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特許7174361金属部材の溶接構造の製造方法、及び金属部材の溶接構造
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  • 特許-金属部材の溶接構造の製造方法、及び金属部材の溶接構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】金属部材の溶接構造の製造方法、及び金属部材の溶接構造
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/323 20140101AFI20221110BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20221110BHJP
   B23K 26/22 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
B23K26/323
B23K26/21 G
B23K26/22
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019532412
(86)(22)【出願日】2018-05-30
(86)【国際出願番号】 JP2018020846
(87)【国際公開番号】W WO2019021623
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2017144031
(32)【優先日】2017-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】杉村 幸暉
(72)【発明者】
【氏名】後藤 和宏
(72)【発明者】
【氏名】桑原 鉄也
(72)【発明者】
【氏名】平井 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】小野 純一
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹児
(72)【発明者】
【氏名】中山 治
(72)【発明者】
【氏名】浜田 和明
(72)【発明者】
【氏名】宮本 賢次
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/159503(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/077929(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/047050(WO,A1)
【文献】特開2017-88926(JP,A)
【文献】特開2017-123318(JP,A)
【文献】特開2015-43308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siを1質量%以上17質量%以下含むAl合金部材と、
Cuを主成分とするCu部材と、
前記Al合金部材と前記Cu部材の各構成材料が溶融凝固された溶接部とを備え、
前記溶接部は、前記Cu部材との界面から離れる方向に向かって順に、
CuAlを含み、Siを含まないγ相と、
CuAlを含み、Siを含まないδ相と、
AlCuとSiとを含むθ相と、
が積層された積層構造を備える金属部材の溶接構造。
【請求項2】
Feを0.05質量%以上2.5質量%以下含むAl合金部材と、
Cuを主成分とするCu部材と、
前記Al合金部材と前記Cu部材の各構成材料が溶融凝固された溶接部とを備え、
前記溶接部は、前記Cu部材との界面から離れる方向に向かって順に、
CuAlを含み、Feを含まないγ相と、
CuAlとFeとを含むδ相と、
AlCuとFeとを含む内側θ相と、
AlCuを含み、Feを含まない外側θ相と、
が積層された積層構造を備える金属部材の溶接構造。
【請求項3】
Mnを0.05質量%以上2.5質量%以下含むAl合金部材と、
Cuを主成分とするCu部材と、
前記Al合金部材と前記Cu部材の各構成材料が溶融凝固された溶接部とを備え、
前記溶接部は、前記Cu部材との界面から離れる方向に向かって順に、
CuAlを含み、Mnを含まないγ相と、
CuAlとMnとを含むβ相と、
AlCuを含み、Mnを含まないθ相と、
が積層された積層構造を備える金属部材の溶接構造。
【請求項4】
前記溶接部は、
AlCuとSiとを含み、前記積層構造の前記界面側とは反対側に分散する複数の島部と、
純AlとSiとを含み、前記島部同士の間に介在される海部とを有する海島構造を備える請求項に記載の金属部材の溶接構造。
【請求項5】
前記島部同士の間隔が10μm以下である請求項に記載の金属部材の溶接構造。
【請求項6】
前記溶接部は、
AlCuとFeとを含み、前記積層構造の前記界面側とは反対側に分散する複数の粗大島部と、
純Alを含み、前記粗大島部の間に分散する複数の微細島部と、
AlCuとFeとを含み、前記粗大島部と前記微細島部の間に介在される三次元網目状の海部とを有する海島構造を備える請求項に記載の金属部材の溶接構造。
【請求項7】
前記溶接部は、
AlCuとMnとを含み、前記積層構造の前記界面側とは反対側に分散する複数の粗大島部と、
純Alを含み、前記粗大島部の間に分散する複数の微細島部と、
AlCuとMnとを含み、前記粗大島部と前記微細島部の間に介在される三次元網目状の海部とを有する海島構造を備える請求項に記載の金属部材の溶接構造。
【請求項8】
前記粗大島部同士の間隔が10μm以下である請求項又は請求項に記載の金属部材の溶接構造。
【請求項9】
前記溶接部は、前記海島構造の前記積層構造側とは反対側にAlCuと純Alとのラメラ構造を有する請求項から請求項のいずれか1項に記載の金属部材の溶接構造。
【請求項10】
前記溶接部は、前記Cu部材を貫通している請求項から請求項のいずれか1項に記載の金属部材の溶接構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材の溶接構造の製造方法、及び金属部材の溶接構造に関する。
本出願は、2017年7月25日付の日本国出願の特願2017-144031に基づく優先権を主張し、前記日本国出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
Al部材とCu部材とを溶接してなる金属部材の溶接構造として、例えば、特許文献1の異種金属同士の接続構造が知られている。この異種金属同士の接続構造は、銅からなる第1金属部とアルミニウムからなる第2金属部と重ね、加熱しながら加圧して接合することで製造している。この異種金属同士の接続構造は、第1金属部と第2金属部との接続箇所に、第1金属部との界面から離れる方向に向かって、第1合金部と、海島構造と、ラメラ構造とが積層された中間部を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-97526号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示に係る金属部材の溶接構造の製造方法は、
