(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】回転部材およびその形成方法
(51)【国際特許分類】
F16H 55/30 20060101AFI20221110BHJP
【FI】
F16H55/30 C
(21)【出願番号】P 2018182641
(22)【出願日】2018-09-27
【審査請求日】2021-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【氏名又は名称】藤本 信男
(74)【代理人】
【識別番号】100110515
【氏名又は名称】山田 益男
(74)【代理人】
【識別番号】100189083
【氏名又は名称】重信 圭介
(72)【発明者】
【氏名】高木 雄大
(72)【発明者】
【氏名】榑松 勇二
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-108508(JP,A)
【文献】特開2007-298077(JP,A)
【文献】特開2005-201295(JP,A)
【文献】特開平06-114405(JP,A)
【文献】実開昭58-049057(JP,U)
【文献】特開平09-231559(JP,A)
【文献】実開昭54-111250(JP,U)
【文献】特開2002-122123(JP,A)
【文献】特開2003-172332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボス部を有し、前記ボス部の軸方向の両端面の少なくとも一方の端面に滑り止め面を有する回転部材であって、
前記滑り止め面は、周囲凸状部を有するクレータ状凹部を複数有し、
前記複数のクレータ状凹部の少なくとも一部は、列状に配置された複数のクレータ列部を構成することを特徴とする回転部材。
【請求項2】
前記クレータ列部は、前記周囲凸状部の稜線の直径をD、隣り合うクレータ状凹部のピッチをpとした場合、
p/D≦1
となるよう複数の前記クレータ状凹部が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の回転部材。
【請求項3】
前記複数のクレータ列部の一部あるいは全部が、前記滑り止め面に放射状に延びるよう形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の回転部材。
【請求項4】
前記クレータ列部を構成する各クレータ状凹部は、前記周囲凸状部の一部に、隣接するクレータ状凹部の打刻によって形成された変形凸状部を有し、
前記複数のクレータ列部は、前記クレータ状凹部の前記変形凸状部が前記ボス部の外周側に位置するように並ぶクレータ列部と、前記クレータ状凹部の前記変形凸状部が前記ボス部の内周側に位置するように並ぶクレータ列部とが混在していることを特徴とする請求項3に記載の回転部材。
【請求項5】
前記複数のクレータ列部の一部あるいは全部が、前記滑り止め面に円周状に延びるよう形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の回転部材。
【請求項6】
前記複数のクレータ列部の一部あるいは全部が、前記滑り止め面に螺旋状に延びるよう形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の回転部材。
【請求項7】
ボス部を有し、前記ボス部の軸方向の両端面の少なくとも一方の端面に滑り止め面を有する回転部材の形成方法であって、
前記滑り止め面に、打刻により周囲凸状部を有する複数のクレータ状凹部を形成し、
前記複数の打刻の少なくとも一部は、列状に打刻されて複数のクレータ列部を形成することを特徴とする回転部材の滑り止め形成方法。
【請求項8】
前記列状の打刻は、前記周囲凸状部の稜線の直径をD、隣り合うクレータ状凹部のピッチをpとした場合、
p/D≦1
となるよう打刻することを特徴とする請求項7に記載の回転部材の形成方法。
【請求項9】
前記列状の打刻の一部あるいは全部が、前記滑り止め面に放射状に延びるよう打刻することを特徴とする請求項7または請求項8に記載の回転部材の形成方法。
【請求項10】
前記クレータ列部を構成する各クレータ状凹部は、隣接するクレータ状凹部の打刻によって前記周囲凸状部が一部変形した変形凸状部が形成され、
前記クレータ状凹部の前記変形凸状部が前記ボス部の外周側に位置するように並ぶクレータ列部と、前記クレータ状凹部の前記変形凸状部が前記ボス部の内周側に位置するように並ぶクレータ列部とが混在するように、前記複数のクレータ列部を形成することを特徴とする請求項9に記載の回転部材の形成方法。
