(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】自動車用合せガラス、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 27/12 20060101AFI20221110BHJP
C03B 23/023 20060101ALI20221110BHJP
C03C 3/083 20060101ALI20221110BHJP
C03C 3/085 20060101ALI20221110BHJP
C03C 3/087 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
C03C27/12 R
C03B23/023
C03C3/083
C03C3/085
C03C3/087
(21)【出願番号】P 2019546592
(86)(22)【出願日】2018-09-10
(86)【国際出願番号】 JP2018033386
(87)【国際公開番号】W WO2019069628
(87)【国際公開日】2019-04-11
【審査請求日】2021-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2017195577
(32)【優先日】2017-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 洋貴
(72)【発明者】
【氏名】三田村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】内藤 拓真
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-516878(JP,A)
【文献】特開2004-155632(JP,A)
【文献】国際公開第2005/063043(WO,A1)
【文献】特表2009-526731(JP,A)
【文献】国際公開第2014/054468(WO,A1)
【文献】特表2010-528968(JP,A)
【文献】特表2005-505483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 23/00-35/26
40/00-40/04
C03C 1/00-14/00
27/00-29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用合せガラスであって、
熱可塑性中間膜層、及び前記熱可塑性中間膜層を介して対向して配置された、室外側に配置される湾曲した第一ガラス板と、室内側に配置される湾曲した第二ガラス板とを備え、
前記第一ガラス板、及び前記第二ガラス板の材質は、ソーダ石灰珪酸塩ガラスであり、
前記第一ガラス板と前記第二ガラス板とは、徐冷点温度の差が±5℃内で、軟化点温度の差が±5℃内の差であり、
前記第一ガラス板のガラス組成中のFeO含有量が0.1質量%~0.5質量%であり、
前記第二ガラス板のガラス組成中のFeO含有量が0質量%~0.05質量%であり、
前記第二ガラス板の厚さが0.5mm~1.8mmであり、
前記第一ガラス板の厚さは、前記第二ガラス板の厚さの、1.1倍~1.4倍である、
自動車用合せガラス。
【請求項2】
前記第一ガラス板の厚さが0.7mm~2mmであることを特徴とする請求項1に記載の自動車用合せガラス。
【請求項3】
第二ガラス板の厚さが0.5~0.9mmである、請求項1又は2に記載の自動車用合せガラス。
【請求項4】
自動車用合せガラスの製造方法であって、
平板状の第一ガラス板と、平板状の第二ガラス板とを重ねた状態で、軟化点近傍まで加熱して自重曲げ成形法、又はプレス成形法によって、所望の形状に湾曲成形して冷却する、
ガラス板の成形工程と、
重ねた状態で湾曲化した第一ガラス板と第二ガラス板とを一旦分離する工程と、
湾曲化した前記第一ガラス板と前記第二ガラス板とを、熱可塑性中間膜層を介して積層する、積層工程と、
前記熱可塑性中間膜層と、第一ガラス板と、第二ガラス板とを熱圧着する、合せ化工程と
を備え、
前記第一ガラス板、及び前記第二ガラス板の材質は、ソーダ石灰珪酸塩ガラスであり、
前記第一ガラス板と前記第二ガラス板は、前記第一ガラス板と前記第二ガラス板とは、徐冷点温度の差が±5℃内で、軟化点温度の差が±5℃内の差であり、
前記第一ガラス板のガラス組成中のFeO含有量0.1質量%~0.5質量%であり、
前記第二ガラス板のガラス組成中のFeO含有量0質量%~0.05質量%であり、
前記第二ガラス板の厚さが0.5mm~1.8mmであり、
前記第一ガラス板の厚さは、前記第二ガラス板の厚さの、1.1倍~1.4倍である、
自動車用合せガラスの製造方法。
【請求項5】