Al基合金からなるAl合金部材と、Cuを主成分とするCu部材とを準備する準備工程と、
前記Al合金部材と前記Cu部材とを対向配置させ、前記Al合金部材側からレーザーを照射して前記Al合金部材と前記Cu部材とを溶接する溶接工程と、を備え、
前記Al基合金は、添加元素としてSiを1質量%以上17質量%以下、Feを0.05質量%以上2.5質量%以下、及びMnを0.05質量%以上2.5質量%以下のいずれか1つを含み、
前記レーザーの照射条件は、
出力が550W以上、
走査速度が10mm/sec以上を満たす。
【0005】
本開示に係る第一の金属部材の溶接構造は、
Siを1質量%以上17質量%以下含むAl合金部材と、
Cuを主成分とするCu部材と、
前記Al合金部材と前記Cu部材の各構成材料が溶融凝固された溶接部とを備え、
前記溶接部は、前記Cu部材との界面から離れる方向に向かって順に、
CuAlを含み、Siを含まないγ相と、
CuAlを含み、Siを含まないδ相と、
AlCuとSiとを含むθ相と、
を積層された積層構造を備える。
【0006】
本開示に係る第二の金属部材の溶接構造は、
Feを0.05質量%以上2.5質量%以下含むAl合金部材と、
Cuを主成分とするCu部材と、
前記Al合金部材と前記Cu部材の各構成材料が溶融凝固された溶接部とを備え、
前記溶接部は、前記Cu部材との界面から離れる方向に向かって順に、
CuAlを含み、Feを含まないγ相と、
CuAlとFeとを含むδ相と、
AlCuとFeとを含む内側θ相と、
AlCuを含み、Feを含まない外側θ相と、
が積層された積層構造を備える。
【0007】
本開示に係る第三の金属部材の溶接構造は、
Mnを0.05質量%以上2.5質量%以下含むAl合金部材と、
Cuを主成分とするCu部材と、
前記Al合金部材と前記Cu部材の各構成材料が溶融凝固された溶接部とを備え、
前記溶接部は、前記Cu部材との界面から離れる方向に向かって順に、
CuAlを含み、Mnを含まないγ相と、
CuAlとMnとを含むβ相と、
AlCuを含み、Mnを含まないθ相と、
が積層された積層構造を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る金属部材の溶接構造の概略を示す断面図である。
図2】実施形態に係る第一の金属部材の溶接構造における溶接部のCu部材との界面近傍を拡大して示す顕微鏡写真である。
図3】実施形態に係る第一の金属部材の溶接構造における海島構造のCu部材側を拡大して示す顕微鏡写真である。
図4図3の実線の四角で囲む領域を拡大した顕微鏡写真である。
図5】実施形態に係る第一の金属部材の溶接構造におけるラメラ構造の付近を拡大して示す顕微鏡写真である。
図6】実施形態に係る第二の金属部材の溶接構造における溶接部のCu部材との界面近傍を拡大して示す顕微鏡写真である。
図7】実施形態に係る第二の金属部材の溶接構造における海島構造のCu部材側を拡大して示す顕微鏡写真である。
図8図7の実線の四角で囲む領域を拡大した顕微鏡写真である。
図9図7の破線の四角で囲む領域を拡大した顕微鏡写真である。
図10】実施形態に係る第三の金属部材の溶接構造における溶接部のCu部材との界面近傍を拡大して示す顕微鏡写真である。
図11】実施形態に係る第三の金属部材の溶接構造における海島構造のCu部材側を拡大して示す顕微鏡写真である。
図12図11の実線の四角で囲む領域を拡大した顕微鏡写真である。
図13】試料No.1-1の金属部材の溶接構造における溶接部のCu部材との界面近傍に対してライン分析を行った結果を示すグラフである。
図14】試料No.1-2の金属部材の溶接構造における溶接部のCu部材との界面近傍に対してライン分析を行った結果を示すグラフである。
図15】試料No.1-3の金属部材の溶接構造における溶接部のCu部材との界面近傍に対してライン分析を行った結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示が解決しようとする課題]
接合強度に優れる金属部材の溶接構造を安定して製造できることが望まれている。上述の金属部材の溶接構造は接合強度に優れるが、条件によっては上述のような接合強度に優れる金属部材の溶接構造を製造できない場合があった。
【0010】
そこで、接合強度に優れる金属部材の溶接構造を製造できる金属部材の溶接構造の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【0011】
また、接合強度に優れる金属部材の溶接構造を提供することを目的の一つとする。
【0012】
[本開示の効果]
本開示の金属部材の溶接構造の製造方法は、接合強度に優れる金属部材の溶接構造を製造できる。
【0013】
本開示の第一から本開示の第三の金属部材の溶接構造は、接合強度に優れる。
【0014】
《本発明の実施形態の説明》
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0015】
(1)本発明の一態様に係る金属部材の溶接構造の製造方法は、
Al基合金からなるAl合金部材と、Cuを主成分とするCu部材とを準備する準備工程と、
前記Al合金部材と前記Cu部材とを対向配置させ、前記Al合金部材側からレーザーを照射して前記Al合金部材と前記Cu部材とを溶接する溶接工程と、を備え、
前記Al基合金は、添加元素としてSiを1質量%以上17質量%以下、Feを0.05質量%以上2.5質量%以下、及びMnを0.05質量%以上2.5質量%以下のいずれか1つを含み、
前記レーザーの照射条件は、
出力が550W以上、
走査速度が10mm/sec以上を満たす。
【0016】
上記の構成によれば、接合強度に優れる金属部材の溶接構造を安定して製造できる。各添加元素の含有量がそれぞれの範囲を満たし、レーザーの出力及び走査速度がそれぞれの範囲を満たすことで、詳しくは後述するが、溶接部(Cu部材との界面近傍)に作用する応力を緩和し易い積層構造を有する溶接部を備える金属部材の溶接構造を製造できるからである。
【0017】
これらの添加元素の含有量がそれぞれの下限値以上であることで、後述する積層構造を形成できる。これらの添加元素の含有量がそれぞれの上限値以下であることで、導電率の過度な低下を抑制できる。
【0018】
レーザーの出力を550W以上とすることで、Cu部材の表面を溶融させられてAl合金部材とCu部材とを溶接できる。
【0019】
