(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】空調給気も可能な空気中二酸化炭素をガス源とするドライアイス製造システム
(51)【国際特許分類】
C01B 32/55 20170101AFI20221110BHJP
B01D 53/06 20060101ALI20221110BHJP
F24F 8/15 20210101ALI20221110BHJP
【FI】
C01B32/55
B01D53/06 100
F24F8/15
(21)【出願番号】P 2022084014
(22)【出願日】2022-05-23
【審査請求日】2022-06-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】721012612
【氏名又は名称】岡野 浩志
(72)【発明者】
【氏名】岡野浩志
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/059197(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/044944(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/187582(WO,A1)
【文献】特表2019-509891(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00
B01D 53/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
システム中の二酸化炭素ガスを圧縮、冷却、液化する装置の排熱を回収して蒸気を発生させる蒸気発生ヒートポンプ装置と、空気中の二酸化炭素ガスを分離濃縮して前記蒸気を導入して飽和蒸気の凝縮熱で脱着回収する二酸化炭素ガス分離濃縮装置と、分離濃縮装置で回収された飽和蒸気と二酸化炭素ガスの混合ガスを冷却除湿する装置と、冷却除湿した二酸化炭素ガスを液化するために圧縮する一段以上の圧縮装置と、圧縮された二酸化炭素ガスを除湿する吸着式除湿装置と、除湿された二酸化炭素ガスを液化温度まで冷却するガス液化装置と冷凍機と、液化した二酸化炭素ガスを導入して液化した二酸化炭素を貯留し、液化しなかったガスを抜く液化二酸化炭素精製タンクと、液化二酸化炭素精製タンクから液化二酸化炭素を送り大気圧下に放出してその気化潜熱で炭酸ガスが冷却凝華されてドライアイスを生成するドライアイス製造装置と、ドライアイス生成時の未凝華ガスを前記圧縮装置に戻して回収するドライアイス製造システムにおいて、二酸化炭素ガス分離濃縮装置が、二酸化炭素ガスの収着能力を有するロータを、少なくとも回転方向の順に、処理ゾーンと、パージゾーンと脱着ゾーンとを有する夫々シールされたケーシング内に収納回転させ、処理ゾーンにてロータの湿った状態で空気を導入して気化冷却しながら二酸化炭素ガスを吸着させ、パージゾーンでは前記液化二酸化炭素精製タンクから抜いた未液化ガスを導入させてロータ空隙に含まれる空気をパージ排気し、脱着ゾーンでは蒸気発生ヒートポンプ装置で発生させた100℃前後の飽和蒸気を導入し、蒸気の凝縮熱により二酸化炭素ガスを脱着させて濃縮回収する湿式TSA二酸化炭素ガス分離濃縮装置である、空調給気も可能な空気中二酸化炭素をガス源とする、ドライアイス製造システム。
【請求項2】
湿式TSA二酸化炭素ガス分離濃縮装置が二酸化炭素ガスの吸着能力を有するロータを回転方向の順に、処理ゾーンと、パージゾーンと、一段以上の複数の回収ゾーンと、脱着ゾーンを有する夫々シールされたケーシング内に収納回転させる湿式TSA二酸化炭素ガス分離濃縮装置であって、処理ゾーンはロータの湿った状態で空気を導入して気化冷却しながら二酸化炭素ガスを収着し、パージゾーンは液化二酸化炭素精製タンクからの未液化ガスを導入してロータ空隙に含まれる空気を排気し、脱着ゾーンは100℃前後の飽和蒸気を導入して蒸気の凝縮熱により高濃度の二酸化炭素ガスを脱着させて、回収ゾーンは前記脱着ガスを回転方向前段側に向けて一段以上の回収ゾーンを順次通過させて回収する湿式TSA二酸化炭素ガス分離濃縮装置である請求項1に記載の、空調給気も可能な空気中二酸化炭素をガス源とするドライアイス製造システム。
【請求項3】
湿式TSA二酸化炭素ガス分離濃縮装置の処理ゾーンを通過した空気を冷却コイルで冷却除湿して空調給気として利用し、冷却コイルのドレイン水を回収して飽和蒸気発生装置の給水として利用する請求項1に記載の、空調給気も可能な空気中二酸化炭素をガス源とするドライアイス製造システム。
【請求項4】
吸着式除湿装置が、処理ゾーンと再生ゾーンを有するハニカムロータ除湿機の再生ゾーンに、ガス圧縮装置からの圧縮高温ガスを導入してロータの吸着水を脱着し、その出口ガスを冷却コイルに通して冷却・除湿して、前記処理ゾーンに導入して吸着除湿する除湿装置である、請求項1に記載の空調給気も可能な空気中二酸化炭素をガス源とするドライアイス製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調給気も可能な、空気中の二酸化炭素を原料とする、省エネルギー二酸化炭素ガス分離・回収・濃縮・圧縮・冷却・除湿・液化・ドライアイス製造システム及び湿式TSA方式二酸化炭素分離濃縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策として、産業や自動車及び家庭から排出される二酸化炭素ガスをできるだけ削減しようとする取り組みが世界レベルで行われている。例えばエネルギー多消費機器を省エネルギー型に代替するという取り組みや、化石由来ではなく太陽光や風力等再生可能エネルギーに代替する取り組みがある。また発生せざるを得ない二酸化炭素ガスを回収して、地中や深海に貯留するCCS(二酸化炭素回収貯留)技術、あるいはCO2-EOR(原油増進回収法)に利用する技術、また二酸化炭素をコンクリートや岩石に化合吸収させて固定化する技術等の研究開発がされている。これまで二酸化炭素ガスを効率よく回収濃縮する技術として、特許文献1のように出来るだけ高濃度ガスの発生源で、しかも回収濃縮のために利用可能な排熱の発生源、例えば発電所やごみ焼却施設が適していると考えられて来た。また特許文献2では回収した濃縮ガスの液化効率を改善するために、二酸化炭素ガス除湿装置の再生熱源に圧縮装置の圧縮熱を除湿装置の再生に用いて省エネ性を高める装置が開示されている。
