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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】健康状態判定システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20221110BHJP
【FI】
A61B10/00 H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018191365
(22)【出願日】2018-10-10
(65)【公開番号】P2020058537
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507126487
【氏名又は名称】公立大学法人奈良県立医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100162031
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 豊彦
(74)【代理人】
【識別番号】100175721
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 秀文
(72)【発明者】
【氏名】井上 博之
(72)【発明者】
【氏名】吉村 昌子
(72)【発明者】
【氏名】小池 昭啓
(72)【発明者】
【氏名】梅田 智広
【審査官】門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-000449(JP,A)
【文献】特開2017-148431(JP,A)
【文献】特開2018-050847(JP,A)
【文献】特開2016-059765(JP,A)
【文献】特開2016-120061(JP,A)
【文献】特開2018-033795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/00
A61B 5/00 - 5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の日常生活において生じる音情報を取得する取得部と、
前記取得部によって取得された前記音情報を周波数分析する分析部と、
前記分析部による分析結果に基づいて前記対象者の健康状態の判定を行う判定部と、
を具備し、
前記分析部は、
前記取得部によって取得された前記音情報から非言語音及び言語音を抽出し、抽出した音を周波数分析し、
前記非言語音についての分析結果に基づいて前記対象者の行動内容を推定し、推定した前記行動内容別に前記言語音を周波数分析し、
当該行動内容別の前記言語音についての分析結果としてx軸に周波数及びy軸に音の強さを示すグラフを作成し、
前記判定部は、
前記グラフにおいてx軸方向に分割された複数の周波数領域を設定し、
複数の前記周波数領域において、x軸と前記音の強さを示す波形とで囲まれた部分の面積を算出し、
算出した複数の前記周波数領域ごとの面積を行動内容ごとにグループ化し、
グループ化されると共に、複数の前記周波数領域ごとに分類された前記面積のデータを統計解析して前記判定を行う、
健康状態判定システム。
【請求項2】
前記分析部は、
前記非言語音についての分析結果に基づいて前記対象者の行動内容を推定し、
前記判定部は、
当該行動内容別の前記非言語音についての分析結果に基づいて前記判定を行う、
請求項1に記載の健康状態判定システム。
【請求項3】
前記判定部は、
前記分析部による分析結果と比較データとの比較により前記判定を行う、
請求項1又は請求項2に記載の健康状態判定システム。
【請求項4】
前記分析部による分析結果を蓄積する蓄積部を具備し、
前記比較データは、
前記蓄積部に蓄積した前記対象者の過去の分析結果である、
請求項3に記載の健康状態判定システム。
【請求項5】
前記健康状態は認知症の症状である、
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の健康状態判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象者の健康状態を判定する健康状態判定システムの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象者の健康状態を判定する健康状態判定システムの技術は公知となっている。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0003】
