(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】熱融着性積層配向フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20221110BHJP
B29C 48/21 20190101ALI20221110BHJP
B29C 55/04 20060101ALI20221110BHJP
B29C 55/12 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
B32B27/00 B
B29C48/21
B29C55/04
B29C55/12
(21)【出願番号】P 2021571790
(86)(22)【出願日】2021-11-11
(86)【国際出願番号】 JP2021041524
【審査請求日】2022-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2020215181
(32)【優先日】2020-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 良敬
(72)【発明者】
【氏名】渡部 誉之
(72)【発明者】
【氏名】吉村 信宏
(72)【発明者】
【氏名】梅木 亮
(72)【発明者】
【氏名】増田 敬文
(72)【発明者】
【氏名】舩岡 大樹
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-185051(JP,A)
【文献】特開平03-224735(JP,A)
【文献】特開2009-083478(JP,A)
【文献】特開2000-079669(JP,A)
【文献】特開平06-155684(JP,A)
【文献】特開平09-029908(JP,A)
【文献】国際公開第2020/145239(WO,A1)
【文献】特開2000-127317(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0029079(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/00
B29C 48/21
B29C 55/04
B29C 55/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂又はポリメチルペンテン樹脂を99.9~60質量%、及び変性ポリオレフィン樹脂を0.1~40質量%含有する樹脂組成物からなる基材層の両面に、熱融着性のポリオレフィン樹脂を含有する熱融着性層が共押出により直接接するように設けられ、
長手方向をX軸、幅方向をY軸、厚み方向をZ軸と定義した場合に、少なくともX軸もしくはY軸の一方向に延伸配向されており、
X軸及びY軸の両方向における150℃
にした恒温槽中で30秒処理を行った際の熱変形率が4%以下である、熱融着性積層配向フィルム。
【請求項2】
X軸もしくはY軸の少なくとも一方向において、150℃貯蔵弾性率が50MPa以上であり、破断強度が50MPa以上である、請求項1に記載の熱融着性積層配向フィルム。
【請求項3】
両面に設けられた前記熱融着性層は、何れも厚みが10μm以上100μm以下であり、
両面の前記熱融着性層における複屈折率の差が0.0001以下である、請求項1又は2に記載の熱融着性積層配向フィルム。
【請求項4】
逐次又は同時の二軸延伸によりX軸およびY軸の二方向に配向されている、請求項1~3いずれかに記載の熱融着性積層配向フィルム。
【請求項5】
前記樹脂組成物中にポリアミド樹脂を85~65質量%、変性ポリプロピレン樹脂を15~35質量%含有し、前記ポリアミド樹脂の96%硫酸中で測定された相対粘度が2.4~3.2であり、前記変性ポリプロピレンの酸価が1.0~3.5mgKOH/gであることを特徴とする請求項1~4いずれかに記載の熱融着積層配向フィルム。
【請求項6】
前記熱融着性のポリオレフィンが、DSCで測定した融解ピーク温度が100℃から165℃のポリオレフィンを複数混合したものを、酸無水物を用いて変性した、酸無水物含有量が0.1~3質量%であり、230℃で2.16kgの荷重をかけて測定したMFRが1~30g/10分の範囲内であり、アセトンにより数平均分子量が1000以下の低分子量成分抽出量が1質量%未満である、請求項1~5いずれかに記載の熱融着性積層配向フィルム。
【請求項7】
請求項1~6いずれかに記載の熱融着性積層配向フィルムが長手方向に巻回されたロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材層の両面に熱融着性層が設けられた熱融着性積層配向フィルム、及びこれが巻回されたロールに関する。
【背景技術】
【0002】
熱融着性を有するフィルムやシートは、基材の少なくとも片側の最表面に、熱融着性層を設けた積層体であり、樹脂や金属からなる被着体に対して熱融着性層を貼りあわせる方式で、包装や補強などを目的として、様々な用途に用いられている。基材は、目的に応じて選択されるが、樹脂基材が用いられることが多く、求められる特性に応じて適切な樹脂が選定されている。
【0003】
また、被着体に対して優れた密着力を得るためには、被着体と熱融着性層との間の密着力だけでなく、基材と熱融着性層との間にも高い密着力が要求される。これは、全体を引きはがす外部からの応力に対して、最も弱い密着力となる領域が破壊又は剥離されるためである。
【0004】
一般的に、基材と熱融着性層等の機能層との間で優れた密着力を得るためには、基材表面をコロナ処理やプラズマ処理等により活性化させたり、基材表面に易接着層を設けたりする方法が知られている。
【0005】
例えば、特許文献1には、アクリル系重合体と架橋剤を含む易接着層を基材に設けることで、熱融着性層に対して強固な密着性を得る手法が記載されている。その際、ポリエステル樹脂を基材として用いるのが適切であることが記載されている。
【0006】
また、特許文献2では、熱融着性層と基材の間に中間層を設け、中間層の樹脂材料としてポリプロピレン、メタロセン系ポリエチレンおよびメタロセン系ポリプロピレンが記載されている。また、基材として、ポリオレフィンポリマーを用いることが開示されている。
【0007】
一方、熱融着性層と基材との密着性が高い場合には、両層を構成する樹脂を共押出して、両層が直接接するように積層された積層体を製造する方法が知られている。
【0008】
例えば、特許文献3には、金属ラミネート用途に用いられる熱融着性積層体を製造する際に、基材層と熱融着性層を共押出により積層して、未延伸の熱融着性積層体を製造することが記載されている。
【0009】
特許文献4には、ポリプロピレンフィルムからなる基材の片面に熱融着性層を、反対面に高融点のポリオレフィン層を有する積層体が記載され、ポリプロピレンの基材層とポリオレフィン層とを共押出した後に延伸を行ない、更に基材側に熱融着性層を押出ラミネートする方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開WO2019/078134号公報
【文献】特開2017-36354号公報
【文献】特許第6331468号公報
【文献】特許第2530732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1の発明では、基材としてポリエステルを使用すると、より過酷な湿熱環境では、カルボニル基が加水分解し易いため、湿熱環境下での耐久性に限界がある。また、基材に易接着層を設ける工程が必要になるため、工程が煩雑になると共にコスト的にも不利となる。この点は、中間層を設ける特許文献2についても同様である。
【0012】
また、特許文献3には、熱融着性積層体の基材層と熱融着性層を共押出で製膜することが開示されているものの、未延伸の積層体フィルムであるため、機械特性が不十分となり易く、より大きい製品面積を効率的に得るのが困難であるという問題もある。
