(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】S-アレスチンペプチドおよびその治療的使用
(51)【国際特許分類】
C07K 14/705 20060101AFI20221110BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20221110BHJP
A61K 38/10 20060101ALI20221110BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20221110BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20221110BHJP
【FI】
C07K14/705 ZNA
A61P27/02
A61K38/10
A61K38/16
C12N15/12
(21)【出願番号】P 2019536212
(86)(22)【出願日】2018-01-04
(86)【国際出願番号】 IB2018050063
(87)【国際公開番号】W WO2018127830
(87)【国際公開日】2018-07-12
【審査請求日】2020-12-25
(32)【優先日】2017-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】522008539
【氏名又は名称】ウォルグ ファーマシューティカルズ (ハンジョウ) カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レイス,デヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】シュルジェース,エフェリーン
(72)【発明者】
【氏名】マーティン,キース
(72)【発明者】
【氏名】ジャンソン,リゼロット
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-542622(JP,A)
【文献】特表2016-501850(JP,A)
【文献】特表平09-511749(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0058975(US,A1)
【文献】特表2004-506921(JP,A)
【文献】特表2016-527324(JP,A)
【文献】Cellular Immunology,1996年,Vol.167 ,p.150-153
【文献】International Immunology,1996年,Vol.9, No.1 ,p.169-177
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-90
C07K
C12Q
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/CAPLUS/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原プロセシングなしに、in vitroで主要組織適合性複合体(MHC)分子に結合し、かつT細胞に対して提示されることが可能であるペプチドであって、
以下のS-アレスチン(S-Ag)ペプチドのアミノ酸配列からなる群:
KKKVIFKKISRDKSVTIYLGKKK(配列番号15)
配列番号15に対して少なくとも
90%の同一性を有するアミノ酸配列、
LTKTLTLLPLLANNRERR(配列番号25)
KKKAFVEQVANVVLKKK(配列番号34)
配列番号34に対して少なくとも
90%の同一性を有するアミノ酸配列、
KKKVIGLTFRRDLYFSRVQVYPPVGKKK(配列番号36)
配列番号36に対して少なくとも
90%の同一性を有するアミノ酸配列、
KKKGILVSYQIKVKKKK(配列番号46)、および
配列番号46に対して少なくとも
90%の同一性を有するアミノ酸配列、
から選択されるアミノ酸配列を含むか、又は
アミノ酸配列RERRGIALDGKIKHE(配列番号19)からなる、
ペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載の1種以上のペプチドを含む、複数のペプチドを含む組成物。
【請求項3】
in vivoでのS-Ag特異的T細胞の生成の抑制または阻止での使用のための、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
被験体のブドウ膜炎の治療および/または予防での使用のための、請求項2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、S-アレスチン(網膜型アレスチン、S-抗原、S-Ag)由来のペプチドを含む組成物に関する。その組成物またはペプチドは、S-Ag自己免疫の阻止および/または抑制に有用であり得、それは、ブドウ膜炎の治療および/または予防に有用である。
【背景技術】
【0002】
ブドウ膜炎とは、ブドウ膜の炎症を伴う一群の疾患を表す。ブドウ膜は、強膜と網膜との間に位置する目の領域であり、虹彩、毛様体および脈絡膜を含む。ブドウ膜は、網膜への血液供給の大部分を提供する。関連する疾患は、直接的にブドウ膜に影響を及ぼすものに限られず、網膜、視神経、水晶体、硝子体および強膜などの近接する構造が、ブドウ膜炎の発症により影響され得る。
【0003】
ブドウ膜炎のすべての形態が、一般的に顕微鏡を用いて可視化される炎症性細胞浸潤により特徴付けられる。2010年に、2億8500万人が視覚障害を有し、そのうち、3900万人が盲目であると推定され、その原因のうちの10%がブドウ膜炎によるものであると概算された(Global data on visual impairments, The World Health Report, WHO (2010) http://www.who.int/blindness/GLOBALDATAFINALforweb.pdf)。
【0004】
ブドウ膜炎に対する現行の治療は、グルココルチコイドステロイドおよびメトトレキセートなどの他の免疫抑制剤の使用を含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、当該技術分野では、ブドウ膜炎に対する代替的な治療に対する必要性がある。本発明は、この必要性に対処する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ブドウ膜炎の予防および/または治療に有用であり得る、S-Ag由来の多数のペプチドを特定した。
【0007】
つまり、第1の態様では、本発明は、以下のS-Ag由来ペプチドの全体または一部分を含むペプチドを提供する:
KKKVIFKKISRDKSVTIYLGKKK(配列番号15)
RERRGIALDGKIKHE(配列番号19)
LTKTLTLLPLLANNRERR(配列番号25)
KKKAFVEQVANVVLKKK(配列番号34)
KKKVIGLTFRRDLYFSRVQVYPPVGKKK(配列番号36)
KKKGILVSYQIKVKKKK(配列番号46)。
【0008】
好ましい態様では、ペプチドは、抗原プロセシングなしに、in vitroでMHC分子に結合し、かつT細胞上に提示されることが可能である。
【0009】
第2の態様では、本発明は、第1の態様に従う1種以上のペプチドを含む複数のペプチドを含む組成物を提供する。
【0010】
第3の態様では、in vivoでのS-Agに対して特異的なT細胞および/またはS-Ag自己抗体の産生の抑制または阻止での使用のための、第1の態様に従うペプチドまたは第2の態様に従う組成物が提供される。
【0011】
第4の態様では、被験体のブドウ膜炎の治療または予防での使用のための、第1の態様に従うペプチドまたは第2の態様に従う組成物が提供される。
【0012】
第5の態様では、本発明は、被験体でのS-Ag自己抗体の産生を抑制または阻止するための方法を提供し、該方法は、被験体に、第1の態様に従うペプチドまたは第2の態様に従う組成物を投与するステップを含む。
【0013】
第6の態様では、本発明は、被験体のブドウ膜炎を治療または予防するための方法を提供し、該方法は、被験体に、第1の態様に従うペプチドまたは第2の態様に従う組成物を投与するステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】DR3マウスでのHIP-115の免疫原性を示す図である。マウスを、尾基部で、50μgのHIP-115/CFAまたはPBS/CFAにより免疫化した。10日後に、LNおよび脾臓を回収し、10μg/mLおよび25μg/mLのHIP-115とともに培養した。72時間後に、上清を回収した。細胞活性化を、IFN-γ ELISAにより測定した。(A) LNでの免疫原性。(B) 脾臓での免疫原性。CFA:完全フロイントアジュバント;LN:リンパ節。
【
図2】HIP-115内のアピトープの特定を示す図である。(A) DR3マウスを、SAgにより免疫化し、ハイブリドーマを作製した。5×10
4個のSAg特異的ハイブリドーマ細胞を、5×10
4個の新鮮なまたは固定化された市販のAPC(VAVY)細胞と共に培養した。T細胞増殖を、48時間後に回収された上清に対するIL-2 ELISAにより測定した。グラフは、二回反復測定の平均±SEMを表す。(B) DR3マウスを、HIP-115により免疫化し、T細胞株を確立した。免疫化の10日後に、LNおよび脾臓を回収し、様々な濃度のペプチド(0.1~1~2.5および5μg/mL);2×10
6細胞/mL APC+1×10
6細胞/mL CD4 T細胞/ウェルとともに培養した。7日目に、同じ濃度のペプチドを用いて細胞を再刺激した。14日目に、APIPS試験を、市販のAPC(VAVY)を用いて行なった。24時間後、抗原誘導型T細胞活性化をIFN-γ ELISAにより測定し、IFN-γ濃度(pg/mL)として示した。グラフは、二回反復測定の平均±SEMを表す。LN:リンパ節;APC:抗原提示細胞;APIPS:抗原プロセシング非依存的提示系。
【
図3】HIP-241125内のアピトープの特定を示す図である。(A) DR3マウスを、SAgにより免疫化し、ハイブリドーマを作製した。5×10
4個のSAg特異的ハイブリドーマ細胞を、5×10
4個の新鮮なまたは固定化された市販のAPC(VAVY)細胞と共に培養した。T細胞増殖を、48時間後に回収された上清に対するIL-2 ELISAにより測定した。グラフは、二回反復測定の平均±SEMを表す。(B) DR3マウスを、HIP-241125+HIP-24DGにより免疫化し、T細胞株を確立した。免疫化の10日後に、LNおよび脾臓を回収し、様々な濃度のペプチド(0.1~1~2.5および5μg/mL);2×10
6細胞/mL APC+1×10
6細胞/mL CD4 T細胞/ウェルとともに培養した。7日目に、同じ濃度のペプチドを用いて細胞を再刺激した。14日目に、APIPS試験を、市販のAPC(VAVY)を用いて行なった。24時間後、抗原誘導型T細胞活性化をIFN-γ ELISAにより測定し、IFN-γ濃度(pg/mL)として示した。グラフは、二回反復測定の平均±SEMを表す。LN:リンパ節;APC:抗原提示細胞;APIPS:抗原プロセシング非依存的提示系。
【
