(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】合金部材の製造方法、合金部材、電気化学素子、電気化学モジュール、電気化学装置、エネルギーシステム、および固体酸化物形燃料電池
(51)【国際特許分類】
C25D 5/50 20060101AFI20221110BHJP
C25D 5/26 20060101ALI20221110BHJP
C23C 28/04 20060101ALI20221110BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20221110BHJP
C22C 38/28 20060101ALI20221110BHJP
H01M 8/0208 20160101ALI20221110BHJP
H01M 8/0228 20160101ALI20221110BHJP
H01M 8/021 20160101ALI20221110BHJP
H01M 8/0215 20160101ALI20221110BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20221110BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20221110BHJP
H01M 8/0612 20160101ALI20221110BHJP
H01M 8/1226 20160101ALI20221110BHJP
C22C 38/50 20060101ALN20221110BHJP
【FI】
C25D5/50
C25D5/26 A
C23C28/04
C22C38/00 302Z
C22C38/28
H01M8/0208
H01M8/0228
H01M8/021
H01M8/0215
H01M8/00 Z
H01M8/12 101
H01M8/0612
H01M8/12 102A
H01M8/1226
C22C38/50
(21)【出願番号】P 2019510267
(86)(22)【出願日】2018-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2018013693
(87)【国際公開番号】W WO2018181926
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-11-19
(31)【優先権主張番号】P 2017073146
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】越後 満秋
(72)【発明者】
【氏名】大西 久男
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-250965(JP,A)
【文献】特開2011-179063(JP,A)
【文献】特開2016-195029(JP,A)
【文献】特開2016-173954(JP,A)
【文献】特開2014-054637(JP,A)
【文献】H.H. Zhang et al.,Preparation and performances of Co-Mn spinel coating on a ferritic stainless steel interconnect material for solid oxide fuel cell application,Journal of Power Sources,252 (2014),122-129
【文献】Electrochemical and Solid-State Letters,14 (1),B9-B12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00- 7/12
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合金部材の製造方法であって、Fe-Cr系合金の基材の上にCoをコーティングするコーティング処理工程と、前記コーティング処理工程の後に、露点25℃以上の雰囲気中で前記基材の酸化処理を行う酸化処理工程とを行う、合金部材の製造方法。
【請求項2】
前記コーティング処理工程にて、Coのコーティングがメッキ処理によって行われる請求項1に記載の合金部材の製造方法。
【請求項3】
Fe-Cr系合金の基材と、前記基材の上に形成された被膜層とを有する合金部材であって、前記被膜層がCoを含有し、前記基材の内部において表面の近傍にCo含有領域が形成され
、前記基材は前記被膜層に含有するよりも多くのCоを含有する、合金部材。
【請求項4】
Fe-Cr系合金の基材と、前記基材の上に形成された被膜層とを有する合金部材であって、
前記被膜層は、第1層と第2層とを有し、
前記第1層は前記基材の上に形成されており、かつ、前記基材の内部において表面の近傍に含有するよりもCrを多く含有する金属酸化物の層であり、
前記第2層は前記第1層の上に形成されており、かつ、Coを含有する金属酸化物の層であ
り、
前記基材は前記第2層に含有するよりも多くのCоを含有する、合金部材。
【請求項5】
前記第2層がMnを含有する請求項4に記載の合金部材。
【請求項6】
前記第2層は前記第1層に含有するよりも多くのMnを含有する、請求項4又は5に記載の合金部材。
【請求項7】
Fe-Cr系合金の基材と、前記基材の上に形成された被膜層とを有する合金部材であって、
前記被膜層は、第1層と第2層とを有し、
前記第1層は前記基材の上に形成されており、かつ、Crを含有する金属酸化物の層であり、
前記第2層は前記第1層の上に形成されており、かつ、Coを含有する金属酸化物の層であり、
前記第2層は前記第1層に含有するよりも多くのMnを含有
し、
前記基材は前記第2層に含有するよりも多くのCоを含有する、合金部材。
【請求項8】
前記第1層は前記基材の内部において表面の近傍に含有するよりもCrを多く含有する、請求項7に記載の合金部材。
【請求項9】
前記第1層は前記基材の内部において表面の近傍に含有するよりもCoを少なく含有する、請求項4から8のいずれか1項に記載の合金部材。
【請求項10】
前記第2層は前記第1層に含有するよりもCoを多く含有する、請求項4から9のいずれか1項に記載の合金部材。
【請求項11】
前記第2層は前記第1層に含有するよりもCrを少なく含有する、請求項4から10のいずれか1項に記載の合金部材。
【請求項12】
前記基材の内部において表面の近傍にCo含有領域が形成されている、請求項4から11のいずれか1項に記載の合金部材。
【請求項13】
前記基材のFe-Cr系合金が、Mnを0.05質量%以上含有する請求項3から12のいずれか1項に記載の合金部材。
【請求項14】
前記基材のFe-Cr系合金が、Tiを0.15質量%以上1.0質量%以下含有するFe-Cr系合金、Zrを0.15質量%以上1.0質量%以下含有するFe-Cr系合金、TiおよびZrを含有しTiとZrとの合計の含有量が0.15質量%以上1.0質量%以下であるFe-Cr系合金、のいずれかである請求項3から13のいずれか1項に記載の合金部材。
【請求項15】
前記基材のFe-Cr系合金が、Cuを0.10質量%以上1.0質量%以下含有する請求項3から14のいずれか1項に記載の合金部材。
【請求項16】
前記基材のFe-Cr系合金が、Crを18質量%以上25質量%以下含有する請求項3から15のいずれか1項に記載の合金部材。
【請求項17】
請求項3から16のいずれか1項に記載の合金部材の上に、少なくとも電極層と電解質層と対極電極層とが設けられた電気化学素子。
【請求項18】
請求項17に記載の電気化学素子が複数集合した状態で配置される電気化学モジュール。
【請求項19】
請求項18に記載の電気化学モジュールと改質器とを少なくとも有し、前記電気化学モジュールに対して還元性成分を含有する燃料ガスを供給する燃料供給部を有する電気化学装置。
【請求項20】
請求項18に記載の電気化学モジュールと、前記電気化学モジュールから電力を取り出すインバータとを有する電気化学装置。
【請求項21】
セパレータ部材、マニホールド部材、インターコネクタ部材及び集電部材の少なくともいずれかを有し、前記セパレータ部材、前記マニホールド部材、前記インターコネクタ部材及び前記集電部材の少なくともいずれかが請求項3から16のいずれか1項に記載の合金部材により形成される電気化学装置。
【請求項22】
請求項19から21のいずれか1項に記載の電気化学装置と、前記電気化学装置から排出される熱を再利用する排熱利用部を有するエネルギーシステム。
【請求項23】
