(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】ワンウェイクラッチ
(51)【国際特許分類】
F16D 41/064 20060101AFI20221110BHJP
F16D 43/14 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
F16D41/064
F16D43/14
(21)【出願番号】P 2022077220
(22)【出願日】2022-05-09
【審査請求日】2022-05-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】599072943
【氏名又は名称】福島 浩晃
(74)【代理人】
【識別番号】100185270
【氏名又は名称】原田 貴史
(74)【代理人】
【識別番号】100225347
【氏名又は名称】鬼澤 正徳
(72)【発明者】
【氏名】福島 浩晃
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】実開平4-41125(JP,U)
【文献】国際公開第2010/067673(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/00
F16D 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同心状に配置され、かつ、互いに回転可能なインナレース及びアウタレースと、
前記アウタレースにおいて前記インナレースの外周面と対向する箇所に開口される収容部と、
前記収容部に配置され、かつ、前記インナレースと前記アウタレースとの間に食い込むと前記インナレースのトルクを前記アウタレースに伝達する転動体と、
前記転動体を前記インナレースと前記アウタレースとの間に食い込ませる向きに付勢するスプリングと、
を有するワンウェイクラッチにおいて、
前記収容部は、
前記スプリングにより付勢される前記転動体を前記インナレースに接触できる状態で収容する第1収容部と、
前記第1収容部につながり、かつ、前記アウタレースの回転に伴う遠心力で前記インナレースの外周面から離間され、かつ、前記スプリングの付勢に抗して移動される前記転動体を収容する第2収容部と、
を有し、
前記第1収容部は、前記転動体の外周面に接触されるように湾曲された第1内壁面を有し、
前記第2収容部は、前記転動体の外周面に接触されるように湾曲された第2内壁面を有し、
前記アウタレースの回転中心を中心とする半径方向で、前記第2内壁面の配置箇所の最大半径は、前記第1内壁面の配置箇所の最大半径より大きく、
前記第1内壁面と前記第2内壁面との接続箇所にエッジが設けられ、
前記エッジは、前記転動体が受ける遠心力が所定値以上であると、前記転動体の外周面に係合されて前記転動体が前記スプリングの付勢力で前記第2収容部から前記第1収容部へ移動することを阻止し、
前記エッジは、前記転動体が受ける遠心力が前記所定値未満であると、前記転動体の外周面から解放されて前記転動体が前記スプリングの付勢力で前記第2収容部から前記第1収容部へ移動することを許容
し、
前記アウタレースの回転中心を示す仮想線に対して垂直な平面内で、前記転動体の外周面の形状は円形であり、
前記平面内における前記アウタレースの半径方向で、前記第2収容部に収容されて前記第2内壁面に接触されている前記転動体の中心は、前記エッジ及び前記転動体が前記スプリングから付勢力を受ける位置より内側に位置する、ワンウェイクラッチ。
【請求項2】
請求項
1記載のワンウェイクラッチにおいて、
前記第2内壁面の曲率は、前記第1内壁面の曲率より大きく、かつ、前記転動体の外周面の曲率より小さい、ワンウェイクラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インナレースとアウタレースとの間において、インナレースが一方向に回転した場合のみアウタレースにトルクを伝達するワンウェイクラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
