(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】防音部材
(51)【国際特許分類】
G10K 11/16 20060101AFI20221110BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20221110BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20221110BHJP
G10K 11/165 20060101ALI20221110BHJP
G10K 11/172 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
G10K11/16 150
F16F15/02 C
F16F15/02 K
F16F15/08 D
G10K11/165
G10K11/172
(21)【出願番号】P 2017194581
(22)【出願日】2017-10-04
【審査請求日】2020-07-06
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【氏名又は名称】進藤 素子
(72)【発明者】
【氏名】吉川 慧
(72)【発明者】
【氏名】富山 幸治
(72)【発明者】
【氏名】藪 晃生
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康雄
【審査官】渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-235979(JP,A)
【文献】特開平09-230873(JP,A)
【文献】特開2006-023423(JP,A)
【文献】特開2016-071108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/00-13/00
F16F 15/00-15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体を備える構造体に装着され、該構造体の外周面のうち少なくとも該回転体の回転方向に配置される面を被覆し、弾性部材の一体物からなり、
他の部分よりも厚さが大きい肉厚部を
複数有し、
各々の該肉厚部は、該回転体の軸方向に延在し、該回転体の回転方向に離間して配置され、
該回転体の軸方向に直交する二方向のうち、水平方向をY方向、垂直方向をZ方向と定義した場合、防音部材のZ方向における共振周波数は、該構造体の回転一次成分に合っている防音部材。
【請求項2】
回転体を備える構造体に装着され、該構造体の外周面のうち、少なくとも該回転体の回転方向に配置される面を被覆し、弾性部材の一体物からなり、
他の部分よりも厚さが大きい肉厚部を
複数有し、
各々の該肉厚部は、該回転体の軸方向に延在し、該回転体の回転方向に離間して配置され、
該回転体の軸方向に直交する二方向のうち、一方をY方向、他方をZ方向と定義した場合、防音部材のZ方向における共振周波数は、該構造体のY方向における共振周波数に合っている防音部材。
【請求項3】
前記弾性部材は、ポリマーからなる母材と、該母材中に配向した状態で含有される磁性フィラーと、を有する請求項1
または請求項2に記載の防音部材。
【請求項4】
回転体を備える構造体に装着され、該構造体の外周面のうち少なくとも該回転体の回転方向に配置される面を被覆し、ポリマーからなる母材と、該母材中に配向した状態で含有される磁性フィラーと、を有する弾性部材の一体物からなり、
他の部分よりも該磁性フィラーの含有量が大きい高充填部を
複数有し、
各々の該高充填部は、該回転体の軸方向に延在し、該回転体の回転方向に離間して配置され、
該回転体の軸方向に直交する二方向のうち、水平方向をY方向、垂直方向をZ方向と定義した場合、防音部材のZ方向における共振周波数は、該構造体の回転一次成分に合っている防音部材。
【請求項5】
回転体を備える構造体に装着され、該構造体の外周面のうち少なくとも該回転体の回転方向に配置される面を被覆し、ポリマーからなる母材と、該母材中に配向した状態で含有される磁性フィラーと、を有する弾性部材の一体物からなり、
他の部分よりも該磁性フィラーの含有量が大きい高充填部を
複数有し、
各々の該高充填部は、該回転体の軸方向に延在し、該回転体の回転方向に離間して配置され、
該回転体の軸方向に直交する二方向のうち、一方をY方向、他方をZ方向と定義した場合、防音部材のZ方向における共振周波数は、該構造体のY方向における共振周波数に合っている防音部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動装置や動力伝達装置に装着される防音部材に関する。
