(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】シームレスカプセル皮膜用組成物及びシームレスカプセル
(51)【国際特許分類】
A61K 9/48 20060101AFI20221110BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20221110BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20221110BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20221110BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
A61K9/48
A61K47/36
A61K47/32
A61K47/26
A61K47/10
(21)【出願番号】P 2019523935
(86)(22)【出願日】2018-06-06
(86)【国際出願番号】 JP2018021666
(87)【国際公開番号】W WO2018225770
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-04-02
(31)【優先権主張番号】P 2017114203
(32)【優先日】2017-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391010976
【氏名又は名称】富士カプセル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598005661
【氏名又は名称】日新化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【氏名又は名称】松橋 泰典
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】西村 剛一
(72)【発明者】
【氏名】石場 セルジオ
(72)【発明者】
【氏名】宇留賀 仁史
(72)【発明者】
【氏名】青木 久佳
(72)【発明者】
【氏名】近藤 洋介
(72)【発明者】
【氏名】下川 義之
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/121098(WO,A1)
【文献】特開平10-291928(JP,A)
【文献】特開昭63-238015(JP,A)
【文献】特開2017-105732(JP,A)
【文献】国際公開第2017/022248(WO,A1)
【文献】特開平09-025228(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/48
A61K 47/36
A61K 47/32
A61K 47/26
A61K 47/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
寒
天と、ポリビニルアルコール共重合体とを含む、シームレスカプセルにおける皮膜用組成物であって、
前記ポリビニルアルコール共重合体が、
(i)ポリビニルアルコール、
(ii)アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、及びマレイン酸からなる群より選択される少なくとも1種の不飽和カルボン酸、並びに
(iii)式[I]
H
2C=C(R
1)-COOR
2 [I]
(式中、R
1は水素原子又はメチル基を示し、R
2は1~4個の炭素原子を有するアルキル基を示す。)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の不飽和カルボン酸エステル
を構成単位として含む、
前記皮膜用組成物。
【請求項2】
不飽和カルボン酸が、アクリル酸である、請求項1に記載の皮膜用組成物。
【請求項3】
不飽和カルボン酸エステルが、メタクリル酸メチルである、請求項1又は2に記載の皮膜用組成物。
【請求項4】
さらに、1又は2種以上の可塑剤を含む、請求項1~3のいずれかに記載の皮膜用組成物。
【請求項5】
1又は2種以上の可塑剤が、グリセリン及びソルビトールを含む可塑剤である、請求項4に記載の皮膜用組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の皮膜用組成物を用いて得られるシームレスカプセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寒天、カラギーナン及びジェランガムからなる群より選択される少なくとも1種の多糖類(以下、「寒天等」ということがある。)と、特定のポリビニルアルコール共重合体(PVAコポリマー)とを含む、シームレスカプセルにおける皮膜用組成物(以下、「本件皮膜用組成物」ということがある)に関する。
【背景技術】
【0002】
