(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】シリコーンゴム成形体
(51)【国際特許分類】
C08J 7/04 20200101AFI20221109BHJP
【FI】
C08J7/04 J CFH
(21)【出願番号】P 2022097235
(22)【出願日】2022-06-16
(62)【分割の表示】P 2022520822の分割
【原出願日】2022-01-13
【審査請求日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2021/039489
(32)【優先日】2021-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021015867
(32)【優先日】2021-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021044618
(32)【優先日】2021-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000237422
【氏名又は名称】富士高分子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】松村 知樹
(72)【発明者】
【氏名】川▲浜▼ 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】岩井 亮
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-043198(JP,A)
【文献】特開平10-175264(JP,A)
【文献】特開2005-008792(JP,A)
【文献】特開2014-125598(JP,A)
【文献】特開平07-149448(JP,A)
【文献】特公昭45-011440(JP,B1)
【文献】特開昭62-011738(JP,A)
【文献】特開2001-056618(JP,A)
【文献】国際公開第2017/033960(WO,A1)
【文献】特開平10-142987(JP,A)
【文献】米国特許第05336442(US,A)
【文献】国際公開第2020/096699(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B32B 1/00 - 43/00
C08J 7/00 - 7/06
C09D 1/00 - 10/00
C09D 101/00 - 201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンゴム成形体表面のいずれかの部分には導電性インク塗布層があるシリコーンゴム成形体であって、
前記シリコーンゴム成形体は、ミラブル型シリコーンゴム成形体及び付加硬化型のシリコーンゴム成形体から選ばれる少なくとも一つの成形体であり、直鎖状ジアルキルポリシロキサンジオールは含まず、
前記導電性インク塗布層は加水分解性有機ケイ素化合物を含み、
前記シリコーンゴム成形体の飽和吸水率は0.10~1.50質量%であり、
前記導電性インク塗布層表面をJIS L1096 8.19.3 C法(テーパー形法)を用いて、摩耗試験を行ったときのインク残存面積が平均20%以上100%以下であることを特徴とするシリコーンゴム成形体。
【請求項2】
シリコーンゴム成形体表面のいずれかの部分には導電性インク塗布層があるシリコーンゴム成形体であって、
前記シリコーンゴム成形体は、ミラブル型シリコーンゴム成形体及び付加硬化型のシリコーンゴム成形体から選ばれる少なくとも一つの成形体であり、直鎖状ジアルキルポリシロキサンジオールは含まず、
前記導電性インク塗布層は加水分解性有機ケイ素化合物を含み、
前記シリコーンゴム成形体表面は前記加水分解性有機ケイ素化合物に対して0.1~3.5モル%の水を含む導電性インク塗布層が硬化されており、水を添加しない導電性インク塗料の加水分解性有機ケイ素化合物のモノマー残存率を100%としたとき、前記導電性インク塗布層に含まれる加水分解性有機ケイ素化合物のモノマー残存率は45~95%であり、
前記導電性インク塗布層表面をJIS L1096 8.19.3 C法(テーパー形法)を用いて、摩耗試験を行ったときのインク残存面積が平均20%以上100%以下であることを特徴とするシリコーンゴム成形体。
