(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】偏光分析装置及び偏光分析装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
G01J 4/04 20060101AFI20221110BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
G01J4/04 Z
G01N21/64 A
(21)【出願番号】P 2018066892
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2021-02-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、先端計測分析技術・機器開発プログラム「オンサイト蛍光偏光イムノアッセイ装置の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】303018827
【氏名又は名称】Tianma Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】溝口 親明
【審査官】平田 佳規
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/174332(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/170688(WO,A1)
【文献】特開平07-020828(JP,A)
【文献】特開2005-265649(JP,A)
【文献】特開2004-212598(JP,A)
【文献】特開2007-004136(JP,A)
【文献】特開2009-139910(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0088841(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 4/00 - 4/04
G01N 21/21 - 21/23
G01N 21/62 - 21/74
G02B 5/30
G02F 1/13
G02F 1/133
G09G 3/18
G09G 3/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に励起状態を発生させる第一光を照射する光源と、
電圧が正極及び負極に振動し、第一周期で電圧の絶対値が変化する矩形波の制御情報に基づいて印加された電圧に応じて、励起状態の前記試料から発せられた第二光の特定の偏光方向の偏光を出力する偏光選択素子と、
前記偏光選択素子を通過した偏光の輝度を計測するイメージセンサと、
前記偏光選択素子及び前記イメージセンサを制御する制御装置と、を有する偏光分析装置であって、
前記制御装置は、
輝度変化が前記第一周期で振動する正弦波となる偏光を前記偏光選択素子から出力させるための前記矩形波の位相毎の基準電圧を算出し、
位相変化に伴って前記基準電圧の絶対値が大きくなる前記矩形波の部分の前記基準電圧、及び、位相変化に伴って前記基準電圧の絶対値が小さくなる前記矩形波の部分の前記基準電圧の少なくともいずれかを補正することによって補正基準電圧を算出し、
前記基準電圧及び前記補正基準電圧に基づいて、前記矩形波の制御情報を生成し、
前記矩形波の制御情報に基づいて前記偏光選択素子に電圧を印加し、
前記第一周期を四分割した時間幅の露光時間にしたがって前記イメージセンサを操作して、前記偏光選択素子から出力された偏光の輝度を計測し、
前記計測の結果に基づいて、前記試料の偏光度を算出
し、
前記補正基準電圧は、補正量が前記矩形波の位相変化に依存した階調となり、
前記基準電圧の算出では、前記制御装置は、位相pにおける前記基準電圧をV、前記位相pにおける前記偏光選択素子から出力された偏光の輝度をH(p)、第一調整パラメータをk、第二調整パラメータをnとする式(1)に基づいて前記基準電圧を算出し、
前記補正基準電圧の算出では、前記制御装置は、前記位相pを変数とする分数関数を用いて算出された補正値を前記基準電圧に加算することによって、前記補正基準電圧を算出することを特徴とする偏光分析装置。
【数1】
【請求項2】
請求項1に記載の偏光分析装置であって、
前記制御装置は、第三調整パラメータをK、第四調整パラメータをa、第五調整パラメータをb、第六調整パラメータをc、第七調整パラメータをdとする式(2)で与えられる前記分数関数を用いて前記補正値を算出することを特徴とする偏光分析装置。
【数2】
【請求項3】
請求項2に記載の偏向分析装置であって、
前記第一調整パラメータ、前記第二調整パラメータ、前記第三調整パラメータ、前記第四調整パラメータ、前記第五調整パラメータ、前記第六調整パラメータ、及び前記第七調整パラメータは、液晶粘度、温度、及び駆動周波数に応じて調整可能であることを特徴とする偏向分析装置。
【請求項4】
試料に励起状態を発生させる第一光を照射する光源と、
電圧が正極及び負極に振動し、第一周期で電圧の絶対値が変化する矩形波の制御情報に基づいて印加された電圧に応じて、励起状態の前記試料から発せられた第二光の特定の偏光方向の偏光を出力する偏光選択素子と、
前記偏光選択素子を通過した偏光の輝度を計測するイメージセンサと、
前記偏光選択素子及び前記イメージセンサを制御する制御装置と、を有する偏光分析装置であって、
前記制御装置は、
輝度変化が前記第一周期で振動する正弦波となる偏光を前記偏光選択素子から出力させるための前記矩形波の位相毎の基準電圧を算出し、
