(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】コラーゲンへの結合活性を有する環状ペプチド
(51)【国際特許分類】
C07K 14/78 20060101AFI20221110BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20221110BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20221110BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20221110BHJP
A61K 47/65 20170101ALI20221110BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20221110BHJP
A61K 51/00 20060101ALI20221110BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20221110BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221110BHJP
A61P 19/10 20060101ALI20221110BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20221110BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20221110BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20221110BHJP
A61K 51/02 20060101ALI20221110BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20221110BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20221110BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20221110BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20221110BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
C07K14/78 ZNA
C07K19/00
A61K47/64
A61K45/00
A61K47/65
A61K49/00
A61K51/00 200
A61K38/02
A61P35/00
A61P19/10
A61P31/04
A61P31/10
A61P29/00
A61K51/02 100
A61P21/00
A61P19/08
A61P17/02
A61P27/02
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2019539576
(86)(22)【出願日】2018-08-29
(86)【国際出願番号】 JP2018031920
(87)【国際公開番号】W WO2019044894
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2017166687
(32)【優先日】2017-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【氏名又は名称】牛木 護
(72)【発明者】
【氏名】小出 隆規
(72)【発明者】
【氏名】瀧田 講
(72)【発明者】
【氏名】平 和馬
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/078091(WO,A1)
【文献】特表2009-537624(JP,A)
【文献】米国特許第05576419(US,A)
【文献】コスメトロジー研究報告,2018年,Vol.26,p.16-21
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 14/78
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(Xaa-Yaa-Gly)からなるトリペプチド基を繰り返し単位として、5~9回の繰り返し構造を有し、連結基を含んでもよく、同一又は相違してもよいペプチド鎖の二本鎖を含み、
各ペプチド鎖のN末端近傍及びC末端近傍が架橋された環状ペプチド基を含み、
前記ペプチド鎖の少なくとも1方のペプチド鎖の少なくとも1つのアミノ酸残基の側鎖に薬剤基(agent)が結合(conjugate)していることを特徴とする、
薬剤結合環状ペプチド(agent conjugated cyclic peptide)、又はその塩若しくは溶媒和物;
ただし、
(Xaa-Yaa-Gly)は、
(Pro-Hyp-Gly)、(Glu-Hyp-Gly)又は(Pro-Arg-Gly)から選択され、
(Xaa-Yaa-Gly)の繰り返し単位は、各繰り返し単位毎に独立しており、同一又は相違してもよく、Xaaが各繰り返し単位毎に同一であってもよく又は相違してもよく、Yaaが各繰り返し単位毎に同一であってもよく又は相違してもよい。
【請求項2】
前記薬剤結合環状ペプチドが、下記式(I)で表される薬剤結合環状ペプチドであることを特徴とする、請求項1に記載の薬剤結合環状ペプチド;
【化1】
式(I)において、
L
1、L
1'、L
2及びL
2'は、それぞれ独立して同一又は相違してもよいスペーサー基(-Sp-)を含んでもよい架橋形成基、又は、-L
1-L
2-若しくは-L
1'-L
2'-が1つのアミノ酸残基を形成して、スペーサー基(-Sp-)を含んでもよい架橋形成基を表し、
L
3は、スペーサー基を含んでもよい、前記環状ペプチド基と前記薬剤基との連結基であり、
Aは、スペーサー基を含んでもよい薬剤基を表し、
n及びmは、同一又は相違してもよく、5~9であり、
前記XaaはXaa
1又はXaa
2として、YaaはYaa
1又はYaa
2として表され、Xaa
1、Xaa
2、Yaa
1及びYaa
2は、同一又は相違してもよく、
(Xaa-Yaa-Gly)は、
(Pro-Hyp-Gly)、(Glu-Hyp-Gly)又は(Pro-Arg-Gly)から選択され、
(Xaa-Yaa-Gly)の繰り返し単位は、各繰り返し単位毎に独立しており、同一又は相違してもよく、Xaaが各繰り返し単位毎に同一であってもよく、相違してもよく、Yaaが各繰り返し単位毎に同一であってもよく、相違してもよく、
(i) 式(I)におけるN末端側の下記式(II)で表される置換基は、スペーサー基を含んでもよく、
・ジスルフィド結合による架橋、
・側鎖に-COOHを有するアミノ酸残基による架橋、
・ジケトピペラジンを用いた架橋、
・オレフィンメタセシスによる架橋、又は、
・クリックケミストリーによる架橋、
から選択され、
【化2】
(ii) 式(I)におけるC末端側の下記式(III)で表される置換基は、スペーサー基を含んでもよく、
・ジスルフィド結合による架橋、
・側鎖に-NH
2を有するアミノ酸残基による架橋、
・側鎖に-OHを有するアミノ酸残基による架橋、
・ジケトピペラジンを用いた架橋、
・オレフィンメタセシスによる架橋、又は、
・クリックケミストリーによる架橋、
から選択される。
【化3】
【請求項3】
前記架橋形成基において、
ジスルフィド結合による架橋が、-Cys-Cys-による架橋、
側鎖に-COOHを有するアミノ酸残基による架橋が、アスパラギン酸(Asp、D)残基若しくはグルタミン酸(Glu、E)残基による架橋、
側鎖に-NH
2を有するアミノ酸残基による架橋が、リジン(lys、K)による架橋、又は、
側鎖に-OHを有するアミノ酸残基による架橋が、(セリン残基(Ser又はS)、トレオニン残基(Thr又はT)若しくはチロシン残基(Tyr又はY))による架橋、
から選択されることを特徴とする、請求項2に記載の薬剤結合環状ペプチド。
【請求項4】
前記スペーサー基は、-(Gly)
p-(pは1~3の整数)、-(βAla)
q-(qは1~3の整数)、-PEG4-、又は、6-アミノヘキサン酸基から選択されることを特徴とする、請求項2又は3に記載の薬剤結合環状ペプチド。
【請求項5】
L
3は、側鎖に前記薬剤基を連結可能なアミノ酸残基Zaaを含み、Zaaは、アスパラギン酸残基(Asp又はD)、グルタミン酸残基(Glu又はE)、リジン残基(Lys又はK)、(セリン残基(Ser又はS)、トレオニン残基(Thr又はT)、チロシン残基(Tyr又はY))、システイン残基(Cys又はC)、プロパルギルグリシン残基から選択されることを特徴とする請求項2~4のいずれか1項に記載の薬剤結合環状ペプチド。
【請求項6】
前記薬剤結合環状ペプチドにおいて、薬剤基が、標識基又は医薬分子基から選択されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の薬剤結合環状ペプチド。
【請求項7】
前記薬剤結合環状ペプチドにおいて、前記薬剤基が標識基であり、前記標識基における標識体は、ビオチン、酵素、並びに、カルボキシフルオレセイン(CF又はFAM: carboxy fluorescein)、5(6)-carboxytetramethylrhodamine (TAMRA)、Alexa fluor(登録商標)、Cyanine Dye 、IRDye、HiLyte fluor(登録商標)を含む蛍光色素、金属錯体化合物及び放射性標識化合物からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項6に記載の薬剤結合環状ペプチド。
【請求項8】
前
記薬剤結合環状ペプチドにおいて、前記薬剤基が医薬分子基であり、前記医薬分子基における医薬分子は、抗腫瘍薬、骨粗鬆症薬、放射性金属錯体化合物、放射性標識化合物、抗生物質、抗真菌薬、細胞接着分子由来ペプチド、Stromal-derived factor 1 (SDF-1)、成長因子及び抗炎症薬からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項6に記載の薬剤結合環状ペプチド。
【請求項9】
前記式(I)の薬剤結合環状ペプチドが、下記式
(IV)、(VI)~(IX)、(XII)及び(XIV)で表されることを特徴とする、請求項2~8のいずれか1項に記載の薬剤結合環状ペプチド;
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
式(IV)
、(VI)~(IX)、(XII)及び(XIV)において、
-Cys-Cys-は、2つのCys残基の側鎖の-SH基がジスルフィド結合したシスチン残基を表し、
Acは、アセチル基を表し、
Ahxは、6-アミノヘキサン酸基を表し、
Aは、前記スペーサー基を含んでもよい、ビオチン基、カルボキシフルオレセイン(CF又はFAM: carboxy fluorescein)基、IRDye750基、ドキソルビシン基、PTH基、5(6)-carboxytetramethylrhodamine (TAMRA)基及びStromal-derived factor 1 (SDF-1)からなる群から選択される少なくとも1種であり、Lys残基の側鎖の-NH
2基とアミド結合又はシスチン残基のジスルフィド結合で結合し、
n'及びm'が、同一又は相違してもよく、5~9の整数であり、及び、
s及びtが、
3である。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の薬剤結合環状ペプチド、又はその塩若しくは溶媒和物を有効成分として含有し、前記薬剤基は標識基であることを特徴とする、変性領域を含むコラーゲンを含む試料に対する研究用試薬としての、変性領域を含むコラーゲンを有する疾患の検出若しくは診断のための変性コラーゲン検出用としての、又は、
前記薬剤基が医薬分子基であることを特徴とする、変性領域を含むコラーゲンを有する疾患を有する患者の予防若しくは治療用としての
、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性コラーゲンに対して強い結合活性を有する環状ペプチド、該
環状ペプチドの変性コラーゲンの検査薬及び研究用試薬としての使用、並びに、該環状ペプチドを含有する変性コラーゲンを生じる疾患の診断用及び治療用の組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンは、-(Xaa-Yaa-Gly)-の基本単位を繰り返してなる一次構造のアミノ酸配列を有するペプチド(Xaa及びYaaは任意のアミノ酸残基を表す)の3本鎖が、三重らせん構造を形成するタンパク質の総称であり、動物組織の細胞間に存在する細胞外マトリックスの主要構成成分である(非特許文献1)。動物結合組織中に豊富に含まれ、組織の骨格構造を構成している。ヒトのコラーゲンタンパク質は28種あることが報告されている。
【0003】
一方、コラーゲンは、マトリックスメタロプロテアーゼ活性が上昇したがん等の疾患で、コラーゲンが分解・変性し、その三重らせん構造が緩んだ変性コラーゲンを生じることが知られている(非特許文献2)。そこで、変性コラーゲンに結合可能な人工的なコラーゲン様ペプチドを合成し、これらの変性コラーゲンの検査薬や、変性コラーゲンを有する疾患の診断薬への応用が試みられている(特許文献1~2、非特許文献3)。
【0004】
しかし、変性コラーゲンを高い感度で検出可能な検査薬及び研究用試薬や、変性コラーゲンが存在する組織への分布を利用した変性コラーゲンが関連する疾患に対する治療薬等はまだ知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許公報第8283414号
【文献】米国公開特許公報20130164220 A1
【非特許文献】
【0006】
