(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】複合構造
(51)【国際特許分類】
B32B 7/06 20190101AFI20221110BHJP
B32B 7/12 20060101ALI20221110BHJP
B32B 5/12 20060101ALI20221110BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20221110BHJP
H05K 3/34 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
B32B7/06
B32B7/12
B32B5/12
B32B5/28 A
H05K3/34 510
(21)【出願番号】P 2020520837
(86)(22)【出願日】2018-06-20
(86)【国際出願番号】 GB2018051723
(87)【国際公開番号】W WO2018234801
(87)【国際公開日】2018-12-27
【審査請求日】2021-06-18
(32)【優先日】2017-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】519455667
【氏名又は名称】ジヴァ マテリアルズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】JIVA MATERIALS LTD
【住所又は居所原語表記】78 Whitehall Gardens,Chingford,London E4 6EJ (GB)
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘリング ジャック
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-113367(JP,A)
【文献】特開2004-319981(JP,A)
【文献】特開平06-154123(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
H05K 3/34
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造材料
で構成された2または複数の
構造層と、
前記
2または複数の構造層を互いに接合する接着材の1または複数の層と、を有し、
前記接着材の1または複数の層は、水内で少なくとも部分的に溶解または分離可能である、電子回路アセンブリ用の基板。
【請求項2】
電子回路アセンブリ用の基板を作る方法であって、
構造材料
で構成された2または複数の
構造層を設けることと、
前記
2または複数の構造層の間に接着材の1または複数の層を設けることで、前記1または複数の構造層を互いに接合することと、を含み、
前記接着材の1または複数の層は、少なくとも部分的に水溶性である、方法。
【請求項3】
前記1または複数の構造層は繊維質である、請求項1に記載の基板
。
【請求項4】
前記1または複数の構造層は、一方向繊維である、または、一方向繊維を含む、請求項3に記載の基板
。
【請求項5】
各構造層は、前記一方向繊維が互いに直交して配向されることで、配向の異なる各層が交互に設けられている、請求項4に記載の基板
。
【請求項6】
前記1または複数の構造層は天然材料である、または、天然材料を含み、任意で好ましくは前記天然材料が亜麻、ジュート、綿、麻、またはバガスである、請求項1または3から5のいずれか一項に記載の基板
。
【請求項7】
前記1または複数の構造層は結合剤により覆われている、請求項1または3から6のいずれか一項に記載の基板
。
【請求項8】
前記結合剤は、水溶性コーティングであり、任意でまたは好ましくは、前記結合剤はポリビニルアルコール水溶液、樹脂、ペクチン、またはポリ乳酸である、請求項7に記載の基板
。
【請求項9】
前記接着材の1または複数の層は、水溶性フィルムである、または、水溶性フィルムを含む、請求項1または3から8のいずれか一項に記載の基板
。
【請求項10】
前記接着材の1または複数の層は、スターチ/グリセリン組成物、及び、ポリオール組成物のいずれかである、請求項1または3から9のいずれか一項に記載の基板
。
【請求項11】
前記ポリオール組成物は、ポリビニルアルコール組成物、ポリビニルアセテート組成物、アクリル組成物、ポリエステル組成物、または、ポリエーテルウレタン組成物である、請求項10に記載の基板
。
【請求項12】
前記基板は、非導電性、耐火性、耐水性のコーティングを備え、任意選択で、前記コーティングは、エポキシ樹脂である、請求項1または3から11のいずれか一項に記載の基板
。
【請求項13】
前記1または複数の構造層は、生分解材料である、請求項1または3から12のいずれか一項に記載の基板
。
【請求項14】
前記1または複数の構造層は繊維質である、請求項2に記載の方法。
【請求項15】
前記1または複数の構造層は、一方向繊維である、または、一方向繊維を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
各構造層は、前記一方向繊維が互いに直交して配向されることで、配向の異なる各層が交互に設けられている、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記1または複数の構造層は天然材料である、または、天然材料を含み、任意で好ましくは前記天然材料が亜麻、ジュート、綿、麻、またはバガスである、請求項2または14から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記1または複数の構造層を結合剤でコーティングすることをさらに含む、請求項2または14から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記結合剤は、水溶性コーティングであり、任意でまたは好ましくは、前記結合剤はポリビニルアルコール水溶液、樹脂、ペクチン、またはポリ乳酸である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記接着材の1または複数の層は、水溶性フィルムである、または、水溶性フィルムを含む、