(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】マット
(51)【国際特許分類】
A61H 1/02 20060101AFI20221110BHJP
A63B 23/04 20060101ALI20221110BHJP
A63B 71/00 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
A61H1/02 R
A63B23/04 Z
A63B71/00 A
A61H1/02 A
(21)【出願番号】P 2018224386
(22)【出願日】2018-11-30
【審査請求日】2021-11-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.平成30年8月3日に、リハビリテーション颯 宮前(神奈川県川崎市宮前区宮前平1-7-3)にて、岩本拓真及び小島教治が発明したマットの性能試験を行った。
(73)【特許権者】
【識別番号】511192768
【氏名又は名称】株式会社エコ・ワールド
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】岩本 拓真
(72)【発明者】
【氏名】小島 教治
【審査官】山田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第81/02384(WO,A1)
【文献】特開2004-176534(JP,A)
【文献】特開2017-213356(JP,A)
【文献】登録実用新案第3146951(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 1/02
A63B 23/04
A63B 71/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行訓練又は走行訓練用のマットであって、
複数の線状溶融樹脂が絡み合い部分的に熱溶着した網状の編成樹脂構造体からなり、
使用者の進行方向に硬領域と軟領域が交互にそれぞれ複数形成され、
前記硬領域の嵩密度は、前記軟領域の嵩密度よりも大きく、
前記硬領域の幅は、前記軟領域の幅よりも小さく、
前記軟領域の幅は、前記硬領域を挟んで隣り合う一方の前記軟領域と他方の前記軟領域とで異なることを特徴とするマット。
【請求項2】
前記軟領域の幅が三通り以上あることを特徴とする請求項1に記載のマット。
【請求項3】
前記硬領域の幅は、前記軟領域を挟んで隣り合う一方の前記硬領域と他方の前記硬領域とで異なることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のマット。
【請求項4】
前記硬領域の幅が三通り以上あることを特徴とする請求項3に記載のマット。
【請求項5】
前記硬領域の嵩密度は、前記軟領域の嵩密度の1.5倍以上3倍以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のマット。
【請求項6】
厚み方向に二つの層が形成された二層構造であり、
編成樹脂の径又は材質が前記層同士で異なることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のマット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者が歩行又は走行することで運動機能の回復や増進等を図るマットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運動機能の回復や増進等を目的としたマットが提案されている。
例えば、特許文献1には、マットに形成した複数の部屋に水又は空気を風船状に封入し、穴や管を設けて各部屋間を水又は空気が一部流通するようにしたバランスマットが開示されており、このバランスマット上を歩くと身体のバランスが崩れ、それを回復しようとして全身の筋肉を使うために、短時間で効果的な運動となる旨の記載がある。
また、特許文献2には、歩行面となる上面に、2種類以上の異なった色彩に着色されたターゲット模様又は非ターゲット模様を所定の間隔で複数表示し、同一色のターゲット模様を繋ぐルートと、これを隔てる非ターゲット模様との配置関係による歩行難易度を色彩毎に異なるように配置した転倒予防用エクササイズマットが開示されている。
