(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】可変速モータ装置
(51)【国際特許分類】
H02P 27/08 20060101AFI20221110BHJP
【FI】
H02P27/08
(21)【出願番号】P 2019565651
(86)(22)【出願日】2018-01-19
(86)【国際出願番号】 JP2018001582
(87)【国際公開番号】W WO2019142316
(87)【国際公開日】2019-07-25
【審査請求日】2021-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】392029742
【氏名又は名称】田中 正一
(72)【発明者】
【氏名】田中正一
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-161433(JP,A)
【文献】特開2005-160183(JP,A)
【文献】特開平07-308032(JP,A)
【文献】特開2014-064416(JP,A)
【文献】特開昭63-228901(JP,A)
【文献】特開2011-030355(JP,A)
【文献】特開2017-225323(JP,A)
【文献】特開2015-164382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
H02M 7/48
B60L 11/08
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1直流電源に接続される3つ
又は6つのレグをもつ3相
のインバータ、前記インバータに接続されるステータコイルをもつ交流モータ、
及び前記インバータをパルス幅変調法により駆動するコントローラを備え
、前記レグはそれぞれ、直列接続された上アームスイッチ及び下アームスイッチを有する可変速モータ装置におい
て、
前記ステータコイルから流入するフリーホィーリング電流を整流するための整流器
と、前記整流器から低電圧バッテリに印加される整流電圧を遮断するための充電スイッチ
とを有し、
前記コントローラは、
前記フリーホィーリング電流が前記インバータを通じて流れる期間を意味する前記インバータのフリーホィーリング期間内において
前記充電スイッチをオン
し、
前記コントローラは、
前記直列接続された上アームスイッチ及び下アームスイッチの両方を前記充電スイッチのオン後にオフすることにより前記インバータの前記フリーホィー
リング期間を終了し、かつ
、前記フリーホィー
リング期間の
再開後に前記充電スイッチをオフする
ことを特徴とする可変速モータ装
置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は可変速モータ装置及びそのコントローラに関し、特に電力損失を低減可能な可変速モータ装置及びそのコントローラに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、従来のトラクションモータ装置は、3相インバータにより駆動される3相モータを採用する。パルス幅変調(PWM)されるインバータは3相正弦波電圧をステータコイルに印加する。このPWMは三角波PWM及び空間ベクトルPWM(SVPWM)を含む。
【0003】
図1は従来のSVPWMを示すベクトル図である。SVPWMは6つの電圧ベクトル(100-101)及び2つのゼロベクトル(000、111)の少なくとも一つを用いる。モータの動作領域は、6つの電圧ベクトル(100-101)により分割された6つの位相領域(11-16)からなる。一つの位相領域内の任意の電圧ベクトルは、この位相領域を挟む2つの電圧ベクトルの合成ベクトル(ベクトル和)により形成される。任意の電圧ベクトルの長さは1つのPWM周期内の電流供給期間の長さに相当する。2つのゼロベクトル(000、111)はそれぞれ、フリーホィール期間に相当する。
【0004】
図2は1つのPWM周期TC内に配置された2つの電流供給期間(TS1及びTS2)を示す。電流供給期間(TS1及びTS2)は互いに離れて配置されている。2つの電流供給期間(TS1及びTS2)はそれぞれ、フリーホィール期間TFにより挟まれている。
図2において、電流供給期間TS1は電圧ベクトル100に相当し、電流供給期間TS2は電圧ベクトル110に相当する。その長さがゼロベクトルの長さに相当するフリーホィール期間TFにおいて、直流電源5はインバータに電流を供給せず、フリーホィーリング電流がモータのステータコイルとインバータとの間を循環する。
【0005】
図3は従来の三角波PWMにおいて使用される三角波キャリヤ信号Stを示す。キャリヤ信号Stは相電圧信号V1X、V2X、及びV3Xと比較される。
図4はこの比較結果により決定される3相インバータの6個のスイッチ31-36の状態を示す。結局、1PWM周期TCは、フリーホィール期間TFと電流供給期間(TS1及びTS2)とをもつ。フリーホィール期間TFはSVPWMのゼロベクトルに相当し、電流供給期間(TS1及びTS2)はそれぞれSVPWMの電圧ベクトルに相当する。
【0006】
本出願人により出願された特許文献1は、シリーズ3相巻線に接続される4レグインバータを開示する。4レグインバータの両端の2つのレグが互いに等しい相電圧を出力する時、ステータコイルとしてのシリーズ3相巻線はデルタ接続される。この動作モードは3相モードと呼ばれる。さらに、この4レグインバータは、単相モードを実行することができる。この単相モードによれば、4レグインバータの両端の2つのレグが互いに等しい相電圧を出力する。残りの2つのレグは休止される。したがって、単相電圧がシリーズ3相巻線の3つの相コイルに印加される。その結果、ステータコイルの巻数及び極数がそれぞれ3倍となる。この単相モードによれば、3相誘導モータは単相誘導モータとして駆動される。
【0007】
一般に、電気自動車やハイブリッド車は高電圧バッテリから電気機器駆動用の低電圧バッテリへ電力を供給するDCDCコンバータを必要とする。たとえば、高電圧バッテリは約300Vをもち、低電圧バッテリは一般に14.4Vをもつ。従来技術において、このDCDCコンバータは単相インバータ、変圧器、及び整流器をもつ。電気自動車やハイブリッド車のモータ装置において、電力損失及び重量の低減は極めて重要である。バッテリ、インバータ、モータ、及びDCDCコンバータの損失低減は冷却装置の重量を低減する。バッテリ損失の低減はバッテリ寿命を延長する。
【0008】
可変速モータの逆起電力は高速領域において上昇する。このため、低速領域において2つのバッテリを並列接続し、高速領域において2つのバッテリを直列接続する接続切替回路が提案されている。けれども、この接続切替回路は、電源回路の等価抵抗の増加故に可変速モータ装置の損失を増加させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【0010】
本発明の一つの目的は電力損失の低減が可能な可変速モータ装置及びそのコントローラを提供することである。