請求項2または14から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記接着材の1または複数の層は、スターチ/グリセリン組成物、及び、ポリオール組成物のいずれかである、請求項2または14から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記ポリオール組成物は、ポリビニルアルコール組成物、ポリビニルアセテート組成物、アクリル組成物、ポリエステル組成物、または、ポリエーテルウレタン組成物である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記基板は、非導電性、耐火性、耐水性のコーティングを備え、任意選択で、前記コーティングは、エポキシ樹脂である、請求項2または14から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記1または複数の構造層は、生分解材料である、請求項2または14から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
熱プレスして、前記複数の構造層を接着材の層を用いて互いに接合することをさらに含み、任意選択で、形成された複合材料を硬化することをさらに含む、請求項2
または14から
24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
電子回路アセンブリを形成する方法であって、
導電性または金属製フィルムのシートを設けることと、
フォトレジストを使用して、前記導電性または金属製フィルムに対して、任意でまたは好ましくは酸エッチングにより回路パターンを印刷することと、
請求項1
または3から
13のいずれか一項に記載の基板上に前記回路パターンを設けることと、を含む方法。
【請求項27】
請求項1
または3から
13のいずれか一項に記載の基板を含む電子回路アセンブリから、電子部品を取り外す方法であって、
前記電子回路アセンブリを水の入った槽に入れることと、
前記基板の前記各構造層を分離することと、を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合構造と、それを作成する方法に関する。本発明はさらに、複合構造を、プリント基板(PCB)用の基板に使用することに関する。
【背景技術】
【0002】
「モノのインターネット(IoT)」の影響力拡大は留まるところを知らず、我々とモノ、そしてモノ同士の相互作用を劇的に変え続けている。電子産業での需要により、貴金属の価値も今までにないほど高騰している。現状の製造段階における、後の解体に対する配慮のなさが原因である。
【0003】
2014年の世界の電子廃棄物量は、4,180万メトリックトンである。これは2018年には5,000万メトリックトンに上ると予想される。その内、国の政策および方針に則って適切に処理されている電子廃棄物の量は、現在わずか15.5%である(国連大学2015年)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プリント基板を例に考える。これは通常、使い捨てのエポキシと、有害なガラス繊維を含む。一般的に、電子製品の寿命は短い。その中、PCBが不要となると、有害物質であるガラス繊維は、粉砕して焼却するか、埋め立てごみ処理場に送るほかない。即ち、ガラス繊維はリサイクルできるところがほとんどない。また、電子部品がはんだ付けで永久固定されることを考えると、取り出すのは困難で、時間がかかる。即ち、無駄が多いのである。
【0005】
本発明の態様および実施形態は、このことを考慮して考案された。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様によると、例えば複数の構造層のような、構造材料の1または複数の層を有する複合構造が提供される。複合構造は、1または複数の構造層を互いに接合する接着材の1または複数の層を有してもよい。構造材料の1または複数の層は、結合剤でコーティングされてもよい。接着材の1または複数の層は、水内で少なくとも部分的に溶解または分離可能であってもよい。
【0007】
本発明の第2態様によると、複合構造を作る方法が提供される。方法は、構造材料の1または複数の層を設けることを含む。方法はさらに、構造材料の1または複数の層を結合剤に含浸するさらに/あるいはそれでコーティングすることを含んでもよい。方法はさらに、1または複数の構造層の間に接着材の1または複数の層を設けることで、1または複数の構造層を互いに接合することを含んでもよい。接着材の1または複数の層は、少なくとも部分的に水溶性であってもよい。
【0008】
接着層と結合剤は水溶性であるため、各構造層は、水を使って容易に、環境に負担をかけずに分離可能である。即ち、化学物質/有害物質を使用する必要がない。
【0009】
第1または第2態様のいずれかについて、複合構造の主要部品は生分解性であり、さらに/あるいは非毒性である。したがって、構造は極めて環境配慮型である。形成される構造のさらなる利点として、頑丈で安定していながら、水に曝す(例えば含浸する)と、分解可能であることが挙げられる。
【0010】
第1または第2態様のいずれかに関して、1または複数の構造層は繊維質である。1または複数の構造層は、一方向繊維であるか、一方向繊維を含んでもよい。各構造層は、一方向繊維が互いに直交して配向されることで、配向の異なる各層が交互に設けられてもよい。
【0011】
層の配向を交互に変えることで(交差積層)得られる複合材料積層体は、両方向に圧縮および引張強度を持つという利点がある。別の実施形態では、層は一方向性ではない。その場合は、連続する層の配向は重要ではない。これは、例えば、構造的頑丈さがそれほど重要でない用途において、より幅広い材料が利用可能になるという利点がある。よりコスト効率の高い別材料として、チョップドファイバーを使用してもよい。その場合でも、水溶性結合剤への含浸が実施される。複合材は積層体とはならなくなるが、この方法はさらに、複合材で材料を挟むことを含んでもよい。即ち、交差積層された一方向繊維を外層として、チョップドファイバーを間に挟むのである。
【0012】
