IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイキン工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-射出成形体およびその製造方法 図1
  • 特許-射出成形体およびその製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】射出成形体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/00 20060101AFI20221110BHJP
   C08F 214/26 20060101ALI20221110BHJP
   C08F 8/00 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
B29C45/00
C08F214/26
C08F8/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022012569
(22)【出願日】2022-01-31
(65)【公開番号】P2022132108
(43)【公開日】2022-09-07
【審査請求日】2022-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2021031093
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021162124
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津田 早登
(72)【発明者】
【氏名】濱田 博之
(72)【発明者】
【氏名】井坂 忠晴
(72)【発明者】
【氏名】山本 有香里
(72)【発明者】
【氏名】善家 佑美
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-100823(JP,A)
【文献】国際公開第2003/048214(WO,A1)
【文献】特表2004-534131(JP,A)
【文献】特開2019-214641(JP,A)
【文献】特開2009-059690(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/00 - 8/50
C08F 214/00 - 214/28
B29C 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲートを備える金型を用いて、共重合体を射出成形することにより得られる射出成形体であって、
前記共重合体が、テトラフルオロエチレン(TFE)単位およびフルオロ(アルキルビニルエーテル)(FAVE)単位を含有し、
前記共重合体のフルオロ(アルキルビニルエーテル)単位の含有量が、全単量体単位に対して、5.2~6.3質量%であり、
前記共重合体のテトラフルオロエチレン単位の含有量が、全単量体単位に対して、93.7~94.8質量%であり、
前記共重合体の372℃におけるメルトフローレートが、19.0~35.0g/10分であり、
前記共重合体の-CF=CF 、-CF H、-COF、-COOH、-COOCH 、-CONH および-CH OHの官能基数が、主鎖炭素数10個あたり、28個以下であり、
前記射出成形体が、前記金型の前記ゲートに対応するゲート部を有しており、前記射出成形体の前記ゲート部からの最大流動長(a)と最大流動長上の製品厚みの平均値(b)との比((a)/(b))が、80~200である
射出成形体。
【請求項2】
前記共重合体の前記フルオロ(アルキルビニルエーテル)単位が、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位である請求項1に記載の射出成形体。
【請求項3】
前記共重合体の前記フルオロ(アルキルビニルエーテル)単位の含有量が、全単量体単位に対して、5.4~6.1質量%である請求項1または2に記載の射出成形体。
【請求項4】
前記共重合体の372℃におけるメルトフローレートが、20.0~30.9g/10分である請求項1~3のいずれかに記載の射出成形体。
【請求項5】
前記共重合体の融点が、295~305℃である請求項1~4のいずれかに記載の射出成形体。
【請求項6】
前記射出成形体が、ウェルド部をさらに有しており、前記射出成形体の最大厚み(L)に対する前記ウェルド部の最大深さ(D)の比(D/L)が、0.8以下である請求項1~5のいずれかに記載の射出成形体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の射出成形体の製造方法であって、
射出成形機および前記ゲートを備える前記金型を用いて、前記共重合体を射出成形する工程を含み、
前記金型の前記ゲート部からの最大流動長(c)と最大流動長上の前記金型のキャビティ厚みの平均値(d)との比((c)/(d))が、80~200である
製造方法。
【請求項8】
前記金型の温度が、150~250℃である請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記射出成形機のシリンダ温度が、350~420℃である請求項7または8に記載の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、射出成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、パーフルオロ樹脂からなる耐オゾン性射出成形品であって、前記パーフルオロ樹脂は、パーフルオロ重合体からなり、MIT値が30万回以上であり、不安定末端基が前記パーフルオロ重合体中の炭素数1×10個あたり50個以下であるものであることを特徴とする耐オゾン性射出成形品が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2003/048214号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示では、成形に用いる金型を腐食させることなく、高い生産性で製造することができ、水蒸気低透過性、高温引張クリープ特性、薬液低透過性、150℃耐摩耗性、繰り返し荷重に対する耐久性、薬液浸漬後の耐熱変形性および高温高弾性に優れており、薬液中にフッ素イオンを溶出させにくく、透明性が高く、外観が美麗で流動長が大きい射出成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示によれば、ゲートを備える金型を用いて、共重合体を射出成形することにより得られる射出成形体であって、前記共重合体が、テトラフルオロエチレン(TFE)単位およびフルオロ(アルキルビニルエーテル)(FAVE)単位を含有し、前記共重合体のフルオロ(アルキルビニルエーテル)単位の含有量が、全単量体単位に対して、5.2~6.3質量%であり、前記共重合体の372℃におけるメルトフローレートが、19.0~35.0g/10分であり、前記共重合体の官能基数が、主鎖炭素数10個あたり、50個以下であり、前記射出成形体が、前記金型の前記ゲートに対応するゲート部を有しており、前記射出成形体の前記ゲート部からの最大流動長(a)と最大流動長上の製品厚みの平均値(b)との比((a)/(b))が、80~200である射出成形体が提供される。
【0006】
本開示の射出成形体において、前記共重合体の前記フルオロ(アルキルビニルエーテル)単位が、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位であることが好ましい。
本開示の射出成形体において、前記共重合体の前記フルオロ(アルキルビニルエーテル)単位の含有量が、全単量体単位に対して、5.4~6.1質量%であることが好ましい。
本開示の射出成形体において、前記共重合体の372℃におけるメルトフローレートが、20.0~30.9g/10分であることが好ましい。
本開示の射出成形体において、前記共重合体の融点が、295~305℃であることが好ましい。
本開示の射出成形体が、ウェルド部をさらに有しており、前記射出成形体の最大厚み(L)に対する前記ウェルド部の最大深さ(D)の比(D/L)が、0.8以下であることが好ましい。
【0007】
また、本開示によれば、上記の射出成形体の製造方法であって、射出成形機および前記ゲートを備える前記金型を用いて、前記共重合体を射出成形する工程を含み、前記金型の前記ゲート部からの最大流動長(c)と最大流動長上の前記金型のキャビティ厚みの平均値(d)との比((c)/(d))が、80~200である製造方法が提供される。
【0008】
本開示の製造方法において、前記金型の温度が、150~250℃であることが好ましい。
