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  • 特許-空気入りタイヤ 図1
  • 特許-空気入りタイヤ 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/00 20060101AFI20221110BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
B60C11/00 F
B60C11/03 B
B60C11/03 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018230338
(22)【出願日】2018-12-07
(65)【公開番号】P2020090264
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】松延 裕子
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-300906(JP,A)
【文献】特開昭62-103205(JP,A)
【文献】特開平07-186618(JP,A)
【文献】特開2016-002890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00- 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部における溝の入り方がタイヤ幅方向の一方側と他方側とで異なり、タイヤ幅方向一方側における溝面積率が、タイヤ幅方向他方側における溝面積率より高い空気入りタイヤにおいて、
タイヤ幅方向断面におけるトレッド踏面の輪郭が複数の円弧からなり、
前記のタイヤ幅方向一方側の円弧の平均の曲率半径が、前記のタイヤ幅方向他方側の円弧の平均の曲率半径より小さく、
隣接する円弧の連結点の少なくとも1つがトレッド踏面において凹部を形成する凹形連結点であり、
前記のタイヤ幅方向一方側において、前記凹形連結点がトレッド部における陸部に配置された、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記のタイヤ幅方向他方側において、前記凹形連結点がトレッド部における主溝の位置に配置された、請求項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に記載されているように、空気入りタイヤのトレッド部を幅方向断面上で見ると、トレッド踏面は複数の円弧から形成されている。通常、タイヤ赤道近傍の円弧の曲率半径は大きく、タイヤ幅方向外側へ向かうほど円弧の曲率半径が小さくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-297913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、トレッド部における溝の入り方がタイヤ幅方向の一方側と他方側とで異なり、溝面積率(トレッド部における溝の部分の面積の割合)が、タイヤ幅方向一方側で高く、タイヤ幅方向他方側で低い空気入りタイヤが知られている。このような空気入りタイヤのトレッド部では、前記のタイヤ幅方向一方側の剛性が低く、前記のタイヤ幅方向他方側の剛性が高い。そのため、トレッド部が接地したときに、前記のタイヤ幅方向一方側で、前記のタイヤ幅方向他方側よりも、接地面積が広くなって接地圧が低くなる。このような接地圧分布の不均一さがあると、トレッド部に偏摩耗が生じたり、ハンドリング性能が悪化したりする。
【0005】
そこで本発明は、タイヤ幅方向両側で溝面積率が異なる空気入りタイヤにおいて、接地圧分布をできるだけ均一にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の空気入りタイヤは、トレッド部における溝の入り方がタイヤ幅方向の一方側と他方側とで異なり、タイヤ幅方向一方側における溝面積率が、タイヤ幅方向他方側における溝面積率より高い空気入りタイヤにおいて、タイヤ幅方向断面におけるトレッド踏面の輪郭が複数の円弧からなり、前記のタイヤ幅方向一方側の円弧の平均の曲率半径が、前記のタイヤ幅方向他方側の円弧の平均の曲率半径より小さく、隣接する円弧の連結点の少なくとも1つがトレッド踏面において凹部を形成する凹形連結点であり、前記のタイヤ幅方向一方側において、前記凹形連結点がトレッド部における陸部に配置されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
