能力および持久力が増強され、筋肉疲労が低下され、筋肉ATPレベルが上昇および/または血中乳酸が低下される、食品または栄養サプリメント。
【請求項2】
ミトコンドリア機能および活性が改善される、請求項1に記載の食品または栄養サプリメント。
【請求項3】
ミトコンドリア機能および活性が維持される、請求項1に記載の食品または栄養サプリメント。
【請求項4】
ミトコンドリア機能および活性が増強される、請求項1に記載の食品または栄養サプリメント。
【請求項5】
ミトコンドリア機能および活性が向上される、請求項1に記載の食品または栄養サプリメント。
【請求項6】
ミトコンドリア機能および活性が促進される、請求項1に記載の食品または栄養サプリメント。
【請求項7】
ミトコンドリア活性、ミトコンドリア生合成、筋肉ミトコンドリアの量が向上される、請求項1に記載の食品または栄養サプリメント。
【請求項8】
前記ウロリチンが、ウロリチンA、ウロリチンB、ウロリチンC、ウロリチンD、またはウロリチンA、ウロリチンB、ウロリチンC、およびウロリチンDの任意の組合せである、請求項1~
7のいずれかに記載の食品または栄養サプリメント。
【請求項9】
前記ウロリチンが、ウロリチンA、ウロリチンB、およびウロリチンAおよびウロリチンBの組合せからなる群より選択される、請求項1~
7のいずれかに記載の食品または栄養サプリメント。
【請求項10】
前記ウロリチンがウロリチンAである、請求項1~
7のいずれかに記載の食品または栄養サプリメント。
【請求項11】
前記食品が機能性食品である、請求項
10に記載の食品または栄養サプリメント。
【請求項12】
前記食品または栄養サプリメントが食品添加物の形態である、請求項
10に記載の食品または栄養サプリメント。
【請求項13】
前記食品または栄養サプリメントが栄養補助食品の形態である、請求項
10に記載の食品または栄養サプリメント。
【請求項14】
ミトコンドリア機能および活性を改善、維持、増強、向上または促進するための、
有効量のウロリチンを含むミトコンドリア機能改善剤
であって、身体持久力が改善され、肉体的疲労が抑制または軽減され、血中酸素レベルが増強され、健常個体におけるエネルギーが増強され、作業能力および持久力が増強され、筋肉疲労が低下され、筋肉ATPレベルが上昇および/または血中乳酸が低下される、ミトコンドリア機能改善剤。
【請求項15】
ミトコンドリア機能および活性が改善される、請求項
14に記載のミトコンドリア機能改善剤。
【請求項16】
ミトコンドリア機能および活性が維持される、請求項
14に記載のミトコンドリア機能改善剤。
【請求項17】
ミトコンドリア機能および活性が増強される、請求項
14に記載のミトコンドリア機能改善剤。
【請求項18】
ミトコンドリア機能および活性が向上される、請求項
14に記載のミトコンドリア機能改善剤。
【請求項19】
ミトコンドリア機能および活性が促進される、請求項
14に記載のミトコンドリア機能改善剤。
【請求項20】
ミトコンドリア活性、ミトコンドリア生合成、筋肉ミトコンドリアの量が向上される、請求項
14に記載のミトコンドリア機能改善剤。
【請求項21】
前記ウロリチンが、ウロリチンA、ウロリチンB、ウロリチンC、ウロリチンD、またはウロリチンA、ウロリチンB、ウロリチンC、およびウロリチンDの任意の組合せである、請求項
14~
20のいずれかに記載のミトコンドリア機能改善剤。
【請求項22】
前記ウロリチンが、ウロリチンA、ウロリチンB、およびウロリチンAおよびウロリチンBの組合せからなる群より選択される、請求項
14~
20のいずれかに記載のミトコンドリア機能改善剤。
【請求項23】
前記ウロリチンがウロリチンAである、請求項
14~
20のいずれかに記載のミトコンドリア機能改善剤。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2010年12月23日出願の米国特許仮出願第61/426,957号に基づく米国特許法第119条(e)による優先権を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、ミトコンドリア機能向上と、神経変性疾患および認知障害治療とのための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
エラジタンニンは、一部の果実、液果類およびナッツ類、例えばザクロ、ラズベリー、イチゴ、ブラックラズベリー、クルミおよびアーモンドに多く存在するモノマー、オリゴマーおよびポリマー性ポリフェノールである。果実および液果類は、生で、および例えばジュースなどの飲料として広く摂取されており、これらは、健康を増進することが報告されている。
【0004】
市販の果汁の加工法において、一部の果実皮に特に多く存在するエラジタンニンが果汁中に大量に抽出される。エラジタンニンは、加水分解時にエラグ酸を放出する加水分解性のタンニンの化学クラスに属する。インビトロの研究から、エラジタンニンは、10から100マイクロモラー(μM)の範囲の濃度で、抗酸化、抗動脈硬化、抗血栓症、抗炎症および抗血管形成効果を有する可能性があることが示唆されている。果実は、優占的な異なるエラジタンニンを有する場合があり、例えばザクロから調製された果汁中では、優占的なエラジタンニンはプニカラギン[2,3 ヘキサヒドロキシジフェノイル-4,6-ガラギルグルコース]で、これは異性体の混合物として存在する。果汁1Lあたり>2gのレベルに達する場合がある高含量のプニカラギン異性体に起因するザクロ果汁の強力な抗酸化特性が報告されている。エラジタンニンは、ザクロ果汁中で、活性のある抗動脈硬化化合物としても同定されている。ザクロエラジタンニンおよびザクロ果実抽出物が、ヒト癌細胞の増殖を阻害し、炎症性細胞内シグナル伝達経路およびアポトーシスを調節することも示唆されている。例えば、非特許文献1-5参照。ザクロ果実抽出物は、CWR22Rv1前立腺細胞を移植した無胸腺ヌードマウスにおいて、前立腺腫瘍の成長を抑制し、前立腺血清抗原(PSA)レベルを低下させることも報告されている(非特許文献5)。
【0005】
残念なことに、大部分、エラジタンニンはヒトの消化管での吸収性が悪い。しかし、片利共生微生物(すなわち腸管微生物叢)により最終的に消化管で生成されるある種の代謝産物を含め、エラジタンニン由来の多くの代謝産物は、ヒト消化管により吸収される。
【0006】
エラジタンニンは、インビボの生理的条件下でエラグ酸を放出し、次にエラグ酸が徐々に腸において消化管微生物叢により代謝され、ウロリチンD、ウロリチンC、ウロリチンA(UA)およびウロリチンB(UB)が生じる。代謝産物が吸収されると、これらはグルクロン酸抱合され、肝臓に行くと、これらはさらに代謝されて、グルクロニドおよび/または硫酸化物が生成され、代謝産物の組み合わせが胆管において分泌される。
【0007】
ウロリチンは、エラグ酸、プニカラギン(PA)、プニカリン(PB)、テリマグランジン(TL)その他のエラジタンニンの代謝産物である(非特許文献6及び7)。エラグ酸(EA)は、ザクロ果汁において豊富である(非特許文献8)。エラジタンニンのテリマグランジン(TL)は、ザクロその他の植物由来のものから以前に単離され、既に特徴が調べられている(非特許文献9-11)。UA、PA、PB、EAおよびTLの構造式を
図1で示す。
【0008】
天然産物に基づくものを含む治療様式をより良好に設計できるように、代謝性疾患、神経変性および認知低下の機序を理解するために多大な努力が積み重ねられてきた。中心的な観察の1つは、ミトコンドリアのエネルギー産生を低下させる役割であり、これは酸化ストレスおよびアポトーシス増加と対応しており、変性疾患および老化過程において重要な役割を果たす。現在、様々な変性疾患が、ミトコンドリアDNA(mtDNA)または核DNA(nDNA)によりコードされるミトコンドリア遺伝子の突然変異により引き起こされることが示されている。重要なこととして、体細胞mtDNA突然変異は、老化によるミトコンドリア機能低下と関連して有糸分裂後組織において年齢とともに蓄積し、加齢および老化における重要な因子と考えられる。遺伝性疾患が、mtDNA塩基置換および再編成突然変異の結果として起こり得、CNS、心臓および骨格筋および腎臓、内分泌および血液系に影響を及ぼす場合がある。
【0009】
ミトコンドリアは、酸化的リン酸化(OXPHOS)により細胞エネルギーのほとんどを産生し、副産物として毒性のある活性酸素種(ROS)のほとんどを産生する。OXPHOSを阻害する遺伝子異常は、ROS産生へのOXPHOS電子の方向転換も引き起こし、したがって、酸化ストレスを増加させる。ミトコンドリアエネルギー産生の低下および酸化ストレス増加は、ミトコンドリアの膜透過性遷移孔(mtPTP)に影響を与え、プログラムされた細胞死(アポトーシス)を開始させ得る。これらの3つの因子の相互作用は、身体の全組織に影響を与える、変性疾患および老化過程の病態生理学において主要な役割を果たすと考えられている。
【0010】
正常な脳において、最適な認知機能は主に、電気シグナルを伝達し、化学的神経伝達を誘発することができる非常に複雑な細胞であるニューロン活動およびニューロン間の通信に依存する。ニューロン機能は、ニューロンまたは標的細胞を連結するためにセンチメートル単位またはさらにメートル単位にわたり伸び得る長く複雑な細胞突起に依存し、100,000個を超えるシナプス接触をなす場合がある。そのようなものとして、ニューロンはエネルギー供給に大きく依存しており、したがって、酸化ストレス損傷に曝される。認知機能は、複雑なニューロンネットワーク内で起こる細胞内シグナル伝達の微妙なバランスに依存している。最適な認知機能は、老化、細胞ストレス、慢性ストレスおよび神経変性障害などの多くの因子により損なわれ得る。認知低下は、思考、学習、記憶、注意力における能力の低下ならびにおよび/または心理学的スキル低下、ならびにうつおよび不安を特徴とする場合がある。
【0011】
ミトコンドリア機能は、代謝性疾患においても重要であることが示されている。糖尿病および肥満は、ミトコンドリア機能不全と関連付けられてきた。ミトコンドリアにおける共役効率またはATPを生成させるのに必要な酸素消費の割合は肥満レベルと関連があり、共役効率が高い結果、脂肪蓄積がより多く重ねられる可能性があることが示唆されている(非特許文献12)。糖尿病において、最近の研究から、エネルギー供給が不十分であるかまたはインスリンシグナル伝達経路の障害が起こる結果として、ミトコンドリア機能不全が、筋細胞および脂肪細胞におけるインスリン非感受性の原因となることが示唆された(非特許文献13)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】Seeram et al.(2005)J.Nutr.Biochem.16:360-7
【文献】Adams et al.(2006)J.Agric.Food Chem.54:980-85
【文献】Afaq et al.(2005)Photochem.Photobiol.81:38-45
【文献】Afaq et al.(2005)Int.J.Cancer.113:423-33
【文献】Malik et al.(2005)Proc.Natl.Acad.Sci.102:14813-8
【文献】Cerda,Espin et al.(2004)Eur.J.Nutr.43:205-20
【文献】Cerda,Periago et al.(2005)J.Agric.Food Chem.53:5571-6
【文献】Gil,Tomas-Barberan et al.(2000)J.Agric.Food Chem.48:4581-9
【文献】Tanaka,Nonaka et al.(1986)Chem.Pharm.Bull.34:650-655
【文献】Tanaka,Nonaka et al.(1986)Chem.Pharm.Bull.34:656-663
【文献】Satomi,Umemura et al.(1993)Biol.Pharm.Bull.16:787-90
【文献】Harper,Green et al.(2008)Annu.Rev.Nutr.28:13-33
【文献】Wang,Wang et al.(2010)Ann.N.Y.Acad.Sci.1201:157-65
【発明の概要】
【0013】
本発明は、例えば、老化またはストレス、糖尿病、肥満および神経変性疾患を含め、ミトコンドリア活性の低下または不足に関連する疾患または障害を治療および/または予防することを含む、様々な治療的適応に対して使用され得る化合物または該化合物の前駆体を含む組成物を提供する。これらの上記の化合物および組成物は、新陳代謝速度を向上させるかまたは維持し、体脂肪の百分率を低下させ、筋肉量を増加させるかまたは維持し、体重を管理し、(記憶を含む)精神能力を向上させるかもしくは維持し、筋機能を向上させるかまたは維持し、気分を上昇させるかまたは維持し、ストレスを管理するために、全般的に健康な人においても有利に使用される場合がある。
【0014】
本発明の目的は、(i)不十分なミトコンドリア活性;(ii)糖尿病および肥満などの代謝性疾患;(iii)認知機能の低下;または(iv)気分障害により惹起されるかまたはこれらを特徴とする疾患症状の予防または治療における使用のための、植物抽出物か、それらの活性画分か、それらから単離可能なまたは合成される1種類以上の活性成分又は代謝産物かを提供する。
【0015】
したがって、第1の局面において、本発明は、ミトコンドリア機能の誘導物質としての使用のための、果実抽出物か、それらの活性画分か、それらから単離可能な1種類以上の活性成分かを提供する。
【0016】
本明細書中で使用されるところの「画分」という用語は、精製または部分精製抽出物を指す。
【0017】
別の局面において、本発明は、ミトコンドリア機能低下により発症するかまたはそれを特徴とする疾患症状の予防または治療における使用のための、果実抽出物、それらの活性画分またはそれらから単離可能な1種類以上の活性成分を提供する。
【0018】
別の局面において、本発明は、(i)ミトコンドリア機能低下により発症するかまたはそれを特徴とする疾患症状の予防または治療か;(ii)認知または筋肉機能の向上かにおける使用のための薬剤の製造のために本明細書中で以下に定義されるところの、果実か、抽出物か、それらの活性画分か、それらから単離可能な1種類以上の活性成分かの使用を提供する。このような疾患症状は、神経変性疾患、認知障害、気分障害、不安障害、代謝性疾患、糖尿病および肥満を含み得るが、これらに限られない。
【0019】
別の局面において、本発明は、(i)ミトコンドリア機能低下により発症するかまたはそれを特徴とする疾患症状の予防または治療か;(ii)認知または筋肉機能の向上かにおける使用のための薬剤の製造のための方法を提供し、この方法は、本明細書中で以上に定義されるところの、薬剤の必須成分としての、果実か、その抽出物か、活性画分か、それらから単離可能な1種類以上の活性成分かの使用を特徴とする。
【0020】
またさらなる局面において、本発明は、本明細書中で既に定義されるところの、果実か、抽出物か、活性画分由来の活性成分か、それらから単離可能な1種類以上の活性成分かと、薬学的に許容可能な担体とを含む、医薬組成物を提供する。
【0021】
本発明の目的は、(i)脳機能、(ii)糖尿病または肥満を含む代謝機能、(iii)筋機能および(iv)組織ATPレベル上昇を改善するための、ミトコンドリア活性の上昇から利益を得る対象において疾患または障害を治療することにおける使用のための、植物抽出物か、それらの活性画分か、それらから単離可能であるかまたは合成される1種類以上の活性成分または代謝産物かを提供することである。
【0022】
本発明の目的は、神経保護的で、神経栄養的で、および/または、神経突起伸長を促進し、結果として認知機能を改善する、抽出物、組成物および化合物と、これらの化合物および組成物の使用方法とを提供することである。
【0023】
本発明の目的は、脳機能および認知を改善し、保護し、維持する化合物および組成物を提供することである。本発明の別の目的は、気分障害を改善し、予防し、管理することである。本発明の別の目的は、ストレスで誘発されるか、あるいは、ストレスと関連する、障害または症状を予防することである。
【0024】
本発明の目的は、損傷から脳を保護し、ならびに健常な成人において認知能力および記憶を改善するための、神経保護化合物を提供することである。本発明の別の目的は、神経可塑性を刺激する新規化合物を提供することである。神経可塑性は、記憶および認知機能に必要な中心的過程であることがよく知られている。このような化合物は、神経突起伸長と、細胞あたりの分枝数と、細胞あたりの平均突起と、さらに、形成されるシナプス数とにも影響を与え得る。
【0025】
本発明はまた、ザクロその他の果実で見出される生物活性天然化合物としての、エラジタンニンに関連する、複数のポリフェノール化合物およびそれらの誘導体と、これらの化合物を含有する生物活性天然抽出物とにも関する。これらの化合物は、全てザクロ中で見出されるが、他の果実および液果類からも単離され得る、エラジタンニン、プニカラギンおよびエラグ酸と、これらの化合物の代謝産物とを含む。本明細書中で開示されるように、これらの化合物は現在、(i)ミトコンドリア機能、(ii)細胞代謝産物および(iii)神経可塑性に有益な効果を有することが示されている。
【0026】
神経細胞培養および初代培養細胞における神経突起伸長および突起形成のインビトロモデルを使用して、様々な化合物の有益な効果について調べた。上述のように、老化、神経変性および慢性ストレスは、神経突起伸長に負の影響がある。注目すべきことに、本発明の化合物が神経保護特性を有し、PC-12細胞および初代培養中脳ニューロンにおいて強い刺激活性を示し、動物モデルにおいて認知機能および記憶を改善することが分かった。
【0027】
ある局面において、本発明は、本発明の化合物またはそれらの混合物を含む、医薬品、病人食、機能性食品、食品添加物または栄養補助食品などの組成物に関する。本組成物は、任意的に、さらなる治療剤も含有する場合があるか、または、別の治療用化合物と組み合わせて投与する場合がある。記憶および認識能力を改善させることにおける使用のための、および/または、老齢者で見られる状態にとって典型的な脳への障害を伴う疾患または症状の治療のための、上述の組成物および標識および/または説明書を含有する包装製品も提供される。
【0028】
本発明の1つの局面は、肥満、新陳代謝速度低下、メタボリックシンドローム、糖尿病、心血管疾患、高脂血症、神経変性疾患、認知障害、気分障害、ストレスおよび不安障害からなる群から選択される症状の治療または予防か;体重管理か;筋機能もしくは精神能力を改善させるかのための、有効量のザクロ抽出物を含む食品または栄養サプリメントである。
【0029】
本発明の1つの局面は、肥満、新陳代謝速度低下、メタボリックシンドローム、糖尿病、心血管疾患、高脂血症、神経変性疾患、認知障害、気分障害、ストレスおよび不安障害からなる群から選択される症状の治療または予防か;体重管理か;筋機能もしくは精神能力を向上させるかのための、有効量のエラジタンニンを含む、食品または栄養サプリメントである。
【0030】
本発明の1つの局面は、肥満、新陳代謝速度低下、メタボリックシンドローム、糖尿病、心血管疾患、高脂血症、神経変性疾患、認知障害、気分障害、ストレスおよび不安障害からなる群から選択される症状の治療または予防か;体重管理か;筋機能もしくは精神能力を向上させるかのための、有効量のプニカラギンを含む、食品または栄養サプリメントである。
【0031】
本発明の1つの局面は、肥満、新陳代謝速度低下、メタボリックシンドローム、糖尿病、心血管疾患、高脂血症、神経変性疾患、認知障害、気分障害、ストレスおよび不安障害からなる群から選択される症状の治療または予防か;体重管理か;筋機能もしくは精神能力を向上させるかのための、有効量のエラグ酸を含む、食品または栄養サプリメントである。
【0032】
本発明の1つの局面は、肥満、新陳代謝速度低下、メタボリックシンドローム、糖尿病、心血管疾患、高脂血症、神経変性疾患、認知障害、気分障害、ストレスおよび不安障害からなる群から選択される症状の治療または予防か;体重管理か;筋機能もしくは精神能力を向上させるかのための、有効量のウロリチンを含む、食品または栄養サプリメントである。
【0033】
前述のそれぞれにおいて、1つの実施形態では前記症状は肥満である。
【0034】
前述のそれぞれにおいて、1つの実施形態では前記症状は新陳代謝速度低下である。
【0035】
前述のそれぞれにおいて、1つの実施形態では前記症状はメタボリックシンドロームである。
【0036】
前述のそれぞれにおいて、1つの実施形態では前記症状は糖尿病である。
【0037】
前述のそれぞれにおいて、1つの実施形態では前記症状は心血管疾患である。
【0038】
前述のそれぞれにおいて、1つの実施形態では前記症状は高脂血症である。
【0039】
前述のそれぞれにおいて、1つの実施形態では前記症状は神経変性疾患である。
【0040】
前述のそれぞれにおいて、1つの実施形態では前記症状は認知障害である。
【0041】
前述のそれぞれにおいて、1つの実施形態では前記症状は気分障害である。
【0042】
前述のそれぞれにおいて、1つの実施形態では前記症状はストレスである。
【0043】
前述のそれぞれにおいて、1つの実施形態では前記症状は不安障害である。
【0044】
前述のそれぞれにおいて、1つの実施形態では前記食品または栄養サプリメントは体重管理用である。
【0045】
前述のそれぞれにおいて、1つの実施形態では前記食品または栄養サプリメントは筋機能を向上させるためのものである。
【0046】
前述のそれぞれにおいて、1つの実施形態では前記食品または栄養サプリメントは精神能力を向上させるためのものである。
【0047】
本発明の1つの局面は、ミトコンドリア機能を向上させるかまたは維持する方法である。該方法は、ミトコンドリアの機能を向上させるために、有効量のウロリチンまたはその前駆体と細胞を接触させるステップを含む。
【0048】
本発明の1つの局面は、ミトコンドリア機能の変化またはミトコンドリア密度の低下を伴うミトコンドリア関連疾患または症状を、治療、予防または管理する方法である。該方法は、ミトコンドリア機能の変化またはミトコンドリア密度の低下を伴う疾患または症状を治療するために、必要とする対象に治療的有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。
【0049】
本発明の1つの局面は、新陳代謝速度を向上させる方法である。該方法は、新陳代謝速度を向上させるために、必要とする対象に有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。
【0050】
本発明の1つの局面は、メタボリックシンドロームを予防または治療する方法である。該方法は、メタボリックシンドロームを予防または治療するために、必要とする対象に有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。
【0051】
本発明の1つの局面は、肥満を予防または治療する方法である。該方法は、肥満を予防または治療するために、必要とする対象に有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。
【0052】
本発明の1つの局面は、心血管疾患を予防または治療する方法である。該方法は、心血管疾患を予防または治療するために、必要とする対象に有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。
【0053】
本発明の1つの局面は、高脂血症を治療する方法である。該方法は、高脂血症を治療するために、必要とする対象に有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。1つの実施形態では、前記高脂血症は高トリグリセリド血症である。1つの実施形態では、前記高脂血症は遊離脂肪酸の増加である。
【0054】
本発明の1つの局面は、代謝性疾患を治療する方法である。該方法は、代謝性疾患を治療するために、必要とする対象に治療的有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。1つの実施形態では、前記代謝性疾患は糖尿病である。1つの実施形態では、前記代謝性疾患は肥満である。
【0055】
本発明の1つの局面は、神経変性疾患を治療する方法である。該方法は、神経変性疾患を治療するために、必要とする対象に治療的有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。1つの実施形態では、前記神経変性疾患は、AIDSによる認知症、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、副腎白質ジストロフィー、アレキサンダー病、アルパース病、毛細血管拡張性運動失調、バッテン病、牛海綿状脳症(BSE)、カナバン病、大脳皮質基礎核変性症、クロイツフェルト・ヤコブ病、レビー小体型認知症、致死性家族性不眠症、前頭側頭葉変性症、ハンチントン病、ケネディー病、クラッベ病、ライム病、マシャド・ジョセフ病、多発性硬化症、多系統萎縮症、神経有棘赤血球症、ニーマンピック病、パーキンソン病、ピック病、原発性側索硬化症、進行性核上まひ、レフサム病、サンドホフ病、ミエリン破壊性広汎性硬化症、脊髄小脳失調、亜急性脊髄連合変性症、脊髄癆、テイ・サックス病、中毒性脳症、感染性海綿状脳症およびハリネズミふらつき症候群からなる群から選択される。1つの実施形態では、前記神経変性疾患は、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病およびパーキンソン病からなる群から選択される。1つの実施形態では、前記神経変性疾患はアルツハイマー病である。
【0056】
本発明の1つの局面は、認知機能を向上させる方法である。該方法は、認知機能を向上させるために、必要とする対象に有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。1つの実施形態では、前記認知機能は、知覚、記憶、注意、会話の理解、発話生成(speech generation)、読解力、心象生成、学習および論理的思考からなる群から選択される。1つの実施形態では、前記認知機能は、知覚、記憶、注意および論理的思考からなる群から選択される。1つの実施形態では、前記認知機能は記憶である。
【0057】
本発明の1つの局面は、認知障害を治療する方法である。該方法は、認知障害を治療するために、必要とする対象に治療的有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。1つの実施形態では、前記認知障害は、せん妄、認知症、学習障害、注意欠陥障害(ADD)および注意欠陥多動性障害(ADHD)からなる群から選択される。1つの実施形態では、前記認知障害は学習障害である。1つの実施形態では、前記認知障害は注意欠陥障害(ADD)である。1つの実施形態では、前記認知障害は注意欠陥多動性障害(ADHD)である。
【0058】
本発明の1つの局面は、ストレスで誘発されるか、あるいは、ストレスと関連する、認知障害を治療する方法である。該方法は、ストレスで誘発されるか、あるいは、ストレスと関連する、障害を治療するために、必要とする対象に治療的有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。
【0059】
本発明の1つの局面は、気分障害を治療する方法である。該方法は、気分障害を治療するために、必要とする対象に治療的有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。1つの実施形態では、前記気分障害は、うつ、産後うつ、気分変調および双極性障害からなる群から選択される。1つの実施形態では、前記気分障害はうつである。1つの実施形態では、前記気分障害は気分変調である。
【0060】
本発明の1つの局面は、ストレスで誘発されるか、あるいは、ストレスと関連する、気分障害、例えば気分変調を治療する方法である。該方法は、ストレスで誘発されるか、あるいは、ストレスと関連する、気分障害を治療するために、必要とする対象に治療的有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。
【0061】
本発明の1つの局面は、不安障害を治療する方法である。該方法は、不安障害を治療するために、必要とする対象に治療的有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。1つの実施形態では、前記不安障害は、全般性不安障害、パニック障害、広場恐怖症を伴うパニック障害、広場恐怖症、社会不安障害、強迫神経症および外傷後ストレス障害からなる群から選択される。1つの実施形態では、前記不安障害は全般性不安障害である。1つの実施形態では、前記不安障害は外傷後ストレス障害である。
【0062】
本発明の1つの局面は、ストレスで誘発されるか、あるいは、ストレスと関連する、不安を治療する方法である。該方法は、ストレスで誘発されるか、あるいは、ストレスと関連する、不安を治療するために、必要とする対象に治療的有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。
【0063】
本発明の1つの局面は、筋機能を増強させる方法である。該方法は、筋機能を向上させるために、必要とする対象に治療的有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。1つの実施形態では、前記筋機能は、強度、速度および持久力からなる群から選択される。
【0064】
本発明の1つの局面は、筋肉または神経筋疾患を治療する方法である。該方法は、筋肉または神経筋疾患を治療するために、必要とする対象に治療的有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。1つの実施形態では、前記筋肉または神経筋疾患はミオパチーである。1つの実施形態では、前記筋肉または神経筋疾患は筋ジストロフィーである。1つの実施形態では、前記筋肉または神経筋疾患はデュシェンヌ型筋ジストロフィーである。
【0065】
本発明の1つの局面は、神経突起伸長を促進する方法である。該方法は、神経突起伸長を促進するために、有効量のウロリチンまたはその前駆体と神経細胞を接触させるステップを含む。1つの実施形態では、前記接触は、神経突起伸長を促進するために、その治療を必要とする対象に治療的有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与することを含む。
【0066】
以下の実施形態は、本明細書に説明される発明の局面および実施形態のそれぞれに関連する場合があり、適切な場合には相互に関連する場合がある。
【0067】
1つの実施形態では、前記ウロリチンまたはその前駆体は単離ウロリチンである。
【0068】
1つの実施形態では、前記ウロリチンまたはその前駆体は単離ウロリチン前駆体である。
【0069】
1つの実施形態では、前記ウロリチンは、ウロリチンAと、ウロリチンBと、ウロリチンCと、ウロリチンDと、例えば、これらのグルクロン酸抱合型、メチル化型および硫酸化型を含むこれらの代謝産物と、これらのウロリチンの組み合わせとからなる群から選択される。
【0070】
1つの実施形態では、前記ウロリチンまたはその前駆体は、液果類、ブドウ、ザクロ、ローズヒップおよびナッツ類からなる群から選択される自然食品として投与される。
【0071】
1つの実施形態では、前記ウロリチンまたはその前駆体は、液果類、ブドウ、ザクロ、ローズヒップおよびナッツ類からなる群から選択される自然食品に基づく、例えば、果汁、濃縮液または抽出物を含む加工食品として投与される。
【0072】
1つの実施形態では、前記ウロリチンまたはその前駆体は、ザクロ果汁、濃縮液または抽出物として投与される。
【0073】
1つの実施形態では、前記ウロリチンまたはその前駆体はエラジタンニンとして投与される。
【0074】
1つの実施形態では、前記ウロリチンまたはその前駆体はプニカラギンとして投与される。
【0075】
1つの実施形態では、前記ウロリチンまたはその前駆体はエラグ酸として投与される。
【0076】
1つの実施形態では、前記ウロリチンまたはその前駆体はウロリチンとして投与される。
【0077】
1つの実施形態では、前記ウロリチンまたはその前駆体は経口投与される。
【0078】
1つの実施形態では、前記ウロリチンまたはその前駆体は非経口投与される。
【0079】
1つの実施形態では、前記ウロリチンまたはその前駆体は、少なくとも週に1回投与される。様々な実施形態において、前記ウロリチンまたはその前駆体は、週に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27または28回投与される。
【0080】
1つの実施形態では、前記ウロリチンまたはその前駆体は、少なくとも1日1回投与される。様々な実施形態において、前記ウロリチンまたはその前駆体は、1日に1、2、3、4、5、6、7または8回投与される。
【0081】
1つの実施形態では、前記ウロリチンまたはその前駆体は、ウロリチン0.1-150ミリグラム(mg)/キログラム(kg)体重に等しいかまたはこれと同等な用量で投与される。1つの実施形態では、前記ウロリチンまたはその前駆体は、2-120mgウロリチン/kg体重に等しいかまたはこれと同等な用量で投与される。1つの実施形態では、前記ウロリチンまたはその前駆体は、4-90mgウロリチン/kg体重に等しいかまたはこれと同等な用量で投与される。1つの実施形態では、前記ウロリチンまたはその前駆体は、8-30mgウロリチン/kg体重に等しいかまたはこれと同等な用量で投与される。
【0082】