本開示の製造方法において、前記射出成形機のシリンダ温度が、350~420℃であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、成形に用いる金型を腐食させることなく、高い生産性で製造することができ、水蒸気低透過性、高温引張クリープ特性、薬液低透過性、150℃耐摩耗性、繰り返し荷重に対する耐久性、薬液浸漬後の耐熱変形性および高温高弾性に優れており、薬液中にフッ素イオンを溶出させにくく、透明性が高く、外観が美麗で流動長が大きい射出成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、マイクロダンベル状試験片の作製方法を説明するための図である。
図2図2は、マイクロダンベル状試験片の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
特許文献1では、特に半導体製造装置に使用する配管材や継ぎ手等の耐オゾン性に優れた物品として、パーフルオロ重合体からなり、MIT値が30万回以上であり、不安定末端基が前記パーフルオロ重合体中の炭素数1×10個あたり50個以下であるパーフルオロ樹脂からなる耐オゾン性射出成形品が提案されている。また、特許文献1の実施例では、射出成形機により、最小外径43mm、内径27.02mm、高さ30mmの袋ナットを射出成形により作製したことが記載されている。
【0013】
しかしながら、特許文献1に記載の耐オゾン性射出成形品を、透明性が高く、外観が美麗で流動長が大きい射出成形体として用いることは困難という問題がある。たとえば、継手などの薬液を移送するために用いられる配管部材、薬液の流量を測定するための流量計部材には、複雑な形状を有するものが多く、それらには、内部の状態を確認できる透明性および外観の美麗さが求められる。また、薬液への外気中の水蒸気などの水分の混入を避けるために、水蒸気低透過性も求められる。高圧の薬液あるいは高温の薬液を流通させる際には、高圧の薬液あるいは高温の薬液が配管部材や流量計部材を通過する。薬液の圧力は、流体の供給開始時、流体の供給停止時、流体の供給圧力の変更時などに頻繁に変動することから、高圧かつ高温の薬液に対する耐久性とともに、圧力の変動に対する耐久性も求められる。したがって、水蒸気低透過性、電解液などの薬液に対する低透過性、高温引張クリープ特性、150℃耐摩耗性、繰り返し荷重に対する耐久性、薬液浸漬後の耐熱変形性および高温高弾性に優れており、透明性が高く、外観が美麗で流動長が大きい射出成形体が求められる。
【0014】
本開示の射出成形体は、ゲートを備える金型を用いて、特定の共重合体を射出成形することにより得られる射出成形体であって、前記射出成形体が、前記金型の前記ゲートに対応するゲート部を有しており、前記射出成形体の前記ゲート部からの最大流動長(a)と最大流動長上の製品厚みの平均値(b)との比((a)/(b))が、80~200である。本開示の射出成形体は、このような構成を備えることから、成形に用いる金型を腐食させることなく、高い生産性で製造することができ、水蒸気低透過性、電解液などの薬液に対する低透過性、高温引張クリープ特性、150℃耐摩耗性、繰り返し荷重に対する耐久性、薬液浸漬後の耐熱変形性および高温高弾性に優れており、薬液中にフッ素イオンを溶出させにくく、透明性が高く、外観が美麗で流動長が大きいものである。
【0015】
本開示の射出成形体は、ゲート部を有している。ゲート部は、射出成形に用いた金型が備えるゲートに対応するゲート部であり、通常、ゲートと射出成形体とを切り離した後に射出成形体に残るゲート痕として、射出成形体の表面に認めることができる。ゲート部の数は、特に限定されず、好ましくは1個以上であり、4個以下であってもよく、より好ましくは1個である。
【0016】
本開示の射出成形体は、大きい流動長を有しており、前記射出成形体の前記ゲート部からの最大流動長(a)と最大流動長上の製品厚みの平均値(b)との比((a)/(b))が、80~200である。比((a)/(b))は、好ましくは85以上であり、より好ましくは87以上であり、さらにより好ましくは90以上であり、特に好ましくは94以上であり、最も好ましくは100以上であり、好ましくは150以下であり、より好ましくは135以下である。比((a)/(b))の大きい射出成形体は、カスレ、表面剥離などの成形不良が残りやすく、平滑性に劣りやすい。したがって、ヘイズ値が小さく、透明性に優れた共重合体により射出成形体を構成した場合でも、射出成形体の透明性が劣りやすい問題がある。本開示の射出成形体は、驚くべきことに、流動長が大きいにも関わらず、透明性に優れている。
【0017】
ゲート部からの最大流動長(a)は、共重合体が金型内を流れた距離であり、たとえば、ゲート部と、金型内を流れた共重合体が合流する部分に発生するウェルド部との距離を測定することにより、特定することができる。もしくは、ゲート部とゲート部から最も離れた射出成形体の端部と間にウェルド部が存在しない場合には、ゲート部とゲート部から最も離れた射出成形体の端部との距離を測定することにより、特定することができる。射出成形体が複数のゲート部を有する場合など、共重合体が金型内を流れた距離を複数特定できる場合は、特定される距離のうち、最も長い距離をゲート部からの最大流動長(a)とする。
【0018】
上記のようにして求めた最大流動長(a)を、最大流動長上の製品厚みの平均値(b)で除することにより、比((a)/(b))を求めることができる。最大流動長上の製品厚みの平均値(b)は、最大流動長(a)を測定するために描かれる線に直行する断面の最小径(最大流動長上の製品厚み、断面が四角形である場合は短辺)を、最大流動長を測定するために描かれる線に沿って2mmごとに測定し、測定値を積算し、測定値の平均を算出して求めることができる。
【0019】
本開示の射出成形体は、通常、金型内を樹脂が流れ合流した部分に対応するウェルド部を有している。ウェルド部は、通常、射出成形体の表面にウェルドラインとして認めることができる。本開示においては、成形不良といえる大きなウェルドラインに加え、ほとんど見えないウェルドラインも、ウェルド部に含まれる。
【0020】
本開示の射出成形体は、美麗な外観を有しており、ウェルド部の最大深さも小さい。したがって、本開示の射出成形体において、射出成形体の最大厚み(L)に対するウェルド部の最大深さ(D)の比(D/L)は、好ましくは0.8以下であり、より好ましくは0.7以下であり、さらに好ましくは0.5以下であり、尚さらに好ましくは0.3以下であり、特に好ましくは0.2以下である。ウェルド部の最大深さが小さいほど、射出成形体の表面が平滑であるといえ、射出成形体が透明性に優れたものとなる。また、射出成形体の最大厚み(L)に対するウェルド部の最大深さ(D)の比(D/L)が小さくなるほど、射出成形体の引張強度が著しく高まることが見出された。
【0021】
本開示の射出成形体は、テトラフルオロエチレン(TFE)単位およびフルオロ(アルキルビニルエーテル)(FAVE)単位を含有する共重合体を含有する。この共重合体は、溶融加工性のフッ素樹脂である。溶融加工性とは、押出機および射出成形機などの従来の加工機器を用いて、ポリマーを溶融して加工することが可能であることを意味する。
【0022】
上記FAVE単位を構成するFAVEとしては、一般式(1):
CF=CFO(CFCFYO)-(CFCFCFO)-Rf (1)
(式中、YはFまたはCFを表し、Rfは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。pは0~5の整数を表し、qは0~5の整数を表す。)で表される単量体、および、一般式(2):
CFX=CXOCFOR (2)
(式中、Xは、同一または異なり、H、FまたはCFを表し、Rは、直鎖または分岐した、H、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1~2個含んでいてもよい炭素数が1~6のフルオロアルキル基、若しくは、H、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1~2個含んでいてもよい炭素数が5または6の環状フルオロアルキル基を表す。)で表される単量体からなる群より選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0023】
なかでも、上記FAVEとしては、一般式(1)で表される単量体が好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、PEVEおよびPPVEからなる群より選択される少なくとも1種がさらに好ましく、PPVEが特に好ましい。
【0024】