【請求項3】
前記加水分解性有機ケイ素化合物は、メチルシリケート、エチルシリケート、プロピルシリケート、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、メチルトリス(メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン、メチルトリプロペノキシシラン、ビニルトリプロペノキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、メチルトリス(アセトキシム)シラン、ビニルトリス(アセトキシム)シラン、メチルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、及びビニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シランなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項1
又は2に記載のシリコーンゴム成形体。
【請求項4】
前記加水分解性有機ケイ素化合物は、インク100質量%としたとき5~30質量%添加されている請求項1
~3のいずれか1項に記載のシリコーンゴム成形体。
【請求項5】
前記シリコーンゴム成形体は表面粘着性があり、前記表面粘着性が、JIS Z 0237に準拠した測定において、粘着力が1.5~3.0gf・sである請求項1~
4のいずれか1項に記載のシリコーンゴム成形体。
【請求項6】
前記導電性インク塗布層の接触抵抗値が300Ω以下である請求項1~
5のいずれか1項に記載のシリコーンゴム成形体。
【請求項7】
前記シリコーンゴム成形体は有機過酸化物で硬化されている請求項1~
6のいずれか1項に記載のシリコーンゴム成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング機能素子、フレキシブル電気回路、電気接点などに使用する導電性インク塗料を表面に塗布硬化させたシリコーンゴム成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、硬化性ポリオルガノシロキサンをベースポリマーとし、溶剤により希釈した液状シリコーン組成物は、その耐熱性、耐候性などの優れた性質を利用して、塗装、マーキングなどの各種用途に広く用いられている。特に、導電性カーボンブラックの配合により導電性が付与された導電性液状シリコーン組成物は、その特性を利用してスイッチング機能素子やフレキシブル電気回路などに用いられている。
特許文献1には、末端に反応性基に結合するアルケニル基を含有するポリオルガノシロキサン重量部に、カーボンブラックを配合し、均一に混練してベースコンパウンドを調製し、これに溶剤を加えて導電性インクとすることが提案されている。特許文献2には、シリコーンゴムなどの電気的絶縁シートの表面に導電インクを使用して電気回路を形成することが提案されている。特許文献3には、シリコーンゴムを用いた静電容量型タッチスイッチにおいて、を用いた印刷体とする。静電容量型タッチスイッチは、また、導電部材の少なくとも有孔部を、導電インクを用いた印刷体とする。導電インクを用いた印刷体とすることが提案されている。特許文献4には、コロイド状シリカと特定のケイ素化合物との加水分解縮合物と、直鎖状ジアルキルポリシロキサンジオールを含む硬化被膜で被覆された加熱定着ロールが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-075970号公報
【文献】特開2012-084294号公報
【文献】特開2016-100092号公報
【文献】特開平10-142987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のシリコーンゴム成形体は、シリコーンゴムと導電性インクとの親和性が低く、連続応力付加に対する耐久性が低いという問題があった。例えば特許文献4は直鎖状ジアルキルポリシロキサンジオールを含むことにより、離型性を付与しているが、これでは耐久性及び長期使用安定性が低いという問題があった。
【0005】
