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特許7174631微分型移動度分光法を使用する鏡像異性体試料の検出のための方法
<図1>
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】微分型移動度分光法を使用する鏡像異性体試料の検出のための方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/624 20210101AFI20221110BHJP
   G01N 27/623 20210101ALI20221110BHJP
【FI】
G01N27/624
G01N27/623
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018553967
(86)(22)【出願日】2017-04-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-04-25
(86)【国際出願番号】 IB2017052117
(87)【国際公開番号】W WO2017178988
(87)【国際公開日】2017-10-19
【審査請求日】2020-04-10
(31)【優先権主張番号】62/323,191
(32)【優先日】2016-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510075457
【氏名又は名称】ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】キャンベル, ジョン エル.
【審査官】赤木 貴則
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0177994(US,A1)
【文献】国際公開第2016/030860(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/123464(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/185487(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0045598(US,A1)
【文献】MIE, A. et al.,Enantiomer Separation of Amino Acids by Complexation with Chiral Reference Compounds and High-Field Asymmetric Waveform Ion Mobility Spectrometry: Preliminary Results and Possible Limitations,Analitical Chemistry,Vol. 79,2007年02月28日,pp. 2850-2858,doi: 10.1021/ac0618627
【文献】WEISS, J. A. et al.,Indirect Chiral Separation of New Recreational Drugs by Gas Chromatography‐Mass Spectrometry Using Trifluoroacetyl‐L‐Prolyl Chloride as Chiral Derivatization Reagent,Chirality,Vol. 27,2014年11月22日,pp. 211-215,doi: 10.1002/chir.22414
【文献】LICEA-PEREZ, H. et al.,Camphanic acid chloride: a powerful derivatization reagent for stereoisomeric separation and its DMPK applications,Bioanalysis,2015年11月30日,VOL. 7, NO. 23,pp. 3005-3017,doi: 10.4155/bio.15.219
【文献】Derivation for Chiral GC/HPLC,Derivation Reagents For Selective Response and Detection in Complex Matrices,Sigma-Aldrich Co.,2011年,pp. 70-81,https://www.sigmaaldrich.com/content/dam/sigma-aldrich/migrationresource4/Derivatization%20Rgts%20brochure.pdf
【文献】DWIVEDI, P. et al.,Gas-Phase Chiral Separations by Ion Mobility Spectrometry,Analitical Chemistry,2006年11月09日,Vol. 78,pp. 8200-8206,doi: 10.1021/ac0608772
【文献】LAPTHORN, C. et al.,Ion mobility spectrometry‐mass spectrometry (IMS‐MS) of small molecules: Separating and assigning structures to ions,Mass Spectrometry Review,2012年08月31日,Vol. 32,pp. 43-71,doi: 10.1002/mas.21349
【文献】MIE, A. et al.,Terbutaline Enantiomer Separation and Quantification by Complexation and Field Asymmetric Ion Mobility Spectrometry - Tandem Mass Spectrometry,Analitical Chemistry,2008年04月30日,Vol. 80,pp. 4133-4140,doi: 10.1021/ac702262k
【文献】TAI, S. and MORRISON, C.,Chiral and stable isotope analysis of synthetic cathinones,Trends in Analytical Chemistry,2016年11月25日,Vol. 86,pp. 251-262,doi: 10.1016/j.trac.2016.11.008
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62-G01N 27/624
H01J 49/00-H01J 49/48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鏡像異性体の異性体対のうちの少なくとも1つの鏡像異性体を含むか含むと疑われる試料を分析する方法であって、
a.鏡像異性体が存在する場合、鏡像異性体の異性体対の各鏡像異性体を誘導体化試薬と反応させて前記鏡像異性体対の各鏡像異性体に対応するジアステレオマーを形成することであって、ここで、前記鏡像異性体の異性体対の各鏡像異性体は、前記誘導体化試薬に共有結合により結合される、こと;
b.前記ジアステレオマーをイオン化してイオン化されたジアステレオマーを形成すること
c.前記イオン化されたジアステレオマーを微分型移動度分光計を通して輸送して、前記鏡像異性体対の各鏡像異性体に対応する前記イオン化されたジアステレオマーの分離をもたらし、分離されたイオン化されたジアステレオマーを形成すること;および
d.質量分析計において、前記分離されたイオン化されたジアステレオマーを、その質量電荷比に基づいて分析することを含む、方法。
【請求項2】
前記試薬が、少なくとも1つのキラル中心を有する鏡像異性的に純粋な化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試薬がアシルハライドである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記試薬が、S-(-)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルクロリドおよびR-(-)-N-(トリフルオロアセチル)-プロピルクロリドのうちの1つである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記試薬が、1R,4R-カンファン酸クロリド、1R,4S-カンファン酸クロリド、1S,4R-カンファン酸クロリド、および1S,4S-カンファン酸クロリドのうちの1つである、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記試薬がたった1つのキラル中心を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記試薬が2つのキラル中心を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記鏡像異性体が、ヒドロキシル基および第一級アミンのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記鏡像異性体を反応させる工程が、前記ヒドロキシル基および第一級アミンのうちの1つまたは複数を前記誘導体化試薬に共有結合させることを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
