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特許7174146ゼオライト膜複合体、ゼオライト膜複合体の製造方法、ゼオライト膜複合体の処理方法、および、分離方法
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  • 特許-ゼオライト膜複合体、ゼオライト膜複合体の製造方法、ゼオライト膜複合体の処理方法、および、分離方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】ゼオライト膜複合体、ゼオライト膜複合体の製造方法、ゼオライト膜複合体の処理方法、および、分離方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20221109BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20221109BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20221109BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20221109BHJP
   C01B 37/02 20060101ALI20221109BHJP
   C01B 39/04 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B01D71/02
B01D69/02
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/02 500
C01B37/02
C01B39/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021508142
(86)(22)【出願日】2020-01-27
(86)【国際出願番号】 JP2020002776
(87)【国際公開番号】W WO2020195105
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】P 2019058224
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】吉村 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】野田 憲一
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-011980(JP,A)
【文献】特開2013-013884(JP,A)
【文献】特開2012-045484(JP,A)
【文献】特開2015-147204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
61/00-71/82
C02F 1/44
C01B 33/20-39/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト膜複合体であって、
多孔質の支持体と、
前記支持体上に形成されたゼオライト膜と、
を備え、
前記ゼオライト膜は水分子を吸着しており、
250℃から500℃にかけての前記ゼオライト膜の水分減少率は、0.1%以上である。
【請求項2】
請求項1に記載のゼオライト膜複合体であって、
250℃から500℃にかけての前記ゼオライト膜の水分減少率は、0.2%以上である。
【請求項3】
請求項1または2に記載のゼオライト膜複合体であって、
前記ゼオライト膜に含まれるゼオライト結晶の最大員環数は8である。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載のゼオライト膜複合体であって、
前記ゼオライト膜に含有されるAl元素に対するSi元素のモル比率は3以上である。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載のゼオライト膜複合体であって、
前記ゼオライト膜に含まれるゼオライト結晶の骨格構造は、6員環以下の環状構造のみからなるコンポジットビルディングユニットを少なくとも1つ含んで構成されている。
【請求項6】
ゼオライト膜複合体の製造方法であって、
a)原料溶液に多孔質の支持体を浸漬し、水熱合成により前記支持体上にゼオライト膜を形成する工程と、
b)前記ゼオライト膜に水を付与し、前記水が前記ゼオライト膜の全面に亘って前記ゼオライト膜と接触している状態で、40℃以上の環境下において前記水を5MPa以上に加圧することにより、前記ゼオライト膜に水分子を吸着させる工程と、
を備える。
【請求項7】
請求項6に記載のゼオライト膜複合体の製造方法であって、
前記a)工程と前記b)工程との間において、前記ゼオライト膜を加熱して構造規定剤を除去する工程をさらに備える。
【請求項8】
ゼオライト膜複合体の処理方法であって、
a)水熱合成により支持体上に形成されたゼオライト膜を加熱して構造規定剤を除去する工程と、
b)前記ゼオライト膜に水を付与し、前記水が前記ゼオライト膜の全面に亘って前記ゼオライト膜と接触している状態で、40℃以上の環境下において前記水を5MPa以上に加圧することにより、前記ゼオライト膜に水分子を吸着させる工程と、
を備える。
【請求項9】
分離方法であって、
a)請求項1ないし5のいずれか1つに記載のゼオライト膜複合体を準備する工程と、
b)複数種類のガスまたは液体を含む混合物質を前記ゼオライト膜複合体に供給し、前記混合物質中の透過性が高い物質を、前記ゼオライト膜複合体を透過させることにより他の物質から分離する工程と、
を備える。
【請求項10】
請求項9に記載の分離方法であって、
前記混合物質は、水素、ヘリウム、窒素、酸素、水、水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物、アンモニア、硫黄酸化物、硫化水素、フッ化硫黄、水銀、アルシン、シアン化水素、硫化カルボニル、C1~C8の炭化水素、有機酸、アルコール、メルカプタン類、エステル、エーテル、ケトンおよびアルデヒドのうち、1種類以上の物質を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト膜複合体、ゼオライト膜複合体の製造方法、ゼオライト膜複合体の処理方法、および、ゼオライト膜複合体を用いた混合物質の分離方法に関する。
【0002】
[関連出願の参照]