図4】HIP-9FL内のアピトープの特定を示す図である。DR2マウスを、HIP-9FL-KKKにより免疫化し、T細胞株を確立した。免疫化の10日後に、LNおよび脾臓を回収し、様々な濃度のペプチド(0.1~1~2.5および5μg/mL);2×10
6細胞/mL APC+1×10
6細胞/mL CD4 T細胞/ウェルとともに培養した。7日目に、同じ濃度のペプチドを用いて細胞を再刺激した。21日目に、APIPS試験を、市販のAPC(MGAR)を用いて行なった。24時間後、抗原誘導型T細胞活性化をIFN-γ ELISAにより測定し、OD値として示した。グラフは、二回反復測定の平均±SEMを表す。LN:リンパ節;APC:抗原提示細胞;APIPS:抗原プロセシング非依存的提示系。
【
図5】HIP-17GN内のアピトープの特定を示す図である。DR3マウスを、HIP-17GNにより免疫化し、T細胞株を確立した。免疫化の10日後に、LNおよび脾臓を回収し、様々な濃度のペプチド(0.1~1~2.5および5μg/mL);2×10
6細胞/mL APC+1×10
6細胞/mL CD4 T細胞/ウェルとともに培養した。7日目に、同じ濃度のペプチドを用いて細胞を再刺激した。14日目に、APIPS試験を、市販のAPC(VAVY)を用いて行なった。24時間後、抗原誘導型T細胞活性化をIFN-γ ELISAにより測定し、OD値として示した。グラフは、三回反復測定の平均±SEMを表す。LN:リンパ節;APC:抗原提示細胞;APIPS:抗原プロセシング非依存的提示系。
【
図6】HIP-12AK内のアピトープの特定を示す図である。DR3マウスを、HIP-12AKにより免疫化し、T細胞株を確立した。免疫化の10日後に、LNおよび脾臓を回収し、様々な濃度のペプチド(0.1~1~2.5および5μg/mL);2×10
6細胞/mL APC+1×10
6細胞/mL CD4 T細胞/ウェルとともに培養した。7日目に、同じ濃度のペプチドを用いて細胞を再刺激した。14日目に、APIPS試験を、市販のAPC(VAVY)を用いて行なった。24時間後、抗原誘導型T細胞活性化をIFN-γ ELISAにより測定し、IFN-γ濃度(pg/mL)として示した。グラフは、二回反復測定の平均±SEMを表す。LN:リンパ節;APC:抗原提示細胞;APIPS:抗原プロセシング非依存的提示系。
【
図7】ex vivo寛容化プロトコールを示す図である。マウスに、-15日目、-13日目および-11日目に、0.1μg/mL、1μg/mLおよび10μg/mLのペプチドの側腹部での皮下注入、ならびにそれに続く-8日目、-6日目および-4日目での100μg/mLの3回の注入を行なった(用量漸増法)。0日目に、マウスを、SAg/CFAまたはペプチド/CFAにより、尾基部で皮下的に免疫化した。SAgまたはペプチド再刺激に際したLN細胞および脾細胞の増殖を測定するために、免疫化から10日後に、マウスを屠殺した。LN:リンパ節。
【
図8】HIP-115NE3-KKKアピトープによるex vivo寛容誘導を示す図である。DR3マウスに、-15日目、-13日目および-11日目に、0.1μg/mL、1μg/mLおよび10μg/mLのHIP-115NE3-KKKの側腹部での皮下注入、ならびにそれに続く-8日目、-6日目および-4日目での100μg/mLの3回の注入を行なった(用量漸増法)。0日目に、マウスを、HIP-115/CFAにより、尾基部で皮下的に免疫化した。SAgまたはペプチド再刺激に際したLN細胞および脾細胞の増殖を測定するために、免疫化から10日後に、マウスを屠殺した。データは、PBS処置マウス(黒色線)およびペプチド処置マウス(カラー線)についての濃度またはOD値の平均±SEMを表す。二元配置分散分析を用いて、T細胞活性化に対する全体的な治療効果を測定し、p値をグラフ中に記載した。ボンフェローニの事後検定を用い、有意差をグラフ中に示す(* p<0.05;**** p<0.0001)。LN:リンパ節。(A) LNでのSAgに対する寛容化。IFN-γ濃度(pg/mL)として表されるIFN-γ産生。(B) 脾臓でのSAgに対する寛容化。IFN-γ濃度(pg/mL)として表されるIFN-γ産生。(C) LNでのHIP-115ペプチドおよびHIP-115NE3ペプチドに対する寛容化。OD値として表されるIFN-γ産生。(D) 脾臓でのHIP-115ペプチドおよびHIP-115NE3ペプチドに対する寛容化。OD値として表されるIFN-γ産生。
【
図9】HIP-11Bアピトープによるex vivo寛容誘導を示す図である。DR3マウスに、-15日目、-13日目および-11日目に、0.1μg/mL、1μg/mLおよび10μg/mLのHIP-11Bの側腹部での皮下注入、ならびにそれに続く-8日目、-6日目および-4日目での100μg/mLの3回の注入を行なった(用量漸増法)。0日目に、マウスを、HIP-11B/CFAにより、尾基部で皮下的に免疫化した。SAgまたはペプチド再刺激に際したLN細胞および脾細胞の増殖を測定するために、免疫化から10日後に、マウスを屠殺した。データは、PBS処置マウス(黒色線)およびペプチド処置マウス(カラー線)についての濃度値の平均±SEMを表す。IFN-γ濃度(pg/mL)として表されるIFN-γ産生。二元配置分散分析を用いて、T細胞活性化に対する全体的な治療効果を測定し、p値をグラフ中に記載した。ボンフェローニの事後検定を用い、有意差をグラフ中に示す(* p<0.05;**** p<0.0001)。LN:リンパ節。(A) LNでのSAgに対する寛容化。(B) 脾臓でのSAgに対する寛容化。(C) LNでのHIP-11Bペプチドに対する寛容化。(D) 脾臓でのHIP-11Bペプチドに対する寛容化。
【
図10】HIP-24DGアピトープによるex vivo寛容誘導を示す図である。DR3マウスに、-15日目、-13日目および-11日目に、0.1μg/mL、1μg/mLおよび10μg/mLのHIP-24DGの側腹部での皮下注入、ならびにそれに続く-8日目、-6日目および-4日目での100μg/mLの3回の注入を行なった(用量漸増法)。0日目に、マウスを、HIP-24DG+HIP-24HM/CFAにより、尾基部で皮下的に免疫化した。SAgまたはペプチド再刺激に際したLN細胞および脾細胞の増殖を測定するために、免疫化から10日後に、マウスを屠殺した。データは、PBS処置マウス(黒色線)およびペプチド処置マウス(カラー線)についてのOD値の平均±SEMを表す。OD値として表されるIFN-γ産生。LN:リンパ節。二元配置分散分析を用いて、T細胞活性化に対する全体的な治療効果を測定し、p値をグラフ中に記載した。ボンフェローニの事後検定を用い、有意差をグラフ中に示す(* p<0.05;** p<0.01;*** p<0.001;**** p<0.0001)。LN:リンパ節。(A) LNでのSAgに対する寛容化。(B) LNでのHIP-24DGに対する寛容化。(C) LNでのHIP-24HM2ペプチドに対する寛容化。(D) LNでのHIP-24HM3ペプチドに対する寛容化。
【
図11-1】HIP-9K1-KKKアピトープによるex vivo寛容誘導を示す図である。DR2マウスに、-15日目、-13日目および-11日目に、0.1μg/mL、1μg/mLおよび10μg/mLのHIP-9K1-KKKの側腹部での皮下注入、ならびにそれに続く-8日目、-6日目および-4日目での100μg/mLの3回の注入を行なった(用量漸増法)。0日目に、マウスを、HIP-9FL/CFAにより、尾基部で皮下的に免疫化した。SAgまたはペプチド再刺激に際したLN細胞および脾細胞の増殖を測定するために、免疫化から10日後に、マウスを屠殺した。データは、PBS処置マウス(黒色線)およびペプチド処置マウス(カラー線)についての濃度値の平均±SEMを表す。IFN-γ濃度(pg/mL)として表されるIFN-γ産生。二元配置分散分析を用いて、T細胞活性化に対する全体的な治療効果を測定し、p値をグラフ中に記載した。ボンフェローニの事後検定を用い、有意差をグラフ中に示す(* p<0.05;**** p<0.0001)。LN:リンパ節。(A) LNでのSAgに対する寛容化。(B) LNでのHIP-9FLおよびHIP-9K1-KKKに対する寛容化。
【
図11-2】HIP-9K1-KKKアピトープによるex vivo寛容誘導を示す図である。DR2マウスに、-15日目、-13日目および-11日目に、0.1μg/mL、1μg/mLおよび10μg/mLのHIP-9K1-KKKの側腹部での皮下注入、ならびにそれに続く-8日目、-6日目および-4日目での100μg/mLの3回の注入を行なった(用量漸増法)。0日目に、マウスを、HIP-9FL/CFAにより、尾基部で皮下的に免疫化した。SAgまたはペプチド再刺激に際したLN細胞および脾細胞の増殖を測定するために、免疫化から10日後に、マウスを屠殺した。データは、PBS処置マウス(黒色線)およびペプチド処置マウス(カラー線)についての濃度値の平均±SEMを表す。IFN-γ濃度(pg/mL)として表されるIFN-γ産生。二元配置分散分析を用いて、T細胞活性化に対する全体的な治療効果を測定し、p値をグラフ中に記載した。ボンフェローニの事後検定を用い、有意差をグラフ中に示す(* p<0.05;**** p<0.0001)。LN:リンパ節。(C) 脾臓でのSAgに対する寛容化。(D) 脾臓でのHIP-9FLおよびHIP-9K1-KKKに対する寛容化。
【
図12】HIP-17GN-KKKおよびHIP-17J-KKKアピトープによるex vivo寛容誘導を示す図である。DR3マウスに、-15日目、-13日目および-11日目に、0.1μg/mL、1μg/mLおよび10μg/mLのHIP-17GN-KKKまたはHIP-17J-KKKの側腹部での皮下注入、ならびにそれに続く-8日目、-6日目および-4日目での100μg/mLの3回の注入を行なった(用量漸増法)。0日目に、マウスを、HIP-17GN/CFAにより、尾基部で皮下的に免疫化した。SAgまたはペプチド再刺激に際したLN細胞および脾細胞の増殖を測定するために、免疫化から10日後に、マウスを屠殺した。データは、PBS処置マウス(黒色線)およびペプチド処置マウス(カラー線)についてのOD値の平均±SEMを表す。脾臓でのSAgに対する寛容化。OD値として表されるIFN-γ産生。二元配置分散分析を用いて、T細胞活性化に対する全体的な治療効果を測定し、p値をグラフ中に記載した。ボンフェローニの事後検定を用い、有意差をグラフ中に示す(** p<0.01;**** p<0.0001)。
【
図13】HIP-12G1-KKKアピトープによるex vivo寛容誘導を示す図である。DR2マウスに、-15日目、-13日目および-11日目に、0.1μg/mL、1μg/mLおよび10μg/mLのHIP-12G1-KKKの側腹部での皮下注入、ならびにそれに続く-8日目、-6日目および-4日目での100μg/mLの3回の注入を行なった(用量漸増法)。0日目に、マウスを、HIP-12AK/CFAにより、尾基部で皮下的に免疫化した。SAgまたはペプチド再刺激に際したLN細胞および脾細胞の増殖を測定するために、免疫化から10日後に、マウスを屠殺した。データは、PBS処置マウス(黒色線)およびペプチド処置マウス(カラー線)についての濃度値の平均±SEMを表す。IFN-γ濃度(pg/mL)として表されるIFN-γ産生。二元配置分散分析を用いて、T細胞活性化に対する全体的な治療効果を測定し、p値をグラフ中に記載した。ボンフェローニの事後検定を用い、有意差をグラフ中に示す(** p<0.01;*** p<0.001;**** p<0.0001)。LN:リンパ節。(A) LNでのHIP-12G1-KKKおよびHIP-12G1に対する寛容化。(B) 脾臓でのHIP-12G1-KKKに対する寛容化。
