(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】イオン交換膜、イオン交換膜の製造方法及び電解槽
(51)【国際特許分類】
C25B 13/02 20060101AFI20221110BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20221110BHJP
【FI】
C25B13/02 301
C25B9/00 E
(21)【出願番号】P 2018208437
(22)【出願日】2018-11-05
【審査請求日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2017242110
(32)【優先日】2017-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】岡本 浩司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和也
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-137485(JP,A)
【文献】特開2013-163791(JP,A)
【文献】特開2014-058707(JP,A)
【文献】国際公開第2015/098769(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 9/00,13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換基を有する含フッ素系重合体を含む膜本体と、
前記膜本体の少なくとも一方の面上に配された被覆層と、
を有するイオン交換膜であって、
前記被覆層が、無機物粒子とバインダーとを含み、
前記被覆層における前記無機物粒子及びバインダーの総質量に対し、前記バインダーの質量比が0.3超0.9以下であり、
前記被覆層の表面粗さが、1.20μm以上である、イオン交換膜。
【請求項2】
前記無機物粒子が、周期律表IV族元素の酸化物、周期律表第IV族元素の窒化物及び周期律表第IV族元素の炭化物からなる群より選択される少なくとも一種の無機物を含む粒子である、請求項1に記載のイオン交換膜。
【請求項3】
前記無機物粒子が酸化ジルコニウムの粒子である、請求項1又は2に記載のイオン交換膜。
【請求項4】
前記膜本体が、スルホン酸基を有する含フッ素重合体を含む層Sと、カルボン酸基を有する含フッ素重合体を含む層Cと、当該層Sの内部に配置され、かつ、強化糸及び犠牲糸の少なくとも一方として機能する、複数の補強材と、を有し、
前記イオン交換膜を上面視したとき、前記補強材が存在しない領域の、純水中での膜断面平均厚さをAとし、前記強化糸同士が交差する領域および前記強化糸と前記犠牲糸が交差する領域の、純水中での膜断面平均厚さをBとした場合に、前記A及びBが式(1)を満たす、請求項1~3のいずれか一項に記載のイオン交換膜。
2.0≦B/A≦5.0・・・(1)
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のイオン交換膜の製造方法であって、
無機物粒子、バインダー及び溶剤を含む塗布液をスプレー方式で噴霧し、乾燥することで膜本体の表面に被覆層を形成する工程を含み、
前記噴霧時の平均液滴径が100μm以下である、イオン交換膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載のイオン交換膜の製造方法であって、
無機物粒子、バインダー及び溶剤を含む塗布液をスプレー方式で噴霧し、乾燥することで膜本体の表面に被覆層を形成する工程を含み、
前記乾燥時における前記膜本体の表面温度が、40℃以上であり、かつ、前記溶剤の沸点以下である、イオン交換膜の製造方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載のイオン交換膜を備える、電解槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換膜、イオン交換膜の製造方法及び電解槽に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素イオン交換膜は、耐熱性や耐薬品性などが優れており、塩化アルカリ電解用、オゾン発生電解用、燃料電池用、水電解用、塩酸電解用などの電解用隔膜として、各種用途に広く使用され、更に新しい用途に広がりつつある。
【0003】
これらの中で、塩素と水酸化アルカリを製造する塩化アルカリの電解では、近年、イオン交換膜法が主流となっている。加えて、電力原単位の削減のため、イオン交換膜法による塩化アルカリ電解には、イオン交換膜と陽極、及び陰極が密着した自然循環型ゼロギャップ電解槽が主流となってきている。塩化アルカリの電解に用いられるイオン交換膜には、様々な性能が求められている。その中でも、特に電解電圧が低い陽イオン交換膜を要望されている。なお、塩化アルカリ電解の電解電圧は電力原単位に大きく影響するため、10mVの低減であっても非常に有益である。塩化アルカリ電解では、電解反応により発生するガスがイオン交換膜表面に付着することにより、電解電圧が上昇することが一般に知られている。この対策として、特許文献1では、バインダーと無機物粒子を含む層(表面層)を膜の表面に設けることにより、イオン交換膜表面へのガス付着が抑制され、電解電圧が低下することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、表面層に含まれる無機物粒子及びバインダーの合計に対するバインダーの質量比が0.3以下の場合は高いガス付着抑制効果が得られることが記載されている。しかしながら、バインダー比が0.3よりも大きい場合は十分なガス付着抑制効果が得られず、電解電圧が大幅に上昇してしまう問題がある。このように、従来技術には、電解電圧を更に低下させる観点から、未だ改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、電気分解に供した際に電解電圧を低減できる、イオン交換膜、イオン交換膜の製造方法及び電解槽を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、無機物粒子を含む被覆層の表面が一定以上の粗さを有することにより、ガス付着抑制効果が発現することを見出した。この結果をもとに、更なる鋭意研究を重ねた結果、被覆層形成時の塗布液滴径を最適な範囲にすることで、バインダー比を大きくしても、被覆層の表面粗さを一定以上とすることが可能となることを見出し、本発明を成すに至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
[1]
イオン交換基を有する含フッ素系重合体を含む膜本体と、
前記膜本体の少なくとも一方の面上に配された被覆層と、
を有するイオン交換膜であって、
前記被覆層が、無機物粒子とバインダーとを含み、
前記被覆層における前記無機物粒子及びバインダーの総質量に対し、前記バインダーの質量比が0.3超0.9以下であり、
前記被覆層の表面粗さが、1.20μm以上である、イオン交換膜。
[2]
前記無機物粒子が、周期律表IV族元素の酸化物、周期律表第IV族元素の窒化物及び周期律表第IV族元素の炭化物からなる群より選択される少なくとも一種の無機物を含む粒子である、[1]に記載のイオン交換膜。
[3]
前記無機物粒子が酸化ジルコニウムの粒子である、[1]又は[2]に記載のイオン交換膜。
[4]
前記膜本体が、スルホン酸基を有する含フッ素重合体を含む層Sと、カルボン酸基を有する含フッ素重合体を含む層Cと、当該層Sの内部に配置され、かつ、強化糸及び犠牲糸の少なくとも一方として機能する、複数の補強材と、を有し、
前記イオン交換膜を上面視したとき、前記補強材が存在しない領域の、純水中での膜断面平均厚さをAとし、前記強化糸同士が交差する領域および前記強化糸と前記犠牲糸が交差する領域の、純水中での膜断面平均厚さをBとした場合に、前記A及びBが式(1)を満たす、[1]~[3]のいずれかに記載のイオン交換膜。
2.0≦B/A≦5.0・・・(1)
[5]
無機物粒子、バインダー及び溶剤を含む塗布液をスプレー方式で噴霧し、乾燥することで膜本体の表面に被覆層を形成する工程を含み、
前記噴霧時の平均液滴径が100μm以下である、イオン交換膜の製造方法。
[6]
無機物粒子、バインダー及び溶剤を含む塗布液をスプレー方式で噴霧し、乾燥することで膜本体の表面に被覆層を形成する工程を含み、
前記乾燥時における前記膜本体の表面温度が、40℃以上であり、かつ、前記溶剤の沸点以下である、イオン交換膜の製造方法。
[7]
[1]~[4]のいずれかに記載のイオン交換膜を備える、電解槽。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電気分解に供した際に電解電圧を低減できる、イオン交換膜、イオン交換膜の製造方法及び電解槽を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】イオン交換膜の一実施形態を示す断面模式図である。
【
図2】イオン交換膜を構成しうる補強材の開口率を説明するための概略図である。
【
図3】本実施形態に係る膜厚さの測定位置の一例を示す上面視模式図である。
【
図4】本実施形態に係るイオン交換膜の厚さa測定位置の一例を示す断面模式図である。
【
図5】本実施形態に係るイオン交換膜の厚さa測定位置の一例を示す断面模式図である。
【
図6】本実施形態に係るイオン交換膜の厚さb測定位置の一例を示す断面模式図である。
【
図7】本実施形態に係るイオン交換膜の厚さb測定位置の一例を示す断面模式図である。
【
図8】イオン交換膜の連通孔を形成する方法を説明するための模式図である。
【
図9】電解槽の一実施形態を示す断面模式図である。
【
図10】実施例1~5及び比較例1~5の平均液滴径と電圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
