(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】イネーブルスイッチ
(51)【国際特許分類】
H01H 13/66 20060101AFI20221110BHJP
【FI】
H01H13/66
(21)【出願番号】P 2018183375
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000309
【氏名又は名称】IDEC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】延廣 正毅
(72)【発明者】
【氏名】山野 雅丈
(72)【発明者】
【氏名】福井 孝男
【審査官】内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-124040(JP,A)
【文献】特開2002-042606(JP,A)
【文献】特開2002-075121(JP,A)
【文献】特開2002-150875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 13/00 - 13/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作部に設けられ、前記操作部による操作対象の操作を許可するイネーブルスイッチであって、
保持部と、
前記保持部に向かって押し込まれる可動部材と、
接点と、
前記可動部材が前記保持部に向かって押し込まれるに従って、前記接点の状態を、開から閉に移行し、さらに閉から開へと移行する接点機構と、
第1係合部と、
前記可動部材の移動により、前記第1係合部に対して相対的に移動する第2係合部と、
を備え、
前記可動部材が押し込まれていない状態における前記保持部に対する前記可動部材の位置を第1ポジション、前記可動部材が最も押し込まれた状態における前記保持部に対する前記可動部材の位置を第3ポジション、前記第1ポジションと第3ポジションとの間において押し込み量に対する荷重の増加割合が増大することにより前記可動部材の押し込みに要する荷重が立ち上がって最大に至る最大立ち上がりの立ち上がり開始位置を第2ポジションとして、
前記可動部材が押し込まれる際に、前記第1ポジションと前記第2ポジションとの間のON切替位置にて前記接点が開から閉に移行し、前記第2ポジションと前記第3ポジションとの間のOFF切替位置にて前記接点が閉から開に移行し、
前記第1ポジションと前記第2ポジションとの間に、前記可動部材が押し込まれる際に荷重が一旦立ち上がって減少する小ピークがあり、
前記ON切替位置は、前記小ピークの立下り開始位置と前記第2ポジションとの間に位置し、
前記小ピークの最大荷重が、前記ON切替位置における荷重以上であり、かつ、前記OFF切替位置における荷重よりも小さ
く、
前記可動部材が前記保持部に向かって押し込まれる際に、荷重の前記小ピークにおいて前記第1係合部と前記第2係合部との係合が解除されることを特徴とするイネーブルスイッチ。
【請求項2】
請求項1に記載のイネーブルスイッチであって、
前記小ピークの最大荷重が、前記OFF切替位置の直前の位置における荷重よりも小さく、かつ、前記第2ポジションにおける荷重よりも大きいことを特徴とするイネーブルスイッチ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のイネーブルスイッチであって、
前記ON切替位置近傍において、前記可動部材が前記保持部に押し込まれる従って、前記接点に含まれる2つの端子が漸次近づいて接触することにより、前記接点が閉になることを特徴とするイネーブルスイッチ。
【請求項4】
請求項1ないし
3のいずれか1つに記載のイネーブルスイッチであって、
前記小ピークの立ち上がりが、ほぼ垂直であることを特徴とするイネーブルスイッチ。
【請求項5】
請求項1ないし
4のいずれか1つに記載のイネーブルスイッチであって、
前記小ピークの最大荷重位置が、前記第1ポジションと前記第2ポジションとの中間位置よりも前記第1ポジションに近いことを特徴とするイネーブルスイッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操作部による操作対象の操作を許可するイネーブルスイッチに関連する。
【背景技術】
【0002】
