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特許7174572柑橘類エキスの製造方法、柑橘類エキスの褐変を抑制する方法及び柑橘類エキス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】柑橘類エキスの製造方法、柑橘類エキスの褐変を抑制する方法及び柑橘類エキス
(51)【国際特許分類】
   A23L 19/00 20160101AFI20221110BHJP
【FI】
A23L19/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018163737
(22)【出願日】2018-08-31
(65)【公開番号】P2020031614
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】312017444
【氏名又は名称】ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼寺 恒慈
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-046019(JP,A)
【文献】特開昭58-193671(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0035070(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム塩と接触させた柑橘類の果実を、アルコールを含む抽出溶媒で抽出する工程を備え
前記カルシウム塩の使用量が、柑橘類の果実100質量部に対して、0.5質量部以上1.0質量部以下である、柑橘類エキスの製造方法。
【請求項2】
前記抽出する工程前に、カルシウム塩と柑橘類の果実とを接触させる工程を備える、請求項1に記載の柑橘類エキスの製造方法。
【請求項3】
前記カルシウム塩が水酸化カルシウムである、請求項1又は2に記載の柑橘類エキスの製造方法。
【請求項4】
前記柑橘類がレモンである、請求項1~3のいずれか一項に記載の柑橘類エキスの製造方法。
【請求項5】
柑橘類の果実をカルシウム塩と接触させる工程を含み、
前記カルシウム塩の使用量が、柑橘類の果実100質量部に対して、0.5質量部以上1.0質量部以下である、柑橘類エキスの褐変を抑制する方法。
【請求項6】
前記カルシウム塩と接触させた前記柑橘類の果実を、アルコールを含む抽出溶媒で抽出する工程を含む、請求項5に記載の柑橘類エキスの褐変を抑制する方法。
【請求項7】
下記式(1)で表される%ΔYIが、10未満である、柑橘類エキス。
%ΔYI=(YI-YI)/YI×100 (1)
[式(1)中、YI及びYIは、Brix値40に調整後、冷解凍を2回実施する前及び後それぞれの柑橘類エキスを、2500rpm、10分間の条件で、遠心分離を行い、得られた上澄みをBrix値8に調整して取得した試験液のイエローインデックス値を表す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柑橘類エキスの製造方法、柑橘類エキスの褐変を抑制する方法及び柑橘類エキスに関する。
【背景技術】
【0002】
柑橘類のエキス(抽出物)は、柑橘類の果実が有するポリフェノール等の健康に有用な機能性成分並びに柑橘類特有の香り成分及び呈味成分等を利用することを目的として製造される。非特許文献1には、温州ミカン搾汁粕から酵素を利用して、ポリフェノールの一種であるヘスペリジンを抽出及び回収する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】稲葉伸也ほか,日本食品工業学会誌,1993年,40巻,12号,pp.833-840
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
柑橘類エキスは、合成吸着樹脂による分画精製などの方法を用いずに、安価に抽出製造する場合、夾雑する糖分、アミノ酸等の影響により温度変化に伴って褐変する場合があった。
【0005】
本発明者等は、カルシウム塩と接触させた柑橘類の果実を、所定の抽出溶媒で抽出することにより、冷解凍時の温度変化に伴う褐変が抑制された柑橘類エキスを製造できることを新たに見出した。
【0006】
本発明は、この新規な知見に基づくものであり、冷解凍時の褐変を抑制可能な柑橘類エキスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、カルシウム塩と接触させた柑橘類の果実を、アルコールを含む抽出溶媒で抽出する工程を備える、柑橘類エキスの製造方法を提供する。本発明に係る柑橘類の製造方法は、カルシウム塩と接触させた柑橘類の果実を、アルコールを含む抽出溶媒で抽出する工程を備えるため、冷解凍時の温度変化に伴う褐変が抑制された柑橘類エキスを製造できる。