カプセルは、医薬品、食品、医薬部外品等の分野で幅広く用いられている。カプセルには、軟カプセル(ソフトカプセル)と硬カプセルがある。シームレスカプセルは、ソフトカプセルの一種であり、油水界面に生じる張力と、シェル基材のゲル化特性を利用して製造されるものである。シームレスカプセルには、粒径の選択幅が広い、カプセルの皮膜の膜厚又は膜硬度の選択幅が広い、カプセルの溶解時間の選択幅が広い等の様々な利点がある。
【0003】
シームレスカプセルの製造において、アイズ(皮膜中に生じる内容物の液滴)や偏肉(皮膜の厚みがカプセルの部位によって有意に異なる状態)を抑え、高品質なカプセルを得るために、界面張力調整剤やゲル化促進剤(例えば、油脂、リン脂質、エタノールなどの極性有機溶媒)を、皮膜用組成物中やカプセル内容物中に配合することも行われている。また、シームレスカプセルを形成するシェル(皮膜)形成材料(皮膜用組成物)として、体内での溶解性に優れ、速やかに崩壊して内容物を放出することの可能なゼラチンが用いられる。しかし、ゼラチンはアミノ基を有しているため、カプセル内容物中に、還元糖やマクロライド系抗生物質等のアルデヒド基を含む物質や、経時的に反応してアルデヒドを生じる物質が存在する場合には、保存中にゼラチンのアミノ基と内容物中のアルデヒド基とが化学結合し、皮膜の変色や不溶化を引き起こし、その結果として内容物の放出遅延をまねくという問題点があった。
【0004】
一方、PVAコポリマーは、ポリビニルアルコール(PVA)を構成単位とする共重合体である。例えば、PVAコポリマーを、錠剤又は顆粒剤のフィルムコーティング剤に使用することが報告されている(特許文献1)。また、PVAコポリマーを原料とした硬カプセル剤が報告されている(特許文献2)。また、PVAコポリマーと、カラギーナン等のゲル化剤及び有彩色の色素とを含む着色カプセルが報告されている(特許文献3)。しかしながら、PVAコポリマー及び寒天等を皮膜原料としたシームレスカプセルについては、これまで具体的に製造されておらず、またその効果についても知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2005/019286号パンフレット
【文献】国際公開2002/017848号パンフレット
【文献】特開2007-91670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、皮膜厚さの均一性が良好で、かつ皮膜中にアイズがほとんどない高品質なシームレスカプセルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を続けている。その過程において、寒天等と、特定のPVAコポリマーとを含む皮膜用組成物(本件皮膜用組成物)を用いると、皮膜厚さの均一性が良好で、かつ皮膜中にアイズがほとんどない高品質なシームレスカプセルを製造できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]寒天、カラギーナン及びジェランガムからなる群より選択される少なくとも1種の多糖類と、ポリビニルアルコール共重合体とを含む、シームレスカプセルにおける皮膜用組成物であって、
前記ポリビニルアルコール共重合体が、
(i)ポリビニルアルコール、
(ii)アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸及びマレイン酸からなる群より選択される少なくとも1種の不飽和カルボン酸、並びに
(iii)式[I]
H2C=C(R1)-COOR2 [I]
(式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2は1~4個の炭素原子を有するアルキル基を示す。)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の不飽和カルボン酸エステル
を構成単位として含む、
前記皮膜用組成物。
[2]不飽和カルボン酸が、アクリル酸である、上記[1]に記載の皮膜用組成物。
[3]不飽和カルボン酸エステルが、メタクリル酸メチルである、上記[1]又は[2]に記載の皮膜用組成物。
[4]さらに、1又は2種以上の可塑剤を含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載の皮膜用組成物。
[5]1又は2種以上の可塑剤が、グリセリン及びソルビトールを含む可塑剤である、上記[4]に記載の皮膜用組成物。
[6]上記[1]~[5]のいずれかに記載の皮膜用組成物を用いて得られるシームレスカプセル。
【発明の効果】
【0009】