特許文献1には、患者の認知症の症状レベルを特定してそれに応じた質問と正解を生成し、患者の回答と正解とを比較して正誤の判定を行う認知症診断支援システムが記載されている。これにより、認知症の症状レベルを判定することができる。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術においては、患者が診断を受けないと認知症を発見できないため、認知症の症状を早期に発見するのが困難な場合があるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-282992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、対象者の健康状態の悪化を早期に発見することができる健康状態推定システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、対象者の日常生活において生じる音情報を取得する取得部と、前記取得部によって取得された前記音情報を周波数分析する分析部と、前記分析部による分析結果に基づいて前記対象者の健康状態の判定を行う判定部と、を具備し、前記分析部は、前記取得部によって取得された前記音情報から非言語音及び言語音を抽出し、抽出した音を周波数分析し、前記非言語音についての分析結果に基づいて前記対象者の行動内容を推定し、推定した前記行動内容別に前記言語音を周波数分析し、当該行動内容別の前記言語音についての分析結果としてx軸に周波数及びy軸に音の強さを示すグラフを作成し、前記判定部は、前記グラフにおいてx軸方向に分割された複数の周波数領域を設定し、複数の前記周波数領域において、x軸と前記音の強さを示す波形とで囲まれた部分の面積を算出し、算出した複数の前記周波数領域ごとの面積を行動内容ごとにグループ化し、グループ化されると共に、複数の前記周波数領域ごとに分類された前記面積のデータを統計解析して前記判定を行うものである。
【0010】
請求項においては、前記分析部は、前記非言語音についての分析結果に基づいて前記対象者の行動内容を推定し、前記判定部は、当該行動内容別の前記非言語音についての分析結果に基づいて前記判定を行うものである。
【0012】
請求項においては、前記判定部は、前記分析部による分析結果と比較データとの比較により前記判定を行うものである。
【0013】
請求項においては、前記分析部による分析結果を蓄積する蓄積部を具備し、前記比較データは、前記蓄積部に蓄積した前記対象者の過去の分析結果であるものである。
【0015】
請求項においては、前記健康状態は認知症の症状であるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0017】
請求項1においては、対象者の健康状態の悪化を早期に発見することができる。また、対象者の健康状態を精度良く判定することができる。
【0019】
請求項においては、対象者の健康状態をより精度良く判定することができる。
【0021】
請求項においては、対象者の健康状態を精度良く判定することができる。
【0022】
請求項においては、対象者の健康状態を精度良く判定することができる。
【0024】
請求項においては、対象者の認知症の症状を早期に発見することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係る健康状態判定システムの構成を示す図。
図2】本発明の一実施形態に係る健康状態判定システムの判定制御を示すフローチャート。
図3】非言語音データの時刻別分解処理を示す図。
図4】分解処理した非言語音データを周波数分析した結果を示す図。
図5】非言語音データの周波数分析の結果と比較対象データとの照合処理を示す図。
図6】言語音データの行動内容別分解処理を示す図。
図7】分解処理した言語音データを周波数分析した結果を示す図。
図8】面積算出処理を示す図。
図9】算出面積値をマトリクス化したデータを示す図。
図10】健康状態判定処理を示す図。
図11】第二実施形態に係る面積算出処理を示す図。
図12】第二実施形態に係る算出面積値をマトリクス化したデータを示す図。
図13】第二実施形態に係る健康状態判定処理を示す図。
図14】本発明の第三実施形態に係る健康状態判定システムの構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
まず、図1を用いて、本発明の一実施形態に係る健康状態判定システム1の構成の概要について説明する。
【0027】
健康状態判定システム1は、対象者(健康状態の判定対象となる者)の健康状態を判定するためのシステムである。本実施形態においては、健康状態判定システム1は、健康状態のうち認知症の症状を判定するために用いられる。健康状態判定システム1は、主に家、病院、老人ホーム等で使用される。健康状態判定システム1は、音取得装置10、制御装置20及びデータ出力装置30を具備する。
【0028】
