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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】構造体及び構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A43B 13/14 20060101AFI20221110BHJP
   B29C 64/118 20170101ALI20221110BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20221110BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20221110BHJP
   A43B 17/00 20060101ALI20221110BHJP
   A43B 13/18 20060101ALI20221110BHJP
   A61G 7/065 20060101ALI20221110BHJP
   A43D 29/00 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
A43B13/14 B
B29C64/118
B33Y80/00
B33Y10/00
A43B17/00 A
A43B13/18
A61G7/065
A43D29/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018140404
(22)【出願日】2018-07-26
(65)【公開番号】P2020014722
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000104674
【氏名又は名称】キョーラク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 亮平
【審査官】遠藤 邦喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-012751(JP,A)
【文献】特開2017-165041(JP,A)
【文献】国際公開第2017/208979(WO,A1)
【文献】特開平09-273582(JP,A)
【文献】特表2018-515275(JP,A)
【文献】国際公開第2020/075722(WO,A1)
【文献】特開2016-043271(JP,A)
【文献】特開2019-150621(JP,A)
【文献】特開2020-110631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 13/14
B29C 64/118
B33Y 80/00
B33Y 10/00
A43B 17/00
A43B 13/18
A61G 7/065
A43D 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形体を備え、
前記造形体は、線状構造体が積層されて構成され、
前記線状構造体が線状樹脂によって形成されている、構造体であって、
前記造形体は、第1及び第2弾性領域を有し、
前記線状構造体の各層において、第1弾性領域を構成する前記線状樹脂は、第2弾性領域を構成する前記線状樹脂よりも細く構成され、
前記線状構造体の各層において、第1弾性領域は、第2弾性領域の内側に配置されており、
第1及び第2弾性領域は、前記線状構造体の最下層から最上層にかけて延びており、
前記線状構造体の各層において、第1弾性領域と第2弾性領域とが、連続するように繋がっている、構造体。
【請求項2】
線状樹脂を吐出するノズルを備えた3次元造形装置を用いる、構造体の製造方法であって、
造形ステップを備え、
前記構造体は、線状構造体が積層されて構成される造形体を有し、
前記線状構造体には、第1及び第2弾性領域が設けられ、
前記線状構造体の各層において、第1弾性領域を構成する前記線状樹脂は、第2弾性領域を構成する前記線状樹脂よりも細く、
前記線状構造体の各層において、第1弾性領域は、第2弾性領域の内側に配置されており、
第1及び第2弾性領域は、前記線状構造体の最下層から最上層にかけて延びており、
前記線状構造体の各層において、第1弾性領域と第2弾性領域とが、連続するように繋がっており、
前記造形ステップでは、前記ノズルを走査させながら前記ノズルから前記線状樹脂を吐出させることで前記造形体を形成し、