【文献】小出隆規(2010)、生化学第82巻,pp.474-483
【文献】N.Rathら、EMBO Molecular Medicine, 2016, DOI 10.15252/emmm.201606743
【文献】Yang Liら、PNAS, 2012, 109, 14767-14772
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、変性コラーゲンに対して結合活性を有する薬剤結合環状ペプチド、該薬剤結合環状ペプチドの変性コラーゲンの検査薬及び研究用試薬としての使用、並びに、該薬剤結合環状ペプチドを含有する変性コラーゲンを生じる疾患の診断用組成物及び予防若しくは治療用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、二本鎖ペプチドが平行に束ねられた環状構造を有するコラーゲン様ペプチドが、変性コラーゲンに対して強い結合活性を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
具体的には、本発明は、(Xaa-Yaa-Gly)からなるトリペプチド基を繰り返し単位として、5~9回の繰り返し構造を有し、連結基を含んでもよく、同一又は相違してもよいペプチド鎖の二本鎖を含み、
各ペプチド鎖のN末端近傍及びC末端近傍が架橋された環状ペプチド基を含み、
前記ペプチド鎖の少なくとも1方のペプチド鎖の少なくとも1つのアミノ酸残基の側鎖に薬剤基(agent)が結合(conjugate)している、
薬剤結合環状ペプチド(agent conjugated cyclic peptide)、又はその塩若しくは溶媒和物を提供する;
ただし、Xaa及びYaaは、それぞれ独立して、プロリン(Pro又はP)残基、ヒドロキシプロリン(Hyp又はO)残基、アルギニン(Arg又はR)残基、リジン(Lys又はK)残基、バリン(Val又はV)残基、ロイシン(Leu又はL)残基、イソロイシン(Ile又はI)残基、セリン(Ser又はS)残基、トレオニン(Thr又はT)残基、アラニン(Ala又はA)残基、グリシン(Gly又はG)残基、フェニルアラニン(Phe又はF)残基、メチオニン(Met又はM)残基、グルタミン酸(Glu又はE)残基、アスパラギン酸(Asp又はD)残基、アスパラギン(Asn又はN)残基、グルタミン(Gln又はQ)残基、ヒスチジン(His又はH)残基、トリプトファン(Trp又はW)残基又はチロシン(Tyr又はY)残基から選択され、プロリン残基はアミノ基又はフッ素原子で修飾されていてもよく、Xaa位及びYaa位にはN-イソブチル基グリシン残基を用いてもよく、
(Xaa-Yaa-Gly)の繰り返し単位は、各繰り返し単位毎に独立しており、同一又は相違してもよく、Xaaが各繰り返し単位毎に同一であってもよく又は相違してもよく、Yaaが各繰り返し単位毎に同一であってもよく又は相違してもよい。
【0010】
本発明の薬剤結合環状ペプチドにおいて、前記薬剤結合環状ペプチドが、下記式(I)で表される薬剤結合環状ペプチドである場合がある;
【化1】
式(I)において、
L
1、L
1'、L
2及びL
2'は、それぞれ独立して同一又は相違してもよいスペーサー基(-Sp-)を含んでもよい架橋形成基、又は、-L
1-L
2-若しくは-L
1'-L
2'-が1つのアミノ酸残基を形成して、スペーサー基(-Sp-)を含んでもよい架橋形成基を表し、
L
3は、スペーサー基を含んでもよい、前記環状ペプチド基と前記薬剤基との連結基であり、
Aは、スペーサー基を含んでもよい薬剤基を表し、
n及びmは、同一又は相違してもよく、5~9であり、
前記XaaはXaa
1又はXaa
2として、YaaはYaa
1又はYaa
2として表され、Xaa
1、Xaa
2、Yaa
1及びYaa
2は、同一又は相違してもよく、それぞれ独立して、プロリン(Pro又はP)残基、ヒドロキシプロリン(Hyp又はO)残基、アルギニン(Arg又はR)残基、リジン(Lys又はK)残基、バリン(Val又はV)残基、ロイシン(Leu又はL)残基、イソロイシン(Ile又はI)残基、セリン(Ser又はS)残基、トレオニン(Thr又はT)残基、アラニン(Ala又はA)残基、グリシン(Gly又はG)残基、フェニルアラニン(Phe又はF)残基、メチオニン(Met又はM)残基、グルタミン酸(Glu又はE)残基、アスパラギン酸(Asp又はD)残基、アスパラギン(Asn又はN)残基、グルタミン(Gln又はQ)残基、ヒスチジン(His又はH)残基、トリプトファン(Trp又はW)残基又はチロシン(Tyr又はY)残基から選択され、プロリン残基はアミノ基又はフッ素原子で修飾されていてもよく、Xaa
1位、Xaa
2位、Yaa
1位及びYaa
2位にはN-イソブチル基グリシン残基を用いてもよく、
(Xaa-Yaa-Gly)の繰り返し単位は、各繰り返し単位毎に独立しており、同一又は相違してもよく、Xaaが各繰り返し単位毎に同一であってもよく、相違してもよく、Yaaが各繰り返し単位毎に同一であってもよく、相違してもよく、
(i) 式(I)におけるN末端側の下記式(II)で表される置換基は、スペーサー基を含んでもよく、
・ジスルフィド結合による架橋、
・側鎖に-COOHを有するアミノ酸残基による架橋、
・ジケトピペラジンを用いた架橋、
・オレフィンメタセシスによる架橋、又は、
・クリックケミストリーによる架橋、
から選択され、
【化2】
(ii) 式(I)におけるC末端側の下記式(III)で表される置換基は、スペーサー基を含んでもよく、
・ジスルフィド結合による架橋、
・側鎖に-NH
2を有するアミノ酸残基による架橋、
・側鎖に-OHを有するアミノ酸残基による架橋、
・ジケトピペラジンを用いた架橋、
・オレフィンメタセシスによる架橋、又は、
・クリックケミストリーによる架橋、
から選択でき、
【化3】
【0011】
本発明の薬剤結合環状ペプチドの前記式(I)の前記架橋形成基において、
ジスルフィド結合による架橋が、-Cys-Cys-による架橋、
側鎖に-COOHを有するアミノ酸残基による架橋が、アスパラギン酸(Asp、D)残基若しくはグルタミン酸(Glu、E)残基による架橋、
側鎖に-NH2を有するアミノ酸残基による架橋が、リジン(lys、K)による架橋、又は、
側鎖に-OHを有するアミノ酸残基による架橋が、(セリン残基(Ser又はS)、トレオニン残基(Thr又はT)若しくはチロシン残基(Tyr又はY))による架橋、
から選択される場合がある。
【0012】
本発明の薬剤結合環状ペプチドにおいて、前記スペーサー基は、-(Gly)p-(pは1~3の整数)、-(βAla)q-(qは1~3の整数)、-PEG4-、又は、6-アミノヘキサン酸基から選択される場合がある。
【0013】
本発明の薬剤結合環状ペプチドにおいて、L3は、側鎖に前記薬剤基を連結可能なアミノ酸残基Zaaを含み、Zaaは、アスパラギン酸残基(Asp又はD)、グルタミン酸残基(Glu又はE)、リジン残基(Lys又はK)、(セリン残基(Ser又はS)、トレオニン残基(Thr又はT)、チロシン残基(Tyr又はY))、システイン残基(Cys又はC)、プロパルギルグリシン残基から選択される場合がある。
【0014】
本発明の薬剤結合環状ペプチドにおいて、薬剤基が、標識基又は医薬分子基から選択される場合がある。
【0015】
本発明の薬剤結合環状ペプチドにおいて、前記薬剤基が標識基であり、前記標識基における標識体は、ビオチン、酵素、並びに、カルボキシフルオレセイン(CF又はFAM: carboxy fluorescein)、5(6)-carboxytetramethylrhodamine (TAMRA)、Alexa fluor(登録商標)、Cyanine Dye 、IRDye、HiLyte fluor(登録商標)を含む蛍光色素、金属錯体化合物及び放射性標識化合物からなる群から選択される少なくとも1種である場合がある。
【0016】
本発明の薬剤結合環状ペプチドにおいて、前記薬剤基が医薬分子基であり、前記医薬分子基における医薬分子は、抗腫瘍薬、骨粗鬆症薬、放射性金属錯体化合物、放射性標識化合物、抗生物質、抗真菌薬、細胞接着分子由来ペプチド、Stromal-derived factor 1 (SDF-1)、成長因子及び抗炎症薬からなる群から選択される少なくとも1種である場合がある。
【0017】
本発明の薬剤結合環状ペプチドにおいて、前記式(I)の薬剤結合環状ペプチドが、下記式(IV)~(XIV)で表される場合がある;
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
式(IV)~(XIV)において、
-Cys-Cys-は、2つのCys残基の側鎖の-SH基がジスルフィド結合したシスチン残基を表し、
Acは、アセチル基を表し、
Ahxは、6-アミノヘキサン酸基を表し、
Aは、前記スペーサー基を含んでもよい、ビオチン基、カルボキシフルオレセイン(CF又はFAM: carboxy fluorescein)基、IRDye750基、ドキソルビシン基、PTH基、5(6)-carboxytetramethylrhodamine (TAMRA)基及びStromal-derived factor 1 (SDF-1)からなる群から選択される少なくとも1種であり、Lys残基の側鎖の-NH
2基とアミド結合又はシスチン残基のジスルフィド結合で結合し、
n'及びm'が、同一又は相違してもよく、5~9の整数であり、及び、
s及びtが、同一又は相違してもよく、3又は4の整数である。
【0018】
本発明の薬剤結合環状ペプチドにおいて、前記金属錯体化合物がキレート剤と放射性金属との金属錯体であり、該放射性金属が、51Cr、62Cu、64Cu、67Cu、67Ga、68Ga、47Sc、88Y、86Y、90Y、97Ru、99mTc、103Ru、105Rh、109Pd、111In、117mSn、141Ce、140La、149Pm、153Sm、161Tb、165Dy、166Dy、166Ho、167Tm、168Yb、175Yb、177Lu、186Re、188Re、198Au、199Au、203Pb、211Bi、212Bi、213Bi、214Bi及び225Ac、並びにその酸化物又は窒化物からなる群から選択される1以上の放射性金属である薬剤結合環状ペプチドである場合がある。
【0019】
本発明の薬剤結合環状ペプチドにおいて、前記金属錯体化合物がキレート剤とX線不透過性金属との金属錯体であり、該X線不透過性金属がビスマス(Bi)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、ランタン(La)、その他のランタノイド(lanthanide)、バリウム(Ba)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)及びストロンチウム(Sr)からなる群から選択される1以上の金属である場合がある。
【0020】
本発明の薬剤結合環状ペプチドにおいて、前記金属錯体がキレート剤と常磁性金属との金属錯体であり、該常磁性金属が、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe2+)、鉄(Fe3+)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、イッテルビウム(Yb)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)及びエルビウム(Er)からなる群から選択される1以上の金属である場合がある。
【0021】
また、本発明は、前記薬剤結合環状ペプチド、又はその塩若しくは溶媒和物を有効成分として含有し、前記薬剤基は標識基であり、変性領域を含むコラーゲンを含む試料に対する研究用試薬としての、変性領域を含むコラーゲンを有する疾患の検出若しくは診断のための変性コラーゲン検出用としての、又は、変性領域を含むコラーゲンを有する疾患を有する患者の予防若しくは治療用としての組成物を提供する。
【0022】
また、本発明は、前記薬剤結合環状ペプチド、又はその塩若しくは溶媒和物を有効成分として含有し、前記薬剤基は医薬分子基であり、生体内で変性コラーゲンを含む組織に選択的に結合し、標的細胞又は標的組織に分布し、前記標的細胞又は組織における疾患又は障害を予防若しくは治療する、変性領域を含むコラーゲンを有する患者の疾患の治療のための組成物を提供する。
【0023】
さらに、本発明は、前記薬剤結合環状ペプチド、又はその塩若しくは溶媒和物を有効成分として含有し、前記薬剤基は医薬分子基であり、生体内で変性コラーゲンを含む組織に選択的に結合し、標的細胞又は標的組織に分布し、前記標的細胞又は組織における疾患又は障害を予防若しくは治療する、変性領域を含むコラーゲンを有する患者の疾患の予防若しくは治療方法を提供する。
【0024】
本発明の組成物又は予防若しくは治療方法において、前記疾患が、コラーゲン変性、コラーゲンリモデリング及び/又はマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)活性の亢進を伴う疾患であり、がん、筋骨格系疾患(マルファン症候群、骨粗鬆症、骨折、軟骨性疾患)、創傷、角膜損傷から選択される疾患の検出、診断、予防又は治療に使用される場合がある。
【0025】
本発明の組成物又は予防若しくは治療方法において、前記がんがMMP高発現転移性がんが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、変性コラーゲンに対して結合活性を有する薬剤結合環状ペプチド、該薬剤結合環状ペプチドの変性コラーゲンの検査薬及び研究用試薬としての使用、並びに、該薬剤結合環状ペプチドを含有する変性コラーゲンを生じる疾患の診断用組成物及び予防若しくは治療用組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】環状コラーゲン様ペプチド(cCMP)が、変性コラーゲンに結合する状態を表した概略図。
【