【0011】
本発明の1つの様相によれば、PWM法により駆動される3相インバータは、1つの休止レグ又は3つの休止レグをもつ。休止レグは高電圧バッテリから供給される電源電流を遮断する。一般に、休止レグの上アームスイッチ及び下アームスイッチは遮断される。しかし、休止レグはフリーホィーリング電流の循環は許可する。
【0012】
1つの態様において、インバータの少なくとも2つの出力端子は整流器及び充電スイッチを通じて低電圧バッテリに接続される。インバータのフリーホィーリング電流により低電圧バッテリを充電するための充電期間が設定される。
【0013】
もう1つの態様において、インバータは休止レグ式空間ベクトルPWMと呼ばれるパルス幅変調法により駆動される。この休止レグ式空間ベクトルPWMによれば、要求される電圧ベクトルは、互いに隣接する2つの電圧ベクトルの合成ベクトルにより形成される。これらの2つの電圧ベクトルは、それぞれ1つの休止レグ(D)を含む6個の副ベクトル(10D、1D0、D10、01D、0D1、及びD01)から選択される。
【0014】
もう1つの態様において、インバータはもう1つの休止レグ式空間ベクトルPWMにより駆動される。この休止レグ式空間ベクトルPWMによれば、要求される電圧ベクトルは、互いに隣接する1つの主ベクトル及び1つの副ベクトルの合成ベクトルにより形成される。主ベクトルは6個の主ベクトル(100、110、010、011、001、及び101)から選択され、副ベクトルは6個の副ベクトル(10D、1D0、D10、01D、0D1、及びD01)から選択される。副ベクトルは1つの休止レグ(D)を含む。これらの休止レグ式空間ベクトルPWMによれば、損失低減及びバッテリ寿命延長を実現することができる。本発明は、この休止レグ式空間ベクトルPWMを実行するためのプログラムをモータコントローラの形式により実現されることができる。
【0015】
本発明のもう1つの様相によれば、複数のバッテリは接続切替回路を通じてインバータに電源電圧を印加する。この接続切替回路は、少なくとも1つの直列トランジスタ、少なくとも1つの逆並列ダイオード、及び少なくとも2つの並列ダイオードからなる。直列トランジスタは高い電源電圧をインバータに印加する。並列ダイオードは低い電源電圧をインバータに印加する。逆並列ダイオードはインバータの回生電流でバッテリを充電する。この接続切替回路は、電源電圧変更機能、電源抵抗変更機能、及び不良バッテリ分離機能をもつ。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は従来の空間ベクトルパルス幅変調法を示すベクトル図である。
【
図2】
図2は
図1における1つのPWM周期を示すタイミングチャートである。
【
図3】
図3は従来の三角波PWMのキャリヤ信号を示すタイミングチャートである。
【
図4】
図4は
図3に示される三角波PWMにおける3相電圧の状態を示すタイミングチャートである。
【
図5】
図5は本発明の可変速モータ装置の一例を示す配線図である。
【
図6】
図6は第1実施例におけるフリーホィール期間を示す模式配線図である。
【
図7】
図7は第1実施例における充電期間の開始を示す模式配線図である。
【
図8】
図8は第1実施例における充電期間を示す模式配線図である。
【
図9】
図9は第1実施例における充電期間の終了を示す模式配線図である。
【
図10】
図10は第2実施例におけるフリーホィール期間を示す模式配線図である。
【
図11】
図11は第2実施例における充電期間の開始を示す模式配線図である。
【
図12】
図12は第2実施例における充電期間を示す模式配線図である。
【
図13】
図13は第2実施例における充電期間の終了を示す模式配線図である。
【
図14】
図14は第3実施例におけるフリーホィール期間から充電期間への遷移を示す模式配線図である。
【
図15】
図15は第3実施例における充電期間からフリーホィール期間への遷移を示す模式配線図である。
【
図16】
図16は第4実施例におけるフリーホィール期間から充電期間への遷移を示す模式配線図である。
【
図17】
図17は第4実施例における充電期間からフリーホィール期間への遷移を示す模式配線図である。
【
図18】
図18は第5実施例の休止レグ式空間ベクトルPWMにおける6個の副ベクトルを示すベクトル図である。
【
図20】
図20は第1位相領域内の第1電流供給期間を示す模式配線図である。
【
図21】
図21は第1位相領域内の第2電流供給期間を示す模式配線図である。
【
図22】
図22は第2位相領域内の第1電流供給期間を示す模式配線図である。
【
図23】
図23は第2位相領域内の第2電流供給期間を示す模式配線図である。
【
図24】
図24は第3位相領域内の第1電流供給期間を示す模式配線図である。
【
図25】
図25は第3位相領域内の第2電流供給期間を示す模式配線図である。
【
図26】
図26は第4位相領域内の第1電流供給期間を示す模式配線図である。
【
図27】
図27は第4位相領域内の第2電流供給期間を示す模式配線図である。
【
図28】
図28は第5位相領域内の第1電流供給期間を示す模式配線図である。
【
図29】
図29は第5位相領域内の第2電流供給期間を示す模式配線図である。
【
図30】
図30は第6位相領域内の第1電流供給期間を示す模式配線図である。
【
図31】
図31は第6位相領域内の第2電流供給期間を示す模式配線図である。
【
図32】
図32は第6実施例により採用される休止レグ式空間ベクトルPWMにおける6個の副ベクトル及び6個の主ベクトルを示すベクトル図である。
【
図36】
図36は第6実施例の休止レグ式空間ベクトルPWMの効果を説明するベクトル図である。
【
図37】
図37は第8実施例の接続切替回路を示す配線図である。
【
図38】
図38はバッテリの接続状態が変更される過渡期間を示すタイミングチャートである。
【
図40】
図40は第9実施例の接続切替回路を示す配線図である。
【
図41】
図41は接続切替回路の制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の可変速モータ装置の好適な実施形態が図面を参照して説明される。このモータ装置は電気自動車に採用される。
図5は各実施例のモータ装置を示す配線図である。このモータ装置は高電圧バッテリ1及び低電圧バッテリ2をもつ。高電圧バッテリ1は3相インバータ3に電源電流I5を供給し、インバータ3はトラクションモータの3相ステータコイル4に3相交流電流を供給する。ステータコイル4は星形接続をもつU相コイル4U、V相コイル4V、及びW相コイル4Wからなる。インバータ3およびステータコイル4として他の回路構成を採用することもできる。
【0018】
インバータ3はU相レグ3U、V相レグ3V、及びW相レグ3Wからなる。レグ3Uは直列接続された上アームスイッチ31及び下アームスイッチ34からなる。レグ3Vは直列接続された上アームスイッチ32及び下アームスイッチ35からなる。レグ3Wは直列接続された上アームスイッチ33及び下アームスイッチ36からなる。これらのスイッチ31-36は逆並列ダイオードをもつIGBTからなる。U相レグ3Uの出力端子はU相コイル4Uの端子41に接続されている。V相レグ3Vの出力端子はV相コイル4Vの端子42に接続されている。W相レグ3Wの出力端子はW相コイル4Wの端子43に接続されている。