前記成形工程において、前記第一ガラス板と、前記第二ガラス板とは、ガラス板を予熱する予熱ゾーン内を搬送されて後、ガラス板の曲げ成形ゾーンに送られ、前記成形ゾーンで所望の形状に湾曲する、請求項4に記載の自動車合せガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用合せガラス、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車では、年々、ガソリン燃料や、電気などのエネルギー効率向上が要求されてきており、それに使用される部材の軽量化が求められてきている。この背景のもと、自動車の窓ガラスに使用される、自動車用合せガラスでは、各ガラス板の厚みが異なる合せガラスであって、室外側に配置されるガラス板の厚みを1.45mm~1.8mm、室内側に配置されるガラス板の厚みを1.0mm~1.4mmとし、室内側に配置されるガラス板の方の厚みを薄いものとする、構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
自動車用合せガラスは、湾曲した構造を有しているため、2枚の板ガラスは、同一の湾曲形状に成形されている必要がある。そのため、2枚のガラス板は、重ねられた状態で、各ガラス板の軟化点温度近傍に加熱されて、曲げ成形される(例えば、特許文献2、3参照)。当該方法では、2枚のガラス板の同一の湾曲形状への成形が技術的課題となる。特許文献2は、積層された2枚のガラス板を曲げ成形するための成形炉にて、上側に配置されたガラス板(室内側のガラス板)の方が加熱されやすい条件下(すなわち、上側に配置されたガラス板の方が曲がりやすい)での、2枚のガラス板の湾曲形状を同等とするために、下側に配置されるガラス板の方が早く軟化されやすい構成のものとすることを開示している。そして、その構成例として、下側に配置されるガラス板の赤外吸収性を高いものとすることが開示されている。特許文献3は、加熱による曲げ成形時には、薄いガラス板は、厚いガラス板よりも変形しやすいことを課題とし、ガラス板を曲げ成形する温度雰囲気下で、厚いガラス板の粘度が、薄いガラス板の粘度よりも低い粘度となるように各ガラス板のガラス組成を調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2013-525235号公報
【文献】特開平3-205321号公報
【文献】WO2014/054468号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動車用合せガラスの軽量化のためには、車外側に配置されるガラス板の剛性を下げないために、室内側に配置されるガラス板を薄いものとすることが好ましい。しかし、前途したように、加熱による曲げ成形時に、薄いガラス板は、厚いガラス板よりも変形しやすいので、2枚の板ガラスを、同一の湾曲形状に成形することが難しいものとなる。
【0006】
本発明は、薄い厚さのガラス板を用いた場合における、車内側、車外側に配置されるガラス板を同一の湾曲形状に成形しやすい、合せガラス構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の自動車用合せガラスは、
熱可塑性中間膜、及び前記熱可塑性中間膜を介して対向して配置された、室外側に配置される湾曲した第一ガラス板と、室内側に配置される湾曲した第二ガラス板とを備え、前記第一ガラス板と前記第二ガラス板とは、徐冷点温度の差が±5℃内で、軟化点温度の差が±5℃内の差であり、
前記第一ガラス板のガラス組成中のFeO含有量が0.1質量%~0.5質量%であり、前記第二ガラス板のガラス組成中のFeO含有量が0質量%~0.05質量%であり、
前記第一ガラス板の厚さは、前記第二ガラス板の厚さの、1.1倍~1.4倍である、ことを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の自動車用合せガラスの製造方法は、
平板状の第一ガラス板と、平板状の第二ガラス板とを重ねた状態で、軟化点近傍まで加熱して自重曲げ成形法、又はプレス成形法によって、所望の形状に湾曲成形して冷却する、ガラス板の成形工程と、
曲化した前記第一ガラス板と前記第二ガラス板とを、熱可塑性中間膜を介して積層する、積層工程と、
前記熱可塑性中間膜と、第一ガラス板と、第二ガラス板とを熱圧着する、合せ化工程とを備え、
前記第一ガラス板と前記第二ガラス板は、前記第一ガラス板と前記第二ガラス板とは、徐冷点温度の差が±5℃内で、軟化点温度の差が±5℃内の差であり、
前記第一ガラス板のガラス組成中のFeO含有量0.1質量%~0.5質量%であり、
前記第二ガラス板のガラス組成中のFeO含有量0質量%~0.05質量%であり、
前記第二ガラス板の厚さが0.5mm~1.8mmであり、
前記第一ガラス板の厚さは、前記第二ガラス板の厚さの、1.1倍~1.4倍である、ことを特徴とするものである。
