(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】ポリ(2-ヒドロキシアルカン酸)およびその製造法
(51)【国際特許分類】
C08G 63/08 20060101AFI20221110BHJP
C08G 63/78 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
C08G63/08
C08G63/78 ZBP
(21)【出願番号】P 2017158614
(22)【出願日】2017-08-21
(62)【分割の表示】P 2015526982の分割
【原出願日】2013-08-14
【審査請求日】2017-09-19
【審判番号】
【審判請求日】2020-03-09
(32)【優先日】2012-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2012-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504421730
【氏名又は名称】ピュラック バイオケム ビー. ブイ.
(73)【特許権者】
【識別番号】521326108
【氏名又は名称】スルツァー マネージメント エージー
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【氏名又は名称】村上 博司
(72)【発明者】
【氏名】シエベ コルネリス デ ヴォス
(72)【発明者】
【氏名】ゲリット ゴビウス ドゥ サルト
(72)【発明者】
【氏名】ロベルト イェドガー ハーン
(72)【発明者】
【氏名】フランソワ ロビアト
【合議体】
【審判長】細井 龍史
【審判官】杉江 渉
【審判官】土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-143239(JP,A)
【文献】特開平08-301993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00 - 63/91
C08L 67/00 - 67/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
20000~500000g/モルの範囲の、ポリスチレン基準に対する数平均分子量(Mn)を有するポリ
乳酸であって、
対応するポリマーにおける
ラクチド、すなわち乳酸の環状ジエステル
、の濃度が0.5重量%未満であり、及び
250℃で1時間の間における液相での前記ポリ
乳酸の重量の減少が、窒素雰囲気下での熱重量測定分析によって測定される場合に2重量%未満である、
上記ポリ
乳酸。
【請求項2】
該重量の減少が1.5重量%未満である、請求項1に記載のポリ
乳酸。
【請求項3】
対応するポリマーにおける
ラクチド、すなわち乳酸の環状ジエステル
、の濃度が0.3重量%未満であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリ
乳酸。
【請求項4】
5~1000ppmの範囲の量のリンを含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリ
乳酸。
【請求項5】
10~500ppmの範囲の量のリンを含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリ
乳酸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ(2-ヒドロキシアルカン酸)を製造する方法に関し、上記方法は、2-ヒドロキシアルカン酸の環状ジエステルおよび重合触媒を混合する工程、上記環状ジエステルを重合してポリ(2-ヒドロキシアルカン酸)を液相中に形成する工程、リン酸エステルを触媒不活性化剤として上記液相に添加する工程、上記液相に脱揮(devolatilization)工程を適用する工程、および上記ポリ(2-ヒドロキシアルカン酸)を固化させる工程を含む。本発明はまた、この方法によって得られ得るポリ(2-ヒドロキシアルカン酸)に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ(2-ヒドロキシアルカン酸)は、現在多くの関心を集めるポリマー化合物の類を構成する。