請求項17に記載の電気化学素子を備え、前記電気化学素子で発電反応を生じさせる固体酸化物形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学装置や固体酸化物形燃料電池等に用いられる合金部材と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の固体酸化物形燃料電池用の耐熱合金材料としては、Cr合金材料表面にMnCr酸化物層およびMnとCoを含む複合酸化物層からなる水蒸気酸化抑制層等をスラリー塗布と酸化処理によって形成した材料が用いられていた(特許文献1)。
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように、合金材料に複雑な複合酸化物層を塗布する方法は、合金部材の製造に高いコストがかかってしまう。またCr揮発の抑制に関しても改善の余地があった。
【0005】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡便な方法で低コストに成膜可能であり、かつ、従来の高コストな材料よりも燃料電池の劣化を引き起こすCrの揮発を抑制可能な、金属酸化物被膜を有する合金部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための合金部材の製造方法の特徴構成は、Fe-Cr系合金の基材の上にCoをコーティングするコーティング処理工程と、前記コーティング処理工程の後に、露点25℃以上の雰囲気中で前記基材の酸化処理を行う酸化処理工程とを行う点にある。
【0007】
上記の特徴構成によれば、耐熱性の高い合金部材を低コストで製造することができる。加えて、Cr揮発の抑制効果を従来より高めることができる。
また、前記酸化処理工程が、露点25℃以上の雰囲気中で行われると、Cr揮発の抑制効果が大きな合金部材を製造できる。また、前記酸化処理工程が、露点30℃以上の雰囲気中で行われるとより好ましく、露点35℃以上の雰囲気中で行われると更に好ましい。これは、Cr揮発の抑制効果がより大きな合金部材を製造しやくなるからである。
【0008】
本発明に係る合金部材の製造方法の別の特徴構成は、前記コーティング処理工程にて、Coのコーティングがメッキ処理によって行われる点にある。
【0009】
上記の特徴構成によれば、さらに低コストで合金部材を製造することができる。
【0011】
上記目的を達成するための合金部材の特徴構成は、Fe-Cr系合金の基材と、前記基材の上に形成された被膜層とを有する合金部材であって、前記被膜層がCоを含有し、前記基材の内部において表面の近傍にCо含有領域が形成され、前記基材は前記被膜層に含有するよりも多くのCоを含有する点にある。
【0012】
上記の特徴構成によれば、被膜層がCoを含有し、基材の内部において表面の近傍にCo含有領域が形成され、基材は被膜層に含有するよりも多くのCоを含有するものとなる。このような構成を有する合金部材は、Cr揮発の抑制効果が高く、電気化学素子や電気化学装置、固体酸化物形燃料電池等に好適に用いられる。
【0013】
上記目的を達成するための合金部材の特徴構成は、Fe-Cr系合金の基材と、前記基材の上に形成された被膜層とを有する合金部材であって、
前記被膜層が、第1層と第2層とを有し、
前記第1層は前記基材の上に形成されており、かつ、前記基材の内部において表面の近傍に含有するよりもCrを多く含有する金属酸化物の層であり、
前記第2層は前記第1層の上に形成されており、かつ、Coを含有する金属酸化物の層であり、
前記基材は前記第2層に含有するよりも多くのCоを含有する点にある。
【0014】
上記の特徴構成によれば、被膜層の第1層が基材の内部において表面の近傍に含有するよりもCrを多く含有し、第2層がCoを含有するものとして、被膜層を備え、基材は第2層に含有するよりも多くのCоを含有する合金部材が形成されたものとなる。
このような構成を有する合金部材は、Cr揮発の抑制効果が高く、電気化学素子や電気化学装置、固体酸化物形燃料電池等に好適に用いられる。
【0015】
上記目的を達成するための合金部材の特徴構成は、Fe-Cr系合金の基材と、前記基材の上に形成された被膜層とを有する合金部材であって、
前記被膜層は、第1層と第2層とを有し、
前記第1層は前記基材の上に形成されており、かつ、前記基材の内部において表面の近傍に含有するよりもCrを多く含有する金属酸化物の層であり、
前記第2層は前記第1層の上に形成されており、かつ、Coを含有する金属酸化物の層であり、
前記基材の内部において表面の近傍にCo含有領域が形成され、
前記基材は前記第2層に含有するよりも多くのCоを含有する点にある。
【0016】
上記の特徴構成によれば、被膜層の第1層が基材の内部において表面の近傍に含有するよりもCrを多く含有し、第2層がCoを含有し、基材の内部において表面の近傍にCo含有領域が形成され、基材は第2層に含有するよりも多くのCоを含有するものとなる。このような構成を有する合金部材は、Cr揮発の抑制効果が高く、電気化学素子や電気化学装置、固体酸化物形燃料電池等に好適に用いられる。
【0017】
前記第2層がMnを含有すると、Cr揮発の抑制効果が高い合金部材となり、さらに好適である。前記第2層は前記第1層に含有するよりも多くのMnを含有すると、さらに好適である。
また、前記第1層は前記基材の内部において表面の近傍に含有するよりもCoを少なく含有すると、好適である。
前記第2層は前記第1層に含有するよりもCoを多く含有すると、好適である。
前記第2層は前記第1層に含有するよりもCrを少なく含有すると、好適である。
【0018】
前記基材のFe-Cr系合金が、Mnを0.05質量%以上含有すると、Cr揮発の抑制効果が高い被膜層を有する合金部材を得やすくなるため、さらに好適である。また、Mnを0.1質量%以上含有すると、Cr揮発の抑制効果が高い被膜層を有する合金部材をより得やすくなるため、より好ましい。
【0019】
本発明に係る合金部材の別の特徴構成は、前記基材のFe-Cr系合金が、Tiを0.15質量%以上1.0質量%以下含有するFe-Cr系合金、Zrを0.15質量%以上1.0質量%以下含有するFe-Cr系合金、TiおよびZrを含有しTiとZrとの合計の含有量が0.15質量%以上1.0質量%以下であるFe-Cr系合金、のいずれかである点にある。
【0020】
TiとZrは鋼材中で炭素と反応して安定な炭化物を形成しやすい。上記の特徴構成によれば、金属支持体が、Tiを0.15質量%以上1.0質量%以下含有するFe-Cr系合金、Zrを0.15質量%以上1.0質量%以下含有するFe-Cr系合金、TiおよびZrを含有しTiとZrとの合計の含有量が0.15質量%以上1.0質量%以下であるFe-Cr系合金、のいずれかであるから、Fe-Cr系合金の耐酸化性と高温強度を向上する効果が得られるため、高温で長時間使用した際でも金属支持体からのCrの揮発を抑制でき、耐久性に優れた電気化学素子を実現できる。
【0021】
なおTiの含有量は、0.20質量%以上であると好ましく、0.25質量%以上であると更に好ましい。これは、TiやZrを添加することによるFe-Cr系合金の耐酸化性と高温強度の向上効果をより大きくすることができるためである。またTiの含有量は、0.90質量%以下であると好ましく、0.80質量%以下であると更に好ましい。TiやZrを添加することによるFe-Cr系合金のコストアップをより小さくすることができるからである。
【0022】
なおZrの含有量は、0.20質量%以上であると好ましく、0.25質量%以上であると更に好ましい。これは、TiやZrを添加することによるFe-Cr系合金の耐酸化性と高温強度の向上効果をより大きくすることができるためである。またZrの含有量は、0.90質量%以下であると好ましく、0.80質量%以下であると更に好ましい。TiやZrを添加することによるFe-Cr系合金のコストアップをより小さくすることができるからである。
【0023】
なおTiとZrとの合計の含有量は、0.20質量%以上であると好ましく、0.25質量%以上であると更に好ましい。これは、TiやZrを添加することによるFe-Cr系合金の耐酸化性と高温強度の向上効果をより大きくすることができるためである。またTiとZrとの合計の含有量は、0.90質量%以下であると好ましく、0.80質量%以下であると更に好ましい。TiやZrを添加することによるFe-Cr系合金のコストアップをより小さくすることができるからである。
【0024】
本発明に係る合金部材の別の特徴構成は、前記基材のFe-Cr系合金が、Cuを0.10質量%以上1.0質量%以下含有する点にある。
【0025】
Cuは接触抵抗(電気抵抗)を低減する効果がある。上記の特徴構成によれば、金属支持体がCuを0.10質量%以上1.0質量%以下含有するから、電気化学素子としての電気的な抵抗値を低く抑制し、高性能な電気化学素子を実現できる。