1つの実施形態では、前記ウロリチンまたはその前駆体は少なくとも0.001マイクロモラー(μM)のピーク血清レベルを達成するのに十分な用量で投与される。1つの実施形態では、前記ウロリチンまたはその前駆体は少なくとも0.01μMのピーク血清レベルを達成するのに十分な用量で投与される。1つの実施形態では、前記ウロリチンまたはその前駆体は少なくとも0.1μMのピーク血清レベルを達成するのに十分な用量で投与される。1つの実施形態では、前記ウロリチンまたはその前駆体は少なくとも1μMのピーク血清レベルを達成するのに十分な用量で投与される。1つの実施形態では、前記ウロリチンまたはその前駆体は少なくとも10μMのピーク血清レベルを達成するのに十分な用量で投与される。
【0083】
1つの実施形態では、前記ウロリチンまたはその前駆体は少なくとも、0.001マイクロモラー(μM)の持続的血清レベルを達成するのに十分な用量で投与される。1つの実施形態では、前記ウロリチンまたはその前駆体は少なくとも0.01μMの持続的血清レベルを達成するのに十分な用量で投与される。1つの実施形態では、前記ウロリチンまたはその前駆体は少なくとも0.1μMの持続的血清レベルを達成するのに十分な用量で投与される。1つの実施形態では、前記ウロリチンまたはその前駆体は少なくとも1μMの持続的血清レベルを達成するのに十分な用量で投与される。1つの実施形態では、前記ウロリチンまたはその前駆体は少なくとも10μMの持続的血清レベルを達成するのに十分な用量で投与される。
【0084】
1つの実施形態では、対象は、アテローム性動脈硬化症、血栓症、癌、不要な血管形成、感染および炎症からなる群から選択される、ウロリチンまたはその前駆体もしくは代謝産物の投与を必要とする別の症状を治療するために、ウロリチンまたはその前駆体を投与されていない。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【
図1】ウロリチンA(UA)、エラグ酸(EA)、テリマグランジン(TL)、プニカラギン(PA)およびプニカリン(PB)の構造式。
【
図2】エラグ酸(EA)と、ヒトを含む動物の腸管微生物叢により産生される代謝産物である、ウロリチンD(UD)、ウロリチンC(UC)、ウロリチンA(UA)およびウロリチンB(UB)とを示す。
【
図3】表示された濃度のエラグ酸(上パネル)およびウロリチンA(下パネル)に応答する、ミトコンドリア遺伝子発現レベルを示す、1対の棒グラフ。
【
図4】表示された濃度のプニカラギン、エラグ酸、ウロリチンAまたは陰性対照の存在下、インビトロで測定されたクエン酸シンターゼ(CS)活性を示す棒グラフ。
【
図5】(A)AMP-活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)および活性化されたリン酸化AMPK(P-AMPK)のレベルに対する、表示された濃度のエラグ酸(EA)およびウロリチンA(UA)の効果を示す免疫ブロット(IB)の組合せ。P-AMPK:リン酸化AMPK。対照:陰性対照;RSV:レスべラトロール陽性対照。(B)対照処理細胞と比較した処理後の活性化P-AMPKの相対レベルを示す、(A)におけるバンドのデンシトメトリー分析を示す棒グラフ。
【
図6】表示された化合物0.5μM処理後のPC-12細胞の培養に対する細胞総数を示す棒グラフ。PA、プニカラギン;PB、プニカリン;UA、ウロリチンA;EA、エラグ酸;Tl、テリマグランジン。
【
図7】表示された化合物0.5μM処理後のPC-12細胞における平均神経突起伸長(μm)を示す棒グラフ。伸長は細胞あたりで表示される。SP、SP600125;dbcAMP、ジブチリル環状AMP;PA、プニカラギン;PB、プニカリン;UA、ウロリチンA;EA、エラグ酸;Tl、テリマグランジン。
【
図8】表示された化合物0.5μM処理後の広範囲の神経突起伸長(>20μM)を示すPC-12細胞の百分率を示す棒グラフ。SP、SP600125;dbcAMP、ジブチリル環状AMP;PA、プニカラギン;PB、プニカリン;UA、ウロリチンA;EA、エラグ酸;Tl、テリマグランジン。
【
図9】表示された化合物0.5μM処理後のPC-12細胞での平均突起形成を示す棒グラフ。SP、SP600125;dbcAMP、ジブチリル環状AMP;PA、プニカラギン;PB、プニカリン;UA、ウロリチンA;EA、エラグ酸;Tl、テリマグランジン。
【
図10】表示された化合物0.1μM処理後のドーパミン作動性チロシンヒドロキシラーゼ(TH)-陽性初代培養ニューロンの細胞あたりの平均伸長を示す棒グラフ。SP、SP600125;dbcAMP、ジブチリル環状AMP;UA、ウロリチンA;EA、エラグ酸;Tl、テリマグランジン。
【
図11】表示された化合物0.1μM処理後の広範囲の神経突起伸長(>20μM)を示すドーパミン作動性TH-陽性初代培養ニューロンの%を示す棒グラフ。SP、SP600125;dbcAMP、ジブチリル環状AMP;UA、ウロリチンA;EA、エラグ酸;Tl、テリマグランジン。
【
図12】表示された化合物0.1μM処理後の、ドーパミン作動性TH-陽性初代培養ニューロンで形成される突起の数の平均を示す棒グラフ。SP、SP600125;dbcAMP、ジブチリル環状AMP;UA、ウロリチンA;EA、エラグ酸;Tl、テリマグランジン。
【
図13】表示された化合物0.1μM処理後のドーパミン作動性TH-陽性初代培養ニューロンにおける最大突起長を示す棒グラフ。SP、SP600125;dbcAMP、ジブチリル環状AMP;UA、ウロリチンA;EA、エラグ酸;Tl、テリマグランジン。
【
図14】表示された化合物0.1μM処理後の、ドーパミン作動性TH-陽性初代培養ニューロンあたりの平均分枝数を示す棒グラフ。SP、SP600125;dbcAMP、ジブチリル環状AMP;UA、ウロリチンA;EA、エラグ酸;Tl、テリマグランジン。
【
図15】表示された化合物0.1μM処理後の、ドーパミン作動性TH-陽性初代培養ニューロンあたりの樹状突起の数の平均を示す棒グラフ。SP、SP600125;dbcAMP、ジブチリル環状AMP;UA、ウロリチンA;EA、エラグ酸;Tl、テリマグランジン。
【
図16】表示された化合物0.1μM処理後のドーパミン作動性TH-陽性初代培養ニューロンあたりの樹状突起の長さの平均を示す棒グラフ。SP、SP600125;dbcAMP、ジブチリル環状AMP;UA、ウロリチンA;EA、エラグ酸;Tl、テリマグランジン。
【
図17A】高脂肪餌付与(HFD)マウスにおける肥満発症時のウロリチンA、プニカラギンおよびザクロ抽出物(PE)処理の効果を示す、3連の棒グラフ。ウロリチンAは餌混合物として投与され;PEおよびプニカラギンは強制経口投与された。体重フォローアップは、最初の体重と比較した増加の百分率として表された。群組成:HFD対照(餌混合物):n=10;HFD対照(強制投与):n=10;HFD+ウロリチンA(餌混合物):n=9;HFD+プニカラギン(強制投与):n=8;HFD+PE(強制投与):n=7。結果は平均±SEMとして表される。パネルAについては、結果は2元配置ANOVAで分析された。p値は表示のとおり。
【
図17B】高脂肪餌付与(HFD)マウスにおける肥満発症時のウロリチンA、プニカラギンおよびザクロ抽出物(PE)処理の効果を示す、3連の棒グラフ。ウロリチンAは餌混合物として投与され;PEおよびプニカラギンは強制経口投与された。処置5週間後のEchoMRIにより測定された脂肪量の百分率。群組成:HFD対照(餌混合物):n=10;HFD対照(強制投与):n=10;HFD+ウロリチンA(餌混合物):n=9;HFD+プニカラギン(強制投与):n=8;HFD+PE(強制投与):n=7。結果は平均±SEMとして表される。
*p<0.05(スチューデントのt検定)。
【
図17C】高脂肪餌付与(HFD)マウスにおける肥満発症時のウロリチンA、プニカラギンおよびザクロ抽出物(PE)処理の効果を示す、3連の棒グラフ。ウロリチンAは餌混合物として投与され;PEおよびプニカラギンは強制経口投与された。処置5週間後にEchoMRIにより測定した除脂肪部分量の百分率。群組成:HFD対照(餌混合物):n=10;HFD対照(強制投与):n=10;HFD+ウロリチンA(餌混合物):n=9;HFD+プニカラギン(強制投与):n=8;HFD+PE(強制投与):n=7。結果は平均±SEMとして表される。
*p<0.05(スチューデントのt検定)。
【
図18】標準的な飼料を与えたマウスの除脂肪部分量および脂肪量に対するエラグ酸およびウロリチンAの効果を示す2対の棒グラフ。(A)処置2週間後の、EchoMRIにより測定した除脂肪部分量(筋肉)の百分率。(B)処置2週間後の、EchoMRIにより測定した脂肪量(筋肉)の百分率。群組成:飼料対照(餌混合物):n=8;飼料+エラグ酸(餌混合物):n=7;飼料+ウロリチンA(餌混合物):n=7。結果は、平均±SEMとして表される。
*p<0.05(スチューデントのt検定)。
【
図19】標準的飼料を与えた標準的マウスにおける酸素消費に対するエラグ酸およびウロリチンAの効果を示す、1対の線グラフおよび対応する1対の棒グラフ。(A)20時間にわたる酸素消費のフォローアップ。黒い帯は暗期(午前7時から午後7時)に対応する。残りは明期に対応する。(B)酸素消費は、曲線下面積(AUC)として表した。群組成:飼料対照(餌混合物):n=8;飼料+エラグ酸(餌混合物):n=7;飼料+ウロリチンA(餌混合物):n=7。結果は、平均±SEMとして表される。
*p<0.05(スチューデントのt検定)。パネルAについては、結果は2元配置ANOVAで分析された。p値を示す(飼料対照vs.飼料+処置)。
【
図20】高脂肪餌(HFD)付与マウスにおける酸素消費に対する、ウロリチンA、プニカラギンおよびザクロ抽出物(PE)の効果を示す、一連のグラフおよび対応する一連の棒グラフ。20時間にわたる酸素消費のフォローアップ。黒い帯は暗期(午前7時から午後7時)に対応する。残りは明期に対応する。(B)酸素消費は、曲線下面積(AUC)として表した。群組成:HFD対照(餌混合物):n=10;HFD対照(強制投与):n=10;HFD+ウロリチンA(餌混合物):n=9;HFD+プニカラギン(強制投与):n=8;HFD+PE(強制投与):n=7。結果は、平均±SEMとして表される。
*p<0.05(スチューデントのt検定)。パネルAについては、結果は2元配置ANOVAで分析された。
【
図21】標準的飼料を与えたマウスにおける呼吸交換比(RER)に対する、エラグ酸およびウロリチンAの効果を示す1対のグラフおよび対応する1対の棒グラフ。(A)20時間にわたるRERのフォローアップ。黒い帯は暗期(午前7時から午後7時)に対応する。残りは明期に対応する。(B)RERは平均RERとして表された。群組成:飼料対照(餌混合物):n=8;飼料+エラグ酸(餌混合物):n=7;飼料+ウロリチンA(餌混合物):n=7。結果は、平均±SEMとして表わされる。
*p<0.05(スチューデントのt検定)。パネルAについては、結果を2元配置ANOVAで分析された。p値は、(飼料対照vs飼料+処置)で示される。
【
図22】高脂肪餌(HFD)付与マウスの呼吸交換比(RER)に対する、ウロリチンA、プニカラギンおよびザクロ抽出物(PE)の効果を示す一連のグラフおよび対応する一連の棒グラフ。(A)20時間にわたるRERのフォローアップ。(B)RERは平均RERとして表された。群組成:HFD対照(餌混合物):n=10;HFD+ウロリチンA(餌混合物):n=9;HFD+プニカラギン(餌混合物):n=10;HFD+PE(餌混合物):n=10。結果は、平均±SEMとして表される。
*p<0.05(スチューデントのt検定)。パネルAについては、結果は2元配置ANOVAで分析された。
【
図23】高脂肪餌(HFD)付与マウスのトリグリセリドおよび遊離脂肪酸に対するウロリチンA、プニカラギンおよびザクロ抽出物(PE)の効果を示す、2組の一連のグラフ。(A)14週間処置したHFD餌付与マウスにおけるトリグリセリドの血漿レベル。(B)14週間処置したHFD餌付与マウスにおける遊離脂肪酸の血漿レベル。群組成:HFD対照(餌混合物):n=10;HFD対照(強制投与):n=10;HFD+ウロリチンA(餌混合物):n=9;HFD+プニカラギン(強制投与):n=8;HFD+PE(強制投与):n=7。結果は、平均±SEMとして表される。
*p<0.05(スチューデントのt検定)。
【
図24】高脂肪餌(HFD)付与マウスの血糖に対する、ウロリチンA、エラグ酸およびプニカラギンの効果を示す一連のグラフ。(A)ウロリチンA入りの餌混合物により10週間処置したHFD付与マウスにおけるブドウ糖負荷試験。(B)エラグ酸入りの餌混合物により10週間処置したHFD付与マウスにおけるブドウ糖負荷試験。(C)プニカラギン入りの餌混合物により10週間処置したHFD付与マウスにおけるブドウ糖負荷試験。群組成:HFD対照(餌混合物):n=10;HFD+ウロリチンA(餌混合物):n=9;HFD+プニカラギン(餌混合物):n=10。結果は、平均±SEMとして表される。
*p<0.05(スチューデントのt検定)。
【
図25】老齢(10日齢)線虫(C.elegans)の基礎および脱共役呼吸(酸素消費)に対するウロリチンA(UA)の効果を示す、線グラフおよび棒グラフ。(A)0.1%DMSOで処理した10日齢対照虫および0.1%DMSO中30μMウロリチンAで処理された10日齢虫における基礎および脱共役呼吸(FCCP)。(B)ビヒクル(0.1%DMSO)または0.1%DMSO中30μMウロリチンAで処理された10日齢対照虫における脱共役(FCCP)呼吸の代表的な曲線下面積(AUC)。結果は、平均±SEMとして表される。
*p<0.05(スチューデントのt検定)。OCR、酸素消費速度。
【
図26】線虫(C.elegans)の筋肉のミトコンドリアに対するウロリチンAの効果を示す棒グラフ。トランスジェニック線虫(C.elegans)株SJ4103は、ミトコンドリア膜に標的化される緑色蛍光タンパク質(GFP)の筋肉特異発現による蛍光を示す。線虫(C.elegans)筋肉におけるミトコンドリアの有無は、蛍光の増強により示される。結果は、平均±SEMとして表される。
*p=0.0014(スチューデントのt検定)。
【
図27】ザクロ抽出物での処置を行ったかまたは行わなかった慢性ストレスに曝されたマウスの運動性を示す棒グラフ。
【
図28】ザクロ抽出物での処置を行ったかまたは行わなかった、不安誘発文脈でのマウスの「すくみ」反応の程度を示す棒グラフ。
【
図29】不安誘発性の立ち上がり抑制度に対する、マウスにおけるザクロ抽出物投与の効果を示す棒グラフ。
【
図30】マウスにおける不安誘発性のグルーミング抑制度に対する、ザクロ抽出物投与の効果を示す棒グラフ。
【
図31】有害な影響がない状況に繰り返し曝した場合の、特定の有害な状況に対する記憶消滅を示す線グラフ。データは、若年期ストレスを受けたマウス、正常に飼育された対照マウスおよび若年期(early-life)ストレスを受けたがエラジタンニン・プニカラギンでの処置を受けるマウスについて示される。すくみ(%)は、最初にこの状況に曝した間のすくみ時間の百分率として表される。
【
図32】モリス水迷路における効果的な学習にに対する、マウスに対する慢性ストレスの影響を示すグラフ。
【
図33】モリス水迷路における学習能力に対する、慢性的ストレス負荷マウスにおけるザクロ抽出物投与の効果を示す棒グラフ。
【
図34】認知学習の目安である、モリス水迷路での訓練期間中の数回の試行にわたる、隠しプラットフォームからの累積距離を示すグラフ。データは、若年期ストレスを受けたマウス、通常どおり飼育された対照マウス,若年期ストレスを受けたがエラジタンニン・プニカラギンでの処置を受けたマウスについて示される。プラットフォームまでの距離は、観察時間(60秒)中の、測定した全間隔に対する(間隔25回/秒)、マウスと隠しプラットフォームとの間の累積距離の合計である。
【
図35】ザクロ抽出物1108または対照(Ctrl)のいずれかで処置した場合のソーシャル・レコグニション・テストにおける老齢ラットの記憶を示す棒グラフである。
【
図36】ザクロ抽出物1108または対照で処置された老齢ラットについてのモリス水迷路試験の結果を示す棒グラフ。
【
図37】処置および非処置の両方のアルツハイマー病マウスモデル5XFADならびに正常対照マウスに対するY迷路における的確な交替反応の百分率を示す棒グラフ。有意性:
**p<0.01、
*p<0.05、1元配置ANOVA。
【
図38】ザクロ由来抽出物31008、61109、71109または対照(ビヒクル)で処置されたアルツハイマー病モデルのトランスジェニックマウス(hAPP-Tg)についてのモリス水迷路試験の結果を示す棒グラフ。対照(ビヒクル)で処置された野生型マウス(Non-Tg)についての結果も示される。
【
図39】若年期ストレスを受けたマウスに対して、通常どおり飼育された対照マウスと、若年期ストレスを受け、エラジタンニン・プニカラギンで処置されたマウスとについての明/暗ボックスの結果を示す棒グラフ。結果は、平均±SEMとして表される。有意性:
*p<0.05(スチューデントのt検定)。
【
図40】若年期ストレスを受けたマウスに対して、通常どおり飼育された対照マウスと、若年期ストレスを受け、エラジタンニン・プニカラギンで処置されたマウスとについての高架式O-迷路に対する結果を示す棒グラフ。結果は、平均±SEMとして表される。有意性:
*p<0.05(スチューデントのt検定)。
【
図41】若年期ストレスを受けたマウスに対して、通常どおり飼育された対照マウスと、若年期ストレスを受け、エラジタンニン・プニカラギンで処置されたマウスとについての強制水泳試験に対する結果を示す棒グラフ。結果は、平均±SEMとして表される。有意性:
*p<0.05、
**p<0.01(スチューデントのt検定)。
【
図42】4分経過時に行われる最初の軽度ショック中の、文脈的恐怖条件付けパラダイムにおける訓練についての結果を示す棒グラフ。結果は、若年期ストレスを受けたマウスに対して、通常どおり飼育された対照マウスと、若年期ストレスを受け、エラジタンニンのプニカラギンで処置したマウスとについて示される。結果は平均±SEMとして表される。
【
図43】有害な効果なしで特定の有害な文脈に繰り返し曝されたとき、該有害状況に対する記憶消滅を示す棒グラフ。データは、若年期ストレスを受けたマウスと、正常に飼育された非ストレス負荷対照マウスと、若年期ストレスを受け、エラジタンニンのプニカラギンで処置したマウスとについて示される。結果は、平均±SEMとして表される。有意性:
*p<0.05、
#p=0.05(スチューデントのt検定)。正常な非ストレス負荷動物を若年期ストレス負荷マウス(すなわち母子分離)と比較した。プニカラギン処置した若年期ストレス負荷動物が未処置若年期ストレス負荷動物と比較された。
【
図44】回転ロッドから落下するまでの時間を秒単位で測定したときの運動性学習のレベルを示す線グラフ。データは、若年期ストレスを受けたマウスと、通常どおり飼育された対照マウスと、若年期ストレスを受け、エラジタンニンのプニカラギンで処置されたマウスとについて示される。結果は、平均±SEMとして表される。
【
図45】認知学習の目安である、訓練期間中のモリス水迷路からの秒単位での逃避潜時を示すグラフ。データは、若年期ストレスを受けたマウスと、通常どおり飼育された対照マウスと、若年期ストレスを受け、エラジタンニンのプニカラギンで処置されたマウスについて示される。結果は、平均±SEMとして表される。有意性:
*p<0.05(スチューデントのt検定)。
【
図46】未処置か、プニカラギン又はウロリチンAで処置されたかのいずれかの正常マウスでの文脈認知に対するザクロ由来化合物の効果を示す棒グラフ。結果は、平均±SEMとして表される。有意性:
*p<0.05(スチューデントのt検定)。
【
図47】未処置か、プニカラギン又はウロリチンAで処置したかのいずれかの正常マウスにおける特定の文脈についての記憶保持に対する、ザクロ由来化合物の効果を示す棒グラフ。結果は、平均±SEMとして表される。有意性:データは、一元配置ANOVAまたは反復測定ANOVAのいずれかを用い、続いてフィッシャー事後LSD多重比較検定により分析された。
*p<0.05。
【
図48】回転するロータロッドから落下するまでの時間が秒単位で測定される筋機能および運動スキルを示す線グラフ。データは、正常に飼育された未処置対照マウスと、エラジタンニン・プニカラギン処置マウスとについて示される。有意性:ANOVA分析により
*p<0.05。
【
図49】速度を上昇させていったトレッドミル上でのマウスの走行能力により測定される筋機能および持久力のレベルを示す線グラフ。データは、通常どおり飼育された未処置対照マウスと、ウロリチンA処置マウスとについて示される。有意性:
*p<0.05、
**p<0.01(スチューデントのt検定)。
【発明を実施するための形態】
【0086】
生物学および心理学において、「ストレス」という用語は、ヒトまたは他の動物が、現実又は想像の、心理学的、感情的または身体的脅威に適切に反応できなかった結果を指す。「ストレス」という用語は、最初、生物学的文脈において、内分泌学者Hans Selyeにより1930年代に使用された。Hans Selyeは後に、あらゆる要求に対する不適切な生理学的反応を含むように、その概念を広げ、普及させた。これは、軽度の焦燥から、重篤な健康破綻を引き起こし得る劇的な機能不全まで、多岐にわたる現象を包含する。
【0087】
これらの心理生物学的なストレス特性は全て、酸化ストレス、すなわち、反応性酸素種の産生および出現と、反応性中間体を容易に無毒化するかまたは生じた損傷を修復する生体システムの能力との間の不均衡の徴候を表す場合がある。組織の正常なレドックス状態の撹乱は、タンパク質、脂質およびDNAを含む細胞の全成分に損傷を与える過酸化物およびフリーラジカルの産生を通じて有毒な効果を起こす場合がある。「レドックスシグナル伝達」と呼ばれる現象を通じて、一部の反応性酸化種は、メッセンジャーとしても作用する場合がある。
【0088】
ヒトにおいて酸化ストレスは多くの疾患に関与する。具体例は、アテローム性動脈硬化症、パーキンソン病、心不全、心筋梗塞、アルツハイマー病、統合失調症、双極性障害、脆弱性X症候群および慢性疲労性症候群を含む。
【0089】
ヒトにおける正常状態下での反応性酸素のある1つの発生源は、酸化的リン酸化中のミトコンドリアからの活性化酸素の漏洩である。
【0090】
超酸化物(O2
-)を産生可能な他の酵素は、キサンチンオキシダーゼ、NADPHオキシダーゼおよびチトクロムP450である。別の強力な酸化剤である過酸化水素は、複数のオキシダーゼを含む広範な酵素により産生される。反応性酸素種は、レドックスシグナル伝達と呼ばれる過程の細胞シグナル伝達において重要な役割を果たす。したがって、的確な細胞ホメオスタシスを維持するために、反応性酸素産生と消費とのバランスをうまくとらなければならない。
【0091】
最もよく研究されている細胞の抗酸化物質は、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼおよびグルタチオンペルオキシダーゼの酵素である。あまりよく調べられていない酵素性抗酸化物質は、ペルオキシレドキシンと、最近発見されたスルフィレドキシンとを含む。(この役割が主ではないものの)抗酸化物質特性を有する他の酵素は、パラオキソナーゼ、グルタチオン-Sトランスフェラーゼおよびアルデヒドデヒドロゲナーゼを含む。
【0092】
酸化ストレスは、照射および酸素過剰後の組織損傷に関与する。これは、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)およびハンチントン病を含む神経変性疾患において重要であることが疑われている。血管内皮における低密度リポタンパク質(LDL)の酸化がプラーク形成の前駆状態であるので、酸化ストレスはある種の心血管系疾患につながるとも考えられている。酸化ストレスは低酸素症後の酸素再潅流傷害に起因する虚血カスケードにも関与する。このカスケードは脳卒中および心臓発作の両方を含む。酸化ストレスはまた慢性疲労性症候群に関係すると推測されてきた。
【0093】
注目すべきことに、発明者らは、エラジタンニン由来のある種の化合物が、酸化ストレスを含む、ストレスの生理学的および心理学的症状の治療および予防において有用であることを発見した。何らかの特定の作用機序と結びつけられることは意味しないが、前記化合物は、非常に重要なミトコンドリア機能を促進し、回復させ、ストレス誘発性のミトコンドリア機能不全を解消するという、ミトコンドリアにおいて有益な効果を発揮すると考えられる。これら前記化合物は、本発明によると、神経変性疾患および認知障害と、インスリン抵抗性を含むがこれに限られない代謝性疾患と、気分障害と、不安障害とを含むがこれらに限られない、ミトコンドリア機能不全に関する様々な症状、疾患および障害のいずれかの治療および予防に有用であることが発見された。
【0094】
エラジタンニン(ET)は、ヘキサヒドロキシジフェン酸が糖(最も多くの場合はβ-D-グルコース)とともにジエステルを形成する、いわゆる「加水分解性のタンニン」に含まれるポリフェノールである。ETは、分子量が4000以上に達する複合高分子として存在する場合がある。これらのポリマーは、酸または塩基により加水分解され、エラグ酸(EA)が回収される場合があるが、これは間接的にETを定量するために使用することができる。同様に、EAは、ウロリチンを含むさらなる代謝産物の供給源である。
【0095】
特にアジアにおいて疾患の治療に対して、エラジタンニンを含む多くの植物種が使用されてきた(Okuda et al.,2009)。これらには、とりわけ、アグリモニア・ピロサ(Agrimonia pilosa)(アグリモニイン)、カメリア・ジャポニカ(Camelia japonica)(ツバキタンニンA)、コルヌスオフィシナリス(Cornus officinalis)(コルヌシン(cornussin)A)、ゲラニウム・チュベルギイ(Geranium thunbergii)(ゲラニイン)、ゲウム・ジャポニクム(Geum japonicum)(ゲミン-A)、リクイダンバル・フォルモサナ(Liquidambar formosana)(カスアリクチン)、マロタス・ジャポニカス(Mallotus japonicus)(マロツシニン酸)、オエノセラ・エリスロセパラ(Oenothera erythrosepala)(エノテインB)、プニカ・グラナツム(Punica granatum)(ザクロ)(グラナチンB)、ロサ・ルゴサ(Rosa rugosa)(ルゴシン)およびテルミナリア・ケブラ(Terminalia chebula)(ケブリン酸)が含まれる。これらの薬草の主要な使用は、それらの抗酸化、下痢止め、抗菌および免疫調節活性に関連するものである。
【0096】
エラジタンニンは、イチゴ、レッドおよびブラックラズベリー(Zafrilla et al.,2001)、ブルーベリーおよびブラックベリーを含め、多くの液果類にも非常に大量に存在する。エラジタンニンはまた、リンゴ、サクランボ、クラウドベリー、クランベリー、カラント、ブドウ、ライム、マンゴ、パイナップル、ザクロ、プルーン、ルバーブにも存在する。Serrano et al.(2009)Mol Nutr Food Res.53:S310-29。エラジタンニン ルブスアビインCを甜葉ルブス・スワビシウム・エス・リー(Rubus suavissimus S.Lee)の葉から単離することができる。エラジタンニンは、クルミ(Fukuda et al.,2003)、ピスタチオ、カシューナッツ、クリ、ドングリ(Cantos et al.,2003)ピーカン(Villarreal-Lozoya et al.,2007)およびピーナツを含むナッツ類においても相当量が同定されている。
【0097】
これらは、ザクロ(Gil et al.,2000)およびマスカディン ブドウ(Lee and Talcott,2002)においても大量に存在し、樹木、特にオークの重要な構成成分である(Glabasnia and Hofmann,2006)。エラジタンニンは、様々な熟成過程中の樹木から食物マトリクスへの移動を通じて、ワインおよびウイスキーなどの食品中に取り込まれる場合がある。エラグ酸はいくつかのタイプの蜂蜜でも見出されており、より健康によい蜂蜜のための花のマーカーとして提案されている(Ferreres et al.,1996)。グルコシド、ラムノシド、アラビノシドおよび対応するアセチルエステルを含む、遊離エラグ酸および様々なグリコシド誘導体もこれらの食品中に存在する(Zafrilla et al.,2001)。
【0098】
多くの研究から、いくつかの食品のエラジタンニン含量が非常に高い場合があることが示されてきた(表1)。例えば、ザクロ果汁一杯(200mL)から、エラジタンニンおよびエラグ酸を合わせて1g程度提供でき、ラズベリー(100g)から300mg前後、イチゴから70mg、クルミ4個から約400mg提供できる。
【0099】
代表的な食物エラジタンニンは、ザクロのプニカラギン、イチゴおよびラズベリーのサングイイン-H-6およびクルミのペドゥンクラジン(pedunculagin)を含む。他の代謝産物も産生され、個々のエラジタンニン(例えばガラギン酸およびter-ガラギン酸(ter-gallagic acids))は独特である場合もあるものの、これら全てがエラグ酸を加水分解で放出する。
【0100】
【0101】
エラジタンニンは、2量体およびオリゴマー誘導体を形成する、膨大な構造多様性を有する。これらはまたガロタンニンよりも広く分布している。さらなるエラジタンニンと、報告されているその供給源とを表2に示す。
【0102】
【0103】
【0104】
ターミナリア属植物の様々な種から、活性があるかもしれない多くのエラジタンニンが単離できる。特に、プニカラギンおよびプニカリンの両方とも、例えばT.カタッパ(T.catappa)、T.ケブラ・レツ(T.chebula Retz)、T.ミリオカルパ(T.myriocarpa)およびT.シトリン(T.citrine)を含むいくつかのターミナリア属の種において同定されている。プニカラギンは、シスタス・サルビフォリウス(Cistus salvifolius)(地中海沿岸の低木)およびコンブレタム・モレ(Combretum molle)(アフリカの低木)からも単離されている。
【0105】
通常、エラグ酸は植物組織中で比較的少量見出される。エラグ酸は、エラジタンニンに由来すると考えられており、エラジタンニンがヘキサヒドロキシジフェン酸から分解されるときに自然にエラグ酸に変換される。エラグ酸のさらなる供給源の一部が表3に示される。
【0106】
【0107】
ザクロ(プニカ・グラナツム(Punica granatum))果実は、民間療法において何世紀にもわたり使用されてきた古代の薬用食物である。これらは、新鮮なままおよび果汁として摂取され、エラジタンニンおよびエラグ酸の優れた供給源である。ザクロ果実殻および果汁中のエラジタンニンは、プニカリン、プニカラギン、コリラジン、カスアリニン、テルミナリン/ガラギルジラクトン、ペドゥンクラジン(pedunculagin)、テリマグランジン、グラナチンAおよびグラナチンBを含む。ザクロ植物の他の部分は、プニカホリン、プニカコルテインA、プニカコルテインB、プニカコルテインC、プニカコルテインDおよびプニグルコニンを含むさらなるエラジタンニンを含有する。市販の果汁は、プニカラギン異性体(1500-1900mg/L)、特定されていない加水分解性のタンニン(400-500mg/L)およびエラグ酸およびそのグリコシド(120-260mg/L)(Gil et al.,2000)を含む、ガラギン型のエラジタンニンを含有する。ガラギン酸およびエラグ酸がグルコース分子に連結しているエラジタンニンであるプニカラギンは、ザクロ果皮に豊富に存在する。プニカラギン異性体およびエラグ酸誘導体は仮種皮汁には存在しないが、工業的な果汁製造過程でこれらは外皮および仮種皮周囲の膜から抽出され、果汁中に大量に放出される。
【0108】
本発明の抽出物は、最初に果実の汁を搾ることによって調製することができ、例えば、果実全体に加圧するか、あるいは、最初にザクロの外殻を剥き、次いで、仮種皮、仮種皮を閉じ込める膜性物質および外殻をはずす際に生成した外皮物質から構成される残りの部分に加圧するかにより、果実を丸ごと搾ることを含む場合がある、当技術分野で知られた標準的な工業的果汁搾取法を用いてザクロを搾り得る。代替的には、エラジタンニン、特にプニカラギンに富む供給源である外皮を水抽出を含む果汁搾取過程に供される場合がある。代替的な非水抽出法は、例えばエタノール、アセトンまたはメタノールなどの他の溶媒を利用する場合がある。
【0109】
通常、抽出物は水性抽出物であり、これは、基本的に果汁からなり得、場合によってはさらなる水が追加される。このような水性抽出物は、例えば標準的技術、例えば減圧蒸発およびろ過法によって、濃縮するか、濃厚化するか凝縮することができる。濃縮物の例は、少なくとも2倍濃縮、より一般的には少なくとも4倍、例えば、少なくとも8倍か、少なくとも40倍か、少なくとも100倍か、少なくとも200倍か、少なくとも1000倍かに濃縮されるものである。
【0110】
例えば、分子量ろ過か、セファロースゲル(サイズ排除クロマトグラフィー用)などの適切な固体支持体上でのクロマトグラフィーか、適切に処理されたシリカまたはアルミナ、例えばODSコーティングシリカ上でのHPLCを用いるイオン交換カラムか、溶媒抽出かによって、抽出物中の1種類以上の活性成分を単離するために抽出物を分画することができる。
【0111】
インビトロ消化模倣実験から、一般的に、エラジタンニンは胃の生理的条件下で非常に安定であることが示されている。酸性条件(HCl、pH1.8-2.0)および胃の酵素は、元のエラジタンニンを加水分解して遊離エラグ酸(EA)を放出させず、エラジタンニンの分解は観察されていない(Tomas-Barberan et al.,2009)。胃は遊離EAの吸収に対して最初の重要な場所であると思われるが、一方で、エラジタンニンは吸収されない。しかし小腸の生理的条件下では、エラジタンニンから遊離EAが放出がされる。この加水分解は、膵臓酵素および胆汁塩の影響というよりpH条件(中性からややアルカリ性pH、7.0-7.3)によるものと思われる(Larrosa et al.,2006)。