一実施形態では、1または複数の構造層は、天然または有機材料であるか、それを含む。天然材料は亜麻またはジュートであってもよい。天然/有機資源である亜麻を使用するのは有利である。亜麻は幅広く入手可能で、再生可能で、サステナビリティにも合致する。また環境にやさしく、堆肥化等を通じて容易に廃棄可能である。ただし、長い繊維に紡績可能な任意の天然/有機材料も利用できる。また、綿、麻、またはバガスを含む、その他任意の生分解性/生物由来繊維を利用してもよい。ポリ乳酸(PLA)等の生分解性高分子繊維を使用してもよい。幅に対する長さの比が高い繊維によると、複合材がより高い機械的強度を有することができる。
【0013】
一実施形態では、結合剤は、水溶性バインダまたはコーティングである。結合剤は、水溶性合成バインダであってもよい。
【0014】
結合剤は、ポリビニルアルコール水溶液または樹脂であってもよい。好ましくは、ポリビニルアルコール水溶液は、接着層同士を互いに結合し、したがって、構造層同士を互いに結合する。これにより、複合構造の強度が増す。使用されるポリビニルアルコールのグレードは、基板の耐湿性を制御/変化させるために選択されてもよい。多湿環境とのおよび外気温中での反応防止の観点から、加水分解率80から90%のグレードのポリビニルアルコールが好ましい。これは、複合構造の水および/または比較的多湿に曝されていない状態での安定性保証に寄与するという利点がある。ポリビニルアルコールは、可塑剤を含んでもよい。これは、部分的に鹸化されたポリビニルアルコールであってもよい。バインダは、ポリビニルアルコールではなく、アクリル製バインダ、ポリエステルバインダ、ポリエーテルウレタンバインダ、またはホットメルト接着剤であってもよい。
【0015】
一実施形態では、接着材の1または複数の層は、水溶性フィルムであるか、または水溶性フィルムを含む。水溶性フィルムは、スターチ/グリセリン組成物であるか、またはそれを含んでもよい。フィルムは、酸化スターチ/グリセリンフィルムであってもよい。グリセリンに可塑剤を含めてもよい。ポリビニルアセテート(PVA)、ポリビニルアルコール、アクリル、ポリエステル、またはポリエーテルウレタン等の、その他フィルム形成ポリオール組成物の水溶性バインダを利用してもよい。
【0016】
第2態様に関して、一実施形態では、方法は、最終的な複合構造に必要なサイズよりも若干大きなサイズ(幅×長さ)の、複数の構造材料シートを取得することを含んでもよい。層をコーティングすることは、各層に複数の樹脂コートを飽和および/または添加することを含んでもよい。コーティングされた層は乾燥/硬化されてもよい。方法はさらに、接着材層を、構造層の1または複数にプレス(例えば熱プレス)して、1または複数の構造層を接合することをさらに含んでもよい。構造層を細長接着フィルムで包んで、層の各側に接着することが便利である。しかし、各側にそれぞれ個別のフィルムを使用してもよい。あるいは、層の一方側のみ接着剤コーティングされてもよい。各層が積層され、例えば熱プレスにより、接着剤が、隣接する層同士を接着する。得られた積層体は、乾燥または硬化されてもよく、任意で所定のサイズに切断される。
【0017】
さらに、切断された複合材を、エポキシ等の非導電性、耐火性、耐水性樹脂でコーティングすることで、耐水性を実現してもよい。耐水性は、疎水性ナノコーティング技術を切断された複合材に施すことによっても実現され得る。
【0018】
方法は、事前に調製されたポリビニルアルコール水溶液を利用すること、またはポリビニルアルコールと水を混ぜることでポリビニルアルコール水溶液を調製することを含んでもよい。ポリビニルアルコール水溶液は、ポリビニルアルコールを(冷)水に添加して、混合物を加熱し、攪拌することで調製できる。添加するのは温水であってもよい。混合物を冷却してもよい。即ち、さらに冷水を加えてもよい。また、混合物は、所望の粘度が得られるまで、放置冷却されてもよい。
【0019】
メチルイソチアゾリン(MIT)またはブチルベンゾイソチアゾール(BBIT)等の殺菌性の補助添加物を、樹脂製造処理中に添加してもよい。これにより、ポリビニルアルコール溶液および未乾燥のあらゆる飽和生物由来繊維層上でのバクテリア成長が防止される。
【0020】
本発明の第3態様によると、電子回路アセンブリ用の基板であって、第1態様またはその1または複数の実施形態に係る複合材料を含むか、またはそれから成る基板が提供される。
【0021】
本発明の第4態様によると、電子回路アセンブリを形成する方法が提供される。方法は、銅等の導電性/金属製フィルムのシートを設けることを含んでもよい。方法はさらに、フォトレジストを使用して、導電性/金属製フィルムに対して、任意でまたは好ましくは酸エッチングにより回路パターンを印刷することを含んでもよい。方法はさらに、第3態様またはその1または複数の実施形態に係る基板上に回路パターンを設けることを含んでもよい。はんだマスクの層をさらに設けてもよい。
【0022】
方法は、グラフェンまたは導電性インク等の材料を添加して、回路を生成する処理を含んでもよい。これにより、回路は直接基板上に設けられる。したがって、回路周辺の余分な材料を除去する必要がない。
【0023】
形成された基板に、1または複数の電子部品を入れる孔を開けてもよい。孔は、基板を貫通してもしなくてもよい。即ち、本発明は、部品が貫通孔に設けられる場合と、表面に設けられる場合(伝統的なはんだ付けによる)との両方に対応するという利点がある。これにより、貫通孔と表面設置部品の両方により、従来のはんだ付け技術で、本発明の態様および実施形態を、片面および両面ボードの両方に使用できる。例えば導電性インク等のその他選択肢がある中、銅を導電性トレースに使用することで、最小の内部抵抗で動作するように電子アセンブリを構成可能となるという利点が得られる。
【0024】
基板は水に反応するため、銅トレースは、基板とは別にエッチング可能である。酸エッチングは、電子回路が高精度で印刷できるという利点がある。
【0025】
本発明の第5態様によると、第3態様に係る基板を含む電子回路アセンブリから、電子部品を取り外す方法が提供される。方法は、電子回路アセンブリを水の入った槽に入れることを含んでもよい。方法はさらに、基板の前記各構造層を分離することを含んでもよい。層は、含浸および攪拌(構造が柔軟になり、部品、トレース、および基板上に設けられたその他あらゆるものが外れて、回収可能となる)を手動で、または機械的に行うことで分離できる。したがって、再利用を目的とした部品の除去処理が格段に効率的となる。この処理を機械規模で再現する場合、標準的なPCBを粉砕して、素材を回収する際に材料ロスが避けられる。