補償電圧および分離電圧を前記微分型移動度分光計に印加して前記イオン化されたジアステレオマーのうちの一方を選択的に通過させる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記分離電圧を維持しながら前記補償電圧をスキャンすることをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
第1の持続時間後に前記補償電圧および前記分離電圧のうちの少なくとも1つを調整して、第2の持続時間中に前記イオン化されたジアステレオマーのうちの他方を選択的に通過させることをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記イオン化されたジアステレオマーが前記微分型移動度分光計を通して輸送されるように化学修飾剤をドリフトガスに添加することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記化学修飾剤が、水、メタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、およびアセトンからなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記微分型移動度分光計に印加された補償電圧と分離電圧との第1の組み合わせおよび補償電圧と分離電圧との第2の組み合わせで前記微分型移動度分光計から輸送された前記イオン化されたジアステレオマーを検出することをさらに含み、前記第1の組み合わせが、前記鏡像異性体対の第1の鏡像異性体に対応する前記イオン化されたジアステレオマーの通過を最適にするように構成されており、前記第2の組み合わせが、前記鏡像異性体対の第2の鏡像異性体に対応する前記イオン化されたジアステレオマーの通過を最適にするように構成されている、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記鏡像異性体対の第1の鏡像異性体および第2の鏡像異性体の試料中の相対存在量を決定することをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記微分型移動度分光計が、高磁場非対称波形イオン移動度分光法(FAIMS)を含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連米国出願
本出願は、2016年4月15日に出願された米国仮出願第62/323,191号からの優先権の利益を主張し、この出願の全内容は本明細書において参照として援用される。
【0002】
分野
本教示は、一般に、個別の鏡像異性体を同定、定量、分離、および/または検出するために微分型移動度分光法(differential mobility spectrometry;DMS)を利用する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
背景
鏡像異性体対の個別の鏡像異性の異性体(本明細書中で鏡像異性体ともいう)の分離および検出は、分析化学において現在も進行中の課題である。鏡像異性体は、相互に化学組成が同一であるが、1つまたは複数のキラル中心の周囲の官能基の空間的配置が異なり、その結果、鏡像異性体は相互に重ね合わせることができない鏡像である。鏡像異性体の異性体対の鏡像異性体の多くが同一の物理的性質および化学的性質(その偏光面の回転性の相違を除く)を示すにもかかわらず、いくつかの鏡像異性体は、ある特定の環境下で、もう一方の形態と異なる化学反応性を示し得る。例として、いくつかの鏡像異性体は、そのもう一方の鏡像異性体の形態と比較して顕著に異なる薬理学的効率を示し得る。したがって、鏡像異性体対の鏡像異性体が試料中に存在することを迅速また確実に同定し、かつ/または試料中の鏡像異性体の相対量を決定することが望ましくあり得る。しかし、従来の分離方法は、鏡像異性体の前述の化学的類似性および物理的類似性のために鏡像異性体対の鏡像異性体を分割するには不適切であり得る。例として、従来の質量分析技術は、鏡像異性体の質量電荷比が同一であるために、鏡像異性体を分割することが不可能であり得る。
【0004】
イオン移動度分光法を使用して試料中の鏡像異性体を分析するための従来のアプローチもまた、多数の欠点がある。例えば、1つのかかる方法では、クラスターを形成するために比較的大量の分析物を必要とするので、DMSで分離可能なクラスターを形成するために鏡像異性体を金属イオンおよびアミノ酸と錯体化することが、感度を低くしてしまう。さらに、クラスターは、脆弱である可能性があり、イオン源中で高温に加熱することができず、典型的には、分析混合物によって生成される総イオン電流の約1%しか存在しない。円偏レーザー光の印加による鏡像異性体イオンの枯渇も試みられているが、このプロセスは非効率であることが証明されている。キラル化学修飾剤を従来のイオン移動度分光計(IMS)のドリフトガスに添加することも行われているが、これらの結果は他での再現性が認められていない。
【0005】
したがって、鏡像異性の異性体の分離および検出のための方法およびシステムを改良する必要が依然としてある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
概要
微分型移動度分光法(DMS)を使用した鏡像異性体の同定および/または定量のための方法およびシステムを本明細書中に記載する。本教示の種々の態様によれば、本方法は、鏡像異性の異性体対の鏡像異性体を反応させてジアステレオマー対(それぞれ、試薬に共有結合した鏡像異性体のうちの1つに対応する)を形成すること、およびDMSによってジアステレオマーを分離することを含み得る。種々の態様では、試薬自体は、鏡像異性的に純粋な種を含む(例えば、1つの鏡像異性体の鏡像体過剰率は、試薬中のキラルな立体異性体の90%超、95%超、98%超、または実質的に100%である)。本教示の種々の態様によれば、ある特定の実施形態は、鏡像異性体の異性体対のうちの少なくとも1つの鏡像異性体を含むか含むと疑われる試料を分析する方法であって、本方法が、各々が鏡像異性体対の単一の鏡像異性体に由来する1つまたは複数のジアステレオマーを微分型分光計を通して輸送して、1つまたは複数のジアステレオマーの分離をもたらすことを含む、方法に関する。いくつかの関連する態様では、例えば、1つまたは複数のジアステレオマーは、鏡像異性体の異性体対の第1の鏡像異性体に対応する第1のジアステレオマーおよび鏡像異性体対の第2の鏡像異性体に対応する第2のジアステレオマーを含むことができ、本方法は、微分型移動度分離後のジアステレオマーの相対存在量に基づいて第1の鏡像異性体および第2の鏡像異性体の試料中の相対存在量を決定することをさらに含む。
【0007】
本教示の種々の態様によれば、ある特定の実施形態は、鏡像異性体の異性体対のうちの少なくとも1つの鏡像異性体を含むか含むと疑われる試料を分析する方法に関し、この方法は、鏡像異性体の異性体対の各鏡像異性体(試料内に存在する場合)を誘導体化試薬と反応させて鏡像異性体対の各鏡像異性体に対応するジアステレオマーを形成すること;ジアステレオマーをイオン化してイオン化されたジアステレオマーを形成すること;およびイオン化されたジアステレオマーを微分型移動度分光計を通して輸送して、鏡像異性体対の各鏡像異性体に対応する前記イオン化されたジアステレオマーの分離をもたらすことを含む。
【0008】
いくつかの態様では、例えば、微分型移動度分光計は、高磁場非対称波形イオン移動度分光計(High-Field Asymmetric Waveform Ion Mobility Spectrometer;FAIMS)を含み得る。いくつかの態様では、イオン化されたジアステレオマーを微分型移動度分光計を通して輸送しながら、補償電圧および分離電圧を、微分型移動度分光計に印加することができ、その結果、イオン化されたジアステレオマーのうちの一方が、微分型移動度分光計内でのその移動特性に基づいて、微分型移動度分光計から選択的にまたは優先的に通過する。いくつかの関連する態様では、方法は、分離電圧を固定値で維持しながら補償電圧をスキャンすることをさらに含む。いくつかの種々の態様では、方法は、第1の持続時間後に補償電圧および分離電圧のうちの少なくとも1つを調整して、選択的に第2の持続時間中にイオン化されたジアステレオマーのうちの他方を通過させることをさらに含み得る。いくつかの例示的な態様では、方法は、微分型移動度分光計に印加された補償電圧と分離電圧との第1の組み合わせおよび補償電圧と分離電圧との第2の組み合わせで微分型移動度分光計から輸送されたイオン化されたジアステレオマーを検出することを含み、第1の組み合わせが、鏡像異性体対の第1の鏡像異性体に対応するイオン化されたジアステレオマーの通過を最適にするように構成されており、第2の組み合わせが、鏡像異性体対の第2の鏡像異性体に対応するイオン化されたジアステレオマーの通過を最適にするように構成されている。いくつかの態様では、鏡像異性体対の第1の鏡像異性体および第2の鏡像異性体の試料中の相対存在量を、例えば、各イオン化されたジアステレオマーが選択的に通過する条件に対応する補償電圧および分離電圧で検出されたイオン化されたジアステレオマーの相対存在量に基づいて検出することができる。
