(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂組成物およびそれを成形してなる成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20221110BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20221110BHJP
C08K 9/00 20060101ALI20221110BHJP
C08K 7/00 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K3/34
C08K9/00
C08K7/00
(21)【出願番号】P 2019557103
(86)(22)【出願日】2018-11-07
(86)【国際出願番号】 JP2018041274
(87)【国際公開番号】W WO2019107096
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-09-24
(31)【優先権主張番号】P 2017229753
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】正木 辰典
(72)【発明者】
【氏名】西田 敬亮
(72)【発明者】
【氏名】三井 淳一
(72)【発明者】
【氏名】上川 泰生
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-046781(JP,A)
【文献】特開2015-110764(JP,A)
【文献】特開2013-079387(JP,A)
【文献】特開2010-248406(JP,A)
【文献】特表2011-529986(JP,A)
【文献】特表2008-527129(JP,A)
【文献】特開2015-042744(JP,A)
【文献】特開2018-095852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド(A)20~95質量%、繊維状強化材(B)5~50質量%、および板状充填材(C)1.5~20質量%を含有する樹脂組成物であって、
ポリアミド(A)が、融点が270℃以上であるポリアミド(A1)と、
ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド10、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド1010、ポリアミド11、ポリアミド12から選ばれるポリアミド(A2)とを含有し、
ポリアミド(A1)とポリアミド(A2)の質量比(A1/A2)が90/10~40/60であり、
板状充填材(C)の平均粒径が4.5~60μmであることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
ポリアミド(A1)が、半芳香族ポリアミドであることを特徴とする請求項1記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
半芳香族ポリアミドが、ポリアミド10Tであることを特徴とする請求項2記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
板状充填材(C)がタルクであることを特徴とする請求項1
~3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
板状充填材(C)が表面処理されていることを特徴とする請求項1~
4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
さらに難燃剤(D)を30質量%以下含有することを特徴とする請求項1~
5のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
難燃剤(D)が、非ハロゲン系難燃剤であることを特徴とする請求項
6記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
難燃剤(D)が、ハロゲン系難燃剤であることを特徴とする請求項
6記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形体。
【請求項10】
請求項
9記載の成形体を含むことを特徴とする表面実装用部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物およびそれを成形してなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドは、耐熱性、機械的特性が優れており、多くの電気・電子部品、自動車部品の構成材料として使用されている。
【0003】
これらの部品の内、電気・電子部品については表面実装が主流となっており、リフローはんだ工程において、部品を構成するポリアミド成形体は、最高温度260℃程度の高温にさらされることとなる。したがって、ポリアミドとして、耐リフロー性を有する融点270℃以上の耐熱ポリアミドの使用が必要とされる場面が多くなっている。耐リフロー性が不十分である樹脂からなる成形体では、リフローはんだ工程後に、変色、変形、ブリスター(フクレ)発生などの問題が生じる。また、電気・電子部品は、年々小型化の傾向にあり、部品を構成するポリアミド成形体は、より薄肉での性能が求められている。特に難燃性と流動性は、一般的には成形体が薄肉であるほど性能が低下するため、それらの改善が強く望まれている。さらに、電気・電子部品では、組立時や端子脱着時の応力に耐えうる機械強度も必要となる。
【0004】
このように、電気・電子部品に適した耐熱ポリアミドを設計する上で、耐リフロー性、難燃性、流動性、強度を両立させることが非常に重要である。
【0005】
これらの問題に対して、特許文献1、2には、特定の半芳香族ポリアミドと特定の脂肪族ポリアミドとを含むポリアミド樹脂組成物が開示されている。この組成物は、ポリアミド成分として半芳香族ポリアミドのみを含む組成物と比べて、流動性が向上しているが、耐リフロー性、特にポリアミドの弱点である吸水性が高いことによって発生するブリスターの観点では、依然不十分である。