共重合体のFAVE単位の含有量は、全単量体単位に対して、5.2~6.3質量%である。共重合体のFAVE単位の含有量は、好ましくは5.3質量%以上であり、より好ましくは5.4質量%以上であり、好ましくは6.2質量%以下であり、より好ましくは6.1質量%以下であり、さらに好ましくは6.0質量%以下である。共重合体のFAVE単位の含有量が多すぎると、射出成形体の高温引張クリープ特性、繰り返し荷重に対する耐久性、水蒸気低透過性および薬液低透過性が劣り、射出成形体の高温での弾性率が低いものとなる。共重合体のFAVE単位の含有量が少なすぎると、射出成形体の薬液浸漬後の耐熱変形性、150℃耐摩耗性および透明性が劣る。
【0025】
共重合体のTFE単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは93.7~94.8質量%であり、より好ましくは93.8質量%以上であり、さらに好ましくは93.9質量%以上であり、より好ましくは94.7質量%以下であり、さらに好まくは94.6質量%以下である。共重合体のTFE単位の含有量が少なすぎると、射出成形体の高温引張クリープ特性、繰り返し荷重に対する耐久性、水蒸気低透過性および薬液低透過性が劣り、射出成形体の高温での弾性率が低いものとなるおそれがある。共重合体のTFE単位の含有量が多すぎると、射出成形体の薬液浸漬後の耐熱変形性、150℃耐摩耗性および透明性が劣るおそれがある。
【0026】
本開示において、共重合体中の各単量体単位の含有量は、19F-NMR法により測定する。
【0027】
共重合体は、TFEおよびFAVEと共重合可能な単量体に由来する単量体単位を含有することもできる。この場合、TFEおよびFAVEと共重合可能な単量体単位の含有量は、共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは0~1.1質量%であり、より好ましくは0.05~0.5質量%であり、さらに好ましくは0.1~0.3質量%である。
【0028】
TFEおよびFAVEと共重合可能な単量体としては、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、CZ=CZ(CF(式中、Z、ZおよびZは、同一または異なって、HまたはFを表し、Zは、H、FまたはClを表し、nは2~10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、および、CF=CF-OCH-Rf(式中、Rfは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられる。なかでも、HFPが好ましい。
【0029】
共重合体としては、TFE単位およびFAVE単位のみからなる共重合体、および、TFE/HFP/FAVE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、TFE単位およびFAVE単位のみからなる共重合体がより好ましい。
【0030】
共重合体のメルトフローレート(MFR)は、19.0~35.0g/10分である。共重合体のMFRは、好ましくは19.5g/10分以上であり、より好ましくは20.0g/10分以上であり、さらにより好ましくは22.0g/10分以上であり、特に好ましくは23.0g/10分以上であり、最も好ましくは24.0g/10分以上であり、好ましくは33.9g/10分以下であり、より好ましくは33.0g/10分以下であり、さらに好ましくは32.9g/10分以下であり、特に好ましくは31.9g/10分以下であり、最も好ましくは30.9g/10分以下である。共重合体のMFRが低すぎると、射出成形体の外観が劣り、射出成形体の水蒸気低透過性、透明性、高温高弾性、繰り返し荷重に対する耐久性および薬液低透過性が低下するばかりか、流動長が大きい射出成形体が得られないことがある。共重合体のMFRが高すぎると、150℃耐摩耗性、透明性および薬液浸漬後の耐熱変形性が劣る。
【0031】
本開示において、MFRは、ASTM D1238に従って、メルトインデクサーを用いて、372℃、5kg荷重下で内径2.1mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出するポリマーの質量(g/10分)として得られる値である。
【0032】
MFRは、単量体を重合する際に用いる重合開始剤の種類および量、連鎖移動剤の種類および量などを調整することによって、調整することができる。
【0033】
本開示において、共重合体の主鎖炭素数10個当たりの官能基数は、50個以下であり、好ましくは40個以下であり、より好ましくは30個以下であり、さらに好ましくは20個以下であり、尚さらに好ましくは15個以下であり、特に好ましくは10個以下であり、最も好ましくは6個未満である。共重合体の官能基数が上記範囲内にあることにより、高温引張クリープ特性および薬液低透過性を改善することができるとともに、射出成形体から薬液中に溶出するフッ素イオン量を大きく低減することができる。さらに、共重合体を金型に充填することにより共重合体を成形しても金型を腐食させにくいことから、金型の腐食による射出成形体の外観への影響がなく、得られる射出成形体の外観が一層美麗なものとなる。
【0034】
上記官能基の種類の同定および官能基数の測定には、赤外分光分析法を用いることができる。
【0035】
官能基数については、具体的には、以下の方法で測定する。まず、上記共重合体をコールドプレスにより成形して、厚さ0.25~0.30mmのフィルムを作製する。このフィルムをフーリエ変換赤外分光分析により分析して、上記共重合体の赤外吸収スペクトルを得、完全にフッ素化されて官能基が存在しないベーススペクトルとの差スペクトルを得る。この差スペクトルに現れる特定の官能基の吸収ピークから、下記式(A)に従って、上記共重合体における炭素原子1×10個あたりの官能基数Nを算出する。
【0036】
N=I×K/t (A)
I:吸光度
K:補正係数
t:フィルムの厚さ(mm)
【0037】
参考までに、いくつかの官能基について、吸収周波数、モル吸光係数および補正係数を表1に示す。また、モル吸光係数は低分子モデル化合物のFT-IR測定データから決定したものである。
【表1】
【0038】
-CHCFH、-CHCOF、-CHCOOH、-CHCOOCH、-CHCONHの吸収周波数は、それぞれ表中に示す、-CFH、-COF、-COOH freeと-COOH bonded、-COOCH、-CONHの吸収周波数から数十カイザー(cm-1)低くなる。
【0039】
たとえば、-COFの官能基数とは、-CFCOFに起因する吸収周波数1883cm-1の吸収ピークから求めた官能基数と、-CHCOFに起因する吸収周波数1840cm-1の吸収ピークから求めた官能基数との合計である。
【0040】
官能基は、共重合体の主鎖末端または側鎖末端に存在する官能基、および、主鎖中または側鎖中に存在する官能基である。官能基数は、-CF=CF、-CFH、-COF、-COOH、-COOCH、-CONHおよび-CHOHの合計数であってよい。
【0041】
上記官能基は、たとえば、共重合体を製造する際に用いた連鎖移動剤や重合開始剤によって、共重合体に導入される。たとえば、連鎖移動剤としてアルコールを使用する、あるいは重合開始剤として-CHOHの構造を有する過酸化物を使用した場合、共重合体の主鎖末端に-CHOHが導入される。また、官能基を有する単量体を重合することによって、上記官能基が共重合体の側鎖末端に導入される。
【0042】
このような官能基を有する共重合体を、フッ素化処理することによって、上記範囲内の官能基数を有する共重合体を得ることができる。すなわち、本開示の射出成形体に含まれる共重合体は、フッ素化処理されたものであることが好ましい。本開示の射出成形体に含まれる共重合体は、-CF末端基を有することも好ましい。
【0043】
共重合体の融点は、好ましくは295~315℃であり、より好ましくは300℃以上であり、さらに好ましくは301℃以上であり、特に好ましくは、302℃以上であり、より好ましくは310℃以下であり、さらに好ましくは305℃以下である。融点が上記範囲内にあることにより、射出成形体の流動長が大きい場合であっても、射出成形体の水蒸気低透過性、高温引張クリープ特性、薬液低透過性、150℃耐摩耗性、繰り返し荷重に対する耐久性、薬液浸漬後の耐熱変形性および高温高弾性が一層向上し、透明性が一層高く、外観が一層美麗なものとなる。
【0044】
本開示において、融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて測定できる。
【0045】
本開示の射出成形体の水蒸気透過度は、好ましくは520g/m以下である。本開示の射出成形体は、優れた水蒸気低透過性を有している。したがって、本開示の射出成形体を、たとえば、継手などの薬液を移送するために用いられる配管部材、薬液の流量を測定するための流量計部材などとして用いた場合、外気中の水蒸気が透過して薬液に混入することを高度に抑制することができる。
