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特許7174408肝線維症のモデル系ならびにその作製および使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】肝線維症のモデル系ならびにその作製および使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20221110BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20221110BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20221110BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
C12N5/071
C12Q1/02
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2018541608
(86)(22)【出願日】2017-02-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-04-18
(86)【国際出願番号】 US2017017158
(87)【国際公開番号】W WO2017139455
(87)【国際公開日】2017-08-17
【審査請求日】2020-02-06
(31)【優先権主張番号】62/293,469
(32)【優先日】2016-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507189574
【氏名又は名称】ウェイク・フォレスト・ユニヴァーシティ・ヘルス・サイエンシズ
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】マリーニ,フランク・シー
(72)【発明者】
【氏名】ソーカー,シェイ
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-532966(JP,A)
【文献】国際公開第2015/005614(WO,A1)
【文献】特表2015-516154(JP,A)
【文献】Biomaterials,2011年,Vol. 32,p. 7042-7052
【文献】J. Hepatobiliary Pancreat. Surg.,2002年,Vol. 9,p. 697-703
【文献】Toxicology Letters,2015年,Vol. 238S,p. S281,P13-020
【文献】Hepatology,1999年,Vol. 29, No. 1,p. 111-125
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00 - 5/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝線維症のためのモデル系であって、前記系が、肝臓細胞外マトリックスと、前記マトリックス上における哺乳動物肝細胞の組合せとを含み、前記組合せが、
(a)肝臓前駆細胞、
(b)クッパー細胞、および
(c)肝星細胞
を含み、前記肝星細胞が、EZH2を発現する活性化肝星細胞および/または筋線維芽細胞を含み、前記マトリックス上における前記哺乳動物肝細胞の組合せが1~4週間インビトロで培養されている、モデル系。
【請求項2】
前記肝臓細胞外マトリックスおよび前記マトリックス上における前記哺乳動物肝細胞の組合せが、スフェロイドの形で提供される、請求項1に記載のモデル系。
【請求項3】
前記組合せが、数で、70パーセントから90パーセントまでの肝臓前駆細胞、5パーセントから20パーセントまでのクッパー細胞、および5パーセントから20パーセントまでの肝星細胞を含む、請求項1または請求項2に記載のモデル系。
【請求項4】
前記肝臓細胞外マトリックスが、脱細胞化肝組織(例えば、脱細胞化肝臓ディスク)を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のモデル系。
【請求項5】
前記系が組織培養皿にて提供される、請求項1~4のいずれか1項に記載のモデル系。
【請求項6】
前記系が、モジュラーおよび/またはマイクロ流体デバイスにて提供される、請求項1~5のいずれか1項に記載のモデル系。
【請求項7】
前記系がインビボに埋め込み可能である、請求項1~6のいずれか1項に記載のモデル系。
【請求項8】
前記肝臓前駆細胞、クッパー細胞、および/または肝星細胞がヒト細胞である、請求項1~7のいずれか1項に記載のモデル系。
【請求項9】
前記肝臓細胞外マトリックスが非ヒト哺乳動物の肝臓細胞外マトリックスである、請求項1~8のいずれか1項に記載のモデル系。
【請求項10】
胆管構造および/またはクラスター化した肝実質細胞のような肝臓構造を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載のモデル系。
【請求項11】
肝線維症を調節することにおける関心対象の作用物質の活性をスクリーニングする方法であって、
(a)請求項1~10のいずれか1項に記載のモデル系を提供するステップ、
(b)前記関心対象の作用物質を前記モデル系に接触させるステップ、
(c)前記モデル系において線維症を測定するステップ、および
(d)線維症が前記接触に応答して増加するか、または減少するかを決定するステップ
を含み、それにより肝線維症を調節することにおける関心対象の作用物質の活性をスクリーニングする、方法。
【請求項12】
前記モデル系が組織培養皿にて提供される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記モデル系が、モジュールおよび/またはマイクロ流体デバイスにて提供される、請求項11または請求項12に記載の方法。
【請求項14】
肝線維症を調節することにおける関心対象の作用物質の活性をスクリーニングする方法であって、