音取得装置10は、音声等の音情報を取得するものである。音取得装置10としては、例えばマイクロフォンが使用される。音取得装置10は、例えば対象者が居住する部屋、病室、車内に設けられ、対象者の日常生活において生じる音情報を取得する。音取得装置10は、音情報として、対象者が発する音声(以下、「言語音」という)や、音取得装置10や対象者の周囲で生じる全般の音(以下、「非言語音」という)等を取得する。
【0029】
なお、「言語音」には、対象者が他の者と話すときの音声だけでなく、例えば独り言や睡眠時の音(寝息や寝言等)も含まれる。また、「非言語音」には、対象者の行動の際に(行動によって)生じる音が含まれ、例えばドアの開閉の際に生じる音や、ベッドを起こす音、入浴の際に生じる音、食事の際に生じる音、着替えの際に生じる音、トイレの際に生じる音等が含まれる。
【0030】
制御装置20は、データの格納や分析等を行うものである。制御装置20は、RAMやROM等の記憶部や、CPU等の演算処理部等により構成される。前記記憶部には、音取得装置10によって取得された音情報が時系列に記憶(蓄積)される。制御装置20は、音取得装置10によって取得された音情報を用いて各種の分析を行う。また、前記記憶部には、各種の分析に用いる種々の比較対象データが記憶されている。
【0031】
制御装置20は、音取得装置10によって取得された音情報から、言語音及び非言語音を抽出する。制御装置20は、抽出した非言語音を周波数分析することにより、当該非言語音に係る行動内容を推定する。また、制御装置20は、抽出した非言語音を周波数分析することにより、当該非言語音に係る行動をした者(対象者)の健康状態(行動実施時の対象者のフィジカル/メンタル面の状況)を判定する。
【0032】
また、制御装置20は、抽出した言語音が誰の音声であるか(音声を発した個人)を識別する話者認識機能を有している。制御装置20は、音取得装置10によって取得された言語音と、予め記憶部に記憶した対象者等の音声データとを比較して、音声を発した個人を識別する。
【0033】
また、制御装置20は、抽出した言語音を周波数分析することにより、当該言語音を発した者(対象者)の健康状態(認知症の症状)を判定する。
【0034】
データ出力装置30は、種々のデータを出力するものである。データ出力装置30としては、例えばプリンタが使用される。データ出力装置30は、制御装置20と電気的に接続され、制御装置20による健康状態(認知症の症状)の判定結果を出力することができる。
【0035】
以下、図2を参照して、健康状態の判定に係る制御(判定制御)について説明する。なお、図2に示す判定制御は、決まった時間に、例えば一日の最後に実行される。制御装置20は、直近の任意の期間(例えば一週間)に蓄積した音情報を分析して、健康状態の判定を行う。
【0036】
ステップS12において、制御装置20は、音の特定・分離を行う。この処理において、制御装置20は、音声認識機能により、音取得装置10によって取得された音情報を、言語音と非言語音とその他の音とに分離する。制御装置20は、当該ステップS12の処理を行った後、ステップS14に移行する。
【0037】
ステップS14において、制御装置20は、ステップS12で特定・分離した音情報から言語音と非言語音とを抽出する。また、制御装置20は、話者認識機能により、言語音(音声)を発した人物(話者)を識別(特定)する。制御装置20は、話者が複数人いる場合、話者認識機能により対象者を特定する。制御装置20は、当該ステップS14の処理を行った後、ステップS16に移行する。
【0038】
ステップS16において、制御装置20は、非言語音データの時刻別分解処理を行う。この処理において、制御装置20は、抽出した非言語音を、x軸(横軸)に時刻、y軸(縦軸)に音圧レベルをとったグラフにデータ化し、非言語音データを作成する。そして、制御装置20は、当該非言語音データを任意の間隔で時刻別(t=1、t=2、t=3・・・)に分解する(図3参照)。制御装置20は、当該ステップS16の処理を行った後、ステップS18に移行する。
【0039】
ステップS18において、制御装置20は、時刻別分解処理した非言語音データの周波数分析を行う。この処理において、制御装置20は、ステップS16で時刻別に分解した非言語音データを、それぞれ周波数分析する(図4参照)。制御装置20は、当該非言語音データの周波数分析の結果(周波数分析結果)を、当該制御装置20の記憶部に記憶する。周波数分析結果は、横軸に周波数、縦軸に音の強さをとったグラフとして表される。制御装置20は、当該ステップS18の処理を行った後、ステップS20に移行する。
【0040】
ステップS20において、制御装置20は、行動特定分析を行う。この処理において、制御装置20は、ステップS18の周波数分析結果と、制御装置20の記憶部に予め記憶した比較対象データとを照合して、行動の特定(推定)を行う。以下、ステップS20で使用する比較対象データを、比較対象データ1と称する。
【0041】