【0009】
本教示によれば、微分型移動度分光計を、イオン化されたジアステレオマーの分離がもたらされるように種々の様式で操作することができる。例えば、本方法は、前述のイオン化されたジアステレオマーが微分型移動度分光計を通して輸送されるように化学修飾剤をドリフトガスに添加することをさらに含み得る。化学修飾剤を、水、メタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、およびアセトンからなる群から選択することができるが、これらは全て非限定的な例示を目的としている。さらにまたはあるいは、いくつかの態様では、本方法は、微分型移動度分光計中の1つまたは複数のイオン化されたジアステレオマーのドリフト時間が調整されるようにスロットルガス流量を調整することを含み得る。
【0010】
本教示の種々の態様によれば、誘導体化試薬は種々の化合物を含むことができるが、一般に、鏡像異性体対の各鏡像異性体に対応するジアステレオマーを形成するために、試料中に鏡像異性体と反応するように構成されている。種々の態様では、試薬は、少なくとも1つのキラル中心を有する鏡像異性的に純粋な化合物であり得る。非限定的な例として、試薬は、アシルハライドまたはカルボン酸であり得る。鏡像異性的に純粋なアシルハライドの例には、S-(-)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルクロリド、R-(+)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルクロリド、(S)-(+)-α-メトキシ-α-(トリフルオロメチル)フェニルアセチルクロリド、(R)-(-)-α-メトキシ-α-(トリフルオロメチル)フェニルアセチルクロリド、1R,4R-カンファン酸クロリド、1R,4S-カンファン酸クロリド、1S,4R-カンファン酸クロリド、および1S,4S-カンファン酸クロリドが挙げられる。誘導体化試薬は、1つまたは複数のキラル中心を含む分子を含み得る。例として、誘導体化試薬は、単一のキラル中心または2つのキラル中心を含む分子を含み得る。誘導体化試薬を種々の様式で鏡像異性体試料と反応させて、本教示の種々の態様によるジアステレオマーを形成することができる。いくつかの態様では、例えば、鏡像異性体は、ヒドロキシル基および第一級アミンのうちの少なくとも1つを含む官能基を含むことができ、鏡像異性体を誘導体化試薬と反応させる工程は、1つまたは複数の前述の基を前述の誘導体化試薬と共有結合させることを含み得る。
【0011】
出願人の教示のこれらの特徴および他の特徴を、本明細書中に記載する。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
鏡像異性体の異性体対のうちの少なくとも1つの鏡像異性体を含むか含むと疑われる試料を分析する方法であって、
a.鏡像異性体が存在する場合、鏡像異性体の異性体対の各鏡像異性体を誘導体化試薬と反応させて前記鏡像異性体対の各鏡像異性体に対応するジアステレオマーを形成すること;
b.前記ジアステレオマーをイオン化してイオン化されたジアステレオマーを形成すること;および
c.前記イオン化されたジアステレオマーを微分型移動度分光計を通して輸送して、前記鏡像異性体対の各鏡像異性体に対応する前記イオン化されたジアステレオマーの分離をもたらすこと
を含む、方法。
(項目2)
前記試薬が、少なくとも1つのキラル中心を有する鏡像異性的に純粋な化合物である、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記試薬がアシルハライドである、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記試薬が、S-(-)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルクロリドおよびR-(-)-N-(トリフルオロアセチル)-プロピルクロリドのうちの1つである、項目3に記載の方法。
(項目5)
前記試薬が、1R,4R-カンファン酸クロリド、1R,4S-カンファン酸クロリド、1S,4R-カンファン酸クロリド、および1S,4S-カンファン酸クロリドのうちの1つである、項目2に記載の方法。
(項目6)
前記試薬がたった1つのキラル中心を有する、項目2に記載の方法。
(項目7)
前記試薬が2つのキラル中心を有する、項目2に記載の方法。
(項目8)
前記鏡像異性体が、ヒドロキシル基および第一級アミンのうちの少なくとも1つを含む、項目1に記載の方法。
(項目9)
前記鏡像異性体を反応させる工程が、前記ヒドロキシル基および第一級アミンのうちの1つまたは複数を前記誘導体化試薬に共有結合させることを含む、項目8に記載の方法。
(項目10)
補償電圧および分離電圧を前記微分型移動度分光計に印加して前記イオン化されたジアステレオマーのうちの一方を選択的に通過させる、項目1に記載の方法。
(項目11)
前記分離電圧を維持しながら前記補償電圧をスキャンすることをさらに含む、項目10に記載の方法。
(項目12)
第1の持続時間後に前記補償電圧および前記分離電圧のうちの少なくとも1つを調整して、第2の持続時間中に前記イオン化されたジアステレオマーのうちの他方を選択的に通過させることをさらに含む、項目10に記載の方法。
(項目13)
前記イオン化されたジアステレオマーが前記微分型移動度分光計を通して輸送されるように化学修飾剤をドリフトガスに添加することをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目14)
前記化学修飾剤が、水、メタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、およびアセトンからなる群から選択される、項目13に記載の方法。
(項目15)
前記微分型移動度分光計に印加された補償電圧と分離電圧との第1の組み合わせおよび補償電圧と分離電圧との第2の組み合わせで前記微分型移動度分光計から輸送された前記イオン化されたジアステレオマーを検出することをさらに含み、前記第1の組み合わせが、前記鏡像異性体対の第1の鏡像異性体に対応する前記イオン化されたジアステレオマーの通過を最適にするように構成されており、前記第2の組み合わせが、前記鏡像異性体対の第2の鏡像異性体に対応する前記イオン化されたジアステレオマーの通過を最適にするように構成されている、項目1に記載の方法。
(項目16)
前記鏡像異性体対の第1の鏡像異性体および第2の鏡像異性体の試料中の相対存在量を決定することをさらに含む、項目15に記載の方法。
(項目17)
前記微分型移動度分光計が、高磁場非対称波形イオン移動度分光法(FAIMS)を含む、項目1に記載の方法。
(項目18)
鏡像異性体の異性体対のうちの少なくとも1つの鏡像異性体を含むか含むと疑われる試料を分析する方法であって、
各々が鏡像異性体対の単一の鏡像異性体に由来する1つまたは複数のジアステレオマーを微分型移動度分光計を通して輸送して、前記1つまたは複数のジアステレオマーの分離をもたらすことを含む、方法。
(項目19)
前記1つまたは複数のジアステレオマーが、前記鏡像異性体の異性体対の第1の鏡像異性体に対応する第1のジアステレオマーおよび前記鏡像異性体対の第2の鏡像異性体に対応する第2のジアステレオマーを含み、微分型移動度分離後のジアステレオマーの相対存在量に基づいて前記第1の鏡像異性体および前記第2の鏡像異性体の試料中の相対存在量を決定することをさらに含む、項目18に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図面の簡単な説明
当業者は、下記の図面が例示のみを目的とすると理解する。図面は、出願人の教示の範囲を制限することを決して意図しない。
【0013】
図1図1は、本教示の種々の態様による鏡像異性体の異性体対のうちの少なくとも1つの鏡像異性体を含むか含むと疑われる試料を分析するためのワークフローの略図である。
【0014】
図2図2Aおよび2Bは、出願人の教示の種々の態様による使用のための2つの例示的な誘導体化試薬(すなわち、カンファン酸クロリド(図2A)およびN-(トリフルオロアセチル)プロリルクロリド(TPC)(図2B))の化学構造を示す。
【0015】
図3図3は、本教示の種々の態様による、ジアステレオマー(S,S)-TPCアンフェタミンと(R,S)-TPCアンフェタミンとの混合物を得るための鏡像異性体試料(R/S-アンフェタミン)と図2Bの鏡像異性的に純粋な誘導体化試薬((S)-(-)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルクロリド)との例示的な反応を模式的に示す。