(a)請求項1~10のいずれか1項に記載のモデル系を提供するステップ、
(b)前記関心対象の作用物質を前記モデル系に接触させるステップ、
(c)前記モデル系において線維症を測定するステップ、および
(d)線維症が前記接触に応答して増加するか、または減少するかを決定するステップ
を含み、ここで、前記モデル系が、インビボで非ヒト肝組織上または非ヒト肝組織中に埋め込まれており、それにより肝線維症を調節することにおける関心対象の作用物質の活性をスクリーニングする、方法。
【請求項15】
前記測定ステップが、前記モデル系においてEZH2の活性を測定することを含む、請求項11~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記測定ステップが光学的透明化(例えば、inCITE光学的透明化)および分析を含む、請求項11~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記関心対象の作用物資が、EZH2阻害剤(例えば、GSK-126)、アンジオテンシン1型(AT1)受容体遮断剤(例えば、ロスタチン)、ハロフジノン、リジルオキシダーゼもしくはlox様酵素阻害剤、A2Bアデノシン受容体アンタゴニスト、またはモノクローナル抗体(例えば、GS-6624(シムツズマブ))である、請求項11~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
請求項1~10のいずれか1項に記載のモデル系を作製する方法であって、
(a)前記肝臓細胞外マトリックスを供給するステップと、
(b)前記肝臓前駆細胞、クッパー細胞、および肝星細胞を前記肝臓細胞外マトリックス上に播種するステップと、その後
(c)インビトロで、前記マトリックス上で前記細胞を成長させるステップと
を含み、ここで、前記成長させるステップが、1週間から3週間までの期間にわたり実行され、それにより、肝線維症のための前記モデル系を形成させる、方法。
【請求項19】
線維形成促進性サイトカインまたは化学物質を前記モデル系に投与することにより、前記肝星細胞を活性化するステップをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
この出願は、2016年2月10日に出願された米国仮特許出願第62/293,469号の利益を主張し、その仮出願の開示は、全体として参照により本明細書の一部をなすものとする。
【背景技術】
【0002】
様々な原因による慢性肝傷害が肝線維症を引き起こし得、肝線維症は、肝星細胞(HSC)の活性化、増殖、および肝臓における細胞外マトリックスの進行性蓄積によって特徴づけられる。肝臓の急性線維症は、典型的には、無症候性で可逆性であるが、慢性線維症は、肝臓に永久的損傷を引き起こし得、今日に至るまで唯一の効果的な処置は肝臓移植である。
【0003】
肝線維症のための効果的な処置がまだ得られていないが、疾患および/または毒性に誘発される肝線維症の発生の根底にある機構の研究が進行中である。そのような研究のために細胞株または生存肝切片を用いる細胞培養モデルの使用が報告されている。しかしながら、これらの試験プラットフォームは、本物の肝組織への適切性の深刻な限界および/または生存能の欠如を有する。
【0004】
したがって、肝線維症の向上したモデル系、特に、抗線維化剤のスクリーニングに有用なモデル系が必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
抗線維化活性のための作用物質のスクリーニングに有用であり、肝臓における線維症の機構の研究に有用であるなどの、肝線維症のモデル系が本明細書において提供される。
【0006】
したがって、いくつかの実施形態によれば、肝臓細胞外マトリックス(例えば、脱細胞化肝臓ディスク(decellularized liver disk)などの脱細胞化肝組織)、および前記マトリックス上の哺乳動物肝細胞(例えば、初代肝細胞)の組合せを含む、肝線維症のためのモデル系が本明細書に提供される。いくつかの実施形態において、肝細胞の組合せは、(a)肝臓前駆細胞、(b)クッパー細胞、および(c)肝星細胞を含む。いくつかの実施形態において、その組合せは、数で、70パーセントから90パーセントまでの肝臓前駆細胞、5パーセントから20パーセントまでのクッパー細胞、および5パーセントから20パーセントまでの肝星細胞を含む。
【0007】
いくつかの実施形態において、肝星細胞は、活性化肝星細胞および/または筋線維芽細胞(例えば、EZH2を発現する)である。
【0008】
いくつかの実施形態において、系は、組織培養皿にて提供される。いくつかの実施形態において、系は、モジュラーおよび/またはマイクロ流体デバイスにて提供される。いくつかの実施形態において、系はインビボに埋め込み可能である。
【0009】
肝線維症を調節することにおける関心対象の作用物質の活性をスクリーニングする方法もまた提供され、その方法は、(a)本明細書で教示されているようなモデル系を提供するステップ、(b)前記関心対象の作用物質を前記モデル系に接触させるステップ、(c)前記モデル系において線維症を測定するステップ、および(d)肝線維症を調節することにおける関心対象の作用物質の活性をスクリーニングするために、線維症が前記接触に応答して増加するか、または減少するかを決定するステップとを含み得る。
【0010】
いくつかの実施形態において、前記測定ステップは、モデル系においてEZH2の活性を測定するステップを含む。いくつかの実施形態において、前記測定ステップは、光学的透明化(例えば、inCITE光学的透明化)および分析を含む。
【0011】
いくつかの実施形態において、関心対象の作用物資は、EZH2阻害剤(例えば、GSK-126)、アンジオテンシン1型(AT1)受容体遮断剤(例えば、ロスタチン)、ハロフジノン、リジルオキシダーゼもしくはlox様酵素阻害剤、A2Bアデノシン受容体アンタゴニスト、またはモノクローナル抗体(例えば、GS-6624(シムツズマブ))である。