なお、図面の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面中上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとし、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。ただし、当該図面は本実施形態の一例を示すものに過ぎず、本実施形態はこれらに限定して解釈されるものではない。
【0012】
本実施形態のイオン交換膜は、イオン交換基を有する含フッ素系重合体を含む膜本体と、前記膜本体の少なくとも一方の面上に配された被覆層と、を有するイオン交換膜であって、前記被覆層が、無機物粒子とバインダーとを含み、前記被覆層における前記無機物粒子及びバインダーの総質量に対し、前記バインダーの質量比が0.3超0.9以下であり、前記被覆層の表面粗さが、1.20μm以上である。このように構成されているため、本実施形態のイオン交換膜は、電気分解に供した際に電解電圧を低減することができる。したがって、本実施形態のイオン交換膜及びこれを含む電解槽は、塩化アルカリ電気分解(特に食塩電気分解)に好ましく用いることができる。
【0013】
図1は、イオン交換膜の一実施形態を示す断面模式図である。本実施形態のイオン交換膜1は、イオン交換基を有する含フッ素系重合体を含む膜本体10と、膜本体10の両面に形成された被覆層11a及び11bを有する。
【0014】
図1に例示されるように、イオン交換膜1において、膜本体10は、スルホ基由来のイオン交換基(-SO
3
-で表される基、以下「スルホン酸基」ともいう。)を有するスルホン酸層3と、カルボキシル基由来のイオン交換基(-CO
2
-で表される基、以下「カルボン酸基」ともいう。)を有するカルボン酸層2と、を備えるものとすることができ、さらに後述する補強材4により強度及び寸法安定性が強化されていてもよい。イオン交換膜1が、スルホン酸層3とカルボン酸層2とを備える場合、イオン交換膜としてより優れた性能を発現する傾向にある。
【0015】
本実施形態のイオン交換膜は、
図1に例示した構成に限定されず、スルホン酸層及びカルボン酸層のいずれか一方のみを有するものであってもよい。また、本実施形態のイオン交換膜は、必ずしも補強材により強化されている必要はなく、補強材の配置状態も
図1の例に限定されるものではない。さらに、被覆層は必ずしも膜本体の両面に配されている必要はなく、膜本体の一方の表面のみに配されるものであってもよい。
【0016】
(膜本体)
まず、本実施形態のイオン交換膜1を構成する膜本体10について説明する。
膜本体10は、陽イオンを選択的に透過する機能を有し、イオン交換基を有する含フッ素系重合体を含むものであればよく、その構成や材料は特に限定されず、種々公知の含フッ素系重合体を適宜選択して用いることができる。
【0017】
膜本体10におけるイオン交換基を有する含フッ素系重合体は、例えば、加水分解等によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体を有する含フッ素系重合体から得ることができる。具体的には、例えば、主鎖がフッ素化炭化水素からなり、加水分解等によりイオン交換基に変換可能な基(イオン交換基前駆体)をペンダント側鎖として有し、かつ、溶融加工が可能な重合体(以下、場合により「含フッ素系重合体(a)」という。)を用いて膜本体10の前駆体を作製した後、イオン交換基前駆体をイオン交換基に変換することにより、膜本体10を得ることができる。
【0018】
含フッ素系重合体(a)は、例えば、下記第1群より選ばれる少なくとも一種の単量体と、下記第2群及び/又は下記第3群より選ばれる少なくとも一種の単量体と、を共重合することにより製造することができる。また、下記第1群、下記第2群、及び下記第3群のいずれかより選ばれる1種の単量体の単独重合により製造することもできる。
【0019】
第1群の単量体としては、以下に限定されないが、例えば、フッ化ビニル化合物が挙げられる。フッ化ビニル化合物としては、以下に限定されないが、例えば、フッ化ビニル、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン及びパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)等が挙げられる。特に、本実施形態のイオン交換膜をアルカリ電解に用いる場合、フッ化ビニル化合物は、パーフルオロ単量体であることが好ましく、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン及びパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)からなる群より選ばれるパーフルオロ単量体が好ましい。
【0020】
第2群の単量体としては、以下に限定されないが、例えば、カルボン酸型イオン交換基(カルボン酸基)に変換し得る官能基を有するビニル化合物が挙げられる。カルボン酸基に変換し得る官能基を有するビニル化合物としては、以下に限定されないが、例えば、CF2=CF(OCF2CYF)s-O(CZF)t-COORで表される単量体等が挙げられる(ここで、sは0~2の整数を表し、tは1~12の整数を表し、Y及びZは、各々独立して、F又はCF3を表し、Rは低級アルキル基を表す。低級アルキル基は、例えば炭素数1~3のアルキル基である。)。
【0021】
これらの中でも、CF2=CF(OCF2CYF)n-O(CF2)m-COORで表される化合物が好ましい。ここで、nは0~2の整数を表し、mは1~4の整数を表し、YはF又はCF3を表し、RはCH3、C2H5、又はC3H7を表す。
【0022】
なお、本実施形態のイオン交換膜をアルカリ電解用のイオン交換膜として用いる場合、単量体としてパーフルオロ化合物を少なくとも用いることが好ましいが、エステル基のアルキル基(上記R参照)は加水分解される時点で重合体から失われるため、アルキル基(R)は全ての水素原子がフッ素原子に置換されているパーフルオロアルキル基でなくてもよい。
【0023】
第2群の単量体としては、上記の中でも下記に表す単量体がより好ましい。
CF2=CFOCF2-CF(CF3)OCF2COOCH3、
CF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF2)2COOCH3、
CF2=CF[OCF2-CF(CF3)]2O(CF2)2COOCH3、
CF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF2)3COOCH3、
CF2=CFO(CF2)2COOCH3、
CF2=CFO(CF2)3COOCH3。
【0024】
第3群の単量体としては、例えば、スルホン型イオン交換基(スルホン酸基)に変換し得る官能基を有するビニル化合物が挙げられる。スルホン酸基に変換し得る官能基を有するビニル化合物としては、例えば、CF2=CFO-X-CF2-SO2Fで表される単量体が好ましい(ここで、Xはパーフルオロアルキレン基を表す。)。これらの具体例としては、下記に表す単量体等が挙げられる。
CF2=CFOCF2CF2SO2F、
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2F、
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CF2SO2F、
CF2=CF(CF2)2SO2F、
CF2=CFO〔CF2CF(CF3)O〕2CF2CF2SO2F、
CF2=CFOCF2CF(CF2OCF3)OCF2CF2SO2F。
【0025】
これらの中でも、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CF2SO2F、及びCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2Fがより好ましい。
【0026】
これら単量体から得られる共重合体は、フッ化エチレンの単独重合及び共重合に対して開発された重合法、特にテトラフルオロエチレンに対して用いられる一般的な重合方法によって製造することができる。例えば、非水性法においては、パーフルオロ炭化水素、クロロフルオロカーボン等の不活性溶媒を用い、パーフルオロカーボンパーオキサイドやアゾ化合物等のラジカル重合開始剤の存在下で、温度0~200℃、圧力0.1~20MPaの条件下で、重合反応を行うことができる。
【0027】
上記共重合において、上記単量体の組み合わせの種類及びその割合は、特に限定されず、得られる含フッ素系重合体に付与したい官能基の種類及び量によって選択決定することができる。例えば、カルボン酸基のみを含有する含フッ素系重合体とする場合、上記第1群及び第2群から各々少なくとも1種の単量体を選択して共重合させればよい。また、スルホン酸基のみを含有する含フッ素系重合体とする場合、上記第1群及び第3群の単量体から各々少なくとも1種の単量体を選択して共重合させればよい。さらに、カルボン酸基及びスルホン酸基を有する含フッ素系重合体とする場合、上記第1群、第2群及び第3群の単量体から各々少なくとも1種の単量体を選択して共重合させればよい。この場合、上記第1群及び第2群よりなる共重合体と、上記第1群及び第3群よりなる共重合体とを、別々に重合し、後に混合することによっても目的の含フッ素系重合体を得ることができる。また、各単量体の混合割合は、特に限定されないが、単位重合体当たりの官能基の量を増やす場合、上記第2群及び第3群より選ばれる単量体の割合を増加させればよい。
【0028】
含フッ素系重合体の総イオン交換容量は特に限定されないが、0.5当量/g以上2.0mg当量/g以下であることが好ましく、0.6当量/g以上1.5mg当量/g以下であることがより好ましい。ここで、総イオン交換容量とは、乾燥樹脂の単位重量あたりの交換基の当量のことをいい、中和滴定等によって測定することができる。