【背景技術】
【0002】
車両においては、エンジン、モータなどの駆動装置や、トランスミッションなどの動力伝達装置から発生する騒音を低減することが要求される。また、車室内の静粛性向上の要求も高まっており、例えば、パワーシート用のモータユニットから発生する駆動音なども低減の対象になる。騒音対策としては、例えば、ポリウレタンフォームなどの発泡体からなる吸音材、振動吸収材が用いられる。しかし、発泡体は、内部に多数のセル(気泡)を有するため熱伝導率が小さい。このため、発熱を伴うエンジン、モータなどの周囲に配置した場合、熱が蓄積され不具合を生じるおそれがある。したがって、吸音材として発泡体を用いた場合には、その放熱性を向上させる必要がある。この点、特許文献1には、磁性フィラーを含む発泡体からなる吸音カバーが、開示されている。特許文献1に記載された吸音カバーにおいては、熱伝導率が大きな磁性フィラーが、吸音カバーの厚さ方向に配向している。このため、騒音を低減できるだけでなく、騒音源で生じた熱を、配向した磁性フィラーを介して速やかに放出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-069012号公報
【文献】特公平6-100245号公報
【文献】実開平6-71938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モータ、歯車(ギア)などの回転体を備える装置が作動すると、高周波数の空気伝播音や、低周波数の固体伝播音が発生する。固体伝播音のなかには、回転体特有のねじり振動(回転方向の振動)によるものが含まれる。また、モータの回転方向や回転速度が変化する場合、騒音の周波数が変化する。上記特許文献1に記載された発泡体を使用した吸音カバーは、モータからの高周波数の騒音を低減するためには有効である。しかしながら、固体伝播音などによる1000Hz以下の低周波数の騒音に対しては低減効果が小さい。
【0005】
一方、振動を低減する装置としては、ダイナミックダンパが知られている(上記特許文献2、3参照)。一般に、ダイナミックダンパは、制振対象たる振動体に対して、ゴムなどの弾性体を介してマスが弾性支持されるよう構成されている。振動体が特定の周波数で振動した際に、マスと弾性体とがマス-ばねからなる振動系を構成し共振して、振動体の振動を吸収し低減させる。しかしながら、従来のダイナミックダンパは、弾性体およびマスの異なる二部材が必要であり、振動体の振動方向に取り付けなくてはならない。また、従来のダイナミックダンパは、低周波数の騒音低減には有効であるが、高周波数の騒音を低減することはできない。また、低減される周波数帯域が狭く、モータの回転方向や回転速度が変化する場合など、周波数が変化する対象に対しては充分な騒音低減効果が得られない。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、回転体を備える構造体に装着した場合に、ねじり振動による固体伝播音を抑制し、高周波数から低周波数までの広い周波数帯域の騒音を低減することができる防音部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の防音部材は、回転体を備える構造体に装着され、該構造体の外周面の少なくとも一部を被覆し、弾性部材の一体物からなり、他の部分よりも厚さおよび密度の少なくとも一方が大きい偏在部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の防音部材は、弾性部材の一体物からなり、偏在部を有する。偏在部は、他の部分よりも厚さおよび密度の少なくとも一方が大きい。すなわち、偏在部は、肉厚な部分であるか高密度な部分である、あるいはその両方であるため、偏在部の質量は他の部分の質量よりも大きい。よって、本発明の防音部材は、弾性部材の一体物でありながら、偏在部がおもりの役割を果たすことにより、いわゆるマス-ばねによる防振効果を奏する。このように、本発明の防音部材によると、弾性部材そのものによる吸音および遮音機能に、マス-ばねによる防振機能が加わることにより、空気を伝播する放射音の低減と、固体伝播音の低減と、の両方を実現することができる。すなわち、本発明の防音部材によると、放射音などの高周波数の騒音だけでなく、固体を伝播する1000Hz以下の低周波数の騒音をも低減することができる。
【0009】