従来より、スイッチの可動部材の押し込み量に従って、スイッチの状態がOFFからONに変化し、さらにONからOFFに変化するスイッチが知られている。このようなスイッチは、ロボットや機械を操作する際に作業者が入力を行う端末である操作部に「イネーブルスイッチ」として用いられる。作業者は、入力を行う間、スイッチをON状態に維持する。スイッチがOFF状態になると、作業者による入力は遮断され、ロボット等の操作対象には伝わらない。これにより、作業者が操作部から手を離した場合や、驚く等して力強く操作部を把持した場合に、操作部への入力は操作対象には伝わらず、作業者の安全が確保される。このようなイネーブルスイッチの例として、特許文献1ないし4に開示されたものを挙げることができる。
【0003】
また、特許文献5に開示されるスイッチは、上記スイッチと同様に、OFF-ON-OFFの3ポジション動作を行う。最初のOFF動作からON動作への切り替わりはスイッチ作動手段のスナップアクションにより行われ、次のON動作からOFF動作への切り替わりもスイッチ作動手段のスナップアクションにより行われる。これにより、状態の切り替わり時に、操作者に操作感触が与えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-35300号公報
【文献】特開2002-42606号公報
【文献】国際公開第2002/061779号
【文献】特開2005-56635号公報
【文献】特開2002-75121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献5のスイッチでは、可動部材であるプランジャを押し込んでOFF状態からON状態に移行する際に、押し込み量に対して押し込み力である荷重が徐々に増加する。そのため、OFF状態からON状態に移行する際のクリック感が小さく、ON状態に移行後も作業者は可動部材を徐々に押し込むことになる。その結果、ON状態からOFF状態にさらに移行する直前に押し込み量に対して荷重が増加しても、この増加を明瞭に感じ取ることができない虞がある。
【0006】
本発明は上記課題に鑑み成されたものであり、ON状態からさらに押し込んでOFF状態に移行する前の段階において、押し込み量に対する荷重の増加を明瞭に感じ取ることができるイネーブルスイッチを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、操作部に設けられ、前記操作部による操作対象の操作を許可するイネーブルスイッチに向けられている。
【0008】
イネーブルスイッチは、保持部と、前記保持部に向かって押し込まれる可動部材と、接点と、前記可動部材が前記保持部に向かって押し込まれるに従って、前記接点の状態を、開から閉に移行し、さらに閉から開へと移行する接点機構とを備える。前記可動部材が押し込まれていない状態における前記保持部に対する前記可動部材の位置を第1ポジション、前記可動部材が最も押し込まれた状態における前記保持部に対する前記可動部材の位置を第3ポジション、前記第1ポジションと第3ポジションとの間において押し込み量に対する荷重の増加割合が増大することにより前記可動部材の押し込みに要する荷重が立ち上がって最大に至る最大立ち上がりの立ち上がり開始位置を第2ポジションとして、前記可動部材が押し込まれる際に、前記第1ポジションと前記第2ポジションとの間のON切替位置にて前記接点が開から閉に移行し、前記第2ポジションと前記第3ポジションとの間のOFF切替位置にて前記接点が閉から開に移行する。前記第1ポジションと前記第2ポジションとの間に、前記可動部材が押し込まれる際に荷重が一旦立ち上がって減少する小ピークがあり、前記ON切替位置は、前記小ピークの立下り開始位置と前記第2ポジションとの間に位置する。前記小ピークの最大荷重は、前記ON切替位置における荷重以上であり、かつ、前記OFF切替位置における荷重よりも小さい。
【0009】
好ましくは、前記小ピークの最大荷重は、前記OFF切替位置の直前の位置における荷重よりも小さく、かつ、前記第2ポジションにおける荷重よりも大きい。
【0010】
好ましい一の形態では、イネーブルスイッチでは、前記ON切替位置近傍において、前記可動部材が前記保持部に押し込まれる従って、前記接点に含まれる2つの端子が漸次近づいて接触することにより、前記接点が閉になる。
【0011】