具体的には、制御装置20の記憶部には、比較対象データ1として、各種の行動の際に生じる非言語音(例えば、ドアを開ける音、ベッドを起こす音等)についての一般的な周波数分析のデータが記憶されている。制御装置20は、ステップS18の周波数分析結果と、記憶部に記憶された比較対象データ1とを照合する。そして、制御装置20は、適宜の方法により、ステップS18の周波数分析結果が、どの行動についての周波数分析のデータと類似するかを判定することで、行動(行動内容)を特定する(図5参照)。この判定は、例えば、波形の類似性や音の強さのピークがどの周波数であるか等の観点により行われる。制御装置20は、当該行動特定分析の結果を、当該制御装置20の記憶部に記憶する。制御装置20は、当該ステップS20の処理を行った後、ステップS22に移行する。
【0042】
ステップS22において、制御装置20は、行動実施時の状況判定を行う。この処理において、制御装置20は、ステップS18の周波数分析結果と、ステップS20で類似と判定された比較対象データ1との比較により、非言語音に係る行動をした者(対象者)の健康状態(行動実施時の対象者のフィジカル/メンタル面の状況)を判定する。この判定は、例えば、同じ周波数における音の強さの差(強弱)等の観点により行われる。
【0043】
なお、ステップS22において制御装置20は、比較対象データ1として、一般的な周波数分析のデータではなく、当該制御装置20の記憶部に蓄積された過去の周波数分析結果の履歴を用いることもできる。制御装置20は、ステップS18の周波数分析結果と、比較対象データ1(過去の周波数分析結果の履歴)とを比較し、非言語音に係る行動をした者(対象者)の健康状態(行動実施時の対象者のフィジカル/メンタル面の状況)を判定する。これにより、対象者の健康状態の経時的変化をみることができる。
【0044】
このようにステップS12からステップS22までの処理により、取得した非言語音の周波数分析結果に基づいて、非言語音に係る行動をした者(対象者)の健康状態を判定することができる。行動実施時の音の特徴(周波数)は健康状態によって変化するものであり、ステップS22においては、健康な状態の(一般的な)比較対象データと、周波数分析結果とを比較することで、前述の変化を判定し、これによって、対象者の健康状態を推定することができる。
【0045】
制御装置20は、当該ステップS22の処理を行った後、ステップS24に移行する。
【0046】
ステップS24において、制御装置20は、言語音データの行動内容別分解処理を行う。この処理において、制御装置20は、抽出した言語音を、x軸(横軸)に時刻、y軸(縦軸)に音圧レベルをとったグラフにデータ化し、言語音データを作成する。そして、制御装置20は、当該言語音データを、ステップS20で特定(推定)した行動内容別(何もない、着替え等)に分解する(図6参照)。すなわち、制御装置20は、どんな行動内容を実施しているかによって、時刻別に言語音データを分解する。制御装置20は、当該ステップS24の処理を行った後、ステップS26に移行する。
【0047】
ステップS26において、制御装置20は、行動内容別分解処理した言語音データの周波数分析を行う。この処理において、制御装置20は、ステップS24で行動内容別に分解した言語音データを、それぞれ周波数分析する(図7参照)。制御装置20は、当該言語音データの周波数分析の結果(周波数分析結果)を、当該制御装置20の記憶部に記憶する。周波数分析結果は、x軸(横軸)に周波数、y軸(縦軸)に音の強さをとったグラフとして表される。制御装置20は、当該ステップS26の処理を行った後、ステップS28に移行する。
【0048】
ステップS28において、制御装置20は、面積算出処理を行う。この処理において、制御装置20は、言語音についての周波数分析結果(ステップS26参照)において、周波数が比較的低い低周波領域、及び低周波領域よりも周波数の高い高周波領域を設定する(図8参照)。そして、制御装置20は、当該高周波領域及び低周波領域それぞれにおける面積を算出する。具体的には、制御装置20は、低周波領域においてx軸(横軸)と音の強さの波形(関数)で囲まれた面積を算出し、数値化するとともに、高周波領域においてx軸(横軸)と音の強さの波形(関数)で囲まれた面積を算出し、数値化する。制御装置20は、当該ステップS28の処理を行った後、ステップS30に移行する。
【0049】
ステップS30において、制御装置20は、マトリクス化処理を行う。この処理において、制御装置20は、ステップS28で算出した面積値(算出面積値)を行動内容ごとにグループ化し、マトリクス化する。具体的には、制御装置20は、同じ行動(例えば着替え)を実施している状態の言語音について、低周波領域及び高周波領域それぞれの算出面積値を集積し、マトリクス化する(図9参照)。着替えを実施しているときの言語音が複数の時間帯に存在する場合(例えば、10:00~10:10、及び20:00~20:10)、それぞれの時間帯の高周波領域及び低周波領域の算出面積値が並べられる。制御装置20は、当該ステップS30の処理を行った後、ステップS32に移行する。