【請求項11】
前記列状の打刻の一部あるいは全部が、前記滑り止め面に円周状に延びるよう打刻することを特徴とする請求項7乃至請求項10のいずれかに記載の回転部材の形成方法。
【請求項12】
前記列状の打刻の一部あるいは全部が、前記滑り止め面に螺旋状に延びるよう打刻することを特徴とする請求項7乃至請求項11のいずれかに記載の回転部材の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボス部を有し、前記ボス部の軸方向の両端面の少なくとも一方の端面に滑り止め面を有する回転部材およびその形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ボス部を有し、ボス部の軸方向の両端面の少なくとも一方の端面からトルクを伝達可能な回転部材において、当該端面に滑り止め加工を施した滑り止め面を設けたものは公知である。
例えば、
図1に示すような、ボス部501と、外周に沿って形成された複数の歯502とを有する回転部材であるスプロケット500を、クランクシャフト(図示せず)に固定する際には、クランクシャフトの端部にボス部501を挿入し、ボルト等で軸方向に締め付けることで、クランクシャフトの端面とボス部501の端面503の間でトルクが伝達されるものが知られている。
【0003】
このような回転部材において、滑りが生じないように、対向する端面と当接する端面503に滑り止め面511が形成されたものが知られている。
そして、一般的な滑り止め面の形成手段として、ショットピーニング等で表面に凹凸を付与して粗面化し、摩擦係数を増加させるものは周知である。
また、スプロケットのボス部の端面にレーザー加工により凹凸を形成し、締付け力によって凸部を積極的に対向面に食い込ませることでより強固に滑り止めをするものも公知である(特許文献1等参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ショットピーニング等で表面に凹凸を付与して粗面化したものでは、摩擦係数は増大するもの、対向面に食い込むような凸部を設けることができない。
特許文献1に記載された技術では、レーザー加工により対向面に食い込むような凸部を設けることが可能となるものの、溶融した材料が溝の周辺に盛り上がって凸部が形成されるため、凸部の頂点は滑らかな曲線となり、レーザーの熱による硬化、対向面の材料等の諸条件をクリアする必要があり、出力の調整も精度良く行う必要があった。
また、レーザー加工機自体も高価なものであり、製造コストが高くなるという問題があった。
【0006】
さらに、凸部が、レーザーで溝加工した際の溝の両側に沿った線上の凸部となることから、溝に対し平行な方向には滑り止めの効果が小さいという問題があった。
特許文献1の
図4、
図6の上段のように、溝を連続させないことで、溝の端部にも凸部を設けるものも記載されているが、レーザー加工による溝の幅は極めて小さいため、溝に対し平行な方向の滑り止めの効果は極めて小さい。
すなわち、回転トルクに対する滑り止めを行うため放射状に溝加工した場合、径方向に対する滑り止めが充分に行われず、振動や軸ブレに対する回転部材のガタツキを充分に防止することができないという問題があった。
【0007】
本発明は、これらの問題点を解決するものであり、簡単な構成で、対向面に食い込ませる凸部を形成することができるとともに、方向による滑り止め効果の減少を抑制し、トルク方向と同時に径方向に対しても充分に滑り止めを行うことが可能な回転部材およびその形成方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る回転部材は、ボス部を有し、前記ボス部の軸方向の両端面の少なくとも一方の端面に滑り止め面を有する回転部材であって、前記滑り止め面は、周囲凸状部を有するクレータ状凹部を複数有し、前記複数のクレータ状凹部の少なくとも一部は、列状に配置された複数のクレータ列部を構成することにより、前記課題を解決するものである。
本発明に係る回転部材の滑り止め形成方法は、ボス部を有し、前記ボス部の軸方向の両端面の少なくとも一方の端面に滑り止め面を有する回転部材の形成方法であって、前記滑り止め面に、打刻により周囲凸状部を有する複数のクレータ状凹部を形成し、前記複数の打刻の少なくとも一部は、列状に打刻されて複数のクレータ列部を形成することにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0009】