前記造形ステップを行っているときにおいて、前記ノズルが各層の第1弾性領域を走査するときに前記ノズルから吐出する前記線状樹脂の太さは、前記ノズルが各層の第2弾性領域を走査するときに前記ノズルから吐出する前記線状樹脂の太さよりも細い、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体及び構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、3次元造形装置によって、例えば靴のインソールといった構造体を製造する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、足の3次元造形データに基づいて、3次元造形装置によってインソールを造形する。また、特許文献1には外反母趾による痛みを抑制するために3次元造形データに補正を加えることが開示されている。このように、従来から、ユーザーの使用感を高めるために3次元造形データに補正を加える技術が提案されている。
【0003】
ここで、構造体の使用感を高める手法には、構造体の各箇所に応じて構造体の弾性を変える手法がある。ここで、構造体の弾性(クッション性)は構造体の硬さや柔らかさを示す指標である。構造体の弾性を変える手法には、構造体の各箇所に応じて樹脂材料を変える第1手法の他に、構造体の各箇所に応じて構造体を構成する線状樹脂の配置間隔(充填率)を変える第2手法(以下、充填率コントロール手法と称する)もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-123974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
3次元造形装置の造形方式には、線状樹脂を吐出するノズルを走査させることで構造体を造形する方式がある。このような方式の3次元造形装置を用い、充填率コントロール手法によって構造体の造形を行う場合には、線状樹脂の配置間隔が第1配置間隔である第1弾性領域と、線状樹脂の配置間隔が第2配置間隔である第2弾性領域とで、ノズルの走査ピッチが異なる。このため、上述の方式の3次元造形装置を用い、充填率コントロール手法によって構造体の造形を行う場合には、ノズルを走査させるときのパスが複雑化する場合がある。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、弾性が異なる領域を有していても、造形時のノズルの走査パスの複雑化が抑制される構造体と、弾性が異なる領域を有する構造体の造形にあたり、造形時のノズルの走査パスの複雑化を抑制することができる構造体の製造方法と、を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、造形体を備え、造形体が線状構造体を有し、線状構造体が線状樹脂によって形成されている、構造体であって、造形体は、第1及び第2弾性領域を有し、第1弾性領域を構成する前記線状樹脂は、第2弾性領域を構成する前記線状樹脂よりも細く構成されている、構造体が提供される。
【0008】
本発明によれば、第1弾性領域を構成する前記線状樹脂は、第2弾性領域を構成する前記線状樹脂よりも細く構成されている。このため、第1弾性領域の弾性と第2弾性領域の弾性とを異ならせたとしても、第1弾性領域の線状樹脂の配置間隔と第2弾性領域の線状樹脂の配置間隔とを変える必要がなくなり、その結果、本発明に係る構造体は、造形時のノズルの走査パスの複雑化が抑制される。
【0009】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
好ましくは、前記造形体は、前記線状構造体が積層されて構成され、第1及び第2弾性領域は、前記線状構造体の最下層から最上層にかけて延びており、第1弾性領域と第2弾性領域とが、連続するように繋がっている、構造体が提供される。
実施形態に係る製造方法は、線状樹脂を吐出するノズルを備えた3次元造形装置を用いる、構造体の製造方法であって、造形ステップを備え、前記造形ステップでは、前記ノズルを走査させながら前記ノズルから前記線状樹脂を吐出させることで造形体を形成し、前記造形ステップを行っているときにおいて、前記ノズルから吐出する前記線状樹脂の太さを変化させる、方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る造形体10を備えた構造体1を模式的に示す斜視図である。
図2図2Aは線状樹脂4bを主に第1方向D1に走査して形成された線状構造体4を模式的に示す平面図であり、図2Bは線状樹脂5bを主に第2方向D2に走査して形成された線状構造体5を模式的に示す平面図であり、図2Cは線状構造体4と線状構造体5とが交互に重ねられて形成された造形体10を模式的に示す平面図である。