位相変化に伴って前記基準電圧の絶対値が大きくなる前記矩形波の部分の前記基準電圧、及び、位相変化に伴って前記基準電圧の絶対値が小さくなる前記矩形波の部分の前記基準電圧の少なくともいずれかを補正することによって補正基準電圧を算出し、
前記基準電圧及び前記補正基準電圧に基づいて、前記矩形波の制御情報を生成し、
前記矩形波の制御情報に基づいて前記偏光選択素子に電圧を印加し、
前記第一周期を四分割した時間幅の露光時間にしたがって前記イメージセンサを操作して、前記偏光選択素子から出力された偏光の輝度を計測し、
前記計測の結果に基づいて、前記試料の偏光度を算出し、
前記補正基準電圧は、補正量が前記矩形波の位相変化に依存した階調となり、また、前記位相変化に伴って前記基準電圧の絶対値が大きくなる矩形波の部分の始端から終端に向けて前記補正量が小さくなり、
前記補正基準電圧の算出では、前記制御装置は、位相pにおける前記基準電圧をV、前記位相pにおける前記補正基準電圧をV’、第八調整パラメータをGとする式(3)に基づいて前記補正基準電圧を算出し、
前記第八調整パラメータは式(4)を満たすことを特徴とする偏光分析装置。
【数3】
【数4】
【請求項5】
請求項4に記載の偏向分析装置であって、
前記第八調整パラメータは、液晶粘度、温度、及び駆動周波数に応じて調整可能であることを特徴とする偏向分析装置。
【請求項6】
試料に励起状態を発生させる第一光を照射する光源と、
電圧が正極及び負極に振動し、第一周期で電圧の絶対値が変化する矩形波の制御情報に基づいて印加された電圧に応じて、励起状態の前記試料から発せられた第二光の特定の偏光方向の偏光を出力する偏光選択素子と、
前記偏光選択素子を通過した偏光の輝度を計測するイメージセンサと、
前記偏光選択素子及び前記イメージセンサを制御する制御装置と、を有する偏光分析装置であって、
前記制御装置は、
輝度変化が前記第一周期で振動する正弦波となる偏光を前記偏光選択素子から出力させるための前記矩形波の位相毎の基準電圧を算出し、
位相変化に伴って前記基準電圧の絶対値が大きくなる前記矩形波の部分の前記基準電圧、及び、位相変化に伴って前記基準電圧の絶対値が小さくなる前記矩形波の部分の前記基準電圧の少なくともいずれかを補正することによって補正基準電圧を算出し、
前記基準電圧及び前記補正基準電圧に基づいて、前記矩形波の制御情報を生成し、
前記矩形波の制御情報に基づいて前記偏光選択素子に電圧を印加し、
前記第一周期を四分割した時間幅の露光時間にしたがって前記イメージセンサを操作して、前記偏光選択素子から出力された偏光の輝度を計測し、
前記計測の結果に基づいて、前記試料の偏光度を算出し、
前記補正基準電圧は、補正量が前記矩形波の位相変化に依存した階調となり、また、前記位相変化に伴って前記基準電圧の絶対値が大きくなる矩形波の部分の始端から終端に向けて前記補正量が小さくなり、
前記補正基準電圧の算出では、前記制御装置は、位相pにおける前記基準電圧をV、前記位相pにおける前記補正基準電圧をV’、第九調整パラメータをqとする式(5)に基づいて前記補正基準電圧を算出し、
前記第九調整パラメータは式(6)を満たすことを特徴とする偏光分析装置。
【数5】
【数6】
【請求項7】
請求項6に記載の偏光分析装置であって、
前記第九調整パラメータは式(7)を満たすことを特徴とする偏光分析装置。
【数7】
【請求項8】
請求項7に記載の偏向分析装置であって、
前記第九調整パラメータは、液晶粘度、温度、及び駆動周波数に応じて調整可能であることを特徴とする偏向分析装置。
【請求項9】
試料から発せられた偏光を分析する偏光分析装置の制御方法であって、
前記偏光分析装置は、
前記試料に励起状態を発生させる第一光を照射する光源と、
電圧が正極及び負極に振動し、第一周期で電圧の絶対値が変化する矩形波の制御情報に基づいて印加された電圧に応じて、励起状態の前記試料から発せられた第二光の特定の偏光方向の偏光を出力する偏光選択素子と、
前記偏光選択素子を通過した偏光の輝度を計測するイメージセンサと、
前記偏光選択素子及び前記イメージセンサを制御する制御装置と、を有し、
前記偏光分析装置の制御方法は、
前記制御装置が、輝度変化が前記第一周期で振動する正弦波となる偏光を前記偏光選択素子から出力させるための前記矩形波の位相毎の基準電圧を算出する第1のステップと、
前記制御装置が、位相変化に伴って前記基準電圧の絶対値が大きくなる前記矩形波の部分の前記基準電圧、及び、位相変化に伴って前記基準電圧の絶対値が小さくなる前記矩形波の部分の前記基準電圧の少なくともいずれかを補正することによって補正基準電圧を算出する第2のステップと、
前記制御装置が、前記基準電圧及び前記補正基準電圧に基づいて、前記矩形波の制御情報を生成する第3のステップと、
前記制御装置が、前記矩形波の制御情報に基づいて前記偏光選択素子に電圧を印加する第4のステップと、
前記制御装置が、前記第一周期を四分割した時間幅の露光時間にしたがって前記イメージセンサを操作して、前記偏光選択素子から出力された偏光の輝度を計測する第5のステップと、
前記制御装置が、前記計測の結果に基づいて、前記試料の偏光度を算出する第6のステップと、を含
み、
前記補正基準電圧は、補正量が前記矩形波の位相変化に依存した階調となり、
前記第1のステップでは、前記制御装置が、位相pにおける前記基準電圧をV、前記位相pにおける前記偏光選択素子から出力された偏光の輝度をH(p)、第一調整パラメータをk、第二調整パラメータをnとする式(8)に基づいて前記基準電圧を算出し、
前記第2のステップでは、前記制御装置が、前記位相pを変数とする分数関数を用いて算出された補正値を前記基準電圧に加算することによって、前記補正基準電圧を算出することを特徴とする偏光分析装置の制御方法。
【数8】
【請求項10】
請求項9に記載の偏光分析装置の制御方法であって、