【0003】
回収した二酸化炭素を資源に利用するCCU(二酸化炭素回収利用)技術として、尿素原料やポリカーボネート樹脂等の原料に再利用する方法等が実用化されているが、二酸化炭素排出量全体からすればほんの僅かである。近年、回収した二酸化炭素ガスを液体燃料やガス燃料に転換する再生可能型燃料も各国各機関にて研究開発が進められている。
【0004】
さらに特に海外にて大気中の二酸化炭素ガスを直接分離回収するDAC技術(DirectAir Caputure)として特許文献3、特許文献4の開発や実証試験も行われている。DACの長所は(1)自動車や航空機等、分散してかつ移動する排出源を対象にすることができる。(2)過去に排出した二酸化炭素ガスも対象にすることができる。(3)回収装置の設置場所が排出源に制約されず再利用する工場近傍で二酸化炭素原料を得ることができる。等の特徴から欧州や米国にて大規模な実証試験が行われている例が有る。
【0005】
二酸化炭素排出量削減には、回収・濃縮・液化に要するエネルギー由来の二酸化炭素排出量にも注目する必要がある。そのため特許文献3ではコジェネ排熱や様々な再生可能エネルギーの利用可能性から、地熱や原子力発電所の排熱まであらゆる利用可能エネルギーが開示されている。
【0006】
特許文献4にはヒートポンプを利用して二酸化炭素吸着構造体に蒸気を投入して脱着し、吸着構造体下流に設置した蒸発コイルで脱着ガスの熱回収と凝縮水を回収し、吸着構造体の上流側に設置された凝縮コイルで、脱着用の蒸気を発生させる熱源として利用する方法が開示されている。また吸着構造体から脱着された高湿度二酸化炭素ガスを再圧縮昇温してケトル型リボイラーに投入し、熱交換により脱着用の蒸気発生と同時に脱着ガスの凝縮水を回収する方法が開示されている。最近実用化されている技術としては、排温水から熱を回収して、蒸気を発生させるヒートポンプが特許文献6に開示されている。
【0007】
二酸化炭素ガスは溶接用、医療用、食品保管用その他一定の需要が有り、その原料ガスは石油化学プラントやアンモニア合成プラント等の副生物として回収利用されている。
日本国内では、製品二酸化炭素ガスは2021年一年間で110万トンが販売され、用途のトップは溶接用の33%で、第二位はドライアイス用の32%であるとされている。
【0008】
液化二酸化炭素ガス製品は、用途に応じて品質基準が有り、品質を確保するための精製、除湿工程もコストアップの要因になっている。品質基準としては、液化二酸化炭素JISK1106に純度や水分量等1種~3種の品質が規定されている。溶接用など工業用ガスはJISZ3253に規定されている。
【0009】
近年日本では二酸化炭素ガス回収源にしていた石油化学プラントやアンモニア合成プラント等の縮小や、海外移転により製品二酸化炭素ガス源が不足して、2010年から海外輸入が急増しており業界では危機感をもって対策検討されている。対策として製鉄所や発電所、ごみ焼却施設等の排ガスを二酸化炭素ガス回収源にする試みが各所で実証試験等されている。しかし燃焼ガスにはNOx、SOx、塵埃等不純物が多く含まれており、前処理が重要である。回収した炭酸ガスの純度確保や回収コスト、運搬コスト等課題が多い。また離島や遠隔地では二酸化炭素ガス回収拠点からの運搬による二酸化炭素発生増加の問題もある。
【0010】
これまで二酸化炭素ガスが発生しても回収利用するので問題ないとされてきた石油化学プラント等のガス源も、自動車のEV化やプラスチックゴミによる環境汚染等への懸念から資源リサイクルの推進や、より環境負荷の少ない燃料や、生産方法や材料に見直され、ますます不足してくると予想される。近い将来に製品二酸化炭素ガス回収源も再生可能型に置き換わって行く事が望ましいと考えられる。
【0011】
日本では年間35万トンのドライアイス市場が有り、その内約30万トンが運送宅配用である。近年新型コロナウイルスのパンデミック対策で世界的にワクチン接種が進められているが、ワクチンは超低温保存が必要で、その運搬にドライアイスの需要も増えている。また冷蔵冷凍食品の宅配需要の増加によりその保冷剤としてのドライアイス需要も増えている。ドライアイスの需要は季節変動が有り、夏期には毎年ドライアイスが不足し、海外から2.6万トン輸入する事態になっている。国内の石油化学プラント等で回収される二酸化炭素ガスは回収元で排出量に算定されるが、輸入したドライアイスは国内の排出量に算定されるので、二酸化炭素を輸入して排出量を増やしている。
【0012】
日本では沖縄、世界ではフィリピン、ベトナム、インド、メキシコ、ブラジル等暑熱期間の長い地域では、年間を通して保冷材としてのドライアイス需要がある。しかし多くは二酸化炭素ガス源等から遠隔地なので、専用ガス運搬船、専用タンクローリ、あるいは二酸化炭素ボンベやドライアイスとして需要地まで運搬する必要があり、運搬による二酸化炭素排出量増加も問題である。
ドライアイス製造の効率化では、特許文献7に貯蔵タンクの液体二酸化炭素からドライアイスを製造する装置について、ドライアイスの収率を高める方法が開示されている。特許文献8は液化二酸化炭素を用いてドライアイスを製造する装置において、凝華(ドライアイス化)しなかった二酸化炭素ガスを回収液化する装置が開示されている。
【0013】
ドライアイスは二酸化炭素の潜熱を利用する保冷材であり、食品保管や輸送用等の保冷用途なので他の液化二酸化炭素製品のように純度を要求されるものではなく、大気中から回収した二酸化炭素ガスのドライアイスであれば、ドライアイス利用によって大気中に放出されたガスは環境負荷にはならない。つまり再生可能二酸化炭素として市場流通するシステムを確立することで、地球温暖化防止の一対策となると考えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開平6-99034号公報
【文献】特開2010-266155号公報
【文献】特開2018-23976号公報
【文献】特表2017-528318号公報
【文献】特許第6510702号
【文献】特開2007―232357号公報