図3図3Aは第1弾性領域Rg1と第2弾性領域Rg2とで線状樹脂の太さが異なる造形体10の斜視図であり、図3B図3Aに示す造形体10の上面図である。
図4図4Aは実施形態に係る造形体10を製造する3次元造形装置50を模式的に示す斜視図であり、図4B図4Aに示すヘッド11の内部に設けられているギア機構11A1の模式図である。
図5】3次元造形装置50を制御する制御装置Cntの機能ブロック図である。
図6】ノズル12が、造形テーブル31上に載置された被覆層3へ、線状樹脂を吐出している様子を模式的に示している。
図7】線状構造体5を形成するときに、ノズル12から吐出される線状樹脂の太さを連続的に変化させることを説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴について独立して発明が成立する。
【0012】
(1)構造体1について
図1に示すように、構造体1は、基材層2と被覆層3とを備える。構造体1としては、看護分野(褥瘡予防サポーター、尖足予防サポーター、子供用シーネなど)、スポーツ用途(シューズのインソールなど)などで用いられるものが挙げられる。構造体1は、軟性材料で形成された被覆層3を設けることによって使用感が高められている。構造体1は、被覆層3を生体(例:人体)に接触させて利用する用途に好適である。実施形態では、構造体1がシューズのインソールである。
【0013】
(1-1)基材層2
基材層2は被覆層3が形成される層であり、基材層2と被覆層3とは密着している。基材層2は例えば発泡体やスポンジ体で構成することができる。基材層2を構成する樹脂材料は特に限定されるものではない。なお、実施形態では、構造体1が基材層2及び被覆層3を備えた形態を一例に説明するがそれに限定されるものではない。構造体1は基材層2を備えていなくてもよい。
【0014】
(1-2)被覆層3
被覆層3は、基材層2の少なくとも一部を被覆する。被覆層3は、基材層2を構成する樹脂材料とは異なる樹脂材料で構成されている。図3A及び図3Bに示すように、被覆層3は造形体10から構成されている。なお、実施形態では、被覆層3は造形体10から構成されており、被覆層3は造形体10以外の構成を有していないが、被覆層3は造形体10以外の構成を有してもよい。造形体10は、2種類の線状構造体(後述する線状構造体4、5)が積層されて構成されている。
【0015】
(1-2-1)線状構造体4、5
図2A及び図2Bに示すように、線状構造体4、5が1本の線状樹脂4b、5bによって形成されている。図2Aに示すように線状構造体4を構成する線状樹脂4bは第1方向D1に延びており、図2Bに示すように線状構造体5を構成する線状樹脂5bは第2方向D2に延びている。本実施形態では第1方向D1と第2方向D2とは直交しているが、第1方向D1と第2方向D2とは直交していなくてもよい。また、線状構造体4、5には、複数の溝4a、5aが形成されている。溝4aは第1方向D1に延びており、溝5aは第2方向D2に平行に延びている。すなわち、線状樹脂4bの隣接する一対の直線部4cは間隔があけられており、同様に、線状樹脂5bの隣接する一対の直線部5cには間隔があけられている。
【0016】
造形体10は複数の線状構造体4と複数の線状構造体5を有する構造体であり、線状構造体4及び線状構造体5は交互に積層されている。このため、図3A及び図3Bに示すように、造形体10はメッシュ状に形成されており、造形体10には多数の孔3aが形成されている。その結果、構造体1の通気性が向上するとともに、構造体1の被覆層3の弾力性が向上する。
【0017】
(1-2-2)第1及び第2弾性領域Rg1、Rg2
図3A及び図3Bに示すように、造形体10は第1及び第2弾性領域Rg1、Rg2を有する。第1弾性領域Rg1を構成する線状樹脂は、第2弾性領域Rg2を構成する線状樹脂よりも細く構成されている。具体的には、線状構造体4は第1及び第2弾性領域Rg1、Rg2を有し、線状構造体5も第1及び第2弾性領域Rg1、Rg2を有する。
【0018】
ここで、線状構造体4、5を上面視したときにおいて、線状構造体4の第1弾性領域Rg1の外縁と線状構造体5の第1弾性領域Rg1の外縁とが一致するように、線状構造体4の第1弾性領域Rg1と線状構造体5の第1弾性領域Rg1とは重なっている。同様に、線状構造体4、5を上面視したときにおいて、線状構造体4の第2弾性領域Rg2の縁(外縁及び内縁)と線状構造体5の第2弾性領域Rg2の縁(外縁及び内縁)とが一致するように、線状構造体4の第2弾性領域Rg2と線状構造体5の第2弾性領域Rg2とは重なっている。このように、線状構造体4の第1及び第2弾性領域Rg1、Rg2と線状構造体5の第1及び第2弾性領域Rg1、Rg2とが重ねられているので、造形体10の第1及び第2弾性領域Rg1、Rg2は、線状構造体4、5の最下層から最上層にかけて延びている。
