(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】スイッチ装置および時計
(51)【国際特許分類】
H01H 13/14 20060101AFI20221110BHJP
【FI】
H01H13/14 Z
(21)【出願番号】P 2021197918
(22)【出願日】2021-12-06
(62)【分割の表示】P 2017182385の分割
【原出願日】2017-09-22
【審査請求日】2021-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001443
【氏名又は名称】カシオ計算機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096699
【氏名又は名称】鹿嶋 英實
(74)【代理人】
【識別番号】100171882
【氏名又は名称】北庄 麗絵子
(72)【発明者】
【氏名】上野 正人
【審査官】関 信之
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-161790(JP,A)
【文献】特表2005-517280(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 13/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹部を有する金属製の釦頭部と、
前記釦頭部の前記凹部に嵌め込まれて固定され、且つ、前記釦頭部と接触していない面に円形状
で貫通していない穴状の孔部を有し、硬質の合成樹脂製である固定部と、
前記釦頭部と非接触状態となるように一端部が前記固定部の前記孔部内に配置され、且つ、前記釦頭部と異なる金属製であるばね部と、
を備えていることを特徴とするスイッチ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のスイッチ装置において、前記ばね部の金属と前記釦頭部の金属とは、電位が異なることを特徴とするスイッチ装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載されたスイッチ装置を備えていることを特徴とする時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、腕時計などの電子機器に用いられるスイッチ装置およびそれを備えた時計に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、腕時計のスイッチ装置においては、特許文献1に記載されているように、腕時計ケースの貫通孔に筒状部材を嵌め込んで固定し、この筒状部材に金属製の操作軸をスライド可能に挿入させ、この操作軸の外端部に緩衝部材を介して金属製の釦頭部を取り付けた構造のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【0004】
この種のスイッチ装置では、緩衝部材が弾力性を有する合成樹脂で形成されているため、釦頭部が衝撃を受けて、緩衝部材が弾性変形することにより衝撃を緩衝する際に、緩衝部材の弾性変形に伴って釦頭部を操作軸に対して軸方向に変位させる必要がある。
【0005】
このため、このスイッチ装置は、操作軸の外周面に鍔部を設け、釦頭部の内周面に鍔部がスライド可能に係合する凹部を設け、操作軸の鍔部を釦頭部の凹部に係合させることにより、釦頭部が操作軸から抜け出すことなく、釦頭部を操作軸に対して軸方向に変位させる構造になっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このようなスイッチ装置では、釦頭部を操作軸に対して軸方向に変位させるために、操作軸の外周面に設けられた鍔部を釦頭部の内周面に設けられた凹部にスライド可能に係合させる構造であるから、構造が複雑になるという問題がある。
【0007】
また、このスイッチ装置では、操作軸の鍔部と釦頭部の凹部とが接触し易いため、操作軸と釦頭部とが異なる金属で形成されていると、操作軸と釦頭部とが接触した際に、電気的接触状態による電池作用によって電位差腐食が発生し易いという問題がある。
【0008】