【0026】
この分解により、基板から部品がそのまま取り外し可能なので、再利用可能となるという利点が得られる。導電性(例えば銅)トレースも取り外してリサイクル可能である。この除去処理は、倫理的、環境的のみならず経済的にも有利である。即ち、より労力のかからない取り外し方法として、システムがより大きな工業的規模でも実現できるのである。有機/天然層は、堆肥化により廃棄、または再利用/再生可能であるという利点がある。
【0027】
本発明の別々の態様および実施形態の文脈で記載された特徴は、一緒におよび/または置換可能に用いられてもよい。同様に、特徴を簡略に示すために一つの実施形態の文脈で記載されている場合も、これらの特徴はそれぞれ別々に、または任意の適切な組合せで設けられてもよい。装置との関連で記載されている特徴は、方法に関して定義され得る対応する特徴があってもよく、またこの逆のパターンもあり、これらの実施形態は具体的に考案される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本発明がよく理解されるように、以下の添付の図面を参照して、以下に例示のみを目的として実施形態を説明する。
【
図1】
図1は、基板として利用可能な複合材料を示す。
【
図2a】
図2aは、ポリビニルアルコール水溶液/樹脂を調製する方法のフローチャートを示す。
【
図2b】
図2bは、複合材料を形成するフローチャートを示す。
【
図4a】
図4aは、PCBに対して回路トレースをフォトエッチングする際に使用される印刷トレースネガを示す。
【
図5】
図5は、基板への転写前のPCBトレースを示す。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態に係るPCB200を概略的に示す。
【
図8a】
図8aは、PCBで使用されるために調製された、
図1の実施形態の基板を示す。
【
図8b】
図8bは、PCBで使用されるために調製された、
図1の実施形態の基板を示す。
【
図9】
図9は、本発明の実施形態に係る基板を使用して形成されたPCBを示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、水溶性の、ボードまたは基板10のような複合構造を作る方法を提供する。これは、「ソリュボード(商標)」という名称で製品化される。
図1(a)は基板10を示す。基板10は、複数の層12から形成される。
図1(b)の実施形態では、3つの層10a,10b,10cが示されている。好ましい実施形態では、基板10は9つの層12を有するが、特定の用途に合わせて例えば6つ以上9つ以下の任意の数の層12が使用されてもよい。異なる種類の製品に対して、異なる厚さのPCBが使用され得る。業界標準の厚さは約1.6mmで、この厚さのものが現在でも例えば白物家電や家電製品内で幅広く使用されている。多層ボードは肉薄化が進んでおり(約0.8mm)、そのような厚さのものは、携帯電話や、ハイエンド電子製品に使用されている。
【0030】
基板10は3つの構成要素から形成される。天然繊維(一方向性亜麻繊維等)の1または複数のシート12と、接合/接着フィルム28(例えば、
図7参照)である。シート12は、ポリビニルアルコール水溶液でコーティングまたは処理される。基板10はその他構成要素も含み得るが、これらが3つの主要構成要素である。
【0031】
本明細書全体で、使用される適切な天然材料として、亜麻が説明されるが、一方向繊維シートにできるその他/同様の有機材料(例えば、ジュート、綿、麻、またはバガス)も使用可能である。ポリ乳酸(PLA)のような生分解性ポリマー繊維を使用してもよい。亜麻は、例えば面積重量110g/m2(複合材の所望の特性に応じて増減可)で一方向性であってもよい。繊維は、亜麻から得られた天然ペクチンで互いに結合され得る。これは例えば、SAS Lineo製の亜麻テープ110g/m2であってもよい。あるいは、Composites Evolution Ltd製の、Biotex亜麻テープ150g/m2も利用可能である。同製品において繊維は生分解性ポリ乳酸(PLA)バイオポリマーの濃度5から10%と、亜麻天然繊維の濃度90から95%で結合されている。また、基板および基板を使用して形成した任意のもの(例えば、PCB等の電子アセンブリ)の耐湿性を向上するために、ポリビニルアルコール水溶液のグレードを変えてもよい。フィルム28は、日本合成化学工業製のHi-SelonSH-2504フィルムのように、ポリビニルアルコール系で、耐アルカリ性を提供するように配合されてもよい。
【0032】
あるいは、フィルム28は、スターチ/グリセリンフィルムであってもよいし、酸化スターチ/グリセリンフィルムであってもよい。これは、日本合成化学工業製のHi-Selon C-100フィルムのように、グリセリンに可塑剤を含めたものであってもよい。このフィルムの主成分は酸化スターチである。このフィルムは水溶性となる。
【0033】
US3413229Aに開示されたようなポリビニルアルコール組成物を利用してもよい。このような組成物は、可塑剤を含む。Kurarary Europe GmbH製の、部分鹸化ポリビニルアルコール、「Kuraray Poval」を利用してもよい。これは水溶性で、顆粒状で入手可能である。ただし、別のポリビニルアルコール組成物も利用可能であることが理解されよう。
【0034】
使用されるポリビニルアルコール/ポリビニルアルコール水溶液のグレードは、加水分解度が好ましくは80から90%で、比較的高い耐湿性を有することが好ましい。低温の水には溶解しないグレードである、即ち、特定の閾値温度超のみで溶解することが好ましい。
【0035】
Kururayポリビニルアルコール顆粒により、粘性および溶液濃度を含む所望の材料特性を発揮する樹脂/溶液を形成できる。その処理については後述する。ポリビニルアルコールが基板10内で溶解可能となる温度は、樹脂を作る際に使用されるグレードにより定義される。一実施形態では、「Kururay3-85」のグレードが利用される。