【0006】
一方、特許文献3には、ポリフェニレンスルフィドと結晶性ポリアミドを含む樹脂組成物に、平均粒径が4μm以下のタルク、シリカ、カオリン群から選ばれた少なくとも1種の微細粒子を含有させることで、ブリスターの発生を抑制できることが開示されている。また、特許文献4には、ナイロン46と芳香族ポリアミドを含む難燃性樹脂組成物に、結晶核剤を0.01~1質量%を含有させることにより、ブリスターを抑制できることが開示されている。しかしながら、特許文献3の樹脂組成物は、吸水性の低いポリフェニレンスルフィドが主成分であり、ポリアミドを主成分とする樹脂組成物においては同様の効果が得られるとは限らない。また、特許文献4の樹脂組成物は、構成するポリアミドがどちらも融点270℃以上であるため、流動性が不十分である。その上、該樹脂組成物は、肉厚0.5mmの成形体でのブリスターが改善されたものに過ぎない。電気・電子部品は薄肉小型化されたものにおいても、2mm程度の厚肉部が存在する場合が多く、ブリスターはこの厚肉部で発生しやすいため、厚肉部でのブリスター改良が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2014-517102号公報
【文献】特表2014-521765号公報
【文献】特開平10-130502号公報
【文献】特開平6-65502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物における上記課題を解決するものであって、リフロー工程時のブリスター発生を抑制しつつも、流動性、機械強度を同時に満たすことできるポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、ポリアミド樹脂組成物を構成するポリアミドとして、特定のポリアミド(A1)と特定のポリアミド(A2)とを特定の質量比で含有するポリアミドを使用し、これに対し、繊維状強化材と、特定形状の板状充填材を配合することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
【0010】
(1)ポリアミド(A)20~95質量%、繊維状強化材(B)5~50質量%、および板状充填材(C)1.5~20質量%を含有する樹脂組成物であって、
ポリアミド(A)が、融点が270℃以上であるポリアミド(A1)と、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド10、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド1010、ポリアミド11、ポリアミド12から選ばれるポリアミド(A2)とを含有し、
ポリアミド(A1)とポリアミド(A2)の質量比(A1/A2)が90/10~40/60であり、
板状充填材(C)の平均粒径が4.5~60μmであることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
(2)ポリアミド(A1)が、半芳香族ポリアミドであることを特徴とする(1)記載のポリアミド樹脂組成物。
(3)半芳香族ポリアミドが、ポリアミド10Tであることを特徴とする(2)記載のポリアミド樹脂組成物。
(4)板状充填材(C)がタルクであることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(5)板状充填材(C)が表面処理されていることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(6)さらに難燃剤(D)を30質量%以下含有することを特徴とする(1)~(5)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(7)難燃剤(D)が、非ハロゲン系難燃剤であることを特徴とする(6)記載のポリアミド樹脂組成物。
(8)難燃剤(D)が、ハロゲン系難燃剤であることを特徴とする(6)記載のポリアミド樹脂組成物。
(9)上記(1)~(8)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形体。
(10)上記(9)記載の成形体を含むことを特徴とする表面実装用部品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特定のポリアミド(A1)と特定のポリアミド(A2)とを特定の質量比で含有したポリアミド樹脂組成物に、繊維状強化材と特定の板状充填材を配合することにより、耐リフロー性、高流動性、高強度を同時に満たすことができるポリアミド樹脂組成物、およびさらに難燃剤を配合することにより高い難燃性をも両立した樹脂組成物を提供することができる。融点が低いポリアミド(A2)を多く含有するにも関わらず、リフロー工程時のブリスターを抑制できることは、大変驚くべきことである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド(A1)、ポリアミド(A2)、繊維状強化材(B)および板状充填材(C)を含有する。
【0013】
本発明におけるポリアミド(A1)は、ジカルボン酸成分とジアミン成分とを含有するものである。ジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸(TPA)、イソフタル酸およびその誘導体、ナフタレンジカルボン酸およびその誘導体、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸などが挙げられ、中でも、テレフタル酸が好ましい。
【0014】
ポリアミド(A1)を構成するジアミン成分としては、例えば、C6~C20芳香族ジアミン、C6~C20脂環式ジアミン、ブタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、2-メチルオクタメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカンなどの脂肪族ジアミンが挙げられる。