【0012】
本明細書で教示されているようなモデル系を作製する方法であって、(a)肝臓細胞外マトリックスを供給するステップ、(b)前記肝臓前駆細胞、クッパー細胞、および肝星細胞を前記肝臓細胞外マトリックス上に播種するステップ、ならびに(c)肝線維症のための前記モデル系を形成するために、インビトロで、前記マトリックス上で前記細胞を成長させるステップとを含み得る方法がさらに提供される。
【0013】
いくつかの実施形態において、その方法はさらに、前記モデル系に線維形成促進性サイトカインまたは化学物質を投与することにより前記肝星細胞を活性化するステップを含む。
【0014】
本発明は、本明細書における図面および下に示された明細書においてより詳細に説明されている。本明細書において引用された全ての米国特許参考文献の開示は、全体として本明細書の一部をなすものとする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A-1C】生物工学的肝組織のモデルを示す図である。図1A:肝臓脱細胞過程ならびに重要な肝臓ECM分子の保存を示す、無細胞フェレット肝組織および新鮮な肝組織におけるECMの特徴づけ。図1B:インタクト肝葉モデル:ヒト肝臓前駆体を、無細胞フェレット肝臓ECMへ、特殊バイオリアクターシステムを用いて注入した。3週間の培養後、肝臓前駆体は、CYP3Aおよびアルブミンを発現する機能的肝実質細胞ならびにCK19胆管構造へ分化した。図1C:肝臓オルガノイドモデル:無細胞肝臓ECMから「パンチ」され、かつヒト肝臓前駆体を播種された8mmディスク。3週間後、胆管構造(矢印)および肝実質細胞クラスター(CK18およびアルブミン(Alb))を含有する、直径0.5~2mmのスフェロイドが観察された。Jagged-1、α-SMA、およびビメンチン(Vim)を発現する大量の星細胞が、胆管構造および肝実質細胞構造を取り囲んでいた(バーサイズ=100μm)。
図2A-2C】肝臓オルガノイドの組織成熟を示す図である。図2A:培養での分化1週間および3週間における、LPCの分布および表現型の特徴。細胞を、上皮細胞接着分子(EpCAM)、アルブミン(ALB)、a-フェトプロテイン(AFP)、サイトケラチン19(CK19)、および細胞核(DAPI)について、染色した。図2B:新鮮に単離されたLPC、分化1週間および3週間後の肝臓オルガノイド、ならびに成体肝組織における、肝臓転写因子である、肝実質細胞分化を制御する肝細胞核因子(HNF)4aおよび胆管上皮分化を制御するHNF6の発現のRT-PCR分析。図2C:分化3週間における、培養皿中の肝臓オルガノイドおよびLPCの条件培地におけるアルブミン分泌および尿素濃度の測定。図2D:CK19およびアセチル化a-チューブリン(上部)ならびにEpCAMおよび頂端側ナトリウム依存性胆汁酸輸送体(ASBT)(下部)の発現のための小管構造(ductular structure)の特徴づけ。
図3】埋め込まれた肝臓オルガノイドへのCCl処理の効果を示す図である。肝臓オルガノイドを、マウス肝臓の上部に、8mm生検パンチで彫られた小さい穴を介して挿入し、フィブリン接着剤で固定化した。マウスの一部を、4μl/gのCClで、隔週の皮下注射により処理した。肝臓オルガノイドを1週間および3週間後に採取し、ヒト肝実質細胞(Hep-1)および増殖性細胞(PCNA)について免疫染色した。埋め込み境界線が引かれている。
図4A-4F】LX-2細胞の分析を示す図である。図4A:筋線維芽細胞およびLX-2におけるαSMAおよびPRC2構成要素/マーカーのウェスタンブロット比較。図4B:筋線維芽細胞対LX-2ウェスタンブロットの濃度測定分析。図4C:24時間または48時間、TGFβで処理されたLX-2細胞におけるαSMAおよびPRC2構成要素/マーカーのウェスタンブロット分析。図4D:TGFβ処理されたLX-2の濃度測定分析。図4E:GSK-126(EZH2の化学阻害剤)で処理された間葉系幹細胞から移行した筋線維芽細胞におけるEZH2活性に関するEZH2マーカー(H3K27me3)のウェスタンブロット分析。DMSOは媒体対照である。図4F:EZH2マーカーの濃度測定分析が、GSK-126で処理された場合のEZH2の活性の効果的な減少を実証している。
図5】TGF-βのLX-2細胞への効果のqPCR分析を示す図である。TGF-βで処理されたLX-2細胞の遺伝子発現を探索するために定量PCR分析を実施した。LX-2細胞(P5)は、24時間または48時間、TGF-βで処理された。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は今、本発明の実施形態が示されている添付の図面を参照して、以下、より完全に記載される。しかしながら、この発明は、多くの異なる形で具体化され得、本明細書に示された実施形態に限定されると解釈されるべきではなく、むしろ、これらの実施形態は、この開示が、徹底的かつ完全であり、本発明の範囲を当業者に十分に伝えるように提供される。
【0017】
本明細書に用いられる用語法は、特定の実施形態を記載することのみを目的とし、本発明を限定することを意図するものではない。本明細書に用いられる場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈が明らかに他に指示しない限り、同様に複数形を含むものとする。この明細書に用いられる場合の用語「含む」または「含むこと」は、述べられた特徴、整数、ステップ、操作、要素、成分、および/もしくは群、またはそれらの組合せの存在を特定するが、1つまたは複数の他の特徴、整数、ステップ、操作、要素、成分、および/もしくは群、またはそれらの組合せの存在または追加を排除しない。
【0018】
本明細書に用いられる場合、用語「および/または」は、関連する列挙された項目の、ありとあらゆる可能な組合せまたは1つもしくは複数、加えて、選択肢(「または」)に解釈される場合の組合せの欠如を含む。