【0029】
図1に例示するイオン交換膜1の膜本体10においては、スルホン酸基を有する含フッ素系重合体を含むスルホン酸層3と、カルボン酸基を有する含フッ素系重合体を含むカルボン酸層2とが積層されている。このような層構造の膜本体10とする場合、ナトリウムイオン等の陽イオンの選択的透過性が一層向上する傾向にある。
【0030】
図1に例示するイオン交換膜1を電解槽に配置する場合、通常、スルホン酸層3が電解槽の陽極側に、カルボン酸層2が電解槽の陰極側に、それぞれ位置するように配置される。
【0031】
スルホン酸層3は、電気抵抗が低い材料から構成されていることが好ましく、膜強度の観点から、膜厚がカルボン酸層2より厚いことが好ましい。スルホン酸層3の膜厚は、好ましくはカルボン酸層2の2倍以上25倍以下であり、より好ましくは3倍以上15倍以下である。
【0032】
カルボン酸層2は、膜厚が薄くても高いアニオン排除性を有するものであることが好ましい。ここでいうアニオン排除性とは、イオン交換膜1へのアニオンの侵入や透過を妨げようとする性質をいう。アニオン排除性を高くするためには、スルホン酸層に対し、イオン交換容量の小さいカルボン酸層を配すること等が有効である。
【0033】
スルホン酸層3に用いる含フッ素系重合体としては、例えば、第3群の単量体としてCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2Fを用いて得られた重合体を用いることが好ましい。
【0034】
カルボン酸層2に用いる含フッ素系重合体としては、例えば、第2群の単量体としてCF2=CFOCF2CF(CF2)O(CF2)2COOCH3を用いて得られた重合体を用いることが好ましい。
【0035】
(被覆層)
本実施形態のイオン交換膜は、膜本体の少なくとも一方の面上に配された被覆層を有する。また、
図1に例示されるイオン交換膜1においては、膜本体10の両面上にそれぞれ被覆層11a及び11bが形成されている。
【0036】
本実施形態における被覆層は無機物粒子とバインダーとを含み、被覆層の表面粗さは、1.20μm以上である。ここで、被覆層の表面粗さとは、後述する実施例に記載の測定方法によって算出される値を意味する。本実施形態において、上記表面粗さが十分に大きいことにより、電解中におけるイオン交換膜へのガス付着を抑制することができ、結果として電解電圧を十分に低減することができる。同様の観点から、上記表面粗さは、1.25μm以上であることが好ましく、1.30μm以上であることがより好ましい。上記表面粗さの上限値は特に限定されないが、剥離耐久性の観点から、2.50μm以下であることが好ましい。
本実施形態における被覆層の表面粗さは、以下に限定されないが、例えば、後述するとおり、スプレーによる塗布液噴霧時の塗布液の平均液滴径を十分に小さくすることにより、上記範囲に調整することができる。
【0037】
本実施形態における無機物粒子の平均粒径は、特に限定されないが、0.90μm以上であることが好ましい。無機物粒子の平均粒径が0.90μm以上である場合、不純物への耐久性がより向上する傾向にある。本実施形態では、不規則状の無機物粒子を用いることが好ましく、原石粉砕により得られる無機物粒子を用いることがより好ましい。
【0038】
また、無機物粒子の平均粒径は、2μm以下とすることができる。無機物粒子の平均粒径が2μm以下であれば、無機物粒子に起因する膜損傷を一層防止できる傾向にある。無機物粒子の平均粒径は、より好ましくは、0.90μm以上1.2μm以下である。さらに好ましくは、1μm以上1.2μm以下である。
【0039】
本明細書中、平均粒径とは、メディアン径(D50)を意味し、粒度分布計(「SALD2200」島津製作所)によって測定することができる。
【0040】
本実施形態における無機物粒子は、親水性であることが好ましい。親水性とは、固体表面が水に濡れやすい性質を示す。一般的には、接触角が小さいものを親水性と評価することができ、例えば、接触角が90°程度の無機物粒子も親水性と評価でき、接触角は90°以下が好ましく、40°以下であることがより好ましい。ここで、接触角とは、固体と液体の接点における液体表面の接線と固体表面とがなす角度を意味し、接触角計(「DMo-601」、協和界面化学製)を用いて、固体表面へ液滴を接触させ、着滴時の画像を解析することで算出できる。無機物粒子が親水性である場合、被覆層の表面に配向することで電解中におけるイオン交換膜へのガス付着をより抑制できる傾向にある。周期律表第IV族元素の酸化物、周期律表第IV族元素の窒化物、及び周期律表第IV族元素の炭化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の無機物を含むことがより好ましい。これらの具体例としては、以下に限定されないが、酸化ジルコニウム、酸化シリカ、酸化スズ、酸化チタン、酸化ニッケル、SiC、ZrC等が挙げられる。耐久性の観点から、酸化ジルコニウムの粒子がさらに好ましい。
【0041】
本実施形態における無機物粒子は、無機物粒子の原石を粉砕されることにより製造された無機物粒子であることが好ましい。なお、無機物粒子の原石を溶融して精製することによって、無機物粒子を製造し、粒子の径が揃った球状の粒子を無機物粒子として被覆層に使用することもできる。
【0042】
粉砕方法としては、特に限定されないが、ボールミル、ビーズミル、コロイドミル、コニカルミル、ディスクミル、エッジミル、製粉ミル、ハンマーミル、ペレットミル、VSIミル、ウィリーミル、ローラーミル、ジェットミルなどが挙げられる。また、粉砕後、洗浄されることが好ましく、そのとき洗浄方法としては、酸処理されることが好ましい。それによって、無機物粒子の表面に付着した鉄等の不純物を削減することができる。
【0043】
本実施形態において、被覆層はバインダーを含む。バインダーは、無機物粒子をイオン交換膜の表面に保持して、被覆層を成す成分である。バインダーは、電解液や電解による生成物への耐性の観点から、含フッ素系重合体を含むことが好ましい。バインダーとして被覆層に含まれる含フッ素系重合体は、膜本体を構成する含フッ素系重合体と同種のものを用いることができ、また、異なる種類のものを用いることもできる。このような含フッ素系重合体以外にも、被覆層におけるバインダー成分として種々公知の化合物を用いることができるが、バインダー中の含フッ素系重合体の含有量は、90質量%以上が好ましい。
【0044】
本実施形態におけるバインダーとしては、電解液や電解による生成物への耐性、及びイオン交換膜の表面への接着性の観点から、カルボン酸基又はスルホン酸基を有する含フッ素系重合体であることがより好ましい。スルホン酸基を有する含フッ素系重合体を含む層(スルホン酸層)上に被覆層を設ける場合、当該被覆層のバインダーとしては、スルホン酸基を有する含フッ素系重合体を用いることがさらに好ましい。また、カルボン酸基を有する含フッ素系重合体を含む層(カルボン酸層)上に被覆層を設ける場合、当該被覆層のバインダーとしては、カルボン酸基を有する含フッ素系重合体を用いることがさらに好ましい。
【0045】
本実施形態において、被覆層における前記無機物粒子及びバインダーの総質量に対し、前記バインダーの質量比は0.3超0.9以下である。本発明者らは、被覆層における上記バインダーの質量比を上昇させることにより、イオン交換膜自体のイオン透過抵抗が低減されることを見出した。すなわち、バインダーの質量比が0.3を超えることによって、イオン交換膜自体のイオン透過抵抗が一層低減されるため、上述したとおり被覆層の表面粗さを大きくすることと相俟って、電解電圧を大きく低減させることができる。同様の観点から、前記バインダーの質量比は0.3超0.7以下であることが好ましく、0.4以上0.6以下であることがより好ましい。
【0046】
イオン交換膜における被覆層の分布密度は、特に限定されないが、1cm2当り0.05mg以上2mg以下であることが好ましく、1cm2当り0.5mg以上2mg以下であることがより好ましい。上記分布密度は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。また、上記分布密度は、例えば、塗布の噴霧時の吐出量を変更することや塗り重ね回数変更などにより、上記範囲に調整することができる。
【0047】
(補強材)
本実施形態のイオン交換膜は、膜本体の内部に配置された補強材を有することが好ましい。
【0048】
本実施形態において、補強材とは、強化糸及び犠牲糸の少なくとも一方として機能するものであり、その例としては、以下に限定されないが、強化糸及び犠牲糸を織った織布等が挙げられる。補強材を膜本体の内部に配置させることで、特に、イオン交換膜の伸縮を所望の範囲に制御することができる。かかるイオン交換膜は、電解時等において、必要以上に伸縮せず、長期に優れた寸法安定性を維持することができる。
【0049】
補強材の構成は、特に限定されず、例えば、強化糸と呼ばれる糸を紡糸して形成させてもよい。ここでいう強化糸とは、補強材を構成する部材であって、イオン交換膜に所望の寸法安定性及び機械的強度を付与できるものであり、かつ、イオン交換膜中で安定に存在できる糸のことをいう。かかる強化糸を紡糸した補強材を用いることにより、一層優れた寸法安定性及び機械的強度をイオン交換膜に付与することができる。
【0050】
補強材及びこれに用いる強化糸の材料は、特に限定されないが、酸やアルカリ等に耐性を有する材料であることが好ましく、長期にわたる耐熱性、耐薬品性を付与する観点から、含フッ素系重合体から構成される繊維が好ましい。
【0051】
補強材に用いられる含フッ素系重合体としては、前述した膜本体に用いられるものを同じく使用できるが、特に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、トリフルオロクロルエチレン-エチレン共重合体及びフッ化ビニリデン重合体(PVDF)等を例示できる。これらのうち、特に耐熱性及び耐薬品性の観点からは、ポリテトラフルオロエチレンから構成される繊維を用いることが好ましい。