本発明の防音部材によると、弾性部材のばね定数を変更したり、偏在部の構成、形状、位置、数などを変更することにより、防音部材の共振周波数を変更することができる。防音部材の共振周波数を調整することにより、回転体特有のねじり振動による固体伝播音をも抑制することができる。また、偏在部の構成などを変更するには、弾性部材を成形するだけでよく、別部材を組み付ける必要はない。したがって、本発明の防振部材によると、低減したい振動周波数に応じたチューニングが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】モータに装着された状態の第一実施形態の防音部材の斜視図である。
【
図2】同防音部材の正面図であり、同防音部材に含有されている複合粒子の配向状態を模式的に示す。
【
図3】モータに装着された状態の第二実施形態の防音部材の斜視図である。
【
図4】同防音部材の正面図であり、同防音部材に含有されている複合粒子の配向状態を模式的に示す。
【
図5】モータに装着された状態の第三実施形態の防音部材の斜視図である。
【
図6】同防音部材の正面図であり、同防音部材に含有されている複合粒子の配向状態を模式的に示す。
【
図7】モータに装着された状態の第四実施形態の防音部材の正面図であり、同防音部材に含有されている複合粒子の配向状態を模式的に示す。
【
図9】モータに装着された状態の比較例の防音部材の斜視図である。
【
図10】実験1における実施例の防音部材の振動加速度の測定結果を示すグラフである。
【
図11】実験1における比較例の防音部材の振動加速度の測定結果を示すグラフである。
【
図12】実験2における実施例の防音部材の振動加速度の測定結果を示すグラフである。
【
図13】実験2における比較例の防音部材の振動加速度の測定結果を示すグラフである。
【
図14】実施例および比較例の防音部材の騒音低減効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の防音部材の実施の形態について説明する。
【0012】
<第一実施形態>
[構成]
まず、本実施形態の防音部材の構成を説明する。
図1に、モータに装着された状態の本実施形態の防音部材の斜視図を示す。
図2に、同防音部材の正面図を示す。
図2においては、同防音部材に含有されている複合粒子の配向状態を模式的に示す。
図1、
図2において、モータの回転軸方向(前後方向)をX方向、X方向に直交する二方向のうち、水平方向(左右方向)をY方向、垂直方向(上下方向)をZ方向と定義する。モータの回転軸の回転方向を周方向と定義する。
【0013】
図1、
図2に示すように、防音部材1は、一端面(前面)に開口部を有する直方体の箱状を呈している。防音部材1は、モータ9の外周面のうちの周方向の全面(上下左右の四つの側面)と後面とを覆っている。防音部材1の内側には、モータ9が収容されている。モータ9は回転軸90を有している。モータ9は、本発明における「回転体を備える構造体」の概念に含まれる。
【0014】
防音部材1は、複合粒子21を含むポリウレタンフォーム製の弾性部材の一体物である。すなわち、防音部材1は、ポリウレタンフォームからなる母材20と複合粒子21とを有している。複合粒子21は、グラファイト粒子とステンレス鋼粒子とが複合化した粒子である。
図2に模式的に示すように、複合粒子21は、防音部材1の厚さ方向に連なって配向している。複合粒子21は、本発明における磁性フィラーの概念に含まれる。
【0015】
防音部材1は、モータ9の四つの側面に対応して、上壁部30U、下壁部30D、左壁部30L、右壁部30Rからなる四つの側壁部を有している。四つの側壁部には、各々、側壁部の他の部分よりも厚さが大きい肉厚部31が配置されている。四つの側壁部において、肉厚部31以外の部分の厚さは同じである。
【0016】
四つの肉厚部31は、いずれも直方体状を呈しており、X方向に延在している。肉厚部31は、側壁部の片側に配置されている。すなわち、上壁部30Uの肉厚部31は、上壁部30Uの左側半分の領域に配置されている。右壁部30Rの肉厚部31は、右壁部30Rの上側半分の領域に配置されている。下壁部30Dの肉厚部31は、下壁部30Dの右側半分の領域に配置されている。左壁部30Lの肉厚部31は、左壁部30Lの下側半分の領域に配置されている。四つの肉厚部31は、各々、周方向に等間隔で離間して配置されている。防音部材1の周方向の共振周波数は、モータ9の回転一次成分と一致するように設計されている。
【0017】
[作用効果]
