(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】ねじ式クランプ
(51)【国際特許分類】
F16B 2/12 20060101AFI20221110BHJP
B25B 5/10 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
F16B2/12 B
B25B5/10
(21)【出願番号】P 2022097792
(22)【出願日】2022-06-17
【審査請求日】2022-07-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390030328
【氏名又は名称】イーグルクランプ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085589
【氏名又は名称】▲桑▼原 史生
(72)【発明者】
【氏名】橋上 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】宮嵜 祐樹
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-037919(JP,A)
【文献】特開2002-205279(JP,A)
【文献】特開2007-069313(JP,A)
【文献】特開2007-131375(JP,A)
【文献】特開2011-226553(JP,A)
【文献】特開2013-244538(JP,A)
【文献】特開2021-029792(JP,A)
【文献】登録実用新案第3203093(JP,U)
【文献】登録実用新案第3232494(JP,U)
【文献】特表2022-516691(JP,A)
【文献】登録実用新案第3119157(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 2/12
B25B 5/00- 5/16
B66C 1/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を挟んで対向する一対の脚部を有する概してU字形のクランプ本体と、一方の脚部に装着される受け金と、他方の脚部を貫通する装着孔に対して相対回転不能且つ軸方向に相対移動可能に装着されるプレッシャナットと、プレッシャナットの雌ねじに螺合されて受け金に対向する方向に進退可能な締付ボルトと、プレッシャナットを開口に向けて突出させる方向に付勢する第一の付勢手段と、第一の付勢手段の締付方向後方に隣接して配置される第一の付勢手段より大きなバネ圧を有する第二の付勢手段と、受け金と締付ボルトの間に吊荷を挟んだ状態で締付ボルトが締め付けられることによりプレッシャナットが第一の付勢手段に抗して第一の位置に後退したときにプレッシャナットの前端拡径部に当接するように設けられる移動伝達手段と、さらに締付ボルトが締め付けられることにより移動伝達手段を介して第二の付勢手段に抗してプレッシャナットが第一の位置からさらに第二の位置まで後退したときに吊荷に規定の締付力が働いたことを示す締付確認手段と、を有してなることを特徴とするねじ式クランプ。
【請求項2】
前記第一の付勢手段が、プレッシャナットの外周に配置されるコイルばねであり、前記第二の付勢手段が、装着孔において内方に向かう第一の係止面とコイルバネとの間に配置される皿ばねであることを特徴とする、請求項1記載のねじ式クランプ。
【請求項3】
前記移動伝達手段が、装着孔内において第一の付勢手段を囲むように設けられるカラーであることを特徴とする、
請求項1記載のねじ式クランプ。
【請求項4】
プレッシャナットが後退して、装着孔において内方に向かう第二の係止面に突き当たったときに、プレッシャナットが前記第二の位置を取ることを特徴とする、
請求項1記載のねじ式クランプ。
【請求項5】
プレッシャナットの前記第一の位置と前記第二の位置との間の軸方向距離が、締付ボルトのピッチの略1/4に相当することを特徴とする、
請求項1記載のねじ式クランプ。
【請求項6】
前記締付確認手段が、プレッシャナットの先端部の外周に設けられ、規定の締付力に到達するまではクランプ本体の開口に露出して目視できるが、規定の締付力が得られたときに前記他方の脚部内に埋没して目視できなくなることを特徴とする、
