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特許7174478低アウトガス性ウレタンホットメルト接着剤組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】低アウトガス性ウレタンホットメルト接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 175/04 20060101AFI20221110BHJP
【FI】
C09J175/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017248481
(22)【出願日】2017-12-25
(65)【公開番号】P2019112570
(43)【公開日】2019-07-11
【審査請求日】2020-10-27
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(73)【特許権者】
【識別番号】000127307
【氏名又は名称】株式会社イノアック技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】長野 祐也
(72)【発明者】
【氏名】大田 英生
(72)【発明者】
【氏名】井上 貴博
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-204541(JP,A)
【文献】特開2015-120323(JP,A)
【文献】国際公開第2015/045635(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/153907(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/061790(WO,A1)
【文献】特開2018-177937(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール成分(A)とポリイソシアネート(B)を原料とするウレタンプレポリマーを含有するウレタンホットメルト接着剤組成物であり、
前記ポリオール成分(A)は、炭素数10~12の脂肪族ジカルボン酸と炭素数4~6の脂肪族ジオールの縮合反応からなる数平均分子量が1000以上の結晶性ポリエステルポリオール(a-1)と、数平均分子量が1000以上のポリエーテルポリオール(a-2)とを含有し、
前記ポリオール成分(A)は、非晶性ポリエステルポリオール及び分子量500以下のジオールからなる群より選択される1つ以上のポリオールを更に含有し、
前記ポリオール成分(A)における前記ポリエーテルポリオール(a-2)の含有量が、前記ポリオール成分(A)100質量部に対して30~80質量部であることを特徴とするウレタンホットメルト接着剤組成物(ただし、前記ポリオール成分(A)としてアクリルポリオールを含むもの、及び、前記ウレタンホットメルト接着剤組成物がアクリル系共重合体を含むものを除く)。
【請求項2】
ポリオール成分(A)とポリイソシアネート(B)を原料とするウレタンプレポリマーを含有するウレタンホットメルト接着剤組成物であり、
前記ポリオール成分(A)は、炭素数10~12の脂肪族ジカルボン酸と炭素数4~6の脂肪族ジオールの縮合反応からなる結晶性ポリエステルポリオール(a-1)と、ポリエーテルポリオール(a-2)とを含有し、
前記ポリオール成分(A)は、エチレングリコール、プロパンジオール、2-メチル1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオールからなる群より選択される1つ以上のポリオールを更に含有し、
前記ポリオール成分(A)における前記ポリエーテルポリオール(a-2)の含有量が、前記ポリオール成分(A)100質量部に対して30~80質量部であることを特徴とするウレタンホットメルト接着剤組成物。
【請求項3】
90℃で加熱したときに発生する有機揮発分の量がトルエン換算値で150ppm以下である、請求項1又は2に記載のウレタンホットメルト接着剤組成物。
【請求項4】
発泡体、天然皮革、合成皮革、フィルム、織布又は不織布を有する車両用部材用である、請求項1~のいずれか一項に記載のウレタンホットメルト接着剤組成物。
【請求項5】