レーザーの走査速度を10mm/sec以上とすることで、走査速度が過度に遅すぎず、Al合金部材とCu部材との溶接時間が長くなりすぎないため、生産性を向上できる。
【0020】
(2)上記金属部材の溶接構造の製造方法の一形態として、
前記レーザーの照射条件は、
出力が850W以下、
走査速度が90mm/sec以下を満たすことが挙げられる。
【0021】
レーザーの出力を850W以下とすれば、過度に出力が高くなり過ぎない。レーザーの走査速度を90mm/sec以下とすれば、走査速度が過度に早すぎず、Cu部材の表面を溶融させられる。
【0022】
(3)上記金属部材の溶接構造の製造方法の一形態として、前記レーザーは、ファイバーレーザーであることが挙げられる。
【0023】
上記の構成によれば、Al合金部材とCu部材とを溶接し易い。
【0024】
(4)上記金属部材の溶接構造の製造方法の一形態として、前記レーザーは、前記Cu部材を貫通するように照射することが挙げられる。
【0025】
上記の構成によれば、Cu部材のAl合金部材とは反対側に溶接痕が形成されるため、Al合金部材とCu部材とが溶接されていることが容易に判別できる。Cu部材を貫通するほどCuを溶融させると、脆性なAlCuが形成されるため接合強度が低下すると考えられていたが、上記Al合金部材を準備して上記照射条件のレーザーを照射すれば脆性なAlCuのサイズを小さくできる。それにより接合強度の低下を抑制できるので、Cu部材の一部を溶融する場合と同程度の接合強度を有する金属部材の溶接構造を製造できる。
【0026】
(5)本発明の一態様に係る第一の金属部材の溶接構造は、
Siを1質量%以上17質量%以下含むAl合金部材と、
Cuを主成分とするCu部材と、
前記Al合金部材と前記Cu部材の各構成材料が溶融凝固された溶接部とを備え、
前記溶接部は、前記Cu部材との界面から離れる方向に向かって順に、
CuAlを含み、Siを含まないγ相と、
CuAlを含み、Siを含まないδ相と、
AlCuとSiとを含むθ相と、
が積層された積層構造を備える。
【0027】
上記の構成によれば、Al合金部材とCu部材との接合強度に優れる。Al合金部材とCu部材との間の溶接部がCu部材との界面に積層構造を備えることで、Cu部材と溶接部との界面の接合強度の低下を抑制できるからである。
【0028】
(6)本発明の一態様に係る第二の金属部材の溶接構造は、
Feを0.05質量%以上2.5質量%以下含むAl合金部材と、
Cuを主成分とするCu部材と、
前記Al合金部材と前記Cu部材の各構成材料が溶融凝固された溶接部とを備え、
前記溶接部は、前記Cu部材との界面から離れる方向に向かって順に、
CuAlを含み、Feを含まないγ相と、
CuAlとFeとを含むδ相と、
AlCuとFeとを含む内側θ相と、
AlCuを含み、Feを含まない外側θ相と、
が積層された積層構造を備える。
【0029】
上記の構成によれば、第一の金属部材の溶接構造と同様、Al合金部材とCu部材との接合強度に優れる。
【0030】
(7)本発明の一態様に係る第三の金属部材の溶接構造は、
Mnを0.05質量%以上2.5質量%以下含むAl合金部材と、
Cuを主成分とするCu部材と、
前記Al合金部材と前記Cu部材の各構成材料が溶融凝固された溶接部とを備え、
前記溶接部は、前記Cu部材との界面から離れる方向に向かって順に、
CuAlを含み、Mnを含まないγ相と、
CuAlとMnとを含むβ相と、
AlCuを含み、Mnを含まないθ相と、
が積層された積層構造を備える。
【0031】
上記の構成によれば、第一の金属部材の溶接構造と同様、Al合金部材とCu部材との接合強度に優れる。
【0032】
(8)上記第一の金属部材の溶接構造の一形態として、
前記溶接部は、
AlCuとSiとを含み、前記積層構造の前記界面側とは反対側に分散する複数の島部と、
純AlとSiとを含み、前記島部同士の間に介在される海部とを有する海島構造を備えることが挙げられる。
【0033】
上記の構成によれば、海島構造により溶接部における島部の表面積が大きくなることで溶接部(Cu部材との界面近傍)に作用する応力を分散させ易いため、Al合金部材とCu部材との接合強度により一層優れる。
【0034】
(9)上記溶接部が上記海島構造を備える上記第一の金属部材の溶接構造の一形態として、前記島部同士の間隔が10μm以下であることが挙げられる。
【0035】
上記間隔が10μm以下であれば、島部同士の間隔が過度に広すぎず亀裂が直線的に伝播し難くなるため、Al合金部材とCu部材との接合強度により一層優れる。
【0036】
(10)上記第二の金属部材の溶接構造の一形態として、
前記溶接部は、
AlCuとFeとを含み、前記積層構造の前記界面側とは反対側に分散する複数の粗大島部と、
純Alを含み、前記粗大島部の間に分散する複数の微細島部と、
AlCuとFeとを含み、前記粗大島部と前記微細島部の間に介在される三次元網目状の海部とを有する海島構造を備える。
【0037】
上記の構成によれば、海島構造により溶接部における粗大島部の表面積が大きくなることで溶接部に対する応力を分散させ易いため、Al合金部材とCu部材との接合強度により一層優れる。
【0038】
(11)上記第三の金属部材の溶接構造の一形態として、
前記溶接部は、
AlCuとMnとを含み、前記積層構造の前記界面側とは反対側に分散する複数の粗大島部と、
純Alを含み、前記粗大島部の間に分散する複数の微細島部と、
AlCuとMnとを含み、前記粗大島部と前記微細島部の間に介在される三次元網目状の海部とを有する海島構造を備える。
【0039】
上記の構成によれば、海島構造により溶接部における粗大島部の表面積が大きくなることで溶接部に対する応力を分散させ易いため、Al合金部材とCu部材との接合強度により一層優れる。
【0040】
(12)上記溶接部が上記海島構造を有する上記第二及び上記第三の金属部材の溶接構造の一形態として、前記粗大島部同士の間隔が10μm以下であることが挙げられる。
【0041】
上記間隔が10μm以下であれば、粗大島部同士の間隔が過度に広すぎず亀裂が直線的に伝播し難くなるため、Al合金部材とCu部材との接合強度により一層優れる。
【0042】
(13)上記溶接部が上記海島構造を有する上記第一から上記第三の金属部材の溶接構造の一形態として、前記溶接部は、前記海島構造の前記積層構造側とは反対側にAlCuと純Alとのラメラ構造を有することが挙げられる。
【0043】
上記の構成によれば、ラメラ構造により溶接部におけるAlCuの表面積が大きくなることで溶接部に対する応力を分散させ易いため、Al合金部材とCu部材との接合強度により一層優れる。
【0044】
(14)上記第一から上記第三の金属部材の溶接構造の一形態として、前記溶接部は、前記Cu部材を貫通していることが挙げられる。
【0045】
