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特許7174386情報処理装置、有用パラメータ選択方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】情報処理装置、有用パラメータ選択方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/20 20180101AFI20221110BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20221110BHJP
   G06Q 50/22 20180101ALI20221110BHJP
【FI】
G16H50/20
A61B5/11 200
G06Q50/22
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021078379
(22)【出願日】2021-05-06
(65)【公開番号】P2021179984
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2021-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2020082072
(32)【優先日】2020-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2019年6月12日~16日開催の第56回 日本リハビリテーション医学会学術集会において2019年6月14日に発表、2019年11月15日~17日開催の第3回 日本リハビリテーション医学会 秋季学術集会において2019年11月15日及び11月17日に発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000101558
【氏名又は名称】アニマ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500409219
【氏名又は名称】学校法人関西医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103137
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 滋
(74)【代理人】
【識別番号】100145838
【弁理士】
【氏名又は名称】畑添 隆人
(74)【代理人】
【識別番号】100216367
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 梨絵
(72)【発明者】
【氏名】牛久保 智宏
(72)【発明者】
【氏名】長谷 公隆
【審査官】佐伯 憲太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-150329(JP,A)
【文献】宮脇 悠ほか,歩行リハビリテーションによる歩行改善度の定量化に関する研究,電子情報通信学会技術研究報告,日本,一般社団法人電子情報通信学会,2016年01月14日,第115巻第413号,pp.11-16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 50/22
G16H 10/00-80/00
A61B 5/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
データ取得手段と、解析手段と、を備え、
前記データ取得手段は、評価項目の評価対象であり特定の特徴を有する第1の集団及び該特徴を有しない第2の集団の各被験者について、複数のパラメータに係る学習用の計測データを取得し、
前記解析手段は、
前記複数のパラメータから所定の個数のパラメータを選択し、該所定の個数のパラメータからなる候補パラメータ群を複数決定する候補パラメータ群選択手段と、
各候補パラメータ群について、該候補パラメータ群に係る前記計測データにおける、前記第1の集団の各被験者の前記第2の集団との差異を示す距離を算出する距離算出手段と、
各候補パラメータ群について、前記第1の集団の各被験者についての、前記距離、及び前記評価項目を評価する評価指標の値に基づき、前記距離と前記評価指標との関係の強さを示す評価関数の値を算出する評価関数算出手段と、
前記評価関数が、前記関係が最も強くなる値を示す候補パラメータ群を、前記評価項目の評価に有用な有用パラメータ群として決定する有用パラメータ群抽出手段と、を備える、
情報処理装置。
【請求項2】
前記第1の集団に対する前記評価項目に係る評価が行われることにより、前記第1の集団の各被験者についての前記評価指標の値を取得する評価値取得手段を更に備える、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記関係の強さは、前記距離と前記評価指標との相関の強さであり、
前記評価関数算出手段は、前記評価関数を、相関係数、残差二乗和、決定係数の何れかを用いて算出し、
前記有用パラメータ群抽出手段は、前記評価関数を最小化又は最大化させる候補パラメータ群を、前記有用パラメータ群として決定する、
請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記解析手段は、前記候補パラメータ群に係る前記評価関数の値を収束条件と比較し、比較結果に基づいて、該候補パラメータ群を推移先パラメータ群として採択するか否かを判定する採択判定手段を更に備え、
前記有用パラメータ群抽出手段は、前記推移先パラメータ群として採択された候補パラメータ群から前記有用パラメータ群を抽出する、
請求項1から3の何れか一項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記候補パラメータ群選択手段による処理から、前記評価関数算出手段による処理、前記採択判定手段による処理までの処理が繰り返し行われ、
前記候補パラメータ群選択手段は、
前記採択判定手段により前記候補パラメータ群を採択すると判定された場合、該採択された候補パラメータ群の一部を変更することにより、次候補パラメータ群を選択し、
前記採択判定手段により前記候補パラメータ群を棄却すると判定された場合、前回採択された候補パラメータ群の一部を変更することにより、次候補パラメータ群を選択する、
請求項4に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記採択判定手段および前記候補パラメータ群選択手段は、マルコフ連鎖モンテカルロ法に基づいて行われる、
請求項4または5に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記評価項目は、前記特定の特徴を有する評価対象者に対する治療方法の有用性または該評価対象者の病態に関する評価項目である、
請求項1から6の何れか一項に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記候補パラメータ群選択手段による処理から、前記評価関数算出手段による処理、前記有用パラメータ群抽出手段による処理までの処理である繰り返し処理が所定回数繰り返し行われ、
前記有用パラメータ群抽出手段は、前記繰り返し処理が所定回数行われることで、前記有用パラメータ群を複数決定し、
前記解析手段は、前記有用パラメータ群に含まれる各パラメータの重要度を決定する重要度決定手段を更に備える、
請求項1から7の何れか一項に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記重要度決定手段は、前記有用パラメータ群に含まれる各パラメータが、当該有用パラメータ群に出現した結果に基づき、各パラメータの前記重要度を決定する、
請求項8に記載の情報処理装置。
【請求項10】
前記重要度決定手段は、前記有用パラメータ群に含まれる各パラメータが、当該有用パラメータ群に出現した割合または該割合に基づく順位を、前記重要度として決定する、
請求項9に記載の情報処理装置。
【請求項11】
前記重要度決定手段は、前記重要度を決定することにより、前記有用パラメータ群から前記評価項目の評価に有用なパラメータを決定する、
請求項8から10の何れか一項に記載の情報処理装置。
【請求項12】
前記有用パラメータ群および/または前記有用パラメータ群に含まれる各パラメータの重要度を出力する出力手段を更に備える、
請求項8から11の何れか一項に記載の情報処理装置。
【請求項13】
前記距離には、マハラノビス距離、ユークリッド距離、マンハッタン距離の何れかを用いる、
請求項1から12の何れか一項に記載の情報処理装置。
【請求項14】
前記解析手段は、前記有用パラメータ群に係る前記計測データに基づき、前記有用パラメータ群に係る前記距離と前記評価指標との関係式を算出する関係式算出手段を更に備え、
前記データ取得手段は、前記評価項目の評価対象者についての前記有用パラメータ群に係る計測データを取得し、
前記距離算出手段は、取得した前記有用パラメータ群に係る計測データに基づき、前記評価対象者の前記第2の集団との前記距離を算出し、
前記評価値取得手段は、前記関係式及び前記評価対象者についての前記距離に基づき、該評価対象者についての前記評価指標の値を算出する、
請求項1から13のいずれか一項(請求項2の従属項に限る)に記載の情報処理装置。
【請求項15】
前記解析手段は、前記候補パラメータ群に含まれるパラメータの個数を設定するパラメータ個数設定手段を備えており、
設定された個数のパラメータに基づいて、前記候補パラメータ群選択手段による処理から、前記評価関数算出手段による処理、前記有用パラメータ群抽出手段による処理までの処理である繰り返し処理が所定回数試行され、
前記有用パラメータ群抽出手段は、前記繰り返し処理が所定回数試行されることで、設定された個数のパラメータから構成された有用パラメータ群を複数決定し、
前記解析手段は、前記有用パラメータ群に基づいて、前記有用パラメータ群に含まれる各パラメータの選択確率を取得する選択確率取得手段を備えている、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項16】
前記パラメータ個数設定手段により設定されるパラメータ個数は可変であり、
前記パラメータ個数設定手段は、パラメータ個数を変化させながらパラメータ個数を順次設定し、設定された個数のパラメータに基づいて前記繰り返し処理が実行され、設定された各パラメータ個数に対応して有用パラメータ群が複数決定され、
設定された各パラメータ個数に対応して、前記有用パラメータ群に含まれる各パラメータの選択確率が取得される、
請求項15に記載の情報処理装置。
【請求項17】
前記解析手段は、設定されたパラメータ個数毎に情報量基準を算出し、算出された情報量基準に基づいて、パラメータ個数を決定するパラメータ個数決定手段を備えている、
請求項16に記載の情報処理装置。
【請求項18】
前記解析手段は、パラメータ個数の変化に伴う各有用パラメータの選択確率の変化に基づいて、関連し得る複数の有用パラメータの組み合わせを推定する手段を備えている、
請求項16に記載の情報処理装置。
【請求項19】
前記解析手段は、前記第1集団を教師無しクラスタリングにより複数のサブグループに分類する手段を備え、
前記複数のサブグループの少なくとも1つのサブグループについて、前記候補パラメータ群選択手段、前記距離算出手段、前記評価関数算出手段、前記有用パラメータ群抽出手段が実行されて、前記少なくとも1つのサブグループにおける有用パラメータ群が決定される、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項20】
前記教師無しクラスタリングにおいて、前記第1集団において取得された有用パラメータが用いられる、
請求項19に記載の情報処理装置。
【請求項21】
コンピューターが、
データ取得ステップと、解析ステップと、を実行し、
前記データ取得ステップは、評価項目の評価対象であり特定の特徴を有する第1の集団、及び該特徴を有しない第2の集団の各被験者について、複数のパラメータに係る学習用の計測データを取得し、
前記解析ステップは、
前記複数のパラメータから所定の個数のパラメータを選択し、該所定の個数のパラメータからなる候補パラメータ群を複数決定する候補パラメータ群選択ステップと、
各候補パラメータ群について、該候補パラメータ群に係る前記計測データにおける、前記第1の集団の各被験者の前記第2の集団との差異を示す距離を算出する距離算出ステップと、
各候補パラメータ群について、前記第1の集団の各被験者についての、前記距離、及び前記評価項目を評価する評価指標の値に基づき、前記距離と前記評価指標との関係の強さを示す評価関数の値を算出する評価関数算出ステップと、
前記評価関数が、前記関係が最も強くなる値を示す候補パラメータ群を、前記評価項目の評価に有用な有用パラメータ群として決定する有用パラメータ群抽出ステップと、を含む、
有用パラメータ選択方法。
【請求項22】
コンピューターを、
データ取得手段と、解析手段と、として機能させるためのプログラムであって、
前記データ取得手段は、評価項目の評価対象であり特定の特徴を有する第1の集団、及び該特徴を有しない第2の集団の各被験者について、複数のパラメータに係る学習用の計測データを取得し、
前記解析手段は、
前記複数のパラメータから所定の個数のパラメータを選択し、該所定の個数のパラメータからなる候補パラメータ群を複数決定する候補パラメータ群選択手段と、