スプレー方式による塗布用である、請求項1~のいずれか一項に記載のウレタンホットメルト接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低アウトガス性の新規なホットメルト接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のシートクッションの表面に被さる表皮材は、発泡体からなる緩衝層の裏面に裏基布層が形成された積層シートの表面に表皮層を貼着し、さらに縫製することにより作成されている。裏基布層は、縫製時の作業や縫製後にシートクッションに装着する際の作業を良好にするための滑り性向上、及び緩衝層裏面の保護等のために設けられている。
【0003】
ここで、車両のシートクッションには、ウレタン系やナイロン系の極性材料が多く、耐熱性が必要であるため、反応型ウレタンホットメルトが一般的に適用される。このような反応型ウレタンホットメルトを用いた車両用シートについては、例えば、特許文献1で開示されている。
【0004】
しかしながら、車両のシートクッションに使用される接着剤としては、人体に影響を与える有機揮発分が少ないことが望まれている。
【0005】
このような低アウトガス性ホットメルト接着剤として、特許文献2では、低アウトガス性のオレフィン系ホットメルト接着剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-136735
【文献】特開2017-31273
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、オレフィン系ホットメルト接着剤では、低VOCを達成することは可能であっても、耐熱性等の観点からその用途が限られており、車両用等とすることは困難であった。
【0008】
そこで本発明は、上記従来技術の課題を解決し、良好な耐湿熱性及び低アウトガス性を兼ね備えたホットメルト接着剤組成物を提供することを課題とする。また、発泡体等の接着においても十分な初期接着性を備えるホットメルト接着剤組成物を提供することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を行ったところ、特定の接着剤組成物とすることにより、上記課題を解決可能なことを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明は以下の通りである。
【0010】
本発明(1)は、
ポリオール成分(A)とポリイソシアネート(B)を原料とするウレタンプレポリマーを含有するウレタンホットメルト接着剤組成物であり、
前記ポリオール成分(A)は、炭素数10~12の脂肪族ジカルボン酸と炭素数4~6の脂肪族ジオールの縮合反応からなる結晶性ポリエステルポリオール(a-1)と、ポリエーテルポリオール(a-2)とを含有し、
前記ポリオール成分(A)における前記ポリエーテルポリオール(a-2)の含有量が、前記ポリオール成分(A)100質量部に対して30~80質量部である、低アウトガス性ウレタンホットメルト接着剤組成物である。
本発明(2)は、
前記結晶性ポリエステルポリオール(a-1)は、数平均分子量が1000~5000の範囲内である、前記発明(1)の低アウトガス性ウレタンホットメルト接着剤組成物である。
本発明(3)は、
前記ポリエーテルポリオール(a-2)は、数平均分子量が1000~4000の範囲内である、前記発明(1)又は(2)の低アウトガス性ウレタンホットメルト接着剤組成物である。
本発明(4)は、
前記ポリオール成分(A)は、非晶性ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール及び数平均分子量500以下の低分子ジオールからなる群より選択される1つ以上のポリオールを更に含有する、前記発明(1)~(3)のいずれかの低アウトガス性ウレタンホットメルト接着剤組成物である。
本発明(5)は、
前記ポリオール成分(A)における前記非晶性ポリエステルポリオール、ポリカーボネートジオール及び数平均分子量500以下の低分子ジオールの合計の含有量が、前記ポリオール成分(A)100質量部に対して30質量部以下である、前記発明(4)の低アウトガス性ウレタンホットメルト接着剤組成物である。
本発明(6)は、
90℃で加熱したときに発生する有機揮発分の量がトルエン換算値で150ppm以下である、前記発明(1)~(5)のいずれかの低アウトガス性ウレタンホットメルト接着剤組成物である。
本発明(7)は、
