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  • 特許-金属捕捉剤および金属捕捉剤の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】金属捕捉剤および金属捕捉剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/04 20060101AFI20221110BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20221110BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
B01J20/04 C
B01J20/28 Z
B01J20/30
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018239271
(22)【出願日】2018-12-21
(65)【公開番号】P2020099864
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江藤 真由美
(72)【発明者】
【氏名】水野 隆喜
【審査官】谷本 怜美
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-506548(JP,A)
【文献】特開2018-103120(JP,A)
【文献】特表2016-534857(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素酸化物からなるバインダー、および粘土鉱物と、
第1の金属成分である、マグネシウムおよびカルシウムを含む第2族元素の酸化物とからなり、さらに、
X線回折分析において、該金属成分の珪酸塩のピークが検出されないこと、かつ、
平均粒子径が40~100μmの範囲にあり、比表面積が3~100m /gの範囲にあり、細孔容積が0.05~0.50ml/gの範囲にあり、耐摩耗性指数CAIが0.5~10の範囲にあり、前記第1の金属成分の含有量は、金属捕捉剤に対して、酸化物換算で20~80質量%であり、
前記金属捕捉剤中のアルカリ金属Mの含有量が、酸化物M O換算で5.0質量%以下であること、
を特徴とする金属捕捉剤。
【請求項2】
前記第1の金属成分は、マグネシウムおよびカルシウムであることを特徴とする請求項1に記載の金属捕捉剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の金属捕捉剤を製造する方法であって、
珪素酸化物バインダーに粘土鉱物を加え、塩基性の珪素酸化物スラリーを得る第1工程と、
前記珪素酸化物スラリーと金属成分として第2族元素の化合物を混合し、混合スラリーを加熱して金属捕捉剤前駆体を得る第2工程と、
前記金属捕捉剤前駆体を乾燥し、酸洗浄し、さらに焼成して金属捕捉剤を得る第3工程と、を含み、
得られた金属捕捉剤は、X線回折分析において、前記金属成分の珪酸塩のピークが検出されないことを特徴とする金属捕捉剤の製造方法。
【請求項4】
前記金属成分は、マグネシウムおよびカルシウムであることを特徴とする請求項に記載の金属捕捉剤の製造方法。
【請求項5】
前記金属成分の添加量は、前記金属捕捉剤に対して、酸化物換算で20~80質量%であることを特徴とする請求項またはに記載の金属捕捉剤の製造方法。
【請求項6】
前記第1工程は、塩基性物質水溶液を用い、前記第3工程の酸洗浄は、酸性物質水溶液を用いることを特徴とする請求項ないしのいずれか1項に記載の金属捕捉剤の製造方法。
【請求項7】
前記第3工程の酸洗浄は、pHを9ないし11の範囲に調整することを特徴とする請求項ないしのいずれか1項に記載の金属捕捉剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触分解反応過程において、流動接触分解触媒の被毒元素の一つであるバナジウムを捕捉固定化する技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