前記第2のステップでは、前記制御装置が、第三調整パラメータをK、第四調整パラメータをa、第五調整パラメータをb、第六調整パラメータをc、第七調整パラメータをdとする式(9)で与えられる前記分数関数を用いて前記補正値を算出することを特徴とする偏光分析装置の制御方法。
【数9】
【請求項11】
請求項10に記載の偏向分析装置の制御方法であって、
前記第一調整パラメータ、前記第二調整パラメータ、前記第三調整パラメータ、前記第四調整パラメータ、前記第五調整パラメータ、前記第六調整パラメータ、及び前記第七調整パラメータは、液晶粘度、温度、及び駆動周波数に応じて調整可能であることを特徴とする偏向分析装置の制御方法。
【請求項12】
試料から発せられた偏光を分析する偏光分析装置の制御方法であって、
前記偏光分析装置は、
前記試料に励起状態を発生させる第一光を照射する光源と、
電圧が正極及び負極に振動し、第一周期で電圧の絶対値が変化する矩形波の制御情報に基づいて印加された電圧に応じて、励起状態の前記試料から発せられた第二光の特定の偏光方向の偏光を出力する偏光選択素子と、
前記偏光選択素子を通過した偏光の輝度を計測するイメージセンサと、
前記偏光選択素子及び前記イメージセンサを制御する制御装置と、を有し、
前記偏光分析装置の制御方法は、
前記制御装置が、輝度変化が前記第一周期で振動する正弦波となる偏光を前記偏光選択素子から出力させるための前記矩形波の位相毎の基準電圧を算出する第1のステップと、
前記制御装置が、位相変化に伴って前記基準電圧の絶対値が大きくなる前記矩形波の部分の前記基準電圧、及び、位相変化に伴って前記基準電圧の絶対値が小さくなる前記矩形波の部分の前記基準電圧の少なくともいずれかを補正することによって補正基準電圧を算出する第2のステップと、
前記制御装置が、前記基準電圧及び前記補正基準電圧に基づいて、前記矩形波の制御情報を生成する第3のステップと、
前記制御装置が、前記矩形波の制御情報に基づいて前記偏光選択素子に電圧を印加する第4のステップと、
前記制御装置が、前記第一周期を四分割した時間幅の露光時間にしたがって前記イメージセンサを操作して、前記偏光選択素子から出力された偏光の輝度を計測する第5のステップと、
前記制御装置が、前記計測の結果に基づいて、前記試料の偏光度を算出する第6のステップと、を含み、
前記補正基準電圧は、補正量が前記矩形波の位相変化に依存した階調となり、また、前記位相変化に伴って前記基準電圧の絶対値が大きくなる矩形波の部分の始端から終端に向けて前記補正量が小さくなり、
前記第2のステップでは、前記制御装置が、位相pにおける前記基準電圧をV、前記位相pにおける前記補正基準電圧をV’、第八調整パラメータをGとする式(10)に基づいて前記補正基準電圧を算出し、
前記第八調整パラメータは式(11)を満たすことを特徴とする偏光分析装置の制御方法。
【数10】
【数11】
【請求項13】
請求項12に記載の偏向分析装置の制御方法であって、
前記第八調整パラメータは、液晶粘度、温度、及び駆動周波数に応じて調整可能であることを特徴とする偏向分析装置の制御方法。
【請求項14】
試料から発せられた偏光を分析する偏光分析装置の制御方法であって、
前記偏光分析装置は、
前記試料に励起状態を発生させる第一光を照射する光源と、
電圧が正極及び負極に振動し、第一周期で電圧の絶対値が変化する矩形波の制御情報に基づいて印加された電圧に応じて、励起状態の前記試料から発せられた第二光の特定の偏光方向の偏光を出力する偏光選択素子と、
前記偏光選択素子を通過した偏光の輝度を計測するイメージセンサと、
前記偏光選択素子及び前記イメージセンサを制御する制御装置と、を有し、
前記偏光分析装置の制御方法は、
前記制御装置が、輝度変化が前記第一周期で振動する正弦波となる偏光を前記偏光選択素子から出力させるための前記矩形波の位相毎の基準電圧を算出する第1のステップと、
前記制御装置が、位相変化に伴って前記基準電圧の絶対値が大きくなる前記矩形波の部分の前記基準電圧、及び、位相変化に伴って前記基準電圧の絶対値が小さくなる前記矩形波の部分の前記基準電圧の少なくともいずれかを補正することによって補正基準電圧を算出する第2のステップと、
前記制御装置が、前記基準電圧及び前記補正基準電圧に基づいて、前記矩形波の制御情報を生成する第3のステップと、
前記制御装置が、前記矩形波の制御情報に基づいて前記偏光選択素子に電圧を印加する第4のステップと、
前記制御装置が、前記第一周期を四分割した時間幅の露光時間にしたがって前記イメージセンサを操作して、前記偏光選択素子から出力された偏光の輝度を計測する第5のステップと、
前記制御装置が、前記計測の結果に基づいて、前記試料の偏光度を算出する第6のステップと、を含み、
前記補正基準電圧は、補正量が前記矩形波の位相変化に依存した階調となり、また、前記位相変化に伴って前記基準電圧の絶対値が大きくなる矩形波の部分の始端から終端に向けて前記補正量が小さくなり、
前記第2のステップでは、前記制御装置が、位相pにおける前記基準電圧をV、前記位相pにおける前記補正基準電圧をV’、第九調整パラメータをqとする式(12)に基づいて前記補正基準電圧を算出し、
前記第九調整パラメータは式(13)を満たすことを特徴とする偏光分析装置の制御方法。
【数12】
【数13】
【請求項15】
請求項14に記載の偏光分析装置の制御方法であって、
前記第九調整パラメータは式(14)を満たすことを特徴とする偏光分析装置の制御方法。
【数14】
【請求項16】
請求項15に記載の偏向分析装置の制御方法であって、
前記第九調整パラメータは、液晶粘度、温度、及び駆動周波数に応じて調整可能であることを特徴とする偏向分析装置の制御方法。
【請求項17】
試料に励起状態を発生させる第一光を照射する光源と、