【文献】特開2006-193377号公報
【文献】特開2016―204234号公報
【文献】特願2021-211907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
CCU技術は世界中の各企業、各機関で研究開発されているが、二酸化炭素ガスの回収コストに加えて、どのような有価物に変換するのか、また変換コスト、設備コスト、商業的に成り立つか等課題が多い。そこで様々考えられるCCU技術の中で、先駆けとして比較的市場投入、普及の早いCCUシステムの実用化が望まれる。
【0016】
そのため、一般的な発電所や石油化学プラントのように二酸化炭素ガスを大量に排出する施設に設置するのではなく、比較的コンパクトで、回収二酸化炭素ガスを利用する場所で、町工場規模で実施可能なシステムで、全体システムの各機器の排熱や排ガスを相互活用して省エネルギー性の高い、空調給気も可能な空気中二酸化炭素ガス分離・濃縮・液化・ドライアイス製造システムを目指した。
【0017】
先行技術文献として、特許文献1に燃焼炉から液化二酸化炭素を分離濃縮するプラントの例が開示されている。二酸化炭素ガスの分離濃縮方法はTSA法、PSA法、PTSA法とされる。液化後の未液化ガスを還流して、液化二酸化炭素の回収率と純度を上げる方法が開示されているが省エネ性を高める方法には触れていない。
【0018】
回収二酸化炭素ガスは、圧縮により水蒸気分圧が上がり凝縮水を生じやすくなるので、冷却と共に凝縮減湿される。また品質要求から吸収式、あるいはPSA方式あるいはTSA方式等の吸着式除湿機で低露点温度に除湿される。特許文献2は回収二酸化炭素ガスの圧縮・冷却・液化装置の省エネルギーに関するもので、二酸化炭素液化冷凍コイルからの戻り冷媒の冷熱を液化前工程での冷却除湿に利用して省エネ性を高める方法が開示されている。しかしその前段の二酸化炭素ガス分離濃縮装置の省エネ性や、圧縮液化装置で生ずる排熱利用は考慮されていない。
【0019】
特許文献3にはDAC技術にて、二酸化炭素ガスを分離濃縮するための熱源としてコジェネレーション排熱、太陽熱、バイオマス、地熱、原子力の他、回収濃縮工程で生じるプロセス熱を利用するとされるが具体的な方法は開示されていない。しかし何れにしても実施は熱源エネルギーの入手可能な場所や環境に限定される。
【0020】
特許文献4はDAC技術に関する。二酸化炭素ガス分離濃縮装置にて、脱着時に吸着構造体に組み込まれた熱交換器要素による加熱と同時に過熱蒸気を通して二酸化炭素ガスを脱着回収し、収着時には熱交換要素に冷却流体を流して冷却しながら二酸化炭素ガスを収着する方法が開示されている。収着と脱着の切り替え時に、熱交換器要素自体の熱容量が装置全体の熱効率を阻害し、複雑化する。また、蒸気発生用の凝縮熱を回収するため蒸気発生熱交換器と水蒸気凝縮熱交換器とをヒートポンプに接続した例も開示されている。また前記脱着した二酸化炭素含有ガスを再圧縮して昇温するとともに水蒸気分圧をあげ、熱源としてケトル型リボイラーに投入し、熱交換器を介して脱着用の水蒸気を発生させると共に凝縮水を再利用する方法も開示されている。さらにアミン系吸着構造体の熱劣化を防止するため、及び回収ガスの純度向上のために真空排気と加圧操作を繰り返す必要が有り、そのためのエネルギーも必要で、かつ装置が複雑になる。
【0021】
特許文献5は二酸化炭素ガスの収着機能を有するハニカムロータを、少なくとも処理収着ゾーンと脱着ゾーンを有する夫々シールされたケーシング内に収納回転させ、収着ゾーンにてハニカムの湿った状態で二酸化炭素ガスを含む混合ガスと接触させて気化冷却しながら二酸化炭素ガスを収着する工程と、脱着ゾーンでは二酸化炭素ガスを収着したハニカムに飽和蒸気を導入して、二酸化炭素ガスを脱着させる工程とを含む二酸化炭素ガスの回収濃縮方法において、脱着ゾーンの入り口と出口を連通するガス循環路に構成し、回路中にブロアと蒸気発生ヒータを設け、循環回路中のガスを循環させながら前記蒸気発生ヒータ伝熱面に給水加熱して沸騰蒸発圧力により飽和蒸気を供給する湿式TSA法二酸化炭素ガス分離濃縮装置が開示されている。循環するガスの酸素濃度を低減させてアミン系収着材の熱酸化劣化防止効果が期待されるが、逆に二酸化炭素ガス分圧による脱着不足とそれによる回収率の低下がみられた。
【0022】
特許文献6は排温水の熱を回収し、ヒートポンプにより蒸気及び温水を生成、供給するヒートポンプ式蒸気・温水発生装置が開示されている。二酸化炭素ガス分離濃縮装置への利用可能性は技術者であれば容易に考え付くが、その蒸気をどのように利用するかは創意が必要である。
【0023】
ドライアイスの製造効率を高める装置に関しては特許文献7がある。液化炭酸ガスを大気圧下に放出すればその気化潜熱で炭酸ガスが冷却凝華されてドライアイスが生成するが、得られるドライアイスは放出炭酸ガスの40%程度で、残りはガス化する。この特許は液化二酸化炭素を放出する前に過冷却状態にすることで歩留まりを60~70%に向上することが開示されている。特許文献8はドライアイス製造工程において、凝華しなかった炭酸ガスを回収して再圧縮液化することでガスのロスを防止する技術が開示されている。
【0024】
特許文献9にはDAC技術、湿式TSA法による空気中二酸化炭素ガスの分離濃縮法が開示されているが、回収二酸化炭素ガスの利用や二酸化炭素分離濃縮装置の脱着熱源については開示されてなく、この2件の重大な課題を解決しなくてはCCU技術の普及促進は望めない。
【課題を解決するための手段】
【0025】
液化二酸化炭素製品は規格化されており、用途によっては流通品よりさらに高純度に精製して利用されることもある。二酸化炭素ガスを医療用、食品用、化学原料用、溶接用に使用する場合は結果品質に影響するため要求品質があり、JISにて純度や水分量等が規定されている。しかし同じ二酸化炭素製品であってもドライアイスは保冷材として使用するものでJIS規格は無く、メーカー側の品質指針としては白色であることや臭気の無いことが規定されている。製品二酸化炭素ガスは、基準値以下の水分量に除湿する必要があるが、ドライアイス製造ではスノードライアイスを固形化するために水分などを添加して固化するなど純度は厳密ではなく、酸素や窒素、水分量等製品ガスでは問題とされる不純物もドライアイスでは問題ない。