【0046】
本開示において、水蒸気透過度は、温度95℃、60日間の条件で、測定できる。水蒸気透過度の具体的な測定は、実施例に記載の方法により行うことができる。
【0047】
本開示の射出成形体は、ヘイズ値が、好ましくは7.0%以下であり、より好ましくは6.7%以下である。射出成形体のヘイズ値が上記範囲内であることにより、たとえば、本開示の射出成形体を、バルブ、フィルターケージ、配管、継手、ボトル、流量計等の成形体として用いた場合に、成形体内部の目視やカメラ等による観察が非常に容易となり、内容物の流量や残量の確認が非常に容易となる。本開示において、ヘイズ値は、JIS K 7136に準じて測定することができる。
【0048】
本開示の射出成形体は、150℃での貯蔵弾性率(E’)が、好ましくは75MPa以上であり、より好ましくは80MPa以上であり、好ましくは1000MPa以下であり、より好ましくは500MPa以下であり、さらに好ましくは300MPa以下である。射出成形体の150℃での貯蔵弾性率(E’)が上記範囲内にあることにより、射出成形体の高温での弾性率が一層高いものとなり、高温高弾性に一層優れたものとなる。したがって、高圧かつ高温の薬液と接した場合の射出成形体の耐久性が一層向上する。
【0049】
貯蔵弾性率(E’)は、昇温速度2℃/分、周波数10Hz条件下で、30~250℃の範囲で、動的粘弾性測定を行うことにより、測定することができる。
【0050】
本開示の射出成形体は、電解液浸漬試験において検出される溶出フッ素イオン量が、質量基準で、好ましくは1.0ppm以下であり、より好ましくは0.8ppm以下であり、さらに好ましくは0.7ppm以下である。本開示の射出成形体を、たとえば、継手などの薬液を移送するために用いられる配管部材、薬液の流量を測定するための流量計部材などとして用いた場合、フッ素イオンによる薬液の汚染を高度に抑制することができる。
【0051】
本開示において、電解液浸漬試験は、射出成形体(15mm×15mm×0.5mmt)4枚に相当する重量を有する試験片を作製し、試験片と2gのジメチルカーボネート(DMC)とを入れたガラス製サンプル瓶を、80℃の恒温槽に入れて、144時間放置することにより、行うことができる。
【0052】
本開示の射出成形体は、充填剤、可塑剤、加工助剤、離型剤、顔料、難燃剤、滑剤、光安定剤、耐候安定剤、導電剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、発泡剤、香料、オイル、柔軟化剤、脱フッ化水素剤等のその他の成分を含有してもよい。
【0053】
充填剤としては、たとえば、シリカ、カオリン、クレー、有機化クレー、タルク、マイカ、アルミナ、炭酸カルシウム、テレフタル酸カルシウム、酸化チタン、リン酸カルシウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、架橋ポリスチレン、チタン酸カリウム、カーボン、チッ化ホウ素、カーボンナノチューブ、ガラス繊維等が挙げられる。導電剤としてはカーボンブラック等があげられる。可塑剤としては、ジオクチルフタル酸、ペンタエリスリトール等があげられる。加工助剤としては、カルナバワックス、スルホン化合物、低分子量ポリエチレン、フッ素系助剤等があげられる。脱フッ化水素剤としては有機オニウム、アミジン類等があげられる。
【0054】
上記その他の成分として、上記した共重合体以外のその他のポリマーを用いてもよい。その他のポリマーとしては、上記した共重合体以外のフッ素樹脂、フッ素ゴム、非フッ素化ポリマーなどが挙げられる。
【0055】
本開示の射出成形体が含有する共重合体は、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、塊状重合などの重合方法により、製造することができる。重合方法としては、乳化重合または懸濁重合が好ましい。これらの重合において、温度、圧力などの各条件、重合開始剤やその他の添加剤は、共重合体の組成や量に応じて適宜設定することができる。
【0056】
重合開始剤としては、油溶性ラジカル重合開始剤、または水溶性ラジカル重合開始剤を使用できる。
【0057】
油溶性ラジカル重合開始剤は公知の油溶性の過酸化物であってよく、たとえば、
ジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジsec-ブチルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エトキシエチルパーオキシジカーボネートなどのジアルキルパーオキシカーボネート類;
t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシピバレートなどのパーオキシエステル類;
ジt-ブチルパーオキサイドなどのジアルキルパーオキサイド類;
ジ[フルオロ(またはフルオロクロロ)アシル]パーオキサイド類;
などが代表的なものとしてあげられる。
【0058】
ジ[フルオロ(またはフルオロクロロ)アシル]パーオキサイド類としては、[(RfCOO)-](Rfは、パーフルオロアルキル基、ω-ハイドロパーフルオロアルキル基またはフルオロクロロアルキル基)で表されるジアシルパーオキサイドが挙げられる。
【0059】
ジ[フルオロ(またはフルオロクロロ)アシル]パーオキサイド類としては、たとえば、ジ(ω-ハイドロ-ドデカフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(ω-ハイドロ-テトラデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(ω-ハイドロ-ヘキサデカフルオロノナノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロプロピオニル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロブチリル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロパレリル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロノナノイル)パーオキサイド、ジ(ω-クロロ-ヘキサフルオロブチリル)パーオキサイド、ジ(ω-クロロ-デカフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(ω-クロロ-テトラデカフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ω-ハイドロ-ドデカフルオロヘプタノイル-ω-ハイドロヘキサデカフルオロノナノイル-パーオキサイド、ω-クロロ-ヘキサフルオロブチリル-ω-クロロ-デカフルオロヘキサノイル-パーオキサイド、ω-ハイドロドデカフルオロヘプタノイル-パーフルオロブチリル-パーオキサイド、ジ(ジクロロペンタフルオロブタノイル)パーオキサイド、ジ(トリクロロオクタフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(テトラクロロウンデカフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ジ(ペンタクロロテトラデカフルオロデカノイル)パーオキサイド、ジ(ウンデカクロロトリアコンタフルオロドコサノイル)パーオキサイドなどが挙げられる。
【0060】
水溶性ラジカル重合開始剤は公知の水溶性過酸化物であってよく、たとえば、過硫酸、過ホウ酸、過塩素酸、過リン酸、過炭酸などのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、ジコハク酸パーオキサイド、ジグルタル酸パーオキサイドなどの有機過酸化物、t-ブチルパーマレート、t-ブチルハイドロパーオキサイドなどが挙げられる。亜硫酸塩類のような還元剤を過酸化物に組み合わせて使用してもよく、その使用量は過酸化物に対して0.1~20倍であってよい。
【0061】
重合においては、界面活性剤、連鎖移動剤、および、溶媒を使用することができ、それぞれ従来公知のものを使用することができる。
【0062】
界面活性剤としては、公知の界面活性剤が使用でき、たとえば、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤などが使用できる。なかでも、含フッ素アニオン性界面活性剤が好ましく、エーテル結合性酸素を含んでもよい(すなわち、炭素原子間に酸素原子が挿入されていてもよい)、炭素数4~20の直鎖または分岐した含フッ素アニオン性界面活性剤がより好ましい。界面活性剤の添加量(対重合水)は、好ましくは50~5000ppmである。