【
図14】in vivo提示プロトコールを示す図である。ペプチド/CFAによりマウスを免疫化し、T細胞株を確立する。この目的で、免疫化から10日後に、LNおよび脾臓を回収し、様々な濃度のペプチド;2×10
6細胞/mL APC+1×10
6細胞/mL CD4
+細胞/ウェルとともに培養する。7日目に、新鮮なAPCおよび同じ濃度のペプチドを用いて細胞を再刺激する。14~21日後に、CD4
+細胞を、磁気ビーズ単離法によりこれらの培養物から単離する。これらのCD4
+細胞を、2時間前にペプチドをs.c.注入されたマウスの脾臓から磁気ビーズ単離法により単離されたCD11c
+(樹状)細胞と共に共培養する。対照マウスには、PBSをs.c.注入する。48時間後に、上清を回収し、サイトカイン応答(IFN-γ)を測定する。LN:リンパ節;APC:抗原提示細胞;s.c.:皮下。
【
図15】DR3マウスでのHIP-115入れ子状ペプチド群のin vivo提示を示す図である。HIP-115/CFAによりDR3マウスを免疫化し、T細胞株を確立した。この目的で、免疫化から10日後に、LNおよび脾臓を回収し、様々な濃度のペプチド(0.1~1~2.5および5μg/mL);2×10
6細胞/mL APC+1×10
6細胞/mL CD4
+細胞/ウェルとともに培養した。7日目に、新鮮なAPCおよび同じ濃度のペプチドを用いて細胞を再刺激した。14日後に、CD4
+細胞を、磁気ビーズ単離法によりこれらの培養物から単離した。これらのCD4
+細胞を、2時間前にペプチドHIP-115NE3、HIP-115NE3-KKKまたはPBSをs.c.注入されたDR3マウスの脾臓から磁気ビーズ単離法により単離されたCD11c
+(樹状)細胞と共に共培養した。48時間後に、上清を回収し、IFN-γをELISAにより測定した。データは、平均IFN-γ濃度±SEMとして表される(ダンの多重比較を用いる一元配置分散分析、* p<0.05、** p<0.01)。LN:リンパ節;APC:抗原提示細胞;s.c.:皮下。
【
図16】DR3マウスでのHIP-24入れ子状ペプチド群のin vivo提示を示す図である。HIP-241125+HIP-24DG/CFAによりDR3マウスを免疫化し、T細胞株を確立した。この目的で、免疫化から10日後に、LNおよび脾臓を回収し、様々な濃度のペプチド(0.3~1.2~3および6μg/mL);2×10
6細胞/mL APC+1×10
6細胞/mL CD4
+細胞/ウェルとともに培養した。7日目に、新鮮なAPCおよび同じ濃度のペプチドを用いて細胞を再刺激した。14日後に、CD4
+細胞を、磁気ビーズ単離法によりこれらの培養物から単離した。これらのCD4
+細胞を、2時間前にペプチドHIP-24DG、HIP-24HM2、HIP-24HM3またはPBSをs.c.注入されたDR3マウスの脾臓から磁気ビーズ単離法により単離されたCD11c
+(樹状)細胞と共に共培養した。48時間後に、上清を回収し、IFN-γをELISAにより測定した。データは、平均IFN-γ濃度±SEMとして表される(ダンの多重比較を用いる一元配置分散分析、* p<0.05)。LN:リンパ節;APC:抗原提示細胞;s.c.:皮下。
【
図17】DR2マウスでのHIP-9FL入れ子状ペプチド群のin vivo提示を示す図である。HIP-9FL-KKK/CFAによりDR2マウスを免疫化し、T細胞株を確立した。この目的で、免疫化から10日後に、LNおよび脾臓を回収し、様々な濃度のペプチド(0.1~1~2.5および5μg/mL);2×10
6細胞/mL APC+1×10
6細胞/mL CD4
+細胞/ウェルとともに培養した。7日目および14日目に、新鮮なAPCおよび同じ濃度のペプチドを用いて細胞を再刺激した。21日後に、CD4
+細胞を、磁気ビーズ単離法によりこれらの培養物から単離した。これらのCD4
+細胞を、2時間前にペプチドHIP-9K1、HIP-9K1-KKKまたはPBSをs.c.注入されたDR2マウスの脾臓から磁気ビーズ単離法により単離されたCD11c
+(樹状)細胞と共に共培養した。48時間後に、上清を回収し、IFN-γをELISAにより測定した。データは、平均IFN-γ濃度±SEMとして表される(ダンの多重比較を用いる一元配置分散分析、* p<0.05)。LN:リンパ節;APC:抗原提示細胞;s.c.:皮下。
【
図18】DR3マウスでのHIP-17GN入れ子状ペプチド群のin vivo提示を示す図である。HIP-17GN/CFAによりDR3マウスを免疫化し、T細胞株を確立した。この目的で、免疫化から10日後に、LNおよび脾臓を回収し、様々な濃度のペプチド(0.1~1~2.5および5μg/mL);2×10
6細胞/mL APC+1×10
6細胞/mL CD4
+細胞/ウェルとともに培養した。7日目に、新鮮なAPCおよび同じ濃度のペプチドを用いて細胞を再刺激した。14日後に、CD4
+細胞を、磁気ビーズ単離法によりこれらの培養物から単離した。これらのCD4
+細胞を、2時間前にペプチドHIP-17GN-KKK、HIP-17J-KKKまたはPBSをs.c.注入されたDR3マウスの脾臓から磁気ビーズ単離法により単離されたCD11c
+(樹状)細胞と共に共培養した。48時間後に、上清を回収し、IFN-γをELISAにより測定した。データは、平均IFN-γ濃度±SEMとして表される(ダンの多重比較を用いる一元配置分散分析、* p<0.05)。LN:リンパ節;APC:抗原提示細胞;s.c.:皮下。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ペプチド
用語「ペプチド」は、通常の意味で使用され、典型的には隣接するアミノ酸のα-アミノ基とカルボキシル基との間のペプチド結合によって、一連の残基、典型的にはL-アミノ酸が一方から他方へと接続されたものを意味する。この用語は、修飾型ペプチドおよび合成ペプチド類似体を含む。
【0016】
本発明のペプチドは、化学的方法を用いて製造され得る(Peptide Chemistry, A practical Textbook. Mikos Bodansky, Springer-Verlag, Berlin)。例えば、ペプチドは、固相技術(Roberge JY et al (1995) Science 269: 202-204)によって合成され、樹脂から切断され、分取高速液体クロマトグラフィー(例えば、Creighton (1983) Proteins Structures And Molecular Principles, WH Freeman and Co, New York NY)によって精製され得る。自動合成は、例えば、ABI 43 1 Aペプチドシンセサイザー(Perkin Elmer社)を用いて、製造業者によって提供される説明書に従って、達成することができる。
【0017】
ペプチドは、代わりに、組換え手段によって、またはより長いポリペプチドからの切断によって作製することができる。例えば、ペプチドは、S-抗原タンパク質からの切断によって得ることができ、この後に、一方または両方の末端の修飾を続けることができる。ペプチドの組成は、アミノ酸分析または配列決定(例えば、エドマン分解法)によって確認することができる。
【0018】
実用的な目的のために、ペプチドが示し得る様々な他の特性がある。例えば、ペプチドは、治療的に有用であるためにin vivoで十分に安定であることが重要である。in vivoでのペプチドの半減期は、少なくとも10分間、30分間、4時間、または24時間であることができる。
【0019】
ペプチドはまた、in vivoで良好なバイオアベイラビリティを示し得る。ペプチドは、相当な妨害なしに、細胞表面でMHC分子に結合することを可能にするコンホメーションをin vivoで維持し得る。
【0020】
本発明の組成物およびキットで用いられるペプチドは、以下のS-Ag由来ペプチドの全体または一部分であり得る:
IFKKISRDKSVTIYL(配列番号1)
KGKKVYVTLTCAFRY(配列番号2)
VIGLTFRRDLYFSRVQVYPPVG(配列番号3)
ESLLKKLGSNTYPFLLTFPDYLPCSVMLQPAPQDSGK(配列番号4)
SSVRLLIRKVQHAPLEM(配列番号5)
AEAAWQFFMSDKPLHLAVSLNKEIYF(配列番号6)
LTKTLTLLPLLANNRERRGIALDGKIKHEDTNLASSTIIKE(配列番号7)
IDRTVLGILVSYQIKVKLTVS(配列番号8)
NTEKTVKKIKAFVEQVANVVLYSSDYYVK(配列番号9)。
【0021】
一態様では、本発明の組成物およびキットで用いられるペプチドは、以下の表に示されるペプチドの全体または一部分であり得る:
【0022】
一態様では、ペプチドは、以下のペプチドから選択される:
KKKVIFKKISRDKSVTIYLGKKK(配列番号15)
RERRGIALDGKIKHE(配列番号19)
LTKTLTLLPLLANNRERR(配列番号25)
KKKAFVEQVANVVLKKK(配列番号34)
KKKVIGLTFRRDLYFSRVQVYPPVGKKK(配列番号36)
KKKGILVSYQIKVKKKK(配列番号46)。
【0023】
一態様では、ペプチドは、配列番号1~9のいずれか1種に対して、少なくとも25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%の配列同一性を有する。好ましい態様では、ペプチドは、配列番号1~46のいずれか1種に対して、少なくとも80%、90%、95%、97%または99%の配列同一性を有する。
【0024】
配列同一性は、いずれかの慣用の方法により評価することができる。しかしながら、配列間の配列同一性の程度を決定するためには、配列同士の多重アライメントを行なうコンピュータプログラム、例えば、Clustal W(Thompson et al., (1994) Nucleic Acids Res., 22: 4673-4680)が有用である。ALIGN(Myers et al., (1988) CABIOS, 4: 1-17)、FASTA(Pearson et al., (1988) PNAS, 85:2444-2448;Pearson (1990), Methods Enzymol., 183: 63-98)およびギャップありBLAST(Altschul et al., (1997) Nucleic Acids Res., 25: 3389-3402)などの配列の対を比較およびアライメントするプログラムもまた、この目的のために有用である。さらに、European Bioinformatics instituteのDaliサーバーは、タンパク質配列の構造に基づくアライメントを提供する(Holm (1993) J. Mol. Biol., 233: 123-38;Holm (1995) Trends Biochem. Sci., 20: 478-480;Holm (1998) Nucleic Acid Res., 26: 316-9)。