この発明が解決しようとする課題は、簡単な構造で、電位差腐食を防ぐことができるスイッチ装置およびそれを備えた時計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、凹部を有する金属製の釦頭部と、
前記釦頭部の前記凹部に嵌め込まれて固定され、且つ、前記釦頭部と接触していない面に円形状で貫通していない穴状の孔部を有し、硬質の合成樹脂製である固定部と、
前記釦頭部と非接触状態となるように一端部が前記固定部の前記孔部内に配置され、且つ、前記釦頭部と異なる金属製であるばね部と、
を備えていることを特徴とするスイッチ装置である。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、簡単な構造で、電位差腐食を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】この発明を腕時計に適用した一実施形態を示した要部の拡大断面図である。
【
図2】
図1に示された腕時計のスイッチ装置において、操作部を分解して示した拡大側面図である。
【
図3】
図2に示された操作部のA-A矢視における要部の拡大断面図である。
【
図4】
図2に示された操作部のB-B矢視における拡大断面図である。
【
図5】
図3に示された固定部の第1変形例を示し、(a)はその拡大正面図、(b)は(a)のC-C矢視における拡大断面図である。
【
図6】
図4に示された釦頭部の第2変形例を示した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、
図1~
図4を参照して、この発明を腕時計に適用した一実施形態について説明する。
この腕時計は、
図1に示すように、腕時計ケース1を備えている。この腕時計ケース1は、硬質の合成樹脂で形成され、内部に金属製の補強部1aが埋め込まれた構造になっている。
【0013】
この腕時計ケース1の上部開口部には、
図1に示すように、時計ガラス2がガラスパッキン2aを介して取り付けられている。この場合、時計ガラス2の下側には、見切り部材3が配置されている。また、この腕時計ケース1の下部には、裏蓋4が防水パッキン4aを介して取り付けられている。この腕時計ケース1の内部には、時計モジュール5が設けられている。
【0014】
この腕時計ケース1の側部には、
図1に示すように、スイッチ装置6が設けられている。このスイッチ装置6は、時刻修正や時計モジュール5のモード切替などを行うためのものである。このスイッチ装置6は、操作部7を備え、腕時計ケース1の側部に設けられた貫通孔8に取り付けられるように構成されている。
【0015】
この場合、貫通孔8は、
図1に示すように、腕時計ケース1の内部と外部とに貫通して設けられている。この貫通孔8は、小径孔部8aと中径孔部8bと大径孔部8cとを備えている。小径孔部8aは、その軸方向の長さが腕時計ケース1の側部の厚みのほぼ半分の長さで、腕時計ケース1の内部側に設けられている。
【0016】
中径孔部8bは、
図1に示すように、その内径が小径孔部8aの内径よりも大きく、かつ軸方向の長さが小径孔部8aの長さのほぼ半分の長さで、腕時計ケース1の側部内のほぼ中間部に設けられている。大径孔部8cは、座ぐり部であり、腕時計ケース1の外部側に設けられている。
【0017】
すなわち、この大径孔部8cは、
図1に示すように、その内径が中径孔部8bの内径よりも大きく、かつ時計モジュール5の厚みとほぼ同じ大きさ、つまり見切り部材3と裏蓋4との間の長さとほぼ同じ大きさに形成されている。また、この大径孔部8cは、軸方向の長さが小径孔部8aの長さのほぼ半分の長さ、つまり中径孔部8bの長さとほぼ同じ長さに形成されている。
【0018】
ところで、操作部7は、
図1および
図2に示すように、腕時計ケース1の貫通孔8にスライド可能でかつ回転可能な状態で挿入される操作軸10と、この操作軸10の外部側に固定された固定部11と、この固定部11が嵌め込まれて固定される釦頭部12と、この釦頭部12を腕時計ケース1の外部に向けて押し出す方向に付勢するばね部13と、を備えている。この場合、操作軸10と釦頭部12とは、互いに異なる金属で形成されている。
【0019】
操作軸10は、
図1および