インナレースとアウタレースとの間において、インナレースが一方向に回転した場合のみアウタレースにトルクを伝達するワンウェイクラッチの一例が、特許文献1に記載されている。特許文献1に記載されている二輪車スタータ用のローラ型ワンウェイクラッチは、アウタレース、インナレース、複数のローラ、スプリング、側板を有する。アウタレースはエンジンに連結され、アウタレースは、内周にカム面を有する複数のポケットが設けられている。インナレースは、アウタレースの内径側に同心状に配置されている。インナレースはセルモータにより回転される。複数のローラは、ポケットにそれぞれ配置されてカム面に係合し、かつ、アウタレースとインナレースとの間でトルクを伝達する。スプリングは、ポケット内に設けられ、かつ、アウタレースとローラとの間に配置されている。スプリングは、一端がアウタレースに固定され、かつ、ローラをカム面に係合させる方向に付勢する。側板は、アウタレースに固定されており、側板に異物排出孔が設けられている。
【0003】
セルモータによりインナレースが第1方向に回転されるとローラがカム面に食い込み、インナレースのトルクがアウタレースに伝達されてエンジンがクランキングされる。エンジンが自律回転して、アウタレースの回転速度がインナレースの回転速度を超えると、ローラがスプリングの押し付け力に抗してポケット内で移動し、ローラによるカム面への食い込みが解除される。また、インナレースが第1方向とは逆の第2方向に回転すると、インナレースのトルクはアウタレースへ伝達されない。なお、転動体を付勢するスプリングを備えたワンウェイクラッチ例は、特許文献2-4にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5335122号公報
【文献】特許第5205207号公報
【文献】特開2007-64475号公報
【文献】特開2010-96259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者は、特許文献1-4に記載されたワンウェイクラッチにおいては、エンジンからアウタレースへ伝達されるトルクが変動すると、アウタレースの回転速度が変化してローラがポケット内で移動することにより、スプリングが伸長及び収縮を繰り返し、スプリングにヘタリが生じる、という課題を認識した。
【0006】
本開示の目的は、転動体を付勢するスプリングのヘタリを抑制することの可能なワンウェイクラッチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、互いに同心状に配置され、かつ、互いに回転可能なインナレース及びアウタレースと、前記アウタレースにおいて前記インナレースの外周面と対向する箇所に開口される収容部と、前記収容部に配置され、かつ、前記インナレースと前記アウタレースとの間に食い込むと前記インナレースのトルクを前記アウタレースに伝達する転動体と、
前記転動体を前記インナレースと前記アウタレースとの間に食い込ませる向きに付勢するスプリングと、を有するワンウェイクラッチにおいて、前記収容部は、前記スプリングにより付勢される前記転動体を前記インナレースに接触できる状態で収容する第1収容部と、前記第1収容部につながり、かつ、前記アウタレースの回転に伴う遠心力で前記インナレースの外周面から離間され、かつ、前記スプリングの付勢に抗して移動される前記転動体を収容する第2収容部と、を有し、前記第1収容部は、前記転動体の外周面に接触されるように湾曲された第1内壁面を有し、前記第2収容部は、前記転動体の外周面に接触されるように湾曲された第2内壁面を有し、前記アウタレースの回転中心を中心とする半径方向で、前記第2内壁面の配置箇所の最大半径は、前記第1内壁面の配置箇所の最大半径より大きく、前記第1内壁面と前記第2内壁面との接続箇所にエッジが設けられ、前記エッジは、前記転動体が受ける遠心力が所定値以上であると、前記転動体の外周面に係合されて前記転動体が前記スプリングの付勢力で前記第2収容部から前記第1収容部へ移動することを阻止し、前記エッジは、前記転動体が受ける遠心力が前記所定値未満であると、前記転動体の外周面から解放されて前記転動体が前記スプリングの付勢力で前記第2収容部から前記第1収容部へ移動することを許容する、ワンウェイクラッチを構成した。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、転動体が受ける遠心力が所定値以上であると、転動体が第2収容部に保持される。したがって、スプリングの伸縮が抑制され、スプリングのヘタリを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示のワンウェイクラッチの全体正面図である。
