(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】残走行可能距離算出装置
(51)【国際特許分類】
B60K 6/22 20071001AFI20221110BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20221110BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20221110BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20221110BHJP
【FI】
B60K6/22
B60L50/16 ZHV
B60L3/00 S
B60K6/46
(21)【出願番号】P 2018156053
(22)【出願日】2018-08-23
【審査請求日】2021-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080768
【氏名又は名称】村田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100166327
【氏名又は名称】舟瀬 芳孝
(74)【代理人】
【識別番号】100106644
【氏名又は名称】戸塚 清貴
(72)【発明者】
【氏名】北川 浩之
(72)【発明者】
【氏名】八雲 正
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-212649(JP,A)
【文献】特開2012-101616(JP,A)
【文献】特開2014-101103(JP,A)
【文献】特開2015-095917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20- 6/547
B60W 10/00-20/50
B60L 1/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータを用いて走行する車両の残走行可能距離を算出する残走行可能距離算出装置において、
前記車両の電力源に残存している総電力量を算出する総電力量算出手段と、
前記車両の電力消費率の累積データを取得して記憶するデータ記憶手段と、
前記データ記憶手段により記憶された直近の電力消費率である現電費と、前記現電費よりも過去の電力消費率である過去電費の各々の寄与度を重みとする加重平均として基準電費を算出する基準電費算出手段と、
前記総電力量算出手段により算出された総電力量を前記基準電費算出手段により算出された基準電費で除することにより、前記車両の残走行可能距離を算出する残走行可能距離算出手段と
を備え、
前記総電力量は、前記車両内の全てのバッテリのバッテリ残量と、前記車両に設けられた内燃機関が前記車両に蓄えられた残存燃料で発電可能な電力量との和であり、
前記基準電費算出手段は、前記現電費と前記過去電費の各々の寄与度を、前記総電力量が少なくなるほど、前記過去電費の寄与度に対する前記現電費の寄与度の比が大きくなるように設定
し、
前記基準電費の算出において、前記現電費の寄与度を固定値とする一方で、前記過去電費の寄与度が前記総電力量を変数とする2次関数により設定されるようにした残走行可能距離算出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に用いられる残走行可能距離算出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両においては、電動モータを用いて走行する車両(例えば電気自動車)が普及してきている。このような車両の残走行可能距離を算出して表示するための技術として、例えば、特許文献1には、いわゆるシリーズハイブリッド車両において、バッテリの蓄電量と発電用エンジンの燃料タンクの燃料残量の双方に基づいて、残走行可能距離を算出する制御装置が開示されている。また、特許文献2には、車両用航続可能距離推定装置において、電費算出のためのサンプリング期間として、第1のサンプリング期間と、より長い第2のサンプリング期間とを備え、予め規定された初期条件が成立した場合(バッテリの充電が終了した場合)に、第1のサンプリング期間に代えて第2のサンプリング期間を用いて航続可能距離を推定することにより、適切な推定を可能とした装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-101616
【文献】特開2013-27166
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような残走行可能距離の算出は、車両におけるバッテリ残量(内燃機関による発電が可能である場合には、生成可能な電力量を含む)と、車両の電力消費率(電費)との関係で求められることになる。しかしながら、車両の電力消費率は、運転状況や走行環境によって時々刻々変化するものであるので、算出される残走行可能距離も、バッテリ残量の現象に伴う変化を超えて変動してしまうことがある。このような残走行可能距離表示の不安定な変動は、運転者を戸惑わせてしまい、また適切な運転計画を阻害してしまいかねない。一方で、バッテリ残量が少なくなってきたときには、運転者が充電のタイミングを適切に確保できるように、その時点での運転状況等を適切に反映した正確な残走行可能表示が必要となる。
【0005】