製油所での残油処理比率の増加を背景とし、残油処理用流動接触分解触媒(RFCC)に関する触媒開発や改良が急務となっている。RFCCでの問題点の一つは、原油(または残油)中に含まれる触媒被毒金属(Ni,V)の濃度が高く、触媒へのダメージが大きいことにある。この影響を緩和する対策として、この被毒金属と親和性の良い元素(被毒金属捕捉剤)を流動接触分解触媒(FCC)中に添加することや、親和性のよい元素を高濃度に含む助触媒(添加剤)を一定量FCC触媒にブレンドする方法がある。これらの対策は被毒金属をある一定の結晶相として捕捉し、触媒活性への悪影響を緩和するという考えのもとで取られている方法である。
【0003】
例えば、原料油中に不純物として存するバナジウムは流動接触分解触媒を再生する再生塔内の雰囲気においてはバナジン酸を形成し、流動接触分解触媒中のゼオライトの結晶破壊や活性低下を引き起こすことが知られている。このため、流動接触分解触媒中にバナジウムの捕捉能を有する構成物を組み込む手法や、前記構成物を添加剤として母体触媒と混合する手法が採用されている。
【0004】
特許文献1には、流動接触分解触媒に添加しバナジウムを不動態化する添加剤として、遊離酸化マグネシウム及びその場で生成したケイ酸マグネシウムセメントバインダーを含んでなる添加剤およびその製造方法が開示されている。この添加剤は、低い表面積を有し、最小の分解活性を有している。
【0005】
また特許文献2には、流動接触分解の間の金属不動態化に使われる金属捕捉粒子として、カオリン、酸化マグネシウムまたはマグセシウム水酸化物およびカルシウム炭酸塩からなる乾燥粒子で、少なくとも10wt%の酸化マグネシウムを含む粒子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表平08-504397号公報
【文献】特表2013-506548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の技術では、流動接触分解触媒の劣化を十分に抑えることができないという問題があった。
本発明の目的は、炭化水素油の接触分解反応過程にて用いられる流動接触分解触媒の被毒元素の一つであるバナジウムを捕捉固定化し、流動接触分解触媒の劣化を抑えることができる金属捕捉剤およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような技術的背景のもと、発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、珪素酸化物バインダーおよび粘土鉱物に第2族元素からなる化合物を添加し、珪酸塩を形成することなく、分散させた金属捕捉剤が、酸洗浄により、耐摩耗性が向上することを知見し、本発明を開発するに至った。
【0009】
前記課題を解決し上記の目的を実現するため開発した本発明は、下記のとおりのものである。すなわち、本発明は、第一に、珪素酸化物からなるバインダー、および粘土鉱物と、金属成分である第2族元素の酸化物とからなり、さらに、X線回折分析において、該金属成分の珪酸塩のピークが検出されないこと、かつ、耐摩耗性指数CAIが0.5~10の範囲にあること、を特徴とする金属捕捉剤を提供する。
【0010】
なお、本発明にかかる上記金属捕捉剤については、
(1)上記金属捕捉剤は、平均粒子径が40~100μmの範囲にあり、比表面積が3~100m/gの範囲にあり、細孔容積が0.05~0.50ml/gの範囲にあること、
(2)上記金属成分は、マグネシウムおよびカルシウムであること、
(3)上記金属成分の含有量は、上記金属捕捉剤に対して、酸化物換算で20~80質量%であること、
(4)上記金属捕捉剤中のアルカリ金属Mの含有量が、酸化物MO換算で5.0質量%以下であること、
などがより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【0011】
また、本発明は第二に、珪素酸化物バインダーに粘土鉱物を加え、塩基性の珪素酸化物スラリーを得る第1工程と、上記珪素酸化物スラリーと金属成分として第2族元素の化合物を混合し、混合スラリーを加熱して金属捕捉剤前駆体を得る第2工程と、上記金属捕捉剤前駆体を乾燥し、酸洗浄し、さらに焼成して金属捕捉剤を得る第3工程と、を含み、得られた金属捕捉剤は、X線回折分析において、上記金属成分の珪酸塩のピークが検出されないことを特徴とする金属捕捉剤の製造方法を提案する。