【0015】
本発明におけるポリアミド(A1)は、融点が270℃以上であることが必要であり、280℃以上であることが好ましく、300℃以上であることがより好ましい。ポリアミド(A1)は、融点が270℃以上であることにより、耐熱性を有し、最高温度が260℃程度となるリフロー工程に耐えることができる。一方、ポリアミド(A1)は、融点が350℃を超えると、アミド結合の分解温度が約350℃であるため、溶融加工時に炭化や分解が進行することがある。また、成形加工時の温度を融点以上にする必要があるため、金属腐食がより進行してしまう。
融点の観点から、ポリアミド(A1)は、ポリアミド46、ポリアミド4T、ポリアミド6T、ポリアミド8T、ポリアミド9T、ポリアミド10T、ポリアミド11T、ポリアミド12Tおよびそれらの共重合体が好ましい。さらに、ポリアミド4T、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド10T、およびそれらの共重合体などの半芳香族ポリアミドは、吸水性と耐熱性のバランスに優れ、また耐リフロー性に特に優れるため、より好ましく、中でもポリアミド10Tおよびその共重合体が特に好ましい。ポリアミド(A1)として、これらポリアミドを単独で使用でもよいし、2種類以上のポリアミドの混合物を使用してもよい。
【0016】
本発明において、ポリアミド(A1)は、モノカルボン酸成分を構成成分とすることができる。モノカルボン酸成分の含有量は、ポリアミド(A)を構成する全モノマー成分に対して0.3~4.0モル%であることが好ましく、0.3~3.0モル%であることがより好ましく、0.3~2.5モル%であることがさらに好ましく、0.8~2.5モル%であることが特に好ましい。上記範囲内でモノカルボン酸成分を含有することにより、ポリアミド(A1)は、重合時の分子量分布を小さくできたり、得られる樹脂組成物は、成形加工時の離型性の向上がみられたり、成形加工時においてガスの発生量を抑制することができたりする。一方、モノカルボン酸成分の含有量が上記範囲を超えると、得られる成形体は、機械的特性や難燃性が低下することがある。なお、本発明において、モノカルボン酸の含有量は、ポリアミド(A)中のモノカルボン酸の残基、すなわち、モノカルボン酸から末端の水酸基が脱離したものが占める割合をいう。
【0017】
ポリアミド(A)は、モノカルボン酸成分として、分子量が140以上のモノカルボン酸を含有することが好ましく、分子量が170以上のモノカルボン酸を含有することがさらに好ましい。モノカルボン酸の分子量が140以上であると、得られる樹脂組成物は、離型性が向上し、成形加工時の温度においてガスの発生量を抑制することができ、また成形流動性も向上することができる。
【0018】
モノカルボン酸成分としては、脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸が挙げられ、中でも、ポリアミド由来成分の発生ガス量を減少させ、金型汚れを低減させ、離型性を向上することができることから、脂肪族モノカルボン酸が好ましい。
【0019】
分子量が140以上の脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、カプリル酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸が挙げられる。中でも、汎用性が高いことから、ステアリン酸が好ましい。
分子量が140以上の脂環族モノカルボン酸としては、例えば、4-エチルシクロヘキサンカルボン酸、4-へキシルシクロヘキサンカルボン酸、4-ラウリルシクロヘキサンカルボン酸が挙げられる。
分子量が140以上の芳香族モノカルボン酸としては、例えば、4-エチル安息香酸、4-へキシル安息香酸、4-ラウリル安息香酸、1-ナフトエ酸、2-ナフトエ酸およびそれらの誘導体が挙げられる。
【0020】
モノカルボン酸成分は、単独で用いてもよいし、併用してもよい。また、分子量が140以上のモノカルボン酸と分子量が140未満のモノカルボン酸を併用してもよい。なお、本発明において、モノカルボン酸の分子量は、原料のモノカルボン酸の分子量を指す。
【0021】
ポリアミド(A1)は、従来から知られている加熱重合法や溶液重合法の方法を用いて製造することができる。中でも、工業的に有利である点から、加熱重合法が好ましく用いられる。
【0022】
本発明におけるポリアミド(A2)は、融点が270℃未満であることが必要である。
ポリアミド(A2)としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド10、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド1010、ポリアミド11、ポリアミド12、メタキシリレンジアミンとアジピン酸との共重合体(ポリアミドMXD6)、ポリアミド66/6共重合体、パラアミノメチル安息香酸とε-カプロラクタムとの共重合体(ポリアミドAHBA)、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン・テレフタル酸塩を主成分とするポリアミド(ポリアミドTHDT、THDT/6I)などが挙げられる。中でも流動性の観点から、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド10、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド1010、ポリアミド11、ポリアミド12が好ましく、ポリアミド6、ポリアミド66がより好ましい。
【0023】
本発明のポリアミド樹脂組成物において、ポリアミド(A)の含有量は20~95質量%であることが必要であり、35~50質量%であることが好ましい。ポリアミド(A)の含有量が20質量%未満であると、樹脂組成物は、流動性が極端に低下したり、靱性不足により低強度となる。一方、ポリアミド(A)の含有量が95質量%以上であると、樹脂組成物は、他の成分が少ないために、耐リフロー性、強度の点で劣る。
【0024】