【0008】
本発明に係る製造方法において、上記抽出する工程前に、カルシウム塩と柑橘類の果実とを接触させる工程を備えていてよい。
【0009】
カルシウム塩は水酸化カルシウムであってよい。この場合、本発明による効果がより一層顕著に奏されることとなる。また、柑橘類は、レモンであってよい。
【0010】
本発明はまた、柑橘類の果実をカルシウム塩と接触させる工程を含む、柑橘類エキスの褐変を抑制する方法を提供する。
【0011】
本発明に係る方法は、カルシウム塩と接触させた柑橘類の果実を、アルコールを含む抽出溶媒で抽出する工程を含んでいてよい。
【0012】
本発明は、下記式(1)で表される%Δイエローインデックス(YI)が、10未満である、柑橘類エキスを提供する。
%ΔYI=(YI-YI)/YI×100 (1)
[式(1)中、YI及びYIは、Brix値40に調整後、冷解凍を2回実施する前及び後それぞれの柑橘類エキスを、2500rpm、10分間の条件で、遠心分離を行い、得られた上澄みをBrix値8に調整して取得した試験液のイエローインデックス値を表す。]
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、冷解凍時の褐変を抑制可能な柑橘類エキスの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
〔柑橘類エキスの製造方法〕
本実施形態に係る柑橘類エキスの製造方法は、カルシウム塩と接触させた柑橘類の果実を、アルコールを含む抽出溶媒で抽出する工程(以下、「抽出工程」ともいう。)を備える。柑橘類エキスは、冷凍及び解凍をこの順に繰り返したとき(冷解凍時)に褐変する場合があった。これに対し、本実施形態に係る製造方法により得られる柑橘類エキスは、上記抽出工程を経て製造されるため、冷解凍時の褐変(温度変化に伴う褐変)が抑制されている。
【0016】
柑橘類は、ミカン科のミカン属、キンカン属及びカラタチ属に属する植物を含む。柑橘類としては、例えば、レモン、ライム、シークワサー、スダチ、ユズ、ダイダイ、カボス、グレープフルーツ、ネーブルオレンジ、バレンシアオレンジ、サワーオレンジ、ミカン(温州ミカン)、イヨカン、ポンカン、あま夏、ブンタン等が挙げられる。柑橘類は好ましくはレモンである。
【0017】
柑橘類の果実は、果皮、種子、じょうのう膜及び砂のう等で構成されている。原料として使用される柑橘類の果実は、果皮を含むものであってよい。抽出工程では、果皮を含む柑橘類の果実として、インライン搾汁機で搾汁後の残渣を用いることができる。抽出工程における柑橘類の果実は、必要に応じ、果汁の除去、粗砕等を行ったものであってよい。
【0018】
カルシウム塩は、有機酸塩又は無機酸塩であってよい。カルシウム塩としては、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、乳酸カルシウム、酢酸カルシウム、クエン酸カルシウム等が挙げられる。
【0019】
カルシウム塩の使用量は、柑橘類の果実100質量部に対して、0.1質量部以上、0.2質量部以上、0.3質量部以上、0.4質量部以上又は0.5質量部以上であってよく、5.0質量部以下、2.0質量部以下、1.5質量部以下、1.0質量部以下又は0.9質量部以下であってよい。カルシウム塩の使用量が上記範囲内である場合、本発明による効果がより顕著に奏されることとなる。
【0020】
アルコールを含む抽出溶媒は、アルコールであってよく、アルコール水溶液であってよい。アルコール水溶液中のアルコールの濃度は、0.5質量%以上、0.8質量%以上又は1.0質量%以上であってよく、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、15質量%以下又は10質量%以下であってよい。
【0021】
アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール等が挙げられる。アルコールは、本発明による効果がより顕著に奏される観点から、エタノールであることが好ましい。
【0022】
アルコールを含む抽出溶媒の使用量(添加量)は、柑橘類の果実1質量部に対して、本発明による効果がより顕著に奏される観点から、0.5質量部以上、1.0質量部以上又は1.5質量部以上であってよく、50質量部以下、30質量部以下、15質量部以下、10質量部以下、8質量部以下、5質量部以下又は3質量部以下であってよい。
【0023】