【0026】
なおCuの含有量は、0.20質量%以上であるとより好ましく、0.30質量%以上であると更に好ましい。これは、Fe-Cr系合金にCuを添加することによる接触抵抗低減効果をより大きくすることができるためである。またCuの含有量は、0.90質量%以下であるとより好ましく、0.70質量%以下であると更に好ましい。これは、Fe-Cr系合金にCuを添加することによるコストアップをより小さくすることができるためである。
【0027】
本発明に係る合金部材の別の特徴構成は、前記基材のFe-Cr系合金が、Crを18質量%以上25質量%以下含有する点にある。
【0028】
上記の特徴構成によれば、例えばSOFCの電極層の材料や電解質層の材料に含まれるジルコニア系材料やセリア系材料の熱膨張係数とFe-Cr系合金の熱膨張係数を近くすることができるため、電気化学素子を高温で使用する場合やヒートサイクルを施す場合でも、電極層や電解質層が割れたり剥がれたりすることを抑制でき、信頼性の高い電気化学素子を実現できる。
【0029】
なお、Crの含有量は、20質量%以上であるとより好ましい。これは、Fe-Cr系合金の熱膨張係数をジルコニア系材料やセリア系材料の熱膨張係数とより近くすることができるためである。また、Crの含有量の上限値は、23質量%以下であるとより好ましい。これは、Fe-Cr系合金のコストアップをより小さくすることができるためである。
【0030】
上述の合金部材の上に、少なくとも電極層と電解質層と対極電極層とが設けられた電気化学素子は、合金部材からのCrの揮発が抑制され、合金部材が電気化学素子の金属支持体として機能するので、高性能な電気化学素子となる。
【0031】
本発明に係る電気化学モジュールの特徴構成は、上述の電気化学素子が複数集合した状態で配置される点にある。
【0032】
上記の特徴構成によれば、上述の電気化学素子が複数集合した状態で配置されるので、材料コストと加工コストを抑制しつつ、コンパクトで高性能な、強度と信頼性に優れた電気化学モジュールを得ることができる。
【0033】
本発明に係る電気化学装置の特徴構成は、上述の電気化学モジュールと改質器とを少なくとも有し、前記電気化学モジュールに対して還元性成分を含有する燃料ガスを供給する燃料供給部とを有する点にある。
【0034】
上記の特徴構成によれば、電気化学モジュールと改質器を有し電気化学モジュールに対して還元性成分を含有する燃料ガスを供給する燃料供給部を有するので、都市ガス等の既存の原燃料供給インフラを用いる、耐久性・信頼性および性能に優れた電気化学モジュールを備えた電気化学装置を実現することができる。また、電気化学モジュールから排出される未利用の燃料ガスをリサイクルするシステムを構築し易くなるため、高効率な電気化学装置を実現することができる。
【0035】
本発明に係る電気化学装置の特徴構成は、上述の電気化学モジュールと、前記電気化学モジュールから電力を取り出すインバータとを少なくとも有する点にある。
【0036】
上記の特徴構成によれば、耐久性・信頼性および性能に優れた電気化学モジュールから得られる電気出力を、インバータによって昇圧したり、直流を交流に変換したりすることができるため、電気化学モジュールで得られる電気出力を利用しやすくなるので好ましい。
【0037】
電気化学装置がセパレータ部材を有し、セパレータ部材が上述の合金部材であると、セパレータ部材からのCrの揮発が抑制され好適である。なおセパレータ部材とは、複数集合された電気化学素子に燃料ガス・空気を供給するに際して、燃料ガス流路と空気流路を隔てる部材である。
【0038】
電気化学装置がマニホールド部材を有し、マニホールド部材が上述の合金部材であると、マニホールド部材からのCrの揮発が抑制され好適である。なおマニホールド部材とは、複数集合された電気化学素子に対して燃料ガスまたは空気を供給する部材である。
【0039】
電気化学装置がインターコネクタ部材を有し、インターコネクタ部材が上述の合金部材であると、インターコネクタ部材からのCrの揮発が抑制され好適である。なおインターコネクタ部材とは、複数の電気化学素子を接合する部材である。
【0040】
電気化学装置が集電部材を有し、集電部材が上述の合金部材であると、集電部材からのCrの揮発が抑制され好適である。なお集電部材とは、電子電導性を有し、電気化学素子の電極層に接続される部材である。
【0041】
本発明に係るエネルギーシステムの特徴構成は、上述の電気化学装置と、前記電気化学装置から排出される熱を再利用する排熱利用部を有する点にある。
【0042】
上記の特徴構成によれば、電気化学装置と、電気化学装置から排出される熱を再利用する排熱利用部を有するので、耐久性・信頼性および性能に優れ、かつエネルギー効率にも優れたエネルギーシステムを実現することができる。なお、電気化学装置から排出される未利用の燃料ガスの燃焼熱を利用して発電する発電システムと組み合わせてエネルギー効率に優れたハイブリットシステムを実現することもできる。
【0043】
本発明に係る固体酸化物形燃料電池の特徴構成は、上述の電気化学素子を備え、前記電気化学素子で発電反応を生じさせる点にある。
【0044】
上記の特徴構成によれば、電気化学素子の劣化を抑制して燃料電池の性能を長期間維持することが可能となる。なお、定格運転時に650℃以上の温度域で運転可能な固体酸化物形燃料電池であると、都市ガス等の炭化水素系ガスを原燃料とする燃料電池システムにおいて、原燃料を水素に変換する際に必要となる熱を燃料電池の排熱で賄うことが可能なシステムを構築できるため、燃料電池システムの発電効率を高めることができるので、より好ましい。また、定格運転時に900℃以下の温度域で運転される固体酸化物形燃料電池であるとCr揮発の抑制効果が高く維持でき、長期耐久性に優れたものにできるのでより好ましく、定格運転時に850℃以下の温度域で運転される固体酸化物形燃料電池であると、Cr揮発の抑制効果を更に高められ長期耐久性に優れたものにできるので更に好ましい。
また、上記目的を達成するための合金部材の別の特徴構成は、Fe-Cr系合金の基材と、前記基材の上に形成された被膜層とを有する合金部材であって、
前記被膜層は、第1層と第2層とを有し、
前記第1層は前記基材の上に形成されており、かつ、Crを含有する金属酸化物の層であり、
前記第2層は前記第1層の上に形成されており、かつ、Coを含有する金属酸化物の層であり、
前記第2層は前記第1層に含有するよりも多くのMnを含有し、
前記基材は前記第2層に含有するよりも多くのCоを含有する点にある。
本発明に係る合金部材の別の特徴構成は、前記第1層は前記基材の内部において表面の近傍に含有するよりもCrを多く含有する点にある。
本発明に係る合金部材の別の特徴構成は、前記第1層は前記基材の内部において表面の近傍に含有するよりもCoを少なく含有する点にある。
本発明に係る合金部材の別の特徴構成は、前記第2層は前記第1層に含有するよりもCoを多く含有する点にある。
本発明に係る合金部材の別の特徴構成は、前記第2層は前記第1層に含有するよりもCrを少なく含有する点にある。
本発明に係る合金部材の別の特徴構成は、前記基材の内部において表面の近傍にCo含有領域が形成されている点にある。
本発明に係る合金部材の別の特徴構成は、前記基材のFe-Cr系合金が、Mnを0.05質量%以上含有する点にある。
本発明に係る合金部材の別の特徴構成は、前記基材のFe-Cr系合金が、Tiを0.15質量%以上1.0質量%以下含有するFe-Cr系合金、Zrを0.15質量%以上1.0質量%以下含有するFe-Cr系合金、TiおよびZrを含有しTiとZrとの合計の含有量が0.15質量%以上1.0質量%以下であるFe-Cr系合金のいずれかである点にある。
本発明に係る合金部材の別の特徴構成は、前記基材のFe-Cr系合金が、Cuを0.10質量%以上1.0質量%以下含有する点にある。
本発明に係る合金部材の別の特徴構成は、前記基材のFe-Cr系合金が、Crを18質量%以上25質量%以下含有する点にある。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図2】電気化学素子および電気化学モジュールの構成を示す概略図
【
図3】電気化学装置およびエネルギーシステムの構成を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0046】
<第1実施形態>
以下、本実施形態に係る合金部材の製造方法、および合金部材について説明する。合金部材は、基材の上にCoをコーティングし、水蒸気を添加した雰囲気中で酸化処理を行って、製造される。このように製造された合金部材は、Crの揮発が抑制されており、電気化学素子や電気化学装置、固体酸化物形燃料電池等に好適に用いられる。例えば