上記の構成によれば、Cu部材のAl合金部材とは反対側に溶接痕が形成されるため、Al合金部材とCu部材とが溶接されていることが容易に判別できる。また、Cu部材の一部を溶融する場合と同程度に接合強度に優れる。
【0046】
《本発明の実施形態の詳細》
本発明の実施形態の詳細を、以下に説明する。実施形態での説明は、金属部材の溶接構造の製造方法、金属部材の溶接構造の順に行う。金属部材の溶接構造の説明は、Al合金部材の添加元素の種類に応じて、第一~第三の金属部材の溶接構造の順に行う。
【0047】
〔金属部材の溶接構造の製造方法〕
適宜図1を参照して実施形態に係る金属部材の溶接構造の製造方法を説明する。実施形態に係る金属部材の溶接構造の製造方法は、Al合金部材2とCu部材3とを準備する準備工程と、レーザーを照射してAl合金部材2とCu部材3とを溶接する溶接工程とを備える。この金属部材の溶接構造の製造方法の特徴の一つは、準備工程で特定の組成のAl合金部材2を準備する点と、溶接工程で特定の照射条件のレーザーを照射する点とにある。各工程の詳細を説明する。以下の説明では、レーザーの照射側を表(図1紙面上側)、その反対側を裏(図1紙面下側)とし、表裏方向を厚さ方向とする。
【0048】
[準備工程]
準備工程では、Al合金部材2とCu部材3とを準備する。
【0049】
(Al合金部材)
Al合金部材2は、Al基合金からなる。Al基合金は、Al(アルミニウム)を主成分とし、添加元素としてSi(ケイ素)、Fe(鉄)、及びMn(マンガン)のいずれか1種の元素を含む。このAl基合金は、不可避的不純物を含むことを許容する。
【0050】
Siの含有量は、1質量%以上17質量%以下が挙げられ、2.5質量%以上15質量%以下が好ましく、更に4質量%以上13質量%以下が好ましい。Feの含有量は、0.05質量%以上2.5質量%以下が挙げられ、0.25質量%以上2質量%以下が好ましく、更に0.5質量%以上1.5質量%以下が好ましい。Mnの含有量は、0.05質量%以上2.5質量%以下が挙げられ、0.25質量%以上2質量%以下が好ましく、更に0.5質量%以上1.5質量%以下が好ましい。これらの添加元素の含有量がそれぞれの下限値以上であることで、図2図6図10)を参照して後述する積層構造5a(5b、5c)を備える溶接部4を形成できる。これらの添加元素の含有量がそれぞれの上限値以下であることで、導電率の過度な低下を抑制できる。
【0051】
Al合金部材2の形状は、適宜選択でき、代表的には板状が挙げられる。Al合金部材2の厚さは、適宜選択でき、例えば0.2mm以上1.2mm以下が挙げられ、更に0.25mm以上0.9mm以下が挙げられ、特に0.3mm以上0.6mm以下が挙げられる。
【0052】
(Cu部材)
Cu部材3は、Cu(銅)を主成分とする。Cuを主成分とするとは、純銅やCu基合金をいう。Cu部材3は、不可避的不純物を含むことを許容する。Cu基合金の添加元素は、例えば、Si,Fe,Mn,Ti,Mg,Sn,Ag,In,Sr,Zn,Ni,Al,及びPから選択される1種以上の元素が挙げられる。これらの添加元素の含有量は、導電率の過度な低下が生じない範囲で適宜選択できる。添加元素の合計含有量は、例えば0.001質量%以上0.1質量%以下が好ましく、更に0.005質量%以上0.07質量%以下、特に0.01質量%以上0.05質量%以下が好ましい。
【0053】
Cu部材3の形状は、適宜選択でき、Al合金部材2と同様、代表的には板状が挙げられる。Cu部材3の厚さは、適宜選択でき、例えば0.15mm以上0.6mm以下が挙げられ、更に0.25mm以上0.5mm以下が挙げられ、特に0.35mm以上0.4mm以下が挙げられる。
【0054】
[溶接工程]
溶接工程では、Al合金部材2とCu部材3とを溶接する。この溶接は、Al合金部材2とCu部材3とを対向配置させ、Al合金部材2側からレーザーを照射することで行う。それにより、Al合金部材2とCu部材3の各構成材料が溶融凝固された溶接部4によりAl合金部材2とCu部材3とが接合された金属部材の溶接構造1(1A~1C)を製造する。
【0055】
レーザーの照射により、Al合金部材2は、そのレーザーの照射箇所の表裏に亘って溶融され、Cu部材3は、Al合金部材2の溶融箇所に対向する箇所の少なくとも一部が溶融される。レーザーの照射条件によっては、Cu部材3は、Al合金部材2と同様、その表裏に亘って溶融される。その場合、溶融凝固した溶接部4は、Cu部材3を貫通する。溶接部4がCu部材3を貫通すれば、Cu部材3の裏面に溶接痕(図示略)が形成されるため、Al合金部材2とCu部材3とが溶接されていることが容易に判別できる。Cu部材3を貫通するほどCuを溶融させると、脆性なAlCu(後述)が形成されるため接合強度が低下すると考えられていたが、Al合金部材2を準備して特定の照射除件のレーザーを照射すれば脆性なAlCuのサイズを小さくできる。そのため、Cu部材3の一部を溶融する場合と同程度の接合強度を有する金属部材の溶接構造1を製造できる。
【0056】
レーザーの種類は、Al合金部材2とCu部材3とを溶融して溶接可能なレーザーであればよい。レーザーの種類は、レーザーの媒体が固体である固体レーザーが挙げられ、例えばファイバーレーザー、YAGレーザー、YVO4レーザーの中から選択される1種のレーザーであることが好ましい。これらのレーザーであれば、Al合金部材2とCu部材3とを溶接し易い。これらレーザーの各々には、各レーザーの媒体に種々の材料がドープされた公知のレーザーも含む。即ち、上記ファイバーレーザーは、その媒体であるファイバーのコアに希土類元素などがドープされており、例えば、Ybなどをドープすることが挙げられる。上記YAGレーザーは、その媒体にNd、Erなどをドープされていてもよいし、上記YVO4レーザーは、その媒体にNdなどをドープされていてもよい。
【0057】
レーザーの照射条件は、Al合金部材2やCu部材3の厚さや、溶接部4の厚さ、レーザーの種類などに応じて適宜選択できる。レーザーの照射条件は、Cu部材3を貫通する程度の条件であることが好ましい。
【0058】
レーザーの出力は、550W以上が挙げられる。レーザーの出力を550W以上とすることで、Cu部材3の表面を溶融させられてAl合金部材2とCu部材3とを溶接でききる。レーザーの出力は、850W以下が好ましい。レーザーの出力を850W以下とすれば、過度に出力が高くなり過ぎない。レーザーの出力は、570W以上830W以下が好ましく、更に600W以上800W以下が好ましい。
【0059】
レーザーの走査速度は、10mm/sec以上が挙げられる。レーザーの走査速度を10mm/sec以上とすることで、走査速度が過度に遅すぎず、Al合金部材2とCu部材3との溶接時間が長くなりすぎないため、生産性を向上できる。レーザーの走査速度は、90mm/sec以下が好ましい。レーザーの走査速度を90mm/sec以下とすれば、走査速度が過度に早すぎず、Cu部材3の表面を溶融させられる。レーザーの走査速度は、15mm/sec以上60mm/sec以下が好ましく、更に20mm/sec以上30mm/sec以下が好ましい。レーザーの走査方向は、適宜選択でき、ここでは図1紙面垂直方向としている。