【0019】
他に規定がない限り、本明細書に用いられる全ての用語(技術的および科学的用語を含む)は、当業者により一般的に理解されているのと同じ意味をもつ。一般的に用いられる辞書に定義されているものなどの用語は、本明細書および特許請求の範囲の関連におけるそれらの意味と一致する意味をもつと解釈されるべきであり、本明細書において明確にそのように定義されていることがない限り、理想的な、または過度に形式的な感覚で解釈されるべきではない。よく知られた機能または構築物は、簡潔さおよび/または明快さのために詳細には記載されない場合がある。
【0020】
本明細書に用いられる場合、「細胞」は、一般的に、イヌ、ネコ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、マウス、ウサギ、ラット、フェレットの細胞などの哺乳動物細胞である。いくつかの好ましい実施形態において、細胞はヒト細胞である。適切な細胞は公知で、市販されており、および/または公知の技術に従って産生され得る。例えば、米国特許第6,737,270号参照。いくつかの実施形態において、本発明に従って用いられる細胞は、細胞株のもの(例えば、腫瘍細胞、または人工的に不死化され、連続的に成長する細胞集団)とは対照的に、組織から採取され、かつ全く集団倍加されずに、またはごく少数回(例えば、1~3回)、集団倍加して用いられる初代細胞である。
【0021】
「肝臓前駆細胞」は知られており、例えば、米国特許第8,709,800号、第8,278,105号、第9,107,910号、U.S.2010/0003752、U.S.2011/0129439に記載されている。
【0022】
当技術分野において知られているような「クッパー細胞」は、類洞の壁を裏打ちする、肝臓の特殊化したマクロファージである。
【0023】
「肝星細胞」または「HSC」は、肝臓の類洞周囲の空間に見出される細胞である。本明細書に用いられる場合、「活性化」肝星細胞は、EZH2の発現のレベルが増加しており、および/または筋線維芽細胞表現型を示すHSCである。線維性肝臓における活性化HSC/筋線維芽細胞の他のマーカーには、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、線維芽細胞特異的タンパク質(FSP)、α-平滑筋アクチン(α-SMA)、IL-6、TGF-β、コラーゲンI、およびビメンチンが挙げられるが、それらに限定されない。
【0024】
インビボで肝線維症を誘発する方法は知られており、それには、肝実質細胞へ化学的損傷を誘発する四塩化炭素(CCl)の投与、および肝臓内の胆管の閉塞を含む胆管結紮が挙げられるが、それらに限定されない。インビトロで線維症を誘発する方法には、CCl、メトトレキサート、アリルアルコール、アセトアミノフェン、トランスフォーミング成長因子β(TGFβ)、ジメチルニトロサミンなどの線維形成促進性サイトカインまたは化学物質の投与が挙げられ得るが、それらに限定されない。
【0025】
がんの処置における化学療法および放射線治療は、肝毒性処置の最も一般的な型のうちの2つである。がんを処置するために用いられる肝毒性薬物には、アドリアマイシン、メトトレキサート、6メルカプトプリン、カルボプラチン、DTIC(ダカルバジン)、BiCNU、L-アスパラギナーゼ、およびペントスタチンが挙げられるが、それらに限定されない。
【0026】
本明細書で教示されているようなモデル系において肝線維症を誘発するために用いられ得る他の作用物質または薬物には、アセブトロール、アセトアミノフェン、アクチノマイシンd、副腎皮質ステロイド、アドリアマイシン、アロプリノール、アモキシシリン/クラブラン酸、タンパク質同化ステロイド、抗炎症薬、抗甲状腺薬、アスピリン、アテノロール、アザチオプリン、カプトプリル、カルバマゼピン、カルビマゾール、カルムスチン、セファロスポリン類、クロルジアゼポキシド、クロルプロマジン、クロルプロマジン/バルプロ酸、クロルプロパミド、クロルプロパミド/エリスロマイシン(併用)、シメチジン、クロキサシリン フレカイニド、シクロホスファミド、シクロホスファミド/シクロスポリン、シクロスポリン、ダカルバジン、ダナゾール、ダントロレン、ジアゼパム、ジクロフェナク、ジルチアゼム、ジソピラミド、エナラプリル、エンフルラン、エリスロマイシン、エタンブトール、エチオナミド、フルラゼパム、フルタミド、グリブリド、金、グリセオフルビン、ハロペリドール、ハロタン、ヒドララジン、イブプロフェン、イミプラミン、インドメタシン、イソニアジド、ケトコナゾール、ラベタロール、マプロチリン、メルカプトプリン、メトトレキサート、メチルドパ、メチルテストステロン、メトプロロール、ミアンセリン、マイトマイシン、ナプロキセン、ニコチン酸、ニフェジピン、ニトロフラントイン、非ステロイド系、ノルエタンドロロン、経口避妊薬、オキサシリン、パラアミノサリチル酸、ペニシラミン、ペニシリン、ペニシリン類、フェネルジン、フェニンジオン、フェノバルビタール、フェノチアジン、フェニルブタゾン、フェニロイン(phenyloin)、フェニロイン トロレアンドマイシン、ピロキシカム、プロベネシド、プロカインアミド、プロポキシフェン、ピラジンアミド、キニジン、キニーネ、ラニチジン、サリシラート類、スルホンアミド類、スリンダク、タモキシフェン、テルビナフィンHCl(Lamisil、Sporanox)、テストステロン、テトラサイクリン類、チアベンダゾール、チオクアニン(thioquanine)、トロトラスト、トルブタミド、三環系抗うつ薬、バルプロ酸、ベラパミル、ビンクリスチン、およびビタミンAが挙げられ得るが、それらに限定されない。Belardinelliらの米国特許第8,609,671号参照。
【0027】
肝線維症をモニターし、または検出するための方法には、組織学的検査および/またはEZH2などのある特定のマーカーの発現を測定することが挙げられ得るが、それらに限定されない。測定され得る肝線維症に関する他のマーカーは、Hsiehらの米国特許第7,972,785号に提供されている。