好ましくは、イネーブルスイッチは、第1係合部と、前記可動部材の移動により、前記第1係合部に対して相対的に移動する第2係合部とをさらに備える。前記可動部材が前記保持部に向かって押し込まれる際に、荷重の前記小ピークにおいて前記第1係合部と前記第2係合部との係合が解除される。
【0012】
好ましくは、前記小ピークの立ち上がりは、ほぼ垂直である。好ましくは、前記小ピークの最大荷重位置は、前記第1ポジションと前記第2ポジションとの中間位置よりも前記第1ポジションに近い。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ON状態からさらに押し込んでOFF状態に移行する前の段階において、押し込み量に対する荷重の増加を明瞭に感じ取ることができるイネーブルスイッチを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】イネーブルスイッチの押し込み量と荷重との関係の概略を示す図である。
【
図5】可動部材が第2ポジションに位置するイネーブルスイッチの縦断面図である。
【
図6】OFF切替機構が上昇する際のイネーブルスイッチの縦断面図である。
【
図7】可動部材が第3ポジションに位置するイネーブルスイッチの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、ロボットの教示ペンダントや作業機械のコントローラ等の操作部に設けられるイネーブルスイッチ1の縦断面図である。ロボットや作業機械等は操作部の操作対象である。イネーブルスイッチ1は、操作部からの操作対象の操作を許可する。イネーブルスイッチ1がON状態の間、操作対象の操作が許可され、作業者が操作部に入力を行うと、入力に従った操作部からの信号が操作対象に伝わる。イネーブルスイッチ1がOFF状態の場合は、操作対象の操作が許可されず、作業者の入力は操作対象に伝わらない。
【0016】
図1では、細部および説明上重要でない部材の断面における平行斜線を省略している。イネーブルスイッチ1は、保持部11と、可動部材12とを含む。可動部材12は、イネーブルスイッチ1を操作する際に、作業者により保持部11内に向かって
図1の下方へと押し込まれる。
図1の上下方向は重力方向に一致する必要はない。保持部11は、イネーブルスイッチ1の保持部11以外の部材を支持する。保持部11内のコイルバネ121により、可動部材12に
図1の上方に向かう力が与えられる。
図1では、コイルバネ121および他のコイルバネを破線にて簡略化して示している。作業者の指が可動部材12を保持部11内へ押し込んだ後に可動部材12から指を離すと、可動部材12はコイルバネ121の力により、元の位置に復帰する。
【0017】
イネーブルスイッチ1は、保持部11内に、2つの接点13と、接点13の状態を開および閉とする接点機構20とを含む。各接点13は、上端子131と、下端子132との組合せである。接点13が開の状態では、上端子131と下端子132とが離間する。接点13が閉の状態では、上端子131と下端子132とが接する。接点13が開の状態においてイネーブルスイッチ1はOFF状態であり、接点13が閉の状態においてイネーブルスイッチ1はON状態である。
【0018】
可動部材12は、上方の向かって窪む穴122を有する。穴122は、
図1の横方向内方に向かうに従って上方に向かう傾斜面123を含む。穴122内には、OFF切替機構14が配置される。OFF切替機構14は、支持部141と、2つの係合部142と、2つのコイルバネ143と、下当接部144と、コイルバネ145とを含む。支持部141と下当接部144とは、連結部146を介して接続された1つの部材の一部である。支持部141は、左右に向かって開口する支持穴を有する。係合部142およびコイルバネ143は支持穴内に位置し、コイルバネ143は、係合部142を支持穴内から横方向外方に向かって押す。
【0019】
図1の初期状態では、OFF切替機構14は、コイルバネ145から上に向かう力を受け、係合部142と傾斜面123とが当接するようにして係合する。これにより、支持部141は、およそ傾斜面123の高さに位置する。
【0020】
上端子131は、下当接部144に接する金属板171上に設けられる。金属板171と支持部141との間にはコイルバネ151が配置される。コイルバネ151は、金属板171を下方に向かって下当接部144に押しつける役割を果たす。コイルバネ151と長い金属板172のバネ性により、上端子131と下端子132とが接触した際の接触力が調整される。下端子132は、長い金属板172の上端に設けられる。金属板172の下端は保持部11の底面に固定される。金属板172は湾曲しており、板バネとして機能する。