各候補パラメータ群について、該候補パラメータ群に係る前記計測データにおける、前記第1の集団の各被験者の前記第2の集団との差異を示す距離を算出する距離算出手段と、
各候補パラメータ群について、前記第1の集団の各被験者についての、前記距離、及び前記評価項目を評価する評価指標の値に基づき、前記距離と前記評価指標との関係の強さを示す評価関数の値を算出する評価関数算出手段と、
前記評価関数が、前記関係が最も強くなる値を示す候補パラメータ群を、前記評価項目の評価に有用な有用パラメータ群として決定する有用パラメータ群抽出手段と、を備える、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、データ解析に用いるパラメータを選択するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒトの運動を計測し解析する動作解析が知られている。動作解析には、診断、評価または治療方法の決定等を目的として広く導入されている歩行解析や走行解析等がある。この動作解析を行う際、三次元動作分析装置(光学式モーションキャプチャ)、床反力計及び筋電図計等、様々な計測機器が用いられている。例えば、非特許文献1には、床面(プレート)と足底の間に生じる床反力を計測、記録する足底圧計測プレートや、目視では認識不可能な高速の運動を可視化し客観的分析を可能とするビデオ装置(二次元計測システム、三次元計測システム)等の計測機器を用いて歩行分析が行われることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Oliver Ludwig,“実践にいかす歩行分析-明日から使える観察・計測のポイント”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、計測、解析システムの自動化が進み、実臨床場面においても、定量的歩行解析等の動作解析を適用し易くなってきた。一方、動作解析をはじめとするデータ解析において使用される計測機器から出力されるデータは、多量の物理パラメータであるため、定量的歩行解析等の動作解析を臨床に応用していく過程で情報オーバーロード(information overload)の問題が生じる。そのため、これら多量のパラメータ(高次元の計測データ)から、目的とする治療方法の決定や疾患の特定等に結び付く有用なパラメータを選び出すことが重要となる。
【0005】
これに対し、例えば、従来の歩行解析においては、治療方法の決定や疾患の特定等の評価したい項目に結び付く有用なパラメータは、技術者や研究者による観察に基づく歩行解析等により導き出されていた。このように事前に着目すべき指標(パラメータ)を決めた上で解析を行うことは、これまで定性的な評価に留まっていたものを定量的にするという意味がある一方、治療計画等にもたらす知見が限られたものとなるため、新たな知見が得られないという問題があった。また、このような有用なパラメータを絞り込むための研究、開発時間等に時間を要するという問題があった。
【0006】
本開示は、上記した問題に鑑み、ヒトについての計測データの解析における評価項目の評価に有用なパラメータを抽出することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一例は、
データ取得手段と、解析手段と、を備え、
前記データ取得手段は、評価項目の評価対象であり特定の特徴を有する第1の集団及び該特徴を有しない第2の集団の各被験者について、複数のパラメータに係る学習用計測データを取得し、
前記解析手段は、
前記複数のパラメータから所定の個数のパラメータを選択し、該所定の個数のパラメータからなる候補パラメータ群を複数決定する候補パラメータ群選択手段と、
各候補パラメータ群について、該候補パラメータ群に係る前記計測データにおける、前記第1の集団の各被験者の前記第2の集団との差異を示す距離を算出する距離算出手段と、
各候補パラメータ群について、前記第1の集団の各被験者についての、前記距離、及び前記評価項目を評価する評価指標の値に基づき、前記距離と前記評価指標との関係の強さを示す評価関数の値を算出する評価関数算出手段と、
前記評価関数が、前記関係が最も強くなる値を示す候補パラメータ群を、前記評価項目の評価に有用な有用パラメータ群として決定する有用パラメータ群抽出手段と、を備える、
情報処理装置である。
【0008】
1つの態様では、前記第1の集団に対する前記評価項目に係る評価が行われることにより、前記第1の集団の各被験者についての前記評価指標の値を取得する評価値取得手段を更に備える。
【0009】
1つの態様では、前記関係の強さは、前記距離と前記評価指標との相関の強さであり、
前記評価関数算出手段は、前記評価関数を、相関係数、残差二乗和、決定係数の何れかを用いて算出し、
前記有用パラメータ群抽出手段は、前記評価関数を最小化又は最大化させる候補パラメータ群を、前記有用パラメータ群として決定する。
【0010】
1つの態様では、前記解析手段は、前記候補パラメータ群に係る前記評価関数の値を収束条件と比較し、比較結果に基づいて、該候補パラメータ群を推移先パラメータ群として採択するか否かを判定する採択判定手段を更に備え、
前記有用パラメータ群抽出手段は、前記推移先パラメータ群として採択された候補パラメータ群から前記有用パラメータ群を抽出する。
【0011】
1つの態様では、前記候補パラメータ群選択手段による処理から、前記評価関数算出手段による処理、前記採択判定手段による処理までの処理が繰り返し行われ、
前記候補パラメータ群選択手段は、
前記採択判定手段により前記候補パラメータ群を採択すると判定された場合、該採択された候補パラメータ群の一部を変更することにより、次候補パラメータ群を選択し、
前記採択判定手段により前記候補パラメータ群を棄却すると判定された場合、前回採択された候補パラメータ群の一部を変更することにより、次候補パラメータ群を選択する。
【0012】
1つの態様では、前記採択判定および前記候補パラメータ群選択は、マルコフ連鎖モンテカルロ法に基づいて行われるが、この方法以外の最適化手法に基づいて行われるようにしてもよい。
【0013】
1つの態様では、前記評価項目は、前記特定の特徴を有する評価対象者に対する治療方法の有用性または該評価対象者の病態に関する評価項目である。
【0014】
1つの態様では、前記候補パラメータ群選択手段による処理から、前記評価関数算出手段による処理、前記有用パラメータ群抽出手段による処理までの処理である繰り返し処理が所定回数繰り返し行われ、
前記有用パラメータ群抽出手段は、前記繰り返し処理が所定回数行われることで、前記有用パラメータ群を複数決定し、
前記解析手段は、前記複数の有用パラメータ群に含まれる各パラメータの重要度を決定する重要度決定手段を更に備える。
【0015】
1つの態様では、前記重要度決定手段は、前記複数の有用パラメータ群に含まれる各パラメータが、複数の有用パラメータ群に出現した結果に基づき、各パラメータの前記重要度を決定する。
【0016】
1つの態様では、前記重要度決定手段は、前記複数の有用パラメータ群に含まれる各パラメータが、複数の有用パラメータ群に出現した割合または該割合に基づく順位を、前記重要度として決定する。
【0017】
1つの態様では、前記重要度決定手段は、前記重要度を決定することにより、前記複数の有用パラメータ群から前記評価項目の評価に有用なパラメータを決定する。
【0018】
1つの態様では、前記有用パラメータ群および/または前記有用パラメータ群に含まれる各パラメータの重要度を出力する出力手段を更に備えるが、出力手段は、その他、評価関数の収束度合いを示すグラフ(経時変化を示すグラフ)や、有用パラメータ群に係る距離と評価指標の関係式を示すグラフ、有用パラメータ等を出力するようにしてもよい。
【0019】
1つの態様では、前記距離には、マハラノビス距離、ユークリッド距離、マンハッタン距離の何れかを用いるが、距離空間の定義を満たす距離であればその他の距離であってもよい。
【0020】
1つの態様では、前記解析手段は、前記有用パラメータ群に係る前記計測データに基づき、前記有用パラメータ群に係る前記距離と前記評価指標との関係式を算出する関係式算出手段を更に備え、
前記データ取得手段は、前記評価項目の評価対象者についての前記有用パラメータ群に係る計測データを取得し、
前記距離算出手段は、取得した前記有用パラメータ群に係る計測データに基づき、前記評価対象者の前記第2の集団との前記距離を算出し、
前記評価値取得手段は、前記関係式及び前記評価対象者についての前記距離に基づき、該評価対象者についての前記評価指標の値を算出する。
【0021】
本発明は、
コンピューターが、
データ取得ステップと、解析ステップと、を実行し、
前記データ取得ステップは、評価項目の評価対象であり特定の特徴を有する第1の集団、及び該特徴を有しない第2の集団の各被験者について、複数のパラメータに係る学習用の計測データを取得し、
前記解析ステップは、
前記複数のパラメータから所定の個数のパラメータを選択し、該所定の個数のパラメータからなる候補パラメータ群を複数決定する候補パラメータ群選択ステップと、
各候補パラメータ群について、該候補パラメータ群に係る前記計測データにおける、前記第1の集団の各被験者の前記第2の集団との差異を示す距離を算出する距離算出ステップと、
各候補パラメータ群について、前記第1の集団の各被験者についての、前記距離、及び前記評価項目を評価する評価指標の値に基づき、前記距離と前記評価指標との関係の強さを示す評価関数の値を算出する評価関数算出ステップと、
前記評価関数が、前記関係が最も強くなる値を示す候補パラメータ群を、前記評価項目の評価に有用な有用パラメータ群として決定する有用パラメータ群抽出ステップと、を含む、
有用パラメータ選択方法、として規定され得る。
【0022】
本発明は、
コンピューターを、
データ取得手段と、解析手段と、として機能させるためのプログラムであって、
前記データ取得手段は、評価項目の評価対象であり特定の特徴を有する第1の集団、及び該特徴を有しない第2の集団の各被験者について、複数のパラメータに係る学習用の計測データを取得し、
前記解析手段は、
前記複数のパラメータから所定の個数のパラメータを選択し、該所定の個数のパラメータからなる候補パラメータ群を複数決定する候補パラメータ群選択手段と、
各候補パラメータ群について、該候補パラメータ群に係る前記計測データにおける、前記第1の集団の各被験者の前記第2の集団との差異を示す距離を算出する距離算出手段と、
各候補パラメータ群について、前記第1の集団の各被験者についての、前記距離、及び前記評価項目を評価する評価指標の値に基づき、前記距離と前記評価指標との関係の強さを示す評価関数の値を算出する評価関数算出手段と、
前記評価関数が、前記関係が最も強くなる値を示す候補パラメータ群を、前記評価項目の評価に有用な有用パラメータ群として決定する有用パラメータ群抽出手段と、を備える、
プログラム、として規定され得る。
【0023】
本開示は、情報処理装置、システム、コンピューターによって実行される方法またはコンピューターに実行させるプログラムとして把握することが可能である。また、本開示は、そのようなプログラムをコンピューター、その他の装置、機械等が読み取り可能な記録媒体に記録したものとしても把握できる。ここで、コンピューター等が読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的または化学的作用によって蓄積し、コンピューター等から読み取ることができる記録媒体をいう。
【発明の効果】
【0024】
本開示によれば、ヒトについての計測データの解析における評価項目の評価に有用なパラメータを抽出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本実施形態に係るシステムの構成を示す概略図である。
図2】本実施形態に係る評価関数の収束度合いの例を示す図である。
図3】本実施形態に係る有用パラメータの選択処理の流れの概要を示すフローチャートである。
図4】本実施形態に係るパラメータ群最適化処理の流れの概要を示すフローチャートである。
図5】本実施形態に係る距離と評価指標(GAIT点数差)との関係(最適化前)を示す図である。
図6】本実施形態に係る距離と評価指標(GAIT点数差)との関係(最適化後)を示す図である。
図7】本実施形態に係る、有用パラメータ群に係る距離と評価指標との関係式の例を示す図である。
図8】第一の実施例に係る、有用パラメータ群の一例を示す図である。
図9】第一の実施例に係る、有用パラメータ群に含まれる各パラメータの重要度を示す図である。
図10】麻痺側股関節回旋角(麻痺側HC時)と評価指標(GAIT点数差)との関係を示す図である。
図11】第二の実施例に係る距離と評価指標(推進力改善率)との関係(最適化前)を示す図である。
図12】第二の実施例に係る距離と評価指標(推進力改善率)との関係(最適化後)を示す図である。
図13】第二の実施例に係る、有用パラメータ群の一例を示す図である。
図14】第二の実施例に係る、有用パラメータ群に含まれる各パラメータの重要度を示す図である。
図15】非麻痺側膝関節回旋角(麻痺側HC時)と評価指標(推進力改善率)との関係を示す図である。
図16】第三の実施例に係る距離と評価指標(外部膝関節内転モーメント減少率)との関係(最適化後)を示す図である。
図17】第三の実施例に係る、有用パラメータ群の一例を示す図である。
図18】第三の実施例に係る、有用パラメータ群に含まれる各パラメータの重要度を示す図である。