さらに、ポリアミド(A)を構成するポリアミド(A1)とポリアミド(A2)の質量比(A1/A2)は、90/10~40/60であることが必要であり、70/30~45/55であることが好ましい。質量比(A1/A2)がこの範囲から外れると、樹脂組成物は、流動性が低下したり、耐リフロー性が低下することにより、実用に耐えられなくなる。
【0025】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、繊維状強化材(B)を含有する。繊維状強化材(B)としては、特に限定されないが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、アスベスト繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、全芳香族ポリアミド繊維、ポリベンズオキサゾール繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、ケナフ繊維、竹繊維、麻繊維、バガス繊維、高強度ポリエチレン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、チタン酸カリウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、スチール繊維、セラミックス繊維、玄武岩繊維が挙げられる。中でも、機械的特性の向上効果が高く、ポリアミド(A)との溶融混練時の加熱温度に耐え得る耐熱性を有し、入手しやすいことから、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維が好ましい。繊維状強化材は、単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0026】
ガラス繊維、炭素繊維は、シランカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。シランカップリング剤は、集束剤に分散されていてもよい。シランカップリング剤としては、例えば、ビニルシラン系、アクリルシラン系、エポキシシラン系、アミノシラン系が挙げられ、中でも、ポリアミド(A)とガラス繊維または炭素繊維との密着効果が高いことから、アミノシラン系カップリング剤が好ましい。
【0027】
繊維状強化材の繊維長、繊維径は、特に限定されないが、繊維長は0.1~7mmであることが好ましく、0.5~6mmであることがさらに好ましい。繊維状強化材の繊維長が0.1~7mmであることにより、成形性に悪影響を及ぼすことなく、樹脂組成物を補強することができる。また、繊維径は3~20μmであることが好ましく、5~13μmであることがさらに好ましい。繊維径が3~20μmであることにより、溶融混練時に折損させることなく、樹脂組成物を補強することができる。
繊維状強化材の断面形状としては、円形、長方形、楕円、それ以外の異形断面等が挙げられ、中でも円形が好ましい。
【0028】
本発明の樹脂組成物における繊維状強化材(B)の含有量は5~50質量%であることが必要であり、25~45質量%であることが好ましい。繊維状強化材(B)の含有量が5質量%未満であると、樹脂組成物は、機械的特性の向上効果が小さく、また耐リフロー性に劣る。一方、繊維状強化材(B)の含有量が50質量%を超えると、樹脂組成物は、機械的特性の向上効果が飽和し、それ以上の向上効果が見込めないばかりでなく、流動性が極端に低下するために、成形体を得ることが困難になる。
【0029】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、さらに板状充填材(C)を含有する。板状充填材(C)としては、特に限定されないが、例えば、タルク、マイカ、ガラスフレーク、グラファイト、金属箔などが挙げられる。中でもリフロー工程時のブリスター抑制効果が高いものとして、タルク、マイカが好ましく、タルクが特に好ましい。板状充填材は、単独で用いてもよいし、複数を併用してもよい。
【0030】
板状充填材(C)は、シランカップリング剤などの有機化合物で表面処理されていてもよい。表面処理されることにより、ポリアミド(A)との密着性が改善され、強度向上やブリスター抑制に効果がある。
【0031】
板状充填材(C)の平均粒径は、4.5~60μmであることが必要であり、5~50μmであることが好ましく、10~30μmであることがより好ましい。本発明において、板状充填材(C)として、平均粒径が上記の範囲内であるものを使用することにより、リフロー工程時のブリスター発生を効果的に抑制できることを見出したことは、驚くべきことである。平均粒径が上記範囲から外れると、ブリスター抑制効果が大きく損なわれてしまう。また平均粒径が60μmを超える場合は、機械強度の低下も大きくなってしまう。本発明における平均粒径とは、レーザー回折法により得られるメジアン径(D50)を指す。
【0032】
本発明の樹脂組成物における板状充填材(C)の含有量は、1.5~20質量%であることが必要であり、3~15質量%であることが好ましく、5~10質量%であることがさらに好ましい。板状充填材(C)の含有量が1.5質量%未満であると、リフロー工程時のブリスター抑制効果が小さい。一方、板状充填材(C)の含有量が20質量%を超えると、樹脂組成物は、流動性や機械強度が低下する。
【0033】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、必要に応じて難燃剤(D)を含有する。難燃剤(D)としては、ハロゲン系難燃剤、非ハロゲン系難燃剤が挙げられる。非ハロゲン系難燃剤としては、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、窒素-リン系難燃剤、無機系難燃剤が挙げられ、中でも特に耐熱性と難燃性の観点から、リン系難燃剤がより好ましい。
【0034】
リン系難燃剤としては、ホスフィン酸金属塩が挙げられる。ホスフィン酸金属塩としては、下記一般式(I)で表されるホスフィン酸金属塩、および一般式(II)で表されるジホスフィン酸金属塩が挙げられる。
【0035】
【0036】