【0012】
なお、本発明にかかる上記金属捕捉剤の製造方法については、
(1)上記金属成分は、マグネシウムおよびカルシウムであること、
(2)上記金属成分の添加量は、上記金属捕捉剤に対して、酸化物換算で20~80質量%であること、
(3)上記第1工程は、塩基性物質水溶液を用い、上記第3工程の酸洗浄は、酸性物質水溶液を用いること、
(4)上記第3工程の酸洗浄は、pHを9ないし11の範囲に調整すること、
などがより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、金属捕捉剤として、珪素酸化物からなるバインダーに、バナジウム捕捉機能を有する例えばマグネシウムおよびカルシウムなどの金属成分である第2族元素の酸化物を、珪酸塩を形成することなく、分散させたうえで、酸洗浄によりアルカリを中和することで、金属捕捉剤粒子の耐摩耗性を向上させたので、流動接触分解触媒の添加材として、金属捕捉機能を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態にかかる金属捕捉剤MTR-1の600℃焼成品のX線回折強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
[金属捕捉剤について]
本発明の金属捕捉剤は、珪素酸化物(SiO)からなるバインダー中にバナジウム(V)の捕捉機能を有する金属酸化物を分散させて構成されている。
【0016】
<バインダー成分>
本発明で使用されるバインダーは、珪素酸化物(SiO)からなる。珪素酸化物以外に、Al、Tiの酸化物を含んでもよく、AlおよびTiから選ばれた1種または2種の酸化物の含有量が、バインダーの質量中、合計で1~20質量%であることが好ましい。
【0017】
本発明の金属捕捉剤のバインダーとして珪素酸化物を用いることにより、シリカ系バインダーに金属成分を分散した金属捕捉剤が、他のチタン酸化物及び/またはアルミナを主成分とする担体に担持した金属捕捉剤より熱的に安定であり、相転移が起こりにくく、さらにバナジウム(V)の捕捉機能を有する酸化物との相互作用が強く、金属捕捉剤表面に金属成分を容易に分散させやすいという利点がある。
【0018】
<粘土鉱物成分>
粘土鉱物成分としては、カオリン、ハロイサイトなどが使用され、好適にはカオリンが選択される。粘土鉱物成分の含有量としては、0質量%超え40質量%以下であることが好ましく、さらに、5~35質量%であることがより好ましい。粘土鉱物成分は、増量剤のほか、事前に反応液中に投入することで、金属成分(アルカリ土類)とバインダー成分との反応を抑制する機能を有する。
【0019】
<金属酸化物成分>
珪素酸化物(シリカ系)バインダー中に、金属成分として、第2族元素の酸化物またはその前駆物質と、が添加される。シリカ系バインダー中に前駆物質が添加される場合には、熱処理を行うことで、前駆物質が酸化物となる。
金属成分は、MgおよびCaの両方含まれる。金属成分の含有量は、金属捕捉剤に対して、酸化物換算として20~80質量%であることが好ましい。
【0020】
金属成分の含有量が酸化物換算として20質量%より過度に小さいと、反応に必要な金属捕捉能が確保できないおそれがあり、80質量%より過度に大きいと、金属成分が凝集しやすくなり、分散性を阻害するおそれがある。
MgOとして15~60質量%、CaOとして5~20質量%の範囲にあることが好ましい。
【0021】
金属成分には、さらに、希土類元素を加えてもよく、例えば、LaおよびCeから選ばれた1種または2種が含まれることが好ましい。希土類元素の含有量は、金属捕捉剤に対して、酸化物換算として20質量%以下であることが好ましい。希土類元素は、第2族元素に対して共触媒として働き、含有量が酸化物換算として(希土類元素)/(第2族元素)の質量割合が0.01~0.20の範囲であることが好ましい。この質量割合が0.01よりも少なくなると希土類元素による共触媒の効果が小さく、一方、0.20を越えると、活性金属成分の凝集が進みやすくなり、触媒性能が低下する。
【0022】