発泡体、天然皮革、合成皮革、フィルム、織布及び不織布を有する車両用部材用である、前記発明(1)~(6)のいずれかの低アウトガス性ウレタンホットメルト接着剤組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、良好な耐湿熱性及び低アウトガス性を兼ね備えるホットメルト接着剤組成物を提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明のホットメルト接着剤組成物について以下の順番で具体的に説明するが、本発明はこれらには限定されない。
1 成分
2 製造方法
3 物性
4 用途
5 適用方法
【0013】
≪成分≫
本発明に係るホットメルト接着剤組成物は、低アウトガス性の反応型ウレタンホットメルトである。本発明に係るホットメルト接着剤組成物は、イソシアネート末端ポリウレタンプレポリマーをベース樹脂として含む。更に、必要に応じて、接着剤組成物中にその他の成分を含んでいてもよい。このようなホットメルト接着剤組成物を用いると、溶融状態のポリウレタンプレポリマーが冷却・固化することによる接着性が発現し、更に、未硬化のイソシアネート末端が空気中の水分と反応し架橋構造を形成することで、より強固な接着性を発現する。以下、このようなホットメルト接着剤組成物を、湿気硬化型ホットメルト接着剤組成物、又は、反応型ホットメルト接着剤組成物等と呼称する場合がある。
【0014】
・ベース樹脂(ポリウレタンプレポリマー)
ポリウレタンプレポリマーは、ポリオール成分(A)とポリイソシアネート(B)を原料とし、ポリイソシアネート(B)を化学量論的に過剰量にしてポリオール成分(A)と反応させることで、ポリウレタンプレポリマーが得られる。
【0015】
本発明において用いられるポリオール成分(A)としては、ポリエステルポリオール及びポリエーテルポリオールを必須的に含む。より具体的には、炭素数10~12の脂肪族ジカルボン酸と炭素数4~6の脂肪族ジオールの縮合反応からなる結晶性ポリエステルポリオール(a-1)と、ポリエーテルポリオール(a-2)とを必須的に含む。
【0016】
本発明に係る結晶性ポリエステルポリオール(a-1)は、炭素数10~12の脂肪族ジカルボン酸と炭素数4~6の脂肪族ジオールの縮合反応からなるポリオールである。具体的には、脂肪族ジカルボン酸(a-11)は、デカン二酸(セバシン酸、C10)、ウンデカン二酸(C11)及びドデカン二酸(C12)が挙げられる。また、炭素数4~6の脂肪族ジオールは、ブタンジオール(例えば、1,3-ブタンジオールや1,4-ブタンジオール等)、ペンタンジオール(例えば、1,5-ペンタンジオール等)及びヘキサンジオール(例えば、1,6-ヘキサンジオール等)が挙げられる。
【0017】
本発明において、「結晶性ポリエステルポリオール」とは、融点30℃以上であることを示し、「非晶性ポリエステルポリオール」とは、融点30℃以下もしくは存在しないものであることを示す。なおこのような結晶性は、酸・グリコール成分を適宜選択することによって調整可能である。ここで、示差走査熱量計を用いて、温度プログラム25℃⇒‐80℃⇒100℃(昇温速度5℃/min)における‐80℃⇒100℃範囲での融解ピークを融点とする。
【0018】
結晶性ポリエステルポリオール(a-1)は、数平均分子量が、1000~5000の範囲内であることが好適であり、2000~4500の範囲内であることがより好適である。
【0019】
ポリエーテルポリオール(a-2)としては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン等の環状エーテルをそれぞれ重合させて得られるポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等、及び、これらのコポリエーテルが挙げられる。また、グリセリンやトリメチロールエタン等の多価アルコールを用い、上記の環状エーテルを重合させて得ることもできる。
【0020】
ポリエーテルポリオール(a-2)は、数平均分子量が1000~4000の範囲内であることが好適であり、1500~3000の範囲内であることがより好適である。
【0021】
また、その他のポリオール(a-3)として、非晶性ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール及び数平均分子量500以下の低分子ジオールからなる群より選択される1つ以上のポリオールを更に含有することが好ましい。
【0022】