【0019】
また、第1弾性領域Rg1は第2弾性領域Rg2の内側に配置されている。更に、第1弾性領域Rg1と第2弾性領域Rg2とは連続するように繋がっている。つまり、第1弾性領域Rg1と第2弾性領域Rg2との間には介在領域が存在していない。
【0020】
(2)3次元造形装置50について
図4Aに示すように、構造体1の製造方法では、3次元造形装置50を用いる。3次元造形装置50は、ヘッド11と、ノズル12と、枠体20と、一対の第1ガイド部21と、第2ガイド部22と、テーブル駆動部30と、造形テーブル31とを備えている。ヘッド11には樹脂で構成されている線材14が挿入されている。なお、図4Aでは図示省略しているが、3次元造形装置50は、ヘッド11を第2ガイド部22に沿って動かす第1駆動部と、第2ガイド部22を一対の第2ガイド部22に沿って動かす第2駆動部とを備えている。第1駆動部及び第2駆動部は、図5に示すヘッド駆動部15に対応する。更に、図5に示すように、3次元造形装置50は各種のアクチュエータを制御する制御装置Cntを備えている。
【0021】
(2-1)3次元造形装置50の構成
ヘッド11は第2ガイド部22に設けられ、ヘッド11は第1方向D1に移動自在に構成されている。ヘッド11内には、樹脂供給機構11A及びヒーター11B(図5参照)が設けられている。樹脂供給機構11Aはヘッド11に挿入された線材14をノズル12へ送り出す機構であり、樹脂供給機構11Aは、ギア機構11A1(図4B参照)とギア機構を回転させるモーター(図示省略)とから構成することができる。線材14は樹脂供給機構11Aのギア機構に噛み込まれており、このギア機構が回転することで、線材14がノズル12へ送り出される。また、ヒーター11Bはノズル12の上部に配置される。ヒーター11Bが線材14を加熱させることで線材14が軟化し、この軟化した線材14は線状樹脂としてノズル12から吐出される。なお、実施形態では、ギア機構11A1によって線材14をノズル12へ送り出す形態を説明したが、この形態に限定されるものではない。例えば、3次元造形装置50はペレットタイプの樹脂をノズル12へ供給する構成でもよく、具体的には、3次元造形装置50は、ギア機構11A1の代わりに、ペレット状樹脂をノズル12へ供給するスクリューを備えるとともに、当該スクリューを回転させるモーターを備えた構成でもよい。
【0022】
ノズル12はヘッド11の下部に固定されている。ヘッド11が第2ガイド部22に対して移動し、また、第2ガイド部22が一対の第1ガイド部21に対して移動することで、ノズル12は造形テーブル31上を2次元走査する。
【0023】
枠体20は、一対の第1ガイド部21及び第2ガイド部22を支持している。枠体20の内側には、造形テーブル31が配置されている。テーブル駆動部30は造形テーブル31を上下に移動させる機能を有している。任意の層の線状構造体を形成するごとに、テーブル駆動部30が造形テーブル31を下側に移動させていくことで、3次元造形装置50は線状構造体を積層させることができる。
【0024】
(2-2)制御装置Cntの機能ブロック
3次元造形装置50の制御装置Cntは、構造体1を使用する対象物(本実施形態では、人体の足)に係る対象物データを取得する。なお、この取得する対象物データは、例えば、圧力分布データや、外形データである。圧力分布データは対象物にかかる負荷を示すデータであり、外形データは対象物の表面形状を示すデータである。
【0025】
図5に示すように、制御装置Cntは、演算部U1と、動作制御部U2と、記憶部U3とを有する。演算部U1は、取得した対象物データに基づいて、造形体10を造形するための造形データを生成する。この造形データは、走査パスデータと、太さデータとを有する。また、動作制御部U2は、ヘッド駆動部15と、テーブル駆動部30と、樹脂供給機構11Aと、ヒーター11Bとを制御する。記憶部U3は、造形データ等の各種データを記憶する。
【0026】