本願は、2019年3月26日に出願された日本国特許出願JP2019-058224からの優先権の利益を主張し、当該出願の全ての開示は、本願に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
現在、多孔質支持体上にゼオライト膜を形成してゼオライト膜複合体とすることにより、ゼオライトの分子篩作用を利用した特定の分子の分離や分子の吸着等の用途について、様々な研究や開発が行われている。例えば、複数種類のガスを含む混合ガスの分離では、混合ガスをゼオライト膜複合体に供給し、高透過性のガスを透過させることにより他のガスから分離させる。
【0004】
特開2013-176765号公報(文献1)では、水蒸気を含んだ気体から当該水蒸気を除去する気体脱湿装置において、ゼオライト膜による水蒸気と空気との分離性能を向上するために、空気の水洗工程後にゼオライト膜を設置する技術が提案されている。この場合、水洗工程を経た空気に含まれる飽和水蒸気が、ゼオライト結晶の細孔やゼオライト結晶間の隙間に吸着し、当該細孔や隙間を空気が透過することを阻害することにより、水蒸気と空気との分離性能が向上される。
【0005】
特開2016-159185号公報(文献2)では、ゼオライト膜のパーミエンス比を向上するために、ゼオライト膜が形成された多孔質支持体を、常温かつ0.5MPa以上の環境下で溶媒中にて加圧処理する技術が提案されている。
【0006】
ところで、文献1の気体脱湿装置では、水蒸気と空気との分離性能は向上されるが、他のガスの分離性能を向上することはできない。文献2の処理方法では、ゼオライト膜に対する溶媒等の付着が十分ではなく、パーミアンス比の向上効果が小さい。当該処理が行われたゼオライト膜では、高温下で混合ガスの分離を行う際のパーミアンス比の向上効果が特に小さい。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、ゼオライト膜複合体に向けられており、ゼオライト膜複合体のパーミアンス比を向上することを目的としている。
【0008】
本発明の好ましい一の形態に係るゼオライト膜複合体は、多孔質の支持体と、前記支持体上に形成されたゼオライト膜と、を備える。前記ゼオライト膜は水分子を吸着している。250℃から500℃にかけての前記ゼオライト膜の水分減少率は、0.1%以上である。これにより、パーミアンス比を向上することができる。
【0009】
好ましくは、250℃から500℃にかけての前記ゼオライト膜の水分減少率は、0.2%以上である。
【0010】
好ましくは、前記ゼオライト膜に含まれるゼオライト結晶の最大員環数は8である。
【0011】
好ましくは、前記ゼオライト膜に含有されるAl元素に対するSi元素のモル比率は3以上である。
【0012】
好ましくは、前記ゼオライト膜に含まれるゼオライト結晶の骨格構造は、6員環以下の環状構造のみからなるコンポジットビルディングユニットを少なくとも1つ含んで構成されている。
【0013】
本発明は、ゼオライト膜複合体の製造方法にも向けられている。本発明の好ましい一の形態に係るゼオライト膜複合体の製造方法は、a)原料溶液に多孔質の支持体を浸漬し、水熱合成により前記支持体上にゼオライト膜を形成する工程と、b)前記ゼオライト膜に水を付与し、前記水が前記ゼオライト膜の全面に亘って前記ゼオライト膜と接触している状態で、40℃以上の環境下において前記水を5MPa以上に加圧することにより、前記ゼオライト膜に水分子を吸着させる工程と、を備える。
【0014】
好ましくは、前記ゼオライト膜複合体の製造方法は、前記a)工程と前記b)工程との間において、前記ゼオライト膜を加熱して構造規定剤を除去する工程をさらに備える。
【0015】
本発明は、ゼオライト膜複合体の処理方法にも向けられている。本発明の好ましい一の形態に係るゼオライト膜複合体の処理方法は、a)水熱合成により支持体上に形成されたゼオライト膜を加熱して構造規定剤を除去する工程と、b)前記ゼオライト膜に水を付与し、前記水が前記ゼオライト膜の全面に亘って前記ゼオライト膜と接触している状態で、40℃以上の環境下において前記水を5MPa以上に加圧することにより、前記ゼオライト膜に水分子を吸着させる工程と、を備える。
【0016】
本発明は、分離方法にも向けられている。本発明の好ましい一の形態に係る分離方法は、a)上述のゼオライト膜複合体を準備する工程と、b)複数種類のガスまたは液体を含む混合物質を前記ゼオライト膜複合体に供給し、前記混合物質中の透過性が高い物質を、前記ゼオライト膜複合体を透過させることにより他の物質から分離する工程と、を備える。
【0017】
好ましくは、前記混合物質は、水素、ヘリウム、窒素、酸素、水、水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物、アンモニア、硫黄酸化物、硫化水素、フッ化硫黄、水銀、アルシン、シアン化水素、硫化カルボニル、C1~C8の炭化水素、有機酸、アルコール、メルカプタン類、エステル、エーテル、ケトンおよびアルデヒドのうち、1種類以上の物質を含む。
【0018】
上述の目的および他の目的、特徴、態様および利点は、添付した図面を参照して以下に行うこの発明の詳細な説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】一の実施の形態に係るゼオライト膜複合体の断面図である。
図2】ゼオライト膜複合体の一部を拡大して示す断面図である。
図3】ゼオライト膜複合体の製造の流れを示す図である。
図4】吸着装置を示す図である。
図5】混合物質を分離する装置を示す図である。
図6】混合物質の分離の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、ゼオライト膜複合体1の断面図である。図2は、ゼオライト膜複合体1の一部を拡大して示す断面図である。ゼオライト膜複合体1は、多孔質の支持体11と、支持体11上に形成されゼオライト膜12とを備える。ゼオライト膜12とは、少なくとも、支持体11の表面にゼオライトが膜状に形成されたものであって、有機膜中にゼオライト粒子を分散させただけのものは含まない。また、ゼオライト膜12は、構造や組成が異なる2種類以上のゼオライトを含んでいてもよい。図1では、ゼオライト膜12を太線にて描いている。図2では、ゼオライト膜12に平行斜線を付す。また、図2では、ゼオライト膜12の厚さを実際よりも厚く描いている。
【0021】