そのようなポリマー化合物の例は、ポリグリコリド、ポリ(ε-カプロラクトン)およびポリ(ヒドロキシブチレート)、ならびにそれらのコポリマーである。しかし、今日、最も注目されているのはポリラクチドである。ポリラクチドは、ポリ乳酸とも呼ばれ、PLAと略称される。このポリマーは、脂肪族ポリエステルであり、再生可能源から製造され得る。この製造は、澱粉または糖の乳酸への発酵を含む。PLAは通常、乳酸(ラクテートモノマー)を直接重縮合することにより、またはラクチド(環状ラクテート二量体)の開環重合(ROP)により、合成される。高分子量ポリマーは通常、ラクチドを使用する第二の方法によって製造される。そのようなラクチドは、適する触媒の存在下での閉環反応の結果としてのPLAオリゴマーの解重合によって非常にしばしば得られる。精製後、ラクチドが、開環重合反応によって、制御された分子量のPLAに重合され得る。
【0003】
最初の段落において言及された型の方法は、そのようなものとして知られている。例えば、米国特許第5770682号明細書は、スズオクトエートなどの触媒の存在下でのラクチドの開環重合によるポリ乳酸(PLA)の製造法を記載している。160℃の適用された反応温度下で、ラクチドおよび形成されたPLAは共に溶融状態にある。反応終了後、リン酸エステルが触媒不活性化剤として添加される。形成されたPLAは次いで、二軸押出機に移され、そこで残りのラクチドが、圧力を低下させることにより除去される。このようにして、180.000超のMWおよび3重量%未満のラクチド含量を有するPLAが、洗練されたやり方で製造され得る。このPLAはさらに、変色をほとんどまたは全く示さない。
【0004】
本出願人の見解では、上記公知方法は改善され得る。これは、特に、上記公知方法において上記形成されたPLAの溶融安定性(melt stability)が最適でないことが分かったので、当てはまる。特に、脱揮工程後にかなりの量のラクチドが液相中のPLAから「バックバイティング(back-biting)」と呼ばれるプロセスによって再形成されることが分かった。このプロセスは、PLA最終生成物に関して不利である。第一に、それは、脱揮工程後の製造されたPLAのMWを低下させる。第二に、それはまた、最終PLA生成物におけるラクチド濃度を増加させる。上記増加は、ラクチドの可塑効果および製造装置上でのラクチドのありうる沈着故に望ましくない。最後に、上記公知方法によって製造されたPLAは、わずかに黄変する場合があり、これも望ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、特に、上記公知方法を改善することである。特に、本発明は、脱揮工程後の形成されたポリマーの溶融安定性の増加を目的とする。本発明はさらに、変色におけるありうる更なる低下を目指す。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のこれらおよびありうる他の目的は、2-ヒドロキシアルカン酸の環状ジエステルおよび重合触媒を混合する工程、上記環状ジエステルを重合してポリ(2-ヒドロキシアルカン酸)を液相中に形成する工程、リン酸エステルを触媒不活性化剤として上記液相に添加する工程、上記液相に脱揮工程を適用する工程、および上記ポリ(2-ヒドロキシアルカン酸)を固化させる工程を含む、ポリ(2-ヒドロキシアルカン酸)を製造する方法によって達成される。上記方法は、本発明に従えば、触媒不活性化剤が、脱揮工程が適用された後に添加されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明者らは、脱揮工程後にリン酸エステル触媒不活性化剤を添加することが、上記公知の重合法を種々の点で改善することを見出した。第一に、脱揮工程直後の製造されたポリマーのMWの低下が有意に減少される。第二に、重合された最終生成物における環状ジエステルの量が、触媒不活性化剤が脱揮工程の前に添加されるところの公知方法と比較して、より少ないことが認められた。第三に、本発明者らはまた、製造されたポリマーの変色が、本発明方法によって製造されると、より少ないことが認められた。本発明に従う方法は、環状ジエステルおよびその対応するポリマーの濃度が、脱揮工程の直前の液相において熱力学平衡にあるならば、最適に機能する。また、不活性化剤は、液相中のポリマーが固化される前に液相に添加され、そして液相と混合される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明に従う方法を行うための装置の模式図を示す。