本請求項1に係る回転部材および請求項7に係る回転部材の滑り止め形成方法によれば、滑り止め面に、打刻により周囲凸状部を有する複数のクレータ状凹部を形成することにより、周囲凸状部が打刻で形成されていることで先端が鋭く立ち上がった形状となり、り、対向面に容易に食い込むことが可能となる。
また、周囲凸状部が打刻周囲に連続的に形成されているから、対向面に食い込んだ際にすべての方向に対して滑り止め効果を奏するものとなり、方向による滑り止め効果の減少を抑制し、トルク方向と同時に径方向に対しても充分に滑り止めを行うことが可能となる。
また、複数の打刻の少なくとも一部は、列状に打刻されて複数のクレータ列部を形成することにより、周囲凸状部の配置に規則性を付与して、打刻を容易にするとともに、方向による周囲凸状部の密度を変え、方向による滑り止め効果の強弱を積極的に付与することが可能となる。
さらに、打刻を行う装置は汎用品が使用可能であり、その制御も容易であることから、簡単な構成で、少ないコストで回転部材を製造可能である。
【0010】
本請求項2および請求項8に記載の構成によれば、列状の打刻は、前記周囲凸状部の稜線の直径をD、隣り合うクレータ状凹部のピッチをpとした場合、p/D≦1となるよう打刻することにより、クレータ列部の伸びる方向の周囲凸状部の密度が増加し、その垂直方向に対する滑り止め効果が極めて高くなる。
また、順次打刻していくことから、隣り合うクレータ状凹部の周囲凸状部がオーバーラップする部分にもある程度の凸部を残すことが可能であり、クレータ列部の伸びる方向の滑り止め効果の減少が抑制することができる。
また、順次打刻していくことから、隣り合うクレータ状凹部の周囲凸状部がオーバーラップする部分の両端付近には、元の周囲凸状部よりもさらに高い凸部を形成することが可能であり、より滑り止め効果が高くなる。
【0011】
本請求項3および請求項9に記載の構成によれば、回転トルクに対する滑り止め効果を極め高くすることが可能となる。
本請求項4および請求項10に記載の構成によれば、全体として変形凸状部の方向をランダムとすることができ、クレータ列部の伸びる方向の滑り止め効果を均一化することが可能となる。
また、順次打刻する際、回転部材の内周側から外周側、外周側から内周側と交互に連続して打刻することも可能となり、製造がさらに容易となる。
本請求項5および請求項11に記載の構成によれば、径方向に対する滑り止め効果を極め高くすることが可能となる。
本請求項6および請求項12に記載の構成によれば、回転トルクに対する滑り止め効果と径方向に対する滑り止め効果のバランスを、任意に設計することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】滑り止め面を有する回転部材(スプロケット)の(a)参考正面図および(b)参考側面図。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る回転部材の正面図(一部)。
【
図4】第1実施形態の変形例に係る回転部材の正面図(一部)。
【
図5】第1実施形態の他の変形例に係る回転部材の正面図(一部)。
【
図6】本発明の第2実施形態に係る回転部材の正面図(一部)。
【
図7】本発明の第3実施形態に係る回転部材の正面図(一部)。
【
図8】本発明の第4実施形態に係る回転部材の正面図(一部)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の回転部材は、ボス部を有し、前記ボス部の軸方向の両端面の少なくとも一方の端面に滑り止め面を有する回転部材であって、前記滑り止め面は、周囲凸状部を有するクレータ状凹部を複数有し、前記複数のクレータ状凹部の少なくとも一部は、列状に配置された複数のクレータ列部を構成され、また、本発明に係る回転部材の滑り止め形成方法は、ボス部を有し、前記ボス部の軸方向の両端面の少なくとも一方の端面に滑り止め面を有する回転部材の形成方法であって、前記滑り止め面に、打刻により周囲凸状部を有する複数のクレータ状凹部を形成し、前記複数の打刻の少なくとも一部は、列状に打刻されて複数のクレータ列部を形成し、簡単な構成で、対向面に食い込ませる凸部を形成することができるとともに、方向による滑り止め効果の減少を抑制し、トルク方向と同時に径方向に対しても充分に滑り止めを行うことが可能な回転部材およびその形成方法を提供するものであれば、その具体的な構成はいかなるものであってもよい。
【実施例1】
【0014】
本発明の第1実施形態に係る回転部材であるスプロケット100は、