【0025】
複数配列アライメントおよび同一性パーセントは、標準的なBLASTパラメータを用いて決定することができる(利用可能なすべての生物由来の配列、マトリックスBlosum 62、ギャップコスト:existence 11、extension 1を用いて)。
【0026】
あるいは、以下のプログラムおよびパラメータを用いることができる:プログラム:Align Plus 4, version 4.10(Sci Ed Central Clone Manager Professional Suite)。DNA比較:Global comparison、Standard Linear Scoringマトリックス、ミスマッチペナルティ=2、オープンギャップペナルティ=4、伸長ギャップペナルティ=1。アミノ酸比較:Global comparison、BLOSUM 62 Scoringマトリックス。
【0027】
つまり、変異体が親の機能的活性を保持している、すなわち、変異体が機能的に等価である限り、言い換えれば、変異体が本明細書中に規定される通りの親ペプチドの活性を有するかまたは保持する限り、記載または提供される配列の変異体が、本発明の範囲に含められる。そのような変異体は、例えば、1箇所以上、例えば、1~14アミノ酸の親配列のアミノ酸置換、付加または欠失(一端または両端での切断を含む)を含む場合がある。
【0028】
1箇所以上のアミノ酸が化学的に誘導体化されている(例えば、化学基で置換されている)機能的に等価な誘導体もまた含められる。
【0029】
つまり、本発明に従う使用のためのペプチドは、配列番号1~46の一部分または断片を含むことができ、但し、ペプチドは、必要な活性を保持する。配列番号1~46の一部分または断片は、例えば、6~14残基長、例えば、6、7、8、9、10、11、12または13残基長であり得る。
【0030】
本発明のペプチドは、8~30アミノ酸、例えば、8~25アミノ酸、8~20アミノ酸、8~15アミノ酸または8~12アミノ酸を含むことができる。一態様では、本発明のペプチドは、つまり、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30アミノ酸長であり得る。
【0031】
本発明に従うペプチド組成物は、本明細書中に記載される通りの本発明に従うアミノ酸配列を含むことができる。一態様では、ペプチド組成物は、本明細書中に記載される通りの本発明に従うアミノ酸配列のみを含み、すなわち、本発明に従うもの以外の追加のペプチドを含まない。
【0032】
本発明のペプチドは、中和形態または塩形態として組成物中に製剤化することができる。製薬上許容される塩としては、酸付加塩(ペプチドの遊離アミノ基を用いて形成される)が挙げられ、例えば、塩酸塩もしくはリン酸塩などの無機酸、または酢酸、酒石酸またはリンゴ酸などの有機酸を用いて形成されるものが挙げられる。遊離カルボキシル基を用いて形成される塩はまた、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、または水酸化第二鉄などの無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジンおよびプロカインなどの有機塩基からも誘導することができる。
【0033】
アピトープ(Apitope)
適応免疫応答では、Tリンパ球は、タンパク質抗原の内部エピトープを認識することができる。APCは、タンパク質抗原を取り込み、それらを短いペプチド断片に分解する。ペプチドは、細胞内部の主要組織適合性複合体(MHC)に結合し、細胞表面に運ばれ得る。MHC分子と共に細胞表面に提示された場合、ペプチドは、T細胞によって(T細胞受容体(TCR)を介して)認識されることができ、その場合、ペプチドは、T細胞エピトープである。
【0034】
したがって、エピトープは、MHC分子のペプチド結合溝(groove)に結合し、T細胞によって認識されることが可能である、抗原から誘導可能なペプチドである。
【0035】
最小エピトープは、MHCクラスIまたはII分子のペプチド結合溝に結合し、T細胞によって認識されることが可能である、エピトープから誘導可能な最も短い断片である。所定の免疫原性領域について、エピトープとして作用する重複ペプチドの「入れ子状(nested)セット」を生成することが典型的には可能であり、それらはすべて、最小エピトープを含有するが、それらの隣接領域が異なる。
【0036】
同様に、切断型ペプチドへの応答を測定することによって、特定のMHC分子:T細胞の組み合わせについて最小エピトープを特定することが可能である。例えば、応答が、重複ライブラリーにおける残基1~15を含むペプチドに対して得られる場合、両端で切り詰められるセット(すなわち、1~14、1~13、1~12等および2~15、3~15、4~15等)を用いて最小エピトープを同定することができる。
【0037】
本発明者らは、さらなるプロセシングなしにMHC分子に結合しT細胞に提示されるペプチドの能力と、ペプチドのin vivoでの寛容性を誘導する能力との間に関連があることを以前に特定した(WO02/16410)。ペプチドが、長すぎて、さらなるプロセシング(例えば、トリミング)なしにMHC分子のペプチド結合溝に結合することができないか、または不適切なコンホメーションで結合する場合、それは、in vivoで寛容原性(tolerogenic)ではない。一方、ペプチドが、MHCペプチド結合溝に直接結合し、T細胞に提示されるのに適切なサイズおよびコンホメーションである場合、このペプチドは、寛容誘導に有用であると予測することができる。
【0038】
したがって、in vitroでさらなる抗原プロセシングなしに、MHC分子に結合し、T細胞に提示されることができるかどうかを調べることによって、ペプチドの寛容原性能力を調べることが可能である。
【0039】
S-Agアピトープ(抗原プロセシング非依存的エピトープ)は、さらなる抗原プロセシングなしに、MHCクラスII分子に結合し、S-Ag特異的T細胞からの応答を刺激することが可能である。このようなアピトープは、WO02/16410に記載のルールベースの方法に従って、S-Agに対する寛容を引き起こすことが予測できる。
【0040】
MHCクラスI分子と結合するペプチドは、典型的には7~13、より通常は8~10アミノ酸長である。ペプチドの結合は、ペプチドの主鎖、およびすべてのMHCクラスI分子のペプチド結合溝における不変部位における原子間の接触によって、その2つの末端において安定化される。ペプチドのアミノ末端およびカルボキシ末端に結合する、溝の両端における不変部位がある。ペプチド長の変動は、ペプチド骨格における、多くの場合、柔軟性を持たせるプロリンまたはグリシン残基での、ねじれによって調整される。
【0041】
MHCクラスII分子に結合するペプチドは、典型的には8~20アミノ酸長、より通常は10~17アミノ酸長であり、より長くすることができる(例えば、最大40アミノ酸)。これらのペプチドは、(MHCクラスIペプチド結合溝とは異なり)両端が開放されているMHC IIペプチド結合溝に沿って、伸長したコンホメーションを取る。ペプチドは、主に、ペプチド結合溝に並ぶ保存残基との主鎖原子接触によって、所定の位置に保持される。
【0042】
好ましい実施形態では、S-Agに由来するペプチドは、さらなるプロセシングなしにMHCクラスII分子に結合することが可能である。
【0043】
一部分(Portion)
本発明のペプチドは、配列番号1~46として示されるS-Ag由来ペプチドの全体または一部分を含み得る。
【0044】
用語「一部分」は、配列番号1~46から誘導され、かつ少なくとも最小エピトープを含有するペプチドを指し、つまり、そのペプチドは、MHCクラスII分子のペプチド結合溝に結合し、T細胞により認識されて、寛容性を誘導することが可能である。
【0045】
可溶性
可溶性は、ペプチド媒介寛容性誘導での重要な検討事項であり得る。
【0046】
本発明者らは、N末端およびC末端両方での、グリシン(G)、リジン(K)および/またはグルタミン酸(E)であり得る追加のアミノ酸の組み込みにより、可溶性が改善され得ることを見出した。
【0047】
一態様では、本発明に従うペプチドは、例えば、N末端および/またはC末端に、1個、2個または3個の追加のアミノ酸を有し得る。追加のアミノ酸は、グリシン(G)、リジン(K)および/またはグルタミン酸(E)から選択され得る。これらのアミノ酸の様々な組み合わせを、本発明に従うペプチドに追加することができる。
【0048】
例えば、本発明に従うペプチドは、N末端およびC末端の両方に、1個、2個または3個のリジン(K)残基を有し得る。
【0049】
本発明に従うペプチドは、N末端およびC末端の両方に、1個、2個または3個のグリシン(G)残基を有し得る。
【0050】
本発明に従うペプチドは、N末端およびC末端の両方に、1個、2個または3個のグルタミン酸(E)残基を有し得る。
【0051】
一態様では、本発明に従うペプチドは、N末端およびC末端の両方に、1個のグリシンおよび1個のリジン残基を有し得る。
【0052】
一態様では、本発明に従うペプチドは、N末端およびC末端の両方に、1個のグリシンおよび2個のリジン残基を有し得る。
【0053】
一態様では、本発明に従うペプチドは、N末端およびC末端の両方に、1個のグルタミン酸および1個のリジン残基を有し得る。
【0054】
一態様では、本発明に従うペプチドは、N末端およびC末端の両方に、1個のグルタミン酸および2個のリジン残基を有し得る。
【0055】
一態様では、ペプチドは、両方の末端にグリシンスペーサー、およびそれに続く、リジン(K)および/またはグルタミン酸(E)であり得る2個の追加のアミノ酸の組み合わせを、N末端およびC末端の両方に有し得る。所与の末端での考えられる組み合わせは、したがって、GKK、GKE、GEKまたはGEEであり得る。
【0056】
ペプチドは、以下の一般式を有し得る:
XXG - 親ペプチド - GXX
【0057】
一態様では、
本発明に従うペプチドは、N末端およびC末端の両方に、3個の追加のリジン(K)残基を有し得る。
【0058】
したがって、本発明に従う改変型ペプチドは、親ペプチドと比較して、6個の追加のアミノ酸(各末端に3個)を有し得る。
【0059】
本発明のペプチドは、あるいは、以下の一般式を有し得る:
KKK - 親ペプチド - KKK
KK - 親ペプチド - KK
K - 親ペプチド - K
GK - 親ペプチド - KG
GKK - 親ペプチド - KKG
EK - 親ペプチド - KE
EKK - 親ペプチド - KKE
GKE - 親ペプチド - EKG
GEK - 親ペプチド - KEG
【0060】
改変型ペプチドは、親(未改変型)ペプチドよりも可溶性であり得る。改変型ペプチドは、親ペプチドよりも、2倍、3倍、4倍、または5倍高い可溶性を有し得る。ペプチドは、最大で0.5mg/mL、1mg/mL、または5mg/mLの濃度まで可溶性であり得る。
【0061】
本発明の一態様では、ペプチドは、以下のペプチドのうちの1種の改変型であり得る:
【0062】