また、特許文献3には、弾力性のあるマット状の本体の内部に、クッション性と反発性を調整するための空気室を設け、マット上で足踏み運動又は歩行運動をした時に発生する空気圧の変動を圧力センサーで測定するランニングマットが開示されている。
また、特許文献4には、多数の合成重合体連続線条の各々に不規則なループを形成させながら相互に交差させ、さらに厚み方向に湾曲させながら円弧状をなした多数の畝状の山部と山部間が窪んだ溝状の谷部を形成して網状のマット面等を形成し、足裏の刺激機能を備えた床敷きマットが開示されている。
また、特許文献5には、ループ状にランダムに絡まり合い部分的に熱溶着する連続線条から構成されるスプリング構造を備える三次元網状構造体でなり、嵩密度0.07~0.4g/cm3の硬部と、該硬部より嵩密度が低く設定される嵩密度0.03~0.2g/cm3の軟部を備え、硬部の体圧3466~12532Pa、軟部の体圧19999.8~6666.0Paに設定され、硬部が帯状に形成される足踏みマットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-136052号公報
【文献】特開2014-36740号公報
【文献】特開2007-61581号公報
【文献】特開平9-313430号公報
【文献】特開2007-229288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のバランスマットは、風船状の瘤が多数形成されるため、その瘤に躓く可能性があり、特に足を高く上げて歩くことが困難な者には利用しにくい。また、マットの縦横に部屋が並んでおり、使用者の進行方向だけでなく、横方向にもバランスが崩れてしまうため、使用者に与える不安定さが大きくなりすぎてしまう。また、マットに水又は空気が封入されているため、マットが一部でも破損すると、水や空気が破損箇所から漏れてバランスマットとしての機能が大きく損なわれてしまう。また、水を封入する場合は、マットの重量が増え、取扱性が悪化してしまう。
また、特許文献2の転倒予防用エクササイズマットは、使用者に不安定さを与えてバランス機能を高めようとするものではない。また、歩行ルートを視認する必要があるため、視覚に障害がある人は利用することができない。
また、特許文献3のランニングマットは、取得した圧力変動のデータから運動の回数や強さを計算して表示することにより、各個人に適した運動を計画的に実施しようとするものであり、使用者に不安定さを与えてバランス機能を高めようとするものではない。
また、特許文献4の床敷きマットは、心地よく歩行できると共に、足踏み健康器具の機能を兼ね備えたマットを提供しようとするものであり、歩行機能やバランス機能の向上を図るものではない。
また、特許文献5の足踏みマットは、足踏み運動により健康を増進しようとするものであり、歩行機能やバランス機能の向上を図るものではない。
【0005】
そこで本発明は、マット上を歩行又は走行する使用者に対して適度な不安定さを与え、使用者の歩行機能やバランス機能等の回復や増進を図ることができ、かつ、足を上げて歩行することが困難な者も安全に利用できるマットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明のマットは、歩行訓練又は走行訓練用のマットであって、複数の線状溶融樹脂が絡み合い部分的に熱溶着した網状の編成樹脂構造体1Aからなり、使用者の進行方向に硬領域10と軟領域20が交互にそれぞれ複数形成され、前記硬領域10の嵩密度は、前記軟領域20の嵩密度よりも大きく、前記硬領域10の幅Vは、前記軟領域20の幅Wよりも小さく、前記軟領域20の幅Wは、前記硬領域10を挟んで隣り合う一方の前記軟領域20と他方の前記軟領域20とで異なることを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載のマットにおいて、前記軟領域20の幅Wが三通り以上あることを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の本発明は、請求項1又は請求項2に記載のマットにおいて、前記硬領域10の幅Vは、前記軟領域20を挟んで隣り合う一方の前記硬領域10と他方の前記硬領域10とで異なることを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の本発明は、請求項3に記載のマットにおいて、前記硬領域10の幅が三通り以上あることを特徴とする。