【0016】
図4図4は、本教示の種々の態様による、(R,S)-TPCメタンフェタミンと(S,S)-TPCアンフェタミンとを含むジアステレオマーの混合物を得るための鏡像異性体試料(R/S-メタンフェタミン)と図2Bの鏡像異性的に純粋な誘導体化試薬((S)-(-)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルクロリド)との例示的な反応を模式的に示す。
【0017】
図5図5は、本教示の種々の態様による、ジアステレオマー(R,S,R)-カンファニルワルファリンと(S,S,R)-カンファニルワルファリンとの混合物を得るための鏡像異性体試料(R/S-ワルファリン)と図2Aのジアステレオマーとして純粋な誘導体化試薬((1S,4R)-カンファン酸クロリド)との例示的な反応を模式的に示す。
【0018】
図6図6は、出願人の教示の種々の実施形態の態様による、例示的な微分型移動度分光計/質量分析計システムの略図である。
【0019】
図7-1】図7Aは、(S,S)-TPアンフェタミンと(R,S)-TPアンフェタミンとの混合物を含む試料(曲線A)および(R,S)-TPアンフェタミン(曲線B)を含む試料から生成した例示的なイオノグラムを示す。
【0020】
図7-2】図7Bは、(S,S)-TPアンフェタミンと(R,S)-TPアンフェタミンとの混合物を含む試料(上、図6Aの曲線A)および(R,S)-TPアンフェタミンを含む試料(下、図6Aの曲線B)由来の、CoV=+9.6Vで操作したDMSから通過したイオンについての例示的な質量スペクトル(EPI、エンハンスドプロダクトイオン)を示す。
【0021】
図7Cは、(S,S)-TPアンフェタミンと(R,S)-TPアンフェタミンとの混合物を含む試料(上、図6Aの曲線A)および(R,S)-TPアンフェタミンを含む試料(下、図6Aの曲線B)由来の、CoV=+8.2Vで操作したDMSから通過したイオンについての例示的な質量スペクトル(EPI、エンハンスドプロダクトイオン)を示す。
【0022】
図8-1】図8Aは、(S,S)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルメタンフェタミンと(R,S)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルメタンフェタミンとの混合物を含む試料から生成した例示的なイオノグラムを示す。
【0023】
図8-2】図8Bは、(S,S)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルメタンフェタミンと(R,S)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルメタンフェタミンとの混合物を含む試料由来の、CoV=+9.1Vで操作したDMSから通過したイオンについての例示的な質量スペクトル(EPI、エンハンスドプロダクトイオン)を示す。図8Cは、(S,S)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルメタンフェタミンと(R,S)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルメタンフェタミンとの混合物を含む試料由来の、CoV=+7.0Vで操作したDMSから通過したイオンについての例示的な質量スペクトル(EPI、エンハンスドプロダクトイオン)を示す。
【0024】
【0025】
図9-1】図9Aは、(R,S,R)-カンファニルワルファリンと(S,S,R)-カンファニルワルファリンとの混合物を含む試料(曲線A)および(R,S,R)-カンファニルワルファリン(曲線B)を含む試料から生成した例示的なイオノグラムを示す。
【0026】
図9-2】図9Bは、(R,S,R)-カンファニルワルファリンと(S,S,R)-カンファニルワルファリンとの混合物を含む試料(上、図9Aの曲線A)および(R,S,R)-カンファニルワルファリンを含む試料(下、図9Aの曲線B)由来の、CoV=+6.7Vで操作したDMSから通過したイオンについての例示的な質量スペクトル(EPI、エンハンスドプロダクトイオン)を示す。 図9Cは、(R,S,R)-カンファニルワルファリンと(S,S,R)-カンファニルワルファリンとの混合物を含む試料(上、図9Aの曲線A)および(R,S,R)-カンファニルワルファリンを含む試料(下、図9Aの曲線B)由来の、CoV=+8.7Vで操作したDMSから通過したイオンについての質量スペクトル(EPI、エンハンスドプロダクトイオン)を示す。
【0027】
【発明を実施するための形態】
【0028】
詳細な説明
明確にするために、以下の考察が出願人の教示の実施形態の種々の態様を詳細に説明している一方で、省略することが好都合であるか適切である場合はいつでもある特定の詳細を省略すると認識される。例えば、代替的な実施形態における同様または類似の特徴の考察をいくらか省略することができる。周知の考えまたは概念も、簡潔にするために詳細に考察しなくてよい。当業者は、出願人の教示のいくつかの実施形態が実施されるごとにある特定の具体的説明を必要としなくてよく、実施形態を完全に理解することのみを目的として記載していると認識する。同様に、記載の実施形態を、本開示の範囲を逸脱することなく、一般的な知識に従って変更するか変形させることができることが明らかである。以下の実施形態の詳細な説明は、出願人の教示の範囲を制限すると決して見なされるべきではない。
【0029】
微分型移動度分光法(DMS)を使用して鏡像異性体を同定および/または定量するための方法およびシステムを本明細書中に提供する。本教示の種々の態様によれば、本方法は、鏡像異性の異性体対の鏡像異性体を反応させてジアステレオマー対を形成すること、およびジアステレオマーの異なる移動度特性に基づいてDMSによってジアステレオマーを分離することを含み得る。種々の態様では、ジアステレオマーを、鏡像異性体を試薬と共有結合させることによって形成することができ、試薬自体は、鏡像異性的に純粋な形態の鏡像異性体を含み得る(例えば、鏡像異性体対の1つの鏡像異性体が、試薬中の鏡像異性体対の鏡像異性体の総量のうちの90%超、95%超、98%超、または実質的に全てを占める)。本明細書中で使用される場合、鏡像異性体という用語は、1つまたは複数のキラル中心(それぞれ、鏡像異性体対の鏡像異性体が相互に重ね合わせることができない鏡像であるようなその官能基の配置を示す)を有する立体異性体をいい、ジアステレオマーという用語は、2つまたはそれを超えるキラル中心(そのいくつかのみが関係する官能基の異なる立体配置を示す)を有する立体異性体をいう。
【0030】
例えば、ここで図1において、サンプル内の鏡像異性体の同定および/または定量のための例示的方法100を、本教示の種々の態様に従って示す。工程102に示されるように、鏡像異性体対の鏡像異性体のうちの1つまたは両方を含むか含むと疑われる試料を、誘導体化試薬と反応させてジアステレオマーを形成することができ、各ジアステレオマーは、誘導体化試薬と共有結合した鏡像異性体(存在する場合)のうちの1つに対応し得る。
【0031】
鏡像異性体は、種々の試料(例えば、生物サンプルが含まれる)中に存在し得る。生物サンプルは、任意の体液(細胞内液、細胞外液、尿、血液、CSF(脳脊髄液)、唾液、胆汁、羊水、リンパ液など)を含み得る。試料はまた、例えば、粗試料または精製された試料を含み得、例えば、試料および/またはジアステレオマー性反応生成物内の夾雑物を除去するか、そうでなければ鏡像異性体を精製するために、工程102の前/後に1つまたは複数のサンプルをさらに処理する工程を行うことができると認識される。非限定的な例として、以下に考察するように、ガスクロマトグラフィ、液体クロマトグラフィ、またはキャピラリー電気泳動のうちのいずれかを使用して、工程102前に試料を精製し、かつ/またはさらなる処理前に反応生成物を精製することができる。
【0032】
本明細書中に記載の方法およびシステムを使用して、1つまたは複数のキラル中心を有する種々の鏡像異性体を分析することができ、ここで、キラル中心の周囲の官能基の空間的分布が異なるので、鏡像異性体対の鏡像異性体が相互に鏡像であると認識される。例として、ワルファリン(血栓症予防のために使用することができる抗凝固薬)は、以下に示すように、鏡像異性体R-ワルファリンおよびS-ワルファリンを含むキラル化合物である。この鏡像異性体対の各鏡像異性体は体内で異なる経路によって代謝され、抗凝固応答の生成において、S-ワルファリン鏡像異性体はR-ワルファリンより効力が高い。
【0033】
アンフェタミンは、R-アンフェタミン鏡像異性体(レボアンフェタミンとしても公知)およびS-アンフェタミン鏡像異性体(デキストロアンフェタミンとしても公知)(体内で薬理学的性質および異なる半減期を示し得る)の鏡像異性体対を含むキラル化合物の別の例である。
【0034】
メタンフェタミンは、S-メタンフェタミン鏡像異性体およびR-メタンフェタミン鏡像異性体(前者は精神活性ストリートドラッグであり、後者は経鼻鬱血除去薬である)の鏡像異性体対を含むキラル化合物の別の例である。