【0036】
実際に使用されるポリビニルアルコールおよび/またはスターチ/グリセリンフィルム28(いずれも水溶性)に応じて、得られる基板10に異なる様々な溶解度属性が与えられ得る。得られた基板10は、任意の温度の水に溶解可能である。ただし、最も効果的に材料特性の有効性が発揮されるように、水温は少なくとも約90℃となることが好ましい。最高温度は設定されないが、電子部品はより高温に、特に長期間曝されると、損傷する可能性がある。
【0037】
樹脂は、ポリビニルアルコール顆粒と水を混合することで製造される。混合は、加熱、攪拌、温水追加、攪拌、冷水に混合物添加、攪拌、冷却という手順で行われる。
【0038】
具体的には、樹脂は水とポリビニルアルコール顆粒を4:1の比率とした最終組成物として製造される。上記工程は、
図2aに示す例示的な製造処理のもので、以下のとおりとなる。
【0039】
(1)工程S1:ポリビニルアルコール顆粒を冷水(約10℃から20℃の温度)に対して、実質的に1:4の割合で添加する。例えば、PVA顆粒50gを、冷水200mlに添加する。顆粒は膨張し、飽和する。容器側の顆粒が完全になくなったことを確認する。
【0040】
(2)工程S2:攪拌し、得られた混合物を加熱容器に移す。加熱容器は、温水(最低温度約90℃)で満たされることが好ましい。そして再度攪拌する(顆粒が凝集し始めることに留意されたい)。
【0041】
(3)凝集したものが分散し始めるまで攪拌し続ける(約5から10分)。多少発泡が生じ得る。
【0042】
(4)ポリビニルアルコール/水溶液を覆い、約90から100℃で、5から10分煮立てる。
【0043】
(5)工程S3:ポリビニルアルコール水溶液の覆いを外し、さらに温水(例えば、約30℃)50mlを追加する。全顆粒が完全に分散するまで(さらに約5から10分)攪拌を続ける。液体量は約200mlまで減少する。
【0044】
(6)工程S4:冷水が入った別の容器に、溶液を移す。溶液が脱泡し始めるまで攪拌を続ける。工程S14:混合物を、約10℃から20℃に冷却する。
【0045】
(7)工程S5:冷却した溶液を密閉容器に移して、所望の粘度となるまで10から12時間、低温環境に放置する。
【0046】
このようにして調製されたポリビニルアルコール水溶液/樹脂および上述のポリビニルアルコールまたはスターチ/グリセリンフィルムを、亜麻の層と組み合わせて下記のように基板10を作る。
図1に一例を示す。
【0047】
基板10は、一方向性亜麻繊維による複数の層12から形成される。隣接する層12同士は、配向が交互に異なるようになっている。このような交差積層により、両方向に圧縮および引張強度が得られる。層12は、上述のポリビニルアルコール-水樹脂およびポリビニルアルコール(またはスターチ/グリセリン)フィルム28の組み合わせを使用して、互いに結合される。一実施形態では、例えば、基板10は一方向性亜麻繊維層を9層有し、合計厚さが2mmの、170×170mm基板でもよいし、例えば一方向性亜麻繊維層を6層有し、合計厚さが0.9mmの基板であってもよいし、例えば一方向性亜麻繊維層を10層有し、合計厚さが1.5mmの基板であってもよい。
【0048】
各亜麻層12は、ポリビニルアルコール樹脂に含浸されるか、2層のポリビニルアルコール樹脂が両側にコーティングまたは塗布されてもよい。これにより、材料が完全に飽和することが保証される。その後、各層を、赤外線加熱を利用して、または室温で約12時間乾燥させる。この乾燥処理により、樹脂の水が蒸発して、ポリビニルアルコール-水樹脂飽和亜麻シートが得られる。乾燥した亜麻層12は、フィルムの層間に配置されるか、片側で折った各スターチ/グリセリンフィルム(エンベロープと称する)内に配置される。これは、その後処置対象の亜麻の外周に沿ってステープル留めされるか、熱封止されてもよい。
【0049】
その後これらの層12は、交互に配向が異なるように積層されて、個別に、または互いに熱プレスされてもよい。これにより、ポリビニルアルコールの粘性が発揮され、亜麻がポリビニルアルコールまたはスターチ/グリセリンフィルム28で積層可能となる。個別に熱プレスした場合、各層12はその後所望の厚さとなるまでさらに積層、および熱プレスされる。このように積層することで、基板10は(温)水に浸すと層が剥離するようになる。例示的な製造処理の完全な詳細は以下のとおりとなる(
図2b参照)。
【0050】
(1)ロールからの一方向性亜麻を所望の長さ切断する。例えば、9枚のシートを切り取る。シートは、最終的に必要なサイズよりも若干大きくして、材料の外周部分が得られるようなサイズに切断するべきである。例えば、約170×170mmの基板を作るためには、各シート(例えば9枚のシート)を約180×180mmに切り取るべきである。切断した一方向性亜麻は、赤外線加熱で乾燥して、余分な水を繊維から除去する。含浸前の内部湿分含有量は、約10%であるべきである。工程10および11:工程S1からS5によりポリビニルアルコール-水樹脂を調製する、または調製済みのポリビニルアルコール-水樹脂を使用する。即ち、樹脂を各一方向性亜麻層、または例えば1つの/各シートの一方側に塗布する。シートS12は、樹脂で完全に覆われる/飽和することが好ましいため、2層以上のコーティングがされてもよい。まだ濡れた状態のシート(複数可)を反転し、さらに2層の樹脂をコーティングする。工程12:約120℃での赤外線加熱を利用して、または室温で12時間乾燥/硬化させる。硬化した各一方向性亜麻層を、所定のサイズに切断する。
【0051】
亜麻は、生分解性であるため、効果的かつ高コスト効率で使用できる。ただし、長い繊維に紡績可能な任意の天然/有機材料も利用できる。一方向性亜麻は、主に種子を目的として栽培される穀物の副産物であり得る。一方向性亜麻を使用することで、各層が交互に異なる配向で積層でき、基板が両方向に強度を有するようになる。亜麻は入手しやすい。北半球の多くの国で(ある程度雨が降り、比較的低い温度であればどこでも)栽培されているのである。
【0052】