【0028】
「EZH2」または「zesteホモログ2のエンハンサー」は、メチルトランスフェラーゼであり、活性化HSCにおけるポリコーム抑制複合体(PRC)の構成要素である。EZH2は、いくつかのがんの増殖に関与し、したがって、EZH2阻害剤は、がん治療用として研究中である。
【0029】
肝線維症を調節することにおける関心対象の作用物質には、EZH2阻害剤、およびクロマチン修飾酵素の他の阻害剤(例えば、GSK-126、3-デアザネプラノシンA(DZNep)、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)、MC1948、MC1945など)が挙げられ得るが、それらに限定されない。EZH2の阻害剤は知られており、多くは、そのタンパク質のSETドメイン活性部位を標的にする。例えば、本明細書に参照により組み入れられている、PCT/US2011/035336、PCT/US2011/035340、およびPCT/US2011/035344を参照されたい。
【0030】
関心対象の他の作用物質には、アンジオテンシン1型(AT1)受容体遮断薬(例えば、ロスタチン);ハロフジノンなどのコラーゲン阻害剤(米国特許第8,668,703号参照);リジルオキシダーゼまたはlox様酵素阻害剤;モノクローナル抗体(例えば、GS-6624);Leiらの米国特許第8,957,019号に見出されるものなどのオリゴペプチド;YangのUS2010/0113596に見出されるものなどのレチノイン酸誘導体;3-n-プロピルキサンチン(エンプロフィリン)、1,3-ジプロピル-8-(p-アクリリック)フェニルキサンチン、またはKallaらの米国特許第6,825,349号、Belardinelliらの第8,609,671号に見出されるものなどのA2Bアデノシン受容体アンタゴニスト;Ishikawaらの米国特許第7,847,132号に見出されるものなどの化合物などが挙げられ得るが、それらに限定されない。
【0031】
本明細書に用いられる場合、「肝臓細胞外マトリックス」は、Y.Zhangら、米国特許出願公開第US20130288375号(その開示は参照により全体として本明細書の一部をなす)に記載されたものなどの、通常肝臓において見出される細胞外マトリックスタンパク質を含有するスキャフォールドを意味する。例えば、肝臓に通常見出される細胞外マトリックスタンパク質を提供するために、脱細胞化肝組織は凍結乾燥され粉末にされて、それはその後、バイオポリマー(例えば、コラーゲン、キトサン、ヒアルロン酸など)と組み合わされてハイドロゲルを形成し得る。肝臓細胞外マトリックスはまた、脱細胞化肝臓器官またはその部分(例えば、個々の肝葉、またはそれから生じた組織ディスク)の使用により提供され得る。肝組織の脱細胞のための方法は、知られており、参照により全体として本明細書の一部をなすUS20130288375に記載されている。Baptista et al., Hepatology 2011, 53(2): 604-617も参照。肝臓細胞外マトリックスは、任意の適切なヒトまたは非ヒト哺乳動物、例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、マウス、ウサギ、ラットなどの由来であり得る。いくつかの好ましい実施形態において、肝臓細胞外マトリックスはフェレット由来である。
【0032】
いくつかの実施形態において、肝臓細胞外マトリックスは、コラーゲンI、コラーゲンIII、コラーゲンIV、ラミニン、およびフィブロネクチンから選択される1つまたは複数のタンパク質を含む。
【0033】
本明細書に教示されているような肝線維症のためのモデル系として有用な肝臓構築物(またはオルガノイド)は、(a)肝臓前駆細胞、(b)クッパー細胞、および/または(c)肝星細胞を組み合わせて含み得る。一般的に、細胞は、組織培養皿(例えば、48ウェルの皿中の肝臓ECMディスク)においてなどインビトロで供給された肝臓細胞外マトリックス(例えば、脱細胞化肝臓またはその部分)上に播種され得る。いくつかの実施形態において、肝臓前駆細胞は、数で70パーセントから90パーセントまで(最も好ましくは約80パーセント、例えば、3×10個)の量で播種され得、クッパー細胞は、数で5パーセントから20パーセントまで(最も好ましくは約10パーセント、例えば、4×10個)の量で含まれ得、および/または肝星細胞は数で5パーセントから20パーセントまで(最も好ましくは10パーセント、例えば、4×10個)の量で含まれ得る。
【0034】
いくつかの実施形態において、(例えば、スフェロイドの形をとる)播種された構築物は、成熟肝臓構造を形成するために、例えば、1週間から4週間まで、または1週間から3週間まで、または2週間から3週間まで、インビトロで成長させる。そのような成熟肝臓構造は、例えば、胆管構造、クラスター化した肝実質細胞などを含み得る。
【0035】
装置。本発明のモデル系でのインビトロ化合物スクリーニングに有用な装置は、(a)少なくとも1つのチャンバー(そのチャンバーは好ましくは、入口および出口の開口部が形成されている)が形成されている支持体または装置本体(例えば、組織培養皿、マイクロ流体デバイスなど)を供給するステップ、および(b)上記のような少なくとも1つの構築物(それ自体、またはハイドロゲルと組み合わせたその組成物としての)を前記チャンバー内に置くステップにより提供され得る。装置は、ポンプ、培地リザーバ、検出器などを含むより大きい装置への「プラグイン」または挿入のためのカートリッジの形で提供され得る。
【0036】