図2A】CMPのN末端をジスルフィド結合で、C末端側をペプチド結合で架橋させた環状コラーゲン様ペプチド(cCMP)の合成スキームの例を表す図。
【
図2B】CMPのN末端側とC末端側の両方をジスルフィド結合で架橋させた環状コラーゲン様ペプチド(cCMP)の合成スキーム図(環状(POG-R'7)の例)。
【
図3A】ELISAを用いたCMPの、37℃におけるコラーゲン結合活性の評価結果を表す図(mean ± SD、n = 3)。アニールされたコラーゲン様ペプチド(CMP)での結果を表す。ssCMPはsingle-strand CMP(一本鎖 (一本鎖 CMP)を、dsCMP(bCMP)はdouble-strand CMP(二本鎖 二本鎖 CMP)を、cCMPはcyclic CMP (環状 CMP)を表し、nは、CMPの基本ユニットの繰り返し数を表す。
【
図3B】ELISAを用いたCMPの、37℃におけるコラーゲン結合活性の評価結果を表す図(mean ± SD、n = 3)。加熱したCMPでの結果を表す。ssCMPはsingle-strand CMP(一本鎖 (一本鎖 CMP)を、dsCMP(bCMP)はdouble-strand CMP(二本鎖 二本鎖 CMP)を、cCMPはcyclic CMP (環状 CMP)を表し、nは、CMPの基本ユニットの繰り返し数を表す。
【
図4】環状CMP7と一本鎖CMP10の、コラーゲンへの結合の濃度依存性を比較した結果表す図 (mean ± SD、n = 3)。
【
図5】ウェスタンブロッティングによるCMP(コラーゲン様ペプチド)と抗コラーゲン抗体のコラーゲン結合活性の評価結果を表す。
【
図6】環状CMP7のコラーゲン特異性の検証結果を表す図。
【
図7】環状CMP7のコラーゲン(I型~V型)の型特異性の検証結果を表す図。
【
図8A】環状CMP7による細胞外に分泌されたコラーゲンの染色結果を表す写真図。
【
図8B】抗コラーゲン抗体を用いた染色による細胞外に分泌されたコラーゲンの染色結果を表す写真図。
【
図9】環状CMP7による細胞内のコラーゲン染色結果を表す写真図。抗体は、抗KDEL抗体を使用した。
【
図10】環状CMP7による担癌マウスのイメージング(背中から見て左側(PC-3細胞)、背中から見て右側(LNCap細胞))の結果を表す写真図。
【
図11A】アミノ酸配列が異なる2つのペプチド鎖を含む環状ペプチドについて、4℃における変性コラーゲン結合活性の評価結果を表す図。
【
図11B】アミノ酸配列が異なる2つのペプチド鎖を含む環状ペプチドについて、18℃における変性コラーゲン結合活性の評価結果を表す図。
【
図11C】アミノ酸配列が異なる2つのペプチド鎖を含む環状ペプチドについて、37℃における変性コラーゲン結合活性の評価結果を表す図。
【
図12A】スペーサー基を含む環状ペプチドについて、ELISAを用いたannealed CMPの、37℃におけるコラーゲン結合活性の評価結果を表す図(mean ± SD、n = 3)。
【
図12B】スペーサー基を含む環状ペプチドについて、ELISAを用いたheated CMPの、37℃におけるコラーゲン結合活性の評価結果を表す図(mean ± SD、n = 3)。
【
図13A】鎖長が異なる2つのペプチド鎖を有する環状ペプチドについて、ELISAによる環状CMPの4℃における変性コラーゲン結合活性を評価した結果を表す図。
【
図13B】鎖長が異なる2つのペプチド鎖を有する環状ペプチドについて、ELISAによる環状CMPの37℃における変性コラーゲン結合活性を評価した結果を表す図。
【
図14A】PTH(1-34)-環状ペプチドconjugateの合成スキームを表す図。
【
図14B】PTH(1-34)-環状ペプチドconjugateのELISAによるコラーゲン結合活性の評価結果を表す図 (mean±SD (n =3))。
【発明を実施するための形態】
【0028】
1.薬剤結合環状ペプチド
本発明の実施形態の1つは、変性コラーゲンに対して結合活性を有する環状ペプチドに薬剤基が連結された薬剤結合環状ペプチドである。
【0029】
より具体的には、前記薬剤結合環状ペプチドは、(Xaa-Yaa-Gly)からなるトリペプチド基を繰り返し単位として、5~9回の繰り返し構造を有し、連結基を含んでもよく、同一又は相違してもよいペプチド鎖の二本鎖を含み、
各ペプチド鎖のN末端近傍及びC末端近傍が架橋された環状ペプチド基を含み、
前記ペプチド鎖の少なくとも1方のペプチド鎖の少なくとも1つのアミノ酸残基の側鎖に薬剤基(agent)が結合(conjugate)している、薬剤結合環状ペプチド(agent-conjugated cyclic peptide)、又はその塩若しくは溶媒和物である;
ただし、Xaa及びYaaは、それぞれ独立して、プロリン(Pro又はP)残基、ヒドロキシプロリン(Hyp又はO)残基、アルギニン(Arg又はR)残基、リジン(Lys又はK)残基、バリン(Val又はV)残基、ロイシン(Leu又はL)残基、イソロイシン(Ile又はI)残基、セリン(Ser又はS)残基、トレオニン(Thr又はT)残基、アラニン(Ala又はA)残基、グリシン(Gly又はG)残基、フェニルアラニン(Phe又はF)残基、メチオニン(Met又はM)残基、グルタミン酸(Glu又はE)残基、アスパラギン酸(Asp又はD)残基、アスパラギン(Asn又はN)残基、グルタミン(Gln又はQ)残基、ヒスチジン(His又はH)残基、トリプトファン(Trp又はW)残基又はチロシン(Tyr又はY)残基から選択され、プロリン残基はアミノ基又はフッ素原子で修飾されていてもよく、Xaa位及びYaa位にはN-イソブチル基グリシン残基を用いてもよく、
(Xaa-Yaa-Gly)の繰り返し単位は、各繰り返し単位毎に独立しており、同一又は相違してもよく、Xaaが各繰り返し単位毎に同一であってもよく、相違してもよく、Yaaが各繰り返し単位毎に同一であってもよく、相違してもよい。
【0030】
コラーゲンは、3本のペプチド鎖によって構成される三重らせん構造を有する生体内成分である。本発明の薬剤結合環状ペプチドは、二本鎖のコラーゲン様ペプチド鎖を含み、両ペプチド鎖の両方のN末端近傍と、両方のC末端近傍がそれぞれ架橋することにより環状ペプチドを形成する。そして、該環状ペプチドが、変性コラーゲンの三重らせん構造がほどけたペプチド鎖に結合する活性を有する(
図1参照)。
【0031】
なお、本明細書において、ペプチドの構造は、当業者に周知慣用のアミノ酸の3文字又は1文字による表記法で記述される。本明細書においてアミノ酸はL体である。本明細書のアミノ酸は、分子生物学で一般的なタンパク質の翻訳に用いられることが知られた20種類の標準L-アミノ酸の他、当該技術分野においてよく知られる修飾アミノ酸残基、例えば、4-ヒドロキシ-L-プロリン、4-フルオロ-L-プロリン及びN-イソブチル基グリシンを含む。本明細書において、ヒドロキシルプロリンは、3-ヒドロキシ-L-プロリン又は4-ヒドロキシ-L-プロリンであり、3文字表記で「Hyp」と、一文字表記で「O」と表される。
【0032】
本明細書において、「コラーゲン様ペプチド(collagen mimetic peptide: CMP)」とは、非天然の、即ち、人工的なペプチド又はポリペプチドであって、天然のコラーゲンを模して、-(Xaa-Yaa-Gly)-を基本単位とする繰り返し構造を有するもの、又は、該繰り返し構造を有する複数本のペプチド鎖を、さらに、架橋させたペプチド又はポリペプチドを言う。ただし、前記Xaa及びYaaは、それぞれ独立して、プロリン(Pro又はP)残基、ヒドロキシプロリン(Hyp又はO)残基、アルギニン(Arg又はR)残基、リジン(Lys又はK)残基、バリン(Val又はV)残基、ロイシン(Leu又はL)残基、イソロイシン(Ile又はI)残基、セリン(Ser又はS)残基、トレオニン(Thr又はT)残基、アラニン(Ala又はA)残基、グリシン(Gly又はG)残基、フェニルアラニン(Phe又はF)残基、メチオニン(Met又はM)残基、グルタミン酸(Glu又はE)残基、アスパラギン酸(Asp又はD)残基、アスパラギン(Asn又はN)残基、グルタミン(Gln又はQ)残基、ヒスチジン(His又はH)残基、トリプトファン(Trp又はW)残基又はチロシン(Tyr又はY)残基から選択され、プロリン残基はアミノ基又はフッ素原子で修飾されていてもよく、Xaa位及びYaa位にはN-イソブチル基グリシン残基を用いてもよく、
(Xaa-Yaa-Gly)の繰り返し単位は、各繰り返し単位毎に独立しており、同一又は相違してもよく、Xaaが各繰り返し単位毎に同一であってもよく、相違してもよく、Yaaが各繰り返し単位毎に同一であってもよく、相違してもよい。
【0033】
本明細書において、「各ペプチド鎖のN末端近傍及びC末端近傍が架橋された環状ペプチド」とは、(1)各環状ペプチド鎖のN末端及びC末端に架橋形成基が結合したペプチド鎖によって架橋を形成して環状構造を有する環状ペプチド、(2) 各環状ペプチド鎖のN末端側及びC末端側の各末端から逆の末端の方向に、1~3のアミノ酸残基を介した架橋形成によって環状構造を有する環状ペプチド、及び/又は、(1)と(2)との組み合わせによって架橋形成される環状構造を有する環状ペプチドである。なお、架橋形成基は、スペーサー基(Sp-)を有していてもよい。
【0034】
より具体的には、前記薬剤結合環状ペプチドは、下記式(I)で表される薬剤結合環状ペプチドであって;
【化15】
式(I)において、
L
1、L
1'、L
2及びL
2'は、それぞれ独立して同一又は相違してもよい、スペーサー基(-Sp-)を含んでもよい架橋形成基、又は、-L
1-L
2-若しくは-L
1'-L
2'-が1つのアミノ酸残基を形成して、スペーサー基(-Sp-)を含んでもよい架橋形成基を表し、
L
3は、スペーサー基を含んでもよい、前記環状ペプチド基と前記薬剤基との連結基であり、
Aは、スペーサー基を含んでもよい薬剤基を表し、
n及びmは、同一又は相違してもよく、5~9であり、
前記XaaはXaa
1又はXaa
2として、YaaはYaa
1又はYaa
2として表され、Xaa
1、Xaa
2、Yaa
1及びYaa
2は、同一又は相違してもよく、それぞれ独立して、プロリン(Pro又はP)残基、ヒドロキシプロリン(Hyp又はO)残基、アルギニン(Arg又はR)残基、リジン(Lys又はK)残基、バリン(Val又はV)残基、ロイシン(Leu又はL)残基、イソロイシン(Ile又はI)残基、セリン(Ser又はS)残基、トレオニン(Thr又はT)残基、アラニン(Ala又はA)残基、グリシン(Gly又はG)残基、フェニルアラニン(Phe又はF)残基、メチオニン(Met又はM)残基、グルタミン酸(Glu又はE)残基、アスパラギン酸(Asp又はD)残基、アスパラギン(Asn又はN)残基、グルタミン(Gln又はQ)残基、ヒスチジン(His又はH)残基、トリプトファン(Trp又はW)残基又はチロシン(Tyr又はY)残基から選択され、プロリン残基はアミノ基又はフッ素原子で修飾されていてもよく、Xaa
1位、Xaa
2位、Yaa
1位及びYaa
2位にはN-イソブチル基グリシン残基を用いてもよく、
(Xaa-Yaa-Gly)の繰り返し単位は、各繰り返し単位毎に独立しており、同一又は相違してもよく、Xaaが各繰り返し単位毎に同一であってもよく、相違してもよく、Yaaが各繰り返し単位毎に同一であってもよく、相違してもよく、
(i) 式(I)におけるN末端側の下記式(II)で表される置換基は、スペーサー基を含んでもよく、
・ジスルフィド結合による架橋、
・側鎖に-COOHを有するアミノ酸残基による架橋、
・ジケトピペラジンを用いた架橋、
・オレフィンメタセシスによる架橋、又は、
・クリックケミストリーによる架橋、
から選択され、
【化16】
(ii) 式(I)におけるC末端側の下記式(III)で表される置換基は、スペーサー基を含んでもよく、
・ジスルフィド結合による架橋、
・側鎖に-NH
2を有するアミノ酸残基による架橋、
・側鎖に-OHを有するアミノ酸残基による架橋、
・ジケトピペラジンを用いた架橋、
・オレフィンメタセシスによる架橋、又は、
・クリックケミストリーによる架橋、
から選択でき、
【化17】
【0035】
本発明の薬剤結合環状ペプチドの前記式(I)の前記架橋形成基において、
ジスルフィド結合による架橋が、-Cys-Cys-による架橋、
側鎖に-COOHを有するアミノ酸残基による架橋が、アスパラギン酸(Asp、D)残基若しくはグルタミン酸(Glu、E)残基による架橋、
側鎖に-NH2を有するアミノ酸残基による架橋が、リジン(lys、K)による架橋、又は、
側鎖に-OHを有するアミノ酸残基による架橋が、(セリン残基(Ser又はS)、トレオニン残基(Thr又はT)若しくはチロシン残基(Tyr又はY))による架橋、
から選択できる。
【0036】
前記ジケトピペラジンを用いた架橋形成の場合、例えば、Cavelier F.らの方法(Cavelier F. et al., "Original and General Stragegy of Dimerization of Bioactive Molecules"in Peptides: The Wave of the Future, Ed. by Michal Lebt and Richard A. Houghten, American Peptide Society, 2001)と同様の方法で、下記式(XIV)による架橋反応を利用できる。
【化18】
なお、式(XIV)において、L
1及びL
2は、前記式(I)において定義された置換基を表す。
【0037】
また、オレフィンメタセシスによる架橋形成の場合、例えば、Vijaya R. ら(Vijaya R. et al., Organic Letters, 2007, 9, 699)やKhan S. N.ら(Khan S. N. et al., Organic Letters 2012, 14, 2952)の方法と同様の方法で、下記式(XV)による架橋反応を利用できる。
【化19】
なお、式(XV)において、L
1及びL
2は、前記式(I)において定義された置換基を表す。