図2に示すように、イオン化傾向の低い金属、例えばステンレスや炭素鋼などの金属で、丸棒状に形成されている。この操作軸10は、その外径が貫通孔8の小径孔部8aの内径とほぼ同じ大きさで、軸方向の長さが貫通孔8の長さよりも長く形成されている。これにより、操作軸10は、一端部が腕時計ケース1の内部に突出し、他端部が腕時計ケース1の外部に突出する。
【0020】
この場合、操作軸10の一端部である内端部には、
図1および
図2に示すように、取付溝10aがリング状に設けられている。この取付溝10aには、Eリングなどの抜止め部材14が腕時計ケース1内において取り付けられている。これにより、操作軸10は、抜止め部材14が腕時計ケース1の内周面に接離可能に当接することにより、腕時計ケース1の外部に抜け出さないように構成されている。
【0021】
また、この操作軸10は、
図1に示すように、その外周面が貫通孔8の小径孔部8aの内周面に埋め込まれた防水リング15の内周面に圧接した状態で摺動するように構成されている。これにより、操作軸10は、その外周面と貫通孔8の小径孔部8aの内周面との間の防水が図られている。さらに、この操作軸10の外端部には、抜け止め用の鍔部10bが設けられている。この鍔部10bは、非円形状、例えばほぼ四角形に形成されている。
【0022】
一方、固定部11は、
図1~
図3に示すように、硬質の合成樹脂、例えば、ABS樹脂、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)などの剛性の高い合成樹脂によって、ほぼ円筒状に形成されている。すなわち、この固定部11は、その外径が貫通孔8の中径孔部8bの内径よりも大きく、かつ大径孔部8cの内径よりも小さい大きさで、インサート成型によって操作軸10の外端部に鍔部10bを覆った状態で一体に固着される。
【0023】
これにより、固定部11は、
図1~
図3に示すように、操作軸10の鍔部10bによって操作軸10に対して軸方向に位置ずれを起こすことがなく、かつ鍔部10bが非円形状に形成されていることにより、操作軸10に対して回転することがなく、操作軸10と一体に軸方向に移動すると共に回転するように構成されている。
【0024】
この場合、固定部11は、
図1~
図3に示すように、その軸方向の長さが貫通孔8の小径孔部8aと中径孔部8bとの長さとほぼ同じ長さに形成されている。また、この固定部11は、腕時計ケース1の外部側に位置する内側部に円形状の孔部11aが設けられている。この孔部11aは、その内径が貫通孔8の中径孔部8bの内径とほぼ同じ大きさで、軸方向の長さが固定部11の軸方向の長さのほぼ半分の長さで形成されている。
【0025】
また、この固定部11は、
図1~
図3に示すように、その軸方向における中間部に位置する外周面に凸部16が環状に設けられている。この凸部16は、腕時計ケース1の内部側に位置する端部が平板状に突出し、腕時計ケース1の外部側が緩やかに傾斜する形状に形成されている。この場合、凸部16は、固定部11の外周面から突出する突出長さが短く(低く)形成されている。
【0026】
釦頭部12は、
図1~
図4に示すように、操作軸10と異なる金属、つまり操作軸10と電位が異なる金属であり、イオン化傾向の高い金属、例えばアルミニウム合金を含むアルミニウム系の金属、マグネシウム合金をマグネシウム系の金属、銅合金を含む銅系の金属などの非鉄金属で、ほぼ円筒状に形成されている。この場合、釦頭部12は、着色性の高いアルミニウムで形成されていることが望ましい。
【0027】
この釦頭部12は、
図1~
図4に示すように、その内径が固定部11の外径と同じ大きさで、内部の軸方向の長さが固定部11の軸方向の長さと同じ長さに形成されている。また、この釦頭部12は、その外径が貫通孔8の大径孔部8cの内径よりも少し小さく、軸方向の長さが固定部11の軸方向の長さよりも長く形成されている。
【0028】
これにより、釦頭部12は、
図1~
図4に示すように、その内部に固定部11が嵌め込まれた際に、固定部11の外周面が釦頭部12の内周面に密着し、固定部11の外端面が釦頭部12の内端面に密着するように構成されている。また、この釦頭部12は、操作軸10に固着された固定部11が釦頭部12の内部に嵌着された際に、操作軸10に接触することなく、操作軸10に対して取り付けられている。
【0029】
この場合、釦頭部12は、