請求項1記載のねじ式クランプ。
【請求項7】
前記締付確認手段が、プレッシャナットの後端部の外周に設けられ、規定の締付力に到達するまではクランプ本体の前記他方の脚部内に埋没して目視できないが、規定の締付力が得られたときに前記他方の脚部の外側に露出して目視できるようになることを特徴とする、
請求項1記載のねじ式クランプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ式クランプに関し、特に、ねじ式クランプにおいて吊荷に規定の締付力(締付トルク)が働いたことを示す締付確認機構についての改良に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人らは、下記特許文献1において、ねじ式クランプの回転顎と締付ボルトとの間に挟持した吊荷を安全に吊り上げるために、該ワークに規定の締付力(たとえば150kg.cmまたはそれ以上)が働いたことを示す締付確認機構を設けることを提案した。
【0003】
すなわち、U字形のクランプ本体を構成する一方の脚部に回転自在に装着される回転顎と、他方の脚部を貫通する装着孔に対して相対回転不能且つ軸方向に相対移動可能に装着されるプレッシャナットと、プレッシャナットの雌ねじに螺合して回転顎に対向する締付ボルトと、プレッシャナットの先端部を他方の脚部の内側開口端から突出させる方向に付勢する付勢手段と、を備えたねじ式クランプにおいて、回転顎と締付ボルトの間に吊荷を挟んだ状態で締付ボルトを締め付けたときにプレッシャナットが付勢手段に抗して所定距離後退したことをもって規定の締付力が吊荷に働いたことを確認するための締付確認手段(締付確認リング)をプレッシャナットに設けた。
【0004】
このような締付確認機構を採用することにより、回転顎と締付ボルト先端との間に吊荷を挟持した状態で締付ボルトを締付方向に回転させていくと、付勢手段が徐々に収縮し、これに伴ってプレッシャナットが徐々に他方の脚部の装着孔内に埋没していく。したがって、プレッシャナットの先端所定箇所の外周部に設けられた締付確認リング(28)は、締付の初期段階では一対の脚部間の開口に露出して目視確認することができる(特許文献1:
図2)が、規定の締付トルクが吊荷に働いたときに他方の脚部内に完全に埋没して見えなくなる(特許文献1:
図3)。作業者は、この締付確認リングの状態変化を目視することにより、規定の締付トルクが吊荷に働いたことを容易に確認することができるため、クレーン等による吊り上げ、運搬時に吊荷が落下する危険を未然に回避して、作業の安全性を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
出願人は、特許文献1に開示された構成のねじ式クランプを永年に亘って製造販売し、締付確認機構を採用したことの有意性について高い評価を得ていたものの、さらなる改良の余地があることを知見した。以下に詳しく記述する。
【0007】
特許文献1では、締付確認機構において重要な役割を果たす付勢手段として、実施例ではコイルばねを用いている。当業界において周知であるように、付勢手段として各種製品に多用されているコイルばねは、荷重をうけたときの収縮量(変位量)が大きい。既述したように、この締付確認機構においては、締付ボルトの締付方向回転につれて付勢手段が収縮し、これによってプレッシャナットが後退移動することによって、締付確認リングに状態変化(それまで見えていたものが隠れて見えなくなる)を生じさせることを前提としている。この状態変化を作業者が確実且つ容易に目視確認するためには、プレッシャナットを一定程度の距離以上移動させる必要があり、したがって、変位量が大きい特性を有するコイルばねを用いることが適していると考えられた。また、コイルばねは、比較的軽微な力でもばね圧に抗して大きく収縮させることができるので、締付ボルトの締付方向回転を行う際のハンドル操作を容易にし、作業性を良好に保持することができる点においても好ましいものと考えられた。
【0008】