【0009】
ガラス板の曲げ成形は、ガラス板の粘度に支配されるので、第一ガラス板と、第二ガラス板とが、同じガラス組成や、近似したガラス組成からなる場合、静的な温度条件では、2枚のガラス板の曲げ挙動はガラス板の厚さによらず同等になると見込まれる。しかしながら、工業的な生産条件においては、第一、第二ガラス板は、室温から曲げ成形温度まで所定時間で、加熱される、動的な条件となるので、ガラス板の曲げ挙動の要因はより複雑となる。
【0010】
厚いガラス板の粘度が、薄いガラス板の粘度よりも低い粘度となるように各ガラス板のガラス組成を調整することは一つの解決手段のように思われる。しかしながら、その場合、各ガラス板が、異なる徐冷点温度、異なる軟化点温度を持つため、ガラス板の曲げ挙動の要因をより複雑なものとするおそれがある。本発明の合せガラス、及び合せガラスの製造方法においては、まず、第一、第二ガラス板の徐冷点温度の差が±5℃内で、軟化点温度の差が±5℃内として、この懸念が無いものとした。
【0011】
その上で、前記第一ガラス板のガラス組成中のFeO含有量を0.1質量%~0.5質量%、前記第二ガラス板のガラス組成中のFeO含有量0質量%~0.05質量%とし、さらには、前記第一ガラス板の厚さを、前記第二ガラス板の厚さの、1.1倍~1.4倍としているので、ガラス板の曲げ成形時において、2枚のガラス板を同等の湾曲形状とすることに奏功した。
【0012】
尚、前記徐冷点温度、前記軟化点温度は、それぞれ、JIS R 3103-2(2001年)、JIS R 3103-1(2001年)に従って得るこができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の自動車用合せガラスは、薄い厚さのガラス板を用いた場合でも、車内側、車外側に配置されるガラス板を同一の湾曲形状に成形しやすい構造である。本発明によれば、軽量化に資する自動車用の合せガラスを提供しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の自動車用合せガラス(断面)を概略的に説明する図である。
【
図2】加熱時のガラス板の曲げ挙動を検証するための装置の要部を模式的に示す図である。
【
図3】加熱を経て自重により曲げられたガラス板試料の曲げ量の計測方法を模式的に示す図である。
【
図4】本発明の自動車用合せガラスの製造方法における、平面状の第一・第二ガラス板を湾曲化する工程を模式的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の自動車用合せガラス1を図面で説明する。
図1は、本発明の自動車用合せガラスの断面を概略的に説明するものである。自動車用合せガラス1は、熱可塑性中間膜3、及び前記熱可塑性中間膜を介して対向して配置された、湾曲した第一ガラス板21と湾曲した第二ガラス板22とを備える。前記第一ガラス板21、前記第二ガラス板22としては、平板の第一ガラス板21、第二ガラス板22が湾曲形状に加工されたものが使用される。第一ガラス板21、第二ガラス板22の材質としては、双方とも、ISO16293-1で規定されているようなソーダ石灰珪酸塩ガラスの他、アルミノシリケートガラスやホウケイ酸塩ガラス等の公知のガラス組成のものを使用することができる。また、第一ガラス板21、第二ガラス板22は、フロートプロセスによって得られたものとしてもよい。
【0016】
第一ガラス板21と、第二ガラス板22との徐冷点温度は差、軟化点温度の差は、それぞれ、±5℃内、±5℃内とされる。例えば、両ガラス板が、ISO16293-1で規定されているようなソーダ石灰珪酸塩ガラスからなる場合、徐冷点温度は、500℃~600℃、軟化点温度は、700℃~800℃となる。
【0017】
このような熱物性を有する、両ガラス板を構成するガラス組成は、実質的には同じか、類似したものを適用でき、第一ガラス板21と、第二ガラス板22との徐冷点温度は差、軟化点温度の差が、それぞれ、±5℃内、±5℃内となるようにガラス組成が選択される。両ガラス板を構成するガラス組成は、実質的には同じか、類似したものを適用することをより確実なものとするために、各物性の温度差は、±4℃内、好ましく±3℃内、より好ましくは±2℃内、さらに好ましくは±1℃内としてもよい。
【0018】
第一ガラス板21を構成する、ガラス組成例として、各成分を質量%で、
SiO2;60%~80%、好ましくは64%~77%、より好ましくは67%~74%Al2O3;0%~20%、好ましくは0%~12%、より好ましくは0%~6%
Na2O ;10%~20%、好ましくは10%~18%、より好ましくは10%~15%
K2O ;0%~8%、好ましくは0%~5%、より好ましくは0%~3%