非晶性ポリエステルポリオールとしては、例えば、脂肪族ジカルボン酸、例えばコハク酸、アジピン酸、セバシン酸及びアゼライン酸等、芳香族ジカルボン酸、例えばフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸及びナフタレンジカルボン酸等、脂環族ジカルボン酸、例えばヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸及びヘキサヒドロイソフタル酸等、またはこれらの酸エステルもしくは酸無水物と、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール等、もしくは、これらの混合物との脱水縮合反応で得られるポリエステルポリオール;ε-カプロラクトン、メチルバレロラクトン等のラクトンモノマーの開環重合で得られるポリラクトンジオール等が挙げられる。
【0023】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、ジエチレングリコール、脂環式ジヒドロキシ化合物等の多価アルコールの少なくとも1種と、ジエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等とを反応させて得られるものが挙げられる。
【0024】
低分子量ジオールとしては、数平均分子量500以下のジオールであれば特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、プロパンジオール、2-メチル1,3-プロパンジオール、2-ブチル‐2-エチル‐1,3-プロパンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル‐1,3‐ヘキサンジオールが挙げられる。
【0025】
その他のポリオール(a-3)は、単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。また、その他のポリオール(a-3)として、上記以外のポリオールを含んでいてもよい。
【0026】
ポリイソシアネート(B)としては、例えば、トリレンジイソシアネート、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、水素添加MDI、1,5-ナフタレンジイソシアネート、トリレンジイソシネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水素添加XDI、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)、1,8-ジイソシアナトメチルオクタン、リジンエステルトリイソシアネート、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート、及びこれらの変性体、誘導体等が挙げられる。
【0027】
ポリイソシアネート(B)は、単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0028】
ここで、イソシアネート末端ポリウレタンプレポリマーのNCO基含有率は、特に限定されないが、好ましくは1.0~2.5%である。このような範囲とすることで、作業中の発泡等を抑制しつつも、湿気による硬化を促進することが可能となる。なお、NCO基含有率は、JIS K1603-1 に従って測定されたものである。
【0029】
ポリウレタンプレポリマーの含有量は、組成物全体に対して、好ましくは70~100質量%(より好ましくは80~100質量%)である。
【0030】
・その他の成分
その他の成分として、VOCが150ppm以下になる範囲内で、ホットメルト接着剤に使用される公知の添加剤、例えば、オイル成分(可塑剤)、粘着付与樹脂、酸化防止剤、ワックス等を配合可能である。また、熱安定剤、充填剤、触媒等を配合してもよい。
【0031】
オイル成分としては、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル及び芳香族系オイル等が例示される。なお、オイル成分として植物性油等を用いてもよい。
【0032】
粘着付与樹脂は、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、水添脂肪族系石油樹脂、水添芳香族系石油樹脂、テルペン系樹脂、スチレン系樹脂、ロジン系樹脂およびこれらの変性樹脂からなる群より選択される1種以上の粘着付与樹脂を例示できる。
【0033】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤(例えば、Irganox1010(BASF社製))、イオウ系酸化防止剤(例えば、SUMILIZER TP-D(住友化学社製))及びリン系酸化防止剤等(例えば、Irgafos168(BASF社製)、JP-650(城北化学社製))を例示できる。