本発明の金属捕捉剤中には、ナトリウム型やリチウム型などのアルカリ金属(M)が含まれ、Mの含有量がMO酸化物換算で5.0質量%以下であることが好ましい。主触媒には一般にゼオライト成分が含まれており、M含有量を制御することで、ゼオライトに対するMOの影響(ゼオライトの被毒等)を緩和することが可能となる。さらに、Mの含有量が4.5質量%以下であることがより好ましい。
【0023】
<金属捕捉剤の物性>
本発明の金属捕捉剤は、X線回折分析において、金属成分の珪酸塩のピークが検出されない。金属成分の珪酸塩が形成されないことから、金属成分によるバナジウム等の重金属捕捉能が十分に発揮できると考えられる。
【0024】
本発明の金属捕捉剤の耐摩耗性(Attrition Resistance)は、たとえば、触媒化成技法 Vol.13、No.1、P65、1996に記載された方法により測定される耐摩耗性指数(CCIC Attirition Index、CAI)により測定できる。金属捕捉剤の耐摩耗性指数CAIは、0.5~10の範囲にあることが好ましい。0.5未満では金属捕捉成分が有効に使用されないおそれがあり、一方、10を超えると、捕捉剤が使用時に粉化して、装置トラブルや製品への粉体の混入等のおそれがある。
【0025】
本発明の金属捕捉剤の粒子径評価は、乾式マイクロメッシュシーブ法により測定し、50質量%値を平均粒子径とした。金属捕捉剤は、平均粒子径が40~100μmの範囲にあることが好ましい。平均粒子径が40μmよりも過度に小さいと金属捕捉効率が低下し、一方、100μmよりも過度に大きいと金属捕捉剤の耐摩耗性や強度が低下するおそれがある。さらに、金属捕捉剤の平均粒子径が50~90μmの範囲であることがより好ましい。
【0026】
本発明の金属捕捉剤の比表面積(SA)は、BET法で測定できる。金属捕捉剤の比表面積は、3.0~100m/gの範囲であることが好ましい。比表面積が3.0m/gよりも過度に小さいと、酸化物が凝集しやすくなり、金属捕捉効率が低下する。一方、比表面積が100m/gよりも過度に大きいと、金属捕捉剤として強度が小さくなり、金属捕捉剤としての形状保持性が低下するおそれがある。なお、金属捕捉剤の比表面積は、5~80m/gの範囲であることがより好ましい。
【0027】
本発明の金属捕捉剤の細孔容積(PV)は、水のポアフィリング法により測定できる。金属捕捉剤の細孔容積は、0.05~0.50ml/gの範囲にあることが好ましい。細孔容積が、0.05ml/gよりも過度に小さいと金属捕捉効率が低下し、一方、0.50ml/gよりも過度に大きいと、触媒にした時の強度が得られないおそれがある。さらに、金属捕捉剤の細孔容積が、0.05~0.45ml/gの範囲であることがより好ましく、0.05~0.40ml/gの範囲であることがより一層好ましい。なお、細孔容積は細孔直径41Å(4.1nm)以上の細孔直径を有する細孔の容積を表す。
【0028】
本発明法で得られた金属捕捉剤の嵩密度(ABD)は、25mlのシリンダーを用いて、金属捕捉剤の重量を測定し、単位体積当たりの重量から嵩密度を計算して測定できる。金属捕捉剤の嵩密度は、0.70g/ml以上とすることが好ましい。嵩密度が0.70g/mlより低い場合は、耐摩耗性が不十分となり、流動触媒として使用した場合、容易に粉化して触媒が飛散する要因となり、実用的に向かないおそれがある。
【0029】
[金属捕捉剤の製造方法について]
本発明に係る金属捕捉剤の製造方法の1例としては、
(1)塩基性の珪素酸化物(シリカ系)スラリーを得る工程と、
(2)上記珪素酸化物(シリカ系)スラリーに金属成分の化合物を添加した、金属捕捉剤前駆体を得る第2工程と、
(3)上記前駆体を乾燥し、酸洗浄し、さらに焼成して金属捕捉剤を得る第3工程と、を有する。
【0030】
以下、各工程について説明する。
<第1工程:塩基性の珪素酸化物(シリカ系)スラリーを得る工程>
まず、シリカ系スラリーを調製する。シリカ系スラリーは、たとえばケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムなどのケイ酸塩の塩基性水溶液、あるいは、シリカ系のゾルをバインダーとして用いることができる。この時得られたシリカ系のゲルまたはゾルはケイ素酸化物からなるシリカ系粒子であり、該シリカ系粒子の比表面積は150m/g以上、好ましくは155m/g以上であることが好ましい。ここでいうシリカ系粒子とは、前記のような方法で得られるシリカの水和物あるいは珪素酸化物(シリカ系)スラリーの総称である。シリカ系粒子には、珪素の他にAl、Tiの酸化物前駆体を加えてもよく、これらの含有量はシリカ系粒子に対して酸化物換算の内数で1~20質量%の範囲であれば珪素酸化物(シリカ系)バインダー調製時に加えてもよい。