本発明は、以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、電力を用いて走行する車両に用いられる残走行可能距離算出装置において、算出値の安定性と正確性を最適に両立し得る残走行可能距離算出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明にあっては、次のような解決方法を採択している。すなわち、請求項1に記載のように、電動モータを用いて走行する車両の残走行可能距離を算出する残走行可能距離算出装置において、前記車両の電力源に残存している総電力量を算出する総電力量算出手段と、前記車両の電力消費率の累積データを取得して記憶するデータ記憶手段と、前記データ記憶手段により記憶された直近の電力消費率である現電費と、前記現電費よりも過去の電力消費率である過去電費の各々の寄与度を重みとする加重平均として基準電費を算出する基準電費算出手段と、前記総電力量算出手段により算出された総電力量を前記基準電費算出手段により算出された基準電費で除することにより、前記車両の残走行可能距離を算出する残走行可能距離算出手段とを備え、前記総電力量は、前記車両内の全てのバッテリのバッテリ残量と、前記車両に設けられた内燃機関が前記車両に蓄えられた残存燃料で発電可能な電力量との和であり、前記基準電費算出手段は、前記現電費と前記過去電費の各々の寄与度を、前記総電力量が少なくなるほど、前記過去電費の寄与度に対する前記現電費の寄与度の比が大きくなるように設定し、 前記基準電費の算出において、前記現電費の寄与度を固定値とする一方で、前記過去電費の寄与度が前記総電力量を変数とする2次関数により設定されるようにした。
【0007】
上記解決手法によれば、車両における電源部の総電力量が少なくなるほど、現電費の寄与度を過去電費の寄与度よりも大きく設定して基準電費及び残走行可能距離を算出する(つまり、残走行可能距離の算出において、現電費が過去電費よりも強く影響するようにする)ので、総電力量(走行に利用できる電力残量)が少なく、走行用電力の不足となり易い場合には、残走行可能距離の算出において現電費が大きく考慮され、その時点における運転状態、走行環境等が適切に反映された正確な(信頼性の高い)残走行可能距離が算出される。一方、総電力量が十分にある場合(電欠までに余裕がある場合)には、残走行可能距離の算出において過去電費の寄与度が大きく設定される(算出時点から、より遡った時点までの電力消費率の履歴が考慮される)ので、算出された残走行可能距離は、算出時点における運転状態、走行環境等の一時的な変化によって変動し難い安定性の高いものとなる。したがって、残走行可能距離の算出は、算出時における総電力量に応じて、最適な安定性と正確性を両立した形で実行できる。また、総電力量が大きくなると過去電費の寄与度が2次関数で大きくなっていくので、残走行可能距離算出において、総電力量に応じた安定性と正確性のバランスを適切にとることができる。また、走行用電力が内燃機関(発電用エンジン)による発電によっても供給される車両においても、適切に残走行可能距離を算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の制御系の一例及び車両の構成の一部を示すブロック構成図。
【
図3】総電力量に対する過去電費の寄与度の関係の一例を示すグラフ。
【
図4】総電力量に対する残走行可能距離の算出値の関係の一例を示すグラフ。
【
図5】本発明の残走行可能距離算出における制御の一例の制御手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面に基づいて本発明の実施形態について説明する。
【0012】
図1には、本発明の残走行可能距離算出装置を備えた車両の構成の一部及び制御系の一例をブロック構成図で示す。図示されるように、車両は、駆動手段である電動モータに電力供給するバッテリBと、発電機Gを駆動して生成した電力を電動モータに供給する内燃機関であるエンジンEを併せ持っている。なお、本実施形態において、車両は、駆動手段として電動モータのみを備え、この電動モータにバッテリと内燃機関から走行用電力を供給するタイプの車両(いわゆるシリーズハイブリッド車両)である。
【0013】
制御系は、例えばマイクロコンピュータを利用して構成されたコントローラUを備えている。コントローラUは、残走行可能距離算出のための手段(プログラム)として、総電力量算出手段1と、基準電費算出手段2と、残走行可能距離算出手段3を備えている。
【0014】
総電力量算出手段1は、車両において走行用電力をして利用可能な電力残量である総電力量を算出する手段である。詳しく説明すると、総電力量算出手段1は、バッテリ残量検出手段4により検出されたバッテリBの電力残量(バッテリ電力残量)の検出信号を取得するとともに、燃料残量検出手段5により検出された燃料タンクT内の燃料残量の検出信号を取得し、この燃料残量を用いてエンジンE及び発電機Gにより生成可能な電力量(エンジン電力残量)を算出する。バッテリ電力残量とエンジン電力残量を加え合わせた電力量が、総電力量Wとなる。
【0015】
基準電費算出手段2は、車両の残走行可能距離を算出するために用いられる電力消費率である基準電費を算出する手段である。基準電費算出手段2は、データ記憶手段Mから取得したデータに基づいて、基準電費Eを算出する。なお、後述もするように、残走行可能距離は、総電力量Wを基準電費Eで除した値W/Eとして算出されることになる。
【0016】
データ記憶手段Mは、例えば外部記憶装置から構成され、車両の走行距離の所定周期毎(例えば1km毎)の電力消費率(走行距離毎の電力消費量)が、時系列で蓄積された累積データとして記憶されている。