【
図2】
図2は、本発明に従う方法を行うための別の装置の模式図を示す。
【
図3】
図3は、第二シリーズの実験のデータを示す表1である。
【
図4】
図4は、第三シリーズの実験のデータを示す表2である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において使用されるリン酸エステルは、単一の化合物に制限されず、原則として、オルトリン酸のモノエステル、ジエステルまたはトリエステル、または部分的にまたは完全にエステル化された形態のポリリン酸であり得る。これらの種々のリン酸エステル化合物の混合物が、同様に使用され得る。また、重合は、原則として、溶液重合でまたは溶融重合で行われ得る。それらのうち、溶融重合が、溶媒および溶媒の回収の必要がない故に好ましい。
【0011】
本発明の実施において、リン酸エステルによって不活性化され得る限り、環状ジエステルをその対応するポリマー形状に重合できる任意の触媒が使用され得る。本発明での使用に適する触媒は、環状ジエステルの重合のために周知のもの、例えば、1より多くの安定な酸化状態を有する金属イオンを含有する金属配位化合物である。この種の触媒のうち、スズ含有化合物が好ましく、その中で、スズオクトエートが最も好ましい触媒である。環状ジエステルは、触媒と混合するとき、固相であり得る。しかし、環状ジエステルを溶融された相にし、その後に触媒を添加することが好ましい。
【0012】
脱揮工程が行われるとき、低下された分圧が溶融物にかけられる。これは、減圧および/またはパージ流(例えば窒素ガスのパージ流)を適用することにより達成され得る。
【0013】
本発明方法の興味深い実施態様は、上記リン酸エステルが、アルカン酸ホスフェート化合物を含むことを特徴とする。この種の化合物は一般に腐食性でなく、また取り扱いが容易である。これは、ステアリン酸ホスフェート化合物の形態のアルカン酸ホスフェート化合物の場合に特に当てはまる。特に興味深いのは、上記ステアリン酸ホスフェート化合物が、モノステアリン酸ホスフェートとジステアリン酸ホスフェートとの混合物であることを特徴とする本発明に従う方法の実施態様である。そのようなステアリン酸ホスフェート混合物は、フレークとして市販されている。これらの化合物は、それらの溶融範囲より上に加熱することによって容易に液体状に転化され得、ここで、それらは長い時間にわたって安定なままであり得る。この液体状態では、厳密な量の触媒不活性化剤が、正確なやり方で液体ポリマーに添加され得る。
【0014】
添加される触媒不活性化剤の量は典型的には、プロセス流の総重量に対して0.02~0.4重量%の範囲である。0.02重量%未満であると、重合反応が終了まで進行することができない。0.4重量%を超えると、追加の不活性化効果がもはや認められない。したがって、0.4重量%超の添加は、触媒不活性化剤の浪費を招く。両方の欠点をできるだけ回避するために、0.05~0.2重量%の範囲の量の触媒不活性化剤を使用することが好ましい。最も好ましくは、プロセス流の総重量に対して約0.1重量%の添加量の触媒不活性化剤である。
【0015】
本発明方法の別の実施態様は、環状ジエステルがラクチドであることを特徴とする。上記方法は、この環状ジエステルのポリマーに限定されず、コポリマーが同様に形成され得るが、本発明方法におけるラクチドの使用は、良好に機能すると思われる。すなわち、このようにして製造されたPLAは、比較的高い溶融安定性を、低いラクチド含量および少ない着色とともに示す。
【0016】
ラクチドが、ジアステレオマーの関係を有する3つの異なる幾何学構造で存在し得ることは周知である。これらの異なる構造は、R,R-ラクチド(またはD-ラクチド)、S,S-ラクチド(またはL-ラクチド)およびR,S-ラクチド(またはメソラクチド)として区別され得る。D-ラクチドとL-ラクチドの等量の混合物はしばしば、ラセミラクチドまたはrac-ラクチドと呼ばれる。本発明の範囲内で、上記3つの純粋なラクチド(ただ1つのジアステレオマーから構成される)および上記純粋なラクチドの2以上の混合物の両方が使用され得る。ラクチドは、その製造および精製の直後に、例えば乳酸の解重合されたプレポリマーから、液体状態で添加され得る。ラクチドはまた、粉末またはフレークなどの固体形状で保持されるところの貯蔵所から添加され得る。
【0017】