支持体11はガスおよび液体を透過可能な多孔質部材である。図1に示す例では、支持体11は、一体成形された一繋がりの柱状の本体に、長手方向(すなわち、図1中の左右方向)にそれぞれ延びる複数の貫通孔111が設けられたモノリス型支持体である。図1に示す例では、支持体11は略円柱状である。各貫通孔111(すなわち、セル)の長手方向に垂直な断面は、例えば略円形である。図1では、貫通孔111の径を実際よりも大きく、貫通孔111の数を実際よりも少なく描いている。ゼオライト膜12は、貫通孔111の内側面上に形成され、貫通孔111の内側面を略全面に亘って被覆する。
【0022】
支持体11の長さ(すなわち、図1中の左右方向の長さ)は、例えば10cm~200cmである。支持体11の外径は、例えば0.5cm~30cmである。隣接する貫通孔111の中心軸間の距離は、例えば0.3mm~10mmである。支持体11の表面粗さ(Ra)は、例えば0.1μm~5.0μmであり、好ましくは0.2μm~2.0μmである。なお、支持体11の形状は、例えば、ハニカム状、平板状、管状、円筒状、円柱状または多角柱状等であってもよい。支持体11の形状が管状または円筒状である場合、支持体11の厚さは、例えば0.1mm~10mmである。
【0023】
支持体11の材料は、表面にゼオライト膜12を形成する工程において化学的安定性を有するのであれば、様々な物質(例えば、セラミックまたは金属)が採用可能である。本実施の形態では、支持体11はセラミック焼結体により形成される。支持体11の材料として選択されるセラミック焼結体としては、例えば、アルミナ、シリカ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化ケイ素、炭化ケイ素等が挙げられる。本実施の形態では、支持体11は、アルミナ、シリカおよびムライトのうち、少なくとも1種類を含む。
【0024】
支持体11は、無機結合材を含んでいてもよい。無機結合材としては、チタニア、ムライト、易焼結性アルミナ、シリカ、ガラスフリット、粘土鉱物、易焼結性コージェライトのうち少なくとも1つを用いることができる。
【0025】
支持体11の平均細孔径は、例えば0.01μm~70μmであり、好ましくは0.05μm~25μmである。ゼオライト膜12が形成される表面近傍における支持体11の平均細孔径は0.01μm~1μmであり、好ましくは0.05μm~0.5μmである。平均細孔径は、例えば、水銀ポロシメータ、パームポロシメータまたはナノパームポロシメータにより測定することができる。支持体11の表面および内部を含めた全体における細孔径の分布について、D5は例えば0.01μm~50μmであり、D50は例えば0.05μm~70μmであり、D95は例えば0.1μm~2000μmである。ゼオライト膜12が形成される表面近傍における支持体11の気孔率は、例えば20%~60%である。
【0026】
支持体11は、例えば、平均細孔径が異なる複数の層が厚さ方向に積層された多層構造を有する。ゼオライト膜12が形成される表面を含む表面層における平均細孔径および焼結粒径は、表面層以外の層における平均細孔径および焼結粒径よりも小さい。支持体11の表面層の平均細孔径は、例えば0.01μm~1μmであり、好ましくは0.05μm~0.5μmである。支持体11が多層構造を有する場合、各層の材料は上記のものを用いることができる。多層構造を形成する複数の層の材料は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0027】
ゼオライト膜12は、細孔を有する多孔膜である。ゼオライト膜12は、複数種類の物質が混合した混合物質から、分子篩作用を利用して特定の物質を分離する分離膜として利用可能である。ゼオライト膜12では、当該特定の物質に比べて他の物質が透過しにくい。換言すれば、ゼオライト膜12の当該他の物質の透過量は、上記特定の物質の透過量に比べて小さい。
【0028】
ゼオライト膜12の厚さは、例えば0.05μm~30μmであり、好ましくは0.1μm~20μmであり、さらに好ましくは0.5μm~10μmである。ゼオライト膜12を厚くすると分離性能が向上する。ゼオライト膜12を薄くすると透過速度が増大する。ゼオライト膜12の表面粗さ(Ra)は、例えば5μm以下であり、好ましくは2μm以下であり、より好ましくは1μm以下であり、さらに好ましくは0.5μm以下である。
【0029】
ゼオライト膜12の細孔径は、例えば、0.2nm以上かつ0.4nm未満であり、好ましくは、0.3nm以上かつ0.4nm未満である。ゼオライト膜12の細孔径が0.2nm未満の場合、ゼオライト膜を透過するガスの量が少なくなる場合があり、ゼオライト膜12の細孔径が0.4nm以上の場合、ゼオライト膜の選択性が不十分となる場合がある。ゼオライト膜12の細孔径とは、ゼオライト膜12を構成するゼオライトの細孔の最大直径(すなわち、酸素原子間距離の最大値)と概垂直な方向における細孔の直径(すなわち、短径)である。ゼオライト膜12を構成するゼオライトの最大員環数がnの場合、n員環細孔の短径をゼオライト膜12の細孔径とする。また、ゼオライトがnが等しい複数種のn員環細孔を有する場合には、最も大きい短径を有するn員環細孔の短径をゼオライト膜12の細孔径とする。ゼオライト膜12の細孔径は、ゼオライト膜12が配設される支持体11の表面における平均細孔径よりも小さい。
【0030】
なお、n員環とは、細孔を形成する骨格を構成する酸素原子の数がn個であって、各酸素原子が後述のT原子と結合して環状構造をなす部分のことである。また、n員環とは、貫通孔(チャンネル)を形成しているものをいい、貫通孔を形成していないものは含まない。n員環細孔とは、n員環により形成される細孔である。
【0031】
ゼオライト膜の細孔径は当該ゼオライトの骨格構造によって一義的に決定され、国際ゼオライト学会の“Database of Zeolite Structures”[online]、インターネット<URL:http://www.iza-structure.org/databases/>に開示されている値から求めることができる。
【0032】
ゼオライト膜12は、例えば、DDR型のゼオライトである。換言すれば、ゼオライト膜12は、国際ゼオライト学会が定める構造コードが「DDR」であるゼオライトにより構成されたゼオライト膜である。この場合、ゼオライト膜12を構成するゼオライトの固有細孔径は、0.36nm×0.44nmである。
【0033】