装置本体は、それ自体、任意の適切な材料または材料の組合せで形成され得る。例として、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアクリルアミド、官能化PEG(例えば、PEGジアクリレート、PEGジアクリルアミド、PEGジメタクリレートなど、またはマルチアームの形をとる前述のPEGのいずれかなど)を含むポリエチレングリコール(PEG)、架橋または硬化することができる天然ポリマーまたはタンパク質(例えば、ヒアルロン酸、ゼラチン、コンドロイチン硫酸、アルギン酸塩など(架橋を支援するために化学基で官能化されているそれらの誘導体を含む))、およびそれらの組合せが挙げられるが、それらに限定されない。装置本体は、任意の適切な過程、例えば、成形、鋳造、積層造形(3d印刷)、リトグラフなど(それらの組合せを含む)により形成され得る。
【0037】
装置の保管および運送。いったん製造されたならば、カートリッジの形での上記のような装置は、すぐに用いられ得、または保管および/もしくは輸送のために調製され得る。
【0038】
その製造物を保管し、および輸送するために、水と混合されたゼラチンなどの、室温(例えば、25℃)で流動性液体であるが、冷蔵温度(例えば、4℃)でゲルまたは凝固体である、一時的保護支持媒体が、チャンバー、および好ましくは、任意の付随した導管も、実質的にまたは完全に満たすように装置へ加えられ得る。任意の入口および出口は、適切なキャッピング要素(例えば、プラグ)またはキャッピング材料(例えば、ワックス)でキャッピングされる。その後、装置は、冷却要素(例えば、氷、ドライアイス、熱電冷却機)と共に包装され、全て、(好ましくは、絶縁された)梱包材中に置かれる。
【0039】
あるいは、その製造物を保管し、および輸送するために、冷却温度(例えば、4℃)で流動性液体であるが、室温(例えば、20℃)または体温(例えば、37℃)などの温められた温度でゲルまたは凝固体である、一時的保護支持媒体、例えば、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)とポリ(エチレングリコール)のブロックコポリマーが供給され得る。
【0040】
受け取ると、エンドユーザーは、付随した梱包材および冷却要素から装置を簡単に取り出し、(一過性保護支持媒体の選択に応じて)温度を上昇または下降させ、いかなるポートもキャップを取り除き、一過性保護支持媒体をシリンジで(例えば、成長培地で洗い流すことにより)除去し得る。
【0041】
装置の使用方法。上記の装置は、薬理学的および/または毒物学的活性について関心対象の作用物質(または関心対象の複数の作用物質)のインビトロスクリーニング(ハイスループットスクリーニングを含む)に用いることができる。そのようなスクリーニングは、(a)上記のような装置を供給するステップ、(b)構築物に化合物を(例えば、構築物を含有するチャンバーを通して流入されることになっている成長培地に加えることにより)投与するステップ、ならびにその後、(c)構築物の少なくとも1個の細胞からの化合物に対する薬理学的および/または毒物学的応答を検出するステップにより実行することができる。応答の検出ステップは、任意の適切な技術により実行され得、その技術には、検出されることになっている特定の応答または一連の応答に依存して、顕微鏡法、組織診断、イムノアッセイなど、およびそれらの組合せが挙げられる。そのような応答は、細胞死(老化およびアポトーシスを含む)、細胞成長(例えば、良性および転移性細胞成長)、化合物の吸収、分布、代謝、もしくは排泄(ADME)、または生理学的応答(例えば、少なくとも1個の細胞による化合物の産生の上方制御または下方制御)、または肝線維症に関する薬理学的および/もしくは毒物学的活性に関連した任意の他の生物学的応答であり得る。
【0042】
いくつかの実施形態において、肝臓モデルは、光学的透明度のために処理される。いくつかの実施形態において、肝臓モデルは、固定され、組織評価のための屈折率整合した透明画像化によりそれから脂質を除去することにより処理される(「組織をガラスへ変える」)。器官(またはオルガノイド)全体が完全な細胞レベル分解能として1μMスケールで可視化することができる、inCITE光学的透明化および分析技術は、2015年8月7日に出願され、2016年2月11日にWO2016023009として公開された、PCT/US2015/044376に記載されている(その出願は、参照により全体として本明細書の一部をなす)。その方法は、例えば、固定化組織を、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、3-(N,N-ジメチルミリスチルアンモニオ)プロパンスルホナート(SB3-14)、Tween(登録商標)20(ポリソルベート20)、Triton(商標)X-100などの非イオン性界面活性剤、デオキシコール酸ナトリウム、および塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、および/またはメタホウ酸ナトリウム)を含む組成物と接触させることにより、実施され得る。いくつかの実施形態において、その組成物は、ホスホリパーゼA2を含み得る。その後、組織を、画像化のために調製するために、2’2’-チオジエタノールと接触させ得る。「シースルー」またはガラス様「ゼリービーン」のように見える透明化組織を、その後、顕微鏡対物レンズに対して屈折率整合させ、画像化することができる。各マウント組織全体は、透明化のために最長10日間、必要とし得る。この画像化技術からのデータは、完全に定量化することができ、線維症に関する硬さの測定基準(線維長さ、幅、配向、線維症の量、異方性など)を評価し、現在の標準Metvir病理学的スコアリングと比較することができる。
【0043】
組織は、例えば、アクリルアミド、およびパラホルムアルデヒド、ホルマリン、Zenker固定液、Helly固定液、B-5固定液、Bouin溶液、Hollande液、Gendre溶液、Clarke溶液、Cronoy溶液、Methacarn、ホルマリン-酢酸-アルコールなどの固定液を含む溶液と組織を接触させ、またはその溶液を組織に注入することにより、固定され得る。その溶液はまた、サポニンを含み得る。その後、組織は、固定されるのに十分な時間(例えば、2日間、3日間、4日間、または5日間、)、溶液と接触させたまま(例えば、穏やかに撹拌させながら4℃で)にされ得る。
