(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルム、その製造方法、及びポリプロピレン多孔質フィルムの疎水性を向上させる方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/26 20060101AFI20221109BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20221109BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20221109BHJP
B01D 69/06 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B01D71/26
B01D69/02
B01D69/00
B01D69/06
(21)【出願番号】P 2021566218
(86)(22)【出願日】2020-09-17
(86)【国際出願番号】 CN2020115975
(87)【国際公開番号】W WO2021169253
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2021-12-13
(31)【優先権主張番号】202010113160.2
(32)【優先日】2020-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513148853
【氏名又は名称】天津科技大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】唐娜
(72)【発明者】
【氏名】宋陽陽
(72)【発明者】
【氏名】張蕾
(72)【発明者】
【氏名】史星星
(72)【発明者】
【氏名】王松博
(72)【発明者】
【氏名】程鵬高
(72)【発明者】
【氏名】杜威
(72)【発明者】
【氏名】張建平
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102728238(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102675681(CN,A)
【文献】特開2015-047530(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0240045(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00- 71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムの製造方法であって、
超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムは、ポリプロピレン多孔質フィルム基材、原子層堆積法により前記ポリプロピレン多孔質フィルム基材の表面に堆積された二酸化チタン層、および前記二酸化チタン層にコーティングされた表面改質剤層をこの順で含み、前記二酸化チタン層と前記表面改質剤層との間に疎水性結合が形成され、
水接触角が150°より大きく、動的接触角が10°より小さく、孔径が0.1μm~0.4μmであり、多孔度が50%~80%であり、引張強度が30MPa~50MPaであり、破断伸びが10%~30%であり、前記表面改質剤層はナノシリコンのエマルジョンであり、
ポリプロピレン多孔質フィルム基材を準備する工程(1)、
原子層堆積法により前記ポリプロピレン多孔質フィルム基材の表面に二酸化チタン層を堆積し、表面に二酸化チタン層を有するポリプロピレン多孔質フィルムを得る工程(2)、
表面に二酸化チタン層を有するポリプロピレン多孔質フィルムの表面に、表面改質剤をスプレー塗布し、光照射処理、洗浄、乾燥をして、前記超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムを得る工程(3)を含むことを特徴とする、超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記ポリプロピレン多孔質フィルム基材の表面に二酸化チタン層が10~500サイクル堆積されていることを特徴とする、請求項1に記載の超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムの製造方法。
【請求項3】
工程(1)におけるポリプロピレン多孔質フィルム基材の製造方法が、
原料ポリプロピレンと希釈剤を秤量する工程(11)、
工程(11)で秤量された原料を反応器に仕込みかつ撹拌し、窒素ガスを導入して保護し、160℃~300℃に加熱し、攪拌してキャスト液を得る工程(12)、
工程(12)で得られたキャスト液をポリエステル不織布の表面にコーティングして平らにならした後、その全体を0℃~130℃のウォーターバスまたはオイルバスに浸漬し、成形フィルムを得る工程(13)、
工程(13)で得られた成形フィルムを抽出液に浸漬し、超音波処理を4~12時間行い、乾燥して前記ポリプロピレン多孔質フィルム基材を得る工程(14)
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
工程(11)において、原料は、添加剤をさらに含み、前記希釈剤は、フタル酸ジメチル、ジフェニルエーテル、フタル酸ジエチル、リン酸トリブチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、および大豆油のうち1つ又は2つ以上であり、前記添加剤は、アジピン酸、スベリン酸、およびジベンジリデンソルビトールのうちいずれか一つであり、