【0112】
EAおよびエラジタンニンのバイオアベイラビリティーおよび代謝を評価するために、動物実験も使用されてきた。DoyleおよびGriffiths(1980)により、ラットにおけるEAの迅速な吸収および代謝が報告された。これらの著者は、糞便および尿においてウロリチンA(UA)および別の代謝産物(ほぼ確実にウロリチンB(UB))を検出した。UAおよびUBの両者とも、無菌動物では見られなかったので、微生物叢起源のものであることが分かった。尿または糞便中に変化しないEAは検出されなかった。これらのウロリチンは、腸細胞により大量に吸収され、グルクロン酸抱合される。この場合、UAおよびUBはその分子中にオルト-ジヒドロキシ基を有さないので、メチルエーテルは生成されず、したがってカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)に対する基質ではない。UBの場合、チトクロムP450によってさらなるヒドロキシが導入され得、これは、グルクロン酸化の可能性を高め、代謝産物の排出を促進する。TeelおよびMartin(1988)は、遊離EAおよびいくつかの抱合体(硫酸エステル、グルクロニドおよびグルタチオン抱合体)の両方が、マウス尿、胆汁および血液中で検出されることを見出した。3H-EAの吸収は、ほとんどが経口投与の2時間以内に起こった。血液、胆汁および組織中のレベルは低く、吸収された化合物は尿中に排出された。投与された3H-EAの半分超が24時間後、消化管に留まっていた。
【0113】
様々な食物性ETおよびEA誘導体の代謝がヒトで評価されてきた。40名の健常ボランティアを含む試験において、4群に分け、イチゴ(250g)、レッドラズベリー(225g)、クルミ(35g)およびオーク樽熟成赤ワイン(300mL)を含む様々なET含有食品を与えた。イチゴおよびラズベリーの両者とも、ETサングイインH-6を含有し;クルミはETペドゥンクラジン(pedunculagin)を含有し;オーク樽熟成ワインはETべスカラギンを含有した。摂取後、8、16、32、40および56時間の5回、尿画分を回収した。ETもEAも、LC-MS/MS分析を用いて尿中では検出されなかった。しかし、摂取した食品にかかわらず、グルクロン酸抱合された細菌代謝産物3,8-ジヒドロキシ-6H-ジベンゾ[b,d]ピラン-6-オン(ウロリチンB)が、全被験者において、32時間から始まり、56時間まで、画分中で検出された。得られた結果によれば、摂取したETとは独立に、ウロリチンB誘導体が排出された。摂取したET中の一般的な単量体部分はEA(301でm/z-)であり、つまり、ET分子に属するこのサブユニットがウロリチンB誘導体を生成させるのに非常に重要な分子であったことが示され得る。ザクロ果汁を摂取したヒトにおいて、エラグ酸およびウロリチンへの同様の代謝変換がエラジタンニンに対して観察された(Cerda,Espin et al.2004;Cerda,Periago et al.2005)。
【0114】
エラジタンニンの代謝およびバイオアベイラビリティーにおける主要な因子の1つは、一連のウロリチン誘導体を与えるためのそれらの微生物による変換である(
図2)。中でも、最もよく特徴が調べられており、知られているものはウロリチンAおよびBであるが、3および4個のヒドロキシルを有する中間体も小腸において生成され、吸収されて、メチルエーテルおよびグルクロニドとの共役後、胆汁において排出される(Esp▲iにアクサン記号▼n et al.,2007)。動物実験から、これらの代謝産物が、小腸において形成され始めることが示されており、このことから、嫌気性細菌がこれに関与する場合があることが示唆される。代謝は胃腸管に沿って継続し、ウロリチンDおよびCで開始し、ウロリチンAおよびBの産生で終わる。ヒトボランティアによるこれらの代謝産物生成の相違から、これらの代謝産物が、消化管に存在する特異的な微生物の活性により産生されるかもしれないことが示される。
【0115】
消化管その他の組織において(主に肝臓)、EAおよびエラジタンニン微生物代謝産物は、フェーズI(ヒドロキシル化)およびフェーズII(メチル化、グルクロン酸抱合および硫酸化)酵素のいずれかによってさらに代謝され、組織中に分布し、次いで尿中で排出され得る、より可溶性の高い代謝産物となる。
【0116】
したがって、UBはヒドロキシル化されてUAを生成し、これはさらにヒドロキシル化されて、トリヒドロキシ誘導体を生成する場合がある。
【0117】
フェーズII産物もまた生成し、メチルエーテル(COMTの産物)ならびに様々なグルクロニド抱合体が様々な組織および尿中で検出される。エラジタンニン代謝産物の硫酸抱合体は、動物およびヒトにおいてグルクロニド抱合体よりも少ない。これらの抱合体は、最初に腸細胞で産生され、尿または胆汁中で排出される前に肝臓でさらに代謝される。
【0118】
まとめると、エラジタンニンは一般に、消化管で吸収されない。むしろ、これらは、消化管中でEAを放出するが、これは胃および小腸では僅かしか吸収されない。EAは、腸内腔の未確認の細菌により主として代謝され、ウロリチンが生成する。細菌による代謝は小腸で開始され、生成する第一の代謝産物は、4個のフェノール性ヒドロキシル基(ウロリチンD、4個のヒドロキシル基)を保持し、これらは腸管に沿ってさらに代謝され、ヒドロキシ単位が除去され、ウロリチンC(ヒドロキシル基3個)、ウロリチンA(ヒドロキシル基2個)および、結腸の末端部でB(ヒドロキシル基1個)となる(
図2)。吸収された代謝産物は、グルクロン酸(1または2単位)および/またはメチルエーテル(オルト-ジヒドロキシル基が存在する場合)と抱合化される。ウロリチンAおよびB抱合体は、血漿および尿中で検出される主要な代謝産物であるが、一部のトリヒドロキシ誘導体(ヒドロキシ-UA)またはEA-ジメチルエーテルグルクロニドも少量検出されている。テトラヒドロキシ-ウロリチン、トリヒドロキシ-ウロリチンおよびEA誘導体は、一般的に末梢血漿中では検出されないが、これらは小腸で吸収され、肝臓に運ばれ、ここでさらに代謝されて、胆汁とともに小腸に排出され、血漿および尿中の比較的寿命が長いウロリチンに関与する腸肝循環を確立する。
【0119】
自然食品からの供給源に加えて、この20年間、タンニン、特にエラジタンニンの生合成、単離および生物学的活性についての多くの論文が現れた(例えば、Xie et al.,1995,Yoshida et al.,1982,1984,1985,1986,1989,1990a/b,1991a-d,1992a/b,1995,Nonaka et al.,1980,1984,1989a-c,1990,Tanaka et al.,1986a/b,1990,1992a/b,2001,Hatano et al.,1988,1989,1990a-c,1991,1995,Lin et al.,1990,Nishizawa et al.,1982,1983,Haddock et al.,1982a/b,Kashiwada et al.,1992a/b,1993,Kadota et al.,1990,Okuda et al.,1982a-e,1983a/b,El-Mekkawy et al.,Chemistry and Biology of Ellagitannins 154 1995,Tsai et al.,1992,Han et al.,1995,Chen et al.,1995,Morimoto et al.,1986a/b,Saijo et al.,1989)。天然の供給源からの単離による純粋なエラジタンニンの入手は煩雑で、純粋な天然産物は比較的少量しか回収され得ない。例えば、Okuda et al.,(1982)Chem Pharm Bull.30:4230-4233;Okuda et al.(1982)Chem Pharm Bull.30:234-4236参照。したがって、多くのエラジタンニンの全合成のための方法が公知であることは注目に値する。例えば、エラジタンニンの合成については、Khanbabaee,K.Strategies for the synthesis of ellagitannins,In:Chemistry and Biology of Ellagitannins,Ed.S.Quideau,World Scientific Publishing,Singapore,2009,pp.152-202(そこで引用される参考文献を含む。)を参照。
【0120】
様々なインビトロアッセイを使用することにより、エラジタンニンが豊富な食物抽出物の抗酸化活性が調べられており、イチゴ(Meyers et al.,2003,Aaby et al.,2005,2007)、ラズベリー(Liu et al.,2002,Beekwilder et al.,2005)、クラウドベリー(K▲aにウムラウト記号▼hk▲oにウムラウト記号▼nen et al.,2001)その他のキイチゴ属の液果類(Wada and Ou,2002)、ザクロ(Gil et al.,2000)およびクルミ(Anderson et al.,2001)およびそれらのエラジタンニンが高活性であることが広く報告されている。これらの食品はまた、他の植物に基づく食品と比較した場合、上位を占める。
【0121】
インビボでの抗酸化状態において、エラジタンニンに富む食品の摂取の影響についてはあまり分かっていない。高齢女性において、240gのイチゴの摂取後、4時間の間約10%、血清の総抗酸化能が上昇した(Cao et al.,1998)。標準ザクロ抽出物の単回投与(Mertens-Talcott et al.,2006)およびザクロ果汁の長期摂取(Rosenblat et al.,2006)もヒトボランティアにおいて一部の抗酸化パラメータが改善した。しかし、3週間にわたりクルミを毎日摂取しても、メタボリックシンドロームの被験者の抗酸化状態に対する効果はなかった(Davis et al.,2007)。
【0122】
癌細胞成長は、増殖とアポトーシスとの間の均衡に依存する。無秩序な細胞増殖およびアポトーシスの抑制は、癌の発生および進行における重要な段階である。エラジタンニンに富む食物の抽出物は、細胞増殖を阻害し、アポトーシス細胞死を誘導し、細胞周期キネティクスおよびシグナル伝達経路を調節することによって、インビトロで癌細胞の成長を抑えることについて、多くの証拠がある。
【0123】
癌細胞株を用いて行われたインビトロ試験から、ヒト結腸癌、肝臓癌、肺癌、乳癌または子宮頸部癌細胞において、イチゴ(Meyers et al.,2003,Olsson et al.,2004,Ramos et al.,2005,Wang et al.,2005,Wu et al.,2007)、ラズベリー(Liu et al.,2002,Olsson et al.,2004,Wu et al.,2007)、クラウドベリー(Wu et al.,2007)およびローズヒップ(Olsson et al.,2004)が細胞増殖を阻害し、アポトーシスを誘導し、細胞周期停止を引き起こすことが示された。これらの実験において、液果抽出物の活性におけるエラジタンニンの関与は評価されなかった。しかし、最近の実験(Ross et al.,2007)から、ラズベリーの抗増殖活性が主にエラジタンニンに関与することが示唆される。
【0124】
ザクロ果汁およびそのエラジタンニンが、結腸癌細胞株において、増殖を阻害し、アポトーシスを誘導し、炎症性細胞シグナル伝達を抑制することも報告されている(Seeram et al.,2005,Adams et al.,2006,Larrosa et al.,2006)。同様に、マスカディングレープ皮中のポリフェノールは、結腸癌細胞の成長を阻害し、アポトーシスを誘導する(Yi et al.,2005)。赤マスカディングレープから分離し、エラグ酸、エラグ酸グリコシドおよびエラジタンニンに富む画分は、結腸癌腫細胞において、アポトーシスを誘導し、細胞数を減少させ、細胞周期カイネティクスの変化を引き起こす(Mertens-Talcott et al.,2006)。
【0125】
ザクロ果汁は、インビトロで前立腺癌細胞に対して有効であるが、正常な前立腺上皮細胞に対しては影響はない。ザクロ果実抽出物による、侵襲性が高いヒト前立腺癌細胞の治療の結果、細胞成長および生存能が阻害され、アポトーシスが誘導された(Malik et al.,2005,Malik and Mukhtar,2006)。
【0126】
本発明によれば、今回、エラジタンニンならびに、エラグ酸および、特にウロリチンを含むそれらの代謝産物が、予想外に、ミトコンドリアにおいて保護および回復効果を示すことが発見された。何らかの特定の機序に限定される意味ではないが、様々なタイプのストレスの結果、ミトコンドリアに対してストレス障害が生じ、それによって細胞機能全体に必須である多くの機能を遂行するそれらの能力が低下すると考えられる。本発明の方法は、ミトコンドリアに対するストレス障害を含む状態を治療するのに有用であり、これらの障害は、ミトコンドリア病を含むが限られない多くの点のいずれかにおいて明らかになり得る。
【0127】
ミトコンドリアは細胞の「発電所」である。これらの二重膜細胞小器官は、酸化的リン酸化を介した細胞エネルギー(ATP)の大部分を産生するうえで重要な役割を果たす。ミトコンドリアは、重要なシグナル伝達機能およびカルシウムホメオスタシスの調整とともに、脂肪酸β-酸化、アミノ酸の異化、ケトン生成および反応性酸素種(ROS)生成など、他の重要な代謝機能に対しても必須である。
【0128】
ミトコンドリアのマトリクスは、アシル鎖からアセチル-CoAを生成させる、脂肪酸β-酸化と、この過程における還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)および還元型フラビンアデニンジヌクレオチド(FADH2)の形態の等価物を還元するためとの酵素的機構を含有する。アセチル-CoAは、クエン酸回路またはクレブス回路としても知られるトリカルボン酸(TCA)回路を促進し、これによってNADHおよびFADH2も生成する。これらの生成物は、電子伝達系(ETC)に電子を付与し、これによりミトコンドリア内膜を挟むプロトン勾配が生じる。ミトコンドリアのATPシンターゼを通じたこの勾配の解消によってATP型のエネルギーが生じる。
【0129】
ETCは、4個の大型の複数サブユニット複合体(複合体IからIV)から構成され、これらは、TCA回路により生成された電子を最終的な受容体である分子酸素(O2)に輸送し、複合体IVにおいてH2Oが形成される。電子の輸送には、大量の自由エネルギーの放出が伴い、このほとんどが、マトリクスから膜間腔へのプロトン(H+)の転位(プロトン駆動力)を利用しており、残りは熱とし散逸する。次に、ETCにより生じるH+電気化学勾配に含有されるエネルギーが、ミトコンドリアATPシンターゼを通じてマトリクスにH+が逆流する際にATP産生と共役する。したがって、電子輸送、プロトン勾配生成および、続いて、ミトコンドリアATPシンターゼと共役したプロトン流動の結果、酸化的リン酸化が起こる。
【0130】
ROSは、ATPを産生させずにプロトン勾配を解消させる脱共役タンパク質(UCP)も活性化する場合がある。UCPは、大きなプロトン勾配の形成を軽減することによりROS産生に反応してこれを制御するこの過程の天然の制御因子と考えられる。さらに、UCPおよび呼吸脱共役は、適応熱発生、脂肪酸酸化の制御、炎症への関与、ROS生成の阻止、グルコースホメオスタシス、体重制御および老化など、多くの重要な生理学的および病理学的過程に関与する。
【0131】
クエン酸シンターゼは、ミトコンドリアTCA回路の最初の酵素である。この酵素は、アセチルコエンザイムA(アセチルCoA)とオキサロ酢酸との間の反応を触媒し、クエン酸を生成させる。この酵素の活性は、ミトコンドリア密度(細胞あたりのミトコンドリア数)およびミトコンドリア呼吸活性に比例してその活性が向上するので、ミトコンドリア生合成およびミトコンドリアの酸化的リン酸化の両方を反映する。結果として、クエン酸シンターゼの測定により、ミトコンドリア機能状態の全体的評価が可能となり、活性が高いほど酸化的リン酸化およびATP合成の向上を示し、活性が低いと逆を示す。
【0132】
ミトコンドリア機能の改善につながる基本的な分子機序をより詳細に理解するために、酸化的リン酸化、ミトコンドリア鎖複合体(mitochondrial chain complex)、TCA回路、脱共役タンパク質、転写因子、補因子およびROS除去タンパク質を包含する(ミトコンドリアDNAおよびゲノムDNAをコード化する)重要なミトコンドリア遺伝子のプロフィールが調べられる場合がある。
【0133】
生物学および医学での従来の教示は、ミトコンドリアは細胞のための「エネルギー工場」としてのみの機能することである。しかし、ミトコンドリアタンパク質をコードする95%を超える(3000個のうち2900個の)遺伝子が、それらが存在する分化した細胞の特別な役割とつながりのある他の機能に関与する。これらの役割は、胚から成体への発生過程で発達し、組織が成長するにつれて、成熟し、生後の環境に適応する。これらの他の非ATP関連機能は、その分子構成要素を構築し、分解し、再利用するために細胞により使用される主要な代謝経路のほとんどと密接に関与する。細胞は、ミトコンドリアなしでは、それらが成長および機能するために必要なRNAおよびDNAさえ生成させることができない。RNAおよびDNAの構成要素は、プリン類およびピリミジン類である。ミトコンドリアは、ヘモグロビン産生に必要とされるピリミジン生合成(ジヒドロオロト酸デヒドロゲナーゼ)およびヘム合成(d-アミノレブリン酸シンテターゼ)に対する律速酵素を含有する。肝臓において、ミトコンドリアは、尿素回路でアンモニアを解毒するように特殊化されている。ミトコンドリアはまた、コレステロール代謝、エストロゲンおよびテストステロン合成、神経伝達物質代謝、およびフリーラジカル生成および解毒にも必要とされる。ミトコンドリアは、食事中に摂取された脂肪、タンパク質および炭水化物を酸化することに加えて、これを全て行う。
【0134】
ミトコンドリア病は、通常はミトコンドリアに存在するタンパク質またはRNA分子の機能変化につながる、ミトコンドリアDNAまたは核DNA中の遺伝性または自然発生突然変異のいずれかの結果である。しかし、ミトコンドリア機能に伴う問題は、完全には理解されていない発生および成長中に生じる因子の結果としてある種の組織にしか影響を与え得ない。ミトコンドリアタンパク質の組織特異的なアイソフォームを考慮しても、臨床で見られるミトコンドリア病症候群における罹患臓器系の多様なパターンを説明するのは困難である。
【0135】
ミトコンドリア病は、赤血球細胞を除く身体の全ての細胞に存在する特殊化した区画であるミトコンドリアの機能不全が原因である。ミトコンドリアは、生命を維持し、成長を支持するために身体により必要とされるエネルギーの90%をこえる量を生成する責を担っている。ミトコンドリアが故障すると、細胞内で産生されるエネルギーが非常に少なくなる。細胞損傷および細胞死にさえもつながる。全身でこの過程が繰り返されると、系全体が機能不全となり始め、これが起こると生命が非常に脅かされる。ミトコンドリア病は主に小児で起こるが、成人での発症がより認識され始めている。
【0136】
ミトコンドリアの疾患は、脳、心臓、肝臓、骨格筋、腎臓および内分泌および呼吸器系の細胞に最も重い障害を引き起こすと思われる。
【0137】
ミトコンドリア障害における多くの症状は非特異的である。該症状は、周期的な増悪を伴うエピソード的経過も示す場合がある。ミトコンドリア医学に関する総説論文では、ミトコンドリア障害の様々な現象の中でも、偏頭痛エピソード症状と、筋肉痛、胃腸症状、耳鳴り、うつ、慢性疲労および糖尿病とに言及されている(Chinnery and Turnbull(1997)QJM 90:657-67;Finsterer(2004)Eur J Neurol.11:163-86)。ミトコンドリア障害がある患者において、臨床症状は通常、疾病、飢餓、過剰な運動および極度の環境温度など、生理学的ストレス因子と関連するより高いエネルギー要求時に起こる。さらに、心理学的ストレス因子もしばしば症候を誘発するが、これは、おそらく、より高い脳エネルギー要求に対して患者が十分にATP産生できないためである。
【0138】
どの細胞が影響を受けるかに応じて、症状は、運動制御喪失、筋肉衰弱および疼痛、胃腸障害および嚥下困難、成長不良、心臓病、肝臓病、糖尿病、呼吸合併症、発作、視覚/聴覚問題、乳酸アシドーシス、発育遅延および易感染性を含む場合がある。
【0139】
ミトコンドリア病は、アルパース病;バース症候群;β酸化不全;カルニチン欠損症;カルニチン-アシル-カルニチン欠損症;慢性進行性外眼筋まひ症候群;コエンザイムQ10欠損症;複合体I欠損症;複合体II不全;複合体III欠損症;複合体IV欠損症;複合体V欠損症;CPT I欠損症;CPT II欠損症;クレアチン欠損症候群;チトクロムcオキシダーゼ欠損症;II型グルタル酸尿症;カーンズ・セイヤー症候群;乳酸アシドーシス;LCHAD(長鎖アシル-CoAデヒドロゲナーゼ欠損症);レーバー遺伝性視神経萎縮症;リー病;致死性小児心筋ミオパチー;ルフト病;MAD(中鎖アシル-CoAデヒドロゲナーゼ欠損症);ミトコンドリアの細胞障害;ミトコンドリアDNA欠乏;ミトコンドリア脳筋症、乳酸アシドーシスおよび脳卒中様症状;ミトコンドリア脳障害;ミトコンドリア筋症;ミトコンドリア劣性運動失調症候群;筋ジストロフィー、ミオクローヌス癲癇および赤色ぼろ線維病;筋神経胃腸脳症;ニューロパチー、運動失調、網膜色素変性および下垂;ピアソン症候群;POLG突然変異;ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症;ピルビン酸デヒドロゲナーゼ欠損症;SCHAD(短鎖アシル-CoAデヒドロゲナーゼ欠損症);および超長鎖アシル-CoAデヒドロゲナーゼ欠損症を含むが、これらに限られない。
【0140】
本発明の1つの局面は、肥満、新陳代謝速度低下、メタボリックシンドローム、糖尿病、心血管疾患、高脂血症、神経変性疾患、認知障害、気分障害、ストレスおよび不安障害からなる群から選択される症状の治療または予防のためか;体重管理のためか;筋機能または精神能力を向上させるためかの有効量のザクロ抽出物を含む食品または栄養サプリメントである。
【0141】
本明細書中で使用されるところの「食品」とは、自然食品から調製される製品を指す。食品の非限定例は、ジュース、ワイン、濃縮物、ジャム、ゼリー、保存料、ペーストおよび抽出物を含む。本明細書中で使用されるところの「栄養サプリメント」とは、そのカロリー含量よりも主にその健康増進特性のために摂取または他の投与に適する製品を指す。
【0142】
本明細書中で使用されるところの「メタボリックシンドローム」という用語は、同時に発症するとき、心血管疾患および糖尿病を発症するリスクを高める医学的障害の組み合わせを指す。米国では5人に1人が罹患しており、年齢とともに罹患率が上昇する。一部の研究から、米国での罹患率は、人口の25%と推定されることが示されている。International Diabetes Foundation consensus worldwide definition(2006)によれば、メタボリックシンドロームとは中心性肥満に加えて次のいずれか2つがあてはまるものを指す:
高トリグリセリド:>150mg/dL(1.7mmol/L)またはこの脂質異常に対する具体的な治療;
男性の場合、低HDL コレステロール:<40mg/dL(1.03mmol/L)、女性の場合<50mg/dL(1.29mmol/L)またはこの脂質異常に対する治療;
高血圧:収縮期BP>130または拡張期BP>85mmHgまたは既に診断が下っている高血圧の治療;および
高空腹時血糖値:(FPG)>100mg/dL(5.6mmol/L)または既に診断が下っている2型糖尿病。
【0143】
本発明の1つの局面は、肥満、新陳代謝速度低下、メタボリックシンドローム、糖尿病、心血管疾患、高脂血症、神経変性疾患、認知障害、気分障害、ストレスおよび不安障害からなる群から選択される症状の治療または予防のための;体重管理のための;または筋機能もしくは精神能力を向上させるための、有効量のエラジタンニンを含む、食品または栄養サプリメントである。
【0144】
一部の実施形態において、本発明のこの局面およびその他の局面によれば、エラジタンニンは、2-O-ガロイル-プニカリン、カサウリクチン(Casaurictin)、カスタラギンおよびベカラギン(vecalagin)、カスタリン、カスアリクチン、カスアリイン、カスアリニン、ケブラジン酸、ケブリン酸、コリラジン、コルヌシインE、エピプニカコルテインA、フロシンB、ゲミンD、グラナチンA、グラナチンB、グランジニン、ラゲルストロエミン、ランベルチアニンC、ペドゥンクラジン(pedunculagin)、プニカコルテインA、プニカコルテインB、プニカコルテインC、プニカコルテインC、プニカコルテインD、プニカホリン、プニカラギン、プニカリン、プニグルコニン、ロブリンA、ロブリンB、ロブリンC、ロブリンD、ロブリンE、ルブスアビインC、サングイインH-4、サングイインH-5、サングイインH-6、サングイインH-10、スタキウリン、ストリクチニン、テリマグランジンI、テリミグランジン(Tellimigrandin)II、テルケブリン、テルフラビンA、テルフラビンB、テルガラギンおよびテルミナリン/ガラギルジラクトンからなる群から選択される。言うまでもなく、さらなるエラジタンニンも本発明により意図される。
【0145】
本発明の1つの局面は、肥満、新陳代謝速度低下、メタボリックシンドローム、糖尿病、心血管疾患、高脂血症、神経変性疾患、認知障害、気分障害、ストレスおよび不安障害からなる群から選択される症状の治療または予防のためか;体重管理のためか;筋機能または精神能力を向上させるためかの有効量のプニカラギンを含む、食品または栄養サプリメントである。
【0146】
本発明の1つの局面は、肥満、新陳代謝速度低下、メタボリックシンドローム、糖尿病、心血管疾患、高脂血症、神経変性疾患、認知障害、気分障害、ストレスおよび不安障害からなる群から選択される症状の治療または予防のための;体重管理のための;または筋機能もしくは精神能力を向上させるための、有効量のエラグ酸を含む、食品または栄養サプリメントである。
【0147】
本発明の1つの局面は、肥満、新陳代謝速度低下、メタボリックシンドローム、糖尿病、心血管疾患、高脂血症、神経変性疾患、認知障害、気分障害、ストレスおよび不安障害からなる群から選択される症状の治療または予防のためか;体重管理のためか;筋機能もしくは精神能力を向上させるためかの有効量のウロリチンを含む食品または栄養サプリメントである。
【0148】
一部の実施形態において、本発明のこの局面およびその他の局面によれば、ウロリチンはウロリチンAである。一部の実施形態において、本発明のこの局面およびその他の局面によれば、ウロリチンはウロリチンBである。一部の実施形態において、本発明のこの局面およびその他の局面によれば、ウロリチンはウロリチンCである。一部の実施形態において、本発明のこの局面およびその他の局面によれば、ウロリチンはウロリチンDである。
【0149】
前述のそれぞれにおいて、1つの実施形態では、前記症状は肥満である。
【0150】
前述のそれぞれにおいて、1つの実施形態では、前記症状は新陳代謝速度低下である。
【0151】
前述のそれぞれにおいて、1つの実施形態では、前記症状はメタボリックシンドロームである。
【0152】
前述のそれぞれにおいて、1つの実施形態では、前記症状は糖尿病である。
【0153】
前述のそれぞれにおいて、1つの実施形態では、前記症状は心血管疾患である。
【0154】
前述のそれぞれにおいて、1つの実施形態では、前記症状は高脂血症である。
【0155】
前述のそれぞれにおいて、1つの実施形態では、前記症状は神経変性疾患である。
【0156】
前述のそれぞれにおいて、1つの実施形態では、前記症状は認知障害である。
【0157】
前述のそれぞれにおいて、1つの実施形態では、前記症状は気分障害である。
【0158】
前述のそれぞれにおいて、1つの実施形態では、前記症状はストレスである。
【0159】
前述のそれぞれにおいて、1つの実施形態では、前記症状は不安障害である。
【0160】
前述のそれぞれにおいて、1つの実施形態では、前記食品または栄養サプリメントは体重管理用である。
【0161】
前述のそれぞれにおいて、1つの実施形態では、前記食品または栄養サプリメントは、筋機能を向上させるためである。
【0162】
前述のそれぞれにおいて、1つの実施形態では、前記食品または栄養サプリメントは精神能力を向上させるためである。
【0163】
本発明の1つの局面は、ミトコンドリア機能を向上させるかまたは維持する方法である。該方法は、ミトコンドリアの機能を向上させるために、有効量のウロリチンまたはその前駆体と細胞を接触させるステップを含む。
【0164】
本発明の1つの局面は、ミトコンドリア機能の変化またはミトコンドリア密度の低下を伴うミトコンドリア関連疾患または症状を、治療、予防または管理する方法である。該方法は、ミトコンドリア機能の変化またはミトコンドリア密度の低下を伴う疾患または症状を治療するために、必要とする対象に治療的有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。
【0165】
本発明の1つの局面は、新陳代謝速度を向上させる方法である。該方法は、新陳代謝速度を向上させるために、必要とする対象に有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。本明細書中の他所で記載したとおり、ウロリチンの前駆体は、エラジタンニン、プニカラギンおよびエラグ酸を含む場合があるが、これらに限られない。
【0166】
本発明の1つの局面は、メタボリックシンドロームを予防または治療する方法である。該方法は、メタボリックシンドロームを予防または治療するために、必要とする対象に有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。
【0167】
本発明の1つの局面は、肥満を予防または治療する方法である。該方法は、肥満を予防または治療するために、必要とする対象に有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。
【0168】
本発明の1つの局面は、心血管疾患を予防または治療する方法である。該方法は、心血管疾患を予防または治療するために、必要とする対象に有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。
【0169】
本発明の1つの局面は、高脂血症を治療する方法である。該方法は、高脂血症を治療するために、必要とする対象に有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。1つの実施形態では、高脂血症とは高トリグリセリド血症である。1つの実施形態では、高脂血症とは遊離脂肪酸の増加である。
【0170】
本発明の1つの局面は、代謝性疾患を治療する方法である。該方法は、代謝性疾患を治療するために、必要とする対象に治療的有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。1つの実施形態では、代謝性疾患とは糖尿病である。1つの実施形態では、代謝性疾患とは肥満である。
【0171】
老化
アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)および筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患に対する圧倒的に大きなリスク因子は老化である。ミトコンドリアは、ミトコンドリアDNA(mtDNA)突然変異の蓄積および反応性酸素種(ROS)の純生産を通じて老化に関与していると考えられている。ほとんどのミトコンドリアタンパク質が核ゲノムによりコードされているものの、ミトコンドリアは、ミトコンドリア自身のDNAの多くのコピーを含む。ヒトmtDNAは、呼吸鎖の13種類のポリペプチド成分と、ミトコンドリア自身の遺伝子コードを用いてミトコンドリア内タンパク質合成を支持するために必要なrRNAおよびtRNAとをコードする、16,569塩基対の環状分子である。mtDNA中の遺伝性突然変異は、様々な疾患を引き起こすことが知られており、これらの疾患のほとんどは、高エネルギーを必要とする組織である、脳および筋肉に影響を与える。加齢とともに獲得された体細胞mtDNA突然変異は、老化とともに生じる生理的低下と、老化が関連する神経変性とに寄与するという仮説が立てられている。mtDNAが、老化とともに突然変異、特に、大規模な欠失および点突然変異を蓄積することは十分に確立している。mtDNA調節領域において、培養繊維芽細胞でのT414G、筋肉でのA189GおよびT408Aおよび白血球細胞でのC150Tのように、特異的な部位での点突然変異が、一部の組織において高レベルで蓄積する場合がある。しかし、これらの調節領域「ホットスポット」は、脳では観察されていない。全体的レベルは高い場合があるが、個々のヌクレオチドでの点突然変異の発生は脳では低レベルのようである。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)-クローニング-配列決定のストラテジーを用いたところ、高齢被験者からの脳mtDNAの2つのタンパク質-コード領域における点突然変異の平均レベルは、10kbあたり~2個の突然変異であったことが分かった。より低い選択圧下にあり得る非コード領域は、2倍から4倍と多く蓄積する可能性がある。老化に伴うこれらの欠失および点突然変異の蓄積は、ミトコンドリア機能低下と相関がある。例えば、脳チトクロムオキシダーゼ活性とチトクロムオキシダーゼ遺伝子(CO1)の点突然変異レベルの上昇との間で逆相関が見出された。
【0172】