ゼオライト膜12を構成するゼオライトの種類は特に限定されないが、例えば、AEI型、AEN型、AFN型、AFV型、AFX型、BEA型、CHA型、DDR型、ERI型、ETL型、FAU型(X型、Y型)、GIS型、LEV型、LTA型、MEL型、MFI型、MOR型、PAU型、RHO型、SAT型、SOD型等のゼオライトであってよい。より好ましくは、例えば、AEI型、AFN型、AFV型、AFX型、CHA型、DDR型、ERI型、ETL型、GIS型、LEV型、LTA型、PAU型、RHO型、SAT型等のゼオライトである。さらに好ましくは、例えば、AEI型、AFN型、AFV型、AFX型、CHA型、DDR型、ERI型、ETL型、GIS型、LEV型、PAU型、RHO型、SAT型等のゼオライトである。
【0034】
ゼオライト膜12を構成するゼオライトは、T原子として、例えばアルミニウム(Al)を含む。ゼオライト膜12を構成するゼオライトとしては、ゼオライトを構成する酸素四面体(TO)の中心に位置する原子(T原子)がケイ素(Si)のみ、もしくは、SiとAlとからなるゼオライト、T原子がAlとリン(P)とからなるAlPO型のゼオライト、T原子がSiとAlとPとからなるSAPO型のゼオライト、T原子がマグネシウム(Mg)とSiとAlとPとからなるMAPSO型のゼオライト、T原子が亜鉛(Zn)とSiとAlとPとからなるZnAPSO型のゼオライト等を用いることができる。T原子の一部は、他の元素に置換されていてもよい。
【0035】
ゼオライト膜12は、例えば、Siを含む。ゼオライト膜12は、例えば、Si、AlおよびPのうちいずれか2つ以上を含んでいてもよい。ゼオライト膜12は、アルカリ金属を含んでいてもよい。当該アルカリ金属は、例えば、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)である。
【0036】
ゼオライト膜12がSi原子およびAl原子を含む場合、ゼオライト膜12におけるSi/Al比は、例えば1以上かつ10万以下である。Si/Al比は、ゼオライト膜12に含有されるAl元素に対するSi元素のモル比率である。当該Si/Al比は、好ましくは3以上であり、より好ましくは20以上、さらに好ましくは100以上であり、高ければ高いほど好ましい。後述する原料溶液中のSi源とAl源との配合割合等を調整することにより、ゼオライト膜12におけるSi/Al比を調整することができる。
【0037】
COの透過量増大および分離性能向上の観点から、ゼオライト膜12に含まれるゼオライトの最大員環数は、8以下(例えば、6または8)であることが好ましい。ゼオライト膜12に含まれるゼオライト結晶の骨格構造は、好ましくは、6員環以下の環状構造のみからなるコンポジットビルディングユニット(CBU)を少なくとも1つ含んで構成されている。当該コンポジットビルディングユニットとは、ゼオライトの骨格構造を構成する1単位の構造である。当該コンポジットビルディングユニットの詳細については、「The International Zeolite Association (IZA) “Database of Zeolite Structures” [online]、[平成26年11月21日検索]、インターネット<URL:http://www.iza-structure.org/databases/>」に開示されている。
【0038】
ゼオライト膜複合体1では、ゼオライト膜12は水分子を吸着している。当該水分子は、例えば、上述のコンポジットビルディングユニットの内部に吸着されている。ゼオライト膜12における水分子の吸着量(すなわち、ゼオライト膜12の水分含有量)をTG-DTA(熱重量-示差熱)分析により測定すると、250℃から500℃にかけてのゼオライト膜12の水分減少率は、0.1%以上である。250℃から500℃にかけてのゼオライト膜12の水分減少率は、好ましくは、0.2%以上である。なお、吸着物質が水であることの確認には、例えば、加熱発生ガス質量分析(TPD-MS)が利用可能である。
【0039】
当該水分減少率は、ゼオライト膜12を250℃から500℃まで昇温する間に、ゼオライト膜12から排出された水分の重量を、昇温後のゼオライト膜12の重量により除算した値である。すなわち、当該水分減少率は、「(250℃におけるゼオライト膜12の重量-500℃におけるゼオライト膜12の重量)/500℃におけるゼオライト膜12の重量」により求められる。当該水分減少率が大きい程、ゼオライト膜12に強く吸着した水分の量が多い。
【0040】
20℃~400℃におけるゼオライト膜12のCOの透過量(パーミエンス)は、例えば100nmol/m・s・Pa以上である。また、20℃~400℃におけるゼオライト膜12のCOの透過量/CH漏れ量比(パーミエンス比)は、例えば100以上である。当該パーミエンスおよびパーミエンス比は、ゼオライト膜12の供給側と透過側とのCOの分圧差が1.5MPaである場合のものである。
【0041】
次に、図3を参照しつつ、ゼオライト膜複合体1の製造の流れの一例について説明する。ゼオライト膜複合体1が製造される際には、まず、ゼオライト膜12の製造に利用される種結晶が準備される。種結晶は、例えば、水熱合成にてDDR型のゼオライトの粉末が生成され、当該ゼオライトの粉末から取得される。当該ゼオライトの粉末はそのまま種結晶として用いられてもよく、当該粉末を粉砕等によって加工することにより種結晶が取得されてもよい。
【0042】
続いて、種結晶を分散させた溶液に多孔質の支持体11を浸漬し、種結晶を支持体11に付着させる(ステップS11)。あるいは、種結晶を分散させた溶液を、支持体11上のゼオライト膜12を形成させたい部分に接触させることにより、種結晶を支持体11に付着させる。これにより、種結晶付着支持体が作製される。種結晶は、他の手法により支持体11に付着されてもよい。
【0043】
種結晶が付着された支持体11は、原料溶液に浸漬される。原料溶液は、例えば、Si源および構造規定剤(Structure-Directing Agent、以下「SDA」とも呼ぶ。)等を、溶媒に溶解または分散させることにより作製する。原料溶液の溶媒には、例えば、水、または、エタノール等のアルコールが用いられる。原料溶液に含まれるSDAは、例えば有機物である。SDAとして、例えば、1-アダマンタンアミンを用いることができる。
【0044】
そして、水熱合成により当該種結晶を核としてDDR型のゼオライトを成長させることにより、支持体11上にDDR型のゼオライト膜12が形成される(ステップS12)。水熱合成時の温度は、好ましくは120~200℃であり、例えば125℃である。水熱合成時間は、好ましくは10~100時間であり、例えば30時間である。
【0045】