図1~
図4に示すように、その内周面に固定部11の凸部16が係合する凹部17が環状に設けられている。この凹部17は、断面形状が凸部16と同じ形状の溝状に形成されている。この釦頭部12は、その内部に固定部11が嵌め込まれる際に、固定部11の凸部16が釦突部12の内周面に圧接しながら挿入して、釦頭部12の内周面の凹部17に固定部11の凸部16が係合するように構成されている。
【0030】
これにより、釦頭部12は、
図1~
図4に示すように、その内部に固定部11が嵌め込まれて、釦頭部12の内周面の凹部17に固定部11の凸部16が係合した際に、釦突部12の内周面に対する固定部11の凸部16の圧接力が解除されることにより、釦頭部12に対する固定部11の凸部16による負荷がクリアされ、この状態で固定部11から釦頭部12が抜け出さないように構成されている。
【0031】
また、この釦頭部12は、
図1~
図4に示すように、外端面に装飾部18が設けられている。この装飾部18は、デザイン性を高めるための凹凸による模様であり、例えば高さの低い四角錐を縦横に複数配列させることにより、デザイン性が高められるほか、釦頭部12を指で操作する際に、指の滑りを防ぐように構成されている。
【0032】
ところで、この釦頭部12は、
図1~
図4に示すように、操作軸10に対して非接触状態で取り付けられていることにより、操作軸10との間で電位差腐食が起きないように構成されている。すなわち、電位差腐食とは、イオン化傾向の低いステンレスなどの金属がイオン化傾向の高いアルミニウムなどの金属を侵食することであり、ステンレス製の操作軸10がアルミニウム製の釦頭部12に電気的接触状態になった際に、電位差によって電池作用が起き、この電池作用によってアルミニウム製の釦頭部12が腐食を起こす現象である。
【0033】
また、この釦頭部12は、イオン化傾向の高いアルミニウムで形成されていることにより、表面をアルマイト処理することが可能となり、このアルマイト処理によって表面に硬質の酸化被膜が形成されると共に、この酸化被膜を染料によって着色することが可能になる。このため、この釦頭部12は、カラー展開(カラー化)が可能になり、高級感が得られ、かつデザイン性が高められる。
【0034】
一方、ばね部13は、
図1に示すように、操作軸10の外周に配置されるコイルばねであり、一端部が貫通孔8の中径孔部8b内に配置され、他端部が固定部11の孔部11a内に配置されている。この場合、ばね部13は、他端部が固定部11の孔部11a内に配置されていることにより、釦頭部12に接触することがない。このため、ばね部13は、釦頭部12と異なる金属で形成しても、電位差腐食が起こらない。
【0035】
また、このばね部13は、
図1に示すように、操作軸10の外周に配置されていることにより、操作軸10に接触する場合がある。このため、ばね部13は、操作軸10との間で電気的接触状態による電位差腐食を防ぐために、操作軸10と同じ金属で形成されていることが望ましい。
【0036】
これにより、ばね部13は、
図1に示すように、そのばね力によって操作軸10の内端部に取り付けられた抜止め部材14を腕時計ケース1の内面に押し当て、この状態で固定部11を腕時計ケース1の外部に向けて押し出すことにより、釦頭部12を腕時計ケース1の外部に向けて押し出す方向に付勢するように構成されている。
【0037】
この場合、操作軸10は、
図1に示すように、ばね部13のばね力に抗して釦頭部12が押された際に、操作軸10が釦頭部12と共に腕時計ケース1の内部に向けてスライドし、操作軸10の内端部が時計モジュール5に設けられたスイッチ部5aを押圧してスイッチ動作させるように構成されている。
【0038】
次に、このような腕時計のスイッチ装置6の作用について説明する。
このスイッチ装置6を組み立てる際には、まず、操作部7を組み立てる。このときには、予め、操作軸10に固定部11をインサート成型によって一体に形成して、操作軸10の鍔部10bを固定部11が覆った状態で、操作軸10の外端部に固定部11を固着する。
【0039】
これにより、固定部11は、操作軸10の鍔部10bによって軸方向に位置ずれを起こすことがなく、かつ鍔部10bが非円形状に形成されていることにより、操作軸10に対して回転することがなく、操作軸10と一体に軸方向に移動すると共に回転する状態で、操作軸10に固定される。