【0052】
補強材に用いられる強化糸の糸径は、特に限定されないが、好ましくは20~300デニール、より好ましくは50~250デニールである。織り密度(単位長さあたりの打ち込み本数)は、好ましくは5~50本/インチである。補強材の形態としては、特に限定されず、例えば、織布、不織布、編布等が用いられるが、織布の形態であることが好ましい。また、織布の厚みは、好ましくは30~250μm、より好ましくは30~150μmのものが使用される。
【0053】
織布又は編布は、モノフィラメント、マルチフィラメント又はこれらのヤーン、スリットヤーン等が使用でき、織り方は平織り、絡み織り、編織り、コード織り、シャーサッカ等の種々の織り方が使用できる。
【0054】
膜本体における補強材の織り方及び配置は、特に限定されず、イオン交換膜の大きさや形状、イオン交換膜に所望する物性及び使用環境等を考慮して適宜好適な配置とすることができる。
【0055】
例えば、膜本体の所定の一方向に沿って補強材を配置してもよいが、寸法安定性の観点から、所定の第一の方向に沿って補強材を配置し、かつ第一の方向に対して略垂直である第二の方向に沿って別の補強材を配置することが好ましい。膜本体の縦方向膜本体の内部において、略直行するように複数の補強材を配置することで、多方向において一層優れた寸法安定性及び機械的強度を付与することができる。例えば、膜本体の表面において縦方向に沿って配置された補強材(縦糸)と横方向に沿って配置された補強材(横糸)を織り込む配置が好ましい。縦糸と横糸を交互に浮き沈みさせて打ち込んで織った平織りや、2本の経糸を捩りながら横糸と織り込んだ絡み織り、2本又は数本ずつ引き揃えて配置した縦糸に同数の横糸を打ち込んで織った斜子織り(ななこおり)等とすることが、寸法安定性、機械的強度及び製造容易性の観点からより好ましい。
【0056】
特に、イオン交換膜のMD方向(Machine Direction方向)及びTD方向(Transverse Direction方向)の両方向に沿って補強材が配置されていることが好ましい。すなわち、MD方向とTD方向に平織りされていることが好ましい。ここで、MD方向とは、後述するイオン交換膜の製造工程において、膜本体や補強材が搬送される方向(流れ方向)をいい、TD方向とは、MD方向と略垂直の方向をいう。そして、MD方向に沿って織られた糸をMD糸といい、TD方向に沿って織られた糸をTD糸という。通常、電解に用いるイオン交換膜は、矩形状であり、長手方向がMD方向となり、幅方向がTD方向となることが多い。MD糸である補強材とTD糸である補強材を織り込むことで、多方向において一層優れた寸法安定性及び機械的強度を付与することができる。
【0057】
補強材の配置間隔は、特に限定されず、イオン交換膜に所望する物性及び使用環境等を考慮して適宜好適な配置とすることができる。
【0058】
補強材の開口率は、特に限定されず、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上90%以下である。開口率は、イオン交換膜の電気化学的性質の観点からは30%以上が好ましく、イオン交換膜の機械的強度の観点からは90%以下が好ましい。
【0059】
補強材の開口率とは、膜本体のいずれか一方の表面の面積(A)におけるイオン等の物質(電解液及びそれに含有される陽イオン(例えば、ナトリウムイオン))が通過できる表面の総面積(B)の割合(B/A)をいう。イオン等の物質が通過できる表面の総面積(B)とは、イオン交換膜において、陽イオンや電解液等が、イオン交換膜に含まれる補強材等によって遮断されない領域の総面積ということができる。
【0060】
図2は、イオン交換膜を構成する補強材の開口率を説明するための概略図である。
図2はイオン交換膜の一部を拡大し、その領域内における補強材21及び22の配置のみを図示しているものであり、他の部材については図示を省略している。
【0061】
縦方向に沿って配置された補強材21と横方向に配置された補強材22によって囲まれた領域であって、補強材の面積も含めた領域の面積(A)から補強材の総面積(C)を減じることにより、上述した領域の面積(A)におけるイオン等の物質が通過できる領域の総面積(B)を求めることができる。すなわち、開口率は、下記式(I)により求めることができる。
開口率=(B)/(A)=((A)-(C))/(A) …(I)
【0062】
補強材の中でも、特に好ましい形態は、耐薬品性及び耐熱性の観点から、PTFEを含むテープヤーン又は高配向モノフィラメントである。具体的には、PTFEからなる高強度多孔質シートをテープ状にスリットしたテープヤーン、又はPTFEからなる高度に配向したモノフィラメントの50~300デニールを使用し、かつ、織り密度が10~50本/インチである平織りであり、その厚みが50~100μmの範囲である補強材であることがより好ましい。かかる補強材を含むイオン交換膜の開口率は60%以上であることが更に好ましい。
【0063】
強化糸の形状としては、丸糸、テープ状糸等が挙げられる。好ましくは、丸糸である。
【0064】
(連通孔)
本実施形態のイオン交換膜は、膜本体の内部に連通孔を有することが好ましい。
【0065】
連通孔とは、電解の際に発生する陽イオンや電解液の流路となり得る孔をいう。また、連通孔とは、膜本体内部に形成されている管状の孔であり、後述する補強材(犠牲糸)が溶出することで形成される。連通孔の形状や径等は、補強材(犠牲糸)の形状や径を選択することによって制御することができる。
【0066】
イオン交換膜に連通孔を形成することで、電解の際に発生するアルカリイオンや電解液の移動性を確保できる。連通孔の形状は特に限定されないが、後述する製法によれば、連通孔の形成に用いられる補強材(犠牲糸)の形状とすることができる。
【0067】
本実施形態において、連通孔は、補強材の陽極側(スルホン酸層側)と陰極側(カルボン酸層側)を交互に通過するように形成されることが好ましい。かかる構造とすることで、補強材の陰極側に連通孔が形成されている部分では、連通孔に満たされている電解液を通して輸送された陽イオン(例えば、ナトリウムイオン)が、補強材の陰極側にも流れることができる。その結果、陽イオンの流れが遮蔽されることがないため、イオン交換膜の電気抵抗を更に低くすることができる。
【0068】
連通孔は、本実施形態のイオン交換膜を構成する膜本体の所定の一方向のみに沿って形成されていてもよいが、より安定した電解性能を発揮するという観点から、膜本体の縦方向と横方向との両方向に形成されていることが好ましい。
【0069】
(膜断面平均厚さ)
本実施形態において、膜本体が、スルホン酸基を有する含フッ素重合体を含むスルホン酸層(層S)と、カルボン酸基を有する含フッ素重合体を含むカルボン酸層(層C)と、当該層Sの内部に配置され、かつ、強化糸及び犠牲糸の少なくとも一方として機能する、複数の補強材と、を有し、本実施形態のイオン交換膜を上面視したとき、前記補強材が存在しない領域の、純水中での膜断面平均厚さをAとし、前記強化糸同士が交差する領域および前記強化糸と前記犠牲糸が交差する領域の、純水中での膜断面平均厚さをBとした場合に、前記A及びBが式(1)を満たすことが好ましい。
2.0≦B/A≦5.0・・・(1)
【0070】
[膜断面平均厚さA]
膜断面平均厚さAは、以下のように算出される。
図3で「〇」で示す位置は、イオン交換膜を上方視した際に、補強材を構成する強化糸及び犠牲糸が存在しない領域(ウインドウ部)の中心部であり、厚さaを計測する位置である。厚さaは
図4、ないしは
図5で示すとおり、膜の断面方向での、この位置での純水中での膜厚さがであるが、層Sの表面にイオン交換膜を形成するイオン交換樹脂のみで形成された凸部が存在する場合には、層Cの表面から凸部の底辺までの距離を厚さaとする。
厚さaの計測方法は、剃刀などを用いて、あらかじめ純水に浸漬したイオン交換膜の該当部分の断面を幅100μm程度に切削し、断面を上方に向けた状態で純水に浸漬させ、顕微鏡などを用いてその厚さを計測してもよいし、X線CTなどを用いて観測した、純水に浸漬させたイオン交換膜の該当部分の断層画像を用いて、その厚さを計測してもよい。
厚さaを15カ所で計測し、最も厚さが薄い部分の厚さをa(min)とする。
a(min)を異なる位置で3点算出し、その平均値が厚さAである。
上記Aの値は、本実施形態において、被覆層を形成する前であっても、形成した後であっても、上記した方法により測定することができる。
十分な膜の強度を確保する観点から、厚さAは40μm以上の厚さであることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。
厚さAは、例えば、層S及び層Cの各厚みを制御する他、イオン交換膜の製造時(特にフィルムと補強材の積層時)の製造条件(温度条件や延伸率)を後述する適切な範囲とすること等により、上述した好ましい範囲とすることができる。より具体的には、例えば、積層時のフィルム温度を高くすると、厚さAは小さくなる傾向にあり、延伸時の延伸倍率を低くすると、厚さAは大きくなる傾向にある。なお、上記に限定されるものではなく、例えば、用いる含フッ素重合体の流動特性等も考慮した上、積層の際の温度条件や延伸の際の延伸倍率を適宜調整することが好ましい。
【0071】
[膜断面平均厚さB]
膜断面平均厚さBは、以下のように算出される。
図3で「△」で示す位置は、補強材を構成する強化糸同士が交差する領域であり、
図1で「□」で示す位置は、補強材を構成する強化糸と犠牲糸が交差する領域であり、いずれも厚さbを計測する位置である。厚さbは
図6、ないしは
図7で示すとおり、膜の断面方向での、この領域で最も膜厚さが厚い位置の純水中での膜厚さであるが、層Sの表面にイオン交換膜を形成するイオン交換樹脂のみで形成された凸部が存在する場合には、層Cの表面から凸部の底辺までの距離を厚さbとする。なお、
図7に示す例は、層Sの表面にイオン交換膜を形成するイオン交換樹脂及び補強材で形成された凸部が存在する場合に該当し、層Cの表面から凸部先端までの距離を厚さbとする。