ROSの純生産は、ミトコンドリアが老化に関与すると考えられる別の重要な機序である。ミトコンドリアは、ROSを産生することができる複数の電子伝達体ならびに抗酸化防御の広範囲に及ぶネットワークを含む。酸化的損傷自体を含むミトコンドリアの損傷は、ROS産生と除去との間で不均衡を引き起こして、その結果、正味のROSが生成する場合がある。純ミトコンドリアROS生成の老化に対する重要性は、ミトコンドリアの抗酸化防御の促進により寿命が延長され得るという観察により裏付けられる。ショウジョウバエにおいて、ミトコンドリアの抗酸化酵素マンガンスーパーオキシドジスムターゼ(MnSOD)およびメチオニンスルホキシドレダクターゼの過剰発現により寿命が延長される。このストラテジーは、ショウジョウバエの短命系統において最大の効果が発揮され、既に長寿の系統では効果がない。しかし、最近、実験的にミトコンドリアに標的化されたカタラーゼの過剰発現によって、既に長寿であるマウス系統において寿命が延びたことが示されている。
【0173】
老化過程での認知低下は、老齢動物で起こることが観察されており、老化ニューロンのシナプス生理の変化の結果として起こると考えられている。これらの変化は、脳における神経シグナル伝達の統合的機能の総合的な全体的喪失(Bishop,Lu et al.2010)および酸化ストレスおよび炎症の長期にわたる影響を受け易くなること(Joseph,Shukitt-Hale et al.2005)につながると考えられている。通常の老化過程で起こる細胞喪失は、主に、非効率的および部分的な脱共役酸化経路により産生されるフリーラジカルによる酸化ストレスゆえに起こると考えられる。実際に、様々な種(線虫(C.elegans)、ショウジョウバエ、マウス、ラット、チンパンジーおよびヒト)の中で共通する老化の特徴が、ミトコンドリア機能低下の証拠であるということが示されている。この解釈は、ミトコンドリア機能の顕著な障害が線虫(C.elegans)(Rea,Ventura et al.2007)およびマウス(Trifunovic,Wredenberg et al.2004;Kujoth,Hiona et al.2005)の両方で寿命を短縮させるという観察によりさらに確認される。マウスでのカタラーゼの過剰発現を通じたミトコンドリア機能の向上の結果、寿命が延びた(Schriner,Linford et al.2005)。
【0174】
老化およびミトコンドリア機能低下に伴い、脳のニューロンが年齢による病態ならびに細胞死をより起こし易くなる。この結果、ニューロン間の結合がなくなり、ニューロンの機能が低下する(神経伝達物質の喪失、発火の欠如)。後成的機構を通じて遺伝子発現を停止させることによって、ニューロンが未修復のDNA損傷に反応し、これが細胞機能のさらなる抑制につながるという証拠も増えている。さらに、老化した神経細胞は、全ての生物種で、ストレス応答経路に関与する遺伝子発現の増加を示す。
【0175】
これらの変化の多くの特質は、老化神経細胞のインビトロ培養で観察され、これらは、神経突起伸長および突起形成の減少を示す。この減少は神経成長因子により逆転させることができる(Rozovsky,Wei et al.2005)。
【0176】
神経変性障害
神経変性疾患は、解剖学的または生理学的に関連のある神経系の、徐々に進行する選択的喪失を特徴とする障害の不均質なグループである。原型的な例は、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)およびハンチントン病(HD)を含む。
【0177】
神経変性の初期段階は、老化で見られる衰退と同じ多くの特質を共有する。興味深いことに、アルツハイマー病などの疾患は、老化に伴い発症率が上昇し、85歳を超える成人の50%超がこの疾患に罹患している(Hebert,Scherr et al.2003)。以上に説明したとおり、ミトコンドリア機能の低下は、老化の特質であると思われる。この神経機能の低下は、大きな生体エネルギー要求がある神経集団に顕著な影響を有すると思われ、このようなある一連のニューロンとしては、アルツハイマー病で変性する大型錐体ニューロンがある(Bishop,Lu et al.2010)。ミトコンドリア機能低下に応答したこれらのクラスのニューロンの機能低下は、神経変性疾患の発症に関与する場合がある。神経生存に対する神経変性障害の影響をインビトロで模倣することができる。アルツハイマー病の原因物質と考えられているA-β(Aβ)ペプチドとN2神経細胞とをインキュベーションすると、神経突起伸長に顕著な影響が見られ、これは抗酸化物質によって逆転させることができる。Manczak et al.(2010)J Alzheimers Dis.20 Suppl 2:S609-31。
【0178】
神経変性における細胞死の最も一般的な様態は内在性ミトコンドリアアポトーシス経路を介する。この経路は、ミトコンドリアの膜間腔からのチトクロムcの放出を制御することによって、カスパーゼ-9の活性化を調節する。ミトコンドリアの呼吸鎖活性の正常な副産物であるROSの濃度は、マンガンスーパーオキシドジスムターゼ(SOD2)およびグルタチオンペルオキシダーゼなどのミトコンドリアの抗酸化物質によって部分的に媒介される。ROS(酸化ストレス)の過剰産生は、全神経変性障害の主要な特色である。ROS生成に加えて、ミトコンドリアはまた、カルシウムホメオスタシス、ミトコンドリアの分裂および融合、ミトコンドリア膜の脂質濃度およびミトコンドリア透過性転移(MPT)を含め、生命維持機能とも関与する。神経変性へとつながるミトコンドリア病は、少なくともあるレベルで、これらの機能全てを含む可能性がある(DiMauro and Schon,2008)。
【0179】
ミトコンドリア機能不全および酸化ストレスは、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病および筋萎縮性側索硬化症(ルー・ゲーリック病とも呼ばれる。)といった比較的よく知られている4種類の疾患を含む、神経変性疾患の病態と因果関係があるという証拠がある。
【0180】
アルツハイマー病(AD)は、臨床的には進行性の認知低下および病理学的には、主にアミロイド-βペプチド(Aβ)から構成される老人斑と、主に過リン酸化タウからなる神経原線維のもつれとの存在を特徴とする。約5-10%の症例が家族性であり、早期に発症し、常染色体優性遺伝性である。このような家族性の症例に関連する3種類のタンパク質が知られている:アミロイド前駆体タンパク質(APP)--これは順次β-およびγ-セクレターゼにより切断されてAβを生成させる--およびプレセニリン1および2(PS1およびPS2)、これらのどちらか一方が各γ-セクレターゼ複合体の成分である。ADの病態におけるミトコンドリア機能不全および酸化的損傷に対する役割が、広範な文献から裏付けられる。AD脳において、顕著な斑病態の発生前に酸化的損傷が早期に起こる。酸化的損傷は、トランスジェニックAPPマウスにおいてAβ沈着にも先行し、さらにより早期に起こり、酸化的損傷を受けるニューロンと共局在するミトコンドリアの代謝およびアポトーシスに関連する遺伝子の上向き調節を伴う。
【0181】
酸化ストレスおよびAD病態を結び付ける複数の経路が最近明らかになった。酸化ストレスは、APPまたはタウプロセシングを変化させるシグナル伝達経路を活性化する場合がある。例えば、酸化ストレスは、c-Junアミノ末端キナーゼおよびp38マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)の活性化を通じてβ-セクレターゼの発現を上昇させ、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3の活性化によって、異常なタウのリン酸化を増大させる。酸化物で誘発される重要分子の不活性化も重要な場合がある。プロテオミクス研究において、プロリルイソメラーゼPIN1が、酸化的損傷に特に感受性が強いことが分かった。PIN1は、APPおよびタウプロセシングの両方に影響を与えるタンパク質立体配座変化を触媒する。Pin1のノックアウトでは、マウスにおけるアミロイド形成性のAPPプロセシングおよび細胞内Aβレベルを増大する。Pin1-ノックアウトマウスはまた、タウの過リン酸化、運動および行動障害および神経変性も示す。したがって、PIN1および同様に感受性の高いタンパク質の酸化で誘発される損傷は、神経変性過程を促進する上で重要な場合がある。
【0182】
臨床的には進行性の硬直、動作緩慢および振戦を、病理学的には、黒質における色素性ニューロンの喪失およびレビー小体(α-シヌクレインおよびユビキチンに対して免疫染色される特徴的な細胞質封入体)の存在を特徴とするパーキンソン病(PD)においても、ミトコンドリアは重要な役割を果たす。
【0183】
ミトコンドリアは、最初、MPTP(1-メチル4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン)(その代謝産物MPP+は、ミトコンドリアの電子伝達鎖の複合体Iを阻害する。)が合成麻薬乱用者においてパーキンソニズムを引き起こしたことから、PDとの関係が推測された。このモデルは、実験動物において洗練されてきており、ロテノン--別の複合体-I阻害剤--またはMPTPの持続性点滴の結果、臨床的にはパーキンソン病様の表現型が現れ、病理学的には、α-シヌクレインおよびユビキチンに対して免疫反応性のある細胞質内封入体を伴う黒質変性が起こる。これらの複合体-I阻害モデルにおける毒性機序にはおそらく酸化ストレスが関与する。複合体-I阻害および酸化ストレスは、複合体-I欠損およびグルタチオン欠乏が、特発性PDの患者およびPD発症前の患者の黒質で見られたとき、自然発症するPDに関連することが示された。
【0184】
PDに関連する遺伝子の多くもまた、ミトコンドリアの疾病病因との関係を推測させる。今までのところ、mtDNAおよび少なくとも9個の名前のついた核遺伝子における突然変異または多型が、PDを引き起こすかPDリスクに影響を与えるかするものとして同定されている:α-シヌクレイン、パーキン、ユビキチンカルボキシ末端ヒドロラーゼL1、DJ-1、ホスファターゼ・テンシンホモローグ(PTEN)-誘導性キナーゼ1(PINK1)、ロイシンリッチリピートキナーゼ2(LRRK2)、核受容体NURR1、HTRA2およびタウ。核遺伝子のうち、α-シヌクレイン、パーキン、DJ-1、PINK1、LRRK2およびHTRA2は、直接または間接的に、ミトコンドリアと関連がある。少数の症例では、遺伝性mtDNA突然変異の結果、通常、より大きな症候群の1つの特性としてパーキンソニズムが起こる。ある家族では、レーバー視神経萎縮症G11778A突然変異は、1-DOPA-反応性パーキンソニズムを伴い、これは、一定しないが、認知症、ジストニア、眼筋まひおよび運動失調と同時に発症した。特に、この突然変異は、複合体Iのサブユニットにある。核でコードされるmtDNAポリメラーゼγ(POLG)遺伝子の突然変異は、mtDNA複製を損ない、その結果、複数のmtDNA欠失が起こり、通常、慢性的な進行性の外眼筋まひおよびミオパチーが引き起こされる。このような家族において、POLG突然変異もパーキンソニズムと同時分離する。
【0185】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、臨床的には筋肉組織の進行性衰弱、萎縮および痙性を特徴とし、これは、皮質、脳幹および脊髄における上位および下位運動ニューロンの変性を反映する。およそ90%の症例が散発性(SALS)であり、10%が家族性(FALS)である。家族性の症例の約20%がCu/Zn-スーパーオキシドジスムターゼ(SOD1)における突然変異により引き起こされる。SALSおよびFALSの両方で、脊髄、神経および筋肉からの死後および生検試料において、ミトコンドリア構造、数および局在の異常が示される。筋肉および脊髄において、呼吸鎖複合体の活性不全も検出されている。
【0186】
ハンチントン病(HD)は、臨床的には、舞踏病、精神障害および認知症を特徴とし、病理学的には、皮質および線条体における長い突起ニューロンの喪失を特徴とする。HDは、常染色体優性の遺伝性であり、ハンチンチン(HTT)遺伝子におけるCAGトリヌクレオチドリピートの拡大によるものであり、対応するタンパク質におけるポリグルタミンストレッチの拡張が起こる。通常のCAG(Q)リピート数は36未満であり、40を超えるリピート数はヒト疾患と関連する。様々な系列の証拠から、HDにおけるミトコンドリア機能不全の関与が明らかになる。核磁気共鳴スペクトロスコピーから、皮質および大脳基礎核での乳酸増加が明らかとなる。生化学的研究から、ヒトHD脳における電子伝達鎖の複合体IIおよびIIIの活性低下が示される。突然変異Htt-ノックインマウス胚由来の線条体細胞において、ミトコンドリアの呼吸およびATP産生が顕著に損なわれている。
【0187】
本発明の1つの局面は、神経変性疾患、加齢性神経細胞死または機能不全を治療する方法である。本明細書中で使用されるところの「神経変性疾患」または、同等に「神経変性障害」とは、中枢神経系における機能性ニューロンの進行性の喪失を含む何らかの症状を指す。1つの実施形態では、神経変性疾患は、加齢性の細胞死と関連がある。代表的な神経変性疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALSおよびルー・ゲーリック病とも呼ばれる。)ならびにAIDSによる認知症、副腎白質ジストロフィー、アレキサンダー病、アルパース病、毛細血管拡張性運動失調、バッテン病、牛海綿状脳症(BSE)、カナバン病、大脳皮質基礎核変性症、クロイツフェルト・ヤコブ病、レビー小体型認知症、致死性家族性不眠症、前頭側頭葉変性症、ケネディー病、クラッベ病、ライム病、マシャド・ジョセフ病、多発性硬化症、多系統萎縮症、神経有棘赤血球症、ニーマンピック病、ピック病、原発性側索硬化症、進行性核上まひ、レフサム病、サンドホフ病、ミエリン破壊性広汎性硬化症、脊髄小脳失調、亜急性脊髄連合変性症、脊髄癆、テイ・サックス病、中毒性脳症、感染性海綿状脳症およびハリネズミふらつき症候群を含むがこれらに限られない。
【0188】
1つの実施形態では、本方法は、加齢性神経細胞死または機能不全を治療するために使用される。このような方法は、特異的な神経変性疾患、例えばアルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病およびパーキンソン病の原因ではない神経変性に向けられる。
【0189】
1つの実施形態では、神経変性疾患は、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病およびパーキンソン病からなる群から選択される。
【0190】
1つの実施形態では、神経変性疾患はアルツハイマー病である。
【0191】
前記方法は、神経変性疾患の治療を必要とする対象に、治療的有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与し、それにより神経変性疾患を治療するステップを含む。
【0192】
本発明のこの方法および他の方法によれば、本明細書中で使用されるところの「ウロリチン」とは、ウロリチンA、ウロリチンB、ウロリチンCおよびウロリチンDのいずれか1つまたはこれらの組み合わせを指す(例えば、
図1および
図2参照)。1つの実施形態では、ウロリチンは、ウロリチンA、ウロリチンB、ウロリチンC、ウロリチンDまたはウロリチンA、ウロリチンB、ウロリチンCおよびウロリチンDのいずれかの組み合わせである。1つの実施形態では、ウロリチンは、ウロリチンA、ウロリチンBまたはウロリチンAおよびウロリチンBの組み合わせである。1つの実施形態では、ウロリチンはウロリチンAである。1つの実施形態では、ウロリチンは、例えば天然源から単離されるかまたは全合成により調製される、単離ウロリチンとして提供される。単離ウロリチンは、デノボ合成され得る。例えば全内容が引用により本明細書に取り込まれるGhosalによる米国特許出願公開第2008/0031862号明細書を参照のこと。
【0193】
1つの実施形態では、次のように2段階合成でウロリチンA(3,8-ジヒドロキシジベンゾ-α-ピロン)を合成した。第1段階は、出発物質2-ブロモ-5-メトキシ安息香酸およびレゾルシノールを一緒に反応させて、ジヒドロ-ジベンゾピロン骨格を生成させる、塩基存在下で起こる銅触媒反応(ハートレー反応)である。第2段階において、BBr3を用いたベンゾピロンの脱メチル化から、3,8-ジヒドロキシジベンゾ-α-ピロン(ウロリチンA)が生じる。
【0194】
水(120mL)中の、2-ブロモ-5-メトキシ安息香酸1(27.6g)、レゾルシノール2(26.3g)および水酸化ナトリウム(10.5g)の混合物を1時間加熱還流する。次に、硫酸銅の5%水溶液(50mL水中、3.88gのCuSO4、5H2O)を添加し、混合物をさらに30分間還流させた。混合物を室温まで冷まし、固形物をブフナー漏斗上でろ過した。残渣を冷水(50mL)で洗浄し、淡赤色の固形物(38.0g)を得て、これを熱MeOH(200mL)中で粉砕した。縣濁液を4℃で一晩静置した。得られた薄赤色の沈殿物をろ過し、冷MeOH(75mL)で洗浄し、表題化合物3を薄茶色固形物として得た。1H NMRは、3の構造による。
【0195】
乾燥ジクロロメタン(100mL)中の3(10.0g;41mmol;1.0eq.)の縣濁液に、乾燥ジクロロメタン中の三臭化ホウ素の1M溶液(110mL無水ジクロロメタン中、11.93mLの純粋BBr3)を0℃で添加した。混合物を0℃で1時間静置し、次いで室温まで温めた。溶液をその温度で17時間撹拌した。黄色の沈殿物をろ過し、冷水(50mL)で洗浄し、黄色の固形物を得て、これを酢酸(400mL)中で3時間加熱還流した。熱溶液を素早くろ過し、沈殿物を酢酸(50mL)で洗浄し、次いでジエチルエーテル(100mL)で洗浄して、黄色固形物として表題化合物4を得た。1Hおよび13C-NMRにより構造および純度を調べた。
【0196】
【0197】
1つの実施形態では、本明細書中で使用されるところの「ウロリチン」は、グルクロン酸抱合、メチル化または硫酸化ウロリチンであるか、またはこれらを含み得る。
【0198】
本発明のこの方法および他の方法によれば、「ウロリチン前駆体」とは、本明細書中で使用されるところのエラジタンニンまたは、エラグ酸(EA)を含むが限られないエラジタンニン代謝産物を指す。1つの実施形態では、ウロリチン前駆体はプニカラギン(PA)である。1つの実施形態では、ウロリチン前駆体はプニカリン(PB)である。例えば、
図1参照。1つの実施形態では、ウロリチン前駆体はエラグ酸(EA)である。1つの実施形態では、ウロリチン前駆体は、例えば自然食品源から単離されるか全合成により調製されるかの単離ウロリチン前駆体として提供される。単離ウロリチン前駆体は、通常、天然源からの精製またはデノボ合成され;EAを含むいくつかのウロリチン前駆体はSigma Aldrichなどの供給業者から市販されている。
【0199】
また本発明のこの方法および他の方法によれば、ウロリチンの前駆体も、エラジタンニンおよびエラグ酸を含有する自然食品、特に、エラジタンニン、エラグ酸またはエラジタンニンおよびエラグ酸の両方が豊富な自然食品を含む。このような食品は、一部の液果類、ブドウ、ザクロ、ローズヒップおよびナッツ類を含む。1つの実施形態では、前記自然食品はザクロである。
【0200】
さらに、ウロリチンの前駆体は、このような自然食品から調製される加工食品および飲料を含む。前記加工食品は、例えば、ジャム、ゼリー、保存料、ペースト、スプレッド、ジュース、ワイン、抽出物、濃縮物などを含む、あらゆる形態をとり得る。1つの実施形態では、前記加工食品はザクロ果汁である。
【0201】
1つの実施形態では、ウロリチン前駆体は、抽出物、例えば、果実抽出物として提供される。
【0202】
1つの実施形態では、ウロリチン前駆体は、濃縮物、例えば、果実濃縮物または果汁濃縮物として提供される。
【0203】
本発明の方法は、単独で、または、神経変性疾患を治療するのに有用であることが知られているいずれかの方法または化合物と組み合わせて使用される場合がある。例えば、1つの実施形態では、本発明の方法は、ドネゼピル(アリセプト(登録商標))、ガランタミン(ラザダイン(登録商標))およびリバスチグミン(エクセロン(登録商標))のようなアセチルコリンエステラーゼ阻害剤と、メマンチン(ナメンダ(登録商標))のようなN-メチルD-アスパルテート(NMDA)受容体アンタゴニストとのうちいずれか1種類以上の使用と組合せることができる。
【0204】
本発明の1つの局面は、認知機能を改善させる方法である。本明細書中で使用されるところの「認知機能」とは、象徴的操作(symbolic operations)、例えば知覚、記憶、注意、会話に関する理解、発話生成(speech generation)、読解力、心象生成、学習および論理的思考を含む、いずれかの精神機能を指す。1つの実施形態では、「認知機能」は、知覚、記憶、注意および論理的思考のいずれか1種類以上を指す。1つの実施形態では、「認知機能」は記憶を指す。
【0205】
前記方法は、認知の改善を必要とする対象に治療的有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与し、それにより認知機能を改善するステップを含む。
【0206】
認知機能を測定するための方法は周知であり、例えば認知機能のいずれかの局面に対する個別のまたは総合テストを含み得る。このような試験の1つは、プルドー認知機能試験である。Margallo-Lana et al.(2003)J Intellect Disability Res.47:488-492。別のこのような試験は、ミニ・メンタル・ステート検査(Mini Mental State Exam、MMSE)であり、これは、時間および場所に対する見当識、登録、注意および計算、想起、言語使用および理解、反復および複雑な運用能力を評価するように設計されている。Folstein et al.(1975)J Psych Res.12:189-198。認知機能を測定するために有用な他の試験は、アルツハイマー病評価スケール-認知サブスケール(Alzheimer Disease Assessment Scale-Cognitive,ADAS-Cog)(Rosen et al.(1984)Am J Psychiatry.141(11):1356-64)およびケンブリッジ神経心理学自動検査バッテリー(Cambridge Neuropsychological Test Automated Battery、CANTAB)(Robbins et al.(1994)Dementia.5(5):266-81)を含む。このような試験は、認知機能、例えば、本発明の方法による治療に応答した認知機能の変化の測定及び比較をすることができるように、客観的なやり方で認知機能を評価するために使用することができる。
【0207】
本発明の方法は、単独で、または認知機能を改善させることが知られているいずれかの方法または化合物と組み合わせて、使用することができる。例えば、1つの実施形態では、本発明の方法は、カフェインか、ニコチンか、両方かの使用と組み合わせられる。
【0208】
1つの実施形態では、対象は認知障害がない。例えば、本方法は、認知機能が正常である対象において認知機能を増強させるために使用することができる。
【0209】
本発明の1つの局面は、認知障害を治療する方法である。本明細書中で使用されるところの認知障害とは、認知機能が損なわれている何らかの症状を指す。1つの実施形態では、「認知障害」は、せん妄、認知症、学習障害、注意欠陥障害(ADD)および注意欠陥多動性障害(ADHD)のいずれか1種類以上を指す。1つの実施形態では、認知障害とは学習障害である。1つの実施形態では、認知障害とは注意欠陥障害(ADD)である。1つの実施形態では、認知障害とは注意欠陥多動性障害(ADHD)である。
【0210】
本方法は、認知障害を治療するために、認知障害の治療を必要とする対象に治療的有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。
【0211】
本発明の方法は、単独で、または認知障害を治療するのに有用であることが知られているいずれかの方法または化合物と組み合わせて、使用することができる。例えば、1つの実施形態では、本発明の方法は、メチルフェニデート(例えばリタリン(登録商標))、デキストロアンフェタミン(デキセドリン(登録商標))、混合アンフェタミン塩(アデロール(登録商標))、デキストロメタンフェタミン(デソキシン(登録商標))およびリスデキサンフェタミン(ビバナセ(Vybanase)(登録商標))のような興奮剤の使用と組み合わせられる。
【0212】
本発明の1つの局面は、ストレスで誘発されるか、あるいは、ストレスと関連する、認知機能不全を治療または予防する方法である。本明細書中で使用されるところの「ストレスで誘発されるか、あるいは、ストレスと関連する、認知機能不全」は、ストレスにより誘導されるかまたはストレスに関連する、認知機能の撹乱を指す。前記方法は、ストレスで誘発されるか、あるいは、ストレスと関連する、認知機能不全を治療または予防するために、ストレスで誘発されるか、あるいは、ストレスと関連する、認知機能不全の治療または予防を必要とする対象に治療的有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。
【0213】
気分障害
脳組織は、膜電位の維持、シグナル伝達およびシナプスリモデリングを含む、脳組織の代謝のために高レベルのエネルギーを必要とする。ミトコンドリア障害がある患者において、精神科的症状および障害、特にうつ、の増悪が存在すると思われる。
【0214】
様々な異なる技術により測定されるミトコンドリアの構造および機能は、大うつを含む気分障害のある患者と、他の情動的スペクトル障害とにおいて異常であることが示されている。
【0215】
2つの研究から、うつ発症の可能性が数倍上昇することは、mtDNAと一緒に母性遺伝し得、これは、mtDNA配列変異型がミトコンドリア機能不全を誘導し、これにより人がうつを発症し易くなり得ることを強く示している(Boles et al.,2005;Burnett et al.,2005)。
【0216】
ミトコンドリア機能不全と単極性うつとの間の関係が、いくつかの研究で探索されてきた。大うつの可能性があるかまたは大うつと診断された被験者(そのうちほとんどの被験者は(おそらく)投薬を受けていた。)からの死後脳の研究において、共通する5kb mtDNA欠失の上昇は検出できなかった(Kato et al.,1997;Sabunciyan et al.,2007;Shao et al.,2008,Stine et al.,1993)。ミトコンドリア機能とつながる翻訳産物の変化が、前頭、前頭前野および三次視覚皮質で見られた(Karry et al.,2004;Whatley et al.,1996)。前帯状回皮質においてミトコンドリアに局在する4種類のタンパク質の変化が報告されている(Beasley et al.,2006)。前頭皮質組織における13種類のmtDNAにコードされる転写産物のうち6種類に対する遺伝子発現の減少(ブロードマン脳地図の(BA)9野および46野)(Shao et al.,2008)と、小脳での、nDNAにコードされるミトコンドリアmRNAおよびタンパク質の遺伝子発現の減少とも大うつで報告されている(Ben-Shachar and Karry,2008)。大うつ障害の症例の半分で、死後前頭前皮質における電子伝達系複合体Iサブユニット(NDUFS7)のレベルおよび複合体I活性が、正常対照の最低範囲以下であることが最近の研究において分かった(Andreazza et al.,2010)。2つの後者の研究において、著者らは、結果に対して投薬の何らかの効果を検出することができなかった。
【0217】
身体症状が合併する単極性大うつと死ぬまで診断された患者由来の筋肉において、呼吸鎖酵素比およびATP産生速度の低下と、(共通する5kb mtDNAの欠失ではない)小さなmtDNA欠失の保有率の増加とが見付かった。投薬は、結果に影響を与えなかったと思われた(Gardner et al.,2003b)。体細胞病状の程度が非常に高い、基本的に全てのうつ状態の被験者から、生検筋肉におけるATP産生速度が低いことが明らかになったという知見により、臨床的関連が示唆された(Gardner and Boles,2008a)。
【0218】
本発明の1つの局面は、気分障害(情動障害としても知られる。)を治療する方法である。本明細書中で使用されるところの「気分障害」とは、American Psychiatric Association発行のDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disordersに記載されるような、情動状態の撹乱を指す。気分障害は、大うつ、産後うつ、気分変調および双極性障害を含むが、これらに限られない。1つの実施形態では、前記気分障害は大うつである。
【0219】
前記方法は、気分障害を治療するために、気分障害の治療を必要とする対象に治療的有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。
【0220】
本発明の方法は、単独で、または気分障害を治療するのに有用であることが知られているいずれかの方法または化合物と組み合わせて、使用することができる。例えば、1つの実施形態では、本発明の方法は、抗うつ剤の使用と組み合わせられる。抗うつ剤は、当技術分野で周知であり、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)、セロトニン-ノルエピネフリン再取り込み阻害剤(SNRI)、ノルアドレナリン作動性および選択的セロトニン作動性抗うつ剤、ノルエピネフリン再取り込み阻害剤、ノルエピネフリン-ドパミン再取り込み阻害剤、選択的セロトニン再取り込み阻害剤、ノルエピネフリン-ドパミンディスインヒビター(disinhibitor)、三環系抗うつ剤およびモノアミンオキシダーゼ阻害剤を含む。
【0221】
本発明の1つの局面は、ストレスで誘発されるか、あるいは、ストレスと関連する、気分障害を治療または予防する方法である。本明細書中で使用されるところの「ストレスで誘発されるか、あるいは、ストレスと関連する、気分障害」は、ストレス誘発性またはストレスが関連する情動状態の撹乱を指す。このような気分障害は、反応性気分障害と呼ばれることがあり、他の気分障害、例えばいわゆる器質性の気分障害とは区別されるべきものである。本方法は、ストレスで誘発されるか、あるいは、ストレスと関連する、気分障害を治療または予防するために、ストレスで誘発されるか、あるいは、ストレスと関連する、気分障害の治療または予防を必要とする対象に有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。
【0222】
本発明の1つの局面は、不安障害を治療する方法である。本明細書中で使用されるところの「不安障害」とは、例えば、ストレスの多い状況またはストレスの多い状況の予期と釣合いがとれない、恐怖および不安の機能不全状態を指す。1つの実施形態では、不安障害は、全般性不安障害、パニック障害、広場恐怖症を伴うパニック障害、広場恐怖症、社会不安障害、強迫神経症および外傷後ストレス障害のいずれか1つか、これらの組み合わせかである。1つの実施形態では、不安障害は、全般性不安障害、強迫神経症、パニック障害、外傷後ストレス障害および社会不安障害のいずれか1つか、これらの組み合わせかである。1つの実施形態では、不安障害は全般性ストレス障害である。1つの実施形態では、不安障害は、外傷後ストレス障害である。1つの実施形態では、不安障害はストレス誘発性不安障害である。
【0223】
本方法は、不安障害を治療するために、不安障害の治療を必要とする対象に治療的有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。
【0224】
本発明の方法は、単独で、または不安障害を治療するために有用であることが知られているいずれかの方法または化合物と組み合わせて、使用することができる。例えば、1つの実施形態では、本発明の方法は、心理療法、ベンゾジアゼピン、ブスピロン(バスパー(登録商標))またはβ-ブロッカーのいずれか1つか、それらの組み合わせかの使用と組み合わせられる。ベンゾジアゼピンは当技術分野で周知であり、クロナゼパム(クロノピン(登録商標))、ロラゼパム(アチバン(登録商標))およびアルプラゾラム(ザナックス(登録商標))を含むが、これらに限られない。本発明の方法と組み合わせて使用され得るさらなる薬物は、イミプラミン(トフラニール(登録商標))およびベンラファキシン(エフェクサー(登録商標))を含む。
【0225】
本発明の1つの局面は、ストレスで誘発されるか、あるいは、ストレスと関連する、不安障害を治療または予防する方法である。本明細書中で使用されるところの「ストレスで誘発されるか、あるいは、ストレスと関連する、不安障害」とは、ストレスで誘発されるか、あるいは、ストレスと関連する、の恐怖および不安の機能不全状態を指す。このような不安障害は、反応性不安障害と呼ばれることがあり、他の不安障害、例えばいわゆる器質性の不安障害とは区別されるべきものである。前記方法は、ストレスで誘発されるか、あるいは、ストレスと関連する、不安障害を治療または予防するために、ストレスで誘発されるか、あるいは、ストレスと関連する、不安障害の治療または予防を必要とする対象に有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。
【0226】