【0050】
ステップS32において、制御装置20は、対象者の健康状態判定を行う。この処理において、制御装置20は、ステップS30でマトリクス化したデータを統計解析し、対象者の健康状態を判定する。
【0051】
具体的には、制御装置20は、x軸(横軸)を高周波領域の算出面積、y軸(縦軸)を低周波領域の算出面積として、その分布をデータ化(グラフ化)する(図10参照)。図10に示すグラフにおいては、図9に示す各時間帯の算出面積値が示されており、また直近の任意の期間(例えば一週間)に算出された複数個の算出面積値が示されている。制御装置20は、当該分布データ(対象分布データ)を、当該制御装置20の記憶部に記憶するとともに、制御装置20の記憶部に予め記憶された比較対象データ(一般的な分布データ)と比較することにより、対象者の健康状態を判定する。以下、ステップS32で使用する比較対象データを、比較対象データ2と称する。
【0052】
比較対象データ2としては、一般的な分布データが記憶されている。当該一般的な分布データは、認知症の症状レベル(正常から異常)に応じて段階的に複数記憶されている。制御装置20は、対象分布データと比較対象データ2とを照合する。そして、制御装置20は、適宜の方法により、対象分布データが、どの症状レベルの比較対象データ2と類似するかを判定することで、健康状態(認知症の症状レベル)を判定する(図10参照)。制御装置20は、当該健康状態判定の結果を、制御装置20の記憶部に記憶する。
【0053】
また、制御装置20は、比較対象データ2として、当該制御装置20の記憶部に蓄積された、対象者の過去の健康状態判定の結果の履歴を用いることができる。これにより、対象者の分布データの経時的変化をみることができ、当該経時的変化に基づいて対象者の健康状態の何らかの異常を判定することができる。ひいては、変化の傾向に基づいて、対象者の認知症の症状の悪化を検知することができる。
【0054】
制御装置20は、対象者や対象者の家族、医師等の求めに応じて、当該健康状態判定の結果を、データ出力装置30を介して通知することができる。制御装置20は、当該ステップS32の処理を行った後、図2に示す判定制御を終了する。
【0055】
このように本実施形態に係る健康状態判定システム1においては、音取得装置10によって取得された音情報が時系列に蓄積されるので、対象者の生活履歴を把握することができる。そして、蓄積された音情報を用いて対象者の健康状態を判定することができる。
【0056】
また、本実施形態に係る健康状態判定システム1においては、対象者の日常生活において生じる音情報を用いて、当該対象者の健康状態(認知症の症状レベル)を判定することができる。このため、対象者は、改めて健康状態の判定のためのテストや診断を受けることなく健康状態を判定することができる。また、対象者やその家族は、対象者の生活履歴をわざわざ記録しなくても、健康状態を判定することができる。したがって、対象者やその家族の手間を軽減することができる。
【0057】
また、認知症の判定テストを受ける場合、対象者のその時の状態(一時的な状態)をみるだけであるので、たまたまその時だけうまくテストがこなせただけで、実際は深刻な状態であるにもかかわらず異常なしと判定され、症状の発生を見過ごす可能性がある。一方、本実施形態に係る健康状態判定システム1においては、対象者の一時的な状態をみるのではなく、対象者の日常生活において生じる音情報、すなわち比較的長期間(例えば一週間)におけるデータを用いて判定を行うので、精度良く対象者の健康状態を把握することができる。
【0058】
また、認知症の症状が生じている場合であっても、その本人は、それに気付くことは困難である。また、家族が気付いて医療機関に通院する時点では既に認知症が進行している場合が多いため、認知症の進行を抑えるのが困難となる。一方、本実施形態に係る健康状態判定システム1においては、日常生活の音情報に基づいて判定を行うので、認知症の早期発見を図ることができ、ひいては認知症の進行を抑えることができる。
【0059】
また、一般的に言語音は、そのときの対象者の状況によって周波数や音圧レベルが異なり、例えば、電話中の音声と入浴中の音声とでは周波数や音圧レベルが異なる。一方、本実施形態に係る健康状態判定システム1においては、非言語音と言語音とを結び付けて、言語音がどんな行動を実施しているときのものであるかによって分類し、同一の行動内容内で分析する。よって、精度良く健康状態を判定することができる。
【0060】