工程(14)において、抽出剤は、メタノール、エタノール、プロパノール、n-ヘキサン、シクロヘキサン、およびアセトンのうち1つ又は2つ以上である、ことを特徴とする、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
工程(2)において、原子層堆積法により前記ポリプロピレン多孔質フィルムの表面に二酸化チタン層を堆積する工程は、
原子層堆積装置の反応室を真空吸引した後、前記ポリプロピレン多孔質フィルムを反応室に置いて且つ反応室の温度を50~150℃に加熱する工程(21)、
反応室へ、チタン含有前駆体の気体を100~1000ミリ秒間導入してから、流速が10~300sccmである不活性ガスで一次パージを10~60秒間行う工程(22)、
さらに、反応室へ、酸素含有前駆体の気体を10~500ミリ秒間導入し、最後に、流速が10~300sccmである不活性ガスで二次パージを10~60秒間行って1サイクルの二酸化チタン層の堆積を完成させる工程(23)、
上記工程(22)~(23)を繰り返し、二酸化チタン層を前記ポリプロピレン多孔質フィルムの表面に10~500サイクル堆積する工程(24)
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
工程(21)において、前記真空は0~15mbarであり、
工程(22)において、前記チタン含有前駆体はチタンアルコキシド、ハロゲン化チタン、またはチタンアルキルフタルアミドであり、
工程(23)において、前記酸素含有前駆体は、O
3、H
2O、またはH
2O
2であり、
工程(22)および工程(23)における前記不活性ガスは、ArまたはN
2であることを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
工程(3)において、表面改質剤は、0.1~10wt%のナノシリコンのエマルジョンから選択されることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
ポリプロピレン多孔質フィルムの孔径、多孔度、引張強度、破断伸びを変化させることなく、ポリプロピレン多孔質フィルムの疎水性を向上させる方法であって、
まず原子層堆積法により、ポリプロピレン多孔質フィルムの表面に二酸化チタン層を堆積し、
その後、二酸化チタン層の表面に表面改質剤をスプレー塗布し、次いで表面に二酸化チタン層と表面改質剤とを有するポリプロピレン多孔質フィルムを光照射処理し、
前記表面改質剤
の層はナノシリコンのエマルジョンであることを特徴とする、方法。
【請求項9】
原子層堆積法により、ポリプロピレン多孔質フィルムの表面に二酸化チタン層を10~500サイクル堆積することを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子材料科学と膜分離技術の分野に属し、高分子ポリマー分離フィルムの改質方法に関し、より詳細には、超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルム、その製造方法及びポリプロピレン多孔質フィルムの疎水性を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
疎水性微孔性フィルムは、膜接触器の伝送媒体として、膜蒸留、膜抽出、膜吸収、膜ストリッピング、および膜吸着などを含む種々の新規な膜分離プロセスに適用することができる。膜蒸留(Membrane Distillation、略称:MD)は、溶液中の溶媒または溶質の蒸発プロセスであり、他の膜分離技術と比較して、その技術的な利点は、低温且つ常圧での操作が可能であること、また、太陽エネルギー、産業上の廃熱や余熱などの安価なエネルギーを有効に活用できることであり、エネルギーの不足が日々増していく今の社会において大きな競争力を有している。MDは、高濃度の塩水溶液の濃縮において大きな利点を有している。逆浸透のプロセスでは、一定の濃度までしか濃縮できないのに対し、MDプロセスは、当該濃度を過飽和溶液となるまで濃縮できる。それに加え、果汁の濃縮や漢方薬の濃縮においても膜蒸留プロセスは比類のない利点を有している。しかしながら、産業へのMD技術の大規模な適用においては、フィルム材料の選択およびエネルギーの利用率が、技術の核心および難点であった。
【0003】
ところで、ポリプロピレンは、プロピレン単量体を重合して得られる熱可塑性重合体であり、家庭用プラスチック製品の製造に多く用いられている。酸・アルカリに対する耐性が高く、疎水性が高く、熱安定性に優れ、しかも安価であることから、疎水性微孔性フィルムの主流の材料として期待されている。
【0004】
また、二酸化チタン(TiO2)は、光触媒の特性を有し、387.5nm未満の波長の紫外線(Ultraviolet、UV)に照射されると、電子が価電子帯から伝導帯へ遷移して電子-正孔対を形成する。また、ヒドロキシラジカルは、高い活性を有し、シラン系カップリング剤と反応してナノデンドライド構造を形成することができ、フィルムの表面粗さを大きく向上させ、さらにフィルム表面の疎水性を向上させることができる。これらの方法をMD用超疎水性微孔性フィルムの製造に応用した学者も存在する。Mengらは、PVDFの表面にTiO2ナノ粒子をコーティングした後、UVランプの照射条件でペルフルオロオクチルトリクロロシラン(1H,1H,2H,2H-perfluorododecyltrichlorosilane、FTCS)と反応させ、最終的に接触角が160°より大きい超疎水性PVDFフィルムを製造した。