図2に示すように、外周に沿って形成された複数の歯102を有し、クランクシャフト(図示せず)に固定する際には、クランクシャフトの端部にボス部101が挿入され、ボルト等で軸方向に締め付けることで、ボス部101の端面103に形成された滑り止め面111がクランクシャフトに当接してトルクが伝達されるように形成されている。
滑り止め面111は、周囲凸状部121を有するクレータ状凹部120が連続して打刻されたクレータ列部112を有しており、複数のクレータ列部112は放射状に配置されている。
【0015】
クレータ列部112における複数のクレータ状凹部120は、周囲凸状部121の稜線122の直径をD、隣り合うクレータ状凹部120のピッチをpとした場合、
p/D≦1
となるよう、すなわち、直前に打刻したクレータ状凹部120の周囲凸状部121の稜線122に、次に打刻する隣のクレータ状凹部120の周囲凸状部121がオーバーラップするように、順次打刻される。
【0016】
順次、オーバーラップして打刻した際の形状変化について、
図3を基に説明する。
まず、最上段のクレータ状凹部120aが打刻されると稜線122aを有する周囲凸状部121aが形成される。
次に、クレータ状凹部120aとオーバーラップするように中段のクレータ状凹部120bが打刻されると、クレータ状凹部120aの周囲凸状部121aの下方のオーバーラップした部分がクレータ状凹部120bの周囲凸状部121bと連続する円周形状に変形し、変形凸状部123aが形成される。
また、オーバーラップする両端部付近は、頂点が元の周囲凸状部121aよりもさらに突出した凸部増大部124aが形成される。
クレータ状凹部120bの打刻に続いてクレータ状凹部120cが打刻されたときも、同様に変形凸状部123b、凸部増大部124bが形成され、これが連続して繰り返される。
【0017】
本実施形態では、複数の放射状のクレータ列部112は、
図2の矢印で示す経路に沿って、スプロケット100の内周側から外周側、外周側から内周側と交互に連続して打刻されている。
なお、複数の放射状のクレータ列部112は、
図4に示すように、すべてスプロケット100の内周側から外周側に打刻(変形凸状部が内周側に位置する)されていてもよく、
図5に示すように、すべて外周側から内周側に打刻(変形凸状部が外周側に位置する)されていてもよい。
さらに、内周側から外周側および外周側から内周側に打刻されたクレータ列部112が不規則に混在していてもよい。
【実施例2】
【0018】
本発明の第2実施形態に係る回転部材であるスプロケットは、
図6に示すように、放射状に配置された複数のクレータ列部112のクレータ状凹部が、それぞれオーバーラップせずに独立しており、その他の構成は、前述の第1実施形態と同様である。
【実施例3】
【0019】
本発明の第3実施形態に係る回転部材であるスプロケットは、
図7に示すように、クレータ列部112を構成するクレータ状凹部が、周方向に伸びるように配置されており、その他の構成は、前述の第1実施形態と同様である。
図示では、クレータ列部112が1本のみであるが、周方向に並行して複数のクレータ列部112を設けてもよい。
【実施例4】
【0020】
本発明の第4実施形態に係る回転部材であるスプロケットは、
図8に示すように、複数のクレータ列部112を構成するクレータ状凹部が、螺旋状に伸びるように配置されており、その他の構成は、前述の第1実施形態と同様である。
【0021】
以上説明した各実施形態は、それぞれ、全周にわたって同様に設けられることを想定したものであるが、部分ごとに打刻の密度や方向が異なるもの、連続的に変化するもの、各実施形態の態様を混在させたものであってもよく、クレータ列部が交差するように設けられるものであってもよい。
また、クレータ状凹部は、周囲凸状部が円周状に形成されるものを例示したが、同様の効果を奏するものであれば、楕円形状、多角形状に形成されるものであってもよい。
打刻のための装置は、端面に連続的に打刻できるものであれば、いかなるものであってもよい。
さらに、回転部材としてスプロケットを例示したが、端面からトルクを受ける回転部材であれば、いかなるものであってもよく、種々の産業分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0022】
100、500 ・・・ スプロケット(回転部材)
101、501 ・・・ ボス部
102、502 ・・・ 歯
110、503 ・・・ 端面
111、511 ・・・ 滑り止め面
112 ・・・ クレータ列部
120 ・・・ クレータ状凹部
121 ・・・ 周囲凸状部
122 ・・・ 稜線
123 ・・・ 変形凸状部
124 ・・・ 凸部増大部