【0060】
レーザー照射時のアシストガスは、窒素ガスが好ましい。アシストガスの照射方向はレーザーの照射方向に対して直交する方向とすることが好ましい。
【0061】
〔作用効果〕
金属部材の溶接構造の製造方法は、接合強度に優れる金属部材の溶接構造を安定して製造できる。
【0062】
〔第一の金属部材の溶接構造〕
図1図5を参照して第一の金属部材の溶接構造1Aを説明する。第一の金属部材の溶接構造1Aは、Al合金部材2と、Cu部材3と、Al合金部材2とCu部材3とを接合する溶接部4とを備える(図1)。第一の金属部材の溶接構造1Aは、上述の金属部材の溶接構造の製造方法により製造できる。第一の金属部材の溶接構造1Aの特徴の一つは、溶接部4が特定の組成及び組織の積層構造5a(図2)を備える点にある。図2は、図1の破線円内を拡大して示しており、溶接部4のCu部材3との界面近傍を拡大した顕微鏡写真である。図3は、図2の海島構造6aのCu部材3側を拡大した顕微鏡写真を示す。図4は、図3の実線の四角で囲む領域を拡大した透過電子顕微鏡写真を示す。図5は、図2のラメラ構造7の付近を拡大した顕微鏡写真を示す。
【0063】
[Al合金部材]
Al合金部材2は、Alを主成分とし、Siを添加元素として含むAl基合金からなる(図1)。このAl合金部材2は、不可避的不純物を含むことを許容する。Siの含有量は、上述の通りであり、1質量%以上17質量%以下が挙げられる。Siの好適な含有量や、Al合金部材2の好適な厚さは上述の通りである。この厚みは、Al合金部材2における溶接部4以外の箇所の厚みとする。
【0064】
[Cu部材]
Cu部材3は、Cuを主成分とし、純銅やCu基合金をいう。Cu部材3の組成は、上述の製造方法で説明した通りである。ここでは、Cu部材3は、純銅としている。Cu部材3の形状はここでは板状とし、好適な厚さは、上述の通りである。この厚みは、Al合金部材2と同様、Cu部材3における溶接部4以外の箇所の厚みとする。
【0065】
[溶接部]
溶接部4は、Al合金部材2とCu部材3とを接合する部分で、各構成材料が溶融凝固されて構成されている。即ち、本例では、溶接部4の主たる構成元素は、Al,Si,及びCuである。金属部材の溶接構造1Aの厚さ方向に沿った溶接部4の形成領域は、Al合金部材2の表面からCuの少なくとも一部に亘った領域とすることが挙げられる。即ち、溶接部4は、Al合金部材2をその表裏に貫通している。この溶接部4の形成領域は、Cu部材3の裏面に亘る領域とすることが好ましい。即ち、溶接部4は、Cu部材3をその表裏に貫通していることが好ましい。そうすれば、Cu部材3の裏面に溶接痕が形成されるため、Al合金部材2とCu部材3とが溶接されていることが容易に判別できる。この溶接部4は、積層構造5aと海島構造6aとラメラ構造7とを備える(図2図5)。
【0066】
(積層構造)
積層構造5aは、Cu部材3との界面に形成され、その界面から離れる方向(Cu部材3とは反対側)に向かって順にγ相51aとδ相52aとθ相53aとが積層されて形成されている(図4)。各相の厚さの薄い積層構造5aを備えることで、Cu部材3と溶接部4との界面の接合強度の低下を抑制できるため、積層構造5aの各相の厚さが厚い場合に比較して、Al合金部材2とCu部材3との接合強度に優れる。特に、Cu部材3とθ相53aとの間に2相(本例ではγ相51aとδ相52a)を備えることで、接合強度に優れる。
【0067】
〈γ相〉
γ相51aは、Cu部材3の直上に層状に形成されている。このγ相51aは、CuAlを含み,Siを含まない。γ相51aの厚さは、0.05μm以上0.5μm以下が挙げられ、更に0.1μm以上0.3μm以下が挙げられる。
【0068】
〈δ相〉
δ相52aは、γ相51aの直上に層状に形成されている。このδ相52aは、CuAlを含み、Siを含まない。δ相52aの厚さは、0.1μm以上0.5μm以下が挙げられ、更に0.15μm以上0.3μm以下が挙げられる。
【0069】
〈θ相〉
θ相53aは、δ相52aの直上に形成されている。このθ相53aは、δ相52a側に形成される層状部分と、その層状部分の直上の一部からδ相52aとは反対側に伸びる半島状部分とを備える。θ相53aは、AlCuとSiとを含む。このθ相53aは、AlCuを主体とし、Siの含有量は、0.5質量%以上1.8質量%以下が挙げられ、更には0.8質量%以上1.5質量%以下が挙げられる。
【0070】
各相の組成は、EDX(エネルギー分散型X線分析装置)により分析できる。γ相51a及びδ相52aの厚さは、溶接部4の断面をTEM(透過型電子顕微鏡)で観察し、溶接部4のCu部材3との界面から離れる方向に向かってEDXのライン分析を行うことで求められる。ここでは、γ相51a及びδ相52aの厚さは、視野数を1つ以上とし、各視野におけるライン分析本数を3本以上とし、各分析で求めた厚さの平均とした。断面は、金属部材の溶接構造1Aの厚さ方向と溶接部4の長手方向(図1紙面垂直方向)との両方に直交する方向(図1紙面左右方向)に沿った断面(横断面)とする。各視野の倍率は、200000倍とし、各視野サイズは、0.65μm×0.65μmとした。
【0071】
(海島構造)
海島構造6aは、積層構造5aの上記界面側(Cu部材3側)とは反対側に形成される(図3)。この海島構造6aは、複数の島部61aと海部63aとを備える。この海島構造6aにより溶接部4における島部61aの表面積が大きくなることで溶接部4に作用する応力を分散させ易いため、Al合金部材2とCu部材3との接合強度により一層優れる。
【0072】
〈島部〉
島部61aは、積層構造5aよりもCu部材3側とは反対側に分散している。この島部61aは、AlCuとSiとを含む。島部61aは、AlCuを主体とし、Siの含有量は、0.3質量%以上1.8質量%以下が挙げられ、更には0.5質量%以上1.5質量%以下が挙げられる。Siは、AlCuに固溶していることが好ましい。Siの含有量は、積層構造5aの組成分析と同様、EDXにより分析できる。Siの含有量は、2以上の視野内に存在する全島部61aのSi含有量の平均とする。断面の採り方は、上述の通りである。各視野は、倍率を10000倍とし、視野サイズを10μm×10μmとした。
【0073】
島部61aの大きさは、5μm以上30μm以下が挙げられ、更に10μm以上20μm以下が挙げられる。島部61aの大きさは、溶接部4の断面における2つ以上の視野内に存在する全島部61aの面積の平均とする。島部61aの面積は、市販の画像解析ソフトにより求められる。断面の採り方は、上述の通りである。各視野は、倍率を10000倍とし、視野サイズを10μm×10μmとした。