【0031】
珪素酸化物(シリカ系)バインダーに粘土鉱物を加えるが、該スラリーの調製工程で、シリカ系スラリーを得るとき、あるいは金属成分を珪素酸化物(シリカ系)スラリーに添加するときのいずれか一方の工程で粘土鉱物を加えればよい。粘土鉱物を塩基性水溶液に分散させることもできる。
【0032】
<第2工程:珪素酸化物(シリカ系)スラリーと金属成分を混合し、金属捕捉剤前駆体を得る工程>
前記第1工程で得られたスラリーに、金属成分を溶解して得られる水溶液または金属成分を同時に加えて得られる水溶液を撹拌混合し混合スラリーを得る。
混合条件は、シリカ系スラリー溶液を20~90℃、好ましくは25~80℃に加温して保持し、この溶液の温度の±5℃、好ましくは±2℃、より好ましくは±1℃に加温した金属成分を含む水溶液を、pHが3.0~12.0、好ましくは3.5~12.0、より好ましくは4.0~11.5になるように、通常5~20分、好ましくは7~15分の間に連続添加し沈殿を生成させ、混合スラリー(金属捕捉剤前駆体)を得る。
【0033】
金属成分として第2族元素を用いる。特に、MgおよびCaの両方含まれることが好ましい。ここで用いる、MgおよびCaは、シュウ酸塩、水酸化物、炭酸塩などの化合物を用いることができる。また、酸化物を用いてもよい。
【0034】
金属成分の原料の粒子径が100μm以下であることが好ましく、場合によっては、粉砕処理して用いることが好ましい。
【0035】
<第3工程:金属捕捉剤前駆体を乾燥し、酸洗浄し、焼成し金属捕捉剤を得る工程>
第2工程で得られた混合スラリー(金属捕捉剤前駆体)を、乾燥し、酸洗浄し、焼成して、本発明の金属捕捉剤を製造する。
【0036】
乾燥は、乾燥機または噴霧乾燥であってもよい。噴霧乾燥の方がより実用的である。噴霧乾燥条件は、下記条件内で行うことが好ましい。
詳細には、第2工程で得られた混合スラリーを噴霧乾燥機のスラリー貯槽に充填し、120~450℃の範囲の例えば230℃に調整された気流(例えば空気)が流れる乾燥チャンバー内にスラリーを噴霧することにより、噴霧乾燥粒子が得られる。スラリーの噴霧乾燥によって前記気流の温度は低下するが、乾燥チャンバーの出口の温度は、ヒーターなどを用いて50~300℃の範囲の例えば120℃に維持される。
【0037】
該乾燥粒子は、下記洗浄を行う前に予備焼成を行ってもよい。予備焼成は、200~500℃程度の温度範囲で、0.5~5時間以内で行ってもよい。予備焼成を行うことで、後段の洗浄による構成成分の溶出や金属捕捉剤の崩壊を防止することができる。
【0038】
該乾燥粒子は、副生成物、例えば、アルカリ金属酸化物MOを除去するために酸洗浄処理する。酸洗浄処理は、アルカリ分を中和する酸で処理し、例えば、希硫酸を用いることができる。酸洗浄処理中のpHを9ないし11の範囲で処理することが好ましい。詳細には温水溶液(40~80℃)で固液比が1:3から1:50、撹拌時間として3~30分程度で洗浄することで、本願の金属捕捉剤に含まれるアルカリ分、例えばMの含有量を低下させることができる。酸洗浄した粒子をさらに純水を用い、洗浄することが好ましい。金属捕捉剤に含まれるMの含有量は、MO換算で5.0質量%以下が好ましく、さらに4.5質量%以下であることがさらに好ましい。M含有量を制御することで、主触媒に含まれているゼオライトに対するMOの影響(ゼオライトの被毒等)を緩和することが可能となる。酸洗浄処理中のpHが9より低くなると、第2族元素の溶出により、金属成分が不足し、金属捕捉能が低下するおそれがあり、一方、pHが11より高くなると、シリカ溶出が過多となり、金属捕捉剤の強度が不足するおそれがある。アルカリ金属Mとしては、LiやNa、Kが挙げられる。
酸洗浄により、金属捕捉剤粒子の耐摩耗性が向上する理由は、定かではないが、酸洗浄中に珪素酸化物が粒子内部まで浸透し、バインダーの機能を発揮したものと推定している。
【0039】