次に、本実施形態の防音部材の作用効果を説明する。防音部材1は、ポリウレタンフォームからなる母材20と配向した複合粒子21とを有する弾性部材の一体物からなる。複合粒子21は、熱伝導率が大きいグラファイト粒子とステンレス鋼粒子を含み、防音部材1の厚さ方向、すなわち、モータ9の外周面に対して垂直方向に連なって配向している。これにより、モータ9からの放射音が吸収、遮蔽されると共に、モータ9で発生した熱が速やかに放出される。
【0018】
防音部材1は、肉厚部31を有している。肉厚部31の質量は他の部分の質量よりも大きい。よって、防音部材1は、弾性部材の一体物でありながら、肉厚部31がおもりの役割を果たすことにより、いわゆるマス-ばねによる防振効果を奏する。したがって、防音部材1によると、弾性部材そのものによる吸音および遮音機能に、マス-ばねによる防振機能が加わることにより、モータ9で発生する放射音および固体伝播音の両方を低減することができる。すなわち、防音部材1によると、高周波数の騒音だけでなく、1000Hz以下の低周波数の騒音をも低減することができる。
【0019】
弾性部材のばね定数を変更したり、肉厚部31の形状、位置、数などを変更することにより、防音部材1の共振周波数を容易に変更することができる。肉厚部31の形状などを変更するには、弾性部材を成形するだけでよく、別部材を組み付ける必要はない。したがって、防振部材1によると、低減したい振動周波数に応じたチューニングが容易である。
【0020】
モータ9などの回転体を備える構造体においては、回転次数成分の振動が大きくなる。回転次数成分とは、回転一次成分のN倍(Nは1以上の整数)の周波数である。回転一次成分は、回転体の回転速度を周波数に変換した値に、一回転あたりの基本振動数を乗じて算出される周波数であり、一回転あたりの基本振動回数(回)をA、回転体の回転速度(rpm)をBとして、次式(I)により算出される。
回転一次成分(Hz)=B/60×A ・・・(I)
固体伝播音などによる低周波数の騒音の主成分は、回転一次成分の偶数倍の周波数の振動であると考えられる。よって、固体伝播音などによる低周波数の騒音を抑制するには、元になる回転一次成分の振動を抑制することが効果的である。本発明者が鋭意検討した結果、回転次数成分の振動は、回転体の回転方向の振動(ねじれ振動)に起因するため、このねじれ振動を抑制するには、防音部材の共振周波数を回転次数成分に合わせることが有効であるという知見を得た。
【0021】
この点、防音部材1は、周方向の共振周波数がモータ9の回転一次成分と一致するように設計されている。したがって、モータ9の回転方向(周方向)の振動を抑制することができ、ねじり振動による固体伝播音に起因する騒音の低減に効果的である。なお、本明細書において、共振周波数が「合っている」、または「一致する(させる)」とは、一方の共振周波数が他方の共振周波数に対して±10%の範囲内であることをいう。
【0022】
<第二実施形態>
本実施形態の防音部材と第一実施形態の防音部材との相違点は、肉厚部の位置、および複合粒子の配向方向が異なる点である。ここでは、相違点を中心に説明する。
図3に、モータに装着された状態の本実施形態の防音部材の斜視図を示す。
図4に、同防音部材の正面図を示す。
図4においては、同防音部材に含有されている複合粒子の配向状態を模式的に示す。
【0023】
図3、
図4に示すように、防音部材1の四つの側壁部には、各々、側壁部の他の部分よりも厚さが大きい肉厚部32が配置されている。四つの肉厚部32は、いずれも直方体状を呈しており、X方向に延在している。四つの肉厚部32は、いずれも側壁部の中央部に配置されている。四つの肉厚部32は、各々、周方向に等間隔で離間して配置されている。防音部材1の周方向の共振周波数は、モータ9の回転一次成分と一致するように設計されている。
【0024】
図4に模式的に示すように、複合粒子21は、一方向(上下方向)に連なって配向している。すなわち、複合粒子21は、上壁部30Uおよび下壁部30Dにおいては厚さ方向に配向しており、左壁部30Lおよび右壁部30Rにおいては厚さ方向に垂直な面方向に配向している。
【0025】
本実施形態の防音部材は、構成が共通する部分については、第一実施形態の防音部材と同様の作用効果を有する。本実施形態の防音部材1においては、複合粒子21の配向方向が一方向(上下方向)である。この場合、弾性部材を発泡成形する際、磁場を一方向から作用させればよいため、製造が容易である。また、複合粒子21の配向方向の違いにより、防音部材1のY方向のばね定数とZ方向のばね定数とは異なる。複合粒子21の配向方向と同じZ方向においては、Y方向と比較してばね定数が大きくなる。これにより、Z方向においては、Y方向よりも共振周波数が大きくなる。一方、Y方向においては、Z方向と比較してばね定数が小さくなる。このため、Y方向においては、Z方向よりも共振周波数が小さくなる。このように、複合粒子21の配向方向を一方向にすると、Y方向とZ方向とのばね定数の違いを利用して、共振周波数の調整を行うことができる。この構成は、Y方向における共振周波数とZ方向における共振周波数とが異なる構造体の騒音低減に効果的である。