しかしながら、コイルばねに規定の締付力に相当するばね圧を持たせるためには、線径の太い大きなコイルばねが必要となるが、ねじ式クランプにおいて締付確認機構に用いられる付勢手段は、他方の脚部に形成された装着孔とプレッシャナットとの間の限られたスペースに配置しなければならない。このため、従来のネジ式クランプにおいては、吊荷に規定の締付力を与えるに十分なばね圧を有する大きなコイルばねを用いることが実際上困難であった。また、仮に、規定の締付力に応じたばね圧を有するような線径の太い大きなコイルばねを用いることが可能であったとしても、締付確認リングの状態変化を確実且つ容易に目視確認できる程度に大きく収縮させるためには、その大きなばね圧を上回るだけの大きな力が必要となり、締付ボルトを締付方向に回転させる際のハンドル操作が困難となり、作業性が悪くなる。
【0009】
上記したような理由により、従来のねじ式クランプでは、要求される締付力より小さいばね圧を有する比較的小さなコイルばねを採用せざるを得ないことが多かった。この場合、締付ボルトを締付方向に回転させる際のハンドル操作は容易であるが、プレッシャナットが後退移動して締付確認リングが他方の脚部内に隠れた時点では、吊荷に対する締付力が不足していることになる。したがって、この時点でハンドル操作を終えてしまうと、規定の締付力が発生していない状態で吊荷を吊り上げることになり、ねじ式クランプが吊荷から外れてしまい、吊荷の落下による重大事故が発生する恐れがある。
【0010】
実際の作業においては、上記の危険性を作業者に十分に理解させた上で、作業者に対して、締付確認リングが隠れた後に、さらにハンドル操作により締付ボルトを一定程度増し締めして規定の締付力を与えるように注意喚起しているが、どの程度の増し締めが必要且つ十分であるかは経験則に頼らざるを得ず、作業者の個人差が大きかった。増し締めが不十分であると、規定の締付力が得られずに吊荷落下の危険性が完全には回避できず、反対に、安全を見込んで過度に増し締めすることによる作業性の悪化も懸念されていた。
【0011】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、上記懸念や問題を解決し、作業者の個人差や経験則に関わらず、吊荷に対して規定の締付力が得られたことを常に確実且つ容易に目視確認することができ、しかも作業性を良好に維持することができるように改良された締付確認機構を有するねじ式クランプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題を解決するため、請求項1に係る本発明は、開口部を挟んで対向する一対の脚部を有する概してU字形のクランプ本体と、一方の脚部に装着される受け金と、他方の脚部を貫通する装着孔に対して相対回転不能且つ軸方向に相対移動可能に装着されるプレッシャナットと、プレッシャナットの雌ねじに螺合されて受け金に対向する方向に進退可能な締付ボルトと、プレッシャナットを開口に向けて突出させる方向に付勢する第一の付勢手段と、第一の付勢手段の締付方向後方に隣接して配置される第一の付勢手段より大きなバネ圧を有する第二の付勢手段と、受け金と締付ボルトの間に吊荷を挟んだ状態で締付ボルトが締め付けられることによりプレッシャナットが第一の付勢手段に抗して第一の位置に後退したときにプレッシャナットの前端拡径部に当接するように設けられる移動伝達手段と、さらに締付ボルトが締め付けられることにより移動伝達手段を介して第二の付勢手段に抗してプレッシャナットが第一の位置からさらに第二の位置まで後退したときに吊荷に規定の締付力が働いたことを示す締付確認手段と、を有してなることを特徴とするねじ式クランプである。
【0013】
請求項2に係る本発明は、請求項1記載のねじ式クランプにおいて、前記第一の付勢手段が、プレッシャナットの外周に配置されるコイルばねであり、前記第二の付勢手段が、装着孔において内方に向かう第一の係止面とコイルバネとの間に配置される皿ばねであることを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る本発明は、請求項1または2記載のねじ式クランプにおいて、前記移動伝達手段が、装着孔内において第一の付勢手段を囲むように設けられるカラーであることを特徴とする。
【0015】