【0035】
種々の態様では、鏡像異性体の異性体対の鏡像異性体が誘導体化試薬との反応で置換され得る1つまたは複数の官能基を示すことが好ましくあり得る。例として、鏡像異性体は、化合物の異なる位置に配置される1つまたは複数の官能基(例えば、電子供与基および/または電子求引基)(ヒドロキシル基および/または第一級アミン基など)を含み得る。
【0036】
本教示の種々の態様によれば、誘導体化試薬は種々の化合物を含むことができるが、一般に、1つまたは複数のキラル中心を含み、その結果、鏡像異性体との反応によってキラル中心の数が各鏡像異性体単独におけるキラル中心の数より多いジアステレオマー性反応生成物が得られる。上述のように、各鏡像異性体由来のジアステレオマー性反応生成物は、反応生成物中の少なくとも1つであるが全部未満のキラル中心の周囲の官能基の空間的配置が共通しているので、相互に鏡像ではない。種々の態様では、誘導体化試薬自体は、鏡像異性体を含むことができ、好ましくは鏡像異性的に純粋な形態であり得る。本明細書中で使用される場合、「鏡像異性的に純粋な」は、誘導体化試薬のキラルな立体異性体の形態の単一の立体異性体が試薬中のキラルな立体異性体の総量の90%超(例えば、95%超、98%超、または実質的に100%)を占める誘導体化試薬をいう。例えば、単一のキラル中心(したがって、2つの鏡像異性体の形態)を示す誘導体化試薬の場合、誘導体化試薬は、1つの鏡像異性体が試薬中の鏡像異性体対の鏡像異性体総量のうちの90%超、95%超、98%超、または実質的に100%を占める場合に、「鏡像異性的に純粋」である。2つまたはそれを超えるキラル中心を有する誘導体化試薬の場合、誘導体化試薬は、1つの鏡像異性体が試薬中のキラルな立体異性体の総量(すなわち、分子の鏡像異性体の形態およびジアステレオマーの形態の全て)の90%超、95%超、98%超、または実質的に100%を占める場合、「鏡像異性的に純粋」である。この様式では、定義されたキラル環境で鏡像異性体試料を反応させて、たった2つのジアステレオマー(それぞれ、同一の鏡像異性体の形態の試薬に結合した試料中の鏡像異性体の異性体対の鏡像異性体のうちの1つに対応する)から実質的になる反応生成物が得られると認識される。いくつかの態様では、誘導体化試薬は、鏡像異性体の異性体対の鏡像異性体のうちの1つと反応することができる1つまたは複数の官能基(例えば、電子供与基および/または電子求引基)(ヒドロキシル基および/または第一級アミン基など)を含み得る。誘導体化試薬は、鏡像異性体の異性体対のうちの各鏡像異性体のヒドロキシル基またはアミン基と迅速に、再現可能に、かつ対称的に反応するように構成された1つまたは複数の官能基(例えば、アシルハライド官能基)を含み得る。非限定的な例として、いくつかの例示的な誘導体化試薬は、カンファン酸クロリド;N-(トリフルオロアセチル)プロリルクロリド;BOC-L-システイン;Nα-(2,4-ジニトロ-5-フルオロフェニル)-L-バリンアミド;N-イソブチリル-L-システイン;Nα-(2,4-ジニトロ-5-フルオロフェニル)-L-アラニンアミド;2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-β-D-グルコピラノシルイソチオシアナート;2,3,4-トリ-O-アセチル-α-D-アラビノピラノシルイソチオシアナート;(1R,4aS,10aR)-7-イソプロピル-1-イソチオシアナト-1,4a-ジメチル-1,2,3,4,4a,9,10,10a-オクタヒドロフェナントレン;N-(7-ニトロ-4-ベンゾフラザニル)-L-プロリルクロリド;R(-)-α-メトキシ-α-トリフルオロ-メチル-フェニル酢酸;R(-)-1-(1-ナフチル)エチルイソシアナート;(R)-(+)-α-メチルベンジルイソシアナート;GC R(+)-α-メトキシ-α-トリフルオロ-メチルフェニル酢酸;R(+)-1-(1-ナフチル)エチルアミン;R(+)-1-フェニルエタノール;および(R)-(+)-α-メチルベンジルアミンを含む。
【0037】
ここで図2A~Bにおいて、本教示の種々の態様の誘導体化試薬としての使用に適切な2つの鏡像異性的に純粋な誘導体化試薬を以下に示す:カンファン酸クロリド(図2A)およびN-(トリフルオロアセチル)プロリルクロリド(図2B)(それぞれ、鏡像異性的に純粋な形態で市販されている)。図2Aおよび2B中の破線の円によって示すように、これらの例示的な誘導体化試薬は、少なくとも1つのキラル中心(カンファン酸クロリドの場合、2つ)を含む。これら2つのキラル中心のために、カンファン酸クロリドは、以下の4つの立体異性体を示し得る:1R,4R-カンファン酸クロリド、1R,4S-カンファン酸クロリド、1S,4R-カンファン酸クロリド、および1S,4S-カンファン酸クロリド。これら4つのカンファン酸クロリドのキラル形態のうちで、1R,4R-カンファン酸クロリドおよび1S,4S-カンファン酸クロリドが1つの鏡像異性体対を示し、一方、1R,4S-カンファン酸クロリドおよび1S,4R-カンファン酸クロリドが第2の鏡像異性体対を示すことが当業者に認識される。例えば、1R,4R-カンファン酸クロリドおよび1R,4S-カンファン酸クロリドが、キラル中心のうちの1つの周囲のR-立体配置が共通であるので(すなわち、1R)、相互に関してジアステレオマーと見なされることも留意すべきである。同様に、1R,4R-カンファン酸クロリドおよび1S,4R-カンファン酸クロリドは、キラル中心のうちの1つの周囲のR-立体配置が共通であるので(すなわち、4R)、相互に関してジアステレオマーと見なされる。カンファン酸クロリドの場合に関して、例えば、カンファン酸クロリドの4つのキラルな立体異性体形態のうちの1つが1R,4R-カンファン酸クロリド、1R,4S-カンファン酸クロリド、1S,4R-カンファン酸クロリド、および1S,4S-カンファン酸クロリドの総量の90%超を占める場合、本教示の意味の範囲内で、誘導体化試薬が鏡像異性的に純粋であると見なされると認識される。N-(トリフルオロアセチル)プロリルクロリドは、その単一のキラル中心のために以下の2つの立体異性体の形態:S-(-)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルクロリドおよびその鏡像異性体R-(-)-N-(トリフルオロアセチル)プロピルクロリドを示す鏡像異性体であることを留意すべきである。したがって、N-(トリフルオロアセチル)プロリルクロリドの場合に関して、例えば、1つの鏡像異性体がS-(-)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルクロリドおよびその鏡像異性体R-(-)-N-(トリフルオロアセチル)プロピルクロリドの総量の90%超を占める場合、本教示の意味の範囲内で、誘導体化試薬が鏡像異性的に純粋であると見なされると認識される。
【0038】
図2Aおよび図2Bに関して、これらの例示的な誘導体化試薬の各々が図3~5に関して以下に記載のように鏡像異性体と反応し得るアシルハライド基を含むにもかかわらず、本教示の種々の態様で他の官能基(アミンおよびアルコールなど)を含む鏡像異性的に純粋な誘導体化試薬を使用して鏡像異性体試料と反応させることができる(これらは全て非限定的な例である)ことも留意されるべきである。ここで具体的に図3において、鏡像異性体R/S-アンフェタミン304と鏡像異性的に純粋なS-(-)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルクロリド310との反応のための例示的な反応スキーム302を示す。具体的には、アンフェタミン304(1つのキラル中心を示し、かつ両方の鏡像異性体の形態(R-アンフェタミンおよびS-アンフェタミン)で存在する)のヒドロキシル基を、S-(-)-(トリフルオロアセチル)プロリルクロリド鏡像異性体(1つのキラル中心312を示す)のアシルハライド基由来の炭素と反応させる(308)。示すように、得られた生成物N-(トリフルオロアセチル)プロリルアンフェタミン316は、2つのキラル中心(306および312)を示し、2つのジアステレオマーの形態(S,S-(トリフルオロアセチル)プロリルアンフェタミンおよびR,S-(トリフルオロアセチル)プロリルアンフェタミン)で存在する。キラル中心のうちの1つの周囲のS立体配置が共通であるので、生成物316は相互に関してジアステレオマーと見なされることを留意すべきである。鏡像異性的に純粋なS-(-)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルクロリドがアンフェタミンの鏡像異性体の形態と対称的に反応すると仮定すると、得られたジアステレオマーの生成物の混合物は、アンフェタミンの鏡像異性体が試料中に存在するので、相互に同じ比率で見出されるはずである。
【0039】