水熱合成が終了すると、支持体11およびゼオライト膜12を純水で洗浄する。洗浄後の支持体11およびゼオライト膜12は、例えば80℃にて乾燥される。支持体11およびゼオライト膜12を乾燥した後に、ゼオライト膜12を電気炉等により加熱処理することによって、ゼオライト膜12中のSDAをおよそ完全に燃焼除去して、ゼオライト膜12内の微細孔を貫通させる(ステップS13)。ステップ13では、ゼオライト膜12内のSDAは、全て除去されてもよく、一部が残っていてもよい。ステップS13における加熱温度は、例えば、300℃~1000℃である。ステップS13では、ゼオライト膜12の細孔内に付着している不要な水分も除去される。
【0046】
ステップS13が終了すると、ゼオライト膜12に対して水が供給され、水分子がゼオライト膜12に吸着される(ステップS14)。当該水分子の吸着は、40℃以上かつ5MPa以上の環境下において行われる。ゼオライト膜12に対する水分子の吸着は、様々な方法により行われてよい。例えば、ゼオライト膜12に対する水分子の吸着は、図4に示す吸着装置3により行われてもよい。
【0047】
吸着装置3は、封止部31と、外筒32と、2つのシール部材33と、加圧部34とを備える。外筒32の内部には、上述のSDA除去後のゼオライト膜12を有する支持体11が、封止部31およびシール部材33と共に収容される。加圧部34は、外筒32の外部に配置されて外筒32に接続される。加圧部34は、例えば、ブースターポンプである。
【0048】
封止部31は、支持体11の長手方向(すなわち、図4中の左右方向)の両端部に取り付けられ、支持体11の長手方向両端面、および、当該両端面近傍の外側面を被覆して封止する部材である。封止部31は、支持体11の当該両端面からの液状の水の流入および流出を防止する。封止部31は、例えば、ガラスまたは樹脂により形成された板状部材である。封止部31の材料および形状は、適宜変更されてよい。なお、封止部31には、支持体11の複数の貫通孔111と重なる複数の開口が設けられているため、支持体11の各貫通孔111の長手方向両端は、封止部31により被覆されていない。したがって、当該両端から貫通孔111への水の流入および流出は可能である。
【0049】
外筒32の形状は限定されないが、例えば、略円筒状の筒状部材である。外筒32は、例えばステンレス鋼または炭素鋼により形成される。外筒32の長手方向は、支持体11の長手方向に略平行である。外筒32の長手方向の一方の端部(すなわち、図4中の左側の端部)には供給ポート321が設けられ、他方の端部には排出ポート322が設けられる。供給ポート321には、液状の水を供給する水供給源(図示省略)、および、加圧部34が接続可能である。排出ポート322は、開閉可能である。
【0050】
2つのシール部材33は、支持体11の長手方向両端部近傍において、支持体11の外側面と外筒32の内側面との間に、全周に亘って配置される。各シール部材33は、水が透過不能な材料により形成された略円環状の部材である。シール部材33は、例えば、可撓性を有する樹脂により形成されたOリングである。シール部材33は、支持体11の外側面および外筒32の内側面に全周に亘って密着する。図4に示す例では、シール部材33は、封止部31の外側面に密着し、封止部31を介して支持体11の外側面に間接的に密着する。シール部材33と支持体11の外側面との間、および、シール部材33と外筒32の内側面との間は、シールされており、水の通過はほとんど、または、全く不能である。
【0051】
ゼオライト膜12に対する水の吸着が行われる際には、まず、上述の水供給源から、供給ポート321を介して液状の水が外筒32の内部空間に供給される。当該水の温度は、40℃以上であることが好ましい。供給ポート321から外筒32に供給された水は、支持体11の図中の左端から、支持体11の各貫通孔111内に導入される。吸着装置3では、排出ポート322が閉鎖されおり、供給ポート321から供給された水は、各貫通孔111内に充填され、各貫通孔111の内側面に形成されたゼオライト膜12と全面に亘って接触する。図4では、外筒32内の水に平行斜線を付す。
【0052】
各貫通孔111に水が充填されると、加圧部34により外筒32内の水が加圧される。加圧部34による水の加圧が開始される際には、各貫通孔111内の水の温度は40℃以上とされる。吸着装置3では、必要に応じて、加圧部34による加圧開始前に外筒32内の水が加熱されてもよい。加圧部34により各貫通孔111内の水に加えられる圧力は、5MPa以上である。吸着装置3では、加圧部34による加圧が、所定時間(例えば、1分~60分)維持される。これにより、各貫通孔111内のゼオライト膜12に、水分子が吸着する。
【0053】
加圧部34による加圧が終了すると、排出ポート322が開放され、各貫通孔111内の水が排出ポート322から排出される。その後、支持体11が吸着装置3から取り出され、支持体11およびゼオライト膜12が所定の乾燥温度にて乾燥される。当該乾燥温度は、250℃未満であり、例えば、80℃~200℃である。これにより、ゼオライト膜12の細孔内に付着している不要な水分が除去され、上述のゼオライト膜複合体1(すなわち、ゼオライト膜12に水分子が吸着しているゼオライト膜複合体1)が得られる。
【0054】
次に、図5および図6を参照しつつ、ゼオライト膜複合体1を利用した混合物質の分離について説明する。図5は、分離装置2を示す図である。図6は、分離装置2による混合物質の分離の流れを示す図である。
【0055】
分離装置2では、複数種類の流体(すなわち、ガスまたは液体)を含む混合物質をゼオライト膜複合体1に供給し、混合物質中の透過性が高い物質を、ゼオライト膜複合体1を透過させることにより混合物質から分離させる。分離装置2における分離は、例えば、透過性が高い物質を混合物質から抽出する目的で行われてもよく、透過性が低い物質を濃縮する目的で行われてもよい。
【0056】
当該混合物質(すなわち、混合流体)は、複数種類のガスを含む混合ガスであってもよく、複数種類の液体を含む混合液であってもよく、ガスおよび液体の双方を含む気液二相流体であってもよい。
【0057】
混合物質は、例えば、水素(H)、ヘリウム(He)、窒素(N)、酸素(O)、水(HO)、水蒸気(HO)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、窒素酸化物、アンモニア(NH)、硫黄酸化物、硫化水素(HS)、フッ化硫黄、水銀(Hg)、アルシン(AsH)、シアン化水素(HCN)、硫化カルボニル(COS)、C1~C8の炭化水素、有機酸、アルコール、メルカプタン類、エステル、エーテル、ケトンおよびアルデヒドのうち、1種類以上の物質を含む。
【0058】