本件皮膜用組成物を用いて製造されたシームレスカプセルは、当該カプセルの皮膜厚さの均一性が良好で、かつ皮膜中にアイズがほとんどない高品質なものであり、食品、医薬品、化粧品等の分野で有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本件皮膜用組成物は、シームレスカプセルにおけるカプセル内容物(芯物質又は充填物ともいう)を被覆する皮膜(シェル)に用いるための組成物であって、寒天等と、(i)ポリビニルアルコール、(ii)アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、及びマレイン酸からなる群より選択される少なくとも1種の不飽和カルボン酸、並びに(iii)式[I]H2C=C(R1)-COOR2 [I](式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2は1~4個の炭素原子を有するアルキル基を示す。)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の不飽和カルボン酸エステルを構成単位として含むPVAコポリマー(以下、「本件PVAコポリマー」ということがある)とを含む、前記組成物であり、ここで「構成単位」とは、(共)重合体における、重合前の単量体のことを意味する。
【0011】
本件皮膜用組成物は、液体タイプと非液体タイプとに大別される。液体タイプの本件皮膜用組成物においては、ふつう寒天等と本件PVAコポリマーとを含む溶媒(例えば精製水)として構成される。また、非液体タイプの本件皮膜用組成物においては、ふつう粉体等の寒天等及び本件PVAコポリマー含有物として構成される。かかる非液体タイプの本件皮膜用組成物を溶媒(例えば精製水)に添加し、混合、攪拌、加温(通常85~100℃の範囲内、好ましくは85~93℃)等により融解すると、液体タイプの本件皮膜用組成物を調製することができる。
【0012】
上記寒天とは、テングサ(天草)、オゴノリ等の紅藻類から得られる多糖類であり、ガラクトースを基本骨格とするものである。上記寒天として、例えば、特開2009-225671号公報、特開2001-78726号公報、特開平5-184331号公報等に記載の方法に従って、上記紅藻類から調製したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。寒天の市販品としては、例えば、局方寒天PS-26、局方寒天PS-10、伊那寒天PC-6F、ウルトラ寒天AX-30(いずれも伊那食品工業社製)、粉末寒天JS-1000(朝日社製)等を挙げることができる。
【0013】
上記カラギーナンとは、紅藻類からアルカリにより抽出される直鎖状含硫黄多糖類の一種であり、D-ガラクトース(もしくは 3,6-アンヒドロ-D-ガラクトース)と硫酸から構成される陰イオン性高分子化合物である。組成は同じく紅藻類から得られるアガロース(寒天の主成分)に似るが、硫酸を多く含む点で異なる。カラギーナンには、その性質性状によりκ型、ι型及びλ型の3タイプがあるが、本発明においては、より固いゲルを形成するκ型が好ましい。
【0014】
上記ジェランガムとは、水草に寄生する微生物スフィンゴモナス・エロディアによって合成される水溶性の多糖類であり、複合多糖類(ヘテロ多糖)に分類される多糖類であり、2つのD-グルコース残基と1つのL-ラムノース残基と1つのD-グルクロン酸残基から構成される四糖で構成される繰り返し単位を有する高分子である。ジェランガムには、2つの水酸基がアセチル基及びグリセリル基で置換がされたネイティブ型とそのような置換が除去された脱アシル化型の2つのタイプがあるが、本発明においては、脱アシル化型が好ましい。
上記寒天等は、水生生物又は水生生物に寄生している微生物由来の多糖類であり、分子内にカルボン酸残基を有することから、水溶液中では、酸性を示す多糖類として共通する性質を有する。
【0015】
上記寒天等におけるゼリー強度としては、シームレスカプセルの成形性が損なわれない範囲であればよく、例えば、100g/cm2以上であり、好ましくは200g/cm2以上、より好ましくは400g/cm2以上、さらに好ましくは500g/cm2以上、さらにより好ましくは600g/cm2以上である。また、寒天等におけるゼリー強度が高すぎると、シームレスカプセルを手指で潰しにくくなるおそれがある。このため、上記寒天等におけるゼリー強度は、2000g/cm2以下が好ましく、1800g/cm2以下がより好ましく、1600g/cm2以下がさらに好ましく、1400g/cm2以下がさらにより好ましく、1200g/cm2以下が特に好ましい。
【0016】
本明細書において、「寒天等におけるゼリー強度」とは、1.5質量%の寒天等の水溶液を、20℃で15時間放置することにより凝固させた寒天等のゲルが、20℃で当該ゲルの表面積1cm2当たり、20秒間耐える最大質量(g)を意味する。寒天等のゲルの固さは、日寒水式ゼリー強度測定器(木屋製作所社製)を用いて測定することができる。
【0017】
本件皮膜用組成物における寒天等の濃度としては、特に制限されず、液体タイプの本件皮膜用組成物の場合、例えば、1.0~30質量%の範囲内であり、好ましくは1.0~10質量%、より好ましくは1.0~6.0質量%、さらに好ましくは1.0~3.0質量%である。また、非液体タイプの本件皮膜用組成物の場合、例えば、1.0~60質量%の範囲内であり、好ましくは1.0~40質量%、より好ましくは2.0~20質量%、さらに好ましくは5.0~9.0質量%である。