【0040】
この状態で、固定部11を釦頭部12の内部に嵌め込んで、固定部11に釦頭部12を取り付ける。このときには、釦頭部12の内部に固定部11を嵌め込む際に、固定部11の外周面に凸部16が設けられているため、この固定部11の凸部16を釦頭部12の内周面に圧接させながら挿入させて、釦頭部12の内周面の凹部17に固定部11の凸部16を係合させる。すると、釦突部12の内周面に対する固定部11の凸部16の圧接力が解除される。
【0041】
このため、釦頭部12は、固定部11の凸部16による負荷がクリアされ、この状態で固定部11の外周面が釦頭部12の内周面に密着し、固定部11の外端面が釦頭部12の内端面に密着して、固定部11に嵌着される。この状態では、釦頭部12が固定部11から抜け出すことがなく、釦頭部12が固定部11に固定される。また、この状態では、操作軸10に接触することなく、操作軸10に対して取り付けられている。
【0042】
この操作部7を腕時計ケース1の貫通孔8に取り付ける際には、まず、操作軸10の外周にばね部13を配置する。この状態で、操作軸10を腕時計ケース1の貫通孔8の小径孔部8aに腕時計ケース1の外部から挿入する。このときには、ばね部13の一端部が貫通孔8の中径孔部8bに挿入され、ばね部13の他端部が固定部11の孔部11aに挿入される。
【0043】
そして、操作軸10を腕時計ケース1の内部に突出させる。この状態で、操作軸10の内端部に設けられた取付溝10aに抜止め部材14を取り付ける。すると、ばね部13は、そのばね力によって操作軸10を腕時計ケース1の外部に向けて押し出すので、抜止め部材14が腕時計ケース1の内面に弾力的に押し当てられる。また、このときには、釦頭部12がばね部13のばね力によって操作軸10と共に腕時計ケース1の外部に向けて押し出される。これにより、スイッチ装置6が組み立てられる。
【0044】
次に、このスイッチ装置を操作する場合について説明する。
このスイッチ装置6は、通常の状態のときに、ばね部13のばね力によって操作軸10が腕時計ケース1の外部に向けて押し出されて、抜止め部材14が腕時計ケース1の内面に押し当てられている。これにより、腕時計ケース1の内部に位置する操作軸10の内端部が時計モジュール5のスイッチ部5aから離れ、スイッチ部5aがオフ状態になっている。
【0045】
この状態で、ばね部13のばね力に抗して釦頭部12を腕時計ケース1に向けて押すと、ばね部13が圧縮しながら操作軸10が腕時計ケース1の内部に向けてスライドする。これにより、操作軸10の内端部が腕時計ケース1の内部に突出し、この突出した操作軸10の内端部が時計モジュール5のスイッチ部5aを押圧してスイッチ動作させる。
【0046】
このように、この腕時計のスイッチ装置6によれば、腕時計ケース1の貫通孔8にスライド可能に取り付けられる金属製の操作軸10と、この操作軸10の外端部に固着された硬質の合成樹脂製の固定部11と、この固定部11が嵌め込まれて操作軸10に対して非接触状態で固定され、かつ操作軸10と異なる金属で形成された釦頭部12と、を備えていることにより、簡単な構造で、電位差腐食を防ぐことができる。また、固定部11により、釦頭部12に外部からの衝撃があっても操作軸10の破損を防ぐことができる。
【0047】
すなわち、この腕時計のスイッチ装置6では、操作軸10の外端部に硬質の合成樹脂製の固定部11を固着し、この固定部11を釦頭部12の内部に嵌め込んだ構造であるから、構造が簡単で、容易に組み立てることができる。この場合、固定部11は、操作軸10の外端部にインサート成型によって簡単にかつ容易に形成することができるので、固定部11を操作軸10に確実に固着させることができる。
【0048】
また、この腕時計のスイッチ装置6では、操作軸10の外端部に固着された硬質の合成樹脂製の固定部11が釦頭部12の内部に嵌め込まれているので、操作軸10と釦頭部12とが相互に接触することがない。このため、操作軸10と釦頭部12とが異なる金属で形成されていても、操作軸10と釦頭部12との電気的接触状態によって生じる電池作用による電位差腐食を確実にかつ良好に防ぐことができる。
【0049】