【0038】
本発明の薬剤結合環状ペプチドを製造するためのペプチド鎖の合成において、例えば、所望の連結基、スペーサー基、架橋形成基、及び/又は、側鎖に薬剤基を連結可能なアミノ酸残基Zaaを含むアミノ酸残基を組み込んだペプチド鎖を合成し、高速液体クロマトグラフィーや分子濾過法等の当業者に周知慣用の精製法を用いて、精製したペプチド鎖を取得できる(国際公開パンフレットWO2013111759等)。
【0039】
また、前記式(I)において、前記架橋形成基は、前記架橋形成基が、スペーサー基(-Sp-)を含まなくともよく又は含んでもよく、リジン残基(Lys、K)、オルニチン残基、システイン残基(Cys, C)、アスパラギン酸残基(Asp、D)、グルタミン酸残基(Glu、E)、プロパルギルグリシン残基、ジスルフィド基、スルフィド基及びアミド基からなる群から選択されてもよい。
【0040】
さらに、本発明の薬剤結合環状ペプチドは、前記架橋形成基にスペーサー基を含む場合は、該スペーサー基は、-(Gly)p-(pは1~3の整数)、-(βAla)q-(qは1~3の整数)、-PEG(polyethylene glycol)4-、6-アミノヘキサン酸基から選択されるペプチド鎖であってもよい。
【0041】
前記架橋形成基が、例えば、Lys残基の場合、前記式(III)で表される置換基は、以下の式(XVI)で表される架橋構造を有する。
【化20】
上記式(XVI)において、矢印の矢頭が、ペプチド鎖のC末端側であることを表す。
【0042】
前記架橋形成基が、例えば、オルニチン残基の場合、前記式(III)で表される置換基は、以下の式(XVII)で表される架橋構造を有する。
【化21】
上記式(XVII)において、矢印の矢頭が、ペプチド鎖のC末端側であることを表す。
【0043】
前記架橋形成基がシステイン残基であり、ジスルフィド結合により架橋形成する場合、前記式(III)で表される置換基は、以下の式(XVIII-I)で表される架橋構造を有する。
【化22】
上記式(XVIII-I)において、矢印の矢頭が、ペプチド鎖のC末端側であることを表す。
【0044】
前記架橋形成基がシステイン残基であり、ジスルフィド結合により架橋形成する場合、前記式(II)で表される置換基は、以下の式(XVIII-II)で表される架橋構造を有する。
【化23】
上記式(XVIII-II)において、矢印の方向は、ペプチド鎖のN末端側からC末端側の方向であることを表す。
【0045】
前記架橋形成基がアスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基であり、アミド結合により架橋形成する場合、前記式(II)で表される置換基は、以下の式(IX)で表される架橋構造を有し、Hojo H.ら(Hojo H. et al, Tetrahedron 1997, 53, 14263)と同様の方法で、架橋形成を行うことができる。架橋形成基がグルタミン酸の場合の構造を式XIXに示した。
【化24】
上記式(XIX)において、矢印の方向は、ペプチド鎖のN末端側からC末端側の方向であることを表す。
【0046】
前記架橋形成基がプロパルギルグリシン残基であり、クリックケミストリーにより架橋形成する場合、Li H.ら(Li H. et al., Molecules. ; 2013, 18: 9797)と同様の方法で架橋することができ、前記式(III)で表される置換基は、以下の式(XX)で表される架橋構造を有する。
【化25】
上記式(XX)において、矢印の矢頭が、ペプチド鎖のC末端側であることを表す。
【0047】
また、前記式(I)において、L3は、側鎖に前記薬剤基を連結可能なアミノ酸残基Zaaを含み、Zaaは、アスパラギン酸残基(Asp又はD)、グルタミン酸残基(Glu又はE)、リジン残基(Lys又はK)、(セリン残基(Ser又はS)、トレオニン残基(Thr又はT)、チロシン残基(Tyr又はY))、システイン残基(Cys又はC)又はプロパルギルグリシン残基から選択されてもよい。
【0048】
本発明の薬剤結合環状ペプチドは、架橋形成基を有するペプチド鎖を、架橋反応によって架橋形成することによって製造することができる。また、前記ペプチド鎖の製造は、市販のアミノ酸を使用し、公知のペプチドの化学合成法によって製造できるが、これに限定されない。
【0049】
本発明の薬剤結合環状ペプチドの製造方法の例を以下に記載する。
【0050】
前記スペーサーを含んでもよい架橋形成基を有するペプチド鎖と、側鎖に薬剤連結基を連結するためのアミノ酸残基とを含むペプチド鎖とを、架橋反応により架橋形成することにより、環状ペプチドを形成する。N末端側をジスルフィド結合で、C末端側をペプチド結合で架橋する場合の合成スキームを
図2Aに、N末端側とC末端側の両方をジスルフィド結合で架橋した環状ペプチド(環状(POG-R’7):配列番号39)の合成スキームを
図2Bに示した。
【0051】
次に、上記環状ペプチドに薬剤基を連結することにより、薬剤結合環状ペプチドを製造することができる。薬剤基の連結方法は、例えば、当業者に周知慣用の縮合反応や架橋反応を用いることにより実施できる(国際公開パンフレットWO2016208673等)。
【0052】
本発明の薬剤結合環状ペプチドにおける薬剤基の例としては、標識基、医薬分子基が挙げられる。
【0053】
例えば、薬剤基が標識基の場合に、前記標識基における標識体は、ビオチン、酵素、並びに、カルボキシフルオレセイン(CF又はFAM: carboxy fluorescein)、5(6)-carboxytetramethylrhodamine (TAMRA)、Alexa fluor(登録商標)、Cyanine Dye 、IRDye、HiLyte fluor(登録商標)を含む蛍光化合物又はりん光化合物、金属錯体化合物及び放射性標識化合物からなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。
【0054】
より具体的には、前記蛍光標識体の例としては、Alexa fluor(登録商標)の例として、Alexa fluor 350、405、488、532、546、555、568、594、647、680又は750が、Cyanine Dyeの例としてCy2、3、3.5、5、5.5及び7が、IRDyeの例として、 IRDye 650、680RD, 680LT、700DX、700phosphoramidite、750、800CW及び800phosphoramiditeが、HiLyte fluorの例として、HiLyte fluor 405、488、555、594、647、680及び750が、また、FITC、FAM、rhodamine、carboxytetramethylrhodamine(TAMRA)が、さらに、DyLightの例として、DyLight 350、405、550、633及び755が、さらに、Dy-405、415、430、431、478、490、495及び505が、Oyster-488、555、647、680及び800が、並びに、NorthernLight-493、557及び637等が挙げられる。
【0055】
また、薬剤基が医薬分子基である場合に、医薬分子を連結基を介して医薬分子基として環状ペプチドに連結させることによって、本発明の薬剤結合環状ペプチドを製造できる。
【0056】
前記医薬分子の例としては、ドキソルビシン、5-FU、シスプラチン、ビンブラスチン、ダウノマイシン、エピルビシン、イダルビシン、マイトマイシン-C、ブレオマイシン、イリノテカン、パクリタキセル、シクロホスファミド、アクチノマイシンD又はタキサン等から選択される抗腫瘍薬、PTH等の骨粗鬆症薬、放射性金属錯体化合物、放射性標識化合物、ペニシリン、テトラサイクリン等の抗生物質、パラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸、ナイスタチン、エコナゾール、ミコナゾール、フルコナゾール、ケトコナゾール、イトラコナゾール又はクロトリマゾール等から選択される抗真菌薬、カドヘリン、フィブロネクチン、インテグリン、ラミニン又はセレクチン等から選択される細胞接着分子由来の細胞接着活性ペプチド、Stromal-derived factor 1 (SDF-1)、成長因子及び抗炎症薬からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0057】
また、前記金属錯体化合物がキレート剤と金属との金属錯体の場合には、該キレート剤は、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)、cyclohexyl-DTPA(シクロヘキシル-ジエチレントリアミン五酢酸)、DOTA(1,4,7,10-テトラ-アザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸)若しくはNOTA(1,4,7-トリアザシクロノナン -N,N',N''-三酢酸)からなる群から選択されるいずれか一つのC-ファンクショナライズド(C-functionalized)コンプレキサン型配位子(特開2015-86213号公報)、L-システイニル基(特開2014-181309号公報)等が挙げられ、これらのキレート剤の製造方法に従い、キレート基を付与したペプチド鎖を合成し、これらのペプチド鎖を架橋反応により架橋形成することにより、本発明の薬剤結合環状ペプチドを製造できる。
【0058】
さらに、前記金属錯体化合物がキレート剤と放射性金属との金属錯体の場合には、該放射性金属が、51Cr、62Cu、64Cu、67Cu、67Ga、68Ga、47Sc、88Y、86Y、90Y、97Ru、99mTc、103Ru、105Rh、109Pd、111In、117mSn、141Ce、140La、149Pm、153Sm、161Tb、165Dy、166Dy、166Ho、167Tm、168Yb、175Yb、177Lu、186Re、188Re、198Au、199Au、203Pb、211Bi、212Bi、213Bi、214Bi及び225Ac、並びにその酸化物又は窒化物からなる群から選択される1以上の放射性金属を使用できる。
【0059】
さらに、前記金属錯体化合物がキレート剤とX線不透過性金属との金属錯体の場合に、該X線不透過性金属が、ビスマス(Bi)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、ランタン(La)、その他のランタノイド(lanthanide)、バリウム(Ba)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)及びストロンチウム(Sr)からなる群から選択される1以上の金属を使用してもよい。
【0060】
また、前記金属錯体がキレート剤と常磁性金属との金属錯体の場合に、該金属が、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe2+)、鉄(Fe3+)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、イッテルビウム(Yb)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)及びエルビウム(Er)からなる群から選択される1以上の金属であってもよい。
【0061】
以上の実施形態のより好ましい具体的な例として、下記式(IV)~(XIV)で表される薬剤結合環状ペプチドが挙げられる;
【化26】
【化27】
【化28】
【化29】
【化30】
【化31】
【化32】
【化33】
【化34】
【化35】
【化36】
式(IV)~(XIV)において、
-Cys-Cys-は、2つのCys残基の側鎖の-SH基がジスルフィド結合したシスチン残基を表し、
Acは、アセチル基を表し、
Ahxは、6-アミノヘキサン酸基を表し、
Aは、前記スペーサー基を含んでもよい、ビオチン基、カルボキシフルオレセイン(CF又はFAM: carboxy fluorescein)基、IRDye750基、ドキソルビシン基、PTH基、5(6)-carboxytetramethylrhodamine (TAMRA)基及びStromal-derived factor 1 (SDF-1)からなる群から選択される少なくとも1種であり、Lys残基の側鎖の-NH
2基とアミド結合又はシスチン残基のジスルフィド結合で結合し、
n'及びm'が、同一又は相違してもよく、5~9の整数であり、及び、
s及びtが、同一又は相違してもよく、3又は4の整数である。
【0062】
このような薬剤結合環状ペプチドを、例えば、高速液体クロマトグラフィー等の当業者に周知慣用の分離手段を用いて分離精製して取得し、本発明の薬剤結合環状ペプチドの製造に使用できる(国際公開パンフレットWO2013111759等)。
【0063】
係る薬剤結合環状ペプチドは、以下で説明する変性コラーゲンの検出剤や、変性コラーゲンを含む疾患の診断用組成物(診断薬)や予防(予防薬)若しくは治療用組成物(治療薬)の有効成分として、また、研究用試薬として使用できる。また、バイオマテリアルとしてのコラーゲンへの生理活性物質のアンカリングにも利用できる。
【0064】
2.変性コラーゲン検出用若しくは研究用の組成物又は変性コラーゲンを有する患者の診断薬(診断用組成物)
本発明のもう1つの実施形態は、前記薬剤結合環状ペプチド、又はその塩若しくは溶媒和物を有効成分として含有し、前記薬剤基は標識基である変性領域を含むコラーゲンを有する疾患の検出若しくは研究のための、又は診断のための変性コラーゲン検出用の組成物である。
【0065】
例えば、メタロプロテアーゼの活性が亢進した細胞や組織を有する疾患において、メタロプロテアーゼによってコラーゲンが一部切断され、コラーゲンの三重らせん構造がほどけた変性コラーゲンが生じる(非特許文献2、