本発明は前記従来の問題を解決するため、連続応力付加に対する耐久性を向上させ、長期使用安定性を有するシリコーンゴム成形体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1番目のシリコーンゴム成形体は、シリコーンゴム成形体表面のいずれかの部分には導電性インク塗布層があるシリコーンゴム成形体であって、前記シリコーンゴム成形体は、ミラブル型シリコーンゴム成形体及び付加硬化型のシリコーンゴム成形体から選ばれる少なくとも一つの成形体であり、直鎖状ジアルキルポリシロキサンジオールは含まず、前記導電性インク塗布層は加水分解性有機ケイ素化合物を含み、前記シリコーンゴム成形体の飽和吸水率は0.10~1.50質量%であり、前記導電性インク塗布層表面をJIS L1096 8.19.3 C法(テーパー形法)を用いて、摩耗試験を行ったときのインク残存面積が平均20%以上100%以下である。
本発明の第2番目のシリコーンゴム成形体は、シリコーンゴム成形体表面のいずれかの部分には導電性インク塗布層があるシリコーンゴム成形体であって、前記シリコーンゴム成形体は、ミラブル型シリコーンゴム成形体及び付加硬化型のシリコーンゴム成形体から選ばれる少なくとも一つの成形体であり、直鎖状ジアルキルポリシロキサンジオールは含まず、前記導電性インク塗布層は加水分解性有機ケイ素化合物を含み、前記シリコーンゴム成形体表面は前記加水分解性有機ケイ素化合物に対して0.1~3.5モル%の水を含む導電性インク塗布層が硬化されており、水を添加しない導電性インク塗料の加水分解性有機ケイ素化合物のモノマー残存率を100%としたとき、前記導電性インク塗布層に含まれる加水分解性有機ケイ素化合物のモノマー残存率は45~95%であり、前記導電性インク塗布層表面をJIS L1096 8.19.3 C法(テーパー形法)を用いて、摩耗試験を行ったときのインク残存面積が平均20%以上100%以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のシリコーンゴム成形体は、シリコーンゴム成形体表面のいずれかの部分には導電性インク塗布層があり、シリコーンゴム成形体表面と導電性インク塗布層との親和性を高め、導電性インク塗布層表面の摩耗試験を行ったときのインク残存面積が平均20%以上100%以下とすることにより、連続応力付加に対する耐久性を向上させ、長期使用安定性を有するシリコーンゴム成形体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1Aは本発明の一実施例におけるインク残存面積を測定するための摩耗試験におけるシリコーンゴム成形体の模式的平面図、
図1Bは同、摩耗試験装置の模式的斜視図である。
【
図2】
図2は本発明の一実施例の導電性インク塗布層の接触抵抗値の測定で使用する櫛型電極の模式的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、シリコーンゴム成形体表面のいずれかの部分には導電性インク塗布層があるシリコーンゴム成形体であって、前記シリコーンゴム成形体は、ミラブル型シリコーンゴム成形体及び付加硬化型のシリコーンゴム成形体から選ばれる少なくとも一つの成形体であり、直鎖状ジアルキルポリシロキサンジオールは含まない。直鎖状ジアルキルポリシロキサンジオールを含むと、離型性が高くなり、導電性インクとの親和性が低くなる。また、導電性インク塗布層は加水分解性有機ケイ素化合物を含むのが好ましい。
【0010】
本発明において、シリコーンゴムと導電性インクとの親和性を高くするには、シリコーンゴム成形体の飽和吸水率を0.10~1.50質量%とすること及び/又は導電性インク塗料に水を添加するのが好ましい。シリコーンゴム成形体の飽和吸水率は、好ましくは0.15~1.40質量%である。シリコーンゴム成形体の飽和吸水率を前記のようにするには、市販のシリコーンゴム材料を使用する。例えばダウ・東レ社製、ミラブル型シリコーンゴム原料の”RBB6650-50BASE”,”RBB2004-50BASE”,”RBB2070-50BASE”,”SE1185U”などがある。
【0011】