【0010】
請求項5記載の本発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のマットにおいて、前記硬領域10の嵩密度は、前記軟領域20の嵩密度の1.5倍以上3倍以下であることを特徴とする。
【0011】
請求項6記載の本発明は、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のマットにおいて、厚み方向に二つの層が形成された二層構造であり、編成樹脂の径又は材質が前記層同士で異なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、硬く狭い硬領域と、柔く広い軟領域が交互に形成され、さらに軟領域の幅が不定であることで、マット上を歩行又は走行する使用者に対して適度な不安定さを与え、使用者の歩行機能やバランス機能等の回復や増進を図ることができる。また、マット表面を平坦に形成することが可能なので、摺り足の使用者も安全に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】本発明の他の実施例によるマットの構成を示す図
【
図3】本発明の更に他の実施例によるマットの構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の第1の実施形態によるマットは、歩行訓練又は走行訓練用のマットであって、複数の線状溶融樹脂が絡み合い部分的に熱溶着した網状の編成樹脂構造体からなり、使用者の進行方向に硬領域と軟領域が交互にそれぞれ複数形成され、硬領域の嵩密度は、軟領域の嵩密度よりも大きく、硬領域の幅は、軟領域の幅よりも小さく、軟領域の幅は、硬領域を挟んで隣り合う一方の軟領域と他方の軟領域とで異なるものである。
本実施形態によれば、硬く狭い硬領域と、柔く広い軟領域が進行方向に向けて交互に形成され、さらに軟領域の幅が不定であることで、マット上を歩行又は走行する使用者に対して適度な不安定さを与え、使用者の歩行機能やバランス機能等の回復や増進を図ることができる。また、マット表面を平坦に形成することが可能なので、摺り足でしか歩けない者や、僅かしか足を上げて歩くことが困難な者であっても安全に利用できる。
【0015】
本発明の第2の実施形態は、第1の実施形態によるマットにおいて、軟領域の幅が三通り以上あるものである。
本実施形態によれば、幅のパターンを増やすことで、マット上を歩く使用者に対して足場の硬さがより一層ランダムに変化する感覚を与えて不安定さを大きくすることができる。
【0016】
本発明の第3の実施形態は、第1又は第2の実施形態によるマットにおいて、硬領域の幅は、軟領域を挟んで隣り合う一方の硬領域と他方の硬領域とで異なるものである。
本実施形態によれば、マット上を歩く使用者に対して足場の硬さがより一層ランダムに変化する感覚を与えて不安定さを大きくすることができる。
【0017】
本発明の第4の実施形態は、第3の実施形態によるマットにおいて、硬領域の幅が三通り以上あるものである。
本実施形態によれば、幅のパターンを増やすことで、マット上を歩く使用者に対して足場の硬さがより一層ランダムに変化する感覚を与えて不安定さを大きくすることができる。
【0018】
本発明の第5の実施形態は、第1から第4のいずれか一つの実施形態によるマットにおいて、硬領域の嵩密度は、軟領域の嵩密度の1.5倍以上3倍以下であるものである。
本実施形態によれば、より適度な不安定さを使用者に与えることができる。
【0019】
本発明の第6の実施形態は、第1から第5のいずれか一つの実施形態によるマットにおいて、厚み方向に二つの層が形成された二層構造であり、編成樹脂の径又は材質が層同士で異なるものである。
本実施形態によれば、一方の層を上にする場合と、他方の層を上にする場合とで不安定さが変わるため、使用者は、自らの状態等に応じて上にする層を使い分けることができる。また、一層の場合とは異なる不安定さを使用者に与えることができる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施例によるマットの構成を示す図であり、
図1(a)は上面図、
図1(b)は正面図である。