本明細書中で述べられる通り、本発明の改変型ペプチドは、親ペプチドと比較して、2個、4個または6個の追加のアミノ酸(各末端に1個、2個または3個)を有し得る。
【0063】
一態様では、改変は、N末端およびC末端の両方にKKKを含めることである。
【0064】
改変型ペプチドは、以下の配列を有し得る:
KKKAFVEQVANVVLKKK(配列番号34)
KKKGILVSYQIKVKKKK(配列番号46)
KKKVIGLTFRRDLYFSRVQVYPPVGKKK(配列番号36)
KKKVIFKKISRDKSVTIYLGKKK(配列番号15)。
【0065】
改変型ペプチドは、親(未改変型)ペプチドよりも可溶性であり得る。改変型ペプチドは、親ペプチドよりも、2倍、3倍、4倍、または5倍高い可溶性を有し得る。ペプチドは、最大で0.5mg/mL、1mg/mL、5mg/mLまたはそれ以上の濃度(例えば、8mg/mL)まで可溶性であり得る。一態様では、改変型ペプチドは、4mg/mLの濃度まで可溶性であり得る。
【0066】
S-アレスチン
S-アレスチン(網膜型アレスチン、S-抗原またはS-Agとしても知られる)
【0067】
S-アレスチンは、網膜および松果体で発現される可溶性光受容体タンパク質である。この分子は、光活性化された伝達カスケードの脱感作に関与することが知られ、活性化型ロドプシンに対するその結合性から最初に単離された。結晶構造から、ヒンジ領域により連結された逆平行β-シートならびにアミノ末端フォールディングの背面の短いα-ヘリックスの2種類のドメインが示される。
【0068】
光活性化形態の視覚色素ロドプシン(Rh*)は、網膜Gタンパク質であるトランスデューシンと相互作用し、それにより、トランスデューシンのαサブユニットでのGDP分子のGTPへの変換を起動する。そのGTP結合型ではトランスデューシンは、Rh*から解離し、その2個の阻害サブユニットPDEγに結合することにより、環状GMPホスホジエステラーゼ(PDE)を活性化する。結果として、内部伝達物質である環状GMPの濃度の迅速な低下が生じる。Rh*とトランスデューシンとの相互作用には約1msしかかからないので、1個のRh*が、引き続いて、数百個のトランスデューシン分子と相互作用することができる。PDEのターンオーバー数は、1秒当たり、1個のPDE当たり数千個の桁の加水分解型cGMPであり得る。つまり、光応答の制限ならびに迅速な回復のためには、多すぎるPDE分子をRh*が活性化できる前に、迅速かつ有効なRh*の除去が必須である。このRh*の不活性化は、以下の2つのステップにより完遂される:Rh*のリン酸化がトランスデューシンのヌクレオチド変換を触媒するその能力を減少させ、引き続くアレスチンのP-Rh*への結合が、トランスデューシンとのそのさらなる相互作用を完全に遮断する。
【0069】
成熟型ヒトS-Agのアミノ酸配列を、以下に示す(配列番号47):
【0070】
ブドウ膜炎
臨床的には、ブドウ膜炎は一般的に、主に罹患する目の部分に基づいて、以下のうちの1種として分類される:前部ブドウ膜炎、中間部ブドウ膜炎、後部ブドウ膜炎または汎ブドウ膜炎(panuveitis uveitis)。
【0071】
前部ブドウ膜炎は最も一般的な形態のブドウ膜炎であり、虹彩毛様体炎および虹彩炎を含む。虹彩炎は、前房および虹彩の炎症であり、虹彩毛様体炎は、毛様体内の炎症を含む。
【0072】
中間部ブドウ膜炎(扁平部炎)とは一般的に硝子体炎を意味し、硝子体腔内の細胞の炎症であり、毛様体扁平部上の炎症性物質の沈着を伴う。
【0073】
後部ブドウ膜炎(脈絡網膜炎)は、網膜および脈絡膜領域の炎症である。
【0074】
汎ブドウ膜炎(panuveitis uveitis)は、ブドウ膜のすべての層を侵す炎症を意味する一般的用語である。
【0075】
ブドウ膜炎はまた、感染性または非感染性のいずれかとして、また、先進国ではより一般的である自己免疫疾患に関連するブドウ膜炎(すなわち、主に非感染性である)として分類することもできる。ブドウ膜炎を研究するために用いられる一般的な動物モデルはまた、自己免疫によっても駆動され、二者の間の明らかな相関を示す。ブドウ膜炎のうちの25~30%が全身性自己免疫または自己炎症性疾患に関連すると予測される。
【0076】
本発明の一態様では、ブドウ膜炎は、非感染性ブドウ膜炎である。
【0077】
寛容(Tolerance)
T細胞エピトープは、自己であれまたは外来性であれ、任意の抗原に対する適応免疫応答において中心的役割を果たす。過敏性疾患(アレルギーおよび移植拒絶を含む)におけるT細胞エピトープによって果たされる中心的役割は、実験モデルの使用によって実証されている。アジュバントと組み合わせた自己抗原または合成ペプチド(T細胞エピトープの構造に基づく)の注射によって、自己免疫疾患またはアレルギー疾患を誘発することが可能である。
【0078】
対照的に、可溶性形態のペプチドエピトープを投与することにより、特定の抗原に対する免疫原性寛容を誘導することが可能であることが示されている。可溶性ペプチドの投与は、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE-多発性硬化症(MS)のためのモデル)(Metzler and Wraith (1993) Int. Immunol. 5:1159-1165;Liu and Wraith (1995) Int. Immunol. 7:1255-1263;Anderton and Wraith (1998) Eur. J. Immunol. 28:1251-1261)および関節炎、糖尿病、およびブドウ膜網膜炎の実験モデル(上記のAnderton and Wraith (1998)に概説される)において疾患を阻害する有効な手段として実証されている。これはまた、EAEにおける進行中の疾患を治療する手段として実証されている(上記のAnderton and Wraith (1998))。
【0079】
寛容とは、抗原に応答しないことである。自己抗原に対する寛容は、免疫系の重要な特徴であり、これが失われると、自己免疫疾患が生じ得る。適応免疫系は、それ自身の組織内に含まれる自己抗原の自己免疫攻撃を回避しながら、莫大な種類の感染性物質に応答する能力を維持しなければならない。これは、胸腺における高親和性Tリンパ球の負の選択によってかなりの程度まで制御される(中枢性寛容)。しかし、すべての自己抗原が胸腺で発現されるわけではなく、そのため自己応答性胸腺細胞の死は不完全なままである。したがって、寛容が末梢組織における成熟自己応答性Tリンパ球によって獲得され得るメカニズムもある(末梢性寛容)。中枢性および末梢性寛容のメカニズムの概説は、Anderton et al (1999)(Immunological Reviews 169: 123-137)に与えられる。Wraith (2016) Nature 530:422-423もまた参照されたい。
【0080】
入手可能なデータによれば、ブドウ膜炎は、S-Agをはじめとする網膜タンパク質により生成され、炎症を駆動し、かつ慢性疾患を生じさせる、自己反応性T細胞から生じ得ることが示唆される。本発明に従う組成物は、S-Agなどの自己抗原に対する寛容を誘導することが可能であり、それにより、被験体に投与される場合に、S-Agタンパク質に対する寛容を回復させ、かつ病原性免疫応答を縮小させることができる。
【0081】
組成物
本発明の組成物は、予防的または治療的使用のためのものであり得る。
【0082】
予防的使用のために投与される場合、組成物は、S-Agに対する免疫応答の発生を低減または阻止し得る。免疫応答のレベルは、患者が組成物で治療されていなかった場合に得られるであろうよりも小さい。用語「低減する」は、免疫応答における部分的低減、例えば、患者が組成物で治療されていなかった場合に観察されたであろう応答における(または同じ期間にわたって未治療の患者で観察される応答における)50%、70%、80%または90%の低減が観察されることを示す。用語「阻止する」は、S-Agに対する感知できるほどの免疫応答が観察されないことを示す。
【0083】
治療的使用のために投与される場合、組成物は、S-Agに対するすでに進行中の免疫応答を抑制し得る。用語「抑制する」は、ペプチド治療前のレベル、または治療が与えられていなかった場合に同じ時点で観察されたであろうレベルと比較した、進行中の免疫応答のレベルにおける低減を示す。
【0084】
本発明の組成物を用いる治療は、以下のいずれかまたはすべてのレベルの低減を引き起こし得る:
(i) S-Ag自己抗体
(ii) S-Agに特異的な炎症性CD4+ T細胞
(iii) S-Ag自己抗体を分泌するB細胞。
【0085】
これら要素のすべての検出は、ELISA、フローサイトメトリーなどの当技術分野で公知の技術によって実施することができる。
【0086】
本発明の組成物での治療は、さらに、または代わりに、S-Agに特異的なCD4+ T細胞においてアネルギーを引き起こし得る。アネルギーは、例えば、その後のin vitroでのS-Ag投与によって検出することができる。本発明の組成物を用いる治療は、例えば、転写因子c-MafおよびNFIL3、ならびに負の共刺激分子LAG-3、TIGIT、PD-1およびTIM-3により特徴付けられる、抗原特異的調節T細胞の生成を生じ得る(Burton et al. Nature Communications (2014) Article number 4741を参照されたい)。
【0087】
製剤
本明細書中に記載される通りの本発明に従う組成物は、液体溶液または懸濁液のいずれかとして、注射剤として調製することができ;注射前の液体における溶液または懸濁液に好適な固体形態も調製され得る。調製物はまた、乳化することができ、またはペプチドは、リポソームに封入されることができる。ペプチドは、あるいは、担体(例えば、ナノ粒子)中にカプセル化されるか、または担体の表面に結合されることができる。活性成分は、薬学的に許容され、かつ活性成分と相溶性のある添加剤と混合されることができる。好適な添加剤は、例えば、水、生理食塩水(例えば、リン酸緩衝生理食塩水)、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、およびそれらの組み合わせである。
【0088】
加えて、所望の場合、組成物は、湿潤剤または乳化剤および/またはpH緩衝剤などの少量の補助物質を含有することができる。緩衝塩としては、リン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩が挙げられる。塩酸および/または水酸化ナトリウムを、pH調整のために使用することができる。安定化のために、スクロースまたはトレハロースなどの二糖類を使用することができる。
【0089】
組成物中では、ペプチド同士の相対的比率は約1:1であり得る。あるいは、各ペプチドの相対的比率は、例えば、一方のペプチドが特定のHLA型では他方よりも良好に機能することが見出される場合には、変化し得る。
【0090】
製剤化後、組成物は、滅菌容器に組み込むことができ、次いで、密封され、低い温度、例えば4℃で保存されるか、またはそれは凍結乾燥されることができる。
【0091】
好都合に、組成物は、凍結乾燥(フリーズドライ)粉末として調製される。凍結乾燥は、安定化形態での長期保存を可能にする。凍結乾燥手順は、当技術分野において周知であり、例えばhttp://www.devicelink.com/ivdt/archive/97/01/006.htmlを参照されたい。マンニトール、デキストランまたはグリシンなどの充填剤が、一般に、凍結乾燥前に使用される。