この場合、操作軸10の金属と釦頭部12の金属とは、電気的接触状態における電位差つまりイオン化傾向が異なることにより、操作軸10と釦頭部12との電気的接触状態によって生じる電池作用により電位差腐食を起こすが、操作軸10と釦頭部12とが相互に接触することがないため、操作軸10と釦頭部12との電気的接触状態によって生じる電池作用による電位差腐食を起こすことがない。
【0050】
すなわち、操作軸10は、イオン化傾向の低い金属、例えばステンレスや炭素鋼などの金属で形成され、釦頭部12は、イオン化傾向の高い金属、例えばアルミニウム合金を含むアルミニウム系の金属、マグネシウム合金をマグネシウム系の金属、銅合金を含む銅系の金属などの非鉄金属で形成されていても、操作軸10と釦頭部12とが相互に接触することがないため、操作軸10と釦頭部12との電気的接触状態によって生じる電池作用による電位差腐食を起こすことはない。
【0051】
この場合、釦頭部12は、着色性の高い非鉄金属、例えばアルミニウムであることにより、カラー化を図ることができ、デザイン性を高めことができる。すなわち、釦頭部12をアルミニウムで形成した場合には、表面をアルマイト処理することができ、このアルマイト処理によって表面に硬質の酸化被膜が形成されるので、この酸化被膜を染料によって着色することができる。
【0052】
このため、この釦頭部12では、カラー展開(カラー化)を容易に図ることができるので、色のバリエーションが豊富で、高級感が得られ、かつデザイン性を高めることができるほか、アルミニウムであることにより、固定部11に対する密着強度に優れ、かつ表面硬度も高く、低コスト化を図ることができる。
【0053】
また、このスイッチ装置6では、固定部11の外周に設けられた凸部16と、釦頭部12の内周面に設けられて凸部16が係合する凹部17と、を備えていることにより、固定部11を釦頭部12の内部に嵌め込んだ際に、釦頭部12の内周面の凹部17に固定部11の凸部16を係合させることができ、これにより釦頭部12が固定部11から抜け出さないように、釦頭部12が固定部11に確実にかつ強固に固定させることができる。
【0054】
この場合、釦頭部12は、その内部に固定部11を嵌め込む際に、固定部11の凸部16が釦突部12の内周面に圧接しながら挿入されるが、釦頭部12の内周面の凹部17に固定部11の凸部16が係合した際に、釦突部12の内周面に対する固定部11の凸部16の圧接力を解除させることができるので、固定部11の凸部16による負荷が釦頭部12に加わらないようにすることができる。
【0055】
また、この釦頭部12は、その内部に固定部11が嵌め込まれた際に、固定部11の外周面を釦頭部12の内周面に密着させることができると共に、固定部11の外端面を釦頭部12の内端面に密着させることができるので、釦頭部12を固定部11に確実にかつ良好に嵌着させて固定することができる。
【0056】
なお、この発明は、上述した実施形態に限らず、例えば
図5(a)および
図5(b)に示す第1変形例のように、固定部11の外端面に複数の突起部20を設けた構造であっても良い。すなわち、これら複数の突起部20は、円錐、角錐などの突起であり、固定部11の外端面の中心部を中心とする同心円上に配列されている。
【0057】
また、これら複数の突起部20は、固定部11が釦頭部12の内部に嵌め込まれた際に、釦頭部12の内端面に押し当てられて、複数の突起部20の各先端部が潰れるように構成されている。このため、釦頭部12は、複数の突起部20の各先端部が潰れる事を考慮して、釦頭部12の内部における軸方向の長さが固定部11の内端面から複数の突起部20の各先端部までの長さよりも、少し短く形成されていることが望ましい。
【0058】
このように、固定部11の外端面に複数の突起部20を設けた構造であれば、製作時における寸法公差のバラつきによって、固定部11と釦頭部12との間に隙間やガタ付きが生じても、複数の突起部20が釦頭部12の内端面に押し当てられて、複数の突起部20の各先端部が潰れることにより、固定部11と釦頭部12との隙間やガタ付きによる影響を抑えることができると共に、複数の突起部20によって外部からの衝撃を緩衝することができる。
【0059】
また、この発明は、上述した実施形態および第1変形例に限らず、例えば