請求項4に係る本発明は、請求項1ないし3のいずれか記載のねじ式クランプにおいて、プレッシャナットが後退して、装着孔において内方に向かうる第二の係止面に突き当たったときに、プレッシャナットが前記第二の位置を取ることを特徴とする。
【0016】
請求項5に係る本発明は、請求項1ないし4のいずれか記載のねじ式クランプにおいて、プレッシャナットの前記第一の位置と前記第二の位置との間の軸方向距離が、締付ボルトのピッチの略1/4に相当することを特徴とする。
【0017】
請求項6に係る本発明は、請求項1ないし5のいずれか記載のねじ式クランプにおいて、前記締付確認手段が、プレッシャナットの先端部の外周に設けられ、規定の締付力に到達するまではクランプ本体の開口に露出して目視できるが、規定の締付力が得られたときに他方の脚部内に埋没して目視できなくなることを特徴とする。
【0018】
請求項7に係る本発明は、請求項1ないし5のいずれか記載のねじ式クランプにおいて、前記締付確認手段が、プレッシャナットの後端部の外周に設けられ、規定の締付力に到達するまではクランプ本体の他方の脚部内に埋没して目視できないが、規定の締付力が得られたときに他方の脚部の外側に露出して目視できるようになることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、受け金と締付ボルトの間に挟んだ吊荷に対して規定の締付力が働いたことを示す締付確認機構に、締付ボルトにばね圧が小さく、したがって荷重を受けたときの変位量ないしストロークが大きい特性を有する第一の付勢手段(コイルばね)と、ばね圧が大きく、したがって荷重を受けたときの変位量ないしストロークが小さい特性を有する第二の付勢手段(皿ばね)と、受け金と締付ボルトの間に吊荷を挟んだ状態で締付ボルトを締め付けることによりプレッシャナットが第一の付勢手段に抗して後退して第一の位置に移動したときにプレッシャナットの後端に当接する先端を有する移動伝達手段と、プレッシャナットが第二の付勢手段に抗してさらに後退して第二の位置に移動したことをもって吊荷に規定の締付力が働いたことを示す締付確認手段と、が用いられている。
【0020】
これにより、第一の付勢手段の変位量が大きいという特性を生かして、締付ボルトを締め付けていってプレッシャナットが移動伝達手段に当接する第一の位置に至るまでの移動を比較的軽微な力で可能にすると共に十分なストロークを与えることができると共に、第二の付勢手段のばね圧が大きいという特性を生かして、移動伝達手段を介してプレッシャナットを第一の位置から第二の位置まで移動させたときに吊荷に規定の締付力を与えるようにすることができ、これを締付確認手段を介して確認することができる。
【0021】
したがって、本発明によれば、比較的小型のねじ式クランプであっても、限られたスペースに締付確認機構を設置することができ、しかも、締付ボルトを締め付ける際の作業性と、締付確認手段の状態変化を目視することにより吊荷に規定の締付力が働いたことを容易且つ確実に確認して安全に吊り上げや運搬を行えるようにする安全性とを両立させることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態によるねじ式クランプ(無負荷状態)の正面図である。
【
図2】このねじ式クランプを
図1下側から見た図である(ハンドル省略)。
【
図3】このねじ式クランプを
図1右側から見た図である(ハンドル省略)。
【
図4】このねじ式クランプにおける締付確認機構の要部を示す
図3A-A断面図である。
【
図5】このねじ式クランプに吊荷をセットした状態でハンドル操作により締付ボルトを締付方向に回転させた途中の段階を示す
図4と同様の要部断面図である。この時点では、皿ばねは圧縮されておらず、コイルばねのみが圧縮されて、プレッシャナット前端拡径部がカラーの先端に当接するに至っている。締付確認ラインは完全には脚部内に埋没しておらず、一部が開口に露出している、プレッシャナットの第一の位置を示す図である。
【
図6】
図5の状態からさらにハンドル操作により締付ボルトを締付方向に回転させて吊荷に規定の締付力を作用させた状態を示す