【0019】
ステータコイル4の3つの端子41-43は3相ダイオードブリッジ整流器5の3つの交流端子に個別に接続されている。整流器5の一対の直流端子は充電スイッチ6を通じて低電圧バッテリ2の一対のターミナルに接続されている。充電スイッチ6は、それぞれMOSトランジスタからなるハイサイドトランジスタ61及びローサイドトランジスタ62からなる。ハイサイドトランジスタ61は低電圧バッテリ2の正極と整流器5のハイサイド直流端子を接続する。ローサイドトランジスタ62は低電圧バッテリ2の負極と整流器5のローサイド直流端子を接続する。整流器5の出力電圧が所定レベルを超える時、充電スイッチ6は低電圧バッテリ2の保護のために遮断される。平滑キャパシタ7が高電圧バッテリ1と並列接続されている。平滑キャパシタ8が低電圧バッテリ2と並列接続されている。充電スイッチ6がオフされる時、低電圧バッテリ2は整流器5から電気的に分離される。
【0020】
コントローラ9はインバータ3及び充電スイッチ6を制御する。インバータ3はパルス幅変調(PWM)により変調された3相電圧V1、V2、及びV3をステータコイル4に印加する。空間ベクトルPWM又は三角波PWMがパルス幅変調法として採用される。降圧DCDCコンバータ10は整流器5及び充電スイッチ6からなる。整流器5はインバータ3が出力する3相電圧を整流する。PWM制御されるインバータ3は電流供給期間TSとフリーホィール期間TFとを交互にもつ。充電スイッチ6はインバータ3のフリーホィール期間TFにおいて所定の充電期間TXだけオンされる。充電期間TXにおいて、インバータ3の1つのレグは休止レグとなる。又は、インバータ3の3つのレグは休止レグとなる。この明細書で使用される休止レグとは、高電圧バッテリ1からステータコイル4への給電が遮断されるレグを意味する。いわゆる同期整流期間を除いて、休止レグの上アームスイッチ及び下アームスイッチはオフされる。フリーホィール期間TFに配置される充電期間TXの長さは低電圧バッテリ2の電圧に応じて調整される。DCDCコンバータ10は平滑キャパシタ8とともにローパスフィルタを構成するための平滑用リアクトルをもつことができる。たとえば、高電圧バッテリ1は約300Vをもち、低電圧バッテリ2は約14.4Vをもつ。
【0021】
第1実施例
第1実施例が
図6-
図9を参照して説明される。
図6はゼロベクトル(000)に相当するフリーホィール期間TFを示す。このフリーホィール期間TFは下アームフリーホィール期間と呼ばれる。インバータ3の上アームスイッチ31-33がオフされ、下アームスイッチ34-36がオンされている。フリーホィーリング電流が下アームスイッチ34-36及びステータコイル4を通じて循環する。下アームスイッチ34-36の電圧降下が無視される時、インバータ3の3相電圧V1-V3は高電圧バッテリ1の負極電位をもつ。
【0022】
図7は充電期間TXの開始を示す。充電スイッチ6がオンされた後、下アームスイッチ34-36がオフされる。これにより、レグ3U、3V、及び3Wは休止レグとなる。フリーホィーリング電流は整流器5及び充電スイッチ6を通じて低電圧バッテリ2を充電する。
図8は充電期間TXを示す。レグ3U、3V、及び3Wは休止レグである。
図9は充電期間TXの終了を示す。下アームスイッチ34-36がオンされた後、充電スイッチ6がオフされる。充電スイッチ6のオン動作及びオフ動作は充電電流がゼロの状態で行われるので、充電スイッチ6のスイッチングロスはゼロとなる。インバータ3はフリーホィール期間TFに戻り、低電圧バッテリ2の充電は終了する。
【0023】
第2実施例
第2実施例が
図10-
図13を参照して説明される。
図10はゼロベクトル(111)に相当するフリーホィール期間TFを示す。このフリーホィール期間TFは上アームフリーホィール期間と呼ばれる。インバータ3の下アームスイッチ34-36がオフされ、上アームスイッチ31-33がオンされている。フリーホィーリング電流が上アームスイッチ31-33及びステータコイル4を通じて循環する。上アームスイッチ31-33の電圧降下が無視される時、インバータ3の3相電圧V1-V3は高電圧バッテリ1の正極電位をもつ。
【0024】
図11は充電期間TXの開始を示す。充電スイッチ6がオンされた後、上アームスイッチ31-33がオフされる。これにより、レグ3U、3V、及び3Wは休止レグとなる。ステータコイル4のフリーホィーリング電流は整流器5及び充電スイッチ6を通じて低電圧バッテリ2を充電する。
図12は充電期間TXを示す。レグ3U、3V、及び3Wは休止レグである。
図13は充電期間TXの終了を示す。上アームスイッチ31-33がオンされた後、充電スイッチ6がオフされる。充電スイッチ6のオン及びオフは充電電流がゼロの状態で行われる。充電スイッチ6のスイッチングロスはゼロとなる。インバータ3はフリーホィール期間TFに戻り、低電圧バッテリ2の充電は終了する。
【0025】
上記説明された第1及び第2実施例によれば、低電圧バッテリ2はステータコイル4のフリーホィーリング電流により充電される。しかし、過大なフリーホィーリング電流が流れている時、過大な充電電流が低電圧バッテリ2及び平滑キャパシタ8に流れる。過大なフリーホィーリング電流が流れる大トルク期間において、低電圧バッテリ2の充電を所定期間だけ休止することも可能である。さらに、平均充電電流は充電期間TXの短縮により低減される。けれども、低電圧バッテリ2へ流れるフリーホィーリング電流の低減はさらに有効である。フリーホィーリング電流の低減が可能な各実施例が以下に説明される。
【0026】
第3実施例
フリーホィーリング電流を低減可能な第3実施例が
図14及び
図15を参照して説明される。
図14はゼロベクトル(000)に相当する下アームフリーホィール期間TFから充電期間TXへの遷移を示す。まず、充電スイッチ6がオンされた後、レグ3Vの下アームスイッチ35だけがオフされる。これにより、休止レグとなるV相コイル4Vを流れるフリーホィーリング電流だけが整流器5及び充電スイッチ6を通じて低電圧バッテリ2を充電する。W相コイル4Wを流れるフリーホィーリング電流はインバータ3の下アームスイッチ34及び36を通じて循環する。
【0027】
この実施例によれば、インバータ3の1つのレグだけが休止レグとなるので、フリーホィーリング電流の一部だけが低電圧バッテリ2の充電に使用される。V相レグ3Vの代わりにW相レグ3Wを休止レグとすることも可能である。V相レグ3V及びW相レグ3Wのどちらか1つを選択することも可能である。選択されたレグは他のレグよりも低いフリーホィーリング電流を流す。
図15は充電期間TXからフリーホィール期間TFへの遷移を示す。下アームスイッチ34-36がオンされた後、充電スイッチ6がオフされる。
【0028】
第4実施例
フリーホィーリング電流を低減可能な第4実施例が