図1に示される電気化学素子Eの金属基板1(金属支持体)として用いられる。例えば
図2に示される電気化学モジュールMのU字部材7(セパレータ部材)や集電部材26として用いられる。例えば
図3に示される電気化学装置Yのガスマニホールド17(マニホールド部材)として用いられる。
なお、合金部材は、基材と、基材の表面に直接Coをコーティングした後に酸化処理して形成された被膜層(金属酸化物層1b(拡散抑制層))とから構成されていてもよい。あるいは、基材と、基材と被膜層との間の介在層と、介在層にCoをコーティングした後に酸化処理して形成された被膜層とから構成されていてもよい。
【0047】
(基材)
合金部材の基材としては、Fe-Cr系合金が用いられる。基材のFe-Cr系合金が、Mnを0.05質量%以上含有すると好適である。基材のFe-Cr系合金が、Tiを0.15質量%以上1.0質量%以下含有するFe-Cr系合金、Zrを0.15質量%以上1.0質量%以下含有するFe-Cr系合金、TiおよびZrを含有しTiとZrとの合計の含有量が0.15質量%以上1.0質量%以下であるFe-Cr系合金、のいずれかであるとより好適である。基材のFe-Cr系合金が、Cuを0.10質量%以上1.0質量%以下含有するとより好適である。基材のFe-Cr系合金が、Crを18質量%以上25質量%以下含有するとより好適である。
【0048】
(合金部材の製造方法)
次に、本実施形態に係る合金部材の製造方法について説明する。
【0049】
(コーティング処理ステップ)
コーティング処理ステップでは、Fe-Cr系合金の基材の上にCoをコーティングする。基板へのCoのコーティングは、メッキ処理(電解メッキや無電解メッキ)や蒸着処理、Coを含んだ塗料による塗装などによって行うことができる。
なお、コーティング処理ステップでは、基材の表面に直接Coをコーティングしてもよいし、あるいは、基材と被膜層との間の介在層にCoをコーティングしてもよい。
【0050】
(酸化処理ステップ)
酸化処理ステップでは、含湿雰囲気中で基材の酸化処理が行われる。雰囲気の露点は25℃以上であると好ましく、雰囲気の露点が30℃以上であるとより好ましく、雰囲気の露点が35℃以上であると更に好ましい。酸化処理の温度は600℃以上であると好ましく、700℃以上であるとより好ましい。酸化処理の温度は1100℃以下であると好ましく、1050℃以下であるとより好ましい。
【0051】
以上のようにして合金部材を製造することができる。なお合金部材を電気化学素子Eの金属基板1や、セパレータ部材、マニホールド部材、集電部材等として用いる場合には、コーティング処理ステップおよび酸化処理ステップを行う前に切断・曲げ・プレス成形加工等の機械加工を施すと好適である。コーティング処理ステップおよび酸化処理ステップを行った後に切断・曲げ等の機械加工を施すことも可能である。
また、以上のようにして得た合金部材を電気化学素子Eの金属基板1として用いると電気化学素子の内部抵抗を小さく抑えた高性能な電気化学素子Eを得ることができるので好ましい。
【0052】
<実施例>
以下の表1の組成の基板を用いて合金部材のサンプルを作成した。なお表1に示す組成の値の単位は、質量%である。基板へのCoのコーティング処理は電解メッキにより行った。Coコーティングの厚さは、1μm、2μm、3μmの3種である。酸化処理は、40℃露点雰囲気中(実施例)と、20℃露点雰囲気中(比較例)の2つの条件で行った。酸化処理の温度は何れも、850℃(60分)+1000℃(90分)の2段処理により行った。
【0053】
【0054】
作成した6種のサンプルについて、Crの揮発量を測定した。なお、Cr揮発量の測定は、幅25mm、長さ250~300mmのサイズの金属板サンプルを用い、0.5L/分の空気(露点20℃もしくは露点40℃)中、850℃の温度で、それぞれの金属板サンプルを100時間暴露して、その間のCrの揮発量(積算量)を測定した。測定結果を表2に示す。なお、表2に示すCr揮発量の単位はμg/600cm2であり、600cm2相当の金属表面積あたりのCrの揮発量に換算した値としている。
【0055】
【0056】
比較例の3種のサンプルでは、ある程度のCrが揮発した。これに対し、実施例の3種のサンプルでは、Cr揮発量が極めて少なくなった。特にコーティング厚さが2μm以上の2種のサンプルでは、Cr揮発量が測定限界以下となった。以上の結果から、本実施形態に係る合金部材の製造方法により、Cr揮発量が極めて小さい合金部材が得られることが分かった。
【0057】
作成した実施例と比較例のサンプルについて、表面近傍の元素分布(Cr,Fe,Mn,Co)の測定を行った。分析は、合金部材の断面を露出させ、EPMA分析により行った。結果を
図5と
図6に示す。
【0058】
図5は実施例(40℃露点雰囲気中で酸化処理、コーティング厚さ3μm)の結果を示している。横軸は基板表面に垂直な方向の位置(単位:mm)であって、右方向(正の方向)が基板の表面へ向かう方向、左方向(負の方向)が基板内部へ向かう方向である。縦軸は各元素の信号強度であるが、相対的な値であり、元素間での分布の比を反映していない。
【0059】
Feの分布に着目すると、位置0~0.005は信号強度が強く、位置0.005~0.006付近で信号強度が減少し、位置0.007以降は信号強度がほぼ0となっている。したがって、位置0~0.006付近は基材(合金)であり、位置0.006付近より右(表面側)は被膜層であると推定される。
【0060】
Crは位置0.006~0.009に多く分布している。したがってCrは、被膜層の基材に近い領域に分布していると推定される。Mnは位置0.009~0.013に多く分布している。したがってMnは、被膜層において基材から離れた領域の、Crの分布が小さい領域に多く分布していると推定される。Coは位置0.003~0.006と、位置0.009~0.013に多く分布している。したがってCoは、2つの領域に分布していると推定される。1つは、基材の内部における基材と被膜層との界面の付近、すなわち基材の表面の近傍の領域である。もう1つは、被膜層において基材から離れた領域の、Crの分布が小さい領域、すなわちMnと同じ領域である。
【0061】
以上の元素分布の結果から、本実施形態に係る合金部材においては、基材の表面近傍に被膜層が形成されていると認められる。そして被膜層は、基材の上に形成されており(基材の上方に形成されており、基材に接して形成されており、又は、基材に近接して形成されており)、第1層と、第1層の上に第2層(第1層の上方に形成されており、第1層に接して形成されており、又は、第1層に近接して形成されている)とを有している。第1層には、Crが多く含有されている。第2層には、CoおよびMnが多く含有されている。そして基材の内部において、表面の近傍にCoを含有する領域(Co含有領域)が形成されている。
【0062】
図6は比較例(20℃露点雰囲気中で酸化処理、コーティング厚さ3μm)の結果を示している。
【0063】
Feの分布に着目すると、位置0~0.006は信号強度が強く、位置0.006~0.008付近で信号強度が減少し、位置0.008以降は信号強度がほぼ0となっている。したがって、位置0~0.008付近は基材(合金)であり、位置0.008付近より右(表面側)は被膜層であると推定される。
【0064】
Crは位置0.007~0.012に多く分布している。したがってCrは、被膜層の領域に広く分布していると推定される。Mnは位置0.010~0.012に多く分布している。したがってMnは、被膜層において基材から離れた領域に多く分布していると推定される。
図5の実施例と異なり、MnはCrが分布する領域に重なって分布している。Coは位置0~0.008に多く分布している。
図5の実施例と異なり、Coは基材の内部に分布していると推定される。
【0065】
図6に示される通り、比較例では被膜層の全体にCrが分布している。一方、
図5の実施例では、被膜層の表面近傍にはMnおよびCoが多く分布し、Crの分布は小さい。このような構成により、Cr揮発量を非常に少なくできていると考えられる。
【0066】
<第2実施形態>
以下、
図1を参照しながら、本実施形態に係る電気化学素子Eおよび固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)について説明する。電気化学素子Eは、例えば、水素を含む燃料ガスと空気の供給を受けて発電する固体酸化物形燃料電池の構成要素として用いられる。なお以下、層の位置関係などを表す際、例えば電解質層4から見て対極電極層6の側を「上」または「上側」、電極層2の側を「下」または「下側」という場合がある。また、金属基板1における電極層2が形成されている側の面を「表側」、反対側の面を「裏側」という場合がある。