ここで図4において、鏡像異性体R/S-メタンフェタミン404と鏡像異性的に純粋なS-(-)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルクロリド410との反応のための例示的な反応スキーム402を示す。具体的には、メタンフェタミン404(1つのキラル中心を示し、かつ鏡像異性体の形態(R-メタンフェタミンおよびS-メタンフェタミン)で存在する)のアミン基を、(トリフルオロアセチル)プロリルクロリド鏡像異性体410(1つのキラル中心412を示す)のアシルハライド基由来の炭素と反応させる(408)。示すように、得られた生成物N-(トリフルオロアセチル)プロリルメタンフェタミン416は、2つのキラル中心(406および412)を示し、2つのジアステレオマーの形態(S,S)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルメタンフェタミンおよび(R,S)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルメタンフェタミン)で存在する。2つのキラル中心のうちの1つの周囲のS立体配置が共通であるので、生成物416は相互に関してジアステレオマーと見なされることを留意すべきである。鏡像異性的に純粋なS-(-)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルクロリドがメタンフェタミンの鏡像異性体の形態と対称的に反応すると仮定すると、得られたジアステレオマーの生成物の混合物は、メタンフェタミンの鏡像異性体が試料中に存在するので、相互に同じ比率で見出されるはずである。
【0040】
ここで具体的に図5において、試料鏡像異性体R/S-ワルファリン504と鏡像異性的に純粋な1S,4R-カンファン酸クロリド510との反応のための例示的な反応スキーム502を示す。具体的には、ワルファリン504(1つのキラル中心を示し、かつ両方の鏡像異性体の形態(R-ワルファリンおよびS-ワルファリン)で存在する)のヒドロキシル基を、1S,4R-カンファン酸クロリド鏡像異性体510(2つのキラル中心512、513を示す)のアシルハライド基由来の炭素と反応させる(508)。示すように、得られた生成物カンファニルワルファリン516は、3つのキラル中心(506、512および513)を示し、2つのジアステレオマーの形態(R,S,R-カンファニルワルファリンおよびS,S,R-カンファニルワルファリン)で存在する。キラル中心のうちの2つのそれぞれの周囲のS,R立体配置が共通であるので、生成物516は相互に関してジアステレオマーと見なされることを留意すべきである。鏡像異性的に純粋な1S,4R-カンファン酸クロリドがワルファリンの鏡像異性体の形態と対称的に反応すると仮定すると、得られたジアステレオマーの生成物の混合物は、ワルファリンの鏡像異性体が試料中に存在するので、相互に同じ比率で見出されるはずである。
【0041】
図1に示す例示的な試料の分析方法を再度参照すると、工程102で鏡像異性体対の鏡像異性体を反応させて試料中に存在する鏡像異性体に対応するジアステレオマーの形態を生成した後、工程104に示すように反応生成物をイオン化し(例えば、イオン源を介して)、DMSに供して、その微分型移動度に基づいてイオン化されたジアステレオマーを分離することができる。鏡像異性の異性体対の鏡像異性体が、その鏡像異性体の形態でDMSによって分離することができるように、鏡像異性体のイオン移動度の任意のまたは有意な相違を示すことができないにもかかわらず(すなわち、鏡像異性体の両形態がDMSによって同時に通過する)、工程102における誘導体化試薬の鏡像異性体への共有結合により、ある特定のDMS条件下で本教示の種々の態様にしたがって異なる移動度によって鏡像異性体を分割することができるように、鏡像異性体の分子構造の十分な相違を示すジアステレオマーを形成することができる。以下に詳細に考察するように、例えば、DMSにおける分離電圧(SV)および補償電圧(CoV)をそれぞれ、鏡像異性体の異性体対の第1の鏡像異性体に対応するイオン化されたジアステレオマーが、鏡像異性体の異性体対中の第2の鏡像異性体に対応するイオン化されたジアステレオマー(DMSの電極で中和することができる)より多くDMSを通過することができるように特定の値に設定することができる(工程106)。これらのCoVおよびSVの最初の値で、次いで、DMSを通過したイオンを、工程108で検出することができる。いくつかの態様では、次いで、SVおよびCoVのうちの1つを鏡像異性体の異性体対の他の鏡像異性体に対応するイオン化されたジアステレオマーを選択的に通過させるように調整することができ(工程110)、これらの異なるDMS条件下でDMSを通過したイオンが工程112で検出される。工程108および112における検出の結果に基づいて、例えば、次いで、試料中の鏡像異性体の相対的比率および/またはその量を、工程114で決定することができる。なぜなら、工程104でイオン化されたジアステレオマー生成物の混合物も試料中に存在する各鏡像異性体と同じ比率で存在するはずであるからである。
【0042】
ここで図6において、図1に記載の鏡像異性体対の鏡像異性体を分析および/または定量するための例示的なシステムをここに記載する。具体的には、工程102において鏡像異性体と誘導体化試薬との反応から1つまたは複数のジアステレオマーを形成した後、以下で詳細に考察するように、ジアステレオマー性反応生成物の混合物を、システム600におけるイオン化、微分型移動度分光法、および検出に供することができる。しかし、当業者に認識されるように、例示的なシステム600は、本明細書中に記載のシステム、デバイス、および方法の種々の態様で用いるための可能な配置のほんの一例を示している。
【0043】
図6に示すように、例示的なシステム600は、一般に、質量分析計の第1の真空レンズ要素650(以後、一般的に質量分析計650とする)と流体連結している微分型移動度デバイス610を含む。微分型移動度デバイス610は、種々の立体配置を取ることができるが、一般に、固定電場または変動電場によるその移動度に基づいてイオン602(例えば、イオン化されたジアステレオマー)が分割されるように構成されている(それに対して、MSは、その質量電荷比に基づいてイオンを分析する)。イオン移動度デバイス610が微分型移動度分光計として本明細書中で一般的に記載されているが、イオン移動度デバイスは、キャリアガスまたはドリフトガスによるその移動度に基づいてイオンが分離されるように構成された任意のイオン移動度デバイスであり得、非限定的な例として、平行板、弯曲電極、または円柱状のFAIMSデバイスなどの種々の幾何学的配置のイオン移動度分光計、ドリフト時間イオン移動度分光計、進行波イオン移動度分光計、微分型移動度分光計、および高磁場非対称波形イオン移動度分光計(FAIMS)が含まれると認識される。DMSでは、RF電圧(しばしば分離電圧(SV)と呼ばれる)を、ドリフトガス流に対して垂直方向にドリフト管の両端間に印加することができる。所与の種のイオンは、高磁場部分および低磁場部分の間の移動度の相違に起因する各RF波形サイクル中の特徴的な量によって、輸送室の軸から放射状に移動する傾向がある。DMSセルにDC電位(一般に補償電圧(CoV)と呼ばれる)を印加すると、SVと釣り合う静電力が得られる。CoVを、目的のイオン種のドリフトを優先的に防止するように調整することができる。印加に応じて、CoVを、特定の微分型移動度を有するイオン種のみが通過する一方で、残存するイオン種が電極に向かってドリフトして中和されるような固定値に設定することができる。あるいは、試料をDMS内に連続的に導入したときに固定SVについてCoVをスキャニングする場合、DMSが微分型移動度の異なるイオンを通過させるときに移動度スペクトルを生成することができる。
【0044】
図6に示す例示的な実施形態では、微分型移動度分光計610はカーテン室630内に含まれ、カーテン室630は、カーテン板または境界部材634によって画定され、カーテンガス供給源(示さず)由来のカーテンガス636が供給される。示すように、例示的な微分型移動度分光計610は対向電極板対612を含み、対向電極板対612は、輸送ガス614を取り囲み、輸送ガス614は微分型移動度分光計610の入口616から微分型移動度分光計610の出口618へドリフトする。微分型移動度分光計610の出口618は、ドリフトガス616を、質量分析計650を含む真空室652の入口654内に放出する。微分型移動度分光計610の出口618でスロットルガス638をさらに供給して、微分型移動度分光計610を通る輸送ガス614の流量を修正することができる。
【0045】
