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▶ 阿比留 正剛の特許一覧

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  • 特許-予後改善剤 図1
  • 特許-予後改善剤 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】予後改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7032 20060101AFI20221110BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20221110BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
A61K31/7032
A61P1/16
A61P35/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018198070
(22)【出願日】2018-10-22
(65)【公開番号】P2020066576
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】521463894
【氏名又は名称】阿比留 正剛
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿比留 正剛
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-229881(JP,A)
【文献】特開2004-107330(JP,A)
【文献】Molecular Medicine Reports,2013年,Vol.7,pp.401-405
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクチトール及び/又はその水和物を有効成分とすることを特徴とする、肝細胞癌の予後改善剤。
【請求項2】
肝細胞癌及び非代謝性肝硬変を併発している患者の予後を改善する請求項1記載の肝細胞癌の予後改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝細胞癌の予後改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
肝細胞癌(hepatocellular carcinoma;以下、「HCC」ということもある。)とは、肝臓に発生する悪性腫瘍の一つで、肝臓の細胞が癌化する原発性の肝癌である。肝細胞癌の発生原因としては、C型肝炎、B型肝炎、NASH、アルコール性肝炎等が挙げられる。
【0003】
肝細胞癌は、世界中で最も頻出の高い固形癌のひとつであり、癌による死亡原因の中で三番目である(非特許文献1)。HCCは、その殆どがウイルス感染に起因する慢性肝炎や、慢性肝炎から進行した肝硬変を背景として発症することが知られており、HCC患者の中で、C型肝炎ウイルス(HCV)に陽性である人の割合は約70%、B型肝炎ウイルス(HBV)に陽性である人の割合は約20%にのぼる(非特許文献2)。これらの肝炎ウイルスがHCCを引き起こすメカニズムの詳細は明らかにされていないが、ウイルスの持続感染が慢性肝炎や肝硬変等を引き起こす過程で、肝細胞の癌化が起こると考えられている。
【0004】
HCC治療法としては外科的な摘除手術が有効であるとされているが、術後の再発率はきわめて高く、予後不良であることが知られている(非特許文献3)。癌部切除後の残肝におけるHCCの再発は、初発HCCと同様のメカニズムであると考えられるが、その詳細については不明である(非特許文献4)。以上のように、HCCの治療には、高い再発の危険性が伴っており、肝細胞癌の予後改善は非常に重要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Bosch FX. et al., Semin Liver Dis 19, 271-85 (1999)
【文献】Kiyosawa K. et al., Gastroenterology 127, S17-26 (2004)
【文献】Makuuchi M. et al., Hepatogastroenterology 45, S1267-1274 (1998)
【文献】Poon RT. et al., Cancer 89, 500-507 (2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、肝細胞癌の予後改善剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる肝細胞癌の予後改善剤は、ラクチトール及び/又はその水和物を有効成分とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、肝細胞癌の予後を適切に改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】Child-PughグレードがBである肝細胞癌患者に対するラクチトール投与による予後改善の効果を示す図である。
図2】Child-PughグレードがBである肝細胞癌患者に対するラクチトール投与による予後改善の効果をラクツロース投与の場合と比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0011】
本実施形態にかかる肝細胞癌の予後改善剤は、ラクチトール及び/又はその水和物を有効成分とする。また本実施形態にかかる肝細胞癌の予後改善を補助する方法は、ラクチトール及び/又はその水和物を有効成分とする予後改善剤を肝細胞癌患者に投与することを特徴とする。
【0012】
肝性脳症は、一連の肝疾患(慢性肝炎→肝硬変→肝臓がん)の中でも、肝硬変状態の患者にあらわれる症状の一つであり、ラクチトールは、通常は、肝硬変に伴う高アンモニア血症に使用される合成二糖類である。ラクチトールは血液中のアンモニア濃度を低下させて、高アンモニア血症や肝性脳症を予防、改善する。
【0013】
ところで肝硬変に伴う高アンモニア血症に使用される合成二糖類にラクツロースがある。ラクツロースも血液中のアンモニア濃度を低下させて、高アンモニア血症や肝性脳症を予防、改善する。
【0014】
本発明者は、ラクツロースを肝細胞癌患者に適用すると肝細胞癌の予後を改善させない一方で、ラクチトールを肝細胞癌患者に適用すると肝細胞癌の予後を改善させることを新知見として取得し、かかる事実に基づいて本発明を完成させた。
【0015】
ラクチトールは下記式の構造式で示される。
【0016】
【化1】
【0017】
ラクツロースは下記式の構造式で示される。