【0067】
(電気化学素子)
電気化学素子Eは、
図1に示される通り、金属基板1(金属支持体)と、金属基板1の上に形成された電極層2と、電極層2の上に形成された中間層3と、中間層3の上に形成された電解質層4とを有する。そして電気化学素子Eは、更に、電解質層4の上に形成された反応防止層5と、反応防止層5の上に形成された対極電極層6とを有する。つまり対極電極層6は電解質層4の上に形成され、反応防止層5は電解質層4と対極電極層6との間に形成されている。電極層2は多孔質であり、電解質層4は緻密である。
【0068】
(金属基板)
金属基板1は、電極層2、中間層3および電解質層4等を支持して電気化学素子Eの強度を保つ、支持体としての役割を担う。本実施形態では、金属基板1として上述の合金部材が用いられる。なお本実施形態では、金属支持体として板状の金属基板1が用いられるが、金属支持体としては他の形状、例えば箱状、円筒状などの形状も可能である。
なお、金属基板1は、支持体として電気化学素子を形成するのに充分な強度を有すれば良く、例えば、0.1mm~2mm程度、好ましくは0.1mm~1mm程度、より好ましくは0.1mm~0.5mm程度の厚みのものを用いることができる。
【0069】
金属基板1は、表側の面と裏側の面とを貫通して設けられる複数の貫通孔1aを有する。なお、例えば、貫通孔1aは、機械的、化学的あるいは光学的穿孔加工などにより、金属基板1に設けることができる。貫通孔1aは、金属基板1の裏側の面から表側の面へ気体を透過させる機能を有する。金属基板1に気体透過性を持たせるために、多孔質金属を用いることも可能である。例えば、金属基板1は、焼結金属や発泡金属等を用いることもできる。
【0070】
金属基板1の基材の材料としてフェライト系ステンレス材を用いた場合、電極層2や電解質層4の材料として用いられるYSZ(イットリア安定化ジルコニア)やGDC(ガドリウム・ドープ・セリア、CGOとも呼ぶ)等と熱膨張係数が近い。従って、低温と高温の温度サイクルが繰り返された場合も電気化学素子Eがダメージを受けにくい。よって、長期耐久性に優れた電気化学素子Eを実現できるので好ましい。
【0071】
(電極層)
電極層2は、
図1に示すように、金属基板1の表側の面であって貫通孔1aが設けられた領域より大きな領域に、薄層の状態で設けることができる。薄層とする場合は、その厚さを、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは、5μm~50μmとすることができる。このような厚さにすると、高価な電極層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な電極性能を確保することが可能となる。貫通孔1aが設けられた領域の全体が、電極層2に覆われている。つまり、貫通孔1aは金属基板1における電極層2が形成された領域の内側に形成されている。換言すれば、全ての貫通孔1aが電極層2に面して設けられている。
【0072】
電極層2の材料としては、例えばNiO-GDC、Ni-GDC、NiO-YSZ、Ni-YSZ、CuO-CeO2、Cu-CeO2などの複合材を用いることができる。これらの例では、GDC、YSZ、CeO2を複合材の骨材と呼ぶことができる。なお、電極層2は、低温焼成法(例えば1100℃より高い高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)やスプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法やパルスレーザーデポジション法など)、CVD法などにより形成することが好ましい。これらの、低温域で使用可能なプロセスにより、例えば1100℃より高い高温域での焼成を用いずに、良好な電極層2が得られる。そのため、金属基板1を傷めることなく、また、金属基板1と電極層2との元素相互拡散を抑制することができ、耐久性に優れた電気化学素子を実現できるので好ましい。更に、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。
【0073】
電極層2は、気体透過性を持たせるため、その内部および表面に複数の細孔を有する。
すなわち電極層2は、多孔質な層として形成される。電極層2は、例えば、その緻密度が30%以上80%未満となるように形成される。細孔のサイズは、電気化学反応を行う際に円滑な反応が進行するのに適したサイズを適宜選ぶことができる。なお緻密度とは、層を構成する材料の空間に占める割合であって、(1-空孔率)と表すことができ、また、相対密度と同等である。
【0074】
(中間層)
中間層3は、
図1に示すように、電極層2を覆った状態で、電極層2の上に薄層の状態で形成することができる。薄層とする場合は、その厚さを、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは2μm~50μm程度、より好ましくは4μm~25μm程度とすることができる。このような厚さにすると、高価な中間層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な性能を確保することが可能となる。中間層3の材料としては、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、SSZ(スカンジウム安定化ジルコニア)やGDC(ガドリウム・ドープ・セリア)、YDC(イットリウム・ドープ・セリア)、SDC(サマリウム・ドープ・セリア)等を用いることができる。特にセリア系のセラミックスが好適に用いられる。
【0075】
中間層3は、低温焼成法(例えば1100℃より高い高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)やスプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などにより形成することが好ましい。これらの、低温域で使用可能な成膜プロセスにより、例えば1100℃より高い高温域での焼成を用いずに中間層3が得られる。そのため、金属基板1を傷めることなく、金属基板1と電極層2との元素相互拡散を抑制することができ、耐久性に優れた電気化学素子Eを実現できる。また、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。
【0076】
中間層3としては、酸素イオン(酸化物イオン)伝導性を有することが好ましい。また、酸素イオン(酸化物イオン)と電子との混合伝導性を有すると更に好ましい。これらの性質を有する中間層3は、電気化学素子Eへの適用に適している。
【0077】
(電解質層)
電解質層4は、
図1に示すように、電極層2および中間層3を覆った状態で、中間層3の上に薄層の状態で形成される。また、厚さが10μm以下の薄膜の状態で形成することもできる。詳しくは電解質層4は、
図1に示すように、中間層3の上と金属基板1の上とにわたって(跨って)設けられる。このように構成し、電解質層4を金属基板1に接合することで、電気化学素子全体として堅牢性に優れたものとすることができる。
【0078】
また電解質層4は、
図1に示すように、金属基板1の表側の面であって貫通孔1aが設けられた領域より大きな領域に設けられる。つまり、貫通孔1aは金属基板1における電解質層4が形成された領域の内側に形成されている。
【0079】
また電解質層4の周囲においては、電極層2および中間層3からのガスのリークを抑制することができる。説明すると、電気化学素子EをSOFCの構成要素として用いる場合、SOFCの作動時には、金属基板1の裏側から貫通孔1aを通じて電極層2へガスが供給される。電解質層4が金属基板1に接している部位においては、ガスケット等の別部材を設けることなく、ガスのリークを抑制することができる。なお、本実施形態では電解質層4によって電極層2の周囲をすべて覆っているが、電極層2および中間層3の上部に電解質層4を設け、周囲にガスケット等を設ける構成としてもよい。
【0080】
電解質層4の材料としては、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、SSZ(スカンジウム安定化ジルコニア)やGDC(ガドリウム・ドープ・セリア)、YDC(イットリウム・ドープ・セリア)、SDC(サマリウム・ドープ・セリア)、LSGM(ストロンチウム・マグネシウム添加ランタンガレート)等を用いることができる。特にジルコニア系のセラミックスが好適に用いられる。電解質層4をジルコニア系セラミックスとすると、電気化学素子Eを用いたSOFCの稼働温度をセリア系セラミックスに比べて高くすることができる。例えば電気化学素子EをSOFCに用いる場合、電解質層4の材料としてYSZのような650℃程度以上の高温域でも高い電解質性能を発揮できる材料を用い、システムの原燃料に都市ガスやLPG等の炭化水素系の原燃料を用い、原燃料を水蒸気改質等によってSOFCのアノードガスとするシステム構成とすると、SOFCのセルスタックで生じる熱を原燃料ガスの改質に用いる高効率なSOFCシステムを構築することができる。