エンドキャッピング剤(end-capping agent)が液相におけるポリ(2-ヒドロキシアルカン酸)に添加されることを特徴とする本発明の実施態様に多くの注意が向けられている。本発明者らは、エンドキャッピング剤の添加が、製造されたポリ(2-ヒドロキシアルカン酸)の溶融安定性を有意に増加させること見出した。これは、ポリマーがポリラクチドの場合に特にそうである。理論に何ら縛られずに、本発明者らは、上記エンドキャッピング剤が、形成されたポリマーのヒドロキシル末端基と反応すると考える。これらの反応したエンドキャッピング剤の存在は、いわゆる「バックバイティング」機構による、形成されたポリラクチドの解重合によって引き起こされるラクチド形成の速度を低下させると思われる。この機構によって液相中のポリマーにおいて形成されるラクチド量は、ポリマーが高温処理に付されるときに、特に上記処理が減圧下で行われるときに、許容されないほど大きくなり得る。エンドキャッピング剤は重合および解重合の両方を停止するので、上記剤は好ましくは、ラクチドのポリラクチドへの重合の終わりに、すなわち典型的には少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも97%のラクチドがポリラクチドに転化されたときに、添加される。実際には、この%は、液相の所与の温度での熱力学平衡によって決定される。
【0018】
ポリマーの溶融安定性の目的とする改善は、エンドキャッピング剤および触媒不活性化剤の両方が、液相におけるポリマーに添加されるときに特に得られると思われる。エンドキャッピング剤のみのまたは触媒不活性化剤のみの添加は、両方の剤が添加される状況と比較して、ポリマー溶融安定性の同様の高い増加をもたらさない。
【0019】
原則として、種々のヒドロキシル結合性エンドキャッピング剤が使用され得る。第一の興味深い種類のエンドキャッピング剤は、イソシアネートおよびジイソシアネートの類である。別の興味深い種類のエンドキャッピング剤は、エポキシドおよびビスエポキシドの類である。これらの種類の化合物は原則として、本発明方法においてエンドキャッピング剤としての使用に適する。
【0020】
本発明方法の興味深い実施態様は、エンドキャッピング剤および不活性化剤が、液相中のポリ(2-ヒドロキシアルカン酸)に、重合の異なる段階で添加されることを特徴とする。本発明者らは、この処置が、エンドキャッピング剤および不活性化剤の一部が互いに相互作用しそして反応すらし得る可能性をかなり排除すると考える。そのような相互作用および/または反応は、一方または両方の剤の作用を不活性化し、それは不利であると考えられる。したがって、上記両方の剤を、液相中の形成されたポリ(2-ヒドロキシアルカン酸)に重合プロセスの異なる段階で添加することは、この欠点を克服するための有効な処理であることが分かる。本発明者らは、好ましくは不活性化剤の前にエンドキャッピング剤が添加されるときに本発明方法がより良好に作用することを示すことができた。本発明において、脱揮工程が適用される前にエンドキャッピング剤が反応混合物に添加され、触媒不活性化剤は脱揮工程の後に添加されるのが好ましい。
【0021】
バッチ式重合法では、表現「重合プロセスの異なる段階」が、異なる時点を意味する。しかし、連続法では、表現「重合プロセスの異なる段階」は、反応混合物の液相流がそれに沿って導かれるところの重合装置の異なる位置を意味する。
【0022】
また、有利なのは、エンドキャッピング剤が無水物であることを特徴とする本発明方法の実施態様である。無水物の種類から選択されるエンドキャッピング剤を使用することは、ポリマー物質との反応において最少の副生物を示すので、有利である。さらに、本発明方法における無水物の反応性が、(ビス)イソシアネートおよび(ビス)エポキシドの反応性よりも良好であることが認められる。イソシアネート化学は一般に、使用される高温重合条件下でかなりの副反応が生じるという欠点を有し、エポキシドは、ヒドロキシル末端基よりも速くカルボキシル酸末端基と反応する。無水物化合物は、二無水物および多無水物を同様に包含することが強調される。
【0023】
本発明方法の更なる興味深い実施態様は、無水物がフタル酸無水物であることを特徴とする。本発明方法においてこの化合物がエンドキャッピング剤として使用されるときに、良好な結果が得られる。この化合物が、液相中のポリ(ヒドロキシアルカン酸)に添加されると、形成されたポリマー鎖のヒドロキシル末端基が芳香族カルボン酸末端基に転化される。