導電性インク塗料に添加する水は、前記インク塗料に含まれる有機ケイ素化合物に対して0.1~3.5モル%が好ましく、より好ましくは0.3~3.3モル%であり、さらに好ましくは0.6~3.1モル%である。これにより、導電性インク塗布層表面の摩耗試験を行ったときのインク残存面積が平均20%以上100%以下、好ましくは平均25%以上95%以下、さらに好ましくは平均25%以上90%以下となり、連続応力付加に対する耐久性を向上できる。インク残存面積はJIS L1096 8.19.3 C法(テーパー形法)を用いて測定する。
【0012】
導電性インク塗料に水を添加する場合は、水を添加しない導電性インク塗料の加水分解性有機ケイ素化合物のモノマー残存率を100%としたとき、前記導電性インク塗料に添加されている水により、前記導電性インク塗布層に含まれる加水分解性有機ケイ素化合物のモノマー残存率は、45~95%とするのが好ましく、より好ましくは50~90%とする。インク中の有機ケイ素化合物の加水分解率は、29Si-NMRによる有機ケイ素モノマーのピーク強度からH2O添加無しサンプルを100%として相対強度から求める。
【0013】
前記シリコーンゴム成形体の表面粘着性は、JIS Z 0237に準拠した測定において、押し付け速度:2mm/s、押し付け荷重:100gf、押し付け保持時間:5s、引き上げ速度:2mm/s、プローブ直径:5mmの条件で測定した粘着力が1.5~3.0gf・sであるのが好ましく、より好ましくは1.6~2.5gf・sである。これにより、連続応力付加に対する耐久性をより向上させ、長期使用安定性を発揮できる。
【0014】
本発明のシリコーンゴム成形体は、有機過酸化物で硬化されたミラブル型シリコーンゴム成形体及び付加硬化型のシリコーンゴム成形体から選ばれる少なくとも一つの成形体である。ミラブル型シリコーンゴム材料は、下記の組成が好ましい。
(A)R1
aSiO(4-a)/2
(式中、R1は同一又は異種の非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、aは1.95~2.05の正数である。)
で表されるオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)BET吸着法による比表面積が50m2/g以上の補強性シリカ等の充填材:5~100質量部、
(C)有機過酸化物:有効量
有機過酸化物は、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、p-メチルベンゾイルパーオキサイド、o-メチルベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーベンゾエート、1,6-ヘキサンジオール-ビス-t-ブチルパーオキシカーボネート等が挙げられる。有機過酸化物の添加量は、ミラブル型シリコーンゴム成分100質量部に対して0.1~15質量部、特に0.2~10質量部が好ましい。添加量が少なすぎると架橋反応が十分に進行せず、硬度低下やゴム強度不足、圧縮永久歪増大等の物性悪化を生じる場合があり、多すぎると硬化剤の分解物が多く発生して、圧縮永久歪増大等の物性悪化や得られたシートの変色を増大させる場合がある。ミラブル型シリコーンゴム材料は市販品を使用できる。
【0015】
ミラブル型シリコーンゴムは、付加反応型や縮合型のシリコーンゴムに比較して、ゴム強度や伸縮耐久性、耐熱性、耐候性などに優れる特徴を生かして、ゴム成形体として広く使用されてきた。特に、その表面に導電性フィラーを配合した塗料を塗布して硬化させた導電性シリコーンゴム成形体は、スイッチング素子や電気回路などに用いられている。従来の導電性フィラー含有塗料インクを用いたシリコーンゴム成形体では、しばしばその導電性インクの密着耐久性が劣ることが問題になっているが、本発明はこうした点を改良するために、導電性フィラー含有インクとシリコーンゴムの密着耐久性が、シリコーンゴムの吸水率、導電性フィラー含有インクの有機ケイ素化合物のモノマー残存率、そしてシリコーンゴムの粘着特性との間に関連があることを見出したものである。加えて、本発明は付加反応型の液状シリコーンゴムにも有効である。
【0016】
ミラブル型シリコーンゴム組成物には、乾式あるいは湿式シリカ、表面処理された乾式あるいは湿式シリカ、タルク、クレイ、マイカ、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、ガラス繊維などの充填剤、酸化セリウム、水酸化セリウム、セリウムオクトエートなどのセリウム化合物、三二酸化鉄、鉄オクトエートなどの鉄酸化物、二酸化チタン等の耐熱向上剤、アゾ化合物、四三酸化鉄、白金化合物等の難燃助剤などを添加しても良い。またこのシリコーンゴム組成物は、ニーダー、二本ロール、等のゴム配合機器を用いて混練りした後に、加圧成形、押出成形、射出成形、カレンダー成形等の通常の方法によって成形加工して硬化して得ることができる。