図1参照)。前記薬剤結合環状ペプチドは、この三重らせん構造がほどけた変性コラーゲンに結合することができ、例えば、薬剤結合環状ペプチドの薬剤基が蛍光性を有する薬剤である場合、この蛍光を検出することにより、変性コラーゲンの有無、局在位置、及び/又は局在する量等を検出し、測定することができる。そこで、本発明の薬剤結合環状ペプチドは、変性コラーゲンに対して、検出用として、又は研究用として使用できる。
【0066】
さらに、係る変性コラーゲンの発生に関与する疾患を有する患者に対する診断薬(診断用組成物)としても使用できる。
【0067】
前記疾患の例としては、コラーゲン変性、コラーゲンリモデリング及び/又はマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)活性の亢進を伴う疾患であり、がん、筋骨格系疾患(マルフィン症候群、骨粗鬆症、骨折、軟骨性疾患)、創傷又は角膜損傷から選択される疾患が挙げられ、これらの疾患の検出、診断、予防又は治療に使用できる。
【0068】
特に、本発明の変性コラーゲン検出用の組成物は、MMP高発現転移性がんの検出又は診断に好適に使用することができる。
【0069】
3.変性コラーゲンを含む疾患の予防又は治療用組成物
本発明のもう1つの実施形態は、変性コラーゲンを含む疾患の予防又は治療用組成物である。
【0070】
上記のように、本発明の薬剤結合環状ペプチドにおいて、前記薬剤基が医薬分子基の場合に、薬剤結合環状ペプチドを有効成分として含有する予防又は治療用組成物を生体に投与することにより、前記薬剤結合環状ペプチドは、生体内で変性コラーゲンを含む組織に選択的に結合し、標的細胞又は標的組織に分布し、前記標的細胞又は組織における疾患又は障害を治療する変性領域を含むコラーゲンを有する患者の疾患の治療に使用できる。また、変性コラーゲンを含む組織を有する前記疾患の発症前の生体に、前記薬剤結合環状ペプチドを含有する組成物を投与することにより、該疾患の予防用の組成物として使用することができる。
【0071】
前記疾患の例としては、コラーゲン変性、コラーゲンリモデリング及び/又はマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)活性の亢進を伴う疾患であり、がん、筋骨格系疾患(マルフィン症候群、骨粗鬆症、骨折、軟骨性疾患)、創傷又は角膜損傷から選択される疾患の予防又は治療に使用できる。
【0072】
係る疾患の予防若しくは治療薬、又は予防若しくは治療用組成物として使用する場合、その有効成分は、前記式(I)の化合物であり、前記式(I)の化合物における薬剤基が医薬分子基であり、前記医薬分子基における医薬分子は、好ましくは、ドキソルビシン、5-FU、シスプラチン、ビンブラスチン、ダウノマイシン、エピルビシン、イダルビシン、マイトマイシン-C、ブレオマイシン、イリノテカン、パクリタキセル、シクロホスファミド、アクチノマイシンD又はタキサン等から選択される抗腫瘍薬、PTH等の骨粗鬆症薬、放射性金属錯体化合物、放射性標識化合物、ペニシリン、テトラサイクリン等の抗生物質、パラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸、ナイスタチン、エコナゾール、ミコナゾール、フルコナゾール、ケトコナゾール、イトラコナゾール又はクロトリマゾール等から選択される抗真菌薬、カドヘリン、フィブロネクチン、インテグリン、ラミニン又はセレクチン等から選択される細胞接着分子由来ペプチド、Stromal-derived factor 1 (SDF-1)、成長因子及び抗炎症薬からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0073】
また、本発明の薬剤結合環状ペプチドにおいて、前記医薬分子基としては放射性金属錯体基であり、該放射性金属として、既に臨床で使用されているイットリウム-90(90Y)、又はルテチウム-177(177Lu)等の治療用の放射性金属を使用することもできる。例えば、標的疾患が、メタロプロテアーゼ活性が亢進したがんの場合、メタロプロテアーゼによって切断され、三重らせん構造がほどけた変性コラーゲンを有する患者に、この90Yの錯体置換基が医薬分子基として結合した薬剤結合環状ペプチドを有効成分として含有する医薬組成物を投与することにより、メタロプロテアーゼ活性が亢進した細胞又は組織に、該薬剤結合環状ペプチドが分布する。この薬剤結合環状ペプチドの90Yから放出される放射線により、がん細胞に障害を与え、がん細胞を死に至らしめることができる。かかる方法によって、例えば、90Yを使用する本発明の薬剤結合環状ペプチドを有効成分とする医薬組成物は、がんの治療に使用することができる。また、変性コラーゲンを含む組織を有するがんを発症する前の生体に、前記薬剤結合環状ペプチドを含有する組成物を投与することにより、がんの予防用の組成物として使用することができる。
【0074】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。ここに記述される実施例は本発明の実施形態を例示するものであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0075】
略語 一覧
1 アミノ酸残基
Ahx : 6-aminohexanoic acid
Ala (A) : alanine
Arg (R) : arginine
Asn (N) : asparagine
Asp (D) : aspartic acid
Cys (C) : cysteine
Gly (G) : glycine
Gln (Q) : glutamine
Glu (E) : glutamic acid
His (H) : histidine
Hyp (O) : 4-hydroxyproline
Ile (I) : isoleucine
Leu (L) : leucine
Lys (K) : lysine
Met (M) : methionine
Phe (F) : phenylalanine
Pro (P) : proline
Ser (S) : serine
Thr (T) : threonine
Trp (W) : tryptophan
Tyr (Y) : tyrosine
Val (V) : valine
2 保護基
Ac : acetyl
Acm : acetamidomethyl
Boc : tert-butoxycarbonyl
Fmoc : 9-fluorenylmethoxycarbonyl
Mtt : p-methyltrityl
Npys : 3-nitro-2-pyridinesulfenyl
OtBu : tert-butoxy
Pbf : 2,2,4,6,7-pentamethyldihydrobenzofuran-5-sulfonyl
Spy : pyridine-2-sulfenyl
tBu : tert-butyl
Trt : triphenylmethyl
3 縮合剤及び関連試薬
DIC : N,N'-diisopropylcarbodiimide
HOBt : N-hydroxybenzotriazole
4 分析装置
HPLC : high-performance liquid chromatography
ESI MS : electron spray ionization mass spectrometry
5 その他
AcOH : acetic acid
ABTS : 2,2'-azinobis(3-ethylbenzothiazoline-6-sulfonic Acid Ammonium Salt)
CMP : collagen-mimetic peptide
DCM : dichloromethane
DMF : N,N-dimethylformamide
EDTA : ethylenediaminetetraacetic acid
ELISA : enzyme-linked immunosorbent assay
EtOH : ethanol
FAM: Carboxyfluorescein (CF)
HFIP : 1,1,1,3,3,3-Hexafluoro-2-propanol
HRP : horseradish peroxidase
NHS : N-hydroxysuccinimide
MeCN : acetonitrile
MeOH : methanol
PEG : polyethylene glycol
PBS : phosphate buffered saline
TES : triethylsilane
TFA : trifluoroacetic acid
TFE : trifluoroethanol
TIPS : triisopropylsilane
【0076】
[実施例1]
同一のアミノ酸配列を有する二本鎖のペプチドから形成される環状ペプチド
(1) ペプチドの固相合成
ペプチド鎖はRink-Amide-AM-resin LL (100-200 mesh) (Novabiochem、Merck KGaA.、ドイツ) を固相担体とし、Fmoc固相法で合成した。Fmocアミノ酸はNovabiochemから購入したFmoc-Cys(Acm)-OH、Fmoc-Lys(Boc)-OH、Fmoc-Lys(Fmoc)-OH、Fmoc-Tyr(tBu)-OH、及び、発明者らによって合成されたFmoc-Ahx-OH、Fmoc-Pro-Hyp-Gly-OHを用いた。レジンはPD-10カラム(GEヘルスケア・ジャパン株式会社、東京)に計りとり、DMF(ペプチド合成用、和光純薬工業株式会社、大阪)中で2時間室温撹拌し、膨潤させた。ペプチド鎖の伸長はDMF中で反応点となるアミノ基に対し、5等量のFmocアミノ酸、5等量のHOBt(株式会社同仁化学研究所、熊本)、5等量のDIC(ペプチド合成用、和光純薬工業)を2時間室温撹拌しながら反応させた。反応後DMFによる洗浄を4回行った。その後、縮合反応が完結しているかの確認のため、数10個のレジンをとり、0.001 M シアン化カリウム/ピリジン、4 mg/mlフェノール/エタノール、ニンヒドリン/エタノールをそれぞれ一滴ずつ添加し、95℃で1分間加熱した。レジンが着色した場合は再度Fmocアミノ酸を上記の方法で縮合した。Fmoc-Pro-Hyp-Gly-OHに関しては反応点となるアミノ基に対し3等量加え、3等量のHOBt、3等量のDICとともに2時間室温撹拌しながら縮合させた。反応後DMFによる洗浄を4回行った。その後縮合反応が完結しているかの確認のため、数10個のレジンをとり、2%アセトアルデヒト/DMF 1滴に続き、2%p-クロラニール/DMFを1滴添加し、10秒室温で放置した。レジンが着色した場合は再度Fmoc-Pro-Hyp-Gly-OHを上記の方法で縮合した。
【0077】
アミノ酸が縮合されていることが確認できたレジンについては、20%ピペリジン(和光純薬工業株式会社)/DMFに浸漬し、15分間室温撹拌した。DMFによる洗浄を6回行ったあと、上記の方法でFmocアミノ酸を縮合した。側鎖アミノ基がFmoc基で保護されたLys残基を上記の方法で縮合させることで、側鎖アミンに対してアミノ酸を縮合させ、ペプチド鎖を二股に伸長した。ペプチドのN末端は20等量のピリジンと20等量の無水酢酸を用い、DMF中で1時間室温撹拌し、アセチル化した。ペプチド鎖が合成し終わったレジンはメタノールによる洗浄を3回行い、続いてエーテルによる洗浄を3回行った後、1晩以上減圧乾燥した。
【0078】
(2) ペプチドの脱保護
乾燥したレジンに対し、4℃のTFA、m-クレゾール、チオアニソール、エタンジチオールを(82.5:5:5:2.5)の割合となるように加え、2時間室温撹拌することでAcm基を除く全ての保護基を除去した。脱保護に用いた溶液及びカラムを洗浄したTFAを50 ml チューブにとり、40 mlの冷エーテルを加えてペプチドを沈澱させた。溶液は4℃、3500 rpmで5分間遠心した後、上清を廃棄した。沈澱に対して20 mlの冷エーテルを加え、撹拌後、冷エーテルを20 ml追加し、遠心後上清を廃棄した。この操作を3回行った後、沈殿を2時間程度室温で風乾した。この沈殿を40% MeCN/H2Oに溶解し、Sep Pak(登録商標)Plus C18カラム(Waters、米国)に通すことにより疎水性の不純物を除去し凍結後、凍結乾燥した。
【0079】
(3) ペプチドの環化
Cys残基の側鎖チオールを保護しているAcm基は、過等量のヨウ素と反応させ脱保護すると同時に分子内ジスルフィド架橋を形成させ、環状CMPとした。反応は、Pro-Hyp-Gly繰り返し数が4回、5回及び6回のものは80%酢酸水を溶媒として60℃で行い、繰り返し数が7回以上のものは20%酢酸水を溶媒とし、6 Mグアニジン塩酸塩下で行った。反応は2時間行い、溶液中のヨウ素は過剰量のアスコルビン酸を添加することでクエンチした。溶液はSephadex G-15(GE ヘルスケア バイオサイエンス)ビーズを詰めたカラム(内径2.7 cm、35 ml)を用いてゲルろ過し、溶出液を1 mlずつフラクションに分けた。各フラクションの280 nm における吸光度の値からCMPが溶出しているフラクションを特定した。その際溶出液として、0.05% TFA/H2Oを用いた。CMPが溶出しているフラクションは合わせて凍結乾燥した。
【0080】
(4) CMPの精製
一本鎖CMP及び二本鎖CMP、環状CMPは逆相HPLCを用い、0.05%TFA/H2Oと0.05%TFA/MeCNの直線濃度勾配によって分取精製した。分取は株式会社日立製作所(東京)又は日本分光株式会社(東京)のHPLCを用い、カラムはCOSMOSIL 5C18-AR-II 20 × 250 mm (ナカライテスク株式会社、京都)又はCOSMOSIL5C18-AR-II 6.0 × 250 mm (ナカライテスク株式会社)を用いた。
【0081】
(5) CMPの質量分析
精製したCMPはMALDI-TOF MS(Bruker Autoflex III MALDI-TOF MS、Bruker Daltonics, Leipzig、ドイツ))、又はESI MS(Bruker micrOTOF ESI MS、ruker Daltonics, Leipzig、ドイツ)で質量分析した。各ペプチド鎖又は環状ペプチドの測定結果を表1に示した(配列番号5~19)。