【0081】
電解質層4は、低温焼成法(例えば1100℃を越える高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)やスプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などにより形成することが好ましい。これらの、低温域で使用可能な成膜プロセスにより、例えば1100℃を越える高温域での焼成を用いずに、緻密で気密性およびガスバリア性の高い電解質層4が得られる。そのため、金属基板1の損傷を抑制し、また、金属基板1と電極層2との元素相互拡散を抑制することができ、性能・耐久性に優れた電気化学素子Eを実現できる。特に、低温焼成法やスプレーコーティング法などを用いると低コストな素子が実現できるので好ましい。更に、スプレーコーティング法を用いると、緻密で気密性およびガスバリア性の高い電解質層が低温域で容易に得られやすいので更に好ましい。
【0082】
電解質層4は、アノードガスやカソードガスのガスリークを遮蔽し、かつ、高いイオン伝導性を発現するために、緻密に構成される。電解質層4の緻密度は90%以上が好ましく、95%以上であるとより好ましく、98%以上であると更に好ましい。電解質層4は、均一な層である場合は、その緻密度が95%以上であると好ましく、98%以上であるとより好ましい。また、電解質層4が、複数の層状に構成されているような場合は、そのうちの少なくとも一部が、緻密度が98%以上である層(緻密電解質層)を含んでいると好ましく、99%以上である層(緻密電解質層)を含んでいるとより好ましい。このような緻密電解質層が電解質層の一部に含まれていると、電解質層が複数の層状に構成されている場合であっても、緻密で気密性およびガスバリア性の高い電解質層を形成しやすくできるからである。
【0083】
(反応防止層)
反応防止層5は、電解質層4の上に薄層の状態で形成することができる。薄層とする場合は、その厚さを、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは2μm~50μm程度、より好ましくは4μm~25μm程度とすることができる。このような厚さにすると、高価な反応防止層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な性能を確保することが可能となる。反応防止層5の材料としては、電解質層4の成分と対極電極層6の成分との間の反応を防止できる材料であれば良い。例えばセリア系材料等が用いられる。反応防止層5を電解質層4と対極電極層6との間に導入することにより、対極電極層6の構成材料と電解質層4の構成材料との反応が効果的に抑制され、電気化学素子Eの性能の長期安定性を向上できる。反応防止層5の形成は、1100℃以下の処理温度で形成できる方法を適宜用いて行うと、金属基板1の損傷を抑制し、また、金属基板1と電極層2との元素相互拡散を抑制でき、性能・耐久性に優れた電気化学素子Eを実現できるので好ましい。例えば、低温焼成法(例えば1100℃を越える高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)、スプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などを適宜用いて行うことができる。特に、低温焼成法やスプレーコーティング法などを用いると低コストな素子が実現できるので好ましい。更に、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。
【0084】
(対極電極層)
対極電極層6は、電解質層4もしくは反応防止層5の上に薄層の状態で形成することができる。薄層とする場合は、その厚さを、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは、5μm~50μmとすることができる。このような厚さにすると、高価な対極電極層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な電極性能を確保することが可能となる。対極電極層6の材料としては、例えば、LSCF、LSM等の複合酸化物、セリア系酸化物およびこれらの混合物を用いることができる。特に対極電極層6が、La、Sr、Sm、Mn、CoおよびFeからなる群から選ばれる2種類以上の元素を含有するペロブスカイト型酸化物を含むことが好ましい。以上の材料を用いて構成される対極電極層6は、カソードとして機能する。
【0085】
なお、対極電極層6の形成は、1100℃以下の処理温度で形成できる方法を適宜用いて行うと、金属基板1の損傷を抑制し、また、金属基板1と電極層2との元素相互拡散を抑制でき、性能・耐久性に優れた電気化学素子Eを実現できるので好ましい。例えば、低温焼成法(例えば1100℃を越える高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)、スプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などを適宜用いて行うことができる。特に、低温焼成法やスプレーコーティング法などを用いると低コストな素子が実現できるので好ましい。更に、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。
【0086】
(固体酸化物形燃料電池)
以上のように電気化学素子Eを構成することで、電気化学素子Eを固体酸化物形燃料電池の発電セルとして用いることができる。例えば、金属基板1の裏側の面から貫通孔1aを通じて水素を含む燃料ガスを電極層2へ供給し、電極層2の対極となる対極電極層6へ空気を供給し、例えば、600℃以上850℃以下の温度で作動させる。そうすると、対極電極層6において空気に含まれる酸素O2が電子e-と反応して酸素イオンO2-が生成される。その酸素イオンO2-が電解質層4を通って電極層2へ移動する。電極層2においては、供給された燃料ガスに含まれる水素H2が酸素イオンO2-と反応し、水H2Oと電子e-が生成される。以上の反応により、電極層2と対極電極層6との間に起電力が発生する。この場合、電極層2はSOFCの燃料極(アノード)として機能し、対極電極層6は空気極(カソード)として機能する。
【0087】
(電気化学素子の製造方法)
次に、本実施形態に係る電気化学素子Eの製造方法について説明する。
【0088】
(電極層形成ステップ)
電極層形成ステップでは、金属基板1の表側の面の貫通孔1aが設けられた領域より広い領域に電極層2が薄膜の状態で形成される。金属基板1の貫通孔はレーザー加工等によって設けることができる。電極層2の形成は、上述したように、低温焼成法(1100℃以下の低温域での焼成処理を行う湿式法)、スプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などの方法を用いることができる。いずれの方法を用いる場合であっても、金属基板1の劣化を抑制するため、1100℃以下の温度で行うことが望ましい。
【0089】
電極層形成ステップを低温焼成法で行う場合には、具体的には以下の例のように行う。まず、電極層2の材料粉末と溶媒(分散媒)とを混合して材料ペーストを作成し、金属基板1の表側の面に塗布する。そして電極層2を圧縮成形し(電極層平滑化工程)、1100℃以下で焼成する(電極層焼成工程)。電極層2の圧縮成形は、例えば、CIP(Cold Isostatic Pressing、冷間静水圧加圧)成形、ロール加圧成形、RIP(Rubber Isostatic Pressing)成形などにより行うことができる。また、電極層2の焼成は、800℃以上1100℃以下の温度で行うと好適である。また、電極層平滑化工程と電極層焼成工程の順序を入れ替えることもできる。
なお、中間層を有する電気化学素子を形成する場合では、電極層平滑化工程や電極層焼成工程を省いたり、電極層平滑化工程や電極層焼成工程を後述する中間層平滑化工程や中間層焼成工程に含めることもできる。
なお、電極層平滑化工程は、ラップ成形やレベリング処理、表面の切削・研磨処理などを施すことによって行うことでもできる。
【0090】
(拡散抑制層形成ステップ)