【0013】
更に、特許文献4には、2層を共押出した後に延伸を行なうことが開示されているものの、更に基材側に熱融着性層を押出ラミネートしており、熱融着性層を基材層と共に共押出しする製法ではない。このため、熱融着性層と基材層との密着性が不十分となり易く、基材層の両面に設けた層の物性の相違による問題も生じ易い。また、共押出した後に延伸を行った熱融着性積層体では、被着体に熱接着する際に、貼り合わせの位置ズレ等が生じ易くなる。更に、基材がポリプロピレンフィルムであるため、高温での機械特性が不十分となる場合がある。
【0014】
そこで、本発明の目的は、十分な機械特性を有し、湿熱環境下での耐久性と積層界面での密着性が高く、熱接着時の貼り合わせ状態が良好な、熱融着性積層配向フィルム、及びこれが巻回されたロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、基材層として湿熱環境下の耐久性が高い樹脂を用い、これに熱融着性層との密着性を高める成分を添加して、その両面に熱融着性層を共押出した後に延伸することで、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明には以下の内容が含まれる。
【0017】
[1] ポリアミド樹脂又はポリメチルペンテン樹脂を99.9~60質量%、及び変性ポリオレフィン樹脂を0.1~40質量%含有する樹脂組成物からなる基材層の両面に、熱融着性のポリオレフィン樹脂を含有する熱融着性層が共押出により直接接するように設けられ、
長手方向をX軸、幅方向をY軸、厚み方向をZ軸と定義した場合に、少なくともX軸もしくはY軸の一方向に延伸配向されており、
X軸及びY軸の両方向における150℃熱変形率が4%以下である、熱融着性積層配向フィルム。
【0018】
[2] X軸もしくはY軸の少なくとも一方向において、150℃貯蔵弾性率が50MPa以上であり、破断強度が50MPa以上である、[1]に記載の熱融着性積層配向フィルム。
【0019】
[3] 両面に設けられた前記熱融着性層は、何れも厚みが10μm以上100μm以下であり、
両面の前記熱融着性層における複屈折率の差が0.0001以下である、[1]又は[2]に記載の熱融着性積層配向フィルム。
【0020】
[4] 逐次又は同時の二軸延伸によりX軸およびY軸の二方向に配向されている、[1]~[3]いずれかに記載の熱融着性積層配向フィルム。
【0021】
[5] 前記樹脂組成物中にポリアミド樹脂を85~65質量%、変性ポリプロピレン樹脂を15~35質量%含有し、前記ポリアミド樹脂の96%硫酸中で測定された相対粘度が2.4~3.2であり、前記変性ポリプロピレンの酸価が1.0~3.5mgKOH/gであることを特徴とする[1]~[4]いずれかに記載の熱融着積層配向フィルム。
【0022】
[6] 前記熱融着性のポリオレフィンが、DSCで測定した融解ピーク温度が100℃から165℃のポリオレフィンを複数混合したものを、酸無水物を用いて変性した、酸無水物含有量が0.1~3質量%であり、230℃で2.16kgの荷重をかけて測定したMFRが1~30g/10分の範囲内であり、アセトンにより数平均分子量が1000以下の低分子量成分抽出量が1質量%未満である、[1]~[5]いずれかに記載の熱融着性積層配向フィルム。
【0023】
[7] [1]~[6]いずれかに記載の熱融着性積層配向フィルムが長手方向に巻回されたロール。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、十分な機械特性を有し、湿熱環境下での耐久性と積層界面での密着性が高く、熱接着時の貼り合わせ状態が良好な、熱融着性積層配向フィルム、及びこれが巻回されたロールを提供することができる。
【0025】
その理由の詳細は不明であるが、次ぎのように考えられる。ポリアミド樹脂又はポリメチルペンテン樹脂と変性ポリオレフィン樹脂とを含有する樹脂組成物を基材層とすることで、湿熱環境下での耐久性を高めることができ、さらにポリオレフィン樹脂を含有する熱融着性層との親和性も良好になるので、両者が直接接するように共押出しすることが可能になる。そして、基材層の両面に熱融着性層を共押出しすることで、熱融着性樹脂の溶融状態での濡れ性と親和性により、基材層の両面の積層界面で高い密着性が得られる。更に未延伸の積層体を延伸配向させることにより、生産性を高められるだけでなく、機械特性を良好にすることができる。また、延伸された熱融着性積層配向フィルムの熱収縮特性や機械的強度を調整することで、被着体貼り合わせ時の熱による基材層のたわみや、収縮によるシワを抑制することができ、貼り合わせ時の不具合を解消できる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、説明の便宜上、フィルムの製膜方向を、機械軸方向、縦方向、長手方向、MD方向と称することがあり、製膜方向と厚み方向とに直交する方向を、幅方向、横方向、TD方向と称することがある。特に本発明では、長手方向をX軸、幅方向をY軸、厚み方向をZ軸と定義する。また、本明細書中に記載された各種の物性等は、具体的には実施例に記載された方法で測定されるものである。
【0027】
[熱融着性積層配向フィルム]
本発明の熱融着性積層配向フィルムは、樹脂組成物からなる基材層の両面に熱融着性層が共押出により直接接するように設けられ、少なくともX軸もしくはY軸の一方向に延伸配向されているものである。
【0028】
本発明における「共押出により直接接するように設けられ」との特定は、製造方法により物の構造を特定するものであるが、次のように、当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在する。
【0029】
3層の積層フィルムを共押出で製造する場合、先に製造した基材フィルムに他の2層を熱ラミネートしたものと、積層界面での密着性が相違するため、ミクロ構造的な相違を有することが明らかである。つまり、積層界面における分子をミクロ構造でみた場合に、各層の成分が相互に拡散・侵入した状態が異なるため、密着性が相違すると考えられる。しかし、拡散状態の差は程度の差であるため、このような状態の差を構造的に特定するのは困難である。
【0030】
また、他の2層が全く同じ場合について、両層の複屈折率を測定すると、共押出の場合には両層の複屈折率が同じになるが、後から熱ラミネートする場合では、両層の複屈折率が若干相違する。しかし、これは両層の組成等が全く同じの場合に限られ、少しでも両層が相違する場合には、その違いを特定することはできない。
【0031】
従って、従来技術との相違に係る構造又は特性を特定する文言を見いだすことができず、かつ、かかる構造又は特性を測定に基づき解析し特定することも不可能又は非実際的であるといえる。従って、本発明については、出願時において、当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在する。
【0032】
なお、「延伸配向されている」とは、フィルムの配向状態を特定するものであり、本発明の技術分野で慣用されている表現である。
【0033】
本発明の熱融着性積層配向フィルムは、例えば熱融着性層/基材層/熱融着性層からなるが、少なくとも一方の最表面に更に、保護フィルム、離型フィルム、カバーフィルムなどを設けてもよい。また、被着体を予め片方の面に熱接着して設けたものでもよい。
【0034】
以下、本発明の熱融着性積層配向フィルムの各構成について説明する。
【0035】
[基材層]
基材層を構成する樹脂組成物に含有される熱可塑性樹脂は、目的とする用途において基材層に求められる特性に応じて選択可能であるが、過酷な湿熱環境で基材層自体の耐久性を具備するために、水分子の反応点になるような官能基を有していないこと、また、貼り合わせ時の熱や環境による熱に耐えるための融点が高いこと、が好ましい。