【0017】
付加硬化型のシリコーンゴム成形体の原料である液状シリコーンゴム材料は市販品を使用できる。以下、付加硬化型の液状シリコーンゴム材料は下記の組成が好ましい。
(A)ベースポリマー成分:1分子中にアルケニル基が結合したケイ素原子を平均1個以上含有するオルガノポリシロキサン
(B)架橋成分:1分子中に水素原子が結合したケイ素原子を平均1個以上含有するオルガノポリシロキサンが、前記A成分中のケイ素原子結合アルケニル基1モルに対して、0.01~3モル
(C)触媒成分:白金族系金属触媒であり、A成分に対して金属原子重量単位で0.01~1000ppmの量
(D)BET吸着法による比表面積が50m2/g以上の補強性シリカ等の充填材:ベースポリマー成分100質量部に対して5~100質量部、
市販品はA液とB液に分けられており、A液はベースポリマー成分と触媒成分、B液はベースポリマー成分と架橋成分が含まれている。使用前にA液とB液、必要に応じてその他の成分を加えて混合し、成形後硬化させる。
【0018】
本発明の組成物には、必要に応じて前記以外の成分を配合することができる。例えばベンガラ、酸化チタン、酸化セリウムなどの耐熱向上剤、難燃助剤、硬化遅延剤などを添加してもよい。着色、調色の目的で有機或いは無機粒子顔料を添加しても良い。フィラー表面処理などの目的で添加する材料として、アルコキシ基含有シリコーンを添加しても良い。また、付加硬化反応基を持たないオルガノポリシロキサンを添加しても良い。25℃での粘度が10~100,000mPa・s、特に100~10,000mPa・sであることが作業性から望ましい。
【0019】
前記導電性インク塗布層の接触抵抗値は300Ω以下であり、より好ましくは10~200Ωであり、さらに好ましくは10~100Ωである。これにより、好ましい電気的導通を確保できる。導電性インクには導電性フィラーとして、カーボン系であれば、カーボンブラック、黒鉛、グラフェン、カーボンナノチューブ、炭素繊維など、金属系では銀、銅、アルミ、ニッケル、錫、銀メッキ銅粉など、金属酸化物系では、酸化錫、酸化インジウム、酸化亜鉛、チタン酸カリウムの粉末など、金属・金属酸化物被覆系では、ガラスビーズやマイカ粉に表面メッキ、ガラスファイバーや炭素繊維にメッキなどをしたものがある。
【0020】
前記導電性インクは導電性フィラーおよび加水分解性有機ケイ素化合物を含む。導電性フィラーとしてはカーボンブラックなどをインク100質量%にとしたとき5~30質量%添加するのが好ましい。加水分解性有機ケイ素化合物はメチルシリケート、エチルシリケート、プロピルシリケート、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、メチルトリス(メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン、メチルトリプロペノキシシラン、ビニルトリプロペノキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、メチルトリス(アセトキシム)シラン、ビニルトリス(アセトキシム)シラン、メチルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、及びビニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シランなどをインク100質量%としたとき5~30質量%添加するのが好ましい。溶剤としては、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、ノナン、ナフサ、ミネラルスピリット、石油ベンジンなどの炭化水素溶剤が挙げられる。これらの溶剤は単独で使用してもあるいは2種以上を混合して使用してもよい。導電性インクは市販品を使用できる。本発明においては、酸性コロイダルシリカは含ない。酸性コロイダルシリカを含むと電気伝導度が下がるため、好ましくない。
【0021】