以上の如く、本実施形態に係る健康状態判定システム1は、対象者の日常生活において生じる音情報を取得する音取得装置10(取得部)と、前記音取得装置10によって取得された前記音情報を周波数分析する制御装置20(分析部)と、前記制御装置20(分析部)による分析結果に基づいて前記対象者の健康状態の判定を行う制御装置20(判定部)と、を具備するものである。
このように構成することにより、対象者の健康状態の悪化を早期に発見することができる。
【0061】
また、前記制御装置20(分析部)は、前記音取得装置10によって取得された前記音情報から非言語音又は言語音の少なくとも一方を抽出し、抽出した音を周波数分析するものである。
このように構成することにより、対象者の健康状態を精度良く判定することができる。
【0062】
また、前記制御装置20(分析部)は、前記非言語音についての分析結果に基づいて前記対象者の行動内容を推定し、前記制御装置20(判定部)は、当該行動内容別の前記非言語音についての分析結果に基づいて前記判定を行うものである。
このように構成することにより、対象者の健康状態をより精度良く判定することができる。
【0063】
また、前記制御装置20(分析部)は、前記非言語音についての分析結果に基づいて前記対象者の行動内容を推定し、推定した前記行動内容別に前記言語音を周波数分析し、前記制御装置20(判定部)は、当該行動内容別の前記言語音についての分析結果に基づいて前記判定を行うものである。
このように構成することにより、対象者の健康状態をより精度良く判定することができる。
【0064】
また、前記制御装置20(判定部)は、前記制御装置20(分析部)による分析結果と比較データとの比較により前記判定を行うものである。
このように構成することにより、対象者の健康状態を精度良く判定することができる。
【0065】
また、本実施形態に係る健康状態判定システム1は、前記制御装置20(分析部)による分析結果を蓄積する記憶部(蓄積部)を具備し、前記比較データは、前記蓄積部に蓄積した前記対象者の過去の分析結果であるものである。
このように構成することにより、対象者の健康状態を精度良く判定することができる。
【0066】
また、前記制御装置20(分析部)は、前記分析結果としてx軸に周波数及びy軸に音の強さを示すグラフを作成し、前記制御装置20(判定部)は、前記グラフにおいて、所定の周波数領域においてx軸と前記音の強さを示す波形とで囲まれた部分の面積を算出し、算出した当該面積を用いて前記判定を行うものである。
このように構成することにより、対象者の健康状態を精度良く判定することができる。
【0067】
また、前記健康状態は認知症の症状であるものである。
このように構成することにより、対象者の認知症の症状を早期に発見することができる。
【0068】
なお、本実施形態に係る音取得装置10は、取得部の実施の一形態である。
また、本実施形態に係る制御装置20は、分析部、判定部及び蓄積部の実施の一形態である。
【0069】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は上記構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0070】
例えば、本実施形態においては、認知症の症状(進行度合い)を判定するものとしたが、これに限定されるものではなく、うつ病等の他の健康状態を判定するものとすることができる。
【0071】
また、本実施形態においては、非言語音及び言語音それぞれに基づいて健康状態を判定するものとしたが、非言語音のみに基づいて健康状態を判定するものであってもよく、言語音のみに基づいて健康状態を判定するものであってもよい。また、本実施形態においては、言語音に基づく健康状態判定において、非言語音に基づいて特定した行動内容別に言語音を分解して周波数分析するものとしたが、行動内容別に分解せず取得した言語音をそのまま周波数分析するものとしてもよい。
【0072】
また、本実施形態においては、ステップS32における比較対象データ2として、一般的な分布データ、又は対象者の過去の健康状態判定の結果の履歴を用いるものとしたが、一般的な分布データと対象者の過去の健康状態判定の結果の履歴とを両方用いてもよい。具体的には、過去の履歴との比較により、対象者の分布データ(図10参照)の経時的変化をみるとともに、一般的な分布データ(認知症の症状レベルに応じて段階的に記憶された複数のデータ)の比較により、この経時的変化が認知症の症状の改善を示しているのか、認知症の症状の悪化を示しているのかを判断することができる。
【0073】
また、本実施形態においては、周波数分析結果として、x軸(横軸)に周波数、y軸(縦軸)に音の強さをとったグラフを作成するものとしたが、必ずしも実際にグラフを画面等に表示させる必要はなく、CPU等の演算処理部内の処理で面積を算出するものであってもよい。
【0074】