【0024】
本発明に従う方法の別の興味深い実施態様は、無水物が酢酸無水物であるという特徴を有する。この化合物が、液相中のPLAまたは別のポリ(ヒドロキシアルカン酸)に添加されると、形成されたポリマー鎖のヒドロキシル末端基が、メチル末端基に転化される。酢酸無水物をエンドキャッピング剤として使用することが、フタル酸無水物の使用よりも好ましい。後者の化合物は、酢酸無水物と比較して、かなり高い分子量を有する。したがって、酢酸無水物を使用する場合には、より少ない物質が添加され、そして液相中のポリマーと混合されればよい。
【0025】
無水物がコハク酸無水物であるという特徴を有する本発明方法の実施態様において、非常に特別の興味が存在する。この化合物が液相中のPLAまたは別のポリ(2-ヒドロキシアルカン酸)に添加されると、形成されたポリマー鎖のヒドロキシル末端基が、脂肪族カルボン酸末端基に転化される。コハク酸無水物をエンドキャッピング剤として使用することは、フタル酸無水物の使用よりも好ましい。なぜならば、後者の無水物は、かなり高い分子量を有するからである。コハク酸無水物の使用が酢酸無水物よりも好ましいのは、前者の化合物が、揮発性の低分子量種を生じず、また、コハク酸自体の揮発性が比較的低いからである。エンドキャッピング剤の揮発性は、そのような無水物を含む液相中のポリマーが脱揮工程に付されるときに問題を生じ得る。実際、そのような問題は、コハク酸無水物がエンドキャッピング剤として使用される場合には生じない。
【0026】
実験により、液相中のポリ(2-ヒドロキシアルカン酸)へのエンドキャッピング剤の添加量は好ましくは、ヒドロキシル末端基の量に対して0.1~4モル過剰の範囲であることが示された。エンドキャッピング剤の量が0.1モル過剰より少ないと、ポリマー溶融安定性における増加が不十分である。他方、エンドキャッピング剤の添加量が4モル過剰より多いと、ポリマー溶融安定性におけるさらなる増加が認められない。そのような高い量は、したがって、形成されたポリ(2-ヒドロキシアルカン酸)を汚染し、そして樹脂の総コストを増加させるだけである。両方のマイナスの効果の最適な妥協点は、エンドキャッピング剤の量が、0.5~2モル過剰、好ましくは0.8~1.5モル過剰であるときに得られる。
【0027】
本発明方法の好ましい実施態様は、不活性化剤の添加後に、液相中の形成されたポリ(2-ヒドロキシアルカン酸)に追加の脱揮工程が適用されるという特徴を有する。液相中のポリマーにおける残りのジエステルは、そのような脱揮工程によって除去され得る。脱揮工程は、液相中のポリマーにおける圧力を、好ましくは10mbarより下に低下することによって行われる。さらに、不活性気体を液相中のポリマーに通すことによりパージすることができる。
【0028】
本発明はまた、上記方法によって得られ得るポリ(2-ヒドロキシアルカン酸)に関する。上記ポリマーは、ポリスチレン基準に対するMnが20000~500000g/モルの範囲であることを特徴とする。上記Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、サイズ排除クロマトグラフィーとも言う)によってクロロホルム中でLALLS検出を使用して決定される。そのようなポリマーは、現在の適用によるほとんどの要求に応えることができる。
【0029】
好ましいのは、本発明に従う方法によって得られ得るポリ(2-ヒドロキシアルカン酸)である。それは、対応するポリマー中の環状ジエステルの濃度が0.5重量%未満、好ましくは0.3%未満であることを特徴とする。上記ポリエステルポリマーにおけるラクチドのこのような量は、NMR、FT-IRおよびクロマトグラフィーに基づく方法などの方法を使用して測定され得る。
【0030】
最も重要な要件の1つは、高温での重量損失に関する。本発明方法によって得られ得るポリマーは、典型的に250℃、1時間での液相における重量低下が、2重量%未満、好ましくは1.5重量%未満であることを示す。このような重量変化は、熱重量測定分析(TGA)(通常は、窒素雰囲気下で行われる)によって測定され得る。
【0031】
本発明に従う方法によって製造されたそのようなポリマーは、5~1000ppm、好ましくは10~500ppm、より好ましくは100~300ppmの範囲の量のリンをさらに示す。ポリマー中のリンの量は、標準的な元素分析法によって決定され得る。