実施形態の空気入りタイヤでは、剛性が低いため本来なら接地面積が広くなるタイヤ幅方向一方側において、円弧の平均の曲率半径が小さく接地しにくくなっているため、結果的にタイヤ幅方向の左右で接地面積が均一化され、接地圧分布が均一化される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態のトレッドパターン。この図において、上下方向がタイヤ周方向で、左右方向がタイヤ幅方向である。
図2図1のトレッドパターンを有するトレッド部のタイヤ幅方向断面図。この図では説明のために形状が誇張して描かれている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態の空気入りタイヤの構造について図面に基づき説明する。以下の説明における空気入りタイヤの形状に関する説明は、正規リムに装着され正規内圧が充填されたときの空気入りタイヤの形状について説明している。ここで、正規リムとは、JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「DesignRim」、又はETRTO規格における「MeasuringRim」のことである。また、正規内圧とは、JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRELOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、又はETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」のことである。
【0010】
また、以下の説明における接地とは、正規リムに装着され正規内圧が充填された空気入りタイヤが路面に接地し、そこへ正規荷重が負荷された状態での接地のことである。ここで正規荷重とは、JATMA規格における「最大負荷能力」、TRA規格における「TIRELOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、又はETRTO規格における「LOAD CAPACITY」のことである。
【0011】
本実施形態の空気入りタイヤの大まかな断面構造は次の通りである。まず、タイヤ幅方向両側にビード部が設けられ、カーカスプライが、タイヤ幅方向内側から外側に折り返されて前記ビード部を包むと共に、空気入りタイヤの骨格を形成している。前記カーカスプライのタイヤ径方向外側には複数枚のベルトが設けられ、前記ベルトのタイヤ径方向外側に接地領域を有するトレッド部が設けられている。また前記カーカスプライのタイヤ幅方向両側にはサイドウォールが設けられている。これらの部材の他にもタイヤの機能上の必要に応じた複数の部材が設けられている。
【0012】
トレッド部には図1に示すようなトレッドパターンが形成されている。このトレッドパターンはタイヤ赤道Lに対して非対称である。
【0013】
トレッド部には複数の主溝が形成されている。主溝とはタイヤ周方向に延びる太い溝のことであり、ストレート状のものだけでなくジグザグ状のものも主溝に含まれる。本実施形態においては、タイヤ赤道Lより左側には、タイヤ周方向に延びるジグザグ主溝10が形成されている。また、タイヤ赤道Lより右側には、タイヤ周方向に延びる2本のストレート主溝12、13が形成されている。
【0014】
左側の接地端E(トレッド部の接地領域のタイヤ幅方向端部)とジグザグ主溝10との間には、第1ブロック20及び第2ブロック21がタイヤ周方向に交互に並んでいる。第1ブロック20と第2ブロック21とは第1横溝16によって区切られている。第1ブロック20と第2ブロック21とは形状が異なる。第1ブロック20には第1傾斜溝14が形成されているのに対し、第2ブロック21にはそのような傾斜溝が形成されていない。そのため第1ブロック20は第2ブロック21より剛性が低い。第1傾斜溝14はタイヤ周方向に対して傾斜して延びている。第1傾斜溝14の左側端部は第1ブロック20内で閉塞し、第1傾斜溝14の右側端部はジグザグ主溝10に開口している。