次に焼成処理は、詳細には、300~700℃の範囲の例えば600℃に調整された空気雰囲気下で前記噴霧乾燥粒子の焼成を行う。焼成温度が300℃より過度に低いと、残存水分による操作性が悪くなり、また金属成分の分散状態が均一になりにくいおそれがあり、700℃を過度に超えると、金属が凝集を起こしたり、珪酸塩が生成しやすくなったりするおそれがあるので好ましくない。
本願金属捕捉剤の粒度調整のために、焼成後に適度に粉砕処理を施しても良い。
【実施例
【0040】
[MTR-1]金属捕捉剤MTR-1の調製 (MgO=50%、CaO=10%組成)
NaOとして、0.28質量%含む希釈水酸化ナトリウム水溶液に対して、カオリン(固形分81質量%)447.2gを添加した。上記スラリーをSiOとして24質量%の水ガラス937.5gに添加した(第1工程)。次いでこの撹拌混合溶液(25℃)に、酸化マグネシウムスラリー3000g(MgOとして25質量%、25℃)、炭酸カルシウムスラリー600g(CaOとして25質量%、25℃)を添加し、沈殿を生成させ、原料スラリーを得た(第2工程)。その後、ホモジナイザーを用いて分散処理を行った。
原料スラリーを液滴として入口温度が210℃, 出口温度が130℃の噴霧乾燥機で噴霧乾燥を行い、平均粒子径が65μmの球状粒子を得た。得られた噴霧乾燥粒子中のNaO量は6.18%であった。
噴霧乾燥粒子中のNaO量の中和等量の希硫酸を準備し、1500gの希硫酸水溶液(65℃)に噴霧乾燥粒子150gを懸濁し10分間撹拌した(酸洗浄)。懸濁液を吸引濾過後、濾過残渣を60℃の純水1500gで洗浄し、洗浄粒子を得た。
洗浄粒子を120℃で8時間乾燥して、600℃にて2時間焼成することで金属捕捉剤MTR-1を得た(第3工程)。このとき、金属捕捉剤中のNaO量は、0.41質量%まで減少していた。
【0041】
[MTR-2]金属捕捉剤MTR-2の調製 (MgO=30%、CaO=10%組成)
NaOとして、0.28質量%含む希釈水酸化ナトリウム水溶液に対して、カオリン(固形分81質量%)804.9gを添加した。上記スラリーをSiOとして24質量%の水ガラス1250gに添加した(第1工程)。次いでこの撹拌混合溶液(25℃)に、酸化マグネシウムスラリー1800g(MgOとして25質量%、25℃)、炭酸カルシウムスラリー600g(CaOとして25質量%、25℃)を添加し、沈殿を生成させ、原料スラリーを得た(第2工程)。その後、ホモジナイザーを用いて分散処理を行った。
原料スラリーを液滴として入口温度が210℃, 出口温度が130℃の噴霧乾燥機で噴霧乾燥を行い、平均粒子径が65μmの球状粒子を得た。得られた噴霧乾燥粒子中のNaO量は6.20%であった。
噴霧乾燥粒子中のNaO量の中和等量の希硫酸を準備し、1500gの希硫酸水溶液(65℃)に噴霧乾燥粒子150gを懸濁し10分間撹拌した(酸洗浄)。懸濁液を吸引濾過後、濾過残渣を60℃の純水1500gで洗浄し、洗浄粒子を得た。
洗浄粒子を120℃で8時間乾燥して、600℃にて2時間焼成することで金属捕捉剤MTR-2を得た(第3工程)。このとき、金属捕捉剤中のNaO量は、0.45質量%まで減少していた。
【0042】
[MTR-a]MTR-1と同組成で洗浄を省略
MTR-1の調整において、第3工程の酸洗浄および純水洗浄を省略し、噴霧乾燥後、直ちに、600℃にて2時間の焼成処理を行い、金属捕捉剤MTR-aを得た。
【0043】
MTR-2の調整において、第3工程の酸洗浄および純水洗浄を省略し、噴霧乾燥後、直ちに、600℃にて2時間の焼成処理を行い、金属捕捉剤MTR-bを得た。
【0044】
上記で調整した金属捕捉剤の嵩密度(ABD)、細孔容積(PV)および耐摩耗性指数(CAI)を測定し、表1に示す。MTR-1のX線回折結果を図1に示す。MgやCaの珪酸塩ピークは見られないことがわかる。発明例のMTR-1および2は、組成が好適範囲にあり、珪酸塩がなく、比表面積、嵩密度、細孔容積および耐摩耗性指数CAIのすべてが金属捕捉剤として十分な性能を持っている。MTR-aは、NaOが高すぎ、耐摩耗性指数が高すぎるため、流動接触触媒にブレンドする際、粉化して、金属捕捉効果が発揮できなかった。MTR-bは、NaOが高すぎるほか、細孔容積が小さすぎ、珪酸塩も存在するため、金属捕捉機能が低かった。
【0045】
【表1】
図1