【0082】
【0083】
(6) CMPの定量
CMPを溶かしたサンプル溶液50 μlを384 Well UV-star Microplate (Greiner Bio-One)に添加し、280、900、977 nmにおける吸光度を測定した。その値を次の式を用いて光路長補正した。
補正吸光度 = (A280 sample - A280 blank) × (A977 sample - A900 sample) / ( A977 water - A900 water)
なお、
A280 sample:サンプル溶液の280 nmにおける吸光度
A280 blank:溶媒の280 nmにおける吸光度
A977 sample:サンプル溶液の977 nmにおける吸光度
A900 sample:サンプル溶液の900 nmにおける吸光度
A977 water:水1 cmあたりの977 nmにおける吸光度
A900 water:水1 cmあたりの900 nmにおける吸光度である。
【0084】
次に求められた補正吸光度から、公知の方法(Pace C. N.ら、Prorein Science 1995, 4:2411-2423)により次の式を用いてCMP濃度を算出した。
CMP濃度(M) = 補正吸光度 / (Tyr残基数×1490 + cystine残基数×125)
【0085】
(7) CMPの二次構造解析
精製した11種類のCMP(環状CMP4~9、二本鎖CMP4~9及び一本鎖CMP6~10)の 1 mg/ml溶液を、PBSを溶媒として、200~300 μl調製した。その後溶液を95℃で5分間加熱し、室温で10分間徐冷した後4℃で一晩静置することで三重らせんを形成させた。このCMP溶液の4℃における260 nmから190 nmのCDスペクトルを連続的に測定した。測定には日本分光円二色性分光光度計J-820を用いた。スペクトルは残基平均モル楕円率に、(全残基数/Pro、Hyp、Gly残基数)をかけることで、ヘリックス部分の残基平均モル楕円率として求め、その2次構造を解析した。
【0086】
コラーゲン三重らせんを構成する3本のペプチド鎖はpolyproline-II様の二次構造をとることが知られている(Duane D. J., Cindy S., Johnson W. C. Jr., Circular dichroism of collagen, gelatin,and poly(proline) II in the vacuum ultraviolet (1976) Biopolymers. 15. 513-521)。すべてのCMPは4℃において、polyproline-II様の二次構造をとっているとの結果を得た(図示せず)。
【0087】
(8) CMPの温度変化測定
続いてCMP溶液の温度を4℃から85℃まで18℃ / hで変化させたときの225 nmにおけるCDシグナルを連続的に測定した。温度制御にはPeltier式の温度コントローラを用いた。また得られた曲線を微分し、傾きの絶対値が最も大きい点温度をTmとした。
【0088】
CMPのθ225におけるCDシグナルの温度変化測定結果では、二本鎖CMP4と環状CMP4は1次関数的に225 nmにおけるCDシグナルが減少した(図示せず)。したがって、この2種類のCMPは4℃において、三重らせんを形成していないと考えられる。他のCMPは、協同的なCDシグナルの減少が確認された(図示せず)。よってこの環状CMP5~9、二本鎖CMP5~9及び一本鎖CMP6、8、10のCMPは4℃において、三重らせんを形成していると考えられる。これらのCMPの三重らせん変性温度(Tm)を表2に示した。
【0089】
【0090】
CMPを二本に束ねることでTmが15℃程度上昇した。また、環化することによりさらにTmは数℃上昇した。すなわち、CMPを束ねることで、三重らせんの安定性が向上したと考えられる。
【0091】
(9) CMPのビオチン標識
CMPを20 mM NaHCO3溶媒中で1 mg/mlに調製し、3等量のNHS-PEG4-Biotin (Thermo Fisher Sientific)と2時間室温で反応させ、ビオチン標識した。ビオチン標識したCMPはSephadex G-15ビーズを詰めたカラム(内径2.7 cm、35 ml)を用いてゲルろ過し、溶出液を1 mlずつフラクションに分けた。各フラクションの280 nmにおける吸光度の値からCMPが溶出しているフラクションを特定した。その際溶出液として、0.05%TFA/H2Oを用いた。CMPが溶出しているフラクションは合わせて凍結乾燥した。
【0092】
(10) CMPのFAM標識
一本鎖CMP10と環状CMP7について20 mM NaHCO3溶媒中で1 mg/mlに調製し、3等量の5-FAM SE (5-Carboxyfluorescein, Succinimidyl Ester、Invitrogen、米国)と2時間室温で遮光しながら反応させ、FAM標識した。FAM標識したCMPは逆相HPLCを用い、0.05%TFA/H2Oと0.05%TFA/MeCNの直線濃度勾配によって分取精製した。その際、COSMOSIL 5C18-AR-II size 6.0 ×250 mmを用いた。
【0093】
FAM標識したCMPをH2Oに溶解し、95℃で5分間加熱後1分間氷上で冷却し、0.1 M NaOH水に溶解し、480 nmにおける吸光度を測定し、FAMのモル吸光係数(76,900 cm-1M-1)からFAM-CMP conjugate溶液の濃度を求めた(R. Sjobackら、Spectrochimica Acta Part A, 1995, 51, L7-L21)。
【0094】
(11) 標識CMPの質量分析
ビオチン又はFAM標識したCMPの質量分析を行った。質量分析は、MALDI-TOF MS又はESI MSで行った。各ペプチドの質量分析を測定した結果を表3に示した(配列番号20~36)。
【0095】
【0096】
(12) ELISAによるCMPのコラーゲン結合活性の評価
Atelo collagen IPC(株式会社高研、東京)を10 mM AcOH/H2Oに希釈し、10 μg/mlに調製した。Nunc Microwell 96マイクロウェルプレート(Thermo Fisher Scientific)上にこの溶液を50 μl添加し、クリーンベンチ内で3日間放置することでコラーゲンをコートした。その際、溶液を95℃で3分間処理した熱変性コラーゲンと、非変性コラーゲンの2種類を用いた。コートしたコラーゲンに0.5%スキムミルク/ELISA緩衝液(20 mM HEPES-Na (pH 7.5)、100mM NaCl, 0.005% Tween-20)を50 μl添加し、室温で1時間ブロッキングした。その後コラーゲンに対し、0.5%スキムミルク/PBS溶媒で5 μg/mlに調製したビオチン標識CMPを、三重らせんを形成させた状態(annealed)、及び95℃で5分間加熱し熱変性させ4℃で1分間急冷させた状態(heated)でそれぞれ50 μl添加し、37℃で1時間結合させた。次にstreptavidin-HRPコンジュゲート(Thermo Fisher Scientific、米国)を0.5%スキムミルク/ELISA緩衝液で3000倍に希釈した溶液を50 μl添加し、ビオチンと酵素標識したアビジンを4℃で30分間反応させて結合させた。
最後にABTSをABTS緩衝液(pH5.0) (100 mMリン酸、200 mMクエン酸)に溶解し、0.5 mg/mlに調製した溶液を50 μl添加し、ABTSとHRPを37℃で10分間反応させ、基質の発色の強さを405 nmにおける吸光度から測定した。なお、全ての過程の間に、ELISA緩衝液50 μlによる洗浄を3回行った。
【0097】
その結果、アニーリングしたCMPは、コラーゲンへの結合をほとんど検出することができなかった。CDのデータとともに考えると、CMP自身が三重らせんを形成している場合、コラーゲン又は熱変性コラーゲンに結合することができないと考えられる。
【0098】
環状CMP及び二本鎖CMPはPOGの繰り返し数が増えるに従い、405 nmにおける吸光度が上昇した。つまり、POGの繰り返し数が増えるに従い、コラーゲンへの結合活性が上昇するとの結果を得た。また、非変性コラーゲンよりも変性コラーゲンに、より多く結合した。これはCMPがコラーゲン上のほどけた部位に結合したことを示している。環状CMP7及び二本鎖CMP7は、従来より知られる一本鎖CMP10よりも強い結合活性を示し、環状の方が二本鎖のものより強く結合しているとの結果を得た(
図3参照)。
【0099】
(13) ELISAによるCMPの、コラーゲンに対する解離定数算出実験
一本鎖CMP10と環状CMP7について、0.5%スキムミルク/PBS溶媒で30、 10、3、1、0.3、0.1、0.03 μg/mlに調製した。上記の方法で96マイクロウェルプレート上に熱変性コラーゲン及びコラーゲンをコートし、ブロッキングを行った。各CMP溶液を95℃で5分間加熱し熱変性させ、4℃で1分間急冷した後50 μl添加し、4℃で1時間反応し、結合させた。その後上記の方法で基質を発色させ、405 nmにおける吸光度を測定した。測定結果からCMPのコラーゲン及び変性コラーゲンに対する解離定数(KD)を算出した。その結果を表4に示した。
【0100】
【0101】
環状CMP7のKD値は、非変性コラーゲンに対しては1.1×10-7 M、変性コラーゲンに対しては6.6×10-8 Mであり、変性コラーゲンに対する環状CMP7の最大結合量は、非変性コラーゲンの1.67倍であった。これは変性によりコラーゲン上の環状CMP7が結合できる部位が増加したことを示す。今回コートした熱変性コラーゲンは加熱後徐冷させているが、熱変性コラーゲンをアニーリングさせたとき、225 nmにおけるCDシグナルが6割程度回復したという報告がある(Leikina E. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 2001, 99. 1314-1318) 。よってこの結果は既報のデータに準じ、アニーリングにより三重らせん構造を形成していると考えられる。
【0102】
この濃度範囲からでは一本鎖CMP10の非変性、変性コラーゲンに対する解離定数を直接求めることができない。そこで、非変性及び変性コラーゲンに結合することのできる一本鎖CMP10と環状CMP7の最大量は同じであると仮定し、解離定数を概算した。その結果、非変性コラーゲンに対しては1.1×10
-7 M、変性コラーゲンに対しては6.6×10
-8 Mと求まった。ここから変性コラーゲンに対し環状CMP7は、一本鎖CMP10より144倍程度強く結合していた(
図4参照)。
【0103】
(14) ウェスタンブロッティングによる抗コラーゲン抗体とのコラーゲン検出能の比較
3 mg/mlのatelo collagen IPCをSDSサンプルバッファー A (50 mM Tris-HCl (pH 6.7)、2%SDS、10%グリセロール、0.002% BPB)に希釈し、30、10、3、1、0.3、0.1 μg/mlとした。これらの溶液を95℃で5分間処理した。これらの溶液各10 μlを8%ゲルを用いたSDS-PAGE後、ニトロセルロース膜上に転写した。このニトロセルロース膜を5%スキムミルク/TBS (50 mM Tris-HCl (pH 7.4)、150 mM NaCl)に浸漬し、室温で1時間ブロッキングした。TBSで5分間洗浄を3回行った後、5%スキムミルク/PBSで20 μg/mlに調製したCMP溶液、又は抗体緩衝液(3% BSA、20mM Tris-HCl (pH 7.4)、150 mM NaCl、0.01% Tween-20)で希釈したウサギ抗I型コラーゲン抗体 (Rockland Immunochemicals Inc.)溶液に室温で1時間浸漬した。CMPとしてはビオチン標識一本鎖CMP10とビオチン標識環状CMP7を用い、95℃で5分間加熱しすぐに使用した。抗体は1000倍希釈のものと、200倍希釈のものを用いた。TBSで5分間の洗浄を3回行った後、CMP溶液に浸漬したものについてはstreptavidin-AP conjugate (Promega)を2%スキムミルク/TBSで2000倍に希釈したものに、抗体溶液に浸漬したものについてはヒツジ抗ウサギIgG-AP conjugate (Santa Cruz Biotechnology, INC)を2%スキムミルク/TBSで2000倍に希釈したものに室温で30分間浸漬した。TBS-T (50 mM Tris-HCl (pH 7.4)、150 mM NaCl、0.1% Tween-20)でそれぞれ5、10、25分間の洗浄を行った後、AP-conjugate substitute kit (Bio-Rad Laboratories, Inc.、米国)を用いて20分間発色させてコラーゲンを検出した。
【0104】
環状CMP7を用いることにより、10 ngのコラーゲンを検出することができた。これは抗コラーゲン抗体を濃い濃度で使用したときと同等程度のコラーゲン検出能であった。一本鎖CMP10では300 ngに薄いバンドが確認され、推奨濃度の抗体も一本鎖CMP10と同程度であった(
図5参照)。
【0105】
(15) 大腸菌のライセート作製
E.coli (ATCC 25922)の凍結菌体を2 mlのLB培地に添加し、37℃で一晩振盪培養した。振盪培養した菌体を遠心して上清を除去した。ペレットに対し、200 μlのSDS sample buffer B (50 mM Tris-HCl (pH 6.7)、2%SDS、10%グリセロール)を添加し、95℃で5分間加熱することでライセートを作製した。ライセートのタンパク質濃度はBCATM protein assay kit (Thermo Fisher Scientific Inc.、米国)を用いて求め、SDS sample buffer Bで希釈して10 mg/mlに調製した。