【0026】
本実施形態の防音部材1においては、肉厚部32が側壁部の中央部に配置されているため、近接する周辺部品との干渉を避けたい場合などに好適である。また、肉厚部を側壁部の中央部に配置すると、肉厚部を側壁部の片側に配置した場合(第一実施形態)と比較して、回転中心と肉厚部重心との距離が変わる。このように、肉厚部の形状や大きさが同じであっても配置する位置を変えることにより、防音部材1の共振周波数を調整することができる。
【0027】
<第三実施形態>
本実施形態の防音部材と第一実施形態の防音部材との相違点は、側壁部の一つのみに肉厚部を配置した点、および複合粒子を一方向に配向させた点である。ここでは、相違点を中心に説明する。
図5に、モータに装着された状態の本実施形態の防音部材の斜視図を示す。
図6に、同防音部材の正面図を示す。
図6においては、同防音部材に含有されている複合粒子の配向状態を模式的に示す。
【0028】
図5、
図6に示すように、防音部材1の上壁部30Uの厚さは、他の三つの側壁部30R、30D、30Lの厚さよりも大きい。すなわち、上壁部30Uの全体が、肉厚部33から構成されている。肉厚部33は、X方向に延在している。三つの側壁部30R、30D、30Lの厚さは同じである。防音部材1の周方向の共振周波数は、モータ9の回転一次成分と一致するように設計されている。
【0029】
図6に模式的に示すように、複合粒子21は、一方向(上下方向)に連なって配向している。すなわち、複合粒子21は、上壁部30U(肉厚部33)および下壁部30Dにおいては厚さ方向に配向しており、左壁部30Lおよび右壁部30Rにおいては厚さ方向に垂直な面方向に配向している。
【0030】
本実施形態の防音部材は、構成が共通する部分については、第一実施形態の防音部材と同様の作用効果を有する。本実施形態の防音部材1においては、モータ9の上面を覆う上壁部30Uの全体を肉厚部33にした。一部を外側に突出させて側壁部の厚さを変えた第一、第二実施形態と比較して形状が単純であるため、製造が容易である。また、本実施形態の防音部材1においては、第二実施形態と同様に、複合粒子21の配向方向が一方向(上下方向)である。この場合、弾性部材を発泡成形する際、磁場を一方向から作用させればよいため、製造が容易である。
【0031】
<第四実施形態>
本実施形態の防音部材と第一実施形態の防音部材との相違点は、肉厚部に代えて高充填部を配置した点である。ここでは、相違点を中心に説明する。
図7に、モータに装着された状態の本実施形態の防音部材の正面図を示す。
図7は、前出の
図2に対応している。
【0032】
図7に示すように、上壁部30U、下壁部30D、左壁部30L、右壁部30Rの四つの側壁部は、各々、ポリウレタンフォームからなる母材20と複合粒子21とを有している。四つの側壁部の厚さは同じである。四つの側壁部には、各々、側壁部の他の部分よりも複合粒子21の含有量が大きい高充填部34が配置されている。四つの高充填部34は、いずれもX方向に延在している。高充填部34は、側壁部の片側に配置されている。すなわち、上壁部30Uの高充填部34は、上壁部30Uの左側半分の領域に配置されている。右壁部30Rの高充填部34は、右壁部30Rの上側半分の領域に配置されている。下壁部30Dの高充填部34は、下壁部30Dの右側半分の領域に配置されている。左壁部30Lの高充填部34は、左壁部30Lの下側半分の領域に配置されている。四つの高充填部34は、各々、周方向に等間隔で離間して配置されている。防音部材1の周方向の共振周波数は、モータ9の回転一次成分と一致するように設計されている。
【0033】
本実施形態の防音部材は、構成が共通する部分については、第一実施形態の防音部材と同様の作用効果を有する。本実施形態の防音部材1において、高充填部34は、他の部分よりも複合粒子21を多く含む。このため、高充填部34の質量は、他の部分の質量よりも大きい。よって、防音部材1は、弾性部材の一体物でありながら、高充填部34がおもりの役割を果たすことにより、いわゆるマス-ばねによる防振効果を奏する。本実施形態の防音部材1によると、形状を変更することなく、複合粒子21の配向の仕方を調整するなどして、高充填部34(偏在部)を形成することができる。また、高充填部34は、複合粒子21を多く含む。これにより、防音部材1の放熱性がより高くなる。また、弾性部材のばね定数を変更したり、高充填部34における複合粒子21の含有量、高充填部34の位置、数などを変更することにより、防音部材1の共振周波数を容易に変更することができる。