図19】股関節外転角(HC時)と評価指標(外部膝関節内転モーメント減少率)との関係を示す図である。
図20】他の実施形態に係るシステムのブロック図である。
図21】各マハラノビス次元についての情報量基準の計算例を示すグラフである。
図22】さらに他の実施形態に係るシステムを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本開示に係る情報処理装置、有用パラメータ選択方法及びプログラムの実施の形態を、図面に基づいて説明する。但し、以下に説明する実施の形態は、実施形態を例示するものであって、本開示に係る情報処理装置、有用パラメータ選択方法及びプログラムを以下に説明する具体的構成に限定するものではない。実施にあたっては、実施の態様に応じた具体的構成が適宜採用され、また、種々の改良や変形が行われてよい。また、以下に示す計測機器及び情報処理装置の具体的なハードウェア構成に関しては、実施の態様に応じて適宜省略や置換、追加が可能である。
【0027】
本実施形態では、本開示に係る情報処理装置、有用パラメータ選択方法及びプログラムを、歩行解析における評価項目の評価(評価項目自体の評価)に有用なパラメータを選択する情報処理装置において実施した場合の実施の形態について説明する。但し、本開示に係る情報処理装置、有用パラメータ選択方法及びプログラムは、これに限定されるものではなく、高次元の計測データ等を扱う種々のデータ解析に関する技術について広く用いることが可能であり、本開示の適用対象は、本実施形態において示した例に限定されない。例えば、本開示に係る情報処理装置を、リハビリテーション機器から出力されるデータ解析に用いることも可能である。
【0028】
<システムの構成>
図1は、本実施形態に係るシステムの構成を示す概略図である。図1に示すように、本実施形態に係るシステムは、ヒト(被験者)の身体特性や機能等を測定する1又は複数の各種計測機器9と、各種計測機器9により計測されたデータ(測定結果)を記録し、当該計測データを用いることで目的とする評価項目の評価に有用なパラメータの選択を自動で行う情報処理装置1とからなる。
【0029】
計測機器9は、三次元動作分析装置、床反力計(フォースプレート)等に例示される、ヒト(被験者)の身体特性や機能等を測定する各種計測機器である。例えば、三次元動作分析装置として知られる光学式モーションキャプチャでは、一般的に、複数の光学マーカー(赤外線反射マーカー)を被験者の所定部位(肩峰、肘、手首、上前腸骨棘、大転子、膝関節点、足関節点、中足骨等)に取り付け、複数のカメラで被験者の動作を撮影することで、光学マーカーの移動軌跡から被験者の動作を計測、解析する。また、床反力計は、床反力を三分力で計測する三次元フォースプレートである。床反力計は、踏み台と、踏み台の所定箇所の下方に位置して配置された複数個のロードセル(荷重検知センサ)とを備え、ロードセルは三分力センサで、上下(鉛直)方向、前後方向、左右方向の荷重情報を検出する。歩行であれば、上下(鉛直)方向は体重等によって足底に加わる力を、前後方向は制動力と駆動力を、左右方向は内向きの力と外向きの力を計測する。なお、三次元動作分析装置のようにマーカーを用いるものに限定するものではなく、マーカーレス解析によるデータを計測データとして用いても良い。
【0030】
本実施形態に係るシステムは、上述した三次元動作分析装置、床反力計や、その他、プレート式/シート式/靴式下肢荷重計、重心動揺計、呼気ガス分析計、筋力計及び筋電図計等に例示される計測機器9を1又は複数備えることで、ヒト(被験者)の身体特性や機能等(時間因子も含む)を示す各種計測データを取得する。なお、本実施形態に係るシステムが備える各種計測機器9は、対象とする評価項目等により、任意に選択可能である。
【0031】
計測機器9における各種計算は、コンピューターによって実行される。具体的には、カメラやセンサ等によって取得された情報を取り込む入力部、入力部により取り込まれた情報及び処理部で計算された情報を記憶する記憶部、入力部により取り込まれた情報、測定結果及び分析結果を表示する表示部、入力部により取り込まれた情報に対して各種処理を施すための処理部等を備えている。これらの機能部(入力部、記憶部、表示部、処理部)は、汎用コンピューターから実現することができる。汎用コンピューターは、データを入力するための入力装置、処理されたデータを出力するための出力装置、データを表示する表示装置、主としてCPUから構成される演算装置、ROM、RAM、ハードディスク等の記憶装置、これらを接続するバス、コンピューターに所定の処理を実行させるために記憶装置に格納された所定のプログラム、等を備える。
【0032】
なお、本実施形態では、計測機器9の備える各機能は、汎用プロセッサであるCPUによって実行されるが、これらの機能の一部または全部は、1または複数の専用プロセッサによって実行されてもよい。また、これらの機能の一部または全部は、クラウド技術等を用いて、遠隔地に設置された装置や、分散設置された複数の装置によって実行されてもよい。
【0033】
情報処理装置1は、コンピューターを主体として構成される。コンピューターは、汎用コンピューター(データを入力するための入力装置、処理されたデータを出力するための出力装置、データを表示する表示装置、主としてCPUから構成される演算装置、ROM、RAM、ハードディスク等の記憶装置、これらを接続するバス、コンピューターに所定の処理を実行させるために記憶装置に格納された所定のプログラム、等を備える)から実現することができる。なお、本実施形態では、情報処理装置1の備える各機能は、汎用プロセッサであるCPUによって実行されるが、これらの機能の一部または全部は、1または複数の専用プロセッサによって実行されてもよい。また、これらの機能の一部または全部は、クラウド技術等を用いて、遠隔地に設置された装置や、分散設置された複数の装置によって実行されてもよい。なお、計測機器9における各種計算を、情報処理装置1と同じコンピューターで行うようにしてもよい。
【0034】
情報処理装置1は、データ取得部11と、解析部12、解析結果記憶部13及び出力部14等を備える。情報処理装置1は、1又は複数の各種計測機器9に接続されており、計測機器9により計測されたデータを用いることで、目的とする評価項目の評価に有用なパラメータを選択(抽出)する。
【0035】
従来の一般的な歩行解析では、計測機器からの出力からその被験者の状態を求める等、入力(原因)から出力(結果、観測)を求めるという順問題を取り扱うが、本開示に係る情報処理装置では、計測機器により測定されたデータを用いて、評価項目の評価に有用なパラメータの選択を行う。これは、出力から入力を推定する逆問題に関するものであり、本実施形態に係る情報処理装置1は、この逆問題を解くための各種処理を行う。
【0036】
データ取得部11は、1又は複数の計測機器9から出力された、被験者についての各種計測データを取得する。データ取得部11は、例えば、評価項目の評価対象である評価集団(特定の特徴を有する第1の集団)及び比較集団(当該特徴を有しない第2の集団)の各被験者について、学習用の各種計測データを取得する。また、データ取得部11は、評価項目を評価したい評価対象者についての各種計測データを取得する。各種計測データは、膝関節屈曲角、平均骨盤前傾角度、立脚期時間等の、被験者の身体特性や機能等を表す複数のパラメータ(項目)に係る計測データ(数値データ)である。本実施形態に係る各種計測データは、時系列データではなく、ある時点(一時点)でのデータや平均値等の、一つのパラメータに対して一つの値を持つデータである。
【0037】
本実施形態では、評価集団(特定の特徴を有する第1の集団)を、評価したい疾患等を有する被験者の集団(疾患群)とし、比較集団(当該特定の特徴を有しない第2の集団)を、当該疾患等を有しない健常者の集団(健常群)として説明するが、これに限定されるものではなく、評価対象集団と、当該評価対象集団との比較を行う(距離等のずれを算出する)ための比較集団であればよい。例えば、第1の集団は、特定の特徴を有する健常者の集団であってもよい。なお、本実施形態では、データ取得部11は、各種計測データを、計測機器9から取得することとしたが、予め計測されたデータが情報処理装置1の記憶装置に記憶されている場合、当該記憶装置から取得するようにしてもよい。
【0038】
解析部12は、データ取得部11により取得された計測データについて解析を行う。解析部12は、例えば、計測機器9により測定されたデータを用いることで、目的とする評価項目の評価に有用なパラメータを抽出(選択)する。なお、評価項目は、評価対象者(特定の特徴を有する者)に対する治療方法の有用性または評価対象者の病態(疾患)に関する評価項目であり、例えば、ロボット治療により推進力改善が見込まれるか否か等の治療効果の予測・判定、処方する装具の適合性判定等の治療方法(運動療法やリハビリテーション医療(介護を含む)等を含む)の決定、及び疾病予防などで特定の疾患のリスクがどの程度あるか等の疾患リスク予測等である。また、その他、評価項目として、脊柱変形に対する手術適用者が再手術になるかどうかの予測や、脳卒中片麻痺患者に対して、どのような歩行指導を行うべきかの決定、ACL(Anterior Cruciate Ligament、膝前十字靭帯)損傷患者に対して、どのような項目が回復に効果があるかの予測・判定等が例示される。
【0039】
なお、評価項目を、治療効果の予測・判定とする場合、当該治療効果の予測・判定に有用なパラメータが抽出可能となり、抽出されたパラメータを用いることで、当該治療が有効な被験者か否かを判定可能となる。つまり、当該治療が有効な特徴(例えば、歩き方)を有するという病態を判定(特定)可能となり、換言すると、幾つかの特徴的な病態を有する疾患についての判定(特定)も可能となる。よって、評価項目として、病態(疾患)の特定も含む。
【0040】
解析部12における有用パラメータの抽出処理を説明する。解析部12は、取得された計測データに係る複数のパラメータから所定の個数のパラメータを選択し、この選択されたパラメータ群(候補パラメータ群)について、評価集団の各被験者に係る特性値(比較集団との距離)と目的とする評価項目に係る評価指標(値)との関係の強さを示す評価関数を算出する。本実施形態において、評価関数は、例えば、評価集団(第1の集団)の各被験者と比較集団(第2の集団)との計測データにおける距離と、目的とする評価項目に係る評価指標との関係の強さとして算出される。そして、解析部12は、最適化手法を用いて、評価関数を最小又は最大にする候補パラメータ群を求めることで、特性値(距離)と評価指標との関係が最も強くなる候補パラメータ群を、評価項目の評価(前記特定の特徴を有する被験者に係る評価項目の評価)に有用なパラメータ群として決定する。本実施形態では、最適化手法として、マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC法、Markov chain Monte Carlo methоds)を用いる。
【0041】
マルコフ連鎖モンテカルロ法(以下、「MCMC法」と称する)は、未来の状態(xt+1)が現在の状態(x)だけで決まるという確率過程の性質であるマルコフ連鎖とモンテカルロ法を組み合わせた方法であり、サンプリングしたい任意の分布Pが不変分布となるようなマルコフ連鎖を生成することで、望む分布Pに従ったサンプル(乱数)を生成する(サンプリングする)手法である。具体的には、望む不変分布に到達するような推移確率(状態xから状態xt+1へ推移する確率)を与えてマルコフ連鎖を生成し、マルコフ連鎖に従って乱数を生成するという試行を繰り返していくと、各状態が出現する確率が不変分布に従う(収束する)というものである。本実施形態では、不変分布に到達するような推移確率をMCMC法の一つであるメトロポリス法に基づき算出する。
【0042】
MCMC法におけるメトロポリス法では、新しく生成された乱数を採択するかまたは棄却するかを採択確率(上述の推移確率)αによって決定し、採択された場合は新しい状態に遷移し、棄却された場合には遷移は行わず(状態を変えずに)、もう一度サンプリングし直すという手順を繰り返す手法である。以下に、メトロポリス法の手順を示す。以下の試行を繰り返すことにより、収束点近傍を集中してサンプリングすることが可能となり、各状態の分布を得ることができる。
【0043】
(1)マルコフ連鎖の初期値x(1)を決定する。
(2)t=2、3、…に対して次の(A)、(B)を繰り返す。
(A)x′(推移先候補)をランダムに選定する。
(B)0から1の範囲の一様乱数uを発生させ、メトロポリス法で決まる採択確率αに従い、以下の通り状態を推移させる(採択/棄却する)。
【0044】
ここで、統計力学では、対象とする状態xのエネルギーをE(x)としたときに、確率分布P(x)は以下のボルツマン-ギブス分布で与えられる場合が多い。
【0045】
【0046】
本実施形態では、状態xをパラメータ群、P(x)をパラメータ群の確率分布、E(x)を評価関数とし、P(x)については、上述したボルツマン-ギブス分布を採用する。上述の式(2)により、評価関数E(x)が小さな値ではその確率P(x)は大きくなる。よって、MCMC法により、パラメータ群の確率分布P(x)からのサンプリングを行えば、評価関数E(x)が小さな値をとる点(P(x)が大きな値をとる点)を集中してサンプリングできることから、評価関数E(x)の最小化を考えることが出来る。本実施形態では、このように評価関数Eが最小値や極小値となる点(付近)を集中してサンプリングする(候補パラメータ群を生成する)ことで、パラメータ群の最適化(有用パラメータ群の抽出)を行う。