図2には、データ記憶手段Mに記憶された累積データを模式的に示している。累積データにおいて、現時点に一番近い周期における電力消費率は現電費e(i)であり、この現電費e(i)の前に単位過去電費e(i-j)が連なることにより累積データが構成されることになる。ここで、i、jは自然数であり、iはその時点までのデータ蓄積数(蓄積された周期の数)を、また、jは現電費から何周期前の単位過去電費であるかを、それぞれ示している。
【0017】
基準電費の算出においては、まず単位過去電費e(i-j)の系列から、過去電費epを算出する。具体的には、現電費e(i)の1周期前の単位過去電費e(i-1)を過去電費epとしてもよいし、現電費e(i)の前の複数周期分の単位過去電費の平均値を過去電費epとしてもよい。
【0018】
基準電費は、現電費ec(=e(i))を過去電費epの加重平均(重み付き電費)として算出される。すなわち、基準電費Eは、過去電費epの寄与度αと現電費ecの寄与度βを、過去電費epと現電費ecの各々の重みとする過去電費epと現電費ecの加重平均として算出される。具体的な算出式は、以下の式(1)の通りである。
E=(α・ep+β・ec)/(α+β) …(1)
基準電費算出における過去電費epの寄与度αと現電費ecの寄与度βは、総電力量Wが少なくなるほど、過去電費の寄与度αに対する現電費の寄与度βの比が大きくなるように設定される。すなわち、総電力量Wが少なくなるほど、基準電費Eの算出における現電費ecの影響が効いてきて、総電力量Wが多くなるほど、基準電費Eの算出における過去電費epの影響が効いてくるようにする。
【0019】
これにより、総電力量W(走行に利用できる電力残量)が少なく、走行用電力の不足となり易い場合には、残走行可能距離の算出において現電費ecが大きく考慮され、その時点における運転状態、走行環境等が適切に反映された正確な残走行可能距離が算出される。一方、総電力量Wが十分にある場合(電欠までに余裕がある場合)には、残走行可能距離の算出において過去電費ep(つまり、現電費epよりも過去の電力消費率の履歴)が大きく考慮されるので、算出された残走行可能距離は、算出時点における運転状態、走行環境等の一時的な変化によって変動し難い安定性の高いものとなる。したがって、残走行可能距離の算出は、算出時における総電力量Wに応じて、最適な安定性と正確性を両立した形で実行できる。
【0020】
次に、具体的な過去電費の寄与度αと現電費の寄与度βの設定例を説明する。本設定例においては、現電費の寄与度βを固定する(例えばβ=1とする)とともに、過去電費の寄与度αを総消費量Wの2次関数として設定する。すなわち、過去電費の寄与度αを、以下の式(2)で設定する。
α=K・W
2 …(2)
ここで、係数Kは定数である。なお、
図3は、式(2)で設定される総電力量Wと過去電費の寄与度αの関係をグラフで示している。
【0021】
このように、過去電費の寄与度αを総消費量Wの2次関数として設定することにより、総電力量Wの値に応じて寄与度αを大きく変化させることができるので、総電力量Wが少ないときには、より精度(信頼性)の高い残走行可能距離の算出が可能となるとともに、総電力Wが多い場合には、算出される残走行可能距離の安定性を、より高めることができる。
【0022】
残走行可能距離算出手段3は、総電力量算出手段1で算出された総電力量Wを基準電費算出手段で算出された基準電費Eで除することにより、残走行可能距離L=W/Eを算出する。算出された残走行可能距離Lは、表示手段D(例えば、車両のインストルメントパネルに設けられた液晶ディスプレイ)に表示されて、車両の運転者に示される。
【0023】
図4は、総電力量に対する残走行可能距離の算出値の関係の一例を示すグラフであり、本発明により残走行可能距離を算出した場合のグラフ(実線)と、現電費のみを用いて残走行可能距離を算出した場合のグラフ(破線)を示している。図示されるように、本発明により算出された残走行可能距離は、現電費だけでなく過去電費も考慮して算出した基準電費を用いて算出されるので、特に総電力量が大きな場合に、現電費のみで算出した場合と比較して、総電力量の減少にしたがって徐々に減少し、急激に変動してしまうことのない安定したものとなる。
【0024】
次に、
図5のフローチャートにしたがって、コントローラUにおける残走行可能距離算出の制御の一例について説明する。残走行可能距離算出においては、まずステップS1において、バッテリ電力残量のデータを取得し、ステップS2において、燃料残量のデータを取得するとともに、その燃料残量で発電可能なエンジン電力残量を算出する。ステップS3においては、バッテリ電力残量とエンジン電力残量を加えることにより、総電力量を算出する。
【0025】
ステップS4においては、電力消費率の累積データ(現電費及び過去電費)を取得する。ステップS5においては、総電力量に応じて、現電費と過去電費の各々の寄与度を設定し、ステップS6においては、設定された寄与度を用いて、基準電費を算出する。
【0026】
ステップS7においては、総電力量を基準電費で除することにより、残走行可能距離を算出する。ステップS8においては、算出された残走行可能距離を表示装置Dに表示して、一巡の処理を終了する。
【0027】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲において適宜の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、電動モータによって駆動される車両において、残走行可能距離を算出するために利用できる。
【符号の説明】
【0029】
B バッテリ
E エンジン
G 発電機
T 燃料タンク
U コントローラ
1 総電力演出手段
2 基準電費算出手段
3 残走行可能緒距離算出手段
4 バッテリ残量検出手段
5 燃料残量検出手段
M データ記憶手段
D 表示手段