電圧が正極及び負極に振動し、第一周期で電圧の絶対値が変化する矩形波の制御情報に基づいて印加された電圧に応じて、励起状態の前記試料から発せられた第二光の特定の偏光方向の偏光を出力する偏光選択素子と、
前記偏光選択素子を通過した偏光の輝度を計測するイメージセンサと、
前記偏光選択素子及び前記イメージセンサを制御する制御装置と、を有する偏光分析装置であって、
前記制御装置は、
輝度変化が前記第一周期で振動する正弦波となる偏光を前記偏光選択素子から出力させるための前記矩形波の位相毎の基準電圧を算出し、
位相変化に伴って前記基準電圧の絶対値が大きくなる前記矩形波の部分の前記基準電圧、及び、位相変化に伴って前記基準電圧の絶対値が小さくなる前記矩形波の部分の前記基準電圧を補正することによって補正基準電圧を算出し、
前記基準電圧及び前記補正基準電圧に基づいて、前記矩形波の制御情報を生成し、
前記矩形波の制御情報に基づいて前記偏光選択素子に電圧を印加し、
前記第一周期を四分割した時間幅の露光時間にしたがって前記イメージセンサを操作して、前記偏光選択素子から出力された偏光の輝度を計測し、
前記計測の結果に基づいて、前記試料の偏光度を算出することを特徴とする偏光分析装置。
【請求項18】
試料から発せられた偏光を分析する偏光分析装置の制御方法であって、
前記偏光分析装置は、
前記試料に励起状態を発生させる第一光を照射する光源と、
電圧が正極及び負極に振動し、第一周期で電圧の絶対値が変化する矩形波の制御情報に基づいて印加された電圧に応じて、励起状態の前記試料から発せられた第二光の特定の偏光方向の偏光を出力する偏光選択素子と、
前記偏光選択素子を通過した偏光の輝度を計測するイメージセンサと、
前記偏光選択素子及び前記イメージセンサを制御する制御装置と、を有し、
前記偏光分析装置の制御方法は、
前記制御装置が、輝度変化が前記第一周期で振動する正弦波となる偏光を前記偏光選択素子から出力させるための前記矩形波の位相毎の基準電圧を算出するステップと、
前記制御装置が、位相変化に伴って前記基準電圧の絶対値が大きくなる前記矩形波の部分の前記基準電圧、及び、位相変化に伴って前記基準電圧の絶対値が小さくなる前記矩形波の部分の前記基準電圧を補正することによって補正基準電圧を算出するステップと、
前記制御装置が、前記基準電圧及び前記補正基準電圧に基づいて、前記矩形波の制御情報を生成するステップと、
前記制御装置が、前記矩形波の制御情報に基づいて前記偏光選択素子に電圧を印加するステップと、
前記制御装置が、前記第一周期を四分割した時間幅の露光時間にしたがって前記イメージセンサを操作して、前記偏光選択素子から出力された偏光の輝度を計測するステップと、
前記制御装置が、前記計測の結果に基づいて、前記試料の偏光度を算出するステップと、を含むことを特徴とする偏光分析装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、蛍光偏光免疫測定法等に利用できる偏光分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光偏光免疫測定法等に利用される偏光分析装置は、まず、レーザ等の光源から試料に光を照射する。偏光分析装置は、試料から発せられた入射光(励起光)の偏光方向と平行な偏光成分I||と、入射光(励起光)の偏光方向と垂直な偏光成分I⊥とを計測し、二つの偏光成分を用いて偏光度を算出する。偏光度に基づいて液体の粘度等を見積もることができる。
【0003】
特許文献1には多点を同時に計測できる偏光分析装置が記載されている。特許文献1の偏光分析装置は、駆動信号に基づいて電圧を印加することによって、試料から発せられた測定光の特定方向の偏光を選択する偏光選択素子を有する。また、特許文献1の偏光分析装置は、偏光選択素子によって選択された偏光を受光するイメージセンサを有する。
【0004】
駆動信号が周期T1の正弦波信号である場合、
図10に示すように、正弦波形状の輝度変化となる偏光がイメージセンサに入射される。なお、
図10に示すグラフの横軸は時間を表し、縦軸は偏光選択素子を通過する測定光の輝度の大きさを表す。イメージセンサからは、
図11に示すような輝度データI
1、I
2、I
3、I
4が出力される。なお、
図11に示すグラフの横軸は時間を表し、縦軸は露光時間に計測された輝度の積分値を表す。
【0005】
ここで、偏光選択素子の平面にX軸及びY軸を設定し、X軸に平行な方向の偏光の輝度をI||とし、Y軸に平行な偏光の輝度をI⊥とする。特許文献1には、イメージセンサ及び偏光選択素子の位相関係を高い精度で制御でき、かつ、偏光が特定の条件を満たす場合、偏光度Pは式(1)から算出できることが記載されている。
【0006】
【0007】
また、特許文献1には、位相関係が制御できない状況でも、正弦波信号が駆動信号として入力された場合、偏光度Pは、位相関係によらずに、式(2)から算出できることが記載されている。ここで、AC値及びDC値はそれぞれ式(3)及び式(4)から算出できる。
【0008】
【0009】
【0010】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1には、液晶パネル及び偏光板から構成される偏光選択素子を用いることが記載されている。液晶パネルに、駆動信号として正弦波信号を入力した場合、液晶パネルは印加電圧に対する輝度変化がリニアでなく、さらに正極性及び負極性の違いによって偏光の輝度変化は正弦波とならない。そのため、偏光度の算出精度が低下するという課題が生じる。
【0013】
前述の課題に対しては、電圧が正極及び負極に振動し、かつ、液晶パネルの電圧輝度特性に基づいた変調により電圧の絶対値が変化する矩形波を駆動信号とすることによって極性差を解消しつつ偏光の輝度変化を正弦波形にできる。なお、電圧の絶対値の変化周期はT1である。