【0034】
ワックスとしては、天然ろう{例えば、動物系ろう(みつろう、鯨ろう等)、植物系ろう(木ろう等)、石油系ろう(パラフィンワックス等)等}、及び、合成ろう{例えば、合成炭化水素(低分子ポリエチレン等)、脂肪酸エステル(ポリエチレングリコール等)等}を例示できる。
【0035】
触媒としては、例えば、金属系触媒やアミン系触媒等が挙げられる。これらの触媒は、単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0036】
これらの添加剤は、単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0037】
ここで、ポリオール成分(A)における結晶性ポリエステルポリオール(a-1)の含有量は、ポリオール成分(A)100質量部に対して、10~60質量部であることが好適であり、20~40質量部とすることがより好適である。このような範囲とすることにより、適正な固化時間かつ、高い剥離強度を維持することが可能となる。
【0038】
また、ポリオール成分(A)におけるポリエーテルポリオール(a-2)の含有量は、ポリオール成分(A)100質量部に対して、30~80質量部であり、40~60質量部とすることが好適である。このような範囲とすることにより、高い柔軟性と剥離強度の両立が可能となる。
【0039】
なお、ポリオール成分(A)における、結晶性ポリエステルポリオール(a-1)の含有量とポリエーテルポリオール(a-2)の含有量との比は、20:80~70:30であることが好適であり、30:70~50:50であることがより好適である。
【0040】
更に、ポリオール成分(A)におけるその他のポリオール(a-3)の含有量は、ポリオール成分(A)100質量部に対して30質量部以下であることが好適である。このような範囲とすることにより、耐湿熱老化性・剥離強度等の物性を満たすことが可能となる。なお、下限値は特に限定されないが、例えば、ポリオール成分(A)100質量部に対して5質量部である。
【0041】
≪製造方法≫
本発明に係る湿気硬化型ホットメルト接着剤組成物の製造方法は、公知の方法であればよく、製造された湿気硬化型ホットメルト接着剤組成物が本発明の目的を損なわない限りにおいて、特に限定されない。
例えば、(1)所定量のポリオールの入った反応容器に、所定量のイソシアネートを滴下した後に加熱し、前記ポリイソシアネートの有するイソシアネート基が、前記ポリオールの有する水酸基に対して過剰となる条件で反応させ、ポリウレタンプレポリマーを調整する。(2)前記ポリウレタンプレポリマーにその他の成分を所定量滴下し、撹拌することで所望の湿気硬化型ホットメルト接着剤組成物を製造する方法が挙げられる。前記反応は、例えば50~120℃、好ましくは60~100℃の温度で行われる。反応時間は例えば1~15時間である。
【0042】
≪物性≫
次に、本発明に係るホットメルト接着剤組成物の各物性について説明する。
【0043】
(VOC)
本発明に係るホットメルト接着剤組成物は、90℃で加熱したときに発生する有機揮発分の量がトルエン換算値で150ppm以下であることが好ましい。VOCをこの範囲とすることで車両シートの全製品に対して規制値を満たすことができる。なお、VOCを調整するためには、主にポリオール・触媒の種類・添加量で調整することができる。
【0044】
(初期剥離強度)
本発明に係るホットメルト接着剤組成物は、ウレタンフォームと表皮材を貼り合わせ、30秒後の剥離強度が1N/25mm以上となることが好ましい(より好ましくは1.3N/25mm以上である)。初期剥離強度を調整するためには、非晶性エステルポリオール・ポリカーボネートジオール・低分子量ジオールの添加及び添加量の制御により調整することができる。
【0045】
(常態剥離強度)
本発明に係るホットメルト接着剤組成物は、ウレタンフォームと表皮材を貼り合わせ、1日後の常態剥離強度が3N/25mm以上となる。常態剥離強度を調整するためには、結晶性エステルポリオールの添加量やその他ポリオール成分の種類で調整することができる。
【0046】
(固化時間)
本発明に係るホットメルト接着剤組成物は、固化時間が6±4分であることが望ましい。固化時間が長すぎると、編物等の隙間のある素材は接着剤が固化しない内に巻き取られるため、接着剤の浸みだしによるブロッキングが発生する。逆に短すぎる場合は、基材への密着性が低下して常態剥離強度が低下する。固化時間を調整するためには、結晶性エステルポリオールの添加量を調整すること、もしくは結晶核剤による制御を行うことができる。