制御装置Cntに含まれる各機能部は、専用のハードウェア、又は、記憶部U3に格納されるプログラムを実行するMPU(Micro Processing Unit)で構成される。制御装置Cntが専用のハードウェアである場合、制御装置Cntは、例えば、単一回路、複合回路、ASIC(application specific integrated circuit)、FPGA(field-programmable gate array)、またはこれらを組み合わせたものが該当する。制御装置Cntが実現する各機能部のそれぞれを、個別のハードウェアで実現してもよいし、各機能部を一つのハードウェアで実現してもよい。制御装置CntがMPUの場合、制御装置Cntが実行する各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又は、ソフトウェアとファームウェアとの組み合わせ、により実現される。ソフトウェア及びファームウェアはプログラムとして記述され、記憶部U3に格納される。MPUは、記憶部U3に格納されたプログラムを読み出して実行することにより、制御装置Cntの各機能を実現する。記憶部U3は、例えば、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM、EEPROM等の、不揮発性または揮発性の半導体メモリである。
【0027】
走査パスデータはノズル12を2次元走査させるときのノズル12のパスを定めるデータである。走査パスデータは、例えば、ノズル12を2次元走査させるときのノズル12の走査ピッチや、ノズル12を2次元走査させるときのノズル12の座標を定める。図2Aに示す線状構造体4において、走査パスデータが定める走査ピッチはピッチPt1に対応し、図2Bに示す線状構造体5において、走査パスデータが定める走査ピッチはピッチPt2に対応する。また、図2Aに示す線状構造体4において、走査パスデータが定める座標は、例えば第2弾性領域Rg2の外縁の座標P1等の座標であり、図2Bに示す線状構造体5において、走査パスデータが定める座標は、例えば第2弾性領域Rg2の外縁の座標P2等の座標である。また、走査パスデータが定める座標は、第1弾性領域Rg1と第2弾性領域Rg2との境界を定める座標を含む。なお、実施形態においては、走査パスデータが、対象物データに基づいて変わるものとして説明するが、それに限定されるものではない。対象物データが異なっていても、同じ走査パスデータを用いることとしてよい。
【0028】
太さデータは走査パスデータに関連付けられており、太さデータはノズル12から吐出する線状樹脂の太さを定めるデータである。なお、一般的に、線状樹脂が太くなる程、造形体10は硬くなり、線状樹脂が細くなる程、造形体10は柔らかくなる。樹脂供給機構11Aからノズル12へ、単位時間あたりに送り出す線材14の量(線材14の長さ)を変えることで、ノズル12から吐出する線状樹脂の太さを変化させることができる。つまり、動作制御部U2が樹脂供給機構11Aを制御することで、ノズル12から吐出する線状樹脂の太さが変化する。このように、実施形態では、太さデータは樹脂供給機構11Aの制御データに対応している。
【0029】
また、ノズル12から吐出する線状樹脂の太さを変化させる手段はこれに限定されるものではない。ノズル12は、線状樹脂を吐出する開口径が可変となるように構成されていてもよい。つまり、ノズル12には、ノズル12の開口径を変化させる径変更機構が設けられており、動作制御部U2は、造形データに基づいて径変更機構を制御する。この造形データの太さデータは、径変更機構の制御データに対応している。なお、ノズル12の開口径が大きくなる程、線状樹脂が太くなる。更に、ノズル12から吐出する線状樹脂の太さは、例えば、ノズル12の走査速度を変えることで変化させることもできる。つまり、ノズル12が、単位時間あたりに走査する距離を変えることでも、ノズル12から吐出する線状樹脂の太さを変化させることができる。この場合において、太さデータは、ヘッド駆動部15の制御データに対応している。なお、ノズル12の走査速度が遅くなる程、ノズル12が任意の箇所に吐出する線状樹脂の量も増大するので、ノズル12の走査速度が遅くなる程、線状樹脂が太くなる。
【0030】
(3)構造体1の製造方法
実施形態に係る構造体1の製造方法は、取得ステップと、生成ステップと、造形ステップとを備えている。
【0031】
(3-1)取得ステップ
取得ステップにおいて、制御装置Cntは例えば計測機器から対象物データを取得する。計測機器は、足の圧力分布を計測する機器や足の外形をスキャンする機器に対応する。
【0032】
(3-2)生成ステップ
生成ステップでは、制御装置Cntの演算部U1は、対象物データに基づいて、造形体10の造形データを生成する。この生成される造形データは、先述したように、走査パスデータと太さデータとを有する。実施形態において、走査パスデータは、ノズル12を走査するパスを定める他に、第1及び第2弾性領域Rg1、Rg2の範囲を定めている。また、この走査パスデータに関連付けられる太さデータは、第1弾性領域Rg1における樹脂供給機構11Aの制御データ(線材14の送出量)と、第2弾性領域Rg2における樹脂供給機構11Aの制御データ(線材14の送出量)とを定めている。なお、線材14の送出量とは、樹脂供給機構11Aがノズル12へ単位時間あたりに送り出す線材14の量を指している。