厚さbの計測方法は、剃刀などを用いて、あらかじめ純水に浸漬したイオン交換膜の該当部分の断面を幅100μm程度に切削し、断面を上方に向けた状態で純水に浸漬させ、顕微鏡などを用いてその厚さを計測してもよいし、X線CTなどを用いて観測した、純水に浸漬させたイオン交換膜の該当部分の断層画像を用いて、その厚さを計測してもよい。
厚さbを15カ所で計測し、最も厚さが厚い部分の厚さをb(max)とする。
b(max)を異なる位置で3点算出し、その平均値が厚さBである。
上記Bの値は、本実施形態において、被覆層を形成する前であっても、形成した後であっても、上記した方法により測定することができる。
ゼロギャップ電解槽を用いた塩化アルカリ電解では、電極間の距離はイオン交換膜の厚さで決定されるため、膜断面平均厚さBが厚ければ、極間抵抗が上昇し、電解電圧の上昇を引き起こす傾向にある。このため、厚さBは260μm以下の厚さであることが好ましく、240μm以下であることがより好ましく、220μm以下であることがさらに好ましい。
厚さBは、例えば、層S及び層Cの各厚みを制御する他、補強材の糸径、イオン交換膜の製造時(特にフィルムと補強材の積層時)の製造条件(温度条件や延伸率)を後述する適切な範囲とすること等により、上述した好ましい範囲とすることができる。より具体的には、例えば、積層時の外気温度を低くすると、厚さBは小さくなる傾向にあり、延伸時の延伸倍率を低くすると、厚さBは大きくなる傾向にある。なお、上記に限定されるものではなく、例えば、用いる含フッ素重合体の流動特性等も考慮した上、積層の際の温度条件や延伸の際の延伸倍率を適宜調整することが好ましい。
【0072】
[厚さ比B/A]
厚さ比B/Aは膜断面平均厚さBを膜断面平均厚さAで除した値である。
B/Aを大きくすることで、陽イオンが透過するウインドウ部の厚さが薄くなり、電解電圧を低減できる傾向にある。このため、B/Aは2.0以上であることが好ましく、2.3以上であることがより好ましく、2.5以上であることがさらに好ましい。
一方で、膜の表面の凹凸差が過度に大きくなると、塩化アルカリ電解で発生するガスの気泡が、凹部となるウインドウ部に溜まりやすくなり、ガスがイオン交換膜の表面に付着して陽イオンの透過を妨げる傾向にあるため、これを防止して電解電圧を十分に低減する観点から、B/Aは5.0以下であることが好ましく、4.5以下であることがより好ましく、4.0以下であることがさらに好ましい。
【0073】
〔製造方法〕
本実施形態に係るイオン交換膜の製造方法としては、上述した構成のイオン交換膜が得られる限り特に限定されないが、以下の(1)工程~(6)工程を有する方法により製造することが好ましい。
(1)工程:イオン交換基、又は、加水分解によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体を有する含フッ素系重合体を製造する工程。
(2)工程:必要に応じて、複数の強化糸と、酸又はアルカリに溶解する性質を有し、連通孔を形成する犠牲糸と、を少なくとも織り込むことにより、隣接する強化糸同士の間に犠牲糸が配置された補強材を得る工程。
(3)工程:イオン交換基、又は、加水分解によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体を有する前記含フッ素系重合体をフィルム化する工程。
(4)工程:前記フィルムに必要に応じて前記補強材を埋め込んで、前記補強材が内部に配置された膜本体を得る工程。
(5)工程:(4)工程で得られた膜本体を加水分解する工程(加水分解工程)。
(6)工程:(5)工程で得られた膜本体に、被覆層を設ける工程(コーティング工程)。
【0074】
本実施形態のイオン交換膜の製造方法は、(6)コーティング工程において、塗布液の噴霧時における平均液滴径を小さくすることを主な特徴とする。以下、各工程について詳述する。
【0075】
(1)工程:含フッ素系重合体を製造する工程
(1)工程では、上記第1群~第3群に記載した原料の単量体を用いて含フッ素系重合体を製造する。含フッ素系重合体のイオン交換容量を制御するためには、各層を形成する含フッ素系重合体の製造において、原料の単量体の混合比を調整すればよい。
【0076】
(2)工程:補強材の製造工程
補強材とは、強化糸を織った織布等である。補強材が膜内に埋め込まれることで、補強材が内在する膜本体を得ることができる。連通孔を有するイオン交換膜とするときには、犠牲糸も一緒に織り込まれた補強材を用いる。この場合の犠牲糸の混織量は、好ましくは補強材全体の10~80質量%、より好ましくは30~70質量%である。犠牲糸を織り込むことにより、補強材の目ズレを防止することもできる。
【0077】
犠牲糸は、膜の製造工程もしくは電解環境下において溶解性を有するものであり、レーヨン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、セルロース及びポリアミド等が用いられる。また、20~50デニールの太さを有し、モノフィラメント又はマルチフィラメントからなるポリビニルアルコール等も好ましい。
【0078】
なお、(2)工程において、補強材の配置を調整することにより、開口率や連通孔の配置等を制御することができる。
【0079】
(3)工程:フィルム化工程
(3)工程では、前記(1)工程で得られた含フッ素系重合体を、押出し機を用いてフィルム化する。フィルムは単層構造でもよいし、上述したように、スルホン酸層とカルボン酸層との2層構造でもよいし、3層以上の多層構造であってもよい。
【0080】
フィルム化する方法としては例えば、以下のものが挙げられる。
カルボン酸基を有する含フッ素系重合体、スルホン酸基を有する含フッ素系重合体をそれぞれ別々にフィルム化する方法。
カルボン酸基を有する含フッ素系重合体と、スルホン酸基を有する含フッ素系重合体とを共押出しにより、複合フィルムとする方法。
【0081】
なお、フィルムはそれぞれ複数枚であってもよい。また、異種のフィルムを共押出しすることは、界面の接着強度を高めることに寄与するため、好ましい。
【0082】
(4)工程:膜本体を得る工程
(4)工程では、(2)工程で得た補強材を、(3)工程で得たフィルムの内部に埋め込むことで、補強材が内在する膜本体を得る。
【0083】
膜本体の好ましい形成方法としては、(i)陰極側に位置するカルボン酸基前駆体(例えば、カルボン酸エステル官能基)を有する含フッ素系重合体(以下、これからなる層を第一層という)と、スルホン酸基前駆体(例えば、スルホニルフルオライド官能基)を有する含フッ素系重合体(以下、これからなる層を第二層という)を共押出し法によってフィルム化し、必要に応じて加熱源及び真空源を用いて、表面上に多数の細孔を有する平板またはドラム上に、透気性を有する耐熱性の離型紙を介して、補強材、第二層/第一層複合フィルムの順に積層して、各重合体が溶融する温度下で減圧により各層間の空気を除去しながら一体化する方法;(ii)第二層/第一層複合フィルムとは別に、スルホン酸基前駆体を有する含フッ素系重合体(第三層)を予め単独でフィルム化し、必要に応じて加熱源及び真空源を用いて、表面上に多数の細孔を有する平板又はドラム上に透気性を有する耐熱性の離型紙を介して、第三層フィルム、補強材、第二層/第一層からなる複合フィルムの順に積層して、各重合体が溶融する温度下で減圧により各層間の空気を除去しながら一体化する方法が挙げられる。
【0084】
ここで、第一層と第二層とを共押出しすることは、界面の接着強度を高めることに寄与するため好ましい。
【0085】
また、減圧下で一体化する方法は、加圧プレス法に比べて、補強材上の第三層の厚みが大きくなる傾向にあり、更に、補強材が膜本体の内面に固定されているため、イオン交換膜の機械的強度が十分に保持できる傾向にあるため好ましい。
【0086】
なお、ここで説明した積層のバリエーションは一例であり、所望する膜本体の層構成や物性等を考慮して、適宜好適な積層パターン(例えば、各層の組合せ等)を選択した上で、共押出しすることができる。
【0087】
なお、イオン交換膜の電気的性能をさらに高める目的で、第一層と第二層との間に、カルボン酸基前駆体とスルホン酸基前駆体の両方を有する含フッ素系重合体からなる第四層をさらに介在させることや、第二層の代わりにカルボン酸基前駆体とスルホン酸基前駆体の両方を有する含フッ素系重合体からなる第四層を用いることも可能である。
【0088】
第四層の形成方法は、カルボン酸基前駆体を有する含フッ素系重合体と、スルホン酸基前駆体を有する含フッ素系重合体と、を別々に製造した後に混合する方法でもよく、カルボン酸基前駆体を有する単量体とスルホン酸基前駆体を有する単量体とを共重合したものを使用する方法でもよい。
【0089】
第四層をイオン交換膜の構成とする場合には、第一層と第四層との共押出しフィルムを成形し、第三層と第二層はこれとは別に単独でフィルム化し、前述の方法で積層してもよいし、第一層/第四層/第二層の3層を一度に共押し出しでフィルム化してもよい。
【0090】
この場合、押出しされたフィルムが流れていく方向が、MD方向である。このようにして、イオン交換基を有する含フッ素系重合体を含む膜本体を、補強材上に形成することができる。
【0091】
また、本実施形態のイオン交換膜は、スルホン酸層からなる表面側に、スルホン酸基を有する含フッ素系重合体からなる突出した部分、すなわち凸部を有することが好ましい。このような凸部を形成する方法としては、特に限定されず、樹脂表面に凸部を形成する公知の方法を採用することができる。具体的には、例えば、膜本体の表面にエンボス加工を施す方法が挙げられる。例えば、前記した複合フィルムと補強材等とを一体化する際に、予めエンボス加工された離型紙を用いることによって、上記の凸部を形成させることができる。エンボス加工により凸部を形成する場合、凸部の高さや配置密度の制御は、転写するエンボス形状(離型紙の形状)を制御することで行うことができる。
【0092】
(5)加水分解工程