【0018】
ポリビニルアルコールは、通常、酢酸ビニルをメタノール溶媒中においてラジカル重合し、得られたポリ酢酸ビニルをメタノール溶液中で水酸化ナトリウムを用い、酢酸基の一部又は全部を、水酸基に置換(ケン化)反応を行うことにより製造する。このため、ポリビニルアルコールは、ケン化度、すなわち、ポリビニルアルコール中の酢酸基と水酸基の合計数に対する水酸基の割合(モル%)の違いにより、通常、完全ケン化物、中間ケン化物、及び部分ケン化物に分類される。
【0019】
上記(i)ポリビニルアルコールのケン化度としては、特に制限されず、例えば、70~99モル%の範囲内であり、好ましくは75~96モル%、より好ましくは80~94モル%、さらに好ましくは85~90モル%である。また、上記(i)ポリビニルアルコールにおける平均重合度としては、特に制限されず、例えば、100~4000、好ましくは300~3000、より好ましくは400~2000、さらに好ましくは500~1800である。また、上記(i)ポリビニルアルコールは、1種単独で、或いは、ケン化度や平均重合度が異なる2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0020】
上記(i)ポリビニルアルコールは、所望のケン化度や平均重合度を有するポリビニルアルコールを、自ら製造してもよいが、市販品を用いることもできる。ポリビニルアルコールの市販品としては、例えば、ゴーセノール(登録商標)EG05(日本合成化学工業製)、EG25、EG40(これらすべて、日本合成化学工業製)、PVA203、PVA204、PVA205(これらすべて、クラレ社製)、JP-04、JP-05(これらすべて、日本酢ビ・ポバール社製)等をあげることができる。
【0021】
上記(ii)不飽和カルボン酸としては、具体的に、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、又はマレイン酸の1種;アクリル酸とメタクリル酸、アクリル酸とフマル酸、アクリル酸とマレイン酸、メタクリル酸とフマル酸、メタクリル酸とマレイン酸、又はフマル酸とマレイン酸の2種;アクリル酸とメタクリル酸とフマル酸、アクリル酸とメタクリル酸とマレイン酸、又はメタクリル酸とフマル酸とマレイン酸の3種;アクリル酸とメタクリル酸とフマル酸とマレイン酸の4種を挙げることができ、アクリル酸を含む1~4種が好ましく、アクリル酸の1種がより好ましい。
【0022】
上記(iii)不飽和カルボン酸エステルとしては、具体的には、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソプロピル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、及びアクリル酸イソブチルからなる群より選択される少なくとも1種であり、好ましくはメタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、及びアクリル酸エチルからなる群より選択される少なくとも1種であり、より好ましくはメタクリル酸メチル及びアクリル酸メチルからなる群より選択される少なくとも1種であり、さらに好ましくはメタクリル酸メチルである。
【0023】
本件PVAコポリマーに含まれる(ii)不飽和カルボン酸と、(iii)不飽和カルボン酸エステルとの質量比としては特に制限されず、例えば、(ii)不飽和カルボン酸が2~80質量%に対して、(iii)不飽和カルボン酸エステルが20~98質量%であり、好ましくは(ii)不飽和カルボン酸が5~50質量%に対して、(iii)不飽和カルボン酸エステルが50~95質量%であり、より好ましくは(ii)不飽和カルボン酸が10~40質量%に対して、(iii)不飽和カルボン酸エステルが60~90質量%であり、さらに好ましくは(ii)不飽和カルボン酸が10~30質量%に対して、(iii)不飽和カルボン酸エステルが70~90質量%であり、さらにより好ましくは(ii)不飽和カルボン酸が10~20質量%に対して、(iii)不飽和カルボン酸エステルが80~90質量%である。換言すると、(ii)不飽和カルボン酸及び(iii)不飽和カルボン酸エステル(これらを総称して、「重合性ビニル単量体」ということがある)の合計量に対して、(ii)不飽和カルボン酸の質量比としては、例えば、2~80質量%、好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~40質量%、さらに好ましくは10~30質量%、さらにより好ましくは10~20質量%である。また、重合性ビニル単量体の合計量に対して、(iii)の不飽和カルボン酸エステルの質量比としては、例えば、20~98質量%であり、好ましくは50~95質量%であり、より好ましくは60~90質量%であり、さらに好ましくは70~90質量%であり、さらにより好ましくは80~90質量%である。