図16及び
図17を参照して説明される。
図16はゼロベクトル(111)に相当する上アームフリーホィール期間TFから充電期間TXへの遷移を示す。充電スイッチ6がオンされた後、レグ3Vの上アームスイッチ32だけがオフされる。これにより、V相コイル4Vを流れるフリーホィーリング電流だけが整流器5及び充電スイッチ6を通じて低電圧バッテリ2を充電する。W相コイル4Wを流れるフリーホィーリング電流はインバータ3の上アームスイッチ31及び33を通じて循環する。
【0029】
この実施例によれば、インバータ3の1つのレグだけが休止レグとなるので、フリーホィーリング電流の一部だけが低電圧バッテリ2の充電に使用される。V相レグ3Vの代わりにW相レグ3Wを休止レグとすることも可能である。V相レグ3V及びW相レグ3Wのどちらか1つを選択することができる。選択されたレグは他のレグと比べて低いフリーホィーリング電流を流す。
図17は充電期間TXからフリーホィール期間TFへの遷移を示す。上アームスイッチ31-33がオンされた後、充電スイッチ6がオフされる。
【0030】
上記各実施例で説明されたDCDCコンバータ10は従来の電気自動車又はハイブリッド車の降圧DCDCコンバータと比べて簡素な回路構成をもつことができる。特に、従来のDCDCコンバータに使用される変圧器の重量、スペース、製造コスト、鉄損及び銅損を省略できることは重要である。
【0031】
第3実施例及び第4実施例において、整流器5は2つのダイオードレグからなるいわゆるHブリッジと呼ばれる単相ブリッジ整流器からなることができる。たとえば、このHブリッジは、U相コイル4U及びV相コイル4Vを流れるフリーホィーリング電流を利用して低電圧バッテリ2を充電することができる。W相コイル4Wを流れるフリーホィーリング電流はインバータ3を通じて循環する。これにより、整流器5は簡素となる。
【0032】
第5実施例
フリーホィーリング電流を低減可能な第5実施例が
図18-
図31を参照して説明される。この実施例によれば、インバータ3は空間ベクトルPWMにより制御される。しかし、インバータ3の3つのレグ3U、3V、及び3Wのうち、常に1つのレグが休止レグとなる。インバータ3が常に1つの休止レグをもつこの実施例の空間ベクトルPWMは休止レグ式空間ベクトルPWMと呼ばれる。休止レグは高電圧バッテリ1から電流が供給されないレグを意味する。しかし、休止レグはステータコイル4から供給されるフリーホィーリング電を循環させることができる。同期整流を採用しないケースにおいて、IGBT31-36と個別に接続された逆並列ダイオードがこのフリーホィーリング電流の循環を実現する。
【0033】
図18はこの休止レグ式空間ベクトルPWM及び従来の空間ベクトルPWMを示すベクトル図である。従来の空間ベクトルPWMは、破線で示される6個の主ベクトル(100、110、010、011、001、及び101)及び少なくとも1つのゼロベクトルをもつ。これに対して、この実施例の休止レグ式空間ベクトルPWMは、実線で示される6個の副ベクトル(10D、1D0、D10、01D、0D1、及びD01)と、2つのゼロベクトル(000又は111)の少なくとも1つをもつ。
【0034】
6個の副ベクトルはそれぞれ、1つの休止レグ(D)を含む。6個の位相領域(A-F)がこれら6個の副ベクトルにより区画される。位相領域Aの電圧ベクトルは副ベクトル(10D及び1D0)により形成される合成ベクトルからなる。位相領域Bの電圧ベクトルは副ベクトル(1D0及びD10)により形成される合成ベクトルからなる。位相領域Cの電圧ベクトルは副ベクトル(D10及び01D)により形成される合成ベクトルからなる。位相領域Dの電圧ベクトルは副ベクトル(01D及び0D1)により形成される合成ベクトルからなる。位相領域Eの電圧ベクトルは副ベクトル(0D1及びD01)により形成される合成ベクトルからなる。位相領域Fの電圧ベクトルは副ベクトル(D01及び10D)により形成される合成ベクトルからなる。
【0035】
低電圧バッテリ2の充電動作が
図19を参照して説明される。
図19は位相領域Aにおける電圧ベクトルに相当する1PWM周期TCを示す。このPWM周期TCは2つの電流供給期間TS1及びTS2をもつ。電流供給期間TS1は電圧ベクトル(10D)の長さに相当し、電流供給期間TS2は電圧ベクトル(1D0)の長さに相当する。
図19において、2つの電流供給期間(TS1及びTS2)は互いに離れているが、互いに隣接することも可能である。言い換えれば、インバータ3のスイッチングロスを低減するために、電流供給期間及びフリーホィール期間の配置は種々変更可能である。
【0036】
電流供給期間TS1はフリーホィール期間TF1及びTF4に挟まれている。電流供給期間TS2はフリーホィール期間TF2及びTF3に挟まれてる。充電期間TX1がフリーホィール期間TF1及びTF2に挟まれている。充電期間TX2がフリーホィール期間TF3及びTF4に挟まれている。充電期間TX1及び充電期間TX2において、インバータ3の3つのレグは休止レグとなる。その結果、
図14-
図17に示される第3実施例及び第4実施例と同様に、ステータコイル4のフリーホィーリング電流は整流器5及び充電スイッチ6を通じて低電圧バッテリ2に供給される。フリーホィール期間から充電期間への遷移において、充電スイッチ6がオンされた後、インバータ3の3つのレグは休止レグとなる。充電期間からフリーホィール期間への遷移において、インバータ3の3つのレグがフリーホィーリングレグとなった後、充電スイッチ6がオフされる。
【0037】
各位相領域A-Fにおいて、電流供給期間TS1及びTS2は1つの休止レグをもつ。したがって、高電圧バッテリ1からインバータ3に供給される電流は低減される。その結果、フリーホィーリング電流は低減される。このため、低電圧バッテリ2の充電電流が過大となることが抑制される。
【0038】
この休止レグ式空間ベクトルPWMにおけるインバータ3の状態が
図20-
図31を参照して更に説明される。
図20は位相領域Aの電流供給期間TS1を示す。上アームスイッチ31及び下アームスイッチ35がオンされ、W相レグ3Wが休止レグとなる。休止レグ3Wの上アームスイッチ33はフリーホィーリング電流Ifを供給する。
図21は位相領域Aの電流供給期間TS2を示す。上アームスイッチ31及び下アームスイッチ36がオンされ、V相レグ3Vが休止レグとなる。休止レグ3Vの上アームスイッチ32はフリーホィーリング電流Ifを供給する。
【0039】
図22は位相領域Bの電流供給期間TS1を示す。上アームスイッチ31及び下アームスイッチ36がオンされ、V相レグ3Vが休止レグとなる。休止レグ3Vの下アームスイッチ35はフリーホィーリング電流Ifを供給する。
図23は位相領域Bの電流供給期間TS2を示す。上アームスイッチ32及び下アームスイッチ36がオンされ、U相レグ3Uが休止レグとなる。休止レグ3Uの下アームスイッチ34はフリーホィーリング電流Ifを供給する。
【0040】