以下図面を用いて説明する。以下の図面において、同一符号は同一物を示す。
図1Aは本発明の一実施例におけるインク残存面積を測定するための摩耗試験におけるシリコーンゴム成形体1の模式的平面図、
図1Bは同、摩耗試験装置5の模式的斜視図である。この摩擦試験はJIS L1096に準拠し、テーバ型摩耗試験機を使用してインク残存面積を測定する。シリコーンゴム成形体1は、直径L4が120mm、厚さ2mmのシート2とし、この表面に導電性インクを塗布し加熱硬化する。硬化後の導電性インクの塗布部分3は、
図1Aに示すように幅L1=4mm、長さL2=15mmであり、環状に形成する。
【0022】
摩耗試験装置5は、回転台6の上にシリコーンゴム成形体1を置き、矢印のように回転させる(回転台6の回転数70rpm)。シリコーンゴム成形体1の上には摩擦輪7a,7bが配置され、矢印のように互いに反対方向に回転させる。摩擦輪7a,7bの荷重は合計で250gf、回転数は70rpmである。摩耗粉は吸引しながら回転を続ける。摩耗輪の接触部分4は環状であり、その外直径L5は約88mm、幅L3は約10mmである。
【実施例】
【0023】
以下実施例について説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定して解釈されない。
<インク残存面積>
JIS L1096に準拠し、東洋精機社製、テーバ型摩耗試験機を使用してインク残存面積を測定した。
シリコーンゴム:2mm厚シートを使用した。
導電性インク:前記
図1A-Bの説明のとおり、幅L1=4mm、長さL2=15mm、環状に形成し、200℃、30分間加熱硬化した。
試験条件:250gf、70rpm、摩耗輪(紙やすり#320)、300回回転させ、インク塗布面の残存率を白色、黒色の2値化して面積%を求めた。試験数は3回とし、平均値を求めた。
<飽和吸水率>
タテ50mm,ヨコ50mm,高さ2mmのシリコーンゴムサンプルを温度30℃、相対湿度60%RHの条件で保管し、24時間、96時間経過後取り出し、温度25℃、相対湿度25%RHの条件で重量を測定した。24時間および96時間経過後の重量変化の差が0.01%以下であったため、96時間経過後の重量上昇率を飽和吸水率とした。
<粘着力>
シリコーンゴムサンプルをタッキング試験機TAC1000(JIS Z 0237準拠):レスカ(株)製(押し付け速度:2mm/s、押し付け荷重:100gf、押し付け保持時間:5s、引き上げ速度:2mm/s、プローブ直径:5mm、測定温度:室温、n=3)で測定した。
なお、成形体の粘着力はインク塗布を行う前のシリコーンゴムサンプルについて測定した。
<インクに対する水の添加量>
インクにイオン交換水を規定量添加し室温で混合し、24時間後にNMR測定およびインク塗布を行った。イオン交換水の添加量は有機ケイ素化合物の分子量と濃度から含有モル数を計算し、その0.75倍モル、1.50倍モル、2.25倍モル、3.0倍モルを添加した。
<インク中の有機ケイ素化合物の加水分解後のモノマー残存率>
加水分解率は、
29Si-NMRによる有機ケイ素モノマーのピーク強度からH
2O添加無しサンプルを100%として相対強度から求めた。表1では「インクモノマー残存率」として表示する。
<導電性インク塗布層の接触抵抗値>
櫛型電極8は
図2(Aは拡大図)に示すとおりであり、線幅0.25mm、電極間ピッチ0.5mm、電極厚さ18μm、である。接触抵抗測定部分9のサイズはタテが10mm、ヨコ2.5mmである。クリップ型リードをクリップ型リード固定部電極10に固定し、直流4端子法抵抗測定器(ミリオームハイテスター3540、レンジ300Ω、測定電流1mA、日置電機株式会社製)を用いて、インク塗布層が接触抵抗測定部分9の櫛型部分に接触するようにサンプルを100Nの荷重をかけた状態で保持し、60秒後の電気抵抗を測定した。
図2内の数値は寸法(単位:mm)である。
【0024】
(実施例1-11(実施例5は参考例)、比較例1-2)
[シリコーンゴム作成方法]
市販のシリコーンベースポリマー300gに加硫剤(過酸化物シリコーンマスターバッチ、RC4-50P(ダウ・東レ製、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、50%シリコーンオイル))2.1gを加え、2本ロールで混錬した。次に、プレスにて170℃、10分間1次加硫した。次に、熱風循環オーブンで200℃、4時間2次加硫した。