【0044】
本発明は、以下の非限定的実施例においてより詳細に説明される。
【実施例
【0045】
[実施例1]
初代肝細胞を含有する生物工学的肝臓モデルを、肝臓細胞外マトリックス(脱細胞化肝臓ディスク)上に作製した。3週間にわたるインビトロでの成熟により、生物工学的肝臓は、天然の肝臓解剖学的形態および肝臓関連機能を有する、小さいオルガノイドを形成した。
【0046】
インサイチュのオルガノイドモデル:肝臓の生物工学的作製について、肝臓の循環を通しての界面活性剤の灌流は、天然肝臓ECMで構成され、かつ特徴的な3D構造および形状を保持する、無細胞肝臓スキャフォールドを生じた(図1A)。顕著なことには、血管網のチャネルが開いているように見える。非ヒト肝臓スキャフォールド上へ初代ヒト細胞を、血管チャネルを覆うために血管内皮細胞(EC)を、および実質組織を再構成するためにヒト胎児肝臓前駆細胞(LPC)を播種した(図1B)。そのような細胞播種された構築物は、3週間以上の期間、灌流バイオリアクターにおいて保持され得、その間、その細胞は、アルブミン発現性肝実質細胞クラスターおよびCK19陽性胆管構造を含む、正常肝臓のもののような組織構造へ組織化する(図1C)。さらに、これらのオルガノイドは、アルブミンの合成、尿素の分泌、および肝臓オルガノイドのCYP3A染色を確認する、ジアゼパムの相I代謝産物;テマゼパムおよびノルダゼパム(それぞれ、CYP2CおよびCYP3Aにより生成される)への代謝を含む一般的な肝機能を実施した(図1B)。
【0047】
単純化し、より高いハイスループット用途に適応させるために、小さい(直径8mm、厚さ300μm)脱細胞化肝臓ECMディスクを、LPCを播種するために調製した(図1C)。LPCは肝臓ECMを再配置させ、天然肝臓のものと類似した肝実質細胞および小管構造を含有する3Dスフェロイド構造(オルガノイド)へ自己組織化した(図1C)。さらに、進行性細胞組織化および分化が観察された。肝芽細胞マーカー(ALB/CK19/EpCAM)、およびα-フェトプロテイン(AFP)とアルブミンの両方を発現する細胞の大きなクラスターが、1週間の培養後、観察され、肝芽細胞への系統限定を示唆した(図2A、上部)。3週間後、ALB/CK19/EpCAM小管構造およびALB/CK19/EpCAMクラスター、ならびにAFP発現の完全な喪失を含む細胞表現型における明らかな変化があり、分極胆管細胞および肝実質細胞、それぞれへの並行的系統特定を示唆した(図2A、下部)。遺伝子発現分析により、FLPCと比較して、オルガノイドにおいて徐々に増加した、HNF4α、肝実質細胞分化制御因子、およびHNF6、胆管細胞分化主要制御因子の発現が示された(図2B)。肝臓オルガノイドは、培養プレートにおいて分化したLPCと比較して、有意により高いアルブミンおよび尿素分泌を示し(図2C)、胆管構造は、一次繊毛(α-アセチル化チューブリンについて染色された)、および頂端膜における胆汁酸塩輸送体(ASBT)の存在により示される、典型的な頂端-基底の極性を示した(図2D)。
【0048】
結局、これらの結果は、無細胞肝臓ディスクが、LPCが組織化し、成熟し、天然肝臓組織と類似した解剖学的形態を有する機能的肝臓オルガノイドを形成するための適切な条件を提供することを示している。
【0049】
埋め込まれた肝臓オルガノイドへのCCl処理の効果:肝臓オルガノイドはインビトロで発生し、機能性と肝組織解剖学的形態の両方を示した。しかし、インビトロ培養条件は、インビボで存在する複数の因子を欠き、その因子には、例を挙げれば、血液および免疫細胞の成分がある。したがって、本発明者らは、ヌードマウスの肝臓の上部にオルガノイドを、生検パンチで小さな穴を作り、それらをフィブリン接着剤で固定化することにより埋め込んだ。1週間後に採取されたオルガノイドは、多くの生存ヒト肝実質細胞、および多数の複数の増殖性間質(星状)および内皮細胞を示した(図3、上部パネル)。並行して、本発明者らは、埋め込みがなされたマウスの一部をオリーブ油中4ml/gのCCl(1:1)で、隔週の皮下注射により処理した。肉眼で見て、1週間のCCl処理後に採取されたオルガノイドは、対照マウスと著しい違いを示さなかった。しかしながら、綿密な検査により、オルガノイド内の有核ヒト肝実質細胞の欠損および線維症の初期徴候が示された。3週間のCCl処理後に採取されたオルガノイドは、より多数の増殖性間質および内皮細胞を示した。これらの結果は、肝臓オルガノイドが埋め込みにより生存し、CClでの処理で線維症の徴候を示したことを示す。血管新生もまた、おそらく宿主肝臓のCCl誘発性傷害により、オルガノイド内に観察された。
【0050】
線維性肝組織において、筋線維芽細胞の約90%がHSC由来であり(Liedtke, C., et al., Experimental liver fibrosis research: update on animal models, legal issues and translational aspects. Fibrogenesis Tissue Repair, 2013. 6(1): p. 19)、EZH2は、HSCの活性化および筋線維芽細胞への移行のエピジェネティック制御因子であり得る。筋線維芽細胞(MF-10)のように、HSC細胞株(LX-2)はEZH2およびPRC構成要素をインビトロで発現することが示された(図4A図4B)。LX-2のTGFβとのインキュベーションは、EZH2活性、およびSuz12を含むPRC機構、および活性マーカーH3K27me3を誘導することが次に実証された(図4C図4D)。
【0051】
EZH2特異的小分子阻害剤GSK-126は、インビトロで、リンパ腫および小細胞肺がん細胞株においてH3K27me3を阻止するのに効果的である。事実、EZH2活性化変異を有するがん細胞株においてEZH2を阻害するためにGSK-126を用いることは、これらのそれぞれの細胞株においてEZH2への依存性による細胞死を生じ、一方、細胞が活性化EZH2変異を有しない場合、高用量でさえもそれは非致死性である。