式中、R1、R2、R4およびR5は、それぞれ独立して、直鎖または分岐鎖の炭素数1~16のアルキル基またはフェニル基であることが必要で、炭素数1~8のアルキル基またはフェニル基であることが好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-オクチル基、フェニル基であることがより好ましく、エチル基であることがさらに好ましい。R1とR2およびR4とR5は互いに環を形成してもよい。
R3は、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~10のアルキレン基、炭素数6~10のアリーレン基、アリールアルキレン基、または、アルキルアリーレン基であることが必要である。直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~10のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、イソプロピリデン基、n-ブチレン基、tert-ブチレン基、n-ペンチレン基、n-オクチレン基、n-ドデシレン基が挙げられる。炭素数6~10のアリーレン基としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基が挙げられる。アルキルアリーレン基としては、例えば、メチルフェニレン基、エチルフェニレン基、tert-ブチルフェニレン基、メチルナフチレン基、エチルナフチレン基、tert-ブチルナフチレン基が挙げられる。アリールアルキレン基としては、例えば、フェニルメチレン基、フェニルエチレン基、フェニルプロピレン基、フェニルブチレン基が挙げられる。
Mは、金属イオンを表す。金属イオンとしては、例えば、カルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオンが挙げられ、アルミニウムイオン、亜鉛イオンが好ましく、アルミニウムイオンがより好ましい。
m、nは、金属イオンの価数を表す。mは、2または3である。aは、金属イオンの個数を表し、bは、ジホスフィン酸イオンの個数を表し、n、a、bは、「2×b=n×a」の関係式を満たす整数である。
【0037】
ホスフィン酸金属塩やジホスフィン酸金属塩は、それぞれ、対応するホスフィン酸やジホスフィン酸と、金属炭酸塩、金属水酸化物または金属酸化物を用いて水溶液中で製造され、通常、モノマーとして存在するが、反応条件に依存して、縮合度が1~3のポリマー性ホスフィン酸塩の形として存在する場合もある。
【0038】
上記一般式(I)で表されるホスフィン酸塩の具体例としては、例えば、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸マグネシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル-n-プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸マグネシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸亜鉛、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸マグネシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸亜鉛、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジフェニルホスフィン酸亜鉛が挙げられる。中でも、難燃性、電気特性のバランスに優れることから、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛が好ましく、ジエチルホスフィン酸アルミニウムがより好ましい。
【0039】
また、ジホスフィン酸塩の製造に用いるジホスフィン酸としては、例えば、メタンジ(メチルホスフィン酸)、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)が挙げられる。
【0040】
上記一般式(II)で表されるジホスフィン酸塩の具体例としては、例えば、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)亜鉛が挙げられる。中でも、難燃性、電気特性のバランスに優れることから、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛が好ましい。
【0041】
ホスフィン酸金属塩の具体的な商品としては、例えば、クラリアント社製「Exolit OP1230」、「Exolit OP1240」、「Exolit OP1312」、「Exolit OP1314」、「Exolit OP1400」が挙げられる。
【0042】
窒素系難燃剤としては、メラミン系化合物、シアヌル酸またはイソシアヌル酸とメラミン化合物との塩等が挙げられる。メラミン系化合物の具体例として、メラミンをはじめ、メラミン誘導体、メラミンと類似の構造を有する化合物、メラミンの縮合物等であり、具体的には、メラミン、アンメリド、アンメリン、ホルモグアナミン、グアニルメラミン、シアノメラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、サクシノグアナミン、メラム、メレム、メトン、メロン等のトリアジン骨格を有する化合物、およびこれらの硫酸塩、メラミン樹脂等を挙げることができる。シアヌル酸またはイソシアヌル酸とメラミン化合物との塩とは、シアヌル酸類またはイソシアヌル酸類とメラミン系化合物との等モル反応物である。
【0043】
窒素-リン系難燃剤としては、例えば、メラミンまたはその縮合生成物とリン化合物とから形成される付加物(メラミン付加物)、ホスファゼン化合物を挙げることができる。