各シリコーンベースポリマーは次のとおりである。
RBB6650-50BASE:ダウ・東レ社製、ミラブル型シリコーンゴム原料
RBB2004-50BASE:ダウ・東レ社製、ミラブル型シリコーンゴム原料
RBB2070-50BASE:ダウ・東レ社製、ミラブル型シリコーンゴム原料
SE1185U: ダウ・東レ社製、ミラブル型シリコーンゴム原料
[導電インク塗布]
市販の導電インク(PRK-3C:ダウ東レ製)40gに溶剤(炭化水素系溶剤:ソルベントS)310mLを添加した。実施例6~9、11、比較例4、5は表1に示す量のイオン交換水を添加した。このインクを
図1に示すように、長さ15mm、幅2mm、乾燥後のインクの塗布量が0.1gになるように、シリコーンゴム表面に塗布した。熱風循環オーブンで200℃、30分間乾燥かつ焼き付けた。
条件および結果を表1にまとめて示す。
【0025】
【0026】
表1から次のことが分かる。
(1)実施例1~4、10はシリコーンゴムの飽和吸水率が比較例1~2に比べて高く、シリコーンゴムと導電性インクとの親和性を良くし、インクの粘着力及びインク残存面積を大きくできた。
(2)実施例6~9は、シリコーンゴムの飽和水分率が0.10~1.50の範囲外でも、導電性インクに所定量の水を添加し、インク中の有機ケイ素化合物の加水分解後のモノマー残存率を52~87%としたことにより、シリコーンゴムと導電性インクとの親和性を良くし、インクの粘着力及びインク残存面積を大きくでき、耐摩耗性を向上できた。
(3)実施例11はシリコーンゴムの飽和吸水率を高くし、かつインク中の有機ケイ素化合物の加水分解後のモノマー残存率を87%としたことにより、シリコーンゴムと導電性インクとの親和性を良くし、インクの粘着力及びインク残存面積を大きくできた。
(4)本発明では、インクに含まれる加水分解性有機ケイ素化合物の含有量が重要であり、その他の成分は任意である。そこで表1には29Si-NMRによるインク中のモノマー残存率(加水分解前後の有機ケイ素化合物の含有量変化の分析結果)を示した。前記導電性インク塗布層に含まれる加水分解性有機ケイ素化合物のモノマー残存率が50%以上であると、導電性フィラー含有インクとシリコーンゴムの密着耐久性が良いことが分かる。
【0027】
(実施例12-14、比較例3)
[シリコーンゴム作成方法]
市販の付加硬化型の液状シリコーンポリマーRBL9200-50AおよびRBL9200-50B(ダウ・東レ社製、液状シリコーンゴム原料、A液はベースポリマー成分と触媒成分、B液はベースポリマー成分と架橋成分が含まれている。)を各50gずつ秤量して混合した。真空脱泡を行ったのち、プレスにて150℃、10分間1次加硫した。
[導電インク塗布]
市販の導電インク(PRK-3C:ダウ東レ製)40gに溶剤(炭化水素系溶剤:ソルベントS)310mLを添加し、表2に示す量のイオン交換水を添加した。このインクを
図1に示すように、長さ15mm、幅2mm、乾燥後のインクの塗布量が0.1gになるように、シリコーンゴム表面に塗布した。次に熱風循環オーブンで200℃、2時間、2次加硫を行うとともにインクの乾燥、焼き付けを行った。
条件および結果を別紙表2にまとめて示す。
【0028】
【0029】
表2から次のことが分かる。
(1)実施例12~14は導電性インクに所定量の水を添加し、インク中の有機ケイ素化合物の加水分解後のモノマー残存率を52~76%としたことにより、シリコーンゴムと導電性インクとの親和性を良くし、インク残存面積を大きくできた。
(2)比較例3は導電性インクに所定量の水を添加せず、インク中の有機ケイ素化合物のモノマー残存率が100%であることにより、シリコーンゴムと導電性インクとの親和性が落ち、インク残存面積が低くなった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のシリコーンゴム成形体は、スイッチング機能素子、フレキシブル電気回路、電気接点などに好適である。
【符号の説明】
【0031】
1 シリコーンゴム成形体
2 シート
3 導電性インク塗布部分
4 摩耗輪の接触部分
5 摩耗試験装置
6 回転台
7a,7b 摩擦輪
8 櫛型電極
9 接触抵抗測定部分
10 クリップ型リード固定部電極