【0036】
本発明では、かかる観点から、樹脂組成物の主成分として、ポリアミド樹脂又はポリメチルペンテン樹脂を用いることが好ましい。また、これらの樹脂への分散性や熱融着性層との密着性を良好にする観点から、樹脂組成物が変性ポリオレフィン樹脂を更に含むことが好ましい。
【0037】
樹脂組成物の主成分となる熱可塑性樹脂の融点をTmSとし、後述する熱融着性層を構成する樹脂の融点をTmHSとした場合、それらの差をΔT(=TmS-TmHS)として定義すると、ΔTが0~120℃の範囲にあることように組み合わせることが好ましく、10~100℃にあることがより好ましい。ΔTを0℃以上とすることで、例えば貼り合わせ時にかかる熱によって基材層が先に溶融することを防止できる。また、ΔTを120℃以下とすることで、押出機で溶融して厚み方向に積層する際に溶融粘度差が大きくなり過ぎず、積層斑が発生を抑制して安定な生産を行なうことができる。このような観点から、さらに好ましくは、ΔTが20℃~90℃、特に好ましくは、ΔTが40℃~80℃である。
【0038】
基材層の厚みは、熱融着性層を設ける上での基材層として必要な強度を得るために20μm以上であってもよく、25μm以上であることが好ましく、より好ましくは35μm以上、さらに好ましくは45μm以上であり、また、300μm以下であることが好ましく、より好ましくは270μm以下、さらに好ましくは250μm以下であり、他には、150μm以下や130μm以下であってもよい。
【0039】
[ポリアミド樹脂]
ポリアミド樹脂は、延伸配向フィルムとした場合に、ポリオレフィンに比べ基材層の強度が向上するため、基材層の搬送性に優れている。ポリアミド樹脂としては、脂肪族系ポリアミド樹脂、芳香族系ポリアミド樹脂、それらの共重合体又はブレンド体が挙げられる。
【0040】
このようなポリアミド樹脂としては、主鎖中にアミド結合(-NHCO-)を有する重合体であれば特に限定されないが、例えばポリアミド6(NY6)、ポリアミド66(NY66)、ポリアミド46(NY46)、ポリアミド11(NY11)、ポリアミド12(NY12)、ポリアミド610(NY610)、ポリアミド612(NY612)、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)、ヘキサメチレンジアミン-テレフタール酸重合体(6T)、ヘキサメチレンジアミン-テレフタール酸およびアジピン酸重合体(66T)、ヘキサメチレンジアミン-テレフタール酸およびεカプロラクタム共重合体(6T/6)、トリメチルヘキサメチレンジアミン-テレフタール酸重合体(TMD-T)、メタキシリレンジアミンとアジピン酸およびイソフタール酸共重合体(MXD-6/I)、トリヘキサメチレンジアミンとテレフタール酸およびε-カプロラクタム共重合体(TMD-T/6)、ジアミノジシクロヘキシレンメタン(CA)とイソフタール酸およびラウリルラクタム共重合体等のポリアミド樹脂等を挙げることが出来る。
【0041】
なかでも、ΔTを好ましい範囲に調整し易く、直接接するように熱融着性のポリオレフィンを設ける際に粘度差を生じにくく積層斑を発生させない観点から、ポリアミド6(NY6)、ポリアミド66(NY66)、ポリアミド610(NY610)などの脂肪族系ポリアミド樹脂が好ましい。
【0042】
ポリアミド樹脂としては、96%硫酸中で測定された相対粘度が2.4~3.2であることが好ましい。これにより、変性ポリオレフィン樹脂と溶融混合した際の粘度が、共押出によりシート状物を得る際に良好となり易い。
【0043】
ポリアミド樹脂の含有量は、基材層を構成する樹脂組成物中に60~99.9質量%であることが好ましく、65~95質量%がより好ましく、70~90質量%が更に好ましく、70~85質量%が最も好ましい。このような含有量の範囲内であると、十分な機械的強度が得られ易く、また変性ポリオレフィンとの体積比率の関係から、ポリアミド樹脂をマトリクスとして、十分な密着性を確保し易くなる。
【0044】
[ポリメチルペンテン樹脂]
ポリメチルペンテン樹脂としては、ポリメチルペンテンのホモポリマーの他、メチルペンテンをモノマーとして50モル%以上含む共重合ポリオレフィン、それらの混合物が挙げられる。共重合されるモノマーとしては、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレンなどが挙げられる。
【0045】
ポリメチルペンテン樹脂の場合、TmSが一般のポリプロピレンに比べ向上するため、ΔTを確保することが容易になるものの、表面エネルギーが低い故に、熱融着性層との親和性が低く、密着力を高めることが困難である。したがって、ポリアミド樹脂の場合と同様に、変性ポリオレフィン樹脂を混合することが好ましい。
【0046】
ポリメチルペンテン樹脂の含有量は、基材層を構成する樹脂組成物中に60~99.9質量%であることが好ましく、65~95質量%がより好ましく、70~90質量%が更に好ましく、70~85質量%が最も好ましい。このような含有量の範囲内であると、ポリメチルペンテンによる耐熱性の向上効果が得られ易く、また変性ポリオレフィンとの体積比率の関係から、ポリメチルペンテン樹脂をマトリクスとして、十分な密着性を確保し易くなる。
【0047】
[変性ポリオレフィン樹脂]
ポリオレフィンは、水分子の反応点になるような官能基を有していない点で優れており、また、熱融着性層が変性ポリオレフィンで構成されることから、該層との親和性が高く、共押出工法での密着性に優れる。また、変性ポリオレフィン樹脂を用いることで、ポリアミド樹脂又はポリメチルペンテン樹脂への分散性が向上する。
【0048】
変性ポリオレフィン樹脂としては、以下のポリオレフィン樹脂を変性したものが挙げられる。本明細書において「変性」とは、同一分子内にポリオレフィン等の構成単位とは異なる構成単位を含むものをいう。変性されるポリオレフィン樹脂としては、例えば高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(1-ブテン)、ポリ(4-メチルペンテン)等のポリオレフィン系樹脂を挙げることが出来る。また、これらのポリオレフィン系樹脂のブレンド体、又はこれらを構成成分とする共重合体が挙げられる。これらのポリオレフィン系樹脂の中で特に好ましいのはポリプロピレンである。
【0049】
特に溶融混錬によりポリアミド樹脂と混合する場合、変性ポリオレフィン樹脂が、ポリアミド樹脂の末端基および/または主鎖アミド基と反応する官能基を持つことが好ましい。具体的にはカルボン酸基、酸無水物基、エポキシ基、オキサゾリン基、アミノ基、イソシアネート基などを有する変性ポリオレフィン樹脂であることが好ましく、酸無水物基を有することがより好ましい。ポリメチルペンテン樹脂と混合する場合も、同様の変性ポリオレフィン樹脂を用いることができるが、相溶性等の観点から、マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂を用いることが好ましい。なお、変性方法としては、グラフト変性や共重合化を用いることができる。
【0050】