また、これをMDプロセスに応用すると、脱塩率が著しく向上し、フィルム孔の濡れ状況が効果的に緩和されることを見出した(S.Meng,Y.Ye,J.Mansouri,et al.Fouling and crystallisation behaviour of superhydrophobic nano-composite PVDF membranes in direct contact membrane distillation[J]。Journal of Membrane Science,2014,463:102-112)。この方法を用いてポリプロピレン多孔質フィルムの疎水性を向上させたところ、処理されたポリプロピレン多孔質フィルムは、(1)ポリプロピレン多孔質フィルムを長期間稼働させると、ポリプロピレン多孔質フィルムの表面にコーティングされたTiO2ナノ粒子の薄膜が脱落しやすくなり、ポリプロピレン多孔質フィルムの使用寿命が短くなるという問題点、(2)ポリプロピレン多孔質フィルムの疎水性を向上させた後、その孔径、多孔度、引張強度、破断伸びが処理前のポリプロピレン多孔質フィルムより著しく低下するため、処理後のポリプロピレン多孔質フィルムを膜蒸留プロセスに使用する際、使用効果が著しく低下するという問題点があった。
【0005】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものである。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、上記従来技術の欠点に鑑み、ポリプロピレン多孔質フィルムの超疎水性の改質方法を提供することを目的とする。本発明において製造される改質超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムは、ポリプロピレンの優れた耐薬品性、高強度が変化することなく、顕著な改質効果が得られ、製品フィルムの疎水性能が大きく向上し、より高い接触角、より小さい動的接触角を有し、原料フィルムの多孔度、孔径及び孔径分布が殆ど変化せず、製品フィルムの疎水性が増加するため、膜蒸留プロセスに応用するとフィルムの耐濡れ性がより良く、フィルムの使用寿命が向上する。
【0007】
本発明の第1の態様は、ポリプロピレン多孔質フィルム基材、原子層堆積法によりポリプロピレン多孔質フィルム基材の表面に堆積された二酸化チタン層、及び二酸化チタン層にコーティングされた表面改質剤層をこの順で含み、二酸化チタン層と表面改質剤層との間に疎水性結合が形成された超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムであって、水接触角が150°より大きく、動的接触角が10°より小さく、孔径が0.1μm~0.4μmであり、多孔度が50%~80%であり、引張強度が30MPa~50MPaであり、破断伸びが10%~30%である、超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムを提供する。
【0008】
ここで、本発明における超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムの「超疎水性」とは、比較的高い疎水性を有していることを意味し、より具体的には、水接触角が150°より大きく180°未満であり、動的接触角が10°未満、0°を超えるポリプロピレン多孔質フィルムを意味している。
【0009】
好ましくは、二酸化チタン層は、原子層堆積法によってポリプロピレン多孔質フィルム基材の表面に堆積されており、具体的には、ポリプロピレン多孔質フィルム基材の表面に二酸化チタン層が10~500サイクル堆積されている。表面改質剤層はナノシリコンのエマルジョンであり、疎水性結合がSi-O-Ti結合である。なお、ナノシリコンのエマルジョンの主成分はトリメチルシラノールである。二酸化チタンは、光照射処理が施されると、遊離の水酸基を形成し、その後、トリメチルシラノールにおける水酸基とチタンにおける遊離の水酸基とが脱水縮合反応し、Si-O-Ti結合を生成する。これにより、ポリプロピレン多孔質フィルムの表面の疎水性を高める効果を発揮する。
【0010】
本発明の第2の態様は、以下の工程を含む、本発明に係る第1の態様に記載の超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムの製造方法を提供する:
(1)ポリプロピレン多孔質フィルム基材を準備する工程、
(2)原子層堆積法により、ポリプロピレン多孔質フィルム基材の表面に二酸化チタン層を堆積し、表面に二酸化チタン層を有するポリプロピレン多孔質フィルムを得る工程、
(3)表面に二酸化チタン層を有したポリプロピレン多孔質フィルムの表面に、表面改質剤をスプレー塗布し、光照射処理、洗浄、乾燥をして、超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムを得る工程。
【0011】
好ましくは、工程(1)におけるポリプロピレン多孔質フィルム基材の製造方法が、以下の工程を含む:
(11)質量%で、製品ポリプロピレン多孔質フィルム基材の質量の17~35%となる量の原料ポリプロピレンと、製品ポリプロピレン多孔質フィルム基材の質量の65~83%となる量の希釈剤とを秤量する工程、
(12)工程(11)で秤量された原料を反応器に仕込みかつ撹拌し、窒素ガスを導入して保護し、160℃~300℃に加熱し、200r/minの速度で4時間撹拌してから、脱泡してキャスト液を得る工程、
(13)工程(12)で得られたキャスト液をポリエステル不織布の表面にコーティングして平らにならした後、その全体を0℃~130℃のウォーターバスまたはオイルバスに浸漬し、成形フィルムを得る工程、
(14)工程(13)で得られた成形フィルムを抽出液に浸漬し、超音波処理を8時間行って、抽出終了後に50~100℃の真空オーブンで入れて乾燥させ、抽出剤を完全に蒸発させてから本発明のポリプロピレン多孔質フィルム基材を得る工程。