【0021】
OFF切替機構14および金属板171,172は、後述するように、可動部材12が保持部11に向かって押し込まれるに従って、接点13の状態を開から閉に移行し、さらに閉から開へと移行する接点機構20を構成する。後述するように、可動部材12の下部124は、可動部材12が最も押し込まれてから元の位置に復帰する際に接点13の開状態を維持する役割を有することから、下部124も接点機構20に含まれると捉えられてもよい。イネーブルスイッチ1は、2つの接点13を有するため、これらを「第1接点13」および「第2接点13」と区別した場合、接点機構20は、可動部材12が保持部11に向かって押し込まれるに従って、第1接点13および第2接点13の状態を、開から閉に移行し、さらに閉から開へと移行する。
【0022】
保持部11内において可動部材12の側方には、2つの抵抗機構16が設けられる。抵抗機構16は、保持部11内において横方向外方に向かって窪む穴内に設けられる。抵抗機構16は、係合部161と、コイルバネ162とを含む。正確には、係合部161およびコイルバネ162近傍の保持部11の部位も抵抗機構16の一部である。コイルバネ162は、係合部161を保持部11の横方向内方に向かって、すなわち、可動部材12に向かって押す。
図1に示す初期状態では、係合部161の先端は、可動部材12の外側面の下端の下側に位置する。抵抗機構16は、後述するように、可動部材12の押し込みの初期の段階において、可動部材12の移動に抵抗する力を可動部材12に作用させる。
【0023】
次に、可動部材12が押し込まれる際のイネーブルスイッチ1の押し込みに要する力である荷重の好ましい変化について説明する。
図2は、可動部材12の移動量、すなわち、イネーブルスイッチ1の押し込み量と、荷重との関係の概略を示す図である。以下、押し込み量に対応する可動部材12の位置を、
図2に付す符号を参照しつつ説明する。
【0024】
図2において、位置301は初期位置である。以下、位置301を「第1ポジション」と呼ぶ。第1ポジション301は、可動部材12が押し込まれていない状態における保持部11に対する可動部材12の位置である。位置303は、可動部材12が最も押し込まれた状態における保持部11に対する可動部材12の位置である。以下、位置303を「第3ポジション」と呼ぶ。第3ポジション303では、イネーブルスイッチ1はOFF状態である。
【0025】
位置302は、可動部材12をある程度押し込んで作業者がある程度の抵抗力を感じつつ可動部材12を安定して保持することができる位置である。これにより、イネーブルスイッチ1はON状態に安定して保持される。以下、位置302を「第2ポジション」と呼ぶ。第2ポジション302は、第1ポジション301と第3ポジション303との間において押し込み量に対する荷重の増加割合が増大することにより可動部材12の押し込みに要する荷重が立ち上がって最大に至る最大立ち上がり343の立ち上がり開始位置である。
【0026】
位置311は、押し込む際に接点13が開から閉へと移行し、イネーブルスイッチ1がOFF状態からON状態へと移行する「ON切替位置」である。位置312は、接点13が閉から開へと移行し、イネーブルスイッチ1がON状態からOFF状態へと移行する「OFF切替位置」である。したがって、イネーブルスイッチ1では、可動部材12が押し込まれる際に、第1ポジション301と第2ポジション302との間のON切替位置311にて接点13が開から閉に移行し、第2ポジション302と第3ポジション303との間のOFF切替位置312にて接点13が閉から開に移行する。
【0027】
正確には、イネーブルスイッチ1は2つの接点13を有するため、これらを「第1接点13」および「第2接点13」と区別した場合、可動部材12が押し込まれる際に、第1ポジション301と第2ポジション302との間の第1ON切替位置にて第1接点13が開から閉に移行し、第2ポジション302と第3ポジション303との間の第1OFF切替位置にて第1接点13が閉から開に移行し、第1ポジション301と第2ポジション302との間の第2ON切替位置にて第2接点13が開から閉に移行し、第2ポジション302と第3ポジション303との間の第2OFF切替位置にて第2接点13が閉から開に移行する。