【0018】
【化2】
【0019】
ラクチトールの肝細胞癌患者への用法用量は、特に限定されるものではないが、例えば、ラクチトール水和物として1日量18~36gを3回に分けて用時、水に溶解後経口服用するものとする。
【0020】
本発明は肝細胞癌の予後を改善するものであるが、ここで予後とは、何らかの治療(例えば、化学療法、放射線療法、外科的切除)を行った後の患者の癌の経過についての医学的見通しまたは患者の余命を意味する。予後が不良であるとは、例えば、治療後の生存期間が短くなること、臨床的特徴が悪化するまたは悪化するのが速いこと、病期が進展するまたは進展するのが速いこと、再発が起こるまたは再発までの期間が短いこと、等を意味する。予後が良好とは、例えば、治療後の生存期間が長くなること、臨床的特徴が改善するまたは改善するのが速いこと、病期が進展しないまたは進展するのが遅いこと、再発が起こらないかまたは再発までの期間が長いこと、等を意味する。
【0021】
予後が改善される患者は、肝細胞癌のみを罹患する患者も、肝細胞癌に加えて肝機能に影響を与える慢性肝疾患(脂肪肝、肝硬変等)を伴っている患者も包含されるが、本実施形態にかかる予後改善薬は例えば比較的予後不良とされる肝細胞癌に加えて肝硬変を伴っている患者の予後改善に好適である。
【0022】
ラクチトール及び/又はその水和物を有効成分とする本発明の予後改善剤は、公知の方法により種々の態様に製剤化され、経口投与される。具体的製剤として、錠剤(糖衣錠、コ-ティング錠、バッカル錠を含む。)、散剤、カプセル剤、(ソフトカプセルを含む。)、顆粒剤(コ-ティングしたものを含む。)、丸剤、トロ-チ剤、液剤、又はこれらの製剤学的に許容され得る徐放製剤等を例示することができる。
【0023】
製剤は、公知の製剤学的製法に準じ、製剤として薬理学的に許容され得る担体、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤等と共に医薬組成物として製剤化される。これらの製剤に用いる担体及び賦形剤としては、乳糖、ブドウ糖、白糖、マンニト-ル、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、結晶セルロ-ス、カンゾウ末、ゲンチアナ末など、結合剤としては例えば澱粉、ゼラチン、シロップ、ポリビニルアルコ-ル、ポリビニルエ-テル、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロ-ス、エチルセルロ-ス、メチルセルロ-ス、カルボキシメチルセルロ-ス等を例示することができる。崩壊剤としては、澱粉、寒天、ゼラチン末、カルボキシメチルセルロ-スナトリウム、カルボキシメチルセルロ-スカルシウム、結晶セルロ-ス、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウム等を例示することができる。滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、水素添加植物油、マクロゴ-ル等、着色剤としては医薬品に添加することが許容されている赤色2号、黄色4号、青色1号等を、それぞれ例示することができる。
【0024】
錠剤及び顆粒剤は、必要に応じ白糖、ヒドロキシプロピルセルロ-ス、精製セラック、ゼラチン、ソルビト-ル、グリセリン、エチルセルロ-ス、ヒドロキシプロピルセルロ-ス、ヒドロキシプロピルメチルセルロ-ス、ポリビニルピロリドン、フタル酸セルロ-スアセテ-ト、ヒドロキシプロピルメチルセルロ-スフタレ-ト、メチルメタクリレ-ト、メタアクリル酸重合体等により被膜することもできる。
【実施例
【0025】
(実施例1)
肝細胞癌に対して根治治療(外科的治療法又は内科的局所療法)が施され、Child-PughグレードがBであり、投与前の背景に統計学的有意差がなかった被験者42名(年齢は49歳~81歳)に対し、ラクチトール水和物を1日量18~36gを3回に分けて水に溶解後経口服用させた(ラクチトール投与群)。
【0026】
一方で、肝細胞癌に対して根治治療(外科的治療法又は内科的局所療法)が施され、Child-PughグレードがBであり、投与前の背景に統計学的有意差がなかった被験者42名(年齢は48歳~80歳)に対してはラクチトールを投与することはなかった(ラクチトール非投与群)。このラクチトール非投与群では予後改善を目的とする薬剤は一切投与されていない。
【0027】
図1は、Child-PughグレードがBである肝細胞癌患者に対するラクチトール投与による予後改善の効果を示す図である。性別、年齢、原因、IFN治療歴、TNM分類、Child-Pugh score、手術歴、ラジオ波焼灼療法歴、肝動脈化学塞栓療法歴、放射線治療歴等の因子でPropensity score matchingによりラクチトール投与群と非投与群において解析を行った。ラクチトール投与群はラクチトール非投与群と比較して明らかに予後が改善されていた(P=0.0109)。
【0028】
(実施例2)
次に、肝細胞癌に対して根治治療(外科的治療法又は内科的局所療法)が施され、Child-PughグレードがBであり、投与前の背景に統計学的有意差がなかった被験者34名(年齢は49歳~81歳)に対し、ラクチトール水和物を1日量18~36gを3回に分けて水に溶解後経口服用させた(ラクチトール投与群)。
【0029】
また、肝細胞癌に対して根治治療(外科的治療法又は内科的局所療法)が施され、Child-PughグレードがBであり、投与前の背景に統計学的有意差がなかった被験者50名(年齢は46歳~83歳)に対してはラクツロース水和物を1日量18~36gを3回に分けて水に溶解後経口服用させた(ラクツロース投与群)。
【0030】
一方、肝細胞癌に対して根治治療(外科的治療法又は内科的局所療法)が施され、Child-PughグレードがBであり、投与前の背景に統計学的有意差がなかった被験者164名(年齢は48歳~80歳)に対してはラクチトールを投与することはなかった(ラクチトール非投与群)。
【0031】
図2は、Child-PughグレードがBである肝細胞癌患者に対するラクチトール投与による予後改善の効果を示す図である。解析はログ・ランク検定により行った。ラクチトール投与群はラクチトール非投与群と比較して明らかに予後が改善されていた(P=0.010)。ラクツロース投与群はラクチトール非投与群と比較して予後に有意差は見られなかった。
【0032】
以上の結果から、ラクツロースを肝細胞癌患者に適用すると肝細胞癌の予後を改善させない一方、ラクチトールを肝細胞癌患者に適用すると肝細胞癌の予後を改善させることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0033】
肝細胞癌の治療の計画に利用できる。
図1
図2