【0032】
本発明を、以下に詳述する実施例によって、および図面によって説明する。
【0033】
図1は、対応する環状ジエステルからポリ(2-ヒドロキシアルカン酸)を製造するための本発明に従う方法を行うための装置の模式図(縮尺でない)を示す。
【0034】
図2は、本発明に従う方法を行うための別の装置の模式図(縮尺でない)を示す。
【0035】
図3は、本発明において行われた第一のシリーズの実験のデータを示す表1である。
【0036】
図4は、本発明において行われた第二シリーズの実験のデータを示す表2である。
【0037】
図1において、重合装置1が示される。これは、ループ反応器2、プラグフロー反応器3および、脱揮タンク4および5を含む2段階減圧脱揮装置を含む。この種の重合装置は、本出願人による国際出願(国際公開2010/012770号パンフレット)により詳細に記載されている。
【0038】
2-ヒドロキシアルカン酸の環状ジエステル(そのポリマーが製造される必要がある)および重合触媒が溶融された状態で混合され、そして重合装置の位置6で添加される。混合物の温度が、当該混合物が液状のままであるように選択される。アルコール官能性が添加される必要があるならば、当該官能性が、例えばアルコールとして、その系に同じ位置で導入される。上記混合物は、連続したやり方でループ反応器2に運ばれ、そして上記反応器において循環される。部分的に重合された混合物の一部が、ルール反応器2から分離され、そして連続したやり方でプラグフロー反応器3を通って運ばれる。反応条件(温度、流速、触媒濃度、他)は、反応混合物における環状ジエステルの転化が(ほとんど)完全であり、かつプラグフロー反応器3の終わりに対応するポリマーと平衡であるように選択される。
【0039】
位置7(プラグフロー反応器3の終わりでかつ脱揮タンク4の前)で、サンプリング点が、エンドキャッピング剤または触媒不活性化剤の注入を許す。位置8(脱揮タンク4の後)で、第二のサンプリング点が、上記と同じ目的のために利用できる。追加のサンプリング点が、上記装置の位置9(両方の脱揮タンク4および5の間の連結ラインの中間)で、位置10(第二の脱揮タンク5の直前)で、および位置11(第二の脱揮タンク5の直後)において設計されている。全てのサンプリング点および重合装置の終わりで、流動する重合混合物から分析目的のために少量を採取することができる。これらのサンプルは冷却され得、そしてそれらの含量が測定されて、環状ジエステル含量、エンドキャッピング剤含量、触媒含量および触媒不活性化剤含量を定量することができる。
【0040】
反応混合物の溶融安定性に対する触媒不活性化の影響を確かめるために、下記の基準が採用された。プロセスの終わり(位置12)でポリマー生成物の残留モノマー含量が0.5重量%未満であるならば、実験の結果は正であると考えられる。そうでなければ、結果は負であると考えられる。全ての正の結果に関して、脱揮タンク4および5を連結するライン(移動ライン)を通る残留モノマーにおける増加が小さいほど、触媒不活性化プロセスはより有効であると考えられる。移動ラインを通る残留モノマーにおける増加は、位置10および位置9で採取されたサンプル間の残留モノマーの違いとして測定される。
【0041】
図2は、本発明を行うために適する重合装置の別の実施態様を示す。モノマータンク100は、2-ヒドロキシアルカン酸の環状ジエステルを不活性雰囲気下で含む。位置3000で、重合触媒および任意的なアルコール官能性が添加され得る。
【0042】
次に、環状ジエステルモノマーおよび他の成分が、静止混合装置300および400ならびに熱交換装置500を含むループ反応器に入る。なお、上記成分は、任意的な静止混合装置200によってループ反応器に入り得る。装置200~500の各々が1以上のサブ装置を含み得ることを当業者は理解するであろう。
【0043】