【0047】
なお、本実施形態では、評価関数Eの例として、距離と評価指標の相関係数の絶対値の逆数を採用するため、評価関数Eを最小化させるパラメータ群の抽出を行うが、評価関数Eとして相関係数の絶対値等を採用することで、評価関数Eを最大化させるパラメータ群の抽出を行うこととしてもよい。この場合、評価関数E(x)の最大化を、関数G(x)=-E(x)の最小化として、パラメータ群の抽出を行うようにしてもよい。なお、パラメータ群の確率分布は、上述したボルツマン-ギブス分布以外の分布に限定されるものではなく、任意の分布を選択可能である。
【0048】
以下、解析部12が有する詳細な機能を説明する。解析部12は、候補パラメータ群選択部121、距離算出部122、評価値取得部123、評価関数算出部124、有用パラメータ群抽出部125、採択判定部126、重要度決定部127及び関係式算出部128等を備える。
【0049】
候補パラメータ群選択部121は、データ取得部11により取得された計測データに係る複数のパラメータから、所定(任意)の個数のパラメータを選択し、当該所定の個数のパラメータからなるパラメータ群を候補パラメータ群として決定する。なお、候補パラメータ群が有するパラメータの数(所定の個数)は、任意に設定可能である。候補パラメータ群選択部121は、評価関数が収束する(評価関数が規定回数分算出される)まで、順次候補パラメータ群を選択(決定)する。
【0050】
また、候補パラメータ群選択部121は、後述する採択判定部126により、候補パラメータ群を推移先パラメータ群として採択すると判定された場合、採択された候補パラメータ群の一部を変更することにより、次候補パラメータ群を選択する。一方、採択判定部126により候補パラメータ群を推移先パラメータ群として採用しない(棄却する)と判定された場合は、前回採択された候補パラメータ群の一部を変更することにより、次候補パラメータ群を選択する。
【0051】
距離算出部122は、各候補パラメータ群について、候補パラメータ群に係る計測データにおける、評価集団(第1の集団)の各被験者の比較集団(第2の集団)との差異を示す距離(第2の集団とどれだけ似ているかを表す尺度)を算出する。第1の集団の各被験者についての、第2の集団からのずれを示す差異量である距離は、第1の集団の各被験者についての、順序集合である特性値である。本実施形態では、距離算出部122は、基準となる健常群に係る計測データ(マハラノビス空間)から、疾患群に属する各被験者に係る計測データがどれだけ離れているかを示す、マハラノビス距離を算出する。
【0052】
マハラノビスの距離は、多変量(多次元)空間における距離尺度のひとつであり、基準となる多変量データ群から対象となるデータがどれだけ離れているかを示す尺度として用いることができる。マハラノビスの距離Dは、以下の通り求められる。
【0053】
平均ベクトルμ(健常群の平均ベクトル)が、

であり、分散共分散行列がΣである多変量データ群に対して、対象となるデータx(疾患群に属する被験者に係るデータ)が、
で表される場合、対象となるデータxの上記多変量データ群に対するマハラノビス距離D(x)は、以下の式で定義される。
【0054】
なお、本実施形態では、距離算出手法としてマハラノビスの距離を用いるが、これに限定されるものではなく、距離空間の定義を満たす距離であれば他の手法(ユークリッド距離やマンハッタン距離等)を用いるようにしても良い。
【0055】
評価値取得部123は、評価集団(第1の集団)の各被験者について、評価項目を評価する評価指標(評価項目の内容を評価(測定)する時に用いる指標)の値を取得する。評価値取得部123は、第1の集団の各被験者に対して、目的とする評価項目に係る評価が行われることにより、第1の集団の各被験者についての評価指標(臨床的評価指標とも称することが可能)に係るデータ(評価指標値)を取得する。評価値取得部123は、例えば、計測機器や他の情報処理装置等から、評価指標を算出するためのデータ(例:GS装着時のGAIT点数、SHB装着時のGAIT点数)を取得することで、評価指標(例:GAIT点数差)を算出(取得)する。なお、評価値取得部123は、予め他装置等により算出された評価指標(値)を、当該他装置等から取得するようにしてもよい。評価指標の例として、以下三つの例を挙げる。
【0056】
(評価指標例1)
片麻痺患者に対して二つの装具のうちどちらの装具が適するか否かを評価項目として評価したい場合、「GAIT(Gait Assessment Intervention Tool)点数差」を評価指標として使用することが可能である。この場合、疾患群の各被験者に対して、それぞれの装具を装着させた上で歩行評価が行われた結果、評価値取得部123は、各被験者についての各装具装着下歩行に係るGAIT点数を取得し、各被験者についての評価指標(GAIT点数差)を算出する。なお、GAIT点数は、歩行障害の程度をスコア化した、観察による臨床的評価尺度であり、全歩行周期の上肢、体幹、下肢の、立脚期ならびに遊脚期の計31項目を、正常を0点、異常を1点から3点で採点した点数(合計点数)である。なお、GAIT点数差は、片側(患側のみ、健側のみ)についてのGAIT点数差を採用してもよいし、両側(患側及び健側)についてのGAIT点数差を採用してもよい。
【0057】
(評価指標例2)
脳血管障害者に対して足関節ロボットを用いた歩行練習効果が得られるか否かを評価項目として評価したい場合、「麻痺肢推進力の改善率」を評価指標として使用することが可能である。この場合、疾患群の各被験者に対して足関節ロボットを用いた歩行訓練が行われ、評価値取得部123は、当該歩行訓練の結果として、各被験者についての麻痺肢推進力の改善率を取得(算出)し、各被験者についての評価指標とする。
【0058】
(評価指標例3)
肥満患者がWide Base歩行(以下、「WB歩行」と称する)を行うことで外部膝関節内転モーメントを減少させることができるか否かを評価項目として評価したい場合、「膝関節前額面モーメント第一極大値についての、通常歩行時に対するWB歩行時での減少率」を評価として使用することが可能である。この場合、肥満患者の集団の各被験者に対して通常歩行時とWB歩行時における外部膝関節内転モーメントが計測され、評価値取得部123は、当該計測の結果、各被験者についての通常歩行時に対するWB歩行時での外部膝関節内転モーメント(ピーク値)の減少率を取得(算出)し、各被験者についての評価指標とする。
【0059】
評価関数算出部124は、各候補パラメータ群について、評価集団(第1の集団)の各被験者についての、距離(特性値)、及び評価項目を評価する評価指標の値に基づき、距離(特性値)と評価指標との関係の強さを示す評価関数の値を算出する。具体的には、評価関数算出部124は、距離算出部122により算出された距離と評価値取得部123により取得された評価指標(値)との関係の強さを評価関数として算出する。本実施形態では、評価関数として、距離(特性値)と評価指標の相関係数の絶対値の逆数を採用する。評価関数E(相関係数の絶対値の逆数)は、以下の通り求められる。
【0060】
xを評価指標、yを距離とすると、
【0061】
相関係数は、変数間の直線的な関係の強さを表す指標(-1~1の値をとる指標)であり、値が大きいほど強い正の相関があり、0に近いと相関がなく、値が小さいほど強い負の相関を示す。よって、評価関数が、距離と評価指標の相関係数の絶対値の逆数である場合、距離と評価指標との関係が強いほど、つまり、距離(特性値)から評価指標の値を適切に予測可能なほど、評価関数は小さくなる。よって、評価関数を最小化させる候補パラメータ群を求めることで、当該候補パラメータ群を、評価指標値を予測可能とする、評価項目の評価に有用なパラメータ群として決定(推定)することが出来る。
【0062】
なお、本実施形態では、評価関数を、距離と評価指標の相関係数の絶対値の逆数としたが、これに限定されるものではなく、距離と評価指標との間の、単調増加、単調減少の関係の当てはまり具合(関係の強さ)を示す指標であれば、相関係数の逆数、残差二乗和(残差平方和)、決定係数の逆数等であってもよい。残差二乗和は、データ(実測値)と推定モデル(予測値)との差異を評価する尺度であり、小さい値をとる場合はデータに対してモデルがフィットすることを示す。よって、この場合も、距離と評価指標との関係が強い場合に、評価関数が小さくなる。なお、評価関数は、距離と評価指標との1対1対応関係の強さを表すものであれば、直線性を有するものに限定されず、連続的な単射関係を有すればよい。また、距離と評価指標の関係が強い場合に評価関数が大きくなるような評価関数を選択する場合は、評価関数を最大化させる候補パラメータ群を、評価項目の評価に有用なパラメータ群として決定(推定)すれば良い。例えば、評価関数が、相関係数の絶対値や決定係数である場合、評価関数を最大化させる候補パラメータ群を求めることで、評価項目の評価に有用なパラメータ群を決定することが可能である。
【0063】
有用パラメータ群抽出部125は、データ取得部11により取得された計測データに係る複数のパラメータから、目的とする評価項目の評価に有用なパラメータ群を抽出する。具体的には、有用パラメータ群抽出部125は、評価関数算出部124により算出された評価関数が距離と評価指標との関係の強さが最も高くなる値(最小値または最大値)を示す候補パラメータ群を、前記評価項目の評価に有用な(有用であると推定される)有用パラメータ群として決定する。なお、有用パラメータ群抽出部125は、このパラメータ群の最適化の処理を所定の回数繰り返し行うことにより、有用パラメータ群を複数(所定の回数分)決定する。
【0064】
採択判定部126は、候補パラメータ群に係る評価関数の値を収束条件と比較し、比較結果に基づいて、候補パラメータ群を推移先パラメータ群(状態(パラメータ群)の推移先)として採択するか否かを判定する。上述の式(1)、(2)に基づき、本実施形態で採用する採択確率αを以下の式で表す。なお、βは、経験的に計算から求められる値であり、任意に設定可能である。
【0065】
【0066】
採択判定部126は、式(5)で示された採択確率を用い、以下の通り候補パラメータ群(x´)を、推移先の状態(推移先パラメータ群)(x(t))として採択/棄却する。
(1)E(x´)≦E(x(t-1))(ΔE≦0)の場合
候補パラメータ群x´を採択する(x(t)=x´とする)
(2)E(x´)>E(x(t-1))(ΔE>0)の場合
採択確率α(=exp(-βΔE))で、候補パラメータ群x´を採択する
【0067】
採択判定部126は、ΔE>0の場合、0≦u≦1の一様乱数uを発生させ、exp(-βΔE)≧uであれば、候補パラメータ群x´を採択(x(t)=x´)し、exp(-βΔE)<uであれば、候補パラメータ群x´を棄却し、前回採択された候補パラメータ群x(t-1)に戻る(x(t)=x(t-1))。
【0068】
つまり、採択判定部126は、算出された候補パラメータ群に係る評価関数の値を、収束条件(今回算出された候補パラメータ群に係る評価関数の値が、前回採択された候補パラメータ群に係る評価関数の値以下になること(ΔE≦0))と比較することで、候補パラメータ群を採択するか否かを判定する。なお、本実施形態において、収束条件はΔE≦0としたが、これに限定されるものではなく、例えば、評価関数が最大となる候補パラメータ群を有用パラメータ群とする場合は、収束条件をΔE≧0とし、ΔE≧0の場合に、候補パラメータ群x´を採用する。
【0069】
このように、採択判定部126及びパラメータ群選択部121によるMCMC法のアルゴリズムに基づく処理により、評価関数が小さくなる(大きくなる)方向には必ず状態(パラメータ群)が遷移(推移)し、評価関数が大きくなる(小さくなる)方向には採択確率に従い遷移するという試行を繰り返すことで、評価関数が最小値(最大値)や極小値(極大値)となる付近を集中してサンプリングすることが可能であり、評価関数が最小となる(最大となる)有用なパラメータ群を求めることができる。換言すると、評価関数を収束条件と比較することで、採択された候補パラメータ群(推移先パラメータ群)から、有用パラメータ群を抽出することができる。なお、本実施形態では、MCMC法(メトロポリス法)を用いるが、これに限定されるものではなく、他の最適化手法を用いるようにしても良い。
【0070】
重要度決定部127は、有用パラメータ群抽出部125により決定された複数の有用パラメータ群に含まれる各パラメータの重要度を決定する。なお、重要度(有用度)は、評価項目の評価に有用と推定される度合いであり、複数の有用パラメータ群に含まれる各パラメータが、複数(N組)の有用パラメータ群に出現した結果に基づき、決定される。例えば、各パラメータが、複数の有用パラメータ群に出現した割合(選択割合)または当該割合に基づく順位を、重要度として決定する。具体的には、10個のパラメータからなるパラメータ群の最適化処理(有用パラメータ群の決定)が500回行われた場合に、パラメータA「麻痺側股関節回旋角(麻痺側踵接地時)」が有用パラメータ群の一パラメータとして149回決定された場合、重要度を「29.8%(=149回/500回)」や「1位」等と決定(算出)する。重要度決定部127は、算出された重要度に基づき、目的とする評価項目の評価に有用な(有用と推定される)パラメータ(有用パラメータ)を決定する。例えば、最も選択確率の高いパラメータを有用パラメータとして決定する。