【0014】
しかし、前述のような矩形波を駆動信号として入力した場合でも液晶パネルの応答性に起因して、偏光選択素子を通過する偏光の出力は理想的な正弦波の形状にならない可能性がある。
【0015】
本開示は、偏光度の算出精度を高めた偏光分析装置及び偏光分析装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の代表的な一例を示せば以下の通りである。試料に励起状態を発生させる第一光を照射する光源と、電圧が正極及び負極に振動し、第一周期で電圧の絶対値が変化する矩形波の制御情報に基づいて印加された電圧に応じて、励起状態の前記試料から発せられた第二光の特定の偏光方向の偏光を出力する偏光選択素子と、前記偏光選択素子を通過した偏光の輝度を計測するイメージセンサと、前記偏光選択素子及び前記イメージセンサを制御する制御装置と、を有する偏光分析装置であって、前記制御装置は、輝度変化が前記第一周期で振動する正弦波となる偏光を前記偏光選択素子から出力させるための前記矩形波の位相毎の基準電圧を算出し、位相変化に伴って前記基準電圧の絶対値が大きくなる前記矩形波の部分の前記基準電圧、及び、位相変化に伴って前記基準電圧の絶対値が小さくなる前記矩形波の部分の前記基準電圧の少なくともいずれかを補正することによって補正基準電圧を算出し、前記基準電圧及び前記補正基準電圧に基づいて、前記矩形波の制御情報を生成し、前記矩形波の制御情報に基づいて前記偏光選択素子に電圧を印加し、前記第一周期を四分割した時間幅の露光時間にしたがって前記イメージセンサを操作して、前記偏光選択素子から出力された偏光の輝度を計測し、前記計測の結果に基づいて、前記試料の偏光度を算出
し、前記補正基準電圧は、補正量が前記矩形波の位相変化に依存した階調となり、前記基準電圧の算出では、前記制御装置は、位相pにおける前記基準電圧をV、前記位相pにおける前記偏光選択素子から出力された偏光の輝度をH(p)、第一調整パラメータをk、第二調整パラメータをnとする式(5)に基づいて前記基準電圧を算出し、前記補正基準電圧の算出では、前記制御装置は、前記位相pを変数とする分数関数を用いて算出された補正値を前記基準電圧に加算することによって、前記補正基準電圧を算出する。
【数5】
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、偏光分析装置は、絶対値が大きくなる部分及び絶対値が小さくなる部分のいずれかの電圧を補正した矩形波に基づいて印加する電圧を制御することによって偏光度の算出精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本開示の偏光分析装置の構成例を示す図である。
【
図2】本開示の偏光選択素子に補正を行っていない駆動信号を入力した場合の偏光の輝度変化を示すグラフである。
【
図3】本開示の偏光選択素子に補正を行った駆動信号を入力した場合の偏光の輝度変化を示すグラフである。
【
図4】本開示の矩形信号の位相及び補正値との間の関係を示す図である。
【
図5】本開示の矩形信号の補正方法と補正結果との関係を示すグラフである。
【
図6】本開示の偏光選択素子にHill関数を用いてフィッティングした駆動信号を入力した場合の偏光の輝度変化を示すグラフである。
【
図7】本開示の分数関数の特性を示すグラフである。
【
図8】本開示の偏光選択素子に補正を行った駆動信号を入力した場合の偏光の出力を示すグラフである。
【
図9】本開示の偏光選択素子に補正を行った駆動信号を入力した場合の偏光の出力を示すグラフである。
【
図10】従来技術の偏光の輝度変化を示すグラフである。
【
図11】従来技術の偏光の輝度データを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施例を、図面を用いて説明する。ただし、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
【0020】
以下に説明する発明の構成において、同一又は類似する構成又は機能には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0021】
[第1の実施形態]
第1の実施形態では本開示の矩形信号の代表的な補正方法について説明する。
【0022】
図1は、本開示の偏光分析装置の構成例を示す図である。
図2は、本開示の偏光選択素子に補正を行っていない矩形波の電圧を印加した場合の偏光の出力を示すグラフである。
図2に示すグラフの左側の縦軸は電圧を表し、右側の縦軸は輝度を表し、横軸は時間を表す。
【0023】
本開示の偏光分析装置10は、光源110、偏光選択素子120、イメージセンサ130、及び制御装置140から構成される。なお、試料11及び偏光選択素子120の間に、対物レンズ等の光学系を設けてもよい。
【0024】
光源110は、測定対象の試料11を励起させるための光を照射する。光源110は、例えば、レーザ等である。光源110が照射する光は、試料11の種別及び状態に基づいて選択される。
【0025】
試料11は、蛍光物質を含み、光源110から照射された光によって励起し、発光する。試料11の発光により出射される測定光の偏光方向は、試料11の温度及び粘度、並びに、試料11に含まれる特定の物質の量及び種類に応じて変化する。本開示では、I||がI⊥より大きい測定光が試料11から定常的に出射されているものとする。
【0026】