また、本実施形態においては、周波数分析による分析結果に基づいて対象者の健康状態を判定するものとしたが、時間領域分析による分析結果に基づいて対象者の健康状態を判定するものとしてもよい。例えば、本実施形態においては、非言語音を周波数分析することにより、対象者の行動を分析するものとしたが(図4のステップS18、S20参照)、非言語音を時間領域分析することにより、対象者の行動を分析するものとしてもよい。
【0075】
次に、図11から図13を用いて、本発明の第二実施形態に係る健康状態判定システム1の判定制御について説明する。
【0076】
第二実施形態に係る判定制御が、第一実施形態に係る判定制御と異なる主な点は、ステップS28からステップS32の処理の内容である。よって以下では、第一実施形態と同一の内容については、説明を省略する。
【0077】
ステップS28において、制御装置20は、面積算出処理を行う。この処理において、制御装置20は、任意の周波数領域における面積を算出する(図11参照)。具体的には、制御装置20は、任意の(本実施形態では全域の)周波数領域においてx軸(横軸)と音の強さの波形(関数)で囲まれた面積を算出し、数値化する。制御装置20は、当該ステップS28の処理を行った後、ステップS30に移行する。
【0078】
ステップS30において、制御装置20は、マトリクス化処理を行う。この処理において、制御装置20は、ステップS28で算出面積値を行動内容ごとにグループ化し、マトリクス化する。具体的には、同じ行動(例えば着替え)を実施している状態の言語音について、全域の周波数領域における算出面積を集積し、マトリクス化する(図12参照)。着替えを実施しているときの言語音が複数の時間帯に存在する場合(例えば、10:00~10:10、及び20:00~20:10)、それぞれの時間帯の全域の算出面積値が並べられる。制御装置20は、当該ステップS30の処理を行った後、ステップS32に移行する。
【0079】
ステップS32において、制御装置20は、対象者の健康状態判定を行う。この処理において、制御装置20は、ステップS30でマトリクス化したデータを統計解析し、対象者の健康状態を判定する。
【0080】
具体的には、制御装置20は、x軸(横軸)を所定の周波数領域における算出面積、y軸を頻度として、その分布をヒストグラムによりデータ化する。制御装置20は、当該分布データ(対象分布データ)を、当該制御装置20の記憶部に記憶するとともに、制御装置20の記憶部に予め記憶された比較対象データ(一般的な分布データ)と比較することにより、対象者の健康状態を判定する。以下、第二実施形態においてステップS32で使用する比較対象データを、比較対象データ3と称する。
【0081】
比較対象データ3としては、一般的な分布データが記憶されている。当該一般的な分布データは、認知症の症状レベル(正常から異常)に応じて段階的に複数記憶されている。制御装置20は、対象分布データと比較対象データ3とを照合する。そして、制御装置20は、適宜の方法により、対象分布データが、どの症状レベルの比較対象データ3と類似するかを判定することで、健康状態(認知症の症状レベル)を判定する(図13参照)。制御装置20は、当該健康状態判定の結果を、制御装置20の記憶部に記憶する。
【0082】
また、制御装置20は、比較対象データ3として、当該制御装置20の記憶部に蓄積された、対象者の過去の健康状態判定の結果の履歴を用いることができる。これにより、対象者の分布データの経時的変化をみることができ、当該経時的変化に基づいて対象者の健康状態の何らかの異常を判定することができる。ひいては、変化の傾向に基づいて、対象者の認知症の症状の悪化を検知することができる。制御装置20は、当該ステップS32の処理を行った後、図2に示す判定制御を終了する。
【0083】
このように、第二実施形態においても、対象者の健康状態(認知症の症状レベル)を判定することができる。
【0084】
また、図14に示す第三実施形態に係る健康状態判定システム2のように、判定の精度を向上させるために、さらに人検知センサ40(人感センサ)、画像取得装置(カメラ)50や、室内環境センサ60、バイタルセンサ70及び三軸加速度センサ80等の種々のセンサ類を具備し、制御装置20によってこれら装置のデータを活用するようにしてもよい。画像取得装置(カメラ)50を具備することにより、健康状態の判定の補助とすることができ、判定の精度を向上させることができる。室内環境センサ60として例えば温度計を具備することにより、対象者の行動特定の補助とすることができる。バイタルセンサ70(例えば脈拍計)を具備することにより、バイタルサインの変化を把握することができ、これに基づいて健康状態の判定の補助とすることができる。三軸加速度センサ80を具備することにより、対象者の行動特定の補助とすることができる。
【符号の説明】
【0085】
1 健康状態判定システム
10 音取得装置
20 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14