本発明の局面は神経突起伸長を促進する方法である。1つの実施形態では、前記前記方法はインビトロの方法である。1つの実施形態では、前記方法はインビボの方法である。本明細書中で使用されるところの「神経突起」とは、ニューロンの細胞体からのいずれかの突起を指す。1つの実施形態では、このような突起は軸索である。1つの実施形態では、このような突起は樹状突起である。この用語は、分化が完了する前に樹状突起と軸索を見分けることは困難であり得るので、未熟なまたは発生中のニューロン、特に培養中の細胞のものをいう際に使用されることが多い。神経突起は、微小管束が詰め込まれていることが多く、その成長は神経成長因子(NGF)ならびにタウタンパク質、微小管結合タンパク質1(MAP1)および微小管結合タンパク質2(MAP2)により刺激を受ける。神経細胞接着分子N-CAMは、同時に、別のN-CAMおよび繊維芽細胞増殖因子受容体と組み合わせられて、その受容体のチロシンキナーゼ活性を刺激して、神経突起の成長を誘導する。
【0227】
神経突起伸長は、形態学的または機能的に測定することができる。形態学的測定は通常、神経突起の長さおよび/または数を測定する顕微鏡検査を伴う。
【0228】
本明細書中で使用されるところの「促進する(promoting)」とは、増強する(enhancing)かまたは誘導する(inducing)ことを指す。1つの実施形態では、「促進する(promoting)」とは、誘導する(inducing)ことを意味する。例えば、陰性対照試料での神経突起伸長は無視できる程度であり得、一方で実験または処理試料での神経突起伸長は、無視できないものであり得る。1つの実施形態では、「促進する(promoting)」とは、促進する(enhancing)ことを意味する。例えば、実験または処理試料での神経突起伸長は、陰性対照よりも統計学的に有意に大きいものであり得る一方、陰性対照試料における神経突起伸長は無視できる程度のものではない場合がある。言うまでもなく、「促進する(promoting)」は、本明細書中で使用されるところの増強する(enhancing)ことおよび誘導する(inducing)ことの両方を包含する場合がある。
【0229】
1つの実施形態では、前記方法は、神経突起伸長を促進するために、有効量のウロリチンまたはその前駆体と神経細胞を接触させるステップを含む。
【0230】
1つの実施形態では、前記方法は、神経突起伸長を促進するために、必要とする対象に治療的有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。
【0231】
本発明の方法は、単独で、または神経突起伸長を促進するために有用であることが知られているいずれかの方法または化合物と組み合わせて、使用することができる。例えば、1つの実施形態では、本発明の方法は、NGF、タウタンパク質、MAP1、MAP2、N-CAMまたは、NGF、タウタンパク質、MAP1、MAP2、N-CAMまたは繊維芽細胞増殖因子受容体のいずれか1種類以上の発現を誘導する薬剤のいずれか1種類以上の使用と組み合わせられる場合がある。
【0232】
神経保護活性について化合物をスクリーニングするためのインビトロでの神経細胞の使用
老化および神経変性の過程において、認知機能の進行性の低下は、基本的に、ニューロン連絡を維持する部分の喪失によるものである。これらの部分は、基本的に、神経細胞体、神経突起および、それらを標的細胞に連結するシナプス結合から構成される。ニューロンは、非常に複雑な形態を示す。最長で1メートルまで軸索突起を伸ばす運動ニューロンまたは150,000個を超えるシナプス結合を作る黒質ドーパミン作動性ニューロンなどの最も複雑な神経細胞タイプは、正常な老化または疾患において最も脆弱であることが多い。このような複雑な構造を維持し、効率的に電気および神経化学的シグナルを運ぶために、ニューロンはエネルギー供給に大きく依存する。したがって、軸索輸送、シナプス活性および鉄勾配の維持は、ミトコンドリア機能に大きく依存する。これらの要求が多い細胞機能を継続するために、ニューロンは、ミトコンドリア活性と、これに伴う酸化ストレスとの間の微妙な均衡を維持するために長期にわたり困難な局面に曝される。このような不均衡は、ニューロンの機能不全または早期変性の原因と考えられることが多い。
【0233】
したがって、ニューロン生存を促進するいずれかの治療か、ニューロンの複雑な構造を構築するニューロン突起およびシナプス結合の形成かは、ニューロンの機能によい影響を及ぼすと予想される。ニューロンの機能に影響を与える化合物の測定は通常、動物行動面での治療成績の手間のかかる監視に依存しており、これは、生物学的活性の中程度のスループットまたは高スループットのスクリーニングを行いにくい。神経芽細胞株または初代培養ニューロンに基づくインビトロモデルは、哺乳動物脳におけるニューロンの正常機能維持能を反映する極めて重要な形態学的パラメータに対する化合物の影響を評価するための代替物として認められている。突起数、それらの長さまたは複雑性などの指標から、細胞内シグナル伝達の重大な段階に対する化合物の影響が明らかとなる。このようなパラメータは、高次脳機能の性能を間接的に反映するにすぎないことに留意しなければならないものの、これらのパラメータにより、正常または疾患状態における認知または運動機能改善につながり得る化合物の有効性を有益に評価することが可能となる。
【0234】
代謝性疾患
重要な代謝組織(肝臓、筋肉、脂肪組織、膵臓)におけるミトコンドリア機能は、代謝性疾患の発症に関与する。これらの組織のそれぞれにおいて、ミトコンドリアの酸化活性は、栄養負荷物、特に脂肪酸を完全に酸化するのに適切でなければならない。完全に酸化されないと、脂質中間体、不完全な脂肪酸酸化産物およびROSの蓄積へとつながり得る。要するに、これらの細胞事象は、脂肪蓄積、インスリン抵抗性,インスリン分泌変化、軽度炎症および酸化ストレスに関与し、これらは全て、II型糖尿病および肥満の構成要素である。
【0235】
代謝性疾患の病態におけるミトコンドリア活性の重要性は、ヒトでのいくつかの研究で立証されている。例えば、骨格筋におけるインスリン抵抗性にはミトコンドリアの酸化的リン酸化の欠如が関与しており、対照者と比較した場合、2型糖尿病患者のインスリン抵抗性子孫ではミトコンドリア活性が30%低下していることが観察される。Petersen KF,et al.(2004)New Engl J Med.350:664-71。健康な痩せた被験者と比較して、肥満患者のミトコンドリア活性が20%低下し、ミトコンドリアの大きさが35%縮小していることも観察されている。Petersen KF,et al.(2003)Science 300:1140-2。最後に、加齢性のミトコンドリア機能低下は、高齢者でのインスリン抵抗性に関与する。それに応じて、若年被験者と比較して、ミトコンドリア酸化およびリン酸化活性が40%低下することが高齢者において報告されている。これらの観察により、ミトコンドリア機能の撹乱と代謝性疾患、特に糖尿肥満が結び付けられる(Kelley DE,et al.(2002)Diabetes 51:2944-50)。
【0236】
酸化的リン酸化とも呼ばれるミトコンドリアの酸化活性は、代謝性疾患のリスクの背後にあるキーとなる決定要因として考えられ得る。ミトコンドリア活性の低下には、遺伝因子(例えば家族歴、民族)、後成的機構、発生段階での曝露、摂食行動および老化が介在する場合がある。
【0237】
持続的な(例えば過食または脂肪貯蔵障害からの)栄養過剰が、エネルギー要求を上回り、および/または(例えばミトコンドリアの不活性およびより高い細胞による酸化要求にミトコンドリアが適応できないことにより)酸化能および/または適切な代償機構が不十分である場合、代謝性疾患のリスクが上昇する。結果として起こる脂質蓄積および酸化ストレスにより、転写応答が変化し、ミトコンドリアを損傷させ、さらに酸化的リン酸化能を低下させる場合があり、代謝性疾患リスクを上昇させる栄養過剰の有害な影響を悪化させる。
【0238】
脂肪酸を完全に酸化するために十分である、とは、(i)正味のミトコンドリア酸化活性(細胞の要求、例えば収縮およびイオイン輸送に合致させるためのエネルギー産生の必要性により判定)と、(ii)栄養利用可能性(食物摂取、脂肪症および脂肪貯蔵能により判定)との間の均衡にある。酸化活性が栄養負荷と同等であるかまたはそれを超える場合、均衡が達成される。
【0239】
正常なホメオスタシス条件下で、ミトコンドリア機能が周囲の代謝環境に適切であることを確実にするために、酸化活性および細胞栄養利用可能性の両方を変化させることができる。例えば、運動を通じて細胞のエネルギー要求を増加させることができ、減量および/または食物摂取減少を通じて栄養利用可能性を低下させることができる。この内容において、酸化能および/または活性、栄養負荷またはミトコンドリア活性調節能(急性反応)、ミトコンドリアの能力(慢性反応)の向上または酸化ストレス解消の個人差によって、代謝バランスのセットポイントが決定され得る。このような相違は、特に肥満の原因となる環境(全体的な食物摂取、健康的ではない食品の摂取および身体不活性を促進する環境を特徴とするもの)において卓越する場合がある。したがって、酸化能または適応反応が高い人は、大量の栄養負荷に対する耐性が高い。逆に、酸化能が低下しおよび/または適応反応が不十分である人は、高栄養負荷を調節するのに耐性がなく、脂質蓄積、不完全酸化、ROS産生およびインスリン抵抗性へとつながる。
【0240】
時間の経過とともに、補償が不十分であると、その結果、慢性インスリン抵抗性および代謝性疾患となる。酸化能が不十分であることは、酸化能を向上させるか(例えば運動)または栄養負荷を減少させる(減量)代償機構により解消され得る。しかし、これらのライフスタイルの変化は、通常、ほとんどの体重超過/肥満および2型糖尿病または前糖尿病状態の対象にとって不十分であるかまたは達成不可能である。
【0241】
ミトコンドリアは、間欠性収縮によりこの組織に課される高い酸化要求が与えられる骨格筋機能に対して特に重要である。ミトコンドリアは、筋肉サルコメアによる収縮に必要とされる的確なレベルのATPを確実なものにすることにおいて重大な役割を果たす。サルコメアによるこのATPに対する高レベルの要求は、明確な筋細胞膜下および筋肉におけるミトコンドリアのサルコメア関連集団に関与すると思われる。さらに、筋肉細胞は、代謝の柔軟性、つまり、周囲のホルモンおよびエネルギー状態に応じて基質酸化を迅速に調節する能力を維持しなければならない。例えば、健康な筋肉組織は、低呼吸商(RQ)とそれに続く摂食状態中の炭水化物酸化(RQ上昇)への転換により明らかにされるように、主に飢餓状態において脂質を酸化する。栄養、特に脂質の利用可能性およびミトコンドリア内でのそれらの酸化能もまた、持続的運動に非常に重要である。したがって、ミトコンドリアの機能的能力は、筋肉代謝機能に直接影響し、総体重に大きく寄与するので、全身の代謝に顕著な影響を及ぼすと思われる。この可能性は、代謝亢進および体重増加に対する耐性のある(ルフト症候群)個体における骨格筋中のミトコンドリア含量増加の知見により裏付けられる。
【0242】
インスリン抵抗性および糖尿病
骨格筋は、ヒトにおける最大のインスリン感受性器官であり、インスリン刺激性の糖処理の80%超を占める。したがって、この組織におけるインスリン抵抗性は、全身のグルコースホメオスタシスに大きな影響がある。実際に、糖尿病発症リスクが高い、インスリン抵抗性であるが正常血糖である被験者由来の筋肉において、複数の代謝不全が観察されており、これには、(i)インスリン刺激性のグリコーゲン合成の低下;(ii)インスリンシグナル伝達の変化;および(iii)筋肉脂質蓄積の増加が含まれる。現在のところ、これらの機能不全のいずれかがインスリン抵抗性において原因となる役割を果たすか否かは未だ不明であるものの、筋肉細胞内の脂質過剰は、肥満度の補正後でさえ、インスリン抵抗性の重症度と強く相関し、これは、複数の繊維タイプの筋肉で観察されている。さらに、実験によって、インスリン抵抗性およびインスリンシグナル伝達変化の誘導と脂質過剰が結び付けられている。したがって、ミトコンドリア機能障害がインスリン抵抗性に寄与する場合がある機構として考えられるものは、脂肪酸代謝の変化を介するものである。肥満と同様に、組織脂質負荷の増加および/または持続的な不活性は、脂肪アシルコエンザイムA(CoA)、ジアシルグリセロール、セラミド、不完全酸化の産物およびROSの蓄積につながり得るが、これらは全て、実験を通じて、インスリンシグナル伝達および作用の低下と関連付けられている。インスリン抵抗性とミトコンドリア酸化機能障害をつなげる可能性があるさらなる機構には、:(i)インスリン刺激性糖取り込みなど、エネルギー要求機能に対するATP合成低下;(ii)カルシウムホメオスタシス(運動誘導性の糖取り込みに必要)の異常;および(iii)おそらく、有酸素容量増加、筋肉疲労および長時間の自発運動低下に寄与する(さらに不活性状態がインスリン抵抗性を促進させるという悪循環をさらに増大させる。)、運動中のATP産生減少が含まれる。
【0243】
ミトコンドリア能は、膵臓ベータ(β)細胞制御インスリン分泌のキーとなる機能の中核をなす。急速(第一相)およびより長時間にわたる(第二相)インスリン分泌の両者とも、グルコース代謝およびミトコンドリアの酸化能に依存し、グルコース酸化によって、ATP/ADP比が向上し、原形質膜K-ATPチャネルを阻害して、電位依存性のカルシウムチャネルが開かれる。次に、細胞質カルシウムが上昇すると、原形質膜結合インスリン顆粒のエキソサイトーシス(第一相)が誘発される。続く原形質膜への顆粒の動員(第二相)は、補充反応により産生されるミトコンドリアの代謝産物に依存すると思われる。ミトコンドリアの代謝も、顆粒エキサイトーシスを誘発するミトコンドリアのシグナル伝達経路に必要とされる、一過性のROSの制御産生を必要とする
ミトコンドリア糖尿病は、老化時にのみ発症し、難聴を伴う母性遺伝性糖尿病(MIDD)の場合では平均発症年齢が35歳から40歳であり、母性遺伝性2型糖尿病における14577T/C、ミトコンドリアDNAミスセンス突然変異の場合では平均48歳である。これは、解糖系の第1段階であるグルコキナーゼにおける突然変異の結果、グルコース刺激性のATP産生およびインスリン分泌が減弱する、若年発症型成人糖尿病2(MODY2)などの症候群における早期小児発症型の糖尿病と対照をなす。これらのデータから、ミトコンドリア糖尿病が、ATP産生が不十分であるゆえの急性の機能障害というより、β細胞機能が徐々に悪化した結果である可能性がより高いことが示唆される。
【0244】
糖尿病の病態に関与する組織(肝臓、筋肉、脂肪組織および膵臓β細胞)におけるミトコンドリア機能は、細胞代謝の複数の局面に対して重大である。これらの組織のそれぞれにおいて、ミトコンドリアの酸化活性は、栄養負荷物、特に脂肪酸を完全に酸化するために適切でなければならない。完全に酸化されないと、インスリン抵抗性(筋肉、肝臓、脂肪)および分泌変化(β細胞)の両方を含め、脂質中間体、不完全な脂肪酸酸化産物およびROSの蓄積へとつながり得る。
【0245】
軽度のミトコンドリア活性不全および/または細胞エネルギー要求に反応する活性および能力上昇不能により、糖尿病の家族歴がある人で見られる運動能力低下が説明され得る。この現象は、長期にわたり自発運動低下に寄与し、ミトコンドリア活性と脂肪酸負荷との間の不均衡の可能性を上昇させ得る。第二に、栄養過多、肥満および不活性によるエネルギー代謝の慢性的不均衡は、細胞およびミトコンドリアのROS産生増大に直接寄与する場合がある。同様に、過剰なROSにより、インスリン抵抗性およびミトコンドリア機能不全の両方が誘導され得る。例えば、糖尿病傾向があるC57BL6マウスでの高脂肪、高スクロース食は、ROS産生促進およびインスリン感受性障害と平行して、ミトコンドリアの変化を引き起こす。同様に、インビトロで筋肉細胞を飽和脂肪酸に曝露するかまたはマウスにおいて高脂肪餌を与えた結果、ミトコンドリアの構造およびインスリン抵抗性に変化が起こり、この両者とも抗酸化物質により覆すことができる。したがって、酸化ストレスは、インスリン抵抗性と平行して、ミトコンドリア機能不全を誘導する場合がある(おそらく、さらなる酸化的損傷の限定を目的とする適応反応)。重要なこととして、酸化ストレスの解消はインスリン抵抗性を覆す場合がある。
【0246】
筋機能
他の実施形態において、本発明は、治療的有効量のミトコンドリア促進または活性化抽出物、製剤または化合物を投与することによって、筋機能を促進するための方法を提供する。例えば、エラジタンニンまたはエラグ酸を含有する抽出物またはエラジタンニン、エラグ酸またはウロリチンを含有する組成物は、ミトコンドリアを活性化するように作用し、身体持久力(例えば運動、肉体労働、スポーツ活動などの身体的課題を行うための能力)を改善させ、肉体的疲労の抑制または遅延、血中酸素レベル増強、健常個体におけるエネルギー増強、作業能力および持久力増強,筋肉疲労低下、ストレス減少、心臓および心血管系機能促進、性機能改善、筋肉ATPレベル上昇および/または血中乳酸低下に有用であり得る。一部の実施形態において、前記方法は、ミトコンドリア活性を上昇させ、ミトコンドリア生合成を増加させ、および/またはミトコンドリア質量を増加させる量のエラジタンニンもしくはエラグ酸含有天然抽出物またはエラジタンニン、エラグ酸もしくはウロリチン含有組成物を投与することを含む。
【0247】
スポーツ能力とは、スポーツ活動参加時に運動選手の筋肉が発揮する能力を指す。スポーツ能力、強度、速度および持久力の向上は、筋肉収縮強度の上昇、筋肉収縮の振幅上昇または刺激と収縮との間の筋肉反応時間の短縮により測定される。運動選手とは、あらゆるレベルのスポーツに参加し、例えば、ボディービルダー、サイクリスト、長距離走者および短距離走者など、それらのパフォーマンスにおいて強度、速度または持久力のレベル向上を達成することを目指す人を指す。スポーツ能力促進は、筋肉疲労克服能、長時間にわたる活性維持能およびより効果的な練習を行う能力により明らかとなる。
【0248】
本発明の組成物および方法は、ミオパチー、神経筋疾患、例えばデュシェンヌ型筋ジストロフィーなど、急性サルコペニア、例えば、火傷、床上安静、四肢固定または大きな胸部、腹部および/または整形外科手術に付随する筋肉萎縮および/または悪液質を含む、筋肉関連病理状態の治療においても有効であることが企図される。
【0249】
慢性ストレス
慢性ストレスも、認識能力、さらに正確に言えば学習および記憶過程に顕著な影響を有することが報告されている(Sandi 2004;Sandi and Pinelo-Nava 2007)。いくつかの因子は、慢性ストレスが認知機能において有する影響に対する決定要因である。ストレスが認知機能を促進するかまたは有害なものとなるか否かを判定することにおいて、ストレスのレベルは重要である。ストレスの多い状況に反応して、身体はストレスホルモンを誘導し、これが学習、記憶および可塑性における逆U字型の影響を生み出すと考えられる。Baldi et al.(2005)Nonlinearity Biol Toxicol Med.3(1)9-21;Joels(2006)Trends Pharmacol Sci.27(5):244-50。したがって、ストレスレベルは、認知機能に対して大きな影響を有し、高レベルのストレスがあると高レベルのストレスホルモンが生じ、能力が低下する。
【0250】
ストレスの長さ、慢性であるか急性であるかということも大きく関与することが示されており、認知機能、ならびに脳構造および機能に対して影響が異なる(Sandi and Loscertales 1999;Pinnock and Herbert 2001)。また、ストレスは記憶形成過程で作用し、その結果、様々な結果が生じ、強化(記憶貯蔵)は急性ストレスにより促進され、呼び出し(記憶呼び出し)は阻害される(Roozendaal 2003)。さらに、ストレスの予測可能性も、認識能力において観察される影響の大きさに関与する(Maier and Watkins 2005)。
【0251】
さらに、慢性ストレスが生じる背景ならびに個体および性別に固有のストレス反応における個体差は、慢性ストレスの最終的な認知の影響を判定する上で重要な要因である(Bowman,Beck et al.2003;Shors 2004;Joels,Pu et al.2006)。
【0252】
慢性ストレスの影響に対する生物学的基礎はまだ詳細には定まっていない。しかし、一般に認められる特性は、様々な記憶過程および相におけるストレス作用の促進および低下の両方に介在することにおいて、グルココルチコイドの重要な役割である。グルココルチコイド作用の機構はまだ明らかになってはいないものの、神経成長因子(NGF)によって誘導されるニューロン伸長を損なうことがインビトロで示されている。Unsicker et al.(1978)Proc Natl Acad Sci USA.75:3498-502。さらに、NGFなどの因子により誘導されるニューロン構造および神経突起伸長は、それらの神経保護活性と強く相関し、このことから、ニューロン構造が認知に重要であることがここでも示唆される。
【0253】
ストレスおよび構造リモデリング
最初に、海馬は、海馬依存性の記憶課題における慢性ストレスの障害作用を示唆する多くの報告ゆえに、周到な観察が行われた脳領域であった。しかし、現在、集中的な研究から、脳全体の慢性ストレスのより統合的な影響に対する証拠が提供され、前頭前皮質および扁桃体に対しても大きな変化が報告されている。扁桃体で起こる樹状分枝およびシナプス形成の変化は、ストレス誘発性の気分変容に関与する妥当な候補である。また、海馬および前頭前皮質のレベルで起こる変化は、ストレス誘発性の気分変容に大きく影響すると考えられる。
【0254】
海馬。海馬は、記憶過程におけるその重要な役割についてよく知られている。海馬依存性の課題は通常、急性および慢性ストレス操作の両方により影響を受ける。ヒトにおいて、神経画像研究から、うつを含め、ストレスおよびグルココルチコイド関連の認知および神経精神の変容と関連する海馬の萎縮が報告されている。
【0255】
げっ歯類において、突出し何度も繰り返される影響は、CA3錐体ニューロンからの先端樹状突起の樹状部の萎縮である。この樹状分枝減少は、(i)興奮性グルタミン酸作動シナプスのシナプス密度低下;(ii)近位先端樹状突起およびCA3錐体細胞の細胞体に位置し、苔状繊維シナプス入力に対するシナプス後標的となる、樹状細胞突起物と呼ばれる複雑な樹状細胞棘突起の体積の縮小;および(iii)求心性苔状繊維終末におけるシナプス小胞およびミトコンドリアの再編成と関与している。そして、シナプスリモデリングに対する証拠(シナプス特性の変化に関して)も、海馬のCA1領域について報告されている。
【0256】
前頭前皮質。前頭前皮質(PFC)およびとりわけその内側部(mPFC)は、より高度な認知過程(実行機能、作業記憶、注意を含む。)において、ならびに認知および情緒的に関連のある情報の統合において、重要な役割を果たす。注目すべきは、mPFCが高レベルのグルココルチコイド受容体を含有し、ストレス誘発性の視床下部・下垂体・副腎皮質(HPA)活性の制御に関与することである。上記のように、臨床的証拠により、うつを含む多岐にわたる神経精神障害における顕著な変化が起こる領域としてmPFCが強調される。
【0257】
PFCにおけるストレス誘発性樹状突起縮小に対して、げっ歯類の研究から実質的な証拠がある。特に、慢性ストレスに繰り返し曝されるかまたはグルココルチコイド治療を繰り返した結果、mPFCの第II/III層で大きなニューロンリモデリングが起こることが記載された。記載されているこの領域での大きな変化は、(i)錐体ニューロンからの先端樹状突起の全長短縮および数の減少の両方を含む、樹状突起萎縮;および(ii)先端樹状突起密度の低下(錐体ニューロンの先端樹状突起における全軸索棘間シナプスのおよそ3分の1が喪失)である。
【0258】
抗うつ剤の影響。非定型(修飾型三環系)抗うつ剤チアネプチンでの治療により、ラットのCA3錐体ニューロンにおいて、慢性ストレスにより誘導された樹状突起萎縮が覆されることが示された。さらに、抗うつ剤が、軸索および樹状突起発芽を促進することも報告された。これらの知見から、ニューロンのリモデリングにおいて抗うつ剤が、大きな影響を有する場合があることが示唆され、これにより、うつからの回復の過程において再編成されるべき関連回路に対する根拠が与えられる。
【0259】
若年期ストレス
本発明の1つの局面は、若年期ストレスの気分効果を治療するための方法である。本方法は、気分、うつ、不安および危険行為に対する若年期ストレスの影響を治療するために、必要とする対象に治療的有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与するステップを含む。
【0260】
若年期ストレスはうつ、不安および異常な危険行為の頻度が高いかまたはそれらを引き起こし易いなど、心理学的パラメータを含め、認識能力に顕著に有害な影響を有することが報告されている。Heim C,Nemeroff CB.(2001)Biol Psychiatry 49:1023-1039。若年期ストレスを経験した者において、注意障害/多動性障害(ADHD)、外傷後ストレス障害(PTSD)および大うつの発生率上昇が報告されている。Famularo R et al.(1992)J Am Acad Child Adolesc Psychiatry 31:863-867;Pelcovitz D et al.(1994)J Am Acad Child Adolesc Psychiatry 33:305-312。若年期ストレスは視床下部・下垂体・副腎皮質(HPA)系に影響があると考えられている。Ladd CO et al.(2000)Prog Brain Res 122:81-103。ストレスに対するHPA系の反応性を調節すると考えられている中心的なエフェクターは、中枢性副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)である。
【0261】
CRFは、CNS全体に分布する41個のアミノ酸ペプチドである。これは、HPA系の中心的構成要素である視床下部室傍核(PVN)の内側小細胞領域の細胞体を含む。ストレス時、CRFは、正中隆起神経終末から視床下部-下垂体門脈循環に放出され、下垂体前葉に輸送され、ここでCRF受容体(CRF1およびCRF2)と結合する。CRF1受容体に結合するCRFは、ストレス、うつおよび不安を暗示する影響を生じさせる。CRF2受容体に結合したCRFは、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の産生および放出を刺激し、次に、ストレス反応に関与するグルココルチコイドの産生を刺激する。
【0262】
母子分離により引き起こした若年期ストレスのモデルにおいて、一貫した長期のCRF mRNAレベル上昇が観察される。Plotsky PM et al.(2005)Neuropsychopharmacology 30:2192-2204。このようなCRFの上昇は、不安反応の増強において扁桃体のレベルで影響があることが示されている。CRF神経回路の持続性感作は、若年期ストレスに曝されたマウスにおいて観察される不安、うつおよび危険行為の異常な高まりに関与すると考えられる。
【0263】
若年期ストレスによる心理学的障害を改善するための抗うつ剤を用いた現在の治療計画
多くの研究から、げっ歯類およびヒトを含む霊長類において抗うつ剤がHPA系におけるCRF活性を低下させることが示されている。Banki CM et al.(1992)J Affect Disord 25:39-45;Brady LS et al.(1992)Brain Res 572:117-125;Brady LS et al.(1991)J Clin Invest 87:831-837;De Bellis MD et al.(1993)Am J Psychiatry 150:656-657;Veith RC et al.(1993)Psychiatry Res 46:1-8。いくつかの種類の抗うつ剤が、1種類以上のCRF神経系の活性を低下させると思われる。これらには、若年期ストレスと関連付けられているいくつかの精神障害(例えばうつおよびPTSD)の治療において効果的であることが示されている選択的5-HT取り込み阻害剤(SSRI)が含まれる。Hidalgo RB et al.(2000)J Psychopharmacol 14:70-76。特に、無作為プラセボ対照試験において、若年期ストレスを受け、PTSDに罹患している被験者はフルオキセチンに反応性があった。van der Kolk BA et al.(1994)J Clin Psychiatry 55:517-522。さらに、フルオキセチンおよびパロキセチンを含むSSRIは、小児および青年の早期発症うつの治療において、プラセボと比して顕著な有効性を示す。Martin A et al.(2000)Child Adolesc Psychiatr Clin N Am 9:135-157。三環系抗うつ剤は、母性剥奪に曝された成体霊長類において、ストレスに対するHPA系の反応性の増大を反転させることも分かった。Suomi SJ.(1991)Ciba Found Symp 156:171-183。SSRIを含め、いくつかの利用可能な薬物が、若年期ストレスに曝された小児および成人の治療において有益であり得ると思われる。Fisher PA et al.(2000)J Am Acad Child Adolesc Psychiatry 39:1356-1364。
【0264】
さらなる適応
本発明はまた、ミトコンドリアの活性不全または低下が疾患または症状の病態生理学に関与するかまたはミトコンドリア機能の向上により、所望の有益な効果が得られる、様々なさらなる疾患および症状のうちいずれかの治療における用途もある。例として、本発明は、精子運動性の低下に関連する男性不妊を治療するために使用され得る方法および化合物もさらに含む。Nakada et al.(2006)Proc Natl Acad Sci USA.103:15148-53。別の例として、本発明は、黄斑変性およびある種の他の加齢性および遺伝性眼障害を治療するために使用され得る方法および化合物をさらに含む。Khandhadia et al.(2010)Expert Rev Mol Med.12:e34;Jarrett et al.(2010)Ophthalmic Res.44:179-90。別の例は、加齢性難聴を含むが限られない、難聴を治療する方法である。これらその他の適応のそれぞれにおいて、本方法は、適応症を治療するために、このような治療を必要とする対象に、本明細書中で開示されるような、有効量のウロリチンまたはその前駆体を投与することを含む。
【0265】
製剤および臨床用途
「対象」とは、本明細書中で使用されるところの生きている脊椎動物である。1つの実施形態では、対象は哺乳動物である。1つの実施形態では、対象はヒトである。
【0266】
本明細書中で使用されるところの「治療する(treat)」という用語は、対象の疾患、障害または症状と関連して使用される場合、対象の疾患、障害または症状の少なくとも1つの臨床的または客観的現象を検出可能な量まで減少させることを意味する。1つの実施形態では、「治療する(treat)」という用語は、対象の疾患、障害または症状と関連して使用される場合、対象の疾患、障害または症状を治癒させることを意味する。
【0267】
ウロリチンまたはその前駆体は、単独で、または別の薬剤と一緒に、対象(例えば哺乳動物)に様々な方法で投与され得る。例えば、ウロリチンまたはその前駆体は、経口または非経口投与され得る。非経口投与は、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下、関節内、滑膜内、眼内、髄腔内、局所投与または吸入によるものを含むがこれらに限られない。そのようなものとして、ウロリチンまたはその前駆体の投与形態は、様々な形態の場合があり、自然食品、加工食品、天然果汁、濃縮物および抽出物、注射用溶液、マイクロカプセル、ナノカプセル、リポソーム、湿布薬、吸入形態、鼻腔スプレー、点鼻薬、点眼薬、舌下錠剤および持続放出製剤を含む。
【0268】
本発明の化合物は、単離形態で提供され得る。本明細書中で使用されるところの「単離(される)」という用語は、例えば天然で見出されるように、関心のある化合物が一緒に見出され得る他の化合物または構成成分から、実質的に取り出すことを意味する。1つの実施形態では、基本的に完全に取り出される場合、関心のある化合物が一緒に見出され得る他の化合物または構成成分から、化合物が単離されている。1つの実施形態では、化合物が純粋である場合、その化合物は単離されている。
【0269】
本発明の化合物は、治療投与のために、様々な製剤に組み込まれ得る。とりわけ、本発明の化合物は、適切な医薬的に許容可能な担体または希釈剤と組み合わせることにより医薬組成物に製剤化され得、錠剤、カプセル剤、粉剤、顆粒剤、軟膏、溶液、坐薬、注射剤、吸入剤、ジェル剤、ミクロスフェアおよびエアロゾルなど、固体、半固体、液体または気体の形態で製剤へと製剤化され得る。このように、経口、口腔、直腸、非経口、腹腔内、皮内、経皮および気管内投与を含め、様々な方法で化合物の投与を遂行することができる。活性薬剤は、投与後全身に行き渡り得るか、または、局所投与、壁内投与または、移植部位で活性用量を保持するように作用するインプラントの使用により、局所的であり得る。
【0270】
本発明の化合物は、食品添加物、食品成分、機能性食品、栄養補助食品、病人食、栄養補給食品またはサプリメント食品として処方することもできる。
【0271】
医薬品投与形態において、本化合物は、それらの医薬的に許容可能な塩の形態で投与され得る。これらはまた、他の医薬的に活性のある化合物との適切な併用によっても使用され得る。次の方法および賦形剤は単なる例示であり、限定するものではない。
【0272】
経口製剤の場合、本化合物は、単独でまたは、錠剤、粉剤、顆粒剤もしくはカプセル剤を作製するための適切な添加剤と組み合わせて、例えば、従来の添加剤、例えば、ラクトース、マンニトール、コーンスターチまたはバレイショデンプンなど;結合剤、例えば結晶性セルロース、セルロース誘導体、アラビアゴム、コーンスターチまたはゼラチンなど;崩壊剤、例えばコーンスターチ、バレイショデンプンまたはカルボキシメチルセルロースナトリウムなど;潤滑剤、例えばタルクまたはステアリン酸マグネシウムなど;および場合によっては、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、保存料および香味剤とともに、使用され得る。