【0063】
連鎖移動剤としては、たとえば、エタン、イソペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサンなどの炭化水素類;トルエン、キシレンなどの芳香族類;アセトンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル類;メタノール、エタノールなどのアルコール類;メチルメルカプタンなどのメルカプタン類;四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、塩化メチル等のハロゲン化炭化水素などが挙げられる。連鎖移動剤の添加量は、用いる化合物の連鎖移動定数の大きさにより変わりうるが、通常重合溶媒に対して0.01~20質量%の範囲で使用される。
【0064】
溶媒としては、水や、水とアルコールとの混合溶媒等が挙げられる。
【0065】
懸濁重合では、水に加えて、フッ素系溶媒を使用してもよい。フッ素系溶媒としては、CHCClF、CHCClF、CFCFCClH、CFClCFCFHCl等のハイドロクロロフルオロアルカン類;CFClCFClCFCF、CFCFClCFClCF等のクロロフルオロアルカン類;CFCFHCFHCFCFCF、CFHCFCFCFCFH、CFCFCFCFCFCFCFH等のハイドロフルオロアルカン類;CHOC、CHOCCFCFCHOCHF、CFCHFCFOCH、CHFCFOCHF、(CFCHCFOCH、CFCFCHOCHCHF、CFCHFCFOCHCF等のハイドロフルオロエーテル類;パーフルオロシクロブタン、CFCFCFCF、CFCFCFCFCF、CFCFCFCFCFCF等のパーフルオロアルカン類等が挙げられ、なかでも、パーフルオロアルカン類が好ましい。フッ素系溶媒の使用量は、懸濁性および経済性の面から、水性媒体に対して10~100質量%が好ましい。
【0066】
重合温度としては特に限定されず、0~100℃であってよい。重合圧力は、用いる溶媒の種類、量および蒸気圧、重合温度等の他の重合条件に応じて適宜定められるが、通常、0~9.8MPaGであってよい。
【0067】
重合反応により共重合体を含む水性分散液が得られる場合は、水性分散液中に含まれる共重合体を凝析させ、洗浄し、乾燥することにより、共重合体を回収できる。また、重合反応により共重合体がスラリーとして得られる場合は、反応容器からスラリーを取り出し、洗浄し、乾燥することにより、共重合体を回収できる。乾燥することによりパウダーの形状で共重合体を回収できる。
【0068】
重合により得られた共重合体を、ペレットに成形してもよい。ペレットに成形する成形方法としては、特に限定はなく、従来公知の方法を用いることができる。たとえば、単軸押出機、二軸押出機、タンデム押出機を用いて共重合体を溶融押出しし、所定長さに切断してペレット状に成形する方法などが挙げられる。溶融押出しする際の押出温度は、共重合体の溶融粘度や製造方法により変える必要があり、好ましくは共重合体の融点+20℃~共重合体の融点+140℃である。共重合体の切断方法は、特に限定は無く、ストランドカット方式、ホットカット方式、アンダーウオーターカット方式、シートカット方式などの従来公知の方法を採用できる。得られたペレットを、加熱することにより、ペレット中の揮発分を除去してもよい(脱気処理)。得られたペレットを、30~200℃の温水、100~200℃の水蒸気、または、40~200℃の温風と接触させて処理してもよい。
【0069】
重合により得られた共重合体を、フッ素化処理してもよい。フッ素化処理は、フッ素化処理されていない共重合体とフッ素含有化合物とを接触させることにより行うことができる。フッ素化処理により、共重合体の-COOH、-COOCH、-CHOH、-COF、-CF=CF、-CONHなどの熱的に不安定な官能基、および、熱的に比較的安定な-CFHなどの官能基を、熱的に極めて安定な-CFに変換することができる。結果として、共重合体の-COOH、-COOCH、-CHOH、-COF、-CF=CF、-CONH、および、-CFHの合計数(官能基数)を容易に上述した範囲に調整できる。
【0070】
フッ素含有化合物としては特に限定されないが、フッ素化処理条件下にてフッ素ラジカルを発生するフッ素ラジカル源が挙げられる。上記フッ素ラジカル源としては、Fガス、CoF、AgF、UF、OF、N、CFOF、フッ化ハロゲン(たとえばIF、ClF)などが挙げられる。
【0071】
ガスなどのフッ素ラジカル源は、100%濃度のものであってもよいが、安全性の面から不活性ガスと混合し、5~50質量%に希釈して使用することが好ましく、15~30質量%に希釈して使用することがより好ましい。上記不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスなどが挙げられるが、経済的な面より窒素ガスが好ましい。
【0072】
フッ素化処理の条件は、特に限定されず、溶融させた状態の共重合体とフッ素含有化合物とを接触させてもよいが、通常、共重合体の融点以下、好ましくは20~240℃、より好ましくは100~220℃の温度下で行うことができる。上記フッ素化処理は、一般に1~30時間、好ましくは5~25時間行う。フッ素化処理は、フッ素化処理されていない共重合体をフッ素ガス(Fガス)と接触させるものが好ましい。
【0073】
本開示の射出成形体は、射出成形機、および、ゲートを備える金型を用いて、上記のようにして得られた共重合体を射出成形する製造方法によって、製造することができる。本開示の製造方法によれば、成形に用いる金型を腐食させることなく、高い生産性で射出成形体を製造することができ、水蒸気低透過性、高温引張クリープ特性、薬液低透過性、150℃耐摩耗性、繰り返し荷重に対する耐久性、薬液浸漬後の耐熱変形性および高温高弾性に優れており、薬液中にフッ素イオンを溶出させにくく、透明性が高く、外観が美麗で流動長が大きい射出成形体を製造することができる。さらに、本開示の製造方法は、上記した共重合体を成形するものであることから、本開示の製造方法を用いることによって、流動長が大きく、複雑な形状の射出成形体を容易に製造することができ、たとえば、流量計の筐体、バルブの筐体、フィルターケージなどの射出成形体を容易に製造することができる。
【0074】
射出成形機に供給する共重合体の形状は、特に限定されず、粉体、ペレットなどの形状の共重合体を用いることができる。
【0075】
射出成形機としては、公知のものを使用することができる。射出成形機のノズルから射出された共重合体は、通常、スプルーおよびランナーを通って、ゲートを経て金型キャビティに流入し、金型キャビティに充填される。射出成形に用いる金型には、ランナーとゲートが形成されており、射出成形体を形成するための金型キャビティが形成されている。
【0076】
スプルーの形状は、特に限定されず、円形、矩形、台形などであってよい。ランナーの形状は、特に限定されず、円形、矩形、台形などであってよい。ランナー方式は、特に限定されず、コールドランナーまたはホットランナーであってよい。ゲート方式は、特に限定されず、ダイレクトゲート、サイドゲート、サブマリンゲートなどであってよい。金型キャビティに対するゲート数は、特に限定されない。1点ゲート構造を有する金型、多点ゲート構造を有する金型のいずれを用いてもよい。金型の金型キャビティ数(取り個数)は、好ましくは1~64である。
【0077】
射出成形には、ゲートからの共重合体の流動長が、前記金型の前記ゲート部からの最大流動長(c)と最大流動長上の前記金型のキャビティ厚みの平均値(d)との比((c)/(d))が、80~200である金型を用いる。比((c)/(d))は、好ましくは85以上であり、より好ましくは87以上であり、さらに好ましくは90以上であり、特に好ましくは94以上であり、最も好ましくは100以上であり、好ましくは150以下であり、より好ましくは135以下である。
【0078】
射出成形に用いる金型のキャビティに厚みの小さい部分が多いほど、すなわち、比((c)/(d))が大きいほど、共重合体の流動長が伸びにくく、薄肉部分を多く有する大きな射出成形体(すなわち、比((a)/(b))が大きい射出成形体)を得ることが難しくなるとともに、得られる射出成形体の外観が劣り、透明性にも劣る傾向がある。一方で、比((a)/(b))が大きい従来の射出成形体では、仮に外観が優れている場合であっても、水蒸気低透過性、高温引張クリープ特性、薬液低透過性、150℃耐摩耗性、繰り返し荷重に対する耐久性、薬液浸漬後の耐熱変形性および高温高弾性に改善の余地がある。さらには、薬液中にフッ素イオンを溶出させにくい射出成形体も望まれている。本開示の製造方法は、上記の構成を有することから、比((a)/(b))が上述した範囲内にあって、しかも、水蒸気低透過性、高温引張クリープ特性、薬液低透過性、150℃耐摩耗性、繰り返し荷重に対する耐久性、薬液浸漬後の耐熱変形性および高温高弾性に優れており、薬液中にフッ素イオンを溶出させにくく、透明性が高く、外観が美麗な射出成形体を製造できる。