【0106】
(16) ウェスタンブロッティングによる環状CMP7のコラーゲン特異性の評価
3 mg/mlのatelo collagen IPCをSDS sample buffer Aに希釈し100 μg/mlとした。この溶液を95℃で5分間処理した。コラーゲン溶液5 μl、コラーゲン溶液5 μlと大腸菌のライセート2 μlの混合溶液、及び大腸菌のライセート2 μlを8%ゲルを用いたSDS-PAGE後、ニトロセルロース膜上に転写した。このニトロセルロース膜を5%スキムミルク/TBS (50 mM Tris-HCl (pH 7.4)、150 mM NaCl)に浸漬し、室温で1時間ブロッキングした。TBSで5分間の洗浄を3回行った後、PBSで20 μg/mlに調製した環状CMP7溶液に室温で1時間浸漬した。環状CMP7溶液は95℃で3分間加熱しすぐに使用した。TBSで5分間の洗浄を3回行った後streptavidin-AP conjugate (Promega Corporation、米国)を2%スキムミルク/TBSで2000倍に希釈したものに室温で30分間浸漬した。TBS-T (50 mM Tris-HCl (pH 7.4)、150 mM NaCl、0.1%Tween-20)でそれぞれ5、10、25分間の洗浄を行った後、AP-conjugate substitute kit (Bio-Rad Laboratories, Inc.)を用いて20分間発色させコラーゲンを検出した。
【0107】
また、同サンプルを上記の方法でニトロセルロース膜に転写したのち、CBB溶液(0.001%CBB、50%メタノール、10%酢酸)に30分間浸漬し、CBB脱色液(50%メタノール、10%AcOH)に浸すことですべてのタンパク質を染色した。
【0108】
環状CMP7で検出した場合には、大腸菌ライセートのみを泳動したものにバンドは確認されず、I型コラーゲン及び大腸菌ライセートとI型コラーゲンを混ぜて泳動したものにはバンドが確認された。ここから、環状CMP7はI型コラーゲンを特異的に検出できていることがわかる。また、CBBで検出した際にはI型コラーゲンのバンドは薄く、大腸菌ライセートでは多量のバンドが検出させている。ここから、環状CMP7は、多量のタンパク質の中から、I型コラーゲンのみを検出しているとの結果を得た(
図6参照)。
【0109】
(17) コラーゲンの型特異性の検証
3 mg/mlのI、II、III、IV、V型コラーゲン(I型:Atelo Cell IPC (株式会社高研)、II型:Type II collagen (株式会社高研)、III型:Type III collagen (株式会社高研)、IV型:Cell Matrix Type IV (新田ゼラチン株式会社、大阪)、V型:Type V collagen (株式会社高研) )をSDS sample buffer Aに希釈し30 μg/mlとした。この溶液を95℃で5分間処理した。これらの溶液10 μlにタンパク質分子量マーカー(Bio-Rad Laboratories, Inc.、プレシジョンPlusプロテイン未着色スタンダード) 5 μlを混ぜて8%ゲルを用いたSDS-PAGE後上記の方法で、ビオチン標識環状CMP7を用いてウェスタンブロッティングした。
【0110】
環状CMP7により、I型からV型までの全てのコラーゲンを検出することがで
きた。これより、環状CMP7はコラーゲン上の特定の配列ではなく、コラーゲンに共通するX-Y-Glyの繰り返し配列に対してハイブリダイズしていることが示された。すなわち、環状CMP7はコラーゲンを網羅的に検出できることが示された(
図7参照)。
【0111】
(18) 細胞外に分泌されたコラーゲン蛍光染色
野生型マウス胚性線維芽細胞を、内径35 mmのグラスベースディッシュ(IWAKI、AGCテクノグラス株式会社、静岡)に1 ml(10×104 cells)を播種し、10%FBS (Invitrogen、Thermo Fisher Scientific Inc.)、100 units/mlのペニシリン、及び100 μg/mlのストレプトマイシン (Sigma-Aldrich Co. LLC.、米国)を添加したD-MEM (和光純薬工業株式会社)培地中で培養した。細胞がコンフルエントになったときに100 units/mlのペニシリン、及び100 μg/mlのストレプトマイシンを添加したHFDM-1(+)(株式会社細胞化学研究所)培地に交換し、3日間培養した。PBS(-)による洗浄を3回行った後、PBSを95℃で5分間処理したものと、室温のPBSそれぞれを細胞に添加することで、細胞外を熱変性させたサンプルと、未変性のサンプルを用意した。その後4%パラホルムアルデヒド/PBS(-)を用いて15分間室温で処理し、固定した。固定した細胞はPBS(-)による洗浄を3回行った後、3%BSA/PBS(-)溶液に浸漬し、室温でブロッキングした。
【0112】
(19) 抗体による染色
3%BSA/PBS(-)溶液に浸漬し、室温で1時間ブロッキングした細胞に対し、PBS(-)による洗浄を3回行った後、1/100 ウサギ抗I型コラーゲン抗体/1%BSA-PBS(-)を添加した。一時間室温で静置後、PBS(-)による洗浄を3回行い、1/100に希釈したヒツジ抗ウサギIgG(H+L)二次抗体、FITC conjugate (Thermo Fisher Scientific Inc.)/1%BSA-PBS(-)を添加し、1時間室温で静置した。PBS(-)による洗浄を5分間3セット行ったのち、FV1200共焦点レーザー顕微鏡(オリンパス工業株式会社、東京)で観察した。
【0113】
(20) CMPによる染色
3%BSA/PBS(-)溶液に浸漬し、室温で2時間ブロッキングした細胞に対し、FAM標識したCMPをPBS(-)中で30、3、0.3 μg/mlに調製したものを添加した。CMPは環状CMP7と一本鎖CMP10を用い、95℃で5分間加熱した後1分間氷上で冷却し添加した。1時間室温で静置した後、PBS(-)による洗浄を5分間3セット行ったのち、FV1200共焦点レーザー顕微鏡で観察した。
【0114】
その結果、環状CMP7を用いることで、コラーゲン繊維を検出することができた。抗体を用いた場合は変性コラーゲンと未変性コラーゲンを見分けることはできなかった。一方で環状CMP7及び一本鎖CMP10は変性コラーゲンに強く結合しているとの結果を得た。環状CMP7の変性コラーゲン検出能は一本鎖CMP10の検出能と100倍程度の差があることが確認され、これはELISAの結果と一致した(
図8参照)。
【0115】
一方でELISAの結果では、環状CMP7は未変性のコラーゲンにも、変性コラーゲンの70%程度結合している結果が得られたが、細胞外に分泌されたコラーゲンの染色では変性コラーゲンと未変性コラーゲンとの検出に10倍以上の差を認めた。これは、コラーゲンは繊維形成をすることで、ほどけた部分が減ることを示している。
【0116】
(21) 培養細胞内のコラーゲン染色
上記の方法で野生型マウス胚性線維芽細胞を培養した。PBS(-)による洗浄を3回行った後、4%パラホルムアルデヒド/PBS(-)を用いて15分間処理し、固定した。固定した細胞はPBS(-)による洗浄を3回行った後、0.5%TritonX-100/PBS(-)溶液に5分間室温で浸漬し、透過処理を行った。透過処理を行った細胞はPBS(-)による洗浄を3回行った後、3%BSA/PBS(-)溶液に浸漬し、室温1時間でブロッキングした。PBS(-)による洗浄を3回行った後、1/500に希釈した抗KDELマウスモノクローナル抗体(10C3)/1%BSA-PBS(-)を添加し、室温で一時間静置した。PBS(-)による5分間の洗浄を3セット行ったのち、30 μg/ml FAM-CMP・1/200に希釈したヒツジ抗マウス(H+L)抗体、Alexa Fluore594 conjugate/1%BSA-PBS(-)の混合溶液を添加し、1時間室温で静置した。混合溶液は33 μg/ml FAM-CMP溶液を95℃で5分間加熱し、1分間氷冷したのち、11%BSA溶液及び抗体と混合した後、添加した。CMPとしては環状CMP7と一本鎖CMP10を使用した。PBS(-)による5分間の洗浄を3セット行った後、FV1200共焦点レーザー顕微鏡で観察した。
【0117】
結果を
図9に示した。抗体は小胞体を染色し、環状CMP7により、小胞体が染色された。コラーゲンは小胞体内で生合成されるので、環状CMP7は小胞体内のコラーゲンを染色することができたとの結果を得た。一方、一本鎖CMP10では、同条件で細胞内のコラーゲンを染色できなかった(
図9参照)。
【0118】
(22) CMPのIRDye750標識
環状CMP7を20 mM NaHCO3溶液中で1 mg/mlに調製し、それに対して3等量のIR750Dye NHS esterを遮光条件で、室温で2時間反応させた。CMPはSephadex G-25 (GE Healthcare Life Sciences)を用いてゲルろ過し、溶出液を500 mlずつフラクションに分けた。各フラクションの220 nmにおける吸光度の値からCMPが溶出しているフラクションを特定した。その際溶出液として、0.05%TFA/H2Oを用いた。CMPが溶出しているフラクションは合わせて凍結乾燥した。
【0119】
このIR標識したCMPをMALDI-TOF MS又はESI MSで質量分析すると以下の結果であった。
IR-環状CMP7
[M+3H]3+計算値 = 1974.532
実測値 MS = 1974.596
このCMPをH2Oに溶解し、95℃で5分間加熱後760 nmにおける吸光度を測定し、IRDyeのモル吸光係数(252,000 cm-1M-1)からIR-CMPconjugateの濃度を求めた。
【0120】
(23) In vivoがん細胞イメージング
PBS中で150 μg/mlに調製したCMP溶液を95℃で5分間加熱後、37℃に設定したポットプレート上に置いたシリンジに充填した。この溶液をPC-3細胞、及びLNCaP細胞をそれぞれ左脇腹、右脇腹に担癌したマウス(雄性C.B-17/Ice scid/scid)に対し、37℃程度で尾静脈から投与した。なお、PC-3細胞は骨転移型の前立腺がんであり、LNCaP細胞はリンパ転移型の前立腺がんである。
【0121】
結果を
図10に示した。
図10において、背中から見て左側はPC-3細胞、背中からみて右側はLNCap細胞が注入された。IR標識した環状CMP7は投与後30分でPC-3細胞への集積が確認された。また、膀胱と腎臓にも強い集積が確認されたため、このCMPは尿排出されることが推測される。投与後24時間ではバックグラウンドは低くなり、膀胱、腎臓、PC-3細胞への集積がより顕著に確認された。一方で環状CMP7の、LNCaP細胞への集積は確認されなかった(
図10参照)。
【0122】
IR標識した環状CMP7は投与後30分でPC-3細胞への集積が確認された。また、膀胱と腎臓にも強い集積が確認されたため、このCMPは尿排出されることが推測される。投与後24時間ではバックグラウンドは低くなり、膀胱、腎臓、PC-3細胞への集積がより顕著に確認された。一方で環状CMP7の、LNCaP細胞への集積は確認されなかった。
【0123】
また、PC-3細胞はLNCaP細胞と比較して悪性度が高いとされている。環状CMP7はこの2種類のがん細胞の違いを見分けることができたので、悪性がんのイメージングに応用することができると考えられる。
【0124】
[実施例2]
2つの鎖の配列が異なる環状ペプチドの合成と変性コラーゲンに対する結合活性の評価
下記表5に示した、配列が異なる2本のペプチド鎖から形成される環状ペプチドを合成し(配列番号37~42)、変性コラーゲンに対する結合活性を評価した。
【表5】
【0125】
(1) ペプチドの固相合成
ペプチド鎖chain A及びchain Bを、実施例1と同様の方法で、Fmoc法で固相合成した。
【0126】
(2) ペプチドの脱保護
[Chain Aの脱保護]
脱保護を実施例1と同様の方法で行い、chain Aとして下記表6に示したペプチドを合成した(配列番号43~45)。
【表6】
【0127】
[Chain Bの脱保護]
乾燥したレジンに対し、4℃のTFA、m-クレゾール、チオアニソール、TIPSを(82.5:5:5:2.5)の割合となるように加え、4時間室温撹拌することでAcm基を除く全ての保護基を除去した。また脱保護溶液に150 mMとなるように2,2'-ジチオジピリジンを添加することで、Cys(Trt)のトリチル基を脱保護すると同時にSpy化し、Cys(Spy)とした。その後の操作は、実施例と同様の操作を行い、凍結した後、凍結乾燥した。
合成したchain Bの構造を表7に示した(配列番号46~48)。
【表7】
【0128】
(3) ペプチドの二量体形成
Chain AおよびChain Bをそれぞれ20 mg/mlとなるようにbuffer (50 mM NH
4OAc、2mM EDTA、6M guanidine-HCl、pH 5.5) に溶解した。それぞれの溶液を混合し、室温で1時間反応させて二本鎖ペプチドを得た。溶液はSephadex G-15 (GEヘルスケア バイオサイエンス) ビーズを詰めたカラム (内径2.7 cm、35 ml) を用いてゲルろ過し、溶出液を1 mlずつフラクションに分けた。各フラクションの280 nmにおける吸光度の値からCMPが溶出しているフラクションを特定した。その際溶出液として、0.05% TFA/H
2Oを用いた。CMPが溶出しているフラクションは合わせて凍結乾燥し、下記表8に示した二本鎖CMPを取得した(配列番号49~54)。
【表8】
【0129】
(4) ペプチドの環化、精製及びビオチン標識
表8に示したペプチドの二本鎖に対して、実施例1と同様の方法で、架橋反応を行うことにより環化し、環状ペプチドを合成し、精製後、ビオチン標識を行い、ビオチン標識環状ペプチドを取得した。
【0130】
(5) 環状ペプチドの質量分析
環状ペプチド及びビオチン標識環状ペプチドの質量分析をESI MS法で行った。結果を表9に示した。