【0273】
本化合物は、植物油またはその他の同様の油、合成脂肪酸グリセリド、高級脂肪酸のエステルまたはプロピレングリコールなど、水性または非水性溶媒中で、場合によっては従来の添加剤、例えば可溶化剤、等張剤、縣濁剤,乳化剤、安定化剤および保存料などとともに、それらを溶解、縣濁または乳化することによって、注射用の製剤に製剤化され得る。
【0274】
本化合物は、吸入を介して投与するためのエアロゾル製剤中で利用することができる。本発明の化合物は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素などの加圧型の許容可能な噴射剤へと製剤化することができる。
【0275】
さらに、本化合物は、乳化基剤または水溶性基剤などの様々な基剤と混合することによって、坐薬にすることができる。本発明の化合物は、坐薬を介して直腸投与することができる。坐薬は、体温で溶融するが室温では固体であるビヒクル、例えばカカオバター、カルボワックスおよびポリエチレングリコールなどを含み得る。
【0276】
シロップ、エリキシルおよび縣濁液など、経口または直腸投与のための単位投与剤型が提供され得るが、各投与単位、例えば、茶さじ一杯、大さじ一杯、錠剤または坐薬などは、1種類以上の本発明の化合物を含有する所定の量の組成物を含有する。同様に、注射または静脈内投与のための単位投与剤型は、滅菌水、生理食塩水または別の医薬的に許容可能な担体中の溶液として組成物中で本発明の化合物を含み得、各投与単位、例えば、mLまたはL、は、1種類以上の本発明の化合物を含有する所定の量の組成物を含有する。
【0277】
持続放出製剤のためのインプラントは当技術分野で周知である。インプラントは、生体分解性または非生体分解性ポリマーとともに、ミクロスフェア;スラブなどとして製剤化される。例えば、乳酸および/またはグリコール酸のポリマーは、宿主により十分に耐性である浸食性ポリマーを生成させる。阻害性化合物を含有するインプラントは、活性薬剤の局所濃度が身体の残りの部分と比較して高くなるように、関心のある部位の近位に置き得る。
【0278】
「単位投与形態」という用語は、本明細書中で使用されるところのヒトおよび動物対象に対する単位投与量として適切な物理的に分かれた単位を指し、各単位は、医薬的に許容可能な希釈剤、担体またはビヒクルを伴って、所望の効果を生じさせるのに十分な量において計算された所定量の本発明の化合物を含有する。本発明の新規単位投与剤型に対する仕様は、使用される特定の化合物および達成しようとする効果および宿主における各化合物と関連する薬力学に依存する。
【0279】
ビヒクル、アジュバント、担体または希釈剤などの医薬的に許容可能な賦形剤は、公衆に容易に入手可能である。さらに、pH調整剤および緩衝剤、等張調整剤、安定化剤、湿潤剤など、医薬的に許容可能な補助物質は、公衆に容易に入手可能である。
【0280】
臨床用途に対して、ウロリチンまたはウロリチン前駆体は治療的有効量で投与される。本明細書中で使用されるところの「有効量」は、所望の生物学的効果を実現するのに十分である量を指す。本明細書中で使用されるところの「治療的有効量」とは、所望の治療効果を単回投与または複数回投与で実現するのに十分な量を指す。当業者は、インビトロで、前臨床または臨床試験またはそれらのいずれかの組み合わせに基づいて、治療的有効量を決定することができる。
【0281】
投与は通常、毎日から毎週である。1つの実施形態では、投与は、少なくとも週に1回である。例えば、対象は、週に1回、週に2回、週に3回または1日おきに、1用量を投与され得る。1つの実施形態では、投与は少なくとも1日1回である。例えば、対象は、毎日1回以上、投与され得る。
【0282】
臨床用途の場合、ウロリチンは通常、対象の体重1キログラム(kg)あたり約0.2から150ミリグラム(mg)のウロリチンの範囲の量で投与される。1つの実施形態では、ウロリチンまたはその前駆体は、ウロリチン2から120mg/kg対象体重に等しいかまたはこれと同等な用量で投与される。1つの実施形態では、ウロリチンまたはその前駆体は、ウロリチン4から90mg/kg対象体重に等しいかまたはこれと同等な用量で投与される。1つの実施形態では、ウロリチンまたはその前駆体は、ウロリチン8から30mg/kg対象体重に等しいかまたはこれと同等な用量で投与される。ウロリチンではなくウロリチンの前駆体が投与される場合、上述量のウロリチンと同等である量で投与される。
【0283】
いかなる用量も、単回投与または分割投与で投与され得る。
【0284】
1つの実施形態では、ウロリチンまたはその前駆体は、少なくとも、0.001マイクロモラー(μM)のピーク血清レベルを達成するのに十分な用量で投与される。1つの実施形態では、ウロリチンまたはその前駆体は、少なくとも0.01μMのピーク血清レベルを達成するのに十分な用量で投与される。1つの実施形態では、ウロリチンまたはその前駆体は、少なくとも、0.1μMのピーク血清レベルを達成するのに十分な用量で投与される。1つの実施形態では、ウロリチンまたはその前駆体は、少なくとも1μMのピーク血清レベルを達成するのに十分な用量で投与される。1つの実施形態では、ウロリチンまたはその前駆体は、少なくとも5μMのピーク血清レベルを達成するのに十分な用量で投与される。1つの実施形態では、ウロリチンまたはその前駆体は、少なくとも10μMのピーク血清レベルを達成するのに十分な用量で投与される。
【0285】
1つの実施形態では、ウロリチンまたはその前駆体は、少なくとも、0.001マイクロモラー(μM)の持続的血清レベルを達成するのに十分な用量で投与される。1つの実施形態では、ウロリチンまたはその前駆体は、少なくとも0.01μMの持続的血清レベルを達成するのに十分な用量で投与される。1つの実施形態では、ウロリチンまたはその前駆体は、少なくとも0.1μMの持続的血清レベルを達成するのに十分な用量で投与される。1つの実施形態では、ウロリチンまたはその前駆体は、少なくとも1μMの持続的血清レベルを達成するのに十分な用量で投与される。1つの実施形態では、ウロリチンまたはその前駆体は、少なくとも5μMの持続的血清レベルを達成するのに十分な用量で投与される。1つの実施形態では、ウロリチンまたはその前駆体は、少なくとも10μMの持続的血清レベルを達成するのに十分な用量で投与される。例えば、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)またはHPLC-MSなど、いずれかの適切な方法を用いて、持続的血清レベルを測定することができる。
【0286】
1つの実施形態では、ウロリチンまたはその前駆体は、25mLから5Lの量または同等用量のエラジタンニン、エラグ酸、ウロリチンまたはそれらのいずれかの組み合わせで、ザクロ果汁として投与される。表4は、様々なレベルのザクロ果汁に対する、様々なザクロ化合物の摂取を示す。この範囲は、異なる品種のザクロ間での化合物濃度の相違を包含する。エラグ酸当量の計算に対して、プニカラギン各モルの代謝の結果、1モルのエラグ酸の放出が起こり、この変換が100%の効率で起こったと仮定した。プニカラギン由来のもの、100%の効率でウロリチンに変換されるものを含め、全てのエラグ酸が存在すると仮定して、ウロリチンレベルを求めた。プニカラギンおよびエラグ酸の他に、エラグ酸の他の供給源は考慮しなかった。
【0287】
【0288】
1つの実施形態では、対象は、本発明の方法による症状の治療以外のいずれの目的でもウロリチンまたはその前駆体を摂取していない。1つの実施形態では、対象は、アテローム性動脈硬化症、血栓症、癌、不要な血管形成、感染または炎症の治療のためにウロリチンまたはその前駆体を摂取していない。
【0289】
実施例
本発明は全般的に説明してきたが、以下の記載を参照することによりもっと容易に本発明は理解されるであろう。以下の記載は、一部の局面および実施形態の単なる例示目的のために含まれるものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0290】
ザクロ化合物からの機能的抽出物の調製
以下に記載のとおり、標準的なポリマー吸着を利用するカラムでのポリフェノールの吸着に基づく抽出手順を用いて、特異的な分子を含有する本願に説明されるザクロ抽出物が調製された。ザクロ果汁由来の抽出物31008および1108の調製の場合、標準的な搾汁および製造過程を用いてザクロを搾汁し、純粋な果汁としてポリマー性クロマトグラフ樹脂上に吸着された。樹脂Amberlite XAD-16(Rohm & Haas)が準調製用カラムに充填され、抽出した果汁が装架された。カラムは水で洗浄され、完全になるまで糖が除去された(Brixレベルは0.1%未満。)。ポリフェノールは100%エタノールで溶出された。残留エタノールは真空下で蒸発され、総ポリフェノール含量に対するFolinアッセイを用いて測定されたところ、1Lあたり4.5gの総ポリフェノールを含有する濃縮抽出物が得られた。抽出物31008および1108と同様にして抽出物1011が調製されたが、続いて噴霧乾燥機を利用して液体抽出物が噴霧乾燥され、最終的な粉末抽出物が得られた。化合物の同定のためにHPLC-MSを用いて、抽出物31008、1108および1011が、分子、プニカラギン、プニカリン、テリマグランジンおよびペドゥンクラジン(pedunculagin)を含有することが分かった。
【0291】
ザクロ仮種皮パルプから外皮が手で剥離され、続いて手動の果実搾汁機で加圧することによって、ザクロ外皮由来の抽出物71109が調製された。最大量のポリフェノールを抽出するため、抽出効率を向上させるために加圧したザクロ部分のケーキ/搾りかすが連続的に(5分間)数回水に浸漬された。セミ分取用カラムに充填されるポリマー性クロマトグラフAmberlite XAD-16樹脂(Rohm & Haas)に吸着される前に、抽出ザクロ溶液は遠心によって透明化され、ザクロ外皮からの抽出水が装架された。カラムは水で洗浄され、完全になるまで糖が除去された(Brixレベルは0.1%未満)。100%エタノールでポリフェノールが溶出された。残留エタノールは真空下で蒸発され、総ポリフェノール含量に対するFolinアッセイを用いて測定したところ、1Lあたり17.1gの総ポリフェノールを含有する濃縮抽出物が得られた。この技術は、様々な植物および液果類からのポリフェノール精製のための、公開されている複数の方法に記載される当技術分野で知られた方法の改変法である。Tuck,K.L.and P.J.Hayball(2002)”Major phenolic compounds in olive oil:metabolism and health effects.”J Nutr Biochem 13(11):636-644;and Schieber,A.,P.Hilt,et al.(2003)”A new process for the combined recovery of pectin and phenolic compounds from apple pomace.”Innovative Food Sci.Emerging Technol.4:99-107。
【0292】
抽出物61109の調製には、遠心分配クロマトグラフィーを用いてザクロの水性抽出物が分画された。単離画分を凍結乾燥して、プニカラギンが非常に豊富な(>90%)抽出物61109が得られた。
【0293】
プニカラギンの精製
抽出物の調製
16mLの有機/水相混合液(1:1)中でザクロからの抽出物を溶解し、テフロン(登録商標)フィルター(0.45μm)上でろ過した。
【0294】
遠心分配クロマトグラフィーを用いた抽出物からのプニカラギンの分離
遠心分配クロマトグラフィーCPCを利用することによって、ザクロ抽出物からのプニカラギンの分離が行われた。CPC装置は、1000mL限度容量のローターを備える、Kromaton Technologies(Angers、France)より提供されるFCPC(登録商標)1000装置であった。溶媒を4-wayバイナリ高圧勾配ポンプにより注入された。20mL試料ループを備えた高圧注入バルブ(Rheodyne)を介してCPCカラムに試料が導入された。分取フローセルを備えたダイオードアレイ検出(DAD)検出器により流出液が監視された。画分回収装置により画分が回収された。分離段階は室温で行われた。
【0295】
抽出を完遂するために、上昇モードで回転させずに固定相が最初にカラムに導入され、次に、平衡段階に到達するまで固定相を通じて移動相が送り込まれた。次に、回転速度が0から1000rpmに上昇され、20mL/分の流速で移動相がカラムに送り込まれた。10gのザクロ抽出物の注入後、毎分20mLの画分が回収された。λ=260nmでのオンラインUV吸収測定により、送出された有機相の含量が監視しされた。
【0296】
カラムから化合物全てを回収するために、溶出-噴出手順が使用された:100分間の古典的溶出後、含有される全体積(1000mL)がカラムから押し出されるまで、流動性の液体として用いた固定相により移動相が置換された。溶出51分から63分の間、94から97%クロマトグラフ純度のプニカラギンを含有する画分(AおよびB異性体の混合物)が得られ、85から88%クロマトグラフ純度の第二の画分が64分から79分の間に得られた。
【0297】
純度レベルを測定するために、260nmの検出波長でHPLC-DADを用いて精製試料が調べられた。Prosontil C18、5μm、250x4mmカラムで試料が測定に供された。使用した溶媒は流速1mL/分のH2O mQ+9.1%TFA/アセトニトリル+0.1%TFAであった。
【実施例2】
【0298】
原型的骨格筋細胞株(C2C12筋管)におけるミトコンドリア遺伝子発現上昇を促進する化合物に対するインビトロスクリーニングアッセイ
骨格筋は、エネルギー消費およびインスリン感受性維持などの代謝機能に関与するので、代謝ホメオスタシスの制御において中心的役割を有する。これらの機能は、ミトコンドリアの活性に密に連結しており、ミトコンドリア機能低下は、代謝ホメオスタシス不全と、2型糖尿病、肥満および脂質異常症のような代謝性疾患発症とにおいて原因となる役割を果たす。分化したC2C12細胞(筋管)におけるミトコンドリア活性に関与する遺伝子の遺伝子発現プロフィールは、ミトコンドリア活性を反映する多くの経路、例えば、ミトコンドリア生合成、解糖系、脂肪酸β-酸化、電子伝達系(ETC)、ミトコンドリア動態を評価することによってミトコンドリア活性に対する化合物の影響を評価するための適切なモデルである。
【0299】
ミトコンドリア遺伝子発現に対する化合物の影響を評価するために、4日間にわたり血清飢餓状態にすることにより、C2C12筋芽細胞を筋管に分化させた(Cant▲oにアクサン記号▼ et al.(2009)Nature.458:1056-60)。1、10または50μMの最終濃度でエラグ酸またはウロリチンAとともに筋管が48時間インキュベーションされた(全てDMSO中で溶解、最終濃度0.1%)。対照としてDMSOが使用された(最終濃度0.1%)。処置の終了時、リン酸緩衝食塩水(PBS)で細胞が洗浄され、製造者の説明書(Trizol試薬、Invitrogen)に従って、1mLのTrizol試薬を添加することにより、mRNAがすぐに抽出された。抽出後、製造者の説明書に従って、逆転写によりcDNAが生成された。
【0300】
次のセットのプライマー(Fwd:フォワードプライマー;Rev:リバースプライマー)を使用することによる、リアルタイム定量的PCR(Watanabe et al.(2004)J Clin Invest.113:1408-18)により、ミトコンドリア機能を調節する遺伝子(PGC-1α、Tfam、PFKFB3、CPT1b、MCAD、LCAD、Ndufa2、Cyt cおよびMfn2)の発現レベルの評価が行われた。
【0301】
PGC-1α:(Fwd)AAGTGTGGAACTCTCTGGAACTG(配列番号1)
(Rev)GGGTTATCTTGGTTGGCTTTATG(配列番号2)
Tfam:(Fwd)AAGTGTTTTTCCAGCATGGG(配列番号3)
(Rev)GGCTGCAATTTTCCTAACCA(配列番号4)
PFKFB3:(Fwd)TCATGGAATAGAGCGCC(配列番号5)
(Rev)GTGTGCTCACCGATTCTACA(配列番号6)
CPT1b:(Fwd)CCCATGTGCTCCTACCAGAT(配列番号7)
(Rev)CCTTGAAGAAGCGACCTTTG(配列番号8)
MCAD:(Fwd)GATCGCAATGGGTGCTTTTGATAGAA(配列番号9)
(Rev)AGCTGATTGGCAATGTCTCCAGCAAA(配列番号10)
LCAD:(Fwd)GTAGCTTATGAATGTGTGCAACTC(配列番号11)
(Rev)GTCTTGCGATCAGCTCTTTCATTA(配列番号12)
Ndufa2:(Fwd)GCACACATTTCCCCACACTG(配列番号13)
(Rev)CCCAACCTGCCCATTCTGAT(配列番号14)
Cyt c:(Fwd)TCCATCAGGGTATCCTCTCC(配列番号15)
(Rev)GGAGGCAAGCATAAGACTGG(配列番号16)
Mfn2:(Fwd)ACGTCAAAGGGTACCTGTCCA(配列番号17)
(Rev)CAATCCCAGATGGCAGAACTT(配列番号18)。
【0302】
PGC-1α(PPARγ-コレギュレーター1α)およびTfam(ミトコンドリア転写因子A)は、ミトコンドリア機能、すなわちミトコンドリア生合成およびミトコンドリアのリン酸化的酸化(mOXPHOS)、の主要制御因子である。これらの発現レベル上昇から、ミトコンドリア活性の全体的な促進が明らかとなる。ミトコンドリアの中心的な機能に関与する他の標的遺伝子の評価から、促進された経路を同定することができる。PFKFB3(6-ホスホフルクト-2-キナーゼ/フルクトース-2,6-ビホスファターゼ3)は、解糖系、すなわちエネルギーを産生するためのグルコースの使用、の中心的な酵素である。好気的条件下で(すなわち酸素供給がある場合)、クレブス回路を通じてエネルギー(ATP)を産生させるために解糖系を介してグルコースから産生されるピルビン酸がミトコンドリアにより使用される。CPT1b(カルニチンO-パルミトイルトランスフェラーゼ1b)、MCAD(中鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ)およびLCAD(長鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ)は、脂肪酸からのエネルギー産生のための2つの非常に重要な段階である、ミトコンドリアの脂肪酸取り込みおよびβ-酸化において中心的な役割を果たす。Ndufa2(NADHデヒドロゲナーゼ[ユビキノン]1α部分複合体サブユニット2)およびCyt c(チトクロムc)は、それぞれ、ミトコンドリア電子伝達系の複合体IおよびIVのサブユニットである。これらのタンパク質は、ミトコンドリアの呼吸鎖およびクレブス回路により産生される還元当量からのエネルギー産生において必須の役割がある。Mfn2(ミトフシン2)は、ミトコンドリアダイナミクスおよび融合過程に関与する。その発現は、ミトコンドリアリモデリングおよび/またはミトコンドリア生合成の増加(細胞あたりのミトコンドリア数増加)の状況において上昇する。
【0303】
図3で示されるデータから、エラグ酸およびウロリチンAが、ミトコンドリア代謝のいくつかの経路に関与する多くの遺伝子の発現を調節することによって、用量依存的にミトコンドリア活性を上昇させることが明らかに示される。
【実施例3】
【0304】
原型的骨格筋細胞株(C2C12筋管)におけるミトコンドリア活性の増強を促進する化合物に対するインビトロスクリーニングアッセイ
クエン酸シンターゼは、トリカルボン酸(TCA)回路の最初の酵素であり、TCA回路に入るための律速段階である。TCA回路によりNADH2およびFADH2が生じ、次いでこれらが電子伝達系を刺激するために使用されてプロトン(エネルギー)勾配が生じ、これがATPの産生において使用される。このようにして、クエン酸シンターゼは、ミトコンドリア数およびミトコンドリア活性の独占的マーカーである。クエン酸シンターゼ酵素活性における化合物または処方物の影響を測定することによって、化合物の、ミトコンドリア活性(すなわちOXPHOSおよびATP産生)刺激能を評価することができる。
【0305】
酵素クエン酸シンターゼは、クエン酸を産生させるための、アセチルコエンザイムA(アセチルCoA)とオキサロ酢酸との間の反応を触媒する。アセチルCoAは、オキサロ酢酸の2個の炭素から4個の炭素を与え、その結果、6個の炭素があるクエン酸が生じる。アセチルCoAのチオエステルの加水分解の結果、チオール基(CoA-SH)があるCoAが形成される。5-チオ-2-ニトロ安息香酸(TNB)を生成させるためのCoA-SHのチオールと混合物中のDTNBの間の反応を介して、クエン酸シンターゼの活性を測定する。この黄色生成物(TNB)は、412nmでの吸収を測定することにより分光光度計を用いて観察される(クエン酸シンターゼアッセイキット、カタログ番号CS0720、Sigma Aldrich)。
【0306】
4日間にわたり血清飢餓状態にすることによりC2C12筋芽細胞を筋管に分化された(Cant▲oにアクサン記号▼ et al.(2009)Nature.458:1056-60)。1または10μMの最終濃度のプニカラギンか、1、10または50μMの最終濃度のエラグ酸またはウロリチンかとともに筋管が48時間インキュベーションされた(全てDMSO中で溶解、最終濃度0.1%)。DMSOが対照として使用された。(最終濃度0.1%)。処理終了時、PBSで細胞は3回洗浄され、製造者の説明書に従って、クエン酸シンターゼ活性についてアッセイされた(クエン酸シンターゼアッセイキット、カタログ番号CS0720、Sigma Aldrich)。
【0307】
図4で示されるように、プニカラギン、エラグ酸およびウロリチンにより、クエン酸シンターゼ活性が用量依存的に増大し、このことから、ミトコンドリアの活性および/またはミトコンドリア密度(細胞あたりのミトコンドリア数)の全体的な上昇が示される。これらの結果により、ミトコンドリア遺伝子の遺伝子発現プロフィールにより得られた結果が確認され(実施例1)、処理された分化C2C12におけるミトコンドリア活性およびミトコンドリア生合成の促進が示される。
【0308】
統計:一元配置ANOVA *p<0.05。
【実施例4】
【0309】
原型的骨格筋細胞株(C2C12筋管)においてAMP活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)活性を促進する化合物に対するインビトロスクリーニングアッセイ
AMPKは、グルコースの細胞取り込みと、脂肪酸のβ酸化と、グルコーストランスポーター4(GLUT4)およびミトコンドリアの生合成とを含むいくつかの細胞内システムを制御する代謝のマスタースイッチとして作用する。AMPKのエネルギー検知能は、休息および運動(筋肉刺激)の間に起こるAMP:ATP比の変動を検出し、これに反応するその能力に起因する。例としては、運動中、AMPK活性が上昇する一方で(AMPKのリン酸化、P-AMPK)、筋肉細胞で、細胞の極端なATPの要求によりもたらされる代謝ストレスが生じる。活性時(AMPKリン酸化、P-AMPK)、AMPKは、同化エネルギー消費経路(脂肪酸合成、タンパク質合成など)を阻害し、エネルギーを産生する異化作用経路(脂肪酸酸化、グルコース輸送など)を刺激することにより細胞エネルギーレベルを増大させる。結果として、AMPK活性化は、OXPHOSおよびミトコンドリア生合成増加を含む、ミトコンドリア機能の促進につながる。
【0310】
4日間にわたり血清飢餓状態にすることによりC2C12筋芽細胞を筋管に分化させた(Cant▲oにアクサン記号▼ et al.(2009)Nature.458:1056-60)。陽性対照としてのレスべラトロール(RSV)か、50μMの最終濃度のエラグ酸またはウロリチンA(UL)かとともに筋管が1時間インキュベーションされた(全てDMSO中で溶解、最終濃度0.1%)。DMSOが対照として使用された。(DMSO最終濃度:0.1%)。処理終了時、PBSで細胞が3回洗浄され、AMP-活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)がウエスタンブロットにより評価された。化合物処理後、ホスファターゼ阻害剤を含有する緩衝液中でC2C12細胞が溶解され、標準的なブラッドフォードアッセイを用いてタンパク質濃度が求められた。10%SDS-PAGEゲル上での分離のためにタンパク質25μg相当量が使用され、続いて標準的ウエスタンブロッティング手順により転写された。AMPK(細胞シグナル伝達)およびリン酸化AMPK(P-AMPK、細胞シグナル伝達)に対する抗体が検出のために使用された。
【0311】
図5で示されるように、リン酸化された、したがって活性化型のAMPK-すなわちP-AMPKに対するウエスタンブロット分析から、対照処置細胞と比較して、AMPK(P-AMPK)のリン酸化レベルおよび、それゆえ、AMP活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)の活性化が、エラグ酸またはウロリチンで処理した細胞で実際に強化されたことが示された。このデータは、エラグ酸およびウロリチンAが両者ともAMPK活性化因子であることを示す。これは、エラグ酸およびウロリチンがミトコンドリア機能の向上を誘導するという観察をさらに裏付ける。
【実施例5】
【0312】
PC-12細胞での、神経突起伸長を促進する化合物に対するスクリーニングアッセイ
神経培養における神経突起伸長および細胞あたりの平均突起数は、神経機能に対応することが示されている。慢性ストレスの結果、樹状突起長および分枝数の両方が減少し、この影響は、ストレスが除去されると逆転したことが示されている。さらに、この可逆性は、加齢により阻害されるようになることが示された(Bloss,Janssen et al.2010)。学習および新規知覚経験には棘突起形成の増加および遅延性の過程の除去を伴うというさらなる証拠もある。ゆえに、シナプス構造可塑性は、学習および記憶において重要な役割を果たす(Yang,Pan et al.2009)。実際に、神経成長因子(NGF)などの化合物により誘導される神経突起伸長レベルおよび突起数は、それらの神経保護能と強く相関する。老化とともに、このシナプスの可塑性は低下し、棘突起の喪失が増加し、シナプス密度が低下する(Dumitriu,Hao et al.2010)。また、神経変性疾患は神経突起伸長にも影響がある。アルツハイマー病において重大な影響があるA-β(Aβ)ペプチドは、マウス神経芽細胞において神経突起伸長を阻害した。したがって、インビトロでの神経突起伸長に対する影響をアッセイすることによって、慢性ストレス下にあるニューロン、老化が起こっているニューロンおよび神経変性疾患に存在するニューロンに対する神経保護効果を有する化合物および製剤を同定することができる。
【0313】
神経成長因子(NGF)に反応して分化することが示されている(Greene and Tischler 1976)ノルアドレナリン作動性のラット褐色細胞腫細胞株(PC-12細胞)の細胞において、様々なエラジタンニンおよびそれらの代謝産物プニカラギン(PA)、プニカリン(PB)、テリマグランジン(TL)、エラグ酸(EA)およびウロリチン(UA)の神経突起伸長に対するインビトロでの効果が試験された。これらの分化したPC-12細胞における神経突起伸長は、ジブチリル環状AMP(dbcAMP)により強く促進されることが示されており(Gunning,Landreth et al.1981)、この化合物が陽性対照として利用された。陰性対照として、神経突起伸長の分化パラメータを低下させることが示されている特異的なヤヌスN末端キナーゼ(JNK)阻害剤SP600125が利用された(Xiao,Pradhan et al.2006)。本アッセイで試験したエラジタンニンおよびそれらの代謝産物は合成するか、あるいは、フナコシ、SigmaおよびChemosを含む供給元から購入された。保存溶液は分注され、-20℃で保管された。
【0314】
ポリL-リジン被覆培養フラスコにおいて、完全培地(RPMI1640+10%熱不活性化ウマ血清+5%ウシ胎仔血清)中で、PC-12細胞(ATCC CRL-1721)が37℃、5%CO2で培養された。
【0315】
100ng/mL NGF(2.5S NGF、Invitrogen)が添加された完全培地中で、播種から24時間後、培養フラスコ中で細胞が分化された。NGF添加培地を3日ごとに交換され、8日間にわたり分化が誘導された。
【0316】
全ての被験化合物は、ジメチルスルホキシド(DMSO)中50mM保存溶液として実験直前に調製された。最終DMSO濃度は、全実験群の培地中で0.1%であった。
【0317】
神経突起伸長測定の場合、分化した細胞はリン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄され、剥離後回収され、100ng/mLNGFが添加された、10μM SP600125(陰性対照)、1mM dbcAMP(陽性対照)または5x10-7Mの被験化合物を含むかまたは含まない完全培地中で、細胞5,000個/ウェル(バイオコートイメージング96ウェルプレート)の密度で再び播種された。未分化対照群では、再播種後、NGFは添加されなかった。
【0318】
培養72時間後、PC-12細胞はPBSで洗浄され、1%パラホルムアルデヒド溶液中で20分間固定された。PBSで3回洗浄された後、タンパク質のシステイン残基のチオール基と反応し、神経突起を含む細胞形態全体を可視化するTexas Redマレイミドプローブで免疫蛍光標識が行われた。
【0319】
自動共焦点顕微鏡において免疫蛍光分析が行われた。8X8フィールドモンタージュでのX20対物レンズ下でBD経路855システムを用いて画像が得られた。次に、Metamorph(登録商標)ソフトウェアの神経突起モジュールにより、得られた画像から神経突起伸長が測定された。伸長の合計および平均と、細胞あたりの突起の総数および平均と、広範囲の伸長(伸長が20μmを超えるものと定義)がある細胞の総数および百分率が分析された。
【0320】
PAおよびPBを除く全化合物によって、
図6で示されるようにウェル中のPC-12細胞数が30%を超えて増加し、このことから、0.5μMの濃度でのこれらの化合物についての栄養作用を示す(分化した対照(対照)に対して、UA、EAおよびTLについてp<0.001)。
【0321】
神経突起伸長の促進
図7および
図8で示されるように、被験化合物は全て(PA、PB、TL、EAおよびUA)、分化したPC-12細胞から強固な神経突起伸長を誘導することができた。平均伸長(
図7)は、被験化合物全てについて、分化した対照よりも30%を超えて長かった。有意な伸長を示す細胞の百分率(
図8)は、被験化合物全てについて、分化した細胞に対して観察されたものよりも有意に大きかった(UAについてp<0.05およびPB(26%増加)、PAについてp<0.01(>26%増加)、EAについてp<0.001およびTL、(>37%増加))。
【0322】
突起形成および分枝形成の促進
化合物PA、PB、UA、EAおよびTLは全て、分化したPC-12細胞に添加したとき、突起数増加を誘導した。化合物(UA、p<0.05(15.7%増加);PA、p<0.01(26.3%増加);EAおよびTL、p<0.001(>31%増加)は、突起形成促進において、陽性対照であるdbcAMPと同等の効果であるかまたはこれよりも効果が大きかった(
図9)。
【0323】
神経突起分枝形成は、分化した対照で観察されたものよりも有意に多く、ほとんどの化合物が分枝形成の2倍の増加を誘導した。
【実施例6】
【0324】
ドーパミン作動性TH-陽性初代培養ニューロンにおける神経突起伸長を促進する化合物のスクリーニングアッセイ
初代培養ニューロンは、非形質転換状態であるがゆえに、ニューロン伸長および樹状突起および突起形成など、神経可塑性および分化のマーカーにおける化合物の効果についての良好なインビトロモデルとなる。この過程における様々なエラジタンニン代謝産物プニカラギン(PA)、ウロリチン(UA)、エラグ酸(EA)およびテリマグランジン(TL)の効果が調べられた。本アッセイの被験化合物は、FunakoshiおよびSigmaを含む供給元から購入または化学合成された。保存溶液が分注され、-20℃で保管された。
【0325】
中脳初代培養はラットE14胚から調製された。腹側中脳が慎重に切断され、切り出された。次に、JNK-特異的阻害剤SP600125(10μM)(陰性対照とする。)か、dbcAMP(1mM)(陽性対照とする。)か、各0.1μM用量の被験化合物かを含むかまたは含まない、10%熱不活性化ウマ血清を含有するDMEM F12培地中に、細胞100,000個/ウェル(96-ウェルプレート)の密度で細胞が播種された。
【0326】
播種から72時間後、自動共焦点顕微鏡(x4対物レンズ、モンタージュ4x4)により撮影された、ウェル表面全体をカバーする画像から、ドーパミン作動チロシンヒドロキシラーゼ(TH)-陽性ニューロンの神経突起伸長に対する効果が測定され、神経突起伸長モジュールMetamorph(登録商標)ソフトウェアを用いて定量された。このようにして、神経突起伸長のいくつかの代表的パラメータが得られ、総伸長および平均伸長と、細胞あたりの突起の総数および平均と、広範囲の伸長がある細胞(伸長が20μmを超えるものと定義)の総数および百分率が分析された。実験は全て、同一条件で4個同時に行われた。
【0327】
神経突起伸長の促進
図10-16で示されるように、上記PC-12スクリーニングアッセイにおいて選択された化合物は、0.1μMの濃度で初代培養中脳ニューロンの神経突起伸長も誘導することができた。ほとんどの化合物が、