図4と同様の要部断面図である。カラーに押されて皿ばねが圧縮されて、締付確認リングが完全に脚部内に埋没して見えなくなった、プレッシャナットの第二の位置を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に本発明の一実施形態によるねじ式クランプの構成および作用について、
図1ないし
図6を参照して詳細に説明する。
【0024】
このねじ式クランプ10は、特許文献1に開示される従来技術によるものと概ね同様の基本構成を有するが、後述するところから理解されるように、締付確認機構についての改良が含まれている。
【0025】
略U字形をなすクランプ本体11は吊荷(図示省略)を受け入れる開口12を挟んで対向する一対の脚部13、14を有する。さらに、クランプ本体11を直交する2方向に吊り上げ可能とするための2つの吊環26、27を備えている。
【0026】
脚部13には、開口12に向けて突出する方向に常時ばね付勢される回転顎15が回転自在に装着されている。回転顎15をばね付勢する機構および回転自在とする機構は特に限定されず、且つ、特許文献1に明りょうに開示されているので、ここでは詳細を割愛する。かくして、回転顎15はクランプ本体11に対して回転自在であり、且つ、ばね力以上の力が与えられたときには該ばね力に抗して
図1の位置から脚部13の内部に埋没する方向に後退する。
【0027】
脚部14には、プレッシャナット16が相対回転不能且つ軸方向に相対移動可能に装着されている。脚部14には、プレッシャナット16を受容するために脚部14を貫通する装着孔17(図では符号省略)が形成されるが、この装着孔17は、開口12に臨む先端部17aと、該先端部17aの奥方に隣接して若干小径に形成される中間部17bと、該中間部17bの更に奥方に隣接して更に小径に形成される小径部17cと、該小径部17cの更に奥方に隣接してより大径に形成されて脚部14の外側に開口する後端部17dが同軸状に連続してなる。
【0028】
プレッシャナット16は、締付ボルト18を螺通させる雌ねじ(符号省略)が軸心に形成された略円筒状部材であるが、その本体16aの先端に鍔部16bが形成されている。本体16aの外径は、装着孔17の小径部17cと略同一であり、鍔部16bの外径は、装着孔17の先端部17aと略同一である。
【0029】
プレッシャナット本体16aの外径は装着孔小径部17cと略同一であるから、装着孔中間部17bとの間に、装着孔中間部17bと装着孔小径部17cの穴径差に相当するリング状空間(符号省略)が与えられており、このリング状空間に、本発明の締付確認機構の主要な構成要素である、コイルばね19、皿ばね20およびカラー21が所定の位置関係で収容されている。
【0030】
図1ないし
図4を参照してより詳しく説明すると、この締付確認機構には、脚部14からプレッシャナット16を開口12に突出させる方向に付勢する付勢手段として、2つの異なる種類のばね部材、すなわちコイルばね19と皿ばね20を組み合わせたものが用いられている。コイルばね19は、前記リング状空間の前方に配置され、その先端は、プレッシャナット16の鍔部16bと本体部16aとの間の段差面16cに当接している。皿ばね20は、同リング状空間内においてコイルばね19の後方に隣接して配置され、その後端は、装着孔17の中間部17bと小径部17cとの間の段差面17eに当接している。
【0031】
さらに、装着孔中間部17bには、コイルばね19を取り巻くカラー21が収容されている。カラー21は、コイルばね19を収容可能であると共に、装着孔中間部17b内に収まるような径寸法を有し、且つ、吊荷がセットされていない無負荷状態(
図1ないし
図4)において、その先端が装着孔中間部17bからわずかに前方(すなわち装着孔先端部17a内)に突出し、その後端が皿ばね20の先端に実質的に当接する軸方向長さを有するように形成される。この突出寸法α(
図5)は、たとえば、締付ボルト18のねじピッチ(P=2)の略1/4=0.5mmとすることができる。カラー21は、脚部14に対して固定されておらず、したがって、軸方向の外力を受けたときに脚部14に対して相対移動可能である。
【0032】
プレッシャナット16の先端部16aの外周面における所定箇所に周回溝(符号省略)が刻設され、該周回溝に締付確認リング22が嵌着されている。締付確認リング22は、