【
図2】ワンウェイクラッチの部分的な正面図である。
【
図3】
図2に示すワンウェイクラッチを、III -III 線に沿って破断した側面断面図である。
【
図4】(A)、(B)は、ワンウェイクラッチの作動を示す部分的な正面断面図である。
【
図5】(A)、(B)は、ワンウェイクラッチの作動を示す部分的な正面断面図である。
【
図6】(A)、(B)は、ワンウェイクラッチの作動を示す部分的な正面断面図である。
【
図7】(A)、(B)は、ワンウェイクラッチの作動を示す部分的な正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、ワンウェイクラッチの一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ワンウェイクラッチを説明するための全図において、同一部には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0011】
図1、
図2及び
図3に示すワンウェイクラッチ10は、例えば、自動二輪車に設けられる。具体的には、セルモータ(スタータモータ)の回転軸と、エンジンのリングギヤとの間の動力伝達経路に設けられる。エンジンは、具体的には内燃機関であり、燃料を燃焼させた際の熱エネルギをクランクシャフトの運動エネルギに変換する。クランクシャフトのトルクは、駆動輪へ伝達される。クランクシャフトにフライホイールが設けられ、フライホイールの外周面にリングギヤが設けられている。
【0012】
ワンウェイクラッチ10は、インナレース11、アウタレース12、複数組のトルク伝達部13、複数組の収容部20、カバー28を有する。インナレース11及びアウタレース12は、回転中心を表す仮想線A1を中心として同心状に配置されている。インナレース11とアウタレース12とは、相対回転が可能である。インナレース11は、セルモータの回転軸から伝達されるトルクにより、
図1において時計回りB1で回転されるものとする。アウタレース12は、仮想線A1を中心とする環状の要素であり、アウタレース12は、仮想線A1を中心とする円の半径方向で、インナレース11より外側に配置されている。なお、アウタレース12とリングギヤとは、動力伝達可能に接続される。
【0013】
図1のように、仮想線A1に対して垂直な平面内において、インナレース11の外周面15の形状は、仮想線A1を中心とする真円である。アウタレース12の内周面16の形状は、仮想線A1を中心とする真円である。
図2のように、内周面16の半径R1は、外周面15の半径R2より大きい。インナレース11及びアウタレース12は、何れも金属製である。インナレース11及びアウタレース12の材質としては、例えば、炭素鋼、ステンレス鋼が用いられる。
【0014】
トルク伝達部13は、インナレース11のトルクをアウタレース12に伝達する機構である。トルク伝達部13は、仮想線A1を中心とするアウタレース12の円周方向に、複数組、例えば、3組設けられている。3組のトルク伝達部13は、仮想線A1を中心とする半径方向で、インナレース11より外側に設けられている。3組のトルク伝達部13は同一の構成を有するため、便宜上、1組のトルク伝達部13について構成を説明する。
【0015】
トルク伝達部13は、転動体としてのローラ17、中間部材18、
図4(A)に示すスプリング19を有する。ローラ17、中間部材18、スプリング19は、何れも金属製である。ローラ17の材質としては、例えば、ステンレス鋼、セラミック等が用いられる。中間部材18及びスプリング19の材質としては、例えば、硬鋼、ステンレス鋼、シリコンクロム鋼等が用いられる。
【0016】
図3のように、アウタレース12の仮想線A1に沿った方向の端部にカバー28が固定されている。カバー28は仮想線A1を中心とする環状の要素である。アウタレース12には、3組のトルク伝達部13をそれぞれ収容する収容部20が、3組設けられている。3組の収容部20は、同一の構成であるため、便宜上、1組の収容部20の構成を説明する。収容部20は、
図2に示す第1収容部21及び第2収容部22、
図4(A)に示すスプリング収容孔23を有する。第1収容部21及び第2収容部22は、アウタレース12の内周面16に開口された凹部もしくは空間である。また、第1収容部21と第2収容部22とがつながっている。カバー28は、3組の収容部20の側方を覆うように配置されている。