上述した電極層形成ステップにおける焼成工程時に、金属基板1の表面に金属酸化物層1b(拡散抑制層(被膜層))が形成される。なお、上記焼成工程に、焼成雰囲気を酸素分圧が低い雰囲気条件とする焼成工程が含まれていると元素の相互拡散抑制効果が高く、抵抗値の低い良質な金属酸化物層1b(拡散抑制層)が形成されるので好ましい。電極層形成ステップを、焼成を行わないコーティング方法とする場合を含め、別途の拡散抑制層形成ステップを含めても良い。例えば、別途の拡散抑制層形成ステップでは、金属基板1の上にCoをコーティングした後に酸化処理することで金属酸化物層1b(拡散抑制層(被膜層))が形成される。あるいは、例えば、別途の拡散抑制層形成ステップでは、金属基板1の上に形成された介在層にCoをコーティングした後に酸化処理することで金属酸化物層1b(拡散抑制層(被膜層))が形成される。
いずれにおいても、金属基板1の損傷を抑制可能な1100℃以下の処理温度で実施することが望ましい。また、後述する中間層形成ステップにおける焼成工程時に、金属基板1の表面に金属酸化物層1b(拡散抑制層)が形成されても良い。
【0091】
(中間層形成ステップ)
中間層形成ステップでは、電極層2を覆う形態で、電極層2の上に中間層3が薄層の状態で形成される。中間層3の形成は、上述したように、低温焼成法(1100℃以下の低温域での焼成処理を行う湿式法)、スプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などの方法を用いることができる。いずれの方法を用いる場合であっても、金属基板1の劣化を抑制するため、1100℃以下の温度で行うことが望ましい。
【0092】
中間層形成ステップを低温焼成法で行う場合には、具体的には以下の例のように行う。まず、中間層3の材料粉末と溶媒(分散媒)とを混合して材料ペーストを作成し、金属基板1の表側の面に塗布する。そして中間層3を圧縮成形し(中間層平滑化工程)、1100℃以下で焼成する(中間層焼成工程)。中間層3の圧延は、例えば、CIP(Cold Isostatic Pressing、冷間静水圧加圧)成形、ロール加圧成形、RIP(Rubber Isostatic Pressing)成形などにより行うことができる。また、中間層の焼成は、800℃以上1100℃以下の温度で行うと好適である。このような温度であると、金属基板1の損傷・劣化を抑制しつつ、強度の高い中間層3を形成できるためである。また、中間層3の焼成を1050℃以下で行うとより好ましく、1000℃以下で行うと更に好ましい。これは、中間層3の焼成温度を低下させる程に、金属基板1の損傷・劣化をより抑制しつつ、電気化学素子Eを形成できるからである。また、中間層平滑化工程と中間層焼成工程の順序を入れ替えることもできる。
なお、中間層平滑化工程は、ラップ成形やレベリング処理、表面の切削・研磨処理などを施すことによって行うことでもできる。
【0093】
(電解質層形成ステップ)
電解質層形成ステップでは、電極層2および中間層3を覆った状態で、電解質層4が中間層3の上に薄層の状態で形成される。また、厚さが10μm以下の薄膜の状態で形成されても良い。電解質層4の形成は、上述したように、低温焼成法(1100℃以下の低温域での焼成処理を行う湿式法)、スプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などの方法を用いることができる。いずれの方法を用いる場合であっても、金属基板1の劣化を抑制するため、1100℃以下の温度で行うことが望ましい。
【0094】
緻密で気密性およびガスバリア性能の高い、良質な電解質層4を1100℃以下の温度域で形成するためには、電解質層形成ステップをスプレーコーティング法で行うことが望ましい。その場合、電解質層4の材料を金属基板1上の中間層3に向けて噴射し、電解質層4を形成する。
【0095】
(反応防止層形成ステップ)
反応防止層形成ステップでは、反応防止層5が電解質層4の上に薄層の状態で形成される。反応防止層5の形成は、上述したように、低温焼成法、スプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などの方法を用いることができる。いずれの方法を用いる場合であっても、金属基板1の劣化を抑制するため、1100℃以下の温度で行うことが望ましい。なお反応防止層5の上側の面を平坦にするために、例えば反応防止層5の形成後にレベリング処理や表面を切削・研磨処理を施したり、湿式形成後焼成前に、プレス加工を施してもよい。
【0096】
(対極電極層形成ステップ)
対極電極層形成ステップでは、対極電極層6が反応防止層5の上に薄層の状態で形成される。対極電極層6の形成は、上述したように、低温焼成法、スプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などの方法を用いることができる。いずれの方法を用いる場合であっても、金属基板1の劣化を抑制するため、1100℃以下の温度で行うことが望ましい。
【0097】
以上の様にして、電気化学素子Eを製造することができる。なお、以上述べた電極層形成ステップおよび中間層形成ステップを行って、金属支持型電気化学素子用の電極層付基板Bを製造することができる。すなわち本実施形態に係る製造方法は、金属基板1(金属支持体)と、金属基板1の上に形成された電極層2と、電極層2の上に形成された中間層3とを有する金属支持型電気化学素子用の電極層付基板Bの製造方法であって、中間層3の表面を平滑化する中間層平滑化工程を含み、中間層3の焼成を1100℃以下で行う中間層焼成工程を含む。
【0098】
なお電気化学素子Eにおいて、中間層3と反応防止層5とは、何れか一方、あるいは両方を備えない形態とすることも可能である。すなわち、電極層2と電解質層4とが接触して形成される形態、あるいは電解質層4と対極電極層6とが接触して形成される形態も可能である。この場合に上述の製造方法では、中間層形成ステップ、反応防止層形成ステップが省略される。なお、他の層を形成するステップを追加したり、同種の層を複数積層したりすることも可能であるが、いずれの場合であっても、1100℃以下の温度で行うことが望ましい。
【0099】
<第3実施形態>
図2・
図3を用いて、本実施形態に係る電気化学素子E、電気化学モジュールM、電気化学装置YおよびエネルギーシステムZについて説明する。
【0100】
本実施形態に係る電気化学素子Eは、
図2に示すように、金属基板1の裏面にU字部材7が取り付けられており、金属基板1とU字部材7とで筒状支持体を形成している。U字部材7(セパレータ部材)には、上述の合金部材が用いられる。
【0101】
そして集電部材26を間に挟んで電気化学素子Eが複数積層されて、電気化学モジュールMが構成されている。集電部材26は、電気化学素子Eの対極電極層6と、U字部材7とに接合され、両者を電気的に接続している。集電部材26には、上述の合金部材が用いられる。
【0102】
電気化学モジュールMは、ガスマニホールド17、集電部材26、終端部材および電流引出し部を有する。複数積層された電気化学素子Eは、筒状支持体の一方の開口端部がガスマニホールド17に接続されて、ガスマニホールド17から気体の供給を受ける。供給された気体は、筒状支持体の内部を通流し、金属基板1の貫通孔1aを通って電極層2に供給される。ガスマニホールド17(マニホールド部材)には、上述の合金部材が用いられる。
なお、セパレータ部材(U字部材7)と、マニホールド部材(ガスマニホールド17)と、集電部材26との少なくともいずれかが上述の金属部材であってもよい。
【0103】
図3には、エネルギーシステムZおよび電気化学装置Yの概要が示されている。
エネルギーシステムZは、電気化学装置Yと、電気化学装置Yから排出される熱を再利用する排熱利用部としての熱交換器53とを有する。
電気化学装置Yは、電気化学モジュールMと、脱硫器31と改質器34とを有し電気化学モジュールMに対して還元性成分を含有する燃料ガスを供給する燃料供給部と、電気化学モジュールMから電力を取り出すインバータ38とを有する。
【0104】
詳しくは電気化学装置Yは、脱硫器31、改質水タンク32、気化器33、改質器34、ブロア35、燃焼部36、インバータ38、制御部39、収納容器40および電気化学モジュールMを有する。
【0105】
脱硫器31は、都市ガス等の炭化水素系の原燃料に含まれる硫黄化合物成分を除去(脱硫)する。原燃料中に硫黄化合物が含有される場合、脱硫器31を備えることにより、硫黄化合物による改質器34あるいは電気化学素子Eに対する影響を抑制することができる。気化器33は、改質水タンク32から供給される改質水から水蒸気を生成する。改質器34は、気化器33にて生成された水蒸気を用いて脱硫器31にて脱硫された原燃料を水蒸気改質して、水素を含む改質ガスを生成する。