【0024】
上記(ii)不飽和カルボン酸として、アクリル酸の1種を用い、上記(iii)不飽和カルボン酸エステルとして、メタクリル酸メチルの1種を用いる場合、(i)ポリビニルアルコール:(ii)アクリル酸:(iii)メタクリル酸メチルの質量比としては、60~90質量%:0.5~12質量%:7~38質量%が好ましく、70~90質量%:1~5質量%:10~25質量%がより好ましい。
【0025】
本件皮膜用組成物における本件PVAコポリマーの濃度としては、特に制限されず、液体タイプの本件皮膜用組成物の場合、例えば、10~70質量%の範囲内であり、好ましくは10~60質量%、より好ましくは10~50質量%、さらに好ましくは20~40質量%である。また、非液体タイプの本件皮膜用組成物の場合、例えば、40~97質量%の範囲内であり、好ましくは50~96質量%、より好ましくは60~93質量%、さらに好ましくは70~90質量%である。
【0026】
本件PVAコポリマーは、公知の方法を用いて製造することができる。例えば、脱イオン水等の水中に、(i)ポリビニルアルコールを添加し、加温(例えば90~100℃)によりポリビニルアルコールを溶解させた後、(ii)不飽和カルボン酸及び(iii)不飽和カルボン酸エステルを加え、窒素置換し、重合開始剤を加え、共重合させることにより製造することができる。水に添加する(i)ポリビニルアルコール、(ii)不飽和カルボン酸、及び(iii)不飽和カルボン酸エステルの質量比によって、本件PVAコポリマーにおける(i)ポリビニルアルコール、(ii)不飽和カルボン酸、及び(iii)不飽和カルボン酸エステルの質量比が決定される。したがって、水に添加する各成分の質量比は、本件PVAコポリマーにおける各成分の質量比と同じであることが好ましい。
【0027】
上記重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ハイドロクロライド、AIBN(アゾイソブチロニトリル)等のアゾ化合物;過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;t-ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物;過酸化水素-酒石酸、過酸化水素-酒石酸ナトリウム等のレドックス開始剤;などを挙げることができる。
【0028】
本件PVAコポリマーは、ポリビニルアルコールの側鎖として存在する-OCOCH3基に重合性ビニル単量体である(ii)不飽和カルボン酸又は(iii)不飽和カルボン酸エステルの少なくとも1種がグラフト重合した構造を有する。なお、このグラフト重合において、「重合性ビニル単量体の少なくとも1種が重合又は共重合した重合体」を介してポリビニルアルコール同士が結合していてもよい。すなわち、ポリビニルアルコールとポリビニルアルコールとが、「重合性ビニル単量体の少なくとも1種が重合又は共重合した重合体」により架橋されていてもよい。
【0029】
例えば、(ii)アクリル酸及び(iii)メタクリル酸メチルを用いた場合、本件PVAコポリマーは、アクリル酸及びメタクリル酸メチルの共重合体が、ポリビニルアルコールの-OCOCH3基を介してポリビニルアルコールに結合した構造を有する。
このようなPVAコポリマー(ポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体)として、具体的には、特開2016-008294号公報に記載のPVA共重合体を挙げることができる。
【0030】
本件皮膜用組成物としては、成形後の皮膜により柔軟性を与えるために、さらに1又は2種以上の可塑剤を含むものが好ましい。かかる可塑剤としては、例えば、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等の多価アルコール;ブドウ糖、果糖、グルコース、ガラクトース等の単糖類;ショ糖、麦芽糖、トレハロース、カップリングシュガー等の2糖類;マルトオリゴ糖などのオリゴ糖;ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、パラチニット、キシリトール、マンニトール、ガラクチトール等の糖アルコール;ポリビニルアルコール;トリアセチン;ポリデキストロース、デキストリン、マルトデキストリン、難消化性デキストリン、シクロデキストリン(α、β、又はγ)等のデンプン誘導体;デンプン;ヒドロキシメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルセルロース(MC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロース誘導体などを挙げることができ、グリセリン及びソルビトールを含む可塑剤が好ましい。
【0031】