偏光選択素子120は、駆動信号に基づいて印加された電圧にしたがって駆動し、試料11から出射された測定光から特定の偏光方向の測定光のみを出力する。偏光選択素子120は、試料11及びイメージセンサ130の間に設けられる。偏光選択素子120は、透過型の液晶パネル及び一枚の偏光板から構成される。本開示では、液晶パネルはTN型の液晶パネルとする。
【0027】
なお、
図1に示すように、本開示では、偏光選択素子120の平面にX軸及びY軸を設定し、XY平面に直交し、かつ、測定光の進行方向にZ軸を設定している。
【0028】
イメージセンサ130は、CCDセンサ、CMOSセンサ、及びフォトダイオードアレイ等の複数の受光素子を含むセンサである。イメージセンサ130は、予め設定された露光時間に基づいて偏光選択素子120から出力された測定光の輝度に関する計測を行い、計測結果を輝度データとして出力する。イメージセンサ130からは
図11に示すような輝度データが得られる。
【0029】
制御装置140は、駆動信号に基づいて偏光選択素子120に電圧を印加し、また、イメージセンサ130の露光時間を制御する。制御装置140は、例えば、プロセッサ及びメモリを有する計算機、駆動信号に基づいて偏光選択素子120に電圧を供給する電源、並びに、イメージセンサ130の露出時間を制御するファンクションジェネレータを含む。制御装置140は駆動信号及び露光時間の位相関係が一定になるように制御する。
【0030】
ここで、駆動信号及び露光時間の関係について説明する。
【0031】
制御装置140は、
図10に示すような輝度変化が正弦波となる測定光の出力を得るための駆動信号の制御情報を生成し、駆動信号の制御情報に基づいて偏光選択素子120に電圧を印加する。ここで、駆動信号は周期T1で振動する。駆動信号の周期は測定光の出力(輝度変化)の周期と同期する。制御装置140は、周期T1を四つに分割し、それぞれの時間T2_1、T2_2、T2_3、T2_4を、イメージセンサ130の露光時間として設定する。制御装置140は、イメージセンサ130から輝度データを取得し、当該輝度を式(1)又は式(2)に代入することによって偏光度を算出する。
【0032】
偏光選択素子120を通過する測定光の輝度変化の位相と、測定光の受光タイミング(位相)とが一定の関係を保つ場合、偏光度Pは式(1)を用いて算出できる。また、偏光選択素子120を通過する測定光の位相と、測定光の受光タイミング(位相)とが一定の関係を保っていない場合、偏光度Pは式(2)を用いて算出できる。
【0033】
ここで、駆動信号及び偏光選択素子120を通過する測定光の関係について説明する。
【0034】
信号200に示すような、輝度変化が正弦波となる測定光の出力を得るために、
図2に示すような矩形波210を駆動信号として用いることを考える。矩形波210は、電圧が正極及び負極に振動し、かつ、一定の周期で電圧の絶対値が変化する信号である。電圧の絶対値の変化の周期はT1である。本開示では、矩形波を矩形信号とも記載する。
【0035】
本開示では、範囲230に含まれる矩形信号210を一周期分の矩形信号210として扱う。このとき、範囲230の左端が位相「0」となり、右端が「2π」となる。また、矩形信号210の正極及び負極の振動周期(パルス幅)は周期T1より小さいものとする。
【0036】
液晶パネルを通過する測定光の輝度変化の形状は、電圧の変化に対する液晶パネルの応答の遅延によって信号220のようになる。
図2に示すように、信号200及び信号220との間にはズレが生じる。前述のズレは、位相の変化に伴って電圧の絶対値が大きくなる矩形信号210の部分で顕著になる。本開示では、位相の変化に伴って電圧の絶対値が大きくなる矩形信号210の部分を、矩形信号210の立ち上がり部分と記載し、位相の変化に伴って電圧の絶対値が小さくなる矩形信号210の部分を、矩形信号210の立ち下がり部分と記載する。
【0037】
前述のズレの発生によって、偏光度Pの算出精度が低下する。なぜならば、式(2)の前提条件を満たさないためである。なお、本開示では、矩形信号210の立ち上がり部分の位相はπから2πとなる。
【0038】
そこで、本開示の制御装置140は、前述のズレを解消するために、矩形信号210を補正し、補正された矩形信号に基づいて偏光選択素子120に電圧を印加する。
【0039】
次に、制御装置140が補正された矩形信号を算出するために実行する処理について説明する。
【0040】
(処理1)制御装置140は、偏光選択素子120として用いる液晶パネルの印加電圧と透過率の関係(VT特性)をシグモイド曲線にフィッティングして、さらに、輝度を変数とする電圧を表す逆関数を算出する。本開示では、電圧をx及び輝度をyとし、また、輝度yを表す関数をF(x)とし、その逆関数をG(y)とする。
【0041】
本開示の制御装置140は、式(6)に示すBoltzmann関数を用いてフィッティングを行って、式(7)のような逆関数を算出する。ここで、A1、A2、x0は調整可能なパラメータである。
【0042】
【0043】
【0044】
(処理2)制御装置140は、
図10に示す測定光の出力モデルH(p)における位相pの輝度yを逆関数G(y)に代入して、電圧xを算出する。本開示では、測定光の出力モデルH(p)は
式(8)で与えられる。制御装置140は、輝度H(p)を
式(7)の変数yに代入して、輝度H(p)を実現するための矩形信号210の位相pにおける電圧を算出する。本開示では、矩形信号210の振幅に対応する電圧を基準電圧とも記載する。制御装置140は各位相について同様の処理を実行する。制御装置140は、算出された基準電圧及び矩形信号の振動周期から構成される情報を、駆動信号の制御情報として保持する。なお、矩形信号の振動周期は予め設定されているものとする。
【0045】
【0046】