【0071】
なお、重要度決定部127は、算出された選択割合について検定を行い、有意であると判定されたパラメータを、評価項目の評価に有用なパラメータとして決定するようにしてもよい。検定とは、帰無仮説を棄却し対立仮説を支持するか、又は帰無仮説を棄却しないかを観測値に基づいて決めるための統計的手続きである。重要度決定部127は、具体的には、帰無仮設を「パラメータAはランダムに選択される」とし、対立仮説を「パラメータAはランダムに選択されない」とした上で、パラメータAが実際に選択された割合(確率)とランダムにパラメータAが選択される確率を算出し、検定統計量zを以下の式により求める。
【0072】
【0073】
例えば、全パラメータ(200個のパラメータ)の中から、パラメータAが、10個のパラメータからなる有用パラメータ群として、試行回数500回中50回選択された場合を考える。パラメータAが有用パラメータ群としてランダムに選ばれる確率は、1/20であるため、式(6)より、この場合の検定統計量zは、約5.13と算出される。有意水準を0.05(5%)とすると、検定統計量5.13は、標準正規分布上、棄却域に入ることから、「有意水準5%において帰無仮設を棄却し、対立仮説を採択する」という結果となる。つまり、重要度決定部127は、「パラメータAが有用パラメータ群の一パラメータとして選択された確率はランダムではなく、有意である(選択される意味がある)」と判定することができる。その結果、重要度決定部127は、パラメータAの重要度は高く、評価項目の評価に有用なパラメータであると決定することができる。
【0074】
また、重要度決定部127は、例えば、有用パラメータ群に含まれるパラメータAとパラメータBとが、有用パラメータ群として同時に選択される割合が高ければ、その二つのパラメータの組み合わせは、評価項目を評価するために有用なパラメータの組み合わせであると判定し、パラメータAとパラメータBの組み合わせを重要度が高いパラメータの組み合わせであると決定する。なお、重要度は、上記に挙げたものに限るものでなく、各パラメータの出現結果に基づき決定されるものであればよい。
【0075】
関係式算出部128は、有用パラメータ群に係る計測データに基づき、有用パラメータ群に係る距離(特性値)と評価指標との関係式を算出する。関係式算出部128は、例えば、有用パラメータ群に係る距離と評価指標との関係式として、距離と評価指標との回帰式(回帰直線)を算出する。例えば、回帰直線をy=ax+b、xを評価指標、yを距離とすると、関係式算出部128は、有用パラメータ群に係る計測データを用いて、以下の式により回帰直線の傾き及びy切片を求め、回帰直線を算出する。
【0076】
回帰直線をy=ax+bとするとき
【0077】
解析結果記憶部13は、解析部12による解析結果をRAMに記憶する。例えば、解析結果記憶部13は、解析部12により算出(取得)された、有用パラメータ群、有用パラメータ群に含まれる各パラメータの重要度、評価関数の値及び距離と評価指標の関係式等の解析結果を記憶する。
【0078】
出力部14は、情報処理装置1における表示装置を介して、種々の出力処理を実行する。出力部14は、例えば、有用パラメータ群、有用パラメータ群に含まれる各パラメータの重要度、有用パラメータ、評価関数の収束度合いを示すグラフ(経時変化を示すグラフ)及び距離と評価指標の関係式を示すグラフ等を出力する。
【0079】
図2は、本実施形態に係る評価関数の収束度合いの例を示す図である。図2は、横軸をStep数(評価関数算出回数)、縦軸を評価関数の値とし、Step数が増えるにつれ、評価関数が最小値に収束することを示している。出力部14は、有用パラメータ群を決定する過程で算出された評価関数(値)に基づき、図2に示されるような、評価関数の収束度合いを示すグラフを表示するようにしてもよい。
【0080】
<処理の流れ>
次に、本実施形態に係る情報処理装置によって実行される処理の流れを、フローチャートを用いて説明する。なお、以下に説明するフローチャートに示された処理の具体的な内容及び処理順序は、本開示を実施するための一例である。具体的な処理内容および処理順序は、本開示の実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0081】
図3は、本実施形態に係る有用パラメータの選択処理の流れの概要を示すフローチャートである。本実施形態(第一の実施例)では、補装具が必要な患者(脳卒中片麻痺患者)に、GS(Gait Solution、ゲイトソリューション)とSHB(Shoe Hone Brace、靴べら式短下肢装具)のどちらの装具を処方すべきか(どちらの装具が適するか)を評価するために有用なパラメータを選択することを目的とする。本実施形態に係る有用パラメータの選択処理は、被験者(疾患群、健常群)に対して計測機器9による計測が行われ、計測機器9から出力された各種計測データが情報処理装置1に入力されたことや、ユーザから有用パラメータ選択処理を開始する指示に係るデータが入力されたこと等を契機として実行される。なお、SHBは、プラスチック製の短下肢装具(Ankle-Foot Orthosis、AFO)である。
【0082】
ステップS101では、各種計測機器9から出力された、被験者(健常群、疾患群)についての各種計測データが取得される。例えば、データ取得部11は、反張膝を呈する脳卒中片麻痺患者(疾患群)6名及び健常者(健常群)48名についての、裸足歩行における三次元歩行解析データおよび床反力データを取得する。本実施形態では、踵接地、つま先離地時点における矢状面、前額面、水平面の股関節、膝関節、足関節のオイラー角や一歩行周期から取得可能な時間因子等の運動学的項目である154項目(パラメータ)に係る計測データを取得する。その後、処理はステップS102へ進む。
【0083】
ステップS102では、パラメータ群の最適化回数sの初期値が1に設定される。解析部12(有用パラメータ群抽出部125等)は、有用パラメータ群の決定回数である最適化回数sの初期値を1に設定する。その後、処理はステップS103へ進む。
【0084】
ステップS103では、有用パラメータ群が決定される。解析部12は、候補パラメータ群の選択処理、評価関数算出処理、及び候補パラメータ群の採択判定処理が、評価関数が収束するまで(繰り返し回数が規定回数K回に達するまで)繰り返し行われることにより、目的とする評価項目の評価に有用なパラメータ群を決定(抽出)する。なお、ステップS103において、解析結果記憶部13が、決定された有用パラメータ群及び算出された評価関数の値を記憶するようにしてもよい。また、解析部12(関係式算出部128)は、決定された有用パラメータ群に係るデータに基づき、距離と評価指標の関係式を算出するようにしてもよい。さらに、出力部14は、これらの解析結果を出力装置に出力するようにしてもよい。その後、処理はステップS104へ進む。
【0085】
ステップS104では、最適化回数sが所定の回数Nに達したか否かが判定される。解析部12(有用パラメータ群抽出部125等)は、最適化回数sが、予め設定された所定の回数N(例えば、500回)に達したか否かを判定する。最適化回数sが所定の回数に達していないと判定されると、処理はステップS105へ進む。最適化回数sが所定の回数N回(例えば、500回)に達した(有用パラメータ群がN回(個)算出された)と判定されると、処理はステップS106へ進む。
【0086】
ステップS105では、最適化回数sに1が加算される。解析部12(有用パラメータ群抽出部125等)は、最適化回数sに1を加算する。その後、処理はステップS103へ戻る。
【0087】
ステップS106では、有用パラメータ群に含まれる各パラメータの重要度が決定される。解析部12(重要度決定部127)は、ステップS102~ステップS105の繰り返し処理により取得された複数の有用パラメータ群(例:500個(セット)の有用パラメータ群)に含まれる各パラメータについて、重要度を決定(算出)する。例えば、「麻痺側股関節回旋角(麻痺側踵接地時)」が500回中149回選択された場合、重要度を「29.8%(=149回/500回)」や「1位」等と算出する。なお、重要度決定部127は、検定を行い、有用パラメータを決定するようにしてもよい。重要度決定部127は、重要度の高いパラメータを、目的とする評価項目に対する有用パラメータとして決定する。なお、ステップS106において、解析結果記憶部13が、有用パラメータ群に含まれる各パラメータの重要度等を記憶するようにしてもよい。その後、処理はステップS107へ進む。
【0088】
ステップS107では、解析結果が出力される。出力部14は、解析結果である、有用パラメータ群、有用パラメータ群に含まれるパラメータの重要度、有用パラメータ、評価関数の収束度合いを示すグラフ(経時変化を示すグラフ)及び有用パラメータ群に係る距離と評価指標の関係式を示すグラフ等を出力する。その後、本フローチャートに示された処理は終了する。
【0089】
図4は、本実施形態に係るパラメータ群最適化処理の流れの概要を示すフローチャートである。本実施形態に係るパラメータ群最適化処理は、図3におけるステップS102の処理が行われたことを契機として実行される。
【0090】
ステップS1031では、評価関数の算出回数tの初期値が1に設定される。解析部12(評価関数算出部124等)は、評価関数の算出回数tの初期値を1に設定する。その後、処理はステップS1032へ進む。
【0091】
ステップ1032では、候補パラメータ群が選択される。解析部12(候補パラメータ群選択部121)は、ステップS101で取得された計測データに係る複数のパラメータから、所定の個数のパラメータを選択し、当該所定の個数のパラメータからなるパラメータ群を候補パラメータ群x′として決定する。本実施形態では、154個のパラメータから10個のパラメータを選択することで、候補パラメータ群x′を決定する例を示す。
【0092】
なお、候補パラメータ群選択部121は、ステップS1032からステップS1039までの繰り返し処理において、一回目に任意に選択された候補パラメータ群を、推移先パラメータ群x(t)の初期値x(1)として決定する。また、候補パラメータ群選択部121は、ステップS1032からステップS1039までの繰り返し処理において、二回目以降に候補パラメータ群を選択する場合(t回目の候補パラメータ群の選択時)は、推移先パラメータ群として直近(最後)に採択されたパラメータ群(x(t-1))の一部を変更することで候補パラメータ群を決定する。例えば、直近に採択された10個のパラメータ(候補パラメータ群)のうち任意の1個のパラメータ(複数個も可)を他のパラメータに変更したパラメータ群を、新たな候補パラメータ群として決定する。その後、処理はステップS1033へ進む。
【0093】
ステップS1033では、疾患者と健常群との距離が算出される。解析部12(距離算出部122)は、ステップS1032で選択された候補パラメータ群に係る計測データに基づき、健常者の計測データから各疾患患者の測定データがどれだけ離れているか(計測データの差異(ずれ))を、マハラノビス距離として算出する。本実施形態では、距離算出部122は、健常群48名の候補パラメータ群に係る計測データに基づき健常群の平均ベクトルμを算出し、平均ベクトルμ及び6名の疾患患者各々についての候補パラメータ群に係る計測データ(多変数ベクトルx1,・・・,)に基づき、上記式(3)により、各疾患患者についてのマハラノビス距離(D(x),・・・,D(x))を算出する。その後、処理はステップS1034へ進む。
【0094】
ステップS1034では、評価指標の値が取得される。解析部12(評価値取得部123)は、疾患群の各被験者に対して、目的とする評価項目に係る評価が行われることにより、疾患群の各被験者についての評価指標に係るデータを取得し、評価指標(値)を算出する。評価値取得部123は、例えば、疾患者(疾患群)6名について、GS及びSHBそれぞれを装着した状態での歩行を評価したGAIT点数を取得する。本実施形態では、GAIT点数(GAITデータ)として、ビデオ動画に基づきセラピスト等により求められた立脚期項目に関する17項目に係るGAITの得点を取得する。具体的には、各疾患者の患側について、GSを装着した状態での歩行に係るGAIT点数(GS)及びSHBを装着した状態での歩行に係るGAIT点数(SHB)を取得する。なお、GAIT点数は、カメラ動画を解析したセラピスト等により決定されても、コンピューターにより自動計算されてもよい。
【0095】
本実施形態では、GSとSHBのどちらの装具が適するか否かを評価項目として評価するために、「GAIT点数差」が評価指標として使用される。本実施形態では、評価指標(GAIT点数差)Cを以下の式で求める。
【0096】
【0097】
両側(患側、健側)についてのGAIT点数差を評価指標として採用する場合は、患側と健側のGAIT点数を加算した点数について点数差を算出する。GAIT点数は、歩行障害の程度をスコア化したものであり、式(8)より、GAIT点数差(評価指標)が正の値の場合は、GSのGAIT点数が高いため、SHBの方が適合し、GAIT点数差(評価指標)が負の値の場合は、SHBのGAIT点数が高いため、GSの方が適合することを意味する。評価値取得部123は、6名の疾患患者各々について、評価指標(GAIT点数差)C(C~C)を算出(取得)する。なお、評価値取得部123は、各疾患患者についての各装具装着下歩行時のGAIT点数を取得することで、GAIT点数差を算出するが、これに限定されるものではなく、予め算出されたGAIT点数差を他装置等から取得するようにしてもよい。なお、ステップS1033とステップS1034は順不同である。その後、処理はステップS1035へ進む。