図10で示される細胞あたりの平均伸長により判断されるとおり、細胞あたりの伸長促進(伸長が25%を超えて増加)においてdbcAMPと同等の効果があった(UA、GA、EA、TLについて、対照に対してp<0.001)。被験化合物は全てdbcAMPと同等またはこれより良好であった(
図11)。
【0328】
神経突起および分枝形成の増加
全ての被験化合物は、細胞あたりの突起の数の平均が有意な増加を示し(>10%)(
図12)、最大突起長も同様(>10%)であった(
図13)。
【0329】
初代培養細胞は、陽性対照(dbcAMP)の存在下で分枝形成の増加を示した。しかし、JNK阻害剤SP600125は、PC12細胞において、初代培養細胞分枝形成を阻害しなかったが、dbcAMPと同レベルではないものの分枝形成を促進可能であった(dbcAMPに対して、60%対86%の増加が見られる。)。化合物UA、EAおよびTLは、dbcAMPと同レベルで分枝形成を促進することができた(分枝形成が>111%増加、
図14)。
【0330】
細胞あたりの樹状突起の増加および樹状突起長
UA、EAおよびTLについては樹状突起数がdbcAMPを上回るレベルで顕著に増加し、全化合物が>18%の増加を示した(
図15)。
【0331】
エラグ酸、ウロリチンAおよびテリマグランジンは全て、dbcAMPについて観察されるものより多い、26%を超える樹状細胞長の伸長があった(
図16)。
【実施例7】
【0332】
ザクロ抽出物、プニカラギン、エラグ酸およびウロリチンAは、高脂肪餌を付与したマウスにおいて体重増加を抑制し、脂肪量を減少させた。
【0333】
Charles River Laboratory(L’Arbresle,France)より、7週齢でオスC57BL6/Jマウスを購入し、実験開始前に2週間、動物施設に順応させた。標準的な飼育条件で、12時間の明暗サイクルにて、自由に摂餌、飲水できるようにし、5群にわけてマウスが飼育された。9週齢で開始され、マウスに高脂肪餌(HFD)(脂肪から60%kcal;D12492;Research Diets Inc.,
New Brunswick,NJ,)が14週間にわたり与えられた。体重が毎週監視された。
【0334】
異なる処置群のマウスに、(i)55mg/kg体重/日(mkd)の用量となるように食餌(食餌混合物)と混合したウロリチンAか、(ii)75mkdの用量となるように食餌(食餌混合物)と混合したエラグ酸か、(iii)90mkdの用量となるように、プニカラギン(強制投与か、または(iv)総ポリフェノールが140mkdの用量となるように、ザクロ抽出物(PE)(強制投与)かを投与した。これらの実験で使用された典型的なザクロ抽出物は次の組成を有した:ポリフェノール、140mkd;プニカラギン、13.1mkd;およびエラグ酸、13.2mkd。強制投与により処置した動物の場合、強制投与は毎日(7日/週)、午前8:00から10:00の間に行われ;化合物は、食塩水溶液(0.9%NaCl)と混合され、5mL/kg体重の最終体積で与えられた。高脂肪対照群のマウスには、実験動物と同じ餌が与えられた。対応する異なる対照群のマウスには、高脂肪餌単独または高脂肪餌+ビヒクル(食塩水)での毎日の強制投与のいずれかが与えられた。別の対照群マウスには、標準的な飼料のみが与えられた。
【0335】
高脂肪餌付与マウスに対しては処置開始から5週間後、飼料を与えたマウスの場合は処置開始から2週間後、EchoMRI(Echo Medical Systems,Houston,TX,USA)により身体組成が監視された。動物を個別にプラスチックシリンダーに入れ、次いで、身体組成スキャン(除脂肪および脂肪量)のために約2分間、EchoMRIシステムに導入された。
【0336】
【0337】
高脂肪餌(HFD)を与えたマウスでは、標準的な飼料(CD)を与えた対照マウスと比較して重度の肥満となった(
図17A)。未処置高脂肪餌付与マウスにおける体重増加は、脂肪量の%上昇(
図17B)および筋肉量(除脂肪量)%の低下(
図17C)(両者とも処置5週間後にEchoMRIにより測定)と関連していた。高脂肪餌付与マウスにおいて、ウロリチンA(餌混合物により投与)またはプニカラギンもしくはザクロ抽出物(PE)(両者とも強制投与)での処置によって肥満の発症が阻止され、処置したHFD餌マウスでは、対照HFD餌マウスと比較して、体重増加が大きく減少した(
図17A)。これに加えて、ウロリチンA、プニカラギンまたはPEで処置したHFD餌マウスでは、未処置HFD付与マウスと比較して、脂肪量が有意に減少した(
図17B)。
【0338】
標準飼料付与およびエラグ酸またはウロリチンAのいずれかで処置したマウスでも、筋肉(除脂肪量)増加と同時に脂肪量減少が見られ、このことから、これらの処置が、体重および除脂肪または筋肉質の管理に好ましいことが示される(
図18B)。
【実施例8】
【0339】
ザクロ抽出物、プニカラギン、エラグ酸およびウロリチンAは、正常および肥満マウスにおいて筋肉量を増加させる。
【0340】
オスC57BL6/Jマウスが群に分けられ、実施例7に記載のとおり処置された。
【0341】
標準飼料付与マウスおよびHFD餌マウスの両者において、PE、プニカラギン、エラグ酸またはウロリチンAでの治療の結果、除脂肪量の百分率が統計学的に有意に増加した。高脂肪餌を付与し、ウロリチンA、プニカラギンまたはPEで処置されたマウスでは、筋肉(除脂肪量)の増加と同時に脂肪量の減少が見られた(
図17Bおよび17C)。飼料を与え、エラグ酸またはウロリチンAのいずれかで処置されたマウスにおいても、筋肉(除脂肪部分の量)の増加とともに脂肪量の減少が見られ、このことから、これらの処置が、体重および除脂肪または筋肉質の管理に好ましいことが示される(
図18Aおよび18B)。除脂肪部分の量は主に筋肉量に相当するので、これらの結果は、PE、プニカラギン、エラグ酸またはウロリチンAのいずれかでの処置の結果、総体重に関して正常および肥満マウスの両方において筋肉量の割合がどのように増加するのかを説明する。この効果は、早ければ治療の2週間後に認められた。
【実施例9】
【0342】
ザクロ抽出物、プニカラギン、エラグ酸およびウロリチンAは、正常および肥満マウスにおいてエネルギー消費を増加させる。
【0343】
オスC57BL6/Jマウスを群に分け、実施例7に記載のとおり処置した。しかし、さらに、HFD付与マウスに対して処置開始から8週間後、および標準的な飼料(show diet)を与えたマウスでは処置開始から2週間後、Comprehensive Laboratory Animal Monitoring System(総合的実験動物監視システム、CLAMS;Columbus Instruments,Columbus,OH,USA)を用いて、間接熱量酸素消費、二酸化炭素生成および呼吸交換比)によってマウスの基礎エネルギー消費が測定された。最初に、午前11時から12時の間に開始して、22時間、CLAMSケージ(室温22℃±1℃)に動物が順応された。次いで、同じ状態で、少なくとも20時間、測定を行った。測定には、完全暗周期が含まれた。CLAMS中に測定したパラメータは次のとおりであった:(i)酸素消費(VO2、mL/kg/h単位):VO2は、エネルギー消費と直接相関する;(ii)二酸化炭素生成(VCO2、mL/kg/h単位);および(iii)呼吸交換比(RER):VCO2/VO2:RERは、エネルギー基質の使用の指標である。定常状態において、RERは呼吸商(RQ)に等しい。純粋な炭水化物使用の場合はRER=1であり、純粋な脂肪燃焼によりRER=0.7となる。混合餌はRER=0.85となる。
【0344】
【0345】
酸素消費は、ミトコンドリアの活性およびエネルギー消費の生理学的マーカーである。PE、プニカラギン、エラグ酸またはウロリチンAのいずれかでの処置により、マウスにおいて酸素消費が顕著に増加した。エラグ酸およびウロリチンAにより、標準試料付与マウスにおいてエネルギー消費が増加した(
図19Aおよび19B)。この効果は、治療から早くて2時間後に観察された。ザクロ抽出物(PE)、プニカラギンおよびウロリチンA処置により、HFD付与マウスにおけるエネルギー消費が増加した(
図20Aおよび20B)。
【実施例10】
【0346】
ザクロ抽出物、プニカラギン、エラグ酸およびウロリチンAは、正常および肥満マウスにおけるエネルギー基質としての脂肪の使用を増加させる。
【0347】
オスC57BL6/Jマウスを群に分け、実施例9に記載のとおり処置した。
【0348】
上述のように、酸素消費に加えて、間接熱量測定法で二酸化炭素生成も監視された。二酸化炭素生成(VCO2)と酸素消費(VO2)との間の比は呼吸交換比(RER)と呼ばれる。RERは、エネルギー基質の使用の優れた指標である。定常状態において、RERは呼吸商(RQ)と等しい。エネルギー基質としての炭水化物の選択的な使用により、RERが1に近づき、一方でエネルギー基質としての脂肪の使用(脂肪燃焼)により、RERは低くなり、脂肪酸が選択的に使用される場合、0.7に近付く。
【0349】
図21および
図22で示されるとおり、PE、プニカラギン、エラグ酸およびウロリチンAでの処置により、飼料およびHFD付与マウスの両者においてRERが顕著に低下した。この効果は、エラグ酸およびウロリチンAで処置し、通常飼料を与えたマウスにおいて劇的であった(
図21)。これらの結果は、脂肪組成が減少した、より筋肉(除脂肪)質の組成に有利に作用する、PE、プニカラギン、エラグ酸またはウロリチンAの摂取後に観察される身体組成の変化を裏付ける。
【実施例11】
【0350】
ザクロ抽出物、プニカラギンおよびウロリチンAは、肥満マウスにおいて、トリグリセリドの血漿レベルおよび遊離脂肪酸の血漿レベルを低下させる。
【0351】
オスC57BL6/Jマウスを群に分け、実施例7に記載のとおり処置した。さらに、標準的な自動臨床化学分析装置(Dimension Xpand,SIEMENS)を用いて、処置開始から14週間後に、血漿生化学検査が行われた。動物は12時間(午後8時から翌朝午前8時)、飢餓状態にされた後、採血された。イソフラン麻酔下の麻酔動物においておよそ500μLの血液gあ大静脈から回収された。ヘパリン処理したチューブ中で血液が回収され、すぐに湿った氷の上に置かれた。遠心(1500xg、15分、4℃)により血漿が調製された。次に、血漿試料が清潔な1.5mLマイクロチューブに移され、対応するキットを用いて、標準的な自動臨床化学分析装置(Dimension Xpand,SIEMENS)において生化学測定を行うまで-80℃で保管された。
【0352】
標準的生化学により、対照および処置を行ったHFD付与マウスの血中で、トリグリセリドおよび遊離脂肪酸の循環レベルが測定された(
図23)。PE、プニカラギンおよびウロリチンA処置により、トリグリセリドおよび遊離脂肪酸の血漿レベルが統計学的に有意に上昇した。これらの結果から、肥満マウスで脂質異常症を治療することにおいて、PE、プニカラギンおよびウロリチンAが有効であり、結果的に、心血管系機能を改善させ、心血管疾患を予防するために作用する場合があることが示される。
【実施例12】
【0353】
プニカラギン、エラグ酸およびウロリチンAは肥満マウスにおける耐糖能異常を改善する。
【0354】
オスC57BL6/Jマウスは群に分けられ、実施例7に記載のとおり処置された。さらに、耐糖能異常を発現したHFD付与マウスに対して、ブドウ糖負荷試験(GTT)が行われた。処置開始から10週間後、経口ブドウ糖負荷試験(oGTT)により、ブドウ糖負荷試験が監視された。oGTT前に、動物は12時間(午後8時から翌朝午前8時)飢餓状態にされた。oGTT当日、側尾静脈から血液の小滴(<2μL)が回収され、グルコメーター(AccuCheck Aviva,Roche Diagnosis)を用いて血糖が監視された。次に、各動物に、時間0で2g/kg体重の用量のD-グルコースの経口投与が行われた。次に、経口グルコース負荷後、時間15、30、45、60、90、120および150分で血糖が監視された。
【0355】
ヒトと同じように、マウスにおける高脂肪餌付与の結果、グルコース(2g/kg体重)への曝露直後、血糖のフォローアップにより評価(ブドウ糖負荷試験)した場合に重度の耐糖能異常を特徴とする肥満および2型糖尿病が発症した(
図24)。
図24で示されるように、プニカラギン、エラグ酸およびウロリチンA処置により、HFD付与マウスにおいて耐糖能が改善する。結果として、これらの処置はまた、2型糖尿病の治療に対する有効な治療アプローチともなり得る。
【実施例13】
【0356】
ウロリチンAは、老齢線虫(C.elegans)においてミトコンドリア機能を改善させる。
【0357】
大腸菌株OP50が播種された線虫成長培地(NGM)寒天プレート上で線虫(C.elegans)株が20℃で培養された。使用した株は、Caenorhabditis Genetics Center(University of Minnesota)により提供された野生型Bristol N2であった。ウロリチンAはDMSO中で溶解された。生きているOP50細菌とともに播種されたプレート上の卵から、動物は化合物に曝露された。対応するDMSO濃度(0.1%)で対照プレートが調製された。
【0358】
酸素消費の測定は、ミトコンドリア活性の直接的な指標である。線虫(C.elegans)はウロリチンAで成虫の10日間処理され、その時点でSeahorse XF24装置(Seahorse Bioscience Inc.,North Billerica,MA)を用いて酸素消費を測定することによって、老化線虫(C.elegans)(10日齢)でのミトコンドリア活性におけるウロリチンAの効果が評価された。250匹の10日齢線虫(C.elegans)がそれぞれの状態ごとに使用された。線虫(C.elegans)がM9培地が入ったNGMプレートから取り出され、2mL M9中で3回洗浄されて、残留細菌が除かれ、500μLのM9培地で再懸濁された。線虫は24ウェルの標準的Seahorseプレート(#100777-004)(ウェルあたり線虫50匹)に移され、酸素消費が測定された。最初に線虫の基礎酸素消費が5分間隔で30分にわたり、(0分、5分、15分、20分、25分および30分)各間隔で5回繰り返して、測定された。実験終了後に実体顕微鏡を用いて調べたウェルあたりの正確な線虫数に対して呼吸速度が正規化された。基礎酸素消費が求められた後、最大酸素消費能および最大ミトコンドリア能を評価するために、30分の時点でカルボニルシアニド-p-(トリフルオロメトキシ)フェニルヒドラゾン(FCCP)を培地に添加することによって、脱共役酸素消費が測定された。脱共役酸素消費は、経時的にミトコンドリア機能を測定できるようにするために、5分間隔(35分、40分、45分、50分、55分および60分)で測定された。FCCPは、無傷のミトコンドリアにより観察される呼吸鎖とリン酸化系との間の強制的なつながりを無効にする化学脱共役剤である。この効果は、ミトコンドリアのリン脂質二重層で溶解される分子の両親媒性特性によるものである。これは、ミトコンドリア膜のイオン透過性を劇的に増大させ、劇的なプロトン漏洩を引き起こし、プロトン漏洩と平行して呼吸鎖に送られた電子の酸素による不活性化ゆえに酸素消費増加につながる。この酸素消費はATP産生(酸化的リン酸化)とは切り離されている(脱共役)ので、FCCPは、ミトコンドリアによるエネルギー(ATP)の生成を減少させながら、酸素消費を増加させる。完全に脱共役されたミトコンドリアは、FCCPで達成される場合、「ブレーキ」(酸化的リン酸化およびエネルギー産生がそれに相当)なく、それらのミトコンドリア呼吸鎖の最大性能(最大酸素消費)を示す)。
【0359】
図25で示される結果から、ウロリチンAが、対照(DMSO)処理線虫に対して、ウロリチンA処理線虫において脱共役呼吸増加に対する影響が長引くことにより示されるように、老齢線虫(C.elegans)の最大ミトコンドリア能を増加させることが示される。対照、未処理線虫は、脱共役呼吸が短時間増大し、すぐに基礎レベルの酸素消費に戻った。ウロリチンA-処理線虫は、酸素消費の改善がより長時間続いた。ミトコンドリア活性増強度は、ベースラインとして使用される平均共役呼吸と、脱共役時間中の曲線下面積(AUC)を比較することにより示される。30分間の評価時間にわたり、対照未処理線虫と比較した場合、老齢線虫においてウロリチンAが脱共役呼吸を有意に増加させることが認められた。
【実施例14】
【0360】
ウロリチンAは線虫(C.elegans)においてミトコンドリア活性を増大させる。
【0361】
HT115細菌が播種され、50μMウロリチンAまたは対照として対応する濃度のDMSOを含有する線虫成長培地寒天プレート上で線虫(C.elegans)株が20℃で培養された。線虫は24時間処理された。使用された株は、SJ4103(zcIs14[myo-3::GFP(mit)])であり、これは、特異的な体壁筋肉プロモーターmyo-3の調節下で、切断可能なミトコンドリア移行シグナルペプチド付きのミトコンドリア局在緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現する、安定トランスジェニック株である。既に記載のプロトコール(Durieux et al.,2011)に従い、GFP発現および定量が行われた。卵から50μMウロリチンAで線虫が処理され、成虫になってから1日後、GFPが監視された。Victor X4複数ラベルプレートリーダー(Perkin-Elmer Life Science)を用いて蛍光アッセイが行われた。80匹の線虫が無作為に取り出され(黒色壁96-ウェルプレートのウェルあたり線虫20匹)、各ウェルが4回読み取られ、平均が算出された。
【0362】
図26の結果は、ウロリチンAでの線虫の処理により、線虫(C.elegans)における筋肉特異的なmyo-3プロモーターにより駆動されるミトコンドリアGFP-レポーターの発現が誘導されたことが示される。このGFP発現の著しい増加は、ウロリチンAによってミトコンドリア能が増大したという明らかな証拠を与える。観察されるGFPシグナルのこのような上昇を可能にするために、筋肉のミトコンドリアは、これらの線虫において増大するかまたはより多くなるかのいずれかでなければならない。
【実施例15】
【0363】
慢性ストレスに反応した気分および認知に対するザクロ由来化合物の効果
7週齢C57BL/6J野生型オスマウスが慢性的な予測不可能なストレスに4週間にわたり曝露された。気分および認知に対する影響を調べるために、慢性ストレス期間の前、その最中またはその後に、いくつかの行動実験が行われた。以前に報告されているように、慢性ストレスは気分および認知に負の影響を与える。気分および認知に対するこの負の影響を軽減することに対してこれらの化合物がどのような影響を有するかを調べるために、これらのマウスにザクロ由来の天然化合物が投与された。
【0364】
実験開始前に、9日間、マウスは発明者らの動物施設に慣らされた。全マウスは3群に分けられ、12時間の明暗サイクル(午前7:00から午後7:00)下で自由摂餌および飲水可能にして標準的なプラスチック製のケージで飼育された。行った手順は全て、Swiss National Institutional Guidelines on Animal Experimentationに従って行われ、Swiss Cantonal Veterinary Office Committee for Animal Experimentationにより承認された。
【0365】
動物の特徴
動物施設に順応後、体重、高架式ゼロ迷路(EZM)における不安様行動、およびオープンフィールドおよび新規物体アッセイにおける自発運動および探索に関して全マウスの特徴が調べられた。これらの実験の目的は、これらの形質について同等である実験群および対照群を確立するために、動物の不安および探索度に従い動物を調和させることであった
高架式ゼロ迷路
高架式ゼロ迷路(EZM)で不安が測定された。薄暗く分散した光状態下でEZM(直径46cmで地面から46cmの高さの5.5-cm-幅の環状通路)中で5分間、マウスが観察された。2つの向かい合った90°の扇形部分が13.5cmの高さの内壁および外壁により包囲された。したがって、次のように3つの区画が次のように定められた:すなわち、包囲壁の端部にある4つの30°の弧を含む中間区画と、これを分離する、2つの50°幅の閉じられ/包囲された探索区画と、2つの70°幅の開放され/包囲されていない探索区画であった。これらの境界を用いて、動物がそこに全ての4本の肢で侵入した場合のみ開放区画への侵入を検出した。ビデオでの追跡(Ethovision 3.0,Noldus,Wageningen,Netherlands)によって、各マウスの軌跡が自動的に記録された。全区画への侵入総数が自発的な自発運動活性の指標とされ、その一方、侵入数および開放区画で過ごした時間の相違が不安の指標とされた。セッションとセッションの間に迷路は4%エタノール/水で洗浄された。
【0366】
オープンフィールドおよび新規物体
薄暗い分散光状態下で白色2次ボックス(50x50x37cm)において、自発運動およびオープンフィールド(OF)に対する反応性が評価された。マウスはフィールドの中央に置かれ、10分間自由に移動させられた。総移動距離、中央への侵入頻度、OFの中央での時間および%時間が分析された。フィールドの内部または「非包囲」エリアの回避が不安様行動と解釈される。活性の指標として総距離の測定値が使用される。新規物体(NO)試験を使用することによって、探索行動が評価された。OF試験直後にNO試験が行われた。マウスが内部にいるときに、小型の金属製の物体(3x1.5x5cm)がオープンフィールドの中央に置かれた。次に、新規物体を自由に探索させるために、マウスに5分間時間が与えられた。区画の中央および周辺部で過ごした時間、中央に侵入した回数および持続時間ならびに中央および区画全体で移動した総距離が分析された。新規物体を探索しながらマウスが中央で過ごした時間の百分率および距離が「集中した」探索活性の指標とみなされた。
【0367】
ザクロ由来抽出物での治療
慢性ストレスプロトコール開始の3週間前に、マウスが4つの異なる群に分けられた。1つの群に標準的なマウス飼料が与えられ(対照)、一方で残りの3群には様々な用量のザクロ果汁由来の抽出物である抽出物1011が与えられた。低用量は、ポリフェノール(GAE PPE)の没食子酸当量21mg/kg/dの抽出物用量に対応し、中用量は、GAE PPEの43mg/kg/dの抽出物用量に対応し、高用量は、GAE PPE 86mg/kg/dの抽出物用量に対応する(表5参照)。
【0368】
【0369】
食餌による処置は、慢性ストレスプロトコール開始3週間前に開始され、実験終了まで継続された。
【0370】
ウロリチンA、ザクロ由来代謝産物による処置
慢性ストレスプロトコール開始3週間前にマウスは2群に分けられた。一方の群に標準的なマウス飼料が与えられ(対照)、他方の群に、25mg/kg/dの用量で送達されるウロリチンAを含有する食餌が与えられた。
【0371】
慢性的な予測不可能ストレス
予測不可能な慢性ストレスプロトコールには、4週間にわたり予測不可能な瞬間に毎日ストレス状態に動物を曝露することが含まれた(28日間にわたり、午前8時から午後4時に無作為に分布)。使用されたストレス刺激は、6分間の尾部懸垂;3x0.4mAの回避不可能な肢への衝撃;汚れて湿ったおがくずへの4時間の曝露;高所にあるプラットフォーム上に2時間置く;プラスチック製の管の中で1時間静止;16℃に30分間曝露;明/暗サイクルを2日間逆転;より高齢の攻撃的な同種マウスと10分間接触;強い光への曝露(600ルクス);混雑したケージに2時間(マウス6匹)および40°傾いたケージに8時間のいずれかであった。全動物の体重が測定され、それらの毛皮の状態が定期的に(3から5日ごとに)評価された。この実験中、一方の群のマウスは慢性ストレスに曝露され、他方の動物群は平静な状態に置かれ、対照とされた。
【0372】
行動アッセイ
尾懸垂試験
マウスにおける抗うつ剤様活性を評価するためのモデルとして尾懸垂試験(TST)が使用される。この試験は、尾部で吊り下げられるという、短時間(6分間)の回避不可能なストレスを課されたマウスが、静止姿勢になるという事実に基づく。接着テープをその尾の先端から20mmに付着させてマウスが金属製の棒に吊り下げられた。床から棒までの距離はおよそ25cmであった。静止は、運動開始の欠如として定義され、受動的な揺動を含む。静止、足掻きおよびよじ登りを含んだ試験時間がビデオテープからスコア化された。
【0373】
図27で示されるように、慢性ストレスの結果、うつおよび無力感悪化の指標であるTSTにおける静止が増加した。しかし、漸増用量のザクロ抽出物で処置したマウスから、このパターンの反転および非ストレス負荷マウスで観察されるレベルまでの運動性および足掻きの回復が明らかになった。したがって、ザクロ抽出物は、慢性的にストレスが負荷された非処置マウスにおいて観察されるうつ反応を予防する。
【0374】
文脈認知
恐怖条件付け文脈学習は、動物の特定の文脈の記憶能力の目安である。このアッセイにおいて、マウスは箱に入れられ、次いで1分間あけて2回軽度のショックが与えられた。ショックに対する反応でマウスはすくむ。後刻マウスが箱に入れ戻されことにより、マウスがショックを受けた文脈を認識する能力が試験される。マウスが文脈を認識する場合、マウスは、ショックを受けることを予期してすくむ。
【0375】
正常マウスにおいて、何らショックなく文脈を認識する能力は、文脈記憶の目安である。文脈記憶がより良好であるマウスは、最初の文脈をより良好に認識し、したがって、すくみのレベルがより高くなる。
【0376】
ストレス負荷マウスにおける不安を測定するために、このアッセイを使用することもできる。ストレス負荷マウスにおいて、最初のショックに反応したすくみ反応時間の延長ならびに文脈の記憶に対する消滅時間の延長において、不安の増大が観察され得る。文脈記憶の消滅は、最初の不都合な刺激がない状態で数日間にわたり1日1回、同じ文脈にマウスを置くことによって測定される。経時的に、マウスは不都合な刺激と文脈との関連を忘れるが、これは、すくみが徐々に減少していくことにより明らかとなる。不安状態のストレス負荷マウスでは、この不都合な記憶の消滅に対してより時間がかかる。
【0377】
文脈認知に反応したマウスにおける不安誘導(すなわち学習された不安)に対するザクロ抽出物の効果を試験するために、恐怖条件付け文脈学習が使用された。げっ歯類条件付けチャンバー(20x20x28cm)において訓練および試験が行われ、プレキシガラス箱に入れ、20-W電球により照らされた。条件付けチャンバーの側壁は白色メタクリレートで構成され、扉および上蓋はプレキシガラス製であった。床は、20本の鋼棒から構成され、これらを通じてショック生成装置からスクランブル化されたショックが送達され得る。換気扇は68dBの背景雑音を与えた(システム全体:Panlab,S.L.,Barcelona,Spain)。ストレス負荷群において、慢性ストレスプロトコールの第三週の間、文脈に対する恐怖条件付けが行われた。恐怖条件付けの当日に、マウスをコロニールームから隣の行動実験室に運ばれ、条件付けチャンバーに入れられた。訓練は、マウスが条件付け文脈に3分間曝露され、次いで毎分3回、電気による足ショック(2秒、0.4mA)が与えられた。最後の足ショック後、動物はチャンバーに30秒間滞在させられた。各マウスが箱に入れられる前に、恐怖条件付けチャンバーは0.5%酢酸で完全に掃除された。この文脈記憶により誘導される不安のレベルに対する、慢性ストレスおよび様々な用量のザクロ抽出物の影響を調べるために、この文脈に反応した不安誘導性行動のレベルを測定した。不安レベルに感受性があることが知られている次の行動反応を調べた:%すくみ、%立ち上がりおよび%グルーミング。マウスを再び条件付け文脈に8分間曝露されてから48時間後にこれらの行動測定が行った。訓練および試験セッション後、動物はホームケージにすぐに戻された。動物の行動を記録し、動物の処置について観察者が分からないようにして、後に社内製行動観察ソフトウェアでスコア化された。
【0378】
心拍および呼吸を除く運動低下として定義されるすくみはスコア化され、不安の指標として使用された。すくみ時間は%すくみレベルに変換された。ザクロ抽出物は用量依存的反応を示し、最高用量で%すくみが有意に低下し(
図28)、このことから、不安に対する防御が示される。立ち上がりにおいて、不安行動の同様の減少が見られ、ザクロ抽出物投与時に立ち上がり行動が有意かつ用量依存的に阻止された(
図29)。これらの観察を完全にするのは、最高用量のザクロ抽出物により不安誘導性のグルーミング阻害が強く抑えられることである(
図30)。これらの結果は、ザクロ抽出物および化合物がマウスにおける経験誘導性の不安を抑制したことを実証する。
【0379】
慢性的にストレス負荷したマウスにおけるこの経験誘導性の不安の減少は、プニカラギンの代謝産物であるウロリチンAについても観察された。この試験において、上述の文脈恐怖アッセイにおいて提供される不都合な文脈の記憶の消滅により、不安のレベルが測定された。この実験において、文脈的恐怖パラダイムを用いて訓練を行ったマウスはこの文脈に4日間にわたり毎日曝されたが、何ら不都合な刺激は与えられなかった。3分間の観察中のすくみによって、文脈認識能を測定する。不安レベルの上昇によって、不都合な文脈の記憶に対する消滅のための時間が長くなることが示された。
図31で示されるように、慢性ストレスを受けたマウスは、正常マウスよりも消滅期が遅くなった。しかし、25mg/kg/dの用量でのウロリチンAでの治療時、慢性ストレスを受けたマウスの不都合な記憶消滅が顕著に促進され、プニカラギンと同様にウロリチンAが慢性ストレスを受けたマウスにおける不安を減少できることが実証される。
【0380】
モリス水迷路
空間記憶および学習は慢性ストレスにより影響を受ける。モリス水迷路装置は、不透明の色水(25℃+/-1℃)を満たした大型の白色の円形プール(直径140cm)からなり、プラットフォーム(10x10cm2)が水面下1cmに沈められている。水迷路の周囲には、いくつかの目立つ視覚的手掛かりをを含有する灰色のカーテン(プール外縁から25cm)があった。試験前に、プラットフォームの位置を学習させるためにマウスを訓練した。目立つ視覚的手掛かりを利用して、マウスはプラットフォームを探す方法を学習する。マウスが部屋、装置および水に導入される馴化期とともに、マウスをプラットフォームが存在しない状態で2分間、自由に試泳させることによって学習期が開始する。天井に固定し、ビデオ追跡システムに連結したビデオカメラを使用してデータが回収される(Ethovision 3.0,Noldus,Wageningen,Netherlands)。
【0381】
馴化期間(第0日)後、マウスの空間学習能を連続的に評価するために、様々なプロトコールがマウスに課された(第1-3日)。各試行間6分間の試行間間隔(ITI)で1日4回の試行が行われ、3連続日にわたり(第1-3日)、空間学習セッションが遂行された。
【0382】
カップを用いて迷路にマウスが導入され、プール壁に直面させることにより、試行および施行日の間で偏らないようにして無作為に、考えられる4ヶ所のうち1ヶ所で、各試行を開始した。各サンプリング時間にマウスとプラットフォームとの間の距離が測定され、1秒あたり25回サンプリング時間が回収された。次に、これらの距離が60秒間で合計され、各試行に対するプラットフォームまでの距離(cm)の測定値が得られた。マウスが60秒内にプラットフォームを見つけられなかった場合、それに向かって穏やかに導かれた。各マウスは、ウェイティングケージに戻る前に、プラットフォーム上に20秒間留まらなければならなかった。
【0383】
この実施例の結果から、慢性ストレスが、学習および空間記憶に対して著しい負の影響を有したことが明らかになった。訓練期間中、非ストレス負荷対照と比較して、プラットフォームに到達するために移動した距離が有意に延びており、このことから、慢性ストレスが学習中の正常な記憶形成に障害を与えることが示される(
図32)。ザクロ抽出物でのマウスの処置により、学習および連想記憶に対するこれらの慢性ストレスの負の影響を防ぐことができた。ザクロ抽出物を投与されたマウスにおいて、用量依存的効果が観察され、処置を受けた慢性的ストレス負荷マウスは、非ストレス負荷対照と同レベルで能力を発揮することができた(
図33)。
【0384】
図34で示されるように、ウロリチンAで処置したマウスについて、同様の効果が観察された。慢性ストレスプロトコールを行ったマウスは、連続的な試行の間で非常に多様であることにより明らかとなるように、不安定な学習を示した。慢性的にストレス負荷したマウスの2を5mg/kg/dの用量のウロリチンAで処置することにより、この変動が安定した。これは、プニカラギンの下流代謝産物であるウロリチンAも学習および記憶を含む認知に対するこれらの慢性ストレスの負の影響を防ぐことができるという事実を強調する。
【0385】
要約すると、これらの結果は、一体として、ザクロ抽出物およびウロリチンAなどの派生化合物が記憶および学習を含む認知に対する慢性ストレスの負の影響を減少させるように作用する場合があることを示す。さらに、本ザクロ抽出物および派生化合物は、尾懸垂試験で見られるような抗うつ活性を有し、慢性ストレスにより引き起こされる不安を軽減する。この結果からまた、ザクロ抽出物が、慢性ストレス後に普通観察される記憶および学習能力および空間再認知の低下を防ぐことも示される。
【実施例16】
【0386】
老齢ラットモデルにおける記憶および認知に対する影響
老化過程では認知および記憶に対するいくつかの影響があり、これは老化のラットモデルにおいて反復する場合がある。概説として、Gallagher and Rapp(1977)Annu Rev Psychol.48:339-70を参照のこと。老齢ラットモデルは、記憶および認知に対する老化の影響の特徴を調べるために広く使用されてきた。ここで提供される実験において、ザクロ抽出物の存在下で能力改善が認められた。