(2)工程S13:乾燥亜麻シートを、ポリビニルアルコール層間(あるいは、スターチ/グリセリンフィルムのエンベロープ内)に挿入する。亜麻が滑り落ちないように、縁を熱封止またはステープル留めしてもよい。このようにしてできたサンドイッチ層は、単一のシートを、亜麻シートに被せて折って、例えば3つの縁に沿って熱封止またはステープル留めすることで固定したフィルムのエンベロープであってもよい。これにより、プレス時に、プレスの熱でカールし得るフィルムが一時的に定位置に保持される。このことから、他の固定方法も考えられる。フィルムは自己粘性が良好であると考えられる。したがって、亜麻の両側にエンベロープまたはシートを使用することは、最終製品の品質向上に寄与するので、有効である。ただし、層またはフィルムを亜麻の片側のみに適用してもよい。
【0053】
(3)工程S14:ポリビニルアルコール(またはスターチ/グリセリン)フィルムで亜麻層を挟んだものを、個別に、または互いに熱プレスする。好ましくは、各層は、交互に配向が異なる構造となるように、互いに熱プレスされる。例えば、各層を、40秒間、165℃、70重量ポンド毎平方インチ(概算値)で熱プレスする。別の実施形態では、積層体の中心が約190℃になるまで、180バールの圧力で、サンドイッチ層を熱プレスする。熱プレスは、油圧または空気圧プレス、または例えばTシャツ/その他衣服に使用されるような種類の空圧プレスで実施されてもよい。大規模生産の場合、この処理は高圧積層化(HPL)と同様となる。
【0054】
(4)工程S15:一方向性亜麻およびポリビニルアルコール積層構造を以下のようにして得る。1枚のポリビニルアルコールフィルムに挟まれた亜麻シートを、平面に置き、繊維の延在方向を記す(例えば、水平または垂直)。その上に、ポリビニルアルコールフィルムに挟まれた第2亜麻シートを載置する。その際に、第1シートの繊維に対してこのシートの繊維が直交する方向に延在することを確認する(即ち、第1シートの繊維が垂直方向に延在する場合には水平方向に、第1シートの繊維が水平方向に延在する場合には垂直方向に)。工程S16:この「交差積層」された積層体を、例えば60秒間、180℃、70重量ポンド毎平方インチ(概算値)で熱プレスするか、積層体の中心が約190℃になるまで、180バールの圧力で熱プレスする。一方向性シートの代わりに、織亜麻シートを使用してもよい。
【0055】
(5)熱プレス処理を繰り返す。亜麻層は、交互に直交するように重ねる(例えば、垂直、水平、垂直、水平等)。プレス毎に形成された積層体を反転させると、均一な接着性が実現されやすくなる。層を個別に熱プレスする場合、ポリビニルアルコールフィルムに挟まれた亜麻層を、交互に直交するように重ねることで(例えば、垂直、水平、垂直、水平等)、積層体を徐々に形成する。プレスする温度、圧力、および時間を増やすことで、均一な接着が実現されやすくなる。さらに、熱プレスを繰り返し実行する必要のある回数の低減に寄与し得る。
【0056】
(6)所望のシート厚さとなるまで、積層を続ける。ここで、各プレス処理で融点近くとなるため、各層上のフィルムは発泡する可能性があることに十分注意されたい。ただし、亜麻層を積層しながら継続的に圧力をかけることで、発砲は収まる。
【0057】
(7)工程S17:積層体(即ち基板10)が硬化して硬くなるまで放置する(例えば室温で約10分)。
【0058】
(8)工程S18:材料の荒い縁を、例えば帯鋸切り/レーザーで切断することで、所望のサイズ(例えば、約170×170mm)の基板を作る。処理対象の亜麻が、交差積層されていることで、基板10は可燃性が比較的低い。この高い耐熱性および耐炎性により、レーザー切断処理に極めて適する。レーザー切断でも燃焼が(実質的に)生じないので、損失、および外観へ悪影響が最小限で済む。例えば、厚さ2mmの基板10シートをトロテック製Speedy 300レーザーカッターで切断する場合に推奨される設定は、強度75%、速度0.6p%、自動PPI/Hzである。
【0059】
このように、交差積層を利用して形成された基板10は、両方向に圧縮および引張強度を有するという利点がある。
【0060】
本発明の態様および実施形態は、ポリビニルアルコール-水樹脂でコーティングされ、ポリビニルアルコールまたはスターチ/グリセリンフィルム28で積層された亜麻シート12の、革新的な組み合わせを提供する。ポリビニルアルコール水溶液は、加熱処理で亜麻が結合されたポリビニルアルコールまたはスターチ/グリセリンフィルムに対する結合剤として作用する。完成した複合材におけるポリビニルアルコールに対する一方向性亜麻繊維の重量の割合は、約50:50(±2%)であるべきである。これにより、得られる基板10の硬さがさらに増すという利点が得られる。
【0061】
亜麻繊維は極めてサスティナブルな天然資源であるため、利用することが有利である。ポリビニルアルコール-水樹脂は水溶性で、生分解性ポリマーである。ポリビニルアルコールまたはスターチ/グリセリンフィルム28もまた、生分解性で、水溶性である。基板10が(温)水に含浸されると、ポリビニルアルコール-水樹脂および亜麻繊維は分離する。これにより、天然材料である亜麻を堆肥化できる。ポリビニルアルコール-水樹脂は、通常の生活排水系を利用して廃棄できる。これの濃度が5%までは、水棲生物の生息を脅かすことはない。
【0062】
上述のように作られる基板10の用途の一つとして、プリント基板(PCB)用の基板が挙げられる。基板に回路を設けることで、PCBとなる。
【0063】
基板10に回路を設ける好ましい方法としては、酸フォトエッチングを利用することが挙げられる。これは、現状のPCB製造施設で一般的に利用されているものである。ただし、本発明の態様および実施形態に係る基板10を使用するには、さらなる技術的検討事項を考慮しなければならない。PCBを作るためには、金属(例えば、銅)トレースを基板10にエッチングする必要がある。ここで、基板10は水に反応するので、銅トレースは基板と別にエッチングできる。ここが従来のガラス繊維基板の場合と異なる。耐水コーティングを基板に施せば、銅を基板に貼り付けた後にエッチングできる。酸エッチングは、高精度回路の印刷を可能にするという利点がある。
【0064】
一実施形態では、使用される銅は厚さ約0.05mmで、裏に両面粘着テープが貼られる。これにより、材料の平坦性および硬質性が保たれる。これを、アクリルまたは同様の材料の、約2mmのシートに取り付ける。酸エッチング処理の完全な詳細は以下に示す。
【0065】