【0034】
<その他>
以上、本発明の防音部材の実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0035】
上記実施形態においては、本発明の防音部材をモータに装着した。しかし、本発明の防音部材を装着する構造体は、上記実施形態に限定されない。構造体としては、ギアケース、ポンプ、ロータリーバルブ、リレー、コンプレッサなどの駆動装置または動力伝達装置が挙げられる。
【0036】
防音部材の材質、形状、大きさ、配置形態などは、上記実施形態に限定されない。防音部材は、構造体の形状に応じて、箱状、筒状などにすればよい。例えば、放熱性を考慮した場合には、構造体との接触面積を大きくするとよい。上記実施形態においては、防音部材を箱状に形成して、構造体の前面を除く外周面全体を被覆した。しかし、防音部材は、構造体の外周面の少なくとも一部を被覆すればよい。例えば、構造体の周方向の半分程度の領域を、C字状に被覆してもよい。また、偏在部の構成、形状、位置、数なども特に限定されない。これらは、防音部材の共振周波数が所望の値になるよう、適宜調整すればよい。
【0037】
防音部材は、磁性フィラーを含まない弾性部材で形成してもよい。例えば、架橋ゴム、熱可塑性エラストマーのみから形成してもよい。上記実施形態のように、ポリマーからなる母材および磁性フィラーを有する弾性部材から形成する場合、母材は、発泡体であってもソリッド体であってもよい。前者の場合、ポリウレタンフォームの他、ポリエチレンフォーム、ポリプロピレンフォームなどの発泡樹脂または発泡エラストマーを使用することができる。後者の場合、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴムなどの架橋ゴム、スチレン系、オレフィン系、塩化ビニル系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアミド系の各種熱可塑性エラストマーを使用することができる。
【0038】
磁性フィラーとしては、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、ガドリニウム、ステンレス鋼などの強磁性体、MnO、Cr2O3、FeCl2、MnAsなどの反強磁性体、およびこれらを用いた合金類を用いるとよい。なかでも、熱伝導率が大きくフィラーとしての加工性に優れる点から、ステンレス鋼、銅鉄合金などが好適である。また、放熱性を向上させるという観点から、上記実施形態のように、熱伝導率が大きい熱伝導性粒子の表面に磁性粒子が付着した複合粒子を用いてもよい。熱伝導性粒子の材質としては、例えば、黒鉛、膨張黒鉛、炭素繊維などの炭素材料が好適である。磁性フィラーの配向方向は、適宜決定すればよい。
【0039】
上記実施形態においては、防音部材の周方向の共振周波数を、モータの回転一次成分に合わせた。しかし、防音部材の共振周波数は、構造体の回転次数成分、Y方向の共振周波数、およびZ方向の共振周波数のいずれか1つに合っていればよい。この場合、防音部材の共振周波数は、回転方向、Y方向、Z方向のいずれの方向でも構わない。例えば、防音部材のZ方向における共振周波数を、構造体の回転次数成分に合わせてもよい。また、防音部材の共振周波数を一致させる回転次数成分は、一次成分に限定されない。防音部材の共振周波数を構造体の回転次数成分に合わせる場合には、回転N次成分のN-n次成分に合わせるとよい。ここで、nは0以上の整数であり、N-1≧nを満たす。n=0とすると好適である。
【0040】
回転体を備える構造体においては、軸方向に直交する二方向(Y方向、Z方向)において共振周波数が異なる場合がある。この場合、Y方向の振動を抑制するのであれば、通常、防音部材と構造体とのY方向における共振周波数を一致させる。Z方向の振動を抑制するのであれば、防音部材と構造体とのZ方向における共振周波数を一致させる。しかし、本発明者が鋭意検討した結果、防音部材と構造体とにおいて90°ずらした方向の共振周波数が一致するように設計すると、Y方向およびZ方向の両方向における振動を低減することができることを見出した。この知見により、例えば、防音部材のZ方向における共振周波数を、構造体のY方向における共振周波数に合わせてもよい。反対に、防音部材のY方向における共振周波数を、構造体のZ方向における共振周波数に合わせてもよい。