前記メラミン付加物を構成するリン化合物としては、リン酸、オルトリン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸、ポリリン酸等が挙げられる。メラミン付加物の具体例として、メラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、ジメラミンピロホスフェート、メラミンポリホスフェート、メレムポリホスフェート、メラムポリホスフェートが挙げられ、中でも、メラミンポリホスフェートが好ましい。リンの数は、2以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。
ホスファゼン化合物の具体的な商品としては、例えば、伏見製薬所社製「ラビトルFP-100」、「ラビトルFP-110」、大塚化学社製「SPS-100」、「SPB-100」などが挙げられる。
【0044】
無機系難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の金属水酸化物、ホウ酸亜鉛、リン酸アルミニウム等のリン酸塩、亜リン酸アルミニウム等の亜リン酸塩、次亜リン酸カルシウム等の次亜リン酸塩、アルミン酸カルシウムなどが挙げられる。これら無機系難燃剤は、難燃性の向上、金属腐食性の低減、どちらの目的で配合しても構わない。
【0045】
ハロゲン系難燃剤としては、例えば、ヘキサブロモシクロドデカン、ビス(ジブロモプロピル)テトラブロモ-ビスフェノールA、ビス(ジブロモプロピル)テトラブロモ-ビスフェノールS、トリス(ジブロモプロピル)イソシアヌレート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、デカブロモジフェニレンオキサイド、臭素化エポキシ樹脂、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジン、エチレンビス(テトラブロモフタル)イミド、エチレンビスペンタブロモフェニル、ポリブロモフェニルインダン、臭素化ポリスチレン、テトラブロモビスフェノールAポリカーボネート、臭素化ポリフェニレンオキシド、ポリペンタブロモベンジルアクリレートなどが挙げられる。中でも高温での加工に耐えうるエチレンビス(テトラブロモフタル)イミド、臭素化エポキシ樹脂、臭素化ポリスチレンが好ましく、臭素化ポリスチレンがより好ましい。これらは単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0046】
本発明の樹脂組成物は、難燃剤(D)を含有しなくてもよいが、難燃剤を含有する場合は、含有量の上限は、30質量%であることが必要である。難燃剤(D)の含有量は、十分な難燃性を実現するために、5~30質量%であることが好ましく、10~25質量%であることがより好ましい。難燃剤(D)の含有量が、5質量%未満であると、樹脂組成物に、必要とする難燃性を付与することが困難となる。一方、難燃剤(D)の含有量が、30質量%を超えると、樹脂組成物は、難燃性に優れる反面、溶融混練が困難となることがあり、また得られる成形体は機械的特性が不十分となることがある。
【0047】
本発明のポリアミド樹脂組成物には、必要に応じてその他の安定剤、着色剤、帯電防止剤、難燃助剤、炭化抑制剤等の添加剤をさらに加えてもよい。着色剤としては、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック等の顔料、ニグロシン等の染料が挙げられる。安定剤としては、ヒンダートフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、光安定剤、銅化合物からなる熱安定剤、アルコール類からなる熱安定剤等が挙げられる。難燃助剤としては、錫酸亜鉛、硼酸亜鉛、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンおよびアンチモン酸ナトリウム等の金属塩等が挙げられる。炭化抑制剤は、耐トラッキング性を向上させる添加剤であり、金属水酸化物、ホウ酸金属塩等の無機物や、上記の熱安定剤等が挙げられる。
【0048】
本発明の樹脂組成物を製造する方法は、特に限定されないが、ポリアミド(A1)、ポリアミド(A2)、繊維状強化材(B)、板状充填材(C)および必要に応じて添加される難燃剤(D)やその他添加剤などを配合して、溶融混練する方法が好ましい。溶融混練法としては、ブラベンダー等のバッチ式ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ヘリカルローター、ロール、一軸押出機、二軸押出機等を用いる方法が挙げられる。溶融混練温度は、ポリアミド(A1)およびポリアミド(A2)が溶融し、かつそれらが分解しない領域から選ばれる。溶融混練温度は、高すぎると、ポリアミド(A1)やポリアミド(A2)が分解するだけでなく、難燃剤(D)も分解するおそれがあることから、ポリアミド(A1)の融点をTmとすると、(Tm-20℃)~(Tm+50℃)であることが好ましい。
【0049】
本発明のポリアミド樹脂組成物を様々な形状に加工する方法としては、溶融混合物をストランド状に押出しペレット形状にする方法や、溶融混合物をホットカット、アンダーウォーターカットしてペレット形状にする方法や、シート状に押出しカッティングする方法、ブロック状に押出し粉砕してパウダー形状にする方法が挙げられる。
【0050】
本発明の成形体は、上記ポリアミド樹脂組成物を成形してなるものである。
成形方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、焼結成形法、圧縮成形法が挙げられ、機械的特性、成形性の向上効果が大きいことから、射出成形法が好ましい。
射出成形機としては、特に限定されず、例えば、スクリューインライン式射出成形機またはプランジャ式射出成形機が挙げられる。射出成形機のシリンダー内で加熱溶融されたポリアミド樹脂組成物は、ショットごとに計量され、金型内に溶融状態で射出され、所定の形状で冷却、固化された後、成形体として金型から取り出される。射出成形時の樹脂温度は、ポリアミド(A1)の融点(Tm)以上で加熱溶融することが好ましく、(Tm+50℃)未満とすることがより好ましい。