【0012】
好ましくは、工程(11)において、原料は、添加剤をさらに含み、また、質量%で、秤量される添加剤の質量は、製品ポリプロピレン多孔質フィルム基材の質量の0~3%であり、用いられるポリプロピレンは、メルトインデックスが0~20である。希釈剤は、フタル酸ジメチル、ジフェニルエーテル、フタル酸ジエチル、リン酸トリブチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、大豆油、およびその他の植物油のうち1つ又は2つ以上である。添加剤は、アジピン酸、スベリン酸、およびジベンジリデンソルビトールのうちいずれか一つである。工程(14)における抽出剤は、メタノール、エタノール、プロパノール、n-ヘキサン、シクロヘキサン、およびアセトンのうち1つ、又は2つ以上による組み合わせである。
【0013】
好ましくは、工程(2)において、原子層堆積法によりポリプロピレン多孔質フィルムの表面に二酸化チタン層を堆積する工程は、以下の工程を含む:
(21)原子層堆積装置の反応室を真空吸引した後、ポリプロピレン多孔質フィルムを反応室に置いて且つ反応室の温度を50~150℃に加熱する工程、
(22)反応室へ、チタン含有前駆体の気体を100~1000ミリ秒間導入してから、流速が10~300sccmである不活性ガスで一次パージを10~60秒間行う工程、
(23)さらに、反応室へ、酸素含有前駆体の気体を10~500ミリ秒間導入し、最後に、流速が10~300sccmである不活性ガスで二次パージを10~60秒間行って1サイクルの二酸化チタン層の堆積を完成させる工程、
(24)上記工程(22)~(23)を繰り返し、二酸化チタン層をポリプロピレン多孔質フィルムの表面に10~500サイクル堆積する工程。
【0014】
上記工程(22)及び(23)を1回実施することは、二酸化チタン層を1サイクル堆積することに相当する。
【0015】
なお、工程(22)及び工程(23)において、反応室へチタン含有前駆体の気体及び酸素含有前駆体の気体を導入する装置は、原子層堆積装置(D100-4882、重慶諾図テクノロジー株式会社)を用いてもよい。該装置は、外部環境に対して完全に密封されており、該装置におけるプログラムの実行時間を制御することにより、チタン含有前駆体の気体及び酸素含有前駆体の気体を導入する量を制御することができる。
【0016】
好ましくは、工程(21)において、真空は0~15mbarであり、工程(22)において、チタン含有前駆体は、チタンアルコキシド、ハロゲン化チタン、又はチタンアルキルフタルアミドであり、好ましくはチタンテトライソプロポキシドを用いてもよく、工程(23)において、酸素含有前駆体は、O3、H2O、またはH2O2であり、工程(22)および工程(23)において、不活性ガスはArまたはN2である。
【0017】
好ましくは、工程(3)において、表面改質剤は、0.1~10wt%のナノシリコンのエマルジョンから選択され、光照射処理条件は、100~1000ジュールのキセノンランプによる1~200分間の照射である。ここで、0.1~10wt%のナノシリコンのエマルジョンとは、ナノシリコンのエマルジョン中の単体シリコンの質量分率を意味する。
【0018】
ナノシリコンのエマルジョンの主成分は、トリメチルシラノールである。二酸化チタンは光照射処理が施されると、遊離の水酸基を形成し、その後、トリメチルシラノールにおける水酸基とチタンにおける遊離の水酸基とが脱水縮合反応し、Si-O-Ti結合を生成する。これにより、ポリプロピレン多孔質フィルムの表面の疎水性を高める効果を発揮する。
【0019】
本発明の第3の態様は、ポリプロピレン多孔質フィルムの孔径、多孔度、引張強度、破断伸びを変化させることなく、ポリプロピレン多孔質フィルムの疎水性を向上させる方法であって、まず原子層堆積法により、ポリプロピレン多孔質フィルムの表面に二酸化チタン層を堆積し、その後、二酸化チタン層の表面に表面改質剤をスプレー塗布し、次いで表面に二酸化チタン層と表面改質剤とを有するポリプロピレン多孔質フィルムを光照射処理する方法を提供する。
【0020】
好ましくは、原子層堆積法により、ポリプロピレン多孔質フィルムの表面に二酸化チタン層を10~500サイクル堆積し、表面改質剤はナノシリコンのエマルジョンであり、光照射処理条件は、100~1000ジュールのキセノンランプによる1~200分間の照射である。
【0021】
なお、ポリプロピレン多孔質フィルムは、代表的な高分子重合体分離膜に過ぎず、ポリプロピレン多孔質フィルムの孔径、多孔度、引張強度、破断伸びを変化させることなくポリプロピレン多孔質フィルムの疎水性を向上させる方法は、フィルムの耐濡れ性、寿命などの向上にも適している。本発明の改質方法は、常温での溶解度が悪いために通常の溶液法ではフィルムの親水性、疎水性を改質することができない多くの高分子重合体にも適用される。ポリプロピレン多孔質フィルムは常温では、いかなる試薬とも反応しない。そのため、本発明は、原子層堆積法(ALD)と光触媒とを組み合わせた方法を用いて改質超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムを製造する。
【0022】
先行技術と比較して、本発明は以下の有利な効果を奏する:
1、本発明では、原子層堆積法(ALD)と光触媒とを組み合わせた方法を用いて超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムを製造するため、超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムは、水接触角が150°より大きく、動的接触角が10°より小さく、孔径が0.1μm~0.4μmであり、多孔度が50%~80%であり、引張強度が30MPa~50MPaであり、破断伸びが10%~30%である。本発明により製造される超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムは、疎水性の改質が行われていないポリプロピレン多孔質フィルムと比べて、ポリプロピレン多孔質フィルムの優れた耐薬品性、剛性(引張強度、破断伸び)、多孔質特性(孔径、多孔度)が維持されるだけでなく、超疎水性も備わる。なお、原料としてのポリプロピレン多孔質フィルムは、接触角が100゜~130゜であり、動的接触角が現れないのに対して、超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムは、水接触角が150゜より大きく、動的接触角が10゜未満であることから、ポリプロピレン多孔質フィルムの疎水性は、顕著に向上している。
【0023】
2、本発明では、原子層堆積法によりポリプロピレン多孔質フィルムの表面に二酸化チタン層を10~500サイクル堆積する。ここで、ALDは、ポリプロピレン多孔質フィルムの表面に、比較的高い比表面積の二酸化チタン層を均一に堆積することができる。そのため、ポリプロピレン多孔質フィルムの表面に二酸化チタンのナノ粒子を直接にコーティングする場合に比べ、本発明におけるポリプロピレン多孔質フィルムの表面に堆積された二酸化チタン層は、より強固であり、膜蒸留プロセス中にポリプロピレン多孔質フィルムの表面から二酸化チタン層が脱落しにくい。本発明により製造される超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムは、80時間稼働した後でも効果が良好で、超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムの使用寿命が長く、使用寿命が大幅に増加するため、MDプロセスの操作コストと稼働コストが低減する。
【0024】
3、本発明は、表面エネルギーが低くて安価なナノシリコンのエマルジョンを表面改質剤として意図的に選択し、光触媒PP/TiO2多孔質フィルムの表面をコーティング処理する。ナノシリコンのエマルジョンの主成分はトリメチルシラノールであり、二酸化チタンは光照射処理が施されると、遊離の水酸基を形成し、トリメチルシラノールにおける水酸基とチタンにおける遊離の水酸基とが脱水縮合反応し、Si-O-Ti結合を生成する。これにより、ポリプロピレン多孔質フィルム表面の疎水性を高める効果を発揮する。このような方法で製造された微孔性フィルムは、原料膜の孔径と多孔度が維持されるとともに、微孔性フィルムの疎水性が向上し、ポリプロピレン多孔質フィルムの動的接触角が低減し、ポリプロピレン多孔質フィルムのフィルム孔の濡れ状況が緩和され、膜汚染が効果的に低減している。
【0025】
4、本発明に係る超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムの改質方法は、簡単で、操作しやすく、原料ポリプロピレン、ナノシリコンのエマルジョンは、安価で入手し易い。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施例1で製造されたポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル1のフィルム断面のSEM写真である。
【
図2】実施例4で製造された超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル3のフィルム断面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
実施例1
本実施例は、ポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル1の製造である。
(11)質量分率でポリプロピレンを16.5%、希釈剤である大豆油を41.5%、希釈剤であるリン酸トリブチルを41.5%、添加剤であるアジピン酸を0.5%秤量した。
(12)工程(11)で称量した混合原料を反応器に投入し、窒素ガスを導入して保護し、180℃に加熱し、4時間機械撹拌した後、3時間低速撹拌して脱泡し、均一相のキャスト液を得た。
(13)(12)で得られたキャスト液をポリエステル不織布の表面にコーティングして、180℃のならし温度にて平らにならした後、30℃の水槽中で冷却固化した。
(14)n-ヘキサン、エタノールをそれぞれ用い、2時間毎に抽出剤を交換する方式にて、工程(13)で得られたフィルムを4時間超音波抽出した。抽出終了後、70℃の真空オーブンに入れて乾燥し、ポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル1を得た。
【0028】
得られた製品フィルムは、フィルム断面の連通性が良好なハニカム状孔構造となっているため、多孔度が65.37%であり、平均孔径が0.2576μmであり、透気性が1.551L・cm-2・cm-1であり、水接触角が126.74°であり、引張強度が41.07MPaであり、破断伸びが15.72%であった。これを3.5%NaCl水溶液の真空膜蒸留プロセスに適用したところ、フィード流量が18L・h-1であり、フィード温度が70℃である場合、膜透過量が17.81kg・m-2・h-1であり、捕集率が99.99%であった。
【0029】
実施例2
本実施例では、低温水熱法を採用し、実施例1で製造されたポリプロピレン多孔質フィルムの表面に直接に二酸化チタンのナノ粒子をコーティングし、表面に二酸化チタンのナノ粒子がコーティングされたポリプロピレン多孔質フィルムの表面に、表面改質剤としてのビニルトリエトキシシランをスプレー塗布した。その後、500ジュールのキセノンランプで30分間照射し、続いて無水エタノールでリンスした後、80℃の真空オーブンに入れて乾燥し、超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル1を得た。