図24は位相領域Cの電流供給期間TS1を示す。上アームスイッチ32及び下アームスイッチ36がオンされ、U相レグ3Uが休止レグとなる。休止レグ3Uの上アームスイッチ31はフリーホィーリング電流Ifを供給する。
図25は位相領域Cの電流供給期間TS2を示す。上アームスイッチ32及び下アームスイッチ34がオンされ、W相レグ3Wが休止レグとなる。休止レグ3Wの上アームスイッチ33はフリーホィーリング電流Ifを供給する。
【0041】
図26は位相領域Dの電流供給期間TS1を示す。上アームスイッチ32及び下アームスイッチ34がオンされ、W相レグ3Wが休止レグとなる。休止レグ3Wの下アームスイッチ36はフリーホィーリング電流Ifを供給する。
図27は位相領域Dの電流供給期間TS2を示す。上アームスイッチ33及び下アームスイッチ34がオンされ、V相レグ3Vが休止レグとなる。休止レグ3Vの下アームスイッチ35はフリーホィーリング電流Ifを供給する。
【0042】
図28は位相領域Eの電流供給期間TS1を示す。上アームスイッチ33及び下アームスイッチ34がオンされ、V相レグ3Vが休止レグとなる。休止レグ3Vの上アームスイッチ32はフリーホィーリング電流Ifを供給する。
図29は位相領域Eの電流供給期間TS2を示す。上アームスイッチ33及び下アームスイッチ35がオンされ、U相レグ3Uが休止レグとなる。休止レグ3Uの上アームスイッチ31はフリーホィーリング電流Ifを供給する。
【0043】
図30は位相領域Fの電流供給期間TS1を示す。上アームスイッチ33及び下アームスイッチ35がオンされ、U相レグ3Uが休止レグとなる。休止レグ3Uの下アームスイッチ34はフリーホィーリング電流Ifを供給する。
図31は位相領域Fの電流供給期間TS2を示す。上アームスイッチ31及び下アームスイッチ35がオンされ、W相レグ3Wが休止レグとなる。休止レグ3Wの下アームスイッチ36はフリーホィーリング電流Ifを供給する。
【0044】
従来のインバータのレグも、上アームスイッチ及び下アームスイッチの状態が変化する非常に短い過渡期間においていわゆるデッドタイムをもつ。しかし、同一レグの上アームスイッチ及び下アームスイッチを通じて流れる短絡電流を禁止するためのこのデッドタイムは非常に短い期間であり、たとえば1マイクロ秒である。このデッドタイムは、本発明の休止レグと本質的に異なる。休止レグ式空間ベクトルPWMの電流供給期間によれば、高電圧バッテリ1が電源電流I5を2つの相コイルへ供給し、休止レグは、残りの1つの相コイルへの電源電流I5の供給を禁止する。
【0045】
2つの電流供給期間TS1及びTS2の和が1PWM周期TCより短い時、電流供給期間TS1及びTS2は互いに重ならない。高トルクモードにおいて、
図1に示される従来の空間ベクトルPWMが好適である。
【0046】
位相領域A、C、及びEのフリーホィール期間TFにおいて、下アームスイッチ34-36がオフされることが好適である。位相領域B、D、及びFのフリーホィール期間TFにおいて、上アームスイッチ31-33がオフされることが好適である
【0047】
従来の空間ベクトルPWMにおいて、並列接続された第1及び第2の相コイルが第3の相コイルと直列接続される。したがって、高電圧バッテリ1は第1相電流及び第2相電流を並列に供給する。第1相電流は第1相コイルに供給され、第2相電流は第2相コイルに供給される。言い換えれば、従来の空間ベクトルPWMによれば、電源電流I5は2つの相電流の和となる。これに対して、この実施例の休止レグ式空間ベクトルPWMによれば、第1の相コイルへ流される第1の相電流及び第2の相コイルへ流される第2の相電流は、互いに異なる電流供給期間において供給される。
【0048】
平滑キャパシタ7を含む高電圧バッテリ1からなる直流電源が等価抵抗(r)をもつことが仮定される。第1の相電流及び第2の相電流はそれぞれ振幅(1)をもつことが仮定される。したがって、従来の空間ベクトルPWMにおいて電源電流I5は振幅(2)をもつ。その結果、高電圧バッテリ1の抵抗損失は(4r)となる。
【0049】
休止レグ式空間ベクトルPWMによれば、高電圧バッテリ1の抵抗損失は(2r)となる。結局、休止レグ式空間ベクトルPWMによれば従来の空間ベクトルPWMと比べて、高電圧バッテリ1の抵抗損失は半分となる。
【0050】
次に、U相電流IUがV相電流IVの半分であるもう1つの例が説明される。U相電流IUは(1)であり、V相電流IVは(0.5)である。従来の空間ベクトルPWMによれば、高電圧バッテリ1の抵抗損失は(2.25r)となる。休止レグ式空間ベクトルPWMによれば高電圧バッテリ1の抵抗損失は(1.5r)となる。
【0051】
次に、U相電流IUがV相電流IVの30%であるもう1つの例が説明される。U相電流IUは(1)であり、V相電流IVは(0.3)である。従来の空間ベクトルPWMによれば、高電圧バッテリ1の抵抗損失は(1.69r)となる。休止レグ式空間ベクトルPWMによれば、直流電源5の抵抗損失は(1.3r)となる。
【0052】
たとえば、主ベクトル(100)に相当する電流供給期間TSに流れるバッテリ電流Iは、副ベクトル(10D)に相当する電流供給期間TS1に流れるバッテリ電流I1と、副ベクトル(1D0)に相当する電流供給期間TS2に流れるバッテリ電流I2との和となる。電流供給期間TS、TS1、及びTS2が互いに等しい長さをもつことが仮定される。バッテリ電流Iはバッテリ損失((I1+I2)・(I1+I2)・r)を発生する。バッテリ電流I1はバッテリ損失((I1)・(I1)・r)を発生する。バッテリ電流I2はバッテリ損失((I2)・(I2)・r)を発生する。その結果、休止レグ式空間ベクトルPWMは、バッテリ損失(2・(I1)・(I2)・r)を低減する。
【0053】
結局、休止レグ式空間ベクトルPWMによれば、高電圧バッテリ1及び平滑キャパシタ7の損失を低減することができる。その結果、高電圧バッテリ1の劣化が抑制される。休止レグ式空間ベクトルPWMは、高い内部抵抗をもつ劣化バッテリに対して有効である。休止レグ式空間ベクトルPWMは、従来の空間ベクトルPWMと比べて低い電流供給能力をもつ。しかし、電気自動車のほとんどの走行期間において、ステータ電流は非常に小さい。
【0054】
第6実施例
フリーホィーリング電流を低減可能な第6実施例が
図32-
図35を参照して説明される。この実施例の休止レグ式空間ベクトルPWMは、6個の主ベクトル(100、110、010、011、001、及び101)、6個の副ベクトル(1D0、D10、01D、0D1、D01、及び10D)、及び少なくとも1つのゼロベクトル(000又は111)を用いる。6個の副ベクトルはそれぞれ、1つの休止レグ(D)をもつ。
【0055】
図1に示されるように、6個の主ベクトルは電気角360度を6つの位相領域11-16に分割する。各位相領域11-16は電気角60度に相当する。6個の副ベクトルは6個の位相領域11-16をさらに分割する。副ベクトル(1D0)は位相領域11をサブ位相領域11A及び11Bに分割する。副ベクトル(D10)は位相領域12をサブ位相領域12A及び12Bに分割する。副ベクトル(01D)は位相領域13をサブ位相領域13A及び13Bに分割する。副ベクトル(0D1)は位相領域14をサブ位相領域14A及び14Bに分割する。副ベクトル(D01)は位相領域15をサブ位相領域15A及び15Bに分割する。副ベクトル(10D)は位相領域16をサブ位相領域16A及び16Bに分割する。