【0098】
ステップS1035では、評価関数(値)が算出される。解析部12(評価関数算出部124)は、ステップS1033で算出された距離とステップS1034で取得された評価指標の値に基づき、評価関数を算出する。本実施形態では、評価関数算出部124は、評価関数(距離と評価指標との関係の強さ)として、距離と評価指標の相関係数の絶対値の逆数を算出する。
【0099】
図5は、本実施形態に係る距離と評価指標(GAIT点数差)との関係(最適化前)を示す図である。図5は、横軸を評価指標(GAIT点数差)C、縦軸をマハラノビスの距離Dとし、6名の疾患患者についてのデータ(評価指標の値、距離)を示す。評価関数算出部233は、式(4)により、図5に示された距離Dと評価指標Cの相関係数の絶対値の逆数を算出し、ステップS1032で選択された候補パラメータ群x´に係る評価関数(値)E(x´)として決定する。その後、処理はステップS1036へ進む。
【0100】
ステップS1036では、評価関数算出回数tが2以上(2回目以降)か否か判定される。解析部12(評価関数算出部124等)は、評価関数算出回数tが2以上であるか否かを判定する。評価関数算出回数tが2未満(t=1)である場合は、ステップS1037へ進む。一方、評価関数算出回数tが2以上である場合は、ステップS1038へ進む。
【0101】
ステップS1037では、評価関数算出回数tに1が加算される。解析部12(評価関数算出部124等)は、評価関数算出回数tに1を加算する。その後、処理はステップS1032へ戻る。
【0102】
ステップS1038では、ステップS1032で選択された候補パラメータ群が採択または棄却される。解析部12(採択判定部126)は、候補パラメータ群に係る評価関数の値(E(x´))を収束条件と比較し、式(5)で示された採択確率を用いることで、候補パラメータ群(x´)を、推移先パラメータ群として採択するか棄却するかを判定する。具体的には、候補パラメータ群に係る評価関数の値(E(x´))が、前回採択された候補パラメータ群に係る評価関数の値(E(x(t-1)))以下になるか(ΔE≦0)否かを判定することで、候補パラメータ群の採択/棄却の判定を行う。採択判定部126は、判定を行った結果、採択する場合は、x(t)=x´と決定し、棄却する場合は、x(t)=x(t-1)と決定する。その後、処理はステップS1039へ進む。
【0103】
ステップS1039では、評価関数算出回数tが所定の回数K以上(K回目以降)か否か判定される。解析部12(評価関数算出部124等)は、評価関数算出回数tが所定の回数K(例えば、1000回)以上であるか否かを判定する。なお、ステップS1039において、評価関数の算出回数が所定の回数K以上であるかを判定する代わりに、評価関数が収束したことを判定するようにしてもよい。ステップS1039において、評価関数算出回数tがK未満である場合は、ステップS1037へ戻り、評価関数算出回数tに1が加算された後、再度ステップS1032からステップS1039までの処理が繰り返し行われる。一方、評価関数算出回数tがK以上である場合は、ステップS1040へ進む。
【0104】
ステップS1040では、有用パラメータ群が決定される。解析部12(有用パラメータ群抽出部125)は、評価関数をK回算出した結果、評価関数が最小となる(収束する)候補パラメータ群を、評価項目の評価に有用な有用パラメータ群として決定する。
【0105】
有用パラメータ群抽出部125は、具体的には、最後に(K回目に)推移先パラメータ群として採択された候補パラメータ群x(K)を有用パラメータ群とする。なお、推移先パラメータ群として採択されたK個(組)の候補パラメータ群の確率分布(選択割合)を算出し、最も選択された候補パラメータ群を有用パラメータ群として決定するようにしてもよい。その後、本フローチャートに示された処理は終了する。
【0106】
図6は、本実施形態に係る距離と評価指標(GAIT点数差)との関係(最適化後)を示す図である。図6は、ステップS1040で決定された有用パラメータ群に係る距離と評価指標との関係を示す。図6に示すように、最適化後の距離と評価指標との関係の強さは、図5の場合と比較し高いことが分かる。両者の決定係数を比較すると、図5の場合(最適化前)は、決定係数(相関係数の二乗)が0.0265であり、図6の場合(最適化後)は、決定係数が0.8977であり、最適化後に関係の強さ(相関度)が高くなっていることが分かる。このように、有用パラメータ群を決定することで、距離(特性値)に基づき、評価指標の値(GAIT点数差)を適切に予測することが可能となる。つまり、評価指標の値を適切に予測することが可能となるパラメータ群、すなわち、評価項目の評価に有用なパラメータ群を抽出することが可能となる。
【0107】
なお、本実施形態では、二つの装具に係る適合性の評価について例示したが、三つ以上の装具に係る適合性の評価を行うようにしてもよい。例えば、装具の候補が三つ(装具A~装具C)ある場合は、三つの装具から、二つの装具からなる組み合わせ(装具A-装具B、装具A-装具C、装具B-装具C)を選択し、各組み合わせについて二つの装具間の適合性を評価することにより、三つの装具のうちどの装具が最も適するかを評価することが可能である。
【0108】
上述した方法により、評価関数Eが小さくなる方向には必ずパラメータ群x(t)が推移し、評価関数Eが大きくなる方向にはある確率(採択確率)に従いパラメータ群x(t)が推移するという試行を繰り返すことで、評価関数を最小化させる、評価項目の評価に有用なパラメータ群を求めることが可能となる。より具体的には、本実施形態では、MCMC法を用いることで、評価関数が最小値や極小値となる付近を集中してサンプリングすることで、評価関数が最小となるパラメータ群を抽出することが可能となる。
【0109】
本実施形態に示されたシステムによれば、評価項目の評価対象である第1の集団の各被験者についての特性値(第2の集団からの距離)と前記評価指標との関係が最も強くなる候補パラメータ群を決定(抽出)することにより、ヒトについての計測データの解析における評価項目の評価に有用なパラメータ(群)を抽出することが可能である。例えば、動作分析装置から出力される複数のパラメータ(計測データ)から、評価項目の評価を行う際に注目すべきパラメータ(評価項目に影響を与える(有用な)パラメータ)を抽出可能となる。このように、有用パラメータ群(有用パラメータ)を自動で抽出することができるため、評価に有用なパラメータを抽出するための研究・開発期間を短縮することが可能となるため、臨床的に有用なパラメータを簡便に絞り込むことが可能となる。また、これまで技術者等による歩行解析等により導き出されていた指標(パラメータ)以外の有用な指標(パラメータ)を抽出することが可能なため、治療計画等にもたらす新たな知見を得ることが可能である。
【0110】
また、従来では、例えば、各装具装着下で三次元歩行解析を行うことにより、どちらの装具を処方すべきか決定することができるものの、それぞれの装具がどのような症候に対して有効であるかは判別できなかった。一方、本実施形態に示されたシステムによれば、評価項目の評価に有用なパラメータ(群)を抽出可能であるため、例えば外旋歩行を呈する患者はSHBが適する等、治療法等(装具等)がどのような症候を呈する患者に有効かどうかを判別することができる。このようにMCMC法による有用パラメータ群(有用パラメータ)の抽出により、人間をサポートする知的システム(知能増幅器)を構築することが可能となる。
【0111】
また、本実施形態に示されたシステムによる解析結果(有用パラメータの抽出結果)を観察による歩行分析に応用することが可能である。例えば、上述した方法により、外旋歩行を呈する患者の場合は、GSと比較してSHBの方が適することが分かるため、三次元歩行解析が行えない施設においても、観察による歩行分析により、患者が外旋歩行を呈していると判断された場合、GSでなくSHBを処方するという治療法の選択が可能である。
【0112】
また、本実施形態に示されたシステムによれば、MCMC法を用いてパラメータ群の最適化を行うため、評価関数の偽最小点ではなく正しい最小点に到達する可能性が高く、ロバスト性の高い最適化を行うことが可能となる。また、例えば、ランダムサンプリングを行う場合、データ数やパラメータの次元が大きくなると、計算時間が膨大となり、最適化処理が困難となる場合(次元の呪い)がある。一方、本実施形態に示されたシステムによれば、MCMC法を用いた最適化を行うことで、極値付近を重点的にサンプリング可能となり、最適化処理を効率良く行うことが可能となる。
【0113】
さらに、本実施形態に示されたシステムによれば、三次元歩行解析のみならず、リハビリテーション医療機器におけるデータ解析を行う際に生じるパラメータの次元圧縮において有用であり、評価関数や対象の被験者を変えることで、目的する評価項目に対する有用パラメータ群(有用パラメータ)を探すために汎用的に用いることが可能である。
【0114】
ここで、ステップS103において算出された関係式を用いることで、評価を行いたい被験者(患者)についての評価項目に係る評価指標の値を取得する方法を説明する。
【0115】
図7は、本実施形態に係る、有用パラメータ群に係る距離と評価指標との関係式の例を示す図である。図7に示されるように、関係式算出部128により、有用パラメータ群に係るマハラノビスの距離と評価指標(GAIT点数差)との関係式(回帰式)が、y=0.5789x+21と算出される。この算出された関係式(相関グラフ)を用いて、評価項目を評価したい患者に対する評価指標の値を取得することができ、取得した評価指標の値に基づき当該患者に対して適切な指導や治療を行うことが可能になる。
【0116】
具体的には、評価したい患者等(評価対象者)についての有用パラメータ群に係る計測データを取得し、取得した計測データに基づき、比較集団(第2の集団)とのマハラノビスの距離を算出する。この算出された距離を、関係式(y=0.5789x+21)のyに入力することで、当該評価対象者についての評価指標の値(x)を求めることができる。例えば、図7において、算出された距離が23である場合、関係式により、評価指標(GAIT点数差)は3と算出され、当該評価対象者に対してはGSよりSHBの方が適合すると予測することが可能となる。一方、算出された距離が20である場合、関係式により、評価指標(GAIT点数差)は-1.5と算出され、当該評価対象者に対してはSHBよりGSの方が適合すると予測することが可能となる。
【0117】
以下、評価項目に応じた三つの実施例について説明する。各実施例では、評価項目及び評価指標について説明し、決定された有用パラメータ群に含まれるパラメータの有効性(妥当性)について確認した結果を記述する。なお、本発明に係る評価項目については、下記に挙げる三つの実施例に限定するものではなく、任意に選択可能である。
【0118】
<第一の実施例(装具の適合性)>
第一の実施例では、図3図4のフローチャートでも例示した、脳卒中片麻痺患者にGSとSHBのどちらの装具が適するか(装具の適合性)を評価項目として評価したい場合について例示する。この場合、上述の通り、評価項目に係る評価指標には「GAIT点数差」を使用する。
【0119】
図8は、第一の実施例に係る、有用パラメータ群の一例を示す図である。二つの装具の適合性を評価するために有用なパラメータ群として、図8に示されるような、所定個数(例:10個)のパラメータからなるパラメータ群が抽出される。なお、図3のフローチャートに基づき、有用パラメータ群はN回(N組)決定される。
【0120】
図9は、第一の実施例に係る、有用パラメータ群に含まれる各パラメータの重要度を示す図である。N組の有用パラメータ群に含まれる各パラメータについて、当該パラメータが有用パラメータ群として選択された割合(選択割合)や当該割合に基づく順位が重要度として算出される。図9に示されるように、有用パラメータ群に含まれるパラメータのうち、「麻痺側股関節回旋角(麻痺側踵接地(HC)時)」の選択割合が29.8%、「麻痺側足関節底背屈(麻痺側HC時)」の選択割合が18.0%等と、各パラメータについての重要度が算出される。なお、図9に示されるように、例えば、選択割合が高い上位5位までのパラメータのみが出力され、6位以下については出力しない、等と設定することも可能である。
【0121】
ここで、図9に示される通り、本実施例では、「麻痺側股関節回旋角(麻痺側HC時)」の選択割合が29.8%と、有用パラメータ群に含まれる一パラメータとして最も多く選択されている。これより、重要度決定部127により、「麻痺側股関節回旋角(麻痺側HC時)」は、患者(脳卒中片麻痺患者)に対してGSとSHBのどちらの装具を処方すべきか(適合するか)を評価するために有用なパラメータであると推定(決定)される。ここで、「麻痺側股関節回旋角(麻痺側HC時)」が、評価指標であるGAIT点数差と相関関係があるか否か確認する。
【0122】