【0092】
組成物は、経口、静脈内(水溶性の場合)、筋内、皮下、舌下、鼻内、皮内もしくは坐剤経路、または埋め込み(例えば、徐放性分子または装置を用いて)によってなどの都合の良い方法で投与することができる。
【0093】
組成物は、有利には、鼻内、皮下または皮内経路を介して投与され得る。
【0094】
本明細書中に記載される通りのペプチドまたは組成物は、典型的に、「有効量」で投与され;すなわち、とりわけ、治療的効果または予防的効果のうちのいずれか1種以上を生起するために有効な量で投与される。当業者は、慣用の実験手法により、医薬組成物に含められるべき、または所望の帰結のために投与すべき、有効な無毒の量を決定することができるであろう。一般的に、本明細書中に開示されるペプチドまたは組成物は、投与経路および受容者の身体的特性(健康状態を含む)に適合する様式で、かつ所望の作用を生起する(すなわち、治療的に有効および/または予防的)様式で、投与することができる。例えば、組成物の適切な投与量は、限定するものではないが、被験体の身体的特性(例えば、年齢、体重、性別)、および当業者により認識することができる他の因子をはじめとする様々な因子に依存し得る。例えば、組成物の適切な投与量を決定する際に考慮することができる一般的な検討事項の他の例示的な例は、Gennaro(2000, "Remington: The Science and Practice of Pharmacy", 20th edition, Lippincott, Williams, & Wilkins;およびGilman et al., (Eds), (1990), "Goodman And Gilman's: The Pharmacological Bases of Therapeutics", Pergamon Press)により議論されている。
【0095】
本発明のペプチドおよび組成物は、ヒト被験体を治療するために用いることができる。本発明に従う被験体は、ブドウ膜炎を有することができる。被験体は、S-Ag自己反応性T細胞を有し得る。
【0096】
被験体は、S-Agに対して特異的なT細胞を過剰に生成する傾向を伴うHLAハプロタイプであり得る。個体のHLAハプロタイプを決定するための方法は、当技術分野で公知である。一態様では、被験体は、以下の遺伝子から選択されるHLA遺伝子を有する:A29、B51、B27、DR8、DR4、DP5、DR4、DQA3、DR3、DR2、DR51、およびDR17(Mattapallil et al. J Immunol 2011, 187:1977-1985を参照されたい)。
【0097】
好ましい実施形態では、複数の用量が上昇濃度において患者に与えられる、「用量漸増」プロトコールに従ってもよい。このようなアプローチは、例えば、ハチ毒アレルギーに対する免疫療法適用においてホスホリパーゼA2ペプチドについて使用されてきた(Muller et al (1998) J. Allergy Clin Immunol. 101:747-754およびAkdis et al (1998) J. Clin. Invest. 102:98-106)。
【0098】
キット
S-Agに由来するペプチドは、混合組成物またはカクテルの形態で、一緒に投与することができる。しかしながら、同時、別々、連続または併用投与のために、ペプチドをキットの形態で別個に提供することが好ましい状況があり得る。
【0099】
例えば、キットは、別個の容器中に複数のペプチドを含むことができる。容器の内容物は、投与前に組み合わせることができ、または組み合わせないことができる。
【0100】
キットはまた、混合および/または投与手段を含み得る(例えば、鼻内投与のための噴霧器(vapouriser)、または皮下/皮内投与のためのシリンジおよび針または他の医療用装置)。キットはまた、使用説明書を含み得る。
【0101】
本発明の医薬組成物またはキットは、本明細書中で述べられるようなブドウ膜炎などの疾患を治療および/または予防するために用いることができる。
【0102】
特に、組成物/キットは、in vivoでS-Ag特異的CD4+ T細胞(またはS-Ag自己抗体)の産生を抑制または阻止するために使用することができる。組成物/キットは、被験体のブドウ膜炎を治療および/または予防するために使用することができる。
【0103】
in vivoペプチド提示を分析するためのモデル
本発明はまた、in vivoペプチド提示に関するモデルも包含する。本明細書の実施例に実証される通りである(例えば、
図14を参照されたい)。
【0104】
それゆえ、一態様では、本発明は、in vivoペプチド提示のex vivo測定のための方法を包含し、該方法は、以下のステップ:
(i) 該ペプチドを注入されたマウス由来のCD11c+細胞を、該ペプチドに対して特異的なCD4+細胞と共に共培養するステップ
(ii) CD4+ T細胞活性化について共培養上清を分析するか、あるいは、T細胞増殖を測定するステップ。
【0105】
CD4+ T細胞活性化および/または増殖は、MHC分子による該ペプチドの提示を示すことができる。
【0106】
一態様では、CD4+ T細胞活性化の分析は、上清中のIFN-γのレベルを評価することにより行なわれる。IFN-γのレベルを分析するための方法は当技術分野で公知であり、例えば、ELISA法である。
【0107】
一態様では、マウスはDR3tgまたはDR2tgマウスである。一態様では、マウスは、例えば、皮下注入により、約100μgのペプチドを注入されている。一態様では、CD11c+細胞は、マウスの脾臓から回収される。
【実施例】
【0108】
実施例1:S-Ag中のT細胞エピトープの特定
in silico法を用いて、S-Ag中のT細胞エピトープを含む領域を予測し、下記に記載される通りの配列番号1~9の決定に至った。
【0109】
対立遺伝子頻度の算出
対立遺伝子頻度は、対立遺伝子頻度データベース(http://www.allelefrequencies.net)から算出した。対立遺伝子頻度データベースは、様々な地理的配置および人種集団からの数千の個体の研究からなり、各研究は、1種類の特定の人種または地理的集団に焦点を当てている。分析されたコホートおよび位置の大きさは研究間で大きく異なるが、しかしながら、最も大規模な研究は、欧州および北米に由来する。一般的な世界集団(World Population)中の頻度を、被験対象者の数により重み付けされた個々の研究からの対立遺伝子頻度の平均として算出した。大規模研究への偏りを回避するために、5000名を超える研究中の被験対象者の数は、5000に設定された。このことは、領域特異的集団中の偏りを減少させることを確実にするが、世界的平均は、未だ、欧州および北米集団に向かって偏っている。算出された世界平均集団では、北米集団に対する研究は52.7%、欧州は25.3%、北東アジアは9.2%、東南アジアは5.9%、南部中央アメリカは1.7%、オセアニアは1.3%、西アジアは1.3%、サハラ以南アフリカは1.0%、南アジア0.7%、北アフリカは0.6%、オーストラリアは0.1%の重み付けを有する。
【0110】
MHC IIペプチド結合性予測
現行の技術水準のin silico予測ツールであるNetMHCIIおよびNetMHCIIpanを、最も広く存在するHLA対立遺伝子、すなわち、集団のうちの1%超で見出される対立遺伝子に関する潜在的なTヘルパー細胞エピトープの特定のために用いた。NetMHCIIおよびNetMHCIIpanは、ヒトのHLA遺伝子座によりコードされるMHCクラスII分子と、15mer以下のタンパク質との間の相互作用を予測する。これらのツールは、数千種類のペプチド-MHC相互作用測定値に基づいて開発され、所与の15merペプチドとHLA対立遺伝子とについてのIC50値を予測する。しかしながら、予測されたIC50値ではなく、%ランク値が、IEDB(www.iedb.org)により推奨される通り、MHC対立遺伝子間の予測を標準化するために用いられた。%ランク値は、無作為なヒト由来ペプチドの相互作用と比較した相互作用値の有意性を示し、すなわち、%ランク値=10とは、相互作用値が、最も強い測定された相互作用のうちの上位10%であることを意味する。ランク値が低いほど、所与のMHC分子に対するペプチド結合性の尤度が高くなる。
【0111】
本明細書では、アルゴリズムNetMHCII2-2(DPおよびDQに関して)、NetMHCIIpan-2.1を、Nielsen et al. (2010) Immunome Res 6, 9およびNielsen and Lund (2009) BMC Bioinformatics 10, 296に記載される通りに用いた。各タンパク質配列を、重複する15merペプチドへとタンパク質を分解することにより、表4中のHLA対立遺伝子のそれぞれに限定された15mer以下のMHC II結合性ペプチドについて分析した。
【0112】
リスクスコア算出
10未満のランクスコアを有して予測されたペプチドのみが、潜在的なMHC II結合分子であると考えられた。同じHLA対立遺伝子に結合することが予測され、かつ同一の予測上の結合性コアを有する様々なペプチドに関しては、最も強い予測上の結合親和性を有するペプチドのみを考慮した。
【0113】
それぞれの15mer以下のペプチドに対するスコアを、所与のペプチドに結合すると予測されるHLA分子の合計集団頻度として算出した(式1)。このスコアはリスクスコアと称されるが、しかしながら、これはそれぞれの15mer以下のペプチドに結合すると予測されるHLA分子の集団カバー率を反映しており、つまり、臨床的免疫原性を反映しない。
【0114】
【0115】
SPが位置pで開始される15merペプチドである場合、rpは、対立遺伝子aに結合する位置pから開始されるペプチドの予測上のランクスコアである。faは対立遺伝子aに関する対立遺伝子頻度であり、Tepiはペプチドを潜在的なエピトープであると考えるための結合閾値(すなわち、10%ランク)である。リスクスコアの最大値は、調査された集団のHLA対立遺伝子のカバー率に依存する。しかしながら、理論上の最大値は1であり、これは、所与の箇所に対するすべての重複する15merが、SPに対して結合すると予測される場合に達成される。
【0116】
配列番号1~9は、0.4超のリスクスコアを有すると定義される、最も強力な潜在的エピトープの評価を通して見出された。0.4のリスクスコアは、S-Agに対する平均リスク値を超える約2の標準偏差に対応する。
【0117】
実施例2:S-Agアピトープの特定
アピトープは、明らかになった領域内で特定される。
【0118】
実施例3:特定されたアピトープの可溶性
S-Ag由来の考えられるアピトープの可溶性は、目視および280nmでのUV分光光度法による濁度測定により決定される。ペプチドの可溶性は、配列のC末端およびN末端の両方でのアミノ酸「GKK」または「KKK」(または同様のアミノ酸)の付加により変更できる。好適であり得る改変は、WO2014/072958(参照により本明細書中に組み入れられる)に記載されている。
【0119】
実施例4:ex vivo寛容性アッセイ