【0079】
本開示の製造方法において、金型の温度は、金型の腐食を一層抑制することができ、水蒸気低透過性、高温引張クリープ特性、薬液低透過性、150℃耐摩耗性、繰り返し荷重に対する耐久性、薬液浸漬後の耐熱変形性および高温高弾性に一層優れており、透明性が一層高く、外観が一層美麗な射出成形体を製造することができることから、好ましくは150~250℃であり、より好ましくは170℃以上であり、より好ましくは230℃以下であり、さらに好ましくは200℃以下である。
【0080】
本開示の製造方法において、射出成形機が備えるシリンダの温度は、水蒸気低透過性、高温引張クリープ特性、薬液低透過性、150℃耐摩耗性、繰り返し荷重に対する耐久性、薬液浸漬後の耐熱変形性および高温高弾性に一層優れており、透明性が一層高く、外観が一層美麗な射出成形体を製造することができることから、好ましくは350~420℃であり、より好ましくは370℃以上であり、より好ましくは400℃以下である。
【0081】
本開示の射出成形体は、多様な用途に用いることができる。本開示の射出成形体は、たとえば、ナット、ボルト、継手、フィルム、ボトル、ガスケット、チューブ、ホース、パイプ、バルブ、シート、シール、パッキン、タンク、ローラー、容器、コック、コネクタ、フィルターハウジング、フィルターケージ、流量計、ポンプ、ウェハーキャリア、ウェハーボックス等であってよい。
【0082】
本開示の射出成形体は、成形に用いる金型を腐食させることなく、高い生産性で製造することができ、水蒸気低透過性、高温引張クリープ特性、薬液低透過性、150℃耐摩耗性、繰り返し荷重に対する耐久性、薬液浸漬後の耐熱変形性および高温高弾性に優れており、薬液中にフッ素イオンを溶出させにくく、透明性が高く、外観が美麗で流動長が大きいことから、ナット、ボルト、継手、パッキン、バルブ、コック、コネクタ、フィルターハウジング、フィルターケージ、流量計、ポンプなどに好適に利用することができる。たとえば、薬液の移送に用いる配管部材(特に、バルブの筐体やフィルターケージ)や、流量計において薬液の流路を備える流量計筐体として好適に利用することができる。本開示の配管部材および流量計筐体は、水蒸気低透過性、高温引張クリープ特性、薬液低透過性、150℃耐摩耗性、繰り返し荷重に対する耐久性、薬液浸漬後の耐熱変形性および高温高弾性に優れており、透明性が高く、外観が美麗である。そのため、本開示の配管部材および流量計筐体は、内部の視認性に優れ、特に流量計筐体においては、内部のフロートを目視やカメラ等により容易に観察することができ、かつ、150℃程度の薬液の流量測定にも好適に用いることができ、薬液の流通開始、流通停止、流量変更に応じて応力が繰り返し負荷されても損傷しにくい。さらに、本開示の配管部材および流量計筐体は、成形に用いる金型を腐食させることなく、薄肉部分を有する場合であっても、極めて高い射出速度で製造することができ、外観が美麗である。
【0083】
本開示の射出成形体は、成形に用いる金型を腐食させることなく、高い生産性で製造することができ、水蒸気低透過性、高温引張クリープ特性、薬液低透過性、150℃耐摩耗性、繰り返し荷重に対する耐久性、薬液浸漬後の耐熱変形性および高温高弾性に優れており、薬液中にフッ素イオンを溶出させにくく、透明性が高く、外観が美麗で流動長が大きいことから、ガスケット、パッキンなどの被圧縮部材として好適に利用することができる。
【0084】
本開示の射出成形体は、成形に用いる金型を腐食させることなく、高い生産性で製造することができ、水蒸気低透過性、高温引張クリープ特性、薬液低透過性、150℃耐摩耗性、繰り返し荷重に対する耐久性、薬液浸漬後の耐熱変形性および高温高弾性に優れており、薬液中にフッ素イオンを溶出させにくく、透明性が高く、外観が美麗で流動長が大きいことから、ボトルまたはチューブとして好適に利用することができる。本開示のボトルまたはチューブは、内容物を容易に視認することができ、使用中に損傷しにくい。
【0085】
本開示の射出成形体は、成形に用いる金型を腐食させることなく、高い生産性で製造することができ、水蒸気低透過性、高温引張クリープ特性、薬液低透過性、150℃耐摩耗性、繰り返し荷重に対する耐久性、薬液浸漬後の耐熱変形性および高温高弾性に優れており、薬液中にフッ素イオンを溶出させにくく、透明性が高く、外観が美麗で流動長が大きい。したがって、本開示の射出成形体は、バルブの筐体やバルブに好適に利用することができる。本開示のバルブは、金型を腐食させることなく、低コストで、しかも、極めて高い生産性で製造することができるとともに、高頻度で開閉を繰り返しても損傷しにくく、水蒸気低透過性、高温引張クリープ特性、薬液低透過性、150℃耐摩耗性、繰り返し荷重に対する耐久性、薬液浸漬後の耐熱変形性および高温高弾性に優れている。本開示のバルブは、高温でも弾性率が高いことから、たとえば、100℃以上、特に150℃程度の流体を制御するために好適に用いることができる。
【0086】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【実施例
【0087】
つぎに本開示の実施形態について実施例をあげて説明するが、本開示はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0088】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0089】
(単量体単位の含有量)
各単量体単位の含有量は、NMR分析装置(たとえば、ブルカーバイオスピン社製、AVANCE300 高温プローブ)により測定した。
【0090】
(メルトフローレート(MFR))
ASTM D1238に従って、メルトインデクサーG-01(東洋精機製作所社製)を用いて、372℃、5kg荷重下で内径2.1mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出するポリマーの質量(g/10分)を求めた。
【0091】
(融点)
示差走査熱量計(商品名:X-DSC7000、日立ハイテクサイエンス社製)を用いて、昇温速度10℃/分で200℃から350℃までの1度目の昇温を行い、続けて、冷却速度10℃/分で350℃から200℃まで冷却し、再度、昇温速度10℃/分で200℃から350℃までの2度目の昇温を行い、2度目の昇温過程で生ずる溶融曲線ピークから融点を求めた。
【0092】
(官能基数)
共重合体のペレットを、コールドプレスにより成形して、厚さ0.25~0.30mmのフィルムを作製した。このフィルムをフーリエ変換赤外分光分析装置〔FT-IR(Spectrum One、パーキンエルマー社製)〕により40回スキャンし、分析して赤外吸収スペクトルを得、完全にフッ素化されて官能基が存在しないベーススペクトルとの差スペクトルを得た。この差スペクトルに現れる特定の官能基の吸収ピークから、下記式(A)に従って試料における炭素原子1×10個あたりの官能基数Nを算出した。
N=I×K/t (A)
I:吸光度
K:補正係数
t:フィルムの厚さ(mm)
参考までに、本開示における官能基について、吸収周波数、モル吸光係数および補正係数を表2に示す。モル吸光係数は低分子モデル化合物のFT-IR測定データから決定したものである。
【0093】
【表2】
【0094】
合成例1
174L容積のオートクレーブに純水49Lを投入し、充分に窒素置換を行った後、パーフルオロシクロブタン40.7kgとパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)1.90kg、メタノール3.20kgとを仕込み、系内の温度を35℃、攪拌速度を200rpmに保った。次いで、テトラフルオロエチレン(TFE)を0.64MPaまで圧入した後、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネートの50%メタノール溶液0.041kgを投入して重合を開始した。重合の進行とともに系内圧力が低下するので、TFEを連続供給して圧力を一定にし、PPVEをTFEの供給1kg毎に0.057kg追加して19時間重合を継続した。TFEを放出して、オートクレーブ内を大気圧に戻した後、得られた反応生成物を水洗、乾燥して30kgの粉末を得た。
【0095】
得られた粉末を、スクリュー押出機(商品名:PCM46、池貝社製)により360℃にて溶融押出して、TFE/PPVE共重合体のペレットを得た。得られたペレットを用いて上記した方法によりPPVE含有量を測定した。結果を表3に示す。