具体的な変性ポリオレフィン樹脂としては、例えば無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、エチレン/アクリル酸共重合体、エチレン/メタクリル酸共重合体、およびこれら共重合体中のカルボン酸部分の一部または全てをナトリウム、リチウム、カリウム、亜鉛、カルシウムとの塩としたもの、エチレン/アクリル酸メチル共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体、エチレン/メタクリル酸エチル共重合体、エチレン/アクリル酸エチル-g-無水マレイン酸共重合体(ここで「-g-」はグラフトを表わす(以下同じ))、エチレン/メタクリル酸メチル-g-無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン-g-無水マレイン酸共重合体、エチレン/ブテン-1-g-無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/1,4-ヘキサジエン-g-無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/ジシクロペンタジエン-g-無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/2,5-ノルボルナジエン-g-無水マレイン酸共重合体、水添スチレン/ブタジエン/スチレン-g-無水マレイン酸共重合体、水添スチレン/イソプレン/スチレン-g-無水マレイン酸共重合体などを挙げることができる。なかでも、マレイン酸変性したポリプロピレン、又はエチレン-プロピレン共重合体等が特に好ましい。
【0051】
変性ポリプロピレンの酸価は、ポリアミド樹脂への分散性の観点から、1.0~3.5mgKOH/gであることが好ましく、1.5~3.0mgKOH/gであることがより好ましい。
【0052】
熱融着性層との親和性を高めたり、基材層の水分率を低下せしめたりする目的で、変性ポリオレフィン樹脂の含有量を適宜調整することができるが、基材層を構成する樹脂組成物中に0.1~40質量%であることが好ましく、5~35質量%がより好ましく、10~35質量%がさらに好ましく、15~35質量%がさらに好ましい。
【0053】
[基材層の他の任意成分]
基材層を構成する樹脂組成物には、ポリアミド樹脂及び/又はポリメチルペンテン樹脂と相溶する他の樹脂成分を、本発明の目的を損なわない限りにおいて、含有させることが可能である。
【0054】
また、本発明の目的を損なわない限りにおいて、滑り性を向上させる等の目的で必要に応じて適当なフィラーを含有させることができる。このフィラーとしては、従来からフィルムやシートの滑り性付与剤として知られているものを用いることができるが、例えば、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、カオリン、酸化珪素、酸化亜鉛、カーボンブラック、炭化珪素、酸化錫、架橋アクリル樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、架橋シリコン樹脂粒子等を挙げることができる。さらに基材層には、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、有機滑材、触媒等をも適宜添加することができる。
【0055】
また、その他の任意成分としては、ポリアミド樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、変性ポリオレフィン樹脂に従来から使用されている各種添加剤が挙げられる。このような添加剤としては安定剤、衝撃改良剤、難燃剤、離型剤、摺動改良剤、着色剤、可塑剤、結晶核剤などが挙げられる。また、ポリアミド樹脂の末端基と反応する成分を含んだものでも良い。
【0056】
このような他の任意成分としては、例えば樹脂組成物中に0.001~10質量%使用することができる。
【0057】
[熱融着性層]
熱融着性層には、湿熱耐久性も必要であること、被着体への接着力を具備することから、熱融着性のポリオレフィン樹脂を含有する。熱融着性層は、上記のような基材層の両面に設けられている。なお、本明細書において「熱融着性」とは、被着体に対して加熱により融着可能な性質をいい、好ましくは金属であるSUS316に対して加熱により融着可能な性質をいう。
【0058】
両面に設けられる熱融着性層は、相互に同一の組成でも異なる組成でも良いが、例えば同じ材料からなる被着体同士を熱接着する場合には、相互に同一の組成の熱融着性層を両面に設けることが好ましい。また、熱融着性層の厚みは、相互に同一でも異なっていてもよいが、上記のような場合には、同一の厚みの熱融着性層を両面に設けることが好ましい。
【0059】
熱融着性層の厚みは、100μm以下であることが好ましい。共押出によって設けられた熱融着性層と基材層との間の密着性に関しては強固な密着が得られるが、例えば酸変性したポリオレフィン樹脂を用いる場合、酸変性部は水分の影響を受ける官能基を有するため、不必要に厚くすると過酷な湿熱環境で熱融着性層が脆化、破壊する傾向がある。かかる観点から熱融着性層の厚みは、好ましくは90μm以下、より好ましくは80μm以下、さらに好ましくは75μm以下であり、特に好ましくは60μm以下である。また、薄すぎても熱融着性層として、厚み方向の力学的緩和機能が弱まるため、例えば10μm以上であることが好ましく、より好ましくは15μ以上、特に好ましくは20μm以上である。
【0060】
熱融着性層は、基材層の両面に共押出により直接接するように設けられており、これによって基材層の両面の積層界面の状態を、両面で同じ状態にすることができる。その結果、相互に同一の組成の熱融着性層を設ける場合、両面の前記熱融着性層における複屈折率の差が0.0001以下となり、このような状態とすることが両面の積層界面の密着性を高める上で好ましい。
【0061】
[熱融着性のポリオレフィン樹脂]
熱融着性を有するポリオレフィン樹脂としては、未変性のポリオレフィン系樹脂を使用することも可能であるが、変性ポリオレフィンが好ましく、特にポリプロピレンを含む変性ポリオレフィンが好ましい。
【0062】
未変性のポリオレフィン系樹脂としては、例えば、炭素数2~8のオレフィンの単独重合体や共重合体、炭素数2~8のオレフィンと他のモノマーとの共重合体を挙げることができる。具体的には、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン樹脂などのポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリ(1-ブテン)、ポリ4-メチルペンテン、ポリビニルシクロヘキサン、ポリスチレン、ポリ(p-メチルスチレン)、ポリ(α-メチルスチレン)、エチレン・プロピレンブロック共重合体、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・ブテン-1共重合体、エチレン・4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン・ブテン・プロピレン三元共重合体、エチレンプロピレンジエンゴム、エチレン・へキセン共重合体などのα-オレフィン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メチルメタクリレート共重合体、エチレン・酢酸ビニル・メチルメタクリレート共重合体、ポリブタジエン・スチレン共重合体、ポリブタジエン・無水マレイン酸共重合体、アイオノマー樹脂などを挙げることができる。更に、これらポリオレフィンを塩素化した塩素化ポリオレフィンも使用することができる。
【0063】
熱融着性のポリオレフィン樹脂は、上記のとおり、種々のタイプが使用可能であるが、特に、ポリオレフィン樹脂に種々の官能基、例えば、カルボキシル基、水酸基等の官能基を導入した変性ポリオレフィン樹脂を用いることが好ましい。
【0064】
更に、これらの変性ポリオレフィン樹脂のうち、金属層との密着性がより向上し、耐電解質性に優れすることから、1~200mgKOH/gの酸価を有する変性ポリオレフィン樹脂(酸変性ポリオレフィン樹脂ともいう。)および/または1~200mgKOH/gの水酸基価を有する変性ポリオレフィン樹脂(水酸基変性ポリオレフィン樹脂ともいう。)を用いることができる。
【0065】