25~75重量%の範囲のモノマー転化率を有する重合された混合物が、ループ反応器を出て、そして、1以上の静止混合サブ装置または熱交換サブ装置またはそれらの組合せを含み得る装置600に入る。重合された混合物は次に、1以上の静止混合サブ装置または熱交換サブ装置またはそれらの組合せを含み得る装置700に入る。75重量%より高いモノマー転化率を有する重合された混合物が次に第一脱揮装置800に入り、そこで未反応モノマーが、減圧および/または不活性気体流によって除去される。装置800が1以上のサブ装置を含み得ることを当業者は理解するであろう。第一脱揮された重合された混合物は次に、1以上の静止混合サブ装置または熱交換サブ装置またはそれらの組合せを含み得る任意的な装置900に入る。第一脱揮された重合された混合物は次に、1以上のサブ装置を含み得る任意的な第二の脱揮装置1000に入る。最後に、ポリマー生成物が、ペレタイザー、押出機、または他の生成物仕上げデバイスであり得る仕上げデバイス1100に入り、そして、生成物3300としてその系を出る。上記生成物は、ペレット、顆粒または仕上げられた生成物の形態であり得る。
【0044】
この実施態様では、脱揮された環状ジエステルモノマーが、流れ2000および2100の一部として、重合された混合物から除去される。典型的には、幾分高められた圧力が装置200~700に、ならびに900および1100に存在し得る。典型的には、低圧が装置800および1000に存在し得、そのような圧力はしばしば、50mbar未満、好ましくは20mbar未満であるであろう。装置100~200のための典型的な温度範囲は、80~150℃であり、装置300~1100のための典型的な温度範囲は150~250℃である。
【0045】
触媒不活性化剤および/または任意的なエンドキャッピング剤は、この実施態様では、位置3100および/または3200で添加され得る。
【0046】
後述する全ての実験において、Puralactラクチド(Purac、DまたはLのどちらか)が2-ヒドロキシアルカン酸の環状ジエステルとして使用された。スズオクトエートが触媒として使用された。少量のアルコールが、反応を促進するために添加された。使用されるとき、市販の化合物ADK STAB AX-71(商品名)(Adeka Palmarole、モノおよびジステアリル酸ホスフェートの1:1混合物)が触媒不活性化剤として使用された。使用されるとき、無水酢酸(AA)または無水コハク酸(SA)が重合反応におけるエンドキャッピング剤として使用された。
【0047】
第一のシリーズの実験では、重合プロセスに対する触媒不活性化剤の効果が、エンドキャッピング剤の不存在下で調べられた。これらの実験では、L-Puralactが2-ヒドロキシアルカン酸の環状ジエステルとして使用された。スズオクトエートが触媒として使用された。少量のアルコールが、反応を促進するために添加された。市販の化合物ADK STAB AX-71(商品名)(Adeka Palmarole、モノおよびジステアリル酸ホスフェートの1:1混合物)が触媒不活性化剤として使用された。エンドキャッピング剤は、このシリーズの実験では使用されなかった。
【0048】
実験の実施において、ラクチドが100~130℃に加熱され、そして約150ppmのSn(oct)
2と混合された。約15~20ミリモル/kgラクチドの少量のアルコールが同様に添加された。この混合物は、
図1に示される重合装置1に位置6で入れられた。ループ反応器およびプラグフロー反応器の条件が、位置7で重合度が約95%であるように最適化された。第一の実験(a)では、0.63g/mの量のADK STAB AX-71が位置7で重合反応混合物に添加された。第二の実験(b)では、略同じ量のADKが位置8で重合反応混合物に添加された。第一および第二の実験の両方に関して、重合反応混合物のサンプルが位置9および11で採取された。これらのサンプルから、ラクチド濃度が、位置8と位置11の間のラクチドの変化とともに決定された。
【0049】
第一の実験(a)では、ラクチド濃度が位置8と位置11の間の流動距離にわたって平均で2.9重量%増加した。第二の実験(b)では、ラクチド濃度が同じ流動距離にわたって0.0重量%増加した。これらの観察から、溶融安定性は、第二の実験(b)に関してより良好であることが結論される。したがって、液相中のPLAの反応混合物における溶融安定性は、触媒不活性化剤が第一脱揮工程後に添加されるならば、より高い。
【0050】
第二のシリーズの実験では、触媒不活性化剤およびエンドキャッピング剤を使用することの効果が調べられた。実験条件および実験の結果を
図3に示される表1に示す。この表1において、ΔRMが、
図1における位置10と位置9とでの残留モノマーの違いとして計算される。ΔMnおよびΔMwが、位置12と位置7とでの分子量の違いとして計算される。
【0051】