【0030】
なお、二酸化チタンは、光照射処理が施されると、遊離の水酸基を形成し、ビニルトリエトキシシランのビニル基が弱塩基および光触媒の条件下で二酸化チタンの遊離の水酸基と付加反応し、C-O-Ti結合を生成する。これにより、ポリプロピレン多孔質フィルムの表面の疎水性を向上させる。
【0031】
得られた製品フィルムは、多孔度が58.26%であり、平均孔径が0.1772μmであり、透気性が0.7019L・cm-2・cm-1であり、水接触角が140°であり、引張強度が35.23MPaであり、破断伸びが10.65%であった。これを3.5%NaCl水溶液の真空膜蒸留プロセスに適用したところ、フィード流量が30L・h-1であり、フィード温度が70℃である場合、膜通量が14.52kg・m-2・h-1であり、捕集率が99.99%であった。また、10時間稼働した後、膜透過量が23.69kg・m-2・h-1であり、捕集率が70%であった。
【0032】
実施例3
本実施例では、原子層堆積法により、実施例1で製造されたポリプロピレン多孔質フィルムの表面に二酸化チタン層を堆積し、表面に二酸化チタンのナノ粒子が堆積されたポリプロピレン多孔質フィルムの表面に、表面改質剤としてのビニルトリエトキシシランをスプレー塗布した。その後、500ジュールのキセノンランプで30分間照射し、続いて無水エタノールでリンスした後、80℃の真空オーブンに入れて乾燥し、超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル2を得た。
【0033】
ここで、ポリプロピレン多孔質フィルムの表面に二酸化チタン層を堆積する工程は以下の通りである。
(21)原子層堆積装置の反応室を真空吸引した後、ポリプロピレン多孔質フィルムを反応室に置いて且つ反応室の温度を100℃に加熱した。
(22)反応室へ、チタン含有前駆体の気体を400ミリ秒間導入してから、流速が50sccmである不活性ガスで一次パージを30秒間行った。
(23)さらに、反応室へ、酸素含有前駆体の気体を100ミリ秒間導入し、最後に、流速が50sccmである不活性ガスで二次パージを30秒間行い、1サイクルの二酸化チタン層の堆積を完成させた。
(24)上記工程(22)~(23)を繰り返し、二酸化チタン層をポリプロピレン多孔質フィルムの表面に200サイクル堆積した。
【0034】
なお、上記工程(22)及び(23)を1回実施することは、二酸化チタン層を1サイクル堆積することに相当する。
【0035】
また、工程(21)において、真空は0.5mbarであった。工程(22)において、チタン含有前駆体はチタンテトライソプロポキシドであった。工程(23)において、酸素含有前駆体はH2Oであった。工程(22)および工程(23)における不活性ガスは、N2であった。
【0036】
超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル2は、フィルムの多孔度が62.86%であり、平均孔径が0.2572μmであり、透気性が1.551L・cm-2・cm-1であり、水接触角が125.6°であり、引張強度が38.54MPaであり、破断伸びが13.37%であった。これを3.5%NaCl水溶液の真空膜蒸留プロセスに適用したところ、フィード流量が30L・h-1であり、フィード温度が70℃である場合、膜透過量が15.47kg・m-2・h-1であり、捕集率が99.99%であった。また、15時間稼働した後、膜通過量が27.36kg・m-2・h-1であり、捕集率が63.76%であった。
【0037】
実施例4
本実施例では、原子層堆積法により、実施例1で製造されたポリプロピレン多孔質フィルムの表面に二酸化チタン層を堆積し、表面に二酸化チタンのナノ粒子が堆積されたポリプロピレン多孔質フィルムの表面に、表面改質剤としての0.3%のナノシリコンのエマルジョンをスプレー塗布した。その後、500ジュールのキセノンランプで30分間照射し、続いて無水エタノールでリンスした後、80℃の真空オーブンに入れて乾燥し、超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル3を得た。
【0038】
なお、ポリプロピレン多孔質フィルムの表面に二酸化チタン層を堆積した方法は、実施例3と同様である。
【0039】
図2は、超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル3のフィルム断面のSEM写真を示す。改質前のポリプロピレン多孔質フィルムのフィルム断面のSEM写真(
図1)に対し、改質後のポリプロピレン多孔質フィルムの構造はほとんど変化せず、改質後の超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムのフィルム断面は、孔同士が連続した孔構造となっていることが分かる。
【0040】
超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル3は、多孔度が65.23%であり、平均孔径が0.2526μmであり、透気性が1.553L・cm-2・cm-1であり、水接触角が165°であり、傾斜角が1°であり、引張強度が41.07MPaであり、破断伸びが15.72%であった。これを3.5%NaCl水溶液の真空膜蒸留プロセスに適用したところ、フィード流量が18L・h-1であり、フィード温度が70℃である場合、膜透過量が17.81kg・m-2・h-1であり、捕集率が99.99%であった。また、80時間稼働した後、膜透過量が17.14kg・m-2・h-1であり、捕集率が99.99%であった。