抽出は、柑橘類エキスを抽出する際の通常の抽出条件で行うことができる。抽出温度は、例えば、0℃以上98℃以下、5℃以上95℃以下、10℃以上80℃以下、15℃以上65℃以下、20℃以上60℃以下、25℃以上55℃以下、30℃以上50℃以下又は35℃以上45℃以下であってよい。抽出時間(上記抽出温度で保持する時間)は、上記抽出温度に応じて、適宜設定してよい。例えば、抽出時間は、5分以上、30分以上又は60分以上であってよく、300分以下、150分以下又は90分以下であってよい。
【0024】
抽出時の液(抽出液)のpHは、3.0以上、3.5以上、4.0以上、4.5以上、4.8以上であってよく、9.0以下、8.0以下、7.0以下、6.0以下又は5.5以下であってよい。pHは後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0025】
抽出工程では、必要に応じて、柑橘類の果実の圧搾等を実施してよい。
【0026】
抽出工程は、柑橘類の果実とカルシウム塩とアルコールを含む抽出溶媒とを混合した後に実施される。混合は、柑橘類の果実とカルシウム塩とを予め混合した後に、アルコールを含む抽出溶媒を混合することにより実施してもよいし、柑橘類の果実に、カルシウム塩とアルコールを含む抽出溶媒とを略同時に混合することにより実施してもよい。
【0027】
本実施形態に係る製造方法は、抽出工程前に、カルシウム塩と柑橘類の果実とを接触させる工程(接触工程)を備えていてよい。接触工程は、例えば、柑橘類の果実とカルシウム塩とを混和することにより行ってよく、柑橘類の果実と、カルシウム塩を溶解又は懸濁した溶液(水溶液等)とを混和することにより行ってよい。カルシウム塩と柑橘類の果実とを混和する時間(混和時間)は、例えば、1分以上、5分以上又は10分以上であってよく、60分以下又は30分以下であってよい。
【0028】
柑橘類エキスは、抽出工程後に得られる液(抽出液)であってもよいし、抽出工程後、必要に応じて、ろ過、pH調整、殺菌、冷却、減圧濃縮、冷凍保存等を実施して得られるものであってもよい。ろ過は、例えば、ろ過助剤(例えば珪藻土)を用いて実施してよい。pH調整は、酢酸等の有機酸、リン酸・塩酸等の無機酸を用いて行ってよい。殺菌は、柑橘類エキスを殺菌する際の通常の条件で実施することができる。殺菌の温度は、例えば、70~95℃又は80~90℃であってよい。
【0029】
〔柑橘類エキス〕
本実施形態に係る柑橘類エキスは、下記式(1)で表される%ΔYIが、10未満である。
%ΔYI=(YI-YI)/YI×100 (1)
[式(1)中、YI及びYIは、Brix値40に調整後、冷解凍を2回実施する前及び後それぞれの柑橘類エキスを、2500rpm、10分間の条件で、遠心分離を行い、得られた上澄みをBrix値8に調整して取得した試験液のイエローインデックス値を表す。]
【0030】
%ΔYIは、10未満、7以下、5以下、0以下、-1.5未満、-1.6以下、-1.7以下、-1.8以下、-1.9以下、-2.0以下、-2.1以下、-2.2以下、-2.3以下、-2.4以下、-2.6以下、-2.8以下、-3.0以下、-3.2以下又は-3.3以下であってよい。%ΔYIは、例えば、-4.0以上、-3.5以上又は-3.4以上であってよい。
【0031】
イエローインデックス(YI)値(褐変度ともいう)は、JIS K 7373:2006「プラスチック-黄色度及び黄変度の求め方」に記載の方法に基づいて測定される値である。
【0032】
YI及びYIは、Brix値40に調整後、冷解凍を2回実施する前及び後それぞれの柑橘類エキスを、2500rpm、10分間の条件で、遠心分離を行い、得られた上澄みをBrix値8に調整して取得した試験液のイエローインデックス値である。試験液のイエローインデックス値は、色差(XYZ表式系)を測定することにより求めることができる(試料10mlで測定、透過モード、光路1cm)。測定装置としては、例えば、MINOLTA社製SPECTROPHOTOMETER CM-3500dを使用することができる。YI値は、測定された色差から、下記式(2)に基づいて算出される。
YI=100×(1.28×X-1.06×Z)/Y (2)
【0033】
なお、Brix値の調整は、濃縮(例えば減圧濃縮)又は水による希釈等により行うことができる。Brix値の測定は、ATAGO社製デジタル屈折計RX-5000iにより行うことができる。
【0034】
YIは、例えば、95.0以下、91.0以下、90.0以下、88.0以下、86.0以下、84.0以下又は82.0以下であってよく、75.0以上又は80.0以上であってもよい。
【0035】
YIは、例えば、90.0以下、88.0以下、86.0以下、84.0以下、82.0又は81.0以下であってよく、75.0以上又は80.0以上であってよい。