【0017】
ローラ17は円柱形状であり、ローラ17は、第1収容部21及び第2収容部22内で、アウタレース12の円周方向、アウタレース12の半径方向、アウタレース12の円周方向及び半径方向に対して交差する方向、の何れにおいても移動可能である。ローラ17は、
図2に示す仮想線A1を中心として公転可能であり、かつ、ローラ17は、仮想線A2を中心として自転(回転)可能である。仮想線A2は、ローラ17の中心を表す。
図3のように、仮想線A1を含む平面内で、仮想線A1と仮想線A2とは平行である。ローラ17は、アウタレース12及びカバー28により、仮想線A2に沿った方向に移動することが制限されている。
【0018】
図2のように、第1収容部21は、内壁面24及び接続壁30により囲まれた空間である。内壁面24は、ローラ17の外周面25が接触される。仮想線A1に対して垂直な平面内において、内壁面24は湾曲されている。内壁面24は、アウタレース12の回転方向における所定の範囲に亘って設けられている。ローラ17の外周面25がインナレース11の外周面15に接触している状態において、内壁面24は、ローラ17の外接円C1より内側に位置する第1位置P1から、外接円C1より外側に位置する第2位置P2の範囲に亘って配置されている。
【0019】
アウタレース12の回転方向である時計回りB1において、第1位置P1より後方に第2位置P2が配置されている。アウタレース12の半径方向で、第1位置P1より外側に第2位置P2が配置されている。内壁面24の形状は、時計回りB1に沿って進むことに伴い、仮想線A1を中心とする半径が小さくなるように、緩やかに変化している。内壁面24の曲率は、ローラ17の外周面25の曲率より小さい。接続壁30は、内壁面24と内周面16とをつないでいる。
【0020】
また、アウタレース12が時計回りB1で回転されることを想定すると、アウタレース12の回転方向において、第2収容部22は、第1収容部21の後方に設けられている。
図2のように、第2収容部22の内壁面26と、内壁面24との接続箇所にエッジ27が設けられている。仮想線A1に対して垂直な平面内で、第2位置P2及びエッジ27は、同じ位置にある。内壁面26は、第2位置P2から第3位置P3の範囲に亘って設けられている。アウタレース12の回転方向である時計回りB1において、第2位置P2より後方に第3位置P3が配置されている。アウタレース12の半径方向において、第2位置P2より内側に第3位置P3が配置され、かつ、第1位置P1より内側に第3位置P3が配置されている。
【0021】
内壁面26は、仮想線A1を中心とする平面内において湾曲、例えば、円弧状に湾曲されている。内壁面26の曲率は、内壁面24の曲率より大きく、かつ、ローラ17の外周面25の曲率より小さい。アウタレース12の半径方向において、第2収容部22の一部及び内壁面26の一部は、第2位置P2より外側に配置されている。エッジ27と第3位置P3との間の距離は、ローラ17の直径より大きい。また、
図1のように、仮想線A1を中心とする半径方向で、内壁面26の配置箇所の最大半径R4は、内壁面24の配置箇所の最大半径R3より大きい。
【0022】
図4(A)のように、スプリング収容孔23は、アウタレース12の外周面29から第2収容部22に亘って貫通されている。スプリング収容孔23の一部には、プラグ32が嵌め込まれて固定されている。プラグ32はスプリング19の反力を受ける。スプリング19は、スプリング収容孔23及び第2収容部22に亘って配置されている。スプリング19は、スプリング収容孔23の中心を表す仮想線C3に沿った方向に伸縮可能である。スプリング19は、圧縮コイルスプリングである。中間部材18は、スプリング収容孔23及び第2収容部22に亘って配置されている。
【0023】
中間部材18は、スプリング19における第2収容部22側の端部に被せられている。中間部材18は筒形状であり、仮想線C2に沿った方向で中間部材18の端部が閉じられている。中間部材18は、スプリング19の弾性復元力に応じた付勢力で仮想線C2に沿った方向に押され、かつ、中間部材18の端部がローラ17に押し付けられる。中間部材18は、スプリング19の付勢力をローラ17へ伝達する。なお、アウタレース12には、第2収容部22とアウタレース12の外部とをつなぐ排出孔31が設けられている。排出孔31は、収容部20内の異物を、アウタレース12の外部に排出するために設けられている。