【0026】
そこで本発明者は二酸化炭素ガス収着機能を有するロータによって、空気中から二酸化炭素ガスを回収し、回収した二酸化炭素ガスの圧縮液化工程で生ずるシステム中の圧縮排熱、冷却・除湿排熱、ガス液化冷凍機排熱、及び空調機の排熱等を回収して、二酸化炭素ガス分離濃縮装置の脱着用熱源に利用する、小型コンパクトで省エネ性の高い二酸化炭素ガス分離濃縮ドライアイス製造システムであり、処理後の空気は空調給気に利用可能な高付加価値システムを目指した。
【0027】
湿式TSA二酸化炭素ガス分離濃縮装置と、飽和蒸気発生装置と、冷却除湿装置と、ガス圧縮装置と、吸着式除湿装置と、冷却装置とガス液化装置と冷凍機とクーリングタワー、液化二酸化炭素精製タンクとドライアイス製造装置で構成される二酸化炭素ガス分離・濃縮・冷却・液化・ドライアイス製造システムにおいて、ドライアイス製造時の未凝華ガスを前記ガス圧縮装置に回収し、湿式TSA二酸化炭素ガス分離濃縮装置が、二酸化炭素ガスの収着能力を有するロータを、少なくとも回転方向の順に、処理ゾーンと、パージゾーンと脱着ゾーンとを有する高断熱構造の「パージ・回収ブロック」を組み込み、夫々シールされたケーシング内に収納回転させ、処理ゾーンにてロータの湿った状態で空気を導入気化冷却しながら二酸化炭素ガスを収着し、パージゾーンでは液化二酸化炭素精製タンクからの未液化ガスを導入させてロータ空隙に含まれる空気をパージ排気し、脱着ゾーンでは蒸気発生装置で発生させた飽和蒸気を蒸気の発生圧力で導入し、蒸気の凝縮熱により二酸化炭素ガスを脱着させて回収濃縮する、処理ゾーン出口空気の空調給気可能な、空気中二酸化炭素をガス源とするドライアイス製造システムを発明した。
【0028】
さらに省エネ性を高める方法として、二酸化炭素ガスの収着能力を有するロータを、回転方向の順に、処理ゾーンと、パージゾーンと一段又は一段以上の複数の回収ゾーンと脱着ゾーンを有する高断熱構造の「パージ・回収ブロック」を組み込み、夫々シールされたケーシング内に収納回転させ、処理ゾーンにてロータの湿った状態で空気を導入気化冷却しながら二酸化炭素ガスを収着し、パージゾーンでは液化二酸化炭素精製タンクからの未液化ガスを導入してロータ空隙に含まれる空気を排気し、脱着ゾーンに飽和蒸気を導入して蒸気の凝縮熱により高濃度の二酸化炭素ガスを脱着させて、回転方向前段の回収ゾーンに導入し、前記回収ゾーンのさらに回転方向前段の回収ゾーンへと、回転方向前段側に向けて複数の回収ゾーンを順次通過させて回収する湿式TSA二酸化炭素ガス分離濃縮装置を発明した。前述のドライアイス製造システムの湿式二酸化炭素分離濃縮装置を、この装置に変えるとさらに省エネになる。
【0029】
低二酸化炭素ガス濃度の処理出口空気を空調給気として利用することで、本発明システム普及のための付加価値向上を考慮した。湿式TSA二酸化炭素ガス分離濃縮装置の、処理ゾーンを通過した空気を冷却コイルで冷却除湿して空調給気として利用し、冷却コイルドレイン水を回収して飽和蒸気発生装置の給水として利用することで空調の省エネと本発明ドライアイス製造システムの付加価値向上と節水を可能にする。
【0030】
さらにシステム全体での省エネルギー性を向上させるため、システム内で及びシステム近傍で発生する排熱の回収利用を検討した。飽和蒸気発生装置が排熱利用ヒートポンプ蒸気発生装置であり、回収二酸化炭素ガスの圧縮熱冷却及び液化する冷凍装置及び近傍の冷房空調装置の排熱を回収して蒸気発生ヒートポンプに供給して飽和蒸気を発生させる。
【0031】
回収ガスの低露点除湿の省エネ化も考えた。処理ゾーンと再生ゾーンを有するハニカムロータ吸着式除湿機の再生ゾーンに、ガス圧縮装置からの圧縮高温ガスを導入してロータの吸着水を脱着し、その出口ガスを冷却コイルに通して冷却・除湿して処理ゾーンに導入して吸着除湿する除湿装置を組み込むことにより低露点除湿の省エネ化も実現できる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の空調給気可能な空気中二酸化炭素をガス源とするドライアイス製造システムは湿式TSA二酸化炭素ガス分離濃縮装置と、飽和蒸気発生装置と、冷却除湿装置と、ガス圧縮装置と、吸着式除湿装置と、冷却装置とガス液化装置と冷凍機と、液化二酸化炭素精製タンクとドライアイス製造装置で構成される。どのような二酸化炭素ガス分離濃縮液化プラントでも圧縮・冷却・液化工程が必要で、夫々の工程にてエネルギー消費とそれに伴う排熱が発生する。二酸化炭素ガス圧縮液化の工程では多大な圧縮熱と冷却液化潜熱が発生する。圧縮熱と冷却・液化潜熱は通常クーリングタワー等放熱器で大気中に放熱されている。これらの熱を回収して空気中二酸化炭素の分離濃縮のエネルギーとして利用することで二酸化炭素の大規模発生源及び利用可能排熱源から離れて、どこにでも設置できるシステムが可能になる。
【0033】
また液化した二酸化炭素を精製タンクに入れるとき未液化ガスも入るが、未液化ガスは空気成分由来の不純物が含まれるので、純度を向上させる目的と液化ガスのタンクへの導入抵抗を下げるため排気される。本発明はこの未液化ガスを湿式TSA二酸化炭素ガス分離濃縮装置のパージガスとして利用することで回収ガスの濃度向上効果がある。またドライアイス製造システムにおいて、ドライアイス製造時の未凝華ガスを、前記ガス圧縮装置に戻して回収することでシステム全体での回収効率と省エネ性を向上させることができる。
【0034】
湿式TSA二酸化炭素ガス分離濃縮装置は処理ゾーンと、パージゾーンと脱着ゾーンを有し、処理ゾーンにてロータの湿った状態で二酸化炭素ガスを含む空気と接触させて気化冷却しながら二酸化炭素ガスを収着し、液化ガス精製タンクからの未液化ガスを前記パージゾーンに導入してロータ空隙に含まれる空気をパージ排気してから脱着ゾーンに回転移動するので、脱着ゾーンへの空気の移行が防止され、回収二酸化炭素ガスの濃度が向上し、かつ脱着ゾーンにおける収着材の熱酸化劣化が防止される。脱着ゾーンでは100℃前後の飽和蒸気を沸騰圧力により導入して、収着された二酸化炭素ガスを脱着回収する。100℃前後とは、水の沸点は圧力によって変化するので、脱着ゾーンへの飽和蒸気の導入抵抗や気圧により、プラスマイナスも含め数℃の振れは想定される。
【0035】