【0074】
島部61a同士の間隔は、10μm以下が好ましい。そうすれば、島部61a同士の間隔が過度に広すぎず、亀裂が直線的に伝播することを抑制できる。島部61a同士の間隔は、更に7μm以下、特に5μm以下が好ましい。島部61a同士の間隔の下限は、例えば、0.5μm以上が挙げられる。そうすれば、島部61a同士の間隔が過度に狭すぎず、溶接部4(Cu部材3との界面近傍)に作用する応力を分散させ易い。島部61a同士の間隔は、溶接部4におけるCu部材3との界面に対して直交する方向に沿った島部61a同士の中心間の長さを言う。ここでは、2つ以上の視野において、上記界面に直交する仮想線を各視野につき5本以上とり、その仮想線上における島部61a同士の長さを測定し、全仮想線上の長さの平均とする。断面の採り方及び視野については、上述の通りである。
【0075】
〈海部〉
海部63aは、島部61a同士の間に介在されている。この海部63aは、三次元網目状に形成されている。この海部63aは、島部61aと積層構造5aのθ相53aとの間にも介在されている。海部63aは、純AlとSiとを含む。この海部63aは、純Alを主体とし、Siの含有量は、0.5質量%以上15質量%以下が挙げられ、更に0.7質量%以上13質量%以下が挙げられる。Siは、純Al中に固溶していることが好ましい。
【0076】
(ラメラ構造)
ラメラ構造7は、海島構造6aの積層構造5a側とは反対側に形成される(図2図5)。このラメラ構造7は、AlCuからなるAlCu層と純Alからなる純Al層とで構成されている。ラメラ構造7により、溶接部4におけるAlCu層の表面積が大きくなることで溶接部4に作用する応力を分散させ易い。このラメラ構造7は、AlCu層と純Al層との積層方向が一方向に揃っているよりも、積層方向が種々の方向を向くようにAlCu層と純Al層とがランダムに配置されていることが好ましい。そうすれば、溶接部4に作用する応力をより一層分散させ易い。
【0077】
〔第二の金属部材の溶接構造〕
図1図6図9を参照して第二の金属部材の溶接構造1Bを説明する。第二の金属部材の溶接構造1Bは、Al合金部材2とCu部材3と溶接部4とを備える点は第一の金属部材の溶接構造1Aと同様であるが、Al合金部材2の組成と溶接部4の組成及び組織とが第一の金属部材の溶接構造1Aと相違する。以下の説明は、第一の金属部材の溶接構造1Aとの相違点を中心に行い、同様の構成及び効果の説明は省略する。この点は、後述の第三の金属部材の溶接構造1Cでも同様である。第二の金属部材の溶接構造1Bは、第一の金属部材の溶接構造1Aと同様、上述の金属部材の溶接構造の製造方法により製造できる。図6は、図2と同様、図1の破線円内を拡大して示しており、溶接部4のCu部材3との界面近傍を拡大した顕微鏡写真である。図7は、図6の海島構造6bのCu部材3側を拡大した顕微鏡写真を示す。図8は、図7の実線の四角で囲む領域を拡大した透過電子顕微鏡写真を示す。図9は、図7の破線の四角で囲む領域を拡大した透過電子顕微鏡写真を示す。
【0078】
[Al合金部材]
Al合金部材2は、Alを主成分とし、Fe添加元素として含むAl基合金からなる(図1)。このAl合金部材2は、不可避的不純物を含むことを許容する。Feの含有量は、上述の通りであり、0.05質量%以上2.5質量%以下が挙げられ、0.25質量%以上2質量%以下が好ましく、更に0.5質量%以上1.5質量%以下が好ましい。
【0079】
[溶接部]
溶接部4は、第一の金属部材の溶接構造1Aと同様、積層構造5bと海島構造6bとラメラ構造7とを備える(図6)。この溶接部4は、溶接部4の主たる構成元素がAl,Fe,及びCuである点と、積層構造5bと海島構造6bの組成及び組織の点とが、第一の金属部材の溶接構造1Aと相違する。
【0080】
(積層構造)
積層構造5bは、Cu部材3との界面から離れる方向に向かって順にγ相51bとδ相52bと内側θ相531bと外側θ相532bとが積層されて形成されている(図8)。
【0081】
〈γ相〉
γ相51bは、Cu部材3の直上に層状に形成されている。このγ相51bは、CuAlを含み、Feを含まない。γ相51bの厚さは、0.05μm以上0.5μm以下が挙げられ、更に0.1μm以上0.3μm以下が挙げられる。
【0082】
〈δ相〉
δ相52bは、γ相51bの直上に層状に形成されている。このδ相52bは、CuAlとFeとを含む。このδ相52bは、CuAlを主体とし、Feの含有量は、0.8質量%以上2.2質量%以下が挙げられ、更には1.2質量%以上1.8質量%以下が挙げられる。δ相52bの厚さは、0.05μm以上0.5μm以下が挙げられ、更に0.1μm以上0.3μm以下が挙げられる。
【0083】
〈内側θ相〉
内側θ相531bは、δ相52bの直上に形成されている。この内側θ相531bは、δ相52b側に形成される層状部分と、その層状部分の直上の一部からδ相52bとは反対側に伸びる半島状部分とを備える。内側θ相531bは、AlCuとFeとを含む。この内側θ相531bは、AlCuを主体とし、Feの含有量は、0.8質量%以上2.2質量%以下が挙げられ、更には1.2質量%以上1.8質量%以下が挙げられる。
【0084】
〈外側θ相〉
外側θ相532bは、内側θ相531bの直上に形成されている。この外側θ相532bは、内側θ相531bの層状部分及び半島状部分の直上に形成される層状部分を備える。外側θ相532bは、AlCuを含み、Feを含まない。
【0085】
(海島構造)
海島構造6bは、複数の粗大島部61bと複数の微細島部62bと海部63bとを備える(図7図9)。この海島構造6bにより溶接部4における粗大島部61bの表面積が大きくなることで溶接部4に作用する応力を分散させ易い。
【0086】
〈粗大島部〉
粗大島部61bは、積層構造5bよりもCu部材3側とは反対側に分散している。この粗大島部61bは、AlCuとFeとを含む。粗大島部61bは、AlCuを主体とし、Feの含有量は、0.05質量%以上1質量%以下が挙げられ、更には0.2質量%以上0.6質量%以下が挙げられる。Feは、AlCuに固溶していることが好ましい。粗大島部61bの大きさは、5μm以上30μm以下が挙げられ、更に10μm以上30μm以下が挙げられる。粗大島部61bの大きさの測定方法は、第一の金属部材の溶接構造1Aにおける島部61aの測定方法の通りである。粗大島部61b同士の間隔の好適な範囲は上述の島部61a同士の好適な間隔と同じである。そうすれば、粗大島部61b同士の間隔が過度に広すぎず、亀裂が直線的に伝播することを抑制できる。この間隔の測定方法は、上述の島部61a同士の間隔の測定方法と同じである。
【0087】
〈微細島部〉