(処理3)制御装置140は、矩形信号210の立ち上がり部分の基準電圧を補正した第一補正基準電圧を算出する。第1の実施形態では、基準電圧に予め設定された固定値を追加した値が第一補正基準電圧として算出されるものとする。固定値は、例えば、「+0.4V」である。
【0047】
(処理4)制御装置140は、第一補正基準電圧の算出結果に基づいて駆動信号の制御情報を更新する。
【0048】
制御装置140は、以上の処理によって生成された駆動信号の制御情報に基づいて、偏光選択素子120に電圧を印加する。
図3は、本開示の偏光選択素子に補正を行った矩形波の電圧を印加した場合の偏光の輝度変化を示すグラフである。
【0049】
矩形信号210の立ち上がり部分の基準電圧が補正された矩形信号250にしたがって電圧が偏光選択素子120に印加された場合、偏光選択素子120を通過する測定光の輝度変化は信号260のようなグラフになる。
図3に示すように、信号200及び信号260の間のズレは、信号200及び信号220の間のズレより小さくなっている。
【0050】
以上で説明したように、第1の実施形態によれば、制御装置140が矩形信号210の立ち上がり部分の基準電圧を補正した矩形信号に基づいて印加する電圧を制御することによって、偏光選択素子120を通過する測定光の輝度変化が理想的な正弦波となる。これによって、偏光度の算出精度を向上できる。
【0051】
[第2の実施形態]
第1の実施形態では、矩形信号210の立ち上がり部分に対してのみ補正が行われていた。第2の実施形態では、矩形信号210の立ち下がり部分に対しても補正を行う。以下、第1の実施形態との差異を中心に、第2の実施形態を説明する。
【0052】
第2の実施形態の偏光分析装置10の構成は、第1の実施形態と同一であるため省略する。
【0053】
第2の実施形態では、(処理3)において、制御装置140は、第一補正基準電圧とともに、矩形信号210の立ち下がり部分の基準電圧を補正した第二補正基準電圧を算出する。第2の実施形態では、基準電圧に予め設定された固定値を追加した値が第二補正基準電圧として算出されるものとする。固定値は、例えば、「-0.2V」である。
【0054】
第2の実施形態によれば、矩形信号210の立ち上がり部分及び立ち下がり部分のそれぞれに対して異なった補正を行うことによって、偏光選択素子120を通過する測定光の輝度変化をより理想的な正弦波に近づけることができる。
【0055】
[第3の実施形態]
第1の実施形態では、制御装置140は、矩形信号210の立ち上がり部分の基準電圧を一律に補正していた。一律に基準電圧を補正した場合、
図3の範囲300に示すようにオーバーシュートが発生する。第3の実施形態では、制御装置140は、オーバーシュートの発生を抑制するように、矩形信号210の立ち上がり部分の基準電圧を補正する。以下、第1の実施形態との差異を中心に、第3の実施形態を説明する。
【0056】
第3の実施形態の偏光分析装置10の構成は、第1の実施形態と同一であるため省略する。
【0057】
第3の実施形態では、制御装置140は、補正量が矩形信号210の位相変化に依存した階調となる第一補正基準電圧を算出する。具体的には、制御装置140は、矩形信号210の立ち上がり部分の始端の補正量が最大となり、当該部分の終端の方向に段階的に補正量が小さくなるように基準電圧を補正する。すなわち、位相の増加(位相の変化)に伴って補正量が小さくなるように基準電圧の補正が行われる。
【0058】
図4は、本開示の矩形信号210の位相及び補正値との間の関係を示す図である。
図5は、本開示の矩形信号の補正方法と補正結果との関係を示すグラフである。
図4の縦軸は電圧を表し、横軸は位相を表す。また、
図5の左側の縦軸は電圧を表し、右側の縦軸は輝度を表し、横軸は時間を表す。
【0059】
第3の実施形態では、五つの補正方法を適用した。「+0.4補正」は、第1の実施形態で示した矩形信号210の補正方法である。
【0060】
「expG補正」は、式(9)に示す式に基づいて第一補正基準電圧を算出する補正方法である。Gは補正に使用するパラメータを表す。ここで、pは位相、Vは位相pにおける矩形信号210の基準電圧、V’は位相pの補正後の基準電圧(第一補正基準電圧)を表す。したがって、「exp0.5補正」の場合、式(9)のGが「0.5」である式に基づいて、矩形信号210の立ち上がり部分の基準電圧が補正される。
【0061】
【0062】
なお、「exp0.3’補正」は、「exp0.3補正」と同じ数式を用いた補正方法であって、0.9πの第一補正基準電圧が0.8πの第一補正基準電圧と同等となるように補正する補正方法である。
【0063】
「q乗補正」は、式(10)に示す式に基づいて第一補正基準電圧を算出する補正方法である。qは補正に使用するパラメータを表す。
【0064】
【0065】
図5に示すように、「expG補正」では、Gが0.3以下の場合にオーバーシュートが改善することが分かった。また、「q乗補正」では、qが2より大きく10より小さい範囲で検証を行った結果、特にqが3.5の場合にオーバーシュートの改善効果が高いことが分かった。
【0066】
第3の実施形態によれば、基準電圧に対する補正量が矩形信号210の位相変化に依存した階調となるように矩形信号210の立ち上がり部分の基準電圧を補正することによって、オーバーシュートの発生を抑止できる。したがって、一律に補正を行う場合より、偏光選択素子120を通過する測定光の起動変化をより正弦波に近づけることができる。
【0067】
[第4の実施形態]
第4の実施形態では、フィッティングに使用する関数及び補正基準電圧(第一補正基準電圧及び第二補正基準電圧)の算出方法が第1の実施形態と異なる。以下、第1の実施形態との差異を中心に、第4の実施形態を説明する。
【0068】