【0056】
結局、合計12個の電圧ベクトルにより12個のサブ位相領域が区画される。各サブ位相領域はそれぞれ電気角30度をもつ。主ベクトル(100、110、010、011、001、及び101)及び副ベクトル(1D0、D10、01D、0D1、D01、及び10D)は、3相インバータ3のレグ3U、3V、及び3Wの状態を示す。
【0057】
図33はサブ位相領域11Aにおけるレグ3U、3V、及び3Wの状態例を示すタイミングチャートである。2つの電流供給期間TS1及びTS2が1PWM周期TC内に配置される。電流供給期間TS1の長さは主ベクトルの長さに相当し、電流供給期間TS2は副ベクトルの長さに相当する。電流供給期間TS1はフリーホィール期間TF4及びTF1に挟まれている。電流供給期間TS2はフリーホィール期間TF2及びTF3に挟まれている。
【0058】
フリーホィール期間TF1-TF4はそれぞれ、ゼロベクトルに相当する。充電期間TX1がフリーホィール期間TF1及びTF2に挟まれている。充電期間TX2がフリーホィール期間TF3及びTF4に挟まれている。充電期間TX1及びTX2において、インバータ3の6個のスイッチ31-36はオフされ、レグ3U、3V、及び3Wは休止レグとなる。したがって、各サブ位相領域において、任意の電圧ベクトルは1つの主ベクトル及び1つの副ベクトルのベクトル和となる。
図34及び
図35は、12個のサブ位相領域(11A-16B)におけるインバータ3の状態を示す。
【0059】
この実施例の休止レグ式空間ベクトルPWMの効果が
図36を参照して説明される。
図36は副ベクトル(1D0)の上の1つの電圧ベクトルV1D0を示す。従来の空間ベクトルPWMにおいて、電圧ベクトルV1D0は、主ベクトル(100)の上の電圧ベクトルV100と、主ベクトル(110)上の電圧ベクトルV110とのベクトル和により形成される。したがって、電圧ベクトルV100の長さと電圧ベクトルV110の長さの和は電圧ベクトルV1D0の長さより長くなる。言い換えれば、電圧ベクトルV1D0に相当する電流供給期間(TS1+TS2)は、電圧ベクトルV100に相当する電流供給期間TS1と電圧ベクトルV110に相当する電流供給期間TS2との和よりも短かくなる。
【0060】
結局、6個の主ベクトル及び6個の副ベクトルを用いるこの実施例によれば、2つの電流供給期間TS1及びTS2の和を従来の空間ベクトルPWMよりも減らすことができる。これは、高電圧バッテリ1、インバータ3およびステータコイル4の電力損失を低減できることを意味する。
【0061】
第7実施例
フリーホィーリング電流を低減可能な第7実施例が
図5を参照して説明される。この実施例によれば、電気自動車に装備された空調コンプレッサ駆動用モータのインバータがトラクションモータ駆動用の上記インバータの代わりに3相インバータ3として採用される。パルス幅変調されるこの空調用インバータはフリーホィール期間TFをもつ。空調コンプレッサ駆動用モータの回転を必要とされない事例において、インバータ3の3つの相間電圧の平均値はそれぞれゼロとされる。たとえば、レグ3U-3Vはそれぞれ50%のPWMデユーティ比をもつ。空調コンプレッサ駆動用モータのインバータ3のフリーホィーリング電流は低電圧バッテリ2の充電電流に好適な値をもつ。
【0062】
第8実施例
第8実施例が
図37-
図39を参照して説明される。この実施例において、トラクションモータ装置はバッテリ接続を切り替えるための接続切替回路を採用する。従来技術において、2つのバッテリの直列接続及び並列接続のどちらかを選択するトラクションモータ用の接続切替回路が提案されている。この実施例の接続切替回路は1つの直列スイッチ及び2つの並列スイッチをもつ。一般に、直列スイッチ及び並列スイッチはリレー又はトランジスタからなる。接続切替回路は、低速領域において2つのバッテリを並列接続し、高速領域において直列接続を採用する。これにより、トラクションモータの有効速度範囲が拡大される。
【0063】
しかしながら、トラクションモータの回生制動において、インバータは接続切替回路を通じてバッテリを充電する必要がある。さらに、接続切替回路の内部抵抗は電力損失を増加させる。
【0064】
図37はこの実施例の接続切替回路20を示す配線図である。接続切替回路20は直列トランジスタ21、逆並列ダイオード22、ローサイド並列ダイオード23、及びハイサイド並列ダイオード24からなる。バッテリ1A及び1Bの定格電圧は200Vである。直列トランジスタ21及びダイオード23及び24はインバータ3のモータ駆動モードにおいて使用され、ダイオード22は回生制動モードにおいて使用される。
【0065】
IGBTからなる直列トランジスタ21のエミッタ電極及びダイオード22のアノード電極はバッテリ1Aの負極に接続され、トランジスタ21のコレクタ電極及びダイオード22のカソード電極はバッテリ1Bの正極に接続されている。ダイオード23のアノード電極はバッテリ1Bの負極に接続され、そのカソード電極はバッテリ1Aの負極に接続されている。ダイオード24のアノード電極はバッテリ1Aの正極に接続され、そのカソード電極はバッテリ1Bの正極に接続されている。バッテリ1Aの正極はインバータ3のハイサイド直流端子に接続され、バッテリ1Bの負極はインバータ3のローサイド直流端子に接続されている。平滑キャパシタ7はインバータ3と並列に接続されている。
【0066】
接続切替回路20は並列モード及び直列モードをもつ。まず、並列モードが説明される。直列トランジスタ21は並列モードにおいてオフされる。その結果、2つのバッテリ1A及び1Bは2つの並列ダイオード23及び24を通じて並列接続される。これにより、インバータ3に印加される電源電圧Vdは標準電圧200Vとなる。バッテリ1A及び1Bの電圧は互いに異なるのが普通である。しかし、たとえ2つのバッテリ1A及び1Bの電圧が異なっていても、並列ダイオード23及び24は並列モードにおいて2つのバッテリ1A及び1Bの間の短絡電流を阻止する。その結果、より高電圧をもつバッテリが先に放電するため、バッテリ1A及び1Bの電圧は並列モードにおいて等しくなる。
【0067】
次に、直列モードが説明される。この直列モードによれば、直列トランジスタ21はオンされる。その結果、2つのバッテリ1A及び1Bは直列トランジスタ21を通じて直列接続され、電源電圧Vdは倍電圧400Vとなる。コントローラ9は、直列モード及び並列モードにおいて既述の休止レグ式空間ベクトルPWMを実行する。これにより、接続切替回路20の抵抗損失が大幅に軽減される。さらに、並列モードによれば、バッテリ1A及び1Bの合成抵抗値が低減されるので、バッテリの損失が低減される。
【0068】
次に、直列モード(S)及び並列モード(P)の間の切替モードが
図38を参照して説明される。
図38は直列トランジスタ21のPWMデユーティ比を示すタイミングチャードである。過渡的な切替期間(Tt)が直列モード期間(Ts)と並列モード期間(Tp)との間に配置される。
【0069】
まず、並列モードから直列モードへの切替が説明される。並列モードから直列モードへの切替が指令される時、コントローラ9は直列トランジスタ21をPWMスイッチングする。直列トランジスタ21がオンされる時、バッテリ1A及び1Bは倍電圧を出力する。直列トランジスタ21がオフされる時、バッテリ1A及び1Bは標準圧を出力する。直列トランジスタ21のPWMデユーティ比は切替期間(Tt)において0から徐々に1に増加される。これにより、インバータ3に印加される電源電圧Vdは標準電圧値から徐々に上昇し、倍電圧に達する。
【0070】
直列トランジスタ21及び平滑キャパシタ7の間の配線インダクタンス値25は平滑キャパシタ7の充電電流を抑制する。直列トランジスタ21がオフされる時、この配線インダクタンス25により生じるフリーホィーリング電流は、並列ダイオード23及び24を通じて平滑キャパシタ7を充電する。言い換えれば、並列ダイオード23及び24はいわゆる逆並列ダイオードとして働く。
【0071】
次に、直列モードから並列モードへの切替が説明される。直列モードから並列モードへの切替が指令される時、コントローラ9は直列トランジスタ21をPWMスイッチングする。直列トランジスタ21がオンされる時、バッテリ1A及び1Bは倍電圧を出力する。直列トランジスタ21がオフされる時、バッテリ1A及び1Bは標準電圧を出力する。直列トランジスタ21のPWMデユーティ比は切替期間(Tt)において1から徐々に0に低減される。これにより、インバータ3に印加される電源電圧Vdは徐々に半分となる。
【0072】
上記された切替期間(Tt)において、直列トランジスタ21及び平滑キャパシタ7の損失は増加される。しかし、切替期間(Tt)はたとえば100msecといった短期間であるため、この損失増加は許容されることができる。言い換えれば、直列トランジスタ21のスイッチング周波数は、直列トランジスタ21及び平滑キャパシタ7の許容温度により制限される。
【0073】
次に、このトラクションモータ装置の回生制動モードが
図37及び
図39を参照して説明される。
図39は、
図37に示されるトラクションモータ装置の回生制動モードを示す。インバータ3からバッテリ1A及び1Bへ流れる発電電流は逆並列ダイオード22を通じて流れる。したがって、インバータ3はほぼ倍電圧値400Vを発電する必要がある。
【0074】
次に、コントローラ9はステータコイル4の起電力を昇圧させる。同期モータにおいて位相制御が実行され、誘導モータにおいて滑り制御が実行される。次に、インバータ3の発電電流が要求値未満かどうかを判定する。発電電流が要求値未満であれば、下アームスイッチ34-36が所定のキャリヤ周波数でスイッチングされる。下アームスイッチ34-36がオンされる時、ステータコイル4の相コイル4U、4V、及び4Wの起電力は相電流IU、IV、及びIWを増加させる。
【0075】
図39は、相電流IUがインバータ3からステータコイル4へ流れ、相電流IV及びIWがステータコイル4からインバータ3へ流れる位相領域を示す。下アームスイッチ34-36がオフされる時、回生電流はスイッチ34、32、及び33の各逆並列ダイオード及び逆並列ダイオード22を通じてバッテリ1A及び1Bを充電する。並列ダイオード23及び24はこの回生電流を阻止する。
【0076】
下アームスイッチ34-36又は上アームスイッチ31-33のどちらかをPWMスイッチングすることにより、インバータ3を昇圧チョッパとして運転する技術は既に知られている。けれども、インバータ3が昇圧チョッパとして運転される回生制動期間において接続切替回路の直列トランジスタ21をオフすることにより、逆並列ダイオード22を通じてバッテリ1A及び1Bを効率よく直列充電することはまだ知られていない。
【0077】
この実施例の回生制動モードによれば、バッテリ1A及び1Bが自動的に直列接続されるため、回生電流を増加することなく、強力な回生制動を実現することができる。さらに、回生制動においてバッテリ1A及び1Bが並列充電されないため、バッテリ1A及び1Bの充電状態(SOC)のばらつきが低減される。回生制動期間の短時間の故にインバータ3及びトラクションモータに生じる損失増加は許容される。
【0078】
接続切替回路20はバッテリ故障に有効である。バッテリ1A及び1Bのどちらかが故障した時、コントローラ9は直列トランジスタ21をオフする。これにより、バッテリ1A及び1Bのうち正常な方が電源電圧Vd(=200V)を出力することができる。
【0079】
第9実施例
第9実施例が
図40を参照して説明される。この実施例は第8実施例と同様の接続切替回路を採用する。
図40はこの実施例の接続切替回路25を示す配線図である。接続切替回路25は、3つの直列トランジスタ(21A、21B、21C)、3つの逆並列ダイオード(22A、22B、22C)、3つのローサイド並列ダイオード(23A、23B、23C)、及び3つのハイサイド並列ダイオード(24A、24B、24C)からなる。4つのバッテリ(1A、1B、1C、及び1D)の各定格電圧は150Vである。直列トランジスタ(21A、21B、21C)及び並列ダイオード(23A、23B、23C、24A、24B、24C)はインバータ3のモータ駆動モードにおいて使用され、ダイオード(22A、22B、22C)は回生制動モードにおいて使用される。
【0080】
直列トランジスタ(21A、21B、21C)はそれぞれ、第8実施例の直列トランジスタ21と本質的に同じ機能をもつ。逆並列ダイオード(22A、22B、22C)はそれぞれ、第8実施例の逆並列ダイオード22と本質的に同じ機能をもつ。ローサイド並列ダイオード(23A、23B、23C)はそれぞれ、第8実施例のローサイド並列ダイオード23と本質的に同じ機能をもつ。ハイサイド並列ダイオード(24A、24B、24C)はそれぞれ、ハイサイド並列ダイオード24と同じ機能をもつ。
【0081】
3つの直列トランジスタ(21A、21B、21C)を制御するコントローラ9は、低電圧モード、中電圧モード、及び高電圧モードを実行する。低電圧モードは、第8実施例の並列モードと本質的に等しい。高電圧モードは第8実施例の直列モードと本質的に等しい。
【0082】
低速領域で採用される低電圧モードが説明される。この低電圧モードによれば、直列トランジスタ(21A、21B、21C)はオフされる。これにより、4つのバッテリ(1A、1B、1C、及び1D)は並列接続され、電源電圧Vdは150Vとなる。ローサイド並列ダイオード23Aは直列接続された2つのダイオードからなる。ハイサイド並列ダイオード24Cは直列接続された2つのダイオードからなる。したがって、4つのバッテリ(1A、1B、1C、及び1D)の放電電流はほぼ等しくなる。
【0083】
中速領域で採用される中電圧モードが説明される。この中電圧モードによれば、直列トランジスタ21A及び21Cはオンされ、直列トランジスタ21Bはオフされる。これにより、直列接続されたバッテリ(1A、1B)からなる1つのバッテリペアは、直列接続されたバッテリ(1C、1D)からなるもう1つのバッテリペアと並列接続される。したがって、電源電圧Vdは300Vとなる。
【0084】
高速領域で採用される高電圧モードが説明される。この高電圧モードによれば、直列トランジスタ21A、21B、及び21Cはオンされる。これにより、4つのバッテリ(1A-1D)は直列接続され、電源電圧Vdは600Vとなる。
【0085】
回生制動モードにおいて、回生電流は逆並列ダイオード(22A、22B、22C)を通じてバッテリ(1A、1B、1C、1D)を充電する。したがって、インバータ3の発電電流を増加することなく、回生制動力を増加することができる。
【0086】
コントローラ9により実行される接続切替回路25の制御が
図41を参照して説明される。まず、入力信号に基づいて低電圧モード、中電圧モード、高電圧モード、及び回生制動モードの1つが選択される(S100)。次に、低電圧モード、中電圧モード、高電圧モードのいずれか1つが選択された時、直列トランジスタ(21A、21B、21C)のスイッチングにより電源電圧Vdが徐々に変更された後、直列トランジスタ(21A、21B、21C)の制御によりモードが選択される(S102)。次に、回生制動モードが選択された時、直列トランジスタ(21A、21B、21C)の全てがオンされる。その後、もし必要であれば、バッテリを充電するためにインバータ3の下アームスイッチ34-36がPWMスイッチングされる(S104)。次に、バッテリ(1A、1B、1C、1D)の故障状況が判定された後、低電圧モード及び中電圧モードのいずれかが選択される(S106)。
【0087】
次に、変形態様が
図42を参照して説明される。
図42は、並列接続された2つの電源回路101及び102を示す。電源回路101及び102はそれぞれ、
図40に示される電源回路と同じである。接続切替回路25Aをもつ電源回路101は4つのバッテリ(1A、1B、1C、1D)をもつ。接続切替回路25Bをもつ電源回路102は4つのバッテリ(1E、1F、1G、1H)をもつ。コントローラ9は2つの接続切替回路25A及び25Bを独立に制御する。これにより、8個のバッテリの任意の1つが不良となる時、6個のバッテリが中電圧モードを実行でき、さらに、7個のバッテリが低電圧モードを実行することができる。電源回路の合成抵抗値は低減される。複数のバッテリが不良となる時、残りのバッテリは低電圧モードを実行することができる。
【0088】
接続切替回路25は多くの半導体素子を必要とする。しかし、各半導体素子の電流は比較的小さい。3つの直列トランジスタ21が直列接続される高電圧モードの電力損失は増加される。このため、休止レグ式空間ベクトルPWMによりインバータ3を駆動することにより、接続切替回路25の電力損失が低減される。接続切替回路25は、第8実施例の接続切替回路20と本質的に同じ効果を奏することができる。たとえば、モードの切替において、直列トランジスタのPWMスイッチングにより、電源電圧を徐々に変更することも可能である。たとえば、バッテリの等価抵抗は、中電圧モードとくらべて低電圧モードにおいて1/2となる。さらに、バッテリの等価抵抗は、高電圧モードとくらべて低電圧モードにおいて1/4となる。さらに、接続切替回路25はバッテリ故障に有効である。たとえば、4つのバッテリ1A-1Dの任意の1つが故障した時、コントローラ9は低電圧モード及び中電圧モードを実行することができる。
【0089】
結局、コントローラ9は、接続切替回路に2つの機能を与える。その第1は、インバータ3に印加する電源電圧をモータの運転条件に応じて変更する電源電圧調整機能である。その第2は、複数のバッテリの一部が不良である時、この不良バッテリを他のバッテリから分離するバッテリ保護機能である。さらに、電源回路の合成抵抗値及び電力損失は低電圧モード及び中電圧モードにおいて低減される。
【0090】
第10実施例
第10実施例が
図43を参照して説明される。
図43は、
図37に示されるバッテリ1Bの代わりに燃料電池1Xを採用する。さらに、
図43に示される接続切替回路20Aは、直列ダイオード21X及び並列トランジスタ23Xを採用する。言い換えれば、
図43に示される電源回路は、回生充電機能をもたない燃料電池1Xと、回生充電機能をもつバッテリ1Aとを使用する。接続切替回路20Aを制御するコントローラ9は、低電圧モード及び高電圧モード、及び回生制動モードをもつ。
【0091】
低電圧モードが説明される。低電圧モードによれば、直列トランジスタ21はオフされる。これにより、並列ダイオード23及び24を通じて並列に接続されたバッテリ1A及び燃料電池1Xはインバータ3に低電圧を印加する。回生制動モードにおいて、直列トランジスタ21はオフされた後、並列トランジスタ23Xがオンされる。バッテリ1Aだけが充電される。直列ダイオード21Xは燃料電池1Xの充電を阻止する。回生制動モードにおいて、バッテリ1Aは燃料電池1Xの発電電流により充電されることができる。
【0092】
次に、高電圧モードが説明される。高電圧モードによれば、並列トランジスタ23Xがオフされた後、直列トランジスタ21はオンされる。これにより、直列に接続されたバッテリ1A及び燃料電池1Xはインバータ3に倍電圧を印加する。直列トランジスタ21及び並列トランジスタ23Xのスイッチングにより、低電圧モードと高電圧モードとの間の切替期間においてインバータ3の電源電圧Vdを徐々に変更することができる。燃料電池1X又はバッテリ1Aのどちらかが不良となる時、直列トランジスタ21がオフされ、低電圧モードが採用される。
【0093】
上記実施例において、インバータは1つの3相コイルに接続される1つの3相インバータからなる。しかし、1つのモータのステータコイルは2つの3相インバータに接続されることができる。たとえば、1つのダブルエンデッド3相コイルは2つの3相インバータに接続される。たとえば、2つの3相インバータはモータの6相コイルに接続されることができる。これら2つの3相インバータは休止レグ式空間ベクトルPWMにより駆動されることができる。
【0094】
上記説明された休止レグ式空間ベクトルPWMをインバータに指令するプログラムをもつモータコントローラは本発明の技術範囲に属する。この休止レグ式空間ベクトルPWMは、鉄道、船舶、航空機、エレベータ、及び工作機械のような種々の可変速モータに採用されることができる。さらに、それはリニアモータに採用されることができる。
【0095】
要求されたモータ性能又はバッテリ状態に基づいて従来のPWM法及び上記休止レグ式空間ベクトルPWMのどちらかを選択することができる。たとえば、バッテリが冷たい時、従来の空間ベクトルPWMを採用し、バッテリ温度が暖かい時、休止レグ式空間ベクトルPWMを採用することができる。たとえば、従来の空間ベクトルPWMは、休止レグ式空間ベクトルPWMと比べて高速領域及び/又は高トルク領域において採用される。たとえば、主ベクトルを使用しない休止レグ式空間ベクトルPWMは、主ベクトルを使用する休止レグ式空間ベクトルPWMと比べて高速領域において採用される。