図1ないし
図4に示す無負荷状態においては、脚部14の内側面より開口12側に露出した位置にあり、その存在を目視で容易に確認することができるように、周辺部材(プレッシャナット16、クランプ本体11の特に脚部14など)に対して目立つように設けられることが好ましい。一例として、プレッシャナット16が黒色に、脚部14を含めてクランプ本体11が銀色に塗装されている場合には、白色や赤色に塗装された締付確認リング22を用いることができる。
【0033】
符号23は止ねじであり、脚部14に設けられる穴(符号省略)を介して装着孔小径部17に突出し、プレッシャナット本体16bに刻設された所定軸方向長さの係合溝(図示省略)と係合している。これにより、プレッシャナット16は、脚部14(クランプ本体11)に対して相対回転不能に支持されると共に、止ねじ23の径寸法と該係合溝の軸方向長さ寸法との関係によって定められる所定距離だけ軸方向の相対移動が許容される。
【0034】
符号24は、プレッシャナット16の後端近くに刻設された周回溝(符号省略)に嵌着されたスナップリングであり、該スナップリング24が装着孔小径部17cと装着孔後端部17dとの間の段差面17fと係合することにより、プレッシャナット16の脱落を防止している。
【0035】
符号25は、締付ボルト18を回転させるための操作手段となるハンドルであり、脚部14の外側に突出する締付ボルト18の後端部に取り付けられる。符号28は、締付ボルト18の先端に回転自在且つ着脱可能に取り付けた押さえパッドである。
【0036】
以上のように構成されたねじ式クランプ10の作用について、主に
図4ないし
図6を参照して、時系列的に詳しく説明する。
【0037】
図1ないし
図3に示す状態からハンドル25を反時計方向に回転させて締付ボルト18を後退させ、回転顎15と締付ボルト18先端の押さえパッド26との間に、吊り上げようとする吊荷の所定箇所を挟んだ後に、ハンドル25を時計方向に回転させて締付ボルト18を締付方向Xに前進させ、回転顎15と押さえパッド26を吊荷の両側面に圧接挟持させる。この状態からさらに締付ボルト18を締付方向Xに前進させると、まず、回転顎15を開口12に向けて突出する方向に付勢している付勢手段(コイルばね)が収縮して、回転顎15が脚部13に埋没する方向に後退する。
【0038】
回転顎15が最奥位置に到達した後にさらに締付ボルト18を締め付けると、締付ボルト18はこれ以上締付方向Xに前進移動することができないので、締付ボルト18に螺合しているプレッシャナット16が、締付確認機構に内蔵されている付勢手段(コイルばね19および皿ばね20)による付勢力に抗して、脚部14に埋没する方向に後退移動していくが、皿ばね20より小さいバネ圧を有するコイルばね19が最初に収縮し始める。
【0039】
コイルばね19を収縮させながらプレッシャナット16が
図4の位置から後退していくと、プレッシャナット16の鍔部16bがカラー21の前端に当接した状態となる(
図5)。このとき、皿ばね20はまだ収縮していない。また、鍔部16bの外周に設けられた締付確認リング22は、そのほとんどが脚部14内に埋没するが、わずかに開口12に露出しているので、その存在を外部から目視できる位置にある。この時点では、吊荷に対して規定の締付力を与えるには至っていない。
【0040】
図5の状態からさらにハンドル25の操作により締付ボルト18を締め付けてプレッシャナット16を後退させると、鍔部16bに押されてカラー21がプレッシャナット16と共に後退移動するので、カラー21と段差面17eとの間に配置されている皿ばね20が収縮し始める。皿ばね20は大きなばね圧を有するので、このときのハンドル25の操作には大きな力が必要になるが、カラー21が装着孔中間部17bから先端部17aに向けて突出する突出長(前述の例では0.5mm)だけ皿ばね20を収縮させれば、プレッシャナット鍔部16bが装着孔先端部17aと中間部17bとの間の段差面17gに当接して締付作業が完了するので、短時間で終了させることができる。前述の例によれば、この最終締付作業はハンドル25を略1/4回転させるだけで完了する。
【0041】
以上のようにして締付作業が完了した状態が
図6に示されている。このとき、締付確認リング22は完全に脚部14内に埋没して外部からは目視できなくなり、作業者は、吊荷に対して規定の締付力が働いたことを確実且つ容易に確認することができるので、クレーン(図示省略)などによる吊り上げ・運搬を吊荷落下の危険を伴わずに安全に行うことができる。
【0042】
たとえば、1トン用のねじ式クランプでは、吊荷に締付ボルト18の先端(押さえパッド28)を喰い込ませるためには500kgの推力が必要となり、この推力から、吊荷を安全に吊り上げるための規定締付力を算出すると、約150kg.cmとなる。一実施例において、この規定締付力が得られる位置(締付確認リング22が脚部14内に完全に埋没して見えなくなる位置)までプレッシャナット16が移動したときには、コイルばね19は21kgfの荷重を受けて3.5mm収縮し、皿ばね20は571kgfの荷重を受けて0.5mm収縮する。
【0043】
上記実施例においては、吊荷に所定の締付力が働いたことを作業者に知らせる締付確認手段として、プレッシャナット16の先端周回溝に嵌着した締付確認リング22を用いているが、これに代えて、該周回溝自体を目立つ色に塗装し、あるいは、単にプレッシャナット16の先端所定箇所の外周面に締付確認用のラインを目立つ色で表示しても良い。
【0044】
締付確認手段は、プレッシャナット16の先端側に設けることにより、プレッシャナット16の後退移動に伴う状態変化(見えていたものが見えなくなる)を開口12を介して目視することができるが、これに代えて、または、これと併用して、プレッシャナット16の後端側に設けることにより、プレッシャナット16の後退移動に伴う状態変化(見えなかったものが見えてくる)を脚部14の外側から目視するようにしても良い。たとえば、図示実施例におけるスナップリング24を、規定の締付力が働いたときに状態変化(見えなかったものが見えるようになる)を起こすような位置に設けることにより、プレッシャナット16の脱落防止に加えて、締付確認手段としての機能を兼ね備えるようにすることができる。
【0045】
あるいは、規定の締付力が働いたことを示す位置にプレッシャナット16が後退移動したときに出現または埋没する締付確認用のリング、ラインその他の表示手段を、締付ボルト18の軸外周に設けて締付確認手段としても良い。
【0046】
以上に本発明によるねじ式クランプについて図示実施形態に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において多種多様に変形ないし変更して実施可能である。
【符号の説明】
【0047】
10 ねじ式クランプ
11 クランプ本体
12 開口
13,14 脚部
15 回転顎(受け金)
16 プレッシャナット
16a 本体
16b 鍔部
17 挿入孔
17a 先端部
17b 中間部
17c 小径部
17d 後端部
17e 中間部と小径部の間の段差面(第一の係止面)
17f スナップリング係止面
17g 先端部と中間部の間の段差面(第二の係止面)
18 締付ボルト
19 コイルばね(第一の付勢手段)
20 皿ばね(第二の付勢手段)
21 カラー(移動伝達手段)
22 締付確認リング(締付確認手段)
23 止ねじ
24 スナップリング
25 ハンドル
26,27 吊環
28 押さえパッド
【要約】 (修正有)
【課題】ねじ式クランプにおいて吊荷に規定の締付力が働いたことを示す締付確認機構を改良して、視認性と作業性を両立させる。
【解決手段】このねじ式クランプは、プレッシャナット(16)を開口に向けて突出させる方向に付勢するコイルばね(19)と、コイルばねの後方に隣接して配置される皿ばね(20)と、回転顎との間に吊荷を挟んだ状態で締付ボルト(18)を締め付けてプレッシャナットがコイルばねに抗して後退したときにプレッシャナットの後端に当接する先端を有するカラー(21)と、を有する。さらに締付ボルトを締め付けてプレッシャナットがカラーを介して皿ばねに抗して後退したときに、締付確認リング(22)が脚部(14)内に埋没して見えなくなるので、吊荷に規定の締付力が働いたことを目視確認することができる。
【選択図】
図4