【表9】
【0131】
(6) ELISAによる環状ペプチドのコラーゲン結合活性の評価
Atelo collagen IPC (高研) を10 mM AcOH/H2Oに希釈し、10 μg/mlに調製した。Nunc Microwell 96マイクロウェルプレート (Thermo Fisher Scientific) 上にこの溶液を50 μl添加し、クリーンベンチ内で2日間放置することでコラーゲンをコートした。コートしたコラーゲンに0.5% skim milk/ELISA buffer (20 mM HEPES-Na (pH 7.5)、100mM NaCl、0.005% Tween-20)を50 μl添加し、室温で1時間ブロッキングした。その後コラーゲンに対し、95℃に加熱したPBSを添加して熱変性させ、PBS溶媒で5 μg/mlに調製したビオチン標識環状ペプチドを、4℃ (annealed)、又は95℃で5分間加熱し熱変性後急冷した状態(heated)でそれぞれ50 μlを添加し、4℃、18℃又は37℃で1時間反応させることにより結合させた。
その後のELISAによる環状ペプチドの結合活性の評価は、実施例1と同様の方法で行った。
【0132】
(7) 実験結果
POG7-R'3、POG7-R'7を除く加熱後急冷した(heated)CMPは4℃において変性コラーゲン結合活性を示した。また、アニーリング(annealed)した、すなわち高次構造(三重らせん構造)を形成したE3-E'3も変性コラーゲン結合活性を示した(
図11A参照)。
【0133】
また、4℃において高次構造をとった条件でも顕著な変性コラーゲン結合活性を示していたE3-E'3は、18℃では変性コラーゲン結合活性を示さなかった(
図11B参照)。一方でPOG7-E'3とR3-E'3に関しては、高次構造をとった条件における変性コラーゲン結合活性が上昇した。さらに結合温度を37℃へと上げると、全体的に変性コラーゲン結合活性が低下し、結合が検出されたのは環状CMP7、POG7-E'3及びR3-R'3のみであった(
図11C参照)。
【0134】
温度変化させたときの変性コラーゲン結合活性の変化の原因として、コラーゲンと環状ペプチドhybridの熱安定性、及び、環状ペプチドの自己三重らせんの熱安定性等の寄与が考えられる。
【0135】
[実施例3]
様々なスペーサーを含む環状ペプチドの合成と変性コラーゲンに対する結合活性の評価
下記表10に示した様々なスペーサー基としてAhx基又はGly残基を含む環状ペプチドを合成し(配列番号55~59)、それぞれの変性コラーゲンに対する結合活性を評価した。
【表10】
【0136】
(1) ペプチドの固相合成及び脱保護
ペプチド鎖は、実施例1と同様の方法で、Fmoc法で固相合成後、脱保護することにより、表11に示した二本鎖コラーゲン様ペプチド(CMP)を取得した(配列番号60~64)。
【表11】
【0137】
(2) ペプチドの環化、精製及びビオチン標識
上記表11に示された二本鎖コラーゲン様ペプチド(dsCMP)を用いて、実施例1と同様の方法で、環化し、精製後、ビオチン標識を行い、ビオチン標識環状ペプチドを取得した。
【0138】
(3) CMPの質量分析
精製したCMPはMALDI-TOF MS又はESI MS法で質量分析した。結果を表12に示した。
【表12】
【0139】
(4) ELISAによるCMPのコラーゲン結合活性の評価
Atelo collagen IPC (高研) を10 mM AcOH/H2Oに希釈し、10 μg/mlに調製した。Nunc Microwell 96マイクロウェルプレート (Thermo Fisher Scientific) 上にこの溶液を50 μl添加し、クリーンベンチ内で3日間放置することでコラーゲンをコートした。その際、95℃で5分間加熱した熱変性コラーゲンと、非変性コラーゲンを用いた。コートしたコラーゲンに0.5% skim milk/ELISA buffer (20 mM HEPES-Na (pH 7.5)、100mM NaCl、0.005% Tween-20) を50 μl添加し、室温で1時間ブロッキングした。その後、コラーゲンに対して、PBS溶媒で3.0×10-7 Mに調製したビオチン標識CMPを、三重らせんを形成させた状態(annealed)、又は、95℃で3分間加熱し熱変性させ4℃で1分間急冷させた状態(heated)でそれぞれ50 μlを添加し、37℃で1時間結合させた。
その後のELISAによる環状ペプチドの結合活性の評価は、実施例1と同様の方法で行った。
【0140】
(5) 実験結果
アニーリング(annealed)条件でCMPを用いた場合、コラーゲンへの結合をほとんど検出することができなかった(
図12A参照)。
【0141】
加熱後急冷(heated)したCMPを用いた場合、環状CMPは一本鎖CMPよりも高いコラーゲン結合活性を示した。また、これらのCMPは熱変性コラーゲンにより強く結合した。また、スペーサー基を含まないほうが変性コラーゲンに対して結合活性が高い傾向を示したが、スペーサー基の有無は必ずしも大きな影響を与えなかった(
図12B参照)。
【0142】
[実施例4]
2つのペプチド鎖の鎖長が異なる環状ペプチドの合成と変性コラーゲンに対する結合活性の評価
下記表12に示される2つのペプチド鎖の各鎖長が異なる弓型形状の環状ペプチドを合成し(配列番号65~70)、変性コラーゲンに対する結合活性を評価した。
【表13】
【0143】
(1) ペプチドの固相合成
ペプチド鎖の固相合成は、実施例1と同様にFmoc法により固相合成した。
【0144】
(2) ペプチドの脱保護
ペプチドの脱保護は、実施例1と同様の方法で実施した。
合成した二本鎖ペプチドの配列を表13に示した(配列番号71~76)。
【表14】
【0145】
(3) ペプチドの環化、精製及びビオチン標識化
上記表13に示した二本鎖ペプチドの環化、精製及びビオチン標識は、実施例1と同様に行い、ビオチン標識環状ペプチドを取得した。
【0146】
(4) 環状ペプチドの質量分析
上記環状ペプチド及びビオチン標識環状ペプチドの質量分析を行った。質量分析は、ESI MS法で行った。表14に環状ペプチドの質量分析の理論値と測定値とを示した。
【表15】
【0147】
(5) ELISAによる環状ペプチドの変性コラーゲン結合活性の評価
Atelo collagen IPC (高研) を10 mM AcOH/H2Oに希釈し、10 μg/mlに調製した。Nunc Microwell 96マイクロウェルプレート (Thermo Fisher Scientific) 上にこの溶液を50 μl添加し、クリーンベンチ内で2日間放置することでコラーゲンをコートした。コートしたコラーゲンに0.5% skim milk/ELISA buffer (20 mM HEPES-Na (pH 7.5)、100mM NaCl、0.005% Tween-20) を50 μl添加し、室温で1時間ブロッキングした。その後コラーゲンに対し、95℃に加熱したPBSを添加して熱変性させ、PBS溶媒で5 μg/mlに調製したビオチン標識環状ペプチドを、4℃ (annealed)又は95℃で5分間加熱し熱変性させた状態(heated)でそれぞれ50 μl添加し、4℃又は37℃で1時間結合させた。
その後のELISAによる環状ペプチドの結合活性の評価は、実施例1と同様の方法で行った。
【0148】
(6) 実験結果
全ての環状ペプチドは4℃において使用直前に加熱した場合は変性コラーゲンに対して結合活性を示した。一方で直前にペプチド溶液を加熱しなかった場合は、変性コラーゲン結合活性が低かった(
図13A参照)。
【0149】
Arch 5-7及びarch 5-8を除く環状ペプチドは37℃において変性コラーゲン結合活性を示した。また、arch 6-7及びarch 6-8についてはペプチド溶液の使用直前の加熱の有無に関わらず、コラーゲン結合活性を示した。その中、arch 6-7の方が、より高い変性コラーゲン結合活性を示した(
図13B参照)。
【0150】
[実施例5]
副甲状腺ホルモンペプチド(PTH(1-34))を結合させた環状ペプチドの合成と変性コラーゲンに対する結合活性の評価
副甲状腺ホルモンペプチド(PTH(1-34))を結合させた環状ペプチドを合成し、その変性コラーゲンに対する結合活性を評価した。
【0151】
(1) 合成方法
副甲状腺ホルモンペプチド(PTH(1-34))を結合させた環状ペプチドの合成の概要を
図14Aに示した。
環状ペプチドを形成するためのペプチド鎖の合成は、実施例1と同様の方法でFmoc法で固相合成した。
【0152】
二本鎖ペプチドを合成する際、側鎖アミノ基がFmoc基で保護されたLys残基を上記の方法で縮合させることで、側鎖アミンに対してアミノ酸を縮合させ、ペプチド鎖を二股に伸長した。N末端はアミンに対して20等量のピリジンと無水酢酸を加えて室温で1時間反応させることでアセチル化した。
【0153】
PTH(1-34)は、検出のため、N末端にビオチンを縮合した。反応はDMF中で行い、アミンに対して5等量のビオチンを、5等量のHOBt、5等量のDICとともに2時間室温撹拌しながら縮合させた。また、スペーサーとしてβアラニン(βAla)を導入した。
【0154】
(2) ペプチドの脱保護
ペプチドの脱保護は、実施例1と同様の方法で行った。
以下に固相合成で構築したペプチド(配列番号77)と、ビオチン標識したPTH(1-34)のアミノ酸配列(下線部: PTH 1-34:配列番号78)を示した。
【化37】
【化38】
【0155】
(3) 空気酸化による二本鎖ペプチドの環化
二本鎖ペプチドの粗精製物に50 mM Tris-HCl (pH 8.8)を加え、ペプチド濃度を0.2 mg/mLに調製し、60°Cで一晩静置した。反応終了はエルマン試薬で確認した。ペプチド溶液48 μLに対してエルマン試薬を2 μL加え、384 Well UV-starR Microplate (Greiner Bio-One社製、オーストリア) に全量を添加し、Multi-spectophotometer VientoR XS (DSファーマバイオメディカル社製、大阪)を使い412 nmでの吸光度を測定した。測定値が反応直後の吸光度と比較して、95%以上減少したことを確認した時点で反応が完結したと判断した。
【0156】
(4) 環状ペプチドの精製
環状ペプチド(配列番号79)及びビオチン標識したPTH(1-34)は逆相HPLCを用い、0.05%TFA/H2Oと0.05%TFA/MeCNの直線濃度勾配によって分取精製した。分取はHPLCを用い、カラムはCOSMOSIL 5C18-AR-II 6.0 × 250 mm (ナカライテスク社製) を用いた。
【0157】
(5) 環状ペプチドのC末端に存在するCys残基の側鎖チオールを保護するAcm基のNpys化
TFA:AcOH (1:2, v/v) に溶解した精製済みの環状ペプチドに、2当量のNpys-Clを加え、10 mg/mLに調製した後、室温・窒素雰囲気下・遮光条件下で30分間反応させた。反応の終了をRP-HPLC分析で確認した後、氷冷したH2Oで反応溶液を10倍に希釈した。希釈した反応溶液中の主生成物をRP-HPLCで精製した。
【0158】
(6) Npys化した環状ペプチドとビオチン標識したPTH(1-34)の結合
Npys化した環状ペプチドをbuffer A (6 M guanidine HCl、50 mM AcONa、2 mM EDTA・2Na、pH 5.4)で10 mg/mLに調製し、ビオチン標識したPTH(1-34)を0.5等量加え、窒素雰囲気下・遮光・室温・pH 5.4の条件下で1.5時間反応させた。反応終了をRP-HPLCで確認し、主生成物 1 (
図14A参照)をRP-HPLCで精製した(配列番号80)。
【0159】
(7) PTH(1-34)-環状ペプチドconjugateの質量分析
上記ビオチン標識化したペプチドをESI MSで質量分析した。その結果、測定値(Found MS): 1904.729、理論値(Calcd MS):([M+5H]5+/5): 1904.517であった。
【0160】
(8) ELISAによるコラーゲン結合活性の評価
PTH(1-34)-環状ペプチド結合体(conjugate)の変性コラーゲンへの結合活性をビオチン標識した環状CMP7(Bio-cCMP7)及びビオチン標識したPTH (1-34) (Bio-PTH (1-34)-cCMP)と比較した。96ウェルプレートにAtelocollagen I-PCを添加し、ドライ法でコートをした。Atelocollagen I-PCは何も処理せずそのまま添加したもの (非変性コラーゲン) と湯浴で加熱処理したもの (熱変性コラーゲン) をコートした。また、プラスチックとブロッキング剤への吸着を見るため、溶媒のみを添加したブランクも用意した。次に、それぞれのウェルをスキムミルクでブロッキング後、PBSで1 μMに調整したペプチドを添加し、37°Cで静置した。ペプチドは添加直前に95℃で5分間加熱した後4℃で1分間冷却したCMPを使用した。次に、結合したペプチドを検出するため、1/2000倍に希釈したstreptavidin-HRP conjugateを加え、4℃で30分間静置した。最後に0.5 mg/mL ABTS /100 mM phosphate-200 mM citrate buffer (pH 5.0)、0.05% (v/v) H2O2を加えて、37°Cで20 min静置してABTSを発色させた。発色させたABTSの波長405 nmの吸光度をMulti-spectophotometer VientoR XSを使い測定した。
【0161】
(9) 実験結果
PTH(1-34)-環状ペプチド結合体は、PTH(1-34)が結合していない環状ペプチド(Bio-cCMP7)と同等のコラーゲン結合活性を示した(
図14B参照)。本結果は、PTH(1-34)を環状ペプチドに結合させても、立体障害を惹起することなく、変性コラーゲンに結合できることを示すものである。
【配列表】