MgO ;0%~15%、好ましくは0%~12%、より好ましくは0%~6%
CaO ;0%~15%、好ましくは3%~13%、より好ましくは5%~10%
鉄酸化物(Fe2O3換算);0.2%~2%、好ましくは0.2%~1.8%、
より好ましくは0.2%~1.6%
FeO ;0.1%~0.50%、好ましくは0.1%~0.45%、
より好ましくは0.1%~0.40%
を含有するものが挙げられる。前記鉄酸化物の成分量は、Fe2O3換算での成分量なので、FeOの成分量との重複を包含する。また、これら成分以外にも、酸化バリウム、酸化ジルコニウム、酸化硫黄等を任意成分として本発明の趣旨を損なわい程度に、例えば、1.0質量%まで含んでもよい。
【0019】
第二ガラス板22を構成する、ガラス組成例として、各成分を質量%で、
SiO2;60%~80%、好ましくは64%~77%、より好ましくは67%~74%Al2O3;0%~20%、好ましくは0%~12%、より好ましくは0%~6%
Na2O ;10%~20%、好ましくは10%~18%、より好ましくは10%~15%
K2O ;0%~8%、好ましくは0%~5%、より好ましくは0%~3%
MgO ;0%~15%、好ましくは0%~12%、より好ましくは0%~6%
CaO ;0%~15%、好ましくは3%~13%、より好ましくは5%~10%
鉄酸化物(Fe2O3換算);0%~0.15%、好ましくは0%~0.13%、
より好ましくは0%~0.11%
FeO ;0%~0.05%、好ましくは0%~0.04%、より好ましくは0%~0.03%を含有するものが挙げられる。前記鉄酸化物の成分量は、Fe2O3換算での成分量なので、FeOの成分量との重複を包含する。また、これら成分以外にも、酸化バリウム、酸化ジルコニウム、酸化硫黄等を任意成分として本発明の趣旨を損なわい程度に、例えば、1.0質量%まで含んでもよい。
【0020】
以上に挙げられた成分の中でも、FeOの含有量は、平板の第一、第二ガラス板21、22の加熱時の湾曲形状の形成に影響を与える。以下に各種平板のガラス板を加熱したときのガラス板の曲げ挙動を検証した結果を示す。
図2は、加熱時のガラス板の曲げ挙動を検証するための装置の要部を模式的に示す図である。
図3は、加熱を経て自重により曲げられたガラス板試料の曲げ量の計測方法を模式的に示す図である。
【0021】
検証用のガラス板として、
SiO2(71質量%)-Al2O3(2質量%)-Na2O(13質量%)-K2O(1.4質量%)-MgO(3.6質量%)-CaO(8.5質量%)-鉄酸化物(Fe2O3換算で、0.5質量%;FeOは0.12質量%)のガラス組成から構成されるガラス板A(徐冷点温度551℃、軟化点温度734℃)、
SiO2(72質量%)-Al2O3(2質量%)-Na2O(13質量%)-K2O(1.3質量%)-MgO(3.7質量%)-CaO(8.4質量%)-鉄酸化物(Fe2O3換算で、0.1質量%;FeOは0.02質量%)のガラス組成から構成されるガラス板B(徐冷点温度551℃、軟化点温度733℃)、
につき、平板のガラス板試料2s(60mm×45mmサイズ)を準備した。そして、以下の手順に各種ガラス板試料2sの曲げ挙動が測定された。
【0022】
・34mmの間隔で配置された治具4がおかれた環境を470℃とする。
・前記治具4上に前記ガラス板試料2sを
図2のように配置し、630℃、640℃、又は650℃まで6℃/分の加熱速度で前記環境を加熱する。
・630℃、640℃、又は650℃で1分保持し、自重により曲げられたガラス板試料2sbを前記環境から取り出す。
・ガラス板試料2sbの曲げ量として、平板のガラス板試料2sを基準とし、
図3内の矢印で示される距離、すなわち撓み量を計測した。
【0023】
ガラス板Bに対して、1mmの厚さのガラス板Aと同じ撓み量となる厚さを求めた。結果、最高到達温度が、630℃、640℃、650℃の場合で、ガラス板Aの撓み量は、それぞれ、0.2mm、0.35mm、0.5mmとなった。そして、ガラス板Bで、同じ撓み量となったガラス板の厚さは、最高到達温度が、630℃、640℃、650℃の場合で、それぞれ、0.7mm~0.9mm、0.8mm~0.9mm、0.8mm~0.9mmであった。
【0024】
このことから、ガラス中のFeO量のガラス板の曲げ挙動に影響することがわかる。すなわち、前記第一ガラス板のガラス組成中のFeO含有量を0.1質量%~0.5質量%
、前記第二ガラス板のガラス組成中のFeO含有量を0質量%~0.05質量%とし、前記第一ガラス板21の厚さを、前記第二ガラス板22の厚さの、1.1倍~1.4倍とすれば、車内側、車外側に配置されるガラス板を同一の湾曲形状に成形しやすいものとできる。前述の厚さの比率は、同一の湾曲形状に成形しやすいものとするとの観点から、さらには、1.1倍~1.3倍としてもよい。
【0025】