【実施例】
【0041】
<実施例の防音部材の製造>
上記第一実施形態と同じ構成の防音部材を製造した(前出
図1、
図2参照)。以下、方位の定義も上記第一実施形態と同じである。まず、ポリエーテルポリオールと、架橋剤と、発泡剤の水と、触媒と、整泡剤と、を混合して、ポリオール原料を調製した。次に、調製したポリオール原料に、グラファイト粒子とステンレス鋼粒子とが複合化した複合粒子と、可塑剤と、を添加、混合して、プレミックスポリオールを調製した。続いて、プレミックスポリオールと、ポリイソシアネート原料と、を混合して、混合原料とした。そして、混合原料を成形型のキャビティ内に注入して型締めし、成形型に磁場をかけながら発泡成形を行った。発泡成形が終了したら、脱型して、上記第一実施形態の構成の防音部材を得た。得られた防音部材を実施例の防音部材と称す。
【0042】
実施例の防音部材の比重、動ばね定数を測定したところ、比重は0.81g/cm3、複合粒子の配向方向(Z方向)の動ばね定数は1228N/mm、複合粒子の配向方向に対して垂直方向(Y方向)の動ばね定数は308N/mmであった。ここで、動ばね定数を測定したサンプルの形状は、直径50mmの円柱状である。なお、動ばね定数は、振動状態におけるばね定数であり、JIS K 6394:2007もしくは日本ゴム協会標準規格SRIS-3503における「絶対ばね定数」である。動ばね定数は、JIS K 6394:2007に規定される非共振法に準拠して、サンプルを5%の圧縮率でYまたはZ方向に圧縮し、100Hzの振動周波数にて測定された値である。
【0043】
実施例の防音部材の共振周波数を測定したところ、周方向(モータの回転軸の回転方向)の共振周波数は158Hz、Z方向の共振周波数は386Hzであった。ここで、周方向の共振周波数の測定は、JIS K 6385:2012(第7項)に準拠したねじり試験装置を用いて行った。実施例の防音部材をブラケットを介して装置に装着し、装置付属の加速度ピックアップを防音部材の一つの側面に取付けた状態で、ねじり角度を±0.05°、加振周期を50~500Hzとする周方向の加振力を付与した。そして、Y方向の加速度、位相の計測を行い、位相が-90°となる周波数を共振周波数とした。また、Z方向の共振周波数の測定は、JIS K 6385:2012(第7項)に準拠した振動試験装置を用いて行った。実施例の防音部材をブラケットを介して装置に装着し、装置付属の加速度ピックアップを防音部材の上側面に取付けた状態で、加振周期を50~500Hzとする1Gの加振力をZ方向に付与した。そして、Z方向の加速度、位相の計測を行い、位相が-90°となる周波数を共振周波数とした。
【0044】
<比較例の防音部材の製造>
実施例と同じ混合原料を発泡成形して、肉厚部(偏在部)を有さない点以外は実施例の防音部材と同様の箱状の防音部材を製造した。製造した防音部材を比較例の防音部材と称す。
図8に、モータに装着された状態の比較例の防音部材の斜視図を示す。
図8に示すように、比較例の防音部材8は、前面に開口部を有する直方体の箱状を呈している。防音部材8は、モータ9の外周面のうちの周方向の全面と後面とを覆っている。防音部材8の上下左右の四つの側壁部の厚さおよび密度は、全て同じである。比較例の防音部材をハンマリング試験して共振周波数を測定したところ、Z方向の共振周波数は342Hzであった。
【0045】
<騒音低減効果の確認>
実施例および比較例の防音部材を、各々、モータ(ミネベア社製「17PM-K142U」)に装着し、Y方向(左右方向)における振動加速度を測定した。モータは、ブラケットに片持ち梁状に取り付けられている。
図9に、モータの取り付け状態を示す。
【0046】
図9に示すように、ブラケット80は、取付部81と固定部82とを有している。取付部81は、平板状を呈しており、上下方向に垂直に配置されている。取付部81の中央付近には、円形の開口部が穿設されている。固定部82は、平板状を呈しており、取付部81の下端から前方および後方に水平に延在している。固定部82は、スクリュー820により、座面83に固定されている。モータ9は、取付部81の後面にねじ止めされている。モータ9の回転軸90は、取付部81の開口部に挿通されている。
【0047】
モータをハンマリング試験して共振周波数を測定したところ、Y方向の共振周波数は320Hz、Z方向の共振周波数は122Hzであった。また、モータの1回転あたりの基本振動数は50回である。
【0048】
振動加速度の測定は、次のようにして行った。