さらに湿式TSA二酸化炭素ガス分離濃縮装置の省エネ性を高めるため、ロータのゾーンを回転方向の順に、処理ゾーンと、パージゾーンと、そして一段又は一段以上の複数の回収ゾーンと、脱着ゾーンに分割シールする構成を発明した。液化ガス精製タンクからの未液化ガスをパージゾーンに導入してロータ空隙に含まれる空気を排気し、脱着ゾーンに100℃前後の飽和蒸気を導入して蒸気の凝縮熱により高濃度の二酸化炭素ガスを脱着するところは同じだが、パージゾーンと脱着ゾーンの間に回収ゾーンを設ける。脱着ゾーンの回転方向前段側の回収ゾーンを通過させて脱着出口ガスのエンタルピーを回収して、脱着に先立ってロータを予熱する効果と、回収ガスは予冷されることで後工程での冷却・除湿負荷が削減できる効果と脱着ゾーンへの空気混入リスクをさらに低減できる。
【0036】
回収ゾーンは1段以上の複数の回収ゾーンを設けることも出来る。脱着ゾーン出口ガスを回転方向前段の回収ゾーン1に導入し、さらにその回転方向前段の回収ゾーン2へと、回転方向前段側に向けて複数の回収ゾーンを順次通過させて回収する。過不足無い段数は、回転式熱交換器の熱交換効率の知見から、ロータ幅や通過流速により変わるが、回収ゾーンの合計通過長200~400mm相当を想定できる。例えばセル数が190、ロータ幅が50mmのとき、望ましい合計通過長200mmとすれば4回通過と推測できるが、経済性と効果を試験判断して決定すれば良い。
【0037】
一方処理ゾーンを通過した空気は二酸化炭素ガス濃度が低下し、気化冷却効果により温度はほとんど変化しないが絶対湿度は高くなる。この空気を冷房コイルで冷却除湿して、二酸化炭素濃度の低い高空気質の空気を空調給気に利用して在室者の知的生産性を向上する効果が期待できる。冷房コイルのドレイン水は回収して飽和蒸気発生装置に給水して、イニシャル、ランニングコストに対する導入メリット及び経済性はさらに向上する。
【0038】
回収二酸化炭素ガスを液化するには圧縮して冷却する必要がある。多段圧縮により6.4Mpaまで圧縮するとガスの温度は130℃程度になり、このガスとの熱交換により蒸気発生も可能だが、発生蒸気量として十分ではない場合、本発明システム中の冷却器や液化器、冷凍機、さらに必要であれば近接施設の空調機等の排熱を回収して蒸気発生ヒートポンプの熱源として二酸化炭素ガスの分離回収濃縮装置の脱着エネルギーを賄うことができる。
【0039】
回収ガスの低露点除湿はロータ吸着式除湿機を組み合わせると良い。処理ゾーンと再生ゾーンを有するハニカムロータ吸着式除湿機の再生ゾーンに、ガス圧縮装置からの圧縮高温ガスを導入してロータの吸着水を脱着する。通過したガスは脱着熱で温度低下すると共に露点温度(絶対湿度)が高くなり、次の冷却コイル通過により冷却・除湿される。さらに回収ガスはロータ吸着式除湿機の処理ゾーンを通過して低露点温度に除湿されて次段の圧縮機に導入される。
【0040】
この除湿方法により回収ガスの露点温度は冷却コイルの温度より低いマイナス露点まで除湿できるので、最終的に従来のPSA、TSA、PTSA方式と同等の除湿効果を得ながら、再生エネルギーはシステム中の余剰熱を利用できる。このようにTSA除湿法の一形態であるハニカムロータ回転式除湿機は公知であるが本発明のシステムにこのように組み合わせることでシステム全体の省エネ性向上に貢献する。
【0041】
以上のように本発明のシステムは、システム中で発生する排熱を回収して飽和蒸気を発生し、収着二酸化炭素ガスの脱着エネルギー源にするので、システム全体で省エネになる。もちろんシステムの稼働には電力が必要だが、ドライアイス需要の多い時期及び地域は日射量も多いので太陽光発電とのマッチングも良い。また暑熱地域なので冷房排熱も利用可能で、かつ処理後の低二酸化炭素ガス給気により換気量を過大にすることなく高品質空調ができ、空調環気や排気を処理空気にすると、外気より二酸化炭素ガス濃度が高いので回収量を増す効果や、還気処理であれば還気のエンタルピー回収により空調の省エネ効果も期待できる。
【0042】
さらに本発明のシステムは従来技術のように二酸化炭素ガス源や排熱源に依存せず、中小規模のシステムも設立可能なので、各ドライアイス需要地に分散して設立可能な特徴があり、ドライアイスや二酸化炭素ガス運搬による二酸化炭素ガス排出量を削減でき、事業全体の効率化が図れる。また本発明二酸化炭素ガス分離濃縮装置は従来の吸収液法よりはるかに熱容量が少なく、ドライアイス生産の必要性に応じて全システムの起動、停止、休止も容易で、それに伴う熱ロスも少ない。
【0043】
以上のようにドライアイス製造と共に、低二酸化炭素ガス濃度空気の省エネ空調利用の組み合わせによりCCU技術として普及を促進でき、これまで二酸化炭素の発生が許容されていた石油化学プラント等の削減も加速可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】は本発明第一実施形態の空調給気可能な空気中二酸化炭素ガス源ドライアイス製造システムの基本フロー図である。
【
図2】は本発明第一実施形態の二酸化炭素ガス分離濃縮装置の詳細図である。
【
図3】は本発明第二実施形態の空調給気可能な、空気中二酸化炭素ガス源ドライアイス製造システムの基本フロー図である。
【
図4】は本発明第二実施形態の二酸化炭素ガス分離濃縮装置の詳細図である。
【
図5】は本発明第二実施形態の二酸化炭素ガス分離濃縮装置の、処理・パージ・第二回収・第一回収・脱着ゾーン部の原理断面説明図である。
【
図6】は本発明第三実施形態の二酸化炭素ガス分離濃縮装置の原理断面説明図である。
【
図7】は本発明第二実施形態のハニカムロータ除湿装置の原理説明図である。
【
図8】は実際に試作試験した小型試験装置のフロー図である。
【
図10】は中型カセット4台組ユニット実用化予想図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明を適用した実施形態を、図面に基づいて詳述する。なお、各図面において同じ符号を付した部材等は、同一又は類似の構成のものであり、これらについての重複説明は適宜省略するものとする。また各図面においては、説明に不要な部材等は適宜、図示を省略している。
【0046】