【0028】
図2の位置311は、第1接点13の場合、第1ON切替位置に対応し、位置312は第1OFF切替位置312に対応する。第2接点13の場合は、位置311は第2ON切替位置に対応し、位置312は第2OFF切替位置312に対応する。そして、第1ON切替位置と第2ON切替位置とは一致または近接し、第1OFF切替位置と第2OFF切替位置とは一致または近接する。
【0029】
イネーブルスイッチ1では、第1ポジション301と第2ポジション302との間に、可動部材12が押し込まれる際に荷重が一旦立ち上がって減少する小ピーク341が存在する。
図2では、小ピーク341の立ち上がりが開始する位置に符号321、立ち上がりが終了してある程度の荷重の維持が開始する位置に符号322、立ち下がりが開始する位置に符号323、立ち下がりが終了する位置に符号324を付している。ただし、これらの位置は明瞭に現れる必要はなく、明瞭に現れない場合は、様々な方法にてこれらの位置が特定されてよい。例えば、立ち上がり開始位置321や立ち下がり終了位置324が曲線上に位置する場合、曲率が最も大きくなる位置が、位置321,324として特定されてよい。位置322および位置323も同様に定められてよく、また、これらの位置322,323は一致してもよい。例えば、小ピーク341の頂部が鋭い場合、位置322と位置323とは同じ位置として特定される。
【0030】
他の手法として、例えば、押し込み量を増加させた際の荷重の勾配が、正のある値を超える位置が立ち上がり開始位置321として特定され、ある値を下回った位置が立ち上がり終了位置322として特定され、さらに負のある値を下回った位置が立ち下がり開始位置323として特定され、ある値を上回った位置が立ち下がり終了位置324として特定される。
【0031】
同様に、第2ポジション302と第3ポジション303との間のピークの立ち上がり開始位置(第2ポジション302)、立ち上がり終了位置332、立ち下がり開始位置333、立ち下がり終了位置334は、およそその意味を示す位置であれば、様々な手法で定められてよい。立ち上がり終了位置332と立ち下がり開始位置333とは一致してもよい。以下、位置302から位置334に至るピークを「主ピーク342」と呼ぶ。
【0032】
図1のイネーブルスイッチ1では、ON切替位置311(2つの接点13が存在する場合は、第1ON切替位置および第2ON切替位置、以下同様)は、小ピーク341の立ち下がり終了位置324と、第2ポジション302との間に位置する。また、小ピークの最大荷重A1は、ON切替位置311における荷重A2(2つの接点13が存在する場合は、第1ON切替位置における荷重および第2ON切替位置における荷重のうち大きい方の荷重)以上であり、かつ、OFF切替位置312における荷重A3(2つの接点13が存在する場合は、第1OFF切替位置における荷重および第2OFF切替位置における荷重のうち小さい方の荷重)よりも小さい。
【0033】
これにより、可動部材12を押し始めると、可動部材12は少し引っかかるようなクリック感の後に一気に押し込まれて第2ポジション302に移行する。すなわち、通常の操作では小ピーク341を超えると可動部材12を途中で止めることができず、可動部材12が何かに当たるような感覚で第2ポジション302に迅速に移行する。その結果、作業者は、可動部材12が第2ポジション302に位置したことを明瞭に感じ取ることができる。換言すれば、作業者は、第2ポジション302のON状態からさらに押し込んで第3ポジション303のOFF状態に移行する前の段階において、押し込み量に対する荷重の増加を明瞭に感じ取ることができる。
【0034】
上記観点からは、ON切替位置311は、
図2に示す位置には限定されない。ON切替位置311は、小ピーク341の立下り開始位置323と第2ポジション302との間に位置すればよい。また、可動部材12を小ピーク341から速やかに第2ポジション302に移行させるという観点からは、小ピーク341の最大荷重A1は、第2ポジション302における荷重A4よりも大きいことが好ましい。さらに、小ピーク341を超えた後、第2ポジション302を超えてOFF状態に移行しないために、小ピーク341の最大荷重は、好ましくは、OFF切替位置312の直前の位置における荷重(2つの接点13が存在する場合は、第1OFF切替位置および第2OFF切替位置の直前の位置における荷重であり、通常は、位置332における荷重)よりも小さい。