酸変性ポリオレフィン樹脂とは、分子中にカルボキシル基や無水カルボン酸基を有するポリオレフィン樹脂であり、ポリオレフィンを不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性し、合成される。この変性方法としては、グラフト変性や共重合化を用いることができる。
【0066】
酸変性ポリオレフィン樹脂は、少なくとも1つの重合可能なエチレン性不飽和カルボン酸またはその誘導体を、変性前のポリオレフィン樹脂にグラフト変性あるいは共重合化したグラフト変性ポリオレフィンである。
【0067】
変性前のポリオレフィン樹脂としては上述のポリオレフィン樹脂が挙げられるが、その中でもプロピレンの単独重合体、プロピレンとα-オレフィンとの共重合体、エチレンの単独重合体、およびエチレンとα-オレフィンとの共重合体等が好ましい。これらは1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0068】
酸変性ポリオレフィン樹脂としては、例えば、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸三元共重合体、またはエチレン-メタクリル酸エステル-無水マレイン酸三元共重合体が挙げられる。具体的には、三菱化学(株)製「モディック」、三井化学(株)製「アドマー」、「ユニストール」、東洋紡(株)製「トーヨータック」、三洋化成(株)製「ユーメックス」、日本ポリエチレン(株)製「レクスパールEAA」「レクスパールET」、ダウ・ケミカル(株)製「プリマコール」、三井・デュポンポリケミカル製「ニュクレル」、アルケマ製「ボンダイン」として市販されている。
【0069】
水酸基変性ポリオレフィン樹脂は、分子中に水酸基を有するポリオレフィン樹脂であり、ポリオレフィンを後述する水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル、あるいは、水酸基含有ビニルエーテルでグラフト変性あるいは共重合化して合成する。前記水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸ヒドロキエチル;(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリセロール;ラクトン変性(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール等が挙げられ、前記水酸基含有ビニルエーテルとしては、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル等が挙げられる。
【0070】
特に好ましい熱融着性のポリオレフィン樹脂としては、DSCで測定した融解ピーク温度が100℃から165℃のポリオレフィンを複数混合したものを、酸無水物を用いて変性した、酸無水物含有量が0.1~3質量%であり、230℃で2.16kgの荷重をかけて測定したMFRが1~30g/10分の範囲内であり、アセトンにより数平均分子量が1000以下の低分子量成分抽出量が1質量%未満のものである。
【0071】
[熱融着性層の他の任意成分]
熱融着性層は、熱融着性のポリオレフィン樹脂と相溶する他の樹脂成分を、本発明の目的を損なわない限りにおいて、含有させることが可能である。
【0072】
熱融着性層は、樹脂のみで構成することも可能であるが、粘着性付与剤、帯電防止剤、酸化防止剤、金属不活性剤、脱水剤、制酸吸着剤などの安定剤、または架橋剤、連鎖移動剤、核剤、滑剤、可塑剤、充填材、強化材、顔料、染料、難燃剤などの添加剤を本発明の効果を損なわない範囲内で添加してもよい。
【0073】
[熱融着性積層配向フィルムの特性]
本発明の熱融着性積層配向フィルムは、X軸及びY軸の両方向における150℃熱変形率が4%以下であることが好ましい。150℃熱変形率が4%以下であると、熱接着時の貼り合わせ状態が良好になり易い。かかる観点から、150℃熱変形率は3%以下がより好ましく、2.5%以下が更に好ましい。150℃熱変形率は小さいほど好ましく、150℃熱変形率の下限値としては0%が最も好ましいが、1%以上でも好ましい範囲である。
【0074】
また、X軸もしくはY軸の少なくとも一方向において、150℃貯蔵弾性率が50MPa以上であることが好ましく、X軸及びY軸の両方向において、150℃貯蔵弾性率が50MPa以上であることがより好ましい。150℃貯蔵弾性率が50MPa以上であると、熱接着時の応力による変形量が小さくなり、貼り合わせ状態も良好になる傾向がある。かかる観点から、150℃貯蔵弾性率は70MPa以上であることが好ましく、100MPa以上がより好ましい。150℃貯蔵弾性率は大きいほど好ましいが、現実的な上限値としては、500MPa程度である。
【0075】
また、X軸もしくはY軸の少なくとも一方向において、室温(25℃)における破断強度が50MPa以上であることが好ましく、X軸及びY軸の両方向において、破断強度が50MPa以上であることがより好ましい。破断強度が50MPa以上であると、熱接着時のハンドリング性が良好になり、積層界面での破壊も生じにくくなる傾向がある。かかる観点から、破断強度は70MPa以上であることが好ましく、100MPa以上がより好ましい。破断強度は大きいほど好ましいが、現実的な上限値としては、500MPa程度である。
【0076】
また、X軸もしくはY軸の少なくとも一方向において、121℃の2気圧飽和水蒸気で200h処理した後の破断伸度保持率が50%以上であることが好ましく、X軸及びY軸の両方向において、破断伸度保持率が50%以上であることがより好ましい。121℃の2気圧飽和水蒸気で200h処理した後の破断伸度保持率が50%以上であると、従来より過酷な湿熱環境下でも、十分な耐久性を発揮できるようになる。
【0077】
[熱融着性積層配向フィルムの製造方法]
以下、基材層を構成する樹脂の主成分として、ポリアミド樹脂を用いた場合について説明する。なお、ポリメチルペンテン樹脂を用いた場合も、下記を参考にして基材層を形成すればよい。
【0078】
本発明の熱融着性積層配向フィルムは、例えば、各層を構成する材料の混練、混練物の共押出、未延伸積層体の成形、その延伸、熱処理等により製造することができる。
【0079】
ポリアミド樹脂と変性ポリオレフィン樹脂、さらにその他の任意成分とを混合して混練する方法は、特に制限はされないが、例えば、単軸押出機、二軸押出機、加圧ニーダ、バンバリーミキサ等を使用できる。これらの中でも特に二軸押出機が好ましく用いられる。二軸押出機の運転条件等は、ポリアミド樹脂の種類、各含有成分の種類や量など種々の要因により異なり一義的に決められないが、例えば、運転温度は、主成分となる熱可塑性樹脂であるポリアミド樹脂の融点Tmに対して、+25℃前後で設定すればよい。押出機のスクリュー構成は、練りの優れるニーディングディスクを数箇所組み込むことが好ましい。
【0080】
基材層を構成する樹脂組成物は、熱融着性層とともに共押出により、シート状に溶融押出し、キャスティングドラムで冷却固化させて未延伸積層フィルムを得る。未延伸積層フィルムは、少なくともX軸もしくはY軸の一方向に延伸されるが、二軸延伸されることが好ましい。
【0081】
二軸延伸される場合、この未延伸積層フィルムをTg~(Tg+100)℃で長手方向(X軸)に1回もしくは2回以上の合計の倍率が2倍~6倍になるよう延伸し、Tg+20~(Tg+100)℃で幅方向(Y軸)に1回もしくは2回以上の合計の倍率が3倍~7倍になるように延伸する。ここでTgは主成分となる熱可塑性樹脂のガラス転移温度を表す。
【0082】
必要に応じて更にTm-60~Tm-5℃で1~60秒間熱処理を行ない、更に必要に応じて熱処理温度より10~20℃低い温度で幅方向に0~20%収縮させながら再熱処理を行うことにより得ることができる。また、上記延伸は、逐次二軸延伸でもよいし、同時二軸延伸でもよく、延伸の順序が横-縦であっても良い。
【0083】