【0052】
腫瘍関連線維芽細胞(TAF)のGSK-126とのインキュベーションは、H2K27me3の完全な喪失を生じた(図4E図4F)。
【0053】
[実施例2]
肝臓オルガノイドは、肝臓前駆細胞(LPC)、肝星細胞(HSC)、およびクッパー細胞(KC)を同時播種することにより形成される。線維化誘発条件に応答して、HSCは、オルガノイドにおいて活性化状態になり、増殖し、線維化過程を惹起する。線維性肝臓オルガノイドは、範囲定量的測定により厳密に検査される。インビトロおよびインビボにおける実験は、HSCの筋線維芽細胞への移行/活性化におけるEZH2の役割を決定するために、HSCにおけるEZH2発現の評価により(相関的測定)、および特異的EZH2阻害を用いることにより(直接的測定)、実施され得る。
【0054】
肝星細胞(HSC)は、肝線維症の主要な駆動要素である。今まで、インビトロでHSCを研究するためのたいていの実験モデルは、単純なHSCのみの2D培養系を用い、その系は、インビボでの肝線維症におけるそれらの役割を十分に表していない。本明細書に教示される生物工学的肝臓オルガノイドは、より良いモデルであり、HSCおよび肝線維症に影響する因子を解明する。
【0055】
胎児肝組織(Advanced Bioscience Resources、Alameda、CA)を消化し、低速度で遠心し、赤血球を除去し、コラーゲン4およびラミニンでコーティング化された皿上へ蒔く。約10日後に出現したLPCコロニーを消化し、密度勾配遠心分離(density centrifugation)を用いて、実質細胞(LPC)を非実質(星)細胞から分離する。ヒトクッパー細胞(KC)は、Life Technologies(ThermoFisher Scientific)から購入することができる。異なる肝細胞型の天然の割合を反復するために、48ウェルの皿の内側に置かれたECMディスクに、約80%LPC(3×10個)、約10%HSC(4×10個)、および約10%KC(4×10個)を播種する。これらの数は、成熟オルガノイドの組織学的結果に基づいて最適化され得る。1%ウシ胎仔血清に加えて既知組成の補給剤(デキサメタゾン、cAMP、プロラクチン、グルカゴン、ナイアシンアミド、α-リポ酸、トリヨードチロニン、EGF、HDL、HGF、GH)を含むRPMI培地が、3D肝臓ECMスキャフォールド上でのLSC成長および分化を援助する。
【0056】
オルガノイドを2週間成熟させ、これは、典型的には、この時点までには小管構造および肝実質細胞病巣が明瞭に目に見えるからである。線維症は、1)3つの既知の線維症誘発性成長因子である、TGFb、PDGF-BB、およびTNFαでのHSCの活性化により直接的に、2)オルガノイドをLPSおよびIL2に曝し、それにより、KCを刺激して、線維症誘発因子を分泌させることにより間接的に、および、3)肝実質細胞を損傷するCClを用いて肝臓に「傷害」を誘発し、それにより線維症誘発性毒物の放出を引き起こす、という3つの異なる様式を用いて誘発される。有意な細胞死なしに線維症を誘発するだろう濃度を決定するために、用量漸増実験が実施され得る。
【0057】
これらのオルガノイドは、ハイスループット試験のために大量生産することができ、オルガノイドの各成分は操作され、肝線維症へのそれの影響について評価することができる。オルガノイドは、活性化HSCにおいてEZH2(メチルトランスフェラーゼであり、かつポリコーム抑制複合体(PRC)の構成要素)の高レベルの発現を示し、HSCの筋線維芽細胞表現型への活性化を実証している。
【0058】
免疫蛍光組織化学:線維性肝臓またはオルガノイド切片を、inFormソフトウェアパッケージを用いて調べる。切片を、H&Eにより染色して、線維症を実証する。線維性肝臓またはオルガノイドをまた、筋線維芽細胞マーカー、例えば、コラーゲンI、デスミン、およびαSMAについて染色する。cellSens画像化ソフトウェアを用いて、全ての3つのマーカーを、マルチスペクトル的に画像化して、線維性肝臓内の筋線維芽細胞マーカー発現の共局在を決定する。画像化後、inFormを利用して、(コラーゲンI、デスミン、および/またはαSMA陽性染色により示されるような)筋線維芽細胞のパーセンテージを決定する。肝臓切片をまた、EZH2と筋線維芽細胞存在との間の相関について、EZH2/H3K27me3の筋線維芽細胞マーカーとの共局在により分析する。
【0059】
[実施例3]
インビトロおよびインビボで、オルガノイドにおいて肝線維症を調節するためにHSCを操作する。例えば、線維症が誘発され、EZH2活性は、そのような活性について知られた作用物質(例えば、GSK126)で阻害され得る。オルガノイドにおいてHSCの大部分があるが、それらは標準肝臓分化/維持培地下で線維性表現型を誘発しないことが見出された。これは、これらが初代/静止HSCであるという事実による可能性がある。
【0060】
インビトロで、および前臨床モデル(例えば、マウス肝臓)における埋め込みの際、オルガノイドにおける線維症を測定するための測定法を割り当てるために、一式の定量画像化方法論を用いることができる。線維性表現型の複数の側面は、HSCおよびKC活性化、肝組織の解剖学的形態、機能、および損傷、ならびにECM性質のカテゴリーのそれぞれについての主要な測定法で測定され得る。
【0061】
肝臓オルガノイドモデルは、現在ヒト患者において試験されることになっているクロマチン修飾酵素の阻害剤などの、抗線維化治療剤の迅速なスクリーニングを可能にし、その治療剤を臨床試験へ迅速に移行させることができる。
【0062】
参考文献
【表1】
【0063】
前述は、本発明を例証するものであり、それを限定するものと解釈されるべきではない。本発明は、以下の特許請求の範囲により定義され、その特許請求の範囲の等価物はそれに含まれ得る。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B-2D】
図3
図4A-4D】
図4E
図4F
図5