直方体のマット1は、複数の線状溶融樹脂が絡み合い部分的に熱溶着した網状の編成樹脂構造体からなる。マット1の縦長さX及び横長さYは、使用場所等に応じて設定する。使用者は、縦長のマット1上を、一端Pから他端Qに向けて、又は他端Qから一端Pに向けて、歩行又は走行する。
【0021】
マット1は、複数の硬領域10と、複数の軟領域20を有する。硬領域10と軟領域20は、一端Pから他端Qにかけて、使用者が歩行又は走行する方向に交互に形成されている。硬領域10及び軟領域20は、上面視で矩形である。
硬領域10は、嵩密度を軟領域20の嵩密度よりも大きくすることにより、軟領域20よりも硬くしている。また、硬領域10の幅Vは、軟領域20の幅Wよりも小さくしている。また、硬領域10の幅Vは、硬領域10同士において差は無く一定としている(例えば6cm)。一方で、軟領域20は、硬領域10を挟んで隣り合う一方の軟領域20と他方の軟領域20とで幅Wを異ならせている。
このように、マット1に、硬く狭い硬領域10と、硬領域10よりも柔く広い軟領域20を進行方向に向けて交互にそれぞれ複数形成し、さらに軟領域20の幅Wを不定にしてマット1上を歩く使用者に対して足場の硬さがランダムに変化する感覚を与えて軟領域20の幅Wが一定の場合よりも不安定さを大きくすることで、マット1上を歩行又は走行する使用者に対して適度な不安定さを与えることができる。不安定な場所を歩行等する使用者は、まっすぐ進もうとして自然にバランスを取るため、筋力やバランス感覚等が鍛えられる。これにより、使用者の歩行機能やバランス機能等の回復や増進を図ることができる。また、マット1は、表面を平坦に形成可能なので、摺り足でしか歩けない者や、僅かしか足を上げて歩くことが困難な者であっても安全に利用できる。また、マット1における硬さの変化は使用者の進行方向のみとし、使用者の横方向(進行方向と直交する方向)には硬さを変化させないことで、使用者に必要以上の不安定さを与えないようにしている。また、硬領域10及び軟領域20は反発力を有するため、筋力の少ない高齢者等であってもスムーズに足を上げることができる。
【0022】
マット1の厚みZは、3cm以上5cm以下とすることが好ましい。厚みZが3cm未満の場合は、踏んだ時の床への底付き感が大きいため使用者に与える不安定さが不足する。また、厚みZが大きいほど使用者に不安定さを与えやすくなるが、5cmを越えると、使用者がマット1への昇降時に床との段差で躓いたり、マット1から足を踏み外した場合に怪我をしたりする可能性がある。なお、一端P及び他端Qに緩やかな傾斜を設け、使用者にマット1への昇降を一端P又は他端Q側から行わせることで、昇降時の使用者の躓きを防止してもよい。
【0023】
硬領域10の嵩密度は、0.15g/cm3以上0.20g/cm3以下の範囲で、軟領域20の嵩密度の1.5倍以上3倍以下とすることが好ましい。これにより、より適度な不安定さを使用者に与えることができる。なお、硬領域10同士間、又は軟領域20同士間で位置ごとに嵩密度を異ならせてもよい。
また、硬領域10の幅V、及び軟領域20の幅Wは、使用者の足の大きさよりも小さいことが好ましい。これにより、使用者の足が硬領域10と軟領域20の両方を同時に踏みやすくなり、使用者に与える不安定さを大きくすることができる。例えば、日本人の大人の足の大きさの平均は、女性で23cm前後、男性で26cm前後なので、マット1の主な使用者が日本人の大人である場合は、硬領域10及び軟領域20を22cm以下とする。
また、硬領域10は、幅Vを3cm以上7cm以下とすることがより好ましい。これにより使用者は、硬領域10を踏んだ時に足裏への刺激を受けやすくなり、いわゆる青竹踏み効果を高めることができる。
【0024】
軟領域20の幅Wは、三通り以上あることが好ましい。幅Wのパターンが増えることで、マット1上を歩く使用者に対して足場の硬さがより一層ランダムに変化する感覚を与えて不安定さを大きくすることができる。
図1に示すマット1では、軟領域20の幅Wを七通りとしている。七通りの幅Wを例えば、「9cm」、「11cm」、「13cm」、「15cm」、「17cm」、「19cm」、「21cm」とすると、一端Pから他端Qにかけて15cm→11cm→19cm→13cm→21cm→9cm→17cmの順に幅Wを変えて軟領域20が配置されている。なお、幅Wは、17cmの後は再度15cmとなり、以降同様のサイクルが繰り返される。
【0025】
図2は、本発明の他の実施例によるマットの構成を示す図であり、