(1)銅シート14(厚さ約0.05mm)を、両面取付用バックボード15(例えば、アクリル製、約2mm)上に取り付ける。細かい乾湿紙を使用して、表面を粗面化し、水道水で流したのちに、水が溜まっていないことを確認する。
【0066】
(2)フォトレジストフィルム16を、取り付ける銅のサイズに切断する。任意で、または好ましくは、外周の各縁を(約)5mm広めに取る。銅14を、表面全体が触って暖かく感じるまでヒートガン/ドライヤで温める。
【0067】
(3)保護フィルムコーティングを、片側から取り外し、温めた銅14の上に置き、プリントローラを使用して、あらゆる泡を平滑化する。
【0068】
(4)フォトレジストフィルム16の最上保護コーティングを取り外し、UVボックスに移す。銅14上の回路に、印刷ネガ18を置いて、28秒間UVランプを点ける。10分間ネガ画像を置いて、現像したのち、次の工程に移る。
【0069】
(5)荒いブラシ(例えば歯ブラシ)を使用して、銅14に炭酸ナトリウム混合物を塗布して、こする。ネガの黒い部分が全て、銅14から浮き落ちて、銅トレースデザイン20が残る。水洗の後、設計どおりかを確認する。
【0070】
(6)銅をエッチング液タンク内に入れて、約2,3分または銅が全てエッチングされるまで、放置する。水洗して、全ての余分な酸が除去されたことを確認する。例えばペーパータオルで乾かす。
【0071】
図3は、約0.05mmの接着剤付き銅が上にのせられた基板に回路をエッチングする実験を示す。これは、繊維レーザー技術で実現できる。
図4aは、回路トレースのフォトエッチング処理で使用される印刷トレースネガを示す。
図4bは、約0.05mmの接着剤17付きの銅箔14に対する、酸エッチング処理を利用したテストが完了した状態を示す。疎水性コーティングを施すと、基板に銅を設置した後に、同じ工程が繰り返し実行可能である。導電性インクまたはグラフェンを塗布する添加処理を利用して、回路トレースを作成してもよい。
【0072】
(7)銅設置ボードを苛性ソーダ溶液の入った槽に含浸する。これは例えば、500mlの温水に2匙の割合で入れたもので、十分の濃度であると考えられる。すべてのフォトレジストフィルム16が除去されたことを確認する。水洗して乾燥させる。
図5は、これにより得られた銅トレース22を示す(約0.05mmの接着剤付き銅。エッチング後に基板上に移されるものとされる)。
【0073】
(8)銅をトリミングし、バックボードから除去する。これを基板10に塗布することができる。これは、ビニル転写で一般的に使用される粘着紙で実現できる。ただし、その他方法も考えられる。
【0074】
印刷されたネガ18は、従来のレーザープリンタを使用して、回路が印刷された薄いアセテート片である。ネガと称するのは、UV露光時に、あらゆる黒のものの下にあるフォトレジストフィルム16が硬化するのを防止し、あらゆる透明のもの(即ち、回路)の下のフォトレジストフィルム16は、UV曝露により硬化するためである。この硬化したフォトレジストフィルム16が、0.05mmの接着剤付き銅シート14上に設けられていることで、その下の銅トレースが、酸浴への曝露後もエッチングされない。これら合成保護領域が残存して合成されることで、銅トレースデザイン20(即ち、プリント基板上の回路)が作製される。
【0075】
図6は、従来のPCB100を概略的に示す。PCB100は基板102を有する。銅トレース122が基板10上に設けられる。さらに、はんだマスク124とシルクスクリーン126の層が、銅トレース22上に塗布される。従来のPCBの場合、トレースが酸でエッチングされるか、CNC加工される。はんだマスクとシルクスクリーンは、スクリーン印刷されるもので、通常いずれも極めて有害である。
【0076】
図7は、本発明の実施形態のように、亜麻層12と、ポリビニルアルコールまたはスターチ/グリセリンフィルム28により形成された基板10を使用して形成されたPCB200を示す。銅トレース22は上述のようにして、基板10上に塗布される。はんだマスク24の層をさらに設けてもよい。従来使用されている、より毒性の強いものよりも、乾燥フィルムはんだマスクのような環境に配慮したはんだマスクが使用されるのが好ましい(例えば、Fortexが販売する乾燥フィルムはんだマスクレジスト等)。
【0077】
図8aは、1または複数の電子部品32が取り付けられる位置に、1または複数の孔30が設けられた基板10を示す。
図8bは、銅トレース22が塗布された基板を示す。
【0078】
図9は、複数の電子部品30が設置された基板10から組み立てられたPCB200を示す。
【0079】
導電性インク等ではなく、銅を導電性トレース22に使用することで、PCBが最小限の内部抵抗で動作する、また、部品を、貫通孔と表面の両方に、従来のはんだ付けにより取り付け可能となる。このように、貫通孔内および表面上の両方に、そして従来のはんだ付け技術で部品を設置することで、本発明の態様および実施形態を、片面および両面ボードの両方に適用可能となる。導電性インクの上からグラフェンを使用することは、銅エッチングの場合と同様に、材料ロスが最小限に抑えられる。しかも、当該インクに関連した、高い内部抵抗を避けることもできる。
【0080】
ボードに設けられていたあらゆる銅は、取り外してその他個別部品と共に回収できる。これにより、標準的なガラス繊維PCBが15%であるのに対して、75から90%の回収率を実現できる。回収方法ではまず、回路ボード200を温水に含浸させて、部品が手で除去できるほど基板が柔軟になるまで待つ。これの例を
図10に示す。同図では、温水36で満たされた容器34に入れたPCB200が示されている。
【0081】
実験により、PCB200から部品32を取り外す最も効率的な処理を行うには、約1時間に亘って、水36を約80℃超に保つ必要があることが分かった。これより温度が低くても、基板10の層剥離は生じるが、かなり時間がかかってしまう。水36の温度が高いほど、反応の効果は高い。なお、温度がより高く(90℃以上)、含浸時間がより長くなると、部品32の機能が喪失し、その後再利用できなくなる可能性が高まる。含浸に、攪拌を組み合わせることで、プリント基板をリサイクルするまでに水につける必要のある回数が低減する。
【0082】