【0096】
得られたペレットを、真空振動式反応装置VVD-30(大川原製作所社製)に入れ、210℃に昇温した。真空引き後、Nガスで20体積%に希釈したFガスを大気圧まで導入した。Fガス導入時から0.5時間後、いったん真空引きし、再度Fガスを導入した。さらにその0.5時間後、再度真空引きし、再度Fガスを導入した。以降、上記Fガス導入及び真空引きの操作を1時間に1回行い続け、210℃の温度下で10時間反応を行った。反応終了後、反応器内をNガスに十分に置換して、フッ素化反応を終了した。フッ素化したペレットを用いて、上記した方法により、各種物性を測定した。結果を表3に示す。
【0097】
合成例2
PPVEを2.01kg、メタノールを3.15kg、PPVEをTFEの供給1kg毎に0.059kg追加に変更した以外は、合成例1と同様にして、フッ素化したペレットを得た。結果を表3に示す。
【0098】
合成例3
PPVEを2.10kg、メタノールを4.10kg、PPVEをTFEの供給1kg毎に0.062kg追加、重合時間を20時間に変更した以外は、合成例1と同様にして、フッ素化したペレットを得た。結果を表3に示す。
【0099】
合成例4
PPVEを2.24kg、メタノールを3.70kg、PPVEをTFEの供給1kg毎に0.064kg追加、重合時間を19.5時間に変更した以外は、合成例1と同様にして、フッ素化したペレットを得た。結果を表3に示す。
【0100】
合成例5
PPVEを2.29kg、メタノールを3.30kg、PPVEをTFEの供給1kg毎に0.065kg追加、真空振動式反応装置の昇温温度を170℃、反応を170℃の温度下で5時間に変更した以外は、合成例1と同様にして、フッ素化したペレットを得た。結果を表3に示す。
【0101】
合成例6
メタノールを2.53kg、重合時間を18.5時間に変更した以外は、合成例1と同様にして、フッ素化したペレットを得た。結果を表3に示す。
【0102】
合成例7
純水を34.0L、パーフルオロシクロブタンを30.4kg、PPVEを1.14kg、メタノールを3.10kgに変更し、TFEを0.60MPaまで圧入し、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネートの50%メタノール溶液を0.060kg、PPVEをTFEの供給1kg毎に0.058kg追加、重合時間を24.5時間に変更した以外は、合成例1と同様にして、フッ素化したペレットを得た。結果を表3に示す。
【0103】
合成例8
純水を34.0L、パーフルオロシクロブタンを30.4kg、PPVEを0.98kg、メタノールを1.30kgに変更し、TFEを0.60MPaまで圧入し、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネートの50%メタノール溶液を0.060kg、PPVEをTFEの供給1kg毎に0.052kg追加、重合時間を23時間に変更した以外は、合成例1と同様にして、フッ素化したペレットを得た。結果を表3に示す。
【0104】
合成例9
PPVEを2.24kg、メタノールを4.02kg、PPVEをTFEの供給1kg毎に0.064kg追加、重合時間を20時間に変更した以外は、合成例1と同様にして、フッ素化していないペレットを得た。結果を表3に示す。
【0105】
合成例10
174L容積のオートクレーブに純水51.8Lを投入し、充分に窒素置換を行った後、パーフルオロシクロブタン40.9kgとパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)3.01kg、メタノール1.78kgとを仕込み、系内の温度を35℃、攪拌速度を200rpmに保った。次いで、テトラフルオロエチレン(TFE)を0.64MPaまで圧入した後、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネートの50%メタノール溶液0.051kgを投入して重合を開始した。重合の進行とともに系内圧力が低下するので、TFEを連続供給して圧力を一定にし、PPVEをTFEの供給1kg毎に0.063kg追加投入した。TFEの追加投入量が40.9kgに達したところで重合を終了させた。未反応のTFEを放出して、オートクレーブ内を大気圧に戻した後、得られた反応生成物を水洗、乾燥して43.5kgの粉末を得た。
【0106】
得られた粉末を、スクリュー押出機(商品名:PCM46、池貝社製)により360℃にて溶融押出して、TFE/PPVE共重合体のペレットを得た。得られたペレットを用いて上記した方法によりPPVE含有量を測定した。
【0107】
得られたペレットを、真空振動式反応装置 VVD-30(大川原製作所社製)に入れ、210℃に昇温した。真空引き後、Nガスで20体積%に希釈したFガスを大気圧まで導入した。Fガス導入時から0.5時間後、いったん真空引きし、再度Fガスを導入した。さらにその0.5時間後、再度真空引きし、再度Fガスを導入した。以降、上記Fガス導入及び真空引きの操作を1時間に1回行い続け、210℃の温度下で10時間反応を行った。反応終了後、反応器内をNガスに十分に置換して、フッ素化反応を終了した。結果を表3に示す。
【0108】
合成例11
PPVEを2.81kg、メタノールを2.83kg、PPVEをTFEの供給1kg毎に0.075kg追加、重合時間を19.5時間に変更した以外は、合成例1と同様にして、フッ素化したペレットを得た。結果を表3に示す。
【0109】
【表3】
【0110】
表3中の「<6」との記載は、官能基数が6個未満であることを意味する。
【0111】
実験例1~6および比較実験例1~5
上記で得られたペレットを用いて、以下の方法により、形状の異なるシート状射出成形体を作製した。得られたシート状射出成形体の評価を行った。結果を表4に示す。
【0112】
シート状射出成形体(40mm×40mm×0.5mmt)
射出成形機(住友重機械工業社製、SE50EV-A)を使用し、シリンダ温度を400℃、金型温度を200℃とし、射出速度を20mm/sとして、共重合体を射出成形した。金型として、HPM38製の金型(40mm×40mm×0.5mmt、4個取り、サイドゲート)を用いた。
【0113】
シート状射出成形体(45mm×45mm×0.6mmt)
射出成形機(住友重機械工業社製、SE50EV-A)を使用し、シリンダ温度を400℃、金型温度を230℃とし、射出速度を20mm/sとして、共重合体を射出成形した。金型として、HPM38製の金型(45mm×45mm×0.6mmt、4個取り、サイドゲート)を用いた。
【0114】
シート状射出成形体(155mm×100mm×2mmt)
射出成形機(住友重機械工業社製、SE50EV-A)を使用し、シリンダ温度を380℃、金型温度を180℃、射出速度10mm/sとして、共重合体を射出成形した。金型として、HPM38にCrめっきを施した金型(155mm×100mm×2mmt、フィルムゲート)を用いた。
【0115】
シート状射出成形体(180mm×60mm×2.4mmt)
射出成形機(住友重機械工業社製、SE50EV-A)を使用し、シリンダ温度を380℃、金型温度を180℃、射出速度10mm/sとして、共重合体を射出成形した。金型として、HPM38にCrめっきを施した金型(180mm×60mm×2.4mmt、フィルムゲート)を用いた。
【0116】
(水蒸気透過度)
シート状射出成形体(40mm×40mm×0.5mmt)を60℃で24時間おいた後で、射出成形体からシート状試験片を作製した。試験カップ(透過面積7.065cm)内に水を10g入れ、シート状射出成形体で覆い、PTFEガスケットを挟んで締め付け、密閉した。シート状試験片と水が接するようにして、温度95℃で60日間保持した後取出し、室温で2時間放置後に質量減少量を測定した。次式により、水蒸気透過度(g/m)を測定した。
水蒸気透過度(g/m)=質量減少量(g)/透過面積(m
【0117】
(ヘイズ値)
シート状射出成形体(45mm×45mm×0.6mmt)を60℃で24時間おいた後で、ヘイズメーター(商品名:NDH7000SP、日本電色工業株式会社製)を用いて、JIS K 7136に準じて、純水を入れた石英セルにシートを浸し、ヘイズ値を測定した。
【0118】
(貯蔵弾性率(E’))
DVA-220(アイティー計測制御社製)を用いた動的粘弾性測定を行い求めた。シート状射出成形体(40mm×40mm×0.5mmt)を60℃で24時間おいた後で、長さ25mm、幅5mmの試験片を切り出し、昇温速度2℃/分、周波数10Hz条件下で、30℃~250℃の範囲で測定を行い、150℃の貯蔵弾性率(MPa)を読み取った。
【0119】
(引張クリープ試験)