図9に示した取り付け状態のモータ9に防音部材を装着し、ブラケット80の取付部81の上部にX、Y、Z方向の三方向加速度ピックアップを固定した。加速度ピックアップには、FFT(高速フーリエ変換)アナライザを接続した。この状態で、後述する実験1、2における二種類の回転加速度でモータ9を回転させて、Y方向(左右方向、紙面の奥から手前方向)の振動加速度を測定した。加速度ピックアップとしては、ブリュエル・ケアー(B&K)社製「FFTアナライザPLUSE/Reflex Core」付属の加速度ピックアップを使用した。
【0049】
また、騒音低減効果を、次のようにして測定した。無響音室内において、
図9に示した取り付け状態のモータ9に防音部材を装着し、モータ9からY方向(左右方向、紙面の奥から手前方向)に750mm、座面83からZ方向に1000mm離れた位置にマイクを設置した。この状態で、後述する実験1、2における二種類の回転加速度でモータ9を回転させ際の騒音レベル(dB)を測定した。そして、防音部材を装着した場合の騒音レベルと、モータ単体の場合の騒音レベルと、の差分値を騒音低減効果とした。マイクとしては、ブリュエル・ケアー(B&K)社製「FFTアナライザPLUSE/Reflex Core」付属のマイクを使用した。
【0050】
振動加速度の測定実験は、モータの回転速度を変えて二種類行った。いずれの実験においても、実施例の防音部材の共振周波数は、モータの回転一次成分に合うように調整されている。
[実験1]モータの回転速度190rpm
モータの1回転あたりの基本振動数50回(A)、モータの回転速度190rpm(B)を先の式(I)に代入すると、モータの回転一次成分は158Hzになる。実験1において、実施例の防音部材の周方向の共振周波数(158Hz)は、モータの回転一次成分に合っている。なお、実施例の防音部材のZ方向の共振周波数(386Hz)は、モータのY方向における共振周波数(320Hz)、および回転二次成分(316Hz)に近い。
[実験2]モータの回転速度460rpm
モータの1回転あたりの基本振動数50回(A)、モータの回転速度460rpm(B)を先の式(I)に代入すると、モータの回転一次成分は383Hzになる。実験2において、実施例の防音部材のZ方向の共振周波数(386Hz)は、モータの回転一次成分に合っている。
【0051】
図10に、実験1における実施例の防音部材の振動加速度の測定結果を示す。
図11に、実験1における比較例の防音部材の振動加速度の測定結果を示す。
図12に、実験2における実施例の防音部材の振動加速度の測定結果を示す。
図13に、実験2における比較例の防音部材の振動加速度の測定結果を示す。
図14に、騒音低減効果を棒グラフで示す。
図10~
図13のグラフにおいては、比較のため、防音部材を装着しなかったモータ単体の振動加速度の測定結果を細線で示す。
【0052】
まず、実験1の結果を説明する。
図10に示すように、実施例の防音部材を装着した場合、回転一次成分(158Hz)、回転二次成分(316Hz)、および回転四次成分(632Hz)のピークが小さくなった。また、モータのY方向における共振周波数に相当する320Hz付近のピークも大幅に小さくなった。これに対して、
図11に示すように、比較例の防音部材を装着した場合、回転一次成分(158Hz)および320Hz付近のピークは小さくなったものの、回転二次成分(316Hz)および回転四次成分(632Hz)のピークはむしろ大きくなった。
図14の棒グラフで比較すると、比較例の防音部材の騒音低減効果は-0.2dBであるのに対して、実施例の防音部材の騒音低減効果は1.5dBと大きくなった。
【0053】
次に、実験2の結果を説明する。
図12に示すように、実施例の防音部材を装着した場合、回転一次成分(383Hz)および回転二次成分(766Hz)のピークが小さくなった。これに対して、
図13に示すように、比較例の防音部材を装着した場合、回転二次成分(766Hz)のピークは小さくなったものの、回転一次成分(383Hz)のピークはむしろ大きくなった。
図14の棒グラフで比較すると、比較例の防音部材の騒音低減効果は0.4dBであるのに対して、実施例の防音部材の騒音低減効果は2.3dBと大きくなった。以上より、本発明の防音部材を使用すると、1000Hz以下の低周波数の騒音を効果的に低減できることが確認された。
【符号の説明】
【0054】
1、8:防音部材、9:モータ(回転体を備える構造体)、20:母材、21:複合粒子(磁性フィラー)、30U:上壁部、30D:下壁部、30L:左壁部、30R:右壁部、31、32、33:肉厚部(偏在部)、34:高充填部(偏在部)、90:回転軸、80:ブラケット、81:取付部、82:固定部、83:座面、820:スクリュー。