【0047】
(耐湿熱性)
本発明に係るホットメルト接着剤組成物は、耐湿熱性が80℃95%で400h以上常態剥離強度から80%強度を維持していることが好ましい。耐湿熱性を調整するためには、相溶性を良くして、エステル基濃度を減らせばよい。
【0048】
≪用途≫
本発明に係るホットメルト接着剤組成物は、表皮材と基材を積層接着可能な反応型ホットメルト接着剤組成物である。特に、後述する特定の繊維状とした際に、風合い、通気性、及び浸み込み防止性に優れる接着剤層(硬化したホットメルト接着剤組成物からなる層)を形成する。従って、表皮材および基材が、樹脂発泡体、樹脂フィルム、合成皮革、天然皮革、織布又は不織布等、種類を問わずに適用可能である。また、基材がウレタン樹脂発泡体に対しても適用可能であるため、連続シートからなる基材と表皮材を積層接着する長尺製品に適用することや、通常の熱可塑性ホットメルト接着剤では適用することが困難な、車両内装用とすることもできる。
【0049】
≪適用方法≫
次に、本発明に係るホットメルト接着剤組成物の適用方法の一例について説明する。なお本例では、ホットメルト接着剤組成物を非接触方式(例えば、スプレー方式)を用いて、所定の粘着剤層となるように塗布する場合について説明するが、本発明に係るホットメルト接着剤組成物の適用方法はこれには限定されず、公知の方法により接着対象面に塗布されてもよい。
【0050】
<溶融工程>
先ず、本発明に係るホットメルト接着剤組成物を溶融した状態で保持する(溶融工程)。ホットメルト接着剤組成物が湿気硬化型である場合には、溶融工程においては水分非含有雰囲気とする必要がある。
【0051】
<塗布工程>
次に、適宜の塗布方法(好ましくは非接触方式の塗布方法)により、溶融状態であるホットメルト接着剤組成物を、被接着物の接着対象面(好ましくは発泡体の表面)に対して塗布する。具体的な塗布時の形状としては特に限定されないが、例えば、線形状、ドット状、繊維状等に塗布し、接着剤層を形成すればよい。その他にも、シート状に接着剤層を形成してもよい。なお、接着剤層は、接着剤組成物の塗布量を、好ましくは5~50g/m(より好ましくは10~30g/m)等とすればよい。なお、接着対象面となる両方の面に接着剤組成物を塗布してもよい。
【0052】
なお、具体的な塗布条件としては特に限定されず、例えば、上記のように非接触方式の塗布方法を使用する場合、圧力0.01~0.4MPa、温度100~160℃等にて行えばよい。
【0053】
ここで、非接触方式の塗布方法とは、接着対象部材に塗布設備が接触することがなく接着剤組成物を塗布する方法であり、例えば、スプレー方式による塗布が挙げられる。
【0054】
なお、塗布工程前に、接着対象面に公知の前処理(例えば、プライマー処理、コロナ処理、プラズマ処理等)を行ってもよい。
【0055】
<接触工程、硬化工程>
塗布工程後、接着剤層が設けられた接着対象面(塗布面)に他の部材を接触させ、ホットメルト接着剤組成物を冷却硬化させる。湿気硬化型ホットメルト接着剤組成物である場合、前述のように、冷却硬化後、未硬化のイソシアネート末端が空気中の水分と反応し架橋構造を形成することで、より強固な接着性を発現する。
【0056】
上記塗布工程に記載された方法にて、本発明に係るホットメルト接着剤組成物を塗布する場合、接着対象を問わずに接着可能である。具体的には、樹脂発泡体、樹脂フィルム、合成皮革、天然皮革、織布又は不織布であっても、風合い、通気性、接着性に優れると共に、接着対象への浸み込みを防止できる。特に、接着対象をウレタン樹脂発泡体とした場合においても、このような効果を奏する。
【0057】
以上のようにして、本発明に係るホットメルト接着剤組成物の硬化物である接着層を有する積層体、特には、発泡体と当該発泡体の表面上に設けられた接着剤層とを有する積層体が得られる。なお積層体は、具体的な構成としては、基材であるウレタンフォームと、表皮材もしくは裏基布からなる積層体であることが好ましい。このような積層体は、好ましくは車両用内装材すなわち、基材である{発泡体からなる緩衝層の、裏面に裏基布層が形成された積層シートの表面に表皮層が貼着されてなる積層材(積層シート)}として利用可能である。
【実施例
【0058】
次に、実施例及び比較例により、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらには何ら限定されない。
【0059】
≪ウレタンプレポリマーの合成≫