本発明は、熱融着性層を基材層とともに共押出で形成することが特徴である。従前の方法では、熱融着性層は、ラミネート法としてはドライラミネート法とウェットラミネート法など、コーティング法としては押出樹脂コーティング法、溶融樹脂コーティング法、塗液コーティング法などで設けられているが、これらの方法では、幅方向に特定の幅を有する基材層に合わせた積層をする必要があるため、基材層は一旦製造しておいた後に、別工程で、熱融着性層を設ける必要があり、さらに、該幅制約から、単位時間あたりに生産できる面積には制約を有することが多い。
【0084】
本発明においては、熱融着性層を設けるために共押出で樹脂を押し出す場合、基材層の粘性に合わせて適宜溶融温度を調整して、溶融押出することが好ましい。また、熱融着性層の溶融粘度が適切になるように、ポリオレフィン樹脂の種類や分子量を選択することができる。
【0085】
熱融着性層の押出機の運転温度(溶融温度)としては、ポリオレフィン樹脂の融点TmHSに対して、TmHS+20℃~TmHS+120℃が好ましく、TmHS+50℃~TmHS+100℃がより好ましい。
【0086】
押出機からの熱融着性層の溶融物の吐出量は、基材層に対する厚み比率、積層体の厚み、ライン速度などに応じて適宜決定される。
【0087】
[ロール]
本発明のロールは、以上のような熱融着性積層配向フィルムが長手方向に巻回されたものである。つまり、本発明の熱融着性積層配向フィルムは、好ましくは連続的に製造されるものである。
【0088】
[用途]
本発明の熱融着性積層配向フィルムは、各種の被着体を熱接着するのに使用することができる。被着体としては、各種の金属、各種の樹脂、ガラス繊維等を含む繊維補強樹脂、セラミックス等が挙げられる。被着体の形状としては、シート、フィルム、平板などの他、平面部分や平面を曲げた曲面部を有する立体形状などが挙げられる。
【0089】
熱融着性積層配向フィルムによる熱接着は、熱融着性層が軟化する温度以上で行なわれる。また、基材層が熱変形するような温度で熱接着する場合、より複雑な表面形状を有する被着体に対しても、熱接着できるようになる。
【実施例】
【0090】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明では、以下の方法により、物性等を測定し、又は評価した。以下、特に断りのない限り、「部」とあるのは「質量部」を、「%」とあるのは「質量%」を意味する。
【0091】
(1)フィルム、各層の厚み
ミクロトームを用いてフィルムを切削し、フィルム表面に垂直な断面を得た。この断面に白金・パラジウム合金をスパッタリングによって被覆したものを観察サンプルとした。走査型電子顕微鏡(日立製作所製、S-510型)を用いてフィルム断面を観察し、フィルム全厚みが一視野となる適当な倍率で写真撮影した。この像より、スケールを用いて各層の厚みを測定した。独立に作成した3点の断面サンプルについて測定を行い、この平均値をもって積層フィルムの層厚みとした。
【0092】
(2)熱融着性層の複屈折率表裏差
長手方向をX軸、幅方向をY軸、厚み方向をZ軸にした場合に、試料片を切り出しXY断面(End方向)が観察できるように偏光顕微鏡に設置する。偏光顕微鏡に所定の検板を設置し、セナルモン法を用いて、各表層の熱融着性層の厚み方向の複屈折率を観察される位相差および試料厚みから測定し、その差を熱融着性層の複屈折率表裏差として算出した。
【0093】
(3)熱融着性層の融点表裏差
試料片最外層を構成する熱融着性層の融点は、それぞれの表面から10mgサンプリングし、DSC(TAinstrument社製Q100)で昇温速度10℃/min.で測定し、融点を示す吸熱ピークを融点と定義して測定し、その表裏差の絶対値を算出した。
【0094】
(4)破断強度
試料を幅10mm、長さ100mmに切り出し、引張試験機(オリエンテック社製テンシロンUCT-100型)を用いて、室温(25℃)において、JIS-K7127に基づき、破断点での強度を破断強度として、測定した。
【0095】
(5)150℃熱変形率
長手方向をX軸、幅方向をY軸、厚み方向をZ軸にした場合に、試料XY平面で200mm×200mmでサンプリングし、標点(標点間距離:100mm)を作成した。その後、張力がかからないような状態で150℃にした恒温槽中で30秒処理を行い、標点間距離を測定し、熱処理前の標点間距離を基準として、標点間距離の変化から150℃熱変形率を算出した。
【0096】
(6)150℃貯蔵弾性率
長手方向をX軸、幅方向をY軸、厚み方向をZ軸にした場合に、試料をX方向およびY方向にそれぞれ40mm長さでサンプリングし(幅5mm)、動的粘弾性測定装置(パーキンエルマー社製DMA8000)を用いて、チャック間10mm、変位0.01mm、周波数1Hzで、常温から180℃まで2℃/min.で昇温しながら、貯蔵弾性率を測定し、150℃の値を読み取った。
【0097】
(7)密着性
(7-1)界面1:熱融着性層-基材層
試料を幅25mm、長さ150mmに切り出し、密着性を測定したい熱融着性層の端部を基材層から剥離して剥離開始部を作成し、引張試験機(オリエンテック社製テンシロンUCT-100型)を用いて、JIS-C2151に準じて剥離速度100mm/分にて180°剥離をした。測定は5回行い、各測定の最大値の平均値を剥離力として下記基準にて評価した。
【0098】
A:剥離力が15N以上もしくは、密着強く剥離端が作成できない状態であること
B:剥離力が5N以上15N未満
C:剥離力が5N未満
(7-2)界面2:熱融着性層-被着体
被着体として、SUS316、およびポリプロピレン製シートを用いて、界面2の密着性を評価した。界面2の作成方法として、次の通りである。試料片はプレス機でもって150mm□に切り出したSUS316もしくは、ポリプロピレン製シートを2枚用意し、間に得られた熱融着性積層配向フィルムを挟み込んだ。位置決めのため、決められた位置に直径5mmの穴を穿ち、ずれがないことを確認して、160℃で5MPaの圧力で1min.加圧して、貼り合わせを行った。
【0099】
この成形サンプルを幅10mm、長さ100mmに切り出し、密着性を測定する被着体の端部を剥離して剥離開始部を作成し、引張試験機(オリエンテック社製テンシロンUCT-100型)を用いて、JIS-C2151に準じて剥離速度100mm/分にて180°剥離をした。測定は5回行い、各測定の最大値の平均値を剥離力として下記基準にて評価した。
【0100】
A:剥離力が10N以上
B:剥離力が3N以上10N未満
C:剥離力が3N未満
また、貼り合わせの際に熱融着性積層配向フィルムの寸法変化が起き、両面のSUS316やポリプロピレン製シートからはみ出したり、サイズが収縮して、位置決めの穿孔にずれが見られるかどうかを、貼り合わせ可否として、下記基準で評価した。
【0101】
〇:穿孔にずれがなく貼り合わせ良好
×:穿孔にずれがあり貼り合わせ不良
(7-3)湿熱環境下における密着性(121℃×48時間)
上記(7-2)で作成したSUS316被着体サンプルを121℃の水中に48時間浸漬後、室温で24時間放置して乾燥させたサンプルを用いる以外は、上記(7-2)と同様に実施し、下記基準にて評価した。
【0102】
A:剥離力が10N以上
B:剥離力が3N以上10N未満
C:剥離力が3N未満
(8)ポリアミド樹脂の相対粘度
ウベローデ粘度管を用い、25℃において96質量%硫酸溶液で、ポリアミド樹脂濃度1g/dlで測定した。
【0103】
(9)変性ポリオレフィン樹脂の酸価
変性ポリオレフィン樹脂の酸価(mgKOH/g)は、1gの酸変性ポリオレフィンを中和するのに必要とするKOH量のことであり、JIS K0070(1992)の試験方法に準じて、測定した。具体的には、100℃に温度調整したキシレン100gに、酸変性ポリオレフィン1gを溶解させた後、同温度でフェノールフタレインを指示薬として、0.1mol/L水酸化カリウムエタノール溶液[商品名「0.1mol/Lエタノール性水酸化カリウム溶液」、和光純薬(株)製]で滴定を行った。この際、滴定に要した水酸化カリウム量をmgに換算して酸価(mgKOH/g)を算出した。