【0035】
小ピーク341の立ち上がり開始位置321は、第1ポジション301とほぼ一致してもよく、第1ポジション301と一致してもよい。このような場合であっても、作業者は可動部材12を押し込む際に引っ掛かりを感じ取ることができる。特に、小ピーク341の立ち上がりがほぼ垂直である、すなわち、位置321と位置322とがほぼ一致する場合、作業者は引っ掛かりをさらに明瞭に感じ取ることができる。もちろん、小ピーク341の立ち上がり開始位置321が第1ポジション301から離れている場合においても、小ピーク341の立ち上がりは、ほぼ垂直であることが好ましい。
【0036】
さらに、作業者が可動部材12を押し込む際に引っ掛かりを感じた後、第2ポジション302に移行したことを明瞭に感じ取るには、小ピーク341と第2ポジション302とが十分に離れていることが好ましい。具体的には、小ピーク341の最大荷重位置は、第1ポジション301と第2ポジション302との中間位置よりも第1ポジション301に近いことが好ましい。小ピーク341が第2ポジション302に近いと、小ピーク341が主ピーク342であると勘違いする可能性があるからである。
【0037】
図2の特性を有するイネーブルスイッチ1では、小ピーク341を設けても第2ポジション302に可動部材12を保持する際に必要な荷重を設計上変更する必要はないため、イネーブルスイッチ1を有する操作部を長時間第2ポジション302で把持しても作業者の負担は増加しない。また、小ピーク341を設けることにより、誤って可動部材12に触れたときや可動部材12に他の物体が接触したときに意図せずイネーブルスイッチ1がON状態になることを防ぐ効果も得られる。
【0038】
なお、
図2では、小ピーク341が立ち下がってから第2ポジション302までの荷重の変化を直線にて示しているが、大きな変化が存在しなければよく、直線には限定されない。例えば、ON切替位置311で荷重の変化率が変化して荷重曲線が折れ曲がったり、ON切替位置311で段差状に荷重が微小に変化してもよい。
【0039】
次に、
図1に示すイネーブルスイッチ1が、
図2に示す特性を実現する様子について説明する。
【0040】
第1ポジション301から可動部材12を押し始めると、コイルバネ121およびコイルバネ145が圧縮されつつ、
図3に示すように、可動部材12の下部に位置する傾斜面126と、抵抗機構16の係合部161の先端にある傾斜面163とが当接する。以下、可動部材12の傾斜面126近傍の部位125を「係合部」と呼ぶ。これにより、可動部材12を押し込む荷重が上昇する。
図3に示す可動部材12の位置は、小ピーク341の立ち上がり開始位置321である。
図1に示すように、第1ポジション301では、傾斜面126と傾斜面163とは僅かだけ離れており(
図1では符号省略)、第1ポジション301と位置321とは近い。
【0041】
傾斜面126は、横方向外方に向かうに従って上方に向かうように傾斜する。傾斜面163は、横方向内方に向かうに従って下方に向かうように傾斜する。したがって、可動部材12に加える荷重を増加させると、
図4に示すように、係合部161はコイルバネ162からの力に逆らって横方向外方に向かって移動を開始する。この状態が、位置321から位置323に向かう状態である。
【0042】
傾斜面126の端部と傾斜面163の端部とが一致すると、係合部161と係合部125との係合が解除され、可動部材12の外側面が係合部161の先端に擦れるようにして可動部材12が下方に移動する。このとき、荷重は一気に減少する。すなわち、位置323から位置324に速やかに到達する。
図1のイネーブルスイッチ1の場合、位置323と位置324とはほぼ一致する。
図5に示すように、可動部材12がさらに下降すると、位置311にて接点13が閉じ、可動部材12がさらに下降すると、下当接部144の下端が保持部11の内底面の中央に接する。
図5に示す可動部材12の位置は第2ポジション302である。金属板172が撓むことにより、下端子132は、下方に移動する。
【0043】
図5の状態で可動部材12に下方に向かう力を加えると、可動部材12に対して相対的に上方に向かう力がOFF切替機構14に作用する。既述のように、可動部材12の穴122の下部には、横方向内方に向かうに従って上方に向かう傾斜面123が存在する。係合部142の先端は、横方向外方に向かうに従って下方に向かう傾斜面147を有する。