本発明者は、これまでコンパクトで省エネ性の高いロータ式の湿式TSA(サーマルスイング)法による、空気中二酸化炭素ガス分離濃縮技術を研究開発してきた経緯から本発明に至った。まず湿式TSA法の原理とメリットを説明する。湿式TSA法は二酸化炭素ガスの脱着に、過熱蒸気ではなく飽和蒸気を用いて、飽和蒸気の凝縮熱で二酸化炭素ガスを脱着して濃縮回収する方法である。従来の乾式TSA法のように脱着に加熱空気やガスを用いないので高濃度濃縮回収が可能なだけでなく、脱着と同時に水蒸気が凝縮して水分がハニカム内表面に残り、処理収着ゾーンでは蒸発冷却しながら二酸化炭素ガスを収着するため、脱着直後のロータは速やかに冷却され、同時に二酸化炭素ガスの収着熱をトレードオフして温度上昇を抑えるので、従来の乾式TSA法や過熱蒸気TSA法より、二酸化炭素ガスの収着性能と省エネ性が飛躍的に向上する。
【0047】
また空気を含まない100℃前後の飽和蒸気で脱着する事でアミン系収着材の熱酸化劣化を防止する効果がある。また脱着直後に処理ゾーンに高温のまま回転移動して空気と接触するとき、収着材表面は結露水でおおわれているので酸素との直接接触を避けられ、処理空気の通過による気化冷却効果で速やかに冷却され熱酸化劣化が抑制される効果もある。
本発明は前記湿式TSA法においてさらに収着材の熱酸化劣化の防止と回収率と回収濃度の向上と省エネ性をたかめるように創意構成した。
【実施の形態1】
【0048】
図1は実施の形態1の全体システムである。処理ガスは大気あるいは空調空気なので特別な前処理は必要なく、一般空調用に採用されている租塵フィルター程度が有れば良い。水溶性の不純物や微細粉塵であればシステム途中の冷却コイルにて凝縮した水とともにドレインとなって除去排出される。必要であれば処理空気取り入れ口に活性炭脱臭フィルターを増設することも容易である。
最初に二酸化炭素ガス分離濃縮装置について
図2により細部説明する。二酸化炭素ガスの収着可能なロータ1はロータ駆動モータ2でベルト3により駆動回転させる。大型であればチェーン駆動も選択できる。ロータの処理ゾーン4に送風機7によって処理空気を導入すると湿った状態のロータは気化冷却されながら二酸化炭素ガスが収着され、同時に収着熱も冷却除去される。
【0049】
ロータがパージゾーン6に回転すると液化二酸化炭素精製タンクからの未液化ガスを導入して、ロータ空隙に含まれる空気を処理ゾーン側にパージ排気する。このパージにより回収ガスへの空気の混入を防止して回収濃度を高める効果と、高温になる脱着ゾーンへの酸素混入を防ぎ、収着材の熱酸化劣化が避けられ耐久性が向上する。また脱着直前に空気より高濃度の二酸化炭素ガスの通過収着により回収量向上効果が期待される。パージガスの通過方向はどちらでもロータ空隙中の空気をパージする効果があるが、処理ゾーン入り口側に排気して処理空気に合流させると、パージガス量が過剰で比較的高濃度の二酸化炭素ガスが排気されても、処理ゾーンで再収着されるので無駄にならない。
【0050】
脱着ゾーン5-1にロータが回転すると、飽和蒸気発生装置からの蒸気発生圧力で飽和蒸気が導入され、凝縮熱により二酸化炭素ガスが脱着され凝縮水はロータ内に残る。脱着された二酸化炭素ガスと水蒸気の混合ガスは、
図1の冷却コイル10-1に通して冷却除湿される。次に冷却除湿された回収ガスは圧縮装置11-1に導入、加圧され昇温する。二酸化炭素ガスを液化するには一段圧縮では困難なので昇温したガスを冷却コイル10-2で再冷却して二段目の圧縮機11-2に導入され4Mpa程度に加圧、
図1には示していないがさらに再冷却して三段目の圧縮装置で6.4Mpa程度に加圧することもある。最終加圧ガスを再冷却して、吸着式除湿機13により低露点温度に除湿後、液化器15で液化温度以下に冷却液化する。
【0051】
二酸化炭素ガスは圧力が高いほど液化しやすいが圧縮エネルギーが大きくなり、液化ガスへの不純ガスの溶解量が増して純度が低下する。逆に圧力が低いとより低い液化温度まで冷却する必要があり冷却負荷が増大し、また冷凍機のCOP(成績係数)も低下して冷凍機の消費エネルギーが増加するトレードオフ関係がある。液化した二酸化炭素は精製タンクに送り、未液化ガスを抜いて純度を向上貯留する。抜いたガスは前記分離濃縮装置のパージに利用する。
【0052】
精製タンクからの未液化ガスの抜き取り量はロータ空隙に含まれて移行する量を十分にパージできる余剰量である必要がある。不足すると回収ガスに空気が混入する。過剰量であってもパージゾーンを通過した未液化ガスは処理空気に合流して処理ゾーンを再通過、収着するので無駄になることはない。パージガスの体積は温・湿度変化、二酸化炭素ガスの収着により変動するので、パージゾーン5-1ガス出口の二酸化炭素ガス濃度を計測して調整するのが実際的である。
【0053】
回収したガスは圧縮機11-1、11-2により100℃以上に昇温し、このガスの熱を利用して飽和蒸気発生も可能だが、このガスの熱だけで脱着エネルギーが不足する場合、回収ガスの冷却・除湿熱や圧縮熱、液化させるための液化潜熱などの排熱を蒸気発生ヒートポンプに回収して飽和蒸気を発生させ、前記二酸化炭素分離濃縮装置の脱着ゾーンに導入する。以上の構成で分離濃縮二酸化炭素ガスの圧縮・冷却除湿・冷却・液化工程で発生する排熱を回収利用して、空気中の二酸化炭素ガスの分離濃縮が可能になり、従来の技術より省エネでコンパクトな、空気中二酸化炭素ガス源ドライアイス製造システムができる。
【実施の形態2】
【0054】
図3は実施の形態2の全体システム図である。前述した湿式TSA法においてさらに収着材の熱酸化劣化の防止と回収率と回収濃度の向上と省エネ性をたかめるよう創意構成した。最初に二酸化炭素ガス分離濃縮装置の細部を
図4にて説明する。二酸化炭素ガスの収着可能なロータ1は回転方向の順に処理ゾーン4、パージゾーン6、回収ゾーン2段目5-3、回収ゾーン1段目5-2、脱着ゾーン5-1に分割され、ロータ駆動モータ2でベルト3により駆動回転させる。
【0055】
送風機7によってロータの処理ゾーン4に空気を導入すると、湿った状態のロータは二酸化炭素ガスの収着と水分の気化冷却が同時に進行し、発生した収着熱も冷却除去される。回転移動したガスパージゾーン6では液化二酸化炭素精製タンク16からの未液化ガスを導入してロータ空隙に含まれる空気をパージし、脱着ゾーン5-1に飽和蒸気を導入してロータに収着した二酸化炭素ガスを脱着させて、回収ゾーン1段目5-2を通し、さらに回転の前段側に回収ゾーン5-3を通して回収する。