また、基板が高湿環境で脆弱となり得ることに言及することが重要であろう。基板10を、気密チャンバに入れて、湿度99%で観察する実験を実施した。基板は、大部分で影響がないことが確認された(表面が触れると湿っていた以外)。材料の絶縁性は、そのような高湿でも維持された。したがって、PCBとして形成された場合でも、機能が維持される。確認された劣化としては、試料の露出した端に、凝縮した液滴が接触し、若干層剥離が生じたのみである。疎水性コーティングまたはナノコーティング技術を適用することで、基板は湿分に触れてもその構造を維持できる。
【0083】
上述の好ましい条件下で実験を行った結果、多くの部品32が後に使用できるように回収されたことが確認された。その部品とは、LED、抵抗器、コンデンサ、電圧調整器、スイッチ、ヒューズである。今まで、部品を再利用するには、PCBからはんだを除去する必要があった。これは極めて時間がかかり、しかも多くの場合、満足のいく結果は得られない。そしてその除去処理で、部品が傷つくことも多い。一方で本発明は、人が自分の手だけを使ってPCB200の層を分離できるようにする。したがって、再利用を目的とした部品の取り外し処理が格段に効率的となる。この処理を機械規模で再現する場合には、標準的なPCBを粉砕して、素材を回収する際に材料ロスが避けられる。
【0084】
図11は、層剥離および回収処理の概略を示す。PCB200を温水36の槽34内に入れると、亜麻層12、フィルム層28、回路部品32、銅トレース/接点22が全て分離し、回収可能となる。
図12は、回収された亜麻シート12、部品32、および銅トレース22を示す。
【0085】
部品32は、そのまま取り外されるという利点がある。したがってその後、再利用される、または単純にリサイクルされる場合、洗浄すればよい。これにより部品を、その素材を最大限利用するために、研磨する必要性が低減され、単純に破棄されてしまう可能性も低減できる。この取り外し処理は、倫理的、環境的のみならず経済的にも有利である。即ち、より低労力の取り外し方法は、システムがより大きな工業的規模でも実現できるのである。
【0086】
回収可能なのは部品32と、はんだおよび回路トレース22となった貴金属だけではない。有機複合層12も堆肥化および再処理可能である。即ち、基板の新たなシートを作るのに使用される新たな一方向繊維にできるのである。フィルム層28は、通常の生活排水系を通じて廃棄できる。
【0087】
このように、既存の基板で使用された使い捨ての有害なエポキシおよびガラス繊維と異なり、材料の3つの構成要素全てが生分解性で、非毒性である。この革新的な基板の機械特性は、ガラス繊維のものに比肩する。層剥離されたボードは、再利用/再生可能である。
【0088】
溶解処理の結果、液状で残存する副産物の特性も考える必要がある。その副産物と、通常の家庭用水道水の化学実験および比較を行った。pH値から、塩素含有量まで、水の毒性に係る13の主要要素についてのデータを収集した。このデータを編纂した結果、溶解前後での差が極めて小さいことが示唆された。水の総アルカリ度およびpH値は低減したが、残存した溶液の酸性は、生活排水系で破棄するのに安全とみなされるパラメータの範囲内であった。
【0089】
基板10の3つの(主要)部品は全て、完全に生分解性であるという利点がある。部品と回路を除去すると、基板10は最終的に有機物質に還る(ただし、初期実験において、ポリビニルアルコールまたはスターチ/グリセリンフィルムが設けられると、亜麻は空気に曝されにくいことが判明した。したがって、かなり長い時間、特性が維持される。分解されると、基板の層が保護されなくなり、迅速に有機物質に還る)。一方、業界標準材料(ガラス繊維、毒性物質等)は、材料回収後は焼却または埋め立てごみ処理場に運ぶほかない。
【0090】
基板10は、その内部の3つの(主要)部品が全て生分解性であるため、既存のプロトタイプボードと、極めて多くの電子機器で使用される標準的なガラス繊維PCBとの間の何らかの種類に該当する、半永久回路基板に製造可能である。これは、電子機器製品の寿命がますます短くなることを踏まえると、有効である。
【0091】
本発明のさらなる実施形態では、これら部品を新しいPCBに再利用できる。またはデジタル報酬システムにおいて、商品取引に利用できる。さらに、ユーザが複合材料を大量に購入して再利用に必要ではない部品を売り戻したり、自分でマイクロコントローラを作るための情報を得たりすること等を行うデジタルプラットフォームが提供されてもよい。
【0092】
本発明の態様および実施形態は、PCB以外の用途にも利用できるという利点がある。基板10の製造処理は、比較的容易に、成型産業に適用できる。成型ブランクをベースとして使用する作業に熱プレスを適用することで、基板は任意の形状に硬化できる。何らかの電子的態様を有する製品は益々増えていくため、設計段階でより個性的な形状のボードが求められるのも時間の問題だろう。材料10は衝撃抵抗を有するため、防護服(ウェアラブル技術)市場での利用可能性もある。
【0093】
本開示を読み取ることにより、当業者にとってはその他の変更や変形が明白となる。これらの変更や変形は、本明細書に記載の特徴に代えて、または加えて使用され得る均等の特徴や当該技術分野で既に公知のその他特徴を伴ってもよい。
【0094】
添付の請求項は特徴の特定の組合せを対象としているが、本発明の開示の範囲には、任意の新規の特徴もしくは本明細書に明示的か否かを問わず開示された特徴の任意の新規組合せ、またはこれらを任意に一般化したものも、これらが任意の請求項に現在請求されているのと同じ発明に関するか否かを問わず、また本発明と同じ技術的課題のいずれかまたは全てを緩和するか否かを問わず、含まれると理解されよう。
【0095】
個別の複数の実施形態の文脈で説明された各特徴は、単一の実施形態で組み合わされて実現されてもよい。逆に、簡略に示すために一つの実施形態の文脈で記載されている各種特徴は、それぞれ別々に、または任意の適切な組合せで設けられてもよい。
【0096】
完全を期すために追記しておくと、「comprising(有する、含む)」という語はその他の構成要素や工程を除外するものではなく、単数で示されたものはその複数形を除外するものではなく、請求項で用いられた参照符号は特許請求の範囲を限定するよう解釈されるものではない。