これらの実験では、Puralactラクチドが、約100~130℃に加熱され、そして約75~150ppmのSn(oct)2と混合された。ラクチド1kgにつき15~20ミリモルのアルコールが同様に添加された。この混合物が位置6で重合装置1に入れられた。ループ反応器およびプラグフロー反応器の条件が、位置7で重合が約95%転化率まで進むように最適化された。すなわち、ラクチドが、20kg/時の質量流量で上記装置に入れられた。ループ反応器での質量流量は200kg/時であった。プラグフロー反応器での質量流量は再び20kg/時であった。これらの反応器の温度は、170~200℃の範囲であった。
【0052】
この第二シリーズの第一の実験(a)では、ADKおよびエンドキャッピング剤が反応混合物に添加されなかった。第二の実験(b)では、エンドキャッピング剤のみが第一脱揮工程の前に添加された。第三の実験(c)では、ADK化合物のみが第一脱揮工程の前に添加された。最後の実験(d)では、エンドキャッピング剤およびADKの両方が、第一脱揮工程の前に位置7で添加された。最初の3つの場合(a~c)の全てにおいて、位置12での最終残留モノマーは、1%よりはるかに多く、1.3~1.6%の範囲であった。上記3つの実験の全ての結果はしたがって、負であった。最後の場合(d)では、位置12での最終残留モノマーは0.17%であり、この実験の結果は正であった。にもかかわらず、移動ライン(位置9と10との間)における残留モノマーの有意な増加が、この場合にも測定された(+0.63%)。第二シリーズの実験から、(i)エンドキャッピング剤のみまたはADKのみを第一脱揮工程の前に重合混合物に混入することは、モノマーの再形成に関して重合混合物を安定化させることにおいて有効でないこと、(ii)エンドキャッピング剤およびADK化合物の両方を脱揮プロセスの前に重合混合物と混合することが、溶融安定性を改善し、そして低い残留モノマー含量を有するポリマーの製造を可能にすること、(iii)モノマー再形成に関するポリマー安定性が、エンドキャッピング剤およびADK化合物を第一脱揮工程の前に添加するとき、それにもかかわらず、副反応(例えば、バックバイティング)が完全には抑制されないで移動ラインでのモノマー再形成を引き起こすという事実故に最適でないことを結論することができる。
【0053】
第三シリーズの実験では、種々の位置での触媒不活性化剤の投入の効果が調べられた。このシリーズの実験のために、無水酢酸または無水コハク酸が、位置7でその系に導入された。相違して、ADKが、第一脱揮工程(タンク4)の直後で第二脱揮工程(タンク5)の前に、位置8で系に導入された。実験条件および測定結果を、
図4に示される表2に示す。この表2では、ΔRMが、
図1における位置10と位置9とでの残留モノマーの相違として計算される。ΔMnおよびΔMwが、位置12と位置7とでの分子量の違い(%)として計算される。
【0054】
全ての場合において、位置12での最終の残留モノマー値が、0.1~0.14%であった。したがって、全ての試験が正と考えられた。さらに、全ての場合において、使用された触媒の量または最終のポリマーの分子量(位置12)にかかわらず、顕著な溶融安定性が、モノマー再形成に関して観察された。実際、実験結果から明らかなように、全ての場合において、位置9と位置10の間の移動ラインにおけるモノマー濃度の増加は測定されなかった。
【0055】
第三シリーズの実験の結果を第二シリーズと比較することにより、
無水物のエンドキャッピング剤およびリン化合物を重合混合物に添加することは、溶融安定性を改善し、全脱揮プロセスの終わりにより低い残留モノマー値を達成することを可能にする(表1の実験(a~c)対実験(d))、
無水物のエンドキャッピング剤を第一脱揮工程の前に添加し、かつリン化合物を第一脱揮工程の後に添加することが、移動ラインにおける測定可能なモノマー再形成の不存在によって明らかなように、溶融安定性をさらに改善し(表2の結果対表1-dを参照)、エンドキャッピング剤およびリン化合物をこのように添加することが、両方の化合物が第一脱揮工程の前に添加されるところの別の添加方法によって得られるよりも、色の形成が少ないことも分かる
ことが結論され得る。
【符号の説明】
【0056】
1 重合装置
2 ループ反応器
3 プラグフロー反応器
4 脱揮タンク
5 脱揮タンク
200 静止混合装置
300 静止混合装置
400 静止混合装置
500 熱交換装置
800 第一脱揮装置
1000 第二脱揮装置