(5)工程では、(4)工程で得られた膜本体を加水分解して、イオン交換基前駆体をイオン交換基に変換する工程(加水分解工程)を行う。
【0093】
また、(5)工程では、膜本体に含まれている犠牲糸を酸又はアルカリで溶解除去することで、膜本体に溶出孔を形成させることができる。なお、犠牲糸は、完全に溶解除去されずに、連通孔に残っていてもよい。また、連通孔に残っていた犠牲糸は、イオン交換膜が電解に供された際、電解液により溶解除去されてもよい。
【0094】
犠牲糸は、イオン交換膜の製造工程や電解環境下において、酸又はアルカリに対して溶解性を有するものであり、犠牲糸が溶出することで当該部位に連通孔が形成される。
【0095】
(5)工程は、酸又はアルカリを含む加水分解溶液に(4)工程で得られた膜本体を浸漬して行うことができる。該加水分解溶液としては、例えば、KOHとDMSO(Dimethyl sulfoxide)とを含む混合溶液を用いることができる。
【0096】
該混合溶液は、KOHを2.5~4.0N含み、DMSOを25~35質量%含むことが好ましい。
【0097】
加水分解の温度としては、70~100℃であることが好ましい。温度が高いほど、見かけ厚みをより厚くすることができる。より好ましくは、85~100℃である。
【0098】
加水分解の時間としては、10~120分であることが好ましい。時間が長いほど、見かけ厚みをより厚くすることができる。より好ましくは、20~120分である。
【0099】
ここで、犠牲糸を溶出させることで連通孔形成する工程についてより詳細に説明する。
図8(a)、(b)は、本実施形態におけるイオン交換膜の連通孔を形成する方法を説明するための模式図である。
【0100】
図8(a)、(b)では、強化糸52と犠牲糸504aと犠牲糸504aにより形成される連通孔504のみを図示しており、膜本体等の他の部材については、図示を省略している。
【0101】
まず、強化糸52と、イオン交換膜中で連通孔504を形成するための犠牲糸504aとを編み込み、補強材とする。そして、(5)工程において犠牲糸504aが溶出することで連通孔504が形成される。
【0102】
上記方法によれば、イオン交換膜の膜本体内において強化糸、連通孔を如何なる配置とするのかに応じて、強化糸52と犠牲糸504aの編み込み方を調整すればよいため簡便である。
【0103】
図8(a)では、紙面において縦方向と横方向の両方向に沿って強化糸52と犠牲糸504aを織り込んだ平織りの補強材を例示しているが、必要に応じて補強材における強化糸52と犠牲糸504aの配置を変更することができる。
【0104】
(6)コーティング工程
(6)工程では、無機物粒子、バインダー及び溶剤を含む塗布液をスプレー方式で噴霧し、乾燥することで膜本体の表面に被覆層を形成する。
本実施形態においては、噴霧時の塗布液の平均液滴径を100μm以下とすることが好ましい。本実施形態において、イオン交換膜自体のイオン透過抵抗を一層低減する観点から、上記塗布液における無機物粒子及びバインダーの総質量に対する、前記バインダーの質量比は0.3超0.9以下であることが好ましい。同様の観点から、前記バインダーの質量比は0.3以上0.7以下であることがより好ましい。なお、上記した仕込み比としての塗布液中のバインダー質量比は、被覆層を形成した後のバインダー比率と一致するため、イオン交換膜における被覆層中のバインダー比率は、仕込み比から特定することができる。
本実施形態においては、噴霧時の液滴を十分に小さくすることで、当該液滴に含まれる無機物粒子の周囲に存在するバインダー層の厚みが小さくなり、その状態で液滴が膜本体に接触すると、無機物粒子は表面に露出しやすくなる。したがって、形成される被覆層の表面側に無機物粒子が配向しやすくなる。このように、噴霧時の液滴を十分に小さくすることで、バインダー比率が高い塗布液を使用しているにもかかわらず、被覆層の表面粗さを十分に大きくすることができる。
具体的には、平均液滴径を100μm以下とすることにより、当該液滴に含まれる無機物粒子の周囲に存在するバインダー層の厚みが過度に大きくなることを防止できる傾向にあり、その状態で液滴が膜本体に接触することで、無機物粒子がバインダーに埋もれて表面に露出し難くなるといった不都合が生じにくい。したがって、形成される被覆層の表面側に無機物粒子が配向しやすくなる。このように、噴霧時の液滴を小さくすることで、バインダー比率が高い塗布液を使用する場合であっても被覆層の表面粗さを十分に大きくできる傾向にある。
上述した観点から、上記平均液滴径は、80μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
上記平均液滴径は、実施例に記載の方法により測定することができる。また、上記平均液滴径は、例えば、スプレーのノズル径等によって上記範囲に調整することができる。
なお、本実施形態において、被覆層の乾燥時、基材であるイオン交換膜の膜本体の表面温度(以下、「基材表面温度」ともいう。)が低い状態である場合、噴霧時の平均液滴径が小さい場合でも、被覆層の乾燥が促進されず、着弾した液滴同士が接着しやすくなるため、表面粗さが小さくなる場合がある。
したがって、バインダー比率が高い塗布液を使用する場合、表面粗さを十分に大きくする観点から、噴霧時の液滴径を小さくするだけでなく、基材表面温度を高めた状態で乾燥を実施することが好ましい。
さらに、基材表面温度が高過ぎると被覆層が脆くなり、被覆層が脱落しやすくなる傾向にあり、基材表面温度が低すぎる場合、具体的には、40℃未満である場合、被覆層の表面粗さを十分に大きくし難くなる傾向にある。
上述した観点から、被覆層の乾燥時における上記基材表面温度は、40℃以上かつ溶剤の沸点以下であることが好ましい。
上記基材表面温度は、接触式の温度計にて測定することができる。また、基材表面への加熱方法は、例えば、加熱ヒーターや温風等によって、上記範囲に調整することができる。
本実施形態のイオン交換膜における被覆層の表面粗さをより好ましい範囲に調整する観点から、(6)コーティング工程において、噴霧時の塗布液の平均液滴径を100μm以下とし、かつ、被覆層の乾燥時における上記基材表面温度を40℃以上かつ溶剤の沸点以下とすることがとりわけ好ましい。
【0105】
無機物粒子としては、原石粉砕により得られたものを好ましく用いることができ、バインダーとしては、イオン交換基前駆体を有する含フッ素系重合体を、ジメチルスルホキシド(DMSO)及び水酸化カリウム(KOH)を含む水溶液で加水分解した後、塩酸に浸漬してイオン交換基の対イオンをH+に置換したバインダー(例えば、カルボキシル基又はスルホ基を有する含フッ素系重合体)を好ましく用いることができる。かかるバインダーは、後述する水やエタノールに溶解しやすくなるため、好ましい。
【0106】
このバインダーを、例えば、水とエタノールを混合した溶液に溶解することが好ましい。なお、水とエタノールの好ましい体積比10:1~1:10であり、より好ましくは、5:1~1:5であり、さらに好ましくは、2:1~1:2である。このようにして得た溶解液中に、無機物粒子をボールミルで分散させて塗布液を得る。このとき、分散する際の、時間、回転速度を調整することでも、無機物粒子の平均粒径等を調整することができる。その際の無機物粒子とバインダーの好ましい配合量は、前述のとおりである。
【0107】
塗布液中の無機物粒子及びバインダーの濃度については、特に限定されないが、薄い塗布液とする方が好ましい。それによって、イオン交換膜の表面に均一に塗布することが可能となる。
【0108】
また、無機物粒子を分散させる際に、界面活性剤を分散液に添加してもよい。界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤が好ましく、以下に限定されないが、例えば、日油株式会社製HS-210、NS-210、P-210、E-212等が挙げられる。
【0109】
得られた塗布液を、スプレー塗布で膜本体の少なくとも一方の表面に塗布することで被覆層が形成され、本実施形態のイオン交換膜が得られる。
【0110】
〔電解槽〕
本実施形態のイオン交換膜は、電解槽の構成部材として使用することができる。すなわち、本実施形態の電解槽は、本実施形態のイオン交換膜を備える。
図9は、本実施形態に係る電解槽の一実施形態の模式図である。
【0111】
本実施形態の電解槽100は、陽極200と、陰極300と、陽極200と陰極300との間に配置された、本実施形態のイオン交換膜1と、を少なくとも備える。ここでは、上記したイオン交換膜1を備えた電解槽100を一例として説明しているが、これに限定されるものではなく、本実施形態の効果の範囲内で種々構成を変形して実施することができる。
【0112】
かかる電解槽100は、種々の電解に使用できるが、以下、代表例として、塩化アルカリ水溶液の電解に使用する場合について説明する。
【0113】
電解条件は、特に限定されず、公知の条件で行うことができる。例えば、陽極室に2.5~5.5規定(N)の塩化アルカリ水溶液を供給し、陰極室は水又は希釈した水酸化アルカリ水溶液を供給し、直流電流にて電解を実施する。
【0114】
本実施形態に係る電解槽の構成は、特に限定されず、例えば、単極式でも複極式でもよい。電解槽100を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、陽極室の材料としては、塩化アルカリ及び塩素に耐性があるチタン等が好ましく、陰極室の材料としては、水酸化アルカリ及び水素に耐性があるニッケル等が好ましい。電極の配置は、イオン交換膜1と陽極200との間に適当な間隔を設けて配置してもよいが、陽極200とイオン交換膜1が接触して配置されていても、何ら問題なく使用できる。また、陰極は一般的にはイオン交換膜と適当な間隔を設けて配置されているが、この間隔がない接触型の電解槽(ゼロギャップ式電解槽)であっても、何ら問題なく使用できる。
【実施例】
【0115】
以下に、本実施形態を実施例に基づいて更に詳細に説明する。本実施形態はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0116】