日立ハイテクサイエンス社製TMA-7100を用いて引張クリープ歪を測定した。シート状射出成形体(40mm×40mm×0.5mmt)を打ち抜いて、幅2mm、長さ22mmのサンプルを作製した。サンプルを治具間距離10mmで測定治具に装着した。サンプルに対して、断面荷重が2.41N/mmになるように荷重を負荷し、240℃に放置し、試験開始後70分の時点から試験開始後300分の時点までのサンプルの長さの変位(mm)を測定し、初期のサンプル長(10mm)に対する長さの変位(mm)の割合(引張クリープ歪(%))を算出した。240℃、300分間の条件で測定する引張クリープ歪(%)が小さいシートは、非常に高温の環境中で引張荷重が負荷されても伸びにくく、高温引張クリープ特性に優れている。
【0120】
(電解液浸漬試験)
シート状射出成形体(40mm×40mm×0.5mmt)から15mm四方の試験片を切り出した。20mLガラス製サンプル瓶に、得られた試験片4枚、および、2gのジメチルカーボネート(DMC)を入れて、サンプル瓶の蓋を閉めた。サンプル瓶を、80℃の恒温槽に入れて、240時間放置することにより、試験片をDMCに浸漬させた。その後、サンプル瓶を恒温槽から取り出し、室温まで冷却してから、サンプル瓶から試験片を取り出した。試験片を取り出した後に残ったDMCを、サンプル瓶に入った状態のままで、25℃で管理された部屋で24時間風乾し、超純水2gを加えた。得られた水溶液を、イオンクロマトグラフシステムの測定セルに移し、この水溶液のフッ素イオン量を、イオンクロマトグラフシステム(Thermo Fisher Scientific社製 Dionex ICS-2100)により測定した。
【0121】
(薬液浸漬クラック試験(薬液浸漬後の耐熱変形性))
13.5mm×38mmの長方形ダンベルを用いて、シート状射出成形体(155mm×100mm×2mmt)を打ち抜くことにより、3個の試験片を得た。得られた各試験片の長辺の中心に、ASTM D1693に準じて、19mm×0.45mmの刃でノッチを入れた。100mL容器に、ノッチ試験片3個と85%りん酸水溶液25gを入れ、電気炉にて120℃で100時間加熱後、ノッチ試験片を取り出した。得られたノッチ試験片3個をASTM D1693に準じた応力亀裂試験治具に取り付け、電気炉にて150℃で24時間加熱した後、ノッチおよびその周辺を目視で観察し、亀裂の数を数えた。亀裂が生じないシートは、薬液に浸漬された後でも耐熱変形性が優れている。
○:亀裂の数が0個である
×:亀裂の数が1個以上である
【0122】
(電解液透過度)
シート状射出成形体(40mm×40mm×0.5mmt)を60℃で24時間おいた後で、射出成形体からシート状試験片を作製した。試験カップ(透過面積7.065cm)内にジメチルカーボネート(DMC)を5.5g入れ、シート状試験片で覆い、PTFEガスケットを挟んで締め付け、密閉した。シート状試験片とDMCが接するようにして、温度60℃で60日間保持した後取出し、室温で1時間放置後に質量減少量を測定した。次式により、電解液透過度(g/m)を求めた。
電解液透過度(g/m)=質量減少量(g)/透過面積(m
【0123】
(摩耗試験)
シート状射出成形体(155mm×100mm×2mmt)から10cm×10cmの試験片を切り出した。テーバー摩耗試験機(No.101 特型テーバー式アブレーションテスター、安田精機製作所社製)の試験台に作製した試験片を固定し、試験片表面温度150℃、荷重500g、摩耗輪CS-10(研磨紙#240で20回転研磨したもの)、回転速度60rpmの条件で、テーバー摩耗試験機を用いて摩耗試験を行った。1000回転後の試験片重量を計量し、同じ試験片でさらに8000回転試験後に試験片重量を計量した。次式により、摩耗量を求めた。
摩耗量(mg)=M1-M2
M1:1000回転後の試験片重量(mg)
M2:8000回転後の試験片重量(mg)
【0124】
(10万回サイクル後引張強度)
島津製作所社製疲労試験機MMT-250NV-10を用いて10万回サイクル後引張強度を測定した。シート状射出成形体(180mm×60mm×2.4mmt)およびASTM D1708マイクロダンベル用いて、ダンベル形状(厚み2.4mm、幅5.0mm、測定部長さ22mm)のサンプルを作製した。サンプルを測定治具に装着し、サンプルを装着した状態で測定治具を150℃の恒温槽中に設置した。ストローク0.2mm、周波数100Hzで、一軸方向への引張りを繰り返し、引張り毎の引張強度(ストロークが+0.2mmの時の引張強度)を測定した。以下の式に従って測定値から10万回サイクル後引張強度を算出した。本実施例では、サンプルの断面積は12.0mmである
10万回サイクル後引張強度(mN/mm)=引張強度(10万回)(mN)/サンプルの断面積(mm
【0125】
10万回サイクル後引張強度は、サンプルの断面積に対する、繰返し荷重を10万回負荷した時の引張強度の比率である。10万回サイクル後引張強度が高いシートは、荷重を10万回負荷した後でも高い引張強度を維持しており、繰り返し荷重に対する耐久性に優れている。
【0126】
(金型腐食試験)
ペレット20gをガラス容器(50mlスクリュー管)に入れ、HPM38(Crめっき)またはHPM38(Niめっき)により形成された金属柱(5mm四方の四角形状、長さ30mm)を、ガラス容器にペレットに触れないようにぶら下げた。そして、ガラス容器にアルミホイルで蓋をした。ガラス容器をこの状態のままオーブンに入れ、380℃で3時間加熱した。その後、加熱したガラス容器をオーブンから取り出し、室温まで冷却を行い、金属柱表面の腐食の程度を目視で観察した。腐食程度は次の基準で判定を行った。
○:腐食が観察されない
△:わずかに腐食が観察される
×:腐食が観察される
【0127】
【表4】
【0128】
実験例7~12および比較実験例6~10
射出成形機(住友重機械工業社製、SE50EV-A)を使用し、シリンダ温度を380℃、金型温度を200℃、射出速度10mm/sとして、表5に記載の共重合体を射出成形した。金型として、HPM38にCrめっきを施した金型(スパイラルフロー、幅10mm、厚み0.5mmt、1mmtまたは3mmt)を用いた。得られた射出成形体の長さ(流動長)を測定し、流動長と厚みとの比(流動長/厚み)を算出した。また、得られた射出成形体の外観を目視で観察し、以下の基準により評価した。結果を表5に示す。
〇:表面が平滑で、透明性にも優れており、美麗な印象を与える
△:表面の10%以下の範囲に、カスレなどの外観不良が観られるが、表面の残りの範囲は、平滑で、透明性にも優れている
×:表面の10%超の範囲に、カスレなどの外観不良が観られる
【0129】
さらに、得られた射出成形体のゲート部から、射出成形体の端部までの距離(最大流動長(a))を測定した。次に、射出成形体の最大流動長を測定するために描かれる線に直交する射出成形体の断面の最小径(最大流動長上の製品厚み)を、最大流動長を測定するために描かれる線に沿って2mmごとに測定し、測定値を積算し、測定値の平均を算出することにより、最大流動長上の製品厚みの平均値(b)および比((a)/(b))を求めた。結果を表5に示す。
【0130】
【表5】
【0131】
実験例13~15
射出成形機(住友重機械工業社製、SE50EV-A)を使用し、シリンダ温度を400℃、金型温度を200℃、射出速度30mm/sとして、表6に記載の共重合体を射出成形し、射出成形体を得た。金型として、HPM38にCrめっきを施した金型(平板、155mm×100mm、厚み1.5mmt、2点サイドゲート、ゲートは100mm辺の端から25mmと75mmの位置に設置)を用いた。得られた射出成形体には、ゲート間の中央のウェルド部にウェルド部が形成されていた。ゲートに近いほど深いウェルド部が形成されており、ゲートから遠くなるほど浅いウェルド部が形成されていた。
【0132】
図1に示すように、金型のゲートに対応する、得られた射出成形体10の2つの位置11の中央のウェルド部12を中心として、ダンベルカッター13を用いて、ウェルド部12に沿って、射出成形体10から順に試験片を打ち抜き、図2に示すマイクロダンベル状試験片を複数作製した。
【0133】
マイクロダンベル状試験片の中央に位置するウェルド部のゲート側のウェルド深さ(「ウェルド部の最大深さ(D)」に相当)を測定し、マイクロダンベル状試験片の最大厚み(L)(本実験例では1.5mmt)に対するウェルド部の最大深さ(D)の比率(ウェルド率(D/L)を求めた。
【0134】
引張試験は、テンシロン万能試験機(ORIENTEC製 RTC-1225A)を使用し、チャック間22mm、引張速度50mm/minにて引張試験を行い、最大点応力(引張強度)を測定した。
【0135】
ウェルド率(D/L)と引張強度との関係を表6に示す。
【0136】
【表6】
図1
図2