【0041】
実施例1~実施例4における、ポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル1、超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル1、超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル2、および超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル3をそれぞれ比較した。超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル1は、未改質のポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル1よりも水接触角がやや大きいものの、その多孔度、平均孔径、透気率、引張強度、破断伸びのいずれもが、未改質のポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル1に劣ったことが分かった。他方、超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル2は、その多孔度、平均孔径、透気率、引張強度、破断伸びが、未改質のポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル1とはあまり差がないものの、その疎水性の向上効果は劣っており、膜の水接触角はほとんど変化していないことがわかった。同時に、超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル1及び超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル2は、両者に共通する問題、すなわち、超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムの寿命が劣っている問題があった。超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル2では、原子層堆積法によりポリプロピレン多孔質フィルムの表面に酸化チタン層を堆積したため、稼働中に二酸化チタン層が脱落しにくくなり、超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル1と比較して超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムの寿命がある程度向上できたものの、15時間稼働した後、超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムの透過量が著しく増え、超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル2の捕集性能が低下した。
【0042】
相対的に、実施例4における超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル3は、疎水性が良く、水接触角の向上を示している。しかも、フィルム材料の剛性および強度について著しい低下が見られず、すなわち、引張強度の変化が大きくないことを示している。改質後、フィルムの孔径および多孔度はほとんど変化せず、ポリプロピレンフィルムの水接触角が増加し、フィルムの分離性能が向上した。フィルムの疎水性においては、製造された改質超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムは、水接触角が150°より大きく、動的接触角が10°より小さいため、膜孔の濡れ状態が緩和され、フィルムの汚染が効果的に低減され、MDのために疎水性に優れた分離材料を提供することができる。同時に、80時間稼働した後でも膜透過量が17.14kg・m-2・h-1、捕集率が99.99%となるため、超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル3の使用寿命は長い。
【0043】
実施例5
本実施例は、超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル4の製造である。
【0044】
まず、以下の工程(11)~(14)を用いてポリプロピレン多孔質フィルムを製造した。
(11)質量分率でポリプロピレンを17%、希釈剤である大豆油を41.25%、希釈剤であるリン酸トリブチルを41.25%、添加剤であるアジピン酸を0.5%秤量した。
(12)工程(11)で称量した混合原料を反応器に入れ、窒素ガスを導入して保護し、180℃に加熱し、4時間機械撹拌した後、3時間低速撹拌して脱泡し、均一相のキャスト液を得た。
(13)(12)で得られたキャスト液をポリエステル不織布の表面にコーティングして、180℃のならし温度にて平らにならした後、30℃の水槽中で冷却固化した。
(14)n-ヘキサン、エタノールをそれぞれ用い、2時間毎に抽出剤を交換する方式にて、工程(13)で得られたフィルムを4時間超音波抽出した。抽出終了後、70℃の真空オーブンに入れて乾燥し、ポリプロピレン多孔質フィルムを得た。
【0045】
次に、原子層堆積法により、ポリプロピレン多孔質フィルムの表面に二酸化チタン層を堆積し、表面に二酸化チタンのナノ粒子が堆積されたポリプロピレン多孔質フィルムの表面に、表面改質剤としてのナノシリコンのエマルジョンをスプレー塗布した。その後、500ジュールのキセノンランプで30分間照射し、続いて無水エタノールでリンスした後、80℃の真空オーブンに入れて乾燥し、超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル4を得た。