本教示のある特定の態様によれば、カーテンガス636およびスロットルガス638を、流量調節器およびバルブによって決定された流量に設定して微分型移動度分光計610内のイオンのドリフト時間を変化させることができる。カーテンガスおよびスロットルガスの各供給部は、同じであるか異なる純粋な組成のガスまたは混合組成のガスをカーテンガス室に供給することができる。非限定的な例として、カーテンガスは、空気、O、He、N、またはCOであり得る。カーテン室630の圧力を、例えば、大気圧または大気圧付近(すなわち、760Torr)に維持することができる。さらに、システム600は、化学修飾剤および/または試薬(以後、化学修飾剤という)をカーテンガスおよびスロットルガスに供給するための化学修飾剤供給部(示さず)を含み得る。当業者に認識されるように、修飾剤供給部は、固体、液体、または気体のリザーバであり得、修飾剤供給部を通じてカーテンガスがカーテン室630に送達される。例として、液体修飾剤供給部を通じてカーテンガスを発泡させることができる。あるいは、液体または気体の修飾剤を、例えば、LCポンプ、シリンジポンプ、または既知速度でカーテンガス内に修飾剤を分配するための他の分配デバイスによってカーテンガス内に秤量することができる。例えば、カーテンガス内に選択された濃度の修飾剤が供給されるように、ポンプを使用して修飾剤を導入することができる。修飾剤供給部は、当該分野で公知の任意の修飾剤(非限定的な例として、水、揮発性液体(例えば、メタノール、プロパノール、アセトニトリル、エタノール、アセトン、およびベンゼン)(アルコール、アルカン、アルケン、ハロゲン化されたアルカンおよびアルケン、フラン、エステル、エーテル、芳香族化合物が含まれる)が挙げられる)を提供することができる。本教示を考慮して当業者によって認識されるように、化学修飾剤は、SVの高電場部分および低電場部分の間でイオンが修飾剤(例えば、水素結合またはイオン結合を介したクラスター)と差動的に相互作用するようにイオン化されたジアステレオマーと相互作用することができ、それにより、所与のSVを釣り合わせるために必要とされるCoVをもたらす。いくつかの場合、これにより、ジアステレオマー付加物の間の分離が増大し得る。
【0046】
イオン602(例えば、イオン化されたジアステレオマー)をイオン源(示さず)によって生成し、カーテン室入口650を介してカーテン室630内に放射することができる。当業者に認識されるように、イオン源は、当該分野で公知の実質的に任意のイオン源(例えば、エレクトロスプレーイオン化(ESI)源が含まれる)であり得る。カーテン室630内にカーテンガスの圧力(例えば、約760Torr)がかかると、カーテンガス室入口からのカーテンガス流出および微分型移動度分光計610内へのカーテンガス流入の両方が可能であり、それにより、イオン602を保有する輸送ガス614が微分型移動度分光計610を通って真空室652内に含まれる質量分析計650内に流入するようになり、カーテン室630よりもはるかに低い圧力で維持することができる。非限定的な例として、輸送ガス614およびこれに伴うイオン602を質量分析計650の入口654に引き込むために、真空室652の圧力をカーテン室630より低い圧力に維持することができる(例えば、真空ポンプによる)。本教示を考慮して、ジアステレオマー(またはジアステレオマーを含む混合物)を、種々の試料供給源(非限定的な例として、直接注入、液体試料を含むリザーバからのポンピング、および液体クロマトグラフィ(LC)カラムが含まれる)からイオン源602に送達することができることが当業者に認識される。
【0047】
当業者に認識されるように、微分型移動度/質量分析計システム600は、真空室652の下流側に、1つまたは複数のさらなる質量分析器要素をさらに含むことができる。イオン602を、真空室652および1つまたは複数の質量分析器要素を含む1つまたは複数のさらなる差動的にポンピングする真空ステージを通して輸送することができる。例えば、1つの実施形態では、トリプル四重極質量分析計は、圧力がおよそ2.3Torrに維持されている第1のステージ、圧力がおよそ6mTorrに維持されている第2のステージ、および圧力がおよそ10-5Torrに維持されている第3のステージを含む3つの差動的にポンピングする真空ステージを含み得る。第3の真空ステージは、検出器および2つの四重極質量分析器を含むことができ、この2つの四重極質量分析器の間に衝突セルが備えられている。システム内にいくつかの他のイオン光学要素が存在し得ることが当業者に明らかである。あるいは、微分型移動度分光計610によって通過したイオンの検出に有効な検出器(例えば、ファラデーカップまたは他のイオン電流測定デバイス)を、微分型移動度分光計610の出口に直接配置することができる。使用される質量分析計が四重極質量分析計、トリプル四重極質量分析計、飛行時間型質量分析計、FT-ICR質量分析計、またはOrbitrap型質量分析計(全て非限定的な例)の形態を取ることができることが当業者に明らかである。
【実施例
【0048】
出願人の教示を、以下の実施例ならびに図7A~C、8A~C、および9A~Cに示したデータを参照してさらにより完全に理解することができる。これらのデータは、本明細書中の教示の種々の態様に従って微分型移動度分光法を使用した鏡像異性体試料の分離を実証している。出願人の教示の他の実施形態は、本明細書および本明細書中に開示の教示の実施を考慮すると当業者に明らかである。これらの実施例は例示のみであると考えることが意図される。
【0049】
実施例1
【0050】
最初に、図7A~Cにおいて、微分型移動度分光法を使用したアンフェタミンの鏡像異性体の形態の分離を実証している例示的なデータを示す。上記で考察するように、アンフェタミンは、以下の2つの鏡像異性体の形態を有するキラル化合物を示す:R-アンフェタミンおよびS-アンフェタミン。従来のDMS法およびDMSシステムでは一般に個別の鏡像異性体を確認および/または定量することができるようにこれらの鏡像異性体を分割することができないが、図3を参照して上記に考察するように、本教示の種々の態様の方法およびシステムによって、R-アンフェタミンおよびS-アンフェタミンの鏡像異性体を含む試料を鏡像異性的に純粋なS-(-)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルクロリドと反応させることでこの決定が可能となる。図7Aに示すように、誘導体化されたアンフェタミンジアステレオマーの2つの試料についてのイオノグラムを示す。試料Aでは、アンフェタミンはR-アンフェタミンおよびS-アンフェタミンのラセミ混合物を含んでおり、各々をS-(-)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルクロリドと反応させて555ng/mLの以下の2つのジアステレオマーの形態:R,S-TPアンフェタミンおよびS,S-TPアンフェタミンを含む試料を生成する。試料Bでは、反応によって試料中に555ng/mLの以下の単一のジアステレオマーの形態:R,S-TPアンフェタミンが得られるように、アンフェタミンは純粋なR-アンフェタミンを含んでいた。図7Aのイオノグラムを、分離電圧(SV)が3750V、DMS温度(DT)が150℃、分割ガス圧(DR)が16psi、カーテンガス圧(CUR)が16psi、およびドリフトガス中に化学修飾剤なし(DMSに印加した補償電圧(CoV)を約+6.5V DCから約+12V DCまでスキャニングした場合)での微分型移動度分光計(SelexION(商標),SCIEX,Concord,ON)の操作によって作成した。DMSを5500QTRAP(登録商標)システム(SCIEX)にマウントし、総イオン強度(y軸)は各CoVでDMSを通過したイオン数を反映する。
【0051】
図7Aに示すように、アンフェタミンの2つのジアステレオマーを含む試料Aの曲線は、+8.2Vおよび+9.6VでCoVピークを示す。試料Aのジアステレオマーの1つのみ(すなわち、R,S-TPアンフェタミン)を含む試料Bの曲線は、+9.6Vで単一のピークを示した。図7Aのイオノグラムは、試料Aにおける+9.6Vでのピークが試料A由来のR,S-TPアンフェタミンイオンの通過を示す可能性が高く、一方で、試料Aについての+8.2Vでのピークが、曲線Bのピークと一致しないので、S,S-TPアンフェタミンイオンを示すことを示唆している。曲線Bについてさらなる小さなピークが存在するが(例えば、+8.2Vで)、このピークは、R-アンフェタミン中の少量のS-アンフェタミンの夾雑に起因している可能性が高かった。
【0052】
前述の可能性は、+9.6V(図7B)および+8.2V(図7C)のCoVでDMSを通過したイオンの断片化生成物のm/z比を示し、かつEPIモードで操作した5500QTRAP(登録商標)MSシステムによって作成した図7Bおよび7Cのマスクロマトグラムによってさらに確認される。図7Bを参照すると、CoV=+9.6VのDMS条件で通過したm/z329のイオンは、試料A(上)および試料B(下)の両方について同じ生成物イオンを示す。これにより、CoV=+9.6VでDMSを通過した試料A由来のイオンが試料中に存在するR-アンフェタミン鏡像異性体に起因する(R,S)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルアンフェタミンジアステレオマー形態を示すことがさらに確認される。図7Cを参照すると、CoV=+8.2VのDMS条件で通過したm/z329のイオンが試料A(上)および試料B(下)について同じ強度の生成物イオンを示さなかったことが認められる。具体的には、生成物イオンは図7C中の試料Aと試料Bとの間で類似のm/zを示したが、試料Bの生成物イオン強度は試料Aの生成物イオン強度より有意に強かった。これらのデータに基づいて、CoV=+9.6VでDMSを通過した試料A由来のイオンが(S,S)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルアンフェタミンジアステレオマーを示すことが確認され、試料Bを生成するために利用した純粋なR-アンフェタミン標準が夾雑物としてS-アンフェタミンを含むことがさらに確認された。