【0106】
電気化学モジュールMは、改質器34から供給された改質ガスと、ブロア35から供給された空気とを用いて、電気化学反応させて発電する。燃焼部36は、電気化学モジュールMから排出される反応排ガスと空気とを混合させて、反応排ガス中の可燃成分を燃焼させる。
【0107】
電気化学モジュールMは、複数の電気化学素子Eとガスマニホールド17とを有する。複数の電気化学素子Eは互いに電気的に接続された状態で並列して配置され、電気化学素子Eの一方の端部(下端部)がガスマニホールド17に固定されている。電気化学素子Eは、ガスマニホールド17を通じて供給される改質ガスと、ブロア35から供給された空気とを電気化学反応させて発電する。
【0108】
インバータ38は、電気化学モジュールMの出力電力を調整して、商用系統(図示省略)から受電する電力と同じ電圧および同じ周波数にする。制御部39は電気化学装置YおよびエネルギーシステムZの運転を制御する。
【0109】
気化器33、改質器34、電気化学モジュールMおよび燃焼部36は、収納容器40内に収納される。そして改質器34は、燃焼部36での反応排ガスの燃焼により発生する燃焼熱を用いて原燃料の改質処理を行う。
【0110】
原燃料は、昇圧ポンプ41の作動により原燃料供給路42を通して脱硫器31に供給される。改質水タンク32の改質水は、改質水ポンプ43の作動により改質水供給路44を通して気化器33に供給される。そして、原燃料供給路42は脱硫器31よりも下流側の部位で、改質水供給路44に合流されており、収納容器40外にて合流された改質水と原燃料とが収納容器40内に備えられた気化器33に供給される。
【0111】
改質水は気化器33にて気化され水蒸気となる。気化器33にて生成された水蒸気を含む原燃料は、水蒸気含有原燃料供給路45を通して改質器34に供給される。改質器34にて原燃料が水蒸気改質され、水素ガスを主成分とする改質ガス(還元性成分を有する第1気体)が生成される。改質器34にて生成された改質ガスは、改質ガス供給路46を通して電気化学モジュールMのガスマニホールド17に供給される。
【0112】
ガスマニホールド17に供給された改質ガスは、複数の電気化学素子Eに対して分配され、電気化学素子Eとガスマニホールド17との接続部である下端から電気化学素子Eに供給される。改質ガス中の主に水素(還元性成分)が、電気化学素子Eにて電気化学反応に使用される。反応に用いられなかった残余の水素ガスを含む反応排ガスが、電気化学素子Eの上端から燃焼部36に排出される。
【0113】
反応排ガスは燃焼部36で燃焼され、燃焼排ガスとなって燃焼排ガス排出口50から収納容器40の外部に排出される。燃焼排ガス排出口50には燃焼触媒部51(例えば、白金系触媒)が配置され、燃焼排ガスに含有される一酸化炭素や水素等の還元性成分を燃焼除去する。燃焼排ガス排出口50から排出された燃焼排ガスは、燃焼排ガス排出路52により熱交換器53に送られる。
【0114】
熱交換器53は、燃焼部36における燃焼で生じた燃焼排ガスと、供給される冷水とを熱交換させ、温水を生成する。すなわち熱交換器53は、電気化学装置Yから排出される熱を再利用する排熱利用部として動作する。
【0115】
なお、排熱利用部の代わりに、電気化学モジュールMから(燃焼されずに)排出される反応排ガスを利用する反応排ガス利用部を設けてもよい。反応排ガスには、電気化学素子Eにて反応に用いられなかった残余の水素ガスが含まれる。反応排ガス利用部では、残余の水素ガスを利用して、燃焼による熱利用や、燃料電池等による発電が行われ、エネルギーの有効利用がなされる。
【0116】
<第4実施形態>
図4に、電気化学モジュールMの他の実施形態を示す。本実施形態に係る電気化学モジュールMは、上述の電気化学素子Eを、セル間接続部材71を間に挟んで積層することで、電気化学モジュールMを構成する。
【0117】
セル間接続部材71は、導電性を有し、かつ気体透過性を有さない板状の部材であり、表面と裏面に、互いに直交する溝72が形成されている。セル間接続部材71はステンレス等の金属や、金属酸化物を用いることができる。セル間接続部材71(インターコネクタ部材)には、上述の合金部材が用いられる。
【0118】
図4に示すように、このセル間接続部材71を間に挟んで電気化学素子Eを積層すると、溝72を通じて気体を電気化学素子Eに供給することができる。詳しくは一方の溝72が第1気体流路72aとなり、電気化学素子Eの表側、すなわち対極電極層6に気体を供給する。他方の溝72が第2気体流路72bとなり、電気化学素子Eの裏側、すなわち金属基板1の裏側の面から貫通孔1aを通じて電極層2へ気体を供給する。
【0119】
この電気化学モジュールMを燃料電池として動作させる場合は、第1気体流路72aに酸素を供給し、第2気体流路72bに水素を供給する。そうすると電気化学素子Eにて燃料電池としての反応が進行し、起電力・電流が発生する。発生した電力は、積層された電気化学素子Eの両端のセル間接続部材71から、電気化学モジュールMの外部に取り出される。
【0120】
なお、本実施形態では、セル間接続部材71の表面と裏面に、互いに直交する溝72を形成したが、セル間接続部材71の表面と裏面に、互いに並行する溝72を形成することもできる。
【0121】
(他の実施形態)(1)上記の実施形態では、電気化学素子Eを固体酸化物形燃料電池に用いたが、電気化学素子Eは、固体酸化物形電解セルや、固体酸化物を利用した酸素センサ等に利用することもできる。また、本発明の合金部材は、部材からのCr揮発の抑制が必要となる電気化学素子以外の各種装置、特に高温域で作動する各種装置に利用することもできる。
【0122】
(2)上記の実施形態では、金属基板1を支持体とする金属支持型の固体酸化物形燃料電池に用いたが、本願は、電極層2もしくは対極電極層6を支持体とする電極支持型の固体酸化物形燃料電池や電解質層4を支持体とする電解質支持型の固体酸化物形燃料電池に利用することもできる。それらの場合は、電極層2もしくは対極電極層6、または、電解質層4を必要な厚さとして、支持体としての機能が得られるようにすることができる。
【0123】
(3)上記の実施形態では、電極層2の材料として例えばNiO-GDC、Ni-GDC、NiO-YSZ、Ni-YSZ、CuO-CeO2、Cu-CeO2などの複合材を用い、対極電極層6の材料として例えばLSCF、LSM等の複合酸化物を用いた。このように構成された電気化学素子Eは、電極層2に水素ガスを供給して燃料極(アノード)とし、対極電極層6に空気を供給して空気極(カソード)とし、固体酸化物形燃料電池セルとして用いることが可能である。この構成を変更して、電極層2を空気極とし、対極電極層6を燃料極とすることが可能なように、電気化学素子Eを構成することも可能である。すなわち、電極層2の材料として例えばLSCF、LSM等の複合酸化物を用い、対極電極層6の材料として例えばNiO-GDC、Ni-GDC、NiO-YSZ、Ni-YSZ、CuO-CeO2、Cu-CeO2などの複合材を用いる。このように構成した電気化学素子Eであれば、電極層2に空気を供給して空気極とし、対極電極層6に水素ガスを供給して燃料極とし、電気化学素子Eを固体酸化物形燃料電池セルとして用いることができる。
【0124】
なお、上記の実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能である。また本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0125】
電気化学素子および固体酸化物形燃料電池セルとして利用可能である。
【符号の説明】
【0126】
1 :金属基板(金属支持体、合金部材)
1a :貫通孔
2 :電極層
3 :中間層
4 :電解質層
5 :反応防止層
6 :対極電極層
7 :U字部材(セパレータ部材、合金部材)
17 :ガスマニホールド(マニホールド部材、合金部材)
26 :集電部材(合金部材)
31 :脱硫器
32 :改質水タンク
33 :気化器
34 :改質器
35 :ブロア
36 :燃焼部
38 :インバータ
39 :制御部
40 :収納容器
41 :昇圧ポンプ
42 :原燃料供給路
43 :改質水ポンプ
44 :改質水供給路
45 :水蒸気含有原燃料供給路
46 :改質ガス供給路
50 :燃焼排ガス排出口
51 :燃焼触媒部
52 :燃焼排ガス排出路
53 :熱交換器
71 :セル間接続部材(インターコネクタ部材、合金部材)
72 :溝
72a :第1気体流路
72b :第2気体流路
E :電気化学素子
M :電気化学モジュール
Y :電気化学装置
Z :エネルギーシステム