窒素酸化物とは、窒素と酸素の化合物である。上述の窒素酸化物は、例えば、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO)、亜酸化窒素(一酸化二窒素ともいう。)(NO)、三酸化二窒素(N)、四酸化二窒素(N)、五酸化二窒素(N)等のNO(ノックス)と呼ばれるガスである。
【0059】
硫黄酸化物とは、硫黄と酸素の化合物である。上述の硫黄酸化物は、例えば、二酸化硫黄(SO)、三酸化硫黄(SO)等のSO(ソックス)と呼ばれるガスである。
【0060】
フッ化硫黄とは、フッ素と硫黄の化合物である。上述のフッ化硫黄は、例えば、二フッ化二硫黄(F-S-S-F,S=SF)、二フッ化硫黄(SF)、四フッ化硫黄(SF)、六フッ化硫黄(SF)または十フッ化二硫黄(S10)等である。
【0061】
C1~C8の炭化水素とは、炭素が1個以上かつ8個以下の炭化水素である。C3~C8の炭化水素は、直鎖化合物、側鎖化合物および環式化合物のうちいずれであってもよい。また、C2~C8の炭化水素は、飽和炭化水素(すなわち、2重結合および3重結合が分子中に存在しないもの)、不飽和炭化水素(すなわち、2重結合および/または3重結合が分子中に存在するもの)のどちらであってもよい。C1~C4の炭化水素は、例えば、メタン(CH)、エタン(C)、エチレン(C)、プロパン(C)、プロピレン(C)、ノルマルブタン(CH(CHCH)、イソブタン(CH(CH)、1-ブテン(CH=CHCHCH)、2-ブテン(CHCH=CHCH)またはイソブテン(CH=C(CH)である。
【0062】
上述の有機酸は、カルボン酸またはスルホン酸等である。カルボン酸は、例えば、ギ酸(CH)、酢酸(C)、シュウ酸(C)、アクリル酸(C)または安息香酸(CCOOH)等である。スルホン酸は、例えばエタンスルホン酸(CS)等である。当該有機酸は、鎖式化合物であってもよく、環式化合物であってもよい。
【0063】
上述のアルコールは、例えば、メタノール(CHOH)、エタノール(COH)、イソプロパノール(2-プロパノール)(CHCH(OH)CH)、エチレングリコール(CH(OH)CH(OH))またはブタノール(COH)等である。
【0064】
メルカプタン類とは、水素化された硫黄(SH)を末端に持つ有機化合物であり、チオール、または、チオアルコールとも呼ばれる物質である。上述のメルカプタン類は、例えば、メチルメルカプタン(CHSH)、エチルメルカプタン(CSH)または1-プロパンチオール(CSH)等である。
【0065】
上述のエステルは、例えば、ギ酸エステルまたは酢酸エステル等である。
【0066】
上述のエーテルは、例えば、ジメチルエーテル((CHO)、メチルエチルエーテル(COCH)またはジエチルエーテル((CO)等である。
【0067】
上述のケトンは、例えば、アセトン((CHCO)、メチルエチルケトン(CCOCH)またはジエチルケトン((CCO)等である。
【0068】
上述のアルデヒドは、例えば、アセトアルデヒド(CHCHO)、プロピオンアルデヒド(CCHO)またはブタナール(ブチルアルデヒド)(CCHO)等である。
【0069】
以下の説明では、分離装置2により分離される混合物質は、複数種類のガスを含む混合ガスであるものとして説明する。
【0070】
分離装置2は、ゼオライト膜複合体1と、封止部21と、外筒22と、2つのシール部材23と、供給部26と、第1回収部27と、第2回収部28とを備える。ゼオライト膜複合体1、封止部21およびシール部材23は、外筒22内に収容される。供給部26、第1回収部27および第2回収部28は、外筒22の外部に配置されて外筒22に接続される。
【0071】
封止部21は、支持体11の長手方向(すなわち、図5中の左右方向)の両端部に取り付けられ、支持体11の長手方向両端面、および、当該両端面近傍の外側面を被覆して封止する部材である。封止部21は、支持体11の当該両端面からのガスの流入および流出を防止する。封止部21は、例えば、ガラスまたは樹脂により形成された板状部材である。封止部21の材料および形状は、適宜変更されてよい。なお、封止部21には、支持体11の複数の貫通孔111と重なる複数の開口が設けられているため、支持体11の各貫通孔111の長手方向両端は、封止部21により被覆されていない。したがって、当該両端から貫通孔111へのガス等の流入および流出は可能である。
【0072】
外筒22の形状は限定されないが、例えば、略円筒状の筒状部材である。外筒22は、例えばステンレス鋼または炭素鋼により形成される。外筒22の長手方向は、ゼオライト膜複合体1の長手方向に略平行である。外筒22の長手方向の一方の端部(すなわち、図5中の左側の端部)には供給ポート221が設けられ、他方の端部には第1排出ポート222が設けられる。外筒22の側面には、第2排出ポート223が設けられる。供給ポート221には、供給部26が接続される。第1排出ポート222には、第1回収部27が接続される。第2排出ポート223には、第2回収部28が接続される。外筒22の内部空間は、外筒22の周囲の空間から隔離された密閉空間である。
【0073】
2つのシール部材23は、ゼオライト膜複合体1の長手方向両端部近傍において、ゼオライト膜複合体1の外側面と外筒22の内側面との間に、全周に亘って配置される。各シール部材23は、ガスが透過不能な材料により形成された略円環状の部材である。シール部材23は、例えば、可撓性を有する樹脂により形成されたOリングである。シール部材23は、ゼオライト膜複合体1の外側面および外筒22の内側面に全周に亘って密着する。図5に示す例では、シール部材23は、封止部21の外側面に密着し、封止部21を介してゼオライト膜複合体1の外側面に間接的に密着する。シール部材23とゼオライト膜複合体1の外側面との間、および、シール部材23と外筒22の内側面との間は、シールされており、ガスの通過はほとんど、または、全く不能である。
【0074】
供給部26は、混合ガスを、供給ポート221を介して外筒22の内部空間に供給する。供給部26は、例えば、外筒22に向けて混合ガスを圧送するブロワーまたはポンプである。当該ブロワーまたはポンプは、外筒22に供給する混合ガスの圧力を調節する圧力調節部を備える。第1回収部27および第2回収部28は、例えば、外筒22から導出されたガスを貯留する貯留容器、または、当該ガスを移送するブロワーもしくはポンプである。
【0075】