【0104】
(10)ポリオレフィンの融解ピーク温度
上記(3)熱融着性層の融点表裏差に従って、ポリオレフィンの融解ピーク温度を測定した。
【0105】
(11)メルトフローレート(MFR)
JIS K6760で定められた押出し形プラストメータを用いて、230℃で2.16kgの荷重をかけて、JIS K7210に規定されている方法で測定した(単位(g/10分)。
【0106】
(12)低分子量成分抽出量
90℃の温水バスで蒸発・冷却したアセトンを用いて、2時間ソックスレー抽出して、溶解成分を抽出し、得られた溶液を用いて、装置(Waters社製e2695)により、数平均分子量が1000以下の低分子量成分を確認した。試料の質量から、低分子量成分の抽出量(質量%)を求めた。
【0107】
[実施例1]
基材層を構成する樹脂組成物として、樹脂Aを用いた。樹脂Aは、6ナイロン(PA6)(東洋紡社製T-803、相対粘度2.7)を70質量%、変性ポリプロピレン(PO)(酸価2.8mgKOH/g、プライムポリマー社製MMP-006)を30質量%含有する。樹脂Aを押出機に投入し、溶融温度260℃で溶融混練してダイスリットより押し出しながら、基材層に直接接するように両面に、熱融着性を有する変性ポリオレフィン樹脂(トーヨータックM100、酸無水物含有量が1質量%、融解ピーク温度110℃と126℃、MFR10g/10分、低分子量成分抽出量が0.5質量%)を、押出機にて溶融温度230℃で溶融混錬して、ダイスリットより共押出しを行ない、表面温度25℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて未延伸フィルムを作成した。この時、未延伸フィルムの厚み構成比が、1:3:1となるように吐出量を制御して共押出しを行った。
【0108】
この未延伸フィルムを70℃に加熱したロール群に導き、長手方向に3.0倍で延伸し、25℃のロール群で冷却した。続いて、フィルムの両端をクリップで保持しながらテンターに導き、90℃に加熱された雰囲気中で横方向に4.0倍で延伸した。その後、テンター内で180℃で熱固定を行いながら、幅方向に5%弛緩後、均一に徐冷して室温まで冷やし、125μm厚みの二軸延伸フィルムを得て、ロール状に巻き取ることで、熱融着性積層配向フィルムのロールを得た。得られた熱融着性積層配向フィルムの特性を表1にまとめた。
【0109】
[実施例2]
基材層を構成する樹脂組成物として、ポリメチルペンテン(TPX)(三井化学社製、DX845)を70質量%、変性ポリプロピレン(樹脂Aに含有されるものと同じ)を30質量%含有する樹脂Bを用いた。樹脂Bを押出機に投入し、溶融温度260℃で溶融混錬して、ダイスリットより押し出しながら、基材層に直接接するように両面に、熱融着性を有する変性ポリオレフィン樹脂(東洋紡社製、トーヨータックM100)を、押出機に投入し、溶融温度230℃で溶融混錬して、ダイスリットより共押出しを行ない、表面温度25℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて未延伸フィルムを作成した。この時、未延伸フィルムの厚み構成比が、1:3:1となるように吐出量を制御して共押出しを行った。
【0110】
この未延伸フィルムを100℃に加熱したロール群に導き、長手方向に3.5倍で延伸し、25℃のロール群で冷却した。続いて、フィルムの両端をクリップで保持しながらテンターに導き、110℃に加熱された雰囲気中で横方向に4.0倍で延伸した。その後、テンター内で200℃で熱固定を行いながら、幅方向に5%弛緩後、均一に徐冷して室温まで冷やし、125μm厚みの二軸延伸フィルムを得て、ロール状に巻き取ることで、熱融着性積層配向フィルムのロールを得た。得られた熱融着性積層配向フィルムの特性を表1にまとめた。
【0111】
[実施例3]
実施例1において、樹脂A及び変性ポリオレフィン樹脂の吐出量を変更して250μm厚みの二軸延伸フィルムを得た以外は、実施例1と同様にして、熱融着性積層配向フィルムのロールを得た。得られた熱融着性積層配向フィルムの特性を表1にまとめた。
[実施例4]
実施例2において、樹脂B及び変性ポリオレフィン樹脂の吐出量を変更して250μm厚みの二軸延伸フィルムを得た以外は、実施例2と同様にして、熱融着性積層配向フィルムのロールを得た。得られた熱融着性積層配向フィルムの特性を表1にまとめた。
【0112】
[実施例5]
実施例1において、樹脂Aに含まれる各樹脂の含有量を表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、熱融着性積層配向フィルムのロールを得た。得られた熱融着性積層配向フィルムの特性を表1にまとめた。
【0113】
[実施例6]
実施例1において、樹脂Aに含まれる6ナイロンを610ナイロン(PA610)(アルケマ社製、HIPROLON7ONN、相対粘度2.7)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、熱融着性積層配向フィルムのロールを得た。得られた熱融着性積層配向フィルムの特性を表1にまとめた。
【0114】
[実施例7]
実施例1において、熱融着性を有する変性ポリオレフィン樹脂をトーヨータックM312(酸無水物含有量が1.0質量%、融解ピーク温度110℃と130℃、MFR12g/10分、低分子量成分抽出量が0.8質量%)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、熱融着性積層配向フィルムのロールを得た。得られた熱融着性積層配向フィルムの特性を表1にまとめた。
【0115】
[実施例8]
実施例1において、樹脂Aに含まれる変性ポリオレフィン樹脂をトーヨータックM-100に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、熱融着性積層配向フィルムのロールを得た。得られた熱融着性積層配向フィルムの特性を表1にまとめた。
【0116】
[比較例1]
実施例1で得られた熱融着性積層配向フィルムと同じ層構成を有する熱融着性積層配向フィルムを、下記に示す工法を用いて作成した。
【0117】
即ち、樹脂Aを押出機に投入し、溶融温度260℃で溶融混練してダイスリットより押し出しながら、表面温度25℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて未延伸フィルムを作成した。この未延伸フィルムを70℃に加熱したロール群に導き、長手方向に3.0倍で延伸し、25℃のロール群で冷却した。続いて、フィルムの両端をクリップで保持しながらテンターに導き、90℃に加熱された雰囲気中で横方向に4.0倍で延伸した。その後、テンター内で180℃で熱固定を行いながら、幅方向に5%弛緩後、均一に徐冷して室温まで冷やし、75μm厚みの二軸延伸フィルムを得て、ロール状に巻き取ることで、基材層のみのフィルムのロールA1を採取した。
【0118】
また、熱融着性を有する変性ポリオレフィン樹脂(東洋紡社製、トーヨータックM100)を、押出機に投入し、表面温度25℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて未延伸フィルムのロールA2を作成した。
【0119】
基材層となるロールA1を繰り出し、片面側に貼り合わせられるようにロールA2を繰り出し、テフロンチューブを巻いた加熱ロールを160℃にして、ニップしながらラミネートを行い、片面貼り合わせロールA3を作成した。さらに片面貼り合わせロールA3を繰り出し、ロールA2を基材層の側に貼り合わせるように繰り出し、同様にニップしながらラミネートを行い、熱融着性積層配向フィルムのロールを得た。この工法により得られた熱融着性積層配向フィルムの特性を表1にまとめた。