図10は、麻痺側股関節回旋角(麻痺側HC時)と評価指標(GAIT点数差)との関係を示す図である。図10は、横軸を評価指標(GAIT点数差)、縦軸を麻痺側股関節回旋角(麻痺側HC時)とし、6名の疾患患者についてのデータ(評価指標の値、麻痺側股関節回旋角(麻痺側HC時))を示す。麻痺側股関節回旋角(麻痺側HC時)と評価指標(GAIT点数差)の相関係数は0.8827であり、最も出現回数の多いパラメータである「麻痺側股関節回旋角(麻痺側HC時)」は、単体でも、装具選択に係る評価指標と強い相関を示すことが確認された。このように、実際に被験者の歩行データやGAITでの評価を確認すると、外旋歩行をきたす症例では、SHB装着時の方がより歩容の改善が見られた。これは、底屈制限による荷重応答期の過度な膝関節前方移動が起こりにくく、立脚後期の膝関節過伸展が背屈制限により生じにくいことが影響していると考えられる。
【0123】
以上より、有用パラメータ群に含まれるパラメータのうち、最も重要度が高いと判定された「麻痺側股関節回旋角(麻痺側HC時)」は、評価項目である装具の適合性(装具選択)を評価するために有用なパラメータであることが確認された。これより、例えば、図10に示されるように、麻痺側股関節回旋角(麻痺側HC時)が正の値を示す(外旋歩行を呈する)患者には、SHBを推奨することが有効である、と判断すること等が可能となる。
【0124】
<第二の実施例(ロボット治療効果)>
第二の実施例では、脳血管障害者に対する足関節ロボットを用いた歩行練習(ロボット治療)により効果が得られるか否か(ロボット治療効果)を評価項目として評価したい場合について例示する。この場合、評価項目に係る評価指標に、「麻痺肢推進力の改善率」を使用する。
【0125】
本実施例では、データ取得部11は、脳血管障害者(疾患群)9名(ロボット治療前)及び健常者(健常群)68名についての、三次元歩行解析データ及び床反力データを取得する。なお、本実施例では、踵接地、つま先離地時点における矢状面、前額面、水平面の股関節、膝関節、足関節のオイラー角や一歩行周期から取得可能な時間因子等の153項目(パラメータ)に係る計測データを取得する。また、本実施例では、疾患群の各被験者に対して足関節ロボットを用いた歩行訓練が一か月(計15回)行われる。歩行訓練の結果、評価値取得部123は、評価指標として、疾患者(疾患群)9名について、ロボット治療前の通常歩行に対して、ロボット治療一か月後の通常歩行における麻痺肢推進力がどの程度改善したか(麻痺肢推進力改善率)を取得する。なお、推進力は、床反力データにおける有効歩一歩の前後成分(前後分力)において、正の部分の積分値を算出し、被験者の体重で除算したもの(正規化を行ったもの)の、全歩数の平均値により算出した。評価指標(推進力改善率)Cは、以下の通り求められる。以下の式で、「治療」は、「足関節ロボット治療(足関節ロボットを用いた歩行練習)」を表す。
【0126】
【0127】
図11は、第二の実施例に係る距離と評価指標(推進力改善率)との関係(最適化前)を示す図である。図11は、横軸を評価指標(推進力改善率)C、縦軸をマハラノビスの距離Dとし、9名の疾患患者についてのデータ(評価指標の値、距離)を示している。本実施例においても、図11に示された距離Dと評価指標Cの相関係数の絶対値の逆数を評価関数として算出し、評価関数が最小となるようパラメータ群の最適化が行われる。
【0128】
図12は、第二の実施例に係る距離と評価指標(推進力改善率)との関係(最適化後)を示す図である。図12は、ステップS1040で決定された有用パラメータ群に係る距離と評価指標との関係を示す。図12に示すように、最適化後の距離と評価指標との関係の強さは、図11の場合と比較し高いことが分かる。両者の決定係数を比較すると、図11の場合(最適化前)は、決定係数が0.0011であり、図12の場合(最適化後)は、決定係数が0.8411であり、最適化後に相関度が高くなっていることが分かる。
【0129】
図13は、第二の実施例に係る、有用パラメータ群の一例を示す図である。足関節ロボットを用いた歩行練習による効果を評価するために有用なパラメータ群として、図13に示されるような、所定個数(例:10個)のパラメータからなるパラメータ群が抽出される。なお、図3のフローチャートに基づき、有用パラメータ群はN回(N組)決定される。
【0130】
図14は、第二の実施例に係る、有用パラメータ群に含まれる各パラメータの重要度を示す図である。図14に示されるように、有用パラメータ群に含まれるパラメータのうち、「非麻痺側膝関節回旋角(麻痺側HC時)」の選択割合が39%、「非麻痺側膝関節回旋角左右差(HC時)」の選択割合が20%等と、各パラメータについての重要度が算出される。
【0131】
ここで、図14に示される通り、本実施例では、「非麻痺側膝関節回旋角(麻痺側HC時)」の選択割合が39%と、有用パラメータ群に含まれる一パラメータとして最も多く選択されている。これより、重要度決定部127により、「非麻痺側膝関節回旋角(麻痺側HC時)」は、患者(脳血管障害者)が足関節ロボットによる歩行練習により歩容改善効果が得られるかを評価するために有用なパラメータであると推定(決定)される。ここで、「非麻痺側膝関節回旋角(麻痺側HC時)」が、評価指標である推進力改善率と相関関係があるか否か確認する。
【0132】
図15は、非麻痺側膝関節回旋角(麻痺側HC時)と評価指標(推進力改善率)との関係を示す図である。図15は、横軸を評価指標(推進力改善率)、縦軸を非麻痺側膝関節回旋角(麻痺側HC時)とし、9名の疾患患者についてのデータ(評価指標の値、非麻痺側膝関節回旋角(麻痺側HC時))を示す。非麻痺側膝関節回旋角(麻痺側HC時)と評価指標(推進力改善率)の相関係数は0.786であり、最も出現回数の多いパラメータである「非麻痺側膝関節回旋角(麻痺側HC時)」は、単体でも、足関節ロボット治療効果に係る評価指標と強い相関を示すことが確認された。このように、実データを確認すると、非麻痺側膝関節回旋角(麻痺側HC時)が適切であると、麻痺側の推進力が改善されることが分かった。これは、非麻痺肢による力制御によって麻痺肢の荷重応答期が管理されていると、麻痺側の推進力改善が困難になることが影響していると考えられる。
【0133】
以上より、有用パラメータ群に含まれるパラメータのうち、最も重要度が高いと判定された「非麻痺側膝関節回旋角(麻痺側HC時)」は、評価項目である足関節ロボットによる歩行訓練の効果(ロボット治療効果)を評価するために有用なパラメータであることが確認された。これより、例えば、図15に示されるように、「非麻痺側膝関節回旋角(麻痺側HC時)」が約8度以上(屈曲する方向)である場合は、足関節ロボット治療を行うと推進力改善が見込まれ、8度未満である患者は、足関節ロボット治療を行っても推進力改善が見込まれないと判断すること等が可能である。
【0134】
<第三の実施例(WB歩行指導の効果)>
第三の実施例では、肥満患者がWB歩行を行うことで外部膝関節内転モーメントを減少させることができるか否か(WB歩行指導の効果)を評価項目として評価したい場合について例示する。この場合、評価項目に係る評価指標に、「膝関節前額面モーメント第一極大値(以下、「外部膝関節内転モーメント」と称する)についての、通常歩行時に対するWB歩行時での減少率」を使用する。
【0135】
本実施例では、データ取得部11は、肥満患者(第1の集団)21名及び健常者(第2の集団)68名についての、三次元歩行解析データ及び床反力データを取得する。なお、本実施例では、踵接地、つま先離地時点における矢状面、前額面、水平面の股関節、膝関節、足関節のオイラー角や一歩行周期から取得可能な時間因子等の40項目(パラメータ)に係る計測データを取得する。また、本実施例では、評価値取得部123は、評価指標として、肥満患者(第1の集団)21名について、通常歩行に対してWB歩行における外部膝関節内転モーメントがどの程度減少したか(モーメント減少率)を取得する。なお、外部膝関節内転モーメントは、重心へ向かう床反力投影線と膝関節の位置関係によって決定されるものであり、本実施例では、立脚中期のピーク値(膝関節前額面モーメント第一極大値)について、通常歩行時とWB歩行時との比較(減少率の算出)を行う。なお、立脚中期のピーク値は、膝関節内反ストレスの指標として一般的に用いられる指標である。評価指標(モーメント減少率)Cは、以下の通り求められる。以下の式で、「モーメント」は、「膝関節前額面モーメント第一極大値」を表す。
【0136】
【0137】
図16は、第三の実施例に係る距離と評価指標(外部膝関節内転モーメント減少率)との関係(最適化後)を示す図であり、横軸を評価指標(外部膝関節内転モーメント減少率)C、縦軸をマハラノビスの距離Dとし、21名の肥満患者についてのデータ(評価指標の値、距離)を示す。図16は、ステップS1040で決定された、評価関数(距離Dと評価指標Cの相関係数の絶対値の逆数)が最小となる有用パラメータ群に係る距離と評価指標との関係を示す。図16に示されるパラメータ群最適化後の距離と評価指標との決定係数は0.5145であり、距離と評価指標との相関がみられる。
【0138】
図17は、第三の実施例に係る、有用パラメータ群の一例を示す図である。WB歩行指導の効果を評価するために有用なパラメータ群として、図17に示されるような、所定個数(例:4個)のパラメータからなるパラメータ群が抽出される。なお、図3のフローチャートに基づき、有用パラメータ群はN回(N組)決定される。
【0139】
図18は、第三の実施例に係る、有用パラメータ群に含まれる各パラメータの重要度を示す図である。図18に示されるように、有用パラメータ群に含まれるパラメータのうち、「股関節外転角(HC時)」の選択割合が72%、「体幹屈曲角(HC時)」の選択割合が47%等と、各パラメータについての重要度が算出される。
【0140】
ここで、図18に示される通り、本実施例では、「股関節外転角(HC時)」の選択割合が72%と、有用パラメータ群に含まれる一パラメータとして最も多く選択されている。これより、重要度決定部127により、「股関節外転角(HC時)」は、肥満患者がWB歩行により歩容改善効果が得られるかを評価するために有用なパラメータであると推定(決定)される。ここで、「股関節外転角(HC時)」が、評価指標である外部膝関節内転モーメント減少率と相関関係があるか否か確認する。
【0141】
図19は、股関節外転角(HC時)と評価指標(外部膝関節内転モーメント減少率)との関係を示す図である。図19は、横軸を評価指標(外部膝関節内転モーメント減少率)、縦軸を股関節外転角(HC時)とし、21名の肥満患者についてのデータ(評価指標の値、股関節外転角(HC時))を示す。股関節外転角(HC時)と評価指標(外部膝関節内転モーメント減少率)の相関係数は0.616であり、最も出現回数の多いパラメータである「股関節外転角(HC時)」は、単体でも、WB歩行指導の効果に係る評価指標と相関がみられることが確認された。
【0142】
以上より、有用パラメータ群に含まれるパラメータのうち、最も重要度が高いと判定された「股関節外転角(HC時)」は、評価項目であるWB歩行指導の効果を評価するために有用なパラメータであることが確認された。例えば、股関節外転位で踵接地している肥満患者には、歩隔拡大(WB歩行)を指示(指導)することで、外部膝関節内転モーメントを減少させることが出来る、等と判断することが可能となる。
【0143】
<他の実施形態1>
図20を参照しつつ、本発明の他の実施形態について説明する。計測データの解析における評価項目の評価に有用なパラメータを取得する装置及び方法について説明してきたが、当該装置の解析部に入力されるパラメータの数、すなわち、候補パラメータ群(有用パラメータ群)を構成するパラメータの個数はハイパーパラメータである。有用パラメータを決定するにあたり、1つの態様では、パラメータ群を構成するパラメータの個数はハイパーパラメータとして適切な個数が事前に与えられるが、本実施形態では、複数の異なるパラメータ個数を用いて得られた有用パラメータを用いて解析を行う。本明細書において、マハラノビス距離を用いた最適化手法における候補パラメータ群を構成するパラメータの個数を「マハラノビス次元」と称する。本実施形態では、マハラノビス次元を変えて有用パラメータを決定する時に、各マハラノビス次元において決定される有用パラメータ群は、マハラノビス次元によって変化し得ることに着目した。マハラノビス次元を変化させることにより得られた有用パラメータに基づく解析は以下に述べるように有用である。また、本実施形態に係る実験では、後述するように、歩行速度を評価指標として用いた。図20に示す実施形態において、パラメータの最適化計算に入力されるパラメータの数(マハラノビス次元)を変化させる点を除き、基本的な構成は記述の実施形態と同様であり、既述の記載を適宜援用することができる。
【0144】
本実施形態に係る情報処理装置の解析手段は、有用パラメータ群を構成するパラメータの個数の設定手段を備え、設定されたパラメータ個数に基づいて、パラメータの最適化計算が実行される。パラメータ個数設定手段においてパラメータの個数が可変であり、パラメータ個数設定手段は、マハラノビス次元を少ない次元から順次増加させながらパラメータ個数を設定して、マハラノビス次元毎にパラメータ最適化計算をN回試行することで、それぞれのマハラノビス次元に対応したN組(セット)の有用パラメータ群を取得する。例えば、マハラノビス次元毎に500回の最適化計算が試行される場合には、マハラノビス次元毎に500組の有用パラメータ群が取得される。取得された有用パラメータ群の組は、マハラノビス次元に紐付けられて記憶部に記憶される。なお、本実施形態では、パラメータ個数(マハラノビス次元)を1、2、3・・・と連続的に増加させながら変化させているが、これには限定されず、例えば、全体あるいは部分的に1つ置きに増加させてもよく、あるいは、例えば10から連続的に減少させながら変化させてもよく、また、所定の範囲内でランダムに変化させてもよい(例えば、2→4→3→5、・・)。