混合ガスの分離が行われる際には、上述の分離装置2が用意されることにより、ゼオライト膜複合体1が準備される(図6:ステップS21)。続いて、供給部26により、ゼオライト膜12に対する透過性が異なる複数種類のガスを含む混合ガスが、外筒22の内部空間に供給される。例えば、混合ガスの主成分は、COおよびCHである。混合ガスには、COおよびCH以外のガスが含まれていてもよい。供給部26から外筒22の内部空間に供給される混合ガスの圧力(すなわち、導入圧)は、例えば、0.1MPa~20.0MPaである。混合ガスの分離が行われる温度は、例えば、10℃~200℃である。
【0076】
供給部26から外筒22に供給された混合ガスは、矢印251にて示すように、ゼオライト膜複合体1の図中の左端から、支持体11の各貫通孔111内に導入される。混合ガス中の透過性が高いガス(例えば、COであり、以下、「高透過性物質」と呼ぶ。)は、各貫通孔111の内側面上に設けられたゼオライト膜12、および、支持体11を透過して支持体11の外側面から導出される。これにより、高透過性物質が、混合ガス中の透過性が低いガス(例えば、CHであり、以下、「低透過性物質」と呼ぶ。)から分離される(ステップS22)。支持体11の外側面から導出されたガス(以下、「透過物質」と呼ぶ。)は、矢印253にて示すように、第2排出ポート223を介して第2回収部28により回収される。第2排出ポート223を介して第2回収部28により回収されるガスの圧力(すなわち、透過圧)は、例えば、約1気圧(0.101MPa)である。
【0077】
また、混合ガスのうち、ゼオライト膜12および支持体11を透過したガスを除くガス(以下、「不透過物質」と呼ぶ。)は、支持体11の各貫通孔111を図中の左側から右側へと通過し、矢印252にて示すように、第1排出ポート222を介して第1回収部27により回収される。第1排出ポート222を介して第1回収部27により回収されるガスの圧力は、例えば、導入圧と略同じ圧力である。不透過物質には、上述の低透過性物質以外に、ゼオライト膜12を透過しなかった高透過性物質が含まれていてもよい。
【0078】
次に、ゼオライト膜12の水分子の吸着量と、ゼオライト膜複合体1の分離性能との関係について説明する。当該分離性能は、上述の分離装置2において、COおよびCHの混合ガスを供給部26から外筒22内のゼオライト膜複合体1に供給し、ゼオライト膜複合体1を透過して第2回収部28にて回収される透過物質(すなわち、透過ガス)から求めた。具体的には、当該分離性能は、第2回収部28にて回収されるCOの透過量を、第2回収部28にて回収されるCH漏れ量で除算した値(すなわち、COおよびCHのパーミエンス比)である。なお、供給部26から供給される混合ガスにおけるCOおよびCHの体積分率はそれぞれ50%とし、COおよびCHの分圧はそれぞれ0.3MPaとした。
【0079】
実施例1では、ゼオライト膜複合体1を以下のように作製した。まず、水熱合成によって取得したDDR型のゼオライト粉末を種結晶とし、種結晶を所定の混合割合となるように純水に投入した溶液に、支持体11を接触させることにより、各貫通孔111内に種結晶を付着させた。当該混合割合は、例えば0.001質量%~0.36質量%である。
【0080】
次に、SDAとして1-アダマンタンアミン(アルドリッチ製)をエチレンジアミン(和光純薬工業製)に溶解させたものと、Si源として30質量%コロイダルシリカ(日産化学製:スノーテックS)を純水(例えば、イオン交換水)に加えたものとを混合することにより、ゼオライト膜12用の原料溶液を作製した。当該原料溶液作製時の1-アダマンタンアミン、エチレンジアミン、コロイダルシリカおよび純水のそれぞれ重量は、1.156g、7.35g、98gおよび116.55gであった。
【0081】
当該原料溶液の作成後、種結晶を付着させた支持体11を原料溶液に浸漬し、125℃で30時間水熱合成することにより、支持体11上にDDR型のゼオライト膜12を形成した。そして、ゼオライト膜12が形成された支持体11を、純水で十分に洗浄し、100℃で完全に乾燥させた。次に、ゼオライト膜12が形成された支持体11を大気中において450℃で50時間加熱することにより、SDAを燃焼除去して、ゼオライト膜12内の細孔を貫通させた。
【0082】
さらに、40℃かつ5MPaの環境下にて、ゼオライト膜12に水分子を吸着させた。ゼオライト膜12に対する水分子の吸着処理は、30分間行った。その後、150℃にて支持体11およびゼオライト膜12を乾燥させることにより、ゼオライト膜複合体1を得た。実施例1では、250℃から500℃にかけてのゼオライト膜12の水分減少率は、0.26%であった。
【0083】
比較例1におけるゼオライト膜複合体1の製造は、ステップS14における水分子の吸着処理時の条件が異なる点を除き、実施例1と略同様である。比較例1では、水分子の吸着処理時の温度が20℃であり、250℃から500℃にかけてのゼオライト膜12の水分減少率は、0.08%であった。
【0084】
比較例2におけるゼオライト膜複合体1の製造は、ステップS14における水分子の吸着が行われない点を除き、実施例1および比較例1と略同様である。したがって、比較例2では、250℃から500℃にかけてのゼオライト膜12の水分減少率は、比較例1よりも小さい。
【0085】
実施例1では、ゼオライト膜複合体1に常温(すなわち、20℃)の混合ガスを供給した場合、比較例2におけるCOおよびCHのパーミエンス比に比べて約20%増大した。また、実施例1のゼオライト膜複合体1に200℃の混合ガスを供給した場合、常温の混合ガスを供給した場合と略同様に、高い分離性能を示した。
【0086】
一方、比較例1では、ゼオライト膜複合体1に常温(すなわち、20℃)の混合ガスを供給した場合、比較例2におけるCOおよびCHのパーミエンス比からの増大率は、約7%に留まった。また、比較例1のゼオライト膜複合体1に200℃の混合ガスを供給した場合、ゼオライト膜複合体1によるCOおよびCHのパーミエンス比は、比較例2におけるCOおよびCHのパーミエンス比と略同じ程度まで低下した。
【0087】
以上に説明したように、ゼオライト膜複合体1は、多孔質の支持体11と、支持体11上に形成されたゼオライト膜12と、を備える。ゼオライト膜12は水分子を吸着している。250℃から500℃にかけてのゼオライト膜12の水分減少率は、0.1%以上である。このように、ゼオライト膜12は、比較的高温下(例えば、約250℃の環境下)においても比較的多量の水分子を吸着しているため、高温下における混合物質の分離において、ゼオライト膜12のパーミアンス比を向上することができる。また、ゼオライト膜12は、高温下には限らず、他の温度帯(例えば、常温下)における混合物質の分離においても、ゼオライト膜12のパーミアンス比を向上することができる。