【0053】
実施例2
【0054】
ここで図8A~Cにおいて、DMSを使用したメタンフェタミンの鏡像異性体の形態の分離を実証している例示的なデータを示す。上記で考察するように、メタンフェタミンは、2つの鏡像異性体の形態であるR-メタンフェタミンおよびS-メタンフェタミンを有するキラル化合物を示し、図4を参照して上記に考察すると、これら2つの鏡像異性体を、鏡像異性的に純粋なS-(-)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルクロリドがR/Sメタンフェタミンと共有結合するように試料を誘導体化試薬と反応させることによって、本教示の種々の態様に従って個別に同定および/または定量することができる。
【0055】
図8Aに示すように、R-メタンフェタミンおよびS-メタンフェタミンのラセミ混合物をS-(-)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルクロリドと反応させて555ng/mLの以下の2つのジアステレオマーの形態:(S,S)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルメタンフェタミンおよび(R,S)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルメタンフェタミンを含む試料を生成することによって得た誘導体化されたメタンフェタミンジアステレオマーについてのイオン移動度スペクトルを示す。図8Aのイオノグラムを、SVが3750V、DTが150℃、DRが10、CURが20、およびドリフトガス中に化学修飾剤なし(DMSに印加したCoVを約+4Vから約+14Vまでスキャニングした場合)での微分型移動度分光計(SelexION(商標),SCIEX,Concord,ON)の操作によって作成した。
【0056】
図8Aに示すように、メタンフェタミンのジアステレオマー性反応生成物についての曲線は、+7.0V((S,S)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルメタンフェタミンイオンに対応する)および+9.1V((R,S)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルメタンフェタミンイオンに対応する)でのCoVピークを示す。図7Aおよび8Aのイオノグラムは、試料Aにおける+9.1V DCでのピークが(R,S)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルメタンフェタミンイオンの通過を示す可能性が高く(したがって、元のラセミ混合物中にR-メタンフェタミンが存在する)、一方で、試料Aについての+7.0Vでのピークが試料A由来の(S,S)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルメタンフェタミンイオンを示すことを示唆している。
【0057】
前述の示唆は、+9.1V(図8B)および+7.0V(図8C)のCoVでDMSを通過したイオンの断片化生成物のm/z比を示し、かつEPIモードで操作した5500QTRAP(登録商標)MSシステムによって作成した図8Bおよび8Cの質量スペクトルによってさらに確認される。図8Bを参照すると、CoV=+9.1VのDMS条件で通過したm/z343のイオンは、図8Cに示すものと同じ多数の生成物イオンを示す。図8Cでは、CoV=+7.0VのDMS条件で通過したm/zが343Daのイオンが断片化されて225Daのm/zで固有のフラグメントイオンを生成することが認められ、これはおそらくこのジアステレオマー:(S,S)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルメタンフェタミンの立体配置の結果である。これらのデータに基づいて、CoV=+7.0VでDMSを通過したイオンが(S,S)-N-(トリフルオロアセチル)プロリルメタンフェタミンジアステレオマーを示すことが確認された。
【0058】
実施例3
【0059】
最初に、図9A~Cにおいて、DMSを使用したワルファリンの鏡像異性体の形態の分離を実証している例示的なデータを示す。上記で考察するように、ワルファリンは、以下の2つの鏡像異性体の形態を有するキラル化合物を示す:R-ワルファリンおよびS-ワルファリン。従来のDMS法およびDMSシステムでは一般に個別の鏡像異性体を確認および/または定量することができるようにこれらの鏡像異性体を分割することができないが、図5を参照して上記に考察するように、本教示の種々の態様の方法およびシステムによって、R-ワルファリンおよびS-ワルファリンの鏡像異性体を含む試料を鏡像異性的に純粋な1S,4R-カンファン酸クロリドと反応させることでこの決定が可能となる。図9Aに示すように、誘導体化されたワルファリンジアステレオマーの2つの試料についてのイオノグラムを示す。試料Aでは、ワルファリンはR-ワルファリンおよびS-ワルファリンのラセミ混合物を含んでおり、各々を1S,4R-カンファン酸クロリドと反応させて70μg/mLの以下の2つのジアステレオマーの形態:R,S,R-カンファニルワルファリンおよびS,S,R-カンファニルワルファリンを含む試料を生成する。試料Bでは、反応によって試料中に50μg/mLの以下の単一のジアステレオマーの形態:R,S,R-カンファニルワルファリンが得られるように、ワルファリンは純粋なR-ワルファリンを含んでいた。図9Aのイオノグラムを、SVが4000V、DTが150℃、DRが16psi(曲線A)および20psi(曲線B)、CURが1.5%(v/v)のイソプロパノールを含有する10psi(DMSに印加したCoVを約-10V DCから約+4V DCまでスキャニングした場合)での微分型移動度分光計(SelexION(商標),SCIEX,Concord,ON)の操作によって作成した。DMSを5500QTRAP(登録商標)システム(SCIEX)にマウントし、総イオン強度(y軸)は各CoVでDMSを通過したイオン数を反映する。
【0060】
図9Aに示すように、カンファニルワルファリンの2つのジアステレオマーを含む試料Aの曲線は、-8.1Vおよび-6.7VでCoVピークを示す。試料Aのジアステレオマーの1つのみ(すなわち、R,S,R-カンファニルワルファリン)を含む試料Bの曲線は、-6.7Vで単一のピークを示した。曲線A(例えば、+2.1Vで)および曲線B(例えば、+1.3Vで)にさらなるピークが存在するが、これらのピークはサンプル濃度でのジアステレオマーの二量体化に起因する可能性が高く、濃度700ng/mLで試料を再試験した場合に改善された(示さず)。図9Aのイオノグラムは、試料Aにおける-6.7V DCでのピークが試料A由来のR,S,R-カンファニルワルファリンイオンの通過を示す可能性が高く、一方で、試料Aについての-8.1Vでのピークが、曲線Bのピークと一致しないので、S,S,R-カンファニルワルファリンイオンを示すことを示唆している。
【0061】
前述の可能性は、-6.7V(図9B)および-8.1V(図9C)のCoVでDMSを通過したイオンの断片化生成物のm/z比を示し、かつEPIモードで操作した5500QTRAP(登録商標)MSシステムによって作成した図9Bおよび9Cのマススペクトルによってさらに確認される。図9Bを参照すると、CoV=-6.7VのDMS条件で通過したm/z489のイオンは、試料A(上)および試料B(下)の両方について同じ生成物イオンを示す。これにより、CoV=-6.7VでDMSを通過した試料A由来のイオンが試料中に存在するS-ワルファリン鏡像異性体に起因するS,S,R-カンファニルワルファリンジアステレオマー形態を示すことが確認される。図9Cを参照すると、CoV=-8.1VのDMS条件で通過したm/z489のイオンが試料A(上)および試料B(下)の両方について同じ生成物イオンを示さなかったことが認められる。しかし、図9Cの試料A(上)についての生成物イオンが図9Bの生成物イオンと類似することが認識される。これにより、CoV=-8.1VでDMSを通過した試料A由来のイオンがR,S,R-カンファニルワルファリンジアステレオマーを示し、したがって、R-ワルファリン鏡像異性体が試料中に存在することが確認される。
【0062】
本明細書中で使用したセクションの見出しは整理のみを目的とし、本発明を制限すると解釈すべきではない。出願人の教示を種々の実施形態と併せて記載しているが、出願人の教示がかかる実施形態を制限することを意図しない。それどころか、出願人の教示は、当業者によって認識されるように、種々の変更、修正、および均等物を含む。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図8-1】
図8-2】
図9-1】
図9-2】