【0120】
[比較例2]
樹脂Aを押出機に投入し、溶融温度260℃で溶融混練してダイスリットより押し出しながら、基材層に直接接するように片面に、熱融着性を有する変性ポリオレフィン樹脂(東洋紡社製、トーヨータックM100)を、押出機に投入し、溶融温度230℃で溶融混錬して、ダイスリットより共押出を行ない、表面温度25℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて未延伸フィルムを作成した。この時、未延伸フィルムの厚み構成比が、1:3となるように吐出量を制御して押し出しを行った。この未延伸フィルムを70℃に加熱したロール群に導き、長手方向に3.0倍で延伸し、25℃のロール群で冷却した。続いて、フィルムの両端をクリップで保持しながらテンターに導き、90℃に加熱された雰囲気中で横方向に4.0倍で延伸した。その後、テンター内で180℃で熱固定を行いながら、幅方向に5%弛緩後、均一に徐冷して室温まで冷やし、100μm厚みの二軸延伸フィルムを得て、ロール状に巻き取ることで、片面貼り合わせロールA4を作成した。
【0121】
また、熱融着性を有する変性ポリオレフィン樹脂(三井化学社製、アドマーQE840)を、押出機に投入し、表面温度25℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて未延伸フィルムおよび未延伸フィルムロールA5を作成した。
【0122】
ロールA4を繰り出し、基材層側に貼り合わせられるようにロールA5を繰り出し、テフロンチューブを巻いた加熱ロールを160℃にして、ニップしながらラミネートを行い、熱融着性積層配向フィルムのロールを得た。この工法により得られた熱融着性積層配向フィルムの特性を表1にまとめた。
【0123】
[比較例3]
樹脂Bを押出機に投入し、溶融温度260℃で溶融混錬して、ダイスリットより押し出しながら、基材層に直接接するように両面に、熱融着性を有する変性ポリオレフィン樹脂(東洋紡社製、トーヨータックM100)を、押出機に投入し、溶融温度230℃で溶融混錬して、ダイスリットより共押出しを行ない、表面温度25℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて未延伸フィルムを作成した。この時、未延伸フィルムの厚み構成比が、1:3:1となるように吐出量を制御して共押出しをし、125μm厚みの延伸処理をしない未延伸フィルムを得て、ロール状に巻き取ることで、熱融着性積層配向フィルムのロールを採取した。得られた熱融着性積層配向フィルムの特性を表1にまとめた。
【0124】
[比較例4]
固有粘度0.60dl/g(35℃、オルトクロロフェノール)のポリエチレン-2,6-ナフタレートからなる樹脂Cを押出機に投入し、溶融温度300℃で溶融混練してダイスリットより押し出しながら、表面温度60℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて未延伸フィルムを作成した。この未延伸フィルムを125℃に加熱したロール群に導き、長手方向に3.5倍で延伸し、25℃のロール群で冷却した。続いて、フィルムの両端をクリップで保持しながらテンターに導き、145℃に加熱された雰囲気中で横方向に4.0倍で延伸した。その後、テンター内で225℃で熱固定を行いながら、幅方向に5%弛緩後、均一に徐冷して室温まで冷やし、75μm厚みの二軸延伸フィルムを得て、ロール状に巻き取ることで、基材層のみのフィルムのロールC1を採取した。
【0125】
また、東洋紡製のトーヨータック(商品名:M100)を、押出機に投入し、表面温度25℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて未延伸フィルムのロールA2を作成した。
【0126】
基材層ロールC1を繰り出し、片面側に貼り合わせられるようにロールA2を繰り出し、テフロンチューブを巻いた加熱ロールを160℃にして、ニップしながらラミネートを行い、片面貼り合わせロールC2を作成した。
【0127】
さらに片面貼り合わせロールC2を繰り出し、ロールA2を基材層側に貼り合わせるように繰り出し、同様にニップしながらラミネートを行い、熱融着性積層配向フィルムのロールを得た。この工法により得られた熱融着性積層配向フィルムの特性を表1にまとめた。
【0128】
[比較例5]
実施例1において、延伸倍率を長手方向に3.8倍、幅方向に4.2倍にし、弛緩率を1%に低くしたこと以外は、実施例1と同様にして、熱融着性積層配向フィルムのロールを得た。得られた熱融着性積層配向フィルムの特性を表1にまとめた。
【0129】
[比較例6]
実施例1において、樹脂Aの代わりに、6ナイロン100質量%からなる樹脂を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、熱融着性積層配向フィルムのロールを得た。得られた熱融着性積層配向フィルムの特性を表1にまとめた。
【0130】
[比較例7]
実施例2において、樹脂Bの代わりに、ポリメチルペンテン100質量%からなる樹脂を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、熱融着性積層配向フィルムのロールを得た。得られた熱融着性積層配向フィルムの特性を表1にまとめた。
【0131】
【0132】
表1から明らかなように、実施例1~8では、十分な機械特性を有し、湿熱環境下での耐久性と積層界面での密着性が高く、熱接着時の貼り合わせ状態が良好な、熱融着性積層配向フィルムを得ることができた。
【0133】
これに対して、二軸延伸した基材層の両面に熱融着性層を熱ラミネートした比較例1では、基材層との界面の密着性が不十分であった。また片面のみ熱融着性層を熱ラミネートした比較例2でも、基材層との界面の密着性が不十分であり、片面をラミネートすることで片側の基材層と接着剤層にのみ残留応力が存在することで、湿熱環境下での耐久性も劣っていた。
【0134】
一方、共押出後に延伸を行なわなかった比較例3では、機械特性が不十分となり、積層界面での密着性も低下した。ポリエステル基材を用いて直接熱融着性層を熱ラミネートした比較例4では、湿熱環境下での耐久性が悪く、積層界面での密着性も低下した。また、150℃熱変形率が4%を超える比較例5では、熱接着時の貼り合わせ状態が悪化した。更に、基材層に変性ポリオレフィン樹脂を含まない比較例6と7では、積層界面での密着性も低下し、密着性の低下が著しく評価できない項目も存在した。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明の熱融着性積層配向フィルムは、金属を初めとして、ガラス、繊維による強化を含む、含まないに依らず樹脂等の各種、平面状もしくはフィルム状の被着体に対して、各層間で剥離が起こらず、優れた接着力を有し、過酷な耐久評価においても強い耐久性を有し、かつ貼り合わせ成形時の熱に耐えうる基材層の剛性を保つことで、貼り合わせの不具合を抑制可能であることから、その産業上の利用可能性は高い。
【要約】
十分な機械特性を有し、湿熱環境下での耐久性と積層界面での密着性が高く、熱接着時の貼り合わせ状態が良好な、熱融着性積層配向フィルム、及びこれが巻回されたロールを提供する。本発明の熱融着性積層配向フィルムは、ポリアミド樹脂又はポリメチルペンテン樹脂を99.9~60質量%、及び変性ポリオレフィン樹脂を0.1~40質量%含有する樹脂組成物からなる基材層の両面に、熱融着性のポリオレフィン樹脂を含有する熱融着性層が共押出により直接接するように設けられ、長手方向をX軸、幅方向をY軸、厚み方向をZ軸と定義した場合に、少なくともX軸もしくはY軸の一方向に延伸配向されており、X軸及びY軸の両方向における150℃熱変形率が3%以下である。