S-Agアピトープが免疫応答を阻害する能力は、健康なHLA-DRB1*DR3マウスでex vivoで調べられる。マウスは、以下のスケジュールに従って、様々なアピトープを用いて予備処理される。
【0120】
マウスに、S-Agペプチド(100μg/注入)またはPBSを、-8日目、-6日目、-4日目に側腹部に皮下注入する(高用量スケジュール)。あるいは、マウスに、用量漸増スケジュールを用いて注入し、この場合、例えば、Xμgのペプチドを投与し、その後、10Xμg、続いて100Xμg、続いて1000Xμgを投与する。例えば、0日目に、マウスに、尾の基部に50~100μg抗原/CFA(S-Agまたは寛容原性ペプチドの生来型配列)を皮下注入することができる。免疫化の10日間後に、流入領域LNおよび脾臓を回収する。続いて、下記に記載される通りに、増殖アッセイを行なう。
【0121】
増殖アッセイ:72時間後、60μLの細胞上清を回収し、凍結させる。20μL/ウェルのトリチウム化チミジン(PerkinElmer, Zaventem, Belgium)を、続いて細胞に加え、最終濃度1μCi/ウェルとする。細胞を37℃でインキュベートし、16時間後、プレートを凍結させる。解凍したプレートを回収し、βカウンター(Wallac 1450 Microbeta Trilux Liquid Scintillation Counter)を用いて読み取り、細胞増殖を評価する。
【0122】
実施例5:S-Agアピトープの特定および分析
S-アレスチン(SAg)を、28個のさらに短いペプチドへと分割し、免疫原性領域を決定するためにスクリーニングした。in silico MHCクラスII結合性予測ツール(上記)に基づいて、数種類の免疫優勢領域が上記の通りに特定された。6種類のペプチドが、5箇所のSAg領域内でアピトープとして発見された。ペプチドの寛容化能では可溶性が重要なパラメータであるので、可溶性を評価し、必要な場合には、ペプチドのN末端およびC末端アミノ酸(すなわち、KKK)を付加することにより改善させた。ex vivo寛容性実験により、SAgおよび/または生来型ペプチドに対する寛容を誘導するペプチドの能力が確認された。さらに、in vivo環境でMHCクラスIIにより提示される能力を試験し、6種類のペプチドが、抗原提示細胞(すなわち、樹状細胞)により首尾よく捕捉されること、およびCD4+ T細胞へと提示されることが見出された。
【0123】
材料および方法
マウス
DR3tgマウスは、Charles River社(UK)またはInnoser社(Netherlands)で、特定病原体非存在条件下で外部飼育された。DR3tg系統は、元々はStraussら(Strauss et al, 1994, Immunogenetics 3, 104-108)により作製された。簡潔には、用いたゲノム構築物は、pUC13中のHLA-DRAゲノムクローンの6kb NdeI断片およびcos 4.1(DRB1*0301のB遺伝子を含むコスミド(pTCF))の24kb ClaI×SalI断片であった。1~2μg/mLの各構築物を含有する溶液を、雄C57BL/6と交配させた(C57BL/6×DBA/2)F1ドナー由来の受精卵への同時注入のために用いた。その後、子孫をIA-βノックアウトB6(マウスMHCクラスII分子発現を欠損した129S2-H2dlAb1-Ea/J)へと育種した。これらのDR3tgマウスは、HLA-DRB1*0301分子を発現するが、マウスMHC-II分子を発現しない。C57BL/6との、およびB10.Qとの戻し交配により、マウスを維持した。トランスジェニックマウスは、尾DNAをEcoRIを用いて消化し、DRA cDNAの1.35kb BamHI断片およびDRB1*0301 cDNAの1.25kb BamHI断片を用いてプローブしたサザンブロット分析により特定した。このMHCクラスII分子がブドウ膜炎疾患の発症する個体のリスク上昇に関連していることが示唆されているので、DR3tgマウスを、これらの実験のために用いた。
【0124】
DR2tgマウスは、Charles River社(UK)またはInnoser社(Netherlands)で、特定病原体非存在条件下で外部飼育された。HLA-DR2トランスジェニック(DR2tg)マウスは、元々は、Lars Fugger(Madsen et al., 1999)により取得された。簡潔には、DRα鎖およびDRβ鎖cDNAs(DRA*0101およびDRB1*1501)を、マウスMHCIIプロモーターを保持するpDOI-5発現ベクターを用いることにより発現させた。構築物を、(DBA/2×C57BL/6)F1交配由来の受精卵へと注入した。マウスを、マウスMHCクラスII分子発現を欠損しているIA-βノックアウトC57BL/6遺伝的バックグラウンド(AB0マウス)へと戻し交配した。DR2tgマウスはHLA-DRB1*1501分子を発現するが、マウスMHC分子を発現しない。
【0125】
動物研究は、ハッセルト大学の「動物実験に関する倫理委員会」(ECD)により承認され、病原体非存在施設内で、最上級のケア標準を用いて行なわれた。
【0126】
抗原
すべての単独ペプチドはSevern Biotech社(Kidderminster, UK)により合成され、DMSO(Sigma-Aldrich社)中の20mg/mLのストック溶液として-80℃で保存した。ペプチドは、N末端遊離アミンおよびC末端アミドを有して合成された。ヒトSAg(S-アレスチン)は、HEK293F細胞(QBiologicals, Eurofins Amatsigroup, Ghent, Belgium)で産生させた。
【0127】
抗原プロセシング非依存的提示系(APIPS)アッセイ
抗原特異的クローンまたはTCLを、固定細胞または非固定(新鮮)細胞(VAVYまたはMGAR)(=APC)により提示させたペプチドに対するその反応性について試験した。個々のクローン由来の5×104個の細胞を、10μg/mLペプチドおよび5×104個の固定または新鮮APCと共に培養した。TCLの場合には、5×104個の細胞を、10μg/mLおよび25μg/mLペプチドおよび2.5×104個の固定または新鮮APCと共に培養した。APCを固定するために、細胞を、室温(RT)で5分間、0.5%パラホルムアルデヒド(Merck, Darmstadt, Germany)(pH7)と共にインキュベートした。0.4Mグリシン(Sigma-Aldrich社)を添加し、RPMI-10%FCS中で細胞を洗浄することにより固定化反応を停止させた。加えて、ヒトSAgタンパク質(QBiologicals, Eurofins Amatsigroup, Ghent, Belgium)に対する反応性を、隠れたエピトープを特定するために測定した。24時間または48時間後、抗原誘導型IFN-γまたはIL-2産生(それぞれ)を、ELISA(R&D Systems, Abingdon, UK)により測定した。
【0128】
ex vivo寛容化実験
DR3tgおよびDR2tgマウスに、-15日目、-13日目および-11日目にそれぞれ0.1μg、1μgおよび10μgのペプチドを側腹部領域に皮下注入し、続いて、-8日目、-6日目および-4日目に100μgのペプチドを3回注入した(用量漸増スケジュール)。0日目に、マウスを、CFA中に乳化させた50μgの抗原(親ペプチド)(ペプチド/CFA)により尾基部に皮下的に免疫化した。免疫化から10日後、流入領域リンパ節(draining lymph nodes; 流入領域LN)および脾臓を回収した。LN細胞および脾細胞を単離し、96ウェル平底プレート中で、X-vivo 15培地(2mM L-グルタミン、50U/mLペニシリンおよび50U/mLストレプトマイシン(Lonza社)添加)中で培養した。抗原誘導型細胞増殖を調べるために、0.5×106細胞/ウェルを、様々な抗原濃度(0~25μg/mL)または12.5μg/mL精製タンパク質誘導体(PPD;プライミング対照;Statens serum institut, Copenhagen, Denmark)と共に72時間培養した(200μL/ウェル)。72時間後、上清を回収して、さらなる分析まで-80℃で保存した。上清中のIFN-γ濃度を、サイトカインELISA(R&D Systems, Abingdon, UK)により評価して、細胞活性化を測定した。
【0129】
T細胞株(TCL)の準備
DR3tgおよびDR2tgマウスを、CFA中に乳化させた50μgのペプチド(ペプチド/CFA)により尾基部に皮下的に免疫化した。免疫化から10日間後、流入領域リンパ節(LN)および脾臓を回収した。LN細胞および脾細胞を単離し、MagnisortマウスCD4単離キット(ThermoFisher Scientific社)を製造業者の説明書に従って用いて、陰性選択によりCD4+ T細胞を単離した。照射済み(3000rad)脾細胞を、抗原提示細胞(APC)として用いた。5×106個のAPC+2.5×106個のCD4+ T細胞を、0.1;1;2.5または5μg/mLのペプチドの存在下で6ウェルプレート中で、X-vivo 15培地(2mM L-グルタミン、50U/mLペニシリンおよび50U/mLストレプトマイシン(Lonza社)添加)中で培養した。4日目に、20U/mLのrIL-2(R&D Systems, Abingdon, UK)を添加した。7日目に、TCL細胞をカウントし、新鮮APC、ペプチドおよびIL-2(すべて上記と同じ濃度)と共に培養した。10日目に、20U/mLのrIL-2を添加した。14日目に、TCL培養物をそのまま用いるか、またはCD4+細胞を選別した。
【0130】
in vivo提示実験
DR3tgおよびDR2tgマウスに、100μL PBS中の100μgペプチドを、側腹部に皮下(s.c.)注入した。対照動物は、100μLのPBSのs.c.注入を受けた。2時間後、脾臓を回収し、単一細胞懸濁物を作製した。CD11cマイクロビーズを製造業者の説明書に従って用いて(Miltenyi Biotec, Bergisch Gladbach, Germany)、CD11c+細胞を陽性選択した。平均純度は92%超に到達した。5×104個のCD11c+細胞を、X-vivo 15培地(2mM L-グルタミン、50U/mLペニシリンおよび50U/mLストレプトマイシン(Lonza社)添加)中で、丸底96ウェルプレートで5×104個のCD4+細胞と一緒に共培養した。これらのCD4+細胞は、CD4マイクロビーズを製造業者の説明書に従って用いる(Miltenyi Biotec社)陽性選択により、ペプチド特異的T細胞株(上記を参照されたい)から単離した。48時間後、これらの共培養物の上清を回収し、CD4+ T細胞活性化を、IFN-γ ELISA(R&D Systems, Abingdon, UK)により分析した。並行実験では、in vitroで添加されたペプチドに対するCD4+ T細胞応答を評価して、T細胞がCD11c+細胞により提示されたペプチドを認識することを確認した。
【0131】
結果
結果および考察
1. SAg内のT細胞エピトープの特定
SAg中のT細胞エピトープを含有する領域を予測するためにin silico法を用いて、上述の通りに配列番号1~9の決定に至った。
【0132】