【0056】
図5にてさらに詳細なロータ内のガスの流れについて説明する。ロータが処理ゾーン4からパージゾーン6に回転して未液化ガスが導入され、ロータ空隙に含まれる空気は処理ゾーン4入り口側にパージ排気され、処理空気に混ざって処理ゾーンに再導入される。このパージにより回収ガスへの空気の混入を防止して回収濃度を高める効果と、高温になる脱着ゾーン5-1での収着材の熱酸化劣化が避けられ耐久性が向上する効果と、脱着直前に空気よりも高濃度の二酸化炭素ガスと接触収着させることで回収量向上効果もある。同時にガス精製タンク16から未液化ガスを抜くことで液化ガスの純度を高める効果もある。
【0057】
脱着ゾーン5-1では飽和蒸気が導入され、凝縮潜熱により二酸化炭素ガスが脱着され、凝縮水がロータ内に残る。脱着された二酸化炭素ガスと水蒸気の混合ガスは回転方向前段の回収ゾーン1段目5-2を通過、折り返して回収ゾーン2段目5-3を通過して回収される。これにより脱着出口ガスのエンタルピー(顕熱と潜熱)は脱着前のロータの余熱に回収され、逆に回収ガスは通過によってエンタルピーが減少して次工程の冷却除湿コイル10-1の負荷が減少する。
【0058】
回収ゾーン段数はその効果の過不足を試験確認して、さらに回転方向前段に3段、4段と増設することも可能である。これまでの実験では1段の有効性を確認し、さらに増設の必要性とそれよる省エネ性向上の可能性をつかんでいる。このように複雑な流路構成及び断熱処理は従来技術では困難だが「積層パージ・回収ブロック」構造(特許文献9)により実現できる。各ゾーン空間を有する又は有していない扇形シートの積層構造体であって、ロータ端面に接する摺動面は耐熱耐摩耗性の摺動シートと、その下層は発泡ゴムシート層と、その下層は各シート間の連通路を設けた発泡ゴムシート層又は発泡板層と、底面層はゾーン空間を有していない断熱板を積層接着してブロック化し、外周部又は底面に蒸気導入部と脱着ガス回収部とパージガス出入り部を設けた高断熱構造の「積層構造パージ・回収ブロック」により容易かつ低コストに製作できる。
【二酸化炭素ガス分離濃縮装置第3の実施形態】
【0059】
図5ではロータ回転前段側に向けて順に、脱着ゾーン、回収ゾーン1段目、回収ゾーン2段目とガス通過方向を反転させながらロータに順次導入する例を示したが、
図6のように脱着ゾーン、回収ゾーン1段目、回収ゾーン2段目の何れも同じガスの通過方向にすることも出来る。各ゾーンからロータ外周側をバイパスさせてスパイラル上に回転方向前段側に順次通過させる。バイパスは加工性、組み立て調整及び断熱性の点から発泡シリコンゴムチューブや、ガス流路を切り抜いた又は抜いていない複数の発泡シリコンゴム製等のシートを積層接着して構成することができる。この方法が熱力学的には望ましいが、構造がやや複雑になるので費用対効果を検討して決定すればよい。宇宙船等の限定された閉鎖空間の空調用であれば、コストより性能を重視採用することも想定される。
【0060】
ここで実際に湿式TSA二酸化炭素分離濃縮装置を実用化した場合の回収量とスケール感を実際の実験結果(特許文献9)から推定してみる。
図8は実際に実施した小型実験装置のフロー図で、本発明
図4に類似しているが若干異なっている。例えばパージガスが未液化ガスではなく、回収・脱着ゾーンの前後を挟んで設けた循環パージゾーン6-1、6-2にて、脱着ゾーン5-1から脱着ガスパージゾーン6-1に回転した直後のロータ空隙に含まれるガスを抜いて、処理ゾーン直後の処理空気パージゾーン6-2に導入し、ロータ空隙に含まれる空気をパージすることで、回収ガスへの空気混入を防ぐ構造である。
【0061】
ロータはセル数約190のアミン系収着材ハニカムで、最適化調整途中の実験データなので、回収二酸化炭素ガスの濃度は50%程度にとどまっているが、調整によりさらに濃度向上が可能で、さらに本発明の未液化ガスによるパージによって100%近い高濃度回収が見込まれる。
【0062】
また外気からの二酸化炭素ガスの回収率(通過空気側から見れば除去率)は45%程度と高くないが、ロータ幅50mm、処理空気の流速は3.3m/Sのデータである。ロータ幅は全熱交換器であれば熱交換効率、除湿機であれば除湿量、VOC濃縮ロータであれば除去率に影響し、高性能が要求される場合は200~600mm幅等広幅のロータが選定される。圧力損失は層流域なのでロータ幅と流速にほぼ正比例して高くなり、ガス成分や温度によっても変化する。例えば空気流速3.3m/s、30℃のとき、セル数190、400mm幅で550Paになり、50mm幅では140Pa程度になる。
【0063】
本発明の空気中二酸化炭素ガスの分離濃縮装置としては50mm幅で十分な回収率である。なぜならこれ以上回収率向上を目指すより、狭幅ロータのメリット低圧力損失により、大型換気扇のようなシンプルで安価な軸流送風機で、遠心式送風機よりも少ない電力で多量の処理空気を取り込み、多量の二酸化炭素ガスを収着できるからである。その反面狭幅による脱着効率低下が懸念されるが、本発明では脱着出口ガスを回転方向前段の一段又は複数段の回収ゾーンに通過させて回収することで十分な脱着効果と、エンタルピー回収効果によるロータの脱着前の予熱と、脱着ガスの予冷・除湿もできる効果により省エネ性が向上する。
【0064】
実験データにより実機のスケールを想定する。
図9ロータ径約Φ2000mm、ロータ幅50mmの分離濃縮ロータ1台の中型カセットにおいて、処理風量は40000m
3/hになり、二酸化炭素濃度400ppm、回収率45%とすれば二酸化炭素ガスの回収量は8m
3/h≒14.2kg/h/台。このロータカセットを
図10のように四角に4台組み合わせれば処理送風機は大型1台で良く、二坪位の設置面積で56kg/hの空気中二酸化炭素分離濃縮が可能になる。
【0065】
図3システムの説明に戻る。回収ガスは冷却コイル10-1を通過して冷却除湿され、次段の圧縮装置11-1に導入され加圧昇温する。昇温したガスは次にロータ回転吸着式除湿機12(詳細図を