【0036】
柑橘類エキスは、ポリフェノールを含んでいてよい。ポリフェノールとしては、例えば、エリオシトリン及びヘスペリジンが挙げられる。
【0037】
柑橘類エキス中のエリオシトリン濃度は、柑橘類エキス全量に対して、Brix値40換算で、2000質量ppm以上、2500質量ppm以上、3000質量ppm以上、3500質量ppm以上、4000質量ppm以上、4500質量ppm以上、5000質量ppm以上又は5100質量ppm以上であってよく、6000質量ppm以下、5500質量ppm以下又は5450質量ppm以下であってよい。なお、本明細書における「質量ppm」は、「10-4質量%」と同義である。
【0038】
柑橘類エキス中のヘスペリジン濃度は、柑橘類エキス全量に対して、Brix値40換算で、2000質量ppm以上、2500質量ppm以上、2800質量ppm以上、3000質量ppm以上、3200質量ppm以上、3400質量ppm以上又は3500質量ppm以上であってよく、4000質量ppm以下又は3800質量ppm以下であってよい。
【0039】
柑橘類エキス中のエリオシトリン濃度及びヘスペリジン濃度は、島津製作所社製HPLCシステムLC-10Aシリーズに任意のODSカラムを組み合わせて、10mMリン酸溶液とメタノールのグラジエント溶出により、外部標準を用いて測定することができる。
【0040】
ヘスペリジンに対するエリオシトリンの含有質量比(エリオシトリン/ヘスペリジン)は、0.7以上2.5以下、0.7以上2.0以下、1.0以上1.8以下又は1.2以上1.5以下であってよい。
【0041】
柑橘類エキス中のエリオシトリン濃度及びヘスペリジン濃度並びにヘスペリジンに対するエリオシトリンの含有質量比は、例えば、上述の柑橘類エキスの抽出工程において、カルシウム塩の使用量、抽出溶媒(水溶液)中のエタノール濃度を制御することにより、調整することができる。
【0042】
本実施形態に係る柑橘類エキスは、カルシウムを含んでいてよい。柑橘類エキス中のカルシウム濃度は、柑橘類エキス全量に対して、Brix値40換算で、5000質量ppm以上、7000質量ppm以上、7500質量ppm以上、8000質量ppm以上、8500質量ppm以上又は9000質量ppm以上であってよく、10000質量ppm以下又は9000質量ppm以下であってよい。カルシウム濃度は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。柑橘類エキス中のカルシウム濃度は、例えば、上述の抽出工程において、カルシウム塩の使用量を制御することにより調整することができる。
【0043】
〔柑橘類エキスの褐変を抑制する方法〕
本実施形態の柑橘類エキスの製造方法は、柑橘類の果実をカルシウム塩と接触させることを含むため、冷解凍時の褐変(温度変化に伴う褐変)が抑制されている。したがって、本発明の一実施形態として、柑橘類の果実とカルシウム塩とを接触させる工程(接触工程)を含む、柑橘類エキスの褐変を抑制する方法が提供される。
【0044】
本実施形態に係る方法において、接触工程後に、カルシウム塩と接触させた柑橘類の果実を抽出溶媒で抽出する工程を含んでいてよい。本実施形態に係る方法における抽出溶媒は、水であってよく、上述のアルコールを含む抽出溶媒であってもよい。当該方法における抽出溶媒は、冷解凍時の褐変(温度変化に伴う褐変)がより抑制される観点から、好ましくはアルコールを含む抽出溶媒である。すなわち、本実施形態に係る方法は、カルシウム塩と接触させた柑橘類の果実を、アルコールを含む抽出溶媒で抽出する工程を更に含むことが好ましい。
【0045】
以上説明した柑橘類エキスの褐変を抑制する方法は、柑橘類エキスの冷解凍時の褐変を抑制するためのカルシウム塩の使用であって、柑橘類の果実とカルシウム塩とを接触させる工程を含む、使用と捉えることもできる。また、カルシウム塩を有効成分とする柑橘類エキスの冷解凍時の褐変抑制剤と捉えることもできる。
【実施例
【0046】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
[レモン果皮エキスの調製]
レモン果皮エキスを以下の方法により調製した。まず、インライン搾汁残渣のレモン果皮をカッターで5~10mm程度に粗砕した。このレモン果皮に、場合により水酸化カルシウムを添加して、レモン果皮と水酸化カルシウムとを混和した(接触工程)。混和は、10分間実施した。水酸化カルシウムを添加する場合、レモン果皮100質量部に対して、0.5又は1.0質量部となるように添加した。
【0048】