微細島部62bは、粗大島部61b同士の間に分散している。この微細島部62bは、粗大島部61b間の間で、粗大島部61bと海部63bとの間に形成されていたり、海部63bの間、即ち海部63bに囲まれて形成されていたりする。この微細島部62bは、純Alを含む。微細島部62bは、Feを含むことを許容する。微細島部62bにおけるFeの含有量は、0.05質量%以上1質量%以下が挙げられ、更には0.2質量%以上0.6質量%以下が挙げられる。Feは、純Al中に固溶していることが好ましい。微細島部62bの大きさは、0.2μm以上1μm以下が挙げられ、更に0.4μm以上0.7μm以下が挙げられる。微細島部62bの大きさの測定方法は、視野の倍率と視野のサイズを除き、上述の通りである。各視野の倍率は50000倍であり、各視野のサイズは2.7μm×2.7μmとする。
【0088】
〈海部〉
海部63bは、粗大島部61bと微細島部62bの間に介在されている。この海部63bは、三次元網目状に形成されている。この海部63bは、粗大島部61bと積層構造5bの外側θ相532bとの間にも介在されている。海部63bは、AlCuとFeとを含む。この海部63bは、AlCuを主体とし、Feの含有量は、0.5質量%以上10質量%以下が挙げられ、更に1質量%以上8質量%以下が挙げられる。
【0089】
〔第三の金属部材の溶接構造〕
図1図10図12を参照して第三の金属部材の溶接構造1Cを説明する。第三の金属部材の溶接構造1Cは、Al合金部材2とCu部材3と溶接部4とを備える点は第一及び第二の金属部材の溶接構造1A,1Bと同様であるが、溶接部4の組成及び組織が第一及び第二の金属部材の溶接構造1A,1Bと相違する。第三の金属部材の溶接構造1Cは、第一及び第二の金属部材の溶接構造1A,1Bと同様、上述の金属部材の溶接構造の製造方法により製造できる。図10は、図2及び図6と同様、図1の破線円内を拡大して示しており、溶接部4のCu部材3との界面近傍を拡大した顕微鏡写真である。図11は、図10の海島構造6cのCu部材3側を拡大した顕微鏡写真を示し、図12は、図11の実線の四角で囲む領域を拡大した透過電子顕微鏡写真を示す。
【0090】
[Al合金部材]
Al合金部材2は、Alを主成分とし、Mn添加元素として含むAl基合金からなる(図1)。このAl合金部材2は、不可避的不純物を含むことを許容する。Mnの含有量は、上述の通りであり、0.05質量%以上2.5質量%以下が挙げられ、0.25質量%以上2質量%以下が好ましく、更に0.5質量%以上1.5質量%以下が好ましい。
【0091】
[溶接部]
溶接部4は、第一及び第二の金属部材の溶接構造1A、1Bと同様、積層構造5cと海島構造6cとラメラ構造7とを備える(図10)。この溶接部4は、溶接部4の主たる構成元素がAl,Mn,及びCuである点と、積層構造5cと海島構造6cの組成及び組織の点とが、第一及び第二金属部材の溶接構造1A,1Bと相違する。
【0092】
(積層構造)
積層構造5cは、Cu部材3との界面から離れる方向に向かって順にγ相51cとβ相52cとθ相53cとが積層されて形成されている(図12)。
【0093】
〈γ相〉
γ相51cは、Cu部材3の直上に層状に形成されている。このγ相51cは、CuAlを含み、Mnを含まない。γ相51cの厚さは、0.05μm以上0.5μm以下が挙げられ、更に0.1μm以上0.3μm以下が挙げられる。
【0094】
〈β相〉
β相52cは、γ相51cの直上に層状に形成されている。このβ相52cは、CuAlとMnとを含む。β相52cは、CuAlを主体とし、Mnの含有量は、0.3質量%以上2.3質量%以下が挙げられ、更には0.8質量%以上1.8質量%以下が挙げられる。β相52cの厚さは、0.05μm以上0.5μm以下が挙げられ、更に0.1μm以上0.3μm以下が挙げられる。
【0095】
〈θ相〉
θ相53cは、β相52cの直上に形成されている。このθ相53cは、β相52c側に形成される層状部分と、その層状部分の直上の一部からβ相52cとは反対側に伸びる半島状部分とを備える。θ相53cは、AlCuを含み、Mnを含まない。
【0096】
(海島構造)
海島構造6cは、複数の粗大島部61cと複数の微細島部62cと海部63cとを備える点は、第二の金属部材の溶接構造1Bと同様であり、粗大島部61c及び海部63cとに含まれる元素の種類がFeではなくMnである点が、第二の金属部材の溶接構造1Bと相違する(図11)。即ち、粗大島部61cは、AlCuとMnとを含む。Mnの含有量は、0.05質量%以上1質量%以下が挙げられ、更には0.2質量%以上0.6質量%以下が挙げられる。Mnは、AlCuに固溶していることが好ましい。粗大島部61cの大きさは、上述の粗大島部61bと同様である。微細島部62cは、純Alを含む。微細島部62cは、Mnを含むことを許容する。微細島部62cにおけるMnの含有量は、0.05質量%以上1質量%以下が挙げられ、更には0.2質量%以上0.6質量%以下が挙げられる。Mnは、純Al中に固溶していることが好ましい。微細島部62cの大きさは、上述の微細島部62bと同様である。この海島構造6cにより、第二の金属部材の溶接構造1Bにおける海島構造6bと同様、溶接部4における粗大島部61cの表面積が大きくなることで溶接部4に作用する応力を分散させ易い。
【0097】
[用途]
第一~第三の金属部材の溶接構造1A~1Cは、各種のバスバーや、車載電池モジュールに好適に利用できる。
【0098】
〔作用効果〕
第一~第三の金属部材の溶接構造1A~1Cによれば、Al合金部材2とCu部材3との接合強度に優れる。
【0099】
《試験例1》
金属部材の溶接構造を作製して、その接合強度を評価した。
【0100】
〔試料No.1-1~No.1-3〕
試料No.1-1~No.1-3の金属部材の溶接構造は、上述の金属部材の溶接構造の製造方法と同様にして、準備工程と溶接工程とを経て作製した。
【0101】
[準備工程]
Al合金部材とCu部材とを準備した。各試料のAl合金部材はそれぞれ、以下の組成のAl合金部材(厚み0.6mm)を用意し、各試料のCu部材はいずれも、純銅の板材(厚み0.3mm)を用意した。
試料No.1-1のAl合金部材:Siを5質量%含むAl-Si合金
試料No.1-2のAl合金部材:Feを1質量%含むAl-Fe合金
試料No.1-3のAl合金部材:Mnを1質量%含むAl-Mn合金
【0102】
[溶接工程]
Al合金部材とCu部材とを対向配置させ、Al合金部材側からレーザーを照射して、Al合金部材とCu部材とを溶接した。レーザーの照射条件は以下の通りである。
【0103】
(照射条件)
出力:800W
走査速度:30mm/sec
【0104】
〔試料No.1-101~No.1-103〕
試料No.1-101~No.1-103の金属部材の溶接構造はそれぞれ、試料No.1-1~No.1-3の溶接方法を抵抗加熱とした点を除き、試料No.1-1~No.1-3と同様にして作製した。