図7に示す)の脱着ゾーン12-1に導入され、ロータに吸着している水分を脱着し脱着熱によりガスは温度が低下し絶対湿度が高くなる。次に冷却除湿コイル10-2で冷却と同時に除湿され、12―2の処理ゾーンに導入されて吸着除湿され、圧縮装置11-2に導入さらに圧縮される。冷却除湿コイル10-2とロータ式除湿機12を組み合わせることで、冷却水温度より低い露点温度にまで除湿できるので、実施の形態1の
図1で示した吸着式除湿機13が不要になり省エネにもなる。
【0066】
二酸化炭素ガスを液化するには一段圧縮では困難なので、ロータ式除湿機12の処理ゾーン12-2を出たガスを二段目の圧縮機11―2に導入して4Mpa程度に加圧する。
図3には示していないが、さらに必要であれば再冷却して三段目の圧縮装置で6.4Mpa程度に加圧する。加圧ガスを再冷却し液化装置15で冷却液化する。
【0067】
液化温度は圧力2.2Mpaで-15℃以下、3.9Mpaで5℃以下、6.4Mpaで25℃以下に冷却が必要である。高圧縮すると液化が容易になるが、圧縮機のエネルギーは多く要する。逆に圧力の低い場合は液化するためにより低温に冷却しなくてはらないが、不純ガスの溶解が減少し液化二酸化炭素の純度は向上する。その反面冷凍機の負荷は増大し、しかも冷凍機の成績係数も悪化するので所要エネルギーが増加する。特許文献7によるとドライアイスを製造する場合は、ドライアイス生成歩留りの点から過冷却状態まで冷却することが望ましいと開示されている。様々な要素を考慮して設計すれば良い。
【0068】
二酸化炭素ガス分離濃縮装置の脱着用飽和蒸気は、前述の冷却装置や液化冷凍装置等システム中で発生する排熱を回収利用して蒸気発生ヒートポンプで発生させるので、ドライアイス製造のための圧縮負荷や冷却負荷の増大は飽和蒸気発生用排熱源の増加につながり、システム全体では補完して省エネ性が向上する。もし排熱源が不足するようであれば、ドライアイス需要期には冷房排熱が有り、太陽熱も豊富なので増補利用できる。
【0069】
処理出口ガスは低二酸化炭素ガス濃度なので空調給気として利用できる。二酸化炭素ガス分離濃縮ロータの処理ゾーンを通過した空気を冷却コイルで冷却除湿して空調用に給気し、冷却コイルドレイン水を回収して飽和蒸気発生装置に給水することで空調の省エネと本発明システムの付加価値向上と節水を可能にする。この方法は宇宙空間施設等閉鎖空間での空調にも利用可能なメリットである。
【0070】
液化したガスは精製タンクに入れるが未液化ガスが含まれ、未液化ガスは液化ガスの純度向上のため通常排気される。未液化ガスは不純ガスが含まれているが主成分は二酸化炭素ガスで、この未液化ガスをロータ式分離濃縮装置のパージゾーンに導入することで、ロータ回転によってロータの空隙に含まれる空気が脱着ゾーンに移行して生じる様々な問題を排除することができる。第一に空気のパージによる回収二酸化炭素濃度の向上効果と、第二に高濃度二酸化炭素ガスの回収ゾーン通過でさらにロータへのガス収着が進み、二酸化炭素ガス回収量を向上させる。第三に脱着ゾーンに酸素を含むガスを入れないことで、脱着ゾーンでのアミン系二酸化炭素収着材の熱酸化劣化を防止する効果もある。
【0071】
液化二酸化炭素製品は水分量が規格内に入るように除湿する必要があるが、ブロック状のドライアイス製造では、スノー状ドライアイスを固めるために水分等の固化剤を含ませるので、ドライアイス用途の二酸化炭素ガスは、液化ガスのように高度に除湿する必要はない。
【0072】
本発明はCCU技術の先駆けとなるように普及性を考慮してドライアイス製造システムとしたが、ドライアイス化せずに液化二酸化炭素をさらに精製して液化二酸化炭素製品にすることも可能である。また、液化二酸化炭素の密度約0.77g/Cm3に対し、ドライアイスでは約1.56g/Cm3と比重が2倍、つまり容積が半分で重量のかさむ高圧ボンベも不要なので、CCUSプラント向けにドライアイスを、高断熱コンテナにて低炭素排出量で運送集積する方法に発展することも想定される。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は空調給気可能な空気中二酸化炭素をガス源とするドライアイス製造システムに関し、従来のように二酸化炭素排出源や排熱源に限定されず、必要な地域で、必要な時に、必要な量のドライアイスを生産できるので季節変動に備えた備蓄が不要で、分離・濃縮・圧縮・冷却・除湿・液化工程で生ずる排熱や排ガスをシステム全体で相互利用することで省エネルギー性が高く、かつ二酸化炭素ガス分離濃縮から製品製造までの完結システムなので、ドライアイス需要地に町工場規模で設置可能で、輸送に起因する二酸化炭素ガス排出量増加の無い、空調給気の可能な、空気中二酸化炭素をガス源とするドライアイス製造システムを提供できる。
【符号の説明】
【0074】
1 二酸化炭素収着ロータ
2 ロータ駆動モータ
3 ロータ駆動ベルト
4 処理ゾーン
5-1 脱着ゾーン
5-2 回収ゾーン1
5-3 回収ゾーン2
6 パージゾーン
6-1 脱着ガスパージゾーン
6―2 処理空気パージゾーン
7 処理空気送風機
8 蒸気発生装置
9 クーリングタワー
10-1ガス冷却コイル1
10-2ガス冷却コイル2
10-3ガス冷却コイル3
11-1ガス圧縮機1
11-2ガス圧縮機2
12 ハニカムロータ回転式吸着除湿機
12-1再生ゾーン
12-2処理ゾーン
13 吸着式2塔除湿機
14 冷凍機
15 二酸化炭素ガス液化装置
16 液化二酸化炭素精製タンク
17 ドライアイス製造装置
18 循環パージポンプ
【要約】
【課題】CCU技術は世界中の各企業、各機関で研究開発されているが、二酸化炭素ガスの回収コストに加えて、どのような有価物に変換するのか、また変換コスト、設備コスト、商業的に成り立つか等課題が多い。本発明は将来的な発展性が有り、空調給気にも利用可能な、高付加価値CCUシステムを提案するものである。
【解決手段】
湿式TSA二酸化炭素ガス分離濃縮装置と、飽和蒸気発生装置と、ガス冷却装置と、ガス圧縮装置と、除湿装置と、ガス液化装置及び冷凍機と、ガス精製タンクと、ドライアイス製造装置で構成したシステムにて各装置で発生する排熱を回収して前記分離濃縮装置の熱源として利用し、液化後精製時の未液化ガスを前記分離回収濃縮装置のパージに利用し、ドライアイス製造装置の未凝華ガスを回収することで省エネ性が高く、コンパクトな、空調給気も可能な空気中二酸化炭素をガス源とするドライアイス製造システム。
【選択図】
図1