【0044】
したがって、可動部材12に加える荷重を増加させると、可動部材12に対して相対的に上方に向かうようにOFF切替機構14に作用する力が増大し、係合部142はコイルバネ143からの力に逆らって横方向内方に向かって移動を開始する。この状態が、位置302から位置332を経由して位置333に向かう状態である。傾斜面123の端部と傾斜面147の端部とが一致すると、係合部142の先端が穴122の内側面に擦れるようにしてOFF切替機構14はコイルバネ145により速やかに上方に移動する。このとき、荷重は一気に減少する。そして、
図6の左側に示す状態から右側に示す状態へと瞬時に変化する。すなわち、位置333から位置334に速やかに到達する。
図1のイネーブルスイッチ1の場合、位置333と位置334とはほぼ一致する。以上の動作により、主ピーク342が得られる。
【0045】
図6に示すように、OFF切替機構14が上昇すると支持部141の上面と穴122の天井とが接する。接点13は閉から開になる。一方、金属板172の先端は、可動部材12の下部124の下端に接し、金属板172がある程度撓んだ状態が維持される。
【0046】
可動部材12がさらに押し込まれると、
図7に示すように、コイルバネ145は再度圧縮され、下当接部144が保持部11の底面に再度接触する。この状態が第3ポジション303であり、可動部材12は下方に移動不可能となる。このとき、接点13の上端子131と下端子132とは強制的に離れた位置となることから、仮に、上端子131と下端子132とが溶着していたとしても、可動部材12を第3ポジション303まで押し込むことにより、溶着状態が解消されてイネーブルスイッチ1が強制的にOFF状態になる。コイルバネ145が破損して下当接部144が十分に上昇しない場合においても、同様に、可動部材12を強く押し込むことによりイネーブルスイッチ1を強制的にOFF状態にすることができる。
【0047】
図7に示す状態から作業者がイネーブルスイッチ1から指を離すと、金属板172の先端が可動部材12の下部124に接した状態と、支持部141と可動部材12とが上下に接した状態とが維持されたままコイルバネ121とコイルバネ145により可動部材12の上昇が始まり、可動部材12が
図1の第1ポジション301に戻るまで接点13は開の状態が維持される。すなわち、第3ポジション303からの可動部材12の復帰時には、イネーブルスイッチ1のOFF状態が維持される。なお、第2ポジション302から作業者が可動部材12から指を離すと、可動部材12は第1ポジション301に戻ってイネーブルスイッチ1はOFF状態に戻る。
【0048】
以上に説明したように、イネーブルスイッチ1では、小ピーク341の存在により、通常の操作では小ピーク341と第2ポジション302との間において操作を止めることができず、作業者は、可動部材12が第2ポジション302に到達したことを明瞭に感じ取ることができる。なお、イネーブルスイッチ1では2つの接点13が直列接続され、1組の両切り接点として設けられているが、紙面に垂直な方向に2組以上の両切り接点を設けてもよい。この場合、小ピーク341から第2ポジション302に速やかに移行することにより、可動部材12が傾いても2組の両切り接点の状態が相違する時間を非常に短くすることができる。すなわち、2組の両切り接点の切り替わりタイミングのずれを低減することができる。その結果、2つの接点13の状態が一定時間以上相違することに起因するエラーの誤検出を防止することができる。
【0049】
また、イネーブルスイッチ1では、ON切替位置311近傍において、可動部材12が保持部11に押し込まれる従って、接点13に含まれる2つの端子131,132が漸次近づいて接触することにより、接点13が閉になる。この場合、小ピーク341から第2ポジション302に速やかに移行することにより、接点13が閉になる際の放電を抑制することができ、接点13の溶着を抑制することができる。
【0050】
イネーブルスイッチ1における抵抗機構16は、様々に変形が可能である。係合部161とコイルバネ162との組合せは、可動部材12と保持部11との間であれば様々な場所に設けることができる。例えば、
図8の部分拡大図に示すように、可動部材12に係合部161とコイルバネ162とを設けることも可能である。この場合、保持部11に係合部161の先端の傾斜面163と摺接する傾斜面112が設けられる。
【0051】