【0024】
ワンウェイクラッチ10の作用を説明する。セルモータが停止されていると、インナレース11は、
図4(A)において停止されている。ローラ17は、スプリング19により接続壁30に向けて常に付勢されている。ローラ17の外周面25は、インナレース11の外周面15及び内壁面24にそれぞれ接触され、ローラ17の大半は、実線で示すように第1収容部21内で停止している。また、アウタレース12も停止している。
【0025】
エンジンを始動させる条件が成立すると、セルモータが回転され、インナレース11は、セルモータから伝達されるトルクで
図4(A)において時計回りB1で回転される。すると、ローラ17は、インナレース11との摩擦力により、
図4(A)において反時計回りで所定角度の範囲内で自転し、ローラ17が内壁面24に沿って転動する。このため、ローラ17は、アウタレース12に対して接続壁30へ近づき、ローラ17が、インナレース11の外周面15と、アウタレース12の内壁面24との間に食い込む。そして、ローラ17の自転が終了すると、インナレース11のトルクがローラ17を介してアウタレース12に伝達され、
図4(B)のように、インナレース11及びアウタレース12が、時計回りB1で同一速度で回転する。
【0026】
このようにして、セルモータのトルクが、インナレース11及びローラ17を介してアウタレース12に伝達され、エンジンのクランクシャフトがクランキングされる。また、エンジンを始動させる条件が成立すると、エンジンの燃焼室へ燃料と空気との混合ガスが供給されて燃焼し、その熱エネルギがクランクシャフトの運動エネルギに変換され、クランクシャフトが自律回転する。
【0027】
クランクシャフトが自律回転されてアウタレース12の回転速度が上昇し、アウタレース12の回転速度がインナレース11の回転速度を超えると、ローラ17は、
図5(A)において時計回りに自転する。このため、ローラ17は二点鎖線で示す位置から、仮想線A1を中心として公転し、スプリング19の付勢力に抗して、実線で示すように移動する。また、セルモータが停止され、インナレース11が停止する。
【0028】
ローラ17は、アウタレース12と共に仮想線A1を中心として公転するため、アウタレース12の回転速度の上昇に伴い、ローラ17は、遠心力で内壁面24へ押し付けられる。前述のように、内壁面24の形状は、時計回りB1に沿って進むことに伴い、仮想線A1を中心とする半径が小さくなるように、緩やかに変化している。このため、ローラ17は、
図5(B)のように、内壁面24に沿い、かつ、スプリング19の付勢力に抗して更に移動し、ローラ17の外周面25がインナレース11の外周面15から離れる。このようにして、ローラ17はエッジ27へ乗り上げる。
【0029】
さらに、アウタレース12の回転速度が上昇し、ローラ17が受ける遠心力が増加すると、ローラ17は、エッジ27を乗り越え、かつ、アウタレース12の半径方向で外側に向けて移動する。つまり、ローラ17が第2収容部22へ進入する量が増加する。アウタレース12の回転速度が上昇して、ローラ17が受ける遠心力が更に増加すると、ローラ17は、アウタレース12の半径方向で外側に向けて更に移動する。そして、
図6(A)のように、ローラ17の外周面25が内壁面26に接触すると、ローラ17が停止する。ローラ17が停止した状態において、仮想線A1を中心とするアウタレース12の半径方向で、ローラ17の中心である仮想線A2は、ローラ17と中間部材18との接触点Q1及びエッジ27より内側に位置する。
【0030】
そして、アウタレース12の回転速度が、基準回転速度以上であることにより、ローラ17が受ける遠心力が所定値以上であると、ローラ17の一部が第2収容部22内に位置し、かつ、外周面25が内壁面26に接触した状態で、ローラ17が停止、つまり、保持される。これは、ローラ17をエッジ27に乗りあげさせようとする第1荷重よりも、ローラ17がエッジ27に乗り上げることを阻止する第2荷重の方が大きいためである。つまり、エッジ27がローラ17の外周面25に係合され、エッジ27は、ローラ17がスプリング19の付勢力で第2収容部22から第1収容部21へ移動することを阻止する。
【0031】