【0046】
ここで、ポリプロピレン多孔質フィルムの表面に二酸化チタン層を堆積する工程は以下の通りである:
(21)原子層堆積装置の反応室を真空吸引した後、ポリプロピレン多孔質フィルムを反応室に置いて且つ反応室の温度を100℃に加熱した。
(22)反応室へ、チタン含有前駆体の気体を400ミリ秒間導入してから、流速が50sccmである不活性ガスで一次パージを30秒間行った。
(23)さらに、反応室へ酸素含有前駆体の気体を100ミリ秒間導入し、最後に、流速が50sccmである不活性ガスで二次パージを30秒間行い、1サイクルの二酸化チタン層の堆積を完成させた。
(24)上記工程(22)~(23)を繰り返し、二酸化チタン層をポリプロピレン多孔質フィルムの表面に200サイクル堆積した。
【0047】
なお、上記工程(22)及び(23)を1回実施することは、二酸化チタン層を1サイクル堆積することに相当する。
【0048】
また、工程(21)において、真空は0.5mbarであった。工程(22)において、チタン含有前駆体はチタンテトライソプロポキシドであった。工程(23)において、酸素含有前駆体はH2Oであった。工程(22)および工程(23)における不活性ガスは、ArまたはN2であった。
【0049】
超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル4は、多孔度が78.36%であり、平均孔径が0.3895μmであり、透気性が2.73L・cm-2・cm-1であり、水接触角が151°であり、傾斜角が8°であり、引張強度が30.76MPaであり、破断伸びが17.48%であった。これを3.5%NaCl水溶液の真空膜蒸留プロセスに適用したところ、フィード流量が18L・h-1であり、フィード温度が70℃である場合、膜透過量が21.05kg・m-2・h-1であり、捕集率が99.99%であった。また、40時間稼働した後、膜透過量が20.39kg・m-2・h-1であり、捕集率が99.99%であった。
【0050】
実施例6
本実施例は、超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル5の製造である。
【0051】
まず、以下の工程(11)~(14)を用いてポリプロピレン多孔質フィルムを製造した。
(11)質量分率でポリプロピレンを32.5%、希釈剤である大豆油を33.5%、希釈剤であるリン酸トリブチルを33.5%、添加剤であるアジピン酸を0.5%秤量した。
(12)工程(11)で称量した混合原料を反応器に入れ、窒素ガスを導入して保護し、180℃に加熱し、4時間機械撹拌した後、3時間低速撹拌して脱泡し、均一相のキャスト液を得た。
(13)(12)で得られたキャスト液をポリエステル不織布の表面にコーティングして、180℃のならし温度にて平らにならした後、30℃の水槽中で冷却固化した。
(14)n-ヘキサン、エタノールをそれぞれ用い、2時間毎に抽出剤を交換する方式にて、工程(13)で得られたフィルムを4時間超音波抽出した。抽出終了後、70℃の真空オーブンに入れて乾燥し、ポリプロピレン多孔質フィルムを得た。
【0052】
次に、原子層堆積法により、ポリプロピレン多孔質フィルムの表面に二酸化チタン層を堆積し、表面に二酸化チタンのナノ粒子が堆積されたポリプロピレン多孔質フィルムの表面に、表面改質剤としてのナノシリコンのエマルジョンをスプレー塗布した。その後、500ジュールのキセノンランプで30分間照射し、続いて無水エタノールでリンスした後、80℃の真空オーブンに入れて乾燥し、超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル5を得た。
【0053】
ここで、ポリプロピレン多孔質フィルムの表面に二酸化チタン層を堆積する工程は以下の通りである:
(21)原子層堆積装置の反応室を真空吸引した後、ポリプロピレン多孔質フィルムを反応室に置いて且つ反応室の温度を100℃に加熱した。
(22)反応室へ、チタン含有前駆体の気体を400ミリ秒間導入してから、流速が50sccmである不活性ガスで一次パージを30秒間行った。
(23)さらに、反応室へ酸素含有前駆体の気体を100ミリ秒間導入し、最後に、流速が50sccmである不活性ガスで二次パージを30秒間行い、1サイクルの二酸化チタン層の堆積を完成させた。
(24)上記工程(22)~(23)を繰り返し、二酸化チタン層をポリプロピレン多孔質フィルムの表面に200サイクル堆積した。
【0054】
なお、上記工程(22)及び(23)を1回実施することは、二酸化チタン層を1サイクル堆積することに相当する。
【0055】
また、工程(21)において、真空は4mbarであった。工程(22)において、チタン含有前駆体はチタンテトライソプロポキシドであった。工程(23)において、酸素含有前駆体はH2Oであった。工程(22)および工程(23)における不活性ガスは、ArまたはN2であった。
【0056】
超疎水性ポリプロピレン多孔質フィルムのサンプル5は、多孔度が54.53%であり、平均孔径が0.1124μmであり、透気性が0.45L・cm-2・cm-1であり、水接触角が162°であり、傾斜角が5°であり、引張強度が47.57MPaであり、破断伸びが26.73%であった。これを3.5%NaCl水溶液の真空膜蒸留プロセスに適用したところ、フィード流量が18L・h-1であり、フィード温度が70℃である場合、膜透過量が9.78kg・m-2・h-1であり、捕集率が99.99%であった。また、80時間稼働した後、膜透過量が8.74kg・m-2・h-1であり、捕集率が99.99%であった。