図2(a)は上面図、
図2(b)は正面図である。なお、上記した実施例と同一機能部には同一符号を付して説明を省略する。
本実施例によるマット100は、軟領域20をマット1と同様にして硬領域10を挟んで隣り合う一方の軟領域20と他方の軟領域20とで幅Wを異ならせ、さらに、硬領域10も、軟領域20を挟んで隣り合う一方の硬領域10と他方の硬領域10とで幅Vを異ならせている。このように硬領域10の幅V及び軟領域20の幅Wを不定にすることで、マット100上を歩く使用者に対して足場の硬さがより一層ランダムに変化する感覚を与えて不安定さを大きくすることができる。
硬領域10の幅Vは、三通り以上あることが好ましい。幅Vのパターンが増えることで、マット100上を歩く使用者に対して足場の硬さがより一層ランダムに変化する感覚を与えて不安定さを大きくすることができる。
図2に示すマット100では、硬領域10の幅Vを五通りとしている。五通りの幅Vを例えば、「3cm」、「4cm」、「5cm」、「6cm」、「7cm」とすると、一端Pから他端Qにかけて5cm→3cm→6cm→4cm→7cmの順に幅Vを変えて硬領域10が配置されている。なお、幅Vは、7cmの後は再度5cmとなり、以降同様のサイクルが繰り返される。
【0026】
図3は、本発明の更に他の実施例によるマットの構成を示す図であり、
図3(a)は上面図、
図3(b)は背面図、
図3(c)は正面図である。なお、上記した実施例と同一機能部には同一符号を付して説明を省略する。
本実施例によるマット200は、厚み方向に二つの層が形成された二層構造である。一方の層200Aと他方の層200Bとでは、編成樹脂の径又は材質が異なっており、それにより両者の反発力も異なったものになっている。これにより、一方の層200Aを上にした場合と、他方の層200Bを上にした場合とで歩行等の際の不安定さが変わるため、使用者は、自らの状態等に応じて上にする層を使い分けることができる。また、厚みZが一層の場合と同じであっても、二層にすることで、一層の場合とは異なる不安定さを使用者に与えることができる。
また、一方の層200Aの厚みZ1と他方の層200Bの厚みZ2は、同じである必要はない。それぞれの厚みを変更することで、使用者に与える不安定さを調整することができる。
【0027】
図4は本発明のマットの製造装置の概要図、
図5は同製造装置の線状化部の底面を示す図、
図6は本発明のマットの一部の参考上面斜視写真である。
製造装置30は、溶融樹脂を線状にして流し落とし、線状となった溶融樹脂の集合体を液体に浸漬して冷却することで、多数の樹脂が無秩序に絡まり合い部分的に熱溶着した網状の三次元構造を有した編成樹脂構造体1Aを連続的に形成する。
【0028】
製造装置30は、溶融樹脂を供給する供給部31と、溶融樹脂を線状にする線状化部32と、線状となった溶融樹脂を冷却する冷却用液体が貯留された冷却槽33と、線状化部32から冷却槽33へ向けて流れ落ちる線状の溶融樹脂の集合体が通過するガイダー部34と、集合体が冷却用液体で冷却されることにより形成された編成樹脂構造体1Aを冷却槽33の底面側に引き込む引込部35と、編成樹脂構造体1Aを冷却槽33の外へ送り出す送出部36と、引込部35の引き込み速度を制御する速度制御部37を備える。
【0029】
供給部31は、熱可塑性樹脂を所定温度で溶融混練して溶融樹脂とし、所定の押し出し速度で溶融樹脂を押し出して線状化部32に供給する。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂などを、単独で又は複数混合したものが用いられる。
供給部31は、第一の樹脂を供給する第一樹脂供給部31Aと、第二の樹脂を供給する第二樹脂供給部31Bを有する。編成樹脂構造体1Aを、
図3に示すような二層構造とする場合には、第一樹脂供給部31Aと第二樹脂供給部31Bとで、供給する樹脂の径又は材質を異ならせる。
【0030】
線状化部32は、供給部31から押し出された溶融樹脂を受け入れる受入口を上部に備え、受け入れた溶融樹脂を流出させる流出口を底面に備える。流出口には、複数の小孔32Aが矩形状に配置されている。供給部31から供給された溶融樹脂は小孔32Aから流出することで線状となる。
図5に示すように、線状化部32の内部は、第一樹脂供給部31Aから供給された樹脂が入る第一区画32Cと、第二樹脂供給部31Bから供給された樹脂が入る第二区画32Dとに、仕切板32Bによって区画されている。