第1荷重は、ワンウェイクラッチ10の工学的な条件に応じて定まる値である。ワンウェイクラッチ10の工学的な条件は、スプリング19の弾性復元力を含む。スプリング19の弾性復元力が高い程、第1荷重は相対的に高くなる。スプリング19の弾性復元力は、スプリング19のバネ定数に応じて定まる。スプリング19のバネ定数が大きくなる程、スプリング19の弾性復元力が高くなる。第2荷重は、ローラ17が受ける遠心力、
図2に示すアウタレース12の半径方向における第2収容部22の深さW1等に応じて定まる値である。
【0032】
深さW1は、第4位置P4の接線D1と、第2位置P2を通る直線D2との最短距離である。第4位置P4は、内壁面26のうち、アウタレース12の半径方向で最も外側に相当する位置である。直線D2は、接線D1と平行な線分である。ローラ17が受ける遠心力は、アウタレース12の回転速度に応じて定まる。具体的に説明すると、アウタレース12の回転速度が相対的に高い程、ローラ17が受ける遠心力は相対的に高くなり、かつ、第2荷重が相対的に高くなる。また、深さW1が相対的に大きくなる程、第2荷重が相対的に高くなる。
【0033】
図6(A)のように、ローラ17の外周面25が内壁面26に接触し、かつ、ローラ17が停止している状態から、アウタレース12の回転速度が低下して、アウタレース12の回転速度が基準回転速度未満になると、ローラ17が受ける遠心力が所定値未満になる。すると、ローラ17をエッジ27に乗り上げさせようとする第1荷重が、ローラ17がエッジ27に乗り上げることを阻止する第2荷重より大きくなり、ローラ17は、スプリング19の付勢力で移動され、ローラ17の外周面25は内壁面26から離間され、
図6(B)のように、ローラ17がエッジ27へ乗り上げる。
【0034】
アウタレース12の回転速度が更に低下すると、ローラ17が受ける遠心力が更に低下し、スプリング19の付勢力により、ローラ17が
図7(A)のようにエッジ27を乗り越える。つまり、エッジ27は、ローラ17の外周面25から解放され、エッジ27は、スプリング19の付勢力でローラ17が第2収容部22から第1収容部21へ移動することを許容する。アウタレース12の回転速度がさらに低下すると、ローラ17が受ける遠心力がさらに低下するため、スプリング19により付勢されるローラ17は、内壁面24に沿って転動し、接続壁30へ接近する。アウタレース12が停止すると、
図7(B)のように、スプリング19の付勢力で、ローラ17の外周面25がインナレース11の外周面15及び内壁面24に押し付けられ、ローラ17が停止する。
【0035】
本開示において、ローラ17の一部が第2収容部22内に位置し、かつ、外周面25が内壁面26に接触した状態で、ローラ17が停止される基準となるアウタレース12の基準回転速度は、エンジンのアイドル回転速度に応じた値である。エンジンのアイドル回転速度は、例えば、1,200[r/min]である。
【0036】
ところで、エンジンは、機械工学上、自律回転中にトルク変動(回転ムラ)が生じることがある。例えば、4ストローク・1サイクルの単気筒エンジンにおいては、吸気行程から爆発行程へ移行する過程で、トルク変動が生じる。本開示のワンウェイクラッチ10は、エンジントルクの変動が生じた場合に、スプリング19の伸縮を抑制できる。具体的に説明すると、ワンウェイクラッチ10は、アウタレース12の回転速度が基準回転速度以上であることにより、ローラ17が受ける遠心力が所定値以上であると、ローラ17の一部が第2収容部22内に位置し、かつ、外周面25が内壁面26に接触した状態で、ローラ17が停止される。
【0037】
このため、エンジンのトルク変動が生じて、アウタレース12の回転速度が変化したとしても、アウタレース12の回転速度が基準回転速度以上であると、ローラ17をエッジ27に乗りあげさせようとする第1荷重よりも、ローラ17がエッジ27に乗り上げることを阻止する第2荷重の方が大きい。つまり、エッジ27がローラ17の外周面25に係合されており、エッジ27は、ローラ17がスプリング19の付勢力で第2収容部22から第1収容部21へ移動することを阻止する。したがって、エンジンがアイドル回転速度以上である場合において、スプリング19の伸縮が抑制され、スプリング19のヘタリを抑制できる。つまり、スプリング19に応力が集中して塑性ひずみが発生することを抑制でき、スプリング19の耐久性が向上する。
【0038】