【0015】
ジグザグ主溝10と左側のストレート主溝12との間には陸部としての第1リブ22が形成されている。第1リブ22には複数の第2傾斜溝15が形成されている。第2傾斜溝15はタイヤ周方向に対して傾斜して延びている。第2傾斜溝15の左側端部はジグザグ主溝10に開口し、第2傾斜溝15の右側端部は第1リブ22内で閉塞している。第2傾斜溝15はジグザグ主溝10への開口端へ向かって徐々に太くなっている。
【0016】
前記の第1傾斜溝14は第2傾斜溝15の延長線上にあり、第1傾斜溝14と第2傾斜溝15とで1本の傾斜溝を形成している。
【0017】
左側のストレート主溝12と右側のストレート主溝13との間には陸部としての第2リブ23が形成されている。第2リブ23には、左側端部が第2リブ23内で閉塞し右側端部が右側のストレート主溝13に開口する第2横溝17が形成されている。
【0018】
右側のストレート主溝13と接地端Eとの間には陸部としての第3リブ24が形成されている。第3リブ24には、左側端部が第3リブ24内で閉塞し右側端部が接地端Eへ開口する第3横溝18が形成されている。
【0019】
このようなトレッドパターンにおいて、タイヤ幅方向左側(すなわちタイヤ赤道Lより左側)における溝面積率が、タイヤ幅方向右側(すなわちタイヤ赤道Lより右側)における溝面積率より高い。ここで、溝面積率とは、溝を含む接地領域の面積(換言すれば、陸部すなわちブロック等の接地する部分の面積と、溝の部分の面積との合計)に対する、その接地領域内における溝の部分の面積の割合のことである。
【0020】
ただし、図1のトレッドパターンは例示に過ぎない。主溝の本数、横溝の有無、各溝のタイヤ周方向に対する傾斜角度等は、図1に示される形態に限定されない。いずれにしろ、トレッド部における溝の入り方がタイヤ幅方向の一方側と他方側とで異なり、タイヤ幅方向一方側における溝面積率が、タイヤ幅方向他方側における溝面積率より高い。
【0021】
溝面積率が高い部分ほど剛性が低いので、図1のトレッドパターンにおいては、タイヤ幅方向左側で剛性が低く、それに対してタイヤ幅方向右側で剛性が高い。
【0022】
図2に示すように、タイヤ幅方向断面におけるトレッド踏面の輪郭は、複数の円弧C1~C4からなる。これらの円弧C1~C4はそれぞれ曲率半径R1~R4を有する。
【0023】
溝面積率が高いタイヤ幅方向左側では、トレッド踏面の輪郭は、タイヤ赤道L側の円弧C3(曲率半径R3)と接地端E側の円弧C4(曲率半径R4)とからなる。また、溝面積率が低いタイヤ幅方向右側では、トレッド踏面の輪郭は、タイヤ赤道L側の円弧C1(曲率半径R1)と接地端E側の円弧C2(曲率半径R2)とからなる。
【0024】
そして、溝面積率が高いタイヤ幅方向左側の円弧C3、C4の平均の曲率半径すなわち(R3+R4)/2が、溝面積率が低いタイヤ幅方向右側の円弧C1、C2の平均の曲率半径すなわち(R1+R2)/2より小さい。トレッド踏面の輪郭の曲率半径が小さいほど接地面積が小さくなるので、タイヤ幅方向左側において平均の曲率半径が小さいことは、タイヤ幅方向左側の接地面積を小さくする効果を生む。また、詳細には、タイヤ赤道Lに近い円弧ほど曲率半径が大きい。そのため例えば、円弧C1~C4の曲率半径の大小関係は、R1>R2>R3>R4となっている。
【0025】
なお、図2のトレッド部とは異なるが、トレッド踏面の輪郭を形成する複数の円弧のうちの1つがタイヤ赤道Lの通る場所にあり、タイヤ幅方向両側に跨っていることもあり得る。その場合は、タイヤ幅方向左右それぞれの平均の曲率半径を計算するにあたり、タイヤ赤道Lが通る円弧(以下「中央円弧」)がタイヤ幅方向左右それぞれに含まれるものとする。例えば、タイヤ幅方向左側の円弧の曲率半径がR3、R4で、タイヤ幅方向右側の円弧の曲率半径がR1、R2で、中央円弧の曲率半径がR5だとすると、タイヤ幅方向左側の円弧の平均の曲率半径は(R3+R4+R5)/3で、タイヤ幅方向右側の円弧の平均の曲率半径は(R1+R2+R5)/3である。
【0026】