【0033】
(3-3)造形ステップ
造形ステップでは、制御装置Cntの動作制御部U2は、造形データに基づいて、ヘッド駆動部15、テーブル駆動部30及び樹脂供給機構11Aを制御する。造形ステップでは、造形テーブル31上に予め製造しておいた基材層2が載置される。なお、基材層2も造形ステップで造形することもできる。
【0034】
また、実施形態において、線状構造体4、5を構成する線状樹脂は、1本の線状樹脂で構成されている。つまり、ノズル12が2次元走査するときにおけるノズル12のパスは一筆書きになっている。なお、図2A及び図2Bに示す線状樹脂4b、5bの形状は、造形ステップにおいて線状構造体4、5を造形するときのノズル12のパスに対応している。
【0035】
動作制御部U2が造形データに基づいてヘッド駆動部15、テーブル駆動部30及び樹脂供給機構11Aを制御すると、次のように各構成が動作する。つまり、図6に示すように、ノズル12のパスのうち第2弾性領域Rg2に属する部分をノズル12が通過しているときには、線材14の送出量が多くなるように樹脂供給機構11Aが動作する。また、ノズル12のパスのうち第1弾性領域Rg1に属する部分をノズル12が通過しているときには、線材14の送出量が少なくなるように樹脂供給機構11Aが動作する。その結果、第1弾性領域Rg1を構成する線状樹脂が、第2弾性領域Rg2を構成する線状樹脂よりも細くなる。
【0036】
動作制御部U2は、線状樹脂4b及び線状樹脂5bのうちの一方の形状に対応するパスを、ノズル12に走査させ終えると、動作制御部U2は、テーブル駆動部30を制御して造形テーブル31を下側に移動させる。そして、動作制御部U2は、線状樹脂4b及び線状樹脂5bのうちの他方の形状に対応するパスを、ノズル12に走査させ、動作制御部U2は、テーブル駆動部30を制御して造形テーブル31を下側に移動させる。このように、ノズル12の走査及び造形テーブル31の移動が繰り返されることで、基材層2上に造形体10が造形され、その結果、3次元造形装置50が構造体1を製造することができる。
【0037】
(4)実施形態の効果
造形体10は第1及び第2弾性領域Rg1、Rg2を有し、第1弾性領域Rg1を構成する線状樹脂は第2弾性領域Rg2を構成する線状樹脂よりも細くなっている。つまり、造形体10は箇所に応じて弾性(クッション性)が異なっており、その結果、造形体10はユーザーの使用感を高めることができる構成となっている。具体的には、第1弾性領域Rg1は、第2弾性領域Rg2よりも柔らかく、第2弾性領域Rg2よりもクッション性に富んでおり、ユーザーの足の荷重は、造形体10のうちの第1弾性領域Rg1の部分で、やさしく受け止められる。なお、図2A等に示す第1及び第2弾性領域Rg1、Rg2の形成位置は一例であり、当該形成位置に限定されるものではない。
【0038】
ここで、実施形態において、ノズル12を2次元走査させるときの走査ピッチは、第1弾性領域Rg1でも第2弾性領域Rg2でも、同様である。具体的には、線状構造体4を造形する場合において、ノズル12を2次元走査させるときの走査ピッチは、全領域において、図2Aに示すピッチPt1であり、すなわち一定である。また、線状構造体5を造形する場合において、ノズル12を2次元走査させるときの走査ピッチは、全領域において、図2Bに示すピッチPt2であり、すなわち一定である。
【0039】
造形体10が箇所に応じて弾性(クッション性)が異なる構成を採用しているにもかかわらず、3次元造形装置50は、ノズル12を2次元走査させるときの走査ピッチを一定としたまま、造形体10を造形することができる。このため、造形体10が箇所に応じて弾性(クッション性)が異なる構成を採用していたとしても、ノズル12の2次元走査パスの複雑化が抑制される。したがって、箇所に応じて弾性(クッション性)が異なる造形体を製造する場合において、2次元走査パスが複雑であるために、3次元造形装置では造形できなくなる又は造形体の構成の変更が必要になる、という状況となることを回避することができる。
【0040】