【0145】
本実施形態に係る情報処理装置の解析手段は、有用パラメータの選択確率計算手段を備えており、有用パラメータの選択確率計算手段によって、マハラノビス次元(設定されたパラメータ個数)毎に、それぞれの有用パラメータの選択確率が取得され、記憶部に記憶される。有用パラメータの選択確率は、「選択回数÷(試行回数×マハラノビス次元)」で計算することができる。すなわち、既述のパラメータ決定方法を用いて、ハイパーパラメータであるマハラノビス次元を変化させながら有用パラメータを決定し、各有用パラメータの選択確率を計算する。計算結果を表1に例示する。
【表1】
表1は、条件(患者名:脳卒中片麻痺、評価値(評価指標):歩行速度)について、マハラノビス次元を1~10まで順次変化させたときに、各マハラノビス次元において決定された複数の有用パラメータ及び各パラメータの選択確率を示している。表1において、濃度が高い部分は各マハラノビス次元において選択確率の高いパラメータを示している。マハラノビス次元が小さいときに選ばれていたパラメータが、次元を高くするにしたがって選ばれなくなっていくと同時に、別のパラメータが選ばれるようになっていくことが観測される。そして、マハラノビス次元をある程度の次元まで増やしていくと、選ばれるパラメータが概ね固定されてくることが観測される。1つの態様では、このパラメータが固定され始めるマハラノビス次元を利用するべきハイパーパラメータとして採用する。なお、適切なマハラノビス次元は、評価指標等の条件によって異なり得るものである点に留意されたい。
【0146】
表1において、選択された有用パラメータを見ると、マハラノビス次元が「1~3」の場合と「4~」の場合の2つに分類することができる。マハラノビス次元「1~3」までは各パラメータの選択確率は単調増加と単調減少となっている。マハラノビス次元「4~」においては、選択確率が大きく増えるパラメータが現れる。現象を説明するのに必要な次元が小さく、必要なパラメータが出そろうマハラノビス次元「4」が最も良いパラメータであると推定される。
【0147】
<他の実施形態1―1:情報量基準に基づいたマハラノビス次元の決定>
1つの態様では、適切なマハラノビス次元を、選択確率を用いて求められた情報量基準に基づいて決定する。情報量基準としては幾つかの基準が知られており、限定されないものの、例えば、AIC(赤池情報量基準)やBIC(ベイズ情報量基準)によって情報量基準を計算し、情報量基準に基づいて適切なハイパーパラメータの次元を決定する。AICやBICの計算については、当業者によく知られているので、さらなる説明は省略する。但し、本実施形態では、必ずしも情報量基準の値が最小のモデルが最適となるわけではなく、得られた値の用い方に留意する必要がある。実際の計算例を図21に示す。図21において、単純にAICやBICの数値だけを見ると、最小値はマハラノビス次元「1」となるが、1変数ではパラメータ間の関係が見られないことと、マハラノビス次元が「4」もしくは「5」の時の値でグラフの傾きが変化しており、「4」よりも小さい時に比べ、「5」以上ではなだらかになっていることから、マハラノビス次元「4」もしくは「5」を選択するのが適切であると判定し得る。例えば、変曲点として「4」を選択し、あるいは、極小点として「5」を選択する。情報量基準に基づいてこのような点(変曲点や極小点)を選択するようなプログラムを設計することで、自動的に適切なマハラノビス次元を決定することができ、決定されたマハラノビス次元に基づいて得られた有用パラメータを用いて解析を行うことができる。
【0148】
<他の実施形態1―2:マハラノビス次元毎の選択確率の変化に基づく関連するパラメータの推定>
マハラノビス次元を変化させながら、マハラノビス次元毎に有用パラメータ群の組を取得していき、マハラノビス次元における各有用パラメータの選択確率を計算すると、マハラノビス次元の変化に伴い選択確率が減少していくパラメータがあり、これと同時に選択確率が増えていくパラメータが観測される。このことは次のように解釈し得る。あるパラメータ(パラメータ1)の決定に対して、2つ以上の別のパラメータ(パラメータ2とパラメータ3の組み合わせ)が関与していることがある。そして、複数のパラメータ(パラメータ2とパラメータ3の組み合わせ)が組み合わさることによって、パラメータ1に相当する部分をよく説明できると考えられる。例えば、表1に示す例では、マハラノビス次元が1→2に変化すると、11のパラメータが大きく減少し、2、10、12が増加している。これは、11のパラメータを2、10、12で説明し得ることを示している。すなわち、表1の場合には、パラメータ1に相当するのがTO時の矢状面膝関節モーメントの健側と患側の差であり、パラメータ2・・・に相当するのが患側HC時の患側矢状面股関節角度、HC時の足関節の内外旋角度の健側と患側の差、TO時矢状面膝関節角度の健側と患側の差である。
【0149】
上記の観測結果は、多数のパラメータにおいて、あるパラメータ(パラメータ1)を説明する複数パラメータの組み合わせ(パラメータ2とパラメータ3)の候補を選び出すための手法に用いることが可能である。ハイパーパラメータであるマハラノビス次元を変化させながら有用パラメータ群を取得して各パラメータの選択確率を計算し、あるパラメータ(パラメータ1)を説明する複数パラメータの組み合わせ(パラメータ2とパラメータ3・・・・)の候補を選び出すことによって、多数のパラメータ(例えば、200個)から互いに関連し得るパラメータの組み合わせの当たりをつけて、パラメータを絞って解析を行うことが可能となる。1つの態様では、パラメータを絞った後の関連し得るパラメータの解析は、特定のマハラノビス次元で取得された有用パラメータ群に基づいて行われる。この時、特定のマハラノビス次元の決定は、上述のように、情報量基準に基づいて決定してもよく、あるいは、任意に選択された適切なマハラノビス次元を用いてもよい。
【0150】
<他の実施形態1―3:パラメータ同士の同時出現確率の解析による、互いに関連のあるパラメータの予測解析>
特定のマハラノビス次元において、同一のトライアルで同時に複数のパラメータが有用パラメータとして選択される確率(割合や頻度でもよい)を求めることによって、その評価指標に影響を与える有用パラメータの組み合わせを見出すことができる。適切なハイパーパラメータを選択したうえで、同じトライアルにおいて、2つのパラメータが同時に選択される数(割合)に基づいて、有用パラメータの組み合わせを推定する。表2は、特定のパラメータが選択されたときに同時に別のパラメータが選択された回数をカウントしたものである。各パラメータは数字(ID)によって識別されている。表2において、選択されている有用パラメータは上位のパラメータのみであり、色の濃い部分が互いに関連のあるパラメータを意味している。計算条件は、疾患名:脳卒中片麻痺、評価値(評価指標):歩行速度、マハラノビス次元:10である。実験では、任意に選択された適切なマハラノビス次元「10」を用いているが、マハラノビス次元「10」は例示であり、マハラノビス次元は、上述の情報量基準に基づいて決定してもよく、例えば、マハラノビス次元「4」を用いてもよい。
【表2】
表2において、136番のパラメータと178番のパラメータが同時に選択される回数(割合)が最も高いことが分かる。このことから、136番と178番のパラメータが同時に現れることによって歩行に影響を与えていると解釈することができる。このように、同組の有用パラメータ群において同時に選択される割合(回数ないし頻度)が高い有用パラメータを取得する手段を備えることで、評価指標に影響を与える有用パラメータの組み合わせを見出すことができる。
【0151】
<他の実施形態2>
図22参照しつつ、本発明のさらに他の実施形態について説明する。図22に示すように、被験者グループに属する各被験者の計測データを用いて、選択された評価指標に対する有用パラメータ群を決定し、有用パラメータ群に基づいて有用パラメータ(例えば、上位パラメータ)を取得する。被験者グループを教師無しクラスタリング手法を用いて複数のグループ(クラスタ)、例えば、被験者サブグループ1と被験者サブグループ2に分類する。後述の実験例のように、被験者グループを3つ以上のクラスタに分類してもよい。教師無しクラスタリング手法として、k-means法を例示することができ、また、クラスタリングにおいて、得られた有用パラメータ群に属する上位の有用パラメータを用いることができる。1つの態様では、上位の有用パラメータに対して、k-means法を実行して被験者グループを分類する。各被験者に対して、有用パラメータ群の上位のパラメータに対して、クラスタリング(k-means法など)を行い、類似性の高い被験者にグループ分けをすることで、被験者の評価指標に影響を与える特徴という観点から被験者を分類することができる。本実施形態に係る教師無しクラスタリング手法は限定されないものの、有用パラメータ決定方法を用いて選択された有用パラメータを、被験者グループのクラスタリングに用いることができる。
【0152】
被験者サブグループ1に属する各被験者の計測データを用いて、選択された評価指標に対する第1有用パラメータ群を決定し、第1有用パラメータ群に基づいて有用パラメータ(例えば、上位パラメータ)を取得する。なお、被験者サブグループ1について得られた上位パラメータを用いて、教師無しクラスタリング手法によって、サブグループ1をさらに分類してもよい。
【0153】
被験者サブグループ2に属する各被験者の計測データを用いて、選択された評価指標に対する第2有用パラメータ群を決定し、第2有用パラメータ群に基づいて有用パラメータ(例えば、上位パラメータ)を取得する。なお、被験者サブグループ2について得られた上位パラメータを用いて、教師無しクラスタリング手法によって、サブグループ2をさらに分類してもよい。
【0154】
全被験者グループについて得られた有用パラメータと、被験者サブグループ1について得られた有用パラメータと、被験者サブグループ2について得られた有用パラメータを比較する。例えば、全被験者グループについて得られた有用パラメータと被験者サブグループ1について得られた有用パラメータを比較した時に、異なるパラメータは、被験者全体の集合と、サブグループ1の被験者の違いを表すパラメータであることを意味しており、異なるグループでそれぞれ得られた有用パラメータを比較することによって、ある被験者クラスタに特徴的なパラメータを選択することができる。同様に、被験者サブグループ1について得られた有用パラメータと被験者サブグループ2について得られた有用パラメータを比較することで、各グループにおいて特徴的なパラメータを見出すことが可能である。
【0155】
表3は、表2の条件で得られた有用パラメータに対して各被験者のパラメータ空間に対してクラスタ分析を繰り返し、ある被験者と別の被験者が同じクラスタに選択される割合をカウントしたものである。
【表3】
表3は、ある被験者と別の被験者が同じクラスタに分類される確率を示しており、より具体的には、表2で選択されたパラメータを用いてk-means法でクラスタリング(クラスターサイズ:4)を行い、同じクラスタとして選択される確率を示したものである。表3からID1~ID11が同じクラスタとみなすことができ、また、ID12~ID22をもう1つのクラスタとみなすことができる。なお、ID23とID24も同一クラスタであると思われ、それとは別にID25がクラスタであると考えられる。ここでは、視覚的にクラスタを分類したが、系統図を作成して分類を行うことも可能である。
【0156】
表4は、クラスタリングした各被験者グループにおいて選択された有用パラメータを示す。上のテーブルは、全被験者から得られた有用パラメータを示し、中央のテーブルは、クラスタ1(ID1~ID11)の被験者で得られた有用パラメータを示し、 下のテーブル、クラスタ2(ID12~ID22)の被験者で得られた有用パラメータを示す。
【表4】
【0157】
表5は、各パラメータの選ばれた回数(差の場合は両方にカウント)を示している。
【表5】
クラスタ1では全被験者に比べ、健常脚膝関節が選ばれる傾向にある一方で、疾患脚股関節に関するパラメータが選ばれていないという傾向が観察される。このことから、クラスタ1については、健常脚の膝関節の制御に着目する必要が高く、股関節についての制御の着目の必要性は比較的低いと推定できる。クラスタ2については、左右方向の床反力が多く選ばれている。このクラスタの被験者に対しては、左右方向の制御に着目する必要があるものと推定できる。なお、ここでは、各関節の選択回数の比較から考察を行ったが、健常脚HC、健常脚TO、疾患脚HC、疾患脚TOのタイミングにおける選択回数による解釈を行うことで、歩行周期のどのタイミングが重要であるかについての検討をすることもできる。上記のデータの解釈は、あくまでも今回のデータに対して、統計的なデータ処理から得られた結果に基づいての解釈となっている。本来の学術研究では、これに加えて実際に個別の被験者の動作を見ることで新たな知見(ノイエス)が得ることが可能である。
【符号の説明】
【0158】
1 情報処理装置
11 データ取得部
12 解析部
121 候補パラメータ群選択部
122 距離算出部
123 評価値取得部
124 評価関数算出部
125 有用パラメータ群抽出部
126 採択判定部
127 重要度決定部
128 関係式算出部
13 解析結果記憶部
14 出力部
9 計測機器

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22