水酸化カルシウムと接触させたレモン果皮を水又はエタノール水溶液で抽出した(抽出工程)。抽出は、液温40℃の条件で、60分間実施した。抽出時の液のpHは、pHメーターF-37(株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。結果を表1に示す。エタノール水溶液中のエタノール濃度は、1、3、20又は50質量%とした。エタノール抽出後のレモン果皮は圧搾した。以上の操作により得た抽出液は、珪藻土を用いてろ過した後、リン酸によりpH3.5に調整した。得られた液に対して、殺菌(85℃達温30秒)、冷却及び減圧濃縮を実施して、Brix値40のレモン果皮エキスを得た。なお、Brix値は、ATAGO社製デジタル屈折計RX-5000iを用いて測定した。
【0049】
【表1】
【0050】
[レモン果皮エキスにおけるイエローインデックス値の測定]
冷解凍時の褐変を抑制する効果について、イエローインデックス(YI)値を測定することにより、評価した。まず、Brix値40のレモン果皮エキスを2500rpm、10分間の条件で、遠心分離した。得られた上澄みを水で希釈して、Brix値を8に調整して試験液1を得た。
【0051】
まず、Brix値40のレモン果皮エキスの冷解凍を2回実施した(冷凍及び解凍をこの順に繰り返した。)。冷解凍した後のレモン果皮エキスを2500rpm、10分間の条件で、遠心分離した。得られた上澄みを水で希釈して、Brix値を8に調整して試験液2を得た。
【0052】
試験液1~2のYI値を、色差(XYZ表式系)を測定することにより求めた(MINOLTA社製SPECTROPHOTOMETER CM-3500dにて、試料10mlで測定、透過モード、光路1cm)。YI値は、下記式に基づいて算出した。結果を表2に示す。なお、YI値は、低いほど褐変が抑制されていることを示す。試験液1(冷解凍前のレモン果皮エキス)のYI値をYI、試験液2(冷解凍後のレモン果皮エキス)のYI値をYIとした。
YI=100×(1.28×X-1.06×Z)/Y
【0053】
YI及びYIから、下記式に基づき、ΔYI及び%ΔYIを求めた。結果を表2に示す。
ΔYI=YI-YI
%ΔYI=(YI-YI)/YI×100
【0054】
【表2】
【0055】
水酸化カルシウムと接触させたレモン果皮を抽出した場合、水酸化カルシウムと接触させずにレモン果皮を抽出した場合と比べて、YI値が低くなり、褐変が抑制されることが示された。
【0056】
[レモン果皮エキス中のエリオシトリン濃度及びヘスペリジン濃度の測定]
Brix値40のレモン果皮エキスを適宜希釈し、エリオシトリン濃度及びヘスペリジン濃度を島津製作所社製HPLCシステムLC-10Aシリーズに任意のODSカラムを組み合わせて、10mMリン酸溶液とメタノールのグラジエント溶出により、外部標準を用いて測定した。結果を表3~4に示す。表3~4に示す測定値は、元の濃度(Brix値40のエキス)に換算した値である。ヘスペリジンに対するエリオシトリンの含有質量比(エリオシトリン/ヘスペリジン)を表5に示す。
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】
【表5】
【0059】
[レモン果皮エキス中のカルシウム濃度の測定]
レモン果皮エキス中のカルシウム濃度は、カルシウムE-テストワコー(富士フィルム和光純薬株式会社製)及び紫外可視分光光度計UV-1850(株式会社島津製作所製)を用いて測定した。測定結果を表6に示す。
【0060】
【表6】
【0061】
[試験飲料におけるイエローインデックス値の測定]
Brix値40のレモン果皮エキスに対し、2回冷解凍を実施した。冷解凍を実施した後のレモン果皮エキスを試験用エキスとした。なお、レモン果皮エキスとして、水酸化カルシウムをレモン果皮100質量部に対して、0.5質量部となるように添加したエキス又は水酸化カルシウム非添加のエキスを使用した。
【0062】
試験用エキスを用いて、試験飲料を調製した。試験飲料の組成は、試験用エキス20.0質量%、濃縮柑橘類果汁1.50質量%、果糖ぶどう糖液糖10.0質量%、クエン酸三ナトリウム0.05質量%、アスコルビン酸ナトリウム0.15質量%、香料0.05質量%、乳化香料0.04質量%とした。
【0063】
試験飲料の色差(XYZ表色系)を測定した(MINOLTA社製SPECTROPHOTOMETER CM-3500dにて、反射モード、試料10mlで測定)。YI値は、下記式に基づいて算出した。結果を表7に示す。
YI=100×(1.28×X-1.06×Z)/Y
【0064】
【表7】
【0065】
試験飲料を用いた場合であっても、水酸化カルシウムと接触させたレモン果皮を抽出した場合に、水酸化カルシウムと接触させずにレモン果皮を抽出した場合と比べて、YI値が低くなり、褐変が抑制されることが示された。