動物実験を、予測を確認するために行なった。SAg(またはその断片)により免疫化されたマウスを、全長タンパク質またはその一部を用いてプローブされる場合に免疫応答を生起するその能力について試験した。そのような断片のうちの1種を
図1に示し、ここでは、ペプチドHIP-115によって以前に免疫化されたマウスがそれに対する免疫応答を生じるが、対照マウスは生じない(黒色)ことが見て取れる。この応答は、二次リンパ器官、すなわち脾臓(
図1A)およびリンパ節(LN;
図1B)で観察できる。
【0133】
2. 免疫原性断片内のアピトープの特定
アピトープ(抗原プロセシング非依存的エピトープ(Antigen Processing-Independent epiTOPES)は、さらなる抗原プロセシングなしに、MHC分子に結合し、かつSAg特異的T細胞からの応答を刺激することができる。そのようなアピトープは、WO02/16410に記載されるルールベースの方法に従って、SAgに対する寛容を引き起こすことが予測できる。
図2~6は、免疫原性であることがこれまでに特定された配列内のアピトープの特定を示す。
【0134】
図2は、HIP-115領域(配列番号1)に焦点を当てている。ハイブリドーマクローン(
図2A)およびT細胞株(
図2B)の両方の、新鮮または固定された抗原提示細胞(APC)により捕捉されて提示されたペプチドに対して応答する能力は、HIP-115、HIP-115NE、HIP-115NE1、HIP-115NE2、HIP-115NE3およびHIP-115NE3-KKKがアピトープとして振る舞うことを示す。
【0135】
図3は、HIP-241125領域(配列番号7)に焦点を当てている。この場合には、異なるアピトープが、ハイブリドーマ(
図3A)またはT細胞株(
図3B)を用いてペプチドに対する応答が評価されたか否かに応じて特定された。HIP-11AC、HIP-11AC1およびHIP-11Bはアピトープとして振る舞い(
図3A)、したがって、HIP-24DG、HIP-24HM、HIP-24HM2、HIP-24HM3およびHIP-241125自体がアピトープとして振る舞う。
【0136】
図4は、HIP-9FL領域(配列番号9)に焦点を当てている。ペプチドHIP-9FL、HIP-9FL-KKKおよびHIP-9K1-KKKは、アピトープとして振る舞う。
【0137】
図5は、HIP-17GN領域(配列番号3)に焦点を当てている。ペプチドHIP-17GN、HIP-17GN-KKK、HIP-17J、HIP-17J-KKKおよびHIP-17K1-KKKは、アピトープとして振る舞う。
【0138】
図6は、HIP-12AK領域(配列番号8)に焦点を当てている。ペプチドHIP-12G1、HIP-12G1-KKKおよびHIP-12E-KKKは、アピトープとして振る舞う。
【0139】
3. 単一ペプチドによるT細胞寛容性誘導
SAgの特定された領域であるHIP-115NE3-KKK(
図8)、HIP-11B(
図9)、HIP-24DG(
図10)、HIP-9K1-KKK(
図11)、HIP-17GN-KKK(
図12)およびHIP-12G1-KKK(
図13)に由来する単一ペプチドの寛容原性作用を判定するために、ペプチドのうちの1種類をそれぞれ用いて、用量漸増スケジュール(
図7)に従って、トランスジェニックマウスを処置した。
【0140】
これらのペプチドのうちの数種類に関して、親ペプチドは不溶性であり、可溶性は、それらが寛容原性ペプチドとして機能するために重要なパラメータである。数種類の末端改変を用いることができ、本明細書中で用いた例としては、元のペプチド配列の前後への3個のリジンの付加(「KKK」バージョンと表される)により改良した。
【0141】
図8は、ペプチドHIP-115NE3の可溶型(HIP-115NE3-KKK)が、LN(
図8A)および脾臓(
図8B)でSAgに対する寛容性をいかにして誘導することができるのかを示し、最も高用量のSAgをプローブに用いた場合には、SAgに対する応答の70%の低減に達した。さらに、HIP-115NE3-KKKは、LN(
図8C)および脾臓(
図8D)でHIP-115ペプチドおよびHIP-115NE3ペプチドに対する寛容性を誘導し;最高濃度のプローブペプチドではそれぞれ応答が55%および65%低減された。
【0142】
図9は、LN(
図9A)および脾臓(
図9B)でSAgに対してペプチドHIP-11Bにより誘導される寛容化、特にLN(
図9C)および脾臓(
図9D)でのHIP-11B自体に対する寛容化を示す。
【0143】
図10は、LN(
図10A)でSAgに対してペプチドHIP-24DGにより誘導される寛容化を示す。HIP-24DG自体(
図10B)、および同じ領域内の他のペプチド、すなわち、HIP-24HM2(
図10C)およびHIP-24HM3(
図10D)に対する幾分かの寛容化が見られ、すべての結果はLNに関して示されている。
【0144】
図11は、SAgに対するLNでのペプチドHIP-9K1-KKKにより誘導される寛容化を示す(
図11A)。HIP-9FLおよびHIP-9K1-KKK(
図11B)。寛容性はまた、脾臓では、SAg(
図11C)およびHIP-9K1-KKK自体(
図11D)に対しても誘導される。
【0145】
図12は、脾臓でのSAgに対するペプチドHIP-17GN-KKKおよびHIP-17J-KKKにより誘導される寛容化を示す。
【0146】
図13は、LN(
図13A)および脾臓(
図13B)でのそれ自体に対するペプチドHIP-12G1-KKKより誘導される寛容化を示す。
【0147】
4. 単一ペプチドのin vivo提示
APC上に存在するMHCクラスII分子に結合するそれらの能力を評価するために、ペプチドをさらに調べた。
図14は、そのような実験についての実験設計を示し、詳細な情報は材料および方法の節に見出すことができる。可溶性は、本試験でも同様に重要なパラメータであることに留意されたい。
【0148】
図15では、HIP-115NE3(不溶性ペプチド)およびその可溶性バージョンであるHIP-115NE3-KKKが、in vivo条件下(DR3tgマウス)での皮下注入に際して樹状細胞(DC)上に存在するMHC II分子により捕捉および提示される能力を比較した。グラフに示される通り、HIP-115NE3-KKKはin situでDC上のMHC IIに結合し、DC細胞単離後にペプチド特異的T細胞に対して提示される。T細胞活性応答は、IFN-γの産生により測定した。それと比較して、不溶性ペプチドは、この活性化を引き起こすことができず、このことは、可溶性が寛容原性ペプチドにとって重要な特性であることを示す。
【0149】
図16では、HIP-24DG、HIP-24HM2およびHIP-24HM3ペプチド(いずれも可溶性)が、in vivo条件下(DR3tgマウス)での皮下注入に際して樹状細胞(DC)上に存在するMHC II分子により捕捉および提示される能力を比較した。グラフに示される通り、HIP-24HM3は、DCによりT細胞に対して提示され、T細胞は活性化されてIFN-γを産生する。
【0150】
図17では、HIP-9K1(不溶性ペプチド)およびその可溶性バージョンであるHIP-9K1-KKKが、in vivo条件下(DR2tgマウス)での皮下注入に際して樹状細胞(DC)上に存在するMHC II分子により捕捉および提示される能力を比較した。グラフに示される通り、HIP-9K1-KKKは、DCによりT細胞に対して提示され、T細胞は活性化されてIFN-γを産生する。それと比較して、不溶性ペプチドは、この活性化を引き起こすことができなかった。
【0151】
図18では、HIP-17GN-KKKおよびHIP-17J-KKKが、in vivo条件下(DR3tgマウス)での皮下注入に際して樹状細胞(DC)上に存在するMHC II分子により捕捉および提示される能力を比較した。グラフに示される通り、HIP-17J-KKKは、DCによりT細胞に対して提示され、T細胞は活性化されてIFN-γを産生する。ある程度の活性化が、HIP-17J-KKKに関しても見られる。
【0152】
5. 結論
本発明者らは、in silicoで特定された領域を評価し、該領域中に位置する短い配列(ペプチド)の機能的な例を提示する。実施例に示される7種類のペプチドはすべて、配列番号1、3、7、8および9の配列内に含められ、SAgまたはその断片に対する寛容性を誘導する能力を示す。特に、本発明者らは、3種類の試験を用いた:APIPS、in vivo提示試験およびin vivo寛容性誘導。6種類のペプチドすべてが、(i) アピトープ(すなわち、抗原プロセシング非依存的エピトープ)として機能し、(ii) ex vivoで樹状細胞上に存在するMHCII分子によりペプチド特異的T細胞に対して提示されることができ、かつ(ii) 用量漸増法の処置を用いて投与される場合に、SAgまたはその断片に対する寛容性を誘導することができる。
【0153】
上記で言及したすべての刊行物は、参照により本明細書中に組み入れられる。本発明の記載された方法および使用の様々な改変および変法が、本発明の精神から逸脱することなく、当業者には明らかであろう。本発明を、具体的な好ましい実施形態との関連で説明してきたが、特許請求される発明は、そのような具体的な実施形態に過度に限定されるべきではないことが理解されるはずである。実際に、分子生物学、免疫学または関連する分野の当業者には明白である本発明を実施するための記載された様式の様々な改変は、以下の特許請求の範囲の範囲内に入ることが意図される。
本発明は以下の態様も提供する。
[1] 以下のS-アレスチン(S-Ag)ペプチドの全体または一部分を含むペプチド:
KKKVIFKKISRDKSVTIYLGKKK(配列番号15)
RERRGIALDGKIKHE(配列番号19)
LTKTLTLLPLLANNRERR(配列番号25)
KKKAFVEQVANVVLKKK(配列番号34)
KKKVIGLTFRRDLYFSRVQVYPPVGKKK(配列番号36)
KKKGILVSYQIKVKKKK(配列番号46)。
[2] 抗原プロセシングなしに、in vitroでMHC分子に結合し、かつT細胞に対して提示されることが可能である、[1]に記載のペプチド。
[3] [1]または[2]に記載の1種以上のペプチドを含む、複数のペプチドを含む組成物。
[4] in vivoでのS-Ag特異的T細胞の生成の抑制または阻止での使用のための、[1]もしくは[2]に記載のペプチド、または[3]に記載の組成物。
[5] 被験体のブドウ膜炎の治療および/または予防での使用のための、[1]もしくは[2]に記載のペプチド、または[3]に記載の組成物。
[6] in vivoでのS-Ag特異的T細胞の生成を抑制または阻止するための医薬の製造における、[1]もしくは[2]に記載のペプチド、または[3]に記載の組成物の使用。
[7] 被験体のブドウ膜炎の治療および/または予防での使用のための医薬の製造での、[1]もしくは[2]に記載のペプチド、または[3]に記載の組成物の使用。
[8] [1]もしくは[2]に記載のペプチド、または[3]に記載の組成物を被験体に投与するステップを含む、被験体でのS-Ag特異的T細胞の生成を抑制または阻止するための方法。
[9] [1]もしくは[2]に記載のペプチド、または[3]に記載の組成物を被験体に投与するステップを含む、被験体のブドウ膜炎を治療または予防するための方法。
【配列表】