上記説明では、アウタレース12の基準回転速度は、エンジンのアイドル回転速度に応じた回転速度である例を挙げている。本開示のワンウェイクラッチ10は、アウタレース12の基準回転速度を、前述した第1荷重または第2荷重の少なくとも一方をチューニングすることにより変更可能である。第1荷重をチューニングするためには、ワンウェイクラッチ10の構造上の諸条件、例えば、スプリング19の弾性復元力を変更する。具体的には、スプリング19のバネ定数を大きくする程、第1荷重が高くなる。また、第2荷重をチューニングするためには、第2収容部22の深さW1を変更する。深さW1を浅くする程、第2荷重が低下する。
【0039】
そして、第1荷重を高くする程、または、第2荷重を低くする程、アウタレース12の基準回転速度を低下させることができる。つまり、アウタレース12の基準回転速度を、エンジンのアイドル回転速度に応じた回転速度より低い値に設定できる。このため、エンジンの停止を除く殆ど全ての回転速度の範囲においてエンジンのトルク変動が生じた場合に、スプリング19の伸縮を抑制できる。なお、インナレース11が
図1において反時計回りで回転されたとしても、ローラ17は、インナレース11の外周面15と、アウタレース12の内壁面24との間に食い込まない。したがって、インナレース11のトルクは、アウタレース12に伝達されない。
【0040】
本実施形態で説明した事項の技術的意味の一例は、次の通りである。ワンウェイクラッチ10は、ワンウェイクラッチの一例である。インナレース11は、インナレースの一例である。アウタレース12は、アウタレースの一例である。外周面15は、インナレースの外周面の一例である。外周面25は、転動体の外周面の一例である。収容部20は、収容部の一例である。ローラ17は、転動体の一例である。スプリング19は、スプリングの一例である。第1収容部21は、第1収容部の一例である。第2収容部22は、第2収容部の一例である。内壁面24は、第1内壁面の一例である。内壁面26は、第2内壁面の一例である。内壁面26及びエッジ27は、阻止機構の一例である。最大半径R4は、第2内壁面の最大半径の一例である。最大半径R3は、第1内壁面の最大半径の一例である。仮想線A1は、アウタレースの回転中心線の一例である。仮想線A2は、転動体の中心の一例である。接触点Q1は、「転動体がスプリングから付勢力を受ける位置」の一例である。
【0041】
本実施形態のワンウェイクラッチは、図面を用いて開示されたものに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、本実施形態において、転動体は、円柱形状のローラに代えて、ボールであってもよい。トルク伝達部は、アウタレースの円周方向に4組以上が設けられていてもよい。また、ワンウェイクラッチは、自動二輪車のセルモータとエンジンのリングギヤとの間の動力伝達経路の他、車両の駆動力源と駆動輪との間の動力伝達経路、産業機械の動力源と作動部材との間の動力伝達経路、に設けることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本実施形態のワンウェイクラッチは、自動二輪車のセルモータとエンジンとの間の動力伝達経路に設けるワンウェイクラッチとして利用可能である。
【符号の説明】
【0043】
10…ワンウェイクラッチ、11…インナレース、12…アウタレース、15,25…外周面、17…ローラ、19…スプリング、20…収容部、21…第1収容部、22…第2収容部、24,26…内壁面、27…エッジ、R3,R4…半径、A1,A2…仮想線Q1…接触点
【要約】
【課題】本開示の目的は、転動体を付勢するスプリングのヘタリを抑制することの可能なワンウェイクラッチを提供する。
【解決手段】インナレース11及びアウタレース12と、アウタレース12に設けられる収容部20と、インナレース11のトルクをアウタレース12に伝達するローラ17と、ローラ17を付勢するスプリングと、を有するワンウェイクラッチ10において、収容部20は、ローラ17を収容できる第1収容部21及び第2収容部22を有し、アウタレース12は、第2収容部22に収容されているローラ17が、スプリングの付勢力で第2収容部22から第1収容部21へ移動することを阻止するエッジ27を有し、エッジ27は、ローラ17が受ける遠心力が所定値以上であると、ローラ17がスプリングの付勢力で第2収容部22から第1収容部21へ移動することを阻止する。
【選択図】
図2