本件皮膜用組成物における可塑剤の濃度としては、特に制限されず、液体タイプの本件皮膜用組成物の場合、例えば、1.0~30質量%の範囲内であり、好ましくは1.0~20質量%、より好ましくは1.0~10質量%、さらに好ましくは2.0~5.0質量%である。また、非液体タイプの本件皮膜用組成物の場合、例えば、1.0~60質量%の範囲内であり、好ましくは1.0~40質量%、より好ましくは2.0~20質量%、さらに好ましくは5.0~9.0質量%である。
【0032】
本件皮膜用組成物としては、寒天等以外のゲル化剤、例えば、ローカストビーンガム、アラビアガム、ペクチン、グアーガム、アルギン酸、プルラン、コンニャクガム、ゼラチン、タラガム及びグルコマンナンからなる群より選択される1又は2種以上のものを含んでもよいが、これらゲル化剤をほとんど(通常0.1質量%以下、好ましくは0.01質量%以下、より好ましくは0.001質量%以下)又は全く含まないものが好ましい。
【0033】
本件皮膜用組成物における任意成分としては、例えば、顔料、食用色素、染料等の着色剤;酸化マグネシウム、二酸化チタン等の遮光剤;ラウリル硫酸ナトリウム、脂肪酸エステル類等の界面活性剤;香味剤;矯味剤;防腐剤;香料;などを挙げることができる。本明細書において「任意成分」とは、含んでもよいし含まなくてもよい成分のことを意味する。
【0034】
本発明において、シームレスカプセルが含有しうるカプセル内容物としては、シームレスカプセル中に内包でき、且つカプセル皮膜を侵さないものであれば特に制限されず、例えば、油脂類、ワックス類、脂肪酸類、ビタミン類、医薬品、食品、湿潤剤、保湿剤、抗酸化剤、防腐剤、収斂剤、美白剤、有機酸、香料等を挙げることができる。特に、当該シームレスカプセルは、アルデヒド基を含む物質によるカプセルの不溶化を防止することができ、且つカプセル内容物の酸化を低減することができるため、アルデヒド基を含む物質をもカプセル内容物として含有することができる。例えば、脂肪酸トリグリセリドやポリエチレングリコール等の溶液にアルデヒド基を含む成分や酸化反応しやすい成分を溶解させた充填液が、シームレスカプセルの特長を活かす観点から、特に好ましい。このようなアルデヒド基を含む成分としては、例えば、各種還元糖(例えばグルコース、フルクトース、ラクトース、アラビノース、マルトース等)、シトラール、バニリン、ベンズアルデヒド、グルタルアルデヒド、o-ブロモベンズアルデヒド、ブタナール、クロロブタナール、フルフラール、ヒドロキシメチルフルフラール、ペリルアルデヒド、アクロレイン、アルドステロン等を挙げることができる。上記カプセル内容物は、ふつう液体タイプである。
【0035】
本発明において、シームレスカプセルは、本件皮膜用組成物とカプセル内容物を用い、シームレスカプセル製造に当たって通常使用されるカプセル製造装置、例えば、SPHEREX(フロイント産業社製)や、シームレスカプセル製造装置(富士カプセル社製)を使用して、両成分(本件皮膜用組成物及びカプセル内容物)の多重ノズルを用いた液中滴下法により製造(調製)することができる。例えば、同心二重ノズルを用いて、外側ノズルからは、液体タイプ又は液体タイプに調製した本件皮膜用組成物を、内側ノズルからはカプセル内容物を、それぞれ一定速度でキャリア液中に流出させ、この2層の流液を一定間隔で切断し、界面張力で液滴としたのち、外側の皮膜層(本件皮膜用組成物)を冷却によってゲル化させ、継ぎ目の無いシームレスカプセルを製造することができる。上記液中滴下法は、液中硬化法やオリフィス法とも呼ばれる。また、三重以上の多重ノズルを用いる場合もある。製造後のシームレスカプセル皮膜における寒天等やPVAコポリマー等の各種成分の含有質量比率は、製造前の液体タイプ又は液体タイプに調製した本件皮膜用組成物に含まれるそれらの成分の含有質量比率と同じであるため、製造前の液体タイプ又は液体タイプに調製した本件皮膜用組成物に含まれる各種成分の合有量を調整することで、製造後のシームレスカプセル皮膜中の各種成分の含有質量比率を調整することができる。
【0036】
また、内容物、皮膜用組成物及びキャリア液の吐出速度を適宜調整することにより、カプセルの粒径を制御することができる。具体的には、内容物を吐出速度0.1~5mL/minで吐出し、皮膜用組成物を吐出速度0.1~10mL/minで吐出し、キャリア液を吐出速度15000~30000mL/minで吐出することにより、平均粒子径が900μm以下、例えば500~800μmのソフトカプセル集合体を製造することができる。
【0037】
本件皮膜用組成物を用いて製造されるシームレスカプセルのサイズ(粒径)は、適宜公知の方法により調整することができ、直径200μm~10mmの範囲が好ましく、直径400μm~6mmの範囲がより好ましく、直径600μm~4mmの範囲がさらに好ましい。
【0038】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
実施例1~4
1.シームレスカプセルの製造