隣接する円弧Cは連結点で連結されている。そのような連結点は複数存在する。隣接する円弧C同士は、直接連結されていても良いし、小さなアール部分を介して連結されていても良い。隣接する円弧C同士が小さなアール部分を介して連結されている場合、アールに沿った長さ方向の中央点を連結点とする。円弧Cの連結点の一部又は全部は、トレッド踏面において凹部を形成する凹形連結点Pである。
【0027】
溝面積率が高く剛性が低いタイヤ幅方向左側においては、トレッド踏面において凹部を形成する凹形連結点Pがトレッド部における陸部に配置されている。つまり凹形連結点Pが第1ブロック20及び第2ブロック21に配置されているか、第1リブ22に配置されている。
【0028】
剛性が低いタイヤ幅方向左側の中で、他の陸部よりも剛性が低い陸部が存在する場合は、剛性が低い方の陸部に凹形連結点Pが配置されることが望ましい。図1のトレッドパターンの場合、第1リブ22に比較的太い第2傾斜溝15が形成されているため、第1リブ22の剛性が第1ブロック20及び第2ブロック21の剛性より低い。そのため、図2に示すように凹形連結点Pが第1リブ22に配置されている。
【0029】
また、タイヤ幅方向左側における同じ陸部の中に、他の部分よりも剛性が低い部分が存在する場合は、剛性が低い方の部分に凹形連結点Pが配置されることが望ましい。
【0030】
一方、溝面積率が低く剛性が高いタイヤ幅方向右側においては、トレッド踏面において凹部を形成する凹形連結点Pが主溝(すなわち左側のストレート主溝12又は右側のストレート主溝13)の位置に配置されている。つまり、隣り合う陸部に現れている円弧Cのそれぞれの延長線が、主溝内で交差している。図2では凹形連結点Pが右側のストレート主溝13の位置に配置されている。
【0031】
空気入りタイヤの車両への装着方向は、例えば、溝面積率が高い方(すなわちタイヤ幅方向左側)がIN側(車両内側)、溝面積率が低い方(すなわちタイヤ幅方向右側)がOUT側(車両外側)である。
【0032】
以上の構成は次のような作用効果を奏する。まず、トレッド踏面の輪郭が左右対称の曲線からなる場合は、空気入りタイヤが接地したときに、溝面積率が高く剛性が低いタイヤ幅方向左側において接地面積が広くなり、溝面積率が低く剛性が高いタイヤ幅方向右側において接地面積が狭くなる。そして、タイヤ幅方向左側では接地面積が広いので接地圧が低くなり、タイヤ幅方向右側では接地面積が狭いので接地圧が高くなる。そのためタイヤ幅方向の左右で接地圧分布が不均一になる。
【0033】
それに対し、本実施形態では、トレッド踏面の輪郭を形成する円弧の平均の曲率半径がタイヤ幅方向左側において小さく、タイヤ幅方向右側において大きいため、それによりタイヤ幅方向左側の方が接地しにくくなっている。その結果、タイヤ幅方向の左右で接地面積が均一化され、接地圧分布が均一化されている。
【0034】
さらに、タイヤ幅方向左側において、トレッド踏面において凹部を形成する凹形連結点Pが陸部に配置されているため、そのぶん接地面積が狭くなっており接地圧が高くなっている。その結果、タイヤ幅方向の左右で接地圧分布が均一化されている。
【0035】
一方、タイヤ幅方向右側にもトレッド踏面において凹部を形成する凹形連結点Pが存在するが、そのような凹形連結点Pが主溝の位置に配置されているため、接地面積が凹形連結点Pによって狭くならない。そのため、凹形連結点Pが存在するにもかかわらず、タイヤ幅方向右側では接地圧が高くならない。そのためタイヤ幅方向の左右で接地圧分布が不均一にならない。
【0036】
以上の実施形態は例示であり、発明の範囲はこれに限定されない。以上の実施形態に対して、発明の要旨を逸脱しない範囲で、様々な変更、置換、省略等を行うことができる。
【0037】
例えば、タイヤ幅方向左側の溝面積率が低く、タイヤ幅方向右側の溝面積率が高いトレッドパターンでも良い。その場合も、溝面積率が高い方の円弧の平均の曲率半径が、溝面積率が低い方の円弧の平均の曲率半径より小さい。また、溝面積率が高い方において、凹形連結点がトレッド部における陸部に配置される。
【符号の説明】
【0038】
C1、C2、C3、C4…円弧、E…接地端、L…タイヤ赤道、P…凹形連結点、10…ジグザグ主溝、12、13…ストレート主溝、14…第1傾斜溝、15…第2傾斜溝、16…第1横溝、17…第2横溝、18…第3横溝、20…第1ブロック、21…第2ブロック、22…第1リブ、23…第2リブ、24…第3リブ
図1
図2