なお、ポリアミド樹脂組成物の加熱溶融時には、十分に乾燥されたポリアミド樹脂組成物ペレットを用いることが好ましい。含有する水分量が多いと、射出成形機のシリンダー内で樹脂が発泡し、最適な成形体を得ることが困難となることがある。射出成形に用いるポリアミド樹脂組成物ペレットの水分率は、ポリアミド樹脂組成物100質量部に対して、0.3質量部未満であることが好ましく、0.1質量部未満であることがより好ましい。
【0051】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、耐リフロー性と機械強度、流動性に優れ、また難燃剤(D)を含有するポリアミド樹脂組成物ではさらに難燃性にも優れるため、得られる成形体は、自動車部品、電気・電子部品、雑貨、産業機器部品、土木建築用品等の用途に使用することができる。このうち、特にリフロー工程が必要な表面実装部品用途に使用することができる。
自動車部品としては、例えば、サーモスタット部材、インバータのIGBTモジュール部材、インシュレーター、モーターインシュレーター、エキゾーストフィニッシャー、パワーデバイス筐体、ECU筐体、モーター部材、コイル部材、ケーブルの被覆材、車載用カメラ筐体、車載用カメラレンズホルダー、車載用コネクタ、エンジンマウント、インタークーラー、ベアリングリテーナー、オイルシールリング、チェーンカバー、ボールジョイント、チェーンテンショナー、スターターギア、減速機ギア、車載用リチウムイオン電池トレー、車載用高電圧ヒューズの筐体、自動車用ターボチャージャーインペラが挙げられる。
電気・電子部品としては、例えば、コネクタ、ECUコネクタ、メイテンロックコネクタ、モジュラージャック、リフレクタ、LEDリフレクタ、スイッチ、センサー、ソケット、ピンソケット、コンデンサー、ジャック、ヒューズホルダー、リレー、コイルボビン、ブレーカー、回路部品、電磁開閉器、ホルダー、カバー、プラグ、携帯用パソコン等の電気・電子機器の筐体部品、インペラ、掃除機インペラ、抵抗器、可変抵抗器、IC、LEDの筐体、カメラ筐体、カメラ鏡筒、カメラレンズホルダー、タクトスイッチ、照明用タクトスイッチ、ヘアアイロン筐体、ヘアアイロン櫛、全モールド直流専用小型スイッチ、有機ELディスプレイスイッチ、3Dプリンタ用の材料、モーター用ボンド磁石用の材料が挙げられる。
雑貨としては、例えば、トレー、シート、結束バンドが挙げられる。
産業機器部品としては、例えばインシュレーター類、コネクタ類、ギア類、スイッチ類、センサー、インペラ、プラレールチェーンが挙げられる。
土木建築用品としては、例えば、フェンス、収納箱、工事用配電盤、アンカーボルトガイド、アンカー用リベット、太陽電池パネル嵩上げ材が挙げられる。
中でも、難燃剤(D)を含有する本発明のポリアミド樹脂組成物は、特に難燃性に優れていることから、電気・電子部品に好適に用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0053】
1.測定方法
ポリアミドおよびポリアミド樹脂組成物の物性測定は以下の方法により実施した。
【0054】
(1)融点
示差走査熱量計(パーキンエルマー社製 DSC-7型)用い、昇温速度20℃/分で350℃まで昇温した後、350℃で5分間保持し、降温速度20℃/分で25℃まで降温し、さらに25℃で5分間保持後、再び昇温速度20℃/分で昇温測定した際の吸熱ピークのトップを融点(Tm)とした。
【0055】
(2)流動性
ポリアミド樹脂組成物を、射出成形機ROBOSHOT S2000i(ファナック社製)を用いて、シリンダー温度を330℃、金型温度を140℃に設定し、型締力100トン、射出圧力80MPa、射出速度120mm/秒、射出時間5秒の条件で、シリンダー先端に片側1点ゲートの専用金型を取り付けて成形を行い、バーフロー流動長を測定した。専用金型は、厚さ0.2mm、幅20mmのL字状の成形体が採取できる形状であり、L字の上部中心にゲートを有し、流動長は最大150mmである。実用上、流動長は10mm以上であることが好ましい。
【0056】
(3)耐リフロー性
ポリアミド樹脂組成物を、射出成形機J35AD(日本製鋼所社製)を用いて、シリンダー温度330℃、金型温度140℃の条件で射出成形し、20mm×20mm×2mmの試験片を作製した。得られた試験成形片を、85℃×85%RHにて168時間吸湿処理を行った後、赤外線加熱式のリフロー炉中にて、150℃で1分間加熱し、100℃/分の速度で265℃まで昇温し、10秒間保持した。
加熱処理後の試験片において、試験片表面全体の内、試験片表面に発生したブリスター(水ぶくれ)の占める面積率が0%の場合を「5」、0%より大きく25%以下の場合を「4」、25%より大きく50%以下の場合を「3」、50%より大きく75%以下の場合を「2」、75%より大きい場合を「1」と評価した。
【0057】
(4)引張強度
ポリアミド樹脂組成物を、射出成形機ROBOSHOT S2000i(ファナック社製)を用いて、シリンダー温度330℃、金型温度140℃の条件でISO準拠の試験片を作製した。得られた試験片について、ISO527に従って引張強度を測定した。実用上、引張強度は80MPa以上であることが好ましい。
【0058】
(5)難燃性
ポリアミド樹脂組成物を、射出成形機J35AD(日本製鋼所社製)を用いて、シリンダー温度330℃、金型温度170℃の条件で射出成形し、127mm×12.7mm×0.3mmの試験片を作製した。得られた試験片を用いて、表1に示すUL94(米国Under Writers Laboratories Inc.で定められた規格)の基準に従って難燃性を評価した。総残炎時間が短い方が、難燃性が優れていることを示す。難燃性の安定性の観点から、残炎時間は50秒以下であることが好ましい。
【0059】
【0060】
2.原料
実施例および比較例で用いた原料を以下に示す。
【0061】
(1)ポリアミド
・ポリアミド(A1-1)
ジカルボン酸成分として粉末状のテレフタル酸(TPA)4.70kgと、モノカルボン酸成分としてステアリン酸(STA)0.32kgと、重合触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物9.3gとを、リボンブレンダー式の反応装置に入れ、窒素密閉下、回転数30rpmで撹拌しながら170℃に加熱した。その後、温度を170℃に保ち、かつ回転数を30rpmに保ったまま、液注装置を用いて、ジアミン成分として100℃に加温した1,10-デカンジアミン(DDA)4.98kgを、2.5時間かけて連続的(連続液注方式)に添加し反応生成物を得た。なお、原料モノマーのモル比は、TPA:DDA:STA=48.5:49.6:1.9(原料モノマーの官能基の当量比率は、TPA:DDA:STA=49.0:50.0:1.0)であった。