所定のポリオール成分(A)を反応器へ投入し、ジフェニルメタンジイソシアネートと、全体に対して0.05質量部となるようにアミン系触媒と、を添加し、100℃にて3~4時間反応させて、NCO%=2.0のウレタンプレポリマーを得た。
【0060】
<ポリオール成分(A)>
(実施例1)
結晶性ポリエステルポリオール(セバシン酸/ブタンジオール)融点60℃
数平均分子量4000
35質量部
ポリプロピレングリコール 付加形式PO単独
数平均分子量2000
50質量部
非晶性ポリエステルポリオール(フタル酸/ネオペンチルグリコール)
数平均分子量1000
15質量部
(実施例2)
結晶性ポリエステルポリオール(ドデカン二酸/ヘキサンジオール)融点70℃
数平均分子量4000
35質量部
ポリプロピレングリコール 付加形式PO単独
数平均分子量2000
50質量部
ポリカーボネートジオール 付加形式PO単独 融点50℃
数平均分子量1000
15質量部
(実施例3)
結晶性ポリエステルポリオール(ドデカン二酸/ヘキサンジオール)融点70℃
数平均分子量4000
35質量部
ポリプロピレングリコール 付加形式PO単独
数平均分子量2000
50質量部
ブチルエチルプロパンジオール 付加形式PO単独 融点43℃
15質量部
(実施例4)
結晶性ポリエステルポリオール(ドデカン二酸/へサンジオール) 融点70℃
数平均分子量4000
40質量部
ポリプロピレングリコール 付加形式PO単独
数平均分子量2000
30質量部
ブチルエチルプロパンジオール 融点43℃
30質量部
(実施例5)
結晶性ポリエステルポリオール(セバシン酸/ヘキサンジオール) 融点65℃
数平均分子量4000
20質量部
ポリプロピレングリコール 付加形式PO単独
数平均分子量2000
80質量部
(実施例6)
結晶性ポリエステルポリオール(セバシン酸/ヘキサンジオール) 融点70℃
数平均分子量10000
20質量部
ポリプロピレングリコール 付加形式PO単独
数平均分子量2000
80質量部
(比較例1)
結晶性ポリエステルポリオール(アジピン酸/ブタンジオール)融点58℃
数平均分子量2000
100質量部
(比較例2)
結晶性ポリエステルポリオール(アジピン酸/ブタンジオール)融点58℃
数平均分子量2000
30質量部
ポリプロピレングリコール
数平均分子量1000
70質量部
【0061】
≪評価≫
次に、上記にて得られた各ホットメルト接着剤組成物について、具体的に以下の方法により評価を行った。評価結果を表1に示す。なお、総合評価に際しては、全ての評価で評価判定値を満たす場合を○、VOC及び耐湿熱性が評価判定値を満たし、その他の評価が評価判定値を満たさない場合を△、VOC及び耐湿熱性の少なくとも一方が評価判定値を満たさない場合を×とした。
【0062】
<VOC>
加熱脱着装置(Markes社 TD-100)のガラスチューブにホットメルト接着剤を直接入れ、アウトガスをGC/MS(Agilent 社 GC/MS(6890/5973))で測定した。試料は90℃で30分加熱し、C20までをトルエン換算値で算出した。
【0063】
<初期剥離強度>
ウレタンフォーム(150×25×5mm)にハンドガン(REKA製)で140℃に溶融したホットメルト接着剤を20g/mでスプレー塗布し、表皮材を圧着する。30秒後にデジタルフォースゲージDS2(IMADA社製)にて200mm/minで剥離試験を行い、最大値をN=3で中央値を測定する。
【0064】
<常態剥離強度>
ウレタンフォーム(150×25×5mm)にハンドガン(REKA社製)で140℃に溶融したホットメルト接着剤を20g/mでスプレー塗布し、表皮材を圧着する。1日後にオートグラフ(島津社製 AG-Xplus)を用いて、引張速度200mm/minにて測定した。最大値・最小値それぞれ3点の剥離強度を平均化した数値を、N=3の中央値で算出した。
【0065】
<固化時間>
外気温25℃で140℃に溶融したホットメルト接着剤を15gガラス板へ流し込み、マイクロメータ付フィルムアプリケータ(テスター産業製 SA-204)にて500μm厚みの薄膜を作成する。指で表面を触ってタックが無くなった時間を測定した。
【0066】
<耐湿熱性>
ウレタンフォーム(150×25×5mm)にハンドガン(REKA社製)で140℃に溶融したホットメルト接着剤を20g/mでスプレー塗布し、表皮材を圧着する。3日後に、80℃95%環境下で静置させ、100h毎に剥離強度を測定する。常態剥離強度から80%維持できた時間までを測定した。
【0067】
【表1】