【0088】
上述のように、250℃から500℃にかけてのゼオライト膜12の水分減少率は、0.2%以上であることが好ましい。これにより、混合物質の分離において、ゼオライト膜12のパーミアンス比をより一層向上することができる。
【0089】
上述のように、ゼオライト膜12に含まれるゼオライト結晶の最大員環数は8であることが好ましい。これにより、ゼオライト膜複合体1により混合物質の分離を行う際に、分子径が比較的小さいCO等の透過対象物質の選択的透過を好適に実現し、当該透過対象物質を混合物質から効率良く分離することができる。
【0090】
上述のように、ゼオライト膜12に含有されるAl元素に対するSi元素のモル比率は3以上であることが好ましい。これにより、ゼオライト膜12に対する水分子の過剰な吸着を抑制することができる。その結果、ゼオライト膜12の透過性能の低下を抑制することができる。
【0091】
上述のように、ゼオライト膜12に含まれるゼオライト結晶の骨格構造は、好ましくは、6員環以下の環状構造のみからなるコンポジットビルディングユニットを少なくとも1つ含んで構成されている。これにより、高温下におけるゼオライト膜12からの水分子の離脱をさらに抑制することができる。その結果、高温下における混合物質の分離において、ゼオライト膜12のパーミアンス比をさらに向上することができる。
【0092】
上述のゼオライト膜複合体1の製造方法は、原料溶液に多孔質の支持体11を浸漬し、水熱合成により支持体11上にゼオライト膜12を形成する工程と(ステップS12)、40℃以上かつ5MPa以上の環境下においてゼオライト膜12に水分子を吸着させる工程(ステップS14)と、を備える。これにより、上述のように、混合物質の分離において、水分子の吸着が行われていないゼオライト膜、および、常温にて水分子の吸着が行われたゼオライト膜に比べて、パーミアンス比が向上されたゼオライト膜12を容易に製造することができる。
【0093】
上述のように、ゼオライト膜複合体1の製造方法は、ステップS12とステップS14との間において、ゼオライト膜12を加熱してSDAを除去する工程(ステップS13)をさらに備えることが好ましい。ゼオライト膜12にSDAが含まれる場合、ステップS13で、ゼオライト膜12の細孔内にあって水分子の吸着を妨げるSDAが除去されるため、ステップS14において、所望量の水分子をゼオライト膜12に好適に吸着させることができる。
【0094】
上述のゼオライト膜複合体1の処理方法は、水熱合成により支持体11上に形成されたゼオライト膜12を加熱してSDAを除去する工程(ステップS13)と、40℃以上かつ5MPa以上の環境下においてゼオライト膜12に水分子を吸着させる工程(ステップS14)と、を備える。これにより、所望量の水分子をゼオライト膜12に好適に吸着させることができる。その結果、ゼオライト膜12のパーミアンス比を容易に向上することができる。
【0095】
上述の分離方法は、上記ゼオライト膜複合体1を準備する工程(ステップS21)と、複数種類のガスまたは液体を含む混合物質をゼオライト膜複合体1に供給し、当該混合物質中の透過性が高い物質を、ゼオライト膜複合体1を透過させることにより他の物質から分離する工程(ステップS22)と、を備える。上述のように、ゼオライト膜複合体1は、高い分離性能を有しているため、当該分離方法により、混合物質を効率良く分離することができる。
【0096】
また、当該分離方法は、水素、ヘリウム、窒素、酸素、水、水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物、アンモニア、硫黄酸化物、硫化水素、フッ化硫黄、水銀、アルシン、シアン化水素、硫化カルボニル、C1~C8の炭化水素、有機酸、アルコール、メルカプタン類、エステル、エーテル、ケトンおよびアルデヒドのうち、1種類以上の物質を含む混合物質の分離に特に適している。
【0097】
上述のゼオライト膜複合体1、ゼオライト膜複合体1の製造方法、および、分離方法では、様々な変更が可能である。
【0098】
例えば、ゼオライト膜12に吸着する水分子は、上述のコンポジットビルディングユニット以外の部位に吸着されていてもよい。ゼオライト膜12に含まれるゼオライト結晶の骨格構造は、必ずしも上述のコンポジットビルディングユニットを含む必要はない。
【0099】
ゼオライト膜12に水分子を吸着させる際には、ガス状の水分子(水蒸気)をゼオライト膜12と接触させてもよい。また、水分子を吸着させる際にゼオライト膜12と接触させるのは、少なくとも水分子を含む液体またはガスであればよく、水分子のみからなる液体またはガスであってもよいし、水分子と水以外の分子を含む液体またはガスであってもよい。
【0100】
ゼオライト膜12に含有されるAl元素に対するSi元素のモル比率は3未満であってもよい。
【0101】
ゼオライト膜12に含まれるゼオライト結晶の最大員環数は8よりも大きくてもよい。
【0102】
ゼオライト膜複合体1の製造においてSDAを使用しない場合、ステップS13におけるSDAの除去は省略される。
【0103】
また、ゼオライト膜複合体1は、支持体11およびゼオライト膜12に加えて、ゼオライト膜12上に積層された機能膜や保護膜をさらに備えていてもよい。このような機能膜や保護膜は、ゼオライト膜、シリカ膜または炭素膜等の無機膜であってもよく、ポリイミド膜またはシリコーン膜等の有機膜であってもよい。また、ゼオライト膜12上に積層された機能膜や保護膜には、COを吸着しやすい物質が添加されていてもよい。
【0104】
分離装置2および分離方法では、上記説明にて例示した物質以外の物質が、混合物質から分離されてもよい。
【0105】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【0106】
発明を詳細に描写して説明したが、既述の説明は例示的であって限定的なものではない。したがって、本発明の範囲を逸脱しない限り、多数の変形や態様が可能であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明のゼオライト膜複合体は、例えば、ガス分離膜として利用可能であり、さらには、ガス以外の分離膜や様々な物質の吸着膜等として、ゼオライトが利用される様々な分野で利用可能である。
【符号の説明】
【0108】
1 ゼオライト膜複合体
11 支持体
12 ゼオライト膜
S11~S14,S21~S22 ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6