図6に示す第2変形例のように、釦頭部12の内端部に接着剤21を溜める接着剤溜り部22を設けた構造であっても良い。すなわち、この釦頭部12は、接着剤溜り部22に接着剤21を充填させ、この状態、固定部11を釦頭部12の内部に嵌め込むことにより、接着剤21によって固定部11に接着固定される構造になっている。
【0060】
このような構造では、釦頭部12の接着剤溜り部22に充填された接着剤21によって釦頭部12を固定部11に接着することができるので、より一層、釦頭部12を固定部11に強固に固定することができる。また、このような構造では、固定部11を釦頭部12の内部に嵌め込む際に、接着剤溜り部22に充填された接着剤21が釦頭部12の外部にはみ出すことがないので、釦頭部12を固定部11に良好に固定することができる。
【0061】
この場合、接着剤21が硬化した際にクッション性を有する接着剤を用いれば、固定部11と釦頭部12とのガタ付きを防ぐことができると共に、釦頭部12が外部からの衝撃を受けた際に、その衝撃を良好に緩衝することができる。
【0062】
また、上述した実施形態および第1、第2変形例では、固定部11の外周面に凸部16を設け、釦頭部12の内周面に凹部17を設けた場合について述べたが、この発明はこれに限らず、例えば固定部11の外周面に凹部を設け、釦頭部12の内周面に凸部を設け、固定部11の凹部に釦頭部12の凸部を係合させる構造であっても良い。
【0063】
さらに、上述した実施形態および第1、第2変形例では、腕時計に適用した場合について述べたが、この発明は、必ずしも腕時計である必要はなく、例えばトラベルウオッチ、目覚まし時計、置き時計、掛け時計などの各種の時計に適用することができる。また、この発明は、必ずしも時計である必要はなく、携帯電話機、携帯端末機などの電子機器にも適用することができる。
【0064】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明は、これに限られるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲を含むものである。
以下に、本願の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
【0065】
(付記)
請求項1に記載の発明は、ケースの貫通孔にスライド可能に取り付けられる金属製の操作軸と、前記ケースの外部に位置する前記操作軸の外端部に固着された硬質の合成樹脂製の固定部と、前記固定部が嵌め込まれて前記操作軸に対して非接触状態で固定され、かつ前記操作軸と異なる金属で形成された釦頭部と、を備えていることを特徴とするスイッチ装置である。
【0066】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のスイッチ装置において、前記操作軸の金属と前記釦頭部の金属とは、電位が異なることを特徴とするスイッチ装置である。
【0067】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のスイッチ装置において、前記釦頭部は、着色性の高い非鉄金属であることを特徴とするスイッチ装置である。
【0068】
請求項4に記載の発明は、請求項1~請求項3のいずれかに記載のスイッチ装置において、前記固定部の外周と前記釦頭部の内周面との一方に設けられた凸部と、前記固定部の外周と前記釦頭部の内周面との他方に設けられて前記凸部が係合する凹部と、を備えていることを特徴とするスイッチ装置である。
【0069】
請求項5に記載の発明は、請求項1~請求項4のいずれかに記載のスイッチ装置において、前記固定部の外端面には、前記釦頭部の内端面に圧接する複数の突起部が設けられていることを特徴とするスイッチ装置である。
【0070】
請求項6に記載の発明は、請求項1~請求項5のいずれかに記載されたスイッチ装置を備えていることを特徴とする時計である。
【符号の説明】
【0071】
1 腕時計ケース
5 時計モジュール
5a スイッチ部
6 スイッチ装置
7 操作部
8 貫通孔
8a 小径孔部
8b 中径孔部
8c 大径孔部
10 操作軸
10a 取付溝
10b 鍔部
11 固定部
11a 孔部
12 釦頭部
13 ばね部
14 抜止め部材
15 防水リング
16 凸部
17 凹部
18 装飾部
20 突起部
21 接着剤
22 接着剤溜り部