続いて、得られた反応生成物を、同じ反応装置で、窒素気流下、250℃、回転数30rpmで8時間加熱して重合し、ポリアミドの粉末を作製した。
その後、得られたポリアミドの粉末を、二軸混練機を用いてストランド状とし、ストランドを水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングしてポリアミド(A-1)ペレットを得た。
【0062】
・ポリアミド(A1-2)~(A1-4)、ポリアミド(A2-2)
樹脂組成を表2に示すように変更した以外は、ポリアミド(A1-1)と同様にして、ポリアミド(A1-2)~(A1-4)、ポリアミド(A2-2)を得た。
【0063】
上記ポリアミドの樹脂組成と特性値を表2に示す。
【0064】
【0065】
・ポリアミド(A1-5)
ポリアミド(A1-5)として、ポリアミド46(ディーエスエム社製 TW300 融点290℃)を使用した。
・ポリアミド(A2-1)
ポリアミド(A2-1)として、ポリアミド66(旭化成ケミカルズ社製 レオナ1200 融点265℃)を使用した。
【0066】
(2)繊維状強化材(B)
・B-1 ガラス繊維(旭ファイバーグラス社製 03JAFT692、平均繊維径10μm、平均繊維長3mm)
・B-2 炭素繊維(三菱レイヨン社製 TR06NEB4、平均繊維径6μm、平均繊維長6mm)
【0067】
(3)板状充填材(C)
・C-1 タルク(日本タルク社製 MS-P 平均粒径15μm)
・C-2 タルク(林化成社製 GH-7 平均粒径6μm)
・C-3 マイカ(ヤマグチマイカ社製 A-41S 平均粒径47μm)
・C-4 タルク(日本タルク社製 MSZ-C 平均粒径11μm 表面処理品)
・C-5 タルク(日本タルク社製 SG-2000 平均粒径1μm)
・C-6 マイカ(イメリス社製 Suzorite150-NY 平均粒径90μm)
【0068】
(4)難燃剤(D)
・D-1:ジエチルホスフィン酸アルミニウム(クラリアント社製 Exolit OP1230)
・D-2:臭素化ポリスチレン(LANXESS社製 Great Lakes PDBS-80)と錫酸亜鉛(William Blythe社製 Flamtard S)の質量比5/1の混合物
【0069】
実施例1
ポリアミド(A1-1)27質量部、ポリアミド(A2-1)33質量部、板状充填材(C-1)10質量部をドライブレンドし、ロスインウェイト式連続定量供給装置(クボタ社製 CE-W-1型)を用いて計量し、スクリュー径26mm、L/D50の同方向二軸押出機(東芝機械社製 TEM26SS型)の主供給口に供給して、溶融混練を行った。途中、サイドフィーダーより繊維状強化材(B-1)30質量部を供給し、さらに混練を行った。ダイスからストランド状に引き取った後、水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。押出機のバレル温度設定は、(融点-5~+15℃)、スクリュー回転数250rpm、吐出量25kg/hとした。
【0070】
実施例2~18、比較例1~9
ポリアミド樹脂組成物の組成を表3、5に示すように変更した以外は、実施例1と同様の操作をおこなってポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。
【0071】
実施例19
ポリアミド(A1-1)21.8質量部、ポリアミド(A2-1)26.7質量部、板状充填材(C-1)1.5質量部、難燃剤(D-1)20質量部をドライブレンドした以外は、実施例1と同様の操作を行ってポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。
【0072】
実施例20~37、比較例10~18
ポリアミド樹脂組成物の組成を表4~5に示すように変更した以外は、実施例19と同様の操作をおこなってポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。
【0073】
得られたポリアミド樹脂組成物ペレットを用い、各種評価試験を行った。その結果を表3~5に示す。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
実施例1~37の樹脂組成物は、本発明の要件を満足するため、リフロー工程時のブリスター発生を低減しつつ、流動性、引張強度に優れ、実施例19~37の樹脂組成物は、難燃性に優れていた。
【0078】
比較例1、10の樹脂組成物は、板状充填材(C)の含有量が過少であったため、耐リフロー性が不十分であった。また比較例2、11の樹脂組成物は、板状充填材(C)の含有量が過多であったため、耐リフロー性は優れるものの、流動性、引張強度に劣るものであった。
比較例3、12の樹脂組成物は、繊維状強化材(B)を含まなかったため、耐リフロー性、引張強度に劣り、比較例12の樹脂組成物は、難燃剤(D)を含有しても難燃性に劣るものであった。
比較例4、13の樹脂組成物は、繊維状強化材(B)の含有量が過多であったため、また比較例5、14の樹脂組成物は、融点が270℃未満であるポリアミド(A2)を全く含まなかったため、どちらも流動性が非常に低く、流動性試験において、バーフロー金型のゲートを通過する前に樹脂が固化し、流動長の測定は不可能であった。
比較例6、15の樹脂組成物は、融点が270℃以上であるポリアミド(A1)の含有割合が低すぎ、また比較例7、16の樹脂組成物は、ポリアミド(A1)を全く含まなかったため、耐リフロー性に劣るものであった。
比較例8、17の樹脂組成物は、板状充填材(C)の平均粒径が過小であったために、耐リフロー性に劣るものであり、また比較例9、18の樹脂組成物は、板状充填材(C)の平均粒径が過大であったために、引張強度が劣るものであった。