表1(表中の数字は、特に指定されていなければ質量部を表す。)に示す各原料を、混合及び攪拌し、攪拌を続けながら加温溶解(実施例1は95℃、実施例2は93℃、実施例3は80℃、実施例4は、80℃)することにより、4種類の皮膜用組成物を調製した。なお、調製した実施例3の粘度は、調製直後の80℃条件下で64mPa・sであった。また、調製した実施例1の粘度は、調製直後の78℃条件下で22mPa・sであり、調製した実施例2の粘度は、調製直後の82℃条件下で41mPa・sであった。
シームレスカプセル製造機(SPHEREX[形成管径22mm、振動数25Hz、タンク温度80℃、冷却油設定温度0℃]、フロイント産業社製)の同心二重ノズルの内筒より芯物質としてミリトール318(トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリド、BASF社製)100質量部及びエタノール5質量部からなる内容物と、外筒より被膜物質として上記4種類の皮膜用組成物とをそれぞれ流下させ、粒径(直径)3又は4mm、皮膜率20%のシームレスカプセルを製造した。
【0040】
【表1】
*1:特開2016-008294号公報に記載のPVA共重合体
*2:表2を参照
*3:表3を参照
*4:表4を参照
*5:ケルコゲル(登録商標)(DSP五協フード&ケミカル社製)
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
2.結果
実施例1の皮膜用組成物からは、直径3mmのシームレスカプセルを製造することができ、かかるカプセルの皮膜厚さの均一性(偏肉≒1:1.5)は良好であり、また、アイズ(皮膜中に残存する芯物質の液滴)も確認されなかった。また、実施例2の皮膜用組成物からは、直径3mm及び4mmのシームレスカプセルを製造することができ、これらカプセルの皮膜厚さの均一性(偏肉≒1:1.5、及び1:1.6)は良好であり、またアイズも確認されなかった。実施例3の皮膜用組成物からは、直径3mmのシームレスカプセルを製造することができたものの、かかるカプセルの皮膜厚さの均一性(偏肉≒1:2.0)は実施例1及び2のカプセルには劣り、また、アイズも多少確認されたが、カプセルとして実用性はあった。実施例4の皮膜用組成物からは、直径約4mmのシームレスカプセルを製造することができた。
以上の結果は、本件PVAコポリマーと寒天等を含む皮膜用組成物を用いると、皮膜厚さの均一性が良好で、かつアイズがほとんどない(又は全くない)高品質なシームレスカプセルを製造できることを示している。
なお、寒天等以外の他の親水性多糖類を用いて、PVAコポリマーとの組合せについて同様に検討したが、カプセルを得ることができなかった。寒天等以外の他の親水性多糖類として、具体的には、ローカストビーンガム、キサンタンガム、ゲルメイト(登録商標)SA(DSP五協フード&ケミカル(株)社製)、ゲルメイト(登録商標)KS(DSP五協フード&ケミカル(株)社製)、グリロイド(登録商標)2A(タマリンドガム、DSP五協フード&ケミカル(株)社製)、グアーガム、ペクチン及びアラビアゴムを例示することができる。なお、本発明において、これらの「寒天等以外の他の親水性多糖類」と、「寒天等」との共存を否定するものではない。
【0045】
実施例5
シームレスカプセル製造機(SPHEREX[内側ノズルの吐出口の開口部の内径:0.5mm、外側ノズルの吐出口の開口部の内径:1mm、形成管の上端の開口部の内径:22mm、振動数:25Hz、タンク温度60℃、冷却油設定温度5℃]、フロイント産業社製)の同心二重ノズルの内筒より芯物質としてミリトール318(トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリド、BASF社製)100質量部及びエタノール5質量部からなる内容物を吐出速度2.02mL/minで、外筒より皮膜用組成物として実施例1と同じ皮膜用組成物を吐出速度5.26mL/minで、形成管内部への流入速度を20000mL/minとしたキャリア液(中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、液温:5℃)中に吐出させて滴下し、得られた未乾燥カプセルを5日間MCT液(液温:4℃)中に浸漬した。MCT液中のカプセルを回収し、室温(20℃)で15時間静置して乾燥させ、皮膜率を20%のカプセルを得た。
得られたソフトカプセルを粒子画像分析装置(装置名:モフォロギG3、Malvern社)を用いて解析したところ、平均粒子径約700μmのカプセルであることがわかった。
また、得られたカプセルを高分解能3DX線顕微鏡(nano3DX-J、(株)リガク)及び光化学顕微鏡(VHX-D510、(株)キーエンス)を用いて観察したところ、真球に近い球状のソフトカプセルであることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本件皮膜用組成物を用いて製造されたシームレスカプセルは、当該カプセルの皮膜厚さの均一性が良好で、かつ皮膜中にアイズがほとんどない高品質なものであり、食品、医薬品、化粧品等の分野で有用である。