[実施例1]
強化糸として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製であり、100デニールのテープヤーンに900回/mの撚りを掛けて糸状にしたものを用いた(以下、PTFE糸という。)。経糸の犠牲糸として、35デニール、8フィラメントのポリエチレンテレフタレート(PET)を200回/mの撚りを掛けた糸を用いた(以下、PET糸という。)。また、緯糸の犠牲糸として、35デニール、8フィラメントのポリエチレンテレフタレート(PET)を200回/mの撚りを掛けた糸を用いた(以下、PET糸という。)。まず、PTFE糸が24本/インチ、犠牲糸が隣接するPTFE糸間に2本配置するように平織りして、厚さ100μmの織布を得た。
【0117】
次に、CF2=CF2とCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2COOCH3との共重合体でイオン交換容量が0.85mg当量/gである乾燥樹脂のポリマー(A1)、CF2=CF2とCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2Fとの共重合体でイオン交換容量が1.03mg当量/gである乾燥樹脂のポリマー(B1)を準備した。これらのポリマー(A1)及び(B1)を使用し、共押出しTダイ法にて、ポリマー(A1)層の厚みが20μm、ポリマー(B1)層の厚みが94μmである、2層フィルムXを得た。なお、各ポリマーのイオン交換容量は、各ポリマーのイオン交換基前駆体を加水分解してイオン交換基に変換した際のイオン交換容量を示す。
【0118】
CF2=CF2とCF2=CFO-CF2CF(CF3)O-(CF2)2-SO2Fとの共重合体でイオン交換容量が1.05m当量/gのポリマーを得た。これを単層Tダイで押し出し、厚み20μmの単層フィルムYを得た。
【0119】
続いて、内部に加熱源及び真空源を有し、その表面に微細孔を有するドラム上に、予めエンボス加工した離型紙、フィルムY、補強材(上記で得られた織布)及びフィルムXの順に積層し、ドラム温度240℃、減圧度0.067MPaの条件で2分間加熱減圧した後、離型紙を取り除くことで凹凸形状を有する複合膜を得た。得られた複合膜を、90℃のジメチルスルホキシド(DMSO)30質量%、水酸化カリウム(KOH)15質量%を含む水溶液に1時間浸漬することでケン化した後に、90℃の0.5NのNaOHに1時間浸漬して、イオン交換基についたイオンをNaに置換し、続いて水洗した。さらに60℃で乾燥し、膜本体を得た。
【0120】
また、CF2=CF2とCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2Fとの共重合体でイオン交換容量が1.05mg当量/gである乾燥樹脂のポリマー(B3)を加水分解した後、塩酸で酸型にした。この酸型のポリマー(B3)を、水及びエタノールの50/50(質量比)混合液に5質量%の割合で溶解させた溶液に、一次粒子径が1.15μmの酸化ジルコニウム粒子を、ポリマー(B3)と酸化ジルコニウム粒子の合算質量に対する、ポリマー(B3)質量比が0.33となるように加えた。その後、ボールミルで酸化ジルコニウム粒子の懸濁液中での平均粒径が0.94μmになるまで分散させて懸濁液を得た。なお、酸化ジルコニウムとしては、原石粉砕したものを用いた。なお、上記平均粒径は、メディアン径(D50)であり、粒度分布計(「SALD2200」島津製作所)により測定した。
【0121】
その懸濁液をスプレー法でイオン交換膜の両表面に塗布した。その際、スプレーの平均液滴径を46μmに調節した。また、膜本体の表面温度を57℃に調節し、乾燥させることにより、ポリマー(B3)と酸化ジルコニウム粒子を含む被覆層を有するイオン交換膜を得た。このイオン交換膜において、バインダー中の含フッ素系重合体の含有量は、100質量%であった。なお、平均液滴径は、体積平均直径D(4,3)を意味し、その測定に際しては、Malvern社製の「Spraytec」を用い、25℃雰囲気下で、ノズル先端部から液滴吐出方向に200mmの位置の液滴を対象として、レーザーの散乱光強度から液滴径を求めた。以下でも同様に平均液滴径を求めた。
【0122】
蛍光X線測定で乾燥後の被覆層に存在する元素の定性及び定量を行った結果、塗布密度は、1cm
2当たり0.5mgと算出された。
また、被覆層の表面粗さをレーザー顕微鏡(キーエンス社製「VK-9700」)により測定した。すなわち、レーザー顕微鏡で、線粗さを求め、膜本体のうねりを傾き補正し、コーティング粗さのみ抽出することで表面粗さを求めた。線粗さを求めるに際して、被覆層表面を上方から見たときに、強化糸及び犠牲糸由来の連通孔が存在しない領域(すなわち、
図3の斜線部)の隣接する4か所を対象として、測定線幅20μmとし、10点を測定して平均値を求めた。さらに、傾き補正に際しては、対象物が傾いていた場合に傾きを補正するレーザー顕微鏡(キーエンス社製「VK-9700」)の機能を用いた。上記の結果、被覆層の表面粗さは、1.34μmであった。
【0123】
[電解評価]
電解に用いる電解槽としては、陽極と陰極との間にイオン交換膜を配置した構造であり、自然循環型のゼロギャップ電解セルを4個直列に並べたものを用いた。陰極としては、触媒として酸化セリウム、酸化ルテニウムが塗布された直径0.15mmのニッケルの細線を50メッシュの目開きで編んだウーブンメッシュを用いた。陰極とイオン交換膜を密着させるため、ニッケル製のエキスパンドメタルからなる集電体と陰極との間に、ニッケル細線で編んだマットを配置した。陽極としては、触媒としてルテニウム酸化物、イリジウム酸化物及びチタン酸化物が塗布されたチタン製のエキスパンドメタルを用いた。上記電解槽を用いて、陽極側に205g/Lの濃度になるように調整しつつ塩水を供給し、陰極側の苛性ソーダ濃度を32質量%に保ちつつ水を供給した。電解槽の温度を85℃に設定して、6kA/m2の電流密度で、電解槽の陰極側の液圧が陽極側の液圧よりも5.3kPa高い条件で電解を行った。電解槽の陽陰極間の対間電圧を、KEYENCE社製電圧計TR-V1000で毎日測定し、7日間の平均値を電解電圧として求めた。
【0124】
乾燥した被覆層を有するイオン交換膜を2質量%増となるように湿潤させたのち、このイオン交換膜を用いて電解性能評価を行った結果、電圧は、3.07Vと低い値を示した。
【0125】
[膜断面平均厚さAの測定]
被覆層形成後のイオン交換膜から被覆層を除去したものを、層C側、又は層S側から当該層の表面に対して垂直な方向に切断し、長辺が6mm以上、短辺が約100μmとなるサンプルを得た。その際、
図4に示すように、サンプルの各辺が、4本の強化糸と各々平行になるようにした。含水した状態で断面を上部に向けて光学顕微鏡を用いて厚みを実測した。その際、切り落とす部分は2本以上の隣り合う強化糸と、2本以上の隣り合う(犠牲糸由来の)連通孔と、当該強化糸及び連通孔に囲まれた領域の中心部分であり、
図3で「〇」で示す部分と、を含むものとした。また、切り落とす断片は、切削方向に垂直な強化糸を6本以上含むようにし、3ヶ所で断片を採取した。得られた各断片の断面図から、
図4~5に示すようにaを測定してa(min)をそれぞれ算出し、3点のa(min)から膜断面平均厚さAを算出したところ、120μmであった。
【0126】
[膜断面平均厚さBの測定]
被覆層形成後のイオン交換膜から被覆層を除去したものを、層C側、又は層S側から当該層の表面に対して垂直な方向に切断し、長辺が6mm以上、短辺が約100μmとなるサンプルを得た。その際、
図4に示すように、サンプルの各辺が、4本の強化糸と各々平行になるようにした。含水した状態で断面を上部に向けて光学顕微鏡を用いて厚みを実測した。その際、切り落とす部分は強化糸の中心部分であり、
図3で□、及び△で示す部分を含むものとした。また、切り落とす断片は、切削方向に垂直な強化糸を15本以上含むようにし、3ヶ所で断片を採取した。得られた各断片の断面図から、
図6~7に示すようにbを測定してb(max)をそれぞれ算出し、3点のb(max)から膜断面平均厚さBを算出したところ、260μmであった。すなわち、B/Aの値は2.17であった。
【0127】
[実施例2]
実施例1において、スプレーの平均液滴径の調節を80μmに変更したこと以外は、実施例1と同様にイオン交換膜を作製した。このイオン交換膜において、バインダー中の含フッ素系重合体の含有量は、100質量%であった。
【0128】
乾燥後の被覆層の塗布密度を実施例1と同様に測定した結果、1cm2当たり0.5mgであった。また、被覆層の表面粗さを実施例1と同様に測定した結果、1.32μmであった。さらに、膜断面平均厚さA、膜断面平均厚さB、及びA/Bを実施例1と同様に同様に測定した結果、それぞれ、120μm、260μm、及び2.17であった。
【0129】
[電解評価]
乾燥した被覆層を有するイオン交換膜を2質量%増となるように湿潤させたのち、このイオン交換膜を用いたことを除き、実施例1と同一の条件で電解性能評価を行った結果、電圧は、3.07Vと低い値を示した。
【0130】
[実施例3]
実施例1において、ポリマー(B3)と酸化ジルコニウム粒子の合算質量に対する、ポリマー(B3)質量比が0.4とした懸濁液を使用したこと以外は、実施例1と同様にイオン交換膜を作製した。このイオン交換膜において、バインダー中の含フッ素系重合体の含有量は、100質量%であった。
【0131】
乾燥後の被覆層の塗布密度を実施例1と同様に測定した結果、1cm2当たり0.5mgであった。また、被覆層の表面粗さを実施例1と同様に測定した結果、1.49μmであった。さらに、膜断面平均厚さA、膜断面平均厚さB、及びA/Bを実施例1と同様に同様に測定した結果、それぞれ、120μm、260μm、及び2.17であった。
【0132】
[電解評価]
乾燥した被覆層を有するイオン交換膜を2質量%増となるように湿潤させたのち、このイオン交換膜を用いたことを除き、実施例1と同一の条件で電解性能評価を行った結果、電圧は、3.06Vと低い値を示した。