【0387】
老齢Sprague-Dawleyラット(19ヶ月齢で開始)に0.34mg/mLポリフェノール(PPE)の濃度になるように飲用水に添加されてザクロ抽出物(1108)が投与された。没食子酸当量として表されるフェノール含量で、ホリン・シオカルト分光光度分析法を用いてポリフェノール含量が測定された。対照処置は、1.36%スクロース、0.12%D-グルコースおよび0.12%D-フルクトースを水中で溶解したものから構成される。ラットは、平均体重660g/ラットで、平均で対照および1108処置の両方を30mL/日摂取した(表6参照)。この結果、1108抽出物を与えられた動物の場合、15mg PPE/kg/dまたは1.1mgプニカラギン/kg/dの用量となった。
【0388】
【0389】
処置から2.5ヶ月後、社会的認知課題、社会的認知を含む標準的試験を用いて短期作業記憶が評価された。Thor and Halloway(1981)Animal Learning Behavior.9:561-5。この課題において、各老齢ラットは若年オスSprague-Dawleyラット(<5週齢)と一緒に5分間、そのホームケージに入れられた。30分後、同じ若年ラットを用いて全く同じ手順が繰り返され、2匹のラット間の交流の程度が2度目に判定された。この2匹の動物は以前に交流があったので、2回目の交流では接触がより少ないと予想される。この動物間の接触の減少は、認識能力および記憶維持の目安である。30分後、動物がこの2匹の異なる若年ラットを見分けることができるか否かを調べるために、新しい若年ラットが老齢ラットと一緒に5分間置かれた。2匹のラット間の各接触時間中、社会的交流の強さを評価するために、総接触時間が測定された。
【0390】
結果が
図35で示される。対照処置老齢動物は、見慣れた対象は選ばず、両対象の探索に等しい時間を費やしたが、これは老齢ラットにおいて以前から示されている影響であり、老化過程での時間的順序記憶の低下を反映するものと思われる。Hauser et al.(2009)Behav Neurosci.123:1339-45。しかし、抽出物1108で処置されたラットは、2回目の曝露期間中、同じ若年ラットと過ごす時間は短縮し、新しい若年ラットと交流する時間が増加した。観察されるこの相違から、記憶の発達および維持に対する抽出物1108の予防効果が説明される。
【実施例17】
【0391】
老齢ラットモデルにおける空間記憶に対する効果
空間記憶も老化により影響を受けることが報告されており、加齢の結果、能力が低下する。Bergado et al.(e-pub October 29,2010)Spatial and emotional memory in aged rats:a behavioral analysis.Neuroscience。老化過程における空間記憶低下に対するザクロ抽出物の影響を調べるために、老齢Sprague-Dawleyラット(19ヶ月齢で開始)が実施例16について説明されたとおり飲用水に入れたザクロ抽出物1108または対照で処置された。
【0392】
老齢ラットが抽出物1108または等カロリーの対照で3ヶ月にわたり処置され、その後、実施例15に記載のモリス水迷路課題を用いて、それらの学習および記憶能力が評価された。
【0393】
逆転課題(3回試行)試験におけるそれらの成績を通じて、各動物の学習能力が評価された。この課題において、動物は最初に、3回の訓練試行を通じて、四隅(西)にあるプラットフォームの位置を教えられた。次に、プラットフォームの位置を変え、逆の隅(東)にプラットフォームが置かれた。プラットフォームの新しい位置を学習させるために、動物に対して3回の新しい訓練期間が設けられた。プラットフォームの位置を知る前に移動した距離により測定して、プラットフォームの新しい位置を調べようとする行動が評価された。
図36に結果が示される。抽出物で処置された動物は、逆転試験でプラットフォームの位置を知ることにおいて有意により効率的であり(一元配置ANOVA、P<0.02;対照 N=11;PJ:N=13;抽出物:N=14)、この空間記憶の局面に対する、投与抽出物の治療的効果が実証される。
【実施例18】
【0394】
アルツハイマー病における空間および作業記憶に対するザクロ由来化合物の効果
アルツハイマー病(AD)は、空間記憶に対する不都合な影響を有することが示されており、この影響は、この疾患のADマウスモデルでも観察される。ザクロ由来化合物のADにおける空間および作業記憶の向上効果を調べるために、空間記憶の2回の行動アッセイ、Y迷路およびモリス水迷路において、様々なザクロ抽出物およびプニカラギンを試験した。
【0395】
Y迷路
この実験において、ADの5XFADマウスモデルが利用された。アルツハイマー病に対する5XFADマウスモデルは、脳組織におけるアミロイドβペプチド(Aβ)産生につながる遺伝子改変に基づく(突然変異ヒトAPPおよびPS1遺伝子の導入)。これらのマウスは、早くも7ヶ月齢で、Y迷路において認識能力が顕著に低下することが分かった。
【0396】
ザクロ由来化合物の影響を調べるために、ポリフェノール60mg/kg/dの用量でザクロ全体由来のザクロ抽出物(PE)が強制投与により送達されたが、これにはおよそ5.6mg/kg/dのプニカラギンが含まれる。3ヶ月齢で開始して処置終了まで、週に3回マウスに強制投与された。7ヶ月齢後、Y迷路における作業記憶に対するPEの効果について、マウスが試験された。マウスがY迷路に15分間入れられ、2本のアームを探索させ、第3のアームは閉じられた。4時間後、この動物が迷路に再び5分間入れられ、今回は第3のアームが開かれ、マウスが3本のアーム全てを自由に探索できるようにした。新規アームにおける探索活動により、空間手がかりに従い、この特定区画がまだ探索されていないことを動物が認識する能力が評価された。マウスが、最初に存在した2本だけでなく3本アームのそれぞれを探索した場合に探索中に的確な交替反応を行ったものとして、マウスがスコア化された。
【0397】
図37で示されるように、的確な交替反応数により調べられた場合、作業記憶能力の顕著な改善がPEで処置した5XFADマウスにおいて観察された。
【0398】
モリス水迷路
アミロイド突然変異London突然変異およびプレニシリン(prenisilin)-1ヒト突然変異の両方を発現するアルツハイマー病の第2のトランスジェニック動物モデルにおいて、ザクロ抽出物、31008、61109および71109が試験された。このモデルにおける動物は、4ヶ月齢までに斑が発生し、6ヶ月齢までに記憶障害が起こる。濃密斑負荷は、7ヶ月後に視認可能になる。
【0399】
1組の実験では、4ヶ月齢APP-PS1トランスジェニックマウスに、それらの飲用水を介して、固定用量のおよそ97mg総ポリフェノールs/kg/日が与えられたが、これには、ザクロ全体由来の抽出物31008のおよそ15mg/kg/dのプニカラギンが含まれる。1組の実験では、4ヶ月齢APP-PS1トランスジェニックマウスに、飲用水を介して、プニカラギン(>91%)が非常に豊富な、固定用量のおよそ468mg総mg/kg/の抽出物61109が与えられた。1組の実験では、4ヶ月齢APP-PS1トランスジェニックマウスに、飲用水を介して、ザクロ外皮由来の、固定用量のおよそ180mg総ポリフェノール/kg/日の抽出物71109が与えられた。給餌3ヶ月後、モリス水迷路空間試験において、これらのマウス(このとき7ヶ月齢)が試験された。
【0400】
処置第84日から87日にモリス水迷路が行われた。プール(白色、円形容器、直径1m)には、無臭の無毒性添加剤として二酸化チタンとともに20℃の水が入っており、避難プラットフォーム(水面下1cm)が隠されていた。各マウスの遊泳がビデオテープで記録され、分析された(Ethovision,Noldus information Technology,Wageningen,Netherlands)。訓練前に、各マウスは15秒間プラットフォームの上面に置かれた。空間定位試験の場合、3連続日にわたり、3回試行の5ブロックにおいて、隠しプラットフォームの位置を見つけさせるために、マウスが訓練された。各試行は、最大120秒間の強制水泳試験、それに続く60秒間の休息からなる。各マウスに対する学習曲線を調べるために、連続5ブロックの試験中、各マウスがプラットフォームの場所を見付けるために必要とする時間が測定された。
【0401】
最終訓練から24時間後、プラットフォームが取り除かれ、各動物に対して探査試行が行われた。失われたプラットフォームを60秒間マウスに探索させ、プールの各隅で過ごした探索時間ならびに元のプラットフォームの位置を横切った回数が計測された。
図38で示されるように、抽出物31008を与えたマウスでは、プラットフォームが形式的に位置した区域を横切る頻度の上昇により明らかとなるように、探査試行の成績が向上した。抽出物61109および71109を与えたマウスはより良好な成績となった。
【0402】
この実験で使用した抽出物61109の組成は表7で示される。
【0403】
【実施例19】
【0404】
若年期ストレスに反応したうつ、不安および認知に対するザクロ由来化合物の効果
母子分離を伴う若年期ストレスモデルにおける認知、うつおよび不安を含む脳機能改善能についてザクロ由来化合物を評価した。
【0405】
若年期ストレスは、後の成年期において、(i)異常な意思決定の増加および過剰な危険行為;(ii)うつおよび不安の発生率が上昇し易いこと;および(iii)学習および記憶の機能低下を含む認識能力に顕著な影響がある。
【0406】
行われた手順は全て、Swiss National Institutional Guidelines on Animal Experimentationに従って行い、動物実験についてSwiss Cantonal Veterinary Office Committee for Animal Experimentationにより承認を得た。
【0407】
母子分離により生じる若年期ストレス
生後第1日に、仔マウスが選択されて母親あたり6匹の仔を持つようにされた。生後1日から14日に、毎日3時間の予測不可能な母子分離(MS)が行われた。この手順に対して母親への馴れを回避するために、無作為の時間(午前8時から午後2時)に母子分離が行われた。本プロトコールは、仔がその母親から離され、室温の別のケージに3時間入れ、その後、仔がその元の巣に戻されることからなる。これらの群は図面において若年期ストレスと表示される。dam/pupsの対照群は何もされず、図面において正常と表示される。
【0408】
ザクロから単離したプニカラギンでの処置
母子分離から1週間後、マウスを2群に分けた。一方の対照群には標準的なマウス飼料を与え(未処理)、一方、他方の群には、餌に混合してエラジタンニンのプニカラギンが与えられ、マウスに対して90mg/kg/日の用量が送達されるように設定された。餌での処置は、母子分離処置が終了してから1週間後に開始された。
【0409】
行動アッセイ
母子分離プロトコールの完了から166日後に行われた次の行動アッセイを用いて、うつ、不安および認知に対する若年期ストレスの影響が調べられた。正常に飼育されたマウスと、母子分離マウス(若年期ストレス)およびプニカラギンで処置された母子分離マウスとが比較された。
【0410】
明/暗ボックス試験
このアッセイにおいて、2つの区画:暗い区画(15x20x25cm、黒色PVCであり、上をカバー)および照明区画(30x20x25cm、白色PVC、200ルクス照明)に分けられ、両方が相互接続扉(5x5cm)により連結されているPVCボックス(Ligna,Paris,France)にマウスが入れられる。この実験は動物を暗い区画に入れることにより開始され、その後、照明エリアでマウスが過ごした時間、暗いエリアから照明エリアへの移動回数および暗いエリアから照明エリアへの逃避時間を5分間にわたりカメラが記録する。
【0411】
通常、マウスは、箱の中の照明エリアを回避するであろう。母子分離マウスは、若年期ストレスの結果、それらの母子分離していない同腹仔と比較して、照明区画で異常に長い時間を過ごした(
図39)。この、照明エリアを探索して過ごす時間の延長は、異常で過剰な危険行為を特徴とする意思決定行動の欠陥を反映する。母子分離マウスのプニカラギン処置により、観察される過剰な危険行為が反転されて正常化し、意思決定過程が正常に戻った(
図39)。
【0412】
高架式O-迷路(EOM)
異常なリスク行動を測定する別の行動アッセイは、高架式O迷路(EOM)である。このアッセイにおいて、直径が41.5/46.5cm(内径/外径)の環からなる装置を4つに等分する。互いに向き合うこの環の2つの部分は高さ5cmの壁で囲まれている。環の残りの2つの部分には壁がない。迷路を床から1m上に上げる。マウスの生来の性向として、開放表面を回避し、より長い時間を環の開放領域とは逆の、5cmの壁がある、閉じられた環部分で過ごす。
【0413】
若年期ストレスの影響を調べるために、5cmの壁がある迷路のある1つの区域の入口に、閉じられたアームに鼻を向けるようにマウスを置き、EOMを5分間探索させた。この間、動物行動をビデオテープで記録した。各アーム(閉じられた区画と開いた区画)で過ごした時間を計算したが、動物がそのアームに4本全ての肢を置いたときのみ、アームへの侵入が起こったとみなした。
【0414】
通常、高架式O-迷路に入れられたマウスは、環の開放領域を避け、このエリアを探索するのに限られた時間しか過ごさない。母子分離によりストレス負荷されたマウスは、それらの非ストレス負荷同腹仔と比較して、O-迷路の開放区域で異常に長い時間過ごした(
図40)。明/暗ボックス試験でも観察されたように、これは、異常で過剰な危険行為を特徴とする若年期ストレス負荷マウスにおける意思決定行動の低下を反映する。
【0415】
母子分離マウスのプニカラギン処置は、若年期ストレスによるそれらの異常で過剰なリスク行動を反転させ、正常化した(
図40)。
【0416】
強制水泳試験
Porsoltまたは強制水泳試験は、抗うつ剤治療を試験するために一般的に使用される(Porsolt et al.,1977a;Porsolt et al.,1977b)。この行動試験の場合、23℃の水を2/3満たした5L円柱(直径11cmおよび高さ25cm)にマウスが入れられる。身体の明らかな移動があった場合、動物は、泳いでおり、移動しているとみなされた。分析時間中、ほとんど動かずに動物が浮いている場合、静止しているとみなされた。カメラおよび円柱の後ろのミラーを用いて6分間の試験時間にわたり動物行動が記録された。マウス遊泳活性について、遊泳の最初の2分間および最後の4分間が別々に分析された。うつレベルの上昇は、マウス静止、特に最後の4分間での静止の増加に相関する。若年期ストレスを受けた動物は、それらの非ストレス負荷同腹仔と比較して、静止が有意に増加しており、このことからうつレベルの上昇が示唆される(
図41)。若年期ストレス負荷マウスのプニカラギン処置により、この異常行動(静止増加)が反転し、非ストレス負荷マウスで見られるレベルまで遊泳活性が上昇した。この行動面でのプニカラギンの効果から、抗うつ剤としてのその活性が明らかとなる(
図41)。
【0417】
恐怖条件付け文脈学習
若年期ストレスを課された成体動物の不安への陥り易さに対する、エラジタンニンのプニカラギンの効果を調べるために、恐怖条件付け文脈学習を使用した。ステンレス鋼性ロッドがあるグリッド床を含有した恐怖条件付けチャンバー(Context A,WxLxH:30cm x24cm x26cm)(PanLab)中で、動物が訓練され、Panlabにより開発されたショック生成装置に連結された。訓練中、動物は1回につき1匹、チャンバーに入れられた。チャンバー内の探索4分後、1回の足ショック(2秒および0.4mA)が与えられ、続いて、1分後2回目の足ショック(2秒および0.4mA)が与えられた。2回目の足ショックから30秒後、マウスはそのホームケージに戻し入れられた。実験中を通じて、2秒ごとに動物行動が監視された。マウスがチャンバー中で静止して過ごした時間は、「すくみ」とみなされ、これらの時間中、スコア化された。1回目のショック後にマウスが静止して過ごす時間が60秒間記録され、%として表された。
【0418】
足ショックに反応して静止および「すくむ」マウスの行動は、それらの不安レベルの目安である。この行動試験中に「すくみ」時間が長いほど、動物の不安レベルが高い。
【0419】
1回目のショック後の試験群間のすくみの相違(正常の非ストレス負荷、若年期ストレスおよび若年期ストレス+プニカラギン)が観察された(
図42)。若年期ストレスは、それらの非ストレス負荷同腹仔と比較して、足ショック後、すくみ時間が延長することにより明らかとなるように、マウスにおいて不安の増強につながった(
図42)。プニカラギン処置によって、足ショック後のすくみ時間が短縮することにより示されるように、若年期ストレスの結果から起こるこれらの不安レベル上昇が軽減され、正常化した(
図42)。早期ストレスモデルでのこれらの観察から、プニカラギンの抗不安作用が示される。
【0420】
若年性ストレスに曝された動物に起こった不安増強は、このアッセイにより誘導される文脈記憶(すなわち環境の文脈をショックと結び付ける記憶)の消滅(すなわち消失)においても観察される。恐怖条件付け文脈学習(上述のような)中に発生した不安の強度を調べるために、最初の試験の後、毎日3分間(毎日同じ時間であるが、このときにはショックなし)、12日間にわたり同じチャンバーおよび文脈に動物が置かれた。これら毎日3分間それぞれにおいて、最初のショックを受けたチャンバーの動物による単純認知により誘導されるすくみ行動が測定された。
【0421】
動物群(正常非ストレス負荷、若年期ストレスおよび若年期ストレス+プニカラギン)は、連続12日間にわたり、ショックの文脈想起低下に差異があった(
図43)。このグラフにおいて、すくみの持続時間は第1日の静止時間の%として表される(例えばマウスが第1日に60秒間、第8日に30秒間静止した場合、%静止は第1日で100%、第8日で50%である。)。
【0422】
正常な非ストレス負荷マウスは、12日間にわたり、文脈想起の周期的な低下を示した(
図43)。若年期ストレス負荷マウスの文脈想起は高レベルであるが、これはそれらの非ストレス負荷同腹仔よりもすくみレベルが高いことにより示される(
図43)。これは、これらの母子分離マウスにおいて不安レベルが延長し上昇することを示す。若年期ストレス負荷マウスのプニカラギン処置は、文脈想起の消滅により見られるように、不安を減少させることに対して明らかな影響があった。処置を受けた若年期ストレス負荷マウスでは、未処置の若年期ストレス負荷マウスよりも消滅が早く、第8日から12日の間、すくみの時間が短縮することを特徴とする(
図43)。
【0423】
ロータロッド
認知に対する母子分離の負の影響におけるザクロ由来化合物の効果を測定するために、ロータロッド行動アッセイを用いて運動性学習の影響がアッセイされた。ロータロッド装置は、2cm直径のロッドからなる。初速度5rpmで開始する回転ロッド上にマウスを置く。ロッド速度が45rpmに到達するまでロッド速度が8rpm/分の割合で徐々に加速される。300秒のカットオフ時間で落下潜時が測定された。
図44で示されるように、若年期ストレスを受けたマウスは運動性学習機能が低下していた。母子分離マウスは、正常な非ストレス負荷マウスよりも早くロータロッドから落下した。プニカラギンでの処置により、若年期ストレス負荷動物において、正常な非ストレス負荷同腹仔で観察される成績レベルまで運動性学習スキルが回復した。
【0424】
モリス水迷路
認知に対する母子分離の影響を評価するために、モリス水迷路行動アッセイを使用した。このアッセイにおいて、不透明な水のプール中でマウスが隠しプラットフォームの場所を見付ける能力により、認知学習を測定する。この装置は、22℃の水を満たしたプール(直径140cm)からなる。マウスは、水面下1cmに置かれた隠された円形プラットフォーム(直径15cm)へと泳いで行くことにより水から逃れる。迷路の外側に置かれる視覚的手掛かりを使用することにより、マウスは、プラットフォームの場所を見付け、続く試行中、その場所を想起することができる。訓練期間中、毎時、マウスを(交互に)2ヶ所の出発位置においた。T1で8回の試行、T2で6回の試行およびT3で4回の試行としてモリス水迷路課題を行った(第1、2および3日)。マウスはプラットフォームに到達するのに最大で60秒かかった。ビデオトラッキングシステムにより、プラットフォームに到達するまでの逃避潜時が測定された。
図45で観察することができるように、若年期ストレスは認知学習に顕著な影響があり、正常非ストレス負荷マウスと比べて逃避潜時が延長されることにより示されるように、マウスが隠しプラットフォームの位置を学習するためにより長い時間を要した。これらの母子分離マウスをプニカラギンで処置することにより、この若年期ストレスの負の影響が反転され、隠しプラットフォームの位置を学習するための時間が、正常非ストレス負荷マウスで観察されるレベルまで短縮した。これらの結果から、プニカラギンが、学習および記憶形成における若年期ストレスの長期の認知面での負の影響を反転させる能力が明らかになる。
【0425】
ザクロ由来化合物
まとめると、上記データから、エラジタンニン由来の化合物が、うつ、不安および認知に対する、若年期分離の長期の負の影響を反転させることができることが明らかになる。
【実施例20】
【0426】
正常マウスにおける記憶および認知に対するザクロ由来化合物の影響
ザクロ由来化合物による処置
3ヶ月齢から開始して、マウスに、(i)AIN-93Gなどの標準的な対照餌;(ii)90mg/kg/日の凡その用量を送達できるように、0.87mg/kgの濃度のプニカラギンを含有する餌(3ヶ月間);または(iii)55mg/kg/日の凡その用量を送達できるように、0.57mg/kgの濃度のウロリチンAを含有する餌(2.5ヶ月間)のいずれかが与えられた。実際の用量は、各個別のマウスの餌摂取ならびにマウスの体重に依存して僅かに変動する。この期間後、認知の行動評価が測定された。
【0427】
認知に対するザクロ由来化合物の影響を測定するための行動アッセイ
記憶および認知に対するザクロ由来化合物の影響を調べるために、恐怖条件付け文脈学習アッセイを利用して、文脈記憶の改善についてマウスが調べられた。実施例19に説明されるように、恐怖条件付けチャンバーにおいてマウスは訓練された。
【0428】
訓練中、動物は各時間に1匹チャンバーに入れられた。チャンバー内での4分間の探索後、1回の足ショック(2秒および0.4mA)が与えられ、続いて2回目の足ショック(2秒および0.4mA)が1分後に行われた。2回目の足ショックから30秒後、マウスはそのホームケージに入れ戻された。
【0429】
1日後、訓練した動物は3分間チャンバーに戻された。この時間の間、マウスの運動について監視された。観察下で、静止または「すくみ」状態であった時間量を全時間(3分間)の%としてスコア化された。静止時間は、マウスが、それらが訓練された文脈を想起するための記憶強度の目安である。ザクロ由来エラジタンニン・プニカラギンおよびエラグ酸代謝産物ウロリチンAの両方での処置は、それらの文脈記憶により判定した場合、訓練期間24時間後、未処置対照マウスを上回る文脈記憶の有意な改善につながった(
図46)。
【0430】
記憶維持に対するこれらのザクロ由来化合物の影響を調べるために、最初の恐怖文脈訓練後、第1、2、3、4および5日に、(i)対照餌;(ii)プニカラギン(3ヶ月間)または(iii)ウロリチンA(2.5ヶ月間)のいずれかを与えた正常マウスがそれらの記憶想起について調べられた。
【0431】
最初の試験の後、5日間にわたり、毎日3分間、同じチャンバーおよび文脈に動物が置かれた(毎日同じ時間であるが、このときにはショックなし)。これらの毎日3分間のそれぞれの間、最初のショックを受けたチャンバーの動物による単純文脈認知により誘導されるすくみ行動が測定された。刺激がない状態でこの環境を認識する能力は、文脈記憶の目安である。
【0432】
毎日、対照未処置マウスでは、すくみの程度が低下することにより明らかになるように、この文脈刺激に対するそれらの記憶が消滅し始める(
図47)。プニカラギンまたはウロリチンAのいずれかで処置したマウスでは、対照の未処置マウスと比較した場合、記憶維持の改善が明らかとなった。これはより長い期間、最初の文脈を記憶する能力により説明されるが、文脈記憶の消滅のための時間が有意に長いことにより明らかである(
図47)。
【0433】
これらの結果は、顕著な文脈認知の改善および記憶維持促進により明らかとなるように、プニカラギンまたはウロリチンAのいずれかによる処置が認知の向上につながることを実証する。
【実施例21】
【0434】
正常マウスにおける筋機能の改善に対するザクロ由来化合物の影響
エラジタンニン由来化合物プニカラギンおよびウロリチンAの筋機能改善能について評価された。筋機能改善に対するプニカラギンおよびウロリチンAの有益性を調べるために、2つの行動アッセイを用いてそれらの影響が調べられた:(i)協調を含む筋機能および運動スキルを測定するロータロッドアッセイおよび(ii)筋機能および持久力を測定するトレッドミル持久力試験。
【0435】
筋機能に対するザクロ由来化合物の影響を測定するための行動アッセイ
ロータロッドアッセイ
3ヶ月齢から開始して、マウスにAIN-93Gなどの標準的対照餌または90mg/kg/日の用量を送達するようにプニカラギンを含有する餌のいずれかが3ヶ月にわたり与えられた。
【0436】
筋機能および運動スキルに対するザクロ由来化合物の効果を調べるために、ロータロッド行動アッセイにおいてマウスが試験された。ロータロッド装置は、5cm幅、5区画がある直径2cmのロッドからなる。初速度5rpmで開始する回転ロッド上にマウスを置く。ロッド速度を8rpm/分の割合で徐々に加速する。300秒のカットオフ時間で落下潜時が測定された。マウスは4回の試行に対して試験された。落下潜時は、マウスの筋機能および運動スキルの目安であり、成績がより良好であることは、落下潜時がより長いことにより反映される。対照未処置およびプニカラギン処置マウスの両方とも試験された。エラジタンニンのプニカラギンは、未処置マウスと比較して、筋機能および運動スキルを有意に改善させることができた。プニカラギン処置マウスは、続く試行期間中、未処置マウスと比較して、より長い時間、より高速で、ロータロッド上に留まることができた(
図48)。
【0437】
持久力試験
試験開始前に2週間、正常な8週齢マウスが順応された。マウスに、標準的なげっ歯類餌(飼料)か、マウスに55mg/kg/日の用量を送達させるように餌と混合したウロリチンAを含有する餌かが与えられた。処置6週間後、持久力試験によりマウスの筋機能について試験された。
【0438】
ベルトの背面に取り付けたショックグリッドからなる刺激装置が付属する、プレキシガラスチャンバーに囲まれた様々な速度ベルトトレッドミルを使用して、持久力試験が行われた(Panlab,Barcelona,Spain)。マウスは10cm/秒で0°の傾斜で走らせられた。次いで、マウスが疲弊するまで、速度を5分ごとに2cm/秒速度が速められた。5分の間隔にわたり得られた走行距離およびショックの回数が記録された。マウスが1分間におよそ20回のショックを受けた場合、マウスが疲弊したとみなし、実験から除去された。対照未処置およびウロリチンA-処置マウスが試験され、それらの成績について比較された。
【0439】
筋機能および持久力の改善は、トレッドミル上でのより速い速度での走行能により反映される。マウスは、ショックを回避しようとし、速度上昇にもかかわらず走るであろう。ある一定の点で、マウスはトレッドミル速度に追いつけなくなり、ショックを受ける。ショックの閾値レベルに到達した後、マウスをトレッドミルからはずす。筋機能がより良好で持久力が高いマウスは、トレッドミルの速度上昇に追いつくことができ、特定速度で受けるショックはより少なくなる。ウロリチンA-処置マウスは、この行動アッセイにおいて未処置対照マウスよりも速い速度で走ったが、この状況においてウロリチンAが筋機能および持久力を改善させたことが示される(
図49)。
【0440】
これらの結果は、エラジタンニンのプニカラギンおよびその代謝産物ウロリチンAが哺乳動物において筋機能および運動スキルを改善させることができることを実証する。
【0441】
他の態様例を以下に挙げる。
(1)認知機能を改善するための、治療的有効量のウロリチンを含む医薬組成物(ただし、ドコサヘキサエン酸およびエイコサペンタエン酸の生理活性代謝産物の組成物を含む場合を除く)。
(2)前記認知機能が、知覚、記憶、注意、会話の理解、発話生成(speech generation)、読解力、心象生成、学習および論理的思考からなる群から選択される、前記(1)記載の医薬組成物。
(3)前記認知機能が、知覚、記憶、注意および論理的思考からなる群から選択される、前記(2)記載の医薬組成物。
(4)前記認知機能が記憶である、前記(3)記載の医薬組成物。
(5)認知障害を治療するための、治療的有効量のウロリチンを含む医薬組成物(ただし、ドコサヘキサエン酸およびエイコサペンタエン酸の生理活性代謝産物の組成物を含む場合を除く)。
(6)前記認知障害が、せん妄、認知症、学習障害、注意欠陥障害(ADD)および注意欠陥多動性障害(ADHD)からなる群より選択される、前記(5)記載の医薬組成物。
(7)前記認知障害が学習障害である、前記(6)記載の医薬組成物。
(8)前記認知障害が注意欠陥障害(ADD)である、前記(6)記載の医薬組成物。
(9)前記認知障害が注意欠陥多動性障害(ADHD)である、前記(6)記載の医薬組成物。
(10)前記医薬組成物が病人食である、前記(1)~(9)のいずれかに記載の医薬組成物。
(11)前記医薬組成物が局所投与のためである、前記(1)~(9)のいずれかに記載の医薬組成物。
(12)前記医薬組成物が経口投与のためである、前記(1)~(9)のいずれかに記載の医薬組成物。
(13)前記医薬組成物が非経口投与のためである、前記(1)~(9)のいずれかに記載の医薬組成物。
(14)対象はヒトである、前記(1)~(13)のいずれかに記載の医薬組成物。
(15)前記ウロリチンが、ウロリチンA、ウロリチンB、およびそれらの組合せからなる群より選択される、前記(1)~(14)のいずれかに記載の医薬組成物。
(16)前記ウロリチンがウロリチンAである、前記(15)記載の医薬組成物。
(17)前記ウロリチンがウロリチンBである、前記(15)記載の医薬組成物。
(18)認知機能を改善または維持するための、有効量のウロリチンを含む食品または栄養サプリメント(ただし、ドコサヘキサエン酸およびエイコサペンタエン酸の生理活性代謝産物の組成物を含む場合を除く)。
(19)認知機能が改善される、前記(18)記載の食品または栄養サプリメント。
(20)認知機能が維持される、前記(18)記載の食品または栄養サプリメント。
(21)前記食品が機能性食品である、前記(18~20のいずれかに記載の食品または栄養サプリメント。
(22)前記食品または栄養サプリメントが食品添加物の形態である、前記(18)~(21)のいずれかに記載の食品または栄養サプリメント。
(23)前記食品または栄養サプリメントが栄養補助食品の形態である、前記(18)~(21)のいずれかに記載の食品または栄養サプリメント。
(24)前記ウロリチンが、ウロリチンA、ウロリチンB、およびそれらの組合せからなる群より選択される、前記(18)~(23)のいずれかに記載の食品または栄養サプリメント。
(25)前記ウロリチンがウロリチンAである、前記(24)記載の食品または栄養サプリメント。
(26)前記ウロリチンがウロリチンBである、前記(24)記載の食品または栄養サプリメント。
【0442】
均等物
本明細書中で本発明を広く全般的に記載してきた。当業者は、機能を発揮させおよび/または結果および/または本明細書中に記載の1つ以上の長所を得るための様々な他の手順および/または構造を容易に想定しようが、このような変形形態および/または変更形態はそれぞれ、本発明の範囲内にあるとみなされる。より一般的に、当業者は、本明細書中に記載の全パラメータ、寸法、材料および配置は代表的なものであり、実際のパラメータ、寸法、材料および/または配置は、特定の適用または本発明の教示が使用される適用に依存することを容易に認識しよう。当業者は、所定の実験のみを使用して、本明細書中に記載の本発明の具体的な実施形態に対する多くの同等物を認識するかまたは確認することができる。したがって、先述の実施形態は単なる例として与えるものであり、添付の特許請求の範囲およびその同等物内で、本発明が、具体的に記載され、主張されるようなもの以外にも実施し得されことを理解されたい。本発明は、本明細書中に記載の、それぞれの個々の特性、系、物品、材料、キットおよび/または方法を対象とする。さらに、2以上のこのような特性、系、物品、材料、キットおよび/または方法のいずれの組み合わせも、このような特性、系、物品、材料、キットおよび/または方法が互いに一貫性のないものではない場合、本発明の範囲内に含まれる。さらに、包括的な開示内に含まれるより狭い種および亜族分類のそれぞれも、本発明の一部をなす。これには、本発明の包括的な記載が含まれるが、ただし、削除された材料が本明細書中で具体的に引用されるか否かにかかわらず、何らかの対象を属から除くという条件または否定的限定が付く。
【0443】
参照による取り込み
本明細書中で言及されるかまたは引用される、論文、特許および特許出願および全ての他の書類および電子的に利用可能な情報の内容は、それぞれの個別の刊行物が具体的にかつ個別に引用により個別に取り込まれることが示されるのと同じ程度に、引用によってそれらの全体にが本明細書に取り込まれる。出願者らは、あらゆるこのような論文、特許、特許出願その他の物理的および電子書類からのありとあらゆる材料および情報を本願に組み込む権利を留保する。
【0444】
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