図5では、隣接する層同士の樹脂の径が異なる二層構造の編成樹脂構造体1Aを形成するため、第一区画32Cと第二区画32Dとで、小孔32Aの径を異ならせている。
各小孔32Aから流出した線状溶融樹脂は、略矩形状の集合体となって冷却槽33へ向けて流れ落ちる。
【0031】
図4に示すように、ガイダー部34は、線状化部32と冷却槽33との間に配置されている。ガイダー部34は、集合体を厚み方向に圧縮しながら冷却槽33に導く。
ガイダー部34は、集合体のうち編成樹脂構造体1Aの一方の面となる部分と接触する位置に配置された第一傾斜板34Aと、編成樹脂構造体1Aの他方の面となる部分と接触する位置に配置された第二傾斜板34Bを有する。集合体は、第一傾斜板34Aと第二傾斜板34Bの間を通過する。
第一傾斜板34Aと第二傾斜板34Bは向かい合わせに配置されており、両者の間隔は上方から下方にかけて徐々に狭くなっている。上方の間隔は、ガイダー部34に至る前の集合体の厚みよりも大きく、下方の間隔は、ガイダー部34に至る前の集合体の厚みよりも小さい。よって、集合体は、第一傾斜板34Aと第二傾斜板34Bの間を通過した後は、通過前よりも厚みが小さくなる。
また、集合体のうち、第一傾斜板41又は第二傾斜板34Bとの接触により圧縮されながらガイダー部34を通過した部分は、その接触によって表面が均されて冷却槽33へ流入し、第一傾斜板41又は第二傾斜板42と接触せずにガイダー部34を通過した部分は、表面が均されることなくそのまま冷却槽33へ流入する。これにより、集合体が冷却槽33内の液体で冷却されることにより形成された編成樹脂構造体1Aは、上面及び下面(一方の面及び他方の面)が平坦な表面状態となる。
【0032】
冷却槽33内には、引込部35及び送出部36が配置されている。
引込部35は、ガイダー部34を通過した集合体が冷却槽33に流れ落ちる位置に配置されている。引込部35は、編成樹脂構造体1Aの一方の面と接触する一方の回転体35Aと、編成樹脂構造体1Aの他方の面と接触する他方の回転体35Bとからなる一対の回転体を鉛直方向に複数有する。一方の回転体35A及び他方の回転体35Bは円柱状のローラーであり、長手方向が水平となるように配置されている。一方の回転体35Aと他方の回転体35Bとの間隔は、ガイダー部34を通過した集合体の厚みと略同一である。
回転体の回転速度は、速度制御部37によって制御される。速度制御部37は、回転体の回転速度を、所定時間毎に、第一速度と、第一速度よりも速い第二速度に交互に切り替える。編成樹脂構造体1Aのうち、相対的に速度が遅い第一速度で回転する回転体に引き込まれた部分は嵩密度が大きい硬領域10となり、相対的に速度が速い第二速度で回転する回転体に引き込まれた部分は嵩密度が小さい軟領域20となる。このように回転体の回転速度を所定時間毎に変更することで、編成樹脂構造体1Aは疎密構造となり、硬領域10と軟領域20を交互に形成することができる。なお、回転速度を切り替える所定時間は、硬領域10の幅V、及び軟領域20の幅Wの設定値に応じて調整する。
【0033】
送出部36は、傾斜コンベア36Aを有する。傾斜コンベア36Aの下端は引込部35よりも下方に位置する。冷却槽33の底面側に引き込まれた編成樹脂構造体1Aは、傾斜コンベア36Aによって斜め上方に引き揚げられて冷却槽33の外へと送出される。なお、傾斜コンベア36Aの代わりにローラー等の回転体を用いて編成樹脂構造体1Aを引き揚げて冷却槽33の外へ送出することもできる。
【0034】
冷却槽33の外へ送出された編成樹脂構造体1Aは、所定の寸法に裁断処理され、マット1,100,200となる。
図6に示すように、マットの上面には横倒しになった編成樹脂が現れる。なお、マットの下面も同様である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によるマットは、歩行機能及びバランス機能の回復や増進を図ることができ、かつ転倒の危険性が少ないため、歩行リハビリや乳幼児の発育トレーニング等に活用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 マット
1A 編成樹脂構造体
10 硬領域
20 軟領域
100 マット
200 マット
200A 一方の層
200B 他方の層
V 硬領域の幅
W 軟領域の幅