【0133】
[実施例4]
実施例3において、スプレーの平均液滴径の調節を80μmに変更したこと以外は、実施例1と同様にイオン交換膜を作製した。このイオン交換膜において、バインダー中の含フッ素系重合体の含有量は、100質量%であった。
【0134】
乾燥後の被覆層の塗布密度を実施例1と同様に測定した結果、1cm2当たり0.5mgであった。また、被覆層の表面粗さを実施例1と同様に測定した結果、1.24μmであった。さらに、膜断面平均厚さA、膜断面平均厚さB、及びA/Bを実施例1と同様に同様に測定した結果、それぞれ、120μm、260μm、及び2.17であった。
【0135】
[電解評価]
乾燥した被覆層を有するイオン交換膜を2質量%増となるように湿潤させたのち、このイオン交換膜を用いたことを除き、実施例1と同一の条件で電解性能評価を行った結果、電圧は、3.07Vと低い値を示した。
【0136】
[実施例5]
実施例1において、ポリマー(B3)と酸化ジルコニウム粒子の合算質量に対する、ポリマー(B3)質量比が0.6とした懸濁液を使用したこと以外は、実施例1と同様にイオン交換膜を作製した。このイオン交換膜において、バインダー中の含フッ素系重合体の含有量は、100質量%であった。
【0137】
乾燥後の被覆層の塗布密度を実施例1と同様に測定した結果、1cm2当たり0.5mgであった。また、被覆層の表面粗さを実施例1と同様に測定した結果、1.51μmであった。さらに、膜断面平均厚さA、膜断面平均厚さB、及びA/Bを実施例1と同様に同様に測定した結果、それぞれ、120μm、260μm、及び2.17であった。
【0138】
[電解評価]
乾燥した被覆層を有するイオン交換膜を2質量%増となるように湿潤させたのち、このイオン交換膜を用いたことを除き、実施例1と同一の条件で電解性能評価を行った結果、電圧は、3.05Vと低い値を示した。
【0139】
[実施例6]
実施例3において、噴霧時の膜本体の表面温度を46℃に変更したこと以外は、実施例3と同様にイオン交換膜を作製した。このイオン交換膜において、バインダー中の含フッ素系重合体の含有量は、100質量%であった。
【0140】
乾燥後の被覆層の塗布密度を実施例1と同様に測定した結果、1cm2当たり0.5mgであった。また、被覆層の表面粗さを実施例1と同様に測定した結果、1.23μmであった。さらに、膜断面平均厚さA、膜断面平均厚さB、及びA/Bを実施例1と同様に同様に測定した結果、それぞれ、120μm、260μm、及び2.17であった。
【0141】
[電解評価]
乾燥した被覆層を有するイオン交換膜を2質量%増となるように湿潤させたのち、このイオン交換膜を用いたことを除き、実施例1と同一の条件で電解性能評価を行った結果、電圧は、3.07Vと低い値を示した。
【0142】
[実施例7]
実施例1において、ポリマー(B3)と酸化ジルコニウム粒子の合算質量に対する、ポリマー(B3)質量比が0.7とした懸濁液を使用したこと以外は、実施例1と同様にイオン交換膜を作製した。このイオン交換膜において、バインダー中の含フッ素系重合体の含有量は、100質量%であった。
【0143】
乾燥後の被覆層の塗布密度を実施例1と同様に測定した結果、1cm2当たり0.5mgであった。また、被覆層の表面粗さを実施例1と同様に測定した結果、1.36μmであった。さらに、膜断面平均厚さA、膜断面平均厚さB、及びA/Bを実施例1と同様に同様に測定した結果、それぞれ、120μm、260μm、及び2.17であった。
【0144】
[電解評価]
乾燥した被覆層を有するイオン交換膜を2質量%増となるように湿潤させたのち、このイオン交換膜を用いたことを除き、実施例1と同一の条件で電解性能評価を行った結果、電圧は、3.07Vと低い値を示した。
【0145】
[比較例1]
実施例1において、スプレーの平均液滴径の調節を154μmに変更したこと以外は、実施例1と同様にイオン交換膜を作製した。このイオン交換膜において、バインダー中の含フッ素系重合体の含有量は、100質量%であった。
【0146】
乾燥後の被覆層の塗布密度を実施例1と同様に測定した結果、1cm2当たり0.5mgであった。また、被覆層の表面粗さを実施例1と同様に測定した結果、1.19μmであった。さらに、膜断面平均厚さA、膜断面平均厚さB、及びA/Bを実施例1と同様に同様に測定した結果、それぞれ、120μm、260μm、及び2.17であった。
【0147】
[電解評価]
乾燥した被覆層を有するイオン交換膜を2質量%増となるように湿潤させたのち、このイオン交換膜を用いたことを除き、実施例1と同一の条件で電解性能評価を行った結果、電圧は、3.09Vと高い値を示した。
【0148】
[比較例2]
実施例1において、ポリマー(B3)と酸化ジルコニウム粒子の合算質量に対する、ポリマー(B3)質量比が0.2とした懸濁液を使用したこと以外は、実施例1と同様にイオン交換膜を作製した。このイオン交換膜において、バインダー中の含フッ素系重合体の含有量は、100質量%であった。
【0149】
乾燥後の被覆層の塗布密度を実施例1と同様に測定した結果、1cm2当たり0.5mgであった。また、被覆層の表面粗さを実施例1と同様に測定した結果、1.48μmであった。さらに、膜断面平均厚さA、膜断面平均厚さB、及びA/Bを実施例1と同様に同様に測定した結果、それぞれ、120μm、260μm、及び2.17であった。
【0150】
[電解評価]
乾燥した被覆層を有するイオン交換膜を2質量%増となるように湿潤させたのち、このイオン交換膜を用いたことを除き、実施例1と同一の条件で電解性能評価を行った結果、電圧は、3.10Vと高い値を示した。
【0151】
[比較例3]
実施例1において、ポリマー(B3)と酸化ジルコニウム粒子の合算質量に対する、ポリマー(B3)質量比が0.2とした懸濁液を使用することと、スプレーの平均液滴径の調節を154μmに変更したこと以外は、実施例1と同様にイオン交換膜を作製した。このイオン交換膜において、バインダー中の含フッ素系重合体の含有量は、100質量%であった。
【0152】
乾燥後の被覆層の塗布密度を実施例1と同様に測定した結果、1cm2当たり0.5mgであった。また、被覆層の表面粗さを実施例1と同様に測定した結果、1.18μmであった。さらに、膜断面平均厚さA、膜断面平均厚さB、及びA/Bを実施例1と同様に同様に測定した結果、それぞれ、120μm、260μm、及び2.17であった。
【0153】
[電解評価]
乾燥した被覆層を有するイオン交換膜を2質量%増となるように湿潤させたのち、このイオン交換膜を用いたことを除き、実施例1と同一の条件で電解性能評価を行った結果、電圧は、3.10Vと高い値を示した。
【0154】
[比較例4]
実施例3において、スプレーの平均液滴径の調節を154μmに変更したこと以外は、実施例3と同様にイオン交換膜を作製した。このイオン交換膜において、バインダー中の含フッ素系重合体の含有量は、100質量%であった。
【0155】
乾燥後の被覆層の塗布密度を実施例1と同様に測定した結果、1cm2当たり0.5mgであった。また、被覆層の表面粗さを実施例1と同様に測定した結果、1.12μmであった。さらに、膜断面平均厚さA、膜断面平均厚さB、及びA/Bを実施例1と同様に同様に測定した結果、それぞれ、120μm、260μm、及び2.17であった。
【0156】
[電解評価]
乾燥した被覆層を有するイオン交換膜を2質量%増となるように湿潤させたのち、このイオン交換膜を用いたことを除き、実施例1と同一の条件で電解性能評価を行った結果、電圧は、3.16Vと高い値を示した。
【0157】
[比較例5]
実施例5において、スプレーの平均液滴径の調節を154μmに変更したこと以外は、実施例5と同様にイオン交換膜を作製した。このイオン交換膜において、バインダー中の含フッ素系重合体の含有量は、100質量%であった。
【0158】
乾燥後の被覆層の塗布密度を実施例1と同様に測定した結果、1cm2当たり0.5mgであった。また、被覆層の表面粗さを実施例1と同様に測定した結果、1.13μmであった。さらに、膜断面平均厚さA、膜断面平均厚さB、及びA/Bを実施例1と同様に同様に測定した結果、それぞれ、120μm、260μm、及び2.17であった。
【0159】
[電解評価]
乾燥した被覆層を有するイオン交換膜を2質量%増となるように湿潤させたのち、このイオン交換膜を用いたことを除き、実施例1と同一の条件で電解性能評価を行った結果、電圧は、3.15Vと高い値を示した。
【0160】
[比較例6]
実施例3において、噴霧時の膜本体の表面温度を25℃に変更したこと以外は、実施例3と同様にイオン交換膜を作製した。このイオン交換膜において、バインダー中の含フッ素系重合体の含有量は、100質量%であった。
【0161】
乾燥後の被覆層の塗布密度を実施例1と同様に測定した結果、1cm2当たり0.5mgであった。また、被覆層の表面粗さを実施例1と同様に測定した結果、1.07μmであった。さらに、膜断面平均厚さA、膜断面平均厚さB、及びA/Bを実施例1と同様に同様に測定した結果、それぞれ、120μm、260μm、及び2.17であった。
【0162】
[電解評価]
乾燥した被覆層を有するイオン交換膜を2質量%増となるように湿潤させたのち、このイオン交換膜を用いたことを除き、実施例1と同一の条件で電解性能評価を行った結果、電圧は、3.11Vと高い値を示した。
【0163】
【0164】
上記結果に基づき、実施例1~5及び比較例1~5(いずれの実施例及び比較例も基材表面温度は57℃)の平均液滴径と電圧との関係を
図10に示す。平均液滴径を所望とする値以下に制御した実施例は、バインダー比が増加するほど電圧が低下する傾向にある。
【符号の説明】
【0165】
1…イオン交換膜、2…カルボン酸層、3…スルホン酸層、4…補強材、10…膜本体、11a,11b…被覆層、21,22…補強材、100…電解槽、200…陽極、300…陰極、52…強化糸、504a…犠牲糸、504…連通孔504。