抵抗機構16は、OFF切替機構14に設けることも可能である。
図9は、下当接部144に抵抗機構16を設けた例を示す図である。このように、第1ポジション301から可動部材12が移動する際に、可動部材12と共に移動する様々な部位に抵抗機構16を設けることが可能である。係合部161およびコイルバネ162の配列方向も、
図1、
図8、
図9に示すように紙面の左右方向には限定されず、紙面に垂直な方向に配列することも可能である。
【0052】
以上のように、抵抗機構16の係合構造は様々に変更可能である。係合部161を第1係合部と捉え、係合部161と係合する部位(
図3の場合、係合部125)を第2係合部と捉えた場合、第2係合部は、可動部材12の移動により、第1係合部に対して相対的に移動する。そして、可動部材12が保持部11に向かって押し込まれる際に、第1係合部と第2係合部との係合が解除されることにより、荷重の小ピーク341が生じる。第1係合部と第2係合部とは、第1ポジション301では離間し、可動部材12を押すと一旦係合してから解除されてもよいし、第1ポジション301で既に係合していてもよい。係合部同士の係合を利用することにより、簡単な構造で小ピーク341を得ることができる。
【0053】
なお、第1係合部は、必ずしもバネ等の弾性体から力を受ける必要はなく、例えば、可動部材12が位置321に位置する際に、重力や磁力を利用して第1係合部と第2係合部とが係合してもよい。
【0054】
第1係合部が弾性体から力を受ける場合、コイルバネ以外の弾性体として、板バネ、樹脂の可撓部等が利用可能である。弾性体は様々な手法により第1係合部と第2係合部との間に係合するための力を作用させてよい。一般的に表現すれば、可動部材12および保持部11の一方に弾性体は直接的または間接的に固定される。第2係合部は弾性体に直接的または間接的に取り付けられ、第1係合部は、可動部材12および保持部11の他方に直接的または間接的に固定される。そして、可動部材12が押し込まれる際に弾性体からの力に逆らって第2係合部が移動して係合が解除されることにより、小ピーク341が得られる。
【0055】
イネーブルスイッチ1では、係合部を利用せずに小ピーク341が得られてもよい。例えば、押し込むことにより急激に凹むラバーパッドを可動部材12とコイルバネ121との間に設けてもよい。互いに反発または吸引し合う一対の磁石の一方を、他方の近傍を通過させることにより小ピーク341が得られてもよい。
【0056】
上記イネーブルスイッチ1は様々な変更が可能である。
【0057】
イネーブルスイッチ1では、1組の両切り接点であるが、既述のように2組以上の両切り接点を設けてもよい。4つの端子からなる1組の両切り接点は2つの端子からなる1つの片切り接点でもよい。片切り接点の数は1でも2以上でもよい。可動部材12は、押し込まれることにより回動するレバーでもよい。可動部材12が回動するタイプの場合、可動部材12の押し込み量は回動角に対応し、可動部材12の位置は、回転位置または可動部材12の特定の部位の位置である。
【0058】
図2に示すイネーブルスイッチ1の特性は、様々な構造のイネーブルスイッチに適用することができる。例えば、従来文献として挙げた、特開2002-42606号公報、国際公開第2002/061779号、特開2005-56635号公報に開示されたイネーブルスイッチにも適用することができる。これらの文献に開示されるように、接点機構20として様々な構造が採用可能である。
【0059】
イネーブルスイッチ1が設けられる操作部は、教示ペンダントには限定されず、ホイスト等の重機の操作部、車両の操作部、電動車いすの操作部等の様々な操作部に利用可能である。
【0060】
上記実施形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、産業ロボット、ホイスト、車いす等の多岐に亘る操作対象の操作に利用される操作部のイネーブルスイッチとして利用可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 イネーブルスイッチ
11 保持部
12 可動部材
13 接点
20 接点機構
125,161 係合部
131 上端子
132 下端子
301 第1ポジション
302 第2ポジション
303 第3ポジション
311 ON切替位置
312 OFF切替位置
323 (小ピークの)立下り開始位置
341 小ピーク