実施形態に係る造形体10の製造方法は、ノズル12から吐出する線状樹脂の太さを変化させることができる。このため、実施形態に係る造形体10の製造方法は、弾性(クッション性)が連続的に滑らかに変化するような造形体を造形することができる。また、例えば、造形体10の外周部を構成する線状樹脂を太くし、造形体10の外周部の内側の部分を構成する線状樹脂を細くしたい場合もある。このような場合においても、実施形態に係る造形体10の製造方法は有利な効果を奏する。図7に示すように、ノズル12が直線部5cを走査しているときには、ノズル12から吐出する線状樹脂を細くし、ノズル12が端部5dを走査しているときには、ノズル12から吐出する線状樹脂を太くする。そして、ノズル12が、直線部5cと端部5dとの間に配置される移行部5eを、走査しているときには、ノズル12から吐出する線状樹脂を、徐々に太くする、又は、徐々に細くする。これにより、図7に示すように、線状構造体5の外周部(造形体10の外周部に対応)を硬めに構成し、線状構造体5の外周部の内側の部分を柔らかめに構成することができる。
【0041】
例えば、充填率コントロール手法では、隣接する一対の線状樹脂の配置間隔を狭くすることで、すなわち充填率を大きくすることで造形体を硬くすることができる。しかし、隣接する一対の線状樹脂の配置間隔を狭くすると、その分、ノズル12の走査ピッチが短くなり、ノズル12の走査時間が増え、その結果、造形体10の造形時間が長くなる。実施形態に係る造形体10の製造方法は、ノズル12から吐出する線状樹脂の太さを変化させることで、造形体10の各箇所に応じて弾性(クッション性)を異ならせることができる。このため、実施形態に係る造形体10の製造方法では、線状樹脂の配置間隔を狭くせずに、線状樹脂の太さを太くすることで、造形体10を硬くすることができる。つまり、実施形態に係る造形体10の製造方法は、造形体10を硬くする場合において造形体10の造形時間が長くなることを抑制することができる。
【0042】
対象物データが異なっていても同じ走査パスデータを用いる場合において、実施形態に係る造形体10の製造方法は有利な効果を奏する。つまり、実施形態に係る造形体10の製造方法はノズル12から吐出する線状樹脂の太さを変化させることで、造形体10の各箇所に応じて弾性(クッション性)を異ならせることができるので、当該製造方法では、制御装置Cntに記憶させておく走査パスデータのバリエーションを抑制したり、制御装置Cntが走査パスデータを算出するときの負荷を抑制したり、することができる。このように、実施形態に係る製造方法は、造形体10を造形するときの制御装置Cntの処理の煩雑さを抑制することができ、その結果、実施形態に係る製造方法は、構造体1を製造するプロセスを自動化させやすい。
【0043】
仮に、ノズル12を2次元走査させるときの走査ピッチが、第1弾性領域Rg1と第2弾性領域Rg2とで異なる場合には、第1弾性領域Rg1の弾性と第2弾性領域Rg2の弾性とを異ならせることはできるものの、ノズル12のパスを一筆書きで構成することが困難になる。特に、実施形態に係る造形体10のように、第1弾性領域Rg1が第2弾性領域Rg2の内側に配置されている場合には、ノズル12のパスを一筆書きで構成することがより困難になりやすい。このため、ノズル12を2次元走査させるときの走査ピッチが、第1弾性領域Rg1と第2弾性領域Rg2とで異なる場合には、例えば第1弾性領域Rg1と第2弾性領域Rg2とを別々に造形する必要が生じる。第1弾性領域Rg1と第2弾性領域Rg2とを別々に造形すると、第1弾性領域Rg1と第2弾性領域Rg2とが不連続になるため、第1弾性領域Rg1が第2弾性領域Rg2から外れてしまい、造形体(インソール)の使用感が悪化し、造形体の品質の低下に繋がる。また、第1弾性領域Rg1と第2弾性領域Rg2とを別々に造形すると、造形体の造形時間が長くなる。しかしながら、実施形態に係る造形体10において、第1弾性領域Rg1と第2弾性領域Rg2とが連続するように繋がっている。このため、実施形態に係る造形体10は品質の低下が抑制されるとともに、造形時間の長期化が抑制される。
【符号の説明】
【0044】
1 :構造体
2 :基材層
3 :被覆層
3a :孔
4 :線状構造体
4a :溝
4b :線状樹脂
4c :直線部
5 :線状構造体
5a :溝
5b :線状樹脂
5c :直線部
5d :端部
5e :移行部
10 :造形体
11 :ヘッド
11A :樹脂供給機構
11A1:ギア機構
11B :ヒーター
12 :ノズル
14 :線材
15 :ヘッド駆動部
20 :枠体
21 :第1ガイド部
22 :第2ガイド部
30 :テーブル駆動部
31 :造形テーブル
50 :3次元造形装置
Cnt :制御装置
D1 :第1方向
D2 :第2方向
P1 :座標
P2 :座標
Pt1 :ピッチ
Pt2 :ピッチ
Rg1 :第1弾性領域
Rg2 :第2弾性領域
U1 :演算部
U2 :動作制御部
U3 :記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7