第4の実施形態の偏光分析装置10の構成は、第1の実施形態と同一であるため省略する。
【0069】
第4の実施形態では、(処理1)で用いる関数が異なる。具体的には、本開示の制御装置140は、式(11)に示すHill関数を用いてフィッティングを行い、式(12)に示すような逆関数を算出する。ここで、k及びnは調整可能なパラメータである。
【0070】
【0071】
【0072】
(処理2)は第1の実施形態と同一である。具体的には、制御装置140は、
図10に示す測定光の出力モデルH(p)を
式(12)の変数yに代入して、輝度H(p)を実現するための矩形信号210の位相pにおける基準電圧を算出する。
【0073】
Hill関数を用いてフィッティングを行った場合、電圧の絶対値が最大となる周辺を示す
図6の範囲600の信号200及び信号261の間のズレは、Boltzmann関数を用いてフィッティングしたものより小さくなる。一方、矩形信号251の電圧の絶対値が最小となる周辺部分には大きなズレが発生しているため、当該ズレを解消するために基準電圧に補正値を加える。
【0074】
Hill関数を用いてフィッティングを行った場合、電圧の絶対値が最大となる周辺を示す
図6の範囲600の信号200及び信号261の間の対称なズレは、式11におけるパラメータkやnの調節によって改善が可能である。一方、矩形信号251の電圧の絶対値が最小となる周辺部分には非対称な大きなズレが発生しているため、当該ズレを解消するために基準電圧に補正値を加える。
【0075】
(処理3)では、制御装置140は、位相pを変数とする分数関数を用いて、矩形信号251の立ち上がり部分及び立ち下がり部分の基準電圧に追加する補正値を算出する。第4の実施形態では、式(13)に示すような分数関数を用いて基準電圧に追加する補正値が算出される。ここで、K、a、b、c、dは調整可能なパラメータである。
【0076】
【0077】
図7に分数関数の一例を示す。縦軸は補正値を表し、横軸は変数yの値を表す。
図7に示すように、補正値はy=0の近傍で急激に変化し、また、横軸の無限遠では0に収束するという特性を有する。
【0078】
パラメータの値としては、a、c、dを「1」、bを「10」、Kを「5」にすることが考えられる。
【0079】
矩形信号251の立ち上がり部分でのズレを解消するためには、印加する電圧が素早く上昇するように補正すればよく、矩形信号251の立ち下がり部分でのズレを解消するためには、印加する電圧が素早く下降するように補正すればよい。そこで、制御装置140は、
図7に示すような特性を有する分数関数から算出された補正値を基準電圧に加えることによって補正基準電圧を算出する。
【0080】
本開示では、式(13)の変数yには位相pを代入する。なお、変数yには位相pに任意の位相θを加えた値が代入されてもよい。θは調整可能なパラメータである。
【0081】
図8は、本開示の偏光選択素子に補正を行った駆動信号を入力した場合の偏光の出力を示すグラフである。
【0082】
図8に示すように、矩形信号252の電圧の絶対値が最小となる部分の周辺は、分数関数の特性を示す形状となっている。
図8に示すような矩形波252に基づいて電圧が印加された場合、信号200及び信号262の間のズレは、信号200及び信号261の間のズレより小さくなる。
【0083】
第4の実施形態によれば、Hill関数を用いたフィッティング及び分数関数を用いた補正によって、効率的かつ簡便に偏光選択素子120を通過する測定光の輝度変化が理想的な正弦波となるように制御できる。
【0084】
[第5の実施形態]
第5の実施形態では、FFS(Fringe Field Switching)方式の液晶パネルを用いる点が、第1の実施形態と異なる。以下、第1の実施形態との差異を中心に、第5の実施形態を説明する。
【0085】
図9は、本開示の偏光選択素子に補正を行っていない矩形波に対応する電圧を印加した場合の偏光の出力を示すグラフである。
図9に示すグラフの左側の縦軸は電圧を表し、右側の縦軸は輝度を表し、横軸は時間を表す。
【0086】
図9に示すように、FFS方式の液晶パネルの場合もTN方式の液晶パネルと同様に、偏光選択素子120を通過する測定光の輝度変化と理想的な正弦波との間にズレが生じる。
【0087】
そこで、制御装置140は、第1の実施形態でから第4の実施形態で説明した補正方法を行って、前述のズレを解消する。なお、使用する数式及びパラメータは液晶パネルの特性等に合わせて適宜変更される。
【0088】
なお、FFS方式の液晶パネルの場合、本開示の偏光選択素子に補正を行っていない矩形波に対応する電圧を印加した場合の偏光の輝度変化はほぼ正弦波であるため、制御装置140は位相のズレを補正してもよい。
【0089】
第5の実施形態によれば、FFS方式の液晶パネルでも第1の実施形態、第2の実施形態、第3の実施形態、及び第4の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0090】
本開示で例示した数式に含まれるパラメータは、液晶粘度、温度、駆動周波数等に応じて適宜変更することができる。
【0091】
以上、本願の実施形態を説明したが、本願が上記の実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、上記の実施形態の各要素を、本願の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能である。ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。
【符号の説明】
【0092】
10 偏光分析装置
11 試料
110 光源
120 偏光選択素子
130 イメージセンサ
140 制御装置