ガラス組成中のFeO量は、鉄酸化物(Fe2O3換算)の量だけでなく、ガラス原料中の酸化剤、還元剤の量、ガラス溶融炉内雰囲気の酸化還元条件にも影響される。前記酸化還元条件に影響する成分として、酸化セリウム、酸化チタン、酸化マンガン、酸化クロム、酸化コバルト、酸化ニッケル、セレン等があり、FeO量を調整する目的で、これら成分を、前記第一ガラス板のガラス組成、又は前記第二ガラス板のガラス組成が、例えば0質量%~3質量%含んでいてもよい。
【0026】
前記ガラス板21、22の厚さについては、同一の湾曲形状に成形しやすいものとするとの観点から、前記ガラス板21の場合は、0.7mm~2mm、好ましくは0.7mm~1.7mm、より好ましくは0.7~1.4mmとしてもよい。そして、前記ガラス板22の場合は、0.5mm~1.6mm、好ましくは、0.5mm~1.4mm、より好ましくは0.5~1.1mm、さらに好ましくは0.5mm~0.9mmとしてもよい。
【0027】
前記熱可塑性中間膜3は加熱することで、第一ガラス板21と、第二ガラス板22とを合せ化するもので、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、アクリル樹脂(PMMA)、ウレタン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、シクロオレフィンポリマー(COP)等を使用することができる。なお、中間層は複数の樹脂で構成されていても良い。
【0028】
前記自動車用合せガラス1の好適な製造方法は、平板状の第一ガラス板21と、平板状の第二ガラス板22とを重ねた状態で、両ガラス板の軟化点近傍まで加熱して所望の形状に湾曲する、ガラス板の成形工程と、
湾曲化した前記第一ガラス板21と前記第二ガラス板22とを、熱可塑性中間膜3を介して積層する、積層工程と、
前記第一ガラス板21と、前記熱可塑性中間膜3と、前記第二ガラス板22とを熱圧着する、合せ化工程とを備える、というものである。
【0029】
前記ガラス板の成形工程を、
図4を用いて説明する。
図4は本発明の自動車用合せガラス1の製造方法における、平面状の第一・第二ガラス板21、22を湾曲化する工程を模式的に説明する図である。
【0030】
ガラス板の成形工程において、
図4に示すように、平面状の第一ガラス板21と、平面状の第二ガラス板22とが、両ガラス板の主面が面するように重ねられた状態で、各ラス板を、軟化点近傍まで加熱し、所定の形状に湾曲化する。ここで、軟化点近傍とは、軟化点温度から50℃高い温度~軟化点温度から150℃低い温度の範囲のことを言う。
この工程では、例えば、重ねられたガラス板21、22をリング型上に載置して加熱炉に通し、ガラス板21、22を加熱して軟化させ、重力によって所定の形状に曲げ成形して冷却する自重曲げ成形法が用いられる。さらには、自重曲げ成形法によってガラス板21、22を予備成形し、次いでリング型とプレス型との間にガラス板21、22を挟んで加熱、及び加圧して成形して冷却するプレス成形法が用いられても良い。これら成形法の中では、自重曲げ成形法を採用することが好ましい。
【0031】
前記成形工程において、前記第一ガラス板21と、前記第二ガラス板22とは、両ガラス板を、200~400℃の温度領域から、軟化点近傍まで、3~100℃/分の加熱速度で、加熱する、予熱する予熱ゾーン内を搬送されて後、ガラス板の自重曲げ成形ゾーン
に搬送され、前記成形ゾーンで所望の形状に湾曲成形して冷却する、方法としてもよい。この方法では、ガラス板21、22は、搬送ロールを用いて搬送されてもよい。
【0032】
第一ガラス板21と、第二ガラス板とは、離型剤を介して重ねられることが好ましい。この離型剤としては、ガラス板の軟化点付近の加熱時に溶融することのないセラミックス粉末などが好適に用いられる。この湾曲化成形後の冷却工程の後、重ねられた、第一ガラス板21と第二ガラス板22とは、一旦分離される。
【0033】
合せ化工程では、熱可塑性中間膜3と、第一ガラス板21の凹面側主面と、第二ガラス板22の凸面側主面とを対向して配置し、合せガラス形成前の積層体を形成する。そして、該積層体を熱圧着、例えば、1.0~1.5MPaで加圧しながら、100~150℃で15~60分保持することで、
図1に示すような自動車用合せガラス1が得られる。熱圧着は、例えば、オートクレーブ内で行うことができる。また、熱可塑性中間膜3と、第一ガラス板21と、第二ガラス板22とを熱圧着を行う前に、可塑性中間層3と、各ガラス板21、22との間を脱気しておくことが好ましい。
【符号の説明】
【0034】
1 自動車用合せガラス
21 第一ガラス板
22 第二ガラス板
2s ガラス板試料
2sb 曲げ加工されたガラス板試料
3 熱可塑性中間膜
4 ガラス板試料の曲げ成形の検証のための治具