【0105】
〔試料No.1-104〕
試料No.1-104の金属部材の溶接構造は、Al合金部材ではなく純AlからなるAl部材を用意した点を除き、試料No.1-1~No.1-3と同様にして作製した。
【0106】
〔組成及び組織分析〕
各試料の金属部材の溶接構造における溶接部の組成と組織とを分析した。試料No.1-1~No.1-3の結果を、図13図15のグラフに示す。ここでは、各試料の溶接部におけるCu部材との界面近傍に対してEDX(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製 SEM S-3400N付属)のライン分析を行った。ライン分析範囲は、図4図8図12の顕微鏡写真上の矩形枠や矢印で示す。図13図15のグラフの横軸は、ライン(矩形枠や矢印)の左端からの距離(μm)を示し、左側の縦軸は、検出したAl,Cu元素の原子(at)%を示し、右側の縦軸は検出したSi,Fe,Mn元素の原子(at)%を示す。横軸の左端が、ライン分析(矩形枠や矢印)の左端に相当し、横軸の右端がライン分析の右端に相当する。図13のグラフの太実線はAl、太破線はCu、細点線はSiを示す。図14のグラフの太実線はAl、太破線はCu、細点線はSi、細破線はFeを示す。図15のグラフの太実線はAl、太破線はCu、細実線はMnを示す。
【0107】
試料No.1-1の金属部材の溶接構造は、図2図5の顕微鏡写真を参照して上述したように、溶接部4が積層構造5aと海島構造6aとラメラ構造7とを備えることが分かった。試料No.1-2は、図6図9の顕微鏡写真を参照して上述したように、溶接部4が積層構造5bと海島構造6bとラメラ構造7とを備えることが分かった。試料No.1-3は、図10図12の顕微鏡写真を参照して上述したように、溶接部4が積層構造5cと海島構造6cとラメラ構造7とを備えることが分かった。一方、試料No.1-101~No.1-104の金属部材の溶接構造はいずれも、試料No.1-1~No.1-3のような積層構造などを備える溶接部が形成されていなかった。
【0108】
〔接合強度の評価〕
各試料の接合強度は、Al合金部材2とCu部材3とを互いの対向面に対して垂直方向にかつ互いに離れる方向に引張り、最大引張力(N)を測定することで評価した。ここでは、レーザーの走査方向(溶接部の長手方向)に沿って溶接部が剥がれるように、両部材を引っ張った。溶接部の剥がれる速度は50mm/minとなるようにした。各試料の最大引張力の結果は、評価数n=3の最大引張力のうち最も低い引張力とした。
【0109】
試料No.1-1の最大引張力は24N、試料No.1-2と試料No.1-3の最大引張力は22Nであった。一方、試料No.1-101~No.1-103の最大引張力は18N程度、試料No.1-104の最大引張力は12Nであった。
【0110】
この結果から、特定の元素を含むAl合金部材を用意し、特定の照射条件でレーザーを照射して溶接した金属部材の溶接構造は純Alを用意して溶接した金属部材の溶接構造に比較して、接合強度に優れることが分かった。
【0111】
《試験例2》
試料No.1-1~No.1-3、No.1-101~No.1-104の金属部材の溶接構造と同じ試料No.2-1~No.2-3、No.2-101~No.2-104の金属部材の溶接構造を試験例1と同様にしてそれぞれ10個作製し、試験例1と同じ評価方法で接合強度を測定した。
【0112】
試料No.2-1~No.2-3の金属部材の溶接構造はその全ての最大引張力が、試料No.1-1~No.1-3と同様の結果となった。一方、試料No.2-101~No.2-103の金属部材の溶接構造の一部(3個)は、最大引張力が試料No1-1~No.1-3と同程度の結果となったが、その殆ど(7個)の最大引張力は試料No.1-101~No.1-103と同様の結果となった。また、試料No.2-104の金属部材の溶接構造の全てが、試料No.1-104と同様の結果となった。
【0113】
この結果から、特定の元素を含むAl合金部材を用意し、特定の照射条件でレーザーを照射して溶接すれば、純Alを用意した場合に比較して、接合強度に優れる金属部材の溶接構造を安定して製造できることが分かった。
【0114】
《試験例3》
試料No.1-1~試料No.1-3のそれぞれにおいて、レーザーの照射条件を表1に示す12個の条件で金属部材の溶接構造を作製し、試験例1と同じ評価方法で接合強度を測定した。即ち、試料No.3-1-1~No.3-1-12は、照射条件を除き、試料No.1-1と同様にして作製した。試料No.3-2-1~No.3-2-12は、照射条件を除き、試料No.1-2と同様にして作製した。試料No.3-3-1~No.3-3-12は、照射条件を除き、試料No.1-3と同様にして作製した。
【0115】
【表1】
【0116】
試料No.3-1-1~No.3-1-12の金属部材の溶接構造の接合強度は、試料No.1-1と同程度であり、試料No.3-2-1~No.3-2-12の金属部材の溶接構造の接合強度は、試料No.1-2と同程度であり、試料No.3-3-1~No.3-3-12の金属部材の溶接構造の接合強度は、試料No.1-3と同程度であった。
【0117】
この結果から、試料No.3-1-1~No.3-1-12の金属部材の溶接構造は、試料No.1-1と同様、図2図5の顕微鏡写真を参照して上述したように、溶接部4が積層構造5aと海島構造6aとラメラ構造7とを備えると考えられる。また、試料No.3-2-1~No.3-2-12の金属部材の溶接構造は、試料No.1-2と同様、図6図9の顕微鏡写真を参照して上述したように、溶接部4が積層構造5bと海島構造6bとラメラ構造7とを備えると考えられる。更に、試料No.3-3-1~No.3-3-12の金属部材の溶接構造は、試料No.1-3と同様、図10図12の顕微鏡写真を参照して上述したように、溶接部4が積層構造5cと海島構造6cとラメラ構造7とを備えると考えられる。
【0118】
本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0119】
1 金属部材の溶接構造
1A 第一の金属部材の溶接構造
1B 第二の金属部材の溶接構造
1C 第三の金属部材の溶接構造
2 Al合金部材
3 Cu部材
4 溶接部
5a,5b,5c 積層構造
51a,51b,51c γ
52a,52b δ相
52c β相
53a,53c θ相
531b 内側θ相
532b 外側θ相
6a,6b,6c 海島構造
61a 島部
61b,61c 粗大島部
62b,62c 微細島部
63a